(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
異方性酸化マグネシウム粒子は、X線回折分析において、(200)に帰属されるピークの半価幅が0.15°以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の誘電体用樹脂組成物。
0℃〜80℃の温度範囲において、比誘電率の温度依存性が±100ppm/℃の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の誘電体用樹脂組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述のように、特許文献1〜6には、樹脂系の有機材料に無機材料粒子または無機材料繊維を分散することにより構成された誘電体用材料が記載されている。
【0012】
しかしながら、特許文献1〜6に開示されている誘電体材料においても、誘電特性は、未だ十分であるとは言い難い。特に、これらの文献に記載されている誘電体材料は、誘電損失が比較的大きいという問題がある。このため、現在においても、高周波数帯域において、比誘電率および誘電損失が十分に抑制された誘電体用樹脂組成物について、未だ大きな要望がある。
【0013】
特許文献7には、樹脂系の有機材料に等方性の形状を有する酸化マグネシウム粒子を分散することによって構成された低誘電率、低誘電正接を示す誘電体用樹脂組成物が記載されている。しかしながら、特許文献7に記載されている誘電体誘電体用樹脂組成物において、比誘電率の温度依存性、熱膨張係数、および熱伝導率は未だ十分であるとは言い難い。
【0014】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、1GHz以上の高周波数帯域において、比誘電率および誘電損失が十分に低く、比誘電率の温度依存性、熱膨張係数が十分に小さく、熱伝導率が高い誘電体用樹脂組成物を提供することを目的とする。また、本発明では、そのような誘電体用樹脂組成物を含む高周波誘電体デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明では、熱可塑性樹脂および/または熱硬化性樹脂中に分散された異方性酸化マグネシウム粒子を含む誘電体用樹脂組成物であって、前記異方性酸化マグネシウム粒子は、柱状、針状、またはそれらの束状の粒子形状であり、当該誘電体用樹脂組成物は、
12GH
zの周波数および25℃の温度において、比誘電率εが5以下であり、誘電正接tanδが5×10
−4以下であることを特徴とする誘電体用樹脂組成物が提供される。
【0016】
また、本発明による誘電体用樹脂組成物において、前記異方性酸化マグネシウム粒子は、平均アスペクト比が2以上500以下であっても良い。
【0017】
また、本発明による誘電体用樹脂組成物において、前記異方性酸化マグネシウム粒子は、100nm以上50μm以下の平均長軸寸法を有しても良い。
【0018】
また、本発明による誘電体用樹脂組成物において、前記異方性酸化マグネシウム粒子は、X線回折分析において、(200)に帰属されるピークの半価幅が0.15°以下であっても良い。
【0019】
また、本発明による誘電体用樹脂組成物において、前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂、ポリ環状オレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂
、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、フッ素化ポリイミド系樹脂、フッ素系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、芳香族ポリカーボネート系樹脂、サーモトロピック液晶ポリマー系樹脂、芳香族ポリサルホン系樹脂、および芳香族ポリエーテル系樹脂からなる群から選定された少なくとも1種を含んでも良い。
【0020】
