特許第6284814号(P6284814)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6284814固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路の健全性評価方法、装置及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284814
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路の健全性評価方法、装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20180215BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20180215BHJP
   C01B 3/34 20060101ALN20180215BHJP
【FI】
   H01M8/04 Z
   H01M8/12
   H01M8/04 J
   !C01B3/34
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-86763(P2014-86763)
(22)【出願日】2014年4月18日
(65)【公開番号】特開2015-207425(P2015-207425A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2017年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000222037
【氏名又は名称】東北電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】安本 憲司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 尚
(72)【発明者】
【氏名】山本 融
(72)【発明者】
【氏名】竹井 勝仁
【審査官】 大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−266416(JP,A)
【文献】 特開2003−86225(JP,A)
【文献】 特開2006−49056(JP,A)
【文献】 特開2012−4032(JP,A)
【文献】 特開昭56−47759(JP,A)
【文献】 特開2005−82409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00−8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分量が未知で且つ水蒸気を実質的に含まないメタン含有ガスをガスクロマトグラフにより分析し、
前記メタン含有ガスと水蒸気を混合して反応用ガスとし、
前記反応用ガスを固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス導入部に供給して前記燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス排出部からオフガスを排出させ、
前記オフガスから水蒸気を除去して分析用オフガスとし、
前記分析用オフガスの成分量をガスクロマトグラフ分析し、
前記メタン含有ガスの成分量及び前記反応用ガスの水蒸気含有率から前記反応用ガスの成分量を算出し、
前記反応用ガスの成分量及び前記分析用オフガスの成分量を利用して前記燃料ガス流路を含む燃料極において生じる化学反応を考慮したマスバランス計算を実施することにより、前記オフガスの成分量を算出し、
前記反応用ガスの成分量及び前記オフガスの成分量を利用して、前記燃料ガス流路を含む燃料極におけるメタンの反応状況を把握する
ことを特徴とする、固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路の健全性評価方法。
【請求項2】
成分量が既知で且つ水蒸気を実質的に含まないメタン含有ガスと水蒸気を混合して反応用ガスとし、
前記反応用ガスを固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス導入部に供給して前記燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス排出部からオフガスを排出させ、
前記オフガスから水蒸気を除去して分析用オフガスとし、
前記分析用オフガスの成分量をガスクロマトグラフ分析し、
前記メタン含有ガスの成分量及び前記反応用ガスの水蒸気含有率から前記反応用ガスの成分量を算出し、
前記反応用ガスの成分量及び前記分析用オフガスの成分量を利用して前記燃料ガス流路を含む燃料極において生じる化学反応を考慮したマスバランス計算を実施することにより、前記オフガスの成分量を算出し、
前記反応用ガスの成分量及び前記オフガスの成分量を利用して、前記燃料ガス流路を含む燃料極におけるメタンの反応状況を把握する
ことを特徴とする、固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路の健全性評価方法。
【請求項3】
成分量が未知で且つ水蒸気を実質的に含まないメタン含有ガスをガスクロマトグラフ分析して取得される前記メタン含有ガスの成分量、前記メタン含有ガスと水蒸気を混合した反応用ガスを固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス導入部に供給して前記燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス排出部から排出させたオフガスから水蒸気を除去した分析用オフガスをガスクロマトグラフ分析して取得される前記分析用オフガスの成分量、及び、前記反応用ガスの水蒸気含有率を記憶装置から読み込む手段と、
前記メタン含有ガスの成分量及び前記反応用ガスの水蒸気含有率から前記反応用ガスの成分量を算出し、前記反応用ガスの成分量及び前記分析用オフガスの成分量を利用して前記燃料ガス流路を含む燃料極において生じる化学反応を考慮したマスバランス計算を実施することにより、前記オフガスの成分量を算出し、前記反応用ガスの成分量及び前記オフガスの成分量を利用して、前記燃料ガス流路を含む燃料極におけるメタンの反応状況を求める手段と
を有することを特徴とする、固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路の健全性評価装置。
【請求項4】
