特許第6283560号(P6283560)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6283560固体電解質製造装置及び固体電解質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6283560
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】固体電解質製造装置及び固体電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20180208BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20180208BHJP
   H01M 6/18 20060101ALI20180208BHJP
   C01B 25/14 20060101ALN20180208BHJP
   H01B 1/10 20060101ALN20180208BHJP
   H01B 1/06 20060101ALN20180208BHJP
【FI】
   H01B13/00 Z
   H01M10/0562
   H01M6/18 A
   !C01B25/14
   !H01B1/10
   !H01B1/06 A
【請求項の数】14
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-89137(P2014-89137)
(22)【出願日】2014年4月23日
(65)【公開番号】特開2015-207521(P2015-207521A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2017年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】特許業務法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光一
(72)【発明者】
【氏名】相田 真男
【審査官】 和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−140893(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0227610(US,A1)
【文献】 特開2002−323471(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0056137(US,A1)
【文献】 特開2012−161770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01B 1/10
H01B 13/00
H01M 6/18
H01M 10/0562
C01B 25/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化リチウムと他の硫化物を含む原料を溶媒中で粉砕しつつ反応させて固体電解質を合成する粉砕合成手段、
硫化リチウムと他の硫化物を含む原料を溶媒中で反応させて固体電解質を合成する合成手段、
前記粉砕合成手段の出口と前記合成手段の入口を繋ぐ第1連結手段及び前記合成手段の出口と前記粉砕合成手段の入口を繋ぐ第2連結手段からなる第1循環経路、及び、
前記合成手段の出口と入口を繋ぐ連結手段からなる第2循環経路
を含む固体電解質製造装置であって、
前記第1循環経路と前記第2循環経路が、少なくとも前記合成手段の出口部分において経路を共有する
固体電解質製造装置。
【請求項2】
前記第2循環経路が、第1連結手段の一部を前記第1循環経路と共有する請求項1に記載の固体電解質製造装置。
【請求項3】
前記第1循環経路及び前記第2循環経路が共通の循環手段を備える請求項1又は2に記載の固体電解質製造装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の固体電解質製造装置を用いて固体電解質を製造する固体電解質の製造方法。
【請求項5】
硫化リチウムと他の硫化物を含む原料を合成手段に投入する工程、
前記原料の混合物を第2循環経路に循環させる工程、及び
前記原料の混合物を第1循環経路に循環させて固体電解質を製造する工程
を含む請求項4に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項6】
前記第2循環経路での循環工程における循環時間が3時間以下である請求項5に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項7】
前記第2循環経路での循環工程における流速が2L/min〜600L/minである請求項5又は6に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項8】
