特許第6284533号(P6284533)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 古河電気工業株式会社の特許一覧

特許6284533可動接点部と固定接点部とからなる電気接点構造
<>
  • 特許6284533-可動接点部と固定接点部とからなる電気接点構造 図000004
  • 特許6284533-可動接点部と固定接点部とからなる電気接点構造 図000005
  • 特許6284533-可動接点部と固定接点部とからなる電気接点構造 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284533
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】可動接点部と固定接点部とからなる電気接点構造
(51)【国際特許分類】
   H01H 1/04 20060101AFI20180215BHJP
   H01H 13/52 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   H01H1/04 A
   H01H1/04 B
   H01H13/52 D
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-537997(P2015-537997)
(86)(22)【出願日】2014年9月19日
(86)【国際出願番号】JP2014074977
(87)【国際公開番号】WO2015041359
(87)【国際公開日】20150326
【審査請求日】2015年11月16日
【審判番号】不服2016-10669(P2016-10669/J1)
【審判請求日】2016年7月14日
(31)【優先権主張番号】特願2013-196281(P2013-196281)
(32)【優先日】2013年9月21日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】大賀 賢一
(72)【発明者】
【氏名】小林 良聡
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智
(72)【発明者】
【氏名】池貝 圭介
【合議体】
【審判長】 冨岡 和人
【審判官】 滝谷 亮一
【審判官】 小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭40−15378(JP,B1)
【文献】 特開2007−291510(JP,A)
【文献】 特開2008−273189(JP,A)
【文献】 特開昭61−61306(JP,A)
【文献】 特開昭55−121220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動接点部と固定接点部とを有する電気接点構造であって、
前記可動接点部は、導電性基材の表面の少なくとも一部にニッケル、コバルト、ニッケル合金、またはコバルト合金(ただし、ニッケル−銅合金を除く)のいずれかからなる可動接点部下地層を有し、銀または銀合金からなり被覆厚が0.01〜0.3μmである可動接点部表層を有する可動接点材で構成され、
前記固定接点部は、基材上に銅または銅合金からなる固定接点部下地層を有し、前記固定接点部下地層上にニッケル、スズ、亜鉛、ニッケル合金、スズ合金、または亜鉛合金のいずれかからなる固定接点部最表層を有する固定接点材で構成され、
摺動前の可動接点部表層上に厚さが1〜1.4μF−1/cmの有機皮膜層を有し、100000回摺動後の接触抵抗が35mΩ以下であることを特徴とする電気接点構造。
【請求項2】
摺動前の可動接点部表層の接触抵抗が25mΩ以下である請求項1に記載の電気接点構造。
【請求項3】
前記可動接点部下地層と可動接点部表層の間に、銅または銅合金からなる可動接点部中間層を有し、その被覆厚が0.01〜0.09μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の電気接点構造。
【請求項4】
