特許第6283250号(P6283250)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6283250
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】半導体基板及び半導体素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/338 20060101AFI20180208BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20180208BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20180208BHJP
   H01L 29/207 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   H01L29/80 H
   H01L29/207
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-80323(P2014-80323)
(22)【出願日】2014年4月9日
(65)【公開番号】特開2015-201574(P2015-201574A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2016年11月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000106276
【氏名又は名称】サンケン電気株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 憲
(72)【発明者】
【氏名】鹿内 洋志
(72)【発明者】
【氏名】後藤 博一
(72)【発明者】
【氏名】篠宮 勝
(72)【発明者】
【氏名】土屋 慶太郎
(72)【発明者】
【氏名】萩本 和徳
【審査官】 早川 朋一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−033646(JP,A)
【文献】 特開2007−251144(JP,A)
【文献】 特開2008−205146(JP,A)
【文献】 特開2005−235935(JP,A)
【文献】 特開2013−206976(JP,A)
【文献】 特開2014−042025(JP,A)
【文献】 特開2011−204891(JP,A)
【文献】 特表2016−511545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/337−21/338
H01L 27/095−27/098
H01L 29/775−29/778
H01L 29/80−29/812
H01L 29/20−29/207
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上のバッファ層と、
前記バッファ層上の窒化物系半導体からなり、遷移金属及び炭素を含む高抵抗層と、
前記高抵抗層上の窒化物系半導体からなるチャネル層と
を有する半導体基板であって、
前記バッファ層は、炭素を含んでおり、
前記高抵抗層は、前記チャネル層に接するとともに前記バッファ層側から前記チャネル層側に向かって前記遷移金属の濃度が減少する減少層を有し、
炭素濃度の前記チャネル層に向かって減少する減少率は、前記遷移金属の濃度の前記チャネル層に向かって減少する減少率よりも大きく、
炭素濃度の減少開始位置が高抵抗層にあって、前記遷移金属の濃度の減少開示位置より前記チャネル側にあることを特徴とする半導体基板。
【請求項2】
前記チャネル層の平均炭素濃度が、前記減少層の平均炭素濃度よりも低いことを特徴とする請求項1に記載の半導体基板。
【請求項3】
前記バッファ層側の前記減少層の炭素濃度が減少する部分までの炭素濃度は、前記バッファ層側から前記チャネル層側に向かって増加しているか、又は、一定であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の半導体基板。
【請求項4】
前記減少層において、炭素濃度と遷移金属の濃度の和が、1×1018atoms/cm以上、1×1020atoms/cm以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項5】
前記減少層の厚さが500nm以上、3μm以下であり、前記減少層において前記遷移金属は1×1019atoms/cm以上、1×1020atoms/cm以下の濃度から1×1016atoms/cm以下の濃度に減少していることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項6】
前記高抵抗層はさらに、前記遷移金属の濃度が一定である層を有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項7】
