特許第6285071号(P6285071)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6285071
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】カカオ飲料
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/38 20060101AFI20180215BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20180215BHJP
   A23G 1/00 20060101ALN20180215BHJP
   A23G 1/50 20060101ALN20180215BHJP
【FI】
   A23L2/38 C
   A23L2/00 B
   !A23G1/00
   !A23G1/50
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-177474(P2017-177474)
(22)【出願日】2017年9月15日
(62)【分割の表示】特願2017-96016(P2017-96016)の分割
【原出願日】2017年5月12日
【審査請求日】2017年9月15日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年12月1日株式会社日本百貨店(東京都千代田区神田練塀町8−2CHABARA(ちゃばら))において販売
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006116
【氏名又は名称】森永製菓株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】杉山 和久
(72)【発明者】
【氏名】西村 雅明
(72)【発明者】
【氏名】河岸 丈太郎
【審査官】 中村 勇介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−175963(JP,A)
【文献】 特開2006−121958(JP,A)
【文献】 特開2000−104093(JP,A)
【文献】 特開2001−095490(JP,A)
【文献】 特開平09−075003(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/002243(WO,A1)
【文献】 特開昭51−054957(JP,A)
【文献】 特開平03−094640(JP,A)
【文献】 特開平07−079749(JP,A)
【文献】 特開平08−332063(JP,A)
【文献】 米国特許第06090427(US,A)
【文献】 S Jinap, et al.,Effect of Roasting Time and Temperature on Volatile Component Profiles during Nib Roasting of Cocoa Beans(Theobroma cacao),J Sci Food Agric,1998年,Vol.77,p.441-448
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L2/00−2/40JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カカオ破砕物を飲用溶媒で抽出して得られるカカオ飲料であって、イソバレルアルデヒド2−ペンタノールアセテート、酢酸イソアミル、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、5−メチル−2−フェニル−2−ヘキセナール、ピラジン類、アセトフェノン、リナロールを香気成分として含み、ガスクロマトグラフィー質量分析法により前記カカオ飲料中の香気成分のピーク面積を測定した時の、イソバレルアルデヒドのピーク面積に対する、2−ペンタノールアセテートのピーク面積の倍率が0.1以上、1以下であることを特徴とする、カカオ飲料。
【請求項2】
カカオ破砕物を飲用溶媒で抽出して得られるカカオ飲料であって、
