【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。しかしながら、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
【0057】
[参考例1]
(1) 肥満細胞欠損マウスにおける新生血管形成
(a)モデルマウスの調製
肥満細胞欠損マウスC57BL/6−W
sh/W
shマウス(以下、「W
sh/W
shマウス」)、肥満細胞欠損でないマウスC57BL/6−+/+マウス(以下、「+/+マウス」)、及びそのヘテロ接合体マウスC57BL/6−+/W
shマウス(以下、「+/W
shマウス」)は、それぞれ理研バイオリソースセンターから入手した。全ての動物実験は東京農工大学動物実験指針に従って行われた。W
sh/W
shマウスは、肥満細胞を欠損するマウスとして公知の遺伝子改変マウスである(Blood 80, 1448-1453 (1992))。
【0058】
(b)ROPの誘導
以前に報告されているように(Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 35, 101-111 (1994)等)、+/+マウス、+/W
shマウス、及びW
sh/W
shマウスのそれぞれについて、P7に、新生仔マウスを、授乳のための雌親と共に75v/v%O
2を含む密閉チャンバーに入れ、5日間(P7〜P12)保持した。その後、通常酸素環境(21v/v%O
2)下で、更に5日間(P12〜P17)置き、実験的ROPモデルとして酸素誘導網膜症(OIR)を誘導させた。対照マウスは、実験期間全体を通して通常酸素環境(室内環境、25℃、21v/v%O
2。以下、実施例の項において同じ)で飼育した。なお、本明細書において日付を表す「P」は出生後であることを意味し、例えばP7は、出生後7日目であることを示す。
【0059】
(c)網膜新生血管形成の評価
P7、P12、P17、又はP25にマウスを屠殺した。以前に報告されているようにホールマウント分析を行った。簡潔に述べると、眼を摘出し、4%パラホルムアルデヒドで1時間固定した。網膜を切開してAlexa Fluor 488結合G.シンプリシフォリア(G. simplicifolia)イソレクチンB4(Molecular Probes社製)で一晩染色した。網膜のフラットマウントを作製し、拡大率4倍で蛍光写真を撮り、BIOREVOシステム(株式会社キーエンス製)を用いて重ねた。
【0060】
(d)組織学的検査及び免疫組織化学的検査
P17に、ROPを発症したマウスから眼を摘出し、ダビッドソン固定液で一晩固定した後、パラフィン包埋した。軸方向の6μmパラフィン包埋連続切片を得、HEで染色し、拡大率20倍で画像を撮り、新生血管細胞の数として、内境界膜の硝子体側の内皮細胞の核の数を計数した。免疫組織化学的検査では、1:100希釈(容量比)した抗PECAM−1抗体(Santa Cruz Biotechnology社製)と一緒に切片を4℃で一晩インキュベートした。
切片毎の内皮細胞の核の数の差を、一元配置分散分析、続いてチューキー法又はフィッシャー直接検定により比較した。P値0.05未満を有意とみなした。全てのデータは平均値±SEMで表す。
【0061】
(e)結果
高濃度酸素環境から通常酸素環境へのシフトにより、ROPは新生仔マウスで容易に誘発されるため、肥満細胞欠損W
sh/W
shマウス、肥満細胞欠損でない+/+マウス、及びそのヘテロ接合体(+/W
sh)マウスにおける網膜の新生血管形成の重症度を調べた(
図1)。5日間(P7〜P12)高濃度酸素環境に暴露した後、ホールマウント分析によりP12で全マウスにおいて網膜中心での血管退縮が観察された。高濃度酸素環境による影響は、以前に報告されているように(Invest Ophthalmol Vis Sci 35, 101-111 (1994)等)、網膜の中心の動脈に隣接する毛細血管に主として現れる。血管染色により、P17の+/+マウスの網膜に、新たに形成中の血管発芽が確認できた。血管発芽は、毛細血管網の再生に失敗し、ヒトの病態におけるROPの特徴である新生血管房(neovascular tuft)を、硝子体に向けて形成していた(
