特許第6283245号(P6283245)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6283245
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】化合物半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20180208BHJP
   C23C 16/18 20060101ALI20180208BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   H01L21/205
   C23C16/18
   H01L21/20
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-69566(P2014-69566)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-192093(P2015-192093A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2017年2月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】吉川 陽
(72)【発明者】
【氏名】森安 嘉貴
【審査官】 長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−183132(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/150965(WO,A1)
【文献】 特開2010−050176(JP,A)
【文献】 米国特許第06071109(US,A)
【文献】 特開2011−054915(JP,A)
【文献】 特表2006−520851(JP,A)
【文献】 特開2013−168567(JP,A)
【文献】 R.M. Biefeld, J.D. Phillips,Growth of InSb on GaAs using InAlSb buffer layers,Journal of Crystal Growth,2000年,Vol. 209,pp. 567-571
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/18−21/20、21/205、21/31、
21/34−21/36、21/365、21/469、
21/84−21/86、27/22、29/82、
43/00−43/14、
C23C 16/00−16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機金属気相成長法を用いて、トリメチルインジウム(TMIn)および/またはトリエチルインジウム(TEIn)であるIn原料と、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)であるSb原料と、を基板上に供給し、該基板上に第1の化合物半導体層を成長させる工程と、
前記第1の化合物半導体層の基板温度を420℃以上525℃以下に保持した状態で、前記第1の化合物半導体層上に、前記In原料と前記Sb原料に加えて、供給量を連続的および/または段階的に増やしながら、トリターシャリーブチルアルミニウム(TTBAl)であるAl原料を供給し、前記Al原料の供給量を増やした後で前記In原料と前記Sb原料および前記Al原料の各供給量を一定にすることにより、前記第1の化合物半導体層上にAlXIn1-XSb層(0<x≦0.7)を形成する工程と、
を備える化合物半導体基板の製造方法。
【請求項2】
前記基板が配置される成長室への前記In原料、前記Sb原料および前記Al原料の各供給を、それぞれ独立した供給ラインにて行う請求項1記載の化合物半導体基板の製造方法。
【請求項3】
前記基板は、電気抵抗率が1×105Ωcm以上のGaAs基板である請求項1または請求項2に記載の化合物半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化合物半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
InSbを含む化合物半導体は、移動度が高く、またバンドギャップが小さい材料であり、この特徴を生かして磁気センサ、高速デバイス、IRセンサなどのデバイスとして使われる。InSbを含む化合物半導体を適用したデバイスを実現するうえで、電子バリア層としてAlInSbを用いることが望まれる。