イソバレルアルデヒド、2−ペンタノールアセテート、酢酸イソアミル、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、5−メチル−2−フェニル−2−ヘキセナール、ピラジン類、アセトフェノン、リナロールを香気成分として含み、ガスクロマトグラフィー質量分析法により前記カカオ飲料中の香気成分のピーク面積を測定した時の、イソバレルアルデヒドのピーク面積に対する、酢酸イソアミルのピーク面積の倍率が0.1以上、1以下であることを特徴とする、カカオ飲料。
【請求項3】
カカオ破砕物を飲用溶媒で抽出して得られるカカオ飲料であって、イソバレルアルデヒド、2−ペンタノールアセテート、酢酸イソアミル、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、5−メチル−2−フェニル−2−ヘキセナール、ピラジン類、アセトフェノン、リナロールを香気成分として含み、ガスクロマトグラフィー質量分析法により前記カカオ飲料中の香気成分のピーク面積を測定した時の、イソバレルアルデヒドのピーク面積に対する2−ペンタノールアセテートのピーク面積の倍率、及びイソバレルアルデヒドのピーク面積に対する酢酸イソアミルのピーク面積の倍率が、0.1以上、1以下であることを特徴とする、カカオ飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なカカオ飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
カカオ豆を原料とする、いわゆるカカオ飲料としては、カカオ破砕物をお湯や牛乳に懸濁させた、ココアが一般的である。
このカカオ破砕物は、ココアパウダーと呼ばれ、カカオマスを搾油し、脂肪含有量を10〜24重量%とした、ココアケーキと呼ばれる固形分を破砕することで製造される。
【0003】
その一方で、ココアのような懸濁液とは異なり、カカオ破砕物を溶媒と接触させて抽出し、その抽出液を飲料とする技術が既に知られている(特許文献1、2)。
特許文献1及び2には、カカオ豆を搾油し、脂肪含有量を30重量%以下としたカカオ破砕物を溶媒と接触させることで、抽出液を調製する方法が記載されている。
また、特許文献1には、脂肪含有量が多すぎると、抽出効率を損ねる恐れがあることが記載されている。特許文献2には、脂肪含有量が40%以上であるカカオ豆を細かく破砕すると、ペースト状になり、溶媒による抽出を妨げることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−166539号公報
【特許文献2】特開2003−174859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1及び2に記載の抽出液は、重く、鈍いカカオの香りがして、苦味及び渋味が強く、決して嗜好性の高い飲料とは言えなかった。
【0006】
ところで、カカオ豆を搾油せずに破砕して得たカカオ破砕物を、適当な溶媒で抽出することで得ることができる抽出液が、香気成分を多量に有しており、かつ特徴的な香気成分組成を有していることは、全く知られていなかった。
【0007】
そこで、本発明は、香り高く、嗜好性の高い新規なカカオ飲料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究開発を行った結果、カカオ豆を搾油せずに破砕し、その破砕物を適当な溶媒で抽出することで得られるカカオ飲料が、香り高く、嗜好性の高い飲料であることを見出した。
本発明者らは、さらに鋭意研究を重ね、特定の香気成分組成を有するカカオ飲料が、香り高く、嗜好性の高い飲料であることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、前記課題を解決する本発明は、イソバレルアルデヒド及び2−ペンタノールアセテートを香気成分として含むカカオ飲料であって、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS法)により前記カカオ飲料中の香気成分のピーク面積を測定した時の、イソバレルアルデヒドのピーク面積に対する、2−ペンタノールアセテートのピーク面積の倍率が0.1以上であることを特徴とする。
