(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6283957
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】研磨ヘッドの製造方法及び研磨ヘッド、並びに研磨装置
(51)【国際特許分類】
B24B 37/30 20120101AFI20180215BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20180215BHJP
B24B 41/06 20120101ALI20180215BHJP
【FI】
B24B37/30 E
H01L21/304 622K
B24B41/06 L
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-84098(P2015-84098)
(22)【出願日】2015年4月16日
(65)【公開番号】特開2016-203270(P2016-203270A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2017年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】大関 正彬
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 三千登
【審査官】
須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/001719(WO,A1)
【文献】
特開2013−166200(JP,A)
【文献】
特開昭63−052967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B3/00−3/60
B24B21/00−51/00
H01L21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の剛性リングと、該剛性リングの下端面に均一の張力で貼り付けられた弾性膜と、前記剛性リングの上端面に結合された円盤状の中板と、該中板の下端面と前記弾性膜の上面と前記剛性リングの内周面とにより区画された空間部と、前記空間部に封入された非圧縮性流体とを具備し、前記弾性膜の下面部にウェーハの裏面を保持しながら、前記ウェーハの表面を定盤上に貼り付けられた研磨布に摺接させて研磨する研磨ヘッドを製造する方法であって、
前記中板を前記剛性リングの上端面に結合する前に、
前記中板に、前記非圧縮性流体を前記空間部に注入するための注入口、及び前記非圧縮性流体の注入時に前記空間部からエアーを排出するための排出口を形成する工程と、
前記中板の下端面に、前記注入口から前記中板の外周部まで延伸する溝及び前記排出口から前記中板の外周部まで延伸する溝をそれぞれ形成する工程とを有し、
前記剛性リングの下端面に前記弾性膜を貼り付け、かつ、前記剛性リングの上端面と前記中板の前記溝を形成した下端面とを結合することにより前記空間部を形成した後に、
前記空間部内を減圧する工程と、
該減圧工程後、前記注入口から前記空間部に前記非圧縮性流体を注入しながら、前記排出口から前記空間部内のエアーを排出し、前記注入口及び前記排出口を閉じることで前記非圧縮性流体を前記空間部に封入する工程とを
有することを特徴とする研磨ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記非圧縮性流体を前記空間部に封入する工程において、前記注入口が前記排出口よりも下方に位置するように前記中板を傾けて載置しながら前記非圧縮性流体を前記空間部に注入することを特徴とする請求項1に記載の研磨ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記中板として、前記溝を形成する前記下端面の形状が凸形状となっているものを用いることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の研磨ヘッドの製造方法。
【請求項4】
環状の剛性リングと、該剛性リングの下端面に均一の張力で貼り付けられた弾性膜と、前記剛性リングの上端面に結合された円盤状の中板と、該中板の下端面と前記弾性膜の上面と前記剛性リングの内周面とにより区画された空間部と、前記空間部に封入された非圧縮性流体とを具備し、前記弾性膜の下面部にウェーハの裏面を保持しながら、前記ウェーハの表面を定盤上に貼り付けられた研磨布に摺接させて研磨する研磨ヘッドであって、
