【実施例】
【0048】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0049】
(実施例1)
(金属ナノ粒子(ニッケルナノ粒子)複合体の作製)
Y型ゼオライト(和光純薬(株)製,商品名:合成ゼオライトHS−320粉末ナトリウムY、SiO
2/Al
2O
3=5.5)を、真空中において、600℃で20時間、熱処理し、吸着水を除去した。
【0050】
次いで、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、乾燥後のゼオライト500mgと有機ニッケル錯体であるビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)(Ni(C
5H
5)
2、SIGMA−ALDRICH製、商品名:Bis(cyclopentadienyl)nickel(II))22mgとを、乳鉢を使用して均一に混合した。
【0051】
次いで、Y型ゼオライトとビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)との混合体を、反応容器である石英製の試験管(外径:12mm、内径:10mm、長さ:100mm)に入れ、この試験管の内部を5〜7Paの圧力に減圧した後、試験管を密封した。
【0052】
次いで、この試験管を130℃で5時間、加熱することにより、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)を昇華させて、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)をゼオライトの細孔内に吸着させた。
【0053】
次いで、360nmの波長における照度が12mW/cm
2であるキセノンランプを紫外線の光源として、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)が吸着したゼオライトに対して、72時間、紫外線を照射して、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)の有機成分を分解し、ニッケルイオンをゼオライトの細孔内に定着させた。なお、紫外線照射中、12時間毎に、試料管を振とうして、試料の混合を行った。
【0054】
次いで、紫外線が照射されたゼオライトを、水素雰囲気下において、400℃で、1時間で加熱処理することにより、ゼオライトの細孔に定着させたニッケルイオンをニッケルに還元して、ゼオライトの細孔にニッケルナノ粒子が担持されたニッケルナノ粒子複合体を作製した。
【0055】
そして、本実施例で得られたニッケルナノ粒子複合体を、加速電圧が200kVの透過型電子顕微鏡(日本電子(株)製、商品名:JEM−2010)により観察した。得られた電子顕微鏡写真(TEM写真)を
図1に示す。
【0056】
図1に示すように、ニッケルナノ粒子は、ゼオライト中に均一に分散しており、その粒子径は5nm以下であることが判る。
【0057】
また、後述のごとく、ニッケルナノ粒子複合体におけるニッケルの含有量(充填量)を測定したところ、1.9%(重量%)であった。
【0058】
(実施例2)
上述の有機ニッケル錯体であるビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)の使用量を82mgに変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、ニッケルナノ粒子複合体を作製した。
【0059】
なお、後述のごとく、ニッケルナノ粒子複合体におけるニッケルの含有量を測定したところ、5.9%であった。
【0060】
(比表面積及び細孔容積評価)
次に、実施例1〜2で得られたニッケルナノ粒子複合体におけるゼオライトの比表面積及び細孔容積を算出した。より具体的には、蒸気吸着装置(日本ベル(株)製,商品名:BELSORP 18SP)を使用して、77Kにおける窒素吸脱着測定を行うとともに、BET法を用いた解析により評価した。なお、前処理として、ニッケルナノ粒子複合体を、真空中において、300℃で24時間、加熱した。
【0061】