このような香気成分組成を有するカカオ飲料は、香りに優れており、嗜好性が高い。
【0010】
また、前記課題を解決する本発明は、イソバレルアルデヒド及び酢酸イソアミルを香気成分として含むカカオ飲料であって、ガスクロマトグラフィー質量分析法により前記カカオ飲料中の香気成分のピーク面積を測定した時の、イソバレルアルデヒドのピーク面積に対する、酢酸イソアミルのピーク面積の倍率が0.1以上であることを特徴とする。
このような香気成分組成を有するカカオ飲料は、香りに優れており、嗜好性が高い。
【発明の効果】
【0011】
本発明のカカオ飲料は、香気成分を多量に含んでおり、かつ特徴的な香気成分組成を有しており、嗜好性の高い飲料である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のカカオ飲料の製造スキームである。
図2】本発明のカカオ飲料(左)と、従来技術を用いて製造したカカオ飲料(右)の図面代用写真である。
図3】従来技術を用いて製造したカカオ飲料の沈殿物(左)及び油浮き(右)を示す図面代用写真である。
図4】搾油を行わずに製造したカカオ破砕物、及び搾油を行って製造したカカオ破砕物の香気成分1〜7の機器分析結果を示すグラフである。
図5】本発明のカカオ破砕物を、冷水抽出及び湯抽出して得たカカオ飲料の香気成分1〜9の機器分析結果を示すグラフである。
図6】糖類及びアミノ化合物を加えた後に焙煎を行ったカカオ破砕物を、冷水抽出及び湯抽出して得たカカオ飲料の香気成分1〜9の機器分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、本発明のカカオ破砕物、及びその製造方法の実施形態について、図1を参照して、以下詳述する。
【0014】
(1)カカオニブ準備工程
本発明のカカオ破砕物の主成分であるカカオニブは、常法により製造することができる。
例えば、カカオ豆をプレローストし、外皮(ハスク)を取り除きやすくした後、粗砕して、ハスクを除去する方法が挙げられる。
【0015】
カカオニブは、カカオ豆に含まれる脂肪分をほとんどそのまま含んでおり、その脂肪含有量は、40質量%以上であり、好ましくは50質量%以上である。
【0016】
また、カカオニブは、市販されているものを用いてもよい。
【0017】
(2)焙煎工程
本発明のカカオ破砕物の製造方法は、脂肪含有量が40質量%以上のカカオニブを焙煎する工程を備えることが好ましい。
カカオニブを焙煎することで、香気成分を生成することができ、また、カカオニブを殺菌することができる。
【0018】
焙煎工程は、常法により行うことができる。例えば、熱風ロースターを用いる方法が挙げられる。
焙煎温度は、好ましくは100〜300℃、より好ましくは110〜280℃、さらに好ましくは120〜260℃である。
また、焙煎温度は、段階的に高くすることが好ましい。
【0019】
焙煎時間は、焙煎するカカオニブの量により、常法に従って適宜選択することができる。
【0020】
焙煎は、カカオニブに糖類及び/又はアミノ化合物を加えて行うことが好ましい。
糖類及び/又はアミノ化合物を加えることで、香気成分を多量に有しており、かつ特徴的な香気成分組成を有しており、糖類及び/又はアミノ化合物を加えずに製造したカカオ飲料と比して、風味が異なるカカオ飲料を製造することができる。
【0021】
糖類としては、グルコース、フラクトース、ガラクトース、マンノース、アラビノース及びキシロース等の単糖類、スクロース、ラクトース、マルトース等の二糖類を用いることができる。
また、上記糖類を二種以上組み合わせることも可能である。
糖類としては、還元糖を用いることが好ましい。
【0022】
アミノ化合物として、フェニルアラニン、トレオニン、セリン、グリシン、グルタミン酸、リジン、メチオニン、バリン、ロイシン、スレオニン、アスパラギン、アラギニン及びグルタミン等のアミノ酸、これら2種以上のアミノ酸を含むペプチド並びにタンパク質を用いることができる。
上記アミノ化合物を二種以上組み合わせることも可能である。
【0023】
糖類及びアミノ化合物の組み合わせは、特に限定されないが、例えば、グルコースとセリン、フェニルアラニンとキシロース、フェニルアラニンとグルコース及びトレオニンとキシロース等の組み合わせが挙げられる。
