特許第6284861号(P6284861)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284861
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】テルミサルタンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 235/20 20060101AFI20180215BHJP
   A61K 31/4184 20060101ALN20180215BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20180215BHJP
   A61P 9/12 20060101ALN20180215BHJP
【FI】
   C07D235/20CSP
   !A61K31/4184
   !A61P43/00 116
   !A61P9/12
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-179583(P2014-179583)
(22)【出願日】2014年9月3日
(65)【公開番号】特開2016-53006(P2016-53006A)
(43)【公開日】2016年4月14日
【審査請求日】2017年4月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】宮奥 隆行
(72)【発明者】
【氏名】田中 健次
【審査官】 阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−153080(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/147889(WO,A2)
【文献】 特表2007−537222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 235/20
A61K 31/4184
A61P 9/12
A61P 43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
で示されるテルミサルタンのアンモニウム塩及び酢酸エチルを含む溶液と酢酸とを混合して前記テルミサルタンのアンモニウム塩を中和することにより前記テルミサルタンを得る中和工程を含む前記テルミサルタンの製造方法において、前記テルミサルタンのアンモニウム塩及び酢酸エチルを含む溶液における酢酸エチルの量が前記テルミサルタンのアンモニウム塩1モルに対して0.01モル以上7.0モル以下であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記テルミサルタンのアンモニウム塩が酢酸エチルを含む溶媒に溶解した第一溶液から前記テルミサルタンのアンモニウム塩の結晶を析出させて前記テルミサルタン及び/または前記テルミサルタンのアンモニウム塩並びに酢酸エチルを含む混合物を得る精製工程、
前記精製工程で得られた混合物を溶解させてテルミサルタンのアンモニウム塩及び酢酸エチルを含む第二溶液を調整する溶液調製工程、及び
前記第二溶液と酢酸とを混合して前記テルミサルタンのアンモニウム塩を中和することにより前記テルミサルタンを得る中和工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テルミサルタンの製造において、生産性よく、酢酸エチルの含有量を制御できる新規な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式(1)
【0003】
【化1】
【0004】
で示されるテルミサルタン(化学名称:4′−[[2−n−プロピル−4−メチル−6−(1−メチルベンズイミダゾール−2−イル)−ベンズイミダゾール−1−イル]−メチル]−ビフェニル−2−カルボン酸)は、アンジオテンシンII受容体拮抗薬として高血圧治療に使用されている(特許文献1〜3参照)。
【0005】
このテルミサルタンは、複数の結晶形態が存在することが知られているが、それらの結晶形態の中でも、A型結晶と呼ばれる結晶形態は、医薬品として好適に使用でき、工業的な利用価値が高い。このA型結晶の製造方法について、特許文献1及び2には、テルミサルタンとアンモニアとを混合して、テルミサルタンのアンモニウム塩の溶液を調製した後、当該溶液と酢酸とを混合し中和することによって、テルミサルタンのA型結晶を析出させる方法が記載されている。また、特許文献3には、テルミサルタンの精製方法として、アルコール類、水、酢酸エチルの混合溶媒中に、テルミサルタンのアンモニウム塩が溶解した溶液から、テルミサルタンのアンモニウム塩を結晶化させてテルミサルタンのアンモニウム塩の結晶を得る方法、及び、当該アンモニウム塩を乾燥させてテルミサルタンのアモルファス体を得る方法が開示されている。当該精製方法によれば、他の公知の方法によっては除去困難な、テルミサルタンに含まれる特定の不純物群が、効率的に除去できる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−153080号公報
【特許文献2】特許第4700813号