成分量が既知で且つ水蒸気を実質的に含まないメタン含有ガスの前記成分量、前記メタン含有ガスと水蒸気を混合した反応用ガスを固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス導入部に供給して前記燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス排出部から排出させたオフガスから水蒸気を除去した分析用オフガスをガスクロマトグラフ分析して取得される前記分析用オフガスの成分量、及び、前記反応用ガスの水蒸気含有率を記憶装置から読み込む手段と、
前記メタン含有ガスの成分量及び前記反応用ガスの水蒸気含有率から前記反応用ガスの成分量を算出し、前記反応用ガスの成分量及び前記分析用オフガスの成分量を利用して前記燃料ガス流路を含む燃料極において生じる化学反応を考慮したマスバランス計算を実施することにより、前記オフガスの成分量を算出し、前記反応用ガスの成分量及び前記オフガスの成分量を利用して、前記燃料ガス流路を含む燃料極におけるメタンの反応状況を求める手段と
を有することを特徴とする、固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路の健全性評価装置。
【請求項5】
成分量が未知で且つ水蒸気を実質的に含まないメタン含有ガスをガスクロマトグラフ分析して取得される前記メタン含有ガスの成分量、前記メタン含有ガスと水蒸気を混合した反応用ガスを固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス導入部に供給して前記燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス排出部から排出させたオフガスから水蒸気を除去した分析用オフガスをガスクロマトグラフ分析して取得される前記分析用オフガスの成分量、及び、前記反応用ガスの水蒸気含有率を記憶装置から読み込む手段、並びに、
前記メタン含有ガスの成分量及び前記反応用ガスの水蒸気含有率から前記反応用ガスの成分量を算出し、前記反応用ガスの成分量及び前記分析用オフガスの成分量を利用して前記燃料ガス流路を含む燃料極において生じる化学反応を考慮したマスバランス計算を実施することにより、前記オフガスの成分量を算出し、前記反応用ガスの成分量及び前記オフガスの成分量を利用して、前記燃料ガス流路を含む燃料極におけるメタンの反応状況を求める手段
としてコンピュータを機能させることを特徴とする、固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路の健全性評価プログラム。
【請求項6】
成分量が既知で且つ水蒸気を実質的に含まないメタン含有ガスの前記成分量、前記メタン含有ガスと水蒸気を混合した反応用ガスを固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス導入部に供給して前記燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス排出部から排出させたオフガスから水蒸気を除去した分析用オフガスをガスクロマトグラフ分析して取得される前記分析用オフガスの成分量、及び、前記反応用ガスの水蒸気含有率を記憶装置から読み込む手段、並びに、
前記メタン含有ガスの成分量及び前記反応用ガスの水蒸気含有率から前記反応用ガスの成分量を算出し、前記反応用ガスの成分量及び前記分析用オフガスの成分量を利用して前記燃料ガス流路を含む燃料極において生じる化学反応を考慮したマスバランス計算を実施することにより、前記オフガスの成分量を算出し、前記反応用ガスの成分量及び前記オフガスの成分量を利用して、前記燃料ガス流路を含む燃料極におけるメタンの反応状況を求める手段
としてコンピュータを機能させることを特徴とする、固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路の健全性評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路の健全性評価に関する。さらに詳述すると、本発明は、固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路の構造が、当該燃料ガス流路を含む燃料極に供給した燃料ガスを適切に電極反応に寄与させ得る構造となっているか否かを評価するのに好適な方法、装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、固体酸化物形燃料電池の健全性を評価する方法が記載されている。具体的には、発電セルとセパレータを交互に積層してなるセルスタックを有し、発電セルの各々に反応用ガスを供給して発電反応を生じさせる固体酸化物形燃料電池において、発電セルの各々に反応用ガスを供給した状態で、セルスタックの積層方向における両端間に試験信号を印加して各セパレータ間のインピーダンスを測定し、そのインピーダンス特性を相互に比較することによって、セルスタックの健全性を評価するようにしている。
【0003】
特許文献1には、この評価方法によって、単セルユニットのいずれかに性能不良や不具合がある場合に、それが各発電セルに供給される反応用ガスの供給流量の均一性に起因しているのか、あるいは各セパレータ間の内部抵抗の均一性に起因しているのかを特定することが可能であると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−108674号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固体酸化物形燃料電池の開発においては、上記以外の健全性の評価も必要となり得る。例えば、ガス流路の健全性の評価、即ち、ガス流路の構造が、当該ガス流路に供給したガスを適切に電極反応に寄与させ得る構造となっているか否かの評価も必要となり得る。しかしながら、ガス流路の健全性の評価手法は、未だ確立されるに至っていない。
【0006】
そこで、本発明は、固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路について、その健全性を評価する方法、装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路を含む燃料極にはメタン等を外部改質した燃料ガスを供給することが一般的であった。ここで、メタン等を外部改質した燃料ガスには、メタンは殆ど含まれていない。したがって、従来は、固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路を含む燃料極にメタンを殆ど含んでいないガスを供給することが一般的であった。
【0008】