グルコースとセリンを組み合わせることで、カカオ破砕物の匂いにチョコレート感が増し、フェニルアラニンとキシロース、又はフェニルアラニンとグルコースを組み合わせることで、フローラルな香りが付与される。
【0024】
糖類及び/又はアミノ化合物を加えて行う焙煎は、常法により行うことができる。例えば、カカオニブを糖類及び/又はアミノ化合物の水溶液に浸漬させるか、水溶液を振りかけた後に、カカオニブを焙煎する方法が例示できる。
糖類及びアミノ化合物の水溶液中の配合比及びカカオニブへの添加率は、適宜選択することができる。
例えば、単糖及びアミノ酸を加えて焙煎を行う場合には、単糖とアミノ酸とのモル比を2:1〜1:2とすることで、より好ましい香気成分組成を有するカカオニブとすることできる。
【0025】
また、カカオニブの焙煎を行う前に、常法によりアルカリ処理を行ってもよい。
アルカリ処理におけるアルカリの種類、処理時の濃度、処理温度、処理時間等は、任意に定めることができる。例えば、カカオニブに炭酸カリウム等のアルカリ剤2〜4質量%を含む水溶液を加え、70〜100℃で数時間加温及び撹拌する方法が例示できる。
【0026】
焙煎後、室温で冷却する工程を備えてもよい。
【0027】
なお、本発明のカカオ破砕物の製造方法において、上述した焙煎工程を行わずに、カカオニブを次の破砕工程に供しても良い。
【0028】
(3)破砕工程
ここで、従来知られているカカオ破砕物(特許文献1、2)及びココアパウダーの製造方法は、カカオニブを破砕する前に、搾油を行い、カカオニブの脂肪含有量を30質量%以下とする工程を備える。
【0029】
その一方で、本発明のカカオ破砕物の製造方法は、カカオニブを搾油せずに、破砕することを特徴とする。
【0030】
本発明の製造方法によれば、香り高いカカオ破砕物を製造することができる。また、本発明の製造方法により製造されたカカオ破砕物を抽出することで、香気成分を多量に含んでおり、かつ特徴的な香気成分組成を有しているカカオ飲料を製造することができる。
【0031】
カカオニブの破砕は、常法により行うことができ、コーヒーミル、ディスクミル、ストーンミル、ボールミル、ピンミル、インパクトミル及びハンマーミル等の装置を用いることができる。
また、カカオニブの破砕は、切断又は剪断によることが好ましい。
切断又は剪断によることで、カカオ破砕物がペースト状になることを抑制することができる。
【0032】
また、カカオニブの破砕は、凍結破砕であることが好ましい。
凍結破砕を行うことで、カカオ破砕物がペースト状になることを抑制すると共に、保存中のカカオの風味劣化も防ぐことが可能となる。
【0033】
前記凍結破砕を行う場合におけるカカオニブの冷凍は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−20℃以下で行うのが好ましい。
また、液体窒素を利用した瞬間冷凍も可能である。
冷却時間は、冷却するカカオニブの量により、適宜選択することができる。
【0034】
(4)カカオ破砕物
本発明のカカオ破砕物は、上述した方法により製造することができる。
すなわち、本発明のカカオ破砕物は、脂肪含有量を40質量%以上含むカカオニブを主成分とすることを特徴とする。
本発明のカカオ破砕物は、それ自体が香り高いものであり、飲用溶媒で抽出することで、香気成分を多量に含んでおり、かつ特徴的な香気成分組成を有しているカカオ飲料を製造することができる。
【0035】
ここで、本発明において「主成分」とは、含有成分のうち、含有割合が最も多い成分のことをいい、含有成分が1種類の場合には、当該成分を主成分という。
【0036】
本発明のカカオ破砕物は、脂肪含有量が40質量%以上のカカオニブが主成分であれば、任意成分を加えることもできる。
任意成分としては、例えば、砂糖、ブドウ糖、果糖、乳糖、マルトース、パラチノース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、ラフィノーズ等の糖類、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチュロース等の糖アルコール、グルチルリチン、ステビオサイド、レバウディオサイド、甜茶抽出物、甘茶抽出物等の天然甘味料、スクラロース、アステルパーム等の人工甘味料、加糖脱脂練乳、全粉乳及び脱脂粉乳等の乳原料糖が例示できる。