また、参考用として、本実施例において使用したY型ゼオライトについても、同様に、比表面積及び細孔容積を算出した。以上の結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示すように、実施例1〜2で得られたニッケルナノ粒子複合体においては、参考用のゼオライトと比較して、ゼオライトの比表面積及び細孔容積が減少していることが判る。即ち、実施例1〜2で得られたニッケルナノ粒子複合体において、ニッケルナノ粒子がゼオライトの細孔内に存在することが示唆された。
【0064】
(比較例1)
一般的な含浸法により、ニッケルを担持したゼオライトを作製した。より具体的には、まず、塩化ニッケル(II)六水和物(SIGMA−ALDRICH製)0.063gを、20mlのイオン交換水に溶解した。
【0065】
次いで、調製した塩化ニッケル水溶液に、Y型ゼオライト(和光純薬(株)製,商品名:合成ゼオライトHS−320粉末ナトリウムY、SiO
2/Al
2O
3=5.5)を1g添加し、ホットスターラーで攪拌しながら、加熱して乾燥させた。
【0066】
次いで、得られた粉末を、アルミナボートに乗せ、大気中において、400℃で3時間熱処理して、比較例1の試料を得た。さらに、得られた試料を還元するため、水素雰囲気下において、400℃で、30分間加熱した。
【0067】
次いで、還元後の試料を、上述の透過型電子顕微鏡により観察した。得られた電子顕微鏡写真(TEM写真)を
図2、
図3に示す。
【0068】
図2に示すように、比較例1のニッケル粒子は、ゼオライト上で凝集しており、その粒子径は5nmよりも大きく、特に、
図3に示すように、粒子径が50nmよりも大きい粗大化したものも存在することが判る。
【0069】
なお、後述のごとく、ニッケルを担持したゼオライトにおけるニッケルの含有量を測定したところ、2.2%であった。
【0070】
(比較例2)
上述の塩化ニッケル(II)六水和物の使用量を0.156gに変更したこと以外は、上述の比較例1と同様にして、ニッケルを担持したゼオライトを作製した。
【0071】
なお、後述のごとく、ニッケルを担持したゼオライトにおけるニッケルの含有量を測定したところ、5.7%であった。
【0072】
(比表面積及び細孔容積評価)
また、比較例1〜2において、実施例1〜2と同様にして、還元後の試料の比表面積及び細孔容積評価を行った。以上の結果を表1に示す。表1に示すように、比較例1〜2で得られた試料におけるゼオライトの比表面積及び細孔容積は、参考用のゼオライトの比表面積及び細孔容積と同程度であることから、ニッケル粒子はゼオライトの外表面に存在することが示唆された。
【0073】
そして、ゼオライトの外表面においては、ゼオライトの細孔内と比較して、ニッケル粒子が自由に移動できるため、比較例1においては、加熱により、ニッケル粒子が互いに付着して固まり、凝集及び焼結が生じ、
図2、
図3に示すように粗大化したものと考えられる。
【0074】
また、表1に示すように、実施例1〜2で得られたニッケルナノ粒子複合体においては、参考用のゼオライトと比較して、ニッケル含有量の増加に伴い、細孔容積が顕著に小さくなっているが、比較例1〜2で得られたニッケルを担持したゼオライトにおいては、ニッケル含有量が増加した場合であっても、細孔容積が殆ど変化しておらず、参考用のゼオライトと同程度の細孔容積となっていることが判る。
【0075】
これは、実施例1〜2で得られたニッケルナノ粒子複合体においては、ゼオライトの細孔がニッケル粒子によって占有されているため、細孔容積が小さくなっているが、比較例1〜2で得られたニッケルを担持したゼオライトにおいては、ゼオライトの外表面にニッケル粒子が存在するため、ニッケルが付着していない表面から、窒素がゼオライトの内部に侵入し、この窒素が、ゼオライト内部を自由に拡散することができるため、細孔容積が殆ど変化していないものと考えられる。
【0076】
以上より、実施例1〜2で得られたニッケルナノ粒子複合体において、ニッケルナノ粒子がゼオライトの細孔内に存在することが推測された。
【0077】
(比較例3)
上述の特許文献1に記載の方法により、ニッケルを担持したゼオライトを作製した。より具体的には、まず、X型ゼオライト(SIGMA−ALDRICH製,商品名:Molecular Sieves13X)100gを1Mの酢酸アンモニウム水溶液(SIGMA−ALDRICH製)1000ml中に添加し、室温において、24時間、攪拌することにより、ゼオライト中のナトリウムイオンをアンモニウムイオンと交換した。
【0078】
