特許第6286274号(P6286274)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6286274
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】熱硬化性組成物、及び硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08F 246/00 20060101AFI20180215BHJP
【FI】
   C08F246/00
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-92870(P2014-92870)
(22)【出願日】2014年4月28日
(65)【公開番号】特開2015-209517(P2015-209517A)
(43)【公開日】2015年11月24日
【審査請求日】2016年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】特許業務法人航栄特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100115107
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 猛
(74)【代理人】
【識別番号】100151194
【弁理士】
【氏名又は名称】尾澤 俊之
(72)【発明者】
【氏名】▲鶴▼田 拓大
(72)【発明者】
【氏名】細野 貴裕
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−507521(JP,A)
【文献】 特開2013−224441(JP,A)
【文献】 特開2005−113109(JP,A)
【文献】 特表2009−525382(JP,A)
【文献】 特開2004−352781(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、熱硬化性基を有する化合物、および熱重合開始剤を含有する熱硬化性組成物であって、
該側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレートが、シクロペンタン−1,1−ジメタノールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサン−1,1−ジメタノールジ(メタ)アクリレート、2−メチルシクロヘキサン−1,1−ジメタノールジ(メタ)アクリレート、及び1−シクロヘキセン−4,4−ジメタノールジ(メタ)アクリレートより選択される化合物であり、
該熱硬化性基を有する化合物が、ウレタン変性(メタ)アクリレート類、エポキシ変性(メタ)アクリレート類、ポリエステル(メタ)アクリレート類、ポリマーポリオール系(メタ)アクリレート類、及びビスフェノールAポリエトキシ化(メタ)アクリレートより選択される化合物であり、
該側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレートの使用量が、熱硬化性組成物中の全成分に対して、0.1〜50質量%であり、
該熱重合開始剤の使用量が、該熱硬化性基を有する化合物に対して、0.01質量%〜10質量%である、
熱硬化性組成物。
【請求項2】
請求項1記載の熱硬化性組成物を硬化させてなる硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性組成物、及び該熱硬化性組成物を硬化させてなる硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルアクリレートやウレタンアクリレート、エポキシアクリレートなどの重合性ポリマー類及びオリゴマー類は、塗料、コーティング剤、接着剤、光学材料、半導体封止材などの様々な用途に使用されている。多くの重合性ポリマー類及びオリゴマー類は高粘度で作業性が悪いことから、これを改善する為に、反応性希釈剤を使用することが知られている。
このような反応性希釈剤としては、2−エチルヘキシルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボルニルアクリレートなどの単官能アクリレート類;1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレートなどの二官能アクリレート類;トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレートなどの多官能アクリレート類が用いられている。上記したアクリレート類を使用することで作業性は改善されるものの、得られる硬化物の吸水率の上昇といった物性低下の問題が生じる。本問題の解決のため、脂環式骨格を有する化合物の使用が提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08−67832号公報
【特許文献2】特開2010−159369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者の検討によると、上記した従来の脂環骨格を有する化合物を使用した場合、得られる硬化物の吸水率が低い点では優れるものの、重合性ポリマー類及びオリゴマー類との相溶性や、希釈性の観点で改善の余地があることが明らかとなった。
