特許第6285076号(P6285076)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6285076酸化物焼結体及び該酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285076
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】酸化物焼結体及び該酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/01 20060101AFI20180215BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   C04B35/01
   C23C14/34 A
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-507614(P2017-507614)
(86)(22)【出願日】2016年2月19日
(86)【国際出願番号】JP2016054839
(87)【国際公開番号】WO2016152349
(87)【国際公開日】20160929
【審査請求日】2017年2月17日
(31)【優先権主張番号】特願2015-59039(P2015-59039)
(32)【優先日】2015年3月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100173901
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 一輝
(72)【発明者】
【氏名】山口 洋平
(72)【発明者】
【氏名】角田 浩二
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/148154(WO,A1)
【文献】 特開2008-163441(JP,A)
【文献】 特開2003-183820(JP,A)
【文献】 特開2015-24944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び不可避的不純物からなる酸化物焼結体であって、前記焼結体に存在するクラックの平均長さが3μm以上、15μm以下であり、In、Ga、Znの原子数比が以下の式を満たし、抗折強度が50MPa以上、バルク抵抗が20.2Ωcm以上100mΩcm以下、焼結体密度が6.31g/cm以上であることを特徴とするIGZO焼結体。
0.314≦In/(In+Ga+Zn)≦0.342
0.314≦Ga/(In+Ga+Zn)≦0.342
0.325≦Zn/(In+Ga+Zn)≦0.364
【請求項2】
前記焼結体に存在するクラックの最大長さが6μm以上、45μm以下であることを特徴とする請求項1記載のIGZO焼結体。
【請求項3】
平均結晶粒径が22μm以下であることを特徴とする請求項1または2記載のIGZO焼結体。
【請求項4】
請求項1、2、および3のいずれか一項に記載のIGZO焼結体からなる平板又は円筒形のスパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、酸素(O)、及び不可避的不純物からなる酸化物(「IGZO」と一般的に称呼されている。必要に応じて、この「IGZO」を用いて説明する)に関し、特に、IGZO焼結体及び該酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、FPD(フラットパネルディスプレイ)において、そのバックプレーンのTFT(薄膜トランジスタ)に、α−Si(アモルファスシリコン)が用いられてきた。しかし、α−Siでは十分な電子移動度が得られず、近年では、α−Siよりも電子移動度が高いIn−Ga−Zn−O系酸化物(IGZO)を用いたTFTの研究開発が行われている。そして、IGZO−TFTを用いた次世代高機能フラットパネルディスプレイが一部実用化され、注目を集めている。
【0003】
IGZO膜は、主として、IGZO焼結体から作製されるターゲットをスパッタリングして成膜される。IGZO焼結体には、In:Ga:Zn=1:1:1(原子数比)の(111)組成からなる焼結体が用いることができる。しかし、この(111)組成からなる焼結体は、結晶粒の成長が速いために、結晶粒径の調整が難しいという問題がある。結晶粒径が大きくなり過ぎると、結晶粒径でクラックが生じやすく、焼結体の強度が著しく低下することになる。