ところが、本願発明者等が鋭意検討を行った結果、固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路を含む燃料極に水蒸気を含むメタン含有ガスを直接供給し、燃料ガス流路の入口(燃料ガス導入部)と燃料ガス流路の出口(燃料ガス排出部)においてガスの成分量(つまり、ガスを構成する各種成分の量)を正確に把握することによって、燃料ガス流路を含む燃料極におけるメタンの反応状況を把握することができ、これにより、燃料ガス流路の健全性(つまり、燃料ガス流路の構造が、当該燃料ガス流路を含む燃料極に供給した燃料ガスを適切に電極反応に寄与させ得る構造であるか否か)を評価できることを知見するに至り、さらに種々検討を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路の健全性評価方法は、成分量が未知で且つ水蒸気を実質的に含まないメタン含有ガスをガスクロマトグラフにより分析し、メタン含有ガスと水蒸気を混合して反応用ガスとし、反応用ガスを固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス導入部に供給して燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス排出部からオフガスを排出させ、オフガスから水蒸気を除去して分析用オフガスとし、分析用オフガスの成分量をガスクロマトグラフ分析し、メタン含有ガスの成分量及び反応用ガスの水蒸気含有率から反応用ガスの成分量を算出し、反応用ガスの成分量及び分析用オフガスの成分量を利用して燃料ガス流路を含む燃料極において生じる化学反応を考慮したマスバランス計算を実施することにより、オフガスの成分量を算出し、反応用ガスの成分量及びオフガスの成分量を利用して、燃料ガス流路を含む燃料極におけるメタンの反応状況を把握するようにしている。
【0010】
また、本発明の固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路の健全性評価方法は、成分量が既知で且つ水蒸気を実質的に含まないメタン含有ガスと水蒸気を混合して反応用ガスとし、反応用ガスを固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス導入部に供給して燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス排出部からオフガスを排出させ、オフガスから水蒸気を除去して分析用オフガスとし、分析用オフガスの成分量をガスクロマトグラフ分析し、メタン含有ガスの成分量及び反応用ガスの水蒸気含有率から反応用ガスの成分量を算出し、反応用ガスの成分量及び分析用オフガスの成分量を利用して燃料ガス流路を含む燃料極において生じる化学反応を考慮したマスバランス計算を実施することにより、オフガスの成分量を算出し、反応用ガスの成分量及びオフガスの成分量を利用して、燃料ガス流路を含む燃料極におけるメタンの反応状況を把握するようにしている。
【0011】
次に、本発明の固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路の健全性評価装置は、成分量が未知で且つ水蒸気を実質的に含まないメタン含有ガスをガスクロマトグラフ分析して取得されるメタン含有ガスの成分量、メタン含有ガスと水蒸気を混合した反応用ガスを固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス導入部に供給して燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス排出部から排出させたオフガスから水蒸気を除去した分析用オフガスをガスクロマトグラフ分析して取得される分析用オフガスの成分量、及び、反応用ガスの水蒸気含有率を記憶装置から読み込む手段と、メタン含有ガスの成分量及び反応用ガスの水蒸気含有率から反応用ガスの成分量を算出し、反応用ガスの成分量及び分析用オフガスの成分量を利用して燃料ガス流路を含む燃料極において生じる化学反応を考慮したマスバランス計算を実施することにより、オフガスの成分量を算出し、反応用ガスの成分量及びオフガスの成分量を利用して、燃料ガス流路を含む燃料極におけるメタンの反応状況を求める手段とを有するものとしている。
【0012】
また、本発明の固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路の健全性評価装置は、成分量が既知で且つ水蒸気を実質的に含まないメタン含有ガスの成分量、メタン含有ガスと水蒸気を混合した反応用ガスを固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス導入部に供給して燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス排出部から排出させたオフガスから水蒸気を除去した分析用オフガスをガスクロマトグラフ分析して取得される分析用オフガスの成分量、及び、反応用ガスの水蒸気含有率を記憶装置から読み込む手段と、メタン含有ガスの成分量及び反応用ガスの水蒸気含有率から反応用ガスの成分量を算出し、反応用ガスの成分量及び分析用オフガスの成分量を利用して燃料ガス流路を含む燃料極において生じる化学反応を考慮したマスバランス計算を実施することにより、オフガスの成分量を算出し、反応用ガスの成分量及びオフガスの成分量を利用して、燃料ガス流路を含む燃料極におけるメタンの反応状況を求める手段とを有するものとしている。
【0013】
次に、本発明の固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路の健全性評価プログラムは、成分量が未知で且つ水蒸気を実質的に含まないメタン含有ガスをガスクロマトグラフ分析して取得されるメタン含有ガスの成分量、メタン含有ガスと水蒸気を混合した反応用ガスを固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス導入部に供給して燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス排出部から排出させたオフガスから水蒸気を除去した分析用オフガスをガスクロマトグラフ分析して取得される分析用オフガスの成分量、及び、反応用ガスの水蒸気含有率を記憶装置から読み込む手段、並びに、メタン含有ガスの成分量及び反応用ガスの水蒸気含有率から反応用ガスの成分量を算出し、反応用ガスの成分量及び分析用オフガスの成分量を利用して燃料ガス流路を含む燃料極において生じる化学反応を考慮したマスバランス計算を実施することにより、オフガスの成分量を算出し、反応用ガスの成分量及びオフガスの成分量を利用して、燃料ガス流路を含む燃料極におけるメタンの反応状況を求める手段としてコンピュータを機能させるものとしている。
【0014】
