【実施例】
【0040】
実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら制限されるものではない。
【0041】
以下、各種水溶性トリアリールホスフィンの製造においては、特に断りのない限り、室温、常圧、窒素雰囲気下で行うものとし、また、溶媒は予め窒素置換したものを用いた。
【0042】
なお、トリアリールホスフィンをスルホン化してなる水溶性トリアリールホスフィンは、スルホ基の導入数が1〜3のものの混合物であり、更に、これらのリンが酸化されてなる酸化物も含まれ得る。
水溶性トリアリールホスフィンに含まれるこれらの組成比(質量比)は、製造した水溶性トリアリールホスフィンが0.05mol/Lとなるように調製したジメチルスルホキシド−d
6(以下、DMSO−d
6と略する)溶液を核磁気共鳴装置「AVANCEIII 400USPlus」(ブルカー・バイオスピン株式会社製)を用いて測定してなる
31Pのピーク面積から定量した。この場合の
31Pのケミカルシフトは、リン酸が0.05mol/Lとなるように調製したDMSO−d
6溶液のケミカルシフトを0ppmとした場合での305Kにおける値である。
また、水溶性トリアリールホスフィンの構造は、10mmol/Lとなるように調製した重水溶液を核磁気共鳴装置「AVANCEIII 600USPlus」(ブルカー・バイオスピン株式会社製)を用いて測定してなる
31Pおよび
1Hのケミカルシフトおよびピーク面積から構造を決定した。
31Pのケミカルシフトは、リン酸が10mmol/Lとなるように調製した重水溶液のケミカルシフトを0ppmとした場合での300Kにおける値である。
1Hのケミカルシフトは、トリメチルシリルプロパン酸−d
4(以下、TSPと略する)が5mmol/Lとなるように調製した重水溶液のケミカルシフトを0ppmとした場合での300Kにおける値である。
ナトリウムイオンは、原子吸光分光光度計「AA−7000F」(株式会社島津製作所製)を用いて定量した。
目的物の精製操作には、高速液体クロマトグラフシステム(日本ウォーターズ株式会社製、デルタ600マルチソルベントシステム、2998フォトダイオードアレイ検出器、カラムヒーター、クロマトグラフィーデータソフトウェアEmpower1)を用いた。なお、逆相クロマトグラフィーカラムとして東ソー株式会社製の「TSKgel ODS−80Ts」(粒子径5μm、内径20mm、長さ250mm)を用いた。
【0043】
<水溶性トリアリールホスフィンの製造>
[実施例1]
ビス(6−メチル−3−スルホフェニル)(2−メチルフェニル)ホスフィンの製造
スルホン化反応は回分式で実施した。温度計、攪拌装置およびジャケットを備えたグラスライニングした50L反応器を用いた。濃度97.4質量%の濃硫酸9.84kgを反応器に内在させ攪拌しながら16℃に冷却した。続けて、30℃以下を維持するようにトリス(2−メチルフェニル)ホスフィン(以下、TOTPと略する)10.91kg(35.84mol)を1時間かけて投入した。その後、液温が30〜40℃の範囲となるように制御しつつ三酸化硫黄28質量%を含む発煙硫酸37.60kg(三酸化硫黄として131.50mol)を3時間かけて加えた。続けて、濃度97.4質量%の濃硫酸1kgで発煙硫酸の流路を洗浄した。液温20〜30℃において4時間反応した。
一方、温度計、攪拌装置およびジャケットを備えたグラスライニングした200L反応器にイオン交換水70kgを内在させ、先のスルホン化反応液全量を1時間かけて移送した。さらに、スルホン化反応液の流路をイオン交換水10kgで洗浄して先の希釈液に加えた。なお、液温が20〜40℃の範囲となるように制御した。これにより、希釈スルホン化反応液137.80kgを取得した。
【0044】
温度計、攪拌装置およびジャケットを備えたグラスライニングした200L反応器に希釈スルホン化反応液27.50kg(リン原子として7.15mol)およびイオン交換水5kgを加えた。液温が10〜30℃の範囲となるように制御しつつ、30.2質量%の水酸化ナトリウム水溶液24.10kgを3時間かけて供給した。さらに、4質量%の水酸化ナトリウム水溶液1.66kgを1.7時間かけて供給した。これにより、pH7.99の中和液を取得した。