【0004】
特許文献1〜6には、基本的に(111)組成からなるIGZO焼結体において、特有の焼結方法によって、その焼結体の抗折強度を高めることが記載されている。具体的にはマイクロ波加熱炉を用いたり、通常の一般的な抵抗加熱ヒーターを用いた電気炉の場合は焼結時間を1〜2時間と極端に短くしたり等により、結晶粒の成長を抑制して抗折強度を高めるものである。しかし、このマイクロ波加熱は、急速加熱や短時間焼結が可能であるが、局部加熱による加熱ムラが発生したり、また炉の大きさが限定されるために焼結体の寸法も制限されたり等の問題があり、大量生産には不向きである。また、電気炉で焼結時間を極端に短くした場合、結晶粒の成長は抑制できるが、焼結体の表層と内部とで組織が不均一となったり、焼結体に反りや歪みが発生しやすくなったり、著しい歩留まり低下を招く。
【0005】
また、IGZO焼結体は、安定したDCスパッタリングを可能とするために、焼結体のバルク抵抗が十分に低いことが求められる。一般にバルク抵抗が高いとDCスパッタリングが困難となり、また、DCスパッタリングが可能であったとしても、実用的な成膜速度を得るためには大きな電力を投入する必要がある。さらに、バルク抵抗が高いと異常放電が発生する確率も高まり、パーティクルの発生による膜への悪影響やスパッタリングターゲットの割れや亀裂を招くという問題がある。なお、特許文献1〜6には、その実施例にDCスパッタリングによる成膜を実施したとの記載はあるが、焼結体のバルク抵抗に関する具体的な記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−129545号公報
【特許文献2】特開2014−40348号公報
【特許文献3】特開2014−24738号公報
【特許文献4】特開2014−114473号公報
【特許文献5】特開2014−105383号公報
【特許文献6】特開2014−125422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、抗折強度が高く、かつ、バルク抵抗の低いIGZO酸化物焼結体を提供することを課題とする。該焼結体からなるスパッタリングターゲットは、成膜時にターゲットの割れやパーティクルの発生を格段に抑制することができ、良好な薄膜を形成することが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、IGZO焼結体に発生するクラックに着目し、クラックの長さを制御することにより、焼結体(スパッタリングターゲット)の抗折強度を高めることができるとともに、バルク抵抗を低くすることができ、その結果、良好なDCスパッタリングが可能となり、得られる薄膜の品質を向上することができるとの知見を得た。
本発明者らは上記の知見に基づき、下記の発明を提供する。
1)インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び不可避的不純物からなる酸化物焼結体であって、前記焼結体に存在するクラックの平均長さが3μm以上、15μm以下であることを特徴とするIGZO焼結体。
2)前記焼結体に存在するクラックの最大長さが6μm以上、45μm以下であることを特徴とする上記1)記載のIGZO焼結体。
3)抗折強度が50MPa以上、かつ、バルク抵抗が100mΩcm以下であることを特徴とする上記1)又は2)記載のIGZO焼結体。
4)In、Ga、Znの原子数比が、以下の式を満たすことを特徴とする上記1)〜3)のいずれか一に記載のIGZO焼結体。
0.314≦In/(In+Ga+Zn)≦0.342
0.314≦Ga/(In+Ga+Zn)≦0.342
0.325≦Zn/(In+Ga+Zn)≦0.364
5)平均結晶粒径が22μm以下であることを特徴とする上記1)〜4)のいずれか一に記載のIGZO焼結体。
6)焼結体密度が6.10g/cm以上であることを特徴とする上記1)〜5)のいずれか一に記載のIGZO焼結体。
7)上記1)〜6)のいずれか一に記載のIGZO焼結体からなる平板又は円筒形のスパッタリングターゲット。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、酸素(O)、及び不可避的不純物からなるIGZO系の酸化物焼結体において、焼結体に存在するクラックの長さを適切に制御することにより、高い抗折強度と低いバルク抵抗を両立することができ、これにより、パーティクルの発生が少なく、安定したDCスパッタリングが可能となるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】クラック本数と抗折強度の関係を示す図である。