前記遷移金属はFeであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の半導体基板。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の半導体基板を用いて作製された半導体素子であって、前記チャネル層上に電極が設けられているものであることを特徴とする半導体素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板及びこの半導体基板を用いて作製された半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体を用いた半導体基板は、高周波かつ高出力で動作するパワー素子等に用いられている。特に、マイクロ波、準ミリ波、ミリ波等の高周波帯域において増幅を行うのに適したものとして、例えば高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor:HEMT)等が知られている。
【0003】
窒化物半導体を用いた半導体基板として、Si基板上に、バッファ層、GaN層、AlGaNからなるバリア層が順次積層された半導体基板が知られている。
GaN層のうち下部の層(高抵抗層)は、縦方向及び横方向の電気抵抗を高めることで、トランジスタのオフ特性向上、縦方向リークの抑制により高耐圧化が可能となる。そのためGaN層に炭素をドープし、GaN結晶中に深い準位を形成し、n型の伝導を抑制させる。
一方、GaN層のうち上部の層は、チャネル層として機能し、キャリアをトラップさせる準位が形成されると不純物散乱による移動度の低下や電流コラプス(出力電流特性の再現性が劣化する現象)の要因となりうるため、炭素等の濃度を十分低下させる必要がある(特許文献1−3参照)。
【0004】
また、特許文献4には、GaN層にFeを添加することで高抵抗化を図ることが開示され(図6参照)、Feのエネルギー準位を安定化させるために炭素をさらに添加することも開示されている(図7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5064824号公報
【特許文献2】特開2006−332367号公報
【特許文献3】特開2013−070053号公報
【特許文献4】特開2012−033646号公報
【特許文献5】特許第5013218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献5に開示されているようにGaN層にFeを添加すると、その上層のGaN層にもFeが裾を引くように含まれてしまうので、Feのエネルギー準位を安定化させるために上層のGaN層にも炭素を添加する必要がある。
しかしながら、図6に示すGaN層116の電子供給層118側の領域119はチャネル層として機能するので、上述したように能動層となるGaN層に炭素を添加することは好ましくない。
【0007】
そこで、図8に示すように、第2のGaN層122において、Feと同じタイミングでチャネル層として機能する第3のGaN層124側に向かって炭素濃度を徐々に減少させることも考えられるが、その場合、第2のGaN層122の第3のGaN層124側の領域でFeも炭素もあまり含有しておらず、厚み方向及び横方向の抵抗が下がり、この領域は高抵抗層として十分機能しなくなるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、チャネル層内の炭素濃度及び遷移金属の濃度を下げつつ、より高い抵抗の高抵抗層を実現することができる半導体基板、及びこの半導体基板を用いて作製された半導体素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、基板と、前記基板上のバッファ層と、前記バッファ層上の窒化物系半導体からなり、遷移金属及び炭素を含む高抵抗層と、前記高抵抗層上の窒化物系半導体からなるチャネル層とを有する半導体基板であって、前記高抵抗層は、前記チャネル層に接するとともに前記バッファ層側から前記チャネル層側に向かって前記遷移金属の濃度が減少する減少層を有し、炭素濃度の前記チャネル層に向かって減少する減少率は、前記遷移金属の濃度の前記チャネル層に向かって減少する減少率よりも大きいことを特徴とする半導体基板を提供する。
【0010】
このように、高抵抗層内にチャネル層に接するとともにバッファ層側からチャネル層側に向かって遷移金属の濃度が減少する減少層を設けて、炭素濃度のチャネル層に向かって減少する減少率が遷移金属の濃度のチャネル層に向かって減少する減少率よりも大きくすることで、減少層のチャネル層側により近い領域まで、炭素濃度を高くできる一方で、チャネル層内の炭素濃度を下げることができるので、高抵抗層のチャネル層側の高抵抗を維持しつつ、チャネル層内の炭素濃度及び遷移金属の濃度を下げることができる。
【0011】
このとき、前記チャネル層の平均炭素濃度が前記減少層の平均炭素濃度よりも低いことが好ましい。
このような構成により、チャネル層内の電流コラプスの発生やキャリアの移動度の低下を抑制しつつ、高抵抗層における厚み方向のより高い高抵抗化を図ることができる。
【0012】
このとき、前記バッファ層側の前記減少層の炭素濃度が減少する部分までの炭素濃度は、前記バッファ層側から前記チャネル層側に向かって増加しているか、又は、一定であることが好ましい。
このような構成により、遷移金属の濃度の減少を炭素によって補うことができるので、減少層における遷移金属の濃度の減少に起因する抵抗の減少をより確実に抑制することができる。
【0013】
このとき、前記減少層において、炭素濃度と遷移金属の濃度の和が、1×1018atoms/cm以上、1×1020atoms/cm以下であることが好ましい。
