特許第6285089号(P6285089)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6285089リチウムイオン電池用正極活物質、リチウムイオン電池用正極及びそれを用いたリチウムイオン電池、並びに、リチウムイオン電池用正極活物質前駆体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285089
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用正極活物質、リチウムイオン電池用正極及びそれを用いたリチウムイオン電池、並びに、リチウムイオン電池用正極活物質前駆体
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20180215BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20180215BHJP
【FI】
   H01M4/505
   H01M4/525
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-547446(P2011-547446)
(86)(22)【出願日】2010年12月3日
(86)【国際出願番号】JP2010071723
(87)【国際公開番号】WO2011077932
(87)【国際公開日】20110630
【審査請求日】2013年9月30日
【審判番号】不服2016-6453(P2016-6453/J1)
【審判請求日】2016年4月28日
(31)【優先権主張番号】特願2009-290772(P2009-290772)
(32)【優先日】2009年12月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 隆一
(72)【発明者】
【氏名】川橋 保大
【合議体】
【審判長】 池渕 立
【審判官】 宮本 純
【審判官】 河本 充雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−280723(JP,A)
【文献】 特開2001−110420(JP,A)
【文献】 特開2004−193115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/ 00- 4/ 62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともリチウム及び遷移金属で構成されたリチウム含有遷移金属酸化物であるリチウムイオン電池用正極活物質であって、
前記正極活物質の二次粒子の平均粒径が2〜8μmであり、
前記正極活物質の二次粒子内における主成分の遷移金属の組成ばらつきについて、該遷移金属のバルク状態における組成比に対する、該遷移金属の該粒子内における組成比と該バルク状態における組成比との差の絶対値の割合が、5%以下であり、
前記リチウム含有遷移金属酸化物における遷移金属が、Ni、Mn、Co及びFeよりなる群から選択される2種以上であるリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項2】
比表面積が0.3〜1.8m2/gであり、タップ密度が1.5〜2.1g/mlである請求項1に記載のリチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池用正極活物質を用いたリチウムイオン電池用正極。
【請求項4】
請求項3に記載のリチウムイオン電池用正極を用いたリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用正極活物質、リチウムイオン電池用正極及びそれを用いたリチウムイオン電池、並びに、リチウムイオン電池用正極活物質前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池の正極活物質には、一般にリチウム含有遷移金属酸化物が用いられている。具体的には、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn24)等であり、特性改善(高容量化、サイクル特性、保存特性、内部抵抗低減、充放電特性)や安全性を高めるためにこれらを複合化することが進められている。特に、車載用やロードレベリング用といった大型用途におけるリチウムイオン電池には、これまでの携帯電話用やパソコン用とは異なった特性が求められている。具体的には、車載用では高容量及び低抵抗が、ロードレベリングでは高容量及び長寿命が要求されている。
