(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6286270
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】透過型電子顕微鏡内で位相版を用いる方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/295 20060101AFI20180215BHJP
H01J 37/26 20060101ALI20180215BHJP
H01J 37/153 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
H01J37/295
H01J37/26
H01J37/153 A
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-86240(P2014-86240)
(22)【出願日】2014年4月18日
(65)【公開番号】特開2014-216319(P2014-216319A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2017年3月28日
(31)【優先権主張番号】13165356.0
(32)【優先日】2013年4月25日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】13180361.1
(32)【優先日】2013年8月14日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】13190405.4
(32)【優先日】2013年10月28日
(33)【優先権主張国】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501233536
【氏名又は名称】エフ イー アイ カンパニ
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
(73)【特許権者】
【識別番号】512054067
【氏名又は名称】マックス プランク ゲゼルシャフト ツール フォーデルング デル ヴィッセンシャフテン
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】バート ブイス
(72)【発明者】
【氏名】ラドスティン ストヤノヴ ダネヴ
【審査官】
波多江 進
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−273866(JP,A)
【文献】
特開2010−086691(JP,A)
【文献】
特開2011−151019(JP,A)
【文献】
GLAESER R M,Invited Review Article: Methods for imaging weak-phase objects in electron microscopy,Review of Scientific Instruments,2013年11月22日,vol.84, no.11,pp.111101-1〜111101-17
【文献】
MLALAC M et al.,Convenient contrast enhancement by a hole-free phase plate,Ultramicroscopy,2012年 2月19日,vol.118,pp.77-89
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/10 − 37/153
H01J 37/26
H01J 37/295
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過型電子顕微鏡内において薄膜を含む位相板を用いる方法であって、
前記透過型電子顕微鏡内に前記位相板を導入する段階、
前記薄膜に集束電子ビームを照射することによって前記位相板を準備する段階、
前記透過型電子顕微鏡内に試料を導入する段階、及び、
前記の準備された位相板を用いて前記試料の画像を生成する段階、
を有し、
前記位相板を準備する段階が、前記薄膜の材料の除去をもたらさず、前記位相板に集束電子ビームを照射することによる前記薄膜の電子構造の変化の結果生じる真空ポテンシャルを局所的に発生させ、かつ、
前記真空ポテンシャルにより、前記薄膜の前記集束電子ビームが照射された部分を通り抜ける電子の絶対位相シフト|φ|が、前記集束電子ビームが照射されていない部分での値よりも小さくなり、
前記位相板を準備する段階において、汚染を回避するように前記位相板を加熱した状態とする、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
