(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記n型化合物半導体層及び前記p型化合物半導体層は、インジウムアンチモン及びインジウムアルミアンチモンのいずれかを含む請求項1又は請求項2に記載の赤外線発光素子。
【背景技術】
【0002】
一般に波長が3μm以上の長波長帯の赤外線は、その熱的効果やガスによる赤外線吸収の効果から、人体を検知する人感センサや非接触温度センサ、及びガスセンサ等に使用されている。これらの使用例のうち、特にガスセンサは大気環境の監視や保護、更には火災の早期検知等にも使用可能であり、近年注目されている。
上記赤外線を使用したガスセンサの原理は以下のようなものである。
まず、赤外線の光源と受光素子との間の空間に測定したいガスを注入する。特定のガスは特定の波長の赤外線を吸収する為、ガスの注入前と注入後とにおいて波長スペクトルを解析することでガスの種類や濃度を測定することが出来る。
【0003】
ここで、赤外線の光源としては白熱球が使用されているが、白熱球から発せられる赤外線は白色光である。その為、特定の波長を分光する為には受光素子側に光学フィルタを設ける必要がある。この光学フィルタは高価であり、また赤外線の強度を弱める為、ガスセンサとしての感度を低下させる。更に白熱球の寿命が短い為に頻繁に光源を交換する必要がある。
【0004】
このような問題を解決する為には、光源として特定波長帯の赤外線を発する半導体からなる発光素子(LED:Light Emitting Diode)(以下、半導体発光素子ともいう。)を使用することが有効である。このような半導体発光素子を実現する為には、波長が3μm以上の長波長帯の赤外線を発光する素子が必要となるが、この波長領域では半導体発光素子に対する周辺温度の影響が非常に大きく、室温で使用するには温度の影響を考慮する必要がある。
【0005】
上述の半導体発光素子は、一般に波長が3μm以上の赤外線を発光可能なバンドギャップを有する半導体中に、いわゆるpn接合ダイオード構造を形成し、このpn接合ダイオードに順方向電流を流して、接合部分である空乏層において電子と正孔を再結合させることにより赤外線の発光を行う。
しかしながら、波長が3μm以上の赤外線を発光できる半導体のバンドギャップは0.41eV以下と小さい。この様なバンドギャップの小さな半導体では、熱励起キャリアの為に室温での真性キャリア密度が大きくなり、半導体発光素子の抵抗が小さくなるので十分なpnダイオードの特性が得られない。これは真性キャリア密度が大きい場合、拡散電流や暗電流の様な素子の漏れ電流が大きくなる為である。
【0006】
このため、これらの半導体発光素子は、熱励起キャリアを抑制する為に、一般にペルチェ素子等の冷却機構が従来使用される。しかしながらこのような冷却機構を備えるということは、すなわち装置の大型化且つ高額化につながることになる。
このような問題を解決する為に、室温でも長波長帯の赤外線が発光可能である発光素子の研究開発が為されている。例えば非特許文献1に記載の発光素子は、ガリウム砒素(GaAs)基板上にInAlSbによるn−ν−p構造のダイオードを作成し、p層とν層(低濃度のn型ドーパントが注入された層)の間に電子の拡散を抑制する為のInAlSbのバリア層を用いることで、赤外線発光を室温で実現している。
【0007】
つまり、非特許文献1のように、バンドギャップの小さな半導体材料では、一般的に電子の移動度が正孔の移動度に比べてはるかに大きい為、電子の漏れ電流、すなわち拡散電流や暗電流を抑制することに重点が置かれていた。