前記中板が、下端面に、前記空間部に前記非圧縮性流体を注入するための注入口と、前記空間部からエアーを排出するための排出口と、前記注入口から前記中板の外周部まで延伸した溝と、前記排出口から前記中板の外周部まで延伸した溝と、前記注入口及び前記排出口を閉じるための蓋部とを有するものであることを特徴とする研磨ヘッド。
【請求項5】
定盤上に貼り付けられた研磨布と、該研磨布上に研磨剤を供給するための研磨剤供給機構と、請求項4に記載の研磨ヘッドを具備し、該研磨ヘッドでワークを保持して前記ワークの表面を、前記定盤上に貼り付けられた研磨布に摺接させて研磨するものであることを特徴とする研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨ヘッドの製造方法及び研磨ヘッド、並びにその研磨ヘッドを具備する研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シリコンウェーハ等のウェーハの平坦性に関する要求はますます高まっており、片面研磨において、より高い平坦性を有するウェーハを作製することが求められている。そして、現在、高い平坦性を有するウェーハを再現性良く得るために、ウェーハを保持するラバー膜、ラバー膜に接する空間部、空間部に封入された非圧縮性流体を具備する研磨ヘッドが使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような研磨ヘッドは、非圧縮性流体によりラバー膜の表面の形状を適切に調整できるため、ウェーハの裏面の全面にラバー膜の表面を密着させてウェーハを押圧することで研磨を実施することができる。これにより、ウェーハの研磨代を研磨面全体で均一にすることができ、平坦性の高いウェーハを作製することができる。また、非圧縮性流体によりウェーハを吸着するラバー膜の表面の形状を一定に制御できるため、再現性良く平坦性の高いウェーハが得られる。
【0004】
しかしながら、ウェーハを吸着するラバー膜の表面の形状を一定にするためには、研磨ヘッドの製造時に、研磨ヘッド内の空間部にエアーを混入させることなく非圧縮流体を封入する必要がある。これは、エアーが混入してしまうと、エアーが存在する部分と他の部分とで圧力が異なり、ラバー膜の表面の形状を一定に制御できなくなり、ウェーハを均一に押圧できなくなってしまうためである。また、エアーの混入により、研磨ヘッド内に封入する非圧縮流体の体積バラつきが大きくなってしまい、研磨したウェーハの形状のバラつきも大きくなってしまう。そのため、研磨ヘッドの製造時には、特に非圧縮性流体を封入する空間部にエアーが残留しないようにする必要がある。
【0005】
そこで、エアーの混入を防ぐため、研磨ヘッドのパーツを非圧縮性流体の中に沈め、非圧縮性流体内で人の手によって研磨ヘッドを組み立てることがある。しかしながら、この手法では、非圧縮性流体の封入量の制御が困難である。さらに、非圧縮性流体の中で研磨ヘッドを組み立てるため、作業性が著しく悪化してしまう。また、直径300mm以上の大直径のウェーハの研磨に使用する研磨ヘッドは、サイズが大きく、重量も非常に大きいため、作業性に加え、安全面にも問題が生じる。さらに、封入したい非圧縮性流体が人体に有害なものである場合には、作業自体が不可能になる。
【0006】
一方で、以下に説明するように、非圧縮性流体内ではなく大気中で研磨ヘッドを組み立てる手法もある。この手法では、まず、
図6の上部に示すように剛性リング102、中板104、ラバー膜103を組み立て、研磨ヘッド内に非圧縮性流体を封入する空間部105を形成する。また、中板104には、非圧縮性流体を注入するための注入口107、エアーを排出するための排出口108が形成してある。次に、空間部105の内部を減圧する。その後、空間部105に連通する注入口107から空間部105の中へ非圧縮性流体を流し込み、同時に、空間部105に残留しているエアーを排出口108から排出する。
