【実施例】
【0043】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0044】
1.石炭灰及び使用材料
(a)石炭灰
石炭灰は、電力会社A社において発生した石炭灰を用いた。石炭灰は採取時期の違いにより、(1)〜(7)の7種類の石炭灰を使用した。
【0045】
(b)水酸化カルシウム
水酸化カルシウム(以下の記述では、「消石灰」と称す。)は、マルアイ石灰工業株式会社製「フレスコ特号消石灰」を用いた。使用した消石灰の粒度について、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製)を用いて測定を行ったところ、最小粒子径2.6μm、最大粒子径34.3μmであった。
【0046】
(c)高炉スラグ
高炉スラグは、株式会社神戸製鋼所加古川製鉄所において発生する高炉水砕スラグを用いた。蛍光X線分析装置(株式会社リガク製:ZSX)を用いて測定した化学成分は、MgO:7.0%,Al
2O
3:12.8%,SiO
2:28.1%,SO
3:4.55%,CaO:45.6%であった。
【0047】
(d)アルカリ土類金属リン酸塩
アルカリ土類金属リン酸塩として、チヨダウーテ株式会社製高機能フッ素処理剤「Fクレスト」を用いた。Fクレストは、リン酸カルシウム塩を主成分とするものである。蛍光X線分析装置により測定した化学成分は、MgO:0.32%,Al
2O
3:0.14%,SiO
2:0.31%,P
2O
5:47.7%,CaO:51.3%であった。
【0048】
2.試製石炭灰の作製
石炭灰と上記添加材料を適宜調合し、試製石炭灰を作製した。調合は、各材料を計量の上、ポリ袋に投入し、袋内で混合した。
【0049】
3.測定成分及び微量成分溶出量の測定
測定する微量成分は、土壌汚染対策法において第二種特定有害物質に分類されるカドミウム、鉛、六価クロム、砒素、総水銀、セレン、ふっ素、ほう素、シアンとした。微量成分溶出量の測定方法は、前述と同じように「土壌の汚染に係る環境基準について(平成3年8月/環境庁告示第46号)」に定められた方法に基づいて測定した。
【0050】
3−1.消石灰による微量成分溶出低減効果(参考実験)
石炭灰に消石灰を含有することによる微量成分溶出量への効果を検証した。石炭灰並びに試製石炭灰の組成と測定結果を表2に示す。なお、組成は質量部で表している。
【0051】
【表2】
【0052】
比較例9〜12(石炭灰のみ)では、砒素、セレン、ふっ素、比較例1、2、13では、さらにほう素の溶出量が高く、土壌環境基準を上回った。比較例1〜8については、消石灰を含有することにより、砒素、ほう素については不検出、セレン、ふっ素についても、土壌環境基準を上回る溶出量ではあったが、消石灰による溶出低減の効果が見られる。このうちふっ素については、消石灰の含有量が多くなるとふっ素の溶出量も低くなっていることが確認できた。これは、消石灰がスラリー中で還元剤として、微量成分に対して作用したものと考えられる。
【0053】
3−2.高炉スラグによる微量成分溶出低減効果(参考実験)
石炭灰に高炉スラグを含有することによる微量成分溶出量への効果を検証した。石炭灰並びに試製石炭灰の組成と測定結果を表3に示す。なお、組成は質量部で表している。
【0054】
【表3】
【0055】
比較例26〜29(添加材として高炉スラグのみを使用)とI.で示した比較例9〜12(石炭灰のみ)と比べると、添加材として高炉スラグのみを使用する場合においては、微量成分に対する溶出低減効果はないことがいえる。
【0056】
また、比較例30〜33では、比較例26〜29よりも石炭灰に対して高炉スラグ量を多く添加することによる溶出低減効果を確認しているが、I.で示した比較例11と比べると、砒素やふっ素、ほう素などについて、溶出抑制効果がみられる。しかし、砒素については土壌環境基準未満まで低減しているものの、セレンやふっ素といったものは、依然として土壌環境基準を上回る溶出量であり、高炉スラグだけでは、セレンやふっ素に対して十分な溶出抑制効果があるとは言えない。
【0057】
比較例14〜25は、消石灰と高炉スラグを併用して使用したものであり、砒素、セレン、ふっ素、ほう素の溶出量を低減していることがいえる。I.に述べたように、消石灰のみを添加するだけでも、砒素、セレン、ふっ素、ほう素の溶出量を低減しているが、高炉スラグと消石灰とを併用して使用することにより、中でも溶出低減効果が小さかったセレンについては、土壌環境基準未満まで低減している。このことから、セレンの溶出量低減に対して、高炉スラグが有効であることがいえる。これは、アルカリ雰囲気下における潜在水硬性に起因するものであるといえる。このことを踏まえると、比較例30〜33についても、消石灰と併用して使用することにより、セレンの溶出量を低減することができることは、容易に推察できる。
