特許第6285641号(P6285641)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285641
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】磁気センサ及び磁場成分演算方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/09 20060101AFI20180215BHJP
   H01L 43/08 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   G01R33/09
   H01L43/08 Z
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-100261(P2013-100261)
(22)【出願日】2013年5月10日
(65)【公開番号】特開2014-219350(P2014-219350A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2016年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】四竈 格久
(72)【発明者】
【氏名】片桐 洋次
【審査官】 山崎 仁之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−209224(JP,A)
【文献】 特表2010−521649(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/044162(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/09
H01L 43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の平面に対して任意の軸方向の磁場を検知できるようにした磁気センサにおいて、
前記基板に設けられた第1の感磁部と、該第1の感磁部に併設された第2の感磁部と
前記第1及び第2の感磁部の出力の差分に基づいて前記感磁軸方向の磁場成分に応じた信号を出力する差分演算部とを備え、
前記第1及び第2の感磁部は、無磁場下での電気抵抗が等しく、かつ感磁軸方向が一致で、外部磁場に対する磁気抵抗感度が異なり、
前記第1及び第2の感磁部の厚みが等しく、
平面視したときに、前記第1及び第2の感磁部が矩形で、かつ該第1及び第2の感磁部の長手方向の長さと短手方向の幅の比が等しく、感磁軸方向の長さが異なることを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
前記第1及び第2の感磁部の出力は、
前記第1及び第2の感磁部を定電圧駆動した場合は電流であり、
前記第1及び第2の感磁部を定電流駆動した場合は電圧である
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記第1及び第2の感磁部のどちらか一方にバイアス磁石を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気センサ。
【請求項4】
前記第1及び第2の感磁部のそれぞれにバイアス磁石を備え、かつ前記第1及び第2の感磁部の前記バイアス磁石の個数及び/又は強度が異なることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気センサ。
【請求項5】
基板の平面に対して任意の軸方向の磁場を検知できるようにした磁気センサにおいて、
前記基板に設けられた第1の感磁部と、該第1の感磁部に併設された第2の感磁部と
前記第1及び第2の感磁部の出力の差分に基づいて前記感磁軸方向の磁場成分に応じた信号を出力する差分演算部とを備え、
前記第1及び第2の感磁部は、無磁場下での電気抵抗が等しく、かつ感磁軸方向が反平行でることを特徴とする磁気センサ。
【請求項6】
基板の平面に対して任意の軸方向の磁場を検知できるようにした磁気センサにおける磁場成分演算方法において、
前記基板に設けられた第1の感磁部と、該第1の感磁部に併設された第2の感磁部と
前記第1及び第2の感磁部の出力の差分に基づいて前記感磁軸方向の磁場成分に応じた信号を出力する差分演算部とを備え、
前記第1及び第2の感磁部は、無磁場下での電気抵抗が等しく、かつ感磁軸方向が一致で、外部磁場に対する磁気抵抗感度が異な