炭素濃度と遷移金属の濃度の和が上記の範囲であれば、好適に減少層の高抵抗を維持することができる。
【0014】
このとき、前記減少層の厚さが500nm以上、3μm以下であり、前記減少層において前記遷移金属は1×1019atoms/cm以上、1×1020atoms/cm以下の濃度から1×1016atoms/cm以下の濃度に減少していることが好ましい。
減少層の厚さが500nm以上であれば、遷移金属の濃度を十分低い濃度にまで減少させることができ、減少層の厚さが3μm以下であれば、基板周辺部でクラックが生じやすくなることを防止できる。
また、減少層における遷移金属の濃度勾配として、上記の濃度勾配を好適に用いることができる。
【0015】
このとき、前記高抵抗層はさらに、前記遷移金属の濃度が一定である層を有することが好ましい。
このような構成により、高抵抗層をより厚くすることができるので、縦方向(厚み方向)のリーク電流をより小さくすることができる。
【0016】
このとき、前記遷移金属をFeとすることができる。
このように、遷移金属としてFeを好適に用いることができる。
【0017】
また、本発明は、上記の半導体基板を用いて作製された半導体素子であって、前記チャネル層上に電極が設けられているものであることを特徴とする半導体素子を提供する。
【0018】
このように本発明の半導体基板を用いて作製された半導体素子であれば、減少層のチャネル層側により近い領域まで、炭素濃度を高くできる一方で、チャネル層内の炭素濃度を下げることができるので、高抵抗層のチャネル層側の高抵抗を維持しつつ、チャネル層内の炭素濃度及び遷移金属の濃度を下げることができ、チャネル層内のキャリアの移動度の低下を抑制しつつ、縦方向の電気抵抗を高めることでトランジスタの縦方向リークの抑制による高耐圧化が可能となる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、減少層のチャネル層側により近い領域まで、炭素濃度を高くできる一方で、チャネル層内の炭素濃度を下げることができるので、チャネル層内の炭素濃度及び遷移金属の濃度を下げつつ、高抵抗層のチャネル層側の高抵抗化を図ることができ、チャネル層内のキャリアの移動度の低下を抑制しつつ、縦方向の電気抵抗を高めることでトランジスタのオフ特性向上、縦方向リークの抑制により高耐圧化が可能となる。従って、本発明の半導体基板により、高品質のHEMT等のパワー素子を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態の一例を示す半導体基板の深さ方向の濃度分布を示した図である。
図2】本発明の実施形態の一例を示す半導体基板の断面図である。
図3】本発明の実施形態の一例を示す半導体素子の断面図である。
図4】実施例及び比較例1の電流コラプスのVds依存性を示した図である。
図5】実施例及び比較例2の縦方向リーク電流と縦方向電圧との関係を示した図である。
図6】従来のGaN層にFeを添加した半導体基板の深さ方向の濃度分布を示した図である。
図7】従来のGaN層にFe及び炭素を添加した半導体基板の深さ方向の濃度分布を示した図である。
図8】従来のGaN層にFe及び炭素を添加し、炭素濃度に勾配をつけた半導体基板の深さ方向の濃度分布を示した図である。
図9】比較例1の半導体基板の深さ方向の濃度分布を示した図である。
図10】比較例2の半導体基板の深さ方向の濃度分布を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
前述のように、GaN層にFeを添加すると、その上層のGaN層にもFeが裾を引くように含まれてしまうので、Feのエネルギー準位を安定化させるために上層のGaN層にも炭素を添加する必要があるが、図6に示すGaN層116の電子供給層118側の領域119はチャネル層として機能するので、上述したように能動層となるGaN層に炭素を添加することは好ましくない。
そこで、図8に示すように、第2のGaN層122においてFeと同じタイミングでチャネル層として機能する第3のGaN層124側に向かって炭素濃度を徐々に減少させることも考えられるが、その場合、第2のGaN層122の第3のGaN層124側の領域でFeも炭素もあまり含有しておらず、厚み方向及び横方向の抵抗が下がり、高抵抗層として十分に機能しなくなるという問題があった。
【0022】
そこで、本発明者らは、チャネル層内の炭素濃度及び遷移金属の濃度を下げつつ、より高い抵抗の高抵抗層を実現することができる半導体基板について鋭意検討を重ねた。その結果、高抵抗層内にチャネル層に接するとともにバッファ層側からチャネル層側に向かって遷移金属の濃度が減少する減少層を設けて、炭素濃度のチャネル層に向かって減少する減少率が遷移金属の濃度のチャネル層に向かって減少する減少率よりも大きくすることで、減少層のチャネル層側により近い領域まで、炭素濃度を高くできる一方で、チャネル層内の炭素濃度を下げることができるので、チャネル層内の炭素濃度及び遷移金属の濃度を下げつつ、より高い抵抗の高抵抗層を実現することができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0023】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0024】
