【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「ニューロテイラーメイド」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
中川慧 ほか,微弱な末梢神経刺激が大脳皮質抑制系へ及ぼす影響の解明 異なる神経からの先行刺激を用いた検討,第50回日本理学療法学術大会[オンライン],公益社団法人 日本理学療法士協会,2015年 6月 7日,[検索日 2016.08.02], 運動制御・運動学習1 P2-A-0468, インターネット:<URL:http://www.japanpt.or.jp/c,URL,http://www.japanpt.or.jp/conference/jpta50/abstracts/pdf/0468_P2-A-0468.pdf
【文献】
中川慧 ほか,微弱な末梢電気刺激が大脳皮質抑制機構に与える影響,第49回日本理学療法学術大会[オンライン],公益社団法人 日本理学療法士協会,2014年,[検索日 2016.08.02], 運動制御・運動学習5[0238], インターネット:<ULR:https://confit.atlas.jp/guide/,URL,https://confit.atlas.jp/guide/event/jpta49/subject/0238/tables?cryptoId=
【文献】
Kei Nakagawa et al.,Inhibition of somatosensory-evoked cortical responses by a weak leading stimulus,NeuroImage,2014年,Volume 101,p.416-424,ISSN 1053-8119
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記抑制性回路は、GABA−A作動性抑制性介在ニューロン及びGABA−B作動性抑制性介在ニューロンのいずれか又は双方である、請求項1又は2に記載のシステム。
前記第1の脳活動情報は、触覚、温度感覚、痛覚、深部感覚である体性感覚、視覚、聴覚、味覚及び嗅覚からなる群から選択される1種又は2種以上に関する応答回路に関する情報である、請求項1〜6のいずれかに記載のシステム。
第2の起因の付与は、20ミリ秒以上30ミリ秒以下及び40ミリ秒以上60ミリ秒以下のいずれか又は双方の範囲で、前記第1の起因の付与に先立って実施する、請求項1〜9のいずれかに記載のシステム。
前記脳活動の応答は、前記抑制性回路の入力による脳活動の変化であり、脳活動が生じる時間(潜時)が変化及び脳活動の生じる部位の変化からなる群から選択される1種又は2種である、請求項1〜11のいずれかに記載のシステム。
前記製品は、被験体の視覚に関する前記抑制性回路の作用に適合し、改善し、緩和し、又は増強する感覚的作用を有する製品である、請求項25又は26に記載のシステム。
【発明の概要】
【0007】
しかしながら、従来のいずれの方法も、刺激によって誘発される脳活動を指標として直接的に抑制性回路を評価するものではなかったし、種々の問題があった。すなわち、脳スライス標本を用いた動物実験においては、一つあるいは多くても数個の神経細胞の活動を同時に記録できるにすぎず、多数の複雑な神経ネットワークから成る特定の神経回路全体の中で抑制性介在細胞が果たす役割を評価することはできなかった。また、スライス標本であるのだから、感覚入力等の自然刺激を入力することは不可能で、その回路が生体で果たす機能を直接評価することはできなかった。一方、生体において抑制性介在細胞の挙動を観察する方法はヒトでは皆無であるし、ヒト以外の動物であっても適用するのが極めて困難であった。
【0008】
また、非特許文献1の筋肉の活動を指標とする間接的な評価方法では、末梢、脊髄、大脳のいずれの部位でも抑制が生じ得るため、検出した抑制が脳の抑制性回路における抑制か否かを特定できなかった。また、この方法には、磁気刺激の有害事象のためにてんかんを含む一部の疾患の個体に使えないほか、磁気刺激の空間分解能の限界からラットなどの実験小動物には使えないという問題もあった。
【0009】
以上のことから、現状において、より広くそして簡易に生体に適用できる実用的な抑制性回路の評価方法が望まれている。すなわち、生体に適用して脳活動を指標として抑制性回路を直接的に評価できる方法の確立が望まれる。また、様々な興奮性回路に入力する抑制性回路を評価できる方法の確立も望まれる。更に、そのようにして評価した抑制性回路の評価結果を産業的に活用する方法の確立も望まれる。
【0010】
本明細書は、かかる現状に鑑みて、生体に適用可能であってより実用的な抑制性回路の評価及びその利用を提供する。
【0011】
本発明者らは、生体に刺激などを付与して脳活動が活性化される興奮性回路に対して抑制性回路を入力できることを見出した。そして、その抑制性回路による脳活動の減弱程度を、脳波や脳磁図等で検出できるという知見を得た。すなわち、本発明者らは、生体において、抑制性回路の機能を、直接脳活動を指標として評価できるという知見を得るに至った。本明細書によれば、以下の手段が提供される。
【0012】
(1)脳の抑制性回路の検出システムであって、
脳活動を検出する検出装置と、
生体に対する刺激又は課題である第1の起因と、前記第1の起因の入力によって生じる第1の脳活動を変化させる可能性のある第2の起因と、を付与する起因出力装置と、
前記第1の脳活動に関する第1の脳活動情報を取得する手段と、
前記第2の起因の付与を伴う前記第1の起因の付与によって生じる第2の脳活動に関する第2の脳活動情報を取得する手段と、
前記第1の脳活動情報及び前記第2の脳活動情報に基づいて前記第2の起因の付与によって生じる第1の脳活動における応答を検出する手段と、
を備える、前記脳活動の応答に基づいて脳の抑制性回路を検出するシステム。
(2)さらに、前記抑制性回路に関する情報の出力処理を実行する手段、を備える、(1)に記載のシステム。
(3)前記第1の脳活動情報は、起因の変化に対する応答回路に関する情報である、(1)又は(2)に記載のシステム。
(4)前記第1の脳活動情報は、触覚、温度感覚、痛覚、深部感覚である体性感覚、視覚、聴覚、味覚及び嗅覚からなる群から選択される1種又は2種以上に関する応答回路に関する情報である、(1)〜(3)のいずれかに記載のシステム。
(5)前記第1の脳活動情報は、興奮性回路に関する情報である、(1)〜(4)のいずれかに記載のシステム。
(6)前記第1の脳活動情報は、聴覚に関する応答回路に関する情報である、(1)〜(5)のいずれかに記載のシステム。
(7)前記第1の脳活動情報は、音圧変化に対する応答回路に関する情報である、(6)に記載のシステム。
(8)前記抑制性回路は、GABA−A介在抑制性回路及びGABA−B介在抑制性回路の双方又は一方である、(1)〜(7)のいずれかに記載のシステム。
(9)前記第2の起因の付与は、1ミリ秒以上5000ミリ秒以下の範囲で前記第1の起因の付与に先だって実施する、(1)〜(8)のいずれかに記載のシステム。
(10)前記第2の起因の付与は、5ミリ秒以上60ミリ秒以下及び500ミリ秒以上700ミリ秒以下のいずれか又は双方の範囲で前記第1の起因の付与に先立って実施する(1)〜(9)のいずれかに記載のシステム。
(11)さらに、前記第1の脳活動情報と前記第2の脳活動情報とに基づいて、前記抑制性回路の作用を評価する手段を備える、(1)〜(10)のいずれかに記載のシステム。
(12)前記検出装置は、前記脳活動を脳活動に基づく電気的活動によって検出する、(1)〜(11)のいずれかに記載のシステム。
(13)前記検出装置は、前記脳活動を脳電図又は脳磁図を用いて検出する、(1)〜(12)のいずれかに記載のシステム。
(14)前記第2の起因は、前記第1の起因よりも低強度の起因である、(1)〜(13)のいずれかに記載のシステム。
(15)前記脳活動の応答は、前記脳活動の減弱である、(1)〜(14)のいずれかに記載のシステム。
(16)脳の抑制性回路の検出システムの作動方法であって、
前記検出システムは、脳活動を検出する検出装置と、生体に対して、前記生体に対する刺激又は課題である第1の起因と前記第1の起因の付与によって生じる第1の脳活動を変化させる可能性のある第2の起因とを付与する起因出力装置と、を備え、
前記第1の脳活動に関する第1の脳活動情報を取得する工程と、
前記第2の起因の付与を伴う前記第1の起因の付与によって生じる第2の脳活動に関する第2の脳活動情報を取得する工程と、
前記第1の脳活動情報及び前記第2の脳活動情報に基づいて前記第2の起因の付与によって生じる前記第1の脳活動における応答を検出する工程と、
を備える、前記脳活動の応答に基づいて脳の抑制性回路を検出するシステムの作動方法。
(17)脳の抑制性回路の分析方法であって、
生体に対する刺激又は課題である第1の起因を、前記第1の起因の付与によって生じる第1の脳活動を変化させる可能性のある第2の起因を伴って被験体に付与する工程と、
前記第2の起因の付与を伴う前記第1の起因の付与によって生じる第2の脳活動に関する第2の脳活動情報を取得する工程と、
前記第1の脳活動に関する第1の脳活動情報と前記第2の脳活動情報とに基づいて、前記第2の起因の付与によって生じる第1の脳活動における応答を取得する工程と、
を備える、分析方法。
(18)抑制性回路に関する疾患の検査方法であって、
生体に対する刺激又は課題である第1の起因を、前記第1の起因の付与によって生じる第1の脳活動を変化させる可能性のある第2の起因を伴って被験体に付与する工程、を備え、
前記第2の起因の付与によって生じる第1の脳活動における応答に基づいて前記抑制性回路を評価する、方法。
(19)抑制性回路に関する疾患に用いる薬剤の評価方法であって、
前記薬剤が投与されていない被験体に、生体に対する刺激又は課題である第1の起因を、前記第1の起因の付与によって生じる第1の脳活動を変化させる可能性のある第2の起因を伴って付与する工程と、
前記薬剤を投与した前記被験体に、生体に対する刺激又は課題である第1の起因を、前記第1の起因の付与によって生じる第1の脳活動を変化させる可能性のある第2の起因を伴って付与する工程と、
を備え、
前記薬剤が投与されていない前記被験体及び前記薬剤が投与された前記被験体のそれぞれにおける、前記第2の起因の付与によって生じる第1の脳活動における応答に基づいて、前記薬剤の有効性を評価する、方法。
(20)抑制性回路に関する疾患に用いる薬剤のスクリーニング方法であって、
前記薬剤が投与されていない被験体に、生体に対する刺激又は課題である第1の起因を、前記第1の起因の付与によって生じる第1の脳活動を変化させる可能性のある第2の起因を伴って付与する工程と、
前記薬剤を投与した前記被験体に、生体に対する刺激又は課題である第1の起因を、前記第1の起因の付与によって生じる第1の脳活動を変化させる可能性のある第2の起因を伴って付与する工程と、
を備え、
前記薬剤が投与されていない前記被験体及び前記薬剤が投与された前記被験体のそれぞれにおける、前記第2の起因の付与によって生じる第1の脳活動における応答に基づいて、前記薬剤をスクリーニングする、方法。
(21)抑制性回路に関する疾患に適用する薬剤候補の選定システムであって、
脳活動を検出する検出装置と、
生体に対する刺激又は課題である第1の起因と、前記第1の起因の付与によって生じる第1の脳活動を変化させる可能性のある第2の起因を付与する起因出力装置と、
前記第1の脳活動に関する第1の脳活動情報を取得する手段と、
前記第2の起因の付与を伴う前記第1の起因の付与によって生じる第2の脳活動に関する第2の脳活動情報を取得する手段と、
前記第1の脳活動情報及び前記第2の脳活動情報に基づいて、前記第2の起因の付与によって生じる第1の脳活動における応答を取得する手段と、
前記脳活動の応答に基づいて被験体の抑制性回路特性を取得する手段と、