【特許文献3】特開2013−227273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3には、溶媒を含むテルミサルタンのアンモニウム塩の結晶を、35℃以上の温度で乾燥させると、アンモニアが揮発することによって、得られる乾燥体の一部または全部がテルミサルタンのアモルファス体となり、35℃未満の温度で乾燥させると、アンモニアの揮発が抑制されるため、乾燥体はテルミサルタンのアンモニウム塩の結晶を主としたものとして得られることが記載されている。当該テルミサルタンのアモルファス体からA型結晶を製造しようとするには、再度、溶液中でアンモニウム塩化し、中和/再結晶を行う必要があるため効率的でなかった。一方で、テルミサルタンのアンモニウム塩を結晶として得るためには、35℃未満の温度で長時間乾燥しなければ、溶媒を除去することができず、やはり効率的ではなかった(特許文献3の実施例では、実際に18時間乾燥している)。
【0008】
そのため、本発明者等は、これらテルミサルタンのアンモニウム塩の結晶、またはテルミサルタンのアモルファス体を使用せずに、テルミサルタンのA型結晶を製造する方法の検討を行った。その中で、特許文献3に記載の方法を利用するために、再結晶で得られたテルミサルタンのアンモニウム水の結晶を、溶媒が残存する、湿体の状態で使用することを検討した。湿体の状態であれば、乾燥によってアモルファス体となることもなく、短時間で容易に得ることができるし、しかも、最終的に得られるテルミサルタンの結晶を乾燥することによりって、当該湿体に含まれる溶媒は次の工程で使用された他の溶媒と同様に除去できると考えたからである。
【0009】
しかしながら、特許文献3に記載の方法によって得られる、湿体のテルミサルタンのアンモニウム塩を中和/再結晶した場合、最終的に得られるA型結晶に酢酸エチルが残存する場合があり、改善の余地があることが分かった。得られたA型結晶を酢酸エチルの沸点を上回る高温や減圧の条件にて乾燥を行っても、残留した酢酸エチルを一定量以下まで低減することが困難であった。当該酢酸エチルは、湿体のテルミサルタンのアンモニウム塩に残留していたものと考えられ、中和/再結晶を行なう際の系中における酢酸エチルの量は、系全体に対して微量であると考えられる。このように、系中に不純物量レベルで含まれる溶媒が得られた結晶に残留溶媒として含まれることは、通常起こり得ない現象である。それにも関わらず、このような現象が起こった理由については明らかではないが、酢酸エチルが特異的にテルミサルタンと化学的結合(溶媒和など)を形成し易く、テルミサルタンの結晶中に残留したことが推測される。
【0010】
したがって、本発明の目的は、酢酸エチルを含むテルミサルタンのアンモニウム塩を酢酸で中和してテルミサルタンの結晶を得る方法において、生産性よく、得られる結晶における酢酸エチルの含有量を高度に制御する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するため、鋭意研究を重ねた。その結果、テルミサルタンのアンモニウム塩に含まれる酢酸エチル量を特定の範囲とすることにより、最終的に得られるテルミサルタン中の酢酸エチル量を低減できることを見出した。さらに、得られるテルミサルタンに残留する酢酸エチルの量は、反応条件、例えば、溶媒の種類や使用量、酢酸の使用量、反応温度等には影響されず、反応溶液における酢酸エチルの含有量のみに依存し、且つ、反応溶液におけるテルミサルタンのアンモニウム塩に対する酢酸エチルの含有量に依存していることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、テルミサルタンのアンモニウム塩及び酢酸エチルを含む溶液と酢酸とを混合してテルミサルタンのアンモニウム塩を中和することによりテルミサルタンを得る中和工程を含むテルミサルタンの製造方法において、テルミサルタンのアンモニウム塩及び酢酸エチルを含む溶液における酢酸エチルの量がテルミサルタンのアンモニウム塩1モルに対して0.01モル以上7.0モル以下であることを特徴とする、テルミサルタンの製造方法である。
【0013】
また、本発明では、前記中和工程に先立って、テルミサルタンのアンモニウム塩が酢酸エチルを含む溶媒に溶解した第一溶液からテルミサルタンのアンモニウム塩の結晶を析出させて前記テルミサルタン及び/または前記テルミサルタンのアンモニウム塩並びに酢酸エチルを含む混合物(湿体)を得る精製工程、及び、前記精製工程で得られた混合物を溶解させてテルミサルタンのアンモニウム塩及び酢酸エチルを含む第二溶液を調製する溶液調製工程を行ない、得られた第二溶液を用いて中和工程を行なうことによって、本発明の効果がより顕著に発揮されて好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、酢酸エチルを含むテルミサルタンのアンモニウム塩を酢酸で中和してテルミサルタンの結晶を得る方法において、これら反応における反応液中のテルミサルタンのアンモニウム塩に対する酢酸エチル量を制御することにより、生産性よく、得られるテルミサルタンの結晶における酢酸エチルの含有量を高度に制御することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、テルミサルタンのアンモニウム塩及び酢酸エチルを含む溶液と酢酸とを混合してテルミサルタンのアンモニウム塩を中和することによりテルミサルタンを得る中和工程を含むテルミサルタンを製造する方法において、テルミサルタンのアンモニウム塩及び酢酸エチルを含む溶液における酢酸エチルの量がテルミサルタンのアンモニウム塩1モルに対して0.01モル以上7.0モル以下であることを特徴とする。また、本発明は、前記中和工程に先立って、テルミサルタンのアンモニウム塩が酢酸エチルを含む溶媒に溶解した第一溶液からテルミサルタンのアンモニウム塩の結晶を析出させて前記テルミサルタン及び/または前記テルミサルタンのアンモニウム塩並びに酢酸エチルを含む混合物(湿体)を得る精製工程、及び、前記精製工程で得られた混合物を溶解させてテルミサルタンのアンモニウム塩及び酢酸エチルを含む第二溶液を調製する溶液調製工程行ない、得られた第二溶液を用いて中和工程を行なうことが好ましい態様である。以下、精製工程、溶液調製工程、中和工程の詳細を順に説明する。
