特許第6284752号(P6284752)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社トクヤマの特許一覧 ▶ 関西トクヤマ販売株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284752
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】石炭灰を用いた粉末状組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 18/10 20060101AFI20180215BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20180215BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20180215BHJP
   C04B 22/16 20060101ALI20180215BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20180215BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20180215BHJP
   C09K 17/10 20060101ALI20180215BHJP
   C09K 17/04 20060101ALI20180215BHJP
   C09K 17/02 20060101ALI20180215BHJP
   C09K 17/06 20060101ALI20180215BHJP
   E02D 3/12 20060101ALN20180215BHJP
【FI】
   C04B18/10 A
   C04B22/06 Z
   C04B18/14 A
   C04B22/16 A
   C04B22/14 B
   C04B28/02
   C09K17/10 P
   C09K17/04 P
   C09K17/02 P
   C09K17/06 P
   !E02D3/12 102
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-244860(P2013-244860)
(22)【出願日】2013年11月27日
(65)【公開番号】特開2015-107882(P2015-107882A)
(43)【公開日】2015年6月11日
【審査請求日】2016年9月6日
(31)【優先権主張番号】特願2013-221750(P2013-221750)
(32)【優先日】2013年10月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(73)【特許権者】
【識別番号】512061858
【氏名又は名称】関西トクヤマ販売株式会社
(72)【発明者】
【氏名】重田 輝年
(72)【発明者】
【氏名】加藤 弘義
(72)【発明者】
【氏名】河本 年史
(72)【発明者】
【氏名】倉田 浩二
【審査官】 浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/001719(WO,A1)
【文献】 特開2009−095754(JP,A)
【文献】 特開2000−301107(JP,A)
【文献】 特開2007−181758(JP,A)
【文献】 特開2010−059640(JP,A)
【文献】 特開2006−181535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
C09K 17/00−17/52
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭灰100質量部、水酸化カルシウム0.1〜15質量部、及び高炉スラグ7〜50質量部、アルカリ土類金属リン酸塩0.1〜6質量部を含んでなる粉末状組成物。
【請求項2】
セメントクリンカと石膏と石炭灰を含有する土質固化材であって、さらに石炭灰100質量部に対して、アルカリ土類金属リン酸塩0.1〜6質量部、水酸化カルシウム0.1質量部以上、高炉スラグ7質量部以上を含んでなる土質固化材。
【請求項3】