を備える、前記抑制性回路特性に基づいて被検体に適用する薬剤候補を選定するシステム。
(22)抑制性回路に関する疾患に用いる薬剤候補の選定方法であって、
生体に対する刺激又は課題である第1の起因を、前記第1の起因の付与によって生じる第1の脳活動を変化させる可能性のある第2の起因を伴って被験体に付与して得られる第2の脳活動に関する第2の脳活動情報を取得する工程と、
前記第1の脳活動に関する第1の脳活動情報及び前記第2の脳活動情報に基づいて、前記第2の起因の付与によって生じる第1の脳活動における応答を取得する工程と、
前記脳活動の応答に基づいて被験体の抑制性回路特性を取得する工程と、
を備える、前記抑制性回路特性に基づいて被検体に適用する薬剤候補の選定方法。
(23)抑制性回路の特性を利用する製品の製造方法であって、
生体に対する刺激又は課題である第1の起因を、前記第1の起因の付与によって生じる第1の脳活動を変化させる可能性のある第2の起因を伴って被験体に付与して得られる第2の脳活動に関する第2の脳活動情報を取得する工程と、
前記第1の脳活動に関する第1の脳活動情報及び前記第2の脳活動情報に基づいて、前記第2の起因の付与によって生じる第1の脳活動における応答を取得する工程と、
前記脳活動の応答に基づいて被験体の抑制性回路特性を取得する工程と、
を備え、
前記抑制性回路特性に基づいて、前記抑制性回路特性に適合し、改善し、緩和し、又は増強可能な機能を有する製品を製造する、方法。
(24)前記製品は、ヒトの感覚的作用に関連する製品である、(23)に記載の製造方法。
(25)前記製品は、被験体の視覚に関する前記抑制性回路特性に適合し、改善し、緩和し、又は増強する感覚的作用を有する製品である、(23)又は(24)に記載の製造方法。
(26)抑制性回路の特性を利用する製品の製造システムであって、
脳活動を検出する検出装置と、
生体に対する刺激又は課題である第1の起因と、前記第1の起因の付与によって生じる第1の脳活動を変化させる可能性のある第2の起因を付与する起因出力装置と、
前記第1の脳活動に関する第1の脳活動情報を取得する手段と、
前記第2の起因の付与を伴う前記第1の起因の付与によって生じる第2の脳活動に関する第2の脳活動情報を取得する手段と、
前記第1の脳活動情報及び前記第2の脳活動情報に基づいて、前記第2の起因の付与によって生じる第1の脳活動における応答を取得する手段と、
前記脳活動の応答に基づいて被験体の抑制性回路特性を取得する手段と、
を備え、前記抑制性回路特性に基づいて、前記抑制性回路特性に適合し、改善し、緩和し、又は増強可能な機能を有する製品を製造する、システム。
(27)抑制性回路の特性を利用する眼鏡レンズの製造方法であって、
生体に対する刺激又は課題である第1の起因を、前記第1の起因の付与によって生じる第1の脳活動を変化させる可能性のある第2の起因を伴って被験体に付与して得られる第2の脳活動に関する第2の脳活動情報を取得する工程と、
前記第1の脳活動に関する第1の脳活動情報及び前記第2の脳活動情報に基づいて、前記第2の起因の付与によって生じる第1の脳活動における応答を取得する工程と、
前記脳活動の応答に基づいて被験体の抑制性回路特性を取得する工程と、
を備え、
前記抑制性回路特性に基づいて、前記抑制性回路特性に適合し、改善し、緩和し、又は増強可能な機能を有する製品を製造する、方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書の開示は、抑制性回路の評価方法及びその利用に関する。
刺激によって活性化される興奮性回路によって生じる脳活動が、先行する微弱な刺激によって減弱する現象は本発明者らにより報告されていた。しかしながら、かかる減弱が、どのようなメカニズムで生じるかについては解明されておらず、またそれに関する報告は一切ない。そのため、興奮性回路によって生じる脳活動が先行する微弱な刺激により減弱する現象は、そのメカニズムが解明できていなかったことにより計測結果をどのように活用すればよいかが確立されておらず、産業的活用は困難な状況であった。
【0015】
このような興奮性回路の減弱のメカニズムは、概して、神経細胞の不応期、神経末端の疲労、神経伝達物質の準備や放出の不足のほか、興奮性シナプスに生じた応答減弱などのように抑制性回路の介在なく生じるメカニズムと、抑制性回路の介在により生じるメカニズムとが想定される。
【0016】
本発明者らは、こうした先行刺激による脳活動の減弱現象が、抑制性細胞の介在、すなわち、抑制性回路の入力によって生じることを初めて見出した。また更に、本発明者らはこうした先行刺激は脳活動を減弱させるだけでなく、抑制性回路の入力により脳活動を変化させることを初めて見出した。
【0017】
本開示は、上記のとおり、生体に対して刺激等を付与して活性化される興奮性回路によって生じる脳活動が刺激に先行する微弱な刺激によって減弱されるという現象が、抑制性介在細胞(抑制性回路)の介在によって生じることを初めて見出したことに基づいている。すなわち、脳において、興奮性回路が抑制性回路の関与によって応答減弱する現象を初めて確認したことに基づいている。また更に、こうした先行刺激による脳活動が抑制性介在細胞(抑制性回路)の介在により変化することを初めて見出したことに基づいている。本開示は、これらの現象を利用して、興奮性回路に対する抑制性回路の作用を評価する方法及びその利用を提供する。
【0018】
既述したように、脳のスライス標本で得られる早期抑制に相当する抑制性シナプス後電位(IPSP)は、ヒトを含めた哺乳動物の種類を問わず(McCormic、Journal of Neurophysiology, 1989, 62:1018-1027, 特に第1025頁右欄)、また、脳部位を問わず(Conners et al., Journal of Physiology(1988),406,pp443-468、特に第462頁)、ほぼ同一のものが観察されることが既にわかっている。後期抑制の最大の候補であるマルチノッティ細胞による抑制についても、全感覚野を含む新皮質に共通の仕組みであることが示されている(Packer and Yuste、J. Neurosci. 31(37); 13260-13271, 2011、特に第12〜13頁)。
【0019】
以上のことから、本開示で得られる興奮性回路に対する抑制性回路の入力による脳活動の減弱などを含む変化は、その個体の基本的な興奮抑制能力を反映するものと考えられる。
【0020】
なお、本明細書において「生体」又は「被験体」とは、神経回路として、興奮性神経回路と抑制性神経回路とを備える動物をいう。典型的には、ヒトを含む哺乳動物である。好適にはヒトである。また、抑制性回路の評価方法、薬剤の評価方法、薬剤のスクリーニング方法においては、ヒトのほか、サル、イヌ、ネコ、マウス、ラットなどの各種実験動物や疾患モデル動物も好適に適用される。
【0021】
本明細書において「抑制性回路」とは、抑制性神経回路を意味している。「抑制性回路」は、後述する「興奮性回路」とともに、神経回路を構成する。抑制性回路は、抑制性介在ニューロン(抑制性神経細胞又は抑制性シナプス前細胞)及び介在細胞と同様の抑制機能を有するグリア細胞を含み、抑制シナプス及びシナプス後細胞を含むことができる。抑制性介在ニューロンは、概してGABA作動性であり、GABA−A受容体を細胞表面に有する錐体ニューロンに接続するGABA−A作動性抑制性介在ニューロンと、GABA−B受容体を細胞表面に有する錐体ニューロンを標的にするGABA−B作動性抑制性介在ニューロンとがある。抑制性回路は、概して大脳皮質を含む中枢神経系に分布している。
【0022】
本明細書において「興奮性回路」とは、興奮性神経回路を意味している。興奮性回路は、興奮性錐体ニューロン(興奮性神経細胞又は興奮性シナプス前細胞)を含み、興奮シナプス及びシナプス後細胞を含むことができる。興奮性回路は、抑制性回路と同様、概して大脳皮質を含む中枢神経系に分布している。
【0023】
本明細書において「刺激又は課題」とは、対象となる生体が応答、反応等可能なすべての刺激又は課題をいう。刺激としては、生体が有しうる全感覚における刺激を対象とすることができる。例えば、触覚、温度感覚、痛覚、深部感覚である体性感覚、視覚、聴覚、味覚及び嗅覚等が挙げられる。また、課題としては、言語、思考、記憶、感情、認識、学習、意欲、運動等に関するものが挙げられ、例えば、簡単なものでは、あらかじめ指定された入力に対して素早く応答する記憶・運動課題や、暗算課題等が挙げられる。
【0024】
以下、本開示の代表的かつ非限定的な具体例について、適宜図面を参照して詳細に説明する。この詳細な説明は、本発明の好ましい例を実施するための詳細を当業者に示すことを単純に意図しており、本開示の範囲を限定することを意図したものではない。また、以下に開示される追加的な特徴ならびに発明は、さらに改善された抑制性回路の検出又は評価するための技術を提供するために、他の特徴や発明とは別に、又は共に用いることができる。
【0025】
また、以下の詳細な説明で開示される特徴や工程の組み合わせは、最も広い意味において本開示を実施する際に必須のものではなく、特に本開示の代表的な具体例を説明するためにのみ記載されるものである。さらに、上記及び下記の代表的な具体例の様々な特徴、ならびに、独立及び従属クレームに記載されるものの様々な特徴は、本開示の追加的かつ有用な実施形態を提供するにあたって、ここに記載される具体例のとおりに、あるいは列挙された順番のとおりに組合せなければならないものではない。
【0026】
本明細書及び/又はクレームに記載された全ての特徴は、実施例及び/又はクレームに記載された特徴の構成とは別に、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、個別に、かつ互いに独立して開示されることを意図するものである。さらに、全ての数値範囲及びグループ又は集団に関する記載は、出願当初の開示ならびにクレームされた特定事項に対する限定として、それらの中間の構成を開示する意図を持ってなされている。
【0027】
以下、本明細書の開示について詳細に説明する。
(抑制性回路の評価又は分析方法)
本開示の抑制性回路の評価方法は、刺激又は課題である第1の起因によって活性化される興奮性回路に対して、前記第1の起因よりも先行して第2の起因を付与することで抑制性回路を入力する工程、を備えることができる。換言すると、本評価方法は、生体に対する刺激又は課題である第1の起因を、前記第1の起因の付与によって生じる第1の脳活動を変化させる可能性のある第2の起因を伴って被験体に付与する工程を備えることができる。本評価方法は、いわゆるプレパルス・インヒビションという現象を直接的に脳活動の観点から把握することに基づくものである。
【0028】
(興奮性回路)
本工程が適用される興奮性回路は、特に限定しない。興奮性回路は、本評価方法の目的に応じて適宜選択されるが、刺激又は課題である第1の起因で活性化されるほか、第2の起因の付与によって抑制性回路が入力されるものであればよい。こうした興奮性回路は、必要に応じて、スクリーニングすることができる。例えば、種々の起因に関し、第1の起因及び第2の起因の付与条件を設定して、第2の起因を伴うときの脳活動の変化等の応答を観察することで、本評価方法に適した興奮性回路を取得することができる。
【0029】
興奮性回路は、上記のとおり各種の刺激や課題である第1の起因により活性化されるものであるが、第1の起因として、感覚についての刺激に関連する興奮性回路を用いることができる。興奮性回路としては、概して、聴覚に関する応答回路が挙げられうる。
【0030】