【0003】
これらの特性を発現させるためには、粉体特性は重要であるが、リチウムイオン電池の正極活物質における主成分である遷移金属とリチウムの分布の均質性が特に重要である。特に、車載用での低抵抗化やロードレベリング用途での長寿命化には組成の均質性が不可欠である。
【0004】
そこで、発明者が所属する株式会社日鉱マテリアルズ(現:JX日鉱日石金属株式会社)の出願に係る特開2005−285572号公報(特許文献1)において、正極活物質前駆体の製造方法として、炭酸リチウム懸濁液にNi、Mn又はCoの塩化物の水溶液を投入し、且つ、得られた炭酸塩を飽和炭酸リチウム溶液又はエタノールで洗浄することにより、全金属に対するLi量のモル比を調整でき、そのばらつきを低減することを見出し、報告した。
【0005】
また、特開2001−110420号公報(特許文献2)には、小結晶の一次粒子の凝集した大きい二次粒子、ならびに原料である炭酸リチウムの粒子の大きさなどについて検討した結果、炭酸リチウムの粒径を制御することにより凝集力が強まり、コバルト酸リチウムの二次粒子表面だけでなく内部まで均一に反応した放電容量やサイクル特性に優れた正極活物質を得ることができることを見出したことが記載されている。そして、そのような正極活物質として、小結晶の一次粒子が凝集した球状あるいは楕円球状の二次粒子からなるコバルト酸リチウムの内部まで組成にばらつきがないよう合成することによって、二次粒子を形成する表面の一次粒子のみならず内部の一次粒子まで電池として利用可能であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質が記載されている。具体的には、コバルト酸リチウムの二次粒子の内部横断面の電子線マイクロアナライザー(EPMA)による分析で、粒子内部の酸素とコバルトのスペクトル強度比O/Coとが3.0±0.5以内であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−285572号公報
【特許文献2】特開2001−110420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、電池の基本特性(容量、効率、負荷特性)を満足しつつ、且つ、低抵抗で寿命特性に優れたリチウムイオン電池を実現する正極活物質としてはなお改善の余地がある。
【0008】
そこで、本発明は、電池の基本特性(容量、効率、負荷特性)を満足しつつ、且つ、低抵抗で寿命特性に優れたリチウムイオン電池を実現するリチウムイオン電池用正極活物質を提供することを課題とする。また、本発明は、前記リチウムイオン電池用正極活物質を用いたリチウムイオン電池用正極及びそれを用いたリチウムイオン電池、並びに、リチウムイオン電池用正極活物質前駆体を提供することをそれぞれ別の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、正極活物質中のLi量以外の均質性にも着目し、鋭意検討した結果、主成分である遷移金属の組成ばらつきを特定の範囲内に制御した正極活物質を用いることで、電池の基本特性(容量、効率、負荷特性)を満足しつつ、且つ、低抵抗で寿命特性に優れたリチウムイオン電池を提供することができることを見出した。
【0010】
上記知見を基礎にして完成した本発明は一側面において、少なくともリチウム及び遷移金属で構成されたリチウム含有遷移金属酸化物であるリチウムイオン電池用正極活物質であって、前記正極活物質の粒子の平均粒径が2〜8μmであり、前記正極活物質の二次粒子内における主成分の遷移金属の組成ばらつきについて、該遷移金属のバルク状態における組成比に対する、該遷移金属の該粒子内における組成比と該バルク状態における組成比との差の絶対値の割合が、5%以下であり、前記リチウム含有遷移金属酸化物における遷移金属が、Ni、Mn、Co及びFeよりなる群から選択される1種又は2種以上であるリチウムイオン電池用正極活物質である。また、本発明は別の一側面において、少なくともリチウム及び遷移金属で構成されたリチウム含有遷移金属酸化物であるリチウムイオン電池用正極活物質であって、前記正極活物質の粒子の平均粒径が2〜8μmであり、前記正極活物質の二次粒子間における主成分の遷移金属の組成ばらつきについて、該遷移金属のバルク状態における組成比に対する、該遷移金属の該粒子間における組成比と該バルク状態における組成比との差の絶対値の割合が、5%以下であり、前記リチウム含有遷移金属酸化物における遷移金属が、Ni、Mn、Co及びFeよりなる群から選択される1種又は2種以上であるリチウムイオン電池用正極活物質である。