また、本発明による誘電体用樹脂組成物において、前記熱硬化性樹脂は、トリアジン系樹脂、熱硬化性ポリフェニレンエーテル類
、スチレン系樹脂、ベンゾシクロブテン系樹脂、エポキシ系樹脂、および不飽和ポリエステル樹脂からなる群から選定された少なくとも1種を含んでも良い。
【0021】
本発明による誘電体用樹脂組成物では、0℃〜80℃の温度範囲において、比誘電率の温度依存性が±100ppm/℃の範囲内であっても良い。
【0022】
本発明による誘電体用樹脂組成物では、熱膨張係数が5ppm/℃〜90ppm/℃の範囲内であっても良い。
【0023】
本発明による誘電体用樹脂組成物では、熱伝導率が0.1W/m・K〜5.0W/m・Kの範囲内であっても良い。
【0024】
さらに、本発明では、1GHz以上の周波数帯域において使用される高周波誘電体デバイスであって、当該高周波誘電体デバイスは、回路基板、伝送線路、誘電体フィルタ、誘電体アンテナ、誘電体共振器、キャパシタ、インダクタ、埋設デバイス、およびマルチチップモジュールのいずれか一つであり、当該高周波誘電体デバイスは、前述のような誘電体用樹脂組成物を含むことを特徴とする高周波誘電体デバイスが提供される。
【0025】
ここで、本発明による高周波誘電体デバイスは、さらに導体を有し、該導体は、前記誘電体用樹脂組成物の表面または内部に配置されても良い。
【0026】
また、本発明では、1GHz以上の周波数帯域において使用される高周波誘電体デバイスであって、当該高周波誘電体デバイスは、凸レンズ、フレネルレンズ、および凹レンズのいずれかであり、当該高周波誘電体デバイスは、前述のような誘電体用樹脂組成物を含むことを特徴とする高周波誘電体デバイスが提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明では、1GHz以上の高周波数帯域において、比誘電率および誘電損失が十分に低く、比誘電率の温度依存性、熱膨張係数が十分に小さく、熱伝導率が高い誘電体用樹脂組成物を提供することができる。また、本発明では、そのような誘電体用樹脂組成物を含む高周波誘電体デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0030】
本発明では、熱可塑性樹脂および/または熱硬化性樹脂中に分散された異方性酸化マグネシウム粒子を含む誘電体用樹脂組成物であって、前記異方性酸化マグネシウム粒子は、柱状、針状、またはそれらの束状の粒子形状であり、当該誘電体用樹脂組成物は、1GHz以上の周波数および25℃の温度において、比誘電率εが5以下であり、誘電正接tanδが5×10
−4以下であることを特徴とする誘電体用樹脂組成物が提供される。
【0031】
前述のように、特許文献1〜6に記載の誘電体材料は、高周波帯域で使用されるデバイスへの適用を考慮した場合、未だ十分な誘電特性を有するとは言い難い。特に、これらの文献に記載されている誘電体材料は、誘電損失が比較的大きいという問題がある。
【0032】
さらに、特許文献7には、樹脂系の有機材料に等方性の形状を有する酸化マグネシウム粒子が充填された材料を分散することによって構成された誘電体用樹脂組成物が記載されている。しかしながら、比誘電率の温度依存性、熱膨張係数、および熱伝導率は未だ十分であるとは言い難い。
【0033】
これに対して、本発明の異方性の形状を有する酸化マグネシウム粒子を用いた誘電体用樹脂組成物は、1GHz以上の高周波帯域においても、有意に低い比誘電率、および有意に低い誘電損失を有し、比誘電率の温度依存性、熱膨張係数が十分に小さく、熱伝導率が高いため、高周波帯域で使用されるデバイスに対しても、十分に適用することができる。
【0034】
なお、一般に、材料の誘電損失は、誘電正接(tanδ)を用いて表される。誘電正接(tanδ)は、誘電体内を伝播する電気信号が熱に変換されることにより損失する量を表すパラメータである。従って、誘電正接(tanδ)が小さい材料ほど、電気信号の損失が少なくなり、信号伝達率が向上する。
【0035】
(本発明による誘電体用樹脂組成物の構成)
