(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285216
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】誘導電動機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/16 20060101AFI20180215BHJP
H02K 3/12 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
H02K1/16 A
H02K3/12
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-42369(P2014-42369)
(22)【出願日】2014年3月5日
(65)【公開番号】特開2015-171173(P2015-171173A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2016年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100114487
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【弁理士】
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100117411
【弁理士】
【氏名又は名称】串田 幸一
(72)【発明者】
【氏名】今福 賢明
(72)【発明者】
【氏名】真武 幸三
【審査官】
島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−148533(JP,A)
【文献】
特開昭50−013812(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0214363(US,A1)
【文献】
特開2015−033158(JP,A)
【文献】
特開2013−179759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/16
H02K 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導電動機であって、
軸線方向に略円筒状に延在して形成されるとともに、中央に貫通孔が形成されたステータコアであって、該ステータコアの内面において前記貫通孔に向けて開口する複数のスロットが形成されたステータコアと、
前記スロット内に配置される巻線と
を備え、
前記巻線は、内側のアルミ層と、該アルミ層を被覆する銅層と、を有する銅クラッドアルミ線であり、
前記銅クラッドアルミ線の規格サイズは、前記巻線として銅線が使用される場合と略同等の抵抗値が得られるように選定され、
前記軸線方向に直交する断面において、前記貫通孔を含む前記ステータコアの断面積から前記貫通孔の断面積を減算した面積に対して前記複数のスロットの総断面積が占める割合として定義されるスロット開口率ARは、
前記誘導電動機の極数が2極である場合には、19%≦AR≦21%を満たし、
前記極数が4極以上である場合には、前記極数をpとし、Z1=(−0.026367741+19.212672×p)/(1+0.4384925×p+0.00078600003×p2)としたときに、Z1−2≦AR≦Z1+2を満たす
誘導電動機。
【請求項2】
請求項1に記載の誘導電動機であって、
前記銅クラッドアルミ線に対する前記銅層の割合は、体積比で10%以上かつ20%以下であり、
前記銅クラッドアルミ線に対する前記アルミ層の割合は、体積比で90%以下かつ80%以上である
誘導電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー化に対する社会的要請が高まっており、それは、電動機においても例外ではない。誘導電動機を高効率化する一般的な方法として、誘導電動機の体格を従来製品よりも30〜40%程度大きくする方法が知られている。誘導電動機を大型化することで、例えば、銅損が低減され、その結果、効率が向上する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】経済産業省、「総合資源エネルギー調査会省エネルギー基準部会第1回三相誘導電動機判断基準小委員会」資料4 三相誘導電動機の現状について、平成23年12月13日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、誘導電動機の体格を大型化すると、使用される銅線の量が増加し、電動機重量の増加を招くことになる。さらに、銅線の増加に伴い、巻線の断面積が増加し、抵抗値が低下するので、始動電流が大きくなる(通常、700〜900%)。始動電流が増加すると、電動機の設備容量の大容量化も必要となる。また、上記の要因によって、従来製品と比べてコストが20〜30%程度増加することになる。このようなことから、コスト、電動機重量および始動電流の少なくとも1つの観点から、高効率誘導電動機の改善が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
本発明の第1の形態によれば、誘導電動機が提供される。この誘導電動機は、軸線方向に略円筒状に延在して形成されるとともに、中央に貫通孔が形成されたステータコアであって、該ステータコアの内面において貫通孔に向けて開口する複数のスロットが形成されたステータコアと、スロット内に配置される巻線と、を備える。巻線は、内側のアルミ層と、該アルミ層を被覆する銅層と、を有する銅クラッドアルミ線である。
【0007】
かかる誘導電動機によれば、一般的に使用される銅線よりも安価なアルミを含む銅クラッドアルミ線が巻線に使用されるので、コストを低減できる。また、アルミは、銅と比べて軽量なので、電動機重量を低減できる。さらに、銅クラッドアルミ線は、銅線と比べて単位太さ当たりの抵抗が大きいので、始動電流を低減できる。