また、特許文献1には、赤外線発光素子において、n型化合物半導体層(102)及びπ層(105)よりもバンドギャップが大きく、その拡散を抑制するn型ワイドバンドギャップ層(103)をn型化合物半導体層(102)とπ層(105)との間に設けることで、正孔による暗電流を低減する技術も開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の詳細な説明では、本発明の実施形態の完全な理解を提供するように多くの特定の具体的な構成について記載されている。しかしながら、このような特定の具体的な構成に限定されることなく他の実施態様が実施できることは明らかであろう。また、以下の実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、実施形態で説明されている特徴的な構成の組み合わせの全てを含むものである。
【0015】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。
なお、以下の説明において例示される材料、寸法、形状等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。また、本発明の効果を損ねない範囲で以下に記載していない層を備えていてもよい。
【0016】
<赤外線発光素子>
図1は、本発明の一実施形態における赤外線発光素子100の断面模式図である。
本発明の一実施形態における赤外線発光素子100は、
図1に示すように、半導体基板101と、半導体基板101上に積層されたn型化合物半導体層102と、n型化合物半導体層102上に積層され、n型化合物半導体層102よりバンドギャップの大きいn型In
(1−y)Al
ySb層103と、n型In
(1−y)Al
ySb層103上に積層されたアンドープのi型In
(1−x)Al
xSb層104と、i型In
(1−x)Al
xSb層104上に積層されたp型In
(1−z)Al
zSb層105と、p型In
(1−z)Al
zSb層105上に積層されたp型化合物半導体層106と、を備える。
n型In
(1−y)Al
ySb層103のAl組成を表すy(以下、Al組成yともいう。)及びp型In
(1−z)Al
zSb層105のAl組成を表すz(以下、Al組成zともいう。)は、i型In
(1−x)Al
xSb層104のAl組成を表すx(以下、Al組成xともいう。)と比較して、y≧x且つz≧xを充足する。
【0017】
発光層となるi型In
(1−x)Al
xSb層104をアンドープとすること、n型化合物半導体層102と発光層となるi型In
(1−x)Al
xSb層104との間に、i型In
(1−x)Al
xSb層104よりもAl組成が大きいn型In
(1−y)Al
ySb層103を設けること、i型In
(1−x)Al
xSb層104とp型化合物半導体層106との間にIn
(1−x)Al
xSb層104よりもAl組成の大きいp型In
(1−z)Al
zSb層105を設けることにより、i型In
(1−x)Al
xSb層104に電子及び正孔を閉じ込めることができ、漏れ電流の発生を防ぎ、発光強度の高い赤外線発光素子を実現できる。
【0018】
本発明の一実施形態の赤外線発光素子は、発光効率をより向上させる観点から、In
(1−x)Al
xSb層104のAl組成xが、0≦x≦0.1であり、In
(1−y)Al
ySb層103のAl組成yが、0.18≦y≦0.24であり、In
(1−z)Al
zSb層105のAl組成zが、0.18≦z≦0.24であり、0.12≦y−x≦0.2、及び0.12≦z−x≦0.2を充足する。つまり、In
(1−x)Al
xSb層104は、具体的には、InSb層(x=0)又はIn
(1−x)Al
xSb層(0<x≦0.1)である。なお、Al組成yとAl組成zは、0.18以上0.24以下を満足すれば、同一値であってもよく、異なる値であってもよい。
【0019】
[半導体基板]
本発明の一実施形態における赤外線発光素子100において、半導体基板101は、その上にn型化合物半導体層102を形成可能なものであれば特に制限されず、例えばシリコン(Si)基板やガリウム砒素(GaAs)基板等を用いることができる。半導体基板101の結晶面は、(100)、(111)、(110)方向等がある。
GaAs基板等の半絶縁性の半導体基板は、一般にそのバンドギャップが発光層となるIn
(1−x)Al