次に、本発明による誘電体用樹脂組成物に含まれる各材料について、詳しく説明する。
【0036】
(異方性酸化マグネシウム粒子)
本発明による誘電体用樹脂組成物は、無機物質として、異方性酸化マグネシウム粒子を含み、前記異方性酸化マグネシウム粒子は、柱状、針状またはそれらの束状の粒子形状である。
【0037】
ここで、本願において、「柱状」(の酸化マグネシウム粒子)とは、一方向にのみ長い辺をもつ粒子形状を意味する。また、柱状粒子において、最も長い辺の先が尖っている粒子形状を「針状」と定義する。さらに、これら柱状、針状粒子を1次粒子としたとき、それら1次粒子が集合した粒子形状を「束状」と定義する。
【0038】
ここで、粒子の最も長い辺を長軸寸法と称し、最も短い辺を短軸寸法と称する、さらに、それら長軸寸法と短軸寸法の比を粒子のアスペクト比と称する。
【0039】
なお、本願では、「平均アスペクト比」および「平均長軸寸法」を用いて、樹脂組成物中に含まれる異方性酸化マグネシウム粒子の寸法を規定する。ここで、「平均アスペクト比」は、樹脂組成物に含まれる100個以上の異方性酸化マグネシウム粒子のアスペクト比を計測し、得られた数値を小さい順に並べた際に、中央に位置する値(中央値)を意味する。同様に、「平均長軸寸法」は、樹脂組成物に含まれる100個以上の異方性酸化マグネシウム粒子の長軸寸法を計測し、得られた数値を小さい順に並べた際に、中央に位置する値(中央値)を意味する。
【0040】
異方性酸化マグネシウム粒子の平均アスペクト比は、特に限られないが、例えば、2以上500以下の範囲である。平均アスペクト比が2未満の場合、異方性形状を用いる効果を十分に得ることができない。
【0041】
また、異方性酸化マグネシウム粒子の平均長軸寸法は100nm以上50μm以下の範囲であることが好ましい。異方性酸化マグネシウム粒子の平均長軸寸法が100nm未満の場合、最終的に得られる誘電体用樹脂組成物のtanδが増加する懸念がある。また、平均長軸寸法が50μmを越えると、樹脂を加えて成形体を製造した時に、表面の平滑性が低下する可能性がある。
【0042】
なお、このような異方性酸化マグネシウム粒子の各種寸法は、走査型電子顕微鏡を用いて測定することができる。
【0043】
本発明による誘電体用樹脂組成物に使用される異方性酸化マグネシウム粒子は、いかなる方法で製造されたものであってもよい。例えば、異方性形状を有する炭酸マグネシウム粒子の焼成反応、異方性形状を有するオキシ硫酸マグネシウム粒子の焼成反応、金属マグネシウム蒸気の水蒸気による酸化反応、塩化マグネシウムを含む溶融塩の加水分解法、アルミニウムを用いた酸化マグネシウムの炭素熱還元法などの既知の方法を用いることができる。
【0044】
なお、本願において、異方性酸化マグネシウム粒子の結晶性は、異方性酸化マグネシウム粒子自身、または異方性酸化マグネシウム粒子を含む誘電体用樹脂組成物のX線回折分析により評価することができる。より具体的には、CuKα線での回折結果において、2θ≒42.9°の位置に現れる回折ピークの半価幅(ピーク高さの半分の高さにおける線幅)の値により、異方性酸化マグネシウム粒子の結晶性を判断することができる。なお、このピークは、異方性酸化マグネシウム粒子の(200)面に相当する。半価幅が狭いほど、異方性酸化マグネシウム粒子の結晶性は高くなる。例えば、0.15°以下であることが好ましい。
【0045】
異方性酸化マグネシウム粒子には、本発明の目的に反しない範囲で、表面処理を実施しても良い。
【0046】
(樹脂材料)
本発明では、誘電体用樹脂組成物に使用される樹脂材料として、熱可塑性樹脂および/または熱硬化性樹脂が使用される。
本発明による誘電体用樹脂組成物に使用される熱可塑性樹脂および/または熱硬化性樹脂の種類は、最終的に得られる誘電体用樹脂組成物が前述の比誘電率εおよび誘電正接(tanδ)を満たす限り、特に限られない。
【0047】