【0037】
また、任意成分としては、ブドウ、アップル、オレンジ、グレープフルーツ、パッションフルーツ、パイナップル、ストロベリー等の果肉及び果物の粉末パウダー、ラベンダー、カモミール、レモンバーム、レモングラス、ローズ及びペパーミント等のハーブ類、バニラ、トウガラシ、シナモン、カルダモン及びジンジャー等のスパイス類、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK及びビタミンB群等のビタミン類、カルシウム、クロム、銅、フッ素、ヨウ素、鉄、マグネシウム、マンガン、リン、セレン、ケイ素、モリブデン及び亜鉛等のミネラル類が例示できる。
さらに任意成分として、増粘多糖類、油脂、蛋白質、アミノ酸、有機酸、乳化剤、分散安定剤、pH調整剤等を添加することもできる。
【0038】
本発明のカカオ破砕物の平均粒子径は、好ましくは0.3〜3mm、より好ましくは0.5〜1mmである。
平均粒子径を前記範囲内とすることで、ペースト状になることを抑制し、かつ抽出効率を高くすることができる。
【0039】
ここで、本発明のカカオ破砕物の平均粒子径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置等により、カカオ破砕物の累積分布を測定し、当該累積分布から導出される平均粒径(D50、メディアン径)のことをいう。
【0040】
本発明のカカオ破砕物は、抽出することで、後述するカカオ飲料を製造することができるが、他の用途に用いることもできる。
【0041】
例えば、本発明のカカオ破砕物は、ココアパウダーに代えて、菓子類に用いることができる。
本発明のカカオ破砕物を用いることで、カカオの香りやカカオニブの食感を加えることができる。
【0042】
また、本発明のカカオ破砕物は、シリアル類及びグラノーラ等の具材、ヨーグルト及びアイス等のトッピングに用いることができる。
【0043】
さらに、本発明のカカオ破砕物は、ポプリ及び匂い袋等の具材とすることができる。
【0044】
次に、本発明のカカオ破砕物を用いた、カカオ飲料の製造方法について説明する。
【0045】
(5)抽出工程
本発明のカカオ飲料は、上述したカカオ破砕物若しくは上述したカカオ破砕物の製造方法により製造されたカカオ破砕物を飲用溶媒で抽出することによって製造することができる。
抽出方法は、特に限定されず、ボイリング式、エスプレッソ式、サイホン式、ペーパードリップ式、ネルドリップ式、カラム式及びティーバッグ式等を用いることができる。
また、家庭内で行う小規模な抽出であっても、工業的に行う大規模な抽出であっても構わない。
抽出後のカカオ飲料には、カカオ破砕物やその微粉が混入しないようにすることが好ましい。
【0046】
飲用溶媒としては、冷溶媒及び温溶媒のいずれであっても構わない。
飲用溶媒の温度は、好ましくは0〜20℃、より好ましくは0〜15℃、さらに好ましくは0〜10℃である。
飲用溶媒の温度を前記範囲内とすることで、より香り高いカカオ飲料を製造することができる。
【0047】
抽出時間は、カカオニブの粒度及び量、溶媒の種類により異なるが、例えば、抽出する飲用溶媒の温度が5℃であって、平均粒子径が0.5〜1mmのカカオニブ10gを、200gの水で抽出する場合における、抽出時間の目安は、4時間以上、好ましくは12〜24時間である。
【0048】
前記飲用溶媒の温度が前記範囲内である場合における抽出方法としては、ティーバッグ式が好ましい。
ティーバッグ式とすることで、前記カカオ破砕物を詰めたティーバッグ等の抽出用バッグを、飲用溶媒と接触させたまま放置することで、カカオ飲料を得ることができる。
【0049】
カカオ破砕物10gに対する、飲用溶媒の使用量は、好ましくは50〜500g、より好ましくは70〜400g、さらに好ましくは100〜300gである。
【0050】
本発明のカカオ飲料の製造方法において、前記飲用溶媒が、水、牛乳、豆乳、酒類及びこれら2種以上の混合液からなる群から選ばれることが好ましい。