前記固定接点材の基材が、ガラスエポキシ材であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電気接点構造。
【請求項5】
前記固定接点部最表層の厚さが0.5〜10μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気接点構造。
【請求項6】
前記請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気接点構造を有するプッシュスイッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動接点部と固定接点部とからなる電気接点構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話機や携帯端末機器、さらにはリモコンスイッチや複合プリンター等に用いられているプッシュスイッチには、可動接点側にリン青銅やベリリウム銅、近年はコルソン系銅合金などの銅合金や、ステンレス鋼などの鉄系合金等、ばね性に優れた導電性基体にめっきを施した材料が使用されてきている。具体的には導電性基体上にニッケルめっきを施したニッケル皮膜材、導電電性基体上にニッケルめっきを施した後、最表層に銀めっきを施した銀皮膜材などがある。
一方、固定接点側は、一般的に樹脂基材上の最表層に金めっきを施した材料が用いられている。これは樹脂基板材料、例えば、ガラス繊維を編みこんだエポキシ基板上に銅箔を張合せて銅下地層を形成し、この銅下地層の表面に中間層としてニッケル層を形成し、このニッケル中間層の表面に導電性に優れた金で被覆された皮膜層を形成した材料を用いるというものである。
【0003】
近年、携帯電話など精密機器に使用される接点部品の低コスト化に向け、固定接点側に金皮膜プリント基板、可動接点側にニッケルめっき皮膜材を用いた接点を適用する技術が用いられる傾向にあった。しかし固定接点側については、樹脂基材上に銅皮膜層を形成したプリント基板が用いられることが多い。そこで良好な導電性を実現するために前記プリント基板の最表層に金または金合金の皮膜層を形成していることが多い。
また下記特許文献1のように、固定接点部側に銀めっき層を形成したものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−127225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の、最表層に金または金合金の皮膜層を有する固定接点部は、低コストを実現するために金層の厚みを極薄にしている。そのためスイッチの電気接点部にピンホールが生じやすく、耐食性が不十分であることがわかった。具体的には耐環境性が十分でない、とう問題があった。すなわち高温雰囲気下や高温高湿環境下では下地層から腐食して接触抵抗が上昇し、接点特性が劣化する問題がある。また、金皮膜が軟らかいため、対抗接点部が硬いニッケル皮膜であると、接点同士の摺動が起こったときに磨耗が早く生じて接触抵抗が上昇し、接点特性が劣化しやすくなるという問題が考えられる。
また特許文献1のように、固定接点側に銀めっきを有する場合、繰り返し摺動後の接触抵抗特性はそれなりに良いものもあるがコスト的に不利であり、同等以上の接触抵抗特性が得られ、かつコスト的に有利な固定接点が求められていた。
【0006】
そこで、本発明は、スイッチングが繰り返されるような環境下において長期間使用されても、表面品質が劣化することのない可動接点材と固定接点材とを組み合わせた、電気接点構造およびプッシュスイッチを提供することを課題とする。さらには、長期間使用において接触抵抗の上昇が小さい、可動接点材と固定接点材を組み合わせた電気接点構造およびプッシュスイッチを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記課題は以下の解決手段によって解決された。
(1)可動接点部と固定接点部とを有する電気接点構造であって、
前記可動接点部は、導電性基材の表面の少なくとも一部にニッケル、コバルト、ニッケル合金、またはコバルト合金(ただし、ニッケル−銅合金を除く)のいずれかからなる可動接点部下地層を有し、銀または銀合金からなり被覆厚が0.01〜0.3μmである可動接点部表層を有する可動接点材で構成され、
