(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳述する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ意味する。
【0010】
<本発明の特徴>
本発明は、卵黄を含有しているにもかかわらず、水飴、蜂蜜、デキストリン、トレハロースから選ばれる1種以上と乳酸発酵卵白を配合することにより、保存後も卵黄の劣化臭が抑制され、良好な風味が感じられる密閉包装された焼き菓子を提供できることに特徴を有する。
【0011】
本発明の焼き菓子は、卵黄を含有する焼き菓子であれば、特に限定されないが、例えば、サブレ、クッキー、カステラ、ケーキ等が挙げられる。
また、本発明の焼き菓子は密閉包装されたものである。密閉包装されていることにより、保存中の卵黄の劣化臭が感じやすくなる課題が生じやすい。
密閉包装の包材は特に限定されず、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン、ポリ塩化ビニル、アルミニウム、アルミ蒸着フィルムなどが挙げられる。
【0012】
<卵黄>
本発明に用いる卵黄は、卵黄を含有していればいずれのものでもよく、例えば、生全卵、生卵黄をはじめ、それらを殺菌処理、冷凍処理、スプレードライ又はフリーズドライ等の乾燥処理、ホスフォリパーゼA1、ホスフォリパーゼA2、ホスフォリパーゼC、ホスフォリパーゼD又はプロテアーゼ等による酵素処理、酵母又はグルコースオキシダーゼ等による脱糖処理、超臨界二酸化炭素処理等の脱コレステロール処理、食塩又は糖類等の混合処理、有機溶媒等による抽出処理等の1種又は2種以上の処理を施したものが挙げられる。
【0013】
本発明の卵黄の含有量は特に限定していないが、卵黄の劣化臭を感じやすい課題が生じやすく、かつ卵黄のコク味を感じやすい点で、生卵黄換算で3%以上であるとよく、さらに5%以上であるとよい。また、卵黄の含有量に応じたコク味付与の効果が発現しにくいことによる経済性の観点から、15%以下であるとよく、さらに10%以下であるとよい。
【0014】
<乳酸発酵卵白>
本発明の菓子に用いる乳酸発酵卵白は、液状の卵白に乳酸菌を添加して発酵させること
により得られるものである。このような乳酸発酵は、一般的に栄養源として乳酸菌資化性糖類を用いて必要に応じ酵母エキス等の発酵促進物質を添加し、乳酸菌を1mLあたり好ましくは10
3〜10
8、さらに好ましくは10
5〜10
7供し発酵されており、本発明も同様な方法で得られたものを用いると良い。
【0015】
本発明の焼き菓子に用いる乳酸発酵卵白の形態は、種々の形態(例えば、液状、粉末状、マイクロコロイド状、クリーム状、ペースト状、ゼリー状)を有することができる。
すなわち、配合する食品の性状に応じて、適切な形態に加工し使用することができる。
【0016】
上記乳酸発酵卵白に用いる卵白としては、例えば、鶏等の鳥類の卵を割卵し卵黄を分離したものであり工業的に得られるもの、またこれを殺菌、凍結したもの、濃縮または希釈したもの、特定の成分(リゾチームやアビジン等)を除去したもの、乾燥させたものを水戻ししたもの等が挙げられる。また効果に影響を及ぼさない程度に卵黄が一部混入したもの(卵白液に対して0.01〜0.3%)を用いても良い。
【0017】
上記乳酸発酵卵白に用いる乳酸菌としては、一般的にヨーグルトやチーズの製造に利用される、例えば、ラクトバチルス属(Lactobacillusbulgaricus等)、ストレプトコッカス属(Streptococcus thermophilus、Streptococcusdiacetylactis等)、ラクトコッカス属(Lactococcuslactis等)、ロイコノストック属(Leuconostoccremoris等)、エンテロコッカス属(Enterococcus faecalis)、ビフィドバクテリウム属(BifidobacteriumBbifidum等)等が挙げられる。
【0018】