また、興奮性回路としては、起因(特には、刺激)の変化に対する応答回路を用いることができる。起因の変化に対する応答回路としては、変化関連脳活動と称される回路を用いることができる(Inui et al., BMC Neuroscience 2010,11:80)。変化関連脳活動は、一定の刺激等を付与しつつ、その刺激を変化させることによって生じる脳活動をいう。刺激の変化の内容は、刺激の種類にもよるが特に限定されない。例えば、刺激が聴覚に関するものであれば、音の高さ(周波数)であってもよいし、大きさ(音圧)であってもよい。変化関連脳活動は刺激の物理量の影響が比較的少なく、例えば音圧を例にすれば音圧増加であっても音圧減少であっても同様の活動として記録される。そのため、抑制性回路を評価するための興奮性回路として変化関連脳活動を用いることが好ましい。
【0031】
刺激又は課題である第1の起因は、既に説明したように、触覚、温度感覚、痛覚、深部感覚である体性感覚、視覚、聴覚、味覚及び嗅覚等の各種刺激及びは記憶・運動課題や、暗算課題等の各種課題から選択される1種又は2種以上とすることができる。
【0032】
第1の起因は、有効に興奮性回路を活性化して脳活動(第1の脳活動)を生じせしめるものであればよい。概して、第1の起因は、後述する第2の起因によって脳活動の変化現象などの応答現象が見出されるように適宜設定される。例えば、脳活動の減弱現象が見出されるように適宜設定されうる。第1の起因が刺激の場合には、刺激の内容、当該刺激の強度やその変化の態様(例えば、聴覚刺激を第1の起因として採用するとき、その音量(音圧)や音高(周波数)など)が適宜選択される。
【0033】
例えば、音圧変化に対する応答回路は、極めて安定的であって、本評価方法に用いる興奮性回路として好適である。例えば、前述のInuiらによる変化関連脳活動としての音圧変化に対する応答回路は、一定の音圧(例えば、70dB程度)を、背景音として連続して付与して(例えば、1ミリ秒の長さで適当間隔で連続して)、突然、わずかな音圧増加(例えば、10dB程度)を発生させることにより、顕著な脳応答が生じる。この音圧増加が、本評価方法における第1の起因に相当する。
【0034】
(抑制性回路)
本評価方法では、興奮性回路に対して、前記第1の起因よりも先行して第2の起因を付与することで抑制性回路が入力される。第2の起因は、第1の起因によって生じる興奮性回路に対して抑制性回路を入力して変化させる可能性があるものであればよい。第2の起因は、第1の起因との関係において、同種の刺激又は課題であってもよいし、同種ではないが関連する刺激又は課題であってもよい。
【0035】
第1の起因と同種又は関連する第2の起因とは、刺激又は課題である第1の起因と「同種」の刺激又は課題、又は第1の起因と「関連」する刺激又は課題である。第1の起因と「同種」の起因とは、第1の起因である刺激又は課題の種類と同一でありかつ同一内容の刺激又は課題をいう。刺激又は課題の種類の同一性は、既に説明した刺激の一般的な分類(触覚、温度感覚、痛覚、深部感覚である体性感覚、視覚、聴覚、味覚及び嗅覚)及び課題の分類(記憶・運動課題や、暗算課題)に基づくことができる。また、刺激又は課題の内容の同一性は、同一の刺激又は課題の性質(特性)に基づくことができる。なお、性質が同一であれば、その程度(強度)は同一であっても異なっていてもよい。例えば、第1の起因が、ある音圧の聴覚刺激の場合に、第1の起因と同種の第2の起因は、音圧に関する聴覚刺激である。また、第1の起因と同種の第2の起因は、第1の起因と同種であっても変化を伴うことが好ましい。例えば、第1の起因がある音圧の変化の聴覚刺激である場合には、第2の起因はその音圧の変化とは異なる音圧の変化の聴覚刺激であることが好ましい。
【0036】
第1の起因と「関連」する起因とは、第1の起因に変化を与える可能性のある起因であって、第1の起因である刺激又は課題と異なる種類の刺激又は異なる内容の課題をいう。例えば、第1の起因がコントラストの変化を与える視覚刺激である場合に、第1の起因と関連する第2の起因は、輝度の変化を与える視覚刺激である。また、例えば、第1の起因が画像や映像などによる視覚刺激である場合、第1の起因と関連する第2の起因は、音楽や音による聴覚刺激である。なお、この場合においては、第1の起因は、快情動に関する脳活動を惹起し、第2の起因は、弱い不快情動を惹起するものであるなどであっても、快情動を惹起する課題によって活性化される興奮性回路に対する抑制性回路を評価することができる。
【0037】
第2の起因の刺激又は課題の強度は、第1の起因の刺激又は課題の強度との関係において特に限定されない。すなわち、第2の起因の強度は、第1の起因と同等であっても、第1の起因よりも高強度であっても、低強度であってもよい。第2の起因の強度が第1の起因の強度よりも低強度であることが、興奮性回路内のみの機序で生じる応答減弱の可能性を除外できる観点から好適である。なお、第2の起因の強度は、それ自体ではほとんど脳活動を惹起しないものであってもよい。第2の起因の強度は、適宜、有効な脳活動の変化(減弱現象など)が見出されるように設定される。
【0038】
第2の起因は、例えば、上記したInuiらの音圧変化に対する応答回路においては、顕著な脳応答を生じさせる音圧増加(10dB程度の)を第1の起因とすると、この第1の起因に先んじて付与される5dB程度の音圧増加を第2の起因とすることができる。
【0039】
第2の起因は、第1の起因に先立って付与される。第1の起因にどの程度先立って付与されるかは、興奮性回路の種類等に応じて適宜設定される。第2の起因を付与するタイミングによって、評価対象となる、興奮性回路に入力される抑制性回路を選択することもできる。例えば、第1の起因に対して短時間先行して第2の起因を付与することで、GABA−A介在抑制性回路を入力することができ、より長時間先行して第2の起因を付与することで、GABA−B介在抑制性回路を入力することができる。
【0040】
第2の起因の付与、すなわち、抑制性回路の入力は、特に限定しないが、第1の起因によって活性化される興奮性回路に対して作用する可能性のある範囲で実施されればよい。例えば、第1の起因の付与に先立って5000ミリ秒以下の範囲において付与されうる。また、例えば、1000ミリ秒以下の範囲において付与されうる。これは、第1の起因によって付与される脳活動の計測における刺激間間隔(inter stimulus interval)は、5000ミリ秒を超えると第1の起因によって付与される脳活動に影響を与えにくいこと、及び様々な測定誤差の要因が増大する傾向があるからである。こうした時間範囲内で第1の起因に先立って第2の起因を付与することで、脳活動の有効な減弱などの応答現象が観察される。なお、第2の起因の付与は、第1の起因の付与に先立って、概して、好ましくは1ミリ秒以上、より好ましくは5ミリ秒以上程度の範囲でなされうる。
【0041】
特に、例えば、第1の起因に先立って、1ミリ秒以上100ミリ秒以下の範囲で第2の起因を付与することができる。こうしたタイミングで第2の起因を付与することで、バスケット細胞などによるGABA−A介在抑制性回路などの比較的早期の抑制性回路を入力することができる。より好ましくは10ミリ秒以上80ミリ秒以下の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは20ミリ秒以上60ミリ秒以下の範囲であり、なお好ましくは30ミリ秒以上60ミリ秒以下である。このような好適なタイミングの相違は、GABA受容器の種類や介在ニューロンの種類によって抑制ダイナミクスが顕著に異なることを反映している。バスケット細胞によるGABA−A受容器を介した抑制は、最も素早く生じることが知られている。
【0042】
早期成分は、さらに、20ミリ秒以上30ミリ秒以下での抑制と、40ミリ秒以上60ミリ秒以下での抑制との2つに分類できるとも考えられる。通常スライス標本で観察される2番目の抑制はGABA−B受容器を介したものであり、GABA−AとGABA−B受容器の連続した早期抑制に相当すると考えられる。この抑制のタイミングは、抑制のピークを示すものであり、ピークよりも早いタイミングであっても記録することが可能である。脳活動の記録は1000Hzで記録した場合、1ミリ秒単位でデータを得ることができ、4000Hzで記録した場合、0.25ミリ秒単位でデータを得ることができる。刺激の提示も同様で、1000Hz以上の分解能を持つ刺激提示装置を用いれば1ミリ秒の単位で第2の起因を付与するタイミングを制御することができる。ここで、第2の起因を先行して付与するタイミングは、刺激提示の正確性も考慮すると5ミリ秒以上であることが好ましい。以上より、早期成分の記録は、5ミリ秒以上60ミリ秒以下の範囲で第2の起因を第1の起因に先行させることが好ましい。
【0043】
また、例えば、第1の起因に先だって、500ミリ秒以上1000ミリ秒以下の範囲で第2の起因を付与することができる。こうしたタイミングで第2の起因を付与することにより、マルチノッティ細胞などによる比較的後期の抑制性回路を入力することができる。より好ましくは500ミリ秒以上750ミリ秒以下であり、さらに好ましくは500ミリ秒以上700ミリ秒以下である。
【0044】
なお、対象とする興奮性回路に入力する抑制性回路は、上記したように、第1の起因に先立って5000ミリ秒以下、より好ましくは1000ミリ秒以下の範囲の種々のタイミングで第2の起因を付与して、脳波などの脳活動を取得することで、第2の起因の付与の好適なタイミングを特定できるとともに、異なる作用機序の抑制性回路の入力が可能となる。
【0045】
第2の起因は、1回のみ付与してもよいし2回以上付与してもよい。2種類以上の抑制性回路を評価可能に、異なる時間帯で順次に複数回付与してもよい。また、ある種の抑制性回路を入力すること等を意図して、単一の時間帯において、連続的に第2の起因を2回以上付与してもよい。2回以上付与する場合には、付与する第2の起因相互の間隔や第2の起因の付与回数も、脳活動の有効な応答現象が観察されるように適宜設定することができる。
【0046】
なお、第2の起因の付与条件については、第1の起因に先行して1000ミリ秒以下又は800ミリ秒以下の範囲内で、種々の態様(すなわち、強度、所要時間、頻度、回数、時間帯など)で第2の起因を付与することで、脳活動の応答現象を観察するのに効果的な条件を適宜選択することができる。また、GABA−A受容体やGABA−B受容体に対する結合剤などを用いることで、観察した脳活動の応答現象が、どのような作動性ものであるかを同定しておくことで、作動性の明確な抑制性回路を標的として評価することも可能である。
【0047】
以上のようにして、第1の起因によって活性化される興奮性回路に対して、第1の起因よりも先行して第2の起因を付与することで抑制性回路を入力することができる。第1の起因によって活性化される興奮性回路によって生じる第1の脳活動は、第2の起因の付与によって抑制性回路が入力されることで、第1の脳活動とは変化などした第2の脳活動を生じる。すなわち、第2の起因の付与によって第1の脳活動における応答が生じる。
【0048】
本評価方法では、興奮性回路の活性化によって生じる脳活動が、抑制性回路の入力によって変化するなど応答することに基づいて興奮性回路に対する抑制性回路の作用を評価することができる。ここで、脳活動の「応答」とは、脳活動の大きさ(振幅)についての応答であり、当該大きさの増強、減弱の有無やその程度、変化しないことなど等が挙げられる。また、脳活動の「応答」とは、脳活動が生じる時間(潜時)についての応答であり、当該活動が生じる時間の短縮、延長の有無やその程度、変化しないこと等が挙げられる。また、脳活動の「変化」とは、脳活動の大きさ(振幅)についての変化であり、例えば、当該大きさの増強や減弱のほか、脳活動が生じる時間(潜時)が短縮、延長すること等が挙げられる。また、脳活動の生じる部位の変化(移動)等が挙げられる。また、観察する脳活動の変化は、一定の周期で与えられる第1の起因により生じる周期性活動において生じる変化であってもよい。
【0049】