図6の下部に示すように、十分な量の非圧縮性流体106を注入した後、注入口107、排出口108を蓋109により閉じる(以下では、この手法を減圧封入法とも呼ぶ)。この減圧封入法では、大気中で研磨ヘッドを組み立てることにより、作業性を大きく向上させることができる。また、非圧縮性流体の封入量の制御も容易になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−166200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、減圧封入法により非圧縮性流体を研磨ヘッド内の空間部に封入すると、研磨ヘッド内に大量のエアーが残留してしまう。これは、研磨ヘッドは後述する構造上の理由により厚みが薄い中心部に注入口と排出口を設けるため、空間部の外周に残っているエアーを排出する前の早い段階で、非圧縮性流体が排出口を塞いでしまい、その残っているエアーを排出することができなくなるためである。
【0009】
この問題を解決するためには、注入口と排出口を外周部付近に設け、注入口と排出口との距離を可能な限り大きくとることが有効である。しかし、元々研磨ヘッドの外周部は厚みが大きく、さらに、注入口及び排出口に接続する継ぎ手の高さ分、研磨ヘッドの外周部が厚くなるため、研磨ヘッドの重量が増えてしまう。さらに、研磨ヘッド内の空間部の体積が大きくなり、研磨時のウェーハに対する加圧や減圧の応答性が悪化してしまう。従って、注入口や排出口を研磨ヘッドの外周部に設けることは実用的ではない。
【0010】
また、残留するエアーの量を減らすため、
図7に示すように、排出口108が注入口107よりも高くなるように、研磨ヘッドを傾けて載置して非圧縮性流体106を空間部105に注入することができる(
図7の左上部)。このようにすれば、非圧縮性流体106が、最初に、排出口108とは逆方向に溜まり始めるため(
図7の右上部)、排出口108を注入された非圧縮性流体106で塞ぐまでにかかる時間をより増やすことができ、排出できるエアーの量を増やすことができる(
図7の左下部)。しかし、排出口108より高い位置にあるエアーは研磨ヘッドから排出することが難しく、結局、残留エアーの量が多くなってしまう(
図7の右下部)。このように残留するエアーの量に応じて、封入する非圧縮性流体の体積がバラついてしまう。
【0011】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、空間部に非圧縮性流体が封入された研磨ヘッドを製造する場合に、作業性が良く、非圧縮性流体の量の制御が容易であり、かつ、空間部に残留するエアーの量を低減することが可能な研磨ヘッドの製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、非圧縮性流体が封入された空間部に残留するエアーの量が低減され、平坦性の高いウェーハを再現性良く製造できる研磨ヘッド及びその研磨ヘッドを具備する研磨装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、環状の剛性リングと、該剛性リングの下端面に均一の張力で貼り付けられた弾性膜と、前記剛性リングの上端面に結合された円盤状の中板と、該中板の下端面と前記弾性膜の上面と前記剛性リングの内周面とにより区画された空間部と、前記空間部に封入された非圧縮性流体とを具備し、前記弾性膜の下面部にウェーハの裏面を保持しながら、前記ウェーハの表面を定盤上に貼り付けられた研磨布に摺接させて研磨する研磨ヘッドを製造する方法であって、前記中板を前記剛性リングの上端面に結合する前に、前記中板に、前記非圧縮性流体を前記空間部に注入するための注入口、及び前記非圧縮性流体の注入時に前記空間部からエアーを排出するための排出口を形成する工程と、前記中板の下端面に、前記注入口から前記中板の外周部まで延伸する溝及び前記排出口から前記中板の外周部まで延伸する溝をそれぞれ形成する工程とを有し、前記剛性リングの下端面に前記弾性膜を貼り付け、かつ、前記剛性リングの上端面と前記中板の前記溝を形成した下端面とを結合することにより前記空間部を形成した後に、前記空間部内を減圧する工程と、該減圧工程後、前記注入口から前記空間部に前記非圧縮性流体を注入しながら、前記排出口から前記空間部内のエアーを排出し、前記注入口及び前記排出口を閉じることで前記非圧縮性流体を前記空間部に封入する工程とを有することを特徴とする研磨ヘッドの製造方法を提供する。
【0014】
このように、中板の空間部側の表面に上記のような溝を形成しておいてから、非圧縮性流体の封入を行うことで、非圧縮性流体の注入時に、非圧縮性流体の流れを適切に制御できる。すなわち、非圧縮性流体が排出口を塞ぐ前に、空間部に残留するエアーを排出できる。また、このような製造方法であれば、作業性が良く、非圧縮性流体の注入量の制御も容易となる。