次いで、カチオンの一部をニッケルイオンと交換するために、水洗、乾燥を行った後、得られた粉末10gを0.01Mの塩化ニッケル水溶液(SIGMA−ALDRICH製)1000ml中に添加し、室温において、24時間、攪拌した。
【0079】
次いで、イオン交換後に水洗、乾燥したゼオライト0.4gを、大気中において、200℃(昇温速度:10℃/分)で4時間、熱処理することにより、比較例3の試料を得た。さらに、得られた試料を還元するため、水素雰囲気下において、400℃で、30分間加熱した。
【0080】
次いで、還元後に得られた試料を、上述の透過型電子顕微鏡により観察した。得られた電子顕微鏡写真(TEM写真)を
図4に示す。
【0081】
図4に示すように、比較例3のニッケル粒子は、ゼオライト上で凝集しており、粒子径が10nm〜20nmである粗大化したニッケル粒子が存在することが判る。
【0082】
(エタノールの水蒸気改質反応における触媒性能評価)
次いで、固定床流動型の反応装置を使用して、実施例1で得られたニッケルナノ粒子複合体によるエタノールの水蒸気改質反応(反応時間:6時間)を行い、実施例1で得られたニッケルナノ粒子複合体の触媒性能を評価した。
【0083】
より具体的には、石英製の反応管(外径:12mm、内径:10mm)に、石英ウール50mgを設置し、その上に、触媒としてのニッケルナノ粒子複合体100mgを充填した。
【0084】
次いで、3%の水素気流(流量:30ml/分、残りはアルゴン)中で、試料を400℃で1時間、還元した後、アルゴンで装置内を置換した。
【0085】
次いで、200℃で蒸気化した15重量%のエタノール水溶液を、40.5/時の質量空間速度で供給し、試料を400℃に保持した状態で、キャリアガスとしてのアルゴンを10ml/分で流通させた。
【0086】
次いで、冷却トラップ(0℃)を使用して、反応後のガスに含まれる水分を除去し、熱伝導度検出器を備えたガスクロマトグラフ(島津製作所(株)製、商品名:GC−14B,カラム:島津製作所(株)製、商品名:Shincarbon−ST、2m)を使用して、生成ガスの組成を分析し、水素とエチレンの生成を確認した。
【0087】
次いで、下記式(1)を使用して、供給したエタノールに対する上記生成物(水素、エチレン)の比率(生成効率)を算出し、触媒性能評価を行った。以上の結果を
図5に示す。
【0088】
なお、エタノールの水蒸気改質反応を行った後のニッケルナノ粒子複合体の電子顕微鏡写真(TEM写真)を
図7に示す。
図7に示すように、水蒸気改質反応後のニッケルナノ粒子は、
図1に示すニッケルナノ粒子と同様に、ゼオライト中に均一に分散しており、分散性に変化は見られなかった。
【0089】
【数1】
【0090】
また、同様にして、比較例3で得られたニッケルを担持したゼオライトよるエタノールの水蒸気改質反応を行い、比較例3で得られたニッケルを担持したゼオライトの触媒性能を評価した。なお、この場合、エタノール水溶液を、30.9/時の質量空間速度で供給した。以上の結果を
図6に示す。
【0091】
ここで、下記式(2)で示すエタノールの水蒸気改質反応の素反応として、下記式(3)で示す金属触媒の作用によるエタノールの脱水素反応が促進されるとともに、水素の生成を阻害する競争反応として、下記式(4)で示す酸触媒の作用によるエタノールの脱水反応が促進される。
【0092】
【化1】
【0093】
【化2】
【0094】
【化3】
【0095】
そして、水蒸気改質反応を水素製造技術として用いる場合、式(4)に示す脱水反応によって生じたエチレンがコークス化し、触媒被毒の原因となるため、式(4)に示す脱水反応の選択性は低い方が好ましいと言える。
【0096】
実施例1で得られたニッケルナノ粒子複合体を触媒として使用した場合、
図5に示すように、主生成物として水素が得られており、式(3)で示す金属触媒の作用によるエタノールの脱水素反応の選択性が高いことが判る。
【0097】
一方、比較例3で得られたニッケルを担持したゼオライトを触媒として使用した場合、
図6に示すように、主生成物としてエチレンが得られており、式(4)で示す酸触媒の作用によるエタノールの脱水反応の選択性が高いことが判る。
【0098】
即ち、比較例3のニッケルを担持したゼオライトにおいては、上述のごとく、アンモニウムイオンの分解により生じた水素イオンが強い酸点として作用して、ニッケルと酸点の両方の触媒特性が混在するとともに、ニッケルよりも強く触媒として作用する酸点が多く混在するため、反応の選択性が低下してしまい、ニッケル触媒としての用途が限定されるが、実施例1においては、ニッケルナノ粒子が有する触媒特性のみを発揮することが可能になるため、反応の選択性に優れたニッケルナノ粒子複合体を提供することができることが判る。