xSbよりも大きい為、長波長帯の赤外線に対して透明であるので、発生した赤外線の基板側からの取り出しを妨げない。基板側から取り出す形態の場合、基板側には電極を形成する必要が無い為、発生した赤外線が電極により遮られること無く外部に取り出されるため好ましい。半絶縁性の半導体基板以外(例えば、n型半導体基板等)を用いる場合、一方の電極は基板の裏面に作製することも可能である。
【0020】
<n型化合物半導体層>
本発明の一実施形態における赤外線発光素子100において、n型化合物半導体層102は、n型ドーピングされた化合物半導体層であれば特に制限されないが、本発明の一実施形態では、ナローバンドギャップの化合物半導体である。ナローバンドギャップの化合物半導体は正孔に比べて電子の移動度が非常に大きいため、p型ドーピングよりもn型ドーピングの方が半導体層のシート抵抗を容易に下げることができる。したがって、素子構造において大きな面積を占めているn型化合物半導体層102にn型ドーピングすることで、赤外線発光素子100のシート抵抗を容易に低減することができる。
ここで、シート抵抗が増加すると、ダイオードの等価回路上、このダイオードに対して直列に接続されたシリーズ抵抗が増加することになる。このシリーズ抵抗は素子に注入した電力を消費する為になるべく小さい方が望ましい。
【0021】
また、n型化合物半導体層102を高濃度にn型ドーピングすることで、バーシュタイン・モス・シフトにより、赤外線に対する透過率を向上させることができ、光の外部取り出し効率を大きく高めることができる。n型ドーパントとしては、シリコン(Si)、テルル(Te)、スズ(Sn)、硫黄(S)、セレン(Se)等を用いることができるがこれに制限されない。
【0022】
また、半導体基板101上に成長するn型化合物半導体層102の結晶性を上げるために、半導体基板101とn型化合物半導体層102との間に、格子不整合を緩和させるバッファ層を用いる場合もある。この場合バッファ層は赤外線の光を吸収しないような材料が選択される。具体的には、インジウムアンチモンやインジウムアルミアンチモン、インジウムガリウムアンチモン等があげられる。また、バッファ層としては連続的に又は段階的に格子定数が増減するグレーデットバッファ層であってもよい。また、バッファ層を設ける代わりに、n型化合物半導体層102として、インジウムアンチモン又はインジウムアルミアンチモンのいずれかを含むn型化合物半導体を用いても良い。
n型化合物半導体層102は、i型In
(1−x)Al
xSb層104の結晶性を高めること、及びn型In
(1−y)Al
ySb層103で格子緩和を発生させないため、i型In
(1−x)Al
xSb層104との格子定数差が小さい材料であることが望ましい。
【0023】
[n型In
(1−y)Al
ySb層]
本発明の一実施形態における赤外線発光素子100において、i型In
(1−x)Al
xSb層104よりもAl組成が大きく、バンドギャップが広くなるため、正孔による暗電流や拡散電流に対する障壁になる。
図2はその様子を示したものであり、
図1に示す赤外線発光素子100のエネルギーバンドを示す図である。
図2中の、ΔEvは価電子帯の障壁高さを表し、ΔEcは伝導帯の障壁高さを表す。
【0024】
図2に示すように、n型In
(1−y)Al
ySb層103は、価電子帯の障壁高さΔEvが高く、i型In
(1−x)Al
xSb層104よりもバンドギャップが広くなる。そのため、例えばp型化合物半導体層106から注入された正孔がn型化合物半導体層102方向に拡散しようとしても、バンドギャップの広いn型In
(1−y)Al
ySb層103により拡散が抑制され、暗電流や拡散電流等の漏れ電流が低減される。
【0025】
これは、活性層が、窒化ガリウム(GaN)やガリウム砒素(GaAs)の様な元来バンドギャップが大きく熱励起キャリアの影響が無視でき、拡散電流が元々小さいような化合物半導体である場合はあまり意味を成さないが、活性層がi型In
(1−x)Al
xSb層104のようにバンドギャップが比較的小さい半導体層であるが故に得られる効果である。n型In