したがって、上記問題を解決した、粘度が低く作業性に優れるとともに吸水率が低い硬化物を得ることができる熱硬化性組成物の開発がなお望まれている。
本発明は、上記問題を解決した熱硬化性組成物、および該硬化性組成物を硬化させてなる硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、下記<1>及び<2>を提供するものであるが、それ以外の事項についても記載している。
<1>
側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、熱硬化性基を有する化合物、および熱重合開始剤を含有する熱硬化性組成物であって、
該側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレートが、シクロペンタン−1,1−ジメタノールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサン−1,1−ジメタノールジ(メタ)アクリレート、2−メチルシクロヘキサン−1,1−ジメタノールジ(メタ)アクリレート、及び1−シクロヘキセン−4,4−ジメタノールジ(メタ)アクリレートより選択される化合物であり、
該熱硬化性基を有する化合物が、ウレタン変性(メタ)アクリレート類、エポキシ変性(メタ)アクリレート類、ポリエステル(メタ)アクリレート類、ポリマーポリオール系(メタ)アクリレート類、及びビスフェノールAポリエトキシ化(メタ)アクリレートより選択される化合物であり、
該側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレートの使用量が、熱硬化性組成物中の全成分に対して、0.1〜50質量%であり、
該熱重合開始剤の使用量が、該熱硬化性基を有する化合物に対して、0.01質量%〜10質量%である、
熱硬化性組成物。
<2>
<1>に記載の熱硬化性組成物を硬化させてなる硬化物。
[1]側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、熱硬化性基を有する化合物、および熱重合開始剤を含有する熱硬化性組成物;
[2]側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレートが、下記一般式(1)で表される化合物である、[1]の熱硬化性組成物;
【0006】
【化1】
【0007】
(一般式(1)において、R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜3の炭化水素基を表し、X、及びXはそれぞれ独立して炭素数1〜3の分岐を有しても良い炭化水素基を表し、m、及びnはそれぞれ独立して0〜10を表し、Yはアクリロイル基、又はメタクリロイル基を表す。)
[3]さらに、側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールモノ(メタ)アクリレートを含有する、[1]又は[2]の熱硬化性組成物;
[4]側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールモノ(メタ)アクリレートが、下記一般式(2)で表される化合物である、[3]の熱硬化性組成物;
【0008】
【化2】
【0009】
(一般式(2)において、R〜R、X、X、m、n、及びYは前記定義のとおりである。)
[5][1]から[4]のいずれかの熱硬化性組成物を硬化させてなる硬化物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、粘度が低下し作業性に優れた熱硬化性組成物が提供される。更に、該熱硬化性組成物を熱硬化させることで、塗料、コーティング剤、接着剤、光学材料、半導体封止材等として有用な、力学的特性に優れ、かつ吸水率が低い硬化物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
〔側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート〕
側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレートの脂環骨格としては特に制限はないが、炭素数が3〜10のものが好ましい。分子中の脂環骨格は1つでもよく、2つ以上でもよい。側鎖に脂環骨格を有することにより、エステル基に起因する水素結合などの分子間相互作用が弱まり、本発明の熱硬化性組成物の粘度を低くできて、作業性および硬化物の吸水性を低く抑制できる。
側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレートとしては、下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。
【0012】
【化3】
【0013】
(一般式(1)において、R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1から3の炭化水素基を表し、X、及びXはそれぞれ独立して炭素数1から3の分岐を有しても良い炭化水素基を表し、m、及びnはそれぞれ独立して0〜10を表し、Yはアクリロイル基、又はメタクリロイル基を表す。)
【0014】