【0099】
(ニッケル含有量評価)
次に、実施例1〜2、及び比較例1〜3で得られた各試料におけるニッケル含有量を測定した。より具体的には、まず、各試料に含まれる有機物やアニオンを除去するために、各試料を大気中において、600℃で3時間加熱した。
【0100】
次いで、蛍光X線分析装置(RIGAKU(株)製、商品名:ZSX PrimusII)を使用して、実施例1、及び比較例1、2で得られた各試料におけるニッケル含有量を測定した。以上の結果を表2に示す。
【0101】
【表2】
【0102】
表2に示すように、実施例1のニッケルナノ粒子複合体におけるニッケル含有量は、比較例3のニッケルを担持したゼオライトにおけるニッケル含有量の約4分の1であるにもかかわらず、水素の生成効率は同程度である(
図5、
図6参照)ことから、実施例1のニッケルナノ粒子複合体におけるニッケル粒子の単位重量当たりの水素生成効率は、比較例2のニッケルを担持したゼオライトにおけるニッケル粒子の約4倍であることが判る。
【0103】
また、表2に示すように、実施例1のニッケルナノ粒子複合体におけるニッケル含有量は、比較例1のニッケルを担持したゼオライトにおけるニッケル含有量と同程度であるが、上述のごとく、実施例1のニッケル粒子の粒子径は5nm以下であるのに対し、比較例1のニッケル粒子においては、粒子径が50nmよりも大きいものが存在しており、ニッケル粒子の粒子径に顕著な差が見られた。従って、実施例1のニッケル粒子の熱安定性(高温における分散性)は、一般的な含浸法により作製した比較例1のニッケル粒子の熱安定性と比較して、極めて優れていることが判る。
【0104】
(紫外線照射の効果)
次に、有機ニッケル錯体に紫外線を照射した場合の、有機化合物の構造変化について評価した。より具体的には、有機ニッケル錯体であるビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)を、反応容器である石英製の試験管(外径:12mm、内径:10mm、長さ:100mm)に入れ、この試験管の内部を5〜7Paの圧力に減圧した後、試験管を密封した。次いで、360nmの波長における照度が12mW/cm
2であるキセノンランプを紫外線の光源として、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)に対して、72時間、紫外線を照射して、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)の有機成分を分解した。なお、紫外線照射中、12時間毎に、試料管を振とうして、試料の混合を行った。
【0105】
次いで、紫外線照射前後のビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)をそれぞれ臭化カリウムで10質量%に希釈し、赤外分光法(Spectrum One, Perkin Elmer, USA)により有機金属錯体の有機化合物の構造を評価した。なお、測定装置として、赤外分光計(PerkinElmer(株)製、商品名:Spectrum One)を使用した。得られたIRスペクトルデータのグラフを
図9に示す。
【0106】
図9に示すように、紫外線の照射により、C−H伸縮振動に由来するピーク(3095、及び3082cm
−1付近)とC=C伸縮振動に由来する吸収ピーク(1670cm
−1付近)の強度が減少していることが判る。一方、紫外線の照射により、O−H伸縮振動に由来するピーク(3643cm
−1付近)、CH
2,CH
3伸縮振動に由来するピーク(2845及び2950cm
−1付近)が出現していることが判る。以上より、紫外光照射により、有機金属錯体の有機化合物の構造が変化することが確認された。
【0107】
なお、比較例として、紫外線照射を行わず、水素雰囲気で還元することにより、ニッケルを担持したゼオライトを作製した。より具体的には、上述の、キセノンランプを紫外線の光源とする紫外線の照射を行わなかったこと以外は、上述の実施例1と同様にして試料を作製した。
【0108】
次いで、作製した試料を、上述の透過型電子顕微鏡により観察した。得られた電子顕微鏡写真(TEM写真)を