【0017】
(((精製工程)))
本発明において、当該精製工程は、テルミサルタンのアンモニウム塩が酢酸エチルを含む溶媒に溶解した第一溶液からテルミサルタンのアンモニウム塩の結晶を析出させて前記テルミサルタン及び/または前記テルミサルタンのアンモニウム塩並びに酢酸エチルを含む混合物(湿体)を得る工程であり、具体的には、特許文献3に記載された方法を実施することができる。
【0018】
((精製工程における第一溶液の調製))
当該精製工程における第一溶液は、テルミサルタンのアンモニウム塩が酢酸エチルを含む溶媒に溶解した溶液である。その調製方法は特に制限されるものではないが、具体的には、原料としてテルミサルタンを用い、酢酸エチルを含む溶媒と混合し、適宜アンモニアを追加して原料をアンモニウム塩化させることによって溶解させる方法が挙げられる。
【0019】
(テルミサルタン(原料))
当該第一溶液の調製において原料として使用されるテルミサルタンは特に制限されず、公知の方法で製造されたものを使用することができるが、一般的な製造方法として、テルミサルタンのアルキルエステルを加水分解する方法が挙げられる。具体的には、t−ブチルエステルやメチルエステル等のテルミサルタンのアルキルエステルを溶媒中、トリフルオロ酢酸や塩酸などの酸を用いて加水分解させ、テルミサルタンを生成する。次いで、後処理として水などのテルミサルタンに対する溶解性が低い溶媒を投入しテルミサルタンを結晶化させる、或いは、有機溶媒にテルミサルタンを抽出し濃縮する等の方法によりテルミサルタンを効率的に製造することができる。反応や後処理の条件によるが、通常このようにして得られるテルミサルタンは、その純度が90.0〜98.5%で、医薬品原薬として使用するためには精製し高純度化する必要があり、その方法として精製効率の観点から当該精製工程の方法が好適に使用できる。
【0020】
(アンモニア)
当該第一溶液の調製で使用されるアンモニアは特に制限されず、一般的に入手可能なものを使用することができる。具体的には、気体、水または有機溶媒の溶液の形態のものを使用することができ、溶液の形態のものを使用することが取り扱い易く好ましい。また、有機溶媒の溶液を使用する場合、溶媒の種類としてメタノール、エタノール等のアルコール類、酢酸エチル等のエステル類を使用することができる。溶液の濃度は、特に制限されず、アンモニア及び溶媒の量が後述の範囲を満たすように適宜調製すれば良い。アンモニアの使用量は、テルミサルタン1モルに対して、2.0モル以上30.0モル以下であるが、テルミサルタンのアンモニウム塩の精製効率や回収率を考慮すると、3.0モル以上20.0モル以下が好ましく、4.3モル以上15.0モル以下がさらに好ましい。
【0021】
(第一溶液の溶媒)
第一溶液をなす溶媒は、酢酸エチルを含むものである。また、当該第一溶液をなす溶媒は、酢酸エチルの他にアルコール類及び水であり、これら3種の溶媒から構成される。ここでアルコール類とは炭素数が2から12のアルコールであり、具体的には、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、t−ブタノール、プロパルギルアルコール、アリルアルコールなどが挙げられる。これらのアルコール類は単独で使用してもよく、二つ以上組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、精製効率や回収率の観点から、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール等の炭素数2〜3のアルコール類が好ましく、中でも、エタノールは精製効率が特に高いため、最も好ましい。
【0022】
各溶媒の使用量は、テルミサルタン1gに対して、水が0.5〜50mL、アルコール類が0.1〜20mL、酢酸エチルが1〜50mLである。これら範囲を満たし、且つ、第一溶液をなす溶媒を100質量%としたときに、各溶媒が2.5質量%以上含めば、各溶媒の混合割合は特に制限されることなく、操作性などを考慮し適宜決定すればよい。
【0023】
(第一溶液の調製方法)
当該第一溶液は、テルミサルタンのアンモニウム塩を、酢酸エチルを含む溶媒に溶解した溶液である。その調製方法は特に制限されるものではないが、具体的には、原料としてテルミサルタンを用い、酢酸エチルを含む溶媒と混合し、アンモニアを追加して原料をアンモニウム塩化させることによって溶解させる方法が挙げられる。この際の方法は特に制限されず、原料、溶媒及びアンモニアを混合すれば良く、それらの混合順序も特に制限されるものではないが、原料と溶媒とを混合した後にアンモニアを混合することによりアンモニウム塩化が短時間で完了するため、第一溶液を調製し易く好ましい。また、溶媒は事前に混合しても良いし、原料等と順次混合しても良く、操作性等を考慮して適宜決定すれば良い。さらに、反応容器として、温度計や温度センサーを装着した、ガラス容器、ステンレス容器、テフロン(商標登録)製容器、グラスライニング容器などを使用し、当該反応容器内で撹拌羽根、メカニカルスターラー、マグネティックスターラー等で撹拌することにより、均一な第一溶液を効率的に調製できて好ましい。当該調製操作における温度は−10〜70℃であり、時間はテルミサルタンの溶解が完了するのを目視で確認する等して適宜決定すればよい。