(1−y)Al
ySb層103のAl組成yは正孔による漏れ(暗電流や拡散電流等)を抑制するために大きいほうがよいが、i型In
(1−x)Al
xSb層104のAl組成xとの差が大きいと格子緩和により、電子の漏れが発生するため、本発明の一実施形態では、0.18≦y≦0.24且つ、0.12≦y−x≦0.20であることが好ましい。n型ドーパントとしては、Si、Te、Sn、S、Se等を用いることができる。ドーピング濃度としては、本発明の一実施形態では、1×10
18原子/cm
3以上であり、また一実施形態では、1×10
19原子/cm
3以上である。
【0026】
[i型In
(1−x)Al
xSb層]
本発明の一実施形態における赤外線発光素子100において、i型In
(1−x)Al
xSb層104のAl組成xは、赤外線発光素子100の用途に応じて適宜選択するのがよい。本発明の一実施形態における赤外線発光素子100をガスセンサとして用いる場合には、検出するガスの吸収波長に対応した発光波長となるようにAl組成xを調整することが好ましい。例えば、二酸化炭素(CO
2)ガスセンサに応用する場合にはAl組成xは、赤外線発光素子100の発光波長が4.3μmとなるようにし、一酸化炭素(CO)ガスセンサに応用する場合にはAl組成xは、赤外線発光素子100の発光波長が4.0μmとなるようにすればよい。
【0027】
[p型In
(1−z)Al
zSb層]
本発明の一実施形態における赤外線発光素子100において、p型In
(1−z)Al
zSb層105は、i型In
(1−x)Al
xSb層104よりもAl組成が大きく、バンドギャップが広くなるため、電子による暗電流や拡散電流に対する障壁になる。
つまり、
図2に示すように、p型In
(1−z)Al
zSb層105は伝導帯の障壁高さΔEcが高く、i型In
(1−x)Al
xSb層104よりもバンドギャップが広くなる。そのため、例えば、n型化合物半導体層102から注入された電子が、p型化合物半導体層106方向に拡散しようとしても、バンドギャップの広いp型In
(1−z)Al
zSb層105により拡散が抑制され、暗電流や拡散電流が低減される。
これは、活性層が窒化ガリウム(GaN)やガリウム砒素(GaAs)の様な元来バンドギャップが大きく熱励起キャリアの影響が無視でき、拡散電流が元々小さいような化合物半導体である場合は意味を成さないが、活性層がi型In
(1−x)Al
xSb層104のようにバンドギャップが小さい半導体層であるが故に得られる効果である。
【0028】
p型In
(1−z)Al
zSb層105のAl組成zは電子による漏れ、すなわち暗電流や拡散電流等を抑制するために大きいほうがよいが、i型In
(1−x)Al
xSb層104のAl組成xとの差が大きいと格子緩和により、電子の漏れが発生するために、本発明の一実施形態では、0.18≦z≦0.24且つ、0.12≦z−x≦0.20である。
p型ドーパントとしては、ベリリウム(Be)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、炭素(C)、マグネシウム(Mg)、ゲルマニウム(Ge)、クロム(Cr)等を用いることができる。ドーピング濃度は、本発明の一実施形態では、7×10
17原子/cm
3以上であり、また、一実施形態では、1×10
18原子/cm
3以上である。
【0029】
[p型化合物半導体層]
本発明の一実施形態における赤外線発光素子100において、p型化合物半導体層106は、i型In
(1−x)Al
xSb層104と比べて、p型ドーピングされている為にn型化合物半導体層102側から注入された電子を効率的にi型In
(1−x)Al
xSb層104中に留め、キャリアの再結合発光効率を上げることが出来る。p型ドーパントとしては、Be、Zn、Cd、C、Mg、Ge、Cr等を用いることができる。ドーピング濃度は、本発明の一実施形態では、7×10
17原子/cm
3以上であり、また、一実施形態では、1×10
18原子/cm