セメントクリンカ100質量部に対して、石炭灰が1〜55質量部含まれる請求項2記載の土質固化材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭火力発電等から発生する石炭灰からの未燃炭素分の滲出及び重金属類等の微量成分の溶出を低減した組成物、並びに石炭灰を含有する土質固化材として特に好ましい組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭火力発電等から発生する石炭灰は、石炭を燃焼した際に発生する残渣であり、電力事業、一般産業を合わせると、国内で年間1,000万トン以上発生している。それと同時に石炭灰の有効利用は進められており、「石炭灰全国実態調査報告書(平成23年度実績)/一般財団法人 石炭エネルギーセンター」によると、平成7年度の石炭灰の有効利用は発生量の67.1%であったが、年々有効利用率は増加し、平成23年度には98.3%に及び、概ね有効利用に対する意識が浸透していることがいえる。
【0003】
石炭灰の有効利用は、セメント分野や土木・建築分野、農林・水産分野等幅広い分野で行われており、このうちセメント分野での有効利用は、前述の文献によると、全有効利用量の67.1%に上る。セメント分野においては、セメント原材料をはじめ、セメント混合材やコンクリート混和材等に用いられている。
【0004】
石炭火力発電における微粉炭焚においては、石炭灰は発生箇所別にフライアッシュとクリンカアッシュに大別されるが、このうちフライアッシュのセメント混合材の例としては、フライアッシュセメントやセメント系固化材への適用が挙げられ、コンクリート混和材の例としては、フライアッシュコンクリート等が挙げられる。
【0005】
フライアッシュコンクリートは、ポゾラン反応による長期強度の増進や乾燥収縮の減少、アルカリシリカ反応の抑制、水和熱の減少、化学抵抗性の向上等の特徴を有するが、空気連行性の低下やフライアッシュに含まれる未燃炭素分の影響で、硬化後のコンクリート表面に黒ずみによる色むらが発生することが課題として挙げられる。これら解決方法としては、AE減水剤や特殊混和剤、特殊AE剤を併用することが一般的に知られている。
【0006】
また、セメント系固化材の適用においても、水と所定の割合で混合したスラリーを地盤に混合するスラリー改良方式においては、空気連行性の低下は施工性に殆ど影響しないが、未燃炭素分の滲出は未燃炭素分がスラリーを製造するミキサー内に付着する等、課題となる。
【0007】
その他、石炭灰からは微量成分の溶出が懸念されている。特にセメント系固化材に適用した場合においては、セメント系固化材を混合して改良土にしたときに、改良土から微量成分が溶出する可能性がある。
【0008】
セメント及びセメント系固化材の地盤改良への使用においては、既に建設省(現・国土交通省)直轄事業を対象に、通達「セメント及びセメント系固化材を地盤改良への使用及び改良土の再利用に関する当面の措置について(平成12年3月24日/建設省技調発第48号)」が出され、改良予定の土壌と使用予定の固化材による六価クロムの溶出試験を実施することが謳われている。また、「土壌の汚染に係る環境基準について(平成3年8月/環境庁告示第46号)」には、六価クロムを含む土壌環境基準が27項目規定されており、記載された砒素、ふっ素、セレン、ほう素等、その他の微量成分等についても石炭灰から溶出する可能性が考えられる。
【0009】
そこで、これらの問題を解決するための手段として、以下の特許文献が開示されている。未燃炭素分の低減方法として、特許文献1では、水とフライアッシュ等を混合し、比重差を利用して未燃炭素を液側に移行させ、未燃炭素を水とともに排除する方法が、特許文献2では、石炭灰を微細化した後、有機溶媒と水との混合溶媒中で攪拌・振とうし、石炭灰中の炭素分を有機相中に分離・除去することにより微細化・脱炭素化した石炭灰を得る方法が、特許文献3では、フライアッシュの粒子同士を互いに衝突・粉砕させ、遠心力で高炭素灰、低炭素灰とに遠心力分級し、次に、フライアッシュの粒子同士の衝突・粉砕、又は粉砕機内壁との摩擦の際に摩擦帯電させた高炭素灰の未燃粒子と完全燃焼粒子の帯電極性との相違を利用して、完全燃焼粒子と未燃粒子とを分離引き寄せて、低炭素微粉灰と高炭素微粉灰とに静電分級する方法が、それぞれ開示されている。