散乱電子と非散乱電子を含むビームを前記位相板に照射した後、前記位相板とビームの相互の位置が変化し、前記位相板が新たに準備され、
前記準備の後、前記位相板には、散乱電子と非散乱電子を含むビームが再度照射される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ビームの位置を移動させながら、前記位相板を準備する段階が実現される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記薄膜が、前記透過型電子顕微鏡におけるビームの位置合わせに用いられるマーカー及び/又は穴を有する、請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記マーカーが、1μm以下のサイズを有し、環状の形状である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記薄膜がカーボンを含む、請求項1乃至5のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記薄膜が5乃至20nmの厚さを有する、請求項1乃至6のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記試料の画像を生成する段階が前記試料への平行な電子ビームの照射を含む、請求項1乃至7のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記位相板を準備する段階の間、前記集束電子ビームの焦点の直径が、所定の位相シフトを与えるように制御される、請求項1乃至8のうちいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過型電子顕微鏡(100)内において薄膜を含む位相板を用いる方法であって:
前記透過型電子顕微鏡内に前記位相板を導入する段階;
前記薄膜に集束電子ビームを照射することによって前記位相板を準備する段階;
前記透過型電子顕微鏡内に試料を導入する段階;及び、
前記の準備された位相板を用いて前記試料の画像を生成する段階;
を有する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この方法は、非特許文献1から既知である。
【0003】
透過型電子顕微鏡(TEM)においては、試料は、選択可能なエネルギー−たとえば40keV乃至400keV−を有する電子ビームを試料に通過させることによって撮像される。所謂弱位相試料−たとえば生体試料−では、ほとんどの電子が試料を通過する一方で、一部の電子は弾性的又は非弾性的に散乱される。弾性散乱電子が回折ビームを構成する。画像は、弾性散乱電子と非散乱電子(回折ビームと非回折ビーム)の干渉によって生成される。
【0004】
画像中の低空間周波数でのコントラスト伝達関数(CTF)がゼロ又はゼロ付近となる結果、大きな対象物/構造の視認性が低くなるという問題が生じる。これは、画像平面でのカメラ又は蛍光スクリーンが強度変化に敏感だが、衝突する電子ビームの位相変化には敏感でないことに起因する。
【0005】
この問題に対する解決策は、回折ビームと非回折ビームとの間に位相差を導入する位相板を利用することである。位相板には主に2種類が存在する。所謂ゼルニケ位相板は、非回折ビームを変化させずに、回折ビームの位相シフトを生じさせる。他方所謂ボッシュ位相板は、回折ビームを変化させずに非回折ビームの位相をシフトさせる。
【0006】
位相板による位相差の導入は、CTFの正弦状の挙動を余弦状に変化させ、ひいては低空間周波数のコントラストを最大にする。位相板及び他のコントラスト改善装置のより完全な説明については、非特許文献2を参照して欲しい。
【0007】
ボッシュ位相板とゼルニケ位相板の両方の問題は、両者とも、ミクロな穴(典型的には1μm未満)とその穴のサイズよりも一桁小さい中心合わせ精度を必要とすることである。
【0008】
他の種類の位相板は、最初に非特許文献1で述べた位相板である。非特許文献1で述べた位相板は、連続カーボン膜上の汚染スポットによって生成される。このスポットは、高電流モードの電子ビームを用いることによって生成される。汚染スポットは膜の厚さを変化させる。その結果厚い部分が生じる。よってこの膜は、低電流では位相板として用いられ得る。ここでは、厚いスポットを通り抜ける非回折電子は、非汚染(汚染の少ない)膜を通り抜ける回折電子よりも大きな(負の)位相シフトを受ける。よって係る位相板の効果は、ゼルニケ位相板の効果と似ている。しかしこの位相板が、負の位相シフトを与える点でゼルニケ位相板と異なる。
【0009】
係る位相板の利点は、利用者自身が作製するため、中心合わせされることである。