3以上である。
【0030】
<実施形態>
以下、図面を参酌しながら本発明を実施するためのより具体的な形態を説明する。なお、実施形態における各構成要件については上述の説明が参酌される。
本発明の一実施形態における赤外線発光素子100は、
図1に示すように、半導体基板101と、この半導体基板101の上に形成される化合物半導体積層部110とを備えている。化合物半導体積層部110は、n型化合物半導体層102と、n型In
(1−y)Al
ySb層103と、n型In
(1−y)Al
ySb層103よりもAl組成の小さいアンドープのi型In
(1−x)Al
xSb層104と、i型In
(1−x)Al
xSb層104よりもAl組成の大きいp型In
(1−z)Al
zSb層105と、p型化合物半導体層106とが、半導体基板101側からこの順に積層されて形成されている。
【0031】
この化合物半導体積層部110は、
図1に示すように、n型化合物半導体層102が露出するまでエッチングすること等により形成されたメサ構造110aを備えている。
そして、p型化合物半導体層106上に第1の電極107が接続され、エッチング等により露出されたn型化合物半導体層102上に第2の電極108が接続される。
電極107から電極108に電流を流すことで、i型InAlSb層104で電子と正孔が再結合し、発光する。発光した光は半導体基板101側から取り出される。
【0032】
n型In
(1−y)Al
ySb層103のAl組成yとp型In
(1−z)Al
zSb層105のAl組成zは、i型In
(1−x)Al
xSb層104のAl組成xよりも大きいため、バンドギャップも大きくなる。このとき、n型In
(1−y)Al
ySb層103は正孔の漏れを抑制し、p型In
(1−z)Al
zSb層105は電子の漏れを抑制することで、i型In
(1−x)Al
xSb層104での再結合を促進している。
【0033】
漏れ電流抑制のために、n型In
(1−y)Al
ySb層103のAl組成yと、i型In
(1−x)Al
xSb層104のAl組成xと、p型In
(1−z)Al
zSb層105のAl組成zとは、本発明の一実施形態ではAl組成差(y−x)及びAl組成差(z−x)は、y−x≧0.12且つ、z−x≧0.12とする。また、Al組成差が大きくなると、格子緩和により電子および正孔の漏れを防ぐ効果が小さくなってしまうため、y−x≦0.2、z−x≦0.2とする。
【0034】
このような構成とすることによって、
図2に示すように、i型In
(1−x)Al
xSb層104の上層及び下層にバンドギャップのより大きい、n型In
(1−y)Al
ySb層103とp型In
(1−z)Al
zSb層105とを設けることによって、i型In
(1−x)Al
xSb層104に電子及び正孔を閉じ込めることができる。そのため、漏れ電流の発生を防ぐことが可能となり、結果的にi型InAlSb層104での再結合を促進することができ、発光効率の向上を図ることができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は、上述した実施形態に記載の技術的範囲には限定されない。上述した実施形態に、多様な変更又は改良を加えることも可能であり、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲から明らかである。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の一実施形態における赤外線発光素子を、実施例を用いて詳細に説明する。
[実施例1]
図1に示した素子構造を、分子線エピタキシー法(以下、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法ともいう。)により作製した。
【0036】
まず、半絶縁性のGaAs単結晶基板(半導体基板101)の(001)面上に、Sn(n型ドーパント)を1.0×10
19原子/cm
3ドーピングしたIn
0.95Al