前記固定接点部は、基材上に銅または銅合金からなる固定接点部下地層を有し、前記固定接点部下地層上にニッケル、スズ、亜鉛、ニッケル合金、スズ合金、または亜鉛合金のいずれかからなる固定接点部最表層を有する固定接点材で構成され、
摺動前の可動接点部表層上に厚さが1〜1.4μF−1/cmの有機皮膜層を有し、100000回摺動後の接触抵抗が35mΩ以下であることを特徴とする電気接点構造。
(2)摺動前の可動接点部表層の接触抵抗が25mΩ以下である(1)に記載の電気接点構造。
(3)前記可動接点部下地層と可動接点部表層の間に、銅または銅合金からなる可動接点部中間層を有し、その被覆厚が0.01〜0.09μmであることを特徴とする(1)または(2)に記載の電気接点構造。
(4)前記固定接点材の基材が、ガラスエポキシ材であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の電気接点構造。
(5)前記固定接点部最表層の厚さが0.5〜10μmであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の電気接点構造。
(6)(1)〜(5)のいずれか1項に記載の電気接点構造を有するプッシュスイッチ。
【0008】
本発明において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電気接点構造は、スイッチング動作が頻繁に繰り返されるなど、様々の使用環境下において、長期間使用されても、可動接点用として、接触抵抗が低く、繰り返すせん断応力に対して表面めっき層の密着性に優れる。さらに微摺動に起因する接触抵抗の上昇が抑制される。本発明の電気接点構造によれば、電気接点の寿命が改善できる。
【0010】
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、適宜添付の図面を参照して、下記の記載からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態の電気接点構造を用いた一例としてのプッシュスイッチの平面図である。
図2図1のA−A線断面図を示すもので、(a)はプッシュスイッチ動作前、(b)はプッシュスイッチ動作時である。
図3】本発明の実施形態の一例のプッシュスイッチの、(a)は可動接点部、(b)は固定接点部3の断面構造をそれぞれ図示するものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の電気接点構造について、好ましい実施の形態を説明する。
【0013】
(電気接点構造)
本実施形態の電気接点構造は、可動接点部を構成する可動接点材と、固定接点部を構成する固定接点材とで構成されている。
図3(a)は、一例として、可動接点部1、図3(b)は一例として、固定接点部2の断面構造をそれぞれ図示するものである。
図3(a)に示すように、可動接点部1は、導電性基材5の表面の少なくとも一部にニッケル、コバルト、ニッケル合金、またはコバルト合金(ただし、ニッケル−銅合金を除く)のいずれかからなる可動接点部下地層6を有し、銀または銀合金からなる可動接点部表層7が形成された可動接点材8から構成されている。
また図3(b)に示すように、固定接点部2は、たとえば樹脂からなる基材9上に銅または銅合金からなる固定接点部下地層10を有し、固定接点部下地層10上にニッケル、スズ、亜鉛、ニッケル合金、スズ合金、または亜鉛合金のいずれかからなる固定接点部最表層11が形成された固定接点材12から構成されている。
【0014】
(可動接点部)
本実施形態において前記の導電線製基材5は、鉄系基材、特にステンレス鋼材が好ましい。ステンレス鋼を可動接点に用いるときは、応力緩和特性に優れ疲労破壊し難いSUS301、SUS304、SUS316などの圧延調質材またはテンションアニール材が好ましい。導電性基材5は、鉄基材以外に、銅基材などであってもよい。
【0015】
