(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施例では、CFE(Cold Field-Emission)電子源と、CFE電子源から電子を引き出す引出電極と、電子を加速して下流側に位置する光学系に出力する正(+)電位のアノード電極と、アノード電極を接地電位から分離する第1の絶縁体と、CFE電子源とアノード電極の両方を含む単一の真空チャンバと、真空チャンバに接続されるイオンポンプと、真空チャンバに接続されるNEGポンプと、CFE電子源、引出電極、アノード電極、第1の絶縁体、真空チャンバ、イオンポンプ、NEG(NONEVAPORATIVE GETTER)ポンプを収容する鏡筒と、鏡筒に連結された試料室とを有する走査電子顕微鏡を開示する。また、引出電極を接地電位から分離する第2の絶縁体と、第2の絶縁体を介して引出電極を筐体に取り付けると共に、アノード電極を引出電極と共にその内部に収容する円筒状の取付部材であり、鏡筒の内径よりも小さい外径を有する筒状部分に、取付部材の内空間と外空間を連結する少なくとも1つの横穴を有する取付部材とを更に有することを開示する。また、アノード電極が位置する空間は、取付部材に形成された横穴と、取付部材の筒状部分と筐体との間に形成される連結路とを通じて電子源の位置する空間と接続されることを開示する。
【0018】
また、実施例では、CFE(Cold Field-Emission)電子源と、CFE電子源から電子を引き出す引出電極と、引出電極に対して上流側に位置し、電子源を収容する第1の真空チャンバと、電子を加速して下流側に位置する光学系に出力する正(+)電位のアノード電極と、アノード電極を接地電位から分離する第1の絶縁体と、引出電極に対して下流側に位置し、アノード電極を収容する第2の真空チャンバと、第1の真空チャンバに接続される第1のイオンポンプと、第1の真空チャンバに接続される第1のNEGポンプ(NONEVAPORATIVE GETTER)と、第2の真空チャンバに接続される第2のイオンポンプと、第2の真空チャンバに接続される第2のNEG(NONEVAPORATIVE GETTER)ポンプと、CFE電子源、引出電極、第1の真空チャンバ、アノード電極、第1の絶縁体、第2の真空チャンバ、第1及び第2のイオンポンプ、第1及び第2のNEGポンプを収容する鏡筒と、鏡筒に連結された試料室とを有する走査電子顕微鏡を開示する。
【0019】
また、実施例では、CFE電子源は、タングステン単結晶チップ、ナノチップ、カーボンナノチューブチップ及び超電導チップのいずれかであることを開示する。
【0020】
また、実施例では、第1の絶縁体は、セラミックス、及びエンジニアリングプラスチックのいずれかであることを開示する。
【0021】
また、実施例では、第1の絶縁体は、引出電極を通過した電子がアノード電極に衝突した際に放出される第2の電子、及び/又は、第2の電子がアノード電極、若しくは、真空チャンバの内壁に再衝突して放出される第3の電子が衝突しない位置に取り付けられることを開示する。
【0022】
また、実施例では、アノード電極は、引出電極を通過した電子がアノード電極に衝突した際に放出される第2の電子、及び/又は、第2の電子がアノード電極、若しくは、真空チャンバの内壁に再衝突して放出される第3の電子と第1の絶縁体との衝突を遮る構造を有することを開示する。
【0023】
また、実施例では、引出電極を時間選択的に加熱可能なヒータを更に有することを開示する。
【0024】
また、実施例では、引出電極とアノード電極の間に配置される制御電極と、制御電極を接地電位から分離する第2の絶縁体とを更に有し、第2の絶縁体は、引出電極を通過した電子が制御電極に衝突した際に放出される第2の電子、並びに/又は、第2の電子が引出電極、アノード電極、及び/又は、真空チャンバの内壁に再衝突して放出される第3の電子が衝突しない位置に取り付けられることを開示する。
【0025】
また、実施例では、引出電極とアノード電極の間に配置される制御電極と、制御電極を接地電位から分離する第2の絶縁体とを更に有し、制御電極は、引出電極を通過した電子が制御電極に衝突した際に放出される第2の電子、並びに/又は、第2の電子が引出電極、アノード電極、及び/又は、真空チャンバの内壁に再衝突して放出される第3の電子と第2の絶縁体との衝突を遮る構造を有することを開示する。
【0026】