まず、本発明の一例の半導体基板について、図1−2を参照しながら説明する。
図1は本発明の一例の半導体基板の深さ方向の濃度分布を示した図であり、図2は本発明の一例の半導体基板の断面図である。
【0025】
図2に示す半導体基板10は、基板12と、基板12上に設けられたバッファ層14と、バッファ層14上に設けられた窒化物系半導体(例えば、GaN)からなり、遷移金属及び炭素を不純物として含む高抵抗層15と、高抵抗層15上に設けられた能動層22を有している。
ここで、基板12は、例えば、Si又はSiCからなる基板である。また、バッファ層14は、例えば、窒化物系半導体からなる第一の層と、第一の層と組成の異なる窒化物系半導体からなる第二の層とが繰り返し積層された積層体で構成される層である。
第一の層は例えば、AlGa1−yNからなり、第二の層は例えば、AlGa1−xN(0≦x<y≦1)からなる。
具体的には、第一の層はAlNとすることができ、第二の層はGaNとすることができる。
【0026】
能動層22は、窒化物系半導体からなるチャネル層18と、チャネル層18上に設けられた窒化物系半導体からなるバリア層20とを有している。チャネル層18は例えば、GaNからなり、バリア層20は例えば、AlGaNからなる。
【0027】
高抵抗層15は、遷移金属が一定である一定層16と、チャネル層18に接するとともに遷移金属がバッファ層14側からチャネル層18側に向かって減少している減少層17を含んでいる。
なお、図1−2において、高抵抗層15が一定層16を含んでいる場合を示しているが、高抵抗層15は一定層16を含んでいなくてもよい。
また、バッファ層14はFe、炭素を含んでいてもよい。
【0028】
高抵抗層15において、炭素濃度が減少する部分は遷移金属の濃度が減少する部分よりもチャネル層18側にあり、炭素濃度と遷移金属の濃度の減少する位置が厚み方向で異なっている。また、炭素濃度のチャネル層18に向かって減少する減少率は、遷移金属の濃度のチャネル層18に向かって減少する減少率よりも大きい。
【0029】
上記のように高抵抗層15内にチャネル層18に接するとともにバッファ層14側からチャネル層18側に向かって遷移金属の濃度が減少する減少層17を設けて、炭素濃度のチャネル層18に向かって減少する減少率が遷移金属の濃度のチャネル層18に向かって減少する減少率よりも大きくすることで、減少層17のチャネル層18側により近い領域まで、炭素濃度を高くできる一方で、チャネル層18内の炭素濃度を下げることができるので、チャネル層18内の炭素濃度及び遷移金属の濃度を下げつつ、高抵抗層15のチャネル層18側の高抵抗化を図ることができる。
【0030】
半導体基板10において、チャネル層18の平均炭素濃度が減少層17の平均炭素濃度よりも低いことが好ましい。
このような構成により、チャネル層内の電流コラプスの発生やキャリアの移動度の低下を抑制しつつ、減少層の高抵抗を維持することができる。
【0031】
半導体基板10において、減少層17の前述の炭素濃度が減少する部分までの炭素濃度は、バッファ層14側からチャネル層18側に向かって増加しているか、又は、一定であることが好ましい。
遷移金属の濃度の減少する領域より炭素濃度の減少する領域をチャネル層側にすることにより、遷移金属の濃度の減少を炭素によって補うことができるので、減少層における遷移金属の濃度の減少に起因する抵抗の減少を抑制することができる。
【0032】
減少層17において、炭素濃度と遷移金属の濃度の和が、1×1018atoms/cm以上、1×1020atoms/cm以下であることが好ましい。
炭素濃度と遷移金属の濃度の和が上記の範囲であれば、好適に減少層の高抵抗を維持することができる。
【0033】
半導体基板10において、減少層17の厚さが500nm以上、3μm以下であり、減少層17において遷移金属は1×1019atoms/cm以上、1×1020atoms/cm以下の濃度から1×1016atoms/cm以下の濃度に減少していることが好ましい。
減少層の厚さが500nm以上であれば、遷移金属の濃度を十分低い濃度にまで減少させることができ、減少層の厚さが3μm以下であれば半導体基板が厚くなりすぎることを防止できる。
また、減少層における遷移金属の濃度勾配として、上記の濃度勾配を好適に用いることができる。
【0034】
遷移金属として、炭素よりも高抵抗化しやすいFeとすることができる。なお、遷移金属としてSc、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn等を用いることもできる。
なお、Feの濃度の制御は、表面偏析等によるオートドープの効果に加え、CpFe(ビスクロペンタジエニル鉄)の流量制御により行うことができる。
Feは上記のように偏析等によりオートドープされるため、Feの濃度を急激に減少させることは難しい。
【0035】
なお、炭素の添加は、窒化物系半導体層をMOVPE(有機金属気相成長)法によって成長させるときに、原料ガス(TMG(トリメチルガリウム)等)に含まれる炭素が膜中に取り込まれることによって行われるものであるが、プロパン等のドーピングガスによって行うこともできる。
また、炭素濃度は、窒化物系半導体層の成長温度、炉内圧力等を制御することで、急激に減少させることもできる。
従って、Fe等の遷移金属の濃度に比べて、炭素濃度は容易に急激に減少させることができる。