【0010】
石炭灰からの微量成分の溶出低減方法としては、特許文献4では、普通ポルトランドセメントに代えて、高炉系セメント(特に高炉セメントB種)及び/又は高炉スラグを石炭灰に添加、硬化させて溶出を抑制させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平9−225441号公報
【特許文献2】特開平11−128881号公報
【特許文献3】特開2005−279489号公報
【特許文献4】特開2000−301107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1や2の方法では、石炭灰を水又は有機溶媒に浸す必要があり、セメント系固化材へ適用する場合には、再度乾燥させる必要がある。また、特許文献3の方法では、未燃炭素分の分離のための遠心分離装置等の設備投資が必要となり、経済性を鑑みても好ましくない。
【0013】
特許文献4の方法については、石炭灰を硬化させてしまうため、該石炭灰をセメント系固化材への添加材として使用することができない。
【0014】
ところで、本発明に係わり、本発明者等は石炭灰からの微量成分について測定を行った。測定結果を表1に示す。No.1〜No.6いずれの石炭灰も、電力会社A社の同じ火力発電所において発生した石炭灰であり、採取時期は不定期にサンプリングした結果である。
【0015】
【表1】
【0016】
表1について、pHの測定は地盤工学会基準「土懸濁液のpH試験方法」を参考にして測定した。また、微量成分溶出量の測定は、「土壌の汚染に係る環境基準について(平成3年8月/環境庁告示第46号)」に定められた方法に基づいて測定した。
【0017】
上記の表1に示すように、同じ火力発電所から発生した石炭灰であっても、サンプリングした時期が異なれば、pH並びに微量成分溶出量の値も大きく異なることがいえる。これは、火力発電に使用する石炭の炭種の変動による影響であると考えられる。また、砒素、セレン、ふっ素、ほう素については、土壌環境基準を上回る溶出量であることが確認された。さらに、溶出した濃度についても、石炭灰によって大きく異なっている。
【0018】
この結果を踏まえると、石炭灰から溶出する微量成分の濃度は、元となる石炭の炭種により大きく変動することから、土壌環境基準以内に抑制するためには、これら変動の要因を勘案する必要がある。
【0019】
従って本発明は、石炭灰を土質固化材への添加材等として利用可能な粉末状のまま、各種金属の溶出が抑制された状態とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記課題を達成するため、鋭意検討を行った。そこで、石炭灰中の未燃炭素分並びに微量成分含有量について、溶媒による洗浄や静電による分級を行わず、水酸化カルシウム、高炉スラグ、アルカリ土類金属リン酸塩等の添加材を使用することによって、滲出並びに溶出量を抑制することを検討し、本発明に至った。
【0021】
すなわち本発明は、石炭灰100質量部、水酸化カルシウム0.1〜15質量部、高炉スラグ7〜50質量部、アルカリ土類金属リン酸塩0.1〜6質量部を含んでなる粉末状組成物である。
【0022】
また、石炭灰の有効利用方法として、セメントクリンカと石膏と石炭灰を含有する土質固化材であって、さらに前記石炭灰100質量部に対して、アルカリ土類金属リン酸塩0.1〜6質量部、水酸化カルシウム0.1質量部以上、高炉スラグ7質量部以上を含んでなる土質固化材も提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、石炭火力発電等から発生する石炭灰からの未燃炭素分の滲出及び重金属類等の微量成分の溶出を低減した組成物を得ることができる。当該組成物は粉末状であるため、他の材料と混合して土質固化材等の用途に使用することが可能となる。
【0024】
また該粉末状組成物は重金属溶出がないため、保管、運搬等に際して特別の措置を講ずる必要性がなく、極めて扱いやすいものである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明について詳細に説明する。本発明の粉末状組成物は、石炭灰、水酸化カルシウム、高炉スラグ、アルカリ土類金属リン酸塩を含んでなる。