0.05Sb層(n型化合物半導体層102)を1.0μm成長させ、この上に、同じくSn(n型ドーパント)を1.0×10
19原子/cm
3ドーピングしたIn
(1−y)Al
ySb層(n型In
(1−y)Al
ySb層103)を0.02μm成長させ、この上にアンドープのIn
0.95Al
0.05Sb層(i型In
(1−x)Al
xSb層104)を2.0μm成長させ、この上にZn(p型ドーパント)を1.0×10
18原子/cm
3ドーピングしたIn
(1−z)Al
zSb層(p型In
(1−z)Al
zSb層105)を0.02μm成長させ、最後に、この上にZn(p型ドーパント)を1.0×10
18原子/cm
3ドーピングしたIn
0.95Al
0.05Sb層(p型化合物半導体層106)を0.5μm成長させた、半導体ウエハを作製した。
【0037】
この半導体ウエハに次の手順でPINダイオードを作製した。まず、In
0.95Al
0.05Sb層(n型化合物半導体層102)と、In
(1−y)Al
ySb層(n型In
(1−y)Al
ySb層103)と、In
0.95Al
0.05Sb層(i型In
(1−x)Al
xSb層104)と、In
(1−z)Al
zSb層(p型In
(1−z)Al
zSb層105)と、In
0.95Al
0.05Sb層(p型化合物半導体層106)とからなる化合物半導体積層部110に対し、n型化合物半導体層102とのコンタクトを取るためのメサ構造110aを形成するためのエッチングを酸により行い、次いでメサ構造110aが形成された化合物半導体積層部110に対して、素子分離のためのメサエッチングを行った。その後プラズマCVDを用いて、GaAs基板(半導体基板101)及びこの基板上に形成された化合物半導体積層部110を含む全面を、SiN保護膜で覆った。
【0038】
次いで、形成されたSiN保護膜において電極となる部分にのみ窓開けを行い、窓開けを行った部分に、電子ビーム(EB)蒸着及びリフトオフ法を用いて、チタンが化合物半導体積層部110側となるように順に積層した、金(Au)/プラチナ(Pt)/チタン(Ti)の積層構造からなる電極を形成した。
これにより、
図1の素子構造を有する赤外線発光素子としてのPINダイオードが形成された。なお、
図1の素子構造を有する赤外線発光素子としてのPINダイオードの作製手順は、以下の実施例及び参考例についても同様である。
【0039】
このようにして作製したPINダイオードの発光特性を次の手順で評価した。
まず、PINダイオードを、光を取り出すための穴を開けたガラスエポキシ基板上に貼り付け、ワイヤーボンディングにより電極とガラスエポキシ基板上の端子とを接続した。この端子から素子に対してパルスジェネレータ(Pulse Generator)を用いて、周波数1kHz、デューティサイクル(Duty Cycle)20%、入力電力が160mWとなるようにパルス電流を供給し、発光素子として駆動させた。発光特性の測定はガラスエポキシ基板の穴から取り出した赤外光をFTIR(フーリエ変換赤外分光光度計)によって測定することで行った。使用したFTIRはNicolet社製の「Nexus870FTIR」である。なお測定は室温(25℃)で行っており、測定中素子の冷却等は行っていない。
【0040】
図3はこのようにして作製及び評価した実施例1におけるPINダイオードのn型In
(1−y)Al
ySb層103及びp型In
(1−z)Al
zSb層105のAl組成をy=zとしたときの、Al組成y(=z)(横軸)と、波長が4.3μmの赤外線の発光強度(縦軸)との関係を示すグラフである。
図3から、Al組成y(=z)が0.18〜0.24である場合に、発光強度が11[a.u.]程度以上、36程度[a.u.]以下となり、良好な発光強度を得られることが確認できた。
【0041】
また、
図3から、Al組成y(=z)が変化するに応じて、発光強度は大きく変化することがわかる。具体的には、Al組成yが0.18程度から0.22程度までの間は、Al組成yが増加するに応じて発光強度は増加しており、アンドープのIn
