特許第6284197号(P6284197)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6284197金属ナノ粒子複合体の製造方法およびその方法により製造された金属ナノ粒子複合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284197
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】金属ナノ粒子複合体の製造方法およびその方法により製造された金属ナノ粒子複合体
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/02 20060101AFI20180226BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20180226BHJP
   B01J 37/18 20060101ALI20180226BHJP
   B01J 37/34 20060101ALI20180226BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20180226BHJP
   B01J 29/14 20060101ALI20180226BHJP
   B22F 9/30 20060101ALN20180226BHJP
【FI】
   B01J37/02 301M
   B01J37/08
   B01J37/18
   B01J37/34
   B01J35/10 301G
   B01J29/14 M
   !B22F9/30 Z
【請求項の数】7
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-549783(P2014-549783)
(86)(22)【出願日】2013年11月1日
(86)【国際出願番号】JP2013006491
(87)【国際公開番号】WO2014083772
(87)【国際公開日】20140605
【審査請求日】2016年10月28日
(31)【優先権主張番号】特願2012-263374(P2012-263374)
(32)【優先日】2012年11月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井野川 人姿
(72)【発明者】
【氏名】宮岡 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】小島 由継
(72)【発明者】
【氏名】市川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】三宅 通博
(72)【発明者】
【氏名】亀島 欣一
(72)【発明者】
【氏名】西本 俊介
【審査官】 延平 修一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−240557(JP,A)
【文献】 特開2010−240641(JP,A)
【文献】 特開2008−212872(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0221418(US,A1)
【文献】 L. STIEVANO et al.,Synthesis and Characterisation of Highly Dispersed Ni/SiO2 Catalysts Prepared by Gas-Phase Impregnation/Decomposition(GPI/D) ofa Ni(II) β-Diketonate Precursor Complex,Catalysis Letters,2005年 4月,vol.100 nos.3-4,pages 169-176
【文献】 R. MOLINA et al.,α-Alumina-Supported Nickel Catalysts Prepared with Nickel Acetylacetonate. 2. A Study ofthe Thermolysis of the Metal Precursor,J. Phys. Chem. B,1999年12月 4日,Volume 103, No.51,pages 11290-11296
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
B22F 9/30
Science Direct
ACS PUBLICATIONS
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔体の細孔に金属ナノ粒子が担持された金属ナノ粒子複合体の製造方法であって、
有機金属錯体を前記多孔体の細孔内に吸着させる吸着工程と、
前記細孔内に前記有機金属錯体が吸着した前記多孔体に対して、紫外線を照射することにより、前記多孔体の細孔内に吸着させた前記有機金属錯体の有機化合物を分解する分解工程と、
前記細孔内に前記有機金属錯体が吸着した前記多孔体に対して、還元雰囲気下において、加熱処理を行うことにより、前記多孔体の細孔内に吸着させた前記有機金属錯体の有機化合物を分解すると共に、前記有機金属錯体における金属カチオンを還元して、多孔体の細孔に金属ナノ粒子を担持させる分解還元工程と
を少なくとも備え、
前記分解還元工程において、加熱処理温度が300〜500℃であり、
前記金属ナノ粒子の平均粒子径が1〜5nmであることを特徴とする金属ナノ粒子複合体の製造方法。
【請求項2】
前記分解工程において、前記紫外線の照度が、360nmの波長において1〜1000mW/cmであることを特徴とする請求項1に記載の金属ナノ粒子複合体の製造方法。
【請求項3】
前記吸着工程において、処理時間が1〜24時間であることを特徴とする請求項1または請求項に記載の金属ナノ粒子複合体の製造方法。
【請求項4】
前記分解還元工程において、加熱処理時間が0.5〜2時間であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子複合体の製造方法。
【請求項5】
前記金属ナノ粒子を構成する金属が、チタン、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、及びニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子複合体の製造方法。
【請求項6】