図10〜
図12に示す。
【0109】
図10に示すように、比較例の試料においては、紫外線照射を行わない場合においても、直径5nm以下で高分散した状態のニッケルナノ粒子が得られるが、
図11に示すように、ニッケルが全く存在しない部分や、
図12に示すように、粗大化した粒子が存在することから、比較例の試料においては、実施例1のニッケルナノ粒子複合体に比し、ニッケル粒子の分散性が不均質であることが判る。
【0110】
これは、実施例1のニッケルナノ粒子複合体においては、紫外光照射により、有機金属錯体が部分的に分解され、ゼオライトの細孔内に定着しているのに対し、紫外光を照射していない比較例の試料では、有機金属錯体がゼオライトの細孔内に定着していないため、分解還元工程の加熱により有機金属錯体の一部が細孔から脱離した結果、分散性が不均質になったものと考えられる。
【0111】
(アンモニア分解反応における触媒性能評価)
次いで、定容積の反応容器を使用して、実施例1で得られたニッケルナノ粒子複合体によるアンモニア分解反応を行い、実施例1で得られたニッケルナノ粒子複合体の触媒性能を評価した。
【0112】
また、比較例として、一般的な含浸法により、ニッケルを担持したゼオライト(比較例1で得られた試料)、ニッケルを担持したアルミナ(Al
2O
3)、及びルテニウムを担持したゼオライトを作製した。
【0113】
より具体的には、まず、塩化ニッケル(II)六水和物(SIGMA−ALDRICH製)0.130gを、25mlのイオン交換水に溶解した。次いで、調製した塩化ニッケル水溶液25mlに、アルミナ(Aldrich製,商品名:Aluminum Oxide nanopowder, <50 nm particle size (TEM))を2.500g添加し、ホットスターラーで攪拌しながら、加熱して乾燥させた。
【0114】
次いで、得られた粉末を、アルミナボートに乗せ、大気中において、400℃で3時間熱処理して、比較例であるニッケルを担持したアルミナ(Al
2O
3)の試料を得た。さらに、得られた試料を還元するため、水素雰囲気下において、400℃で、60分間加熱した。
【0115】
また、塩化ニッケル(II)六水和物の代わりに、塩化ルテニウム(SIGMA−ALDRICH(株)製,商品名:塩化ルテニウム(III))を0.061gと、アルミナの代わりにY型ゼオライト(和光純薬(株)製,商品名:合成ゼオライトHS−320粉末ナトリウムY、SiO
2/Al
2O
3=5.5)を1.000g使用したこと以外は、同様にして、比較例であるルテニウムを担持したゼオライトの試料を得た。
【0116】
更に、比較例として、市販のルテニウムを担持した活性炭(和光純薬(株)製、ルテニウム5%)を使用した。
【0117】
次いで、下記式(5)で示すアンモニアの熱分解反応において、実施例1で得られたニッケルナノ粒子複合体、及び上述の比較例として用意した各試料を触媒として使用するとともに、下記式(6)を使用してアンモニアの転化率を算出し、触媒性能評価を行った。以上の結果を
図13に示す。
【0118】
なお、アンモニアの熱分解反応は、定容積の密閉反応器で行った。より具体的には、まず、インコネル製の試料管(外径:12mm、内径:10mm)に実施例1で得られたニッケルナノ粒子複合体(または、上述の比較例として用意した各試料)100mgを充填し、真空中で500℃となるように加熱した。次に、試料温度が500℃で安定した後、アンモニアを0.100MPa充填し、反応の進行に伴う圧力の変化を、24時間、測定した。
【0119】
ここで、分解反応では、2モルのアンモニアを消費して、合計で4モルの気体(即ち、3モルの水素と1モルの窒素)が生成するため、分解反応によって、2モル(4モル−2モル)の気体が増え、結果として、圧力が増加する。即ち、転化したアンモニアと同等の分だけ圧力が増加するため、転化率は下記式(6)により算出されることになる。
【0120】
【化4】
【0121】
【数2】
【0122】
図13に示すように、実施例1で得られたニッケルナノ粒子複合体は、一般的な含浸法により担持したニッケル粒子に比し、非常に優れた触媒性能を有するとともに、含浸法によりゼオライトに担持したルテニウム触媒に近い性能を示すことが判った。
【0123】