【0026】
本発明で使用する石炭灰は、石炭を燃焼した際に発生する残渣として得られるものである。石炭灰を製品別による分類すると、フライアッシュとシンダアッシュの混合物である原粉、原粉を分級選別した細粉で日本工業規格「コンクリート用フライアッシュ」に適合させたJISフライアッシュ、原粉を分級し粒度調整をした粗いものである粗粉、クリンカホッパに落下した灰を収集し、破砕・脱水・粒度調整したクリンカアッシュに分類されるが、本発明においては特に限定されるものではない。また、石炭灰は石炭火力発電等の電気事業及び一般産業において発生するが、発生事業についても特に限定されない。
【0027】
本発明で使用する水酸化カルシウムは、一般に消石灰と呼ばれるものである。石炭灰に水酸化カルシウムを含有させることにより、該石炭灰に含まれる微量成分のうち、砒素、セレン、ふっ素、ほう素の溶出量を抑制することができる。また、消石灰を含む本発明の粉末状組成物は、固化材などとして使用する際に水と混合してスラリーとした場合、該スラリーの粘性が高くなるとともに、未燃炭素分の滲出を抑制することができるという効果も発現する。
【0028】
本発明の粉末状組成物において、水酸化カルシウムは、石炭灰100質量部に対して、0.1〜15質量部である。0.5〜10質量部であることが好ましく、0.5〜5質量部であることがより好ましく、1.0〜2.5質量部であることが特に好ましい。15質量部を超えて配合しても、効果は頭打ちである一方で、コストがかさむ傾向にある。
【0029】
水酸化カルシウムは、工業用消石灰、農業用消石灰、水酸化カルシウム試薬等、市販されているものが好適に使用できる。好ましくは、日本工業規格「工業用消石灰」に規定された水酸化カルシウムであり、経済性や市場流通性の観点から一号品または特号品であることがより好ましく、含有するカルシウム量が多い点で特号品であることが特に好ましい。
【0030】
本発明で使用する高炉スラグは、高炉水砕スラグをいう。高炉スラグは、石炭灰100質量部に対して7〜50質量部であり、7〜20質量部が好ましく、7〜15質量部が最も好ましい。該高炉スラグは、水酸化カルシウムと併用して使用することにより、石炭灰に含まれる微量成分のうち、特にセレンの溶出量を抑制する効果を発現する。
【0031】
また、高炉スラグの使用量を増やすことにより、高炉スラグのコストはかさむが、後述するアルカリ土類金属リン酸塩を配合する際、その使用量を少なくすることができ、粉末状組成物にかかるコストとして同等、もしくは低く抑えることができ、経済的であるといえる。
【0032】
本発明で使用するアルカリ土類金属リン酸塩は、リン酸カルシウム、リン酸ストロンチウム、リン酸バリウム、リン酸ラジウム及びこれらの水素化合物等をいう。アルカリ土類金属リン酸塩は、石炭灰に含まれる微量成分のうち、ふっ素の溶出量を抑制することができる。好ましくは、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸三カルシウム、ステアリン酸カルシウム、次亜リン酸カルシウム等のリン酸カルシウム塩である。アルカリ土類金属リン酸塩は、石炭灰100質量部に対して0.1〜6質量部であることが好ましく、0.1〜3質量部がより好ましく、0.5〜2.0質量部が特に好ましい。
【0033】
本発明の粉末状組成物は、発生した石炭灰に水酸化カルシウム、高炉スラグ、アルカリ土類金属リン酸塩を添加・混合することにより製造することができ、金属などの溶出がないため、特別な設備を用いることなく、その他の粉末と同様の保管、流通を行うことができる。
【0034】
本発明の粉末状組成物は、生コンクリートやモルタル材料の添加材として使用することができるが、好適には土質固化材の添加剤として用いることができる。即ち、ポルトランドセメントクリンカ、石膏その他成分を含む土質固化材の増量材、改質材として用いることができる。前述の通り、本発明の粉末状組成物は石炭灰に加えて水酸化カルシウムが含まれているため、土質固化材を水と混ぜてスラリーとした際、未燃炭素分が遊離してくることがないというさらなる特徴を有する。すなわち、セメントクリンカと石膏と石炭灰を含有する土質固化材であって、さらに前記石炭灰100質量部に対して、アルカリ土類金属リン酸塩を0.1〜6質量部、水酸化カルシウムを0.1質量部以上、高炉スラグを7質量部以上含んでなる土質固化材である。