図2】平均クラック長さと抗折強度の関係を示す図である。
図3】最大クラック長さと抗折強度の関係を示す図である。
図4】平均クラック長さとバルク抵抗の関係を示す図である。
図5】最大クラック長さとバルク抵抗の関係を示す図である。
図6】クラック本数及び長さの計測に関する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
IGZO焼結体では、結晶粒界にクラックが生じ易く、これにより、焼結体の強度が著しく低下するという問題があり、焼結体に存在するクラックの本数を低減することが抗折強度の向上につながることが考えられた。しかし、焼結体のクラックの本数と抗折強度との関係をプロットしていくと、図1のように焼結体のクラックの本数と抗折強度とは必ずしも相関せず、クラックの本数が多くても抗折強度が高い場合があった。
【0012】
クラックと抗折強度との関係についてさらに研究を進めたところ、クラックの本数が多くても、その長さが一定範囲に制御されていれば、高い抗折強度を達成できることを見出した。さらに、このクラックの長さの制御は、高い抗折強度と共に低いバルク抵抗をも達成できることを見出した。このような知見に基づき、本発明は、クラックの長さ、特には、その平均長さと最大長さに特徴と有するものである。
【0013】
本発明の焼結体は、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、酸素(O)及び不可避的不純物からなり、焼結体に存在するクラックの平均長さが3μm以上、15μm以下であることを特徴とする。クラックの平均長さが15μmを超えると、焼結体の抗折強度が低下し、一方、クラックの平均長さが3μm未満になると、焼結体のバルク抵抗が高くなるため、好ましくない。
【0014】
また本発明は、焼結体に存在するクラックの最大長さが6μm以上、45μm以下であることが好ましい。クラックの最大長さが45μmを超えると、焼結体の抗折強度が低下し、一方、クラックの最大長さが6μm未満になると、焼結体のバルク抵抗が高くなるため好ましくない。なお、本発明は、クラックの本数については特に制限はなく、クラックの長さが一定の範囲内であれば、高強度かつ低抵抗が得られる。
【0015】
本発明において、クラックの長さは、焼結体(スパッタリングターゲット)の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、SEM画像(視野:90μm×120μm)に存在するクラックの長さを計測し、その長さの平均値及び最大値を求める。具体的には矩形平板ターゲットの場合、ターゲットの中央付近及び四隅の場所から合計5箇所採取してサンプルとし、各サンプルについてターゲット断面の任意の表面について100倍のSEM像を撮影し、撮影した画像上の90μm×120μmの領域内におけるクラックの長さ(及び本数)を計測し、5箇所における平均値と最大値を求める。
【0016】
クラックは、直線状のクラック、折れ線上のクラック、曲線状のクラック及びそれらのクラックが途中から複数に分岐している等の場合がある。分岐のないクラックについては、SEM像上でのそのクラックに沿った全長を計測してクラック長さとする。一方分岐を有するクラックについては、図6に示すようにクラックの端部から1又は2以上の分岐点を経て他の端部へ至る最も長い部分(1に相当)を1本とし、それ以外の部分(2、3に相当)については、それぞれの端部とその分岐点とを結ぶ部分を1本ずつとし、それぞれのクラックについて、分岐がないクラックの場合と同様長さを計測する。
【0017】
本発明の焼結体は、抗折強度が50MPa以上であり、かつ、バルク抵抗が100mΩcm以下であることを特徴とする。抗折強度が50MPa未満であるとスパッタリング中にターゲットに割れが発生することがあり、また、バルク抵抗が100mΩcm超であると、DCスパッタリングが可能な場合であっても、長時間のスパッタ中には異常放電が発生することがあり、場合によってはDCでは放電が起こらず、RFスパッタを用いざるを得ないことがある。
【0018】
また、本発明において、酸化物焼結体のIn、Ga及びZnの原子数比は、以下の式を満たすことが好ましい。
0.314≦In/(In+Ga+Zn)≦0.342
0.314≦Ga/(In+Ga+Zn)≦0.342