【0010】
この位相板の欠点は、汚染の構築を制御することが難しいことが、装置の実用の障害となっていることである。
【0011】
材料が正の内部ポテンシャルを有することで、その材料内部の電子を加速させるので、薄膜を通り抜けて進行する電子は、真空中で同一距離を進行する電子に対して負の位相シフトを受けることに留意して欲しい。よって材料中を進行する電子は、材料を通り抜けない電子よりも先へ進む。その結果、前記負の位相シフトが生じる。これはよく誤解されるので、通常は絶対位相シフト|φ|が参照される。
【0012】
他の位相板は特許文献1から既知である。特許文献1は、電子ビームに曝露された膜が、正の帯電(2次電子放出に起因する)及び/又は汚染(又は汚染による帯電)を生じさせることについて記載している。
【0013】
本願発明者等は、この位相板の欠点として、帯電を一定に維持することは非常に困難であり、その結果として動作の制御が困難になることを発見した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許出願公開第2011/017497A1号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】“Principles and Techniques of ElectronMicroscopy, Vol. 3: Biological applications”, Ed. M.A. Hayat, ISBN-0-442-25674-4, Chapter 4: In-focus phase contrast electron microscopy, H.M.Johnson, Electron Optics Laboratory, Dept. of Biophysics, Roswell Park MemorialInstitute, Buffalo, N.Y., USA, specifically page 174-176
【非特許文献2】“Phase Contrast Enhancement with PhasePlates in Biological Electron Microscopy”, K. Nagayama et al.,Microscopy Today, Vol. 18 No. 4 (July 2010), pp. 10-13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
信頼性のある自己で中心合わせされる位相板が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、解決策を提供することを意図している。
【0018】
上記目的のため、本発明の方法は、前記位相板を準備する段階が、前記位相板に集束電子ビームを照射することによる前記薄膜の電子構造の変化の結果生じる真空ポテンシャルを局所的に発生させ、かつ、前記真空ポテンシャルは、位相シフトを非照射薄膜での値よりも小さくすることを特徴とする。
【0019】
本願発明者等は、汚染が存在しないか無視できる程度の環境において前記薄膜に電子を照射することによって、撮像における変化が観測され、その結果、(非特許文献1で観測された負の位相コントラストとは対照的に)正の位相コントラストが生じることを発見した。前記の汚染の存在しない条件は単純に、前記薄膜を約200℃よりも高温に加熱することによって生成されうる。これが正の位相コントラストであるので、これは、汚染又は正の帯電によって生じる正の位相コントラストとは異なるように容易に識別され、かつ、他の原理に関係する。
【0020】
本願発明者等は、この正の位相コントラストは、材料の電子構造の変化に基づくと提案した。
【0021】
各材料は、材料の組成のみならず、その位相や結晶学的特性等に依存する化学ポテンシャルμを有する。化学ポテンシャルは、次式に従って電気化学ポテンシャルに関連づけられる。
【0022】
μ(バー)=μ-qψ
ここで、μ(バー)は電気化学ポテンシャルで、μは化学ポテンシャルで、qは元素の電荷で、ψは材料の内部ポテンシャルである。2つの電気伝導性材料が電気的に接続されるとき、電気化学ポテンシャルμ(バー)は必ず等しくなるので、化学ポテンシャルの差異が内部ポテンシャルの差異となる。2つの材料間での内部ポテンシャルの差異は、Galvaniポテンシャルと呼ばれる。真空中でも、ポテンシャル差が生じる。このポテンシャルはVoltaポテンシャルと呼ばれる。Voltaポテンシャルは、2つの材料間での表面ポテンシャルの差異である点で、Galvaniポテンシャルと異なる。このVoltaポテンシャルは、2つの材料を通り抜ける電子の位相シフトの差異に関与するが、膜内部ではGalvaniポテンシャルは関与しない。その理由は、Voltaポテンシャルが、膜の厚さよりも大きい距離にわたって真空にまで及ぶからである。