【0015】
このとき、前記非圧縮性流体を前記空間部に封入する工程において、前記注入口が前記排出口よりも下方に位置するように前記中板を傾けて載置しながら前記非圧縮性流体を前記空間部に注入することが好ましい。
【0016】
このようにすれば、空間部に残留するエアーの量をより低減できる。
【0017】
またこのとき、前記中板として、前記溝を形成する前記下端面の形状が凸形状となっているものを用いることが好ましい。
【0018】
このようにすれば、空間部に残留するエアーの量をより確実に低減できる。
【0019】
また、上記目的を達成するために、本発明は、環状の剛性リングと、該剛性リングの下端面に均一の張力で貼り付けられた弾性膜と、前記剛性リングの上端面に結合された円盤状の中板と、該中板の下端面と前記弾性膜の上面と前記剛性リングの内周面とにより区画された空間部と、前記空間部に封入された非圧縮性流体とを具備し、前記弾性膜の下面部にウェーハの裏面を保持しながら、前記ウェーハの表面を定盤上に貼り付けられた研磨布に摺接させて研磨する研磨ヘッドであって、前記中板が、下端面に、前記空間部に非圧縮性流体を注入するための注入口と、前記空間部からエアーを排出するための排出口と、前記注入口から前記中板の外周部まで延伸した溝と、前記排出口から前記中板の外周部まで延伸した溝と、前記注入口及び前記排出口を閉じるための蓋部とを有するものであることを特徴とする研磨ヘッドを提供する。
【0020】
このような研磨ヘッドは、非圧縮性流体が封入された空間部に残留するエアーの量が少なく、弾性膜のウェーハを保持する表面の形状を制御しやすいため、平坦性の高いウェーハを再現性良く製造できる。
【0021】
また、上記目的を達成するために、本発明は、定盤上に貼り付けられた研磨布と、該研磨布上に研磨剤を供給するための研磨剤供給機構と、上記の研磨ヘッドを具備し、該研磨ヘッドでワークを保持して前記ワークの表面を、前記定盤上に貼り付けられた研磨布に摺接させて研磨するものであることを特徴とする研磨装置を提供する。
【0022】
上記のような研磨ヘッドを具備した研磨装置は、平坦性の高いウェーハを再現性良く製造できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の研磨ヘッドの製造方法であれば、非圧縮性流体の封入時に空間部に残留してしまうエアーの量を大幅に低減できる。また、この製造方法は、作業性も良好であり、かつ、非圧縮性流体の封入量の制御も容易である。
【0024】
また、本発明の研磨ヘッドであれば、非圧縮性流体が封入された空間部に残留するエアーの量が少なく、弾性膜のウェーハを保持する表面の形状を制御しやすいため、平坦性の高いウェーハを再現性良く製造できる。また、このような本発明の研磨ヘッドを具備した研磨装置も同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の研磨ヘッドの一例を示す概略断面図である。
【
図2】本発明の研磨ヘッドにおける中板の下端面の一例を示す概略図である。
【
図3】本発明の研磨ヘッドの製造方法の一例を説明するフロー図である。
【
図4】非圧縮性流体の注入時における非圧縮性流体の動きを示す模式図である。
【
図5】本発明の研磨装置の一例を示す概略図である。
【
図6】従来の減圧封入法によって、空間部に非圧縮性流体を注入した場合を示す模式図である。
【
図7】従来の減圧封入法によって、空間部に非圧縮性流体を注入した場合の非圧縮性流体の動きを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0027】
上記のように、減圧封入法は、作業性が良好であり、非圧縮性流体の封入量の制御も容易である。しかし、十分な量のエアーを排出する前の早い段階で注入した非圧縮性流体が排出口を塞いでしまい、言わば、非圧縮性流体を介して注入口と排出口が短絡してしまうような状態となるので、空間部にエアーが大量に残留してしまうという問題があった。これに対し、本発明者等は、空間部を区画する中板の表面に溝を形成しておくことで空間部内での非圧縮性流体の流れを、特に、非圧縮性流体が空間部の外周部を先に流れるように制御することで、残留エアーの量を低減できることを見出し、本発明を完成させた。
【0028】
まず、本発明の研磨ヘッドについて、
図1を参照して説明する。