図1A)。
【0062】
異常な新生血管房の領域は、W
sh/W
sh及び+/W
shマウスでは、+/+マウスと比べて減少しており、新生血管核の数は、W
sh/W
shマウスでは、+/+マウスと比べて有意に減少しており、一方、+/W
shマウスでは、新生血管核の数はそれらの中間の値であった(
図1B及び
図1C)。血小板内皮細胞接着分子−1(PECAM−1)陽性の内皮細胞の硝子体内への侵入もW
sh/W
shマウスで非常に少なかった(
図1D)。
【0063】
なお、実験期間中、通常酸素環境にだけ暴露した全マウスで、網膜における異常な新生血管形成は観察されなかった(データ示さず)。このことから、高濃度酸素環境へ長期間の暴露により網膜の新生血管形成が誘導され得るかどうかを調べるために、+/+の新生仔マウスを酸素濃度75%で10日間飼育した(P7〜P17)。その結果、網膜中心における毛細血管の喪失が観察されたが、P17において新生血管房は認められなかった(データ示さず)。
【0064】
[参考例2]
以下のようにして、肥満細胞の網膜新生血管形成への関与を調べた。
骨髄由来培養肥満細胞(BMCMC)を、+/+マウスから公知の方法に従って単離した(J Exp Med 174, 7-14 (1991))。5週間以上、常法に従って培養し、1×10
6/20μLの細胞数に調整した細胞懸濁液を調製後、P1又はP2に、W
sh/W
sh新生仔マウスに20μLの量で細胞懸濁液を腹腔内注射した(n=4〜6)。また、対照群の新生仔マウスには、20μLの生理食塩水を腹腔内注射した。その後、参考例1と同様に、P7、P12、P17、又はP25にマウスを屠殺し、更に、BMCMC注射W
sh/W
shマウスから、硝子体内に伸展した新しい血管中のPECAM−1陽性内皮細胞を回収した。網膜新生血管形成の評価、組織学的検査及び免疫組織学的検査を参考例1と同様に行った。結果を
図2に示す。
なお、
図2B中、*はP<0.05を示す(生理食塩水注射W
sh/W
sh新生仔マウスでの結果との比較)。統計的有意性は、一元配置分散分析及びチューキー法により決定した。エラーバーはSEMを表す。
図2C及び
図2Dにおけるスケールバーは、100μmを示す。
【0065】
BMCMCを注射されたW
sh/W
shマウスは、P17において+/+マウスと同程度の網膜の新生血管形成を示したが、生理食塩水を注射されたW
sh/W
shマウスは網膜の新生血管形成を示さなかった(
図2A)。この知見と一致して、眼切片のヘマトキシリン・エオシン(HE)染色の結果から、生理食塩水のみを注射されたマウスと比べてBMCMCを注射されたW
sh/W
shマウスでは、新生血管の増減の指標となる内皮細胞の核の数が増加したことが明らかとなった(
図2B、C)。加えて、硝子体内に伸延する新しい血管に存在するPECAM−1陽性の内皮細胞は、BMCMC注射W
sh/W
shマウスにおいて、回復した。
【0066】
上記で用いた各マウスの視覚機能を確認するために、P19における単発閃光(signal flash)網膜電図(ERG)パターンを分析した。
各マウスを一晩暗順応させた後、麻酔した。眼の上にコンタクトレンズ電極(Mayo Corporation社, N1530NNC)を置き、参照電極及び接地電極をそれぞれ口の中及び尾の上に配置した。一般的な試験及び電気生理学的装置(UTAS E-3000, LKC Technologies, Inc.社製)を用いてERGを記録した。結果を
図3に示す。
図3に示されるように、ROPのモデルに供した+/+及びBMCMC注射W
sh/W
shマウスでは、OP波の振幅が減少し、b波が完全に消失した。一方、生理食塩水のみを注射されたW
sh/W