本発明による誘電体用樹脂組成物に使用される熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリ環状オレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、5−メチルペンテン樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、フッ素化ポリイミド系樹脂、フッ素系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、芳香族ポリカーボネート系樹脂、サーモトロピック液晶ポリマー系樹脂、芳香族ポリサルホン系樹脂、および芳香族ポリエーテル系樹脂が挙げられる。これらは、単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0048】
ちなみに、これらの熱可塑性樹脂は、いずれも、1GHz以上の周波数および25℃において、比誘電率が4以下であり、誘電正接が5×10
−3以下である。
【0049】
本発明による誘電体用樹脂組成物に使用される熱硬化性樹脂としては、例えば、トリアジン系樹脂、熱硬化性ポリフェニレンエーテル類、多官能スチレン系樹脂、ベンゾシクロブテン系樹脂、エポキシ系樹脂、および不飽和ポリエステル樹脂が挙げられる。これらは、単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0050】
ちなみに、これらの熱可塑性樹脂は、いずれも、1GHz以上の周波数および25℃において、比誘電率が4以下であり、誘電正接が5×10
−3以下である。
【0051】
前述の熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とは、混合して使用しても良い。
【0052】
(誘電体用樹脂組成物)
本発明による誘電体用樹脂組成物は、前述の樹脂材料中に、異方性酸化マグネシウム粒子を分散させることにより製造される。
【0053】
例えば、混練機または攪拌機等を用いて、樹脂材料中に異方性酸化マグネシウム粒子を直接分散させることにより、誘電体用樹脂組成物を製造しても良い。あるいは、樹脂材料を溶剤中に溶解させた後、この溶液に異方性酸化マグネシウム粒子を加えて混合しても良い。その後、溶剤を除去することにより、樹脂組成物が製造される。この他にも、各種方法で本発明による誘電体用樹脂組成物を製造することができる。
【0054】
なお、本発明による誘電体用樹脂組成物において、異方性酸化マグネシウム粒子の含有率は、5体積%以上90体積%未満であることが好ましい。
【0055】
異方性酸化マグネシウム粒子の含有率が5体積%未満の場合、十分に良好な特性が得られない場合がある。また、異方性酸化マグネシウム粒子の含有率が90体積%以上の場合、樹脂組成物の成形が難しくなる場合がある。
【0056】
本発明による誘電体用樹脂組成物には、本発明の目的に反しない範囲で、難燃剤、安定剤、可塑化剤、および/または強化剤等の添加剤をさらに加えても良い。
【0057】
本発明による誘電体用樹脂組成物の提供形態は、特に限られない。本発明による誘電体用樹脂組成物は、例えば、成形体の状態で提供しても良い。
【0058】
そのような成形体は、これに限られるものではないが、例えば、射出成形、プレス成形、真空プレス成形、押出成形、および注型成形等の公知の方法により、製造することができる。
【0059】
異方性形状の無機粒子を含む樹脂組成物では、無機粒子の異方性形状のため、無機粒子の含有率に加え、無機粒子の配向によっても、その特性が変化する場合がある。異なる成形方法を用いることにより、成形体内の粒子の配向を変化させることができ、それに応じて、樹脂組成物の特性を変化させることができる。
【0060】
本発明による誘電体用樹脂組成物は、比誘電率の温度依存性が小さいことが好ましい。本発明による誘電体用樹脂組成物を実際のデバイスに適用することを想定した場合、比誘電率が温度に対する影響を受けにくい方が、デバイスとして安定した特性を発揮することができるからである。例えば、本発明による誘電体用樹脂組成物は、0℃〜80℃の温度範囲において、比誘電率の温度係数が±100ppm/℃の範囲であってもよい。
【0061】