前記多孔体が、ゼオライト、多孔質シリカ、多孔質アルミナ、多孔質炭素、及びMOF(Metal-organic framework)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子複合体の製造方法。
【請求項7】
前記細孔の平均径が5nm以下であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒等に使用可能な金属ナノ粒子が分散された金属ナノ粒子複合体の製造方法およびその方法により製造された金属ナノ粒子複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ナノサイズ(平均粒子径が1〜5nm)を有する金属ナノ粒子(例えば、ニッケルナノ粒子)を、ミクロ孔(平均細孔径が2nm以下)やメソ孔(平均細孔径が2〜50nm)を有する多孔体(例えば、ゼオライト、メソポーラスシリカ、活性炭等)に分散させる方法として、含浸法が利用されている。
【0003】
この含浸法においては、一般に、金属元素を含む水溶液に多孔体(担体)を添加し、加熱等によって水分を除去することにより、金属元素を含む化合物を多孔体に担持させた後、還元雰囲気中で加熱することにより、担持された化合物を金属に還元する。
【0004】
ここで、この含浸法により担持された金属ナノ粒子を、高温(例えば、300〜400℃)で加熱した場合、金属ナノ粒子が移動して、金属ナノ粒子が互いに付着して固まるため、凝集及び焼結が生じ、金属ナノ粒子が粗大化する。そして、このように粗大化した金属ナノ粒子が分散された金属ナノ粒子複合体は、触媒活性を有する表面積が減少するため、触媒能が低下するという問題があった。
【0005】
そこで、多孔体の細孔内で金属ナノ粒子を作製する方法が提案されている。例えば、イオン交換を行い、ゼオライトの細孔内に導入したRu(NH3)62+錯体を還元することにより、ゼオライト細孔内でルテニウムナノ粒子(平均粒子径:4nm)を作製する方法が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
また、カチオンとしてアンモニウムイオンとニッケルイオンを共存させるとともに、熱処理により脱離するアンモニアの還元力を利用し、ニッケルイオンをゼオライト細孔内においてニッケル粒子(平均粒子径:5nm以下)に還元する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−46372号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Hubert H. Nijs, Peter A. Jacobs, Jan B. Uytterhoeven, J.C.S. Chem. Comm., 1979, 1095
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記非特許文献1に記載の方法は、白金やルテニウム等の貴金属に対してのみ適用可能であり、コバルトやニッケル等の高い触媒能を有する卑金属には適用することができない。これは、白金やルテニウム等の貴金属は、イオン化傾向が水素よりも低く、容易に還元できるのに対し、コバルトやニッケル等の卑金属は、イオン化傾向が水素よりも高いため、カチオンサイトからの還元が難しく、多量のエネルギーを必要とするためである。
【0010】
また、上記特許文献1に記載の方法においては、アンモニウムイオンがアンモニアに分解する際に生じる水素イオンによって、ゼオライトが強い固体酸点を示すため、ニッケルと酸点の両方の触媒特性が混在し、反応の選択性が低下してしまい、触媒としての用途が限定されるという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、コバルトやニッケル等の高い触媒能を有する金属に適用することが可能であり、触媒として幅広い用途を有する金属ナノ粒子複合体の製造方法およびその方法により製造された金属ナノ粒子複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の金属ナノ粒子複合体の製造方法は、有機金属錯体を多孔体の細孔内に吸着させる吸着工程と、細孔内に有機金属錯体が吸着した多孔体に対して、紫外線を照射することにより、多孔体の細孔内に吸着させた有機金属錯体の有機化合物を分解する分解工程と、細孔内に有機金属錯体が吸着した多孔体に対して、還元雰囲気下において、加熱処理を行うことにより、多孔体の細孔内に吸着させた有機金属錯体の有機物を分解すると共に、有機金属錯体における金属カチオンを還元して、多孔体の細孔に金属ナノ粒子を担持させる分解還元工程とを少なくとも備え、分解還元工程において、加熱処理温度が300〜500℃であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、金属ナノ粒子の粗大化を抑制して、金属ナノ粒子の触媒能の低下を抑制することができるとともに、触媒として幅広い用途を有する金属ナノ粒子複合体を提供することが可能になる。また、反応の選択性に優れた金属ナノ粒子複合体を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1における金属ナノ粒子複合体の電子顕微鏡写真(TEM写真)である。
図2】比較例1におけるニッケルを担持したゼオライトの電子顕微鏡写真(TEM写真)である。
図3】比較例1におけるニッケルを担持したゼオライトの電子顕微鏡写真(TEM写真)である。
図4】比較例3におけるニッケルを担持したゼオライトの電子顕微鏡写真(TEM写真)である。
図5】エタノール水蒸気改質反応において、実施例1における金属ナノ粒子複合体を触媒として使用した場合の水素及びエチレンの生成効率を示す図である。
図6】エタノール水蒸気改質反応において、比較例3におけるニッケルを担持したゼオライトを触媒として使用した場合の水素及びエチレンの生成効率を示す図である。
図7】エタノールの水蒸気改質反応を行った後の実施例1におけるニッケルナノ粒子複合体の電子顕微鏡写真(TEM写真)である。
図8】本発明の実施形態における金属ナノ粒子複合体の製造方法を説明するための図である。
図9】本発明の実施例における金属ナノ粒子複合体のIRスペクトルデータのグラフである。
図10】紫外線照射を行わなかった比較例の電子顕微鏡写真(TEM写真)である。
図11】紫外線照射を行わなかった比較例の電子顕微鏡写真(TEM写真)である。
図12】紫外線照射を行わなかった比較例の電子顕微鏡写真(TEM写真)である。
図13】アンモニア分解反応におけるアンモニアの転化率を示す図である。