従来、有機金属気相成長法を用いたAlInSb薄膜作製にはAl原料としてトリターシャリーブチルアルミニウム(TTBAl)、In原料としてトリメチルインジウム(TMIn)、Sb原料としてトリエチルアンチモン(TESb)が用いられてきた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6071109号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of Crystal Growh, Vol. 209 (2000)“Growth of InSb on GaAs usin g InAlSb buffer layer” R.M.Biefeld et.al.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に代表される従来のTTBAl、TMIn、およびTESbを用いたAlInSb薄膜(以下、従来のAlInSb薄膜)では炭素不純物が多量に混入してしまい、電子バリア層としての機能低下だけでなく、表面平坦性の低下が免れなかった。また、従来のAlInSb薄膜は結晶性も十分ではなかった。それゆえ、従来のAlInSb薄膜は上述したデバイスへの応用には不適であった。
一方、炭素不純物濃度を抑制する手段として、Sb原料としてTESbに替えてトリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)を用いる方法が考えられる。しかし、TTBAlとTDMASbの組み合わせでは気相反応が生じ、基板到達前にTTBAlとTDMASbが反応してしまい、白濁したすなわち表面平坦性が悪いAlInSb層しか得られないことが報告されている(非特許文献1参照)。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、結晶性が良好で表面平坦に優れるAlInSb層を含む化合物半導体基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、有機金属気相成長法を用いて、トリメチルインジウム(TMIn)および/またはトリエチルインジウム(TEIn)であるIn原料と、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)であるSb原料と、を基板上に供給し、該基板上に第1の化合物半導体層を成長させる工程と、前記第1の化合物半導体層の基板温度を420℃以上525℃以下に保持した状態で、前記第1の化合物半導体層上に、前記In原料と前記Sb原料に加えて、供給量を連続的および/または段階的に増やしながら、トリターシャリーブチルアルミニウム(TTBAl)であるAl原料を供給し、前記Al原料の供給量を増やした後で前記In原料と前記Sb原料および前記Al原料の各供給量を一定にすることにより、前記第1の化合物半導体層上にAlXIn1-XSb層(0<x≦0.7)を形成する工程と、を備える化合物半導体基板の製造方法により、上記課題を解決できることを見出した。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、結晶性が良好で表面平坦に優れるAlInSb層を含む化合物半導体基板およびその製造方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る化合物半導体基板の製造方法を工程順に示す断面模式図である。
図2】本実施形態で用いるMOCVD装置の構成例を示す模式図である。
図3】本実施形態におけるAl原料の供給量の変化を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(本実施形態)について説明する。
<化合物半導体基板の製造方法>
本実施形態の化合物半導体基板の製造方法は、有機金属気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)を用いてIn原料とSb原料とを基板上に供給し、この基板上に第1の化合物半導体層を成長させる工程(第1の化合物半導体層成長工程)と、第1の化合物半導体層の基板温度を420℃以上525℃以下に保持した状態で、第1の化合物半導体層上に、In原料とSb原料に加えて、供給量を連続的および/または段階的に増やしながらAl原料を供給し、Al原料の供給量を増やした後でIn原料とSb原料およびAl原料の各供給量を一定にすることにより、第1の化合物半導体層上にAlIn1−xSb層(0<x≦0.7)を形成する工程(第2の化合物半導体層成長工程)と、を備える。ここで、「連続的および/または段階的」、とは、「連続的および段階的の少なくとも一方」の意味であり、連続的、段階的、連続的および段階的、のいずれかの意味である。
【0011】
これら各工程(第1の化合物半導体層成長工程、第2の化合物半導体層成長工程)を備えることにより、得られるAlInSb層の白濁化を抑制し、かつ結晶性が良好で高移動度なAlInSb層を備える化合物半導体基板を得ることが可能になる。
In原料とSb原料とを供給し、第1の化合物半導体層を成長させる工程の後に、In原料とSb原料とAl原料とを所定の固定比率で供給する方法では、AlInSb層は白濁化し、また移動度も低くなってしまう。これに対し、本実施形態のようにIn原料とSb原料とに加えて、供給量を連続的および/または段階的に増やしながらAl原料を供給することで、得られるAlInSb層の白濁化を抑制し、かつ結晶性が良好なAlInSb層となる。