本発明による誘電体用樹脂組成物は、共振周波数の温度依存性が小さいことが好ましい。本発明による誘電体用樹脂組成物を実際のデバイスに適用することを想定した場合、共振周波数が温度に対する影響を受けにくい方が、デバイスとして安定した特性を発揮することができるからである。例えば、本発明による誘電体用樹脂組成物は、0℃〜80℃の温度範囲において、共振周波数の温度係数が±50ppm/℃の範囲であってもよい。
【0062】
本発明による誘電体用樹脂組成物は、熱膨張係数が小さいことが好ましい。本発明による誘電体用樹脂組成物は、以下に述べるように、導体(金属)や半導体部品と組み合わせて、各種高周波誘電体デバイスとして用いることができる。その際、金属や半導体と誘電体用樹脂組成物の間で熱膨張係数が大きく異なると、温度変化が与えられた場合に熱膨張係数の差異に由来するひずみが生じ、接合が剥がれてしまう等の不具合が生じるおそれがある。一般に、樹脂材料は、金属に比べて熱膨張係数が大きい。熱膨張係数の小さい異方性酸化マグネシウム粒子と複合化することにより、樹脂組成物の熱膨張係数を樹脂材料の値よりも小さくすることができる。
【0063】
例えば、本発明による誘電体用樹脂組成物は、5ppm/℃〜90ppm/℃の範囲の熱膨張係数を有しても良い。
【0064】
また、本発明による誘電体用樹脂組成物は、熱伝導率が大きいことが好ましい。
【0065】
前述のように、本発明による誘電体用樹脂組成物は、導体(金属)や半導体部品と組み合わせて、各種高周波誘電体デバイスとして用いることができる。そのようなデバイスを駆動させた場合、導体や半導体に発熱が生じる。発生した熱を効率的に散逸させることは、デバイスを安定して動作させる上で重要である。誘電体用樹脂組成物の熱伝導率が大きい場合、デバイスからより効果的に熱を散逸させることが可能になる。
【0066】
例えば、本発明による誘電体用樹脂組成物は、0.1W/m・K〜5.0W/m・Kの範囲の熱伝導率を有しても良い。
【0067】
(本発明による誘電体用樹脂組成物の適用例)
本発明による誘電体用樹脂組成物は、1GHz以上の周波数帯域で使用される各種高周波誘電体デバイスに適用することができる。
【0068】
そのような高周波誘電体デバイスには、例えば、回路基板、伝送線路、誘電体フィルタ、誘電体アンテナ、誘電体共振器、キャパシタ、インダクタ、埋設デバイス、およびマルチチップモジュール等が含まれる。
【0069】
以下、本発明による誘電体用樹脂組成物を有する高周波誘電体デバイスの一例について説明する。
【0070】
図1には、本発明による誘電体用樹脂組成物が適用された伝送線路の模式図(斜視図)を示す。伝送線路(マイクロストリップ線路)100において、両導体110、120の間に、本発明による誘電体用樹脂組成物180が配置されている。
【0071】
図2には、本発明による誘電体用樹脂組成物が適用された別の伝送線路の模式図(斜視図)を示す。伝送線路(コプレーナ線路)200において、上部導体210a、210b、210cと下部導体220の間に、本発明による誘電体用樹脂組成物280が配置されている。
【0072】
図3には、本発明による誘電体用樹脂組成物が適用されたさらに別の伝送線路の模式図(斜視図)を示す。伝送線路300(スロット線路)において、上部導体310a、310bと下部導体320の間に、本発明による誘電体用樹脂組成物380が配置されている。
【0073】
図4には、本発明による誘電体用樹脂組成物が適用された誘電体フィルタの模式図(斜視図)を示す。誘電体フィルタ(帯域透過フィルタ)400において、上部導体410a〜410dと下部導体420の間に、本発明による誘電体用樹脂組成物480が配置されている。
【0074】
図5には、本発明による誘電体用樹脂組成物が適用された誘電体アンテナの模式図(斜視図)を示す。誘電体アンテナ(パッチアンテナ)500において、給電点515を有する上部導体510と下部導体520の間に、本発明による誘電体用樹脂組成物580が配置されている。
【0075】