図14】本発明の実施例1における金属ナノ粒子複合体の長期間の使用安定性を示す図である。
図15】アンモニア分解反応を1回行った後の、本発明の実施例1における金属ナノ粒子複合体の電子顕微鏡写真(TEM写真)である。
図16】アンモニア分解反応を7回行った後の、本発明の実施例1における金属ナノ粒子複合体の電子顕微鏡写真(TEM写真)である。
図17】実施例3における金属ナノ粒子複合体の電子顕微鏡写真(TEM写真)である。
図18】実施例3における金属ナノ粒子複合体の電子顕微鏡写真(TEM写真)である。
図19】実施例3における金属ナノ粒子複合体の電子顕微鏡写真(TEM写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本発明の金属ナノ粒子複合体の製造方法は、多孔体の細孔に、電気的に中性な有機金属錯体を吸着させ、細孔内で有機金属錯体分子を分解することにより、ナノサイズ(平均粒子径が1〜5nm)を有する金属ナノ粒子が分散された金属ナノ粒子複合体を作製する方法である。
【0017】
本発明の方法により製造される金属ナノ粒子は、略球形状を有しており、1〜5nmの平均粒子径を有する。また、本発明の方法により製造される金属ナノ粒子は、例えば、アルコールやメタン等の炭化水素から水素を生成する改質触媒や、アンモニア合成触媒、自動車の排ガス浄化触媒等として使用することができる。
【0018】
なお、ここで言う「平均粒子径」とは、本発明においては、製造した金属ナノ粒子の顕微鏡写真を使用して、10〜50個程度の金属ナノ粒子の粒子径を測定し,その個数平均を平均粒子径としている。
【0019】
金属ナノ粒子を構成する金属としては、特に限定されず、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウム等の貴金属や、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛等の高い触媒能を有する卑金属を使用することができる。また、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属元素やマグネシウム等のアルカリ土類金属元素の金属も使用することができる。なお、これらの金属は単独で使用してもよく、上述の金属ナノ粒子の用途に対応させて、2種以上を多孔体に分散させ、多孔体の細孔に担持させてもよい。
【0020】
本発明の方法に使用される多孔体は、ゼオライト、多孔質シリカ、多孔質アルミナ、多孔質アルミノシリケート、活性炭やカーボンナノチューブ等の多孔質炭素、MOF(Metal-organic framework)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、耐熱性が高く、3次元的に規則的なミクロ孔を有することから、ゼオライトを使用することが特に好ましい。
【0021】
このゼオライトとしては、例えば、A型ゼオライト、MFI型ゼオライト、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、ベータ型ゼオライト、モルデナイト等が使用でき、細孔径が大きく、細孔が3次元的につながっていることから、XまたはY型ゼオライトを使用することが好ましい。
【0022】
また、多孔体が有する細孔の平均径(平均細孔径)は、5nm以下であることが好ましい。
【0023】
これは、細孔の平均径が5nmよりも大きいと、細孔に担持される金属ナノ粒子が容易に拡散及び凝集し、金属ナノ粒子の安定性(定着性)が低下する場合があるためである。なお、細孔の平均径が有機金属錯体の分子径よりも小さいと、金属ナノ粒子の前駆体である有機金属錯体が細孔内に導入されないという不都合が生じる場合があるため、細孔の平均径は有機金属錯体の分子径よりも大きいことが必要である。
【0024】
次に、本発明の実施形態に係る金属ナノ粒子複合体の製造方法について説明する。図8は、本発明の実施形態に係る金属ナノ粒子複合体の製造方法を説明するための図である。本実施形態においては、多孔体の細孔に、電気的に中性な有機金属錯体を吸着させ、細孔内で有機金属錯体分子を分解することにより、ナノサイズ(平均粒子径が1〜5nm)を有する金属ナノ粒子が分散された金属ナノ粒子複合体を製造する。
【0025】
<混合物作製工程>
まず、上述の多孔体を加熱して、多孔体に吸着した吸着水を除去した後、この多孔体と有機金属錯体とを均一に混合する(ステップS1)。
【0026】
ここで、有機金属錯体としては、室温で、または加熱によって有機金属錯体の蒸気を生じるものが使用され、例えば、昇華性のあるメタロセンやカルボニル錯体等を使用することができる。
【0027】
より具体的には、例えば、金属ナノ粒子を構成する金属として、ニッケルを使用する場合は、ニッケロセン(Ni(C5H5)2)等の有機ニッケル錯体を使用することができる。
【0028】
また、本工程における有機金属錯体の配合量は、多孔体の細孔容積と、細孔内に吸着された有機金属錯体が細孔を占有する体積によって決められる。本実施形態においては、多孔体の細孔容積100体積部に対して、有機金属錯体が細孔を占有する体積が1〜100体積部が好ましい。これは、有機金属錯体が細孔を占有する体積が100体積部を超える場合は、有機金属錯体が多孔体の外表面に吸着され、結果として多孔体の外表面にて粗大な粒子が形成されるという不具合が生じ、有機金属錯体が細孔を占有する体積が細孔容積の1体積部未満である場合は、触媒の活性点の数が少なくなるため、触媒としての効果が小さくなるという不具合が生じる場合があるためである。
【0029】
<吸着工程>
次に、多孔体と有機金属錯体との混合体を、試験管等の反応容器内に入れ、この反応容器の内部を所定の圧力に減圧して反応容器を密封した後、所定時間、所定温度で加熱することにより、有機金属錯体を気化(例えば、昇華)させて、有機金属錯体を多孔体の細孔内に吸着させる(ステップS2)。
【0030】
ここで、本工程における処理時間(吸着時間)は、1〜24時間の範囲が好ましい。これは、処理時間が1時間未満の場合は、多孔体の細孔全体に対して、有機金属錯体を均一に拡散させることが困難になる場合があるためであり、24時間より長い場合は、多孔体の細孔全体に対して、既に有機金属錯体が均一に拡散しているため、製造効率(時間効率)が低下するためである。即ち、本工程における処理時間を1〜24時間に設定することにより、製造効率を低下させることなく、多孔体の細孔全体に対して、有機金属錯体を均一に拡散させることが可能になる。
【0031】
なお、本工程における処理温度は、使用する有機金属錯体の気化(昇華)温度に対応させて、適宜、設定することができる。