【0023】
たとえば半導体材料から知られているように、材料に電子ビームを照射すると結合が破壊され、その結果p型ドーパントとして機能しうる電子捕獲中心が生成される。この結果、材料の化学ポテンシャルは低くなる。このとき電子は、p型ドーピング領域へ向かって流れ、かつ、負のポテンシャルを発生させる。このようにして、Galvaniポテンシャルが照射領域と非照射領域との間に生じ、かつ、真空中ではVoltaポテンシャルが生じる。
【0024】
以降では、真空中でのポテンシャルには、より一般的な語句である「真空ポテンシャル」という語が用いられる。真空ポテンシャルは、Voltaポテンシャル(及び他の考えられ得るポテンシャル)の効果を含む。
【0025】
従って、ビームの照射は、結合の破壊及び/又はその破壊に対応するp型ドーパント一の生成によって材料を局所的に変化させると結論づけられる。
【0026】
本願発明者等は、効果が、薄膜上に堆積された電子の量、及び、曝露されたスポットサイズに依存することを発見した。つまり、照射量が大きくなれば位相シフトが大きくなり、かつ、同一電流密度で照射されるスポットが大きければ、位相シフトは大きくなる。しかし位相シフトは、堆積された照射量の一次関数ではなく、自分自身で発生させる定常状態に対応するある最大値にまで増大する。真空ポテンシャルを設定することで位相板を生成する処理は、膜の条件設定と呼ばれる。
【0027】
本願発明者等は、効果が通常状態に戻り、かつ、アモルファスカーボンを用いる本発明による位相板は、約一日後に電子ビームによって新たに条件設定されなければならないことも発見した。
【0028】
条件設定中での薄膜への照射は、熱によるその薄膜中での穴の生成には不十分であることに留意して欲しい。換言すると、回折電子だけではなく、非回折ビームも薄膜を通り抜ける。
【0029】
回折電子によって生成される電流及びスポットの電流密度は、通常使用(撮像モード)では、真空ポテンシャルを顕著に変化させるには不十分であることに留意して欲しい。
【0030】
位相板は、加熱条件で動作することで、汚染を防止する。加熱は、たとえば薄膜のレーザー加熱又は(たとえばオーミック加熱による)その薄膜を保持するホルダ(典型的にはアパーチャ機構)の一部の加熱によって実現されて良い。
【0031】
位相板は、使用される位置で劣化するので、薄膜の他の位置を用いて、新たな位置に電子を照射することによってその部分の条件設定を行うことも可能である。
【0032】
低照射量の用途では、位相板の条件設定が行われると同時に、試料の関心領域が曝露されないことが重要である。これは、位相板の条件設定を行いながらビーム(及び画像)をシフトさせることによって実現されうる。条件設定が適切な位相板の位置で行われることを保証するため、ビームシフトピボットポイントの設定は非常に正確に行われることが重要である。ピボットポイントが適切に選ばれる結果、試料平面でのビームのシフトを行いながら位相板の位置でビームが定常ビームとなる。
【0033】
撮像中、非散乱ビームに曝露される領域よりも大きな薄膜の領域を条件設定することは有利となりうる。換言すると、撮像は面内に存在する条件で実行される一方で、条件設定は、面からわずかに外れた状態で行われて良い。よって条件設定された領域−たとえば100nm−は、集束された非散乱ビームの直径−たとえば10nm−よりもはるかに大きい。これは、ビームシフトピボットポイントの設定精度はある程度緩和されうるという利点を有する。また撮像中、位相板に対する電子ビームの小さなドリフトが許容されうるという利点をも有する。
【0034】
薄膜は、たとえばビームシフトピボットポイントを正確に設定して、面内に存在する条件の発見及び収束スティグメータの設定を行うために、透過型電子顕微鏡の位置合わせを補助するマーカーをさらに有して良い。これらのマーカーは、物理的なマーカーではなく膜内の穴であることが好ましい。物理的なマーカーは、拡散過程による膜の汚染を引き起こす恐れがある。穴は、面内に存在する条件を正確に設定することを可能にするため、1μm以下の直径を有することが好ましい。さらにマーカーは、環状形状を有することが好ましい。環状形状は、スティグメータの調整を単純にする。最終的に、マーカーは、たとえば100×100μm
2の面積を網羅する密なパターン内に設けられる場合に便利である。このようにして、位置合わせ部位を発見するのに正確な誘導プロトコルに依拠することなく(任意の)穴を発見するのは容易になる。
【0035】
これらの穴は、誘導目的で用いられるのであって、ゼルニケ位相板で起こるような回折電子と非回折電子との間に位相差を導入するのには用いられないことに留意して欲しい。