0.325≦Zn/(In+Ga+Zn)≦0.364
IGZO焼結体において、(111)組成からZn−richの組成とすることにより高強度かつ安定したDCスパッタリングが可能なバルク抵抗を付与することができる。
なお、原料粉末の配合、混合、焼結等の際に、各成分量が変動することがあり、例えば、目標組成がIn:Ga:Zn=1:1:1の場合、In:Ga:Zn=1±0.02:1±0.02:1±0.02の変動が生じるので、事実上、Zn−richとならない場合があるが、そのこと自体が発明を否定する根拠とならない。
【0019】
本発明の酸化物焼結体は、平均結晶粒径が22μm以下であることが好ましい。平均粒径を上記数値範囲内とすることで機械的強度を高めることができる。平均粒径が22μm超であると、機械的強度が低下して、スパッタリング時に過度な電力が投入された場合、スパッタリングターゲット(焼結体)と該ターゲットをボンディングしているバッキングプレートの熱膨張差によって生じる応力により、焼結体に割れが発生する可能性がある。
【0020】
また、本発明の酸化物焼結体は、焼結体密度が6.10g/cm以上であることが好ましい。本発明の酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして使用した場合、焼結体の高密度化は、スパッタ膜の均一性を高め、また、スパッタリングの際パーティクルの発生を著しく低減することができるという優れた効果を有する。
【0021】
本発明の酸化物焼結体の製造工程の代表例を示すと、次のようになる。
原料として、酸化インジウム(In)、酸化ガリウム(Ga)、及び酸化亜鉛(ZnO)を用意する。不純物による電気特性への悪影響を避けるため、純度4N以上の原料を用いることが望ましい。各々の原料を所定の組成比となるように秤量する。なお、これらの原料には不可避的に含有される不純物が含まれる。
【0022】
次に、酸化物焼結体が所定の組成比となるように、各原料を添加、混合する。このとき混合が不十分であると、ターゲット中の各成分が偏析して、スパッタリング中にアーキング等の異常放電の原因となったり、パーティクル発生の原因となったりするため、混合は十分に行うことが好ましい。さらに、混合粉を微粉砕、造粒することにより、混合粉の成形性及び焼結性を向上させ、高密度の焼結体を得ることができる。混合、粉砕の手段としては、例えば、市販のミキサーやボールミル、ビーズミル等を使用することができ、造粒の手段としては、例えば市販のスプレードライヤーを用いることができる。
【0023】
次に、混合粉末を金型に充填し、面圧400〜1000kgf/cm、1〜3分保持の条件で一軸プレスして、平板状の成形体を得る。面圧400kgf/cm未満であると十分な密度の成形体を得ることができない。また、過度な面圧を加えても成形体の密度はある一定の値以上は向上しにくくなること、及び一軸プレスでは原理的に成形体内に密度分布が生じやすく、焼結時の変形や割れの原因となることから、1000kgf/cm以上の面圧は生産上特に必要とされない。
【0024】
次に、この成型体をビニールで2重に真空パックし、圧力1500〜4000kgf/cm、1〜3分保持の条件でCIP(冷間等方圧加圧法)を施す。圧力1500kgf/cm未満であると、十分なCIPの効果を得ることができず、一方4000kgf/cm以上の圧力を加えても、成形体の密度はある一定の値以上は向上しにくくなるため、4000kgf/cm以上の面圧は生産上特に必要とされない。
【0025】
次に、成形体を温度1250〜1430℃、保持時間10〜24時間、大気雰囲気又は酸素雰囲気で焼結を行う。焼結温度が1250℃よりも低いと、焼結体から酸素が抜けにくくなり、酸素欠陥濃度が低下し、キャリア濃度が低下する(すなわち、バルク抵抗が増加する)ため、好ましくない。一方、焼結温度が1430℃以上であると焼結体中の結晶粒のサイズが大きくなり過ぎて、焼結体の機械的強度を低下させる恐れがある。また、保持時間が10時間未満であると十分な密度の焼結体を得ることができず、保持時間が24時間より長いと、生産コストの観点から好ましくない。特にクラックの長さを制御する上で重要なことは、焼結体の組成との関係で焼結温度を適切に調整することである。さらに、焼結体を最高焼結温度から冷却する際の降温速度は、1℃/min〜3℃/minであることが好ましい。降温速度が遅すぎると、降温過程においても結晶粒の成長が進行して粒径が大きくなりすぎ、IGZOのような層状構造で結晶構造の異方性が大きい焼結体の場合には、クラックの生成を誘発し焼結体強度の低下を招く恐れがある。一方、降温速度が速すぎると、焼結体内外の熱膨張差により焼結体中に大きな残留応力が生じ、焼結体の強度低下や焼結時の割れを招く恐れがある。