図1に示すように、本発明の研磨ヘッド1は、環状の剛性リング2と、剛性リング2の下端面に均一の張力で貼り付けられた弾性膜3と、剛性リング2の上端面に結合された円盤状の中板4と、中板4の下端面と弾性膜3の上面と剛性リング2の内周面とにより区画された空間部5と、空間部5に封入された非圧縮性流体6とを具備している。そして、中板4には、この研磨ヘッド1の製造時に空間部5の内部に非圧縮性流体6を封入する際に使用された、注入口7と排出口8が形成されている。そして、非圧縮性流体6を封入するために注入口7及び排出口8を閉じる蓋部9を有する。なお、この場合、蓋部9として、
図1に示すような、注入口7及び排出口8を開閉可能で作業性が良好なワンタッチ継手9を使用することができる。
【0029】
また、
図2に示すように中板4の下端面4a、すなわち、空間部5を区画する表面には、注入口7から中板4の外周部4bまで延伸した溝10aと、排出口8から中板4の外周部4bまで延伸した溝10bとが形成されている。本発明でいう中板の外周部とは空間部の外周部の上方に位置する部分であり、溝10a、10bは少なくとも空間部5の外周部の上方の中板4の下端面4aまで延伸できる。あるいは、空間部5の外周端の上方の中板4の下端面4aまで延伸しても良い。
【0030】
このような研磨ヘッド1は、弾性膜3の下面部にウェーハの裏面を保持しながら、ウェーハの表面を定盤上に貼り付けられた研磨布に摺接させて研磨することができる。また、研磨ヘッド1は弾性膜3の下面部にバッキングパッドを貼り付けたものでも良く、弾性膜3はこのバッキングパッドを介してウェーハを保持しても良い。ここでいう、バッキングパッドとは、例えば、水を含ませてウェーハを貼りつけ、弾性膜3のウェーハ保持面にウェーハを保持するものである。さらに、研磨ヘッド1は、バッキングパッドの下面に、ウェーハのエッジ部を保持する環状のテンプレートを具備していても良い。
【0031】
このような研磨ヘッド1は、空間部5に残留しているエアーの量が非常に少ないため、ウェーハの研磨時に弾性膜のウェーハを保持する表面の形状を制御しやすい。その結果、平坦性の高いウェーハを再現性良く製造できる研磨ヘッドとなる。
【0032】
続いて、
図1、
図2に示すような本発明の研磨ヘッドを製造できる本発明の研磨ヘッドの製造方法を具体的に説明する。
【0033】
図3に示すように、本発明の研磨ヘッドの製造方法は、少なくとも、中板に注入口と排出口を形成する工程(
図3のS101)、中板の下端面に溝を形成する工程(
図3のS102)、中板、剛性リング、弾性膜を組み合わせて空間部を形成する工程(
図3のS103)、空間部内を減圧する工程(
図3のS104)、空間部に非圧縮性流体を封入する工程(
図3のS105)を有する。
【0034】
まず、中板4を剛性リング2の上端面に結合する前に、中板4の下端面4aに、
図1、2に示したような注入口7と排出口8を形成する工程(
図3のS101)を行う。中板4としては、強度や価格の面からステンレス鋼(SUS:Stainless Used Steel)を用いることが好ましい。また、例えば。直径300mm以上の大直径のウェーハの研磨に使用する研磨ヘッドを製造する場合のように、研磨ヘッドの低重量化が必要な場合は、チタンを用いることもできる。
【0035】
続いて、中板4の下端面4aに、
図2に示したような溝10a、10bを形成する(
図3のS102)。具体的には、注入口7と外周部4bの任意の点を結ぶ溝10aを切る。同様に、排出口8と外周部4bの任意の点を結ぶ溝10bを切る。
図2には、注入口7及び排出口8のそれぞれから、最も近い外周部に延伸するように溝10a、10bを形成した例を示している。中板に切る溝の断面形状は、例えば、幅1〜5mm、深さ3〜6mmの四角形にできるがこれに限定されることは無い。溝の形状は、エアーと非圧縮性流体の流れを阻害せず、中板の強度に影響しない範囲であればどのような形状でも良い。
【0036】
以上のようにして、中板4に注入口7、排出口8、溝10a、10bを形成した後、
図1に示すように、剛性リング2の下端面に弾性膜3を貼り付け、かつ、剛性リング2の上端面と中板4の溝を形成した下端面4aとを結合することにより空間部5を形成する(
図3の103)。空間部5は、剛性リングとラバー膜のアセンブリ及び上記の中板を組み立てることにより形成してもよい。剛性リングの材質は、ウェーハの研磨中の金属不純物溶解を防止するために、セラミックスとすることが好ましい。