【0035】
土質固化材に使用するセメントクリンカは、公知のセメントクリンカが特に制限なく使用できる。なかでも、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント及び低熱ポルトランドセメントの製造に使用されるポルトランドセメントクリンカが好適に使用できる。
【0036】
本発明の粉末状組成物を土質固化材の添加材として用いる場合の使用量は特に限定されるものではないが、一般に、上記セメントクリンカ100質量部に対して、粉末状組成物に由来する石炭灰が1〜55質量部が好ましく、1〜30質量部がより好ましい。
【0037】
土質固化材に使用する石膏は、セメントやセメント系固化材に使用される石膏として公知の石膏が特に制限なく使用できる。例えば、2水石膏、半水石膏、I型又はII型無水石膏等が挙げられる。また、天然石膏、化学石膏のいずれでもよく、化学石膏としては排煙脱硫石膏、リン酸石膏、チタン石膏及びフッ酸石膏等が挙げられる。
【0038】
上記石膏は必要に応じて単独或いは複数種を組み合わせて使用できる。好ましくは、無水石膏、2水石膏を単独で或いはこれらを組み合わせて使用する。石膏の量はセメントクリンカ100質量部に対して1〜25質量部であることが好ましく、5〜20質量部であることがより好ましい。また、用いる石膏の粉末度は特に制限されるものではないが、一般的にはブレーン比表面積で2,500〜10,000cm/gであり、多くは2,500〜7,000cm/gである。
【0039】
土質固化材には、イオン交換反応による土の塑性指数の低下やポゾラン反応の促進を目的として水酸化カルシウム(消石灰)が配合されることがあり、本発明の粉末状組成物を添加する土質固化材においても、該粉末状組成物に由来する水酸化カルシウムに加えて、別途、水酸化カルシウムが含まれていてもよい。当該水酸化カルシウムの配合量は、粉末状組成物に由来する水酸化カルシウムと併せた量が、ポルトランドセメントクリンカ100質量部に対して15質量部以下となる量が好ましく、10質量部以下がより好ましい。
【0040】
高炉スラグには潜在水硬性があり、固化材成分として使用した場合には、長期的な強度発現性に寄与することができる。また、六価クロムの溶出を低減する作用を有するため、環境負荷の点からも好ましい。従って、本発明の粉末状組成物を添加する土質固化材においても、該粉末状組成物に由来する高炉スラグに加えて、別途、高炉スラグが含まれていてもよい。上記効果を発現するためには、土質固化材中の高炉スラグの含有量は、粉末状組成物に由来する量と併せてポルトランドセメントクリンカ100質量部に対して150質量部以下となる量が好ましく、70質量部以下がより好ましい。
【0041】
本発明の粉末状組成物を添加する土質固化材には、上記各成分に加えて、土質固化材の配合成分として公知の他の成分、具体的にはナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩系、リグニンスルホン酸塩系、メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物塩系、ポリカルボン酸塩系及びポリエーテル系の分散剤等の各種の分散剤・流動化剤、第一鉄塩、3価のチタン酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ硫酸塩等の還元剤、シリカフューム、石灰石等が配合されていてもよい。
【0042】
また、前述の通り土質固化材に限定されることなく、生コンクリートやモルタル材料の添加材として使用することができる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0044】
1.石炭灰及び使用材料
(a)石炭灰
石炭灰は、電力会社A社において発生した石炭灰を用いた。石炭灰は採取時期の違いにより、(1)〜(7)の7種類の石炭灰を使用した。
【0045】
(b)水酸化カルシウム
水酸化カルシウム(以下の記述では、「消石灰」と称す。)は、マルアイ石灰工業株式会社製「フレスコ特号消石灰」を用いた。使用した消石灰の粒度について、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製)を用いて測定を行ったところ、最小粒子径2.6μm、最大粒子径34.3μmであった。