中和液を35〜65℃、80〜100kPaの範囲に存在せしめ、4.5時間かけて濃縮し、水37kgを留去した。濃縮物に対してメタノール45kgを加え40℃で1時間攪拌した。さらに、40〜55℃、4〜55kPaの範囲に存在せしめ、2.4時間かけて濃縮し、メタノール45kgを留去した。濃縮物に対してメタノール147kgを加え40〜60℃で1時間攪拌した。その後、30℃以下になるまで冷却した。
当該メタノール溶液を、高純度珪藻土濾過助剤としてのアドヴァンスト ミネラルズ コーポレーション社製「セルピュア(登録商標)S1000」を5kg内在するSUS304製加圧濾過器に通じ、濾液を取得した。さらに、濾過助剤をメタノール30kgで洗浄し、その濾液を先の濾液に合わせた。
温度計、攪拌装置、およびジャケットを備えたグラスライニングした100L反応器に先に取得したメタノール溶液を全量仕込み、40〜55℃、4〜55kPaの範囲に存在せしめ、18時間かけて濃縮乾固することで、白色固体(以下、取得物1と略する)を3.56kg取得した。
【0045】
取得物1はモノ体としてのビス(2−メチルフェニル)(6−メチル−3−スルホナトフェニル)ホスフィンナトリウム塩0.13kg(0.33mol)、ジ体としてのビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)(2−メチルフェニル)ホスフィン二ナトリウム塩2.91kg(5.72mol)、トリ体としてのトリス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)ホスフィン三ナトリウム塩0.52kg(0.85mol)からなる混合物であった。
【0046】
希釈スルホン化反応液27.50kg(リン原子として7.15mol)から取得物1を3.56kg(リン原子として6.90mol)取得できたことから、スルホン化工程から中和工程に至るリン原子に基づく収率は96.5%であった。
【0047】
強酸性陽イオン交換樹脂「ダウエックスG−26」を5kg充填したアクリル樹脂製カラム(直径100mm、高さ760mm)を準備した。取得物1を8.6質量%含む水溶液12kg(取得物1として1044.0g、リン原子として2023.4mmol)をカラム上部から線速度9.3〜12.5m/hrとなるように通じた。得られた水溶液を35〜70℃、4〜55kPaの範囲で濃縮乾固することで、白色固体(以下、取得物2と略する)を914.5g取得した。
【0048】
31P−NMR(400MHz、305K、DMSO−d
6、リン酸、ppm)δ:モノ体としてのビス(2−メチルフェニル)(6−メチル−3−スルホフェニル)ホスフィンが−28.72、ジ体としてのビス(6−メチル−3−スルホフェニル)(2−メチルフェニル)ホスフィンが−26.00、トリ体としてのトリス(6−メチル−3−スルホフェニル)ホスフィンが−18.85、にピークを示した。
【0049】
取得物2はビス(2−メチルフェニル)(6−メチル−3−スルホフェニル)ホスフィン35.3g(91.9mmol、4.73mol%)、ビス(6−メチル−3−スルホフェニル)(2−メチルフェニル)ホスフィン749.4g(1613.4mmol、83.01mol%)、トリス(6−メチル−3−スルホフェニル)ホスフィン129.8g(238.3mmol、12.26mol%)からなる混合物であった。
【0050】
取得物2の原子吸光分析によれば、取得物2に含まれるナトリウム含有量はナトリウム原子として23ppm以下であった。取得物2の1.0kgに含まれるスルホ基数は4410.6mmolであり、ナトリウム原子としての含有量は1.0mmolであることから、スルホナト基の99.98mol%以上がスルホ基に変換できた。
【0051】
取得物1を1044.0kg(リン原子として2023.4mmol)用いて取得物2を914.5g(リン原子として1943.6mmol)取得できたことから、イオン交換工程におけるリン原子に基づく収率は95.5%であった。
【0052】
[実施例2]
ビス(6−メチル−3−スルホフェニル)(2−メチルフェニル)ホスフィンの精製
逆相クロマトグラフィーカラムを備えた高速液体クロマトグラフシステムを用い、カラムオーブン温度を40℃に制御した状態で、水70質量%とアセトニトリル30質量%からなる混合液を移動相として5.0mL/分で通じた。