shマウスでは振幅が正常であることが明らかになった。
【0067】
[参考例3]
BMCMCの細胞懸濁液における細胞数を、さらに、1×10
5細胞/20μL、又は1×10
4細胞/20μLにそれぞれ調整した以外は、上記参考例2と同様にして、各マウスの腹腔内にBMCMCを投与し、P17眼切片における新生血管核をHE染色を用いて網膜新生血管形成の評価を行った。結果を
図4に示す。なお、
図4において、*:P<0.05、**:P<0.01(それぞれ+/+の眼における核の数と比較)。統計的有意性は一元配置分散分析及びフィッシャー直接検定により決定した。エラーバーはSEMを表す。
図4に示されるように、肥満細胞がROPモデルの眼における網膜の新生血管形成を用量依存的に促進することが明らかとなった
【0068】
上記参考例1〜3の結果は、肥満細胞の存在により、即ち、肥満細胞に由来する分泌因子又は顆粒因子がROPのモデルマウスの網膜における異常な血管新生を促進することを示唆している。
【0069】
[実施例1]
肥満細胞スタビライザーであるクロモリンの網膜血管新生に対する影響を以下のようにして確認した。
各濃度の酸素状態における影響を確認するために、実験に供するマウスを、P0からP17までの期間において、P0〜P7までの通常酸素環境下(21v/v%酸素)、P7〜P12までの高濃度酸素環境下(75v/v%酸素)及びP12〜P17の通常酸素環境下となるスケジュールで飼育した。なお、P7及びP12に、酸素濃度環境の入れ替えを行った。
+/+マウス及びW
sh/W
shマウスの各新生仔マウスを3つの群に分けて、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解させたクロモリン(Sigma Aldrich社製)を、50mg/kg/20μLの濃度で毎日腹腔内注射した。対照群には、同容量のPBSを投与した。各群における薬剤投与方法は、
図5に示すとおりである。
即ち、第1群では、新生仔マウスにP6からP16までクロモリンを投与した。第2群では、新生仔マウスにP6からP11にかけてクロモリンを注射した。第3群の新生仔マウスには、P11からP16にかけてクロモリンを投与した。
【0070】
全ての動物をP17で屠殺して眼を摘出した。次いで参考例1と同様に、眼切片をHE染色した後に内皮細胞の核の数を計数することにより、+/+及びW
sh/W
sh新生仔マウスにおける網膜新生血管形成へのクロモリンの影響を、参考例1と同様に評価した。
結果を
図6A〜
図6Cに示す。なお、
図6A〜
図6Cにおいて、*:P<0.01(対照マウスにおける核の数との比較)。
【0071】
図6A〜
図6Cに示されるように、P6〜P16でのクロモリン処置及びP11〜P16でのクロモリン処置は共に、+/+マウスにおいて、W
sh/W
shマウスと同程度まで新生血管の形成を減少させた。これに対して、P6〜P11にクロモリンを投与した第2群のマウスでは、クロモリンは異常な網膜血管成長に影響を与えなかった。
また、ROPモデルにおいて、クロモリンの投与によって肥満細胞の脱顆粒を高濃度酸素環境に暴露後5日間(P11〜P16)抑制した場合、高濃度酸素環境の期間中(P6〜P11)のクロモリンの抑制効果がなかったにも関わらず、硝子体スペース内に伸展した内皮細胞の核の数が有意に減少することを示している(
図6B及び
図6C)。
このことは、肥満細胞に由来する血管新生因子が、高濃度酸素環境への暴露後の酸素濃度の劇的変化によって網膜の新生血管形成を促進している可能性を示唆している。
また、クロモリンの投与は、高濃度酸素環境への暴露後における血管新生に対して抑制効果を有することがわかる。
【0072】
[実施例2]
トリプターゼの特異的阻害剤であるメシル酸ナファモスタット(NM)のROPモデルに対する影響を以下のようにして確認した。
ROPモデルとして、参考例2で作製したBMCMC投与W
sh/W
shマウス(1×10