また、本発明の固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路の健全性評価プログラムは、成分量が既知で且つ水蒸気を実質的に含まないメタン含有ガスの成分量、メタン含有ガスと水蒸気を混合した反応用ガスを固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス導入部に供給して燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス排出部から排出させたオフガスから水蒸気を除去した分析用オフガスをガスクロマトグラフ分析して取得される分析用オフガスの成分量、及び、反応用ガスの水蒸気含有率を記憶装置から読み込む手段、並びに、メタン含有ガスの成分量及び反応用ガスの水蒸気含有率から反応用ガスの成分量を算出し、反応用ガスの成分量及び分析用オフガスの成分量を利用して燃料ガス流路を含む燃料極において生じる化学反応を考慮したマスバランス計算を実施することにより、オフガスの成分量を算出し、反応用ガスの成分量及びオフガスの成分量を利用して、燃料ガス流路を含む燃料極におけるメタンの反応状況を求める手段としてコンピュータを機能させるものとしている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路の健全性評価方法、装置及びプログラムによれば、固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路の健全性を評価することが可能となる。したがって、固体酸化物形燃料電池の燃料ガス流路の構造が、当該燃料ガス流路を含む燃料極に供給した燃料ガスを適切に電極反応に寄与させ得る構造となっているか否かといった評価を適切に行うことが可能となる。故に、本発明の評価結果を踏まえた燃料ガス流路の設計等が可能となり、固体酸化物形燃料電池の開発に大きく貢献し得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の健全性評価方法の実施形態の一例を説明するフローチャートである。
図2】実施形態の健全性評価方法を健全性評価プログラムを用いて実施する場合の当該プログラムによって実現される健全性評価装置の機能ブロック図である。
図3】実施形態の分析データ取得装置の概略構成図である。
図4】実施例で使用した単セルを示す図面代替写真であり、左側が燃料極側セル、右側が空気極側セルである。
図5】実施例において、燃料極側の金属治具上にシール用金とニッケル網を配置した状態を示す図面代替写真である。
図6】実施例において、燃料極側の金属治具上に単セルをセットした状態を示す図面代替写真である。
図7】実施例において、空気極側の金属治具上にアルミナフェルトと白金網(空気極ペースト塗布済み)を配置した状態を示す図面代替写真である。
図8】実施例において、単セルをセットした燃料極側の金属治具を金属架台上に載置した状態を示す図面代替写真である。
図9】実施例において、最終的なセットアップ状態を示す図面代替写真である。
図10】実施例において、電圧線と電流線の配置の状態を示す図である。
図11】実施例において使用した分析データ取得装置の構成概略図である。
図12】実施例において検討した各種条件について、非メタン改質率に対してメタン未反応率をプロットした図である。
図13】実施例において検討した各種条件について、燃料利用率に対してメタン未反応率をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0018】
尚、以降の説明では、固体酸化物形燃料電池を「SOFC」と呼ぶこともある。
【0019】
図1図3に、本発明のSOFCの燃料ガス流路の健全性評価方法、装置及びプログラムの実施形態の一例を示す。
【0020】
本発明のSOFCの燃料ガス流路の健全性評価方法は、成分量が未知で且つ水蒸気を実質的に含まないメタン含有ガスをガスクロマトグラフにより分析し(S1)、メタン含有ガスと水蒸気を混合して反応用ガスとし(S2)、反応用ガスをSOFCの燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス導入部に供給して燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス排出部からオフガスを排出させ(S3)、オフガスから水蒸気を除去して分析用オフガスとし(S4)、分析用オフガスの成分量をガスクロマトグラフ分析し(S5)、メタン含有ガスの成分量及び反応用ガスの水蒸気含有率から反応用ガスの成分量を算出し(S6)、反応用ガスの成分量及び分析用オフガスの成分量を利用して燃料ガス流路を含む燃料極において生じる化学反応を考慮したマスバランス計算を実施することにより、オフガスの成分量を算出し(S7)、反応用ガスの成分量及びオフガスの成分量を利用して、燃料ガス流路を含む燃料極におけるメタンの反応状況を把握する(S8)ようにしている。
【0021】
また、本発明のSOFCの燃料ガス流路の健全性評価装置は、成分量が未知で且つ水蒸気を実質的に含まないメタン含有ガスをガスクロマトグラフ分析して取得されるメタン含有ガスの成分量、メタン含有ガスと水蒸気を混合した反応用ガスをSOFCの燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス導入部に供給して燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス排出部から排出させたオフガスから水蒸気を除去した分析用オフガスをガスクロマトグラフ分析して取得される分析用オフガスの成分量、及び、反応用ガスの水蒸気含有率を記憶装置から読み込む手段(データ読込部11a)と、メタン含有ガスの成分量及び反応用ガスの水蒸気含有率から反応用ガスの成分量を算出し、反応用ガスの成分量及び分析用オフガスの成分量を利用して燃料ガス流路を含む燃料極において生じる化学反応を考慮したマスバランス計算を実施することにより、オフガスの成分量を算出し、反応用ガスの成分量及びオフガスの成分量を利用して、燃料ガス流路を含む燃料極におけるメタンの反応状況を求める手段(演算部11b)とを有するものとしている。
【0022】
さらに、本発明のSOFCの燃料ガス流路の健全性評価プログラムは、成分量が未知で且つ水蒸気を実質的に含まないメタン含有ガスをガスクロマトグラフ分析して取得されるメタン含有ガスの成分量、メタン含有ガスと水蒸気を混合した反応用ガスをSOFCの燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス導入部に供給して燃料ガス流路を含む燃料極の燃料ガス排出部から排出させたオフガスから水蒸気を除去した分析用オフガスをガスクロマトグラフ分析して取得される分析用オフガスの成分量、及び、反応用ガスの水蒸気含有率を記憶装置から読み込む手段(データ読込部11a)、並びに、メタン含有ガスの成分量及び反応用ガスの水蒸気含有率から反応用ガスの成分量を算出し、反応用ガスの成分量及び分析用オフガスの成分量を利用して燃料ガス流路を含む燃料極において生じる化学反応を考慮したマスバランス計算を実施することにより、オフガスの成分量を算出し、反応用ガスの成分量及びオフガスの成分量を利用して、燃料ガス流路を含む燃料極におけるメタンの反応状況を求める手段(演算部11b)としてコンピュータ(10)を機能させるものとしている。