このメカニズムの詳細については定かではないものの、初期に大量のAlを供給することで気相中でのTDMASbとの反応が起こりやすくなり、基板上に粒子が堆積してしまう、その粒子を成長核にしてVolmer−Weberモードに移行することによるものと推察される。
【0012】
In原料とSb原料とに加えて、供給量を連続的および/または段階的に増やしながらAl原料を供給する工程における、第1の化合物半導体層の基板温度は420℃以上525℃以下に制御する。この表面温度が525℃より高い場合や420℃未満の場合では平坦性の高い化合物半導体基板が得られない。また、形成されるAlIn1−xSb層がx>0.7の場合(即ち、AlIn1−xSb層のIII族元素の総量に対するAl組成比が70%を超える場合)、平坦性の高い化合物半導体基板を得ることができない。
【0013】
In原料とSb原料およびAl原料の各供給量を一定にする際のAl原料の供給量は、In原料とSb原料に加えて、供給量を連続的および/または段階的に増やしながらAl原料を供給する際のAl原料の供給量よりも多ければ特に制限されない。但し、Al原料の供給量を一定にした後のAl原料の供給量が、AlInSb層の各元素比率を決める所望の供給量であることが好ましい。供給量を連続的および/または段階的に増やしながらAl原料を供給する際のAl原料の具体的な供給量は特に制限されないが、III族原料に占めるAl原料の割合が好ましくは0.10以上0.75以下、より好ましくは0.10以上0.65以下の範囲内とすることができる。
【0014】
(原料)
本実施形態の化合物半導体基板の製造方法において、In原料、Sb原料およびAl原料として、以下に示すものを使用する
【0015】
原料分解温度の観点から、In原料としては、トリメチルインジウム(TMIn)、トリエチルインジウム(TEIn)またはそれらの組合せを使用する。原料の長期安定性の観点から、Al原料としては、トリターシャリーブチルアルミニウム(TTBAl)を使用する。炭素不純物抑制の観点から、Sb原料としては、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)を使用する
非特許文献1で報告されているようにトリターシャリーブチルアルミニウム(TTBAl)とトリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)の組み合わせではAlInSb層の白濁化が生じるため良好なAlInSb層は得られなかった。しかし、本実施形態では、上述した第1の化合物半導体層成長工程と第2の化合物半導体層成長工程とを備えることで、トリターシャリーブチルアルミニウム(TTBAl)とトリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)の組み合わせでも、AlInSb層の白濁化が抑制され、さらにAlInSb層における炭素不純物も抑制される。
【0016】
本実施形態の化合物半導体基板の製造方法において、TTBAl原料は他原料との反応性が高い。そのため成長室への導入直前までAl原料と、In原料やSb原料を混合しないことが好ましく、In原料、Sb原料およびAl原料をそれぞれ独立した供給ラインにて供給することがより好ましい。基板が配置される成長室への導入直前までAl原料と、In原料やSb原料を混合しないことや、基板が配置される成長室へのIn原料、Sb原料およびAl原料の各供給を、それぞれ独立した供給ラインにて行うことで、基板への原料到達前に原料どうしが反応し、消失することを抑制するという効果を奏する。独立した供給ラインとは、成長室に接続される、ある原料の供給ラインが、他の原料の供給ラインとが直接接続されない配管を意味する。
また、導電型を制御するために、上述した原料に加えて、ジメチルジンク(DMZn)、ジエチルジンク(DEZn)、ジメチルテルル(DMTe)、ジエチルテルル(DETe)、テトラメチルスズ(TMSn)テトラエチルスズ(TESn)、等のドーパントを供給してもよい。
【0017】
(基板)
本実施形態の化合物半導体基板の製造方法において、基板は、有機金属気相成長法を用いてInSb層およびAlInSb層を成長可能なものであれば特に制限されない。InSbと同じ結晶対称性を持っていることが好ましく、さらに安価かつ大型の基板が入手しやすいことから例えばGaAsやInSbが好ましい材料として挙げられる。電子デバイス作製の観点から、基板は電気抵抗率が1×10Ωcm以上のGaAsであることがさらに好ましい。
【0018】
(製造方法、製造装置の一例)
図1(a)〜(c)は、本実施形態に係る化合物半導体基板の製造方法を工程順に示す断面模式図である。図1(a)に示すように、まず、基板1を用意する。次に、図1(b)に示すように、有機金属気相成長法を用いて、In原料とSb原料とを基板1上に供給し、この基板1上に第1の化合物半導体層11を成長させる(第1の化合物半導体層成長工程)。