【0058】
しかしながら、ふっ素に関しては、溶出量は低減されているものの、依然として土壌環境基準を上回る溶出量であり、高炉スラグ量が十分ではないことを示唆している。
【0059】
3−3.アルカリ土類金属リン酸塩による微量成分溶出低減効果
石炭灰にアルカリ土類金属リン酸塩を含有することによる微量成分溶出量への効果を検証した。石炭灰並びに試製石炭灰の組成、測定結果を表4に示す。なお、組成は質量部で表している。
【0060】
【表4】
【0061】
比較例34は、前述した比較例26の結果と対比すると、ふっ素については土壌環境基準未満の溶出量まで低減することができ、セレン、ほう素についても微少ながら溶出量の低減が見られるものの、砒素の溶出量は高くなった。
【0062】
実施例1〜17は、消石灰、高炉スラグ、アルカリ土類金属リン酸塩を併用して使用したものであり、すべての微量成分の溶出量を、土壌環境基準未満に低減することができる。特に、消石灰によりふっ素の溶出量が幾らか低減できるものの、アルカリ土類金属リン酸塩によるふっ素の溶出量の低減効果は、大きいことがいえる。
【0063】
また、消石灰を含むことにより、スラリーが塩基性を成している場合においても、ふっ素の溶出量の低減効果を維持することができる。このことから、試製した石炭灰をセメント系固化材に適用した場合に想定される、セメントに起因するアルカリ雰囲気下においても、ふっ素の溶出量を低減させる効果を維持することが可能である。
【0064】
4.未燃炭素分の滲出評価
未燃炭素分の滲出評価は、建築工事標準仕様書・同解説JASS15左官工事に記載の「M−103 セルフレベリング材の品質基準」3.(5)フロー値、の測定を行った。具体的には、水150gが入った容器の中に、試料300g(水/石炭灰又は試製石炭灰比として0.5)を、スリーワンモーター(アズワン株式会社製「トルネード」)にて混合した。混合は、水が入った容器を2分間、400rpmの回転数で混合している間に試料を投入し、さらに3分間混合、合計5分間で行った。作製したスラリーは、直ちに内径5cm×高さ5.1cmの円筒形のフローコーンに投入し、フローコーンを静かに引き抜き、引き抜き後1分経過した時のスラリー表面の状況を確認した。
【0065】
結果は、未燃炭素分の滲出が見られるときを「×」、未燃炭素分の滲出が僅かに見られる、又は、滲出は見られないが、水との分離が著しい場合は「△」、未燃炭素分の滲出及び水との分離も見られない場合は「○」と評価し、「○」を良とした。
【0066】
4−1.未燃炭素分の滲出抑制効果
石炭灰スラリーにおける未燃炭素分の滲出抑制剤の検討として、表7に示す材料を検討した。石炭灰は(1)を、試製石炭灰の組成は、石炭灰100質量部に対していずれの材料も5質量部とした。試験結果も表5に併記する。
【0067】
【表5】
【0068】
参考例2は、ソイルセメントスラリーの粘性を向上させ、未燃炭素分の滲出を抑制できるものと推察したが、未燃炭素分の滲出が見られた。添加量として更に増量すると、未燃炭素分の滲出を抑制できる可能性も考えられるが、過剰に混合することによって、セメント系固化材に適用した場合に強度低下に繋がることや、同じくセメント系固化材に適用した際に、スラリープラントでのスラリー製造において、過剰な圧送負荷等、施工性に問題が生じる恐れが考えられ、好ましくない。
【0069】
参考例3〜7は、一般的コンクリートの減水剤などで使用されるものを使用したが、未燃炭素分の滲出は見られないものの、著しく水分との分離が見られた。減水剤の使用に関しては、推奨される添加量よりも多い添加量で試験を実施していることも理由として考えられるが、添加量の僅かな調整により強度が変動する恐れがあることや、過剰なブリーディングが発生する要因となることが考えられるため、好ましくない。
【0070】
参考例8は、セメント系固化材等の発塵抑制剤として、セメント粒子を固定する効果を有しているが、スラリーにおいてはその効果が期待できず、未燃炭素分の滲出が多く見られた。
【0071】
参考例1では、スラリーの粘性を上げることにより、水分との分離が見られない。また流動性は、剤を添加した場合と比べて低下するものの、未燃炭素分の滲出は抑制されている。これによって、石炭灰中の未燃炭素分を減らさなくても、滲出する量を低減することが可能であるといえる。また消石灰は、前述した微量成分溶出量の低減に際しても有効であることから、双方の効果を有することで、経済的であるといえる。