図6には、本発明による誘電体用樹脂組成物が適用された誘電体共振器の模式図(斜視図)を示す。誘電体共振器(リング共振器)600において、リング導体610と下部導体620の間に、本発明による誘電体用樹脂組成物680が配置されている。
【0076】
図7には、本発明による誘電体用樹脂組成物が適用されたキャパシタの模式図(上面図)を示す。キャパシタ(インターディジタルキャパシタ)700において、楔形導体710aおよび710bが本発明による誘電体用樹脂組成物780上に配置されている。
【0077】
図8には、本発明による誘電体用樹脂組成物が適用されたインダクタの模式図(上面図)を示す。インダクタ(スパイラルインダクタ)800において、スパイラル状の導体810aが本発明による誘電体用樹脂組成物880上に配置されている。
【0078】
図9には、本発明による誘電体用樹脂組成物が適用された多層基板の模式図(断面図)を示す。多層基板900は、本発明による誘電体用樹脂組成物980(980a〜980d)を複数積層することにより構成される。各誘電体用樹脂組成物980a〜980の表面、底面、および/または内部には、多層基板900の最表面に配置された半導体部品950と電気的に接合された配線910a、および半導体部品950と電気的に接合されていない配線910b等が設置される。
【0079】
前述のように、本発明による誘電体用樹脂組成物は、高周波帯域においても、有意に低い比誘電率、および有意に低い誘電損失を有する。
【0080】
従って、本発明による誘電体用樹脂組成物180〜980を備える高周波誘電体デバイス100〜900は、1GHz以上の高周波帯域においても、信号の伝送遅延および信号の損失が有意に抑制され、適正に作動させることができる。
【0081】
あるいは、本発明による誘電体用樹脂組成物が利用される高周波誘電体デバイスは、凸レンズ、フレネルレンズ、または凹レンズであっても良い。
【0082】
図10には、本発明による誘電体用樹脂組成物が適用された凸レンズの模式図(側面図)を示す。凸レンズ1000において、本発明による誘電体用樹脂組成物1080が利用されている。
【0083】
図11には、本発明による誘電体用樹脂組成物が適用されたフレネルレンズの模式図(側面図)を示す。フレネルレンズ1100において、本発明による誘電体用樹脂組成物1180が利用されている。
【0084】
図12には、本発明による誘電体用樹脂組成物が適用された凹レンズの模式図(側面図)を示す。凹レンズ1200において、本発明による誘電体用樹脂組成物1280が利用されている。
【0085】
なお、
図1〜
図12に示した高周波誘電体デバイスは、単なる一例であって、本発明による誘電体用樹脂組成物は、他の高周波誘電体デバイスに適用されても良い。
【実施例】
【0086】
以下、本発明による実施例について説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0087】
以下の方法で、異方性酸化マグネシウム粒子の合成を行った。
【0088】
(異方性酸化マグネシウム粒子Aの合成)
本発明において、異方性酸化マグネシウム粒子は、前述の非特許文献1を参考に調製した。まず、1Mの塩化マグネシウム水溶液中に1Mの炭酸ナトリウム水溶液を加え、5時間攪拌した。得られた合成物は蒸留水とエタノールを用いて洗浄し、乾燥器中にて80℃、5時間、乾燥を行い、前駆体となる異方性炭酸マグネシウム粒子を得た。その後、合成した異方性炭酸マグネシウム粒子を、電気炉中にて1200℃、5時間焼成し、異方性酸化マグネシウム粒子Aを得た。以下、異方性酸化マグネシウム粒子Aを「粒子A」と称する。
【0089】
図13には、粒子AのX線回折分析結果を示す。分析には、株式会社リガク製のX線回折装置RINT2550を使用した。
【0090】
粒子Aの形状の観察には、日立ハイテクノロジー製走査型電子顕微鏡S−4300を使用し、100個以上の粒子を観察した。
【0091】
以下の表1の「粒子A」の欄に、焼成温度、半価幅、平均長軸寸法、平均短軸寸法、および平均アスペクト比をまとめて示した。
【0092】
(異方性酸化マグネシウム粒子Bの合成)