【0036】
薄膜は、カーボン膜であって、より具体的にはアモルファスカーボン薄膜であることが好ましい。とはいえSiN、SiB、SiC、及びSi膜の利用も同様に知られている。
【0037】
膜の厚さは、位相板上での散乱による電子損失が最小となるような厚さであることに留意して欲しい。ゼルニケ位相板とは異なり、厚さを所望の位相シフトに調整する必要はない。なぜなら位相シフトは、真空ポテンシャルによって生じるからである。カーボン膜では、望ましい最小の厚さは約10nmである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】位相板を備えるTEM100を概略的に表している。
【
図2】電子顕微鏡の軸を取り囲む領域内で照射される薄膜200を概略的に示している。
【
図3】照射後の薄膜のポテンシャルを概略的に示している。
【
図4】照射時間の関数として誘起される位相シフトを概略的に示している。
【
図5】
本発明による位相板を備えた透過型電子顕微鏡を動作させる手順を概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0039】
ここで図を用いて本発明を説明する。図中、同一の参照番号は対応する部位を指称する。
【0040】
図1は、位相板を備えるTEM100を概略的に表している。
【0041】
図1は、光軸102に沿った粒子ビーム−たとえば電子ビーム−を生成する粒子源104を示している。粒子は、典型的には80〜300keVの選択可能なエネルギーを有する。とはいえ、それよりも高いエネルギー(たとえば400keV〜1MeV)又はそれよりも低いエネルギー(たとえば50keV)が用いられても良い。粒子ビームは、試料ホルダ110と一緒になった状態で設けられる試料108に衝突する平行ビームを生成するように収束系106によって操作される。試料ホルダは、光軸に対して試料の位置を設定し、かつ、光軸に対して垂直な面内で試料を移動させ、かつ、前記光軸に対して試料を傾斜させて良い。対物レンズ112は、試料の拡大画像を生成する。対物レンズに続いて、対物レンズの後焦点面114の拡大画像を生成する拡大系116−たとえば二重レンズ−が設けられる。位相板118が、対物レンズの後焦点面の拡大画像内に設けられる。この共役面は、拡大系と投影系122との間に設けられる。位相板は、マニピュレータ120によって操作される。それにより光軸が位相板の中心に位置づけることが可能となる。投影系は、検出器124上に試料の拡大画像を生成する。それによりたとえば0.1nmの試料の詳細が明らかにされる。検出器は、蛍光スクリーン又はCCD若しくはCMOSカメラの形態をとって良い。たとえば蛍光スクリーンの場合、そのスクリーンはガラス窓126を介して視認されて良い。
【0042】
軸上での光学部品の位置合わせを行うため、TEMは、128-1…128-7で概略的に示されている多数の偏向器を有する。とはいえ他の場所では他の偏向器が含まれて良い。
【0043】
位相板はまた後焦点面自身内に設けられても良いことに留意して欲しい。その場合、拡大系116は不要である。
【0044】
位相板は通常、ホルダ構造−たとえば電子顕微鏡において広く用いられているプラチナ製アパーチャ−によって取り囲まれる薄膜として形成される。係るアパーチャを備える位相板を形成することは、標準的なアパーチャホルダが、位相板の保持及び位置設定に用いられ得るという利点を有する。加熱されたアパーチャホルダが知られ、かつ、加熱は汚染を回避するのに用いられることに留意して欲しい。
【0045】
ここで薄膜を、たとえば200keVの高線量の電子に曝露することによって、はじき出し損傷が起こる。その結果電子捕獲が起こる。これは、p型ドーパントと考えることができる。この結果生じる電子構造の変化−ここではGalvaniポテンシャルの変化と呼ばれる−は、外部ポテンシャルの局所的変化を引き起こす。
【0046】
図2は、電子顕微鏡の軸102を取り囲む領域内で照射される薄膜200を概略的に示している。その結果、領域202の電子構造が変化する一方で、非照射領域201の電子構造は変化しない。
【0047】
図3は、照射後における薄膜のポテンシャルを概略的に示している。軸から離れると、ポテンシャルは化学ポテンシャルに等しくなるが、照射領域はさらなる(負の)電子ポテンシャルを有する。
【0048】
V
2がV
1よりも小さいため、薄膜の照射部分202へ向かってその薄膜の照射部分202通り抜けて進行する非回折電子は、薄膜の他の部分を通り抜ける回折電子よりも加速されない。この結果、ビームが画像面内で干渉して画像を生成するとき、正の位相コントラストが生じる。
【0049】
図4は、照射時間の関数として誘起される位相シフトを概略的に示している。