〜Rが表す、炭素数1から3の炭化水素基としては、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、ビニル基、アリル基、シクロプロピル基が挙げられる。R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子、メチル基又はエチル基であるのが好ましく、水素原子であるのがより好ましい。
【0015】
、Xが表す、炭素数1から3の分岐を有しても良い炭化水素基としては、鎖状であっても環状であってもよく、それぞれ独立に、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、1−メチルエチレン基、又は2−メチルエチレン基が挙げられ、好ましくはメチレン基、エチレン基、又は1−メチルエチレン基、2−メチルエチレン基であり、より好ましくはエチレン基、1−メチルエチレン基、又は2−メチルエチレン基である。
n及びmはそれぞれ独立して0〜10を表し、0〜5であるのが好ましく、0〜3であるのがより好ましい。
【0016】
側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレートの具体例としては、シクロプロパン−1,1−ジメタノールジ(メタ)アクリレート、シクロブタン−1,1−ジメタノールジ(メタ)アクリレート、シクロペンタン−1,1−ジメタノールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサン−1,1−ジメタノールジ(メタ)アクリレート、2−メチルシクロヘキサン−1,1−ジメタノールジ(メタ)アクリレート、1−シクロヘキセン−4,4−ジメタノールジ(メタ)アクリレート、シクロヘプタン−1,1−ジメタノールジ(メタ)アクリレート、シクロオクタン−1,1−ジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジメチルシクロオクタン−1,1−ジメタノールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。中でも入手性などを加味すると、シクロペンタン−1,1−ジメタノールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサン−1,1−ジメタノールジ(メタ)アクリレート、2−メチルシクロヘキサン−1,1−ジメタノールジ(メタ)アクリレート、1−シクロヘキセン−4,4−ジメタノールジ(メタ)アクリレートなどが好ましく、特にシクロヘキサン−1,1−ジメタノールジ(メタ)アクリレートが好ましい。これらは一種を単独で使用しても、二種以上を併用してもよい。
【0017】
側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレートの製造方法に特に制限はない。
【0018】
以下、一般式(1)で表される化合物を製造する方法を例として挙げる。
一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(3)で示されるジオール化合物(以下、ジオール化合物(3)と略称する)
【0019】
【化4】
【0020】
(一般式(3)において、R〜R、X、X、m、及びnは前記定義のとおりである。)
と(メタ)アクリル酸とのエステル化反応又は低級アルキル(メタ)アクリル酸エステルとのエステル交換反応、(メタ)アクリル酸クロライドを使用した脱塩反応により製造できる。
【0021】
ジオール化合物(3)は、m=n=0である場合には下記一般式(4)で表されるジオール化合物(以下、ジオール化合物(4)と略称する)そのものであり、それ以外の場合はジオール化合物(4)にアルキレンオキシドやハロアルコールを反応させることにより製造できる。
【0022】
【化5】
【0023】
(一般式(4)において、R〜Rは前記定義のとおりである。)
使用するアルキレンオキシドとしてはエチレンオキシド又はプロピレンオキシドが挙げられる。アルキレンオキシドは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。二種以上を用いる場合の使用するアルキレンオキシドの混合量比に特に制限はない。アルキレンオキシドの使用量に特に制限はないが、ジオール化合物(4)に対して通常、1〜10モル倍の範囲が好ましく、1〜6モル倍の範囲がより好ましい。
【0024】
使用するハロアルコールとしては、3−クロロプロパン−1−オール、3−ブロモプロパン−1−オール、3−ヨードプロパン−1−オール、2−クロロプロパン−1−オール、2−ブロモプロパン−1−オール、2−ヨードプロパン−1−オールが挙げられる。ハロアルコールは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。二種以上を用いる場合のハロアルコールの混合量比に特に制限はない。ハロアルコールの使用量に特に制限はないが、ジオール化合物(3)に対して通常、1〜10モル倍の範囲が好ましく、1〜6モル倍の範囲がより好ましい。
【0025】
ジオール化合物(4)とアルキレンオキシドとの反応は、触媒の存在下に行うことができる。
使用する触媒としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物;ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド;ピリジン、ピコリン、2 − メチルイミダゾールなどの芳香族アミンなどの塩基性物質;又は三フッ化ホウ素、四塩化スズなどのルイス酸などの酸性物質が挙げられる。これらの中でも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシドが好ましい。触媒の量はジオール化合物(4)に対して0.001〜2モル%の範囲が好ましく、0.05〜1モル%の範囲がより好ましい。