前記導電性基材5上に形成される可動接点部下地層6は、密着性を高めるためにニッケル、コバルト、ニッケル合金、コバルト合金(ただし、ニッケル−銅合金を除く)のいずれかが選ばれる。この下地層6は、導電性基材5を陰極にして、例えば塩化ニッケルおよび遊離塩酸を含む電解液を用いて電解することにより、厚さを0.05〜2.0μmとしてめっきするのが好ましい。ニッケルまたはニッケル合金の下地層6の厚さは、薄すぎると効果が少なく、厚すぎると導電性基材5の可動接点の作動力が低下する。可動接点部下地層6を形成するニッケル、コバルトとしては、限定するものではないが、ニッケルが特に好ましく、純ニッケルのほかではコバルト(Co)を1〜10質量%含むニッケル合金でも良い。また、ニッケル−リン(Ni−P)合金、ニッケル−スズ(Ni−Sn)合金、ニッケルーコバルト(Ni−Co)合金、ニッケル−コバルト−リン(Ni−Co−P)合金、ニッケル−クロム(Ni−Cr)合金、ニッケル−亜鉛(Ni−Zn)合金、ニッケル−鉄(Ni−Fe)合金などを用いても良い。
【0016】
従来の銀または銀合金からなる層(可動接点部表層)の密着力低下の原因は、下地層の酸化と大きな繰り返しせん断応力によるものであった。これに対し本実施形態では、下地層6を酸化させない手段として、銅または銅合金から成る中間層13(可動接点部中間層)を配置しても良い。銅または銅合金からなる中間層13の配置によって、銀と銅の拡散が生じ、銀と銅からなる合金層が形成される。その銀−銅合金層が酸素の透過を抑え、密着性の低下を防止する役割を果たす。また、せん断応力に対しては、互いに接する層(銀と銅、銅とニッケル)が固溶する組み合わせにすることで改善される。従来の銀層−ニッケル層では、銀中へのニッケルの固溶濃度は極微量であり、せん断応力に対する破断強度が弱いものであった。発明者等の検討によれば、銀とニッケルの間に銅層を施すことで、銀と銅の界面に合金が形成し、せん断強度が向上するので、この観点でも中間層13の形成は好ましい。
【0017】
このような可動接点部中間層13の厚さは0.01〜0.09μmが好ましい。銅または銅合金層の厚さは、薄すぎると層を設けた効果が少なく、厚すぎると基材の可動接点の作動力が低下するため好ましくない。銅または銅合金としては、特に限定するものではないが、銅、銅−金(Cu−Au)合金、銅−銀(Cu−Ag)合金、銅−スズ(Cu−Sn)合金、銅−ニッケル(Cu−Ni)合金、または銅−インジウム(Cu−In)合金などを用いることができる。また、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)から選ばれる1種又は2種以上の元素を1〜10質量%含む銅合金でも良い。
【0018】
可動接点部1の表層には、銀または銀合金からなる可動接点部表層7を設ける。この層の厚さは0.01〜0.3μmが好ましい。銀合金としては、耐摩耗性向上のために、銀にアンチモン(Sb)を0.1〜2.0質量%添加した合金を用いてもよい。従来用いられていた固定接点部2の金表面に対して、可動接点部の表面はニッケルを用いるのが主流であった。しかし金は高価であることから、固定接点部2は銀やニッケルを最表面とすることが検討されたが、今度は銀のコストやニッケルの表面の接触抵抗の高さが課題となった。このような背景を踏まえ、銀または銀合金からなる層は薄くしている。
【0019】
そのため、摺動前の可動接点部表層7上には、厚さが1〜1.4μF−1/cmの有機被膜を設ける。これは主に銀の防錆を目的として設けられるものである。なお、「μF−1/cm」の定義は明細書の最後に掲載する。本実施形態で有機被膜に用いることのできる有機化合物は、銀または銀合金に対し物理的ないしは化学的結合性の化合物である。なお、本実施形態において物理的結合とはファンデルワールス力などによる弱い結合状態であり、化学的に結合種を持たずに結合や吸着状態を形成している状態をいう。また、化学的結合性の化合物とは、銀または銀合金の表面において、化合物が共有結合や配位結合、ファンデルワールス結合など、化学的結合状態を形成できる状態の結合手や極性等をもつ化合物をいう。
【0020】