実施例1の取得物2を1質量%含む水溶液1gを調製し、これを注入した。フォトダイオードアレイ検出器を275nmに設定し、保持時間17.5〜20.0分の留出液を回収した。この作業を10回繰り返した。集めた留出液を35〜70℃、4〜56kPaの範囲で濃縮乾固することにより白色固体としてビス(6−メチル−3−スルホフェニル)(2−メチルフェニル)ホスフィンを55.5mg取得した。
【0053】
31P−NMR(400MHz、305K、DMSO−d
6、リン酸、ppm)δ:−26.00(s)
【0054】
31P−NMR(600MHz、300K、重水、リン酸、ppm)δ:−24.69(s)
【0055】
1H−NMR(600MHz、300K、重水、TSP、ppm)δ:2.35(s、9H)、6.84(t、6.2Hz、1H)、7.18(t、7.6Hz、1H)、7.21(dd、2.8Hz、1.8Hz、2H)、7.35(t、6.3Hz、1H)、7.41(t、7.4Hz、1H)、7.45(dd、3.2Hz、4.7Hz、2H)、7.80(dd、6.1Hz、1.8Hz、2H)
【0056】
取得物2を100.0mg(リン原子として0.213mmol)用いて目的物を55.5mg(リン原子として0.118mmol)取得できたことから、精製におけるリン原子に基づく収率は55.6%であった。
【0057】
[実施例3]
ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)(2−メチルフェニル)ホスフィン二トリエチルアンモニウム塩の製造
実施例1の取得物2を10質量%含む水溶液500gを調製した。なお、本水溶液には、取得物2が50.0g、リン原子として106.3mmol、スルホ基が221.4mmol、含まれている。この取得物2の水溶液を温度計、攪拌装置、滴下ロートおよび窒素ガスラインを備えた内容量1Lの三つ口フラスコに存在せしめ、滴下ロートよりトリエチルアミン24.6g(243.5mmol)を加え、20〜30℃の範囲で1時間かけて攪拌して反応した。
その後、反応液を35〜70℃、4〜56kPaの範囲で濃縮乾固することで、白色固体(以下、取得物3と略する)を68.2g取得した。
【0058】
31P−NMR(400MHz、305K、DMSO−d
6、リン酸、ppm)δ:モノ体としてのビス(2−メチルフェニル)(6−メチル−3−スルホナトフェニル)ホスフィントリエチルアンモニウム塩が−28.12、ジ体としてのビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)(2−メチルフェニル)ホスフィン二トリエチルアンモニウム塩が−25.00、トリ体としてのトリス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)ホスフィン三トリエチルアンモニウム塩が−19.98、にピークを示した。
【0059】
取得物3はビス(2−メチルフェニル)(6−メチル−3−スルホナトフェニル)ホスフィントリエチルアンモニウム塩2.3g(4.7mmol、4.73mol%)、ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)(2−メチルフェニル)ホスフィン二トリエチルアンモニウム塩55.5g(83.2mmol、82.99mol%)、トリス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)ホスフィン三トリエチルアンモニウム塩10.4g(12.3mmol、12.28mol%)、からなる混合物であった。
【0060】
取得物2を50.0g(リン原子として106.3mmol)用いて取得物3を68.2g(リン原子として100.2mmol)取得できたことから、アンモニウム塩化工程におけるリン原子に基づく収率は94.3%であった。
【0061】
[実施例4]
ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)(2−メチルフェニル)ホスフィン二トリエチルアンモニウム塩の精製