【0026】
ジオール化合物(4)とハロアルコールとの反応は、塩基性物質の存在下に行なうことができる。
使用する塩基性物質としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物;水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウムなどのアルカリ金属水素化物;金属リチウム、金属ナトリウム、金属カリウムなどのアルカリ金属などが挙げられる。塩基性化合物の使用量に制限はないが、ジオール化合物(4)の水酸基に対して1〜10モル倍の範囲が好ましく、1〜6モル倍の範囲がより好ましい。
【0027】
ジオール化合物(4)とアルキレンオキシド又はハロアルコールとの反応は、溶媒の存在下又は不存在下に実施できる。溶媒としては、例えばジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル;トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族炭化水素などが挙げられる。溶媒を使用する場合、その使用量に特に制限はないが、ジオール化合物(4)およびアルキレンオキシド又はハロアルコールの合計量に対して、通常、0.1〜5質量倍の範囲が好ましく、0.1〜2質量倍の範囲がより好ましい。
【0028】
ジオール化合物(4)とアルキレンオキシド又はハロアルコールとの反応における反応温度は、通常、20〜200℃の範囲が好ましく、50〜150℃の範囲がより好ましい。反応圧力に特に制限はなく、大気圧下でも加圧下でも実施できる。反応時間にも特に制限は無いが、通常、1〜30時間の範囲が好ましい。また、ジオール化合物(4)とアルキレンオキシド又はハロアルコールとの反応は、空気雰囲気下でも、窒素およびアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下でも実施できる。
例えば、空気雰囲気下に塩基性物質又は酸性物質とジオール化合物(4)を攪拌型反応装置に仕込んで、所定温度および所定圧力とし、そこにアルキレンオキシド又はハロアルコールを添加して所定時間攪拌することにより実施できる。
【0029】
反応終了後、必要に応じて、得られた反応混合液を、塩酸などの酸性物質の水溶液、水酸化ナトリウムなどの塩基性物質の水溶液、又は水で洗浄した後、適宜、濃縮・蒸留などの通常の精製操作を行なうことによって、ジオール化合物(3)を分離取得できる。
【0030】
以下、ジオール化合物(3)と(メタ)アクリル酸とのエステル化反応により一般式(1)で表される化合物を製造する方法について説明する。
【0031】
使用する(メタ)アクリル酸は、ジオール化合物(3)に対して通常0.5〜10モル倍が好ましく、0.8〜2モル倍がより好ましい。
【0032】
反応には、生成した水を留去しながら行うのが反応の円滑な進行の観点から好ましい。特に、反応系中に水と共沸する溶剤を共存させるのが、水を容易に分離できるため好ましく、大気圧下での沸点が通常60〜200℃、好ましくは60〜150℃の溶剤であると一層好ましい。沸点が低すぎると反応速度が低下する場合があり、高すぎると重合反応が起こる場合がある。
【0033】
水と共沸する溶剤の例としてはベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、n−ヘプタン、n−ヘキサン等の脂肪族系炭化水素等が挙げられる。水と共沸する溶剤を共存させる場合の使用量に特に制限はないが、ジオール化合物(3)と(メタ)アクリル酸との混合物に対して通常50〜300質量%が好ましく、50〜200質量%がより好ましい。
【0034】
また、酸性触媒の存在下に反応を行うのが好ましい。酸性触媒としては、パラトルエンスルホン酸、硫酸、メタンスルホン酸、スルホン酸系イオン交換樹脂などのスルホン酸系化合物が好適に使用でき、その使用量はジオール化合物(3)と(メタ)アクリル酸の混合物に対して通常2〜30質量%が好ましく、2〜10質量%がより好ましい。
【0035】
さらに、反応系内の重合を防止するために重合禁止剤を添加して反応を行うことができる。重合禁止剤としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジt−ブチルヒドロキシトルエン、ベンゾキノン、フェノチアジンパラフェニレンジアミン、エアー等が挙げられる。その使用量は、ジオール化合物(3)と(メタ)アクリル酸の混合物に対して通常0.0001〜3質量%が好ましく、0.001〜1質量%がより好ましい。これらは単独もしくは組合せて使用してもよい。
【0036】
〔熱硬化性組成物〕
側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレートは本発明の熱硬化性組成物において反応性希釈剤としての役割を有する。例えば、熱硬化性基を有する化合物[a]に側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレートを混合して粘度を低下させた後、さらに熱重合開始剤[b]を添加し、さらに必要に応じて他の反応性希釈剤[c]および/又は添加剤などを添加し、得られた熱硬化性組成物(加熱により硬化する組成物)を加熱することで硬化物を得ることができる。なお、以下、側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、熱硬化性基を有する化合物[a]および必要に応じてその他の反応性希釈剤[c]を加えた混合物を「希釈樹脂」と称することがある。