前記第1及び第2の感磁部の厚みが等しく、平面視したときに、前記第1及び第2の感磁部が矩形で、かつ該第1及び第2の感磁部の長手方向の長さと短手方向の幅の比が等しく、感磁軸方向の長さが異なることを特徴とする磁場成分演算方法。
【請求項7】
前記第1及び第2の感磁部のどちらか一方にバイアス磁石を備えていることを特徴とする請求項6に記載の磁場成分演算方法。
【請求項8】
前記第1及び第2の感磁部のそれぞれにバイアス磁石を備え、かつ前記第1及び第2の感磁部の前記バイアス磁石の個数及び/又は強度が異なることを特徴とする請求項6に記載の磁場成分演算方法。
【請求項9】
基板の平面に対して任意の軸方向の磁場を検知できるようにした磁気センサにおける磁場成分演算方法において、
前記基板に設けられた第1の感磁部と、該第1の感磁部に併設された第2の感磁部と
前記第1及び第2の感磁部の出力の差分に基づいて前記感磁軸方向の磁場成分に応じた信号を出力する差分演算部とを備え、
無磁場下での電気抵抗が等しく、かつ感磁軸方向が反平行でることを特徴とする磁場成分演算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサ及び磁場成分演算方法に関し、より詳細には、磁気抵抗素子を備え、消費電流の増大を招くことなく、また、温度による影響を最小限に抑えて任意の方向の磁場を検知できるようにした磁気センサ及び磁場成分演算方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に磁気の有無を検出する巨大磁気抵抗(Giant Magnet Resistance;GMR)素子は広く知られている。磁場をかけると電気抵抗率が増加する現象を磁気抵抗効果というが、一般の物質では変化率は数%であるが、このGMR素子では数10%に達することから、ハードディスクのヘッドに広く用いられている。
【0003】
図1は、従来のGMR素子の動作原理を説明するための斜視図で、図2は、図1の部分断面図である。図中符号1は反強磁性層、2はピンド層(固定層)、3はCu層(スペーサ層)、4はフリー層(自由回転層)を示している。磁性材料の磁化の向きで電子のスピン散乱が変わり抵抗が変化する。つまり、ΔR=(RAP−R)R(RAP;上下の磁化の向きが反平行のとき、R;上下の磁化の向きが反平行のとき)で表される。
固定層2の磁気モーメントは、反強磁性層1との磁気結合により方向が固定されている。漏れ磁場により磁化自由回転層4の磁気モーメントの方向が変化すると、Cu層3を流れる電流が変化し、漏れ磁場の変化が読み取れる。
【0004】
図3は、従来のGMR素子の積層構造を説明するための構成図で、図中符号11は絶縁膜、12はフリー層(自由回転層)、13は導電層(伝導層)、14はピンド層(固定層)、15は反強磁性層、16は絶縁膜を示している。
【0005】
フリー層(自由回転層)12は自由に磁化の向きが回転する層で、NiFe又はCoFe/NiFeから構成され、導電層13は電流を流し、スピン散乱が起きる層で、Cuから構成され、ピンド層(固定層)14は磁化の向きが一定方向に固定された層で、CoFe又はCoFe/Ru/CoFeから構成され、反強磁性層15はピンド層14の磁化の向きを固定するための層で、PtMn又はIrMnから構成され、層11,16はTaやCr、NiFeCr、AlOから構成されている。またピンド層は反強磁性層を用いずにセルフバイアス構造を用いても良い。
【0006】
例えば、特許文献1に記載のものは、磁界の方向の影響を受けることが少なく磁界の大きさを精度よく検出できる巨大磁気抵抗素子に関するもので、このGMR素子は、GMRチップ上に対してバイアス磁石とともに設置されている。
また、例えば、特許文献2に記載のものは、方位検出に関して高い感度を有し、小型で量産性にも優れた3軸磁気センサに関するもので、基板表面に平行で互いに直交するように設定した2軸(X、Y軸)方向で地磁気成分を検知する2軸磁気センサ部と、2軸磁気センサ部上に配置され前記2軸を含む面に対して垂直方向(Z軸)の磁界を集める磁性部材とを備えており、磁気感知軸の異なる磁気抵抗素子でブリッジを形成することにより従来よりも少ない素子数で3軸検知センサが実現可能であると提案している。
【0007】
また、例えば、特許文献3に記載のものは、温度の影響を受けることが少なく磁界の大きさを精度よく検出できるトンネル磁気抵抗素子に関するもので、このTMR素子は、チップ上に磁気遮蔽されているものと磁場に対して応答するものそれぞれを有している。