本明細書では第1の起因の付与によって活性化された興奮性回路によって生じる第1の脳活動が抑制性回路の入力によって、減弱等の応答を伴った第2の脳活動を生じることに基づいている。したがって、例えば、第2の起因を伴うことによる脳活動の応答、すなわち、第2の脳活動が第1の脳活動に対して減弱するなどの応答を観察することができる。脳活動の減弱は、脳活動の大きさ(振幅)が低下する現象として計測することが可能である。また、脳活動の生じる時間(潜時)が遅延する現象として計測することが可能である。このように、本明細書における抑制性回路の入力は脳活動の大きさの変化等、又は、脳活動の生じる時間の変化等として検出することができる。また、本明細書における脳活動の「減弱」には脳活動の大きさの低下だけでなく、脳活動が生じる時間の遅延も含まれる。
【0050】
脳活動は、従来公知の手段によって適宜検出することができる。概して、脳活動は、その活動に基づく電気的活動、もしくは脳血流の変化等によって検出することができる。電気的活動は、典型的には脳電図又は脳磁図を用いて検出することができる。脳血流の変化は、酸素化ヘモグロビン、脱酸素化ヘモグロビン等の変化等を計測し、fMRI(functional Magnetic Resonance Imaging)やfNIRS(functional Near−Infrared Spectroscopy)を用いることができる。また、必要に応じて、CTやNMR等の画像化装置を用いることもできる。ここで、fNIRSやfMRIで抑制性回路の評価を行う場合、どのタイミングでどのタイプの抑制が発生するかという電気生理学的検討を脳波や脳磁図等を用いて予め行い、適切な第1の起因及び第2の起因を設定しておくことが好ましい。
【0051】
本評価方法では、脳活動は、定常状態の脳反応(Steady−state response)を用いて検出することもできる。定常状態の脳反応は、通常4Hz以上で刺激を連続提示する場合に観察され、視覚、聴覚、体性感覚等、感覚器官に寄らずに計測可能である。脳活動として、定常状態の脳反応用いる場合、第1の起因の解析対象時間をt0〜t1としたとき、t0より先行して第2の起因を付与することでt0〜t1の間の定常状態の脳反応の変化などの応答を観察することが好ましい。本評価方法においてこのようなアレンジは自由であり、本明細書に含まれる。
【0052】
ここで、本評価方法において脳活動の応答を、脳活動の生じる時間の変化等として検出する場合について、更に補足する。例えば、上記定常状態の脳反応を惹起する刺激を提示すると、あるリズムを持つ脳活動が惹起される。そして、あるタイミングt0で提示していた定常状態の脳反応を励起する刺激を変化させると、変化させた瞬間(t0)から100ミリ秒から200ミリ秒程度の間、脳活動のリズムが徐々に早くなり、その後遅くなって元のリズムに戻る現象が観察される。これが脳活動の「位相の速化」であり、本発明における第1の起因による脳活動に相当する。この位相の速化は、t0より先行して、第2の起因として例えば僅かな時間だけ変化した刺激を提示することにより、t0から100ミリ秒から200ミリ秒程度の間に観察されたリズムが徐々に早くなる現象(位相の速化)が減少すること、すなわち脳活動の生じる時間(潜時)が遅延することが計測できる。このように、脳活動の生じる時間の変化等によっても抑制性回路の評価をすることができる。
【0053】
以上説明したように、脳活動の減弱などの応答を検出し、あるいは評価するには、第2の起因の強度、頻度、所要時間、回数、先行時間等を適宜調節することによってもよい。また、抑制性回路を入力しない場合の第1の起因によって活性化される興奮性回路の脳活動と対比するようにしてもよい。このような第1の起因のみによって生じる脳活動は、第1の起因を付与して興奮性回路を活性化する工程を別途行うか、こうした工程を予め行っておき、基準データとして取得しておくことができる。
【0054】
本評価方法において、抑制性回路の評価をするには、例えば、得られた第2の起因を伴う第1の起因によって得られる第2の脳活動に関する第2の脳活動情報を記憶し、第2の起因がない場合の第1の脳活動の情報と対比して、その減弱率(%)を算出する処理を実行する工程を行うことが好ましい。すなわち、第1の起因による興奮性神経回路の活動によって生じる脳活動に関する情報(第1の脳活動情報)と、第2の起因を伴う前記第1の起因による興奮性神経回路の活動によって生じる脳活動に関する情報(第2の脳活動情報)と、に基づいて、前記抑制性回路の作用(減弱率)を評価することができる。
【0055】
さらに、本評価方法においては、第2の起因のみを付与して脳活動に関する情報(第3の脳活動情報)を取得することが好ましい。第2の起因のみによっても、脳活動を生じる場合には、これを考慮すべきだからである。この場合、第2の脳活動情報に替えて、第2の脳活動情報から第3の脳活動情報を差し引いた情報(差分情報)を、第1の脳活動情報と対比すべき脳活動情報とすることが好ましい。
【0056】
こうした工程は、CPU等などの制御手段を備えるPC等のコンピュータを適宜用いることができる。また、減弱率ほか、脳電図や脳磁図に関する情報を表示するディスプレイ(モニター)で観察することも好ましい。
【0057】
以上の評価方法によれば、生体における抑制性回路の機能を評価することができる。こうした抑制性回路の評価によれば、抑制性回路になんらかの異常のある可能性のある疾患、例えば、てんかん、本態性振せん、統合失調症、パニック、過活動、躁病、うつ病、自閉症等の疾患の診断、検査、薬剤の効果等の評価が可能となる。特に、従来と異なり、脳活動に対する抑制性回路の作用を直接的に評価するため、より実効的な評価が可能となっている。
【0058】
生体において、従来、このような評価は極めて困難であったところ、本評価方法によって初めて可能となった。これにより、従来の疾患において、抑制性回路における異常等を検出し、疾患原因を解明することも可能となるほか、抑制性回路に関連する疾患を特定して、治療標的や治療方針を明確化できるようになる。
【0059】
また、本評価方法によれば、本評価方法を被験体、例えば、ヒトなどの特定個人やある種の集団に適用することで、当該個人又は集団の抑制性回路の特性(抑制性回路特性)を取得し、分析できる。得られた抑制性回路特性は、ヒトなどの動物の感覚特性に深く関わっている。したがって、個人や集団の抑制性回路特性に基づいて、薬剤の選択、治療の選択のほか、日常生活における不都合の改善や利便性向上が可能な製品を提供することができるようになる。なお、集団としては、例えば、性別、年齢、職業、生活習慣、身体的な特徴(身長、体重、BM、疾患履歴、遺伝子情報、血液型等)、疾患履歴、薬剤投与履歴、国籍などのいずれか1種又は2種以上で分類したヒトなどの集団が挙げられる。
【0060】
(抑制性回路に関する疾患の検査方法)
本開示のGABA作動性抑制性回路に対する疾患の検査方法は、本開示の上記評価方法を適用することができる。すなわち、上記評価方法によって、第2の起因の付与によって生じる第1の脳活動における応答に基づいて抑制性回路の作用を評価することで、かかる疾患についての診断が可能となる。被験体の抑制性回路の作用(特性)が取得できることで、疾患ないし疾患の原因を特定できる。例えば、抑制性回路の作用が低下している場合において、こうした疾患の予兆や発症の可能性を診断できる。また、抑制性回路の作用の低下又は増大によって、こうした疾患の進展、予後、薬剤効果、治療効果、治癒の診断が可能となる。したがって、本検査方法は、診断方法としても実施できる。従来、GABA作動性介在ニューロンなどの抑制性回路の異常に関連すると考えられる疾患を生体において検査することが困難であった。しかしながら、本検査方法によれば、直接的に抑制性回路の作用を評価できるため、正確にこうした疾患について診断等したり、診断の補助に用いることができる。
【0061】
抑制性回路に関する疾患、特に、GABA作動性抑制性回路に関する疾患としては、てんかん、本態性振せん、統合失調症、パニック、過活動、躁病、うつ病、自閉症等が挙げられる。
【0062】
(抑制性回路に関する疾患に用いる薬剤の評価方法)
本評価方法は、前記薬剤を投与した生体に対する刺激又は課題である第1の起因によって活性化される興奮性回路に対して、前記第1の起因よりも先行して第2の起因を付与することで抑制性回路を入力する工程と、前記薬剤を非投与の生体に対する刺激又は課題である第1の起因によって活性化される興奮性回路に対して、前記第1の起因よりも先行して第2の起因を付与することで抑制性回路を入力する工程と、を備えることができる。こうした工程を備えることで、薬剤が投与された生体及び薬剤の非投与の生体のそれぞれにおける、興奮性回路の活性化によって生じる第1の脳活動が抑制性回路の入力によって変化等の応答した第2の脳活動を生じることに基づいて薬剤の有効性を評価することができる。
【0063】
なお、本評価方法は、換言すれば、薬剤が投与されていない被験体に、生体に対する刺激又は課題である第1の起因を、第1の起因の付与によって生じる第1の脳活動を変化させる可能性のある第2の起因を伴って付与する工程と、薬剤を投与した被験体に、生体に対する刺激又は課題である第1の起因を、第1の起因の付与によって生じる第1の脳活動を変化させる可能性のある第2の起因を伴って付与する工程と、を備え、薬剤が投与されていない被験体及び薬剤が投与された被験体のそれぞれにおける、上記第2の起因の付与によって生じる第1の脳活動における応答に基づいて薬剤の有効性を評価する方法である。
【0064】
本薬剤の評価方法における興奮性回路、抑制性回路、第1の起因、第1の脳活動、第2の起因など既述の要素については、上記評価方法におけるこれらの各種態様をそのまま適用することができる。また、抑制性回路に関する疾患についても既述の内容を適用できる。
【0065】
こうした薬剤の評価方法は、生体に適用する薬剤の選択方法及び生体に適用した薬剤効果のモニタリング方法としても好適である。
【0066】
従来、GABA作動性介在ニューロンなどの抑制性回路の異常に関連すると考えられる疾患の薬剤を生体において適切に評価することが困難であった。しかしながら、本薬剤評価方法によれば、直接的に抑制性回路の作用を評価できるため、正確に薬剤の効果を評価できるものとなっている。
【0067】
(抑制性回路に関する疾患の予防又は治療に用いる薬剤のスクリーニング方法)
本スクリーニング方法は、薬剤を投与した生体に対する刺激又は課題である第1の起因によって活性化される興奮性回路に対して、第1の起因よりも先行して第2の起因を付与することで抑制性回路を入力する工程と、薬剤を非投与の生体に対する刺激又は課題である起因によって活性化される興奮性回路に対して、第1の起因よりも先行して第2の起因を付与することで抑制性回路を入力する工程と、を備えることができる。このスクリーニング方法によれば、薬剤が投与された生体及び薬剤の非投与の生体のそれぞれにおける、興奮性回路の活性化によって生じる脳活動が抑制性回路の入力によって変化等の応答することに基づいて抑制性回路の作用を増強又は低減する薬剤をスクリーニングすることができる。
【0068】
なお、本スクリーニング方法は、換言すれば、薬剤が投与されていない被験体に、生体に対する刺激又は課題である第1の起因を、第1の起因の付与によって生じる第1の脳活動を変化させる可能性のある第2の起因を伴って付与する工程と、薬剤を投与した被験体に、生体に対する刺激又は課題である第1の起因を、第1の起因の付与によって生じる第1の脳活動を変化させる可能性のある第2の起因を伴って付与する工程と、を備え、前記薬剤が投与されていない前記被験体及び前記薬剤が投与された前記被験体のそれぞれにおける、前記第2の起因の付与によって生じる第1の脳活動における応答に基づいて、前記薬剤をスクリーニングする方法である。
【0069】
本薬剤のスクリーニング方法における興奮性回路、抑制性回路、第1の起因、第2の起因など既述の要素については、上記スクリーニング方法におけるこれらの各種態様をそのまま適用することができる。また、抑制性回路に関する疾患としても既述の内容を適用できる。
【0070】