【0026】
成形・焼結工程においては、上述した方法以外にも、HP(ホットプレス)やHIP(熱間等方圧加圧法)を用いることができる。以上のようにして得られた焼結体は、研削、研磨などの機械加工によりターゲット形状とすることで、スパッタリングターゲットを作成することができる。なお、酸化物半導体膜の作製に際しては、上記のようにして得られたスパッタリングターゲットを、所定の条件でスパッタリングを実施して成膜し、必要に応じて、この膜を所定の温度でアニールすることで、酸化物半導体膜を得ることができる。
【0027】
本発明において、抗折強度はJIS R1601:2008に準拠して3点曲げ試験で測定する。具体的には、試料全長:40mm±0.1mm、幅:4mm±0.1mm、厚さ:3mm±0.1mm、支点間距離:30mm±0.1mm、クロスヘッドスピード:0.5mm/minとし、10個の試料についての平均値とする。
【0028】
また、平均粒径は矩形平板ターゲットの中央付近及び四隅の場所から合計5箇所採取してサンプルとする。各サンプルについてターゲット断面の任意の表面について300倍のSEM像を撮影し、撮影した画像上に5本の直線を引いて、各直線が結晶粒子と交わる長さをコード長とし、これらコード長の平均値を求め、これに係数1.78を掛けた値を結晶粒径とする。
【0029】
また、焼結体密度はアルキメデス法、バルク抵抗は四探針法により、それぞれ矩形平板ターゲットの中央付近及び四隅の場所から5箇所採取したサンプルの各箇所での測定結果を、測定箇所数で割って平均値として求める。
【実施例】
【0030】
以下、実施例および比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。
【0031】
(実施例1)
In粉、Ga粉、ZnO粉を、焼結体の組成比がIn、Ga及びZnの原子比で1.00:1.00:1.00となるように秤量した後、これらの粉末を湿式で混合・微粉砕し、その後、スプレードライヤーで乾燥・造粒して、混合粉末を得た。次に、この混合粉末を面圧400〜1000kgf/cmで一軸プレスして成形体を得た。次に得られた成形体をビニールで2重に真空パックし、1500〜4000kgf/cmでCIP成型した後、酸素雰囲気中、温度1350℃で15時間焼結し、その後、1.67℃/minで500℃まで降温した後、炉内で放冷した。
【0032】
このようにして得られたIGZO焼結体をSEMで観察したところ、SEM像の90μm×120μm視野中に存在するクラックの平均長さは13.2μmであり、最大長さは41.9μmであった。また、このとき、焼結体の抗折強度は54MPaであり、バルク抵抗は78.2mΩcmと、高強度かつ低抵抗のものが得られた。また、焼結体の平均粒径は21.8μmであり、焼結体密度は6.34g/cmと高密度のものが得られた。以上の結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
(比較例1〜3)
In粉、Ga粉、ZnO粉を、焼結体の組成比がIn、Ga及びZnの原子比で1.00:1.00:1.00となるように秤量した後、これらの粉末を湿式で混合・微粉砕し、その後、スプレードライヤーで乾燥・造粒して、混合粉末を得た。次に、この混合粉末を面圧400〜1000kgf/cmで一軸プレスして成形体を得た。次に得られた成形体をビニールで2重に真空パックし、1500〜4000kgf/cmでCIP成型した後、酸素雰囲気中、温度1430℃(比較例1)、1300℃(比較例2)、1250℃(比較例3)で、15時間焼結し、その後、それぞれ1.67℃/minで500℃まで降温した後、炉内で放冷した。
【0035】
比較例1の条件で得られたIGZO焼結体は、SEM像(視野:90μm×120μm)におけるクラックの平均長さが16.2μm、最大長さが50.8μmと、本発明の要件を満たさず、焼結体の抗折強度が34MPaと低かった。比較例2〜3の条件で得られたIGZO焼結体は、クラックの長さは本発明の要件を満たしており、抗折強度が高いものの、バルク抵抗が100mΩcm超と高い値を示した。
【0036】
(実施例2−4、比較例4)