かかる熱硬化性組成物を得る場合、側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレートの使用量に特に制限はないが、熱硬化性組成物中の全成分に対して、通常、0.1〜50質量%の範囲が好ましく、0.5〜40質量%の範囲がより好ましく、1〜30質量%の範囲がさらに好ましい。
【0037】
熱硬化性基を有する化合物[a]としては特に制限はなく、公知の熱硬化性基を有する化合物又は熱硬化性基を有する樹脂を使用することができる。熱硬化性基を有する化合物としては、側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレートより粘度が高い化合物、例えばウレタン変性(メタ)アクリレート類、エポキシ変性(メタ)アクリレート類、ポリエステル(メタ)アクリレート類、ポリマーポリオール系(メタ)アクリレート類、ビスフェノールAポリエトキシ化(メタ)アクリレートなどのビニル基含有オリゴマー、ポリマー類などが挙げられる。これら熱硬化性基を有する化合物[a]は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。熱硬化性基を有する化合物[a]の使用量は、熱硬化性組成物全量に対して、5〜95質量%の範囲が好ましい。
【0038】
熱重合開始剤[b]としては、熱によりラジカルを発生する硬化剤が挙げられ、例えば、ジt−ブチルパーオキシカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシジネオデカノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジt−アミルパーオキサイド、ジt−ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物;2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−’アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビスイソブチレート、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカーボニトリル)などのアゾ化合物などが挙げられるが、これらに限定されない。
これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
熱重合開始剤[b]の使用量は、熱硬化性組成物中の熱硬化性基を有する化合物[a]に対して、通常0.01質量%〜10質量%の範囲が好ましく、0.03〜5質量%の範囲がさらに好ましい。上記の熱重合開始剤[b]に加えて、光重合開始剤を併用してもよい。
【0039】
他の反応性希釈剤[c]としては、側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート以外の、樹脂組成物において通常用いられる反応性希釈剤であれば特に限定は無く、例えば2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、イソボルニルアクリレート、ノニルフェノールポリエトキシ化(メタ)アクリレート、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールモノ(メタ)アクリレートなどの単官能(メタ)アクリレート類;1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの二官能(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリエトシキ化トリ(メタ)アクリレートなどの多官能(メタ)アクリレート類;側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールモノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
中でも、側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールモノ(メタ)アクリレートを反応性希釈剤[c]として用いるのが、得られる熱硬化性組成物を硬化してなる硬化物の吸水率を低くできる傾向となるため好ましい。脂環骨格としては特に制限はないが、炭素数が3〜10のものが好ましい。分子中の脂環骨格は1つでもよく、2つ以上でもよい。
【0040】
側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールモノ(メタ)アクリレートとしては、下記一般式(2)で表される化合物が好ましい。
【0041】
【化6】

(一般式(2)において、R〜R、X、X、m、n、及びYは前記定義のとおりである。)
【0042】