【0024】
((精製工程における結晶の析出))
前記のように調製された第一溶液を継続的に撹拌することにより、当該溶液からテルミサルタンのアンモニウム塩の結晶が析出する。また、結晶が析出する前や析出の初期段階において、種晶としてテルミサルタンのアンモニウム塩の結晶を添加することができ、これにより、効率よく結晶が析出させることができて好ましい。当該析出操作における温度は、−10〜70℃であり、調製操作の温度と同じあっても良く、当該範囲であれば変更しても良い。また、当該操作の時間は、通常3時間以上で十分にテルミサルタンのアンモニウム塩が析出するが、HPLC等によりテルミサルタンのアンモニウム塩の析出量を確認しながら決定すれば良い。
【0025】
このようにしてテルミサルタンのアンモニウム塩を析出させた後、後処理として、減圧濾過や加圧濾過、遠心分離等の公知の方法により固液分離することにより、テルミサルタンのアンモニウム塩の湿体を得ることができる。固液分離の際は、水や酢酸エチル等を用いて洗浄することによって、結晶に含まれる母液を十分に取り除くことが好ましい。
【0026】
前記テルミサルタンのアンモニウム塩の湿体は、通常、酢酸エチルを含むものであるため、テルミサルタンのアンモニウム塩、及び酢酸エチルを含む混合物である。この混合物は、テルミサルタンのアンモニウム塩1モルに対して酢酸エチルの含有量が0.01モル以上7.0モル以下であれば、そのまま次の溶液調製工程に使用することもできる。ただし、テルミサルタンのアンモニウム塩1モルに対して酢酸エチルの含有量が7.0モルを超える場合には、乾燥して酢酸エチルの含有量が0.01モル以上7.0モル以下の範囲とすることが好ましい。
【0027】
この混合物は、テルミサルタンのアンモニウム塩1モルに対して酢酸エチルの含有量が0.01モル以上7.0モル以下とすることが好ましい。混合物がこの範囲を満足することにより、操作性が高くなり、経済的にも有利となる。この混合物において、テルミサルタンのアンモニウム塩1モルに対して酢酸エチルの含有量が0.01モル未満とするためには、35℃未満の低温で長時間乾燥する必要があるため、好ましくない。一方、テルミサルタンのアンモニウム塩1モルに対して酢酸エチルの含有量が7.0モルを超える場合には、最終的に得られるテルミサルタンに酢酸エチルが残存し易くなるため、好ましくない。生産性、酢酸エチルの残存量を考慮すると、該混合物は、テルミサルタンのアンモニウム塩1モルに対して、酢酸エチルの含有量が0.02モル以上5.8モル以下とすることがより好ましく、0.03モル以上4.0モル以下とすることがさらに好ましく、0.05モル以上2.2モル以下とすることが特に好ましく、0.05モル以上1.2モル以下とすることが最も好ましい。
【0028】
この混合物を乾燥することにより、テルミサルタンのアンモニウム塩1モルに対して酢酸エチルの含有量が0.01モル以上7.0モル以下とする方法は、特に制限されるものではないが、10〜80℃の温度で減圧乾燥することが好ましい。特許文献3には、35℃以上の温度で乾燥させると、テルミサルタンのアモルファス体となることが記載されているが、本発明者等の更なる検討によれば、35℃以上の温度で乾燥した混合物であっても、テルミサルタンのアンモニウム塩1モルに対して酢酸エチルが0.01モル以上7.0モル以下の範囲で含有されれば、アモルファス体とならないことを見出した。ただし、乾燥条件によっては、テルミサルタンのアンモニウム塩に極微量のアモルファス体が含まれる場合があり、結果的にテルミサルタン及び/またはテルミサルタンのアンモニウム塩が得られる。その含有量は具体的にはテルミサルタンのアンモニウム塩1モルに対して0.05モル以下である。そのため、より生産性を高めるためには、該混合物は、テルミサルタンのアンモニウム塩1モルに対して酢酸エチルの含有量が0.01モル以上7.0モル以下の範囲を満足するように、20〜70℃の温度範囲で減圧乾燥することが好ましい。乾燥時間は、使用する装置、乾燥させるアンモニウム塩の量等で最適値が異なるため一概に限定できないが、5分間以上15時間未満、好ましくは5分間以上10時間以下であれば十分である。
【0029】
ただし、酢酸エチルの含有量は、この混合物の時点で調整しなくても、下記に詳述する第二溶液を製造する際に調整することもできる。
【0030】
(((溶液調製工程)))
本発明において、当該溶液調製工程は、前記精製工程で得られた混合物を溶解させてテルミサルタンのアンモニウム塩及び酢酸エチルを含む第二溶液を調製する工程である。使用するテルミサルタンのアンモニウム塩、及び酢酸エチルを含む混合物によっては、アンモニアを添加する必要がある。
【0031】
(第二溶液の溶媒)