また、実施例では、引出電極とアノード電極の間に配置され、かつ、構成要素の1つに第2の絶縁体を含むモノクロメータユニットを更に有し、モノクロメータユニットは、引出電極を通過した電子がモノクロメータユニット内の非絶縁体に衝突した際に放出される第2の電子、並びに/又は、第2の電子が非絶縁体、引出電極、アノード電極、及び/又は、真空チャンバの内壁に再衝突して放出される第3の電子と第2の絶縁体との衝突を遮る構造を有することを開示する。
【0027】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明の実施の態様は、後述する形態例に限定されるものではなく、その技術思想の範囲において、種々の変形が可能である。
【0028】
(1)第1の実施例
(1−1)装置構成
(全体構成)
図2に、本実施例に係る走査電子顕微鏡100の全体構成例を示す。走査電子顕微鏡100は、鏡筒(カラム)10、試料室121、各種の電源、及び制御部を有している。前記各種の電源として、例えば電源ユニット122(加速電圧電源123、引出電圧電源124)、ブースター電圧電源126を用意する。加速電圧電源123は電子源101に接続され、引出電圧電源124は引出電極102に接続され、ブースター電圧電源126は、ブースター制御基板127を介して、アノード電極103とブースター電極144に接続される。制御部は、制御マイコン/制御PC131、モニターディスプレイ132、キーボード133、マウス134、検出制御器135を有している。
【0029】
筐筒(カラム)10では、電子源101から出力された一次電子ビーム111のビーム径とプローブ電流量を調整する対物可動絞り141がコンデンサレンズ108の下流に配置される。対物可動絞り141を通過した一次電子ビーム111は対物レンズ142により収束され、偏向器143により偏向走査される。偏向走査される一次電子ビーム111は、試料室121に配置されたステージ150に載置された試料151の観察領域に照射される。なお、対物可動絞り141は、筒状のブースター電極144の内部に配置される。
【0030】
試料151の観察領域から発生された反射電子152及び二次電子153は、検出器154によって検出される。なお、検出器154の検出信号は、前述した検出制御器135を通じて制御マイコン/制御PC131に与えられ、制御マイコン/制御PC131の画像処理を経てモニターディスプレイ132に2次元画像として表示される。
【0031】
(電子源周りの構成)
図1に、電子源101及びその周辺部分の装置構成を示す。
図1は、電子源周りの装置構成をある断面について表している。鏡筒(カラム)10内に現れる各部材の多くは、電子源101を延長した軸線に対して略回転対称の形状を有している。
【0032】
本実施例における電子源101は、常時加熱しない方式の電子源である。当該電子源は、一般には、CFE電子源と呼ばれる。電子源101には、例えばタングステン単結晶チップ、カーボンナノチューブチップ、先端の曲率半径をナノメートルオーダーまで先鋭化させた、又は、部材の上に電子ビーム若しくはイオンビームのデポジションによって生成されたナノチップ、超伝導チップなどを使用する。CFE電子源には、エミッション電流が減衰しない特性を示すものがあるが、いずれのCFE電子源も、その周囲の真空度が高いほどエミッション電流が安定する点で共通する。
【0033】
図1に示す装置構成の説明に戻る。電子源101は、ガイシ110を通じて鏡筒(カラム)10に取り付けられている。この構造により、電子源101は、接地電位から分離され、高電圧(例えば0.1kVから30kVの負電位)に保持される。電子源101の下流には、引出電極102が配置される。引出電極102は、略井戸型又は略深鉢型の断面形状を有し、ガイシ109を通じて鏡筒(カラム)10の内部に配置された円筒115(取付部材)に取り付けられている。因みに、円筒115の下端は、絶縁フランジ104に取り付けられている。
【0034】
このガイシ109を通じた鏡筒(カラム)10への取り付けにより、引出電極102も接地電位から分離され、高電圧に保持される。円筒115の側面には離散的に複数の横穴115Aが形成されている。この横穴115Aを通じ、円筒115と引出電極102とアノード電極103で囲まれたサブ真空チャンバ(差動排気系の下流部分に相当する)と、電子源101が配置される側のサブ真空チャンバ(差動排気系の上流部分に相当する)とが連結される。