前記他の硫化物が硫化リン、硫化ケイ素、硫化ホウ素及び硫化ゲルマニウムから選択される1以上の硫化物である請求項5〜7のいずれかに記載の固体電解質の製造方法。
【請求項9】
前記他の硫化物がPである請求項5〜8のいずれかに記載の固体電解質の製造方法。
【請求項10】
前記硫化リチウムと前記他の硫化物のモル比が、50:50〜95:5である請求項5〜9のいずれかに記載の固体電解質の製造方法。
【請求項11】
前記原料に溶媒を含み、前記溶媒が炭化水素系溶媒を含む請求項5〜10のいずれかに記載の固体電解質の製造方法。
【請求項12】
前記溶媒が芳香族炭化水素系溶媒を含む請求項11に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項13】
前記溶媒がトルエンを含む請求項11又は12に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項14】
前記溶媒がトルエンのみからなる請求項13に記載の固体電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質製造装置及びそれを用いた固体電解質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯情報端末、携帯電子機器、家庭用小型電力貯蔵装置、モーターを動力源とする自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等に用いられるリチウムイオン二次電池の需要が増加している。
リチウムイオン二次電池の安全性を確保する方法として、有機系電解液に代えて無機固体電解質を用いた全固体二次電池が研究されている。
【0003】
固体電解質の製造方法として、例えば特許文献1〜3には、反応槽等の合成手段とミル等の粉砕合成手段とが連結管で連結された装置内に、原料を循環させて固体電解質を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−140893号公報
【特許文献2】特開2010−250981号公報
【特許文献3】国際公開第2013/042371号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法では、装置の具体的構成によっては粉砕合成手段等が閉塞して製造を継続できなくなる場合があった。
本発明の目的は、粉砕合成手段等の閉塞を起こさない固体電解質製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、上記の閉塞が、合成手段の下端や循環経路出発点のデッドスペースに沈積した沈積物(原料や固体電解質)に起因することを見出した。
本発明によれば、以下の固体電解質製造装置等が提供される。
1.硫化リチウムと他の硫化物を含む原料を溶媒中で粉砕しつつ反応させて固体電解質を合成する粉砕合成手段、
硫化リチウムと他の硫化物を含む原料を溶媒中で反応させて固体電解質を合成する合成手段、
前記粉砕合成手段の出口と前記合成手段の入口を繋ぐ第1連結手段及び前記合成手段の出口と前記粉砕合成手段の入口を繋ぐ第2連結手段からなる第1循環経路、及び、
前記合成手段の出口と入口を繋ぐ連結手段からなる第2循環経路
を含む固体電解質製造装置であって、
前記第1循環経路と前記第2循環経路が、少なくとも前記合成手段の出口部分において経路を共有する
固体電解質製造装置。
2.前記第2循環経路が、第1連結手段の一部を前記第1循環経路と共有する1に記載の固体電解質製造装置。
3.前記第1循環経路及び前記第2循環経路が共通の循環手段を備える1又は2に記載の固体電解質製造装置。
4.1〜3のいずれかに記載の固体電解質製造装置を用いて固体電解質を製造する固体電解質の製造方法。
5.硫化リチウムと他の硫化物を含む原料を合成手段に投入する工程、
前記原料の混合物を第2循環経路に循環させる工程、及び
前記原料の混合物を第1循環経路に循環させて固体電解質を製造する工程
を含む4に記載の固体電解質の製造方法。
6.前記第2循環経路での循環工程における循環時間が3時間以下である5に記載の固体電解質の製造方法。
7.前記第2循環経路での循環工程における流速が2L/min〜600L/minである5又は6に記載の固体電解質の製造方法。
8.前記他の硫化物が硫化リン、硫化ケイ素、硫化ホウ素及び硫化ゲルマニウムから選択される1以上の硫化物である5〜7のいずれかに記載の固体電解質の製造方法。
9.前記他の硫化物がPである5〜8のいずれかに記載の固体電解質の製造方法。
10.前記硫化リチウムと前記他の硫化物のモル比が、50:50〜95:5である5〜9のいずれかに記載の固体電解質の製造方法。
11.前記原料に溶媒を含み、前記溶媒が炭化水素系溶媒を含む5〜10のいずれかに記載の固体電解質の製造方法。