本実施形態で上記有機皮膜に用いることのできる有機化合物としては、例えばエステル、カルボン酸、脂肪族アミン、メルカプタンなどが挙げられ、耐食性に優れた防錆皮膜を形成させることのできる化合物として、脂肪族アミンもしくはメルカプタンがより好ましい。被膜の種類が脂肪族アミン、メルカプタンのいずれかまたは両者の混合物からなることで、形成される有機皮膜厚を容易に調整でき、ボンディング性にも優れた防錆皮膜が得られる。本実施形態に用いられる脂肪族アミン及びメルカプタンの中でも、耐食性および直鎖の長さを考慮して、炭素原子数が30以下の、脂肪族アミン及びメルカプタンが特に好ましく、具体的には、ドデシルアミン、エイコシルアミン、ノニルアミン、オクタデシルアミン、ドデシルメルカプタン、オクタデシルメルカプタン、エイコシルメルカプタン、ノニルメルカプタン、オクタコサンチオール等が挙げられる。
【0021】
有機被膜形成方法としては、導電性基体5上に、可動接点部下地層6と、銀または銀合金からなる可動接点部表層7を形成した後、上記有機化合物を含有する溶液中に浸漬する方法で処理することが好ましい。その他、可動接点部表層7を形成後、上記有機化合物を含有する溶液ミスト中を通過させたり、前記溶液を湿らせた布等で拭くなどしたりしても皮膜形成処理をすることができる。上記溶液における銀または銀合金に対し物理的ないしは化学的結合性の有機化合物の濃度は特に制限されることはないが、好ましくは0.01〜10質量%である。溶媒としては、トルエン、アセトン、トリクロロエタン、ラクトン系溶媒、ラクタム系溶媒、環状イミド系の有機溶媒、市販品合成溶剤(例えば、炭化水素系溶剤 NSクリーン100W;商品名、株式会社ジャパンエナジー製)等を使用することができる。これらの溶媒は、表面に残留することなく揮発するため、防錆皮膜における影響はない。また、樹脂密着性も阻害することなく有機皮膜処理を施すことができ、塗布・乾燥が容易に達成される。なお、上記有機化合物皮膜を形成した後、この厚さを本実施形態で規定する厚さに制御する方法として、上記溶媒で0.1〜10秒程度の洗浄を行うことで、銀または銀合金と物理的ないしは化学的結合を生じていない有機化合物の残留分が容易に除去でき、膜厚を制御することが可能である。このときの洗浄工程では、銀または銀合金と結びついた有機皮膜成分は除去されないため、防錆処理効果が失われることはない。
【0022】
防錆皮膜形成の処理温度・処理時間については特に制限はないが、常温(25℃)で0.1秒以上(好ましくは0.5〜10秒)浸漬すれば目的とする防錆皮膜が形成される。この防錆皮膜形成は、1種の有機皮膜を2回以上形成処理したり、2種以上の化合物からなる混合液による有機皮膜を2回以上形成処理したり、さらにはこれらを交互に形成処理したりしても良いが、工程数やコスト面を考慮すると形成処理は3回以内にするのが好ましい。この防錆皮膜はプッシュスイッチの接点構造として作動する前までに、除去されるのが好ましい。
【0023】
本実施形態において、可動接点部下地層6、可動接点部中間層13、可動接点部表層7の各層は、電気めっき法、無電解めっき法、物理・化学的蒸着法など任意の方法により形成できる。これらの中で電気めっき法が生産性とコストの面などから最も有利である。前記各層は、導電性基材5の全面に形成してもよいが、固定接点部との接点や接点近傍のみに形成するのが経済的である。
【0024】
更に、密着強度を向上させるために、非酸化性雰囲気中で加熱処理を行うことにより、拡散特に銀の拡散が進行してせん断強度が向上する。これは銀と銅の合金層が厚くなるためであるが、あまりに加熱処理を続けると表層の銀がすべて合金化することとなり、接触安定性が劣化する。また、銀−銅合金層が厚くなると導電性が低下する。銀−銅合金層の厚さは0.1μm以下が好ましく、加熱条件は200〜400℃×1分〜5時間が好ましい。非酸化性の雰囲気ガスとしては、水素、ヘリウム、アルゴン又は窒素を使用することができるが、アルゴンが好ましい。
【0025】
(固定接点部)