上記乳酸発酵卵白に用いる乳酸菌資化性糖類としては、例えば、単糖類(グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノース、N−アセチルグルコサミン等)、二糖類(ラクトース、マルトース、スクロース、セルビオース、トレハロース等)、オリゴ糖類(特に3〜5個の単糖類が結合しているもの)、ブドウ糖果糖液糖等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせて液状の卵白に添加することができる。
【0019】
上記乳酸発酵卵白に用いる発酵促進物質としては、本発明の効果を損なわない範囲で発酵を促進するものであれば、特に限定するものではない。例えば、アミノ酸やペプチド等の蛋白質分解物、酵母エキス、ビタミン類、ミネラル類等が挙げられる。
【0020】
上記乳酸発酵卵白の代表的な製造方法を以下に示す。卵白蛋白質2〜8%、乳酸菌資化性糖類1〜15%、及び発酵促進物質0.5〜10%を水に加え、乳酸、塩酸等の酸材を用いてpH5〜7.5にpH調整し仕込み液を調製する。なお、酸材としては風味の面から乳酸を用いるのが好ましい。得られた仕込み液を60〜110℃で5〜120分間加熱した後、乳酸菌スターターを1mLあたり10
5〜10
7になるように添加する。25〜50℃で8〜48時間発酵し乳酸発酵卵白が得られる。また、必要に応じて上記乳酸発酵卵白を加熱殺菌し、高圧下で均質化処理を施してもよく、あるいは、フリーズドライ、スプレードライ等の乾燥処理を施して粉末状にしても良い。
【0021】
本発明の焼き菓子に用いる乳酸発酵卵白の配合量は、特に限定されないが、全体に対して固形分換算量で0.1%以上であるとよく、さらに0.3%以上であるとよく、さらに0.5%以上であるとよい。
乳酸発酵卵白の配合量が前記範囲を下回ると、卵黄の劣化臭を抑制することができない場合がある。
また、上限値は特に限定していないが、乳酸発酵卵白の含有量に応じた卵黄の劣化臭抑制効果が発現しにくいことによる経済性の観点から、固形分換算量で3%以下であるとよく、さらに2%以下であるとよい。
【0022】
<卵黄に対する乳酸発酵卵白の割合>
本発明の焼き菓子は、卵黄の劣化臭をより抑制しやすい点で、卵黄(生換算)1部に対する乳酸発酵卵白の含有量が固形分換算で0.01部以上1部以下であり、さらに0.05部以上0.5部以下であるとよく、さらに0.1部以上0.3部以下であるとよい。
【0023】
<水飴>
本発明に用いる水飴の種類は特に限定されず、酵素糖化による麦芽あめ、酸糖化による澱粉あめ、及びこれらのアルデヒド基及びケトン基を還元してアルコール基とした還元水飴のいずれを用いても良い。水飴を配合することにより、劣化臭を感じ難くすることができる。
水飴の配合量は特に限定していないが、劣化臭を感じ難くし、かつ甘さのバランスのとれた焼き菓子が得られやすい点から、1%以上15%以下であるとよく、さらに3%以上10%以下であるとよい。
【0024】
<蜂蜜>
本発明に用いる蜂蜜の種類は特に限定されず、市販されているものを適宜用いることができる。
蜂蜜の配合量は特に限定していないが、劣化臭を感じ難くし、かつ甘さのバランスのとれた焼き菓子が得られやすい点から、1%以上15%以下であるとよく、さらに3%以上10%以下であるとよい。
【0025】
<デキストリン>
本発明に用いるデキストリンの種類は特に限定されず、市販のものを適宜用いることができる。デキストリンとは、澱粉を加水分解したものでありデキストリン、澱粉糖化物、澱粉分解物、澱粉加水分解物等の名称で市販されている。
デキストリンの配合量は特に限定していないが、劣化臭を感じ難くし、かつ甘さのバランスのとれた焼き菓子が得られやすい点から、1%以上15%以下であるとよく、さらに3%以上10%以下であるとよい。
【0026】
<トレハロース>
本発明に用いるトレハロースの種類は特に限定されず、市販されているものを適宜用いることができる。トレハロースとは、2個のグルコースが1,1−グリコシド結合により結合している二糖類である。
トレハロースの配合量は特に限定していないが、劣化臭を感じ難くし、かつ甘さのバランスのとれた焼き菓子が得られやすい点から、1%以上15%以下であるとよく、さらに3%以上10%以下であるとよい。
【0027】
<乳化剤>