側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールジモノ(メタ)アクリレートの具体例としては、シクロプロパン−1,1−ジメタノールモノ(メタ)アクリレート、シクロブタン−1,1−ジメタノールモノ(メタ)アクリレート、シクロペンタン−1,1−ジメタノールモノ(メタ)アクリレート、シクロヘキサン−1,1−ジメタノールモノ(メタ)アクリレート、2−メチルシクロヘキサン−1,1−ジメタノールモノ(メタ)アクリレート、1−シクロヘキセン−4,4−ジメタノールモノ(メタ)アクリレート、シクロヘプタン−1,1−ジメタノールモノ(メタ)アクリレート、シクロオクタン−1,1−ジメタノールモノ(メタ)アクリレート、ジメチルシクロオクタン−1,1−ジメタノールモノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。中でも入手性などを加味すると、シクロペンタン−1,1−ジメタノールモノ(メタ)アクリレート、シクロヘキサン−1,1−ジメタノールモノ(メタ)アクリレート、2−メチルシクロヘキサン−1,1−ジメタノールモノ(メタ)アクリレート、1−シクロヘキセン−4,4−ジメタノールモノ(メタ)アクリレートなどが好ましく、特にシクロヘキサン−1,1−ジメタノールモノ(メタ)アクリレートが好ましい。これらは一種を単独で使用しても、二種以上を併用してもよい。
側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールモノ(メタ)アクリレートは、側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレートと同様の方法により製造できる。
【0043】
他の反応性希釈剤[c]を添加する場合、その添加量は、本発明における側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレートの効果が損なわれない範囲であるのが好ましく、熱硬化性組成物中の全成分に対して、通常0.1〜30質量%の範囲が好ましく、0.5〜20質量%の範囲がより好ましい。
【0044】
本発明の熱硬化性組成物には、必要に応じてさらにポリブタジエン、CTBN(末端カルボン酸変性ニトリルブタジエンゴム)などの改質剤;酸化チタン、カーボンブラック、レーキレッドC、トルイジンレッド、銅フタロシアニンなどの顔料;2,6−ジt−ブチル−4−メチルフェノール、6−エトキシ−1,2−ジヒドロ−2,2,4−トリメチルキノリンなどの安定剤;炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、カオリンクレー、シリカなどの充填剤;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、デカブロモジフェニルオキサイド、トリフェニルホスファイトなどの難燃剤;アクリル系共重合物、シリコーンなどの消泡剤;フッ素系界面活性剤などのレべリング剤;n−ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)−フェノール、イミダゾール、トリフェニルホスフィン、テトラ−n−ブチルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリメチルアンモニウムフェノキシド、金属硝酸塩(硝酸マグネシウム、硝酸マンガンなど)、トリフルオロメタンスルホン酸およびその塩、過塩素酸マグネシウム、過塩素酸カルシウムなどの硬化促進剤;アントラセン、ペリレン、チオキサントン、アセトフェノンなどの増感剤などの添加剤を含有させてもよい。
添加剤を含有させる場合、その量に特に制限はなく、用途に応じて任意に定めることができる。
【0045】
本発明の熱硬化性組成物の硬化条件は、側鎖に脂環骨格を有する1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、熱硬化性基を有する化合物[a]、熱重合開始剤[b]、必要に応じて他の反応性希釈剤[c]および添加剤の使用量により変化するため特に制限はないが、熱により硬化する熱重合開始剤を用いる場合、通常0〜200℃の範囲で加熱することにより硬化を行なう。加熱時間は温度によって異なり、0〜40℃であれば通常30分〜30日間、40〜200℃であれば通常10分〜30時間の範囲である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例における物性値の測定は、下記の方法により行なった。
【0047】
[粘度]
各実施例および比較例において、粘度はB型粘度計(株式会社トキメック製、商品名:TVB−20L)を用いて25℃にて測定した。
【0048】
[吸水率]
20mm×10mm×3mmの試験片を用いて、JIS K 7209(A法)に準じて吸水率を測定した。すなわち、恒温槽で23℃に保った蒸留水に試験片を50時間浸漬し、試験前の試験片の質量と試験後の試験片の質量から、下式に従い、吸水率を算出した。
吸水率(%)=(m−m)/m×100
但し、m:試験前の試験片の質量(g)
:試験後の試験片の質量(g)
【0049】
<合成例1;シクロヘキサン−1,1−ジメタノールジアクリレート>