飲用溶媒を前記群から選択することによって、嗜好性の高いカカオ飲料を製造することができる。
【0051】
本発明のカカオ飲料の製造方法において、通常飲料に用いられる成分を、任意成分として加えてもよい。
カカオ飲料の任意成分としては、例えば、上述したカカオ破砕物の任意成分を用いることができる。
【0052】
(6)カカオ飲料
本発明のカカオ飲料は、上述したカカオ破砕物を、上述した飲用溶媒を用いて抽出することにより製造することができる。
しかし、本発明のカカオ飲料のような抽出液は、温度、時間、使用量等の抽出条件により、その成分組成が異なるため、成分組成を特定するのは極めて困難である。
そこで、本発明のカカオ飲料として、好ましい成分組成を有するカカオ飲料について以下、説明するが、本発明のカカオ飲料は、これに限られない。
【0053】
カカオが有する香気成分は、数百種類以上あるが、その中でも容易に分析可能であって主要な香気成分としては、イソバレルアルデヒド、2−ペンタノールアセテート、酢酸イソアミル、ベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、アセトフェノン、リナロール、5−メチル−2−フェニル−2−ヘキセナール及びピラジン類等が挙げられる。
【0054】
本発明のカカオ飲料は、上述した香気成分を含む。
カカオ飲料に含まれる前記香気成分の含有量は、以下の表1に示す測定条件における、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS法)により、本発明のカカオ飲料に含まれる香気成分のピーク面積を求めることで測定することができる。
【0055】
【表1】
【0056】
本発明のカカオ飲料は、前記方法により香気成分のピーク面積を測定した時の、イソバレルアルデヒドのピーク面積に対する、2−ペンタノールアセテートのピーク面積の倍率が、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.13以上、さらに好ましくは0.15以上である。
また、前記方法により香気成分のピーク面積を測定した時の、イソバレルアルデヒドのピーク面積に対する、2−ペンタノールアセテートのピーク面積の倍率が、好ましくは1以下、より好ましくは0.7以下、さらに好ましくは0.5以下である。
上記香気成分組成を有するカカオ飲料は、従来のカカオ飲料と比して、香り高く、嗜好性が高い。
【0057】
本発明のカカオ飲料は、前記方法により香気成分のピーク面積を測定した時の、イソバレルアルデヒドのピーク面積に対する、酢酸イソアミルのピーク面積の倍率が、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.15以上、さらに好ましくは0.2以上である。
また、前記方法により香気成分のピーク面積を測定した時の、イソバレルアルデヒドのピーク面積に対する、酢酸イソアミルのピーク面積の倍率が、好ましくは1以下、より好ましくは0.7以下、さらに好ましくは0.5以下である。
上記香気成分組成を有するカカオ飲料は、従来のカカオ飲料と比して、香り高く、嗜好性が高い。
【0058】
本発明のカカオ飲料は、缶及びペットボトル等の容器に充填し、容器詰飲料とすることができる。
【実施例】
【0059】
(試験例1)
脂肪含有量が54.8%のガーナ産カカオニブ200gを、森永製菓株式会社製熱風ロースターを用いて、熱風温度180℃で、10分間焙煎した。
焙煎した前記カカオニブを、−30℃にて冷凍した後、コーヒーミルにて中挽き(平均粒子径(D50):0.65mm)に破砕し、本発明のカカオ破砕物を得た(カカオ破砕物1)。
当該カカオ破砕物10gを、ティーバッグに封入し、前記ティーバッグを200gの常温の水に入れ、5℃の冷蔵庫内で18時間抽出し、本発明のカカオ飲料を得た(実施例1、図2左)。
また、比較のために、森永製菓株式会社製ココアプレス機にかけて、95℃、700Kg/cmのゲージ圧力下で搾油を行い、脂肪含有量を23.40%のカカオニブとした後に破砕(比較カカオ破砕物)した以外は、前記実施例1と同様の方法でカカオ飲料を製造した(比較例1、図2右)。