次に、第1の化合物半導体層11の基板温度を420℃以上525℃以下に保持した状態で、第1の化合物半導体層11上に、In原料とSb原料に加えて、供給量を連続的および/または段階的に増やしながらAl原料を供給する。そして、Al原料の供給量を連続的および/または段階的に増やした後で、第1の化合物半導体層11上へのIn原料とSb原料およびAl原料の各供給量を一定にする。これにより、図1(c)に示すように、第1の化合物半導体層11上に第2の化合物半導体層21として、AlIn1−xSb層(0<x≦0.7)を形成する(第2の化合物半導体層成長工程)。
【0019】
図2は、本実施形態で用いるMOCVD装置の構成例を示す模式図である。図2に示すように、MOCVD装置は、成長室51と、成長室51内に配置された加熱可能なステージ52と、成長室51内を排気する排気用配管53および排気ポンプ54と、成長室51内に原料ガスを供給する供給ライン60とを備える。供給ライン60は、In原料を供給するためのIn用配管61と、Sb原料を供給するためのSb用配管62と、Al原料を供給するためのAl用配管63とを有し、成長室51に到達するまで各原料を混合することなく供給することが可能となっている。
【0020】
図3(a)〜(c)は、Al原料の供給量の変化を模式的に示す図である。図3(a)〜(c)において、横軸は時間を示し、縦軸はAl原料の単位時間当たりの供給量を示す。
図3(a)はAl原料の供給量を連続的に増やす場合を示している。Al原料の供給量を連続的に増やす場合は、その増加の割合は一定でもよいし、一定でなくてもよい。
図3(b)はAl原料の供給量を段階的に増やす場合を示している。Al原料の供給量を段階的に増やす場合は、図3(b)に示すように1段階で増やしてもよいし、多段階で増やしてもよい。
図3(c)はAl原料の供給量を連続的および段階的に増やす場合を示している。
【0021】
<化合物半導体基板>
本実施形態の化合物半導体基板は、基板と、基板上に形成された、InとSbを含みAlを含まない第1の化合物半導体層と、第1の化合物半導体層上に形成された、AlとInとSbを含む第2の化合物半導体層とを備える化合物半導体基板であって、第2の化合物半導体層に含まれる水素原子が1×1015cm−3以上5×1019cm−3以下であり、第2の化合物半導体層に含まれる炭素原子が1×1015cm−3以上5×1018cm−3以下であり、第2の化合物半導体層に含まれる窒素原子が1×1015cm−3以上5×1018cm−3以下である。
【0022】
従来は炭素原子の混入は不可避であり、それゆえに、AlとInとSbを含む第2の化合物半導体層中に含まれる原子の技術的意義は着目されていなかった。これに対し、本実施形態の化合物半導体基板は、第2の化合物半導体層に含まれる水素原子が1×1015cm−3以上5×1019cm−3以下であり、炭素原子が1×1015cm−3以上5×1018cm−3以下であり、窒素原子が1×1015cm−3以上5×1018cm−3以下とすることで、基板の白濁化を抑制しつつ、高移動度な化合物半導体基板を実現可能にする。
【0023】
本実施形態の化合物半導体基板は、光デバイスへの応用適合性の観点から、第2の化合物半導体層の表面の平均二乗粗さRrmsが0.1nm以上10nm以下であることが好ましい。
本実施形態の化合物半導体基板は、光デバイスへの応用適合性の観点から、第2の化合物半導体層のIII族元素の総量に対するAl組成比が0.1%以上70%以下であり、
第2の化合物半導体層のX線回折によるωスキャンロッキングカーブ測定から算出される半値幅FWHMが、下記の式(1)で算出される範囲であることが好ましい。
a×Al組成比[%]+{−90×ln(t)+730}[arcsec]
≦FWHM[arcsec]≦a×Al組成比[%]+{−90×ln(t)+830}[arcsec]
(a=23.5[arcsec/%]、t=第2の化合物半導体層膜厚(nm))
【0024】
また、本実施形態の化合物半導体基板は、光デバイスへの応用適合性の観点から、第2の化合物半導体層のIII族元素の総量に対するAl組成比が20%以上70%以下であり、第2の化合物半導体層のX線回折によるωスキャンロッキングカーブ測定から算出される半値幅FWHMが、下記式(2)を満たすことも好ましい。
FWHM[arcsec]≦a×Al組成比[%]+{−90×ln(t)+830}[arcsec]
(a=23.5[arcsec/%]、t=第2の化合物半導体層膜厚(nm))
【0025】
本実施形態の化合物半導体基板において、第1の化合物半導体層は、基板上に形成され、InとSbを含みAlを含まない層である。具体的にはInSbおよびInSbとの混晶からなる層が挙げられる。また、n型導電層とするために、Te、Sn等の所望のドーパントを含んでいてもよく、p型導電層とするために、Zn、Si等の所望のドーパントを含んでいてもよい。
本実施形態の化合物半導体基板において、第2の化合物半導体層は、第1の化合物半導体層上に形成され、AlとInとSbを含む層である。具体的にはAlInSbおよび、AlInSbとGaおよびAsの混晶からなる層が挙げられる。また、n型導電層とするために、Te、Sn等の所望のドーパントを含んでいてもよく、p型導電層とするために、Zn、Si等の所望のドーパントを含んでいてもよい。
