(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)90〜100質量部に対し、難燃剤として臭素系難燃剤(B)15〜30質量部と三酸化アンチモン(C)5〜15質量部とを含有し、また老化防止剤としてベンゾイミダゾール系老化防止剤(D)6〜12質量部とフェノール系老化防止剤(E)2〜4質量部とチオエーテル系老化防止剤(F)2〜4質量部とを含有し、さらに、銅害防止剤(G)0.5〜2質量部と、架橋助剤(H)3〜6質量部とを含有する。以下、自動車用ワイヤーハーネスを、単に「ワイヤーハーネス」と称することもある。また、各成分を、符号を付さずに記載することがある。例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)を、単に「エチレン−酢酸ビニル共重合体」と記載することもある。
なお、後述の任意成分も含め、本発明の樹脂組成物に含まれる成分は、全て、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0013】
(エチレン−酢酸ビニル共重合体(A))
本発明の樹脂組成物は、エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)を90〜100質量部含有する。エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)の含有量が90質量部未満であると、絶縁電線の架橋度と難燃性の低下を招く。一方、エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)の含有量が100質量部を越えると、絶縁電線の優れた柔軟性は保つことができるが、加工密着性や機械強度が低下する。本発明に用いられるエチレン−酢酸ビニル共重合体の重合の形態は、ブロック、ランダム及びグラフトのいずれでもよい。エチレン−酢酸ビニル共重合体中の酢酸ビニル成分の含有割合は、10〜30質量%が好ましく、10〜20質量%が特に好ましい。酢酸ビニル成分の含有割合が上記範囲内にあることで、本発明の樹脂組成物を用いて作製した樹脂被覆材が十分な可撓性を保ちつつ、樹脂組成物が加工機と密着しにくく(加工密着性に優れ)加工機内への組成物の残留量を抑えることができ、尚且つ、絶縁電線の難燃性がより向上する。なお、酢酸ビニル成分の含有割合は、例えば、合成する際の原料(モノマー)の質量比から求めることができる。
本発明に用いられるエチレン−酢酸ビニル共重合体は、常法により合成することができる。また、市販品を用いてもよい。市販品の具体例としては、三井デュポンポリケミカル社製エバフレックスV5274、エバフレックスV422及びエバフレックスEV40LX(いずれも商品名)を挙げることができる。
【0014】
エチレン−酢酸ビニル共重合体のメルトフローレイト(MFR)は、0.1〜10g/10分(荷重2.16kg、温度190℃)が好ましく、0.5〜5g/10分がより好ましい。
メルトフローレイトが小さすぎるエチレン−酢酸ビニル共重合体を使用した場合、樹脂組成物の調製時またはワイヤーハーネスの作製時に、混練機器や押出機の負荷が増大する場合がある。
一方、メルトフローレイトが大きすぎるエチレン−酢酸ビニル共重合体を使用した場合、ワイヤーハーネスの成形装置である押出機の負荷が低減するが、樹脂組成物中、各成分の分散性が低下する場合がある。
【0015】
(臭素系難燃剤(B))
本発明の樹脂組成物は、臭素系難燃剤(B)を15〜30質量部含有する。臭素系難燃剤(B)の含有量が15質量部未満であると、絶縁電線の十分な難燃性を得ることができない。一方、臭素系難燃剤(B)の含有量が30質量部を越えると、絶縁電線の柔軟性、耐寒性、機械強度の低下や耐熱性、耐摩耗性を低下させる。