【0023】
本発明のSOFCの燃料ガス流路の健全性評価の実行にあたっては、まず、S1〜S5までの処理が行われる。
【0024】
S1〜S5までの処理は、例えば図3に示す分析データ取得装置によって実施される。メタン含有ガス供給装置22からは、SOFC21の燃料ガス導入部21aに向けてメタン含有ガスが供給される。メタン含有ガス供給装置22から燃料ガス導入部21aまでのガス流路においては、メタン含有ガスの一部がGC(ガスクロマトグラフ)分析に供される。その後、水蒸気供給装置23によりメタン含有ガスに水蒸気が供給され、メタン含有ガスと水蒸気が混合されて反応用ガスとなる。この反応用ガスが、燃料ガス導入部21aに供給される。燃料ガス導入部21aに供給された反応用ガスは、電気炉25で適切な運転温度に加熱制御されているSOFC21の燃料ガス流路を含む燃料極を流通した後、燃料ガス排出部21bからオフガスとして排出される。このオフガスは、水蒸気除去装置26で水蒸気が除去されて分析用オフガスとなり、GC分析に供される。その後、分析用オフガスは、例えば除害装置等(図示省略)を通過した後に系外に排出される。
【0025】
メタン含有ガス供給装置22からSOFC21の燃料ガス導入部21aに向けて供給されるメタン含有ガスは、成分量が未知で且つ水蒸気を実質的に含まないメタン含有ガスである。即ち、メタンとメタン以外のガスを含み且つ水蒸気を実質的に含まないメタン含有ガスである。メタン以外のガスとは、例えば、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)、水素(H)、窒素(N)等、SOFCの燃料ガス流路を含む燃料極への供給が許容される(換言すれば、燃料ガス流路構成材料及び燃料極構成材料を酸化させることのないガス)一種以上のガスである。尚、「水蒸気を実質的に含まない」とは、ガスクロマトグラフ分析を妨害し得る量の水蒸気を含んでいないことを意味しており、ガスクロマトグラフ分析を妨害することのない範囲での水蒸気の含有は許容される。
【0026】
メタン含有ガスのガスクロマトグラフ分析は、メタン含有ガスの成分(詳細には、メタン含有ガスを構成するガス成分)の定量分析が可能な装置を用いて適宜実施される。ここで、分析データ取得装置のコンパクト性を向上させる上では、小型のガスクロマトグラフ分析装置を用いることが好適である。このようなガスクロマトグラフ分析装置としては、例えば、アジレント社製M200やGLサイエンス社製マイクロGC490等のマイクロガスクロマトグラフ装置が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0027】
水蒸気供給装置23は、メタン含有ガスに一定量の水蒸気を持続的に供給可能な装置であれば、特に限定することなく使用することができる。このような装置としては、例えば、バブラー式加湿器等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0028】
水蒸気供給装置23の後段には、露点計24が備えられている。これにより、反応用ガスの水蒸気量を常時監視することができる。但し、メタン含有ガスの供給量(流量)と水蒸気の供給量(流量)が明らかである場合には、露点計24を備えることなく、メタン含有ガスの供給量(流量)と水蒸気の供給量(流量)から、反応用ガスの水蒸気含有率を求めることが可能である。また、露点計24以外の装置を利用して反応用ガスの水蒸気含有率を求めるようにしてもよい。
【0029】
メタン含有ガスと水蒸気が混合して生成される反応用ガスは、燃料ガス導入部21aから導入され、燃料ガス流路を含む燃料極を通過する過程で化学反応に関与した後、燃料ガス排出部21bからオフガスとして排出され、水蒸気除去装置26に導入される。
【0030】
水蒸気除去装置26は、燃料ガス排出部21bから排出されたオフガスから水蒸気を除去できる装置であれば特に限定することなく使用することができる。このような装置としては、例えば、冷却器等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0031】
尚、水蒸気除去装置26によるオフガスからの水蒸気除去は、オフガスから水蒸気を除去して得られる分析用オフガスが実質的に水蒸気を含まないレベルで行えばよい。尚、「水蒸気を実質的に含まない」とは、上記定義と同様、ガスクロマトグラフ分析を妨害し得る量の水蒸気を含んでいないことを意味しており、ガスクロマトグラフ分析を妨害することのない範囲での水蒸気の含有は許容される。
【0032】
分析用オフガスのガスクロマトグラフ分析は、分析用オフガスの成分(詳細には、分析用オフガスを構成するガス成分)の定量分析が可能な装置を用いて適宜実施される。ここで、分析データ取得装置のコンパクト性を向上させる上では、小型のガスクロマトグラフ分析装置を用いることが好適である。このようなガスクロマトグラフ分析装置としては、例えば、アジレント社製M200やGLサイエンス社製マイクロGC490等のマイクロガスクロマトグラフ装置が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0033】
尚、メタン含有ガスのガスクロマトグラフ分析と分析用オフガスのガスクロマトグラフ分析は、共通のガスクロマトグラフ分析装置を用いて実施するようにしてもよい。これにより、分析データ取得装置のコンパクト製を向上させることができる。そして、この共通のガスクロマトグラフ分析装置を小型のガスクロマトグラフ分析装置(例えば、アジレント社製M200やGLサイエンス社製マイクロGC490等のマイクロガスクロマトグラフ装置)とすれば、分析データ取得装置のコンパクト性をさらに向上させることができる。
【0034】
次に、S1〜S5の処理によって取得されたデータ、即ち、メタン含有ガスの成分量、分析用オフガスの成分量及び反応用ガスの水蒸気含有率を利用して、S6以降の処理が行われる。
【0035】
ここで、本発明のSOFCの燃料ガス流路の健全性評価におけるS6以降の処理は、本発明のSOFCの燃料ガス流路の健全性評価装置によって実行され得る。
【0036】
そして、本発明のSOFCの燃料ガス流路の健全性評価方法におけるS6以降の処理及びこれらの処理を実行するSOFCの燃料ガス流路の健全性評価装置は、本発明のSOFCの燃料ガス流路の健全性評価プログラムをコンピュータ上で実行することによっても実現され得る。
【0037】
本実施形態では、SOFCの燃料ガス流路の健全性評価プログラムをコンピュータ上で実行することによって、SOFCの燃料ガス流路の健全性評価方法のS6以降の処理が実行される場合、及び、S6以降の処理を実行するSOFCの燃料ガス流路の健全性評価装置が実現される場合について説明する。
【0038】