さらに、例えば、特許文献4に記載のものは、検出対象方向に対する前方側からの磁場変化と後方側からの磁場変化とを識別でき、特定方向からの磁場の印加を正確に検出できる磁気検出装置に関するもので、特定方向からの磁場に対して距離の異なる二つの磁気抵抗素子を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012−112689号公報
【特許文献2】特開2012−127788号公報
【特許文献3】特開2001−345498号公報
【特許文献4】特開2012−34835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した特許文献1及び2の磁気センサは、磁気抵抗素子を用いてブリッジを形成し、その中点電位を出力信号として取り出すため、磁気抵抗素子を形成する物質の抵抗値を出力に含んでしまうため外部の温度に対して出力信号が敏感に変動してしまうという問題がある。
また、上述した特許文献3に記載の磁気センサは、GMRチップ上に対して磁気遮蔽されている素子と磁場に対して応答する素子それぞれを有している単軸センサであるが、磁気遮蔽のため磁気収束板を有しているため、磁気収束板の温度特性に応じて出力信号が外部の温度に対して敏感に変動してしまうという問題がある。
【0010】
また、上述した特許文献4に記載の磁気センサは、特定方向からの磁場に対して距離の異なる位置に2つの素子を有しており、それぞれのセンサ出力の差分からある特定方向の磁場のみ高感度に検出し、磁場印加方向を特定する磁気センサであるが、本発明の磁気センサのような2つの素子間の磁気抵抗感度の違いについては何ら開示されていない。
さらに、特許文献4に記載の磁気センサは、弾球遊技機における不正を防止するため、特定方向から磁性体(磁石)が近づけられたことを検知することを目的としたものであり、出力差から磁性体の距離を定量するために、それぞれの感磁部の感度は一致していることを前提にしていると考えられる。
【0011】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、周囲の温度の影響を最小限に抑え、かつ、感磁軸方向の磁場を検知できる単軸の磁気センサ及び磁場成分演算方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、このような目的を達成するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、基板の平面に対して任意の軸方向の磁場を検知できるようにした磁気センサにおいて、前記基板に設けられた第1の感磁部(21,41,51,61)と、該第1の感磁部(21)に併設された第2の感磁部(22,42,52,62)と、前記第1及び第2の感磁部の出力の差分に基づいて前記感磁軸方向の磁場成分に応じた信号を出力する差分演算部とを備え、前記第1及び第2の感磁部(21,41,51,61,22,42,52,62)は、無磁場下での電気抵抗が等しく、かつ感磁軸方向が一致で、外部磁場に対する磁気抵抗感度が異なり、前記第1及び第2の感磁部(21,41,51,61,22,42,52,62)からの出力信号の差分により、前記感磁軸方向の磁場成分に応じた信号を出力し、前記第1及び第2の感磁部(21,22,41,42)の厚み(T)が等しく、平面視したときに、前記第1及び第2の感磁部(21,22,41,42)が矩形で、かつ該第1及び第2の感磁部(21,22,41,42)の長手方向の長さ(L1,L2)と短手方向の幅(W1,W2)の比(W1/L1,W2/L2)が等しく、感磁軸方向の長さ(W1,W2)が異なることを特徴とする。(図4図6図8図10
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記第1及び第2の感磁部の出力は、前記第1及び第2の感磁部を定電圧駆動した場合は電流であり、前記第1及び第2の感磁部を定電流駆動した場合は電圧であることを特徴とする。
【0014】
また、請求項に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記第1及び第2の感磁部(31,32)のどちらか一方にバイアス磁石(33,34)を備えていることを特徴とする。(図7(a))
【0015】
また、請求項に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記第1及び第2の感磁部(31,32)のそれぞれにバイアス磁石(33a乃至33c,34a乃至34c)を備え、かつ前記第1及び第2の感磁部(31,32)の前記バイアス磁石(33a乃至33c,34a乃至34c)の個数及び/又は強度が異なることを特徴とする。(図7(b))