本発明に用いられる臭素系難燃剤は含臭素化合物である。すなわち本発明の樹脂組成物は難燃剤として含臭素化合物を含有するものである。また、本発明に用いる臭素系難燃剤にはポリブロモフェニルエーテル及びポリブロモビフェニルは含まれないものとする。臭素系難燃剤としては、例えば、臭素化N,N’−エチレンビスフタルイミド又はこれから導かれる化合物(これらをまとめて「臭素化N,N’−エチレンビスフタルイミド化合物」と称す。)、N,N’−ビス(ブロモフェニル)テレフタルアミド又はこれから導かれる化合物(これらをまとめて「N,N’−ビス(ブロモフェニル)テレフタルアミド化合物」と称す。)、臭素化ビスフェノール又はこれから導かれる化合物(これらをまとめて「臭素化ビスフェノール化合物」と称す。)、1,2−ビス(ブロモフェニル)アルカン等の有機臭素含有難燃剤が使用可能である。その中でも、例えば、下記構造式1で表される臭素化N,N’−エチレンビスフタルイミド及び/又は下記構造式2で表される1,2−ビス(ブロモフェニル)エタンを用いることが好ましい。
難燃剤として臭素化N,N’−エチレンビスフタルイミド、及び/又、は1,2−ビス(ブロモフェニル)アルキルを使用することによりブルーミングがほとんど生じない樹脂被覆材を形成することが可能である。
なお、難燃剤としてポリブロモフェニルエーテルやポリブロモビフェニルを使用すると、ブルーミングが激しく生じるおそれがあるため、本発明ではその使用を避けている。また、塩素系難燃剤を使用した場合も同様のブルーミングの問題が生じるおそれがあるため、本発明の樹脂組成物は塩素系難燃剤を含有しないことが好ましい。
【0018】
本発明には、市販品の臭素系難燃剤を用いてもよい。市販品としては、例えば、アルベマール社製のサイテックス8010(商品名)が挙げられる。
【0019】
(三酸化アンチモン(C))
本発明の樹脂組成物は、三酸化アンチモン(C)を5〜15質量部含有する。三酸化アンチモン(C)の含有量が5質量部未満であると、絶縁電線の難燃性が著しく低下する。三酸化アンチモン(C)の含有量が15質量部を越えると、絶縁電線の柔軟性、低温性、機械的強度の低下や耐熱性、耐摩耗性を低下させる。
本発明には、市販品の三酸化アンチモンを用いてもよい。市販品としては、例えば、日本精鉱社製のPATOX−C(商品名)が挙げられる。
【0020】
(ベンゾイミダゾール系老化防止剤(D))
本発明の樹脂組成物は、ベンゾイミダゾール系老化防止剤(D)(ベンゾイミダゾール系酸化防止剤(D))を6〜12質量部含有する。すなわち本発明の樹脂組成物は、老化防止剤としてベンゾイミダゾール化合物(ベンゾイミダゾール骨格を有する化合物)を特定量含有するものである。ベンゾイミダゾール系老化防止剤(D)の含有量が6質量部未満であると、絶縁電線の耐熱性が著しく低下する。一方、ベンゾイミダゾール系老化防止剤(D)の含有量が12質量部を越えると、絶縁電線の難燃性が著しく低下し、耐摩耗性を低下させる。
ベンゾイミダゾール系老化防止剤としては、2−スルファニルベンゾイミダゾール、2−スルファニルメチルベンゾイミダゾール、4−スルファニルメチルベンゾイミダゾール、5−スルファニルメチルベンゾイミダゾール及びこれらの亜鉛塩などが挙げられ、2−スルファニルベンゾイミダゾールが好ましい。
本発明には、市販品のベンゾイミダゾール系老化防止剤を用いてもよい。市販品としては、例えば、大内新興化学社製ノクラックMBZ(商品名)が挙げられる。
【0021】
(フェノール系老化防止剤(E))
本発明の樹脂組成物は、フェノール系老化防止剤(E)(フェノール系酸化防止剤(E))を2〜4質量部含有する。すなわち本発明の樹脂組成物は、老化防止剤としてフェノール化合物(フェノール骨格を有する化合物)を特定量含有するものである。フェノール系老化防止剤(E)の含有量が2質量部未満であると、絶縁電線の耐熱性が著しく低下する。一方、フェノール系老化防止剤(E)の含有量が4質量部を越えると、絶縁電線の難燃性、耐摩耗性が低下したり、ブルーミングが生じたりする。