SOFCの燃料ガス流路の健全性評価プログラム17を実行するためのコンピュータ10(尚、本実施形態では、SOFCの燃料ガス流路の健全性評価装置10でもある)の全体構成を図2に示す。このコンピュータ10は、制御部11、記憶部12、入力部13、表示部14及びメモリ15を備え、相互にバス等の信号回線によって接続されている。また、コンピュータ10には、記憶装置としてのデータサーバ16がバス等の信号回線によって接続されており、その信号回線を介してデータや制御指令等の信号の送受信(即ち、出入力)が相互に行われる。
【0039】
制御部11は、記憶部12に記憶されているSOFCの燃料ガス流路の健全性評価プログラム17によって、コンピュータ10全体の制御及び演算を行うものであり、例えばCPU(中央演算処理装置)である。
【0040】
記憶部12は、少なくともデータやプログラムを記憶可能な装置であり、例えばハードディスクである。
【0041】
メモリ15は、制御部11が種々の制御や演算を実行する際の作業領域であるメモリ空間となるものであり、例えばRAM(Random Access Memory の略)である。
【0042】
入力部13は、少なくとも作業者の命令を制御部11に与えるためのインターフェイスであり、例えばキーボードである。
【0043】
表示部14は、制御部11の制御によって文字や図形等の描画・表示を行うものであり、例えばディスプレイである。
【0044】
本実施形態では、上述のS1〜S5の処理によって取得されたメタン含有ガスの成分量、分析用オフガスの成分量及び反応用ガスの水蒸気含有率が、演算用データベース18としてデータサーバ16に格納(保存)される。尚、S1〜S5の処理によって取得されたデータは、例えば、適当な記録媒体に保存された後に作業者によってデータサーバ16内の演算用データベース18に記録されるようにしてもよいし、分析装置等から無線又は有線の通信手段を介して、データサーバ16内の演算用データベース18に自動的に記録されるようにしてもよい。
【0045】
また、コンピュータ10の制御部11には、SOFCの燃料ガス流路の健全性評価プログラム17を実行することにより、S1〜S5の処理によって取得されたデータを記憶装置としてのデータサーバ16から読み込む処理を行うデータ読込部11aと、これらのデータを利用して演算を行う演算部11bとが構成される。
【0046】
健全性評価プログラム17が実行されると、まず、コンピュータ10の制御部11に構成されたデータ読込部11aが、メタン含有ガスの成分量、分析用オフガスの成分量及び反応用ガスの水蒸気含有率のデータの読み込みを行う。詳細には、データ読込部11aが、S1〜S5の処理によって取得されてデータサーバ16に格納されている演算用データベース18に記録されているメタン含有ガスの成分量、分析用オフガスの成分量及び反応用ガスの水蒸気含有率のデータをデータサーバ16から読み込む。
【0047】
そして、データ読込部11aは、読み込んだメタン含有ガスの成分量、分析用オフガスの成分量及び反応用ガスの水蒸気含有率のデータをメモリ15に記録させる。
【0048】
続いて、制御部11の演算部11bにおいて、メタン含有ガスの成分量及び反応用ガスの水蒸気含有率から反応用ガスの成分量が算出される(S6)。
【0049】
次に、算出された反応用ガスの成分量及び分析用オフガスの成分量を利用して、燃料ガス流路を含む燃料極において生じる化学反応を考慮したマスバランス計算が実施され、オフガスの成分量(つまり、水蒸気除去装置26にて除去された水蒸気分も考慮した成分量)が算出される(S7)。
【0050】
ここで、燃料ガス流路を含む燃料極において生じる化学反応としては、(1)発電反応、(2)リーク反応、(3)シフト反応、及び、(4)改質反応が挙げられる。
(1)H+1/2O=H
(2)H+1/2O=H
(3)H+CO=CO+H
(4)CH+HO=3H+CO
【0051】
また、化学反応(1)〜(4)の平衡定数K〜Kは、以下の通りとなる。式中、p(ガス構成分子)はガス中におけるガス構成分子の分圧を意味している。例えば、p(H)はガス中におけるHの分圧を意味している。
=p(HO)/{p(H)×p(O1/2
=p(HO)/{p(H)×p(O1/2
={p(CO)×p(HO)}/{p(H)×p(CO)}
={p(H×p(CO)}/{p(CH)×p(HO)}
【0052】
マスバランス計算は、例えば、以下の手順により行われる。まず、反応用ガスの成分量を、以下の通りとする。
<反応用ガスの成分量>
CH A[mol]
B[mol]
CO C[mol]
CO D[mol]
E[mol]
O F[mol]
計 A+B+C+D+E+F[mol]
【0053】
ここで、反応用ガスの成分量のうち、CH、H、CO、CO、Nの成分量については、ガスクロマトグラフ分析により取得することができる。HOの成分量については、S6の処理により求めることができる。したがって、A〜Fの数値が明らかとなる。
【0054】
次に、(1)発電反応におけるHの転化量をa[mol]とし、(2)リーク反応におけるHの転化量をb[mol]とし、(3)シフト反応におけるCOの転化量をc[mol]とし、(4)改質反応におけるCHの転化量をd[mol]とする。この場合、オフガスの成分量は、以下の通りとなる。
<オフガスの成分量>
CH A−d[mol]
B−a−b−c+3d[mol]
CO C−c[mol]
CO D+c+d[mol]
E+2b[mol]
O F+a+b+c−d[mol]
計 A+B+C+D+E+F+2b+2d[mol]
【0055】
尚、反応用ガス及びオフガス共に還元雰囲気であることから、Oは検出されないが、Nについては、(2)のリーク反応に起因して、外部から燃料ガス流路を含む燃料極に入り込む酸素(b/2分)に対応する量だけ増加し得る。即ち、乾燥空気中のN/Oを4とすると、(b/2)×4=2b[mol]分のNが増加し得る。
【0056】
ここで、オフガスの成分量のうち、CH、H、CO、CO、Nの成分量については、ガスクロマトグラフ分析により取得することができる。この値をそれぞれX、X、X、X及びXとすると、上記の通り明らかとなったA〜Eの数値から、a、b、c及びdの少なくとも1つをパラメータとする以下の5つの方程式が得られる。
A−d=X
B−a−b−c+3d=X
C−c=X
D+c+d=X
E+2b=X
【0057】
また、ガスクロマトグラフ分析から得られるオフガスのCH、H、CO、CO、Nの成分量X、X、X、X及びX並びにSOFCの作動圧力Pを用いて、オフガスの各成分の分圧を以下のように表すことができる。
p(CH)=P×X/(A+B+C+D+E+F+2b+2d)
p(H) =P×X/(A+B+C+D+E+F+2b+2d)
p(CO)=P×X/(A+B+C+D+E+F+2b+2d)
p(CO) =P×X/(A+B+C+D+E+F+2b+2d)