以下、本実施形態の化合物半導体基板およびその製造方法をより詳細に説明するために、具体的な実施例を参酌しながら説明する。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
閃亜鉛鉱型である半絶縁GaAs基板を用意した。この半絶縁GaAs基板の電気抵抗率は8×10Ωcmである。この半絶縁GaAs基板上に、基板温度340℃においてInSbの原料としてトリメチルインジウム(TMIn)、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)を供給し、V/III比=5.0の条件で第1の化合物半導体層としてInSb層を形成した。V/III比は、III族元素供給量に対するV族元素の供給量の比のことである。このInSb層の形成には、MOCVD装置を用いた。このInSb層の膜厚は700nmであった。
【0027】
このInSb層上に、基板温度500℃においてAlInSbの原料として、トリターシャリーブチルアルミニウム(TTBAl)、トリメチルインジウム(TMIn)、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)を供給し、第2の化合物半導体層としてAlInSb層を形成した。このAlInSb層の形成には、MOCVD装置を用いた。このAlInSb層を成長させる際に、AlとInの原料比がAl/(Al+In)=0.50となるように、Al原料をIn原料とSb原料と共に供給した。
【0028】
1分間の成長の後に、AlInSb層の各元素比率を決める所望の供給量であるAl/(Al+In)=0.70まで、Al原料の供給量を増加させる。このときV/III比=5.0の条件で成膜を行った。通常、原料はIII族、V族原料を族毎にそれぞれの配管で成長室まで供給するが、今回はTTBAlのみをブロックバルブを経由することなく、成長室直前まで単独で供給を行った。すなわち、Sb原料は成長室に単独で供給し、Al原料とIn原料は成長室直前までは単独で供給した。このAlInSb層の膜厚は700nmであった。
【0029】
このようにして形成された試料(AlInSb層)について、XRD測定を用いてAl組成を調査したところ、Al組成は18%であり、ωスキャンロッキングカーブから算出される半値幅は620arcsecであった。この試料(AlInSb層)についてSIMS測定を行ったところ、水素原子が3×1018cm−3、炭素原子が9×1016cm−3、窒素原子が5×1017cm−3であった。この試料(AlInSb層)の表面についてAFM測定を行ったところ、平均二乗粗さは0.3nmであった。実施例1において得られた化合物半導体基板は、式(1)(2)を満たしていた。
【0030】
(実施例2)
AlInSb形成時のAlとInの原料比をAl/(Al+In)=0.63とした以外は、実施例1と同様の方法で化合物半導体基板を製造した。このAlInSb層の膜厚は700nmであった。このようにして形成された試料(AlInSb層)について、XRD測定を用いてAl組成を調査したところ、Al組成は1%であり、ωスキャンロッキングカーブから算出される半値幅は205arcsecであった。この試料(AlInSb層)についてSIMS測定を行ったところ、水素原子が3×1016cm−3、炭素原子が1×1015cm−3、窒素原子が1×1017cm−3であった。この試料(AlInSb層)の表面についてAFM測定を行ったところ、平均二乗粗さは0.1nmであった。実施例2において得られた化合物半導体基板は、式(1)を満たしていた。
【0031】
(実施例3)
AlInSb形成時のAlとInの原料比をAl/(Al+In)=0.75とした以外は、実施例1と同様の方法で化合物半導体基板を製造した。このAlInSb層の膜厚は700nmであった。このようにして形成された試料(AlInSb層)について、XRD測定を用いてAl組成を調査したところ、Al組成は40%であり、ωスキャンロッキングカーブから算出される半値幅は1120arcsecであった。この試料(AlInSb層)についてSIMS測定を行ったところ、水素原子が2×1018cm−3、炭素原子が4×1017cm−3、窒素原子が3×1017cm−3であった。この試料(AlInSb層)の表面についてAFM測定を行ったところ、平均二乗粗さは1.5nmであった。実施例3において得られた化合物半導体基板は、式(1)(2)を満たしていた。
【0032】
(実施例4)
AlInSb形成時のAlとInの原料比をAl/(Al+In)=0.90とした以外は、実施例1と同様の方法で化合物半導体基板を製造した。このAlInSb層の膜厚は700nmであった。このようにして形成された試料(AlInSb層)について、XRD測定を用いてAl組成を調査したところ、Al組成は70%であり、ωスキャンロッキングカーブから算出される半値幅は1800arcsecであった。この試料(AlInSb層)についてSIMS測定を行ったところ、水素原子が2×1019cm−3、炭素原子が5×1018cm−3、窒素原子が3×1018cm−3であった。この試料(AlInSb層)の表面についてAFM測定を行ったところ、平均二乗粗さは3.0nmであった。実施例4において得られた化合物半導体基板は、式(1)(2)を満たしていた。