実施例3の取得物3を50質量%含む水溶液100gを調製した。なお、本水溶液には、取得物3が50.0g、リン原子として73.5mmol含まれている。この取得物3の水溶液を温度計、攪拌装置、滴下ロートおよび窒素ガスラインを備えた内容量300Lの三つ口フラスコに存在せしめた。取得物3の水溶液に対し、2−ブタノン100gを加え30分攪拌後、30分間静置し、2−ブタノン相を除去するという操作を3回繰り返した。得られた水相を35〜70℃、4〜56kPaの範囲で濃縮乾固することで、白色固体を41.7g取得した。
【0062】
ビス(2−メチルフェニル)(6−メチル−3−スルホナトフェニル)ホスフィントリエチルアンモニウム塩0.5g(1.0mmol、1.69mol%)、ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)(2−メチルフェニル)ホスフィン二トリエチルアンモニウム塩34.1g(51.2mmol、84.53mol%)、トリス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)ホスフィン三トリエチルアンモニウム塩7.1g(8.3mmol、13.78mol%)、からなる混合物であった。
【0063】
取得物3を50.0g(リン原子として73.5mmol)用いて目的物を41.7g(リン原子として60.5mmol)取得できたことから、精製におけるリン原子に基づく収率は82.4%であった。
【0064】
[実施例5]
ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)(2−メチルフェニル)ホスフィン二トリ−n−オクチルアンモニウム塩の製造
実施例3においてトリエチルアミンの代わりにトリ−n−オクチルアミン86.1g(243.5mmol)を用いる以外は同様の操作をし、淡橙色高粘性液体123.0gを取得した。
【0065】
31P−NMR(400MHz、305K、DMSO−d
6、リン酸、ppm)δ:モノ体としてのビス(2−メチルフェニル)(6−メチル−3−スルホナトフェニル)ホスフィントリ−n−オクチルアンモニウム塩が−28.60、ジ体としてのビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)(2−メチルフェニル)ホスフィン二トリ−n−オクチルアンモニウム塩が−25.00、トリ体としてのトリス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)ホスフィン三トリ−n−オクチルアンモニウム塩−17.67、にピークを示した。
【0066】
ビス(2−メチルフェニル)(6−メチル−3−スルホナトフェニル)ホスフィントリ−n−オクチルアンモニウム塩3.6g(4.9mmol、4.80mol%)、ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)(2−メチルフェニル)ホスフィン二トリ−n−オクチルアンモニウム塩99.2g(84.6mmol、82.87mol%)、トリス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)ホスフィン三トリ−n−オクチルアンモニウム塩20.2g(12.6mmol、12.33mol%)、からなる混合物であった。
【0067】
取得物2を50.0g(リン原子として106.3mmol)用いて目的物を123.0g(リン原子として102.1mmol)取得できたことから、アンモニウム塩化工程におけるリン原子に基づく収率は96.0%であった。
【0068】
[実施例6]
ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)(2−メチルフェニル)ホスフィン二ジメチルイソプロピルアンモニウム塩の製造
実施例3においてトリエチルアミンの代わりにN,N−ジメチルイソプロピルアミン21.2g(243.5mmol)を用いる以外は同様の操作をし、白色固体67.5gを取得した。
【0069】
31P−NMR(400MHz、305K、DMSO−d