12.前記溶媒が芳香族炭化水素系溶媒を含む11に記載の固体電解質の製造方法。
13.前記溶媒が下記式(1)で表わされる芳香族炭化水素系溶媒を含む11又は12に記載の固体電解質の製造方法。
Ph−(R) (1)
(式中、Phは、芳香族炭化水素基であり、Rはアルキル基である。nは1〜5から選択される整数である。)
14.前記溶媒がトルエンを含む11〜13のいずれかに記載の固体電解質の製造方法。
15.前記溶媒がトルエンのみからなる14に記載の固体電解質の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、粉砕合成手段等の閉塞を起こさず、安定した製造が可能な固体電解質製造装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の固体電解質製造装置の一実施形態を示す図である。
図2】本発明の固体電解質製造装置の他の実施形態を示す図である。
図3】本発明の固体電解質製造装置の他の実施形態を示す図である。
図4】本発明の固体電解質製造装置の他の実施形態を示す図である。
図5】比較例1で用いた固体電解質製造装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[固体電解質製造装置]
本発明の固体電解質製造装置は、硫化リチウムと他の硫化物を含む原料を溶媒中で粉砕しつつ反応させて固体電解質を合成する粉砕合成手段、これら原料を溶媒中で反応させて固体電解質を合成する合成手段、粉砕合成手段及び合成手段を連結する第1循環経路、及び、合成手段の出口と入口を繋ぐ第2循環経路を備える。
第1循環経路は、具体的に、粉砕合成手段の出口と合成手段の入口を繋ぐ第1連結手段、及び合成手段の出口と粉砕合成手段の入口を繋ぐ第2連結手段からなる。
第1循環経路と第2循環経路は、少なくとも合成手段の出口部分において経路を共有する。
【0010】
本発明の固体電解質製造装置の一実施形態を図1に示す。
固体電解質製造装置1は、粉砕機(粉砕合成手段)10と反応槽(合成手段)20とを含む。反応槽20は、通常、容器と撹拌翼からなり(図示せず)、撹拌翼はモータ(M)により駆動される。
粉砕機10及び反応槽20は、第1連結管(第1連結手段)30及び第2の連結管(第2連結手段)40により連結され、これらにより第1循環経路Aが形成される。
本実施形態においては、連結管40上に、連結管を開閉するバルブ42及びバルブ44、及び原料を循環させるためのポンプ(循環手段)46が設けられている。
【0011】
第2循環経路Bは、反応槽20の出口と入口を繋ぐ連結手段100からなる。連結手段100は、反応槽20の出口部分において第1循環経路Aと経路を共有し、分岐50で第1循環経路Aと分岐し、粉砕機10を経由せずに再度反応槽20の投入口に至る。
反応槽20の出口部分とは、反応槽20の排出口22又は反応槽20内部からの一定区間をいい、例えば、排出口22からバルブ42までの区間、反応槽20内部の槽の底からバルブ42までの区間、又は当該内部槽の底と排出口22との間からバルブ42までの区間をいう。
尚、本実施形態においては、循環経路100上に、バルブ102及び原料を循環させるためのポンプ(循環手段)104が設けられている。
【0012】
第2循環経路Bは上記の構成を有していれば他の構成は特に制限されない。例えば、循環経路100は、図1に示すように第1循環経路とは別個に反応槽20の入り口に接続してもよいし、図2に示すように第1連結管30に接続(合流)して、連結管30を介して反応槽20の入り口に接続してもよい。循環経路100を連結管30と合流させると、反応槽20の入り口部分を第1循環経路と共有でき、生成物の配管内ロス分を低減できるため好ましい。
【0013】
また、分岐50をポンプ46と粉砕機10の間に設けてもよい(図3)。このようにすると、ポンプ46を第1循環経路と第2循環経路で共有することができるため好ましい。
また、上記の態様を組み合わせてもよい(図4)。連結管40におけるポンプ46と粉砕機10間の部分と連結管30にバイパスラインを設けることにより、当該態様とすることができる。
【0014】
粉砕機(粉砕手段)としては、回転ミル(転動ミル)、揺動ミル、振動ミル、ビーズミル等を挙げることができる。ビーズミルが好ましい。
粉砕機がボールを含むとき、ボールと容器とが磨耗することによる固体電解質への異物の混入を防止するため、ボールはジルコニウム製、強化アルミナ製、アルミナ製であることが好ましい。
【0015】
反応槽(合成手段)としては、硫化リチウムと他の硫化物を反応させ、固体電解質を製造することができるものであればどのようなものでもよい。通常、反応槽は、容器と、攪拌機等の混合手段、冷却手段を有する。混合手段は、容器内の原料と溶媒からなるスラリーを混合し、スラリーが沈殿しないようにする。冷却手段は、蒸発した溶媒を冷却して容器に戻す。