図1では、円筒115の左右側面の同じ高さ位置に同径の横穴115Aが形成されているが、横穴115Aが形成される高さ位置は任意である。すなわち、横穴115Aの高さ位置は、円周方向について全て同じでも、ばらついていても構わない。また、横穴115Aは、円周上の同一位置について高さ違いで複数形成されていても良い。
【0035】
引出電極102に印加される電圧(引出電圧)は、電子源101に印加される電位に対し、一般的には2kV〜7kVの正電位に保持される。なお、引出電極102としてナノチップを使う場合、引出電圧は数100Vオーダである。この引出電圧により、電子源101の先端からは、一次電子ビーム111が引き出される。引出電極102の中心部分(電子源101の軸線上)には、引き出された一次電子ビーム111の一部を通過させるための絞りが形成される。一般的には、電子源101を収容する引出電極102の筒部の外側面には、加熱ヒータ116が配置される。加熱ヒータ116は、一次電子ビーム111を引き出さない期間に(SEM観察の停止中に)オン制御され、引出電極102を加熱する。この加熱により、引出電極102の表面に吸着されたガスを熱脱離する。この結果、SEM観察中に、一次電子ビーム111が引出電極102に衝突した場合でも、ガスの発生量は抑制される。
【0036】
引出電極102の下流には、アノード電極103が配置される。アノード電極103は、絶縁フランジ104(ガイシ104Aを含む)を通じて鏡筒(カラム)10に取り付けられる。絶縁フランジ104により、アノード電極103は、接地電位から分離され、高電圧(加速電圧)に保持される。ブースティング法を適用する本実施例の場合、一般的には、アノード電極103は最大10kVの正電位に保持される。この加速電圧により、引出電極102の絞りを通過した一次電子ビーム111は加速され、下流の光学系(例えばコンデンサレンズ108)へと出力される。
【0037】
絶縁フランジ104は、その中央部分(電子源101の軸線上)に形成された絞りを除き、絶縁フランジ104より上流側の空間(電子源室)と絶縁フランジ104より下流側の空間(中間室)とを分離している。以下では、電子源101を含む空間(電子源室)を規定する容器部分を真空チャンバ105と呼ぶ。このように、本実施例の電子源101とアノード電極103は、1つの(又は共通の)真空チャンバ105に収容される。真空チャンバ105は、接地電位に保持されている。真空チャンバ105(電子源室)と中間室(コンデンサレンズ108等を収容する空間)との間は、絶縁フランジ104の絞りを通じて差動排気される。
【0038】
真空チャンバ105の真空排気には、2つの真空ポンプが用いられる。1つは、メイン真空ポンプ106であり、1つは、サブ真空ポンプ107である。メイン真空ポンプ106は、単独で真空チャンバ105を10
-8hPa程度の真空状態にできるポンプである。メイン真空ポンプ106には、例えばイオンポンプを利用する。サブ真空ポンプ107は、真空チャンバ105の真空度を高める目的で使用されるポンプである。サブ真空ポンプ107には、例えばNEGポンプを利用する。メイン真空ポンプ106及びサブ真空ポンプ107は、それぞれ複数配置しても良い。
図1ではサブ真空ポンプ107をメイン真空ポンプ106の上流側に配置した並列構造であるが、サブ真空ポンプ107とメイン真空ポンプ106を直列に配置する構造を採用しても良い。
【0039】
(1−2)電流安定性の向上
続いて、本実施例に係る走査電子顕微鏡内で発生する現象を説明する。前述したように、アノード電極103は、引出電極102の電位よりも高い電位に保持される。このため、一次電子ビーム111がアノード電極103に衝突した際に発生される二次的な電子(二次電子や反射電子)112は、引出電極102の方に辿り着くことはできず、アノード電極103に再度衝突する。この再度の衝突により、二次的な電子113が発生される。
【0040】
二次的な電子113は、周囲との電位関係(引出電極102、アノード電極103、真空チャンバ105及びコンデンサレンズ108との電位関係)により、絶縁フランジ104に含まれるガイシ104Aに衝突する。ところが、ガイシ104Aは、ポーラス構造であり、多くのガスを吸着又は吸蔵している。このため、ガイシ104Aは、二次的な電子113との衝突部分から、多くのガス114を真空チャンバ105内に放出する。このガス114の発生こそが、CFE電子源をブースティング法と組み合わせて使用する場合に電流安定性を低下させる原因である。
【0041】