また、請求項に記載の発明は、基板の平面に対して任意の軸方向の磁場を検知できるようにした磁気センサにおいて、前記基板に設けられた第1の感磁部と、該第1の感磁部に併設された第2の感磁部と、前記第1及び第2の感磁部の出力の差分に基づいて前記感磁軸方向の磁場成分に応じた信号を出力する差分演算部とを備え、前記第1及び第2の感磁部は、無磁場下での電気抵抗が等しく、かつ感磁軸方向が反平行でることを特徴とする。
【0016】
た、請求項6に記載の発明は、基板の平面に対して任意の軸方向の磁場を検知できるようにした磁気センサにおける磁場成分演算方法において、前記基板に設けられた第1の感磁部と、該第1の感磁部に併設された第2の感磁部と、前記第1及び第2の感磁部の出力の差分に基づいて前記感磁軸方向の磁場成分に応じた信号を出力する差分演算部とを備え、前記第1及び第2の感磁部は、無磁場下での電気抵抗が等しく、かつ感磁軸方向が一致で、外部磁場に対する磁気抵抗感度が異なり、前記第1及び第2の感磁部の厚みが等しく、平面視したときに、前記第1及び第2の感磁部が矩形で、かつ該第1及び第2の感磁部の長手方向の長さと短手方向の幅の比が等しく、感磁軸方向の長さが異なることを特徴とする。
【0018】
た、請求項に記載の発明は、請求項に記載の発明において、前記第1及び第2の感磁部(31,32)のどちらか一方にバイアス磁石(33,34)を備えていることを特徴とする。
【0019】
また、請求項8に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、前記第1及び第2の感磁部(31,32)のそれぞれにバイアス磁石(33a乃至33c,34a乃至34c)を備え、かつ前記第1及び第2の感磁部(31,32)の前記バイアス磁石(33a乃至33c,34a乃至34c)の個数及び/又は強度が異なることを特徴とする。
また、請求項9に記載の発明は、基板の平面に対して任意の軸方向の磁場を検知できるようにした磁気センサにおける磁場成分演算方法において、前記基板に設けられた第1の感磁部と、該第1の感磁部に併設された第2の感磁部と、前記第1及び第2の感磁部の出力の差分に基づいて前記感磁軸方向の磁場成分に応じた信号を出力する差分演算部とを備え、無磁場下での電気抵抗が等しく、かつ感磁軸方向が反平行でることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、第1及び第2の感磁部からの出力信号の差分により、感磁部の感磁軸方向の磁場成分に応じた信号を出力することができるので、周囲の温度の影響を最小限に抑え、かつ、感磁軸方向の磁場を検知できる単軸の磁気センサ及び磁場成分演算方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】従来のGMR素子の動作原理を説明するための斜視図である。
図2図1の部分断面図である。
図3】従来のGMR素子の積層構造を説明するための構成図である。
図4】本発明に係る磁気センサの実施形態を説明するための構成図である。
図5図4に示した感磁部を説明するための図である。
図6】それぞれ形状が異なる第1の感磁部と第2の感磁部を示す図である。
図7】(a),(b)は、感磁部にバイアス磁石を設けた構成図である。
図8】(a),(b)は、本発明に係る磁気センサの実施例1を説明するための構成図である。
図9】(a),(b)は、図8(a)(b)に示した磁気センサにおいて、感磁軸方向の外部磁場の変化に対する第1及び第2の感磁部の出力の出力変化を示す図である。
図10】(a),(b)は、本発明に係る磁気センサの実施例2を説明するための構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図4は、本発明に係る磁気センサの実施形態を説明するための構成図で、図中符号20は感磁部、21は第1の感磁部、22は第2の感磁部、23が差動演算部を示している。
本発明の磁気センサは、基板の平面に対して任意の軸方向の磁場を検知できるようにした磁気センサである。この磁気センサの感磁部20は、基板に設けられた第1の感磁部21と、この第1の感磁部21に併設された第2の感磁部22とを備えている。つまり、第1の感磁部21と第2の感磁部22とは、基板平面上又は基板内部に設けられている。
【0023】
これらの第1及び第2の感磁部21,22は、無磁場下での電気抵抗が等しく、かつ感磁軸方向が一致しており、外部磁場に対する磁気抵抗感度が異なっている。そして、第1及び第2の感磁部21,22からの出力信号の差分により、差動演算部23を介して感磁軸方向の磁場成分に応じた信号を出力するように構成されている。つまり、第1及び第2の感磁部21,22の出力の差分に基づく信号を出力する差分演算部23を備えている。