【0032】
<分解工程>
次に、多孔体の細孔内に吸着させた有機金属錯体の有機化合物(有機成分である配位子)を分解して、有機金属錯体における金属イオンを多孔体の細孔内に定着させる。より具体的には、例えば、細孔内に有機金属錯体が吸着した多孔体に対して、所定時間、紫外線を照射することにより、有機金属錯体の有機化合物の分解を行う(ステップS3)。
【0033】
なお、有機化合物の完全分解は、後述の分解還元工程にて行われるため、本工程は金属ナノ粒子を製造する上で必須ではないが、本工程を行うことにより、より均質で分散性の高い金属ナノ粒子を得ることができる。特に、昇華性を有する等、加熱により容易に気化する有機金属錯体を用いた場合、後述の分解還元工程において有機金属錯体が細孔から脱離し、細孔の外で粗大な粒子を形成する可能性があるため、本分解工程により有機金属錯体の有機化合物を分解し、ゼオライトの細孔内に定着させる(昇華性を消失させる)ことが、より均質で分散性の高い金属ナノ粒子を得るために重要である。
【0034】
紫外線の光源としては、キセノンランプ、高圧水銀灯、低圧水銀灯、及びメタルハライドランプ等を使用することができる。
【0035】
また、紫外線の照度は、360nmの波長において1〜1000mW/cmに設定することが好ましい。これは、紫外線の照度が、1mW/cm未満の場合は、有機金属錯体の有機化合物を十分に分解することが困難になるという不都合が生じる場合があり、1000mW/cmより大きい場合は、製造効率(エネルギー効率)が低下するという不都合が生じる場合があるためである。
【0036】
また、紫外線照射時間は、試料の量や有機金属錯体の含有量、紫外線強度によって、必要な時間が異なる。紫外線照射の役割は、多孔体の細孔内に吸着させた有機金属錯体の有機化合物を分解し、有機金属錯体における金属イオンを多孔体の細孔内に定着させることにあるため、試料全体に十分な量の紫外線を照射する必要がある。試料容器の形状や試料の状態によっては、紫外線照射中に試料を攪拌し、均質に混ぜる必要がある。紫外線照射によって試料が変色する場合は、試料全体が変色し終わるまで紫外線を照射する。
【0037】
<分解還元工程>
次に、細孔内に有機金属錯体が吸着した多孔体を、還元雰囲気下(例えば、水素雰囲気下)において、所定時間、所定温度で加熱処理することにより、多孔体の細孔内に吸着させた有機金属錯体の有機化合物を分解する(ステップS4)と共に、有機金属錯体における金属カチオンを還元して、多孔体の細孔に金属ナノ粒子が担持された金属ナノ粒子複合体を作製する(ステップS5)。
【0038】
なお、本工程においては、上記有機金属錯体分解工程において分解されずに、多孔体の細孔に残存した有機金属錯体の有機化合物の分解も同時に行われる。従って、上記有機金属錯体分解工程において、多孔体の細孔に有機金属錯体が残存した場合であっても、当該有機化合物を効果的に分解することができる。
【0039】
また、加熱処理における加熱温度は、100〜500℃の範囲が好ましい。これは、加熱温度が100℃未満の場合は、多孔体の細孔に残存した有機金属錯体の有機化合物を完全に分解することができないという不都合が生じる場合があるためであり、500℃より高い場合は、製造効率(エネルギー効率)が低下するという不都合が生じる場合があるためである。
【0040】
また、加熱処理における加熱時間は、0.5〜2時間の範囲が好ましい。これは、加熱時間が0.5時間未満の場合は、温度にムラが生じ、多孔体全体を均一に加熱することが困難になるという不都合が生じる場合があるためであり、2時間より長い場合は、既に多孔体が均一に加熱されているため、製造効率(時間効率)が低下するという不都合が生じる場合があるためである。
【0041】
以上に説明したように、本実施形態においては、担体である多孔体の細孔内で金属ナノ粒子を作製することができるため、上記還元処理工程において、高温(例えば、300〜400℃)で加熱した場合であっても、金属ナノ粒子の移動を抑制して、金属ナノ粒子が互いに付着することを抑制することができる。
【0042】
従って、高温において、金属ナノ粒子の高い分散性を維持することができるため、金属ナノ粒子の凝集及び焼結を抑制して、金属ナノ粒子の粗大化を抑制することが可能になる。その結果、金属ナノ粒子の触媒能の低下を抑制することが可能になる。
【0043】
また、本発明は、上述のごとく、白金やルテニウム等の貴金属に対してのみならず、コバルトやニッケル等の高い触媒能を有する卑金属にも適用することができるため、触媒として幅広い用途を有する金属ナノ粒子複合体を提供することが可能になる。
【0044】
更に、上記特許文献1に記載のニッケルを担持したゼオライトとは異なり、金属ナノ粒子が有する触媒特性のみを発揮することが可能になるため、反応の選択性に優れた金属ナノ粒子複合体を提供することが可能になる。
【0045】
なお、金属ナノ粒子複合体に炭素等の有機物が残存していることを確認することにより、本発明の製造方法により製造した金属ナノ粒子複合体であることを確認することができる。金属ナノ粒子複合体に有機物が残存することを確認する方法としては、例えば、酸素雰囲気下で試料を加熱し、発生した二酸化炭素及び水を質量分析計やガスクロマトグラフにて分析する方法や、CHN分析法等が挙げられる。
【0046】
また、上述のごとく、本発明による金属ナノ粒子の製造方法においては、紫外線の照射による分解工程を含むことが好ましい。本発明による金属ナノ粒子の製造方法においては、この分解工程の有無にかかわらず、還元雰囲気下(例えば、水素雰囲気下)で行う分解還元工程により、多孔体の細孔内に吸着された有機金属錯体の有機化合物がメタン(CH4)などに分解されるため、有機金属錯体に含まれる金属カチオンは金属に還元され、平均粒子径が1〜5nmのナノ粒子になるが、分解還元工程の前に、紫外線照射による分解工程を行うことにより、より均質でより分散性に優れたナノ粒子を得ることができる。
【0047】
また、上記実施形態においては、吸着工程において、気化した有機金属錯体を多孔体の細孔内に吸着させたが、気化した有機金属錯体の代わりに、液状の有機金属錯体を使用してもよい。例えば、鉄を含む有機金属錯体フェロセン(Fe(C5H5)2)を有機溶媒に溶解し、ゼオライトの細孔内に吸着させることができる。
【実施例】
【0048】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0049】
(実施例1)
(金属ナノ粒子(ニッケルナノ粒子)複合体の作製)