0.95Al
0.05Sb層104での発光効率が向上する傾向にある。これは、Al組成yが0.18程度から0.22程度までの範囲においては、暗電流が抑制されたことにより、発光効率が向上したものと考えられる。しかし、Al組成yが0.22程度を超えると発光強度が減少する傾向にあり、アンドープのIn
0.95Al
0.05Sb層での発光効率が減少する傾向にある。これはn型In
(1−y)Al
ySb層103とアンドープのIn
0.95Al
0.05Sb層104間の格子緩和によって、暗電流が増加したものと考えられる。
【0042】
[実施例2]
半絶縁性のGaAs単結晶基板(半導体基板101)の(001)面上に、Sn(n型ドーパント)を1.0×10
19原子/cm
3ドーピングしたIn
0.95Al
0.05Sb層(n型化合物半導体層102)を1.0μm成長させ、この上に、同じくSn(n型ドーパント)を1.0×10
19原子/cm
3ドーピングしたIn
0.78Al
0.22Sb層(n型In
(1−y)Al
ySb層103)を0.02μm成長させ、この上にアンドープのIn
0.95Al
0.05Sb層(i型In
(1−x)Al
xSb層104)を2.0μm成長させ、この上にZn(p型ドーパント)を1.0×10
18原子/cm
3ドーピングしたIn
0.78Al
0.22Sb層(p型In
(1−z)Al
zSb層105)を0.02μm成長させ、最後に、この上にZn(p型ドーパント)を1.0×10
18原子/cm
3ドーピングしたIn
0.95Al
0.05Sb層(p型化合物半導体層106)を0.5μm成長させた、半導体ウエハを作製した。実施例1と同じ手順でPINダイオードの作製及び発光特性評価を行った。
【0043】
[参考例1]
半絶縁性のGaAs単結晶基板の(001)面上に、Sn(n型ドーパント)を1.0×10
19原子/cm
3ドーピングしたIn
0.95Al
0.05Sb層を1.0μm成長させ、この上に、同じくSn(n型ドーパント)を1.0×10
19原子/cm
3ドーピングしたIn
0.95Al
0.05Sb層を0.02μm成長させ、この上にSn(n型ドーパント)を1×10
17原子/cm
3をドーピングしたIn
0.95Al
0.05Sb層を2.0μm成長させ、この上にZn(p型ドーパント)を1.0×10
18原子/cm
3ドーピングしたIn
0.95Al
0.05Sb層を0.02μm成長させ、最後に、この上にZn(p型ドーパント)を1.0×10
18原子/cm
3ドーピングしたIn
0.95Al
0.05Sb層を0.5μm成長させた、半導体ウエハを作製し、実施例1と同じ手順でPINダイオードの作製及び発光特性評価を行った。
【0044】
[参考例2]
参考例1において、Sn(n型ドーパント)を1×10
17原子/cm
3ドーピングしたIn
0.95Al
0.05Sb層に替えて、Sn(n型ドーパント)を5×10
16原子/cm
3ドーピングしたIn
0.95Al
0.05Sb層を採用したこと以外は参考例1と同様の手順で半導体ウエハを作製し、実施例1と同じ手順でPINダイオードの作製及び発光特性評価を行った。
【0045】
[参考例3]
参考例1において、Sn(n型ドーパント)を1×10
17原子/cm
3ドーピングしたIn
0.95Al
0.05Sb層に替えて、Sn(n型ドーパント)を2×10
16原子/cm
3ドーピングしたIn
0.95Al
0.05Sb層を採用したこと以外は参考例1と同様の手順で半導体ウエハを作製し、実施例1と同じ手順でPINダイオードの作製及び発光特性評価を行った。
【0046】
[参考例4]
参考例1において、Sn(n型ドーパント)を1×10
17原子/cm
3ドーピングしたIn
0.95Al
0.05Sb層に替えて、Sn(n型ドーパント)を1×10
16原子/cm
3ドーピングしたIn
0.95Al
0.05Sb層を採用したこと以外は参考例1と同様の手順で半導体ウエハを作製し、実施例1と同じ手順でPINダイオードの作製及び発光特性評価を行った。