【0024】
第1及び第2の感磁部21,22の出力は、感磁部を構成する材料に依存し、外部磁場には依存しない抵抗Rと、外部磁場に応答して変化する抵抗変化量ΔRに基づいた信号を出力する。例えば、感磁部を定電圧駆動する場合は、出力される電流から前記抵抗R+抵抗変化率ΔRを導出することができる。
材料に依存する抵抗Rは、一般的に外部温度に対して敏感であり、例えば、Cuを材料とするGMR素子であれば、室温から100℃までの温度領域で約0.5%程度抵抗Rが変化し得る。それに比べ、外部磁場に対して変化する抵抗変化量ΔRは、外部温度に対して鈍感であり、例えば、GMR素子では、一定磁場下において室温から100℃までの温度領域で約0.01%程度しか抵抗変化量ΔRが変化しない。
【0025】
本発明の磁気センサは、無磁場下で電気抵抗が等しく、外部磁場に対する磁気抵抗感度が異なる第1及び第2の感磁部21,22からの出力信号の差分により、材料に依存する抵抗Rをキャンセルし、抵抗変化量ΔRのみを出力するため、外部温度の影響を最小限に抑え、かつ、感磁軸方向の磁場を検知することを可能になる。
第1及び第2の感磁部21,22の無磁場下での電気抵抗を等しくする方法は特に制限されないが、例えば、それぞれの感磁部の形状を適当な値に設計することで実現可能である。
【0026】
つまり、第1及び第2の感磁部21,22の厚みTが等しく、感磁部20を平面視したときに、第1及び第2の感磁部21,22が矩形で、かつ第1及び第2の感磁部21,22の長手方向の長さL1,L2と短手方向の幅W1,W2の比W1/L1,W2/L2が等しければ、無磁場下での抵抗Rを容易に等しくすることができる。
なお、本発明の磁気センサにおける感磁部20は、特定の方向に感磁軸を有し、感磁部20に入力される外部磁場の大きさに応じて出力信号が変化するものであれば特に制限されない。感磁部20の具体例としては、GMR(巨大磁気抵抗)、TMR(トンネル磁気抵抗)、AMR(異方性磁気抵抗),CMR(超巨大磁気抵抗)、ホール素子が挙げられるがこの限りではない。温度特性の観点からGMRやTMRが好ましく、GMRがより好ましい。
【0027】
図5は、図4に示した感磁部を説明するための図である。抵抗値Rは、感磁部の伝導パスの電流方向Iに対して垂直な面で切断した際の伝導層の(電流パスの)断面積Sに反比例し、伝導パスの電流方向の長さLに比例する。仮想的に感磁部を電流方向に微小区間ΔLの幅で分割したと考え、分割されたそれぞれの要素の電流に垂直な面の断面積をSjで定義する。Sjは、j番目の要素の電流に垂直な面の伝導層の(電流パスの)断面積を表している。
【0028】
この時の抵抗Rは、ΔL/Sjをすべての要素足し合わせた量に比例しており、同一材料も用いた2つの素子であれば、ΔL/Sjをすべての要素足し合わせた量が等しければ抵抗値は等しくなる。
例えば、第1及び第2の感磁部の厚みが等しく、磁気センサを平面視した時に、第1及び第2の感磁部が矩形である場合、この第1及び第2の感磁部の長手方向(電流方向)の長さLと、短手方向(電流方向に垂直方向)の幅Wの比が等しければ、無磁場下での抵抗Rを容易に等しくすることができる。
【0029】
図6は、それぞれ形状が異なる第1の感磁部と第2の感磁部を示す図で、感磁部を平面視したときに、第1及び第2の感磁部51,52,の形状が異なるように構成されている。
第1及び第2の感磁部51,52の厚みTが等しく、第1及び第2の感磁部51,52を平面視した時の第1の感磁部51が円形で、第2の感磁部52が矩形であったとき、図6に示すように、第2の感磁部52の長手方向(電流方向)の長さLと、短手方向(電流方向に垂直方向)の幅Wの比であるL対W(L/W)がπ対2と等しくなるように第1及び第2の感磁部51,52を設計することにより、無磁場下での抵抗Rを容易に等しくすることができる。
【0030】
なお、本発明の磁気センサにおいて、第1及び第2の感磁部の無磁場下での電気抵抗が等しい状態とは、本発明の効果を害さない程度に異なっている状態を含んでおり、例えば、無磁場下での電気抵抗が互いに±1%度程度、好ましくは±0.1%、より好ましくは0.01%相違していてもよい。
また、第1及び第2の感磁部の感磁軸方向を一致させる方法も特に制限されないが、例えば、感磁部の構成を同じ構成にすることで実現可能である。感磁部がGMRの場合、ピンド層の固定磁化の方向をそれぞれ同一方向にする方法が挙げられる。なお、本実施形態の磁気センサにおいて、第1及び第2の感磁部の感磁軸方向が一致している状態とは、平行の他に、本発明の効果を害さない程度に異なっている状態を含んでいる。