実施例1及び比較例1について、専門パネラーによる官能検査、並びに香気成分の機器分析(ガスクロマトグラフィー(GC):6890A GCシステム(Agilent社製)、質量分析器(MS):5973質量分析器(Agilent社製))、DHS−TD−GC/MS法)を行った。機器分析における測定条件は、表1に示す通りである。
官能検査の結果を、表2、図2及び図3に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表2に示す通り、カカオ破砕物1は、ティーバッグに封入した時点で、華やかなカカオの香りを感じ、一方で、比較カカオ破砕物は、カカオの重く、鈍い香りを感じた。
この結果から、本発明のカカオ破砕物は、従来の搾油を行い、脂肪含有量が40質量%未満であるカカオ破砕物と比して、香り高いものであることがわかった。
【0062】
また、実施例1の液色は、お茶の様なクリア・シャンパンゴールドであるのに対して(図2左)、比較例1の液色は、薄いコーヒーの様な褐色であり、濁り、沈殿及び表面の油浮きが確認された(図2右、図3)。
【0063】
さらに、実施例1を飲用すると、主に華やかなカカオの香りを感じ、その中に甘い香り、及びナッツ様の香りを感じた。
実施例1は、少しの甘味があり、酸味と苦味のバランスが良く、スッキリ感及びキレのある味がした。
一方で、比較例1を飲用すると、主に重く、鈍いカカオの香りを感じ、その中に土の香り、木の香り、焦げた香り、油の香りを感じた。
比較例1は、苦味、渋味が強く、甘味、キレはなかった。
【0064】
上記官能試験の結果から、本発明のカカオ飲料は、見た目、香り、味の何れをとっても、従来のカカオ飲料と比して、優れていることがわかった。
【0065】
次に、実施例1及び比較例1の香気成分の機器分析結果を、表3及び図4に示す。
【0066】
【表3】
【0067】
表3及び図4から、実施例1は、比較例1と比して、香気成分1〜4、6、7を多量に含んでいることがわかる。
特に、実施例1は、比較例1と比して、香気成分2の2−ペンタノールアセテートを23.5倍、香気成分3の酢酸イソアミルを14.0倍も多く含んでいる。
【0068】
一方で、実施例1は、比較例1と比して、香気成分5のフェニルアセトアルデヒドの含有量が少ないことがわかる。
この結果は、実施例1は、単に香気成分を多量に含むだけではなく、各香気成分の含有割合が比較例1とは異なるため、香り高くなることを示している。
【0069】
(試験例2)
本試験では、上述した本発明のカカオ破砕物において、抽出に用いる溶媒の温度による、香気成分組成への影響を調べた。
カカオ破砕物1と同様の方法によって、カカオ破砕物2を製造した。
カカオ破砕物2をお湯(90℃)によって5分間抽出し、比較例2hのカカオ飲料を得た。
またカカオ破砕物2を冷水(5℃)によって18時間抽出し、実施例2cのカカオ飲料を得た。
比較例2h及び実施例2cについて、専門パネラーによる官能検査、並びに香気成分の機器分析を行った。結果を表4、図5に示す。
【0070】
【表4】
【0071】
比較例2h、実施例2cともに官能検査では香りの高いカカオ飲料が得られた。
【0072】
比較例2hと実施例2cを比較すると、冷水で抽出した実施例2cは、お湯で抽出した比較例2hと比して、味、香り共に優れており、特に飲料にした際の抽出液から発する香りについてはその特徴が際立っていた。
【0073】
表4及び図5から、冷水で抽出した実施例2cのカカオ飲料は、お湯で抽出した比較例2hのカカオ飲料と比して、各香気成分を多量に含む傾向にあることがわかった。
この結果は、本発明のカカオ破砕物を、0〜20℃の冷溶媒で抽出することで、温溶媒での抽出よりも香り高いカカオ飲料を製造することができることを示している。
【0074】
(試験例3)
風味の異なるカカオ飲料の製造を目的に、表5に示す各種糖類及び各種アミノ化合物を水溶液として加えた後にカカオニブを焙煎した以外は、カカオ破砕物1と同様の方法によって、カカオ破砕物3〜6を製造した。各種糖類及び各種アミノ化合物の添加量(カカオニブ1kg当たり)は、以下の通りである。
【0075】
カカオ破砕物3
フェニルアラニン1.2g、キシロース2.3g
カカオ破砕物4
トレオニン0.9g、キシロース2.3g
カカオ破砕物5
セリン0.8g、グルコース2.7g
カカオ破砕物6