6個/20μL投与)と、対照群として生理食塩水を同容量投与したW
sh/W
shマウスを用いた。
実施例1と同様のスケジュールでP0〜P17までの期間の酸素濃度を変化させた(
図7参照)。
生理食塩水に溶解した1mg/kg/20μlのNM又は生理食塩水を、P12からP17にかけて、各マウスに毎日腹腔内注射した。P17にマウスを屠殺して眼を摘出し、実施例1と同様にして、新生血管形成の評価を行った。結果を
図8に示す。
図8において、*:P<0.05(対照マウスにおける血管内皮細胞の核の数との比較。)。
【0073】
図8に示されるように、ROPを誘導した+/+及びBMCMC注射W
sh/W
shマウスにおいて、NMは網膜の新生血管形成を抑制した。このことは、NMを投与することで、ROPを有する+/+マウス及びBMCMC投与W
sh/W
shマウスにおける硝子体内の新生血管核をP17において減少させることができたことを示している。
【0074】
従って、トリプターゼインヒビター及び肥満細胞スタビライザーはいずれも、ROPの予防又は治療に使用可能であることがわかる。
【0075】
[実施例3]
トリプターゼがROPのマーカーとして使用できることを以下のようにして確認した。
肥満細胞存在群として、参考例2で作製したBMCMC投与W
sh/W
shマウス(1×10
6個/20μL投与)と、肥満細胞非存在群として生理食塩水を同容量投与したW
sh/W
shマウスを用いた。また、対照群として+/+マウスを使用した。これらの各群は1群あたり4〜5匹の例数を設定した。
各群の全ての動物について実施例1と同様のスケジュールでP0〜P17までの期間酸素濃度環境を変化させた。
P17にそれぞれのマウスより採血を行い、定法に従って血清を得た。この血清を10倍希釈してトリプターゼの定量を行った。血清中トリプターゼの定量には、市販のELISAキット(TPS結合免疫吸着測定キット(mouse),USCN Life Science社,Cat.No. E91070Mu)を使用し、キットの取扱説明書に準じて操作を行った。尚、呈色反応時間は、反応が進みすぎて測定不能となることがないよう適宜調整した。吸光度の測定にはマイクロタイタープレートリーダー(NalgeNunc社,ImmunoMini NJ−2300)を用いた。統計的有意性は一元配置分散分析及びフィッシャー直接検定により決定した。エラーバーはSEMを表す。**:P<0.01(生理食塩水投与マウスの血清トリプターゼ濃度との比較)。
図9に示されるように、P17において肥満細胞が存在する+/+マウス及びBMCMC投与W
sh/W
shマウスにROPを誘導した場合、いずれの群においても血清トリプターゼ濃度は高値を示した。一方、肥満細胞が存在しないW
sh/W
shマウスにおいては血清トリプターゼ濃度は極めて低い値であった。
参考例2にて記載したように、+/+マウス及びBMCMC投与W
sh/W
shマウスはいずれも酸素濃度変化によってP17において網膜血管新生を示しROPが誘導されるが、肥満細胞が存在しないW
sh/W
shマウスは網膜血管新生を生じずROPが誘導されない。本実施例の結果は、ROPが誘導される群では血清トリプターゼ濃度が高いことを示している。このことは、血中のトリプターゼがROPの判定指標として有用であることを示している。
【0076】
[実施例4]
ROPモデルにおける網膜新生血管形成に及ぼすトリプターゼ中和の影響を下記のようにして評価した。
<材料>
1.試薬
(1)マウス肥満細胞−プロテアーゼ−6/Mcpt6抗体
モノクロナールラットIgG
2A (R&D Systems, #MAB4288,500μg)
(2)コントロール
ラットIgG
2Aアイソタイプコントロール (R&D Systems,#MAB006,500μg)
2.マウス
C57BL/6−+/+(+/+)及びC57BL/6−W
sh/W
sh (W
sh/W
sh)新生仔マウス
3.細胞
骨髄由来培養肥満細胞(BMCMC)
<手法>