【0031】
また、第1及び第2の感磁部の外部磁場に対する磁気抵抗感度を異なるものにする方法は、用いる感磁部の性質に応じて適宜設計すればよいため、特に制限されない。例えば、感磁部としてGMRを用いる場合、第1及び第2の感磁部の電流方向に垂直方向の幅を変えることで実現できる。他の方法としては、例えば、第1及び第2の感磁部の形状を変えることで実現できる。また、ハードバイアス磁石を設置することによって実現することができる。
【0032】
図7(a),(b)は、感磁部にバイアス磁石を設けた構成図で、図7(a)はどちらか一方に感磁部にバイアス磁石を設けた例で、図7(b)は両方の感磁部にバイアス磁石を設けた例を示している。図中符号31は第1の感磁部、32は第2の感磁部、33,33a乃至33c,34,34a乃至34cはハードバイアス磁石を示している。
図7(a),(b)に示すように、ハードバイアス磁石の設置形態としては、例えば、図7(a)のように、第1及び第2の感磁部31,32のどちらか一方にハードバイアス磁石33,34を備える設置形態や、図7(b)のように、第1及び第2の感磁部31,32のハードバイアス磁石33a乃至33c,34a乃至34cの個数及び/又は強度が異なるようにする設置形態が挙げられる。
【0033】
また、図7(a),(b)において、第1及び第2の感磁部31,32の厚みTが等しく、感磁部20を平面視したときに、第1及び第2の感磁部31,32が矩形で、かつ第1及び第2の感磁部31,32の長手方向の長さL1,L2が等しく、短手方向の幅W1,W2が等しいように構成されている。
また、第1及び第2の感磁部の外部磁場に対する磁気抵抗感度を異なるものにする方法は、感磁部としてTMRを用いる場合、第1及び第2の感磁部の厚みを変えることで実現できる。また、磁気抵抗感度は完全一致していなければ特に制限されないが、第1及び第2の感磁部の出力の差分値を大きくし、外部磁場の変化に対する感度を向上させる観点から、第1及び第2の感磁部の外部磁場に対する磁気抵抗感度は大きく異なっていることが好ましい。
【0034】
第1及び第2の感磁部が矩形の場合、磁気センサを平面視したとき、第1及び第2の感磁部の感磁軸方向の長さが異なるように設計することにより、外部磁場に対する磁気抵抗感度を異なるものすることが容易になる。
また、本発明の他の磁気センサは、基板の平面に対して任意の軸方向の磁場を検知できるようにした磁気センサであって、基板に設けられた第1の感磁部と、この第1の感磁部に併設された第2の感磁部とを備え、第1及び第2の感磁部は、無磁場下で電気抵抗が等しく、かつ感磁軸方向は反平行であり、第1及び第2の感磁部からの出力信号の差分により、感磁軸方向の磁場成分に応じた信号を出力する磁気センサである。
【0035】
第1及び第2の感磁部が、無磁場下で電気抵抗が等しく、かつ感磁軸方向は反平行であることにより、感磁部からの出力信号の差分を取ることにより、材料に依存する抵抗Rをキャンセルし、抵抗変化量ΔRのみを出力するため、外部温度の影響を最小限に抑え、かつ、感磁軸方向の磁場を検知することを可能になる。
また、本発明の磁気センサにおいて、第1及び第2の感磁部の出力の差分に基づく信号を出力する差分演算部を備えていることが好ましい。この構成によれば、感磁軸方向の磁場成分に応じた信号を容易に出力することが可能になる。
【0036】
差分演算部23としては、第1及び第2の感磁部の出力の差分に基づく信号を出力するものであれば特に制限されず、第1及び第2の感磁部の出力が入力され、2つの入力の差分値を所定の割合で増幅して出力する差動増幅回路や、第1及び第2の感磁部の出力をデジタル信号に変換し、差分演算を行うデジタルIC回路等が挙げられるがこの限りではない。
以下に、本発明の磁気センサのさらに具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0037】
図8(a),(b)は、本発明に係る磁気センサの実施例1を説明するための構成図である。図中符号41は第1の感磁部、42は第2の感磁部、50は基板、111,121はピンド層、112,122は伝導層、113,123はフリー層を示している。つまり、第1の感磁部41と第2の感磁部42は、スピンバルブ型のピンド層111,121と伝導層112,122とフリー層113.123を積層してなるGMR素子を用いている。
【0038】