【0046】
(c)高炉スラグ
高炉スラグは、株式会社神戸製鋼所加古川製鉄所において発生する高炉水砕スラグを用いた。蛍光X線分析装置(株式会社リガク製:ZSX)を用いて測定した化学成分は、MgO:7.0%,Al:12.8%,SiO:28.1%,SO:4.55%,CaO:45.6%であった。
【0047】
(d)アルカリ土類金属リン酸塩
アルカリ土類金属リン酸塩として、チヨダウーテ株式会社製高機能フッ素処理剤「Fクレスト」を用いた。Fクレストは、リン酸カルシウム塩を主成分とするものである。蛍光X線分析装置により測定した化学成分は、MgO:0.32%,Al:0.14%,SiO:0.31%,P:47.7%,CaO:51.3%であった。
【0048】
2.試製石炭灰の作製
石炭灰と上記添加材料を適宜調合し、試製石炭灰を作製した。調合は、各材料を計量の上、ポリ袋に投入し、袋内で混合した。
【0049】
3.測定成分及び微量成分溶出量の測定
測定する微量成分は、土壌汚染対策法において第二種特定有害物質に分類されるカドミウム、鉛、六価クロム、砒素、総水銀、セレン、ふっ素、ほう素、シアンとした。微量成分溶出量の測定方法は、前述と同じように「土壌の汚染に係る環境基準について(平成3年8月/環境庁告示第46号)」に定められた方法に基づいて測定した。
【0050】
3−1.消石灰による微量成分溶出低減効果(参考実験)
石炭灰に消石灰を含有することによる微量成分溶出量への効果を検証した。石炭灰並びに試製石炭灰の組成と測定結果を表2に示す。なお、組成は質量部で表している。
【0051】
【表2】
【0052】
比較例9〜12(石炭灰のみ)では、砒素、セレン、ふっ素、比較例1、2、13では、さらにほう素の溶出量が高く、土壌環境基準を上回った。比較例1〜8については、消石灰を含有することにより、砒素、ほう素については不検出、セレン、ふっ素についても、土壌環境基準を上回る溶出量ではあったが、消石灰による溶出低減の効果が見られる。このうちふっ素については、消石灰の含有量が多くなるとふっ素の溶出量も低くなっていることが確認できた。これは、消石灰がスラリー中で還元剤として、微量成分に対して作用したものと考えられる。
【0053】
3−2.高炉スラグによる微量成分溶出低減効果(参考実験)
石炭灰に高炉スラグを含有することによる微量成分溶出量への効果を検証した。石炭灰並びに試製石炭灰の組成と測定結果を表3に示す。なお、組成は質量部で表している。
【0054】
【表3】
【0055】
比較例26〜29(添加材として高炉スラグのみを使用)とI.で示した比較例9〜12(石炭灰のみ)と比べると、添加材として高炉スラグのみを使用する場合においては、微量成分に対する溶出低減効果はないことがいえる。
【0056】
また、比較例30〜33では、比較例26〜29よりも石炭灰に対して高炉スラグ量を多く添加することによる溶出低減効果を確認しているが、I.で示した比較例11と比べると、砒素やふっ素、ほう素などについて、溶出抑制効果がみられる。しかし、砒素については土壌環境基準未満まで低減しているものの、セレンやふっ素といったものは、依然として土壌環境基準を上回る溶出量であり、高炉スラグだけでは、セレンやふっ素に対して十分な溶出抑制効果があるとは言えない。
【0057】
比較例14〜25は、消石灰と高炉スラグを併用して使用したものであり、砒素、セレン、ふっ素、ほう素の溶出量を低減していることがいえる。I.に述べたように、消石灰のみを添加するだけでも、砒素、セレン、ふっ素、ほう素の溶出量を低減しているが、高炉スラグと消石灰とを併用して使用することにより、中でも溶出低減効果が小さかったセレンについては、土壌環境基準未満まで低減している。このことから、セレンの溶出量低減に対して、高炉スラグが有効であることがいえる。これは、アルカリ雰囲気下における潜在水硬性に起因するものであるといえる。このことを踏まえると、比較例30〜33についても、消石灰と併用して使用することにより、セレンの溶出量を低減することができることは、容易に推察できる。
【0058】
しかしながら、ふっ素に関しては、溶出量は低減されているものの、依然として土壌環境基準を上回る溶出量であり、高炉スラグ量が十分ではないことを示唆している。