【0037】
続いて、空間部5の内部を減圧する(
図3のS104)。具体的には、排出口8とエジェクター(不図示)などの真空発生装置を連結し、真空発生装置を作動させることで、空間部5の内部を減圧することができる。なお、エジェクターの供給圧力は3MPa程度が好ましい。また、エジェクターを1分以上作動させれば、空間部5の内部を十分に減圧できる。これにより、中板4の下端面4aの少なくとも中心部と弾性膜3とが密着する。
【0038】
その後、排出口8を開けたまま、注入口7から非圧縮性流体6を注入する。非圧縮性流体6としては、安全性と利便性の観点から水を使用することが好ましい。また、流入速度は700ml/min〜900ml/min程度とすることが好ましい。
【0039】
このようにして、中板4の下端面4aの中心部と弾性膜3とが密着した状態で、非圧縮性流体6を空間部5に注入した場合、非圧縮性流体6は空間部5の内部を、
図4に示すように動く。まず、空間部5内に注入口7から非圧縮性流体6が注入される。続いて、非圧縮性流体6は、注入口7から外周部4bに向かって延伸する、すなわち、注入口7と空間部5の外周部をつないでいる溝10aを通って、中板4の外周部4bの下方、言い換えれば、空間部5の外周部に流れる(
図4の左上部)。
【0040】
このとき、
図4に示すように、注入口7が排出口8よりも下方に位置するように剛性リングに結合した中板4を傾けて載置した状態で非圧縮性流体6を空間部5に注入することが好ましい。すなわち、排出口8につながる溝10bの高さ位置が、注入口7につながる溝10aの高さ位置よりも低くなるように中板4を載置することが好ましい。また、具体的には、中板4に水平面からの傾きを5度程度与えることが好ましい。このように中板4を傾けて載置していれば、注入口7から入った非圧縮性流体6が溝10aを通って、外周部4bの空間に優先的に流れやすくなる。
【0041】
その後、非圧縮性流体6は、中板4の外周部4bに沿って流れ、空間部5の外周部を満たしていく(
図4の右上部)。このとき同時に、空間部5の外周部に存在するエアーが排出されていく。なお、中板4の中央部は減圧により中板4と弾性膜3が吸着した状態になっているので、非圧縮性流体6は流れない。
【0042】
ここで、本発明では、中板4として、下端面4aの形状が凸形状となっているものを用いることが好ましい。このような形状を有する中板4を使用すれば、より一層、非圧縮性流体6は中板4の外周部4bに沿って流れやすくなる。すなわち、空間部5内の非圧縮性流体6の流れをより制御しやすくなる。
【0043】
続いて、非圧縮性流体6は溝10bを通って、排出口8に到達する(
図4の左下部)。ここまでの非圧縮性流体6の動きにより外周部に残ったエアーはほぼ全て、効率良く排出される。なお、外周部4bの空間を非圧縮性流体6で置換できたか否かは、排出部8からエアーの代わりに非圧縮性流体6が排出され始めた時に、置換が完了したと判断できる。エアーの排出が完了した後、非圧縮性流体6の注入を続けたまま排出口8を閉じることで、中央部の弾性膜3と中板4が吸着した部分にも水が注入される(
図4の右下部)。その後、所望の封入量となるまで非圧縮性流体6を注入し、最後に注入口7を閉める。封入する非圧縮性流体の量は、注入量と排出量から計算することができるし、封入前後の研磨ヘッドの重量を測ることで管理することも可能である。
【0044】
以上のような手順で、研磨ヘッドを製造すれば、非圧縮性流体6を封入した空間部5に残留してしまうエアーの量を大幅に減らすことができる。従って、弾性膜のウェーハを保持する表面の形状が制御しやすく、平坦性の高いウェーハを再現性良く製造可能な本発明の研磨ヘッドを確実に製造することができる。
【0045】
また、このようにして製造した本発明の研磨ヘッド1は、例えば、
図5に示すような本発明の研磨装置20にて、ウェーハWの保持に使用できる。
図5に示すように、本発明の研磨装置20は、定盤23上に貼り付けられた研磨布22と、該研磨布22上に研磨剤25を供給するための研磨剤供給機構24と、ワークWを保持するための研磨ヘッドとして、上記した本発明の研磨ヘッド1を有する。この研磨ヘッド1は、不図示の加圧機構によって、定盤23に貼られた研磨布22にワークWを押圧できる構造になっている。
【0046】