本実施例1の磁気センサは、基板の平面に対して任意の軸方向の磁場を検知できるようにした磁気センサである。この磁気センサの感磁部は、基板に設けられた第1の感磁部41と、この第1の感磁部41に併設された第2の感磁部42とを備えている。つまり、第1の感磁部41と第2の感磁部42とは、基板平面上又は基板内部に設けられている。
これらの第1及び第2の感磁部41,42は、無磁場下での電気抵抗が等しく、かつ感磁軸方向が一致しており、外部磁場に対する磁気抵抗感度が異なっている。そして、第1及び第2の感磁部41,42からの出力信号の差分により、差動演算部を介して感磁軸方向の磁場成分に応じた信号を出力するように構成されている。また、本実施例1においては、それぞれ形状が異なる第1の感磁部41と第2の感磁部42を備えている。
【0039】
また、第1及び第2の感磁部41,42の厚みT1,T2が等しく、平面視したときに、第1及び第2の感磁部41,42が矩形で、かつ第1及び第2の感磁部41,42の長手方向の長さL1,L2(L1>L2)と短手方向の幅W1,W2(W1>W2)の比W1/L1,W2/L2が等しくなるように構成されている。
また、第1及び第2の感磁部41,42が矩形で、平面視したときに、第1及び第2の感磁部41,42の感磁軸方向の長さW1,W2が異なるように構成されている。
【0040】
つまり、第1の感磁部41と第2の感磁部42は、同一方向からの磁場に対して感磁軸を持っており、それぞれの感磁軸がお互いに平行になるように配置されている。また、第1の感磁部41と第2の感磁部42は、磁気抵抗感度が異なっており、かつ磁気センサを平面視した時、第1及び第2の感磁部41,42の感磁軸方向長さW、基板面に対して平行かつ感磁軸方向に垂直な方向の長さLの比(W1:L1及びW2:L2)は等しくなるように配置されている。すなわち、第1及び第2の感磁部の無磁場時での抵抗Rは等しくなっている。
【0041】
また、上述した実施例1の磁気センサは、第1及び第2の感磁部41,42の出力が入力される差分回路(図4参照)を備えている。このような構成における第1及び第2感磁部41,42からの出力信号の差分により、感度軸方向の磁場成分に応じた信号を出力することができる。
また、感磁部は、特定の方向に感磁軸を持つ素子であれば特に制限されず、例えば、巨大磁気抵抗素子(GMR)又はトンネル磁気抵抗素子(TMR)、異方性磁気抵抗素子(AMR)などを用いる。また、感磁部の感度軸方向の幅は、0.1〜20ミクロンであることが好ましい。
【0042】
第1及び第2の感磁部41,42の抵抗をR、X方向の磁場をBx、磁気抵抗感度をa、bとした場合に、差分回路は、第1の感磁部41の出力信号をS1(∝R+aBx)と、第2の感磁部2の出力信号をS2(∝R+bBx)の差分信号として
S1−S2∝(a−b)Bx
を出力する。これにより、第1及び第2の感磁部41,42の感磁軸方向の磁場を検出することができる。
【0043】
図9(a),(b)は、図8(a)(b)に示した磁気センサにおいて、感磁軸方向の外部磁場の変化に対する第1及び第2の感磁部の出力の出力変化を示す図である。図9(a)は、第1及び第2の感磁部41,42の出力S1,S2の差分信号S1−S2を示している。図7(b)に示した差分信号S1−S2は、上述したように、外部温度によって敏感に変化する抵抗Rがキャンセルされているため、外部温度の変化の影響を受けずに外部磁場Bxの変化に応じた出力を得ることができる。
【0044】
例えば、定電流駆動の場合、第1及び第2の感磁部41,42にそれぞれ等しい電流Iを印加する。このときの第1及び第2の感磁部41,42の抵抗をR、X方向の磁場をBx、磁気抵抗感度をa、bとした場合に、差分回路は、第1の感磁部41の出力信号をS1(=(R+aBx)×I)と、第2の感磁部42の出力信号をS2(=(R+bBx)×I)の差分信号として
S1−S2=(a−b)Bx×I
を出力する。これによって、第1及び第2の感磁部41,42の感磁軸方向の磁場を検出することができる。
【実施例2】
【0045】
図10(a),(b)は、本発明に係る磁気センサの実施例2を説明するための構成図である。図中符号61は第1の感磁部、62は第2の感磁部、70は基板、131,141はピンド層、132,142は伝導層、133,143はフリー層を示している。つまり、第1の感磁部61と第2の感磁部62は、スピンバルブ型のピンド層131,141と伝導層132,142とフリー層133.143を積層してなるGMR素子を用いている。
【0046】