In粉、Ga粉、ZnO粉を、焼結体の組成比がIn、Ga及びZnの原子比で1.00:1.00:1.01となるように秤量した後、これらの粉末を湿式で混合・微粉砕し、その後、スプレードライヤーで乾燥・造粒して、混合粉末を得た。次に、この混合粉末を面圧400〜1000kgf/cmで一軸プレスして成形体を得た。次に得られた成形体をビニールで2重に真空パックし、1500〜4000kgf/cmでCIP成型した後、酸素雰囲気中、温度1430℃(実施例2)、1350℃(実施例3)、1300℃(実施例4)、1250℃(比較例4)で、15時間焼結し、その後、それぞれ1.67℃/minで500℃まで降温し、その後は炉内で放冷した。
【0037】
実施例2〜4の条件で得られたIGZO焼結体は、SEM像(視野:90μm×120μm)におけるクラックの長さはいずれも本発明の要件を満たしており、いずれも抗折強度が50MPa以上、バルク抵抗が100mΩcm以下と、高強度かつ低抵抗のものが得られた。また、焼結体の平均粒径は22μm以下であり、焼結体密度は6.10g/cm以上と高密度のものが得られた。比較例4の条件で得られたIGZO焼結体は、クラックの長さは本発明の要件を満たしており、抗折強度が高いものの、バルク抵抗が100mΩcm超と高い値を示した。
【0038】
(実施例5−7、比較例5)
In粉、Ga粉、ZnO粉を、焼結体の組成比がIn、Ga及びZnの原子比で1.00:1.00:1.02となるように秤量した後、これらの粉末を湿式で混合・微粉砕し、その後、スプレードライヤーで乾燥・造粒して、混合粉末を得た。次に、この混合粉末を面圧400〜1000kgf/cmで一軸プレスして成形体を得た。次に得られた成形体をビニールで2重に真空パックし、1500〜4000kgf/cmでCIP成型した後、酸素雰囲気中、温度1430℃(実施例5)、1350℃(実施例6)、1300℃(実施例7)、1250℃(比較例5)で、15時間焼結し、その後、それぞれ1.67℃/minで500℃まで降温し、その後は炉内で放冷した。
【0039】
実施例5〜7の条件で得られたIGZO焼結体は、SEM像(視野:90μm×120μm)におけるクラックの長さはいずれも本発明の要件を満たしており、いずれも抗折強度が50MPa以上、バルク抵抗が100mΩcm以下と、高強度かつ低抵抗のものが得られた。また、焼結体の平均粒径は22μm以下であり、焼結体密度は6.10g/cm以上と高密度のものが得られた。比較例5の条件で得られたIGZO焼結体は、クラックの長さは本発明の要件を満たしており、抗折強度が高いものの、バルク抵抗が100mΩcm超と高い値を示した。
【0040】
(実施例8−11、比較例6)
In粉、Ga粉、ZnO粉を、焼結体の組成比がIn、Ga及びZnの原子比で1.00:1.00:1.05となるように秤量した後、これらの粉末を湿式で混合・微粉砕し、その後、スプレードライヤーで乾燥・造粒して、混合粉末を得た。次に、この混合粉末を面圧400〜1000kgf/cmで一軸プレスして成形体を得た。次に得られた成形体をビニールで2重に真空パックし、1500〜4000kgf/cmでCIP成型した後、酸素雰囲気中、温度1430℃(実施例8)、1350℃(実施例9)、1300℃(実施例10)、1275℃(実施例11)、1250℃(比較例6)で、15時間焼結し、その後、それぞれ1.67℃/minで500℃まで降温し、その後は炉内で放冷した。
【0041】
実施例8〜11の条件で得られたIGZO焼結体は、SEM像(視野:90μm×120μm)におけるクラックの長さはいずれも本発明の要件を満たしており、いずれも抗折強度が50MPa以上、バルク抵抗が100mΩcm以下と、高強度かつ低抵抗のものが得られた。また、焼結体の平均粒径は22μm以下であり、焼結体密度は6.10g/cm以上と高密度のものが得られた。比較例6の条件で得られたIGZO焼結体は、クラックの長さは本発明の要件を満たしており、抗折強度が高いものの、バルク抵抗が100mΩcm超と高い値を示した。
【0042】
(実施例12−15、比較例7)
In粉、Ga粉、ZnO粉を、焼結体の組成比がIn、Ga及びZnの原子比で1.00:1.00:1.10となるように秤量した後、これらの粉末を湿式で混合・微粉砕し、その後、スプレードライヤーで乾燥・造粒して、混合粉末を得た。次に、この混合粉末を面圧400〜1000kgf/cmで一軸プレスして成形体を得た。次に得られた成形体をビニールで2重に真空パックし、1500〜4000kgf/cmでCIP成型した後、酸素雰囲気中、温度1430℃(実施例12)、1350℃(実施例13)、1300℃(実施例14)、1275℃(実施例15)、1250℃(比較例7)で、15時間焼結し、その後は、それぞれ1.67℃/minで500℃まで降温し、その後は炉内で放冷した。