【0033】
(実施例5)
AlInSb形成時の基板温度を420℃とした以外は、実施例1と同様の方法で化合物半導体基板を製造した。このAlInSb層の膜厚は700nmであった。このようにして形成された試料(AlInSb層)について、XRD測定を用いてAl組成を調査したところ、Al組成は3%であり、ωスキャンロッキングカーブから算出される半値幅は230arcsecであった。この試料(AlInSb層)についてSIMS測定を行ったところ、水素原子が2×1017cm−3、炭素原子が5×1016cm−3、窒素原子が2×1017cm−3であった。この試料(AlInSb層)の表面についてAFM測定を行ったところ、平均二乗粗さは0.2nmであった。実施例5において得られた化合物半導体基板は、式(1)を満たしていた。
【0034】
(実施例6)
AlInSb形成時の基板温度を525℃とした以外は、実施例1と同様の方法で化合物半導体基板を製造した。このAlInSb層の膜厚は700nmであった。このようにして形成された試料(AlInSb層)について、XRD測定を用いてAl組成を調査したところ、Al組成は25%であり、ωスキャンロッキングカーブから算出される半値幅は720arcsecであった。この試料(AlInSb層)についてSIMS測定を行ったところ、水素原子が3×1018cm−3、炭素原子が9×1016cm−3、窒素原子が8×1017cm−3であった。この試料(AlInSb層)の表面についてAFM測定を行ったところ、平均二乗粗さは0.4nmであった。実施例6において得られた化合物半導体基板は、式(1)(2)を満たしていた。
【0035】
(実施例7)
閃亜鉛鉱型である半絶縁GaAs基板を用意した。この半絶縁GaAs基板の電気抵抗率は8×10Ωcmである。この半絶縁GaAs基板上に、基板温度340℃においてInSbの原料としてトリメチルインジウム(TMIn)、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)を供給して、第1の化合物半導体層としてInSb層を形成した。このInSb層の形成には、MOCVD装置を用いた。
このInSb層上に、基板温度500℃においてAlInSbの原料として、トリターシャリーブチルアルミニウム(TTBAl)、トリメチルインジウム(TMIn)、トリメチルアンチモン(TMSb)を供給して、第2の化合物半導体層としてAlInSb層を形成した。このAlInSb層の形成には、MOCVD装置を用いた。このAlInSb層を成長させる際に、AlとInの原料比がAl/(Al+In)=0.50となるようなAl原料をIn原料とSb原料と共に供給した。1分間の成長の後に、AlInSb層の各元素比率を決める所望の供給量であるAl/(Al+In)=0.70まで供給量を増加させた。
【0036】
通常、原料はIII族、V族原料を族毎にそれぞれの配管で成長室まで供給するが、今回はTTBAlのみをブロックバルブを経由することなく、成長室直前まで単独で供給を行った。このAlInSb層の膜厚は700nmであった。
このようにして形成された試料(AlInSb層)について、XRD測定を用いてAl組成を調査したところ、Al組成は10%であり、ωスキャンロッキングカーブから算出される半値幅は400arcsecであった。この試料(AlInSb層)についてSIMS測定を行ったところ、水素原子が1×1019cm−3、炭素原子が3×1018cm−3、窒素原子が1×1015cm−3であった。この試料(AlInSb層)の表面についてAFM測定を行ったところ、平均二乗粗さは0.3nmであった。実施例7において得られた化合物半導体基板は、式(1)を満たしていた。
【0037】
(比較例1)
閃亜鉛鉱型である半絶縁GaAs基板を用意した。この半絶縁GaAs基板の電気抵抗率は8×10Ωcmである。この半絶縁GaAs基板上に、基板温度340℃においてInSbの原料としてトリメチルインジウム(TMIn)、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)を供給して、InSb層を形成した。このInSb層の形成には、MOCVD装置を用いた。
このInSb層上に、基板温度500℃においてAlInSbの原料として、トリターシャリーブチルアルミニウム(TTBAl)、トリメチルインジウム(TMIn)、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)を供給してAlInSb層を形成した。このAlInSb層の形成には、MOCVD装置を用いた。Al/(Al+In)=0.70となるようなAlとInの原料比で、AlInSb層を形成した。
【0038】