フェノール系老化防止剤としては、例えば、トリエチレングリコール−ビス(3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、1,6−ヘキサンジオール−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5,−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどがあり、これらの中でも、自動車用ワイヤーハーネスに高い耐熱性を付与する点から、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル基もしくは3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル基を2個以上有するものが好ましく、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート及びペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)が特に好ましい。
本発明には、市販品のフェノール系老化防止剤を用いてもよい。市販品としては、例えば、BASF社製イルガノックス1010(商品名)が挙げられる。
【0022】
(チオエーテル系老化防止剤(F))
本発明の樹脂組成物は、チオエーテル系老化防止剤(F)(チオエーテル系酸化防止剤(F))を2〜4質量部含有する。すなわち本発明の樹脂組成物は、老化防止剤としてチオエーテル化合物(チオエーテル結合を有する化合物)を特定量含有するものである。チオエーテル系老化防止剤(F)の含有量が2質量部未満であると、絶縁電線の耐熱性が著しく低下する。一方、チオエーテル系老化防止剤(F)の含有量が4質量部を越えると、絶縁電線の難燃性、耐摩耗性が低下したり、絶縁電線において、ブルーミングが生じたりする。
チオエーテル系老化防止剤としては、例えば、ジラウリル3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)などがあり、これらの中でも、組成物、絶縁電線に高い耐熱性を付与する点から、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)が好ましい。
本発明には、市販品のチオエーテル系老化防止剤を用いてもよい。市販品としては、例えば、ADEKA社製アデカスタブAO−412S(商品名)が挙げられる。
【0023】
ベンゾイミダゾール系老化防止剤、フェノール系老化防止剤及びチオエーテル系老化防止剤を組み合わせることにより、本発明の樹脂被覆材ないしこの樹脂被覆材からなる層を有する絶縁電線の耐熱性、難燃性、耐摩耗性をさらに向上させることができる。
【0024】
(銅害防止剤(G))
本発明の樹脂組成物は、銅害防止剤(G)(金属不活性化剤(G))を0.5〜2質量部含有する。銅害防止剤(G)の含有量が0.5質量部未満であると、銅などの金属イオンとの接触により、老化防止剤の酸化劣化抑止能力が低下し、絶縁電線の耐熱性が低下する。一方、銅害防止剤(G)の含有量が2質量部を越えると、絶縁電線の難燃性が低下する場合がある。
銅害防止剤(G)は、トリアゾール系化合物、N,N’−ジアシルヒドラジン化合物、ジヒドラジド化合物などが挙げられる。銅害防止剤としては、例えば、ADEKA社製の重金属不活性化剤アデカスタブCDAシリーズなどが挙げられる。具体的には、CDA−1、CDA−6、CDA−10(いずれも商品名)などが挙げられる。また、BASF社製イルガノックスMD1024(商品名)などが挙げられる。特に好ましいものは、高い耐熱性向上効果を有するなどの観点から、CDA−10〔N,N−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン〕及びイルガノックスMD1024である。
【0025】
(架橋助剤(H))
本発明の樹脂組成物は、架橋助剤(H)を3〜6質量部含有する。架橋助剤(H)の含有量が3質量部未満であると、架橋が十分進行せず、絶縁電線の機械的強度、難燃性、耐熱性を低下させる。一方、架橋助剤(H)の含有量が6質量部を越えると、架橋密度が大きくなり、絶縁電線の柔軟性が低下する。また、樹脂組成物を調製する際、加工機内で組成物がスリップしやすくなり、組成物を分散させる混合時間を要することになる。
本発明には、市販品の架橋助剤を用いてもよい。市販品としては、例えば、新中村化学工業社製オグモントT200(商品名)が挙げられる。