図8に示した実施例1では、第1及び第2の感磁部41,42の各層の膜厚(T1=T2)が等しい場合において、第1及び第2の感磁部41,42の感磁軸方向長さWと基板面に対して平行かつ感磁軸方向に垂直な方向の長さLの比(W1:L1及びW2:L2)が等しくなるように配置された例に説明したが、図10に示すように、感磁軸方向の長さW(W1=W2)が等しい場合において、第1及び第2の感磁部61,62の伝導層の厚みT(T1>T2)と基板面に対して平行かつ感磁軸方向に垂直な方向の長さL(L1>L2)の比(T1:L1及びT2:L2)が等しくなるように配置されていてもよい。
【0047】
すなわち、上述したように、感磁軸方向の断面における伝導層の断面積S(=W×T)と、長さLの比が等しくなるように感磁部を設計することにより、無磁場下で電気抵抗が等しく、かつ、外部磁場に対する磁気抵抗感度が異なる感磁部を得ることができる。
本実施例2の磁気センサは、基板の平面に対して任意の軸方向の磁場を検知できるようにした磁気センサである。この磁気センサの感磁部は、基板に設けられた第1の感磁部61と、この第1の感磁部61に併設された第2の感磁部62とを備えている。つまり、第1の感磁部61と第2の感磁部62とは、基板平面上又は基板内部に設けられている。
【0048】
これらの第1及び第2の感磁部61,62は、無磁場下での電気抵抗が等しく、かつ感磁軸方向が一致しており、外部磁場に対する磁気抵抗感度が異なっている。そして、第1及び第2の感磁部61,62からの出力信号の差分により、差動演算部を介して感磁軸方向の磁場成分に応じた信号を出力するように構成されている。
また、本実施例2においては、それぞれ形状が異なる第1の感磁部61と第2の感磁部62を備えている。つまり、第1及び第2の感磁部61,62が矩形で、平面視したときに、第1及び第2の感磁部61,62の感磁軸方向の長さW1,W2が異なるように構成されている。
【0049】
上述した各実施例における差分回路は、2つの入力の差に応じた信号を出力するものであればよく、アナログ回路で実現する場合は、例えば、図4に示すような差動増幅回路23(Vout=R2(V1−V2)/R1)を用いることができるが、本発明はこれに限定されない。
【0050】
次に、本発明に係る磁場成分演算方法について説明する。
本発明の磁気センサを用いた磁場成分演算方法は、無磁場での電気抵抗が等しく、感磁軸方向が一致しており、かつ外部磁場に対する磁気抵抗感度が異なる2つの感磁部の出力の差分に基づいて、感磁軸方向の磁場成分を演算する。また、無磁場での電気抵抗が等しく、感磁軸方向が反平行である2つの感磁部の出力の差分に基づいて、感磁軸方向の磁場成分を演算する。
【0051】
つまり、本発明の磁場成分演算方法は、基板の平面に対して任意の軸方向の磁場を検知できるようにした磁気センサにおける磁場成分演算方法である。基板に設けられた第1の感磁部と、この第1の感磁部に併設された第2の感磁部とを備えている。
無磁場下での電気抵抗が等しく、かつ感磁軸方向が一致で、外部磁場に対する磁気抵抗感度が異なる第1及び第2の感磁部の出力の差分に基づいて、感磁軸方向の磁場成分を演算する。なお、磁気センサの構成については、上述した各実施例と同様である。
【0052】
また、本発明の磁場成分演算方法は、基板に設けられた第1の感磁部と、この第1の感磁部に併設された第2の感磁部とを備え、無磁場下での電気抵抗が等しく、かつ感磁軸方向が反平行で、第1及び第2の感磁部の出力の差分に基づいて、感磁軸方向の磁場成分を演算する。
以上のように、本発明によれば、第1及び第2の感磁部からの出力信号の差分により、感磁部の感磁軸方向の磁場成分に応じた信号を出力することができるので、周囲の温度の影響を最小限に抑え、かつ、感磁軸方向の磁場を検知できる単軸の磁気センサ及び磁場成分演算方法を実現することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 反強磁性層
2 ピンド層(固定層)
3 Cu層(スペーサ層)
4 フリー層(自由回転層)
11,16 絶縁膜
12 フリー層(自由回転層)
13 導電層(伝導層)
14 ピンド層(固定層)
15 反強磁性層
20 感磁部
21,31,41,51,61 第1の感磁部
22,32,42,52,62 第2の感磁部
23 差動演算部
33,33a乃至33c,34,34a乃至34c ハードバイアス磁石
50,70 基板
111,121,131,141 ピンド層
112,122,132,142 伝導層
113,123,133,143 フリー層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10