前述の異方性酸化マグネシウム粒子Aと同様の方法で、異方性酸化マグネシウム粒子Bの合成を行った。ただし、異方性酸化マグネシウム粒子Bでは、異方性炭酸マグネシウム粒子を、電気炉中にて1600℃、1分間、焼成し異方性酸化マグネシウム粒子Bを得た。以下、異方性酸化マグネシウム粒子Bを「粒子B」と称する。粒子Bの評価・観察は粒子Aと同様の方法で行なった。
【0093】
図14には、粒子BのX線回折分析結果を示す。
【0094】
表1の「粒子B」の欄には、粒子Bの焼成温度、半価幅、平均長軸寸法、平均短軸寸法、および平均アスペクト比をまとめて示した。
【0095】
【表1】
【0096】
このようにして合成した異方性酸化マグネシウム粒子A、Bを用いて、次に、誘電体用樹脂組成物を調製した。
【0097】
(例1)
以下の方法で、誘電体用樹脂組成物の製造(以下、「サンプル1」と称する)、およびその特性を評価した。
【0098】
(サンプル1の製造)
熱可塑性樹脂として、アイソタクティックポリプロピレン(商品名:ノバテックPP MA3、日本ポリケム株式会社製)(以下、「iPP」と称する)を準備し、異方性酸化マグネシウム粒子には上記粒子Aを準備した。まず、5.0gのiPPを、150℃に加温した50mLのキシレンに溶解した。次に、この溶液中に2.25g(10vol%に相当)の粒子Aを投入し、1時間攪拌した。その後、混合物からキシレンを留去して固形物を得た。次に、真空加熱プレス成形機(井元製作所IMC−11FA型)を用いて、固形物を直径60mm×厚さ1mmの寸法にプレス成形した。これにより、板状試験片(サンプル1と称する)が製作された。以下の表1の「サンプル1」の欄には、例1において使用された樹脂、異方性酸化マグネシウム粒子の混合比をまとめて示した。
【0099】
【表2】
【0100】
(サンプル1の評価)
得られたサンプル1を用いて、比誘電率ε、誘電正接tanδ、比誘電率の温度係数、共振周波数の温度係数、熱膨張係数、および熱伝導率の各種特性を評価した。誘電特性(比誘電率ε、誘電正接tanδ、比誘電率の温度係数、共振周波数の温度係数)の測定はJIS R 1641に準拠し、12GHzの空洞共振器をネットワークアナライザ(Agilent社製8720ES Sパラメータ・ベクトル・ネットワーク・アナライザ)に接続し、空洞共振器で測定した。
【0101】
サンプル1の比誘電率および共振周波数の温度依存性は、同様の装置により、0℃と80℃における比誘電率と共振周波数を測定し、両者の差異を求めることで評価した。
【0102】
熱膨張係数の測定には、ブルカー・エイエックスエス株式会社製熱膨張計TD5200SAを用いた。
【0103】
熱伝導率の測定には、英弘精機株式会社製熱伝導率測定装置HC−110を用い、1枚法により実施した。
【0104】
前述の表2の「サンプル1」の欄には、比誘電率ε、誘電正接tanδ、比誘電率の温度係数、共振周波数の温度係数、熱膨張係数、および熱伝導率の各種測定結果をまとめて示した。
【0105】
(例2)
前述の例1の場合と同様の方法で、誘電体用樹脂組成物(以下、「サンプル2」と称する)を製造し、その特性を評価した。ただし、この例2では、粒子Aの混合量は、全体に対して20vol%とした。その他の製造条件は、例1の場合と同様である。得られたサンプル2を用いて、例1の場合と同様の方法で、比誘電率ε、誘電正接tanδ、比誘電率の温度係数、共振周波数の温度係数、熱膨張係数、および熱伝導率の各種特性を評価した。前述の表2の「サンプル2」の欄には、サンプル2の各種評価結果をまとめて示した。
【0106】
(例3)
前述の例1の場合と同様の方法で、誘電体用樹脂組成物(以下、「サンプル3」と称する)を製造し、その特性を評価した。ただし、この例3では、粒子Aの混合比は、全体に対して30vol%とした。その他の製造条件は、例1の場合と同様である。得られたサンプル3を用いて、例1の場合と同様の方法で、比誘電率ε、誘電正接tanδ、比誘電率の温度係数、共振周波数の温度係数、熱膨張係数、および熱伝導率の各種特性を評価した。前述の表2の「サンプル3」の欄には、サンプル3の各種評価結果をまとめて示した。