そして、研磨剤供給機構24によって研磨剤25を研磨布22上に供給しながら、回転軸に連結された研磨ヘッド1の自転運動と定盤23の回転運動によって、ワークWの表面を摺接して研磨を行う。このような研磨装置20であれば、平坦性の高いウェーハを再現性良く製造できる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例)
図3に示したフローに従って、本発明の研磨ヘッドの製造方法により研磨ヘッドを製造した。この際、中板4として、下端面4aが凸形状、材質がSUS、直径が360mmの円板状の中板を使用した。中板に形成した溝10a、10bは、両方とも断面形状が幅3mm、深さ4.5mmの長方形となる溝とした。また、非圧縮性流体6として水を使用した。また、空間部への水の流入速度は800ml/minとした。
【0049】
(比較例1)
非圧縮性流体である水中で研磨ヘッドを組み立て、水を空間部に封入した研磨ヘッドを作製した。比較例1で作製した研磨ヘッドは、実施例1の研磨ヘッドと基本的な構造は同じであるが、中板の下端面の溝、注入口、排出口、及び蓋部は有していないものであった。
【0050】
(比較例2)
注入口から中板の外周部まで延伸する溝及び排出口から中板の外周部まで延伸する溝を形成することなく、減圧封入法により空間部に水を封入したこと以外、基本的に実施例1と同様に研磨ヘッドを製造した。
【0051】
実施例、比較例1、2について、作業性、エアー残留量、封入量制御性の評価を行った。
【0052】
ここで、作業性は研磨ヘッドの組み立て作業時間で評価し、5分以内を「良い」、5分以上を「悪い」と評価した。表1に示すように、減圧封入法を使用している実施例1及び比較例2は、大気中で研磨ヘッドを組みたてた状態で作業ができるため、非圧縮性流体内でヘッドを組み付ける方法に比べ、作業時間が少なく済んだ。なお、実施例の作業時間は、比較例2の1/3以下の時間であった。
【0053】
エアーの残留量は、面積換算で空間部の3%以内を「良い」、3%以上を「悪い」と評価した。その結果、水中組み立て方式の比較例1は残留したエアーが面積換算で0%であったので「良い」と評価した。また、本発明により製造された研磨ヘッドでは若干残留したエアーが見られたが、面積換算で1%程度であったため「良い」と評価した。なお、これは、ウェーハの研磨に悪影響を及ぼさない程度のエアーの残留量であった。一方で、比較例2の研磨ヘッドでは、残留したエアーは面積換算で20%であったため、「悪い」と評価した。
【0054】
封入量の制御性については、比較例1の水中組み立て方式では水の封入量の調整ができなかったので「悪い」と評価した。一方、実施例のような減圧注入法では水の封入量を、供給する非圧縮性流体の量で制御できるため、「良い」と評価した。比較例2の研磨ヘッドの場合、水の封入量を制御できても、残留エアーの影響で、所望の量の非圧縮性流体を封入できず、実際の研磨ヘッドのウェーハ保持部の形状が一定にならない。従って、評価を「実質的に悪い」と評価した。
【0055】
【表1】
【0056】
また、実施例、比較例1で製造した研磨ヘッドを
図5に示すような片面研磨装置の研磨ヘッドとして使用し、直径300mmのシリコン単結晶ウェーハを片面研磨した。このとき、研磨布として不織布を、研磨剤としてコロイダルシリカを砥粒として含むアルカリ系研磨液を使用した。また、定盤の回転速度は30rpm、研磨ヘッドの回転速度は30rpmとした。また、ウェーハに対する研磨ヘッドの押圧力は20kPaとした。
【0057】
以上の条件で、シリコン単結晶ウェーハを研磨し、その平坦性を評価した。その結果を表2に示す。平坦性の評価には、外周取代変化量の平均値を用いた。ここでいう外周取代変化量は、外周から中心にそれぞれ1mmと3mm移動した地点での取代の差を表しており、この値が小さいほど、外周部においても平坦に研磨できていることを表している。なお、比較例2は、エアーの残留体積が多いため、実施例や比較例1と同じ封入量にすると、ウェーハを正しくハンドリングできなかったため、外周取代変化量のデータを取得できなかった。
【0058】
【表2】
【0059】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0060】
1…本発明の研磨ヘッド、 2…剛性リング、 3…弾性膜、
4…中板、 4a…下端面、 4b…外周部、 5…空間部、
6…非圧縮性流体、 7…注入口、 8…排出口、
9…蓋部、 10a、10b…溝、
20…本発明の研磨装置、 22…研磨布、 23…定盤、
24…研磨剤供給機構、 25…研磨剤。