【0008】
本発明の第2の形態によれば、第1の形態において、銅クラッドアルミ線の規格サイズは、巻線として銅線が使用される場合と略同等の抵抗値が得られるように選定される。かかる形態によれば、銅線よりも単位太さ当たりの抵抗が大きい銅クラッドアルミ線を使用しても、温度上昇を抑制し、効率を向上させることができる。
【0009】
本発明の第3の形態によれば、第2の形態において、軸線方向に直交する断面において、貫通孔を含むステータコアの断面積から貫通孔の断面積を減算した面積に対して複数の
スロットの総断面積が占める割合として定義されるスロット開口率ARは、誘導電動機の極数が2極である場合には、19%≦AR≦21%を満たし、極数が4極以上である場合には、極数をpとし、Z1=(−0.026367741+19.212672×p)/(1+0.4384925×p+0.00078600003×p
2)としたときに、Z1−2≦AR≦Z1+2を満たす。かかる形態によれば、スロット開口率が従来の高効率誘導電動機よりも20%程度大きい。換言すれば、巻線のサイズを太くした分、スロット開口率を大きくすることによって、巻線のサイズを太くしても、誘導電動機の体格が大型化することがない。また、上記のスロット開口率は、高効率な誘導電動機を提供できる。
【0010】
本発明の第4の形態によれば、第1ないし第3の形態において、銅クラッドアルミ線に対する銅層の割合は、体積比で10%以上かつ20%以下である。銅クラッドアルミ線に対するアルミ層の割合は、体積比で90%以下かつ80%以上である。かかる形態によれば、巻線をスロット内に配置する際にクラックが発生しにくい。したがって、絶縁不良率の増加を抑制できる。しかも、抵抗値がある程度大きくなるので、始動電流を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施例としての誘導電動機の概略断面を示す説明図である。
【
図3】巻線の銅量の割合と、絶縁不良率との関係を示す説明図である。
【
図4】巻線の銅量の割合と、抵抗値および始動電流と、の関係を示す説明図である。
【
図6】スロット開口率と電動機効率との関係を示す説明図である。
【
図7】巻線として使用される銅クラッドアルミ線の規格サイズを例示する図表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の一実施例としての誘導電動機10の回転軸線に直交する断面を示す概略図である。誘導電動機10は、高効率化のために、通常の誘導電動機に対して体格が30〜40%大きく形成された高効率誘導電動機である。図示するように、誘導電動機10は、ロータ20とステータ30と巻線40とを備えている。ステータ30は、軸線方向に略円筒状に延在する形状を有している。ステータ30の中央部には、軸線方向に貫通する貫通孔31が形成されている。この貫通孔31には、ロータ20が収容されている。
【0014】
ステータ30の内面には、貫通孔31に向けて開口する複数のスロット32が周方向に沿って一定のピッチで形成されている。各スロット32の間には、ティース33が形成されている。スロット32の各々には、巻線40が、ティース33に巻き回された状態で配置されている。
【0015】
図2は、巻線40の断面構成を示す。従来、巻線40には、銅線が使用されてきたが、本実施例では、巻線40は、銅クラッドアルミ線である。図示するように、巻線40は、内側のアルミ層41と、アルミ層41の周囲を被覆する銅層42と、を備えている。巻線40に銅クラッドアルミ線が使用されることによって、つまり、巻線40に銅よりも安価なアルミが含まれることによって、銅線を用いる場合に比べて、巻線40のコストが低減される。また、巻線40に銅よりも軽量なアルミが含まれることによって、銅線を用いる場合に比べて、巻線40の重量、しいては、誘導電動機10の重量を低減できる。さらに、銅線よりも単位太さ当たりの抵抗が大きい銅クラッドアルミ線が使用されることによって、銅線を用いる場合に比べて、誘導電動機10の始動電流を低減できる。
【0016】
本実施例では、巻線40として使用される銅クラッドアルミ線の規格サイズは、巻線40として銅線が使用される場合と略同等の抵抗値が得られるように選定される。巻線40に銅クラッドアルミ線を使用することによって、銅線を使用する場合よりも巻線40の抵抗値が大きくなるが、その分、巻線40を太くして、巻線40の総断面積を増加させることによって、温度上昇が抑制される。すなわち、電動機効率の低下が抑制される。実際には、銅クラッドアルミ線の太さは、例えば日本工業規格(JIS)で規定されているので、銅クラッドアルミ線として、巻線40として銅線が使用される場合と同等の抵抗値が得られる太さに最も近い規格サイズの銅クラッドアルミ線が選定される。この意味で、上記では、「同等」ではなく「略同等」と記載している。一例を挙げれば、電動機出力に応じて、
図7に示す銅クラッドアルミ線の規格サイズを選定することができる。
図7から明らかなように、巻線40として使用される銅クラッドアルミ線の規格サイズは、高効率誘導電動機の巻線に従来使用される銅線に比べて、10%程度太くなっている。なお、
図7に示した銅クラッドアルミ線の規格サイズは、1本の巻線を使用する場合であるが、2本以上の巻線が使用されてもよい。例えば、電動機出力が22kWの場合において、1.0mmの1本の銅クラッドアルミ線に代えて、2本の0.7mmの銅クラッドアルミ線が使用されてもよい。かかる構成によっても、銅クラッドアルミ線の巻線全体としての抵抗値は、巻線40として銅線が使用される場合の抵抗値と略同等になる。
【0017】
また、本実施例では、巻線40に対する銅層42の割合は10%(体積比)以上であり、したがって、巻線40に対するアルミ層41の割合は90%(体積比)以下である。さらに、本実施例では、巻線40に対する銅層42の割合は20%(体積比)以下であり、したがって、巻線40に対するアルミ層41の割合は80%(体積比)以上である。かかる巻線40は、銅線と比べて、約50%軽量であり、40〜50%安価である。