【0026】
(マレイン酸変性ポリエチレン(I))
本発明の樹脂組成物は、マレイン酸変性ポリエチレン(I)を1〜10質量部含有することが好ましく、5〜10質量部がより好ましい。マレイン酸変性ポリエチレン(I)の含有量が上記範囲内にあることで、本発明の樹脂組成物を用いて作製した樹脂被覆材を有する絶縁電線が、十分な可撓性を有する。さらには、樹脂組成物が加工機と密着しにくい(加工密着性に優れる)ため、加工機内への組成物の残留量を抑えることができ、尚且つ組成物中の樹脂とフィラー類の相溶性を高めることで、絶縁電線の耐摩耗性がより向上する。
【0027】
(添加剤)
本発明の樹脂組成物は、各種の添加剤、例えば、滑剤、紫外線吸収剤、分散剤、可塑剤、充填剤、顔料などを本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じ適宜配合することができる。このような添加剤として、例えば、亜鉛化合物が挙げられる。亜鉛化合物の具体例としては、硫化亜鉛や酸化亜鉛が挙げられる。なお、本発明の樹脂組成物中、滑剤の含有量は、0.5〜2質量部が好ましい。
なお、本発明の樹脂組成物は、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水和物を含んでもよいが、その含有量は、エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)90〜100質量部に対し、5質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましい。金属水和物の含有量が多すぎると、絶縁電線の柔軟性、耐摩耗性、機械的強度及び耐寒性が低下するからである。
【0028】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物は、上述の成分(A)〜(H)、さらに必要に応じて、上述の任意成分を調合し、ロール、ニーダー、バンバリーミキサー等のバッチ式混練機あるいは二軸押出機などの通常用いられる混練装置で溶融混練することにより得ることができる。
【0029】
<自動車用ワイヤーハーネス>
本発明の自動車用ワイヤーハーネスは、導体(導体束、ファイバ心線を含む)の表面に、本発明の樹脂組成物を架橋させた樹脂被覆材からなる層を有する。なお、本発明の自動車用ワイヤーハーネスは、導体と樹脂被覆材からなる層との間に中間層や遮蔽層を有していてもよい。
【0030】
<自動車用ワイヤーハーネスの製造方法>
本発明の自動車用ワイヤーハーネスの製造方法は、エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)90〜100質量部と、臭素系難燃剤(B)15〜30質量部と、三酸化アンチモン(C)5〜15質量部と、ベンゾイミダゾール系老化防止剤(D)6〜12質量部と、フェノール系老化防止剤(E)2〜4質量部と、チオエーテル系老化防止剤(F)2〜4質量部と、銅害防止剤(G)0.5〜2質量部と、架橋助剤(H)3〜6質量部とを含有する自動車用ワイヤーハーネス用樹脂組成物に、80〜250kGyの電子線を照射する工程を含む。
本発明の自動車用ワイヤーハーネスは、導体の周囲に本発明の樹脂組成物を押出被覆して製造することができる。導体としては、単線でも撚線でもよく、また裸線でも錫メッキ若しくはエナメル被覆したものでもよい。導体を形成する金属材料としては軟銅、銅合金、アルミニウム等が挙げられる。導体の周りに形成される樹脂被覆材からなる層の厚さは特に制限されないが、通常、0.15〜5mm程度である。
この導体径や導体の材質、被覆層の厚さなどは特に制限はなく、用途に応じて適宜定められる。上記電子線を照射する工程は、押出被覆後に行われることが好ましい。電子線架橋は、通常の方法、及び条件で行うことができ、制限するものではない。電子線の照射条件は、照射量50〜450kGyが好ましく、80〜250kGyがより好ましく、80〜200kGyがさらに好ましく、80〜160kGyが特に好ましい。