Y型ゼオライト(和光純薬(株)製,商品名:合成ゼオライトHS−320粉末ナトリウムY、SiO2/Al2O3=5.5)を、真空中において、600℃で20時間、熱処理し、吸着水を除去した。
【0050】
次いで、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、乾燥後のゼオライト500mgと有機ニッケル錯体であるビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)(Ni(C5H5)2、SIGMA−ALDRICH製、商品名:Bis(cyclopentadienyl)nickel(II))22mgとを、乳鉢を使用して均一に混合した。
【0051】
次いで、Y型ゼオライトとビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)との混合体を、反応容器である石英製の試験管(外径:12mm、内径:10mm、長さ:100mm)に入れ、この試験管の内部を5〜7Paの圧力に減圧した後、試験管を密封した。
【0052】
次いで、この試験管を130℃で5時間、加熱することにより、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)を昇華させて、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)をゼオライトの細孔内に吸着させた。
【0053】
次いで、360nmの波長における照度が12mW/cmであるキセノンランプを紫外線の光源として、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)が吸着したゼオライトに対して、72時間、紫外線を照射して、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)の有機成分を分解し、ニッケルイオンをゼオライトの細孔内に定着させた。なお、紫外線照射中、12時間毎に、試料管を振とうして、試料の混合を行った。
【0054】
次いで、紫外線が照射されたゼオライトを、水素雰囲気下において、400℃で、1時間で加熱処理することにより、ゼオライトの細孔に定着させたニッケルイオンをニッケルに還元して、ゼオライトの細孔にニッケルナノ粒子が担持されたニッケルナノ粒子複合体を作製した。
【0055】
そして、本実施例で得られたニッケルナノ粒子複合体を、加速電圧が200kVの透過型電子顕微鏡(日本電子(株)製、商品名:JEM−2010)により観察した。得られた電子顕微鏡写真(TEM写真)を図1に示す。
【0056】
図1に示すように、ニッケルナノ粒子は、ゼオライト中に均一に分散しており、その粒子径は5nm以下であることが判る。
【0057】
また、後述のごとく、ニッケルナノ粒子複合体におけるニッケルの含有量(充填量)を測定したところ、1.9%(重量%)であった。
【0058】
(実施例2)
上述の有機ニッケル錯体であるビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)の使用量を82mgに変更したこと以外は、上述の実施例1と同様にして、ニッケルナノ粒子複合体を作製した。
【0059】
なお、後述のごとく、ニッケルナノ粒子複合体におけるニッケルの含有量を測定したところ、5.9%であった。
【0060】
(比表面積及び細孔容積評価)
次に、実施例1〜2で得られたニッケルナノ粒子複合体におけるゼオライトの比表面積及び細孔容積を算出した。より具体的には、蒸気吸着装置(日本ベル(株)製,商品名:BELSORP 18SP)を使用して、77Kにおける窒素吸脱着測定を行うとともに、BET法を用いた解析により評価した。なお、前処理として、ニッケルナノ粒子複合体を、真空中において、300℃で24時間、加熱した。
【0061】
また、参考用として、本実施例において使用したY型ゼオライトについても、同様に、比表面積及び細孔容積を算出した。以上の結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示すように、実施例1〜2で得られたニッケルナノ粒子複合体においては、参考用のゼオライトと比較して、ゼオライトの比表面積及び細孔容積が減少していることが判る。即ち、実施例1〜2で得られたニッケルナノ粒子複合体において、ニッケルナノ粒子がゼオライトの細孔内に存在することが示唆された。
【0064】
(比較例1)
一般的な含浸法により、ニッケルを担持したゼオライトを作製した。より具体的には、まず、塩化ニッケル(II)六水和物(SIGMA−ALDRICH製)0.063gを、20mlのイオン交換水に溶解した。
【0065】
次いで、調製した塩化ニッケル水溶液に、Y型ゼオライト(和光純薬(株)製,商品名:合成ゼオライトHS−320粉末ナトリウムY、SiO2/Al2O3=5.5)を1g添加し、ホットスターラーで攪拌しながら、加熱して乾燥させた。
【0066】
次いで、得られた粉末を、アルミナボートに乗せ、大気中において、400℃で3時間熱処理して、比較例1の試料を得た。さらに、得られた試料を還元するため、水素雰囲気下において、400℃で、30分間加熱した。
【0067】
次いで、還元後の試料を、上述の透過型電子顕微鏡により観察した。得られた電子顕微鏡写真(TEM写真)を図2図3に示す。
【0068】
図2に示すように、比較例1のニッケル粒子は、ゼオライト上で凝集しており、その粒子径は5nmよりも大きく、特に、図3に示すように、粒子径が50nmよりも大きい粗大化したものも存在することが判る。
【0069】
なお、後述のごとく、ニッケルを担持したゼオライトにおけるニッケルの含有量を測定したところ、2.2%であった。
【0070】
(比較例2)
上述の塩化ニッケル(II)六水和物の使用量を0.156gに変更したこと以外は、上述の比較例1と同様にして、ニッケルを担持したゼオライトを作製した。
【0071】
なお、後述のごとく、ニッケルを担持したゼオライトにおけるニッケルの含有量を測定したところ、5.7%であった。
【0072】
(比表面積及び細孔容積評価)
また、比較例1〜2において、実施例1〜2と同様にして、還元後の試料の比表面積及び細孔容積評価を行った。以上の結果を表1に示す。表1に示すように、比較例1〜2で得られた試料におけるゼオライトの比表面積及び細孔容積は、参考用のゼオライトの比表面積及び細孔容積と同程度であることから、ニッケル粒子はゼオライトの外表面に存在することが示唆された。
【0073】