本実施形態の固定接点部2は、図3(b)に示すように、基材9上に、銅または銅合金からなる固定接点部下地層10を有し、前記固定接点部下地層10上にニッケル、スズ、亜鉛、ニッケル合金、スズ合金、または亜鉛合金のいずれかからなる固定接点部最表層11を有する固定接点材12からなる。基材9としては、例えば、FR−4(Flame Retardant Type 4)などのプリント基板材を用いるのが好ましい。また、固定接点部の基材9と固定接点部下地層10は表面に銅パターンを有するプリント基板であってもよい。すなわち、プリント基板の樹脂部分が基材9であり、プリント基板の銅パターンが固定接点部下地層10である。この場合、プリント基板の銅パターン上に固定接点部最表層11を設けることで、固定接点材12とすることができる。
【0026】
銅または銅合金からなる固定接点部下地層10は、可動接点部下地層6や可動接点部中間層13とは異なり、厚さ50μm以下からなる層である。銅または銅合金としては、特に限定するものではないが、銅、銅−金(Cu−Au)合金、銅−銀(Cu−Ag)合金、銅−スズ(Cu−Sn)合金、銅−ニッケル(Cu−Ni)合金、または銅−インジウム(Cu−In)合金などを用いることができる。また、スズ(Sn)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)から選ばれる1種又は2種以上の元素を1〜10質量%含む銅合金でも良い。この下地層はめっきで設けても良いし、たとえば銅箔を樹脂基盤に圧着して設けても良い。
【0027】
固定接点部の最表層11は、ニッケル、スズ、亜鉛、ニッケル合金、スズ合金、または亜鉛合金のいずれかからなる。その厚さは0.5〜10μmが好ましい。
【0028】
(電気接点構造)
本実施形態の電気接点構造は、具体的にいわゆるプッシュスイッチとして適用可能であるが、上述した可動接点部1と固定接点部2を有するものであれば特にその型は限定するものではない。このような本実施形態の上述した可動接点部1と固定接点部2を対応した、両者の相互作用により、電気接点構造は接触抵抗、摺動後の接触抵抗の上昇(接触抵抗のバラツキ)が抑制され、表層金属の密着性の向上を図ることができる。
【0029】
(プッシュスイッチ)
図1は、本実施形態の電気接点構造を用いた一例となるプッシュスイッチPの平面図である。また図2は、該プッシュスイッチPの図1におけるA−A線断面図である。図2において(a)はスイッチ動作前(押圧前)、(b)はスイッチ動作時(押圧後)である。図1に示すように、プッシュスイッチPは、ドーム型を呈する可動接点部1、固定接点部2から構成される電気接点構造を有しており、これらが樹脂ケース4中に樹脂の充填材3を介して固定されている。
本実施形態のプッシュスイッチPは、電気接点部のピンホールの発生が抑制されるとともに、繰り返し摺動後まで含め、接点抵抗特性が良好である。
【実施例】
【0030】
以下に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0031】
(可動接点部1)
厚さ0.05mm、幅180mmの導電性基材に前処理を通常方法で脱脂・酸洗処理を順で実施後、以下の組成からなるめっき浴において所定の厚さ〈平均厚さ〉の下地層、中間層13、表層を形成し、さらに有機被膜層を形成した。下地層6、中間層13、表層7の厚さは、蛍光X線装置(装置名SFT9200、SIIナノテクノロジー社製)により測定した。尚、平均厚さとは材料の3点の測定により得た平均値である。これは後述の固定接点材の各層の場合も同様である。
【0032】
・前処理条件
[電解脱脂]
脱脂液:NaOH 60g/リットル(水)
脱脂条件:電流密度 2.5A/dm、温度 60℃、脱脂時間 60秒
[酸洗]
酸洗液:HSO 10質量%溶液
酸洗条件:室温浸漬、浸漬時間 30秒
【0033】
・下地層めっき処理条件
[ニッケルめっき処理]
めっき液:HCl 120g/リットル(水)、NiCl 30g/リットル(水)
めっき条件:電流密度 1.5A/dm、温度 30℃
[ニッケル−コバルトめっき処理]
めっき液:HCl 120g/リットル(水)、NiCl 30g/リットル(水)、CoCl 30g/リットル(水)
めっき条件:電流密度 1.5A/dm、温度 30℃
【0034】
・中間層めっき処理条件
[銅めっき処理]