p(N) =P×X/(A+B+C+D+E+F+2b+2d)
p(HO)=P×(F+a+b+c−d)/(A+B+C+D+E+F+2b+2d)
SOFCの運転温度から、平衡定数K〜Kの値が明らかになるので、これらの分圧と平衡定数K〜Kの関係から、さらに4つの方程式が導かれる。
【0058】
そして、この4つの方程式と上記5つの方程式から、(1)発電反応におけるHの転化量a[mol]、(2)リーク反応におけるHの転化量b[mol]、(3)シフト反応におけるCOの転化量c[mol]、(4)改質反応におけるCHの転化量d[mol]を求めることができる。これにより、オフガス中のHOの成分量(F+a+b+c−d[mol])が明らかとなり、オフガスの全ての成分量が明らかとなる。
【0059】
最後に、算出された反応用ガスの成分量及びオフガスの成分量を利用して、燃料ガス流路を含む燃料極におけるメタンの反応状況が求められる(S8)。具体的には、例えば、算出された反応用ガスの成分量から反応用ガスのメタン分圧を算出し、算出されたオフガスの成分量からオフガスのメタン分圧を算出し、反応用ガスのメタン分圧及びオフガスのメタン分圧から、以下の式により燃料ガス流路を含む燃料極におけるメタン未反応率[%]を求めることで、燃料ガス流路を含む燃料極におけるメタンの反応状況が求められる。尚、以下の式において、αは反応用ガスのメタン分圧であり、βはオフガスのメタン分圧である。
[メタン未反応率]= β/α × 100
【0060】
以上の処理により求められる燃料ガス流路を含む燃料極におけるメタン未反応率[%]は、SOFC21の燃料ガス流路(燃料ガス導入部21a〜燃料ガス排出部21b)の構造が、当該燃料ガス流路を含む燃料極に供給した燃料ガスを適切に電極反応に寄与させ得る構造となっているか否かを判断する指標となる。但し、当該燃料ガス流路にメタン改質触媒を設置していないものとする。即ち、メタン未反応率が高いほど、燃料ガス流路の構造が、当該燃料ガス流路を含む燃料極に供給した燃料ガスを適切に電極反応に寄与させにくい(換言すれば、燃料ガスが電極反応を経ることなく素通りし易い)構造になっているといえる。逆に、メタン未反応率が低いほど、燃料ガス流路の構造が、当該燃料ガス流路を含む燃料極に供給した燃料ガスを適切に電極反応に寄与させ易い構造になっているといえる。尚、メタン未反応率が高い場合、ネルンストロスが大きくなり、セルスタック性能が低下する。したがって、本発明により健全性を評価することで、SOFCセルをスタック化したときのセルスタックの性能の良否についても評価し得る。
【0061】
尚、算出された反応用ガスの成分量及びオフガスの成分量を利用した燃料ガス流路を含む燃料極におけるメタンの反応状況の計算は、上記の方法に限定されるものではなく、燃料ガス流路を含む燃料極におけるメタンの反応状況が把握できる限りにおいて、適宜変更しても構わない。例えば、燃料ガス流路を含む燃料極におけるメタン未反応率ではなく、燃料ガス流路を含む燃料極のおけるメタン反応率を求めるようにしてもよい。この場合、メタン反応率が高いほど、燃料ガス流路の構造が、当該燃料ガス流路を含む燃料極に供給した燃料ガスを適切に電極反応に寄与させ易い構造になっているといえる。逆に、メタン反応率が低いほど、燃料ガス流路の構造が、当該燃料ガス流路を含む燃料極に供給した燃料ガスを適切に電極反応に寄与させにくい構造になっているといえる。
【0062】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、成分量が既知で水蒸気を実質的に含まないメタン含有ガスを用いる場合には、上述の健全性評価方法のうち、メタン含有ガスのガスクロマトグラフ分析(S1)を省略してもよい。また、上述の分析データ取得装置のうち、前段のGC分析を省略することも可能である。尚、メタン含有ガスの成分量が既知である場合とは、例えば、メタン含有ガスが実質的にメタンのみで構成されている場合や、事前に分析済みのメタン含有ガスが用いられる場合、十分に校正されたマスフローコントローラーでメタン含有ガスを構成するガス成分をそれぞれ供給する場合等が挙げられる。
【実施例】
【0063】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0064】
1.セル仕様
本実施例では、NexTech Materials(NTM)社の平板形SOFCを使用した。SOFC単セルと金属治具の仕様を表1に示す。尚、表1中、電極面積は実測値である。また、電極厚は二次電子像写真より計測して得られた値である。
【0065】
【表1】
【0066】
本実施例では、電解質支持形構造のSOFC単セルを用いた。具体的には、表1に示す空気極材料と燃料極材料とをそれぞれ電解質板に塗布した後に焼成した。単セルの写真を図4に示す。図4中、左が燃料極側セルであり、右が空気極側セルである。
【0067】
2.セルセットアップ
以下の手順でセルセットアップを行った。
【0068】
まず、燃料極側の金属治具の燃料ガス流路に、プレスしたニッケル線(φ1mm)を埋め込んだ。そして、この金属治具上の外側にシール用金(0.2mm厚、田中貴金属製)を配置し、内側にニッケル網(0.2mm厚60メッシュ、ニラコ製)を一枚配置した。ニッケル網の表面及び裏面には、燃料極ペースト(Ni、NTM製)をスポンジで塗布した。燃料極側の金属治具上にシール用金とニッケル網を配置した状態を図5に示す。
【0069】
次に、SOFC単セルの燃料極が、上記ニッケル網の真上に配置されるように重ねた。その際、SOFC単セルの燃料極の表面には、上記燃料極ペーストをスポンジで塗布した。燃料極側の金属治具上にSOFC単セルをセットした状態を図6に示す。SOFC単セルの上面は空気極である。
【0070】
次に、空気極側の金属治具上の外側にアルミナフェルトを配置し、内側に白金網(80メッシュ、田中貴金属製)を3枚配置した。アルミナフェルトにはアルミナスラリーを充分に浸み込ませた。また、白金網の表面と裏面には、空気極ペースト(La0.80Sr0.20MnO3−d、NTM製)を塗布した。空気極側の金属治具上にアルミナフェルトと白金網(空気極ペースト塗布済み)を配置した状態を図7に示す。
【0071】
次に、金属架台上に厚さ3mmのファインフレックス1300ペーパー(ニチアス株式会社)を3枚重ね、その上にSOFC単セルをセットした燃料極側の金属治具(図5)を載置した(図8)。
【0072】
最後に、図8に示す状態のSOFC単セルの空気極に上記空気極ペーストを100ミクロン以上塗布し、空気極側の金属治具を、白金網がSOFC単セルの空気極の真上に配置されるように重ねた後、おもり(12kg)を置いた。最終的なセットアップ状態を図9に示す。尚、金属治具の重さは1.3kgである。
【0073】
上記方法でセルセットアップしたものを以降の説明では、「セットアップA」と呼ぶ。
【0074】