なお、ガイシ104Aは、接地電位とブースター電位を電気的に分離する絶縁体であり、前述したように、二次的な電子113が衝突すると表面の吸着ガス及び内部の吸蔵ガスを放出する。また、ガイシ104Aは、二次的な電子113の衝突によって表面が帯電する。ガイシ104Aは、一般的には、セラミックスであるが、エンジニアリングプラスチックでも構わない。ガス114は、二次的な電子113が鏡筒(カラム)10の内壁に再衝突することで発生した二次的な電子がガイシ104Aに再衝突することによっても発生される。
【0042】
ところで、本実施例の走査電子顕微鏡では、電子源101とアノード電極103が、1つの(同じ)真空チャンバ105に含まれている。具体的には、
図1に示すように、ガス114が発生する領域付近の上方部分(円筒115に形成された相対的大きい口径の横穴115Aに近く、引出電極102に形成された相対的に口径の小さい絞りから遠い位置)で、電子源101が含まれる空間とアノード電極103が含まれる空間とが連結されている。このため、発生したガス114の大部分は、引出電極102の絞りではなく、分子レベルから見た抵抗が相対的に小さい横穴115Aを通過し、メイン真空ポンプ106及びサブ真空ポンプ107によって排気される。すなわち、本実施例の場合、ガス114の大部分は、横穴115Aから鏡筒(カラム)10と円筒115との間に形成された連結路を通過して、メイン真空ポンプ106及びサブ真空ポンプ107により排気される。
【0043】
結果的に、メイン真空ポンプ106及びサブ真空ポンプ107は、電子源周辺の残留ガス量を一時的にも増やすことなく、真空チャンバ105からガス114を十分に排気することができる。
【0044】
図3に、フラッシング直後におけるエミッション電流の減衰特性を示す。本実施例の減衰特性曲線13は、エミッション電流が初期設定値から半分に減衰するまでの時間が100min程度以上であることを示している。なお、減衰特性曲線11は、後述する比較例1に対応する特性であり、減衰特性曲線12は、後述する比較例2に対応する特性である。
【0045】
・比較例1:
引出電極102より上流側の真空チャンバ(電子源101を含む)と、引出電極102より下流側の真空チャンバ(アノード電極103を含む)とを異なる真空チャンバとして独立に設け、各真空チャンバにそれぞれメイン真空ポンプを接続した走査電子顕微鏡。
【0046】
・比較例2:
比較例1の構成に加え、引出電極102より上流側の真空チャンバ(電子源101を含む)にのみサブ真空ポンプを接続した走査電子顕微鏡。
【0047】
図3に示すように、比較例1におけるエミッション電流(電子源101から放出される一次電子ビーム111全体にかかる電流)の初期設定値からの半減時間は1min程度、比較例2におけるエミッション電流の初期設定値からの半減時間は10min程度であり、本実施例の構成の優位性が確かめられる。このことは、本実施例の場合、比較例1及び2に比して、高輝度安定領域を長くできることを意味する。一般に、高輝度安定領域とは、エミッション電流が当初の50%以上であり、かつ、プローブ電流(引出電極102の絞りを通過したエミッション電流)が当初の90%である領域をいう。高輝度安定領域では、CFEノイズと呼ばれる特有のノイズが低く、しかも、試料表面を走査するプローブビームが高輝度で安定している。このため、本実施例では、比較例に比して、高輝度のプローブ電流を長時間維持することができる。
【0048】
(1−3)まとめ
本実施例の構造の採用により、CFE電子源から引き出された一次電子ビーム111を2kV以下の加速電圧で加速する場合でも(CFE電子源とブースティング法を組み合わせる場合でも)、エミッション電流やプローブ電流を安定に動作させて、高分解能の画像を得ることができる。このため、試料が磁性体の場合や試料の形状が平坦ではない場合にもSEMによる観察が可能となり、ユーザの利便性が飛躍的に向上する。なお、本実施例では、走査電子顕微鏡について説明したが、本実施例の顕微鏡構造は、FIBとSEMが共存する複合荷電粒子線装置にも適用できる。後続する実施例についても同様である。
【0049】
(2)第2の実施例
(2−1)装置構成
図4に、本実施例に係る走査電子顕微鏡を構成する電子源及びその周辺部分の装置構成を示す。
図4には、
図1との対応部分に同一符号を付して示している。
図4が