1.P1又はP2において、生理食塩水中のBMCMC(1×10
6)20μlをW
sh/W
sh新生仔マウスに腹腔内注射した。
2.P7とP12の間、新生仔マウスを高濃度酸素環境に暴露した。
3.P12で通常酸素環境(室内空気)に戻した。
4.P12とP17の間、1日1回、Mcpt6抗体又はアイソタイプコントロール0.2μg/20μlを注射した。
5.P17で、眼を摘出し、ダビッドソン固定液で固定した。
6.HE染色し、新生血管細胞の数として、内皮細胞の核の数を計数した。
<結果>
計測結果を
図10及び表1に示した。
【0077】
【表1】
図10及び表1から分かるように、ROPを誘導した+/+及びBMCMC注射W
sh/W
shマウスにおいて、抗トリプターゼ中和抗体は、網膜の新生血管形成を抑制した。このことは、抗トリプターゼ中和抗体を投与することで、ROPを誘導した+/+マウス及びBMCMC投与W
sh/W
shマウスにおける硝子体内の新生血管核をP17において減少させることができたことを示している。
【0078】
従って、トリプターゼインヒビターとしての抗トリプターゼ中和抗体は、ROPの予防又は治療に使用可能であることがわかる。
【0079】
[実施例5]
実施例1において、酸素濃度変化により誘発される網膜血管新生を抑制することが確認されているクロモリンと、候補物質である7種の化合物について、肥満細胞の脱顆粒に与える影響をβ−ヘキソサミニダーゼをマーカー物質として以下の方法により試験した。
(1)肥満細胞懸濁液の調製
ヒト肥満細胞株HMC−1はヒト白血病由来の細胞株であり、肥満細胞としての性質を備え、顆粒内にβ−ヘキソサミニダーゼを含むことが知られている。既報(European Journal of Immunology, Vol. 29, 2645-2649 (1999))を参考に、HMC−1細胞を10%(v/v) ウシ胎仔血清及び常用量の抗生物質を添加したα-MEM培地(Medium)に懸濁して細胞濃度5×10
5セル/mlの肥満細胞懸濁液を調製した。尚、高酸素濃度環境下を含め、実験期間中、酸素濃度以外の培養条件として細胞は全て5%(v/v)CO
2、37℃環境下に置かれた。
(2)クロモリン及び候補物質の添加
上記の肥満細胞懸濁液を96−ウェルプレートに4×10
5セル/ウェルとなるように分注した。クロモリンと7種の候補物質のそれぞれを下記の濃度になるように添加した。薬剤非添加のコントロール(Medium)、及び、マーカー物質放出誘導処理を行わない無処置例として、クロモリン、候補物質のいずれも加えないウェルを設定した。
・クロモグリク酸(Cromolyn), 10 ng/ml(J Immunol. 2010. 185(1): 709-716)
・スプラタスト(Suplatast), 10 μM(J Immunol. 2009. 183(3):2133-41; Transpl Immunol. 2007. 18(2):108-14)
・トラニラスト(Tranilast), 10 μM(Tohoku J Exp Med. 2009. 217(3):193-201; Circ Res. 2008. 102(11):1368-77; Jpn J Pharmacol. 1988. 46(1):43-51)
・アンレキサクノス(Amelexanox), 1 μM(Orphanet J Rare Dis. 2012. 7: 58; J Biol Chem. 2000. 275(42):32753-62; Arerugi. 1990. 39(10):1448-54; Int Arch Allergy Appl Immunol. 1987. 82(1):66-71)
・レボカバスチン(Levocabastine), 10 nM(Exp Eye Res. 1996. 63(2):169-78)