めっき液:CuSO・5HO 250g/リットル(水)、HSO 50g/リットル(水)、NaCl 0.1g/リットル(水)
めっき条件:電流密度 1〜10A/dm、温度 40℃
【0035】
・表層めっき処理条件
[銀ストライクめっき処理]
めっき液:AgCN 5g/リットル(水溶液)、KCN 60g/リットル(水溶液)、KCO 30g/リットル(水溶液)
めっき条件:電流密度 2A/dm、温度 30℃
[銀めっき処理]
めっき液:AgCN 50g/リットル(水溶液)、KCN 100g/リットル(水溶液)、KCO 30g/リットル(水溶液)
めっき条件:電流密度 3A/dm、温度 30℃
【0036】
・有機被膜層の形成
メルカプタン系有機化合物の溶液に、必要なめっき処理を行った各サンプルを浸漬して、有機被膜を形成させた。
浸漬溶液:0.5質量%有機化合物溶液(溶剤トルエン)
浸漬条件:常温 5秒浸漬後、溶剤トルエンで5秒洗浄
乾燥:40℃ 30秒
【0037】
(固定接点部2)
樹脂基材(FR−4)に、以下の下地層、最表層を形成した。
【0038】
下地層形成条件
樹脂基材上に、厚さ35μmの銅箔(圧延銅箔または電解銅箔)を熱プレスにより貼り付けた。
熱プレス条件:150℃、1時間、圧力1MPa
【0039】
前記下地層上に、最表層をめっきにより形成した。
・最表層めっき処理条件
[ニッケルめっき処理]
めっき液:HCl 120g/リットル(水)、NiCl2 30g/リットル(水)
めっき条件:電流密度 1.5A/dm、温度 30℃
[スズめっき処理]
めっき液:硫酸第一錫 60g/リットル(水)、HSO 98g/リットル(水)
めっき条件:電流密度 1A/dm、温度 30℃
[亜鉛めっき処理]
めっき液:硫酸亜鉛 60g/リットル(水)、HSO 98g/リットル(水)
めっき条件:電流密度 1A/dm、温度 30℃
[金めっき処理]
めっき液:メルテックス製 ロノベルC メタル濃度4g/リットル(水)
めっき条件:電流密度 2A/dm、温度 60℃
【0040】
(電気接点構造)
得られた可動接点部1を直径4mmφのドーム型可動接点材に加工し、得られた固定接点部2を所定の形状に加工して図1、2に示すプッシュスイッチとしての電気接点構造を形成した。これら可動接点部1、固定接点部2の実施例の構成を表1にまとめた。
【0041】
【表1】
【0042】
表1に示された電気接点構造について下記の試験を行った。その結果を表2にまとめた。
【0043】
(摺動無し接触抵抗試験)
電気接点構造の接続性について、4端子法を用いて、初期、大気加熱後(85℃−240hr.)、高温高湿(60℃、95%RH、240hr.)後の接触抵抗測定を行った。
測定条件:供試用可動接点側材料と供試用固定接点側材料とを用意した。この可動接点側材料には曲率半径1.05mmの半球状張出部(凸部外面が最外層面)を設ける。この半球状張出部に固定接点側材料の最外層面を荷重1Nで接触させ、四端子法を用いて5mA通電時の抵抗値を10回測定し、その平均値を算出した。
またその結果を下記の基準により評価した。
A 接触抵抗(すべての条件)の値が40mΩ未満である。
B いずれか1つ以上の条件の接触抵抗の値が40mΩ以上、100mΩ未満である。C 上記以外(いずれか1つ以上の条件の接触抵抗の値が100mΩ以上である。)
(密着性試験)
可動接点部1の試験片を10mm×30mmに切断後、カッターで2mm四方のクロスカットを実施した。その後寺岡製作所製#631Sテープを使用して引き剥がし、めっきの密着性試験を実施した。密着性は、剥離あり(表2中では「剥離」、あるいは一部のみの場合は「NG」と評価)と剥離無し(表2中では「OK」と評価)のいずれかの基準で評価した。
【0044】
(摺動後接触抵抗試験)
摺動後接触抵抗試験(微摺動磨耗試験)は次のようにして行った。