また、本発明は更に別の一側面において、少なくともリチウム及び遷移金属で構成されたリチウム含有遷移金属酸化物であるリチウムイオン電池用正極活物質であって、前記正極活物質の粒子の平均粒径が2〜8μmであり、前記正極活物質の二次粒子内及び二次粒子間における主成分の遷移金属の組成ばらつきについて、該遷移金属のバルク状態における組成比に対する、該遷移金属の該粒子内及び粒子間における組成比と該バルク状態における組成比との差の絶対値の割合が、5%以下であり、前記リチウム含有遷移金属酸化物における遷移金属が、Ni、Mn、Co及びFeよりなる群から選択される1種又は2種以上であるリチウムイオン電池用正極活物質である。
【0011】
本発明に係るリチウムイオン電池用正極活物質は一実施形態において、前記正極活物質が、リチウム含有遷移金属酸化物である。
【0012】
本発明に係るリチウムイオン電池用正極活物質は別の実施形態において、前記リチウム含有遷移金属酸化物における遷移金属が、Ni、Mn、Co及びFeよりなる群から選択される1種又は2種以上である。
【0013】
本発明に係るリチウムイオン電池用正極活物質は更に別の実施形態において、前記正極活物質の粒子の平均粒径が2〜8μmであり、比表面積が0.3〜1.8m2/gであり、タップ密度が1.5〜2.1g/mlである。
【0014】
本発明は別の一側面において、本発明に係るリチウムイオン電池用正極活物質を用いたリチウムイオン電池用正極である。
【0015】
本発明は更に別の一側面において、本発明に係るリチウムイオン電池用正極を用いたリチウムイオン電池である。
【0016】
本発明は更に別の一側面において、少なくともリチウム及び遷移金属で構成され、一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなるリチウムイオン電池用正極活物質前駆体であって、前記正極活物質前駆体の二次粒子内又は二次粒子間における主成分の遷移金属の組成ばらつきについて、該遷移金属のバルク状態における組成比に対する、該遷移金属の該粒子内又は粒子間領域における組成比と該バルク状態における組成比との差の絶対値の割合が、5%以下であるリチウムイオン電池用正極活物質前駆体である。


【0017】
本発明に係るリチウムイオン電池用正極活物質前駆体は一実施形態において、リチウム及び遷移金属を主成分とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電池の基本特性(容量、効率、負荷特性)を満足しつつ、且つ、低抵抗で寿命特性に優れたリチウムイオン電池を実現するリチウムイオン電池用正極活物質を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(リチウムイオン電池用正極活物質の構成)
本発明の実施形態に係るリチウムイオン電池用正極活物質の材料としては、一般的なリチウムイオン電池用正極用の正極活物質として有用な化合物を広く用いることができるが、特に、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn24)等のリチウム含有遷移金属酸化物を用いるのが好ましい。また、リチウム含有遷移金属酸化物における遷移金属は、Ni、Mn、Co及びFeよりなる群から選択される1種又は2種以上であるのが好ましい。また、リチウム含有遷移金属酸化物における全金属に対するリチウムの比率は、1.0超〜1.3未満であるのが好ましい。1.0以下では、安定した結晶構造を保持しにくく、1.3以上では電池の高容量が確保できなくなるためである。正極活物質の結晶構造は、リチウムの挿入・脱離が可能な構造であれば特に限定されないが、層状構造又はスピネル構造が好ましい。
【0020】
リチウムイオン電池用正極活物質の二次粒子内又は二次粒子間における主成分の遷移金属の組成ばらつきについては、電界放出型電子プローブマイクロアナライザ(FE−EPMA)等の微小領域の定量分析が可能な装置を用いて、二次粒子間あるいは二次粒子内での各元素の含有率を測定し、全金属含有率に対する各元素の含有率比を各元素の組成比とみなし、この組成比のばらつきを指標とする。例えば、Ni、Mn、Co及びFeの各元素の含有率をそれぞれN%、M%、C%及びF%とし、これをそれぞれの原子量で割ってモル換算した数値を、n、m、c、fとすると、Ni組成比(モル比)は、n/(n+m+c+f)×100(%)と示される。