従来、GABA作動性介在ニューロンなどの抑制性回路の異常に関連すると考えられる疾患の薬剤を生体において適切に評価することが困難であった。しかしながら、本スクリーニング方法によれば、直接的に抑制性回路の作用を評価できるため、効率的に有効な薬剤のスクリーニングが可能となっている。
【0071】
(抑制性回路の検出システム)
本開示の抑制性回路の検出システムは、脳活動を検出する装置と、生体に対して、生体に対する刺激又は課題である第1の起因を付与可能であるとともに、前記第1の起因よりも先行して第2の起因を付与可能な装置と、を備えることができる。本システムによれば、第1の起因の付与によって生じる脳活動に関する第1の脳活動情報と、第2の起因を伴う第1の起因の付与によって生じる脳活動に関する第2の脳活動情報と、を取得して、第2の起因の付与による脳活動の変化等の応答を検出することができる。
【0072】
換言すれば、本検出システムは、以下の構成を採ることができる。脳活動を検出する検出装置と、生体に対する刺激又は課題である第1の起因と第1の起因の入力によって生じる第1の脳活動を変化させる可能性のある第2の起因とを付与する起因出力装置と、第1の脳活動に関する第1の脳活動情報を取得する手段(第1の脳活動情報取得手段)と、第2の起因の付与を伴う第1の起因の付与によって生じる第2の脳活動に関する第2の脳活動情報を取得する手段(第2の脳活動情報取得手段)と、第1の脳活動情報及び第2の脳活動情報に基づいて前記第2の起因の付与によって生じる第1の脳活動における応答を検出する手段(脳活動応答検出手段)と、を備えることができる。
【0073】
この検出システムにおいて、第1の起因の付与によって生じる脳活動は、第1の起因によって活性化された興奮性回路により生じるものである。また、第2の起因を伴う第1の起因の付与によって生じる脳活動は、前記興奮性回路の活性化によって生じる脳活動が、第2の起因を付与することによる抑制性回路の入力によって減弱されて生じるものである。
【0074】
脳活動を検出する装置は、従来公知の装置を用いることができる。例えば、脳電図、脳磁図、fNIRS、又は、fMRI等の取得装置を用いることができる。必要に応じて、CTやNMR等の画像化装置を備えていてもよい。特に、脳電図(脳波計)又は脳磁図(脳磁計)は脳活動に基づく電気的活動等を直接検出できるため好ましい。
【0075】
第1の起因及び第2の起因を生体に対して付与可能な装置は、用いる第1の起因及び第2の起因によって適宜選択される。例えば、起因として聴覚刺激を用いる場合には、従来公知の音信号発生装置を用いることができる。また、例えば起因として視覚刺激を用いる場合には、ディスプレイやプロジェクター、LED光源等の従来公知の視覚刺激発生装置を用いることができる。
【0076】
本システムの第1の脳活動情報取得手段は、第1の起因の付与によって、脳活動検出装置から取得され、必要に応じてメモリ等に記憶された第1の脳活動に基づく電気的信号等を取得し、第1の起因の付与に関する関連情報、例えば、第1の起因の種類、強度、タイミング等の関連情報を参照して所定の脳活動情報(例えば、第1の起因の付与に関連する脳波などとして)として演算処理等して取得することができる。同様に、第2の脳活動情報取得手段は、第2の起因及び第1の起因の付与によって、脳活動検出装置から取得等された第2の脳活動に基づく電気的信号等と、第2の起因の付与に関する関連情報を参照して、所定の脳活動情報として演算処理等して取得することができる。
【0077】
本システムの脳活動応答検出手段は、第1の脳活動情報及び第2の脳活動情報に基づいて、脳活動の応答を検出する。脳活動の応答の検出により、抑制性回路を評価できる。脳活動の応答の検出及び抑制性回路の評価については既に説明したとおりである。脳活動応答手段は、処理する脳活動情報の種類等に応じて、第1の脳活動情報及び第2の脳活動情報を用いて演算処理等して、既述のように抑制性回路の作用(減弱率等)を算出することができる。
【0078】
本システムは、脳活動情報を記憶し、対比し、減弱率を算出等可能な制御手段を備えるPC等のコンピュータを備えることもできる。制御手段は、本評価方法等における評価背景(例えば、変化応答回路を用いる場合の変化前の刺激等の付与環境)や第1の起因の付与タイミングを制御するほか、第2の起因を、特定のタイミング、特定の頻度、特定の強度、特定の回数で付与するように制御するものであってもよい。本システムの第1の脳活動情報手段、第2の脳活動情報取得手段、脳活動応答検出手段は、概して、コンピュータなどのプロセッサの制御手段の一部として備えられる。
【0079】
本システムは、また、こうした減弱率などの抑制性回路の検出結果ほか、脳電図や脳磁図等で記録された脳活動に関する情報を出力(表示)するディスプレイ(モニター)、プリンタ等を出力手段として備えることもできる。
【0080】
こうした検出システムは、同時に、抑制性回路の作用を検出するのみならず、その作用の程度等を評価する評価システムとしても用いることができる。
【0081】
ここで、
図10に、本検出システムの一例としての概要構成に係るブロック図を示す。
図1に示す検出システム100は、脳活動検出装置102と、起因出力装置104と、第1の脳活動情報取得手段としての第1の脳活動情報取得部108、第2の脳活動情報取得手段としての第2の脳活動取情報取得部110、脳活動応答検出手段としての検出部112のほか、抑制性回路に関する情報の出力処理を実行する手段としての出力部114を、備えるプロセッサ106を備えている。プロセッサ106は、概して、CPUを備えるコンピュータ等として構成されるものであり、適当なメモリ116を備えるほか、入出力インターフェースとしての入出力部118を備えることができる。
【0082】
なお、
図10に示す本検出システム100は、一例であってこれに限定するものではない。当業者であれば、本明細書の開示に基づいて種々の形態の抑制性回路の検出システムを構成することができる。例えば、出力部114を備えるものとしたがこれに限定されるものではない。例えば、脳活動検出装置102がアナログ回路等を組み込むことによって脳活動情報をそのまま出力できる場合もある。また、本検出システム100は、脳活動検出装置102、起因出力装置104及びプロセッサ106を別個のものとして示したが、これに限定するものではなく、これらを全て一体化された検出装置として構成することもできる。また、これらの一部を一体化した検出システムとすることもできる。
【0083】
以下に、
図10に示す本検出システム100による抑制性回路の検出又は評価フローの一例を
図11に示して、抑制性回路の検出又は評価方法における本検出システムの作動について説明する。なお、本検出システム100のプロセッサ106のメモリ116には、予め抑制性回路の検出のための第1の起因の付与条件、第2の起因の付与条件などの起因を付与するための付与プログラム、これらの起因によって被験体に生じる脳活動に基づく電気的信号等を処理して第1及び第2の脳活動情報として算出するための演算プログラム、第1及び第2の脳活動情報を対比して、第2の起因の付与による第1の脳活動の応答を検出して第1の脳活動の減弱率等として算出するための演算プログラムなど、本抑制性回路の検出を実行するための各種情報やプログラムが記憶されている。
【0084】
図11に示すように、まず、プロセッサ106が、予め設定されている第1の起因の付与条件に従う第1の起因の出力信号を起因出力装置104に出力する。起因出力装置104は、被験体に対して所定の第1の刺激を出力(付与)する(ステップS100)。起因出力装置104には、実験者が人為的に出力信号を付与してもよい。
【0085】
なお、プロセッサ106は、第1の起因の付与に関する関連情報や第1の起因の付与に関する関連情報をメモリ116から読み出して、適宜、脳活動検出装置102に出力して、脳活動検出装置102における処理に供することができる。なお、この種の関連情報は、起因出力装置104を介してあるいは起因出力装置104から脳活動検出装置102に対して出力されてもよい。
【0086】
所定の第1の起因が被験体に付与されることにより、被験体に生じる脳活動(第1の脳活動)を、電気的信号等として脳活動検出装置102が検知する(ステップS110)。脳活動検出装置102は、例えば、検出した電気信号等を信号増幅やアナログフィルター処理等の適当な処理を必要に応じて施して、プロセッサ106に出力し、プロセッサ106は、当該出力信号を、メモリ116に記憶する(ステップS120)。
【0087】
次いで、プロセッサ106が、予め設定されている第2の起因の付与条件に従う第2の起因の出力信号を起因出力装置104に出力する。起因出力装置104は、被験体に対して所定の第2の起因を出力(付与)する(ステップS130)。さらに、プロセッサ106が、予め設定されている第2の起因の付与を伴う場合の第1の起因の出力信号を起因出力装置104に出力し、起因出力装置104は、所定の第1の起因を被験体に対して出力する(ステップS140)。
【0088】
所定の第2の起因が被験体に付与されることにより、被験体に生じる脳活動(第2の脳活動)を、電気的信号等として脳活動検出装置102が検知する(ステップS150)。脳活動検出装置102は、例えば、検出した電気信号等を適当な処理を必要に応じて施して、プロセッサ106に出力し、プロセッサ106は、当該出力信号を、メモリ116に記憶する(ステップS160)。
【0089】
次いで、第1の脳活動情報取得部108は、所定の演算プログラム等を用いて、メモリ116に記憶された第1の脳活動を処理して、例えば、脳波などの第1の脳活動情報として算出する(ステップS170)。また、第2の脳活動情報取得部110も、同様にして、第2の脳活動情報を算出する(ステップS180)。これらの脳活動情報は、適宜、メモリ116に記憶される。
【0090】
検出部112は、所定の演算プログラムを用いて、第1の脳活動情報と第2の脳活動情報とを読み出して、これらを対比して、第2の起因の付与によって生じる脳活動における応答を検出する(ステップS190)。脳活動における応答とは、具体的には、第2の起因によって生じる第1の脳活動の応答(結果)であり、より具体的には、既述のとおりの変化や減弱等である。
【0091】
例えば、検出部112は、こうした変化を、演算処理によって、抑制性回路の評価に関する情報として算出することで、抑制性回路を検出することができる。例えば、第2の起因によって第1の脳活動が減弱されたときには、脳活動の抑制率(%)として算出することができる。なお、こうした抑制率の算出自体は、脳活動の評価技術分野における当業者において周知である。
【0092】
次いで、出力部114に、かかる検出結果が出力される(ステップS200)。出力内容は、適宜設定できる。例えば、第1の脳活動情報、第2の脳活動情報及抑制率等とすることができる。出力部114としては、特に限定しないで、一般的なディスプレイ、プリンタ等のほか、脳活動検出装置102が備える表示手段であってもよい。以上説明したように、本検出システムによれば、抑制性回路の検出又は評価を非侵襲的にしかも高い精度で実施することができる。
【0093】
(抑制性回路に関する疾患に適用する薬剤候補の選定システム及び選定方法)
本明細書によれば、抑制性回路に関する疾患に適用する薬剤候補の選定システムも提供される。本選定システムは、脳活動を検出する検出装置と、生体に対する刺激又は課題である第1の起因と、第1の起因の付与によって生じる第1の脳活動を変化させる可能性のある第2の起因を付与する起因出力装置と、第1の脳活動に関する第1の脳活動情報を取得する手段と、第2の起因の付与を伴う第1の起因の付与によって生じる第2の脳活動に関する第2の脳活動情報を取得する手段と、第1の脳活動情報及び第2の脳活動情報に基づいて、第2の起因の付与によって生じる第1の脳活動における応答を取得する手段と、脳活動の応答に基づいて被験体の抑制性回路特性を取得する手段と、を備えて、抑制性回路特性に基づいて被検体に適用する薬剤候補を選定することができる。本選定システムによれば、被験体の抑制性回路特性に応じて、抑制性回路に関する疾患の治療等に適した薬剤を選定することができる。このため、被験体は、薬剤選択についての経済的・身体的負担が低減されるとともに、自己の抑制性回路特性に応じた適切な治療を受けられるようになる。