容器は、金属製又はガラス製であることが好ましい。溶媒の沸点以上の反応温度で反応する場合には耐圧仕様の容器を用いることが好ましい。
連結手段、循環手段及びバルブとしては、通常のものを用いることができる。
【0016】
[固体電解質の製造方法]
次に、本発明の固体電解質製造装置を用いた固体電解質の製造方法について説明する。
本発明の固体電解質の製造方法は、硫化リチウムと他の硫化物を含む原料混合物を反応槽(合成手段)に投入する工程、上記混合物を第2循環経路に循環させる工程、及び上記混合物を第1循環経路に循環させて固体電解質を製造する工程を含む。
以下、原料及び各工程について説明する。
【0017】
[原料等]
LiSと混合する硫化物(他の硫化物)としては、硫化リン、硫化ケイ素、硫化ホウ素、硫化ゲルマニウムから選択される1つ以上の硫化物が好ましく使用できる。特にPが好ましい。上記の硫化物については特に限定はなく、市販されているものが使用できる。
LiSとその他硫化物のモル比は、50:50〜95:5が好ましい。例えば55:45〜90:10である。
【0018】
また、原料として少なくともLiSとPを含むことが好ましい。
少なくともLiSとPを原料とする場合、原料として用いるLiSとPのモル比としてはLiS:P=60:40〜82:18が好ましく、LiS:P=65:35〜82:18がより好ましく、例えば、LiS:P=68:32〜82:18、LiS:P=72:38〜78:22である。
【0019】
また、原料に含まれるLi、P及びSを、LiSとPの比に換算した場合に、モル比がLiS:P=60:40〜82:18となることが好ましく、より好ましくはLiS:P=65:35〜82:18であり、例えば、LiS:P=68:32〜82:18、LiS:P=72:38〜78:22である。
【0020】
また、少なくともLiSとPを原料とする場合、LiSとPのみを原料とすることが好ましい。
LiSとPのみを原料とする場合、そのモル比はLiS:P=60:40〜82:18が好ましく、より好ましくは、LiS:P=65:35〜82:18である。即ち、固体電解質に含まれるLi、P及びSを、LiSとPの比に換算した場合に、モル比がLiS:P=60:40〜82:18となる固体電解質が好ましく、より好ましくは、LiSとPのモル比がLiS:P=65:35〜82:18である固体電解質であり、例えば、LiS:P=68:32〜82:18、LiS:P=72:38〜78:22である。
【0021】
固体電解質の原料には、LiSとPの他、さらにハロゲン化物を添加してもよい。ハロゲン化物としてはLiI、LiBr、LiCl等が挙げられる。ハロゲン化物を添加した固体電解質として、具体的には、Li、P、S及びIを含む硫化物系固体電解質、Li、P、S及びBrを含む硫化物系固体電解質、Li、P、S及びClを含む硫化物系固体電解質が挙げられる。
【0022】
LiS及びPのモル量の合計に対するハロゲン化物のモル量の比は、好ましくは[LiS+P]:ハロゲン化物=50:50〜99:1であり、より好ましくは[LiS+P]:ハロゲン化物=60:40〜98:2であり、さらに好ましくは[LiS+P]:ハロゲン化物=70:30〜98:2であり、特に好ましくは[LiS+P]:ハロゲン化物=72:28〜98:2であり、例えば[LiS+P]:ハロゲン化物=72:28〜90:10、[LiS+P]:ハロゲン化物=75:25〜88:12である。
【0023】
固体電解質としては、具体的にはLiS−P,LiI−LiS−P,LiBr−LiS−P,LiCl−LiS−P,LiOH−LiS−P,LiOH−LiI−LiS−P,LiOH−LiBr−LiS−P,LiOH−LiCl−LiS−P,LiPO−LiS−SiS等の硫化物系固体電解質が挙げられる。
【0024】
溶媒としては、炭化水素系溶媒を含むことが好ましい。
炭化水素系溶媒は、炭素原子と水素原子からなる溶媒であり、当該炭化水素系溶媒として、例えば飽和炭化水素、不飽和炭化水素、芳香族炭化水素等が挙げられる。
【0025】
飽和炭化水素溶媒としては、ヘキサン、ペンタン、2−エチルヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、IPソルベント1016((株)出光興産製)、IPソルベント1620((株)出光興産製)等が挙げられる。飽和炭化水素溶媒は、上述の溶媒からなる群から選択される1以上を使用できる。
不飽和炭化水素しては、ヘキセン、ヘプテン、シクロヘキセン等が挙げられる。
【0026】
芳香族炭化水素としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、デカリン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン、また、イプゾール100((株)出光興産製)、イプゾール150((株)出光興産製)等が挙げられる。
【0027】