【0018】
図3は、巻線40における銅量の割合と、絶縁不良率との関係を示す説明図である。図示するように、銅量が10%を越えると、巻線40をスロット32内に配置する際にクラックが生じやすくなり、その結果、絶縁不良率が急激に高まる。上述したように、巻線40における銅量を10%以上とすることにより、巻線40に銅クラッドアルミ線を採用したことに伴う絶縁不良率の増加を抑制できる。
【0019】
図4は、巻線40における銅量の割合と、巻線40の抵抗値および誘導電動機10の始動電流と、の関係を示す説明図である。図示するように、銅量の割合が増加するほど、巻線40の抵抗値は小さくなる。このため、銅量の割合が増加するほど、誘導電動機10の始動電流は大きくなる。そして、銅量の割合が20%を越えると、始動電流は急激に増加する。上述したように、巻線40における銅量を20%以下とすることにより、誘導電動機10の始動電流を、従来の高効率誘導電動機の始動電流(通常、700〜900%)よりも低い600%以下に抑制することができる。
【0020】
図5は、
図1に示した誘導電動機10のステータ30のみを示す図である。本実施形態では、上述したように巻線40の規格サイズを大きくする一方で、スロット開口率ARが従来の高効率誘導電動機よりも大きく設定される。スロット開口率ARとは、軸線方向に直交する断面(すなわち、
図1に示される断面)において、貫通孔31を含むステータ30の断面積(すなわち、
図5に示される外径ラインOLの内側の面積)から貫通孔31の断面積(すなわち、
図5に示される内径ラインILの内側の面積)を減算した面積に対して複数のスロット32の総断面積が占める割合として定義される。
【0021】
ステータ30の大きさを従来の高効率誘導電動機と同じ大きさに維持することを前提とすれば、スロット開口率ARによって、誘導電動機10の電動機効率が定まる。
図6は、誘導電動機10の極数が4極である場合のスロット開口率ARと電動機効率との関係を示す。図示するように、4極タイプの誘導電動機10では、スロット開口率ARが28%の
ときに電動機効率が最も高くなり、スロット開口率ARが28%から増加または減少するにしたがって、電動機効率は低下する。同様に、電動機効率が最も高くなるスロット開口率ARは、極数が2極の場合には約20%、6極の場合には約32%、8極の場合には約34%、10極の場合には約35%、12極の場合には約36%、14極の場合には約37%となる。これらの式から近似式を得ると、次式(1)の通りとなる。式(1)において、Z1は、電動機最大効率であり、pは極数である。以上から、スロット開口率ARが次式(2)を満たす場合に、好適な電動機効率を得ることができる。
Z1=(−0.026367741+19.212672×p)/(1+0.4384925×p+0.00078600003×p
2) ・・・(1)
Z1−2≦AR≦Z1+2・・・(2)
【0022】
上記式(2)を満たすスロット開口率ARは、従来の高効率誘導電動機の開口率ARよりも5%〜30%程度大きくなる。例えば、従来の高効率誘導電動機の開口率ARの最適点は、2極の場合には約17%、4極の場合には約23%、6極の場合には約27%であるのに対して、本実施例の誘導電動機10の開口率ARの最適点は、2極の場合には約20%、4極の場合には約28%、6極の場合には約32%である。このことは、上述したように巻線40の規格サイズを10%程度太くしても、誘導電動機10のサイズを大きくすることなく高効率が得られることを意味している。なお、2極の場合には、従来よりも10%程度太くした巻線40をスロット32に収容するために、スロット開口率ARは、次式(2)に代えて、次式(3)を満たすように設定される。
19%≦AR≦21%・・・(3)
【0023】
上述した誘導電動機10によれば、巻線40に銅クラッドアルミ線を採用することにより、銅線を巻線40として使用した従来の高効率誘導電動機と比べて、10〜15%のコストダウンを達成できる。また、誘導電動機10によれば、5〜10%程度の軽量化が達成される。また、誘導電動機10によれば、始動電流を、従来の700〜900%から500〜600%程度に低減することができる。特に、誘導電動機10では、銅線よりも単位太さ当たりの抵抗が大きい銅クラッドアルミ線を巻線40に使用する一方で、巻線40の規格サイズを太くすることによって、誘導電動機10の上述した利点と、巻線40の抵抗値が大きくなることに伴う電動機効率の低下と、のトレードオフを解消させている。さらに、誘導電動機10では、スロット開口率ARを大きくすることによって、誘導電動機10の大型化を抑制できる。すなわち、巻線40の規格サイズを太くすることによる利点と、そのことによって誘導電動機10が大きくなることと、のトレードオフを解消させている。以上説明したとおり、誘導電動機10によれば、従来の銅線を巻線に用いる高効率誘導電動機と比べて、同等の電動機効率および大きさを維持しつつ、コスト、電動機重量および始動電流を大幅に改善することができる。なお、誘導電動機10の上述した種々の構成は、それぞれ、単独で採用することもできる。例えば、巻線40に銅クラッドアルミ線を採用し、巻線40の規格サイズおよびスロット開口率ARは、従来通りであってもよい。こうしても、誘導電動機10の上述した種々の効果の一部を奏する。
【0024】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、上記した発明の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、特許請求の範囲および明細書に記載された各構成要素の任意の組み合わせ、または、省略が可能である。
【符号の説明】
【0025】
10…誘導電動機
20…ロータ
30…ステータ
31…貫通孔
32…スロット
33…ティース
40…巻線
41…アルミ層
42…銅層
OL…外径ライン
IL…内径ライン
AR…スロット開口率