また、上記セルセットアップ方法において、シール用金の厚さを0.5mm厚(田中貴金属製)に変更し、燃料極側の金属治具の燃料ガス流路に、プレスしたニッケル線を埋め込むこと無く、代わりにニッケル網(0.3mm厚30メッシュ、NTM製)を燃料極側の金属治具の内側に配置し、おもりを4kgとしたものも準備した。以降の説明では、これを「セットアップB」と呼ぶ。
【0075】
尚、図10に示すように、電圧線は、金属治具のガスの導入に用いる外径1/4インチ・肉厚1mmの配管に外径1.2mm・孔径0.8mmのアルミナ管で保護した白金線(直径0.3mm)を2本(1本は予備)通して、燃料極側はニッケル網に、空気極側は白金網に接続した。その際、金属治具と電圧線である白金線が接触していないことをテスターにて確認した。また、金属治具の配管を電流線とした。
【0076】
試験は、図11に示す分析データ取得装置を用い、電気炉25の温度を825℃に設定して実施した。メタン含有ガス供給装置22としての機能を有するガス混合器からのメタン含有ガスをバブラー23で加湿して反応用ガスとし、これを燃料ガス流路を含む燃料極の入口(燃料ガス導入部21a)に導入した。バブラー23によりメタン含有ガスに供給される水蒸気量は、露点計24(ロトロニック社製 HygroFlex3)をバブラーの下流に設置して、常時監視した。燃料ガス流路を含む燃料極の出口(燃料ガス排出部21b)から排出されるオフガスは、冷却器26で十分に水蒸気を除去して分析用オフガスとし、マイクロガスクロマトグラフ(セットアップAはアジレント社製M200、セットアップBはGLサイエンス社製マイクロGC490)により分析した。分析後の分析用オフガスは除害装置を通過した後に系外に排出された。
【0077】
尚、後述するように、試験は、同一条件について、1回目はOCV(開回路電圧)で、2回目は電流密度200mA/cm(電流値6.4A)で実施したが、メタン含有ガスのガスクロマトグラフ分析は1回目のみ行った。2回目は1回目と同一のガス供給条件としたことから、メタン含有ガスの成分量は既知であるものとして取り扱い、ガスクロマトグラフ分析を省略した。
【0078】
また、ガス混合器からSOFCの空気極側の入口(空気導入部)に向けて空気を供給し、空気極側の出口(空気排出部)から排出させた。空気極側の出口から排出した後の空気は、OセンサーでO含有率が分析された後、系外に排出された。
【0079】
セットアップAについて、以下の表2〜表4に示す条件にて試験を実施した。
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
【表4】
【0083】
表2に示す試験条件1では、S/C(スチームカーボン比)=2.5の場合について、Rf(燃料改質率)とUf(燃料利用率)を異ならせて、8条件の試験を実施した。また、この8条件の試験は、1回目はOCV(開回路電圧)で、2回目は電流密度200mA/cm(電流値6.4A)で実施した。
【0084】
表3に示す試験条件2では、S/C(スチームカーボン比)=3.0について、Rf(燃料改質率)とUf(燃料利用率)を異ならせて、8条件の試験を実施した。また、この8条件の試験は、1回目はOCV(開回路電圧)で、2回目は電流密度200mA/cm(電流値6.4A)で実施した。
【0085】
表4に示す試験条件3では、S/C(スチームカーボン比)=2.5及び3.0については、試験条件1及び2で検討しなかったUf(燃料利用率)について、それぞれ4〜5条件の試験を実施した。また、S/C(スチームカーボン比)=2.0について、Uf(燃料利用率)を異ならせて、6条件の試験を実施した。これらの試験も、試験条件1及び2と同様、1回目はOCV(開回路電圧)で、2回目は電流密度200mA/cm(電流値6.4A)で実施した。
【0086】
尚、表2〜4中、UO2は酸素利用率であり、An(又はAnガス)は反応用ガスである。また、Ca(又はCaガス)はカソードガスである。露点温度は設定目標値であり、露点計(ロトロニック社製 HygroFlex3)が露点温度になるように、バブラーの温度を調整した。測定した露点温度から湿度計算ソフト(http://www.vaisala.co.jp/jp/support/HumidityCalculator/Pages/default.aspx)により水蒸気量の計算を行った。
【0087】
次に、セットアップBの試験条件を表5に示す。
【0088】
【表5】
【0089】
セットアップBについては、S/C(スチームカーボン比)=2.5及び2.6について、Rf(燃料改質率)とUf(燃料利用率)を異ならせて、5条件の試験を実施した。また、この5条件の試験は、1回目はOCV(開回路電圧)で、2回目は電流密度200mA/cm(電流値6.4A)で実施した。また、一部の条件については、電流密度100mA/cm(電流値3.2A)でも試験を実施した。
【0090】
非メタン改質率に対してメタン未反応率をプロットした結果を図12に示す。
【0091】
OCV条件と200mA/cm条件で大きな差は見られなかったことから、本発明は、OCV条件で実施可能であることが明らかとなった。
【0092】
また、セットアップBのS/C=2.5、Uf6.2%条件は、セットアップAのS/C=2.5、Uf20%とメタン未反応率が大きな差が見られなかった。Uf6.2%条件は、Uf20%条件と比べて、燃料ガス利用率が小さい。それにもかかわらず、メタン未反応率に大きな差が見られなかったことから、セットアップBはセットアップAに比べて燃料ガス流路の健全性が高い、即ち、燃料ガス流路の構造が、当該燃料ガス流路を含む燃料極に供給される燃料ガスを適切に電極反応に寄与させ易い構造となっていることが明らかとなった。また、この結果から、セットアップAとセットアップBの相違点であるシール用金の厚み、及び、燃料極側の金属治具の燃料ガス流路に使用する材料(プレスしたニッケル線、ニッケル網)の少なくともいずれかが、燃料ガス流路の健全性の向上に寄与し得るものと考えられた。
【0093】
次に、燃料利用率に対してメタン未反応率をプロットした結果を図13に示す。
【0094】
燃料利用率の増加に伴って、メタン未反応率も低下することが確認できた。また、同じ燃料利用率で比較すると、セットアップBはセットアップAよりもメタン未反応率が低いことが明らかとなった。この結果からも、セットアップBはセットアップAに比べて燃料ガス流路の健全性が高い、即ち、燃料ガス流路の構造が、当該燃料ガス流路を含む燃料極に供給される燃料ガスを適切に電極反応に寄与させ易い構造となっていることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0095】
10 コンピュータ
11a 読込部
11b 演算部
21 固体酸化物形燃料電池
21a 燃料ガス導入部
21b 燃料ガス排出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13