フェニルアラニン1.2g、グルコース2.7g
【0076】
カカオ破砕物3〜6をそれぞれお湯(90℃)によって5分間抽出し、比較例3h、4h、5h、及び6hのカカオ飲料を得た。
また、カカオ破砕物3〜6をそれぞれ冷水(5℃)によって18時間抽出し、実施例3c、4c、5c、及び6cのカカオ飲料を得た。
比較例3h〜6h及び実施例3c〜6cについて、専門パネラーによる官能検査、並びに香気成分の機器分析を行った。結果を表5、図6に示す。
【0077】
【表5】
【0078】
比較例3h〜6h及び実施例3c〜6cのカカオ飲料は、いずれも香り高く、それぞれ異なる風味がした。
特に比較例3h、実施例3c、比較例6h及び実施例6cは、ベースのカカオの香りの他にフローラルな香りを強く感じ、比較例4h、実施例4cは、芳ばしい香りを感じ、比較例5h及び実施例5cは、比較例2h及び実施例2cと比して、軽快で華やかなカカオの香りが増していた。
また、比較例3hと実施例3c、比較例4hと実施例4c、比較例5hと実施例5c及び比較例6hと実施例6cをそれぞれ比較すると、比較例2hと実施例2cとを比較した場合と同様に、冷水で抽出した実施例3c〜6cは、お湯で抽出した比較例3h〜6hと比して、味、香り共に優れており、特に飲料にした際の抽出液から発する香りについてはその特徴が際立っていた。
【0079】
表5及び図6から、冷水で抽出した実施例2c〜6cのカカオ飲料は、お湯で抽出した比較例2h〜6hのカカオ飲料と比して、各香気成分を多量に含む傾向にあることがわかった。
この結果からも、本発明のカカオ破砕物を、0〜20℃の冷溶媒で抽出することで、温溶媒で抽出よりも香り高いカカオ飲料を製造することができることがわかる。
【0080】
また、表5及び図6から、糖類及び/又はアミノ化合物を加えて焙煎を行って製造されたカカオ破砕物を抽出することで、糖類及び/又はアミノ化合物を加えずに焙煎を行って製造されたカカオ破砕物を抽出することで得られるカカオ飲料とは、風味の異なる様々なカカオ飲料を製造することができることが示された。
【0081】
次に、実施例1、2c〜6c、比較例2h〜6h並びに比較例1における、イソバレルアルデヒド(香気成分1)と2−ペンタノールアセテート(香気成分2)とのピーク面積比、及びイソバレルアルデヒドと酢酸イソアミル(香気成分3)との面積比を表6に示す。
【0082】
【表6】
【0083】
表6の結果から、本発明のカカオ飲料として、特に優れている実施例1及び2c〜6cは、いずれも、イソバレルアルデヒドのピーク面積に対する、2−ペンタノールアセテート及び酢酸イソアミルのピーク面積の倍率が0.1以上であることが示された。
【0084】
以上の結果から、イソバレルアルデヒド及び2−ペンタノールアセテートを香気成分として含むカカオ飲料であって、ガスクロマトグラフィー質量分析法により前記カカオ飲料中の香気成分のピーク面積を測定した時の、イソバレルアルデヒドのピーク面積に対する、2−ペンタノールアセテートのピーク面積の倍率が0.1以上であるカカオ飲料は、香り高く、嗜好性の高いカカオ飲料であることがわかった。
また、イソバレルアルデヒド及び酢酸イソアミルを香気成分として含むカカオ飲料であって、ガスクロマトグラフィー質量分析法により前記カカオ飲料中の香気成分のピーク面積を測定した時の、イソバレルアルデヒドのピーク面積に対する、酢酸イソアミルのピーク面積の倍率が、0.1以上であるカカオ飲料も、香り高く、嗜好性の高いカカオ飲料であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によれば、嗜好性の高いカカオ製品を提供することができる。

【要約】
【課題】香り高く、嗜好性の高いカカオ製品を提供することを課題とする。
【解決手段】イソバレルアルデヒド及び2−ペンタノールアセテートを香気成分として含むカカオ飲料であって、ガスクロマトグラフィー質量分析法により前記カカオ飲料中の香気成分のピーク面積を測定した時の、イソバレルアルデヒドのピーク面積に対する、2−ペンタノールアセテートのピーク面積の倍率が0.1以上であることを特徴とする、カカオ飲料。
【選択図】図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6