【0094】
なお、本選定システムにおける脳活動検出装置、第1の起因及び第2の起因の出力装置、第1の脳活動、第1の脳活動情報、第2の脳活動、第2の脳活動情報、脳活動の応答、その検出等については、既に、本評価方法等において説明した種々の態様が適用される。また、本選定システムにおける被験体としては、抑制性回路に関する疾患を有する患者のほか、当該疾患有する可能性のある対象ほか、健常人等が挙げられる。
【0095】
本選定システムは、抑制性回路に関する疾患に適用する薬剤候補の選定方法としても実施できる。すなわち、本明細書によれば、生体に対する刺激又は課題である第1の起因を、第1の起因の付与によって生じる第1の脳活動を変化させる可能性のある第2の起因を伴って被験体に付与して得られる第2の脳活動に関する第2の脳活動情報を取得する工程と、第1の脳活動に関する第1の脳活動情報及び前記第2の脳活動情報に基づいて、第2の起因の付与によって生じる第1の脳活動における応答を取得する工程と、脳活動の応答に基づいて被験体の抑制性回路特性を取得する工程と、を備える、抑制性回路特性に基づいて被検体に適用する薬剤候補の選定方法も提供される。
【0096】
(抑制性回路の特性を利用する製品の製造方法及び製造システム)
本明細書によれば、抑制性回路の特性を利用する製品の製造方法及び製造システムが提供される。本製造システムは、脳活動を検出する検出装置と、生体に対する刺激又は課題である第1の起因と、第1の起因の付与によって生じる第1の脳活動を変化させる可能性のある第2の起因を付与する起因出力装置と、第1の脳活動に関する第1の脳活動情報を取得する手段と、第2の起因の付与を伴う第1の起因の付与によって生じる第2の脳活動に関する第2の脳活動情報を取得する手段と、第1の脳活動情報及び第2の脳活動情報に基づいて、第2の起因の付与によって生じる第1の脳活動における応答を取得する手段と、脳活動の応答に基づいて被験体の抑制性回路特性を取得する手段と、を備えることができる。本製造システムによれば、抑制性回路特性に基づいて、抑制性回路特性に適合し、改善し、緩和し、又は増強可能な機能を有する製品を製造することができる。
【0097】
また、本明細書によれば、抑制性回路の特性を利用する製品の製造方法が提供される。本製造方法は、生体に対する刺激又は課題である第1の起因を、第1の起因の付与によって生じる第1の脳活動を変化させる可能性のある第2の起因を伴って被験体に付与して得られる第2の脳活動に関する第2の脳活動情報を取得する工程と、第1の脳活動に関する第1の脳活動情報及び前記第2の脳活動情報に基づいて、第2の起因の付与によって生じる第1の脳活動における応答を取得する工程と、脳活動の応答に基づいて被験体の抑制性回路特性を取得する工程と、を備えることができる。本製造方法によれば、抑制性回路特性に基づいて、抑制性回路特性に適合し、改善し、緩和し、又は増強可能な機能を有する製品を製造することができる。
【0098】
なお、本製造システム及び製造方法における脳活動検出装置、第1の起因及び第2の起因の出力装置、第1の脳活動、第1の脳活動情報、第2の脳活動、第2の脳活動情報、脳活動の応答、その検出等については、既に、本評価方法等において説明した種々の態様が適用される。また、本選定システムにおける被験体としては、特に限定するものではないヒトあるいは各種集団が挙げられる。
【0099】
本製造システム及び製造方法によれば、取得した抑制性回路特性に基づいて、その抑制性回路特性に適合し、改善し、緩和し又は増強可能な機能を有する製品を製造することができる。抑制性回路は、感覚特性に関連する興奮性回路を抑制することから、抑制性回路特性は個人の感覚特性に深く関わっていると考えられる。抑制性回路特性を利用可能な製品としては、ヒトなどの感覚的作用に関わる製品が挙げられる。感覚的作用に関わる製品は、既に説明した、刺激又は課題に関わる製品でもある。こうした製品は、特に限定するものではないが、例えば、眼鏡レンズ、コンタクトレンズなどの視覚関連製品、補聴器、ヘッドホン、イヤホンなどの聴覚関連製品、衣服、寝具、ソファやベッドなどの家具などの体性感覚関連製品、飲食物などの味覚及び/又は嗅覚関連製品、香料、香水、化粧料などの嗅覚関連製品、種々の感覚的作用が複合される、車両等の移動体が挙げられる。
【0100】
抑制性回路特性に基づけば、抑制性回路の特性を利用する製品において、その抑制性回路特性に適合し、改善し、緩和し、又は増強する「感覚的作用」を有する製品を製造することができる。各種製品における「感覚的作用」としては、例えば、視覚に関する眼鏡レンズやコンタクトレンズ等の「見え心地」、聴覚に関する補聴器の「聴き心地」、体性感覚に関する服の「着心地」やベッドの「寝心地」、味覚に関する飲食物の「飲み心地」や「食べ心地」、複合した感覚が関連すると考えられる車の「乗り心地」等が考えられる。したがって、取得した個人や集団の抑制性回路特性に基づき、ある種の製品の使用時の使い勝手を予測したり、製品の使い勝手が向上するように調節したり設計することがきる。こうした製品の製造方法は、特に、テイラーメイドやオーダーメイド等で個人に合わせた製品を受注生産する製品において有意義である。
【0101】
以下、一例として、眼鏡レンズ購入者の抑制性回路特性を本明細書に開示する方法やシステムによって取得した場合の、眼鏡レンズの発注及び製造を含む方法及びシステムについて説明する。まず、眼鏡レンズ購入者の抑制性回路特性(例えば抑制率)に関する情報は、通常の眼鏡レンズの発注情報、例えば眼鏡レンズ購入者の眼の情報(球面度数、乱視度数、軸、プリズム度数、プリズム角度など)の他、眼鏡フレーム装用情報(前傾角、そり角、頂点間距離、頂間距離(PD)など)、眼鏡フレームの情報(玉型形状、必要レンズ径、レンズカーブなど)、眼鏡レンズの製品種別や指定(製品名、単焦点レンズ、累進屈折力レンズ、レンズカラー、コート種別など)などの眼鏡レンズ情報に加えて、眼鏡レンズ発注者(例えば眼鏡店)より眼鏡レンズ製造メーカーにインターネット、電話、FAX、オンライン発注等の通信手段を用いて眼鏡レンズの発注時に伝えられる。
【0102】
次いで、眼鏡レンズ製造メーカーでは、取得した受注情報を反映させて製品仕様を設定(設計)する工程において、当該の眼鏡レンズ購入者の抑制性回路特性を製品仕様に反映させる。例えば、視覚刺激の輝度変化に対する眼鏡レンズ購入者の抑制率が一般的な被験体の抑制率の平均よりも高い場合、眼鏡レンズ購入者にとっては、計測時に提示したプレパルス(第2の起因に相当する。)程度の輝度変化で、大きな抑制性回路の入力が起きていることが分かる。このような場合、当該の眼鏡レンズ購入者は、比較的眩しさを感じやすい個人特性であると想定される。
【0103】
このような場合、眼鏡レンズメーカーは、例えば、濃いレンズカラーとしたり、400〜450nm程度のブルーライトのカット率を増やした分光透過率波形になるようにレンズカラー仕様を設定したり、460〜480nmの透過率を減少させることによりipRGC(intrinsically photosensitive retinal ganglion cel)に入力される光刺激を減少させた製品を製造するなどすることができる。なお、視覚に関して具体的な個人特性が推定される場合に、レンズに対して種々の仕様を施すことは、当業者であれば公知の設計技術及び製造技術を採用して適宜実施可能である。
【0104】
また、例えば、プレパルス刺激を刺激画像のボケとして提示した場合の抑制率を眼鏡店や眼科などで計測し、その抑制率(抑制性回路特性)が眼鏡レンズ製造メーカーに発注情報の一部として伝えられる。その抑制率が、一般的な被験体よりも低い場合、当該の眼鏡レンズ購入者は、少しぐらい見え方がボケても抑制性回路が入力されず、良く見えている条件と少しボケている条件の区別がついていないと判断できる。
【0105】
このような場合、当該の眼鏡レンズ購入者に対して、ボケよりも歪みを優先した設計仕様としてレンズを製造して提供するなどすることができる。例えば、ボケよりも歪みを優先したレンズ仕様として製造するには、製造するレンズが単焦点の非球面レンズであれば、像面湾曲よりも非点収差を優先して改善し、製造するレンズが累進屈折力レンズであれば、収差分散型の設計とすることができる。
【0106】
このようにして抑制性回路特性の情報を利用して製造された眼鏡レンズは、眼鏡店等を通じて別途購入されるなどした眼鏡レンズフレームに枠入れされ、眼鏡レンズ購入者に合わせてフィッティングを行い、眼鏡レンズ購入者に納品される。以上のようにすることで、抑制性回路特性を利用した眼鏡レンズを製造することができる。
【0107】
尚、上記の製品仕様の設定例は一例であり、これに限定されるものではない。例えば、眩しさを例にして補足すると、健常範囲の被験体と加齢黄斑変性、網膜色素変性、緑内障などの眼疾患を伴う被験体では、同じ抑制率であっても異なる製品仕様の設定が必要になる場合が想定される。眼疾患により網膜視細胞や視神経などの数が減少すると、生体において刺激が増幅され、同じ刺激量であっても脳に過敏に情報が伝えられる場合があるためである。また、疾患の既往とともに年齢も重要なファクターであり、加齢により感覚器官から脳への情報伝達の速度が遅くなることが想定されるため、抑制性回路を利用して製品を製造する場合には、購入者の年齢も考慮することが好ましい。
【0108】
以上、本開示に関して各種の実施形態を説明したが、本評価方法、GABA作動性抑制性回路に関する疾患の検査方法又は診断方法、当該疾患の予防又は治療に用いる薬剤の評価方法、該薬剤のスクリーニング方法、該薬剤のモニタリング方法は、人体に対して刺激等を付与する作用工程を含む場合もある。しかしながら、これらの方法は、上記した抑制性回路の検出システム又は評価システムの作動方法として実施することができるほか、人体に刺激等を付与して得られた脳活動に関する情報を取得して、こうした情報を利用して抑制性回路の作用を評価する方法として実施することができる。したがって、本明細書は、以下の態様を含むことができる。
【0109】
(項目1)抑制性回路の評価方法であって、
刺激又は課題である第1の起因によって活性化される興奮性回路に対して、前記第1の起因よりも先行して前記第1の起因よりも低強度の第2の起因を付与することで抑制性回路を入力する工程、
を備え、
前記興奮性回路の活性化によって生じる脳活動が、前記抑制性回路の入力によって減弱されることに基づいて前記興奮性回路に対する前記抑制性回路の作用を評価する、方法。
(項目2)前記第1の起因を付与して前記興奮性回路を活性化する工程、をさらに備える、(項目1)に記載の方法。
(項目3)前記興奮性回路は、前記起因の変化に対する応答回路である、(項目1)又は(項目2)に記載の方法。
(項目4)前記興奮性回路は、触覚、温度感覚、痛覚、深部感覚である体性感覚、視覚、聴覚、味覚及び嗅覚からなる群から選択される1種又は2種以上に関する応答回路である、(項目1)〜(項目3)のいずれかに記載の方法。
(項目5)前記興奮性回路は、聴覚に関する応答回路である、(項目1)〜(項目4)のいずれかに記載の方法。
(項目6)前記興奮性回路は、音圧変化に対する応答回路である、(項目5)に記載の方法。
(項目7)前記抑制性回路は、GABA−A介在抑制性回路及びGABA−B介在抑制性回路の双方又は一方である、(項目1)〜(項目6)のいずれかに記載の方法。
(項目8)前記抑制性回路の入力は、1000ミリ秒以下の範囲で前記起因の供給に先だって実施する、(項目1)〜(項目7)のいずれかに記載の方法。
(項目9)前記抑制性回路の入力は、10ミリ秒以上30ミリ秒以下及び500ミリ秒以上700ミリ秒以下のいずれか又は双方の範囲で前記起因の供給に先立って実施する、(項目1)〜(項目8)のいずれかに記載の方法。