6、リン酸、ppm)δ:モノ体としてのビス(2−メチルフェニル)(6−メチル−3−スルホナトフェニル)ホスフィンジメチルイソプロピルアンモニウム塩が−28.17、ジ体としてのビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)(2−メチルフェニル)ホスフィン二ジメチルイソプロピルアンモニウム塩が−25.25、トリ体としてのトリス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)ホスフィン三ジメチルイソプロピルアンモニウム塩−21.50、にピークを示した。
【0070】
ビス(2−メチルフェニル)(6−メチル−3−スルホナトフェニル)ホスフィンジメチルイソプロピルアンモニウム塩2.4g(5.0mmol、4.81mol%)、ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)(2−メチルフェニル)ホスフィン二ジメチルイソプロピルアンモニウム塩54.8g(85.9mmol、82.85mol%)、トリス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)ホスフィン三ジメチルイソプロピルアンモニウム塩10.3g(12.8mmol、12.34mol%)、からなる混合物であった。
【0071】
取得物2を50.0g(リン原子として106.3mmol)用いて目的物を67.5g(リン原子として103.6mmol)取得できたことから、アンモニウム塩化工程におけるリン原子に基づく収率は97.5%であった。
【0072】
<テロメリ化反応>
以下、参考例により、本発明の水溶性トリアリールホスフィンがテロメリ化反応に有用であることを示す。なお、本発明はかかる参考例により何ら限定されるものではない。
【0073】
なお、抽出操作によって得られた水相に含まれるパラジウムおよびリン化合物濃度は、これら湿式分解物を偏光ゼーマン原子吸光分光光度計「Z−5300型」(株式会社日立製作所製)により分析し、定量した。
また、テロメリ化反応液またはパラジウム触媒を含む水相に含まれる第3級アミン、2,7−オクタジエン−1−オールなどの有機物は、下記測定条件におけるガスクロマトグラフィーにより分析し、定量した。
(ガスクロマトグラフィー分析条件)
装置 :GC−14A(株式会社島津製作所製)
使用カラム:G−300(内径1.2mm×長さ20m、膜厚2μm)、
(財)化学物質評価研究機構製
分析条件 :注入口温度220℃、検出器温度220℃
サンプル注入量:0.4μL
キャリアガス:ヘリウム(260kPa)を10mL/分で通じる
カラム温度:60℃で5分保持→10℃/分で昇温→220℃で9分保持
検出器 :水素炎イオン化検出器(FID)
【0074】
[参考例1]
テロメリ化反応は回分式で実施した。反応容器としては、パラジウム触媒圧送用96mLガラス製耐圧容器、溶媒圧送用96mLガラス製耐圧容器、およびサンプリング口を備えたSUS316製電磁誘導攪拌装置付き3Lオートクレーブを反応器として用いた。なお、反応は攪拌回転数500rpmで実施しており、この時の反応成績は1,000rpmのものと差異がなかったことから、十分な攪拌状態を達成できている。
【0075】
ガラス製耐圧容器に酢酸パラジウム(II)94.74mg(パラジウム原子0.422mmol)を含むテトラヒドロフラン溶液17.69g、次いで、実施例3で得られたリン化合物1.440g(3価リン原子として2.116mmol)を含む水溶液21.46gを導入し、60分間攪拌し、パラジウム触媒液を調製した。
【0076】
オートクレーブに蒸留水30.06g、トリエチルアミン80.10g、2,7−オクタジエン−1−オール97.50g、ブタジエン114.95g(2.13mol)を仕込み、密閉系において500rpmで攪拌しながら70℃に昇温した。その後、ガラス製耐圧容器からパラジウム触媒液を二酸化炭素によって10秒以内に圧送するとともに、全圧を1.2MPa(ゲージ圧)とした。なお、パラジウム触媒液の圧送が完了した時点を反応開始0時間と定義した。
なお、触媒調製時の3価リン原子とパラジウム原子の比は5.01であり、テロメリ化反応において、ブタジエン1molに対するパラジウム原子は0.198mmolであり、水に対するトリエチルアミンの質量比は1.55であり、水に対するブタジエンと2,7−オクタジエン−1−オールからなる質量比は4.12であった。
所定時間反応後のテロメリ化反応液について、ガスクロマトグラフィー分析によって、生成物の定量を行った。
【0077】