本発明の焼き菓子は、劣化臭をより抑制しやすくする点で乳化剤を含有するとよい。用いる乳化剤の種類は特に限定されず、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸、レシチン、ポリソルベートなどが挙げられ、これらの1種または2種以上を適宜選択し、配合することができる。
乳化剤の含有量は特に限定していないが、卵黄の劣化臭を抑制しやすい点で、0.1%以上5%以下であるとよく、さらに0.1%以上3%以下であるとよい。
【0028】
<その他の原料>
本発明の菓子には、上述した卵黄、乳酸発酵卵白、水飴、乳化剤の他に本発明の効果を損なわない範囲で、菓子に一般的に使用されている原料を用いることができる。
このような原料としては、例えば、スクロース、グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノース、ラクトース、マルトース、トレハロース、蜂蜜、オリゴ糖、還元オリゴ糖、異性化糖、転化糖、糖アルコール、澱粉を加水分解して製したデキストリン、サイクロデキストリン、還元デキストリン、イヌリン等の糖類、小麦粉、米粉等の穀粉、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉等の生澱粉、物理的及び/又は酵素的及び/又は化学的処理を施した澱粉、大豆油、胡麻油等の油脂類、アーモンド、ナッツペースト、ナッツ粉末等のナッツ類、果実、果汁、果肉ペースト、乾燥果実等の果実類、野菜、野菜汁、野菜ペースト、乾燥野菜等の野菜類、牛乳、濃縮乳、粉乳、乳蛋白質、発酵乳、チーズ等の乳原料、豆乳、大豆多糖類、大豆蛋白質等の大豆類、ゼラチン等の蛋白質原料、キサンタンガム、ネイティブジェランガム、グアーガム、タマリンドガム、ペクチン、カラギーナン、寒天、コンニャクマンナン、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の増粘多糖類、バニラフレーバー、フルーツフレーバー等の香料、クチナシ色素等の着色料、酒石酸水素カリウム等のpH調整剤、クエン酸、乳酸等の酸味料、ベーキングパウダー、重曹等の膨脹剤、塩化ナトリウム等の塩類、食物繊維、酒類、コーヒー、紅茶、抹茶、ココア、チョコレート、キャラメル等が挙げられる。
【0029】
以下、本発明について、実施例、比較例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定されない。
【実施例】
【0030】
[製造例1]
実施例用乳酸発酵卵白を製した。具体的には、液卵白50%、グラニュ糖4%、酵母エキス0.05%、50%乳酸0.15%及び清水45.8%からなる卵白水溶液を攪拌、調製した。得られた卵白水溶液を70〜90℃で5分間加熱した後、乳酸菌スターター0.02%(Lactococcuslactis subsp.lactis、Leuconostoc mesenteroides subsp.cremoris、Streptococcus diacetylactis、Lactococcuslactissubsp.cremoris)を添加し、30℃で24時間発酵を行った後、70〜90℃で10分間加熱殺菌し、次いで高圧ホモゲナイザーを用いて10MPaの圧力で処理して液状の乳酸発酵卵白(固形分含有量15%)を製した。
【0031】
[実施例1]
下記配合にてサブレを調製した。小麦粉、ベーキングパウダー、コーンスターチ、食塩を均一に混合した後、バター、上白糖、生卵黄、乳酸発酵卵白、グリセリン脂肪酸エステル、水飴を混合し、均一な生地を得た。得られた生地を冷蔵庫で2時間ねかせた後、厚さ3〜5mm程度に延ばし、型を抜き、180℃のオーブンで10〜15分間焼成した。焼成後、サブレをポリエチレン袋に密閉包装し、実施例1のサブレを得た。
得られたサブレの乳酸発酵卵白の含有量は固形分換算量で0.45%であり、卵黄1部に対する乳酸発酵卵白の含有質量比は固形分換算で0.09部であった。
【0032】
<配合>
小麦粉 40%
上白糖 20%
バター 15%
生卵黄 5%
コーンスターチ 5%
水飴 4%
乳酸発酵卵白 4%
ベーキングパウダー 1%