そして、ゼオライトの外表面においては、ゼオライトの細孔内と比較して、ニッケル粒子が自由に移動できるため、比較例1においては、加熱により、ニッケル粒子が互いに付着して固まり、凝集及び焼結が生じ、図2図3に示すように粗大化したものと考えられる。
【0074】
また、表1に示すように、実施例1〜2で得られたニッケルナノ粒子複合体においては、参考用のゼオライトと比較して、ニッケル含有量の増加に伴い、細孔容積が顕著に小さくなっているが、比較例1〜2で得られたニッケルを担持したゼオライトにおいては、ニッケル含有量が増加した場合であっても、細孔容積が殆ど変化しておらず、参考用のゼオライトと同程度の細孔容積となっていることが判る。
【0075】
これは、実施例1〜2で得られたニッケルナノ粒子複合体においては、ゼオライトの細孔がニッケル粒子によって占有されているため、細孔容積が小さくなっているが、比較例1〜2で得られたニッケルを担持したゼオライトにおいては、ゼオライトの外表面にニッケル粒子が存在するため、ニッケルが付着していない表面から、窒素がゼオライトの内部に侵入し、この窒素が、ゼオライト内部を自由に拡散することができるため、細孔容積が殆ど変化していないものと考えられる。
【0076】
以上より、実施例1〜2で得られたニッケルナノ粒子複合体において、ニッケルナノ粒子がゼオライトの細孔内に存在することが推測された。
【0077】
(比較例3)
上述の特許文献1に記載の方法により、ニッケルを担持したゼオライトを作製した。より具体的には、まず、X型ゼオライト(SIGMA−ALDRICH製,商品名:Molecular Sieves13X)100gを1Mの酢酸アンモニウム水溶液(SIGMA−ALDRICH製)1000ml中に添加し、室温において、24時間、攪拌することにより、ゼオライト中のナトリウムイオンをアンモニウムイオンと交換した。
【0078】
次いで、カチオンの一部をニッケルイオンと交換するために、水洗、乾燥を行った後、得られた粉末10gを0.01Mの塩化ニッケル水溶液(SIGMA−ALDRICH製)1000ml中に添加し、室温において、24時間、攪拌した。
【0079】
次いで、イオン交換後に水洗、乾燥したゼオライト0.4gを、大気中において、200℃(昇温速度:10℃/分)で4時間、熱処理することにより、比較例3の試料を得た。さらに、得られた試料を還元するため、水素雰囲気下において、400℃で、30分間加熱した。
【0080】
次いで、還元後に得られた試料を、上述の透過型電子顕微鏡により観察した。得られた電子顕微鏡写真(TEM写真)を図4に示す。
【0081】
図4に示すように、比較例3のニッケル粒子は、ゼオライト上で凝集しており、粒子径が10nm〜20nmである粗大化したニッケル粒子が存在することが判る。
【0082】
(エタノールの水蒸気改質反応における触媒性能評価)
次いで、固定床流動型の反応装置を使用して、実施例1で得られたニッケルナノ粒子複合体によるエタノールの水蒸気改質反応(反応時間:6時間)を行い、実施例1で得られたニッケルナノ粒子複合体の触媒性能を評価した。
【0083】
より具体的には、石英製の反応管(外径:12mm、内径:10mm)に、石英ウール50mgを設置し、その上に、触媒としてのニッケルナノ粒子複合体100mgを充填した。
【0084】
次いで、3%の水素気流(流量:30ml/分、残りはアルゴン)中で、試料を400℃で1時間、還元した後、アルゴンで装置内を置換した。
【0085】
次いで、200℃で蒸気化した15重量%のエタノール水溶液を、40.5/時の質量空間速度で供給し、試料を400℃に保持した状態で、キャリアガスとしてのアルゴンを10ml/分で流通させた。
【0086】
次いで、冷却トラップ(0℃)を使用して、反応後のガスに含まれる水分を除去し、熱伝導度検出器を備えたガスクロマトグラフ(島津製作所(株)製、商品名:GC−14B,カラム:島津製作所(株)製、商品名:Shincarbon−ST、2m)を使用して、生成ガスの組成を分析し、水素とエチレンの生成を確認した。
【0087】
次いで、下記式(1)を使用して、供給したエタノールに対する上記生成物(水素、エチレン)の比率(生成効率)を算出し、触媒性能評価を行った。以上の結果を図5に示す。
【0088】
なお、エタノールの水蒸気改質反応を行った後のニッケルナノ粒子複合体の電子顕微鏡写真(TEM写真)を図7に示す。図7に示すように、水蒸気改質反応後のニッケルナノ粒子は、図1に示すニッケルナノ粒子と同様に、ゼオライト中に均一に分散しており、分散性に変化は見られなかった。
【0089】
【数1】
【0090】
また、同様にして、比較例3で得られたニッケルを担持したゼオライトよるエタノールの水蒸気改質反応を行い、比較例3で得られたニッケルを担持したゼオライトの触媒性能を評価した。なお、この場合、エタノール水溶液を、30.9/時の質量空間速度で供給した。以上の結果を図6に示す。
【0091】
ここで、下記式(2)で示すエタノールの水蒸気改質反応の素反応として、下記式(3)で示す金属触媒の作用によるエタノールの脱水素反応が促進されるとともに、水素の生成を阻害する競争反応として、下記式(4)で示す酸触媒の作用によるエタノールの脱水反応が促進される。
【0092】
【化1】
【0093】
【化2】
【0094】
【化3】
【0095】
そして、水蒸気改質反応を水素製造技術として用いる場合、式(4)に示す脱水反応によって生じたエチレンがコークス化し、触媒被毒の原因となるため、式(4)に示す脱水反応の選択性は低い方が好ましいと言える。
【0096】
実施例1で得られたニッケルナノ粒子複合体を触媒として使用した場合、図5に示すように、主生成物として水素が得られており、式(3)で示す金属触媒の作用によるエタノールの脱水素反応の選択性が高いことが判る。
【0097】
一方、比較例3で得られたニッケルを担持したゼオライトを触媒として使用した場合、図6に示すように、主生成物としてエチレンが得られており、式(4)で示す酸触媒の作用によるエタノールの脱水反応の選択性が高いことが判る。
【0098】
即ち、比較例3のニッケルを担持したゼオライトにおいては、上述のごとく、アンモニウムイオンの分解により生じた水素イオンが強い酸点として作用して、ニッケルと酸点の両方の触媒特性が混在するとともに、ニッケルよりも強く触媒として作用する酸点が多く混在するため、反応の選択性が低下してしまい、ニッケル触媒としての用途が限定されるが、実施例1においては、ニッケルナノ粒子が有する触媒特性のみを発揮することが可能になるため、反応の選択性に優れたニッケルナノ粒子複合体を提供することができることが判る。
【0099】
(ニッケル含有量評価)