また、導体と被覆層、被覆層と被覆層の間に中間層や遮蔽層を設けるなどの多層構造をとってもよい。
【0031】
本発明の樹脂組成物を押出成形する際の条件は、本発明の樹脂組成物を押出すことができれば特に限定されないが、押出機(押出成形機)への負荷を低減でき、しかも形状維持性をも確保できる点で、押出温度(ヘッド部)が100〜230℃が好ましく、120〜200℃がより好ましい。
また、押出成形の他の条件として、通常の条件を、適宜に設定でき、特に制限はない。押出速度(押出線速)は、制限するものではないが、特に、本発明では、高速押出に対して優れており、生産性が向上する。
押出機のスクリュー構成は、特に限定されず、通常のフルフライトスクリュー、ダブルフライトスクリュー、先端ダブルフライトスクリュー、マドックスクリュー等を使用できる。
【0032】
導体の形状や材質は、一般に自動車用ワイヤーハーネスで用いられている形状、材質(銅、アルミニウムなど)であればどのような導体でもよい。
また、被覆層の厚みは、特に制限がない。本発明の樹脂組成物を使用した場合、被覆層の厚みを薄くしても可撓性、硬度、架橋度、難燃性、耐寒性及び耐熱性に優れる絶縁電線が得られるという利点がある。
【実施例】
【0033】
本発明を以下の実施例および比較例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
(実施例1〜10および比較例1〜12)
実施例1〜10および比較例1〜12の樹脂組成物を調製するための材料を下記表1に示す。
使用した材料の詳細は下記のとおりである。なお、成分(数字)は、下記表1の記載と対応する。例えば、成分(1)は、下記表1の(1)エチレン−酢酸ビニル共重合体を示す。
【0035】
<使用材料>
エチレン/酢酸ビニル共重合体(A)
成分(1):エバフレックスV5274(商品名)、三井デュポンポリケミカル社製
酢酸ビニル構成成分17質量%
成分(2):エバフレックスV422(商品名)、三井デュポンポリケミカル社製
酢酸ビニル構成成分20質量%
成分(3):エバフレックスEV40LX(商品名)、三井デュポンポリケミカル社製 酢酸ビニル構成成分41質量%
【0036】
臭素系難燃剤(B)
成分(8):1,2−ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、サイテックス8010(商品名)、アルベマール社製
【0037】
三酸化アンチモン(C)
成分(9):PATOX−C(商品名)、日本精鉱社製
【0038】
ベンゾイミダゾール系老化防止剤(D)
成分(11):2-スルファニルベンゾイミダゾールの亜鉛塩、ノクラックMBZ(商品名)、大内新興化学社製
【0039】
フェノール系老化防止剤(E)
成分(12):ヒンダードフェノール系老化防止剤、イルガノックス1010(商品名)、BASF社製
【0040】
チオエーテル系老化防止剤(F)
成分(13):アデカスタブAO−412S(商品名)、ADEKA社製
【0041】
銅害防止剤(G)
成分(14):イルガノックスMD1024(商品名)、BASF社製
【0042】
架橋助剤(H)
成分(16):トリメチロールプロパンメタクリレート、オグモントT200(商品名)、新中村化学工業社製
【0043】
マレイン酸変性ポリエチレン(I)
成分(4):アドテックスL6100M(商品名、日本ポリオレフィン社製)
【0044】
滑剤
成分(17): ステアリン酸亜鉛 シナカレッドZS−101(商品名)、品川化工社製
【0045】
その他の成分
成分(5):直鎖型低密度ポリエチレン(LLDPE)、ノバテックUE320(商品名)、日本ポリエチレン社製
成分(6):超低密度ポリエチレン(VLDPE)、ENGAGE8440(商品名)、Dow Elastomers社製
成分(7):ハイゼックス5305E(商品名)、プライムポリマー社製
成分(10):キスマ5L(商品名、シラン表面処理品)、協和化学社製
成分(15):硫化亜鉛(商品名)、SachtolithHD−S Sachtleben Chemie社製
【0046】
[樹脂組成物ペレットの製造]