通常、原料はIII族、V族原料を族毎にそれぞれの配管で成長室まで供給するが、今回はTTBAlのみをブロックバルブを経由することなく、成長室直前まで単独で供給を行った。このようにして形成された試料(AlInSb層)について、外観は白濁しており、XRD測定からAlInSbのピークを分離すること、ωスキャンロッキングカーブから半値幅を算出することは困難であった。また、この試料(AlInSb層)の表面は凹凸が大きいことから、正確な膜厚およびSIMS測定を行うことが困難であった。この試料(AlInSb層)の表面についてAFM測定を行ったところ、平均二乗粗さは15.0nmであった。
【0039】
(比較例2)
閃亜鉛鉱型である半絶縁GaAs基板を用意した。この半絶縁GaAs基板の電気抵抗率は8×10Ωcmである。この半絶縁GaAs基板上に、基板温度340℃においてInSbの原料としてトリメチルインジウム(TMIn)、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)を用いて、InSb層を形成した。このInSb層の形成には、MOCVD装置を用いた。
このInSb層上に、基板温度535℃においてAlInSbの原料として、トリターシャリーブチルアルミニウム(TTBAl)、トリメチルインジウム(TMIn)、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)を供給してAlInSb層を形成した。このAlInSb層の形成には、MOCVD装置を用いた。このAlInSb層を成長させる際に、Al/(Al+In)=0.50となるようなAl原料をIn原料とSb原料と共に供給した。1分間の成長の後に、所望の原料比であるAl/(Al+In)=0.70まで、Alの供給量を増加させた。このときV/III比=5.0の条件で成膜を行った。
【0040】
通常、原料はIII族、V族原料を族毎にそれぞれの配管で成長室まで供給するが、今回はTTBAlのみをブロックバルブを経由することなく、成長室直前まで単独で供給を行った。
このようにして形成された試料(AlInSb層)について、外観は白濁しており、XRD測定からAlInSbのピークを分離すること、ωスキャンロッキングカーブから半値幅を算出することは困難であった。また、この試料(AlInSb層)の表面は凹凸が大きいことから、正確な膜厚およびSIMS測定を行うことが困難であった。この試料(AlInSb層)の表面についてAFM測定を行ったところ、平均二乗粗さは13.5nmであった。
【0041】
(比較例3)
閃亜鉛鉱型である半絶縁GaAs基板を用意した。この半絶縁GaAs基板の電気抵抗率は8×10Ωcmである。この半絶縁GaAs基板上に、基板温度340℃においてInSbの原料としてトリメチルインジウム(TMIn)、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)を用いて、InSb層を形成した。このInSb層の形成には、MOCVD装置を用いた。
このInSb層上に、基板温度400℃においてAlInSbの原料として、トリターシャリーブチルアルミニウム(TTBAl)、トリメチルインジウム(TMIn)、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)を供給してAlInSb層を形成した。このAlInSb層の形成には、MOCVD装置を用いた。このAlInSb層を成長させる際に、Al/(Al+In)=0.50となるようなAl原料をIn原料とSb原料と共に供給した。1分間の成長の後に、所望の原料比であるAl/(Al+In)=0.70まで供給量を増加させる。このときV/III比=5.0の条件で成膜を行った。
【0042】
通常、原料はIII族、V族原料を族毎にそれぞれの配管で成長室まで供給するが、今回はTTBAlのみをブロックバルブを経由することなく、成長室直前まで単独で供給を行った。
このようにして形成された試料(AlInSb層)について、外観は白濁しており、XRD測定からAlInSbのピークを分離すること、ωスキャンロッキングカーブから半値幅を算出することは困難であった。また、この試料(AlInSb層)の表面は凹凸が大きいことから、正確な膜厚およびSIMS測定を行うことが困難であった。この試料(AlInSb層)の表面についてAFM測定を行ったところ、平均二乗粗さは10.5nmであった。
【0043】
(比較例4)
閃亜鉛鉱型である半絶縁GaAs基板を用意した。この半絶縁GaAs基板の電気抵抗率は8×10Ωcmである。この半絶縁GaAs基板上に、基板温度340℃においてInSbの原料としてトリメチルインジウム(TMIn)、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)を用いて、InSb層を形成した。このInSb層の形成には、MOCVD装置を用いた。
このInSb層上に、基板温度500℃においてAlInSbの原料として、トリターシャリーブチルアルミニウム(TTBAl)、トリメチルインジウム(TMIn)、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)を供給してAlInSb層を形成した。