図1と相違する点の1つは、ガイシ109の外周部がその全周に亘って鏡筒(カラム)10の内壁面に直接固定され、結果的に独立した2つの真空チャンバが設けられる点である。すなわち、本実施例に係る走査電子顕微鏡では、引出電極102より上流側の空間を仕切る真空チャンバ105A(電子源101を含む)と、引出電極102より下流側の空間を仕切る真空チャンバ105B(アノード電極103を含む)が独立に設けられる。
【0050】
図4が
図1と相違する点の他の1つは、真空チャンバ105A及び105Bのそれぞれにメイン真空ポンプとサブ真空ポンプが設けられる点である。すなわち、真空チャンバ105Aにはメイン真空ポンプ106とサブ真空ポンプ107が設けられ、真空チャンバ105Bにはメイン真空ポンプ106Aとサブ真空ポンプ107Aが設けられる。本実施例の場合、二次的な電子113がガイシ104Aに衝突することによって発生したガス114を、発生源と同じ真空チャンバ105Bに設けられたメイン真空ポンプ106Aとサブ真空ポンプ107Aを通じて速やか、かつ、十分に排気することができる。
【0051】
換言すると、走査電子顕微鏡の使用中に発生するガス114の大部分は、下流側の真空チャンバ105Bに接続されたメイン真空ポンプ106A及びサブ真空ポンプ107Aにより排気される。この結果、電子源101の周りのガス濃度が一時的にも高まる可能性を低減することができる。このため、実施例1に係る走査電子顕微鏡と同等の効果(
図3の減衰特性曲線13)を得ることができる。
【0052】
(3)第3の実施例
前述の第1及び第2の実施例では、ガイシ104Aに対する二次的な電子113の衝突により発生したガス114を真空チャンバ内から十分に排気するための技術について説明したが、本実施例ではガス114の発生自体を抑制できる構造について説明する。
【0053】
(3−1)装置構成
図5に、本実施例に係る走査電子顕微鏡を構成する電子源及びその周辺部分の装置構成を示す。
図5には、
図1との対応部分に同一符号を付して示している。すなわち、本実施例の場合、1つの真空チャンバ105内に電子源101とアノード電極103の両方が含まれる構造を前提とする。
図5が
図1と相違する点は、絶縁フランジ118に対するガイシ117とアノード電極103の取り付け構造である。
【0054】
図1の場合、絶縁フランジ104とガイシ104Aは一体構造であり、アノード電極103は絶縁フランジ104の内周側部分の表面とガイシ104Aの一部分の表面に跨るように載置されていた。このため、ガイシ104Aの大部分は、アノード電極103の外側に露出されていた。しかし、
図5に示す構造では、アノード電極103は、絶縁フランジ118に載置されたガイシ117の上に載置される。すなわち、アノード電極103は、ガイシ117を挟んで絶縁フランジ118から分離されている。
【0055】
ガイシ117は筒形状であり、その内側面は絶縁フランジ104の中心に形成された絞りより外側に位置する一方、その外側面は少なくともアノード電極103の外周縁部より内側に位置するように配置される。ただし、ガイシ117の外側面は、
図5に示すように、アノード電極103等で発生した二次的な電子113が回り込めない位置に取り付けられる必要がある。例えばガイシ117の高さ(z方向)が大きく、アノード電極103と絶縁フランジ118との間の隙間が大きい場合、ガイシ117の外側面がアノード電極103の外縁よりもできるだけ離れる(内側に位置する)ように配置する。一方、ガイシ117の高さ(z方向)が小さく、アノード電極103と絶縁フランジ118との間の隙間が小さい場合、ガイシ117の外側面はアノード電極103の外縁付近まで配置できる。
【0056】
(3−2)まとめ
本実施例の顕微鏡構造を採用する場合、CFE電子源から引き出された一次電子ビーム111を2kV以下の加速電圧で加速する場合でも(CFE電子源とブースティング法を組み合わせる場合でも)、アノード電極103で発生した二次的な電子113とガイシ117の衝突を防ぐことができる。このため、前述の実施例と同様、エミッション電流やプローブ電流を安定に動作させて、高分解能の画像を得ることができる。しかも、本実施例の場合には、本質的にガス114が発生しないため、実施例1の場合よりも、電子源101の周辺状態を良好に保ちつつ走査電子顕微鏡を使用することができる。なお、本実施例の顕微鏡構造は、第2の実施例(
図4)にも適用することができる。
【0057】
(4)第4の実施例
図6に、本実施例に係る走査電子顕微鏡を構成する電子源及びその周辺部分の装置構成を示す。
図6には、