・イブジラスト(Ibudilast), 1 μM(J Biol Chem. 2012. 287(45):37907-16; PLoS One. 2011. 6(4):e18633; Eur J Pharmacol. 2011. 650(2-3):605-11.; J Biol Chem. 2012. 287(45):37907-16; PLoS One. 2011. 6(4):e18633; Eur J Pharmacol. 2011. 650(2-3):605-11)
・エピナスチン(Epinastine), 1 ng/ml(Clin Exp Allergy. 2007. 37(11):1648-56)
・ペミロラスト(Pemirolast), 10 nM(J Pharmacol Exp Ther. 2011. 337(1):226-35; Cell Mol Neurobiol. 2006. 26(3):237-46
尚、各物質の後ろに記載した文献は各物質の用量設定にあたり参考とした文献である。
(3)マーカー物質放出誘導処理工程及びクロモリンまたは候補物質との接触工程
マーカー物質(β−ヘキソサミニダーゼ)の放出誘導処理工程及びマーカー物質放出誘導処理した肥満細胞HMC−1との接触工程は、96−ウェルプレートを高濃度酸素環境(75v/v%酸素)で24時間保持した後、通常酸素環境(20v/v%酸素)で12時間保持することで実施した。無処置例については、96−ウェルプレートを通常酸素環境(20v/v%酸素)で24時間保持した後、さらに通常酸素環境で12時間保持した。
(4)マーカー物質検出工程
上記の接触工程において肥満細胞の脱顆粒により放出されたマーカー物質(β−ヘキソサミニダーゼ)の検出・測定を以前に報告されている方法で行なった(Eur. J. Immunol. 19(1989)2251-2256)。簡潔に述べれば、以下の通りである。接触工程後の各ウェルから上清を採取した後、ペレット(細胞)を同一容量の0.5%トリトンX−100含有α−最小必須培地(α−MEM:ギブコ社製)中に溶解した。96−ウェルプレートの各ウェルにおいて、5μlの上清又は細胞溶解物を50μlの基質溶液(100mMクエン酸ナトリウム中に1.3mg/mlのp−ニトロフェニル−N−アセチル−β−D−グルコサミン;pH4.5)と混合した。37℃で60分インキュベートした後、200mMグリシン溶液(pH10.7)150μlを加えて反応をとめた。414nmで吸光度を測定した。放出されたマーカー物質(β−ヘキソサミニダーゼ)の比率(%)を次式:
OD(上清)/(OD(上清)+OD(ペレット))×100
で求めた。放出されたマーカー物質(β−ヘキソサミニダーゼ)の比率(%)は、脱顆粒の程度を示し、これが低下することは脱顆粒の抑制を意味する。
試験は、3検体試験で行い、測定結果は、平均及び標準誤差を求め、ANOVA+Tukey検定により統計解析した。
(5)結果
測定結果を
図11に示す。
図11によれば、マーカー物質放出誘導処理を行ったコントロール(Medium)では、マーカー物質放出誘導処理を行わなかった無処置例(Medium (20%O
2))よりも脱顆粒が亢進していた。すなわち、HMC−1細胞を用いたin vitroの実験系においても、in vivo ROPモデル(実施例3)と同様に、高濃度酸素環境から通常酸素環境への酸素濃度の低下によって肥満細胞の顆粒内容物の細胞外への放出が生じることが示された。この試験系において、クロモリンと同様に、7種の候補物質(スプラタスト、トラニラスト、アンレキサクノス、レボカバスチン、イブジラスト、エピナスチン、ペミロラス)はいずれも、コントロール(Medium)に比べ、酸素濃度の変化により誘発した脱顆粒を抑制し、その抑制効果はいずれも統計学的に有意(p<0.05)であった。クロモリンは、肥満細胞スタビライザーであることが知られ、且つ、実施例1により酸素濃度の変化により誘発される網膜血管新生を抑制することが確認されている。したがって、これらの7つの候補物質は、実施例1で試験したクロモリンと同様に、網膜血管新生に対して抑制効果を有し、ROPを治療・予防できると考えられる。