次に、実施例1〜2、及び比較例1〜3で得られた各試料におけるニッケル含有量を測定した。より具体的には、まず、各試料に含まれる有機物やアニオンを除去するために、各試料を大気中において、600℃で3時間加熱した。
【0100】
次いで、蛍光X線分析装置(RIGAKU(株)製、商品名:ZSX PrimusII)を使用して、実施例1、及び比較例1、2で得られた各試料におけるニッケル含有量を測定した。以上の結果を表2に示す。
【0101】
【表2】
【0102】
表2に示すように、実施例1のニッケルナノ粒子複合体におけるニッケル含有量は、比較例3のニッケルを担持したゼオライトにおけるニッケル含有量の約4分の1であるにもかかわらず、水素の生成効率は同程度である(図5図6参照)ことから、実施例1のニッケルナノ粒子複合体におけるニッケル粒子の単位重量当たりの水素生成効率は、比較例2のニッケルを担持したゼオライトにおけるニッケル粒子の約4倍であることが判る。
【0103】
また、表2に示すように、実施例1のニッケルナノ粒子複合体におけるニッケル含有量は、比較例1のニッケルを担持したゼオライトにおけるニッケル含有量と同程度であるが、上述のごとく、実施例1のニッケル粒子の粒子径は5nm以下であるのに対し、比較例1のニッケル粒子においては、粒子径が50nmよりも大きいものが存在しており、ニッケル粒子の粒子径に顕著な差が見られた。従って、実施例1のニッケル粒子の熱安定性(高温における分散性)は、一般的な含浸法により作製した比較例1のニッケル粒子の熱安定性と比較して、極めて優れていることが判る。
【0104】
(紫外線照射の効果)
次に、有機ニッケル錯体に紫外線を照射した場合の、有機化合物の構造変化について評価した。より具体的には、有機ニッケル錯体であるビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)を、反応容器である石英製の試験管(外径:12mm、内径:10mm、長さ:100mm)に入れ、この試験管の内部を5〜7Paの圧力に減圧した後、試験管を密封した。次いで、360nmの波長における照度が12mW/cmであるキセノンランプを紫外線の光源として、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)に対して、72時間、紫外線を照射して、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)の有機成分を分解した。なお、紫外線照射中、12時間毎に、試料管を振とうして、試料の混合を行った。
【0105】
次いで、紫外線照射前後のビス(シクロペンタジエニル)ニッケル(II)をそれぞれ臭化カリウムで10質量%に希釈し、赤外分光法(Spectrum One, Perkin Elmer, USA)により有機金属錯体の有機化合物の構造を評価した。なお、測定装置として、赤外分光計(PerkinElmer(株)製、商品名:Spectrum One)を使用した。得られたIRスペクトルデータのグラフを図9に示す。
【0106】
図9に示すように、紫外線の照射により、C−H伸縮振動に由来するピーク(3095、及び3082cm−1付近)とC=C伸縮振動に由来する吸収ピーク(1670cm−1付近)の強度が減少していることが判る。一方、紫外線の照射により、O−H伸縮振動に由来するピーク(3643cm−1付近)、CH,CH伸縮振動に由来するピーク(2845及び2950cm−1付近)が出現していることが判る。以上より、紫外光照射により、有機金属錯体の有機化合物の構造が変化することが確認された。
【0107】
なお、比較例として、紫外線照射を行わず、水素雰囲気で還元することにより、ニッケルを担持したゼオライトを作製した。より具体的には、上述の、キセノンランプを紫外線の光源とする紫外線の照射を行わなかったこと以外は、上述の実施例1と同様にして試料を作製した。
【0108】
次いで、作製した試料を、上述の透過型電子顕微鏡により観察した。得られた電子顕微鏡写真(TEM写真)を図10図12に示す。
【0109】
図10に示すように、比較例の試料においては、紫外線照射を行わない場合においても、直径5nm以下で高分散した状態のニッケルナノ粒子が得られるが、図11に示すように、ニッケルが全く存在しない部分や、図12に示すように、粗大化した粒子が存在することから、比較例の試料においては、実施例1のニッケルナノ粒子複合体に比し、ニッケル粒子の分散性が不均質であることが判る。
【0110】
これは、実施例1のニッケルナノ粒子複合体においては、紫外光照射により、有機金属錯体が部分的に分解され、ゼオライトの細孔内に定着しているのに対し、紫外光を照射していない比較例の試料では、有機金属錯体がゼオライトの細孔内に定着していないため、分解還元工程の加熱により有機金属錯体の一部が細孔から脱離した結果、分散性が不均質になったものと考えられる。
【0111】
(アンモニア分解反応における触媒性能評価)
次いで、定容積の反応容器を使用して、実施例1で得られたニッケルナノ粒子複合体によるアンモニア分解反応を行い、実施例1で得られたニッケルナノ粒子複合体の触媒性能を評価した。
【0112】
また、比較例として、一般的な含浸法により、ニッケルを担持したゼオライト(比較例1で得られた試料)、ニッケルを担持したアルミナ(Al)、及びルテニウムを担持したゼオライトを作製した。
【0113】
より具体的には、まず、塩化ニッケル(II)六水和物(SIGMA−ALDRICH製)0.130gを、25mlのイオン交換水に溶解した。次いで、調製した塩化ニッケル水溶液25mlに、アルミナ(Aldrich製,商品名:Aluminum Oxide nanopowder, <50 nm particle size (TEM))を2.500g添加し、ホットスターラーで攪拌しながら、加熱して乾燥させた。
【0114】
次いで、得られた粉末を、アルミナボートに乗せ、大気中において、400℃で3時間熱処理して、比較例であるニッケルを担持したアルミナ(Al)の試料を得た。さらに、得られた試料を還元するため、水素雰囲気下において、400℃で、60分間加熱した。
【0115】
また、塩化ニッケル(II)六水和物の代わりに、塩化ルテニウム(SIGMA−ALDRICH(株)製,商品名:塩化ルテニウム(III))を0.061gと、アルミナの代わりにY型ゼオライト(和光純薬(株)製,商品名:合成ゼオライトHS−320粉末ナトリウムY、SiO2/Al2O3=5.5)を1.000g使用したこと以外は、同様にして、比較例であるルテニウムを担持したゼオライトの試料を得た。
【0116】