(項目10)第1の起因による前記興奮性神経回路の活動によって生じる前記脳活動に関する第1の脳活動情報と、前記第2の起因を伴う前記第1の起因による前記興奮性神経回路の活動によって生じる脳活動に関する第2の脳活動情報と、に基づいて、前記抑制性回路の作用を評価する、(項目1)〜(項目9)のいずれかに記載の方法。
(項目11)前記脳活動を、脳活動に基づく電気的活動によって検出する、(項目1)〜(項目10)のいずれかに記載の方法。
(項目12)前記脳活動を、脳電図又は脳磁図を用いて検出する、(項目1)〜(項目11)のいずれかに記載の方法。
(項目13)抑制性回路に関する疾患の検査方法であって、
生体に対する刺激又は課題である第1の起因によって活性化される興奮性回路に対して、前記第1の起因よりも先行して前記第1の起因よりも低強度の第2の起因を付与することで抑制性回路を入力する工程、
を備え、
前記興奮性回路の活性化によって生じる脳活動が、前記抑制性回路の入力によって減弱されることに基づいて前記興奮性回路に対する前記抑制性回路の作用を評価する、方法。
(項目14)抑制性回路に関する疾患に用いる薬剤の評価方法であって、
前記薬剤を投与した生体に対する刺激又は課題である第1の起因によって活性化される興奮性回路に対して、前記第1の起因よりも先行して前記第1の起因よりも低強度の第2の起因を付与することで抑制性回路を入力する工程と、
前記薬剤を非投与の生体に対する刺激又は課題である第1の起因によって活性化される興奮性回路に対して、前記第1の起因よりも先行して前記第1の起因よりも低強度の第2の起因を付与することで抑制性回路を入力する工程と、
を備え、
前記薬剤が投与された生体及び前記薬剤の非投与の生体のそれぞれにおける、前記興奮性回路の活性化によって生じる脳活動の前記抑制性回路の入力による減弱に基づいて前記薬剤を評価する、方法。
(項目15)抑制性回路に関する疾患に用いる薬剤のスクリーニング方法であって、
前記薬剤を投与した生体に対する刺激又は課題である第1の起因によって活性化される興奮性回路に対して、前記第1の起因よりも先行して前記第1の起因よりも低強度の第2の起因を付与することで抑制性回路を入力する工程と、
前記薬剤を非投与の生体に対する刺激又は課題である起因によって活性化される興奮性回路に対して、前記第1の起因よりも先行して前記第1の起因よりも低強度の第2の起因を付与することで抑制性回路を入力する工程と、
を備え、
前記薬剤が投与された生体及び前記薬剤の非投与の生体のそれぞれにおける、前記興奮性回路の活性化によって生じる脳活動の前記抑制性回路の入力による減弱に基づいて前記抑制性回路の作用を増強又は低減する薬剤をスクリーニングする、方法。
(項目16)抑制性回路の検出システムであって、
脳活動に基づく電気的活動を検出する装置と、
生体に対して、前記生体に対する刺激又は課題である第1の起因を付与可能であるとともに、前記第1の起因よりも先行して前記第1の起因よりも低強度の第2の起因を付与可能な装置と、
を備え、
前記第1の起因の付与によって生じる脳活動に関する第1の脳活動情報と、前記第2の起因伴う前記第1の起因の付与によって生じる脳活動に関する第2の脳活動情報と、を取得して、前記第2の起因の供給による脳活動の減弱を検出する、システム。
【0110】
(項目17)脳の抑制性回路の検出システムであって、
脳活動に基づく電気的活動を検出する装置と、
生体に対して、前記生体に対する刺激又は課題である第1の起因を付与可能であるとともに、前記第1の起因よりも先行して前記第1の起因よりも低強度の第2の起因を付与可能な装置と、
を備え、
前記第1の起因の付与によって生じる脳活動に関する第1の脳活動情報と、前記第2の起因伴う前記第1の起因の付与によって生じる脳活動に関する第2の脳活動情報と、を取得して、前記第2の起因の供給による脳活動の減弱を検出する、システム。
(項目18)前記興奮性回路は、前記起因の変化に対する応答回路である、(項目17)に記載のシステム。
(項目19)前記興奮性回路は、触覚、温度感覚、痛覚、深部感覚である体性感覚、視覚、聴覚、味覚及び嗅覚からなる群から選択される1種又は2種以上に関する応答回路である、(項目17)又は(項目18)に記載のシステム。
(項目20)前記興奮性回路は、聴覚に関する応答回路である、(項目17)〜(項目20)のいずれかに記載のシステム。
(項目21)前記興奮性回路は、音圧変化に対する応答回路である、(項目17)〜(項目19)に記載のシステム。
(項目22)前記抑制性回路は、GABA−A介在抑制性回路及びGABA−B介在抑制性回路の双方又は一方である、(項目17)〜(項目21)のいずれかに記載のシステム。
(項目23)前記抑制性回路の入力は、10ミリ秒以上800ミリ秒以下の範囲で前記起因の供給に先だって実施する、(項目17)〜(項目22)のいずれかに記載のシステム。
(項目24)前記抑制性回路の入力は、10ミリ秒以上30ミリ秒以下及び500ミリ秒以上700ミリ秒以下のいずれか又は双方の範囲で前記起因の供給に先立って実施する、(項目17)〜(項目23)のいずれかに記載のシステム。
(項目25)前記第1の脳活動情報と、前記第2の脳活動情報と、に基づいて、前記抑制性回路の作用を評価する、(項目17)〜(項目24)のいずれかに記載のシステム。
(項目26)前記脳活動を、脳活動に基づく電気的活動によって検出する、(項目17)〜(項目25)のいずれかに記載のシステム。
(項目27)前記脳活動を、脳電図又は脳磁図を用いて検出する、(項目17)〜(項目26)のいずれかに記載のシステム。
(項目28)脳の抑制性回路の検出システムの作動方法であって、
前記起因出力装置が、刺激又は課題である第1の起因と、前記第1の起因に先立って第2の起因を出力する工程と、
前記脳活動検出装置が、前記第2の起因を伴う前記第1の起因の付与によって生じる脳活動に関する第2の脳活動情報を取得して、前記第2の起因の付与による脳活動の減弱を検出する工程と、
を備える、方法。
(項目29)前記起因出力装置が、前記第1の起因を出力する工程と、
前記脳活動検出装置が、前記第1の起因の付与によって生じる脳活動に関する第1の脳活動情報を取得する工程と、
を備える、(項目28)に記載の方法。
(項目30)抑制性回路に関する疾患の検査方法であって、
生体に対する刺激又は課題である第1の起因によって活性化される興奮性回路に対して、前記第1の起因よりも先行して前記第1の起因よりも低強度の第2の起因を付与することで抑制性回路を入力する工程、
を備え、
前記興奮性回路の活性化によって生じる脳活動が、前記抑制性回路の入力によって減弱されることに基づいて前記興奮性回路に対する前記抑制性回路の作用を評価する、方法。
(項目31)抑制性回路に関する疾患に用いる薬剤の評価方法であって、
前記薬剤を投与した生体に対する刺激又は課題である第1の起因によって活性化される興奮性回路に対して、前記第1の起因よりも先行して前記第1の起因よりも低強度の第2の起因を付与することで抑制性回路を入力する工程と、
前記システムが、前記薬剤を非投与の生体に対する刺激又は課題である第1の起因によって活性化される興奮性回路に対して、前記第1の起因よりも先行して前記第1の起因よりも低強度の第2の起因を付与することで抑制性回路を入力する工程と、
を備え、
前記薬剤が投与された生体及び前記薬剤の非投与の生体のそれぞれにおける、前記興奮性回路の活性化によって生じる脳活動の前記抑制性回路の入力による減弱に基づいて前記薬剤を評価する、方法。
(項目32)抑制性回路に関する疾患に用いる薬剤のスクリーニング方法であって、
前記薬剤を投与した生体に対する刺激又は課題である第1の起因によって活性化される興奮性回路に対して、前記第1の起因よりも先行して前記第1の起因よりも低強度の第2の起因を付与することで抑制性回路を入力する工程と、
前記薬剤を非投与の生体に対する刺激又は課題である起因によって活性化される興奮性回路に対して、前記第1の起因よりも先行して前記第1の起因よりも低強度の第2の起因を付与することで抑制性回路を入力する工程と、
を備え、
前記薬剤が投与された生体及び前記薬剤の非投与の生体のそれぞれにおける、前記興奮性回路の活性化によって生じる脳活動の前記抑制性回路の入力による減弱に基づいて前記抑制性回路の作用を増強又は低減する薬剤をスクリーニングする、方法。
【実施例】
【0111】
以下、本開示を具現化した具体例を説明するが、以下の具体例は本開示を説明するためのものであって限定するものではない。
【実施例1】
【0112】
本実施例では聴覚系の音圧変化に対する変化応答に対する興奮性回路を用いて、13名のヒトの抑制性回路の作用を評価した。変化応答としては、1ミリ秒の短いクリック音(70dB)を100Hzの頻度で連続させた背景音に、突然のわずかな音圧増加(10dB)を発生させることで、ヒトの脳は非常に敏感にこれに反応し、顕著な脳応答が惹起される。
【0113】
本実施例では、抑制性回路の評価のために、以下のように評価システムを構成した。
評価システムは、刺激出力部と脳活動計測部とを備えている。刺激出力部は、
図1Aに示すように、上記した背景音(70dB)に対して背景音開始から400ミリ秒の時点で音圧増加(10dB)したクリック音(1ミリ秒)を発生させるようにするテスト刺激パターン(
図1A上段)、背景音に対して、所定時間後(10dBの音圧増加に先行すること30ミリ秒及び60ミリ秒)において2回の5dBの音圧増大させたクリック音(1ミリ秒)のみ発生させる先行刺激パターン(
図1A下段)、及びこれらを組み合わせた(テスト+先行刺激)パターン(
図1A中段)との3通りで出力できるようにした。
【0114】
脳磁界計測部は脳磁計(306チャンネル脳磁計(VectorView, Neuromag, Helsinki, Finland))を用いて全頭計測を行なった。
【0115】
まず、テスト開始により、刺激出力部からインサートイヤホンを介してテスト刺激、先行刺激、テスト+先行刺激の3種類が、一定間隔をおいて順次被験体に付与され、その際の興奮性回路の活性化による脳活動を脳磁界として計測した。
図1Aに示すように、テスト刺激は400ミリ秒のところで呈示し、先行刺激(1ミリ秒クリック音2発)はテスト刺激開始から30ミリ秒と60ミリ秒前に呈示した。脳磁界測部は、所定の試行数を指定でき、自動で加算を行い、加算波形の振幅から、減弱率(抑制率)を求めた。結果を
図1B(n=13、右半球)に示す。
【0116】
図1B上段に示すように、テスト+先行刺激の脳活動振幅は、テスト刺激の振幅よりも減弱されていた。なお、
図1B下段に示すように、先行刺激のみの活動波形は、それ自身ではわずかな脳応答しか惹き起こさない弱いものであった。
【0117】
以上のように、テスト+先行刺激の脳活動波形の振幅から、先行刺激によって脳活動が減弱されたことがわかった。すなわち、先行刺激(第2の起因)の付与によりテスト刺激(第1の起因)による脳活動が減弱されることが分かった。なお、本発明者らは、上記試験系において、この減弱が、興奮性回路自体等によるものでなく、抑制性回路による積極的な抑制であることを確認している。すなわち、先行刺激を種々のパターン(回数、タイミング)で付与して、応答の誘発と抑制とは別経路によるものであることを確認している。
【実施例2】
【0118】
本実施例では、実施例1と同じ被験個体群に対して、実施例1と同様の背景音を用いてテスト刺激を付与するとともに、テスト刺激付与に先立つ10ミリ秒から800ミリ秒までの範囲で、5dB増大させたクリック音(1ミリ秒)を適当な間隔で付与して、脳磁界を計測し波形の振幅から減弱率を測定した。結果を
図2に示す。また、一人の被験個体についての、30ミリ秒及び600ミリ秒先行する刺激及びテスト刺激を付与したときに導出した脳波波形及びテスト刺激のみの脳波波形を