ブタジエンの転化率は下記数式1によって算出した。なお、式中の各量の単位はmolとする。
【数1】
【0078】
各生成物として、2,7−オクタジエン−1−オール、1,7−オクタジエン−3−オール、1,3,6−オクタトリエン、1,3,7−オクタトリエン、2,4,6−オクタトリエン、4−ビニルシクロヘキセンなどが挙げられる。ただし、1,3,6−オクタトリエン、1,3,7−オクタトリエン、2,4,6−オクタトリエンに関しては、これらを総称してオクタトリエン類と略する。各生成物の選択率は下記数式2によって算出した。なお、式中の各量の単位はmolとする。
【数2】
【0079】
ガスクロマトグラフィーによって十分に定量できない高沸点生成物への選択率は下記数式3によって算出した。なお、式中の各量の単位はmolとする。
【数3】
【0080】
反応8時間後のブタジエンの転化率は81.6%であり、2,7−オクタジエン−1−オールへの選択率は92.5%であり、1,7−オクタジエン−3−オールへの選択率は3.2%であり、オクタトリエン類への選択率は2.6%であり、高沸点生成物への選択率は1.7%であった。なお、4−ビニルシクロヘキセンへの選択率は0.01%以下であった。
【0081】
オートクレーブを25℃に冷却し、溶媒圧送用96mLガラス製耐圧容器を用いて反応消費相当の水およびジエチルエーテル330.23g(25℃における体積463.2mL)を二酸化炭素によって圧送した。二酸化炭素で全圧を3MPa(ゲージ圧)加圧した状態で1時間攪拌した。この混合液を、ポンプを用いて二酸化炭素3MPa(ゲージ圧)加圧したガラス窓付き耐圧容器に移送し、相分離させた。ガラス窓付き耐圧容器に結合した二酸化炭素1MPa(ゲージ圧)加圧したガラス製耐圧容器に、水相を適宜回収した。ガラス製耐圧容器を取り分離し、常圧開放し、水相の重さを測定するとともに、得られた水相を各種分析に用いた。
なお、テロメリ化反応液に対するジエチルエーテルの質量比は0.84であった。
【0082】
水相に含まれるパラジウム含有量は、水相の湿式分解物の偏光ゼーマン原子吸光分光光度計による分析より判明するパラジウム濃度と回収した水相の重さより算出した。パラジウム原子の回収率は下記数式4によって算出した。なお、式中の各量の単位はmolとする。
【数4】
【0083】
水相に含まれるリン含有量は、水相の湿式分解物の偏光ゼーマン原子吸光分光光度計による分析より判明するリン濃度と回収した水相の重さより算出した。水溶性トリアリールホスフィンの回収率は下記数式5によって算出した。なお、式中の各量の単位はmolとする。
【数5】
【0084】
水相に含まれる第3級アミンは水相のガスクロマトグラフィー分析することにより定量した。第3級アミンの回収率は下記数式6によって算出した。なお、式中の各量の単位はmolとする。
【数6】
【0085】
水相へのパラジウム原子の回収率は87.6%であり、リン原子の回収率は80.7%であり、トリエチルアミンの回収率は70.1%であった。なお、水相へのジエチルエーテルの混入は0.1質量%以下であった。
【0086】
[参考例2]
参考例1において、実施例3で得られたリン化合物の代わりに実施例4で得られたリン化合物1.457g(3価リン原子として2.115mmol)を用いる以外同様の操作をした。なお、触媒調製時の3価リン原子とパラジウム原子の比は5.01であった。
反応8時間後のブタジエン転化率は80.2%であり、2,7−オクタジエン−1−オールへの選択率は92.7%であり、1,7−オクタジエン−3−オールへの選択率は3.1%であり、オクタトリエン類への選択率は2.5%であり、高沸点生成物への選択率は1.7%であった。なお、4−ビニルシクロヘキセンへの選択率は0.01%以下であった。
水相へのパラジウム原子の回収率は88.9%であり、リン原子の回収率は84.6%であり、トリエチルアミンの回収率は70.8%であった。なお、水相へのジエチルエーテルの混入は0.1質量%以下であった。
【0087】
[参考例3]
参考例1において実施例3で得られたリン化合物の代わりに実施例5で得られたリン化合物2.545g(3価リン原子として2.113mmol)を用いる以外同様の操作をした。なお、触媒調製時の3価リン原子とパラジウム原子の比は5.01であった。