【0059】
3−3.アルカリ土類金属リン酸塩による微量成分溶出低減効果
石炭灰にアルカリ土類金属リン酸塩を含有することによる微量成分溶出量への効果を検証した。石炭灰並びに試製石炭灰の組成、測定結果を表4に示す。なお、組成は質量部で表している。
【0060】
【表4】
【0061】
比較例34は、前述した比較例26の結果と対比すると、ふっ素については土壌環境基準未満の溶出量まで低減することができ、セレン、ほう素についても微少ながら溶出量の低減が見られるものの、砒素の溶出量は高くなった。
【0062】
実施例1〜17は、消石灰、高炉スラグ、アルカリ土類金属リン酸塩を併用して使用したものであり、すべての微量成分の溶出量を、土壌環境基準未満に低減することができる。特に、消石灰によりふっ素の溶出量が幾らか低減できるものの、アルカリ土類金属リン酸塩によるふっ素の溶出量の低減効果は、大きいことがいえる。
【0063】
また、消石灰を含むことにより、スラリーが塩基性を成している場合においても、ふっ素の溶出量の低減効果を維持することができる。このことから、試製した石炭灰をセメント系固化材に適用した場合に想定される、セメントに起因するアルカリ雰囲気下においても、ふっ素の溶出量を低減させる効果を維持することが可能である。
【0064】
4.未燃炭素分の滲出評価
未燃炭素分の滲出評価は、建築工事標準仕様書・同解説JASS15左官工事に記載の「M−103 セルフレベリング材の品質基準」3.(5)フロー値、の測定を行った。具体的には、水150gが入った容器の中に、試料300g(水/石炭灰又は試製石炭灰比として0.5)を、スリーワンモーター(アズワン株式会社製「トルネード」)にて混合した。混合は、水が入った容器を2分間、400rpmの回転数で混合している間に試料を投入し、さらに3分間混合、合計5分間で行った。作製したスラリーは、直ちに内径5cm×高さ5.1cmの円筒形のフローコーンに投入し、フローコーンを静かに引き抜き、引き抜き後1分経過した時のスラリー表面の状況を確認した。
【0065】
結果は、未燃炭素分の滲出が見られるときを「×」、未燃炭素分の滲出が僅かに見られる、又は、滲出は見られないが、水との分離が著しい場合は「△」、未燃炭素分の滲出及び水との分離も見られない場合は「○」と評価し、「○」を良とした。
【0066】
4−1.未燃炭素分の滲出抑制効果
石炭灰スラリーにおける未燃炭素分の滲出抑制剤の検討として、表7に示す材料を検討した。石炭灰は(1)を、試製石炭灰の組成は、石炭灰100質量部に対していずれの材料も5質量部とした。試験結果も表5に併記する。
【0067】
【表5】
【0068】
参考例2は、ソイルセメントスラリーの粘性を向上させ、未燃炭素分の滲出を抑制できるものと推察したが、未燃炭素分の滲出が見られた。添加量として更に増量すると、未燃炭素分の滲出を抑制できる可能性も考えられるが、過剰に混合することによって、セメント系固化材に適用した場合に強度低下に繋がることや、同じくセメント系固化材に適用した際に、スラリープラントでのスラリー製造において、過剰な圧送負荷等、施工性に問題が生じる恐れが考えられ、好ましくない。
【0069】
参考例3〜7は、一般的コンクリートの減水剤などで使用されるものを使用したが、未燃炭素分の滲出は見られないものの、著しく水分との分離が見られた。減水剤の使用に関しては、推奨される添加量よりも多い添加量で試験を実施していることも理由として考えられるが、添加量の僅かな調整により強度が変動する恐れがあることや、過剰なブリーディングが発生する要因となることが考えられるため、好ましくない。
【0070】
参考例8は、セメント系固化材等の発塵抑制剤として、セメント粒子を固定する効果を有しているが、スラリーにおいてはその効果が期待できず、未燃炭素分の滲出が多く見られた。
【0071】
参考例1では、スラリーの粘性を上げることにより、水分との分離が見られない。また流動性は、剤を添加した場合と比べて低下するものの、未燃炭素分の滲出は抑制されている。これによって、石炭灰中の未燃炭素分を減らさなくても、滲出する量を低減することが可能であるといえる。また消石灰は、前述した微量成分溶出量の低減に際しても有効であることから、双方の効果を有することで、経済的であるといえる。