本発明において、第二溶液をなす溶媒は、メタノールまたはエタノールである。これらは単一で使用しても良く、各溶媒を混合して使用しても良い。これらは何れもテルミサルタンのアンモニウム塩に対する溶解度が高いため、容易に第二溶液を調製することができる。また、テルミサルタンに対する溶解度が低いため、高い回収率を得ることができる。メタノールまたはエタノールは、試薬または工業用原料などのグレードのものを何ら制限無く使用できる。また、メタノールまたはエタノール100mLに対して20mL以下、好ましくは10mL以下であればメタノールまたはエタノール以外の溶媒を含むことができる。このとき含むことができる溶媒としては、アセトニトリルなどのニトリル類、アセトンやメチルエチルケトンなどのケトン類、トルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素類、ジクロロメタやクロロホルムなどのハロゲン化脂肪族炭化水素類、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、水などを挙げることができる。さらに、上記範囲を満たす量であれば、酢酸エチルを含むこともできる。
【0032】
本発明において、メタノールまたはエタノールの使用量は、テルミサルタン及び/またはテルミサルタンのアンモニウム塩1gに対して2.5〜100mLである。なお、当該使用量は、酢酸エチルなどの溶媒の量を差し引いたテルミサルタン及び/またはテルミサルタンのアンモニウム塩の純分に対する量である。当該使用量が、テルミサルタン及び/またはテルミサルタンのアンモニウム塩1gに対して2.5mL以上であれば、容易に第二溶液を調製することができ、50mL以下であれば、テルミサルタンを十分に回収することができる。これらの中でも、不純物の精製効率や濾過性などの操作性を考慮すると、3〜70mLであることが好ましく、5〜50mLであることがさらに好ましい。
【0033】
(第二溶液の調製方法)
本発明において、前記テルミサルタン及び/またはテルミサルタンのアンモニウム塩と溶媒とを混合し第二溶液を調製する。通常、下記の調製条件にて混合することで、容易に溶液を調製することができるが、前記テルミサルタン及び/またはテルミサルタンのアンモニウム塩がテルミサルタンを含む場合、テルミサルタンは溶媒に対する溶解度が低いため、テルミサルタンの含有量によっては溶解せずに懸濁液となる場合がある。その場合、当該懸濁液にアンモニアを加え、テルミサルタンのアンモニウム塩へと変換し、溶解させる必要がある。その際のアンモニアの使用量は、テルミサルタン1モルに対して、1.0〜5.0モルであり、テルミサルタンの含有量によって適宜決定すれば良い。なお、テルミサルタンの含有量は、赤外吸収スペクトルやX線回折スペクトル等を測定することにより算出することができる。なお、当然のことながら、使用するアンモニアは、(精製工程における第一溶液の調製)の項目で説明したものと同じものを使用することが好ましい。
【0034】
第二溶液の調製操作における反応容器として、ガラス容器、ステンレス容器、テフロン(商標登録)製容器、グラスライニング容器などが使用でき、当該反応容器には、温度計や温度センサーを装着することが好ましい。このような反応容器内でメカニカルスターラー、マグネティックスターラー等で撹拌することによって行うことが好ましく、大規模な生産をする場合には撹拌羽根等で攪拌することが好ましい。
【0035】
当該調製操作を実施する温度は、0〜80℃の温度範囲の中から、溶媒の沸点などを考慮し適宜決定すればよい。これらの温度範囲の中でも、溶解に要する時間を短縮できることから、10〜80℃が好ましく、20〜80℃がさらに好ましい。また、当該調製操作を実施する時間は、通常、0.01〜5時間で十分である。
【0036】
(((中和工程)))
本発明において、当該中和工程は、テルミサルタンのアンモニウム塩及び酢酸エチルを含む溶液(第二溶液)と酢酸とを混合してテルミサルタンのアンモニウム塩を中和することによりテルミサルタンを得る工程である。具体的には、前記溶液調製工程で得られた第二溶液と酢酸とを混合してテルミサルタンのアンモニウム塩を中和することによりテルミサルタンを得る態様が好ましい態様として挙げられる。
【0037】
(第二溶液における酢酸エチルの量の調整)
本発明において、前記の方法により調製された、第二溶液における酢酸エチルの量が、テルミサルタンのアンモニウム塩1モルに対して7.0モル以下であることが最大の特徴である。7.0モル以下であれば、テルミサルタンの酢酸エチルの含有量を、2000ppm以下に制御することができる。また、前記第二溶液における酢酸エチルの量と、テルミサルタンの酢酸エチルの含有量とは、相関関係にあるため、前記第二溶液における酢酸エチルの量によって、テルミサルタンに酢酸エチルの含有量を制御することができる。具体的には、前記第二溶液における酢酸エチルの量が、前記範囲の中でも、5.8モル以下であれば、テルミサルタンの酢酸エチルの含有量を1500ppm以下、4.0モル以下であれば1000ppm以下、2.2モル以下であれば500ppm以下、1.2モル以下であれば150ppm以下に制御することができる。
【0038】
第二溶液における酢酸エチルの量の調整方法として、まず、当該酢酸エチルの量を実施例に記載の通り、ガスクロマトグラフィー(GC)により測定を行う。当該酢酸エチルの量が所定の範囲内であれば、特に調整操作等を実施する必要はなく、下記の酢酸との混合による結晶化操作を実施すれば良い。
【0039】