更に、比較例として、市販のルテニウムを担持した活性炭(和光純薬(株)製、ルテニウム5%)を使用した。
【0117】
次いで、下記式(5)で示すアンモニアの熱分解反応において、実施例1で得られたニッケルナノ粒子複合体、及び上述の比較例として用意した各試料を触媒として使用するとともに、下記式(6)を使用してアンモニアの転化率を算出し、触媒性能評価を行った。以上の結果を図13に示す。
【0118】
なお、アンモニアの熱分解反応は、定容積の密閉反応器で行った。より具体的には、まず、インコネル製の試料管(外径:12mm、内径:10mm)に実施例1で得られたニッケルナノ粒子複合体(または、上述の比較例として用意した各試料)100mgを充填し、真空中で500℃となるように加熱した。次に、試料温度が500℃で安定した後、アンモニアを0.100MPa充填し、反応の進行に伴う圧力の変化を、24時間、測定した。
【0119】
ここで、分解反応では、2モルのアンモニアを消費して、合計で4モルの気体(即ち、3モルの水素と1モルの窒素)が生成するため、分解反応によって、2モル(4モル−2モル)の気体が増え、結果として、圧力が増加する。即ち、転化したアンモニアと同等の分だけ圧力が増加するため、転化率は下記式(6)により算出されることになる。
【0120】
【化4】
【0121】
【数2】
【0122】
図13に示すように、実施例1で得られたニッケルナノ粒子複合体は、一般的な含浸法により担持したニッケル粒子に比し、非常に優れた触媒性能を有するとともに、含浸法によりゼオライトに担持したルテニウム触媒に近い性能を示すことが判った。
【0123】
また、アンモニアの分圧が1から0.9に下がるまでの初期段階におけるアンモニア分解速度(反応速度定数)を算出した。なお、反応速度定数は、アンモニア分圧の減少曲線の傾きをOriginPro 8J SR1 v8.0773 (OriginLab Corporation(株)製)を用いて、指数関数の反応速度式(Y=Y0+Aexp(-kT))に当てはめてフィッティングし、平衡定数kを求めた。以上の結果を表3に示す。
【0124】
【表3】
【0125】
表3に示すように、実施例1で得られたニッケルナノ粒子複合体は、一般的な含浸法により担持したニッケル粒子に比し、約5〜10倍の分解速度を示していることが判る。
【0126】
(長期間使用による安定性評価)
実施例1で得られたニッケルナノ粒子複合体を触媒として使用し、上述のアンモニア分解反応における触媒性能評価を5回繰り返し、長期間の使用による安定性を評価した。なお、各試験の間、試料を室温まで冷却した後、システム内をアルゴンで置換した。以上の結果を図14に示す。
【0127】
図14に示すように、実施例1で得られたニッケルナノ粒子複合体を触媒として使用した場合は、アンモニア分解反応を繰り返し行った場合であっても、優れた触媒活性が維持できることが判った。
【0128】
また、実施例1で得られたニッケルナノ粒子複合体を触媒として使用して、上述のアンモニア分解反応を1回行った後の、ニッケルナノ粒子複合体の電子顕微鏡写真(TEM写真)を図15に示すとともに、上述のアンモニア分解反応を7回行った後の、ニッケルナノ粒子複合体の電子顕微鏡写真(TEM写真)を図16に示す。
【0129】
図15図16から判るように、実施例1で得られたニッケルナノ粒子複合体においては、アンモニア分解反応を繰り返した後であっても、ニッケルナノ粒子の大部分が、ゼオライト中に均一に分散した状態が維持されており、その粒子径は5nm以下であることが判る。即ち、実施例1で得られたニッケルナノ粒子複合体は、長期使用に耐えることができ、極めて高い熱安定性を有していることが判る。
【0130】
(実施例3)
(コバルトナノ粒子複合体の作製)
Y型ゼオライト(和光純薬(株)製,商品名:合成ゼオライトHS−320粉末ナトリウムY、SiO2/Al2O3=5.5)を、真空中において、600℃で20時間、熱処理し、吸着水を除去した。
【0131】
次いで、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で、乾燥後のゼオライト200mgと有機コバルト錯体であるビス(シクロペンタジエニル)コバルト(II)(Co(C5H5)2、SIGMA−ALDRICH製、商品名:Bis(cyclopentadienyl)cobalt(II))9mgとを、乳鉢を使用して均一に混合した。
【0132】
次いで、Y型ゼオライトとビス(シクロペンタジエニル)コバルト(II)との混合体を、反応容器である石英製の試験管(外径:12mm、内径:10mm、長さ:100mm)に入れ、この試験管の内部を5〜7Paの圧力に減圧した後、試験管を密封した。
【0133】
次いで、この試験管を130℃で8時間、加熱することにより、ビス(シクロペンタジエニル)コバルト(II)を昇華させて、ビス(シクロペンタジエニル)コバルト(II)をゼオライトの細孔内に吸着させた。
【0134】
次いで、減圧状態で密封した試験管を大気中で開封し、試験管内を大気に晒した。
【0135】
次いで、360nmの波長における照度が12mW/cmであるキセノンランプを紫外線の光源として、ビス(シクロペンタジエニル)コバルト(II)が吸着したゼオライトに対して、72時間、紫外線を照射して、ビス(シクロペンタジエニル)コバルト(II)の有機成分を分解し、コバルトイオンをゼオライトの細孔内に定着させた。
【0136】
次いで、紫外線が照射されたゼオライトを、水素雰囲気下において、400℃で、1時間、加熱処理することにより、ゼオライトの細孔に定着させたコバルトイオンをコバルトに還元して、ゼオライトの細孔にコバルトナノ粒子が担持されたコバルトナノ粒子複合体を作製した。
【0137】
そして、本実施例で得られたコバルトナノ粒子複合体を、加速電圧が200kVの透過型電子顕微鏡(日本電子(株)製、商品名:JEM−2010)により観察した。得られた電子顕微鏡写真(TEM写真)を図17図19に示す。
【0138】
図17に示すように、還元後に粗大な粒子が形成されておらず、また、図18図19に示すように、コバルトナノ粒子は、ゼオライト中に均一に分散しており、その粒子径は5nm以下であることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0139】
以上説明したように、本発明は、触媒等に使用可能な金属ナノ粒子が分散された金属ナノ粒子複合体の製造方法およびその方法により製造された金属ナノ粒子複合体に適している。
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