リチウムイオン電池用正極活物質の二次粒子内又は二次粒子間における主成分の遷移金属の組成ばらつきは、ICP等で求められる遷移金属のバルク状態における組成比に対する、遷移金属の粒子内又は粒子間の微小領域における組成比とバルク状態における組成比との差の絶対値の割合で示す。本発明に係る当該組成ばらつきは、5%以下である。組成ばらつきが5%を超えた場合は、寿命特性が劣り、また電池で用いたときの抵抗も大きくなるからである。
【0021】
また、リチウムイオン電池用正極活物質は、その二次粒子の平均粒径が2〜8μmであり、比表面積が0.3〜1.8m2/gであり、タップ密度が1.5〜2.1g/mlであるのが好ましい。これらの範囲をそれぞれ逸脱すると、高容量を確保し難くなるためである。また、より好ましくは、平均粒径が5〜7μmであり、比表面積が0.5〜1.5m2/gであり、タップ密度が1.6〜2.1g/mlである。
【0022】
(リチウムイオン電池用正極及びそれを用いたリチウムイオン電池の構成)
本発明の実施形態に係るリチウムイオン電池用正極は、例えば、上述の構成のリチウムイオン電池用正極活物質と、導電助剤と、バインダーとを混合して調製した正極合剤をアルミニウム箔等からなる集電体の片面または両面に設けた構造を有している。また、本発明の実施形態に係るリチウムイオン電池は、このような構成のリチウムイオン電池用正極を備えている。
【0023】
(リチウムイオン電池用正極活物質前駆体の構成)
本発明の実施形態に係るリチウムイオン電池用正極活物質前駆体は、少なくともリチウム及び遷移金属で構成され、一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなる。リチウムイオン電池用正極活物質前駆体は、リチウムイオン電池用正極活物質の原料であり、リチウムイオン電池用正極活物質と同様に、その二次粒子内又は二次粒子間における主成分の遷移金属の組成ばらつきについて、遷移金属のバルク状態における組成比に対する、遷移金属の粒子内又は粒子間の微小領域における組成比とバルク状態における組成比との差の絶対値の割合が、5%以下となっている。
【0024】
(リチウムイオン電池用正極活物質及びそれを用いたリチウムイオン電池の製造方法)
次に、本発明の実施形態に係るリチウムイオン電池用正極活物質及びそれを用いたリチウムイオン電池の製造方法について説明する。
まず、リチウム化合物が添加された主成分となる遷移金属塩の水溶液に、アルカリ水酸化物又はアルカリ炭酸塩を加えることによりリチウムイオン電池用正極活物質前駆体を調整する。または、アルカリ水酸化物又はアルカリ炭酸塩の溶液もしくは懸濁液に主成分となる遷移金属塩の水溶液を加えることにより、リチウムイオン電池用正極活物質前駆体を調整する。前者の場合、局所的にpHの高い領域ができやすく、組成ばらつきの原因となりやすいので、後者の方が好ましい。
【0025】
添加するリチウム化合物としては、限定的ではないが、炭酸リチウム、水酸化リチウム、酸化リチウム、塩化リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム、炭酸水素リチウム、酢酸リチウム、フッ化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、過酸化リチウムが挙げられる。中でも、取り扱いが容易であること、安価であることの理由から、炭酸リチウムが好ましい。
【0026】
遷移金属(Ni、Mn、Co及びFeのいずれか1種又は2種以上)の塩の水溶液としては、硝酸塩溶液、硫酸塩溶液、塩化物溶液、又は、酢酸塩溶液等を使用することができる。特に、陰イオンの混入の影響を避ける目的で、硝酸塩溶液を用いるのが好ましい。
【0027】
アルカリ水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウム等を用いるのが好ましい。アルカリ炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム及び炭酸リチウム等を用いるのが好ましい。
【0028】
上述の主成分となる遷移金属塩の水溶液の添加速度が、リチウムイオン電池用正極活物質前駆体の粒子内又は粒子間における主成分の遷移金属の組成ばらつきに影響を与える。すなわち、添加速度が速いと局所的な析出が起こり、組成ばらつきを生じやすい。このため、局所的な析出が起こり難いような緩やかな速度で行うのが好ましい。また、マイクロリアクター等を用いて反応を少量ずつ行うことも有効であるし、反応の際に反応槽に超音波振動を与えて原料の分散を促すことも有効である。