ある程度乾燥させ得られた前記テルミサルタンのアンモニウム塩などから、第二溶液を調製した場合、通常、当該溶液における酢酸エチルの量は所定の範囲内となる。すなわち、前記テルミサルタンのアンモニウム塩の乾燥条件によって、第二溶液における酢酸エチルの量を制御することができる。
【0040】
一方、乾燥させずに得られた前記テルミサルタンのアンモニウム塩の湿体などから、第二溶液を調製した場合、通常、当該溶液における酢酸エチルの量は所定の範囲外となる。そのような場合、次のような方法により酢酸エチルの量を調整すればよい。すなわち、第二溶液における酢酸エチルの量が、前記範囲内となるまで、当該溶液から酢酸エチルを留去すれば良い。
【0041】
留去操作を実施する温度は、10〜120℃であり、溶媒の沸点などを考慮して適宜決定すれば良いが、酢酸エチルの除去効率を考慮すると、20〜120℃が好ましく、30〜120℃がさらに好ましい。また、常圧下、窒素通気下または減圧下で実施することができるが、同様に除去効率を考慮すると、減圧下で実施することが好ましい。留去操作を実施する時間は、前記溶液の量、当該溶液における酢酸エチルの量を測定して、前記の範囲内となるまで継続すればよく、通常、0.1〜40時間である。
【0042】
このようにして留去した後、テルミサルタンのアンモニウム塩が析出し懸濁液となった場合、酢酸エチル以外のメタノールまたはエタノールを、テルミサルタンのアンモニウム塩が溶解するまで追加する必要がある。また、留去条件によっては、テルミサルタンのアンモニウム塩の一部または全部が、テルミサルタンへと変換される場合もあるが、その場合はアンモニアを追加しテルミサルタンのアンモニウム塩とし溶解させる必要がある。一方、テルミサルタンのアンモニウム塩が析出せず溶液であれば、メタノールまたはエタノールを追加しても良いし、しなくても良い。
【0043】
なお、当該留去操作を実施する場合、第二溶液の溶媒として、メタノールであることがより好ましい。なぜなら、メタノールは酢酸エチルと共沸混合物を形成するため、エタノールを使用する場合に比べて、酢酸エチルの留去効率が高いためである。
【0044】
ただし、第二溶液から酢酸エチル量を調整する方法において、酢酸エチル含有量が多く、溶媒を留去する場合には、アモルファス体を製造することがないという点で優れているが、上記の通り、酢酸エチル以外の溶媒も留去する必要がある。そのため、操作性・経済性を考慮すると、テルミサルタンのアンモニウム塩1モルに対して酢酸エチルの含有量が0.01モル以上7.0モル以下である混合物と、前記の第二溶液をなす溶媒(メタノールまたはエタノール)と混合して、第二溶液とすることが好ましい。
【0045】
(酢酸)
本発明において、酢酸は、テルミサルタンのアンモニウム塩を中和するのに使用される。当該酢酸の使用量は、テルミサルタンのアンモニウム塩1モルに対して、0.1〜20.0モルである。この範囲の酢酸を使用すれば、通常、テルミサルタンのアンモニウム塩が中和され、テルミサルタンが結晶化する。これらの範囲の中でも、精製効率と回収率を考慮すると、0.3〜15.0モルが好ましく、0.5〜12.0モルがさらに好ましい。ただし、第二溶液において、テルミサルタンと塩形成していないアンモニアが混在する場合は、前記の使用量の範囲は、当該アンモニアの量に応じて変わる。具体的には、第二溶液において、1.0モルのアンモニアが混在する場合、前記の範囲は1.0モルずつ多い範囲となり、1.1〜21.0モル、1.3〜16.0モル、1.5〜13.0モルとなる。なお、酢酸を容器内へ投入する方法は、特に制限されるものではなく、定量ポンプ、滴下ロート等を用いて直接添加すればよい。また、メタノールまたはエタノールの使用量を満たす範囲であれば、酢酸をメタノールまたはエタノールで希釈した溶液の形態で添加しても良い。
【0046】
(中和工程の条件)
前記中和操作を実施する温度は、0〜80℃の温度範囲の中から、溶媒の沸点などを考慮し適宜決定すればよく、第二溶液を調製する温度と同一であっても良く、変更しても良い。これらの温度範囲の中でも、結晶化したテルミサルタンの粒径が大きくなり、濾過性などの操作性に優れるとの理由から、20〜80℃が好ましく、40〜80℃がさらに好ましい。また、中和操作によりテルミサルタンが結晶化した後、前記の温度範囲内で冷却し熟成することによって、回収率を向上させることができる。なお、前記中和操作を実施する時間は、通常、0.1〜40時間で十分であり、この範囲であればテルミサルタンのアンモニウム塩が十分に中和することができる。
【0047】
本発明において、前記のようにして結晶化させたテルミサルタンを固液分離する方法は特に制限されること無く、公知の方法で実施すれば良く、例えば、減圧濾過や加圧濾過、遠心分離などが挙げられる。固液分離して得られたテルミサルタンは、メタノールエタノール、またはこれらの混合物を用いて洗浄することによって、結晶に含まれる母液を十分に取り除くことが好ましい。洗浄を実施しない場合、テルミサルタンに母液が残存し、酢酸エチルの含有量が増加する場合がある。ここで、洗浄に使用する溶媒の量は、溶媒の種類によって適宜決定すれば良いが、通常、テルミサルタン1gに対して0.5〜20mLである。
【0048】