炭化水素系溶媒は、1種単独でも、2種以上を使用してもよい。
炭化水素系溶媒は、好ましくは芳香族炭化水素系溶媒であり、さらに好ましくは下記式(1)で表わされる芳香族炭化水素系溶媒である。
Ph−(R) (1)
(式中、Phは、芳香族炭化水素基であり、Rはアルキル基である。nは1〜5から選択される整数である(好ましくは1又は2の整数))
式(1)において、Phの芳香族炭化水素基としては、例えば炭素数6〜18のものが挙げられ、炭素数6〜12が好ましい。具体的には、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
式(1)において、Rのアルキル基としては、例えば炭素数1〜8のものが挙げられ、炭素数1〜5が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基等が挙げられる。
式(1)で表わされる芳香族炭化水素系溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、エチルベンゼンが挙げられ、好ましくはトルエンである。
【0028】
炭化水素系溶媒中の水分量は、50ppm(重量)以下であることが好ましい。水分は反応により硫化物系固体電解質の変性を引き起こし、固体電解質の性能を悪化させる。そのため、水分量は低いほど好ましく、炭化水素系溶媒中の水分量は、より好ましくは30ppm以下であり、さらに好ましくは20ppm以下である。
【0029】
[第2循環経路による循環工程]
上記の原料を反応槽20に投入し、循環する前に加熱すると好ましい。加熱は、通常、0〜200℃で2〜200時間、好ましくは40〜150℃で10〜150時間行う。
【0030】
その後、例えばバルブ42及び102を開放して第2循環経路Bを開放し、ポンプ104によって反応槽20の内容物を第2循環経路Bに循環させる。
循環時間は特に制限はないが、通常3時間以下であり、例えば5秒以上100分以下、1分以上10分以下である。
また、流速は、通常2L/min〜600L/minであり、例えば5L/min〜500L/minである。流速は、ポンプ104により調整することができる。
【0031】
本工程によって、反応槽20の下端や循環経路出発点のデッドスペース(例えば排出口22やバルブ42の周辺)に沈積した沈積物を他の原料と均一化することができ、後の循環工程での閉塞を回避することができる。また、原料ロスを抑制することにより、仕込み組成と最終組成のわずかなずれを防止できる。
【0032】
[第1循環経路による循環工程]
上記循環が完了後、バルブ102を閉じて第2循環経路Bを閉鎖する。また、バルブ44を開けて第1循環経路Aを開放し、ポンプ46によって原料混合物の循環を行う。
本工程では、粉砕機10において原料を粉砕しつつ反応させて固体電解質を合成し、反応槽20において原料を反応させて固体電解質を合成する。
【0033】
粉砕機での粉砕温度は、好ましくは20℃以上80℃以下、より好ましくは20℃以上60℃以下である。粉砕機での処理温度が20℃未満の場合、反応時間を短縮する効果が小さく、80℃を超えると、容器、ボールの材質であるジルコニア、強化アルミナ、アルミナの強度低下が著しく起こるため、容器、ボールの磨耗、劣化や電解質へのコンタミが生じるおそれがある。
【0034】
反応槽として、ヒーターの付いた容器等を用いることができる。
反応槽が保持する温度は、好ましくは40℃〜200℃、より好ましくは50℃〜150℃、さらに好ましくは60℃〜100℃である。温度を保持することにより、粉砕機の温度を安定に制御できる。40℃未満ではガラス化反応に時間がかかり生産効率が十分ではない。300℃を超えると、好ましくない結晶が析出する場合がある。好ましくは、反応槽内でも、原料が炭化水素系溶媒中で反応して固体電解質が合成される。
【0035】
反応は温度が高い領域が速いので高温にすることが好ましいが、粉砕機を80℃を超える温度にすると磨耗等の機械的な問題が発生するおそれがある。従って、反応槽は保持温度を高めに設定し、粉砕機は比較的低温にすることが好ましい。
【0036】
反応生成物を乾燥し、溶媒を除去することにより、硫化物ガラスである硫化物系固体電解質が得られる。
【0037】
結晶化させるとイオン伝導度が向上する場合には、結晶化させることが好ましい。例えば、LiS:P(モル比)が68:32〜72:28の原料から得られた固体電解質は、さらに、200℃以上400℃以下、より好ましくは250℃〜320℃で加熱処理することにより、イオン伝導性を向上できる。これは、上記の硫化物ガラスである硫化物系固体電解質が硫化物結晶化ガラス(ガラスセラミック)となるためである。
加熱処理の時間は、1時間〜5時間が好ましく、特に1.5時間〜3時間が好ましい。
尚、好ましい様態として、乾燥工程での加熱と結晶化工程の加熱を、別工程とするのではなく、1つの加熱工程とすることができる。