【0029】
より具体的には、遷移金属の塩の水溶液の濃度は飽和濃度もしくはそれに近い濃度に調整する。飽和濃度の場合、液温の変化によって析出することもあるため、飽和濃度に近い濃度が好ましい。
アルカリ水酸化物又はアルカリ炭酸塩の溶液もしくは懸濁液は、遷移金属との反応を考慮して濃度を決定する。
添加速度は反応槽の容積により異なるが、例えば容積1m3槽の反応槽を使用し、アルカリ炭酸塩懸濁液300〜400Lに、遷移金属塩の水溶液500〜700Lを添加する場合、遷移金属塩の水溶液の添加速度は2〜5L/分で、より好ましくは3〜4L/分である。添加時間は2〜5時間で、より好ましくは3〜4時間である。
【0030】
次に、得られた正極活物質前駆体を乾燥し、適正条件下で酸化処理(酸化雰囲気中での焼成等)及び粉砕を行うことにより正極活物質の粉体が得られる。また、前述の乾燥工程において、公知の乾燥方法で問題ないが、例えば流動層乾燥のような乾燥粉の凝集を抑えるような手法を用いると、前駆体の粒子がより均一に分散するため好ましい。さらに、前述の焼成工程において、充填時に粉末の接触を促進する手法を用いると、反応が均質に進むため好ましい。また、粉砕においても、公知の粉砕方法で問題はないが、作業にあたっては、水分の影響を避けるために乾燥空気を使用することが望ましい。
【0031】
このようにして得られたリチウムイオン電池用正極活物質を利用し、公知の手段に従い、リチウムイオン電池用正極及びそれを用いたリチウムイオン電池を作製することができる。
このようにして形成されたリチウムイオン電池は、正極活物質において遷移金属の組成ばらつきが抑制されているため、高容量、低抵抗及び長寿命が実現されている。従って、車載用やロードレベリング用といった、これらの特性が要求される大型用途において、特に有用である。
【実施例】
【0032】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0033】
(実施例A)
Ni、Mn及びCoの硝酸塩水溶液と炭酸リチウムとを使用した湿式法によって前駆体である炭酸塩を作製した。前駆体製造時のNi、Mn及びCoの仕込みモル比率はNi:Mn:Co=1:1:1とした。これを乾燥後、酸化処理して、正極材料を作製した。
より具体的には、プロペラ翼付きの攪拌槽内で炭酸リチウムを純水に懸濁し、pH7に調整し、硝酸塩水溶液を導入し、pH4で導入を終了した後、2時間攪拌した。反応時のばらつきを抑えるために、攪拌時は超音波分散を行った。
作製した前駆体は洗浄せずにそのまま乾燥した。乾燥は粒子の固着を防ぐために流動層乾燥機を使用した。乾燥粉の平均粒径は10μmであった。
これをこう鉢に充填して焼成した。充填にあたってはこう鉢に振動を与えて、粉体同士が接触するようにした。焼成は、800℃で10時間、空気中で行った。
焼成後は、粒子同士が衝突して粉砕をする方式の粉砕機によって粉砕した。なお、水分の影響を排除するために、粉砕工程は乾燥空気の環境下で行った。
【0034】
(比較例A)
酸化ニッケル、酸化マンガン及び酸化コバルトの粉末と水酸化リチウムとを用いて湿式混合した後、噴霧乾燥で乾燥粉を作製し、これを酸化処理して、正極材料を作製した。混合時のNi、Mn及びCoの仕込みモル比率はNi:Mn:Co=1:1:1とした。
より具体的には、仕込み比率に合せて秤量した各原料を水による湿式ボールミルで混合した。混合時間は6時間とした。その後、ボールを除去した原料スラリーを噴霧乾燥し、水分を除去して乾燥粉とした。乾燥粉の平均粒径は30μmであった。
乾燥粉をタッピングによりこう鉢に充填し、800℃、10時間、空気中で焼成した。焼成後は、ボールミルで粉砕を行った。
【0035】
いずれの正極材中のLi、Ni、Mn及びCo含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−OES)で測定し、遷移金属の比率は仕込みと同じであることを確認した。(バルク状態の組成比は、Ni、Mn及びCoともモル比で33.3%であった。)
それぞれの正極材料について、二次粒子内及び二次粒子間の各元素の含有量をFE−EPMAにて測定した結果を表1及び2に示す。測定は、二次粒子内の3箇所、及び、二次粒子間の3箇所で行った。含有率はそれぞれモル換算し、組成比として再計算した。組成比は特定元素のモル量と全金属のモル総量との比とした。組成ばらつきは、この組成比とICP−OESで測定したバルクの組成比との差の絶対値をバルクの組成比で割った数値とした。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