【0050】
本願発明者等は、位相シフトが薄膜上に堆積される照射量の一次関数ではないことを発見した。このことは、電子ビームによって誘起されるGalvaniポテンシャルに上限が存在することを示唆している。本願発明者等はまた、より大きな領域(破線で示された直径125nmの照射領域)が、小さな領域(実線)と同一の合計ビーム電流を用いて照射されたときに、大きな領域では、小さな領域よりも大きな位相シフトが生じたことをも発見した。これは以下のように説明することができる。最初に最大の真空ポテンシャルが誘起されうると仮定する。続いて2つの電子ビーム同士を比較する。前記2つの電子ビームのうちの一は照射部分を通過し、かつ、前記2つの電子ビームのうちの他は前記照射部分から離れている。電子光学軸102に沿ってzが定義される。V(z)の-∞から+∞まで(より正確には試料面から画像面まで)の積分は、真空ポテンシャルに起因して異なる。照射されるスポットが成長するとき、2つの積分間での差異は、スポットのサイズに応じて変化する(ここでは同一の真空ポテンシャルであると仮定する)。従って位相シフトは、位相板の準備中に照射されるスポットのサイズを制御することによって調整されて良い。
図4に示された曲線は同一のビーム電流で得られる。大きなスポットサイズを用いることによって実現可能なより高いビーム電流を用いる結果、設定時間が速くなることは、当業者には明らかである。
【0051】
図5は、本発明による位相板を備えた透過型電子顕微鏡を動作させる手順を概略的に示している。
【0052】
段階501では、試料が透過型電子顕微鏡(TEM)内に供される。
【0053】
段階502では、実験条件が選択される。前記実験条件には、電子ビームエネルギー、スポットサイズ収束アパーチャ(ビーム電流の選択を示唆する)、倍率等が含まれる。
【0054】
段階503では、収束レンズが、試料に平行な電子ビームを照射するように設定される。
【0055】
段階504では、試料がユーセントリック高さに設定され(このとき試料は高さを変化させることなく傾斜されうる)、かつ、焦点が設定される(その結果、試料面内の平行ビームが、対物レンズの後焦点面内で集束される)。
【0056】
段階505では、標準的な顕微鏡の位置合わせが実行される。
【0057】
段階506では、位相板がビーム経路内に挿入される。ここでは位相板は、その位相板の意図しない曝露(照射)を抑制するように挿入される。
【0058】
任意の段階507では、面内に存在する条件(位相板が厳密に後焦点面内に存在するのか、又は、そこからわずかに離れているのかを示唆する)が、たとえば位相板を用いてチェックされ、かつ、必要であれば収束レンズが調節される。前述したように、わずかに面から外れるように動作させることによって、照射領域のサイズは調整/選択可能となる。位相板は後焦点面内に存在する必要はなく、その後焦点面に共役な面内に存在して良いことに留意して欲しい。
【0059】
段階508では、ビームのピボット設定がチェックされ、かつ、たとえば位相板上の部位を用いた画像シフトが、対物レンズに入射するビームを傾斜させる結果、理想的に試料面内の純粋なシフト及び対物レンズの後焦点面(及びひいては位相板が存在する面)での純粋な傾斜となることを保証する。
【0060】
段階509では、位相板が、(たとえばこれまでの実験に基づく)適切な合計期間位相板の清浄領域上にビームを保つことによって準備される。前記合計期間は、ビーム強度(ビーム電流)、ビームサイズ、及び位相板の材料に依存する。典型的にはこれは、10〜100秒の照射時間に達する。
【0061】
段階510では、ビーム電流が、試料の撮像にとって通常の撮像条件にまで減少する。その後関心領域が試料上で特定される。
【0063】
前述したように、位相板は、汚染を回避するように(たとえば100℃〜400℃の制御された温度で)加熱された位相板であって良い。その場合、段階501はまた、位相板のドリフトを無視しうるように前記温度の熱的安定化をも含まなければならない。
【0064】
最終段階510と511は、試料から十分なデータが収集されるまで繰り返されて良い。試料の再集束及び(機械的な)シフトが必要であることも考えられる。
【符号の説明】
【0065】
100 透過型電子顕微鏡
102 光軸
104 粒子源
106 収束系
108 試料
110 試料ホルダ
112 対物レンズ
114 後焦点面
116 拡大系
118 位相板
120 マニピュレータ
122 投影系
124 検出器
126 ガラス窓
128-1 偏向器
128-2 偏向器
128-3 偏向器
128-4 偏向器
128-5 偏向器
128-6 偏向器
128-7 偏向器
200 薄膜
201 非照射領域
202 照射領域