可動接点部1と固定接点部2の供試用めっき材料とを用意した。可動接点部1のめっき材料には曲率半径1.05mmの半球状張出部(凸部外面が最外層面)を設けた。この半球状張出部に固定接点部めっき材料の最外層面をそれぞれ脱脂洗浄後に接触圧力1Nで接触させ、この状態で両者を、温度20℃、湿度50%の環境下で、摺動距離10μmで往復摺動させ、両めっき材料の間に開放電圧20mVを負荷して定電流5mAを流し、摺動中の電圧降下を4端子法により測定して電気抵抗の変化を1秒ごとに求めた。微摺動試験前の接触抵抗値(初期値)と微摺動試験中の最大接触抵抗値(最大値)を表2に示した。なお、往復運動の周波数は約6.8Hzで行った。ここでは1往復を1回とカウントした。
またその結果を下記の基準により判定した。
A 接触抵抗(すべての条件)の値が40mΩ未満である。
B いずれか1つ以上の条件の接触抵抗の値が40mΩ以上、60mΩ未満である。
C いずれか1つ以上の条件の接触抵抗の値が60mΩ以上、100mΩ未満である。
D いずれか1つ以上の条件の接触抵抗の値が100mΩ以上である。
(総合特性)
総合特性の評価は次の判断基準でおこなった。
A:摺動無し接触抵抗試験の判定がA、摺動後接触抵抗試験の判定がA〜C判定であり、密着性試験の判定がOKの結果であった。
B:摺動無し接触抵抗試験の判定がB、摺動後接触抵抗試験の判定がA〜C判定であり、密着性試験の判定がOKの結果であった。
C:摺動無し接触抵抗試験の判定がC、摺動後接触抵抗試験の判定がA〜C判定であり、密着性試験の判定がOK、であったもの。
D:摺動後接触抵抗試験の判定がDまたは密着性試験の判定がNGであるもの
【0045】
【表2】
【0046】
表1、2を総合した結果から、従来例1は総合判定がDであり、実用上、不適であった。一方、発明例4〜9、16〜17、26〜28、30〜31と38に示した本実施例品は、総合判定がA〜Cに入っており、とくに摺動後接触抵抗試験後において優れた接触抵抗特性を有し、優れた可動接点構造を備えていることが分かる。また、大気中における加熱処理後においても接触抵抗が非常に低く、かつ皮膜密着性において、大変良好であることがわかる。
摺動無し接触抵抗試験の結果については、本実施例品において、結果A〜Cとばらついた。その他の結果との関係から勘案して、前記可動接点部表層7の厚さが0.01〜0.3μmμmであり(さらに好適には0.03〜0.2μm)、前記可動接点部中間層13の厚さが0.01〜0.09μmであり(さらに好適には0.15〜0.05μm)、固定接点部最表層11の厚さが0.5〜10μm(さらに好適には3〜8μm)である場合最も良い特性が得られると考えられ、それらそれぞれの数値範囲のいずれか1つ以上を満たす場合には本実施形態として好適であることが分かった。
【0047】
以上の実施形態、実施例において固定接点部2側の基材として樹脂基材を使用したが、とくに限定されるものではなく、例えばガラスエポキシ板のようなリジット基板、また、PETフィルムやポリイミドフィルムのような可撓性のあるフィルム材料、黄銅や無酸素銅などの銅または銅合金、SUS301などの鉄または鉄合金、Al1071のようなアルミ銅合金などの材質の基材を使用してもよい。
(本明細書における「μF−1/cm」という単位の定義および測定方法)
「μF−1/cm」とは電気二重層容量を用いる金属上の有機皮膜の厚さを規定する単位であり、電気二重層容量の逆数1/Cである。
その測定方法は、原理としては4端子法に従い、より具体的には、電解質水溶液中に被測定試料を浸漬し、対極との間にステップ電流を流し、参照電極と被測定試料のあいだの電圧の過渡特性を電子回路で演算することにより、電気二重層容量Cを測定するものである。ここでCと試料の厚さdには以下の関係がある。
1/C=A・d+B(A,Bは比例定数)
したがって1/Cの値を求めることによって試料表面の誘電体薄膜厚さの相対値を求めることができる。
【0048】
本願は、2013年9月21日に日本国で特許出願された特願2013−196281に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【符号の説明】
【0049】
P プッシュスイッチ
1 可動接点部
2 固定接点部
5 導電性基材
6 可動接点部下地層
7 可動接点部表層
8 可動接点材
9 基材
10 固定接点部下地層
11 固定接点部最表層
12 固定接点材
13 可動接点部中間層
図1
図2
図3