また、平均粒径はレーザー回折法による粒度分布における50%径とし、比表面積はBET値を、タップ密度は200回タップ後の密度とした。この正極材料と導電材、バインダーを85:8:7の割合で秤量し、バインダーを有機溶媒(N−メチルピロリドン)に溶解したものに、材料と導電材を混合してスラリー化し、アルミニウム箔上に塗布して乾燥後にプレスして正極とした。対極をLiとした評価用の2032型コインセルを作製し、電解液に1M−LiPF6をEC−DMC(1:1)に溶解したものを用いて、充電条件を4.3V、放電条件を3.0Vで充放電を行った。初期容量と初期効率(放電量/充電量)との確認は、0.1Cでの充放電で確認した。また、抵抗については、充電末期から放電初期の電圧低下から推定した。寿命については、室温で30サイクル後の容量保持率を確認した。これらの結果を表3に示す。
【0039】
【表3】
【0040】
(実施例B)
Ni、Mn及びFeの硝酸塩水溶液と炭酸リチウムとを使用した湿式法によって前駆体である炭酸塩を作製した。前駆体製造時のNi、Mn及びFeの仕込みモル比率はNi:Mn:Fe=6:2:2とした。これを乾燥後、酸化処理して、正極材料を作製した。
より具体的には、プロペラ翼付きの攪拌槽内で炭酸リチウムを純水に懸濁し、pH7に調整し、硝酸塩水溶液を導入し、pH4で導入を終了した後、2時間攪拌した。反応時のばらつきを抑えるために、攪拌時は超音波分散を行った。
作製した前駆体は洗浄せずにそのまま乾燥した。乾燥は粒子の固着を防ぐために流動層乾燥機を使用した。乾燥粉の平均粒径は10μmであった。
これをこう鉢に充填して焼成した。充填にあたってはこう鉢に振動を与えて、粉体同士が接触するようにした。焼成は、800℃で10時間、空気中で行った。
焼成後は、粒子同士が衝突して粉砕をする方式の粉砕機によって粉砕した。なお、水分の影響を排除するために、粉砕工程は乾燥空気の環境下で行った。
(比較例B)
酸化ニッケル、酸化マンガン及び酸化鉄の粉末と水酸化リチウムとを用いて湿式混合した後、噴霧乾燥で乾燥粉を作製し、これを酸化処理して、正極材料を作製した。混合時のNi、Mn及びFeの仕込みモル比率はNi:Mn:Fe=6:2:2とした。
より具体的には、仕込み比率に合せて秤量した各原料を水による湿式ボールミルで混合した。混合時間は6時間とした。その後、ボールを除去した原料スラリーを噴霧乾燥し、水分を除去して乾燥粉とした。乾燥粉の平均粒径は30μmであった。
乾燥粉をタッピングによりこう鉢に充填し、800℃、10時間、空気中で焼成した。焼成後は、ボールミルで粉砕を行った。
いずれの正極材中のLi、Ni、Mn及びFe含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−OES)で測定し、遷移金属の比率は仕込みと同じであることを確認した。(バルク状態の組成比は、Ni、Mn及びFeのモル比でNi:Mn:Fe=6:2:2であった。)
それぞれの正極材料について、二次粒子内及び二次粒子間の各元素の含有量をFE−EPMAにて測定した結果を表4及び5に示す。測定は、二次粒子内の3箇所、及び、二次粒子間の3箇所で行った。含有率はそれぞれモル換算し、組成比として再計算した。組成比は特定元素のモル量と全金属のモル総量との比とした。組成ばらつきは、この組成比とICP−OESで測定したバルクの組成比との差の絶対値をバルクの組成比で割った数値とした。
【表4】
【表5】

また、平均粒径はレーザー回折法による粒度分布における50%径とし、比表面積はBET値を、タップ密度は200回タップ後の密度とした。この正極材料と導電材、バインダーを85:8:7の割合で秤量し、バインダーを有機溶媒(N−メチルピロリドン)に溶解したものに、材料と導電材を混合してスラリー化し、アルミニウム箔上に塗布して乾燥後にプレスして正極とした。対極をLiとした評価用の2032型コインセルを作製し、電解液に1M−LiPF6をEC−DMC(1:1)に溶解したものを用いて、充電条件を4.3V、放電条件を3.0Vで充放電を行った。初期容量と初期効率(放電量/充電量)との確認は、0.1Cでの充放電で確認した。また、抵抗については、充電末期から放電初期の電圧低下から推定した。寿命については、室温で30サイクル後の容量保持率を確認した。これらの結果を表6に示す。
【表6】