反応6時間後のブタジエン転化率は74.4%であり、2,7−オクタジエン−1−オールへの選択率は93.1%であり、1,7−オクタジエン−3−オールへの選択率は3.1%であり、オクタトリエン類への選択率は2.7%であり、高沸点生成物への選択率は1.1%であった。なお、4−ビニルシクロヘキセンへの選択率は0.01%以下であった。
水相へのパラジウム原子の回収率は86.9%であり、リン原子の回収率は76.8%であり、トリエチルアミンの回収率は76.9%であった。なお、水相へのジエチルエーテルの混入は0.1質量%以下であった。
【0088】
[参考例4(比較用)]
参考例1において、実施例3で得られたリン化合物の代わりにジフェニル(3−スルホナトフェニル)ホスフィントリエチルアンモニウム塩(但し、酸化物を4.40mol%含有している。)2.120g(3価リン原子として2.120mmol)を用いる以外同様の操作をした。なお、触媒調製時の3価リン原子とパラジウム原子の比は5.02であった。
反応4時間後のブタジエン転化率は77.6%であり、2,7−オクタジエン−1−オールへの選択率は88.2%であり、1,7−オクタジエン−3−オールへの選択率は5.1%であり、オクタトリエン類への選択率は5.1%であり、高沸点生成物への選択率は1.6%であった。なお、4−ビニルシクロヘキセンへの選択率は0.01%以下であった。
水相へのパラジウム原子の回収率は28.2%であり、リン原子の回収率は48.8%であり、トリエチルアミンの回収率は65.5%であった。なお、水相へのジエチルエーテルの混入は0.1質量%以下であった。
【0089】
[参考例5(比較用)]
参考例1において、実施例3で得られたリン化合物の代わりにジフェニル(6−メチル−3−スルホナトフェニル)ホスフィントリエチルアンモニウム塩(但し、酸化物を4.58mol%含有している。)1.015g(3価リン原子として2.113mmol)を用いる以外同様の操作をした。なお、触媒調製時の3価リン原子とパラジウム原子の比は5.01であった。
反応4時間後のブタジエン転化率は85.0%であり、2,7−オクタジエン−1−オールへの選択率は88.8%であり、1,7−オクタジエン−3−オールへの選択率は5.0%であり、オクタトリエン類への選択率は4.4%であり、高沸点生成物への選択率は1.8%であった。なお、4−ビニルシクロヘキセンへの選択率は0.01%以下であった。
水相へのパラジウム原子の回収率は12.0%であり、リン原子の回収率は28.3%であり、トリエチルアミンの回収率は76.5%であった。なお、水相へのジエチルエーテルの混入は0.1質量%以下であった。
【0090】
実施例1によれば、ビス(2−メチルフェニル)(6−メチル−3−スルホフェニル)ホスフィンが5mol%以下、ビス(6−メチル−3−スルホフェニル)(2−メチルフェニル)ホスフィンが80mol%以上、トリス(6−メチル−3−スルホフェニル)ホスフィンが15mol%以下である混合物が高い収率で取得できることが明らかである。
また、実施例2によれば、カラムクロマトグラフィーによって、ビス(6−メチル−3−スルホフェニル)(2−メチルフェニル)ホスフィンを単離精製できることが明らかである。
実施例3、5および6によれば、ビス(6−メチル−3−スルホフェニル)(2−メチルフェニル)ホスフィンと窒素1原子に結合する基の総炭素数が3〜27の第3級アミンを反応させることにより、ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)(2−メチルフェニル)ホスフィン二アンモニウム塩を高い収率で取得できることが明らかである。
実施例4によれば、ビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)(2−メチルフェニル)ホスフィン二アンモニウム塩は、ケトン溶媒などでの洗浄によって、その純度を向上できることが明らかである。
参考例1〜5から、本発明によって提供されるビス(6−メチル−3−スルホナトフェニル)(2−メチルフェニル)ホスフィン二アンモニウム塩が、その他の水溶性トリアリールホスフィンに比べて、テロメリ化反応において高選択率を得ることができ、かつパラジウム触媒の回収率も高いため、工業的なテロメリ化反応の実施に有用であることが明らかである。