このAlInSb層の形成には、MOCVD装置を用いた。このAlInSb層を成長させる際に、Al/(Al+In)=0.50となるようなAl原料をIn原料とSb原料と共に供給した。1分間の成長の後に、所望の原料比であるAl/(Al+In)=0.92までAl原料の供給量を増加させる。このときV/III比=5.0の条件で成膜を行った。
【0044】
通常、原料はIII族、V族原料を族毎にそれぞれの配管で成長室まで供給するが、今回はTTBAlのみをブロックバルブを経由することなく、成長室直前まで単独で供給を行った。
このようにして形成された試料(AlInSb層)について、外観は白濁しており、XRD測定からAlInSbのピークを分離すること、ωスキャンロッキングカーブから半値幅を算出することは困難であったためXRFによるAl組成測定を行ったところ、Al組成が75%であることを算出した。また、この試料(AlInSb層)の表面は凹凸が大きいことから、正確な膜厚およびSIMS測定を行うことが困難であった。この試料(AlInSb層)の表面についてAFM測定を行ったところ、平均二乗粗さは12.5nmであった。
【0045】
(比較例5)
閃亜鉛鉱型である半絶縁GaAs基板を用意した。この半絶縁GaAs基板の電気抵抗率は8×10Ωcmである。この半絶縁GaAs基板上に、基板温度350℃においてV/III比=4.0の条件で第1の化合物半導体層としてInSb層を形成した。このInSb層の形成には、MBE装置を用いた。このInSb層の膜厚は700nmであった。このInSb層上に、基板温度350℃においてAlInSb層を形成した。
このAlInSb層の形成には、MBE装置を用いた。このAlInSb層を成長させる際に、Al/(Al+In)=0.08となるようなAl原料をIn原料とSb原料と共に供給した。このときV/III比=4.0の条件で成膜を行った。このAlInSb層の膜厚は700nmであった。
【0046】
このようにして形成された試料(AlInSb層)について、XRD測定を用いてAl組成を調査したところ、Al組成は8%であり、ωスキャンロッキングカーブから算出される半値幅は475arcsecであった。この試料(AlInSb層)についてSIMS測定を行ったところ、水素原子、炭素原子、窒素原子がそれぞれ1×1015未満であることを確認した。この試料(AlInSb層)の表面についてAFM測定を行ったところ、平均二乗粗さは0.1nmであった。比較例5において得られた化合物半導体基板は、式(1)を満たしていなかった。
【0047】
(比較例6)
AlInSb層を成長させる際に、Al/(Al+In)=0.25となるようなAl原料量に変更した以外は比較例5と同様の方法で化合物半導体基板を製造した。このようにして形成された試料(AlInSb層)について、XRD測定を用いてAl組成を調査したところ、Al組成は25%であり、ωスキャンロッキングカーブから算出される半値幅は1400arcsecであった。この試料(AlInSb層)についてSIMS測定を行ったところ、水素原子、炭素原子、窒素原子がそれぞれ1×1015未満であることを確認した。この試料(AlInSb層)の表面についてAFM測定を行ったところ、平均二乗粗さは1.0nmであった。比較例6において得られた化合物半導体基板は、式(1)(2)を満たしていなかった。
(結果)
上記実施例1〜7および比較例1〜6の製造方法の条件および得られた化合物半導体基板の測定結果を表1に示す。
【表1】
【0048】
上述した実施例・比較例および表1より、例えば以下のことが理解される。
(1)実施例1〜7は、表面温度420℃以上525℃以下において、In原料とSb原料に加えて、供給量を連続的および/または段階的に増やしながらAl原料を供給し、Al原料の供給量を増やした後でIn原料とSb原料とAl原料の各供給量を一定にすることによりAlInSb層を形成した。実施例1〜7によれば、Al原料を常に一定に供給した比較例1や、表面温度535℃とした比較例2、表面温度を400℃とした比較例3と比較して、良好な結晶性を示し、かつ表面平坦性に優れたAlInSb層を含む化合物半導体基板が得られた。
(2)MOCVDを用いた実施例1〜7(特に実施例3,4,6)によれば、従来方法のMBEでは良好な結晶性を保つのが困難であったAl組成比が20%以上のAlInSb層(比較例6)と比較して、良好な結晶性のAlInSb層を含む化合物半導体基板が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、磁気センサ、高速デバイス、IRセンサなどのデバイス等に応用される化合物半導体基板の製造方法および化合物半導体基板として好適である。
【符号の説明】
【0050】
1 基板
11 第1化合物半導体層
21 第2化合物半導体層
51 成長室
52 ステージ
53 排気用配管
54 排気ポンプ
60 供給ライン
61 In用配管
62 Sb用配管
63 Al用配管
図1
図2
図3