図5との対応部分に同一符号を付して示している。
図6が
図5と相違する点は、アノード電極103の形状である。本実施例におけるアノード電極103は、断面L字形状を形成する構造体が、アノード電極103の外周縁に沿うように、その下面から下方に突出するスカート状の部材として形成される点で相違する。ただし、ここでのスカート状の部材は、絶縁フランジ118とは非接触である。スカート状の部材は、アノード電極103と絶縁フランジ118との間に形成される隙間を小さくし、二次的な電子113の回り込みによるガイシ117との衝突を一段と難しくする働きをする。
【0058】
本実施例の顕微鏡構造を採用すれば、真空チャンバ105内におけるガスの発生を第3の実施例に比して一段と抑制することができる。また、隙間の大きさは、アノード電極103のスカート状の部材の長さで調整できるため、ガイシ117の高さを高くしてアノード電極103と絶縁フランジ118の距離を離すことが可能となる。本実施例の顕微鏡構造も、第2の実施例(
図4)にも適用できる。
【0059】
(5)第5の実施例
図7に、本実施例に係る走査電子顕微鏡を構成する電子源及びその周辺部分の装置構成を示す。
図7には、
図6との対応部分に同一符号を付して示している。
図7が
図6と相違する点は、アノード電極103の形状である。本実施例におけるアノード電極103は、断面L字形状を形成する構造体が、アノード電極103の外周縁に沿うように、その上面から上方に突出する壁構造体として形成される点で、第4の実施例の構造と相違する。
【0060】
略鉢形状又は略深皿形状のアノード電極103を用いるのは、二次的な電子113がアノード電極103から飛び出さないようにするためである。このようにしても、第4の実施例の場合と同様、二次的な電子113とガイシ117との衝突によるガス114の発生を低減することができる。なお、壁構造体の高さは、二次的な電子113の回り込みを防ぐことができれば任意の高さで良い。
【0061】
本実施例の顕微鏡構造を採用すれば、前述の第4の実施例と同様に、真空チャンバ105内におけるガス114の発生を抑制することができる。また、二次的な電子113の回り込みは壁構造体により防止されるため、ガイシ117の高さは任意に定めることができる。本実施例の顕微鏡構造も、第2の実施例(
図4)に適用することができる。
【0062】
(6)第6の実施例
図8に、本実施例に係る走査電子顕微鏡を構成する電子源及びその周辺部分の装置構成を示す。
図8には、
図7との対応部分に同一符号を付して示している。
図8が
図7と相違する点は、アノード電極103の絶縁フランジ118に対する取り付け構造である。具体的には、外周縁に沿ってアノード電極103の上面から上方に突出する壁構造体の上端付近の外側面にてガイシ117と接続され、当該ガイシ117を通じて絶縁フランジ118に取り付けられている円筒115に取り付けられる点である。
図8の場合、ガイシ117は、横穴115Aより下の位置で円筒115に取り付けられる。もっとも、取り付け構造は、これに限らず、ガイシ109とガイシ117が、鏡筒(カラム)10に直接取り付けられる構造でも良い。
【0063】
なお、本実施例の場合、外周縁に沿ってアノード電極103の上面から上方に突出する壁構造体の高さは第5の実施例よりも高く(少なくとも、引出電極102の下端面よりも高く)形成されている。すなわち、本実施例のアノード電極103は、第5の実施例よりも深い鉢形状又は井戸型形状を有している。アノード電極103に形成される壁構造体の高さが十分に高いため、二次的な電子113が上記壁構造体を乗り越えてガイシ117に衝突する可能性はほとんどない。
【0064】
本実施例の顕微鏡構造を採用しても、前述の第5の実施例と同様に、真空チャンバ105内におけるガスの発生を抑制することができる。本実施例の顕微鏡構造も、第2の実施例(
図4)に適用することができる。
【0065】
(7)第7の実施例
図9に、本実施例に係る走査電子顕微鏡を構成する電子源及びその周辺部分の装置構成を示す。
図9には、
図1との対応部分に同一符号を付して示している。
図9が
図1と相違する点は、引出電極102とアノード電極103の間に、制御電極120が配置されている点である。制御電極120は、引出電極102とアノード電極103のレンズ作用によって一次電子ビーム111の光源位置が変化しないように調整し(すなわち、光源位置を一定に保ち)、電子光学系の制御精度の向上を図る目的で設置される部材である。