容量500mlの三つ口フラスコにシクロヘキサン−1,1−ジメタノール60g、パラトルエンスルホン酸2水和物13g、トルエン120g、シクロヘキサン60g、パラメトキシハイドロキノン6.54gを採取し、室温で溶解させた。ここにアクリル酸91.2gを添加した後、圧力60kPa、内温80℃で撹拌し、生成する水を系外に除去しながら7時間反応を行なった。反応液を室温まで冷却後、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液100mlで2回、蒸留水100mlで2回洗浄し、得られた有機層にパラメトキシハイドロキノン12mgを添加したのち、減圧下で溶媒を留去して粗生成物を得た。得られた粗生成物を減圧下で蒸留(2.0kPa、145℃)し、無色透明液体としてシクロヘキサン−1,1−ジメタノールジアクリレート75.6gを得た。
【0050】
<合成例2;シクロヘキサン−1,4−ジメタノールジアクリレート>
容量500mlの三つ口フラスコにシクロヘキサン−1,4−ジメタノール60g、パラトルエンスルホン酸2水和物13g、トルエン120g、シクロヘキサン60g、パラメトキシハイドロキノン6.54gを採取し、室温で溶解させた。ここにアクリル酸91.2gを添加した後、圧力60kPa、内温80℃で撹拌し、生成する水を系外に除去しながら7時間反応を行なった。反応液を室温まで冷却後、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液100mlで2回、蒸留水100mlで2回洗浄し、得られた有機層にパラメトキシハイドロキノン12mgを添加したのち、減圧下で溶媒を留去して淡黄色固体の粗生成物を得た。得られた粗生成物を酢酸エチル85gに溶解し、ここにn−ヘキサン300gを加えて目的物を析出させた。得られた固体をろ過し、減圧下で乾燥させることにより白色固体としてシクロヘキサン−1,4−ジメタノールジアクリレート60.8gを得た。
【0051】
<実施例1>
反応性希釈剤として合成例1で得られたシクロヘキサン−1,1−ジメタノールジアクリレート30質量部、ビスフェノールAポリエトキシ化ジアクリレート70質量部(商品名;アロニックスM−211B、東亜合成株式会社製)70質量部を配合し、希釈樹脂を調製した。この希釈樹脂の粘度を測定したところ241mPa・sであり、取り扱い性は良好であった。この希釈樹脂100質量部にアゾビスイソブチロニトリル0.2質量部を配合して硬化性組成物を調製した。この硬化性組成物を70℃で1.5時間、次いで120℃で2時間硬化させて、吸水率評価用の試験片としての硬化物を得た。
【0052】
<比較例1>
ビスフェノールAポリエトキシ化ジアクリレート(商品名;アロニックスM−211B、東亜合成株式会社製)そのものの粘度を測定したところ993mPa・sと高粘度であり、取り扱い性は悪かった。このビスフェノールAポリエトキシ化ジアクリレート100質量部にアゾビスイソブチロニトリル0.2質量部を配合して硬化性組成物を調製した。この硬化性組成物を70℃で1.5時間、次いで120℃で2時間硬化させて、吸水率評価用の試験片としての硬化物を得た。
【0053】
<比較例2>
反応性希釈剤としてシクロヘキサン−1,1−ジメタノールジアクリレートに替えて、ネオペンチルグリコールジアクリレート(東京化成工業株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様に希釈樹脂を調製した。この希釈樹脂の粘度を測定したところ156mPa・sであり、取り扱い性は良好であった。この希釈樹脂100質量部にアゾビスイソブチロニトリル0.2質量部を配合して硬化性組成物を調製した。この硬化性組成物を70℃で1.5時間、次いで120℃で2時間硬化させて、吸水率評価用の試験片としての硬化物を得た。
【0054】
<比較例3>
反応性希釈剤としてシクロヘキサン−1,1−ジメタノールジアクリレートに替えて、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(商品名;A−DCP、新中村化学株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様に希釈樹脂を調製した。この希釈樹脂の粘度を測定したところ632mPa・sと高粘度であり、取り扱い性は悪かった。この希釈樹脂100質量部にアゾビスイソブチロニトリル0.2質量部を配合して硬化性組成物を調製した。この硬化性組成物を70℃で1.5時間、次いで120℃で2時間硬化させて、吸水率評価用の試験片としての硬化物を得た。
【0055】
<比較例4>
シクロヘキサン−1,1−ジメタノールジアクリレートに替えて、合成例2で得られたシクロヘキサン−1,4−ジメタノールジアクリレートを用いた以外は、実施例1と同様に希釈樹脂を調製しようと試みたが、シクロヘキサン−1,4−ジメタノールジアクリレートが溶解せず、均一な希釈樹脂は得られなかった。
【0056】
上記した実施例1、比較例1〜3で得られた硬化物について、吸水率を測定した。希釈樹脂の粘度測定結果とあわせて表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
本発明のジ(メタ)アクリレート(1)を反応性希釈剤として用いて希釈樹脂を得た場合(実施例1)には、反応性希釈剤を用いない比較例1、および他の脂環式骨格を有する反応性希釈剤を用いた比較例3や比較例4よりも低粘度で相溶性の良好な取り扱い性に優れた硬化性組成物が得られた。ネオペンチルグルコールジアクリレートを反応性希釈剤として用いた硬化性組成物より得られた硬化物の吸水率は高くなった(比較例2参照)が、本発明のジ(メタ)アクリレート(1)を使用した場合(実施例1)には、比較例1と同等の吸水率を保つことがわかった。