下記表1に示す組成に従い、1.7リットルのバンバリーミキサーを用いて180℃で溶融混練し、混合物を排出し、押出機を通して造粒して、実施例1〜10および比較例1〜12の樹脂組成物ペレットを得た。
【0047】
[絶縁電線とシートの作製]
上記で得られた各樹脂組成物ペレットを、温度を130〜190℃に設定した押出機を用いて、導体上に押出被覆した後、被覆層を電子線で架橋し、それぞれ、以下の(i)および(ii)の2種の絶縁電線を作製した。また、上記で得られた各樹脂組成物ペレット160℃の加圧プレスしてシート状に成形し、このようにして得たシートを電子線で架橋させ、(iii)のシートを作製した。なお、導体として、裸軟銅線(構成:37本/素線径0.32mm、19本/39本/素線径0.32mm)を用いた。
なお、電子線による架橋は、加速電圧1000keVにて、80、120または160kGyの条件で行った。
(i)断面積が3.0mm
2の銅からなる導体上に0.7mmの厚さで押出被覆した長さ約10mの絶縁電線
(ii)断面積が60mm
2の銅からなる導体上に1.6mmの厚さで押出被覆した長さ約10mの絶縁電線
(iii)厚さ2mm、縦50mm、横50mmのプレス成形シート
【0048】
[試験]
(加工密着性)
バンバリーミキサーで混合した時のバンバリーミキサーとの密着性を以下の基準で評価した。A及びBが合格である。
−評価基準−
A:混練コンパウンドが加工機に残らなかった。
B:加工機に残った混練コンパウンドが原料の1質量%以上2質量%未満であった。
C:加工機に残った混練コンパウンドが原料の2質量%以上5質量%以下であった。
【0049】
(5%モジュラス)
前記(i)の絶縁電線を使用し、日本工業規格規格(JIS)K 7161に基づき、以下の基準で評価した。引張速度は室温(23℃)にて200mm/分とし、標線間距離の増加量を標線間距離で除した引張ひずみである5%モジュラスとした。A及びBが合格である。
−評価基準−
A:5%モジュラスが3MPa未満
B:5%モジュラスが3MPa以上5MPa未満
C:5%モジュラスが5MPa以上
【0050】
(硬度)
前記(iii)の成形シートを使用し、日本工業規格規格(JIS)K 7215に基づき、以下の基準で評価した。測定試料はシート3枚を重ねて厚さ6mmとし、試験機はタイプDデュロメーターとした。A及びBが合格である。
−評価基準−
A:HDDが40未満
B:HDDが40以上50未満
C:HDDが50以上
【0051】
(ゲル分率)
前記(i)の絶縁電線の樹脂被覆材からなる層を0.1g採取し、これを試料として使用し、日本自動車技術会規格(JASO)D618 6.14.2に規定されている方法に基づいて実施した。試料を試験管に入れ、キシレン20mlを加えて120℃で24時間加熱した。その後試料を取出して、100℃乾燥器内で6時間乾燥後、常温(23℃)になるまで放冷してから、質量を精秤した。キシレン浸漬前の試料の質量に対するキシレン浸漬〜乾燥後の試料の質量の百分率((キシレン浸漬〜乾燥後の試料の質量/キシレン浸漬前の試料の質量)×100)をもってゲル分率とした。以下の基準で評価した。A及びBが合格である。
−評価基準−
A:ゲル分率60%以上
B:ゲル分率50%以上60%未満
C:ゲル分率50%未満
【0052】
(耐摩耗性A)
自動車用電線規格(JASO) D618 6.7.2に規定されている方法に基づいて耐摩耗性試験(スクレープ摩耗試験)を実施した。
前記(i)の絶縁電線から1mの試料を採取し、片端から、絶縁体を25mm取り除いた。
この試料に対し、直径0.45mmの針(材質ステンレス鋼)に7Nの荷重を加え、試験を行った。試験条件の詳細を以下に示す。
動作速度:55サイクル/min(1回往復で1サイクルとする。)
針の移動量:20mm
摩耗長さ15.5mm
試験した際の温度:23℃
このように試験を行い、以下の基準で評価した。A及びBが合格である。
−評価基準−
A:針が導体に接触するまでのサイクル回数が2000回以上
B:針が導体に接触するまでのサイクル回数が750回以上2000回未満
C:針が導体に接触するまでのサイクル回数が750回未満