また、アンモニアの分圧が1から0.9に下がるまでの初期段階におけるアンモニア分解速度(反応速度定数)を算出した。なお、反応速度定数は、アンモニア分圧の減少曲線の傾きをOriginPro 8J SR1 v8.0773 (OriginLab Corporation(株)製)を用いて、指数関数の反応速度式(Y=Y
0+Aexp(-kT))に当てはめてフィッティングし、平衡定数kを求めた。以上の結果を表3に示す。
【0124】
【表3】
【0125】
表3に示すように、実施例1で得られたニッケルナノ粒子複合体は、一般的な含浸法により担持したニッケル粒子に比し、約5〜10倍の分解速度を示していることが判る。
【0126】
(長期間使用による安定性評価)
実施例1で得られたニッケルナノ粒子複合体を触媒として使用し、上述のアンモニア分解反応における触媒性能評価を5回繰り返し、長期間の使用による安定性を評価した。なお、各試験の間、試料を室温まで冷却した後、システム内をアルゴンで置換した。以上の結果を
図14に示す。
【0127】
図14に示すように、実施例1で得られたニッケルナノ粒子複合体を触媒として使用した場合は、アンモニア分解反応を繰り返し行った場合であっても、優れた触媒活性が維持できることが判った。
【0128】
また、実施例1で得られたニッケルナノ粒子複合体を触媒として使用して、上述のアンモニア分解反応を1回行った後の、ニッケルナノ粒子複合体の電子顕微鏡写真(TEM写真)を
図15に示すとともに、上述のアンモニア分解反応を7回行った後の、ニッケルナノ粒子複合体の電子顕微鏡写真(TEM写真)を
図16に示す。
【0129】
図15、
図16から判るように、実施例1で得られたニッケルナノ粒子複合体においては、アンモニア分解反応を繰り返した後であっても、ニッケルナノ粒子の大部分が、ゼオライト中に均一に分散した状態が維持されており、その粒子径は5nm以下であることが判る。即ち、実施例1で得られたニッケルナノ粒子複合体は、長期使用に耐えることができ、極めて高い熱安定性を有していることが判る。
【0130】
(実施例3)
(コバルトナノ粒子複合体の作製)
Y型ゼオライト(和光純薬(株)製,商品名:合成ゼオライトHS−320粉末ナトリウムY、SiO
2/Al
2O
3=5.5)を、真空中において、600℃で20時間、熱処理し、吸着水を除去した。
【0131】
次いで、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、乾燥後のゼオライト200mgと有機コバルト錯体であるビス(シクロペンタジエニル)コバルト(II)(Co(C
5H
5)
2、SIGMA−ALDRICH製、商品名:Bis(cyclopentadienyl)cobalt(II))9mgとを、乳鉢を使用して均一に混合した。
【0132】
次いで、Y型ゼオライトとビス(シクロペンタジエニル)コバルト(II)との混合体を、反応容器である石英製の試験管(外径:12mm、内径:10mm、長さ:100mm)に入れ、この試験管の内部を5〜7Paの圧力に減圧した後、試験管を密封した。
【0133】
次いで、この試験管を130℃で8時間、加熱することにより、ビス(シクロペンタジエニル)コバルト(II)を昇華させて、ビス(シクロペンタジエニル)コバルト(II)をゼオライトの細孔内に吸着させた。
【0134】
次いで、減圧状態で密封した試験管を大気中で開封し、試験管内を大気に晒した。
【0135】
次いで、360nmの波長における照度が12mW/cm
2であるキセノンランプを紫外線の光源として、ビス(シクロペンタジエニル)コバルト(II)が吸着したゼオライトに対して、72時間、紫外線を照射して、ビス(シクロペンタジエニル)コバルト(II)の有機成分を分解し、コバルトイオンをゼオライトの細孔内に定着させた。
【0136】
次いで、紫外線が照射されたゼオライトを、水素雰囲気下において、400℃で、1時間、加熱処理することにより、ゼオライトの細孔に定着させたコバルトイオンをコバルトに還元して、ゼオライトの細孔にコバルトナノ粒子が担持されたコバルトナノ粒子複合体を作製した。
【0137】
そして、本実施例で得られたコバルトナノ粒子複合体を、加速電圧が200kVの透過型電子顕微鏡(日本電子(株)製、商品名:JEM−2010)により観察した。得られた電子顕微鏡写真(TEM写真)を
図17〜
図19に示す。
【0138】
図17に示すように、還元後に粗大な粒子が形成されておらず、また、
図18〜
図19に示すように、コバルトナノ粒子は、ゼオライト中に均一に分散しており、その粒子径は5nm以下であることが判る。