本発明において、前記のように固液分離して得られたテルミサルタンの湿体を乾燥させる。その方法は、特に制限されること無く、公知の乾燥機を使用して乾燥させれば良く、例えば、棚段乾燥機やコニカルドライヤーなどを使用することができる。また、窒素通気下または減圧下で乾燥させることが好ましく、乾燥にかかる時間などを考慮すると、減圧下で乾燥させることがより好ましい。乾燥を実施する温度は、通常、20〜120℃であり、溶媒の除去効率を考慮すると、30〜120℃であることが好ましく、40〜120℃であることがさらに好ましい。乾燥を実施する時間は、テルミサルタンに残留する溶媒の量を測定して、所望の量となるまで継続すればよく、通常、0.1〜60時間である。
【0049】
本発明の方法によれば、テルミサルタンのアンモニウム塩及び酢酸エチルを含む溶液と酢酸とを混合して前記テルミサルタンのアンモニウム塩を中和することにより前記テルミサルタンを得る中和工程を含む前記テルミサルタンの製造方法において、生産性よく、テルミサルタンに含有する酢酸エチルの量を高度に制御することができ、結果として、酢酸エチルの含有量が低減されたテルミサルタンを製造することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何等制限されることはない。
なお、実施例、比較例の試料における酢酸エチル量、テルミサルタン及びテルミサルタンのアンモニウム塩の純度の測定は、下記の通り実施した。
【0051】
(酢酸エチル量の測定)
第二溶液及びテルミサルタンに含まれる酢酸エチル量は、ガスクロマトグラフィー(GC)により測定した。GC測定に使用した装置、測定の条件は下記のとおりである。
装置:ガスクロマトグラフ装置(Agilent Technologies, Inc.製)
検出器:水素炎イオン化検出器(Agilent Technologies, Inc.製)
カラム:内径0.32mm、長さ30mのフューズドシリカ管の内面にガスクロマトグラフィー用ポリエチレングリコールを厚さ1.8μmで被覆したキャピラリーカラム
カラム温度:40℃付近の一定温度で注入し、40℃付近で4分間維持した後、毎分10℃で220℃まで昇温し8分間維持した。
注入口温度:200℃
検出器温度:220℃
キャリヤーガス:ヘリウム
カラム圧力:50kPa
以下の実施例、比較例において、第二溶液における酢酸エチル量は、当該測定により得られた酢酸エチルのピーク面積値から、検量線法により第二溶液の質量に対する酢酸エチルの質量の割合を算出し、さらに第二溶液の質量から酢酸エチルの質量(モル数)を算出した。一方、テルミサルタンの酢酸エチルの含有量は、当該測定により得られた酢酸エチルのピーク面積値から、検量線法によりテルミサルタン質量に対する酢酸エチルの質量の割合を百万分率として算出した。また、当該評価における検出限界は25ppm未満であった。
【0052】
(テルミサルタン及びテルミサルタンのアンモニウム塩の純度の測定)
テルミサルタンの純度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定した。HPLC測定に使用した装置、測定の条件は下記の通りである。
装置:液体クロマトグラフ装置(Waters Corporation製)
検出器:紫外吸光光度計(Waters Corporation製)
測定波長:230nm
カラム:内径4.0mm、長さ12.5cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルが充填されたもの
移動相A:りん酸二水素ナトリウム2.0g及び1−ペンタンスルホン酸ナトリウム3.8gを水1000mLに添加し溶解させた後、りん酸を加えてpH3.0に調整した混合液
移動相B:アセトニトリル800mLに、メタノール200mLを加えた混合液
移動相の送液:移動相A及びBの混合比を表1のように変えて濃度勾配制御する。
流量:毎分1.0mL
カラム温度:40℃付近の一定温度
測定時間:32分
該条件によるHPLC分析では、テルミサルタン及びテルミサルタンのアンモニウム塩の保持時間は14.6分付近である。以下の実施例、比較例において、テルミサルタンの純度は、該条件で測定される全ピーク(溶媒由来のピークを除く)の面積値の合計に対するテルミサルタンのピーク面積値の割合である。また、当該評価における検出限界は0.003%未満であった。
【0053】
【表1】
【0054】
実施例1
(精製工程)
攪拌翼、温度計を取り付けた1Lの四つ口フラスコに、テルミサルタン60.0g(117mmol)、エタノール60mL、水300mL、酢酸エチル300mLを加え撹拌した。続いて、25%アンモニア水35.7g(525mmol)を加え、25℃付近で10分間攪拌し、テルミサルタンのアンモニウム塩の溶液(第一溶液)を得た。続いて、種晶としてテルミサルタンのアンモニウム塩120mgを加え、25℃付近で撹拌したところ、徐々にテルミサルタンアンモニウム塩が析出した。25℃付近で1時間攪拌した後、減圧濾過により析出した結晶を濾別し、水120mLにより、濾別した結晶を洗浄した。さらに、酢酸エチル120mLにより、濾別した結晶を洗浄し、テルミサルタンのアンモニウム塩の湿体135gを得た。当該テルミサルタンのアンモニウム塩の湿体を20℃で2時間減圧乾燥し、テルミサルタンのアンモニウム塩の純分として、57.7g(109mmol)を含む、テルミサルタンのアンモニウム塩の湿体113gを得た。
(溶液調製工程、中和工程)