【0107】
(例4)
前述の例1の場合と同様の方法で、誘電体用樹脂組成物(以下、「サンプル4」と称する)を製造し、その特性を評価した。ただし、この例4では、粒子Aの混合量は、全体に対して40vol%とした。その他の製造条件は、例1の場合と同様である。得られたサンプル4を用いて、例1の場合と同様の方法で、比誘電率ε、誘電正接tanδ、比誘電率の温度係数、共振周波数の温度係数、熱膨張係数、および熱伝導率の各種特性を評価した。前述の表2の「サンプル4」の欄には、サンプル4の各種評価結果をまとめて示した。
【0108】
(例5)
前述の例1の場合と同様の方法で、誘電体用樹脂組成物(以下、「サンプル5」と称する)を製造し、その特性を評価した。ただし、この例4では、異方性酸化マグネシウム粒子として、粒子Bを用いた。粒子Bの混合量は、全体に対して10vol%とした。また、得られたサンプル5を用いて、例1の場合と同様の方法で、比誘電率ε、誘電正接tanδ、比誘電率の温度係数、共振周波数の温度係数、熱膨張係数、および熱伝導率の各種特性を評価した。前述の表2の「サンプル5」の欄には、サンプル5の各種評価結果をまとめて示した。
【0109】
(例6)
前述の例5の場合と同様の方法で、誘電体用樹脂組成物(以下、「サンプル6」と称する)を製造し、その特性を評価した。ただし、この例6では、粒子Bの混合量は、全体に対して20vol%とした。その他の製造条件は、例5の場合と同様である。得られたサンプル6を用いて、例1の場合と同様の方法で、比誘電率ε、誘電正接tanδ、比誘電率の温度係数、共振周波数の温度係数、熱膨張係数、および熱伝導率の各種特性を評価した。前述の表2の「サンプル6」の欄には、サンプル6の各種評価結果をまとめて示した。
【0110】
(例7)
前述の例5の場合と同様の方法で、誘電体用樹脂組成物(以下、「サンプル7」と称する)を製造し、その特性を評価した。ただし、この例7では、粒子Bの混合量は、全体に対して30vol%とした。その他の製造条件は、例5の場合と同様である。得られたサンプル7を用いて、例1の場合と同様の方法で、比誘電率ε、誘電正接tanδ、比誘電率の温度係数、共振周波数の温度係数、熱膨張係数、および熱伝導率の各種特性を評価した。前述の表2の「サンプル7」の欄には、サンプル7の各種評価結果をまとめて示した。
【0111】
(例8)
前述の例5の場合と同様の方法で、誘電体用樹脂組成物(以下、「サンプル8」と称する)を製造し、その特性を評価した。ただし、この例8では、粒子Bの混合量は、全体に対して40vol%とした。その他の製造条件は、例5の場合と同様である。得られたサンプル8を用いて、例1の場合と同様の方法で、比誘電率ε、誘電正接tanδ、比誘電率の温度係数、共振周波数の温度係数、熱膨張係数、および熱伝導率の各種特性を評価した。前述の表2の「サンプル8」の欄には、サンプル8の各種評価結果をまとめて示した。
【0112】
表2に示すように、今回製造した誘電体用樹脂組成物(サンプル1〜サンプル8)は、いずれも、5以下の低い比誘電率ε、および5.0×10
−4よりも低い誘電正接tanδを有し、高周波誘電体デバイス等に好適に用いることができる。
【0113】
また、サンプル1〜サンプル8は、いずれも、比誘電率の温度依存性が小さく(±100ppm/℃以下)、共振周波数の温度係数の絶対値が小さく(最大14ppm/℃)、熱膨張係数が小さい(最大90ppm/℃)ことがわかった。特に、異方性酸化マグネシウム粒子の添加量の増加とともに、これらのパラメータの減少が顕著になることがわかる。
【0114】
比誘電率の温度係数の絶対値および共振周波数の温度係数の絶対値が小さい誘電体用樹脂組成物は、使用中に温度が上昇しても誘電特性が変化しにくいため、安定な誘電特性を発揮することができる。同様に、熱膨張係数が小さい誘電体用樹脂組成物は、使用中に温度が上昇しても変形が生じにくく、安定な誘電特性を発揮することができ、また、金属や半導体との熱膨張係数の差が小さいことから、接合部の剥がれ等の不具合を防ぐことができる。