【0066】
ところが、引出電極102を通過した一次電子ビーム111が制御電極120に衝突することにより発生した電子、及び/又は、制御電極120に衝突した電子が電子銃内の構成要素に再度衝突することにより発生した電子がガイシに衝突することでもガスが放出される。
【0067】
そこで、制御電極120に、放出電子とガイシの衝突を回避させるための構造を採用する。構造の1つは、制御電極120の取り付けに使用するガイシ119への放出電子の衝突を回避するための構造である。この構造として、本実施例の制御電極120は、
図8に示すアノード電極103と同様の構造を採用する。すなわち、制御電極120を、その底面の中心位置に絞りが形成された略鉢形状又は略深皿形状の電極として構成し、外周縁に沿って制御電極120の上面から上方に突出する壁構造体の上端付近の外側面にてガイシ119と接続する構造を採用する。なお、ガイシ119は、絶縁フランジ104に取り付けられている円筒115に固定されている。ここでも、ガイシ119は、円筒115に形成された横穴115Aを塞がないように、横穴115Aより下の位置に取り付けられる。
【0068】
別の構造の1つは、アノード電極103から発生される二次的な電子113とガイシ104Aとの衝突を回避するための構造である。この構造として、本実施例の制御電極120は、制御電極120の外周縁に沿うように、その下面から下方に突出するスカート形状の部材を配置する構造を採用する。もっとも、制御電極120にスカート形状の部材を配置する代わりに、アノード電極103に
図6に示す構造や
図7に示す構造を採用しても良い。
【0069】
以上のように、制御電極120を引出電極102とアノード電極103の間に配置する場合でも、本実施例のように、ガイシ119及び104Aに二次的な電子113が衝突しない構造を採用することにより、真空チャンバ105内におけるガス114の発生を効果的に抑制することができる。なお、
図9に示す制御電極120の構造例は一例であり、二次的な電子113がガイシ104Aやガイシ119に衝突しない構造であれば、どのような構造であっても良い。本実施例の顕微鏡構造も、第2の実施例(
図4)に適用することができる。
【0070】
(8)第8の実施例
図10に、本実施例に係る走査電子顕微鏡を構成する電子源及びその周辺部分の装置構成を示す。
図10には、
図1との対応部分に同一符号を付して示している。
図10が
図1と相違する点は、引出電極102とアノード電極103の間に、モノクロメータユニット128が配置されている点である。モノクロメータユニット128は、電子源101から放出される一次電子ビーム111のエネルギー幅を低減するためのものであれば、どのような構造でも良い。
【0071】
SE電子源をCFE電子源に入れ替えることでエネルギー幅を低減する効果を得られるのと同様、CFE電子源とモノクロメータユニット128を組み合わせることによってもエネルギー幅の更なる低減を実現できる。例えば1kV以下の低加速電圧によって、前述の実施例よりも更に分解能の高い画像を取得することが可能となる。なお、モノクロメータユニット128にも絶縁部材(ガイシ)が含まれる場合がある。そこで、前述した他の実施例で説明した各種の構造を採用し、モノクロメータユニット128の内部の絶縁部材に、二次的に発生した放出電子が衝突しないようにする。
【0072】
本実施例によれば、前述の実施例よりも一段と低い加速電圧による分解能の高い画像を取得することができる。本実施例の顕微鏡構造も、第2の実施例(
図4)に適用することができる。
【0073】
(9)他の実施例
本発明は、上述した実施例の構成に限定されるものでなく、様々な変形例を含んでいる。例えば上述した実施例は、本発明を分かりやすく説明するために、一部の実施例について詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備える必要は無い。また、ある実施例の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成に他の構成を追加し、又は、各実施例の一部構成を他の構成で置換し、又は各実施例の一部構成を削除することも可能である。また、制御線や情報線は、説明上必要と考えられるものを示すものであり、製品上必要な全ての制御線や情報線を表すものでない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えて良い。