【0043】
実施例12〜15の条件で得られたIGZO焼結体は、SEM像(視野:90μm×120μm)におけるクラックの長さはいずれも本発明の要件を満たしており、いずれも抗折強度が50MPa以上、バルク抵抗が100mΩcm以下と、高強度かつ低抵抗のものが得られた。また、焼結体の平均粒径は22μm以下であり、焼結体密度は6.10g/cm以上と高密度のものが得られた。比較例7の条件で得られたIGZO焼結体は、クラックの長さは本発明の要件を満たしており、抗折強度が高いものの、バルク抵抗が100mΩcm超と高い値を示した。
【0044】
(実施例16−19)
In粉、Ga粉、ZnO粉を、焼結体の組成比が、表1に記載されるIn、Ga及びZnの原子比となるように秤量した後、これらの粉末を湿式で混合・微粉砕し、その後、スプレードライヤーで乾燥・造粒して、混合粉末を得た。次に、この混合粉末を面圧400〜1000kgf/cmで一軸プレスして成形体を得た。次に得られた成形体をビニールで2重に真空パックし、1500〜4000kgf/cmでCIP成型した後、大気雰囲気中、温度1350℃(実施例16、18)、1300℃(実施例17、19)で、15時間焼結し、その後、それぞれ1.67℃/minで500℃まで降温し、その後は炉内で放冷した。
【0045】
実施例16〜18の条件で得られたIGZO焼結体は、SEM像(視野:90μm×120μm)におけるクラックの長さはいずれも本発明の要件を満たしており、いずれも抗折強度が50MPa以上、バルク抵抗が100mΩcm以下と、高強度かつ低抵抗のものが得られた。また、焼結体の平均粒径は22μm以下であり、焼結体密度は6.10g/cm以上と高密度のものが得られた。
【0046】
(比較例8、9)
In粉、Ga粉、ZnO粉を、焼結体の組成比が、表1に記載されるIn、Ga及びZnの原子比となるように秤量した後、これらの粉末を湿式で混合・微粉砕し、その後、スプレードライヤーで乾燥・造粒して、混合粉末を得た。次に、この混合粉末を面圧400〜1000kgf/cmで一軸プレスして成形体を得た。次に得られた成形体をビニールで2重に真空パックし、1500〜4000kgf/cmでCIP成型した後、大気雰囲気中、温度1350℃で15時間焼結し、その後、比較例8では0.5℃/minで500℃まで降温し、その後は炉内で放冷した。一方、比較例9では、5℃/minで500℃まで降温し、その後は炉内で放冷した。
【0047】
比較例8の条件で得られたIGZO焼結体は、クラックの長さは本発明の要件を満たさなかった。これは、先述の通り、降温過程においても結晶粒成長が促進されることが原因と考えられる。一方、比較例9の条件で得られたIGZO焼結体は、クラックの長さは本発明の要件を満たすものの、抗折強度が41MPaと低い値となった。これは先述の通り、焼結体内部の残留応力が大きいために強度が低下したと考えられる。
【0048】
上記実施例及び比較例におけるIGZO焼結体について、クラック長さと抗折強度との関係を図2〜3に示す。また、クラックの長さとバルク抵抗との関係を図4〜5に示す。図2〜5に示されるように、クラックの長さを適切に制御することで、抗折強度が50MPa以上、かつ、バルク抵抗が100mΩcm以下の焼結体を作製することができた。
なお、上記実施例及び比較例におけるIGZO焼結体について、クラックの本数を表1に示す。表1に示されるようにクラックの本数が多くても、その長さが制御されていれば、高強度の焼結体が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の酸化物焼結体は、高い抗折強度、さらには、低いバルク抵抗を備えたスパッタリングターゲットとすることができ、このターゲットを使用してDCスパッタリングする場合はターゲットの割れがなく、パーティクルの発生も少ないので、高品質の薄膜を形成することができる。このようなスパッタリングターゲットを用いることで、酸化物半導体膜等を安定的に量産することができるという優れた効果を有する。本発明の酸化物半導体膜は、特にフラットパネルディスプレイやフレキシブルパネルディスプレイなどのバックプレーンにおけるTFTの活性層として特に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6