グリセリン脂肪酸エステル 1%
食塩 1%
清水で 100%
【0033】
[実施例2]
乳酸発酵卵白の配合量を7%とした以外は実施例1と同様にして、実施例2のサブレを調製した。
得られたサブレの乳酸発酵卵白の配合量は固形分換算量で1.1%であり、卵黄1部に対する乳酸発酵卵白の含有質量比は固形分換算で0.21部であった。
【0034】
[実施例3]
生卵黄を8%、乳酸発酵卵白を2%、水飴を2%配合した以外は実施例1と同様にして、実施例3のサブレを調製した。
得られたサブレの乳酸発酵卵白の含有量は固形分換算量で0.3%であり、卵黄1部に対する乳酸発酵卵白の含有質量比は固形分換算で0.04部であった。
【0035】
[比較例1]
乳酸発酵卵白を生卵白に置き換えた以外は実施例1と同様にして、比較例1のサブレを調製した。
【0036】
[比較例2]
水飴を上白糖に置き換えた以外は実施例1と同様にして、比較例1のサブレを調製した。
得られたサブレの乳酸発酵卵白の含有量は固形分換算量で0.6%であり、卵黄1部に対する乳酸発酵卵白の含有質量比は固形分換算で0.12部であった。
【0037】
[試験例1]
乳酸発酵卵白及び水飴の配合による、卵黄の劣化臭への影響を検討するため、実施例1乃至3、比較例1及び2のサブレを35℃で7日間保管後、開封し、卵黄の劣化臭を下記の基準で評価した。
その結果を表1に示した。
【0038】
<劣化臭の評価基準>
○ 卵黄の劣化臭がほとんど感じられない。
△ 卵黄の劣化臭を少し感じるが、気にならない程度である。
× 卵黄の劣化臭を感じる。
【0039】
表1
【0040】
試験の結果、乳酸発酵卵白及び水飴を配合することで、卵黄の劣化臭が抑制されることが分かった。また、卵黄1部に対する乳酸発酵卵白の配合量が固形分換算で0.05部以上0.5部以下である場合(実施例1及び2)、卵黄の劣化臭がより抑制されることが分かった。
【0041】
[実施例4]
下記配合にてベビーカステラを調製した。全卵に上白糖を加えて撹拌した後、水あめ、牛乳、植物油脂、乳酸発酵卵白を加えさらに撹拌する、次に小麦粉、ベーキングパウダーを加え、均一に混合した後、型に生地を入れ、180℃のオーブンで10〜15分間焼成した。焼成後、得られたベビーカステラをポリプロピレン製の袋に密閉包装し、実施例4のベビーカステラを得た。
得られたベビーカステラの乳酸発酵卵白の含有量は蛋白質換算量で1.5%であり、卵黄1部に対する乳酸発酵卵白の含有質量比は固形分換算で0.23部であった。
【0042】
<配合>
小麦粉 35%
全卵(生卵黄として7%) 20%
牛乳 15%
乳酸発酵卵白 10%
水飴 7%
上白糖 5%
植物油脂 2%
ベーキングパウダー 1%
清水で 100%
【0043】
[実施例5]
全卵を30%(生卵黄として10%)、乳酸発酵卵白を7%、水飴を4%配合した以外は実施例4と同様にして、実施例5のベビーカステラを調製した。
得られたベビーカステラの乳酸発酵卵白の含有量は蛋白質換算量で1.1%であり、卵黄1部に対する乳酸発酵卵白の含有質量比は固形分換算で0.11部であった。
【0044】
[実施例6]
水飴を蜂蜜に置き換えた以外は実施例4と同様にして、実施例6のベビーカステラを調製した。
得られたベビーカステラの乳酸発酵卵白の含有量は蛋白質換算量で1.1%であり、卵黄1部に対する乳酸発酵卵白の含有質量比は固形分換算で0.11部であった。
【0045】
[実施例7]
水飴をデキストリンに置き換えた以外は実施例4と同様にして、実施例7のベビーカステラを調製した。
得られたベビーカステラの乳酸発酵卵白の含有量は蛋白質換算量で1.1%であり、卵黄1部に対する乳酸発酵卵白の含有質量比は固形分換算で0.11部であった。
【0046】
[実施例8]
水飴をトレハロースに置き換えた以外は実施例4と同様にして、実施例8のベビーカステラを調製した。
得られたベビーカステラの乳酸発酵卵白の含有量は蛋白質換算量で1.1%であり、卵黄1部に対する乳酸発酵卵白の含有質量比は固形分換算で0.11部であった。
【0047】
試験例1と同様に、実施例4乃至8のベビーカステラを評価した結果、卵黄の劣化臭は感じられなかった。