【0047】
[参考例5]
参考例1において、Sn(n型ドーパント)を1×10
17原子/cm
3ドーピングしたIn
0.95Al
0.05Sb層に替えて、Zn(p型ドーパント)を1×10
17原子/cm
3ドーピングしたIn
0.95Al
0.05Sb層を採用したこと以外は参考例1と同様の手順で半導体ウエハを作製し、実施例1と同じ手順でPINダイオードの作製及び発光特性評価を行った。
【0048】
[参考例6]
参考例1において、Sn(n型ドーパント)を1×10
17原子/cm
3ドーピングしたIn
0.95Al
0.05Sb層に替えて、Zn(p型ドーパント)を5×10
16原子/cm
3ドーピングしたIn
0.95Al
0.05Sb層を採用したこと以外は参考例1と同様の手順で半導体ウエハを作製し、実施例1と同じ手順でPINダイオードの作製及び発光特性評価を行った。
【0049】
[参考例7]
参考例1において、Sn(n型ドーパント)を1×10
17原子/cm
3ドーピングしたIn
0.95Al
0.05Sb層に替えて、Zn(p型ドーパント)を2×10
16原子/cm
3ドーピングしたIn
0.95Al
0.05Sb層を採用したこと以外は参考例1と同様の手順で半導体ウエハを作製し、実施例1と同じ手順でPINダイオードの作製及び発光特性評価を行った。
【0050】
[参考例8]
参考例1において、Sn(n型ドーパント)を1×10
17原子/cm
3ドーピングしたIn
0.95Al
0.05Sb層に替えて、Zn(p型ドーパント)を1×10
16原子/cm
3ドーピングしたIn
0.95Al
0.05Sb層を採用したこと以外は参考例1と同様の手順で半導体ウエハを作製し、実施例1と同じ手順でPINダイオードの作製及び発光特性評価を行った。
【0051】
図4に、実施例2及び参考例1〜8で得られたPINダイオードの波長が4.3μmである赤外線の発光強度を示す。
図4から、In
0.95Al
0.05Sb層103にp型ドーピングするとドーピング量が多いほど発光強度が大きく低下し(参考例5〜8)、n型ドーピングするとドーピング量が多いほど緩やかではあるが発光強度が低下していることがわかる(参考例1〜4)。この原因としては、電子と正孔の暗電流抑制を抑制するための障壁の高さが、アンドープの際に最も適しているためと考えられる。
【0052】
図5に、実施例2及び参考例1〜4、6〜8で得られたPINダイオードにおける、
図2に示すエネルギーバンド図で示した価電子帯の障壁高さΔEc及び伝導帯の障壁高さΔEvと、ドーピングと、の関係を示す。なお、
図5において、横軸はドーピング領、縦軸は、価電子帯の障壁高さΔEc及び伝導帯の障壁高さΔEvである。
図5から、p型ドープすると伝導帯の障壁高さΔEvが増加するのに対し、価電子帯の障壁高さΔEcは減少することがわかる(参考例6〜8)。一方、n型ドープすると価電子帯の障壁高さΔEcが増加するのに対し、伝導帯の障壁高さΔEvは減少することがわかる(参考例1〜4)。アンドープでは、価電子帯の障壁高さΔEcと伝導帯の障壁高さΔEvとの差が少なく、バランスがよいために発光強度が高くなったものと考えられる(実施例2)。
【0053】
また、実施例2の方法で作製された、異なる半導体ウエハ上に作製されたPINダイオード25個について発光強度のばらつき(3σ/平均)を測定したところ、3.0%以内に収まっていることが確認された。一方、参考例1〜4および参考例5〜8の方法で作製された、異なる半導体ウエハ上に作製されたPINダイオード25個について、発光強度のばらつきを測定したところ、5.8%〜22.4%であった。このことから、アンドープのIn
0.95Al
0.05Sb層(i型In
(1−x)Al
xSb層104)を採用した実施例2の赤外線発光素子は、n型ドーピングまたはp型ドーピングしたIn
0.95Al
0.05Sb層を採用した参考例1〜8の赤外線発光素子と比較して、ばらつきの少ない良好な発光強度を得ることができることが確認された。