【0036】
次に、本発明の一例の半導体素子について、図3を参照しながら説明する。
図3は本発明の一例の半導体素子の断面図である。
半導体素子11は、本発明の一例の半導体基板10を用いて作製されたものであり、能動層22上に設けられた第一電極26、第二電極28、制御電極30を有している。
半導体素子11において、第一電極26及び第二電極28は、第一電極26から、チャネル層18内に形成された二次元電子ガス層24を介して、第二電極28に電流が流れるように配置されている。
第一電極26と第二電極28との間に流れる電流は、制御電極30に印可される電位によってコントロールすることができる。
【0037】
半導体素子11は、本発明の一例の半導体基板10を用いて作製されたものであり、減少層17のチャネル層18側により近い領域まで、炭素濃度を高くできる一方で、チャネル層18内の炭素濃度を下げることができるので、高抵抗層15のチャネル層側の高抵抗を維持しつつ、チャネル層18内の炭素濃度及び遷移金属の濃度を下げることができ、チャネル層18内のキャリアの移動度の低下を抑制しつつ、縦方向及び横方向の電気抵抗を高めることでトランジスタのオフ特性向上、縦方向リークの抑制により高耐圧化が可能となる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
(実施例)
図2の半導体基板10において、基板12としてシリコン基板を用い、バッファ層14として、AlN層とGaN層とが繰り返し積層された積層体にFeを添加したものを用い、高抵抗層15としてGaN層を用い、高抵抗層15中にFeの濃度が減少する減少層17を設けた。
また、半導体基板10の表面から1μm程度の領域において、Feの濃度は、1×1016atoms/cm程度以下に減少するようにした。なお、Feの濃度の制御は、偏析によるオートドープの効果に加え、CpFe(ビスクロペンタジエニル鉄)の流量制御により行った。
さらに、減少層17において、炭素濃度が表面に向かって増加するように炭素を添加し、Feの濃度減少を補うようにした。
また、半導体基板10の表面から1μm程度の領域において、炭素濃度は、1×1016atoms/cm程度に急激に減少するようにした。
本実施例においては、高抵抗層15にFeが添加されているために、効果的に高抵抗化することができる。
【0040】
上記のようにして作製した半導体基板についてSIMS分析により濃度プロファイルを測定した。その結果、炭素濃度、Fe濃度について図1に示すような濃度分布を有していることが確認された。
【0041】
上記の半導体基板を用いて、図3に示すような半導体素子を作製した。
作製された半導体素子において、電流コラプスのVds(電極26と電極28の電位差)依存性、及び、縦方向リーク電流と縦方向電圧との関係を測定した。その結果を図4−5に示す。なお、図4の縦軸は、コラプスでない状態(通常の状態)のオン抵抗RONとコラプス状態のオン抵抗RON’の比:RON’/RONで定義されるRON比であり、RON比でどの程度コラプスによりオン抵抗が上がったかが示されている。
【0042】
(比較例1)
実施例と同様にして半導体基板を作製した。ただし、減少層は形成せずに、図9に示すような深さ方向の濃度分布を有するものとした。比較例1の半導体基板においては、チャネル層18においてFeが裾を引いている。
上記の半導体基板を用いて、図3に示すような半導体素子(ただし、減少層17は形成されていない)を作製した。
作製された半導体素子において、電流コラプスのVds(電極26と電極28の電位差)依存性を測定した。その結果を図4に示す。
【0043】
(比較例2)
実施例と同様にして半導体基板を作製した。ただし、高抵抗層16にFeを添加せずに、炭素のみを添加して、図10に示すような深さ方向の濃度分布を有するものとした。
上記の半導体基板を用いて、図3に示すような半導体素子(ただし、減少層17は形成されていない)を作製した。
作製された半導体素子において、縦方向リーク電流と縦方向電圧との関係を測定した。その結果を図5に示す。
【0044】
図4からわかるように、実施例の半導体素子においては、比較例1の半導体素子と比較して、電流コラプスが抑制されている。これはチャネル層においてFe及び炭素濃度が十分低くなっていることによるものと考えられる。
また、図5からわかるように、実施例の半導体素子においては、比較例2の半導体素子と比較して、縦方向リーク電流が低くなっている。これは減少層においてFeの濃度が減少している分を炭素で補填することで、減少層においてより高い抵抗が実現されていることによると考えられる。
【0045】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0046】
10…半導体基板、 11…半導体素子、 12…基板、
14…バッファ層、 15…高抵抗層、 16…一定層、 17…減少層、
18…チャネル層、 20…バリア層、 22…能動層、 24…二次元電子ガス層、
26…第一電極、 28…第二電極、 30…制御電極、
114…Fe−GaN層、 116…GaN層、 118…電子供給層、
119…領域、 122…第2のGaN層、 124…第3のGaN層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10