攪拌翼、温度計を取り付けた1Lの四つ口フラスコに、得られたテルミサルタンのアンモニウム塩の湿体113gとメタノール770mLを加え25℃付近で撹拌したところ、テルミサルタンのアンモニウム塩の全量が溶解した。得られた溶液における酢酸エチル量を測定したところ、55.4g(629mmol)であり、テルミサルタンアンモニウム塩1モルに対して5.8モルであった。続いて、得られた溶液を60℃付近まで加熱し、酢酸37.3g(621mmol)を少しずつ加えたところ、徐々にテルミサルタンが析出した。60℃付近で1時間撹拌した後、5℃付近まで冷却し、さらに、1時間撹拌した。続いて、減圧濾過により析出した結晶を濾別し、メタノール60mLにより、濾別した結晶を洗浄し、テルミサルタンの湿体を得た。得られたテルミサルタンの湿体を80℃で20時間減圧乾燥し、テルミサルタン51.5g(100mmol)を得た。得られたテルミサルタンの酢酸エチルの含有量を測定したところ、1489ppmであり、純度は99.93%であった。テルミサルタンを基準とした収率は85.8%であった。その結果を表2に示した。
【0055】
実施例2〜10
実施例1において、精製工程における、テルミサルタンのアンモニウム塩の湿体の乾燥温度及び時間、中和工程における、溶媒の種類及び使用量、中和条件を変更した以外は同様にして実施した。その結果を表2に示した。
【0056】
【表2】
【0057】
実施例11
(溶液調製工程、中和工程)
攪拌翼、温度計を取り付けた1Lの四つ口フラスコに、実施例1の精製工程において、乾燥を実施しなかったこと以外は同様にして得られたテルミサルタンのアンモニウム塩の湿体135gとメタノール655mLを加え25℃付近で撹拌したところ、テルミサルタンのアンモニウム塩の全量が溶解した。得られた溶液を30〜40℃で減圧下、メタノール600mLを留去した。得られた残渣にメタノール600mLを加え撹拌したところ、残渣の全量が溶解した。得られた溶液における酢酸エチル量を測定したところ、7.5g(85.6mmol)であり、テルミサルタンアンモニウム塩1モルに対して0.8モルであった。続いて、得られた溶液を60℃付近まで加熱し、酢酸37.3g(621mmol)とメタノール115mLとの混合物を少しずつ加えたところ、徐々にテルミサルタンが析出した。60℃付近で1時間撹拌した後、5℃付近まで冷却し、さらに、1時間撹拌した。続いて、減圧濾過により析出した結晶を濾別し、メタノール60mLにより、濾別した結晶を洗浄し、テルミサルタンの湿体を得た。得られたテルミサルタンの湿体を80℃で20時間減圧乾燥し、テルミサルタンの52.0g(101mmol)を得た。得られたテルミサルタンの酢酸エチルの含有量を測定したところ、121ppmであり、純度は99.93%であった。テルミサルタンを基準とした収率は86.7%であった。
【0058】
比較例1
(溶液調製工程、中和工程)
攪拌翼、温度計を取り付けた1Lの四つ口フラスコに、実施例1の精製工程において、乾燥を実施しなかったこと以外は同様にして得られたテルミサルタンのアンモニウム塩の湿体135gとメタノール770mLを加え25℃付近で撹拌したところ、テルミサルタンのアンモニウム塩の全量が溶解した。得られた溶液における酢酸エチル量を測定したところ、74.3g(844mmol)であり、テルミサルタンアンモニウム塩1モルに対して7.8モルであった。続いて、得られた溶液を60℃付近まで加熱し、酢酸37.3g(621mmol)を少しずつ加えたところ、徐々にテルミサルタンが析出した。60℃付近で1時間撹拌した後、5℃付近まで冷却し、さらに、1時間撹拌した。続いて、減圧濾過により析出した結晶を濾別し、メタノール60mLにより、濾別した結晶を洗浄し、テルミサルタンの湿体を得た。得られたテルミサルタンの湿体を80℃で20時間減圧乾燥し、テルミサルタンの乾体49.7g(96.5mmol)を得た。得られたテルミサルタンの乾体に含まれる酢酸エチル量を測定したところ、2200ppmであり、純度は99.92%であった。テルミサルタンを基準とした収率は82.8%であった。
【0059】
比較例2
(精製工程)
実施例1において、20℃で42時間減圧乾燥したこと以外は同様にして、テルミサルタンのアンモニウム塩の純分として、55.9g(109mmol)を含む、テルミサルタンの湿体56.0gを得た。
(溶液調製工程、中和工程)
攪拌翼、温度計を取り付けた1Lの四つ口フラスコに、得られたテルミサルタンのアンモニウム塩の湿体56.0gとメタノール770mLを加え25℃付近で撹拌したところ、テルミサルタンは溶解せずに懸濁液が得られた。得られた懸濁液に、アンモニア2.2g(130mmol)を含む25%アンモニア水8.9gを加え25℃付近で撹拌したところ、テルミサルタンの全量が溶解した。得られた溶液における酢酸エチル量を測定したところ、0.038g(0.43mmol)であり、テルミサルタンアンモニウム塩1モルに対して0.004モルであった。続いて、得られた溶液を60℃付近まで加熱し、酢酸37.3g(621mmol)を少しずつ加えたところ、徐々にテルミサルタンが析出した。60℃付近で1時間撹拌した後、5℃付近まで冷却し、さらに、1時間撹拌した。続いて、減圧濾過により析出した結晶を濾別し、メタノール60mLにより、濾別した結晶を洗浄し、テルミサルタンの湿体を得た。得られたテルミサルタンの湿体を80℃で20時間減圧乾燥し、テルミサルタンの乾体52.7g(102mmol)を得た。得られたテルミサルタンの乾体に含まれる酢酸エチル量を測定したところ、検出限界以下であり、純度は99.92%であった。テルミサルタンを基準とした収率は87.8%であった。