【0038】
第1循環経路Aによる循環(製造)工程は、具体的に以下のように行う:粉砕機10のヒーターに温水を入れ、粉砕機10内の温度を例えば20℃〜80℃に保ちながら、原料を溶媒中で粉砕しつつ反応させて固体電解質を合成する。加温オイルにより反応槽20内の温度を例えば60℃〜300℃に保つ。好ましくは、反応槽20内でも、原料が溶媒中で反応して固体電解質が合成される。このとき、撹拌翼をモータ(M)により回転させてスラリーを撹拌し、原料が沈殿しないようにする。粉砕機10で固体電解質を合成する間、ポンプ46により、スラリーは連結管30,40を通って、粉砕機10と反応槽20の間を循環する。
【0039】
粉砕機10がボールを含むとき、粉砕機10から反応槽20へのボールの混入を防ぐため、必要に応じて粉砕機10又は連結管30にボールと原料及び溶媒を分離するフィルタを設けてもよい。
【0040】
反応槽20の容量と粉砕機10の容量との比率は任意でよいが、反応槽20の容量は、粉砕機10の容量の1〜100倍程度である。
【0041】
また、第2の連結管40に熱交換器(熱交換手段)を設けてもよい。熱交換器は、反応槽20から送り出される高温の原料と溶剤を冷却して、粉砕機10に送り込む。例えば、反応槽20において、80℃を超える温度で反応を行った場合、原料等の温度を80℃以下に冷却して、粉砕機10に送り込む。
【0042】
本発明の製造方法により得られる固体電解質は、全固体リチウム二次電池の固体電解質層や、正極合材に混合する固体電解質等として使用できる。
例えば、正極と、負極と、正極及び負極の間に本発明の製造方法により得られた固体電解質からなる層を形成することで、全固体リチウム二次電池となる。
【実施例】
【0043】
実施例1
図4に示す固体電解質製造装置を用いた。
粉砕機10として、アシザワ・ファインテック社製ミル(20L)(ビーズミル:直径0.5mmのジルコニアボール)を用い、反応槽20として、撹拌機付のSUS製反応器(200L)を使用した。
自社にて製造したLiS(3.2kg:70mol%)と、アルドリッチ社製P(6.8kg:30mol%)に、広島和光株式会社製脱水トルエン135kg(水分量8ppm)を加えた混合物を反応槽20に充填した。
まず、反応槽20を130℃になるまで加温し、130℃加温後に50時間保持した。その後、反応槽20の温度が80℃になるまで冷却した。
【0044】
次に、反応槽20に結合している循環ライン、及びミル10を経由しないバイパスラインにより、ミルを経由しない循環経路Bを開放した。反応槽20の内容物をポンプ46により20L/minの流速で循環経路Bに循環させた。循環経路Bによる循環を5分間継続させた。
【0045】
その後、バイパスラインを閉鎖すると同時に、ミル10を経由するミルラインを開放して反応槽20とミル10を接続し、ミル10を経由する循環経路Aを設けた。上記内容物をポンプ46により循環経路Aに供給し、ミル10を経由する循環を開始した。ミルの周速は8m/sとし、ミル本体の液温が70℃に保持できるよう外部循環によりミル本体に温水を通水した。ミルの運転は、流量が変動することなく安定して継続可能であった。4時間ごとにスラリーを採取し、150℃にて乾燥し白色粉末を得た。
【0046】
ミル10を経由する循環の開始から12時間後に得られた粉末のイオン伝導度を測定した結果、1.0×10−4S/cmであった。さらに12時間後のサンプルのイオン伝導度を測定した結果、1.6×10−3S/cmであった。
【0047】
比較例1
図5に示す固体電解質製造装置を用いた。
反応槽20を130℃になるまで加温し、50時間保持し、80℃になるまで冷却する工程までは実施例1と同様に行った。
循環ライン及びミルを経由するミルラインを開放し、反応槽20とミル10を接続して、ミル10を経由する循環経路Aを設けた。反応槽20の内容物をポンプ46により循環経路Aに循環させ、ミル10を経由する循環を開始した。ミルへの供給は20L/minの流速で行い、ミルの周速は8m/sとした。
ところが、上記循環から1分後に流れが不安定となり、ミル側の圧力表示が振れ始めた。また、上記循環から5分後には流体が流れなくなり、運転を停止した。開放点検を行ったところ、反応槽20とミル10を接続するライン40、及びミル10の入口に閉塞物が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の固体電解質製造装置を用いて製造された固体電解質は、リチウム二次電池に利用できる。
【符号の説明】
【0049】
1,2,3,4,5 固体電解質製造装置
A 第1循環経路
B 第2循環経路
10 粉砕機(粉砕合成手段)
20 反応槽(合成手段)
22 排出口
30 第1連結管
40 第2連結管
42,44,102 バルブ
46、104 ポンプ(循環手段)
50 分岐
100 循環経路
図1
図2
図3
図4
図5