図3に示す。脳波計測は通常の誘発脳波計(Neuropack, 日本光電)を用いて行い、脳波電極を所定の部位に装着(聴覚の場合、脳磁界計測の結果から考えられる最良の誘導は、Fz-両側Mastoidである。)した。
【0119】
図2に示すように、抑制性回路の作用は、明らかに二峰性であった。早期抑制はピークが30〜60ミリ秒付近、後期抑制は600ミリ秒付近であり、それぞれ最大減弱率は左半球17%、右半球30%、及び左半球8%、右半球11%であった。後半の抑制は閾値が高く、有意な抑制は600ミリ秒のみであった。早期抑制と後期抑制は異なる機序によるものと考えられた。
【0120】
また、
図3に示すように、これら2つの抑制は、脳波波形からも明確に観察することができることがわかった。
【0121】
さらに、本実施例では、早期成分についてテスト刺激に先行する10ミリ秒〜70ミリ秒の範囲で5dB増大クリック音(1ミリ秒)を適当な間隔で付与してより詳しい検討を行った。結果を
図4に示す。
【0122】
図4に示すように、早期成分にはさらに二種類の抑制機序が含まれることがわかった。これらの早期成分は、20ミリ秒〜30ミリ秒の抑制と、40ミリ秒〜60ミリ秒の抑制との2つに分類できると考えられた。これらは、それぞれ異なる抑制機序によるものであると考えられた。尚、
図4より先行刺激−テスト刺激間隔が5ミリ秒の場合であっても5〜10%程度の減弱率となり、十分検出できる事がわかる。
【実施例3】
【0123】
本実施例は、先行刺激の刺激強度(プレパルス強度)の影響を観察したものである(N=9)。実施例1と同じ記録手技にて、実施例1と同様の背景音に対し、テスト刺激の300〜800ミリ秒前にプレパルス(基線から5db増加)を挿入した場合の抑制率時間経過を、単発クリック音の弱いプレパルスと3連発の強いプレパルスで比較した。
図5に示すように、抑制率は3連発のプレパルスで強くなっているが、抑制の時間経過は両者で違わないことが分かる。プレパルス強度を強くすると、不応期やシナプスの疲労など興奮性回路内のみの機序で減弱し、抑制性回路を介さなくてもテスト刺激が弱く観察されることがあるが、本実施例の抑制に対しては、先行刺激が微弱でなくても、不応期やシナプス疲労等の影響は少ないことが分かる。このような検証により、強いプレパルスを用いる場合の抑制性介在細胞以外の応答減弱因子を観察し、抑制が抑制性介在細胞の機能を反映しているかを検証でき、必ずしも微弱な先行刺激を用いなくても抑制性回路の評価を行う実験系を設定することができる。また、本実施例において、1クリックの300ミリ秒の計測結果は、先行刺激により増強していることが分かる。このように先行刺激による脳活動は、減弱だけでなく、増強として観察される場合もあるため、抑制性回路の入力によりどのように脳活動が変化したかを観察することが重要である。尚、本実施例ではプレパルス強度をクリックの連発数で変化させたが、基線からの増加量で変化させるなどの変更をしても構わない。
尚、本実施例と同様の手法により、抑制性回路を介さず不応期やシナプス疲労などの興奮性回路内のみの機序でテスト刺激が減弱する先行刺激とテスト刺激の刺激条件を設定することができる。そのような刺激を用いる場合においても、刺激設定は抑制性回路を評価した結果であり、本発明に含まれる。
【実施例4】
【0124】
本実施例は、抑制性回路に関する疾患に用いる薬剤の評価方法、およびスクリーニング方法に関するものである。実施例1と同様の記録手技により、抑制に対するジアゼパム(5mg 単回経口)の効果をタイプの異なる2名の被験体の薬剤投与前と投与後で比較した。応答の振幅は、50ミリ秒の成分と100ミリ秒の成分(黒三角)の頂点間とした。結果を
図6に示したが、ジアゼパム投与前(図左)と投与後(図右)で抑制率を比較すると、被験体1では、ジアゼパム投与前より抑制が強く、投与後もほとんど変化がない。被験体2は早期抑制が弱い例で、平均値(約30%)を大きく下回っているが、投与後の抑制率は45%であって被験体1と同等のレベルになっている。すなわち、ジアゼパムは被験体2に対して効果が強く、被験体1に対する効果は低いと判断できる。このような方法により、被験体ごとに選定された薬剤が適切であったかの判定や、治療の経過観察を把握することができる。また、ジアゼパムはスライス標本を用いた研究によりバスケット細胞によるGABA−A早期抑制を増強するとされているが、本実施例の方法により、確かにこの抑制がGABA−A受容器を介するものであることが確認できる。このように本手法は薬剤の評価開発に用いることができる。
【実施例5】
【0125】
本実施例は、抑制性回路に関する疾患に用いる薬剤の選定方法である。実施例4が個人ごとに薬剤投与後の効果を評価する方法であったのに対し、実施例5では、薬剤投与前において各個人に適した薬剤を選定するものである。
図7は、実施例1〜2に記載の方法で取得した30ミリ秒、60ミリ秒、600ミリ秒の抑制率分布をグラフに示したものである(N=26半球)。
図7において、黒丸(●)は、各個人のデータを示している。いずれの抑制率もマイナスから50%程度まで広く分布しており、個人差を反映している。抑制系の機能について、個人の特性を一定レベルで評価できることを示している。ある被験体の結果に横棒を加えて示した。この被験体では60ミリ秒と600ミリ秒の後期抑制がともに高いのに対し、30ミリ秒の早期抑制がない。そのため、GABA−A受容器を介するバスケット細胞の機能が弱いと判断できるため、薬剤としては、ジアゼパムなどのGABA−A受容器に作用する薬剤が適していると選定することができる。一方で、例えば、60ミリ秒は十分抑制されるものの、30ミリ秒と600ミリ秒の抑制率が低い場合には、GABA−A受容器をターゲットにした薬剤、30ミリ秒、60ミリ秒、600ミリ秒のすべてが悪い場合には、GABAもしくはGABA受容器が機能していないと判断されるため、GABAもしくはGABA受容器をターゲットにした薬剤、30ミリ秒および60ミリ秒の抑制率が高く600ミリ秒だけ抑制率が低い場合には、マルティノッチ細胞が機能しておらず、マルティノッチ細胞をターゲットにした薬剤を選定するなど、抑制性回路の個人特性を計測することにより、個人に合わせた抑制性回路に関する疾患に用いる薬剤を、薬剤投与前に選定することが可能となる。
【実施例6】
【0126】
本実施例では、抑制性回路の入力を脳活動の生じる時間(潜時)の変化で検出する例として、抑制性回路の入力を、大脳誘発応答振幅の変化(脳活動の大きさ)と定常状態聴覚誘発反応の潜時の変化(脳活動の生じる時間)で比較した結果を示す。
図8Aの右上に示したように、背景脳活動として、刺激音65dB、25ミリ秒の純音(1000Hz)を隙間なく連結し、40Hzの定常状態聴覚誘発反応を誘発した。この連結音の、開始から1800ミリ秒のところで、25ミリ秒の純音一つを背景よりも15dB強くしてこれをテスト刺激(第1の起因に相当する。)とした。このテスト刺激による脳活動が第1の起因による脳活動である。テスト刺激よりも600ミリ秒前に、同様に80dBの純音一つを挿入したものをプレパルス(第2の起因に相当する。)とし抑制性回路を評価した。脳活動は、背景刺激のみ、背景刺激+テスト刺激、背景刺激+プレパルス、背景刺激+プレパルス+テスト刺激、の4種類について実施例1と同じ脳磁計にて加算波形を記録した。
図8に、ある被験体についての測定結果を示す。
図8Aは、テスト刺激のみ、及び、テスト刺激+プレパルス(プレパルスあり)の脳活動の変化の比較、すなわち第1の脳活動情報と第2の脳活動情報の比較を示す。テスト刺激単独(黒線)に比べて、プレパルスありの場合(点線)に脳活動の大きさ(振幅)が明瞭に減弱し、頂点振幅で抑制率を算出すると、抑制率は44.2%であった。
【0127】
次に、
図8Bは、背景刺激のみ、背景刺激+テスト刺激について、40Hz±10Hzのバンドパスフィルターをかけて得た40Hzの定常状態の脳反応である。背景刺激のみの場合、用いた音刺激は25ミリ秒の純音の繰り返しであるので、脳には40Hzの応答活動が惹起される(
図8Bの実線)。このように背景刺激のみの場合には、規則正しいリズムを持つ40Hzのサインカーブになる。これに対して、1800ミリ秒においてテスト刺激(第1の起因に相当する。)を与えると、
図8Bの点線のように波形は変化し、およそ1850ミリ秒から2000ミリ秒にかけて、サインカーブの頂点が早いタイミングになっている。これが、テスト刺激(変化関連脳活動)による「位相の速化」である。この位相の速化が第1の起因の変化による脳活動に関する第1の脳活動情報である。
図8Cには、テスト刺激のみ、および、テスト刺激+プレパルス(第2の起因に相当する。)について、位相の速化の様子を示した。縦軸がマイナスの場合に、基準となる脳活動(背景刺激のみ)に対して位相が速くなったこと、すなわち位相の速化が起きたことを示している。三角がプレパルスありの場合の位相の変化を示しており、黒丸のテスト単独の場合と比べて、変化の程度が減少していることがわかる。すなわち、第2の起因の付与により抑制性回路が入力されていることが分かる。1850ミリ秒〜2050ミリ秒の区間で位相の変化量を積分値で比較すると、抑制率は38.6%と算出される。このように、脳活動の生じる時間の変化(リズムの変化)を用いても、脳活動の大きさの変化より求めた抑制率と同程度の抑制率が算出でき、脳活動の生じる時間の変化によっても抑制性回路を評価できる。
【実施例7】
【0128】
本実施例は、眼鏡レンズ購入予定者の抑制性回路特性の計測、及び解析方法に関している。抑制性回路特性の評価は、以下のようにして行った。すなわち、眼鏡レンズ購入者に対し、眼鏡店、眼科等で実施されるユーザーの視力検査に合わせて実施した。ある眼鏡レンズ購入者1に対して、66.67ミリ秒の刺激間隔(15Hz)で、線分により構成された図形をディスプレイに提示し、背景脳波として定常状態の視覚誘発反応を誘発した。そして、図形の輝度を変化させてテスト刺激(第1の起因に相当する。)とした。このテスト刺激による脳活動が第1の起因の変化による脳活動である。本実施例では、図形の輝度は1.5倍に増加させているが、特に限定するのもではなく、半分に減少させるなどでも同様の脳活動(変化関連脳活動)を計測することができる。例えば、10〜20%変化させるなどでも構わない。
【0129】
脳活動の記録には脳波計を用い、国際10−20電極法におけるOz−Fzに電極を装着し、OzとFzの差分電位を記録した。
図9Aには、被験体1について、計測した加算波形に13−17Hzのバンドパスフィルターをかけた結果を表示した。第1の起因であるテスト刺激により刺激後50〜600ミリ秒程度にかけて位相の速化が確認された。そして、この位相の速化は、テスト刺激の600ミリ秒前に提示したプレパルス刺激(第2の起因に相当する。)により抑制されることが、
図9A及び
図9Bより分かった。このように視覚刺激を用いる場合であっても、抑制性回路を評価できた。ここで、
図9Bより抑制率は29.6%と求めることができた。尚、実施例6と同様に、バンドパスフィルターをかけずにテスト刺激に対する変化関連電位を計測することで、脳活動の振幅の変化より抑制性回路を評価することもできた。本計測結果では28%であった。視覚刺激の場合であっても実施例6と同様に、脳活動の生じる時間の変化(リズムの変化)を用いても、脳活動の大きさの変化より求めた抑制率と同程度の抑制率が算出できることが分かる。
【0130】
なお、本実施例は、更に以下のようにアレンジすることも自由である。例えば、
図9Bの位相の変化を示す図において、プレパルス(0msで提示)提示から200msにかけて、プレパルスによる変化関連脳活動(位相の速化)が観察される。抑制性回路の特性を評価するために、連続した背景刺激(例えば、定常状態脳活動)を第1の脳活動情報とし、プレパルスによる第1の脳活動情報の変化を解析することで、抑制性回路の特性を評価することができる。また、例えば、プレパルスの強度を様々に変化させた場合の位相の変化より抑制性回路を評価してもよい。このようなアレンジは自由であり、本明細書の開示に含まれる。