【0053】
(耐摩耗性B)
自動車用電線規格(JASO) D618 6.7.1に規定されている方法に基づいて耐摩耗性試験(テープ摩耗試験)を実施した。
前記(ii)の絶縁電線から長さ1mの試料を採取し、両端から、樹脂被覆材からなる層を25mm取り除いた。この試料に対し、摩耗テープとしてアルミナ180番(幅25mm)を使用し、追加荷重1.9kgで、摩耗テープが試料に0.63Nの押付け力で接触するようにして、試験を行った。試験結果に対し、以下の基準で評価した。A及びBが合格である。
−評価基準−
A:導体が露出するまでのテープの移動距離が4500mm以上
B:導体が露出するまでのテープの移動距離が3430mm以上4500mm未満
C:導体が露出するまでのテープの移動距離が3430mm未満
【0054】
(難燃性)
前記(i)(ii)の絶縁電線から切り出した長さ300mmの電線試料を使用し、日本自動車技術会規格(JASO)D618 6.13に規定されている方法に基づいて水平燃焼試験を実施した。口径10mmのブンゼンバーナーを用いて還元炎の先端を試料中央部の下から30秒間当て、炎を静かに取り去った後の残炎時間を測定し、以下の基準で評価した。A及びBが合格である。
−評価基準−
A:炎がすぐに消えた。
B:炎がすぐに消えなかったが、残炎時間が30秒以内であった。
C:残炎時間が30秒を越えた。
【0055】
(耐寒性)
前記(i)の絶縁電線を使用し、日本工業規格規格(JIS)K 7216に基づき耐寒性試験を行った。試験結果を、以下の基準で評価した。A及びBが合格である。
−評価基準−
A:絶縁電線が2つ以上に分離しない温度が−50℃以下
B:絶縁電線が2つ以上に分離しない温度が−40℃以下−50℃未満
C:絶縁電線が2つ以上に分離しない温度が−40℃未満
「絶縁電線が分離する」とは、試験片が2個又はそれ以上に分離することを意味する。
【0056】
(耐熱性)
自動車規格(JASO)D618及びD624に規定されている方法に基づいて連続耐熱温度により耐熱性を評価した。具体的には、170℃、180℃、190℃、200℃の各温度で老化試験を実施し、引張伸びが100%を切るまでの時間を求め、アレニウスプロットにより、10000時間で伸びが100%となる温度を求め、耐熱寿命とし、以下の基準で評価した。A及びBが合格である。
−評価基準−
A:151℃を越えた。
B:150℃を越え、151℃未満
C:150℃未満
【0057】
得られた結果を下記表1にまとめて示す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
<表の注>
表中の各成分の含有量は質量部である。「−」は該当する成分が含まれないことを意味する。
【0061】
表1から、本発明の規定を満たさない樹脂組成物は、少なくとも3つの評価項目が不合格であった。
これに対して、表1から明らかなように、本発明の樹脂組成物を用いて作製した絶縁電線ないしシートは、全ての評価項目が合格であった。このことから、本発明の樹脂組成物は、JASO D 624(2015)の耐熱クラス150℃ないしISO 6722(2006)の耐熱クラスDの規定を満たす絶縁電線(自動車用ワイヤーハーネス)の樹脂被覆材層として好適に用いることができることがわかる。
絶縁電線の樹脂被覆材層の形成に用いることにより、可撓性、硬度、架橋度、耐摩耗性、難燃性、耐寒性及び耐熱性のすべてにおいて所望の優れた特性を示す絶縁電線を得ることができ、また加工効率にも優れる樹脂組成物、自動車用ワイヤーハーネス及び自動車用ワイヤーハーネスの製造方法を提供する。
エチレン−酢酸ビニル共重合体(A)90〜100質量部に対し、臭素系難燃剤(B)15〜30質量部と、三酸化アンチモン(C)5〜15質量部と、ベンゾイミダゾール系老化防止剤(D)6〜12質量部と、フェノール系老化防止剤(E)2〜4質量部と、チオエーテル系老化防止剤(F)2〜4質量部と、銅害防止剤(G)0.5〜2質量部と、架橋助剤(H)3〜6質量部とを含有する、樹脂組成物、自動車用ワイヤーハーネス及び自動車用ワイヤーハーネスの製造方法。