【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人科学技術振興機構、国際科学技術共同研究推進事業・地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム「デング出血熱等に対するヒト型抗体による治療法の開発と新規薬剤候補物質の探索」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【氏名又は名称原語表記】Department of Medical Sciences, Ministry of Public Health, Thailand
【文献】
LEE, M.S. et al.,"Production and characterization of monoclonal antibody to botulinum neurotoxin type B light chain by phage display.",HYBRIDOMA,2008年 2月,Vol.27, No.1,P.18-24
【文献】
GARCIA-RODRIGUEZ, C. et al.,"Neutralizing human monoclonal antibodies binding multiple serotypes of botulinum neurotoxin.",PROTEIN ENGINEERING, DESIGN & SELECTION,2011年 3月,Vol.24, No.3,P.321-331
【文献】
ZHOU, H. et al.,"Selection and characterization of a human monoclonal neutralizing antibody for Clostridium Botulinum neurotoxin serotype B.",BIOORGANIC & MEDICINAL CHEMISTRY LETTERS,2009年 2月 1日,Vol.19, No.3,P.662-664
【文献】
KUBOTA-KOKETSU, R. et al.,"Broad neutralizing human monoclonal antibodies against influenza virus from vaccinated healthy donars.",BIOCHEM. BIOPHYS. RES. COMMUN.,2009年 9月11日,Vol.387, No.1,P.180-185
【文献】
WANG, H. et al.,"A new neutralizing antibody against botulinum neurotoxin B recognizes the protein receptor binding sites for synaptotagmins II.",MICROBES AND INFECTION,2010年11月,Vol.12, No.12-13,P.1012-1018
【文献】
YANG, G.H. et al.,"Isolation and characterization of a neutralizing antibody specific to internalization domain of Clostridium botulinum neurotoxin type B.",TOXICON,2004年 7月,Vol.44, No.1,P.19-25
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
B型ボツリヌス神経毒素に対する中和活性を有する単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントが本発明に従って提供される。モノクローナル抗体は、ヒトモノクローナル抗体、ヒト化モノクローナル抗体、又はそれら両方を含み得る。単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントは、B型ボツリヌス神経毒素のプロジェニター毒素に対する中和活性を有し得る。単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントは、
Clostridium botulinum B型のBoNT/B1(Okra株)、
Clostridium botulinum B型のBoNT/B2(111株)、
Clostridium botulinum B型のBoNT/B6(Osaka05株)、又はそれらの任意の組合せにより産生されるB型ボツリヌス神経毒素に対する中和活性を有し得る。したがって単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントは、B型ボツリヌス神経毒素(BoNT/B)の軽鎖に対して特異的な結合活性を有し得る。
【0019】
抗体又はそのフラグメントは、任意の好適な技法を用いて作製することができる。例えば、単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体は、B型ボツリヌス神経毒素によって免疫付与されたヒト由来の末梢血単核細胞(PBMC)を、効率的な細胞融合を可能とする融合パートナー細胞と融合させることにより作製されるハイブリドーマが産生することができる。B型ボツリヌス神経毒素は、
Clostridium botulinum B型のBoNT/B1(Okra株)、
Clostridium botulinum B型のBoNT/B2(111株)、
Clostridium botulinum B型のBoNT/B6(Osaka05株)、又はそれらの任意の組合せの産物とすることができる。任意の好適な融合パートナー細胞、例えばSPYMEG細胞を使用することができる。
【0020】
本発明の抗体又はそのフラグメントを産生するハイブリドーマも本発明により提供される。例えば、ハイブリドーマの寄託番号はNITE BP-01639又はNITE BP-01640であり得る。寄託番号がNITE BP-01639又はNITE BP-01640のハイブリドーマにより産生される単離されたモノクローナル抗体も提供される。上記のような得られるモノクローナル抗体の例としては、「Hybridoma M-2(M1E9)」と呼ばれるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体(以下、M-2抗体と呼ぶ)及び「Hybridoma M-4(M4C9)」と呼ばれるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体(以下、M-4抗体と呼ぶ)が挙げられる。これらのハイブリドーマは、製品評価技術基盤機構(NITE)、特許微生物寄託センター(日本国、〒292-0818千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)において寄託番号NITE BP-01639及び寄託番号NITE BP-01640で2013年6月26日に寄託された。その後、これらのハイブリドーマは同じ番号でブタペスト条約下の国際寄託へと移行した。
【0021】
単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントは、IgG、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA、IgA1、IgA2、IgD、IgE、それらの任意のフラグメント、又はそれらの任意の組合せとすることができる。抗体フラグメントは例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、scFv、dsFv、又はそれらの組合せを含み得る。単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントは重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域を含み得る。例えば、重鎖可変領域は、配列番号5又は配列番号19を含む第1のアミノ酸配列を有する第1の相補性決定領域(CDR1)、配列番号6又は配列番号20を含む第2のアミノ酸配列を有する第2の相補性決定領域(CDR2)、及び配列番号7又は配列番号21を含む第3のアミノ酸配列を有する第3の相補性決定領域(CDR3)を含み得る。軽鎖可変領域は、例えば配列番号12又は配列番号26を含む第4のアミノ酸配列を有する第1の相補性決定領域(CDR1)、配列番号13又は配列番号27を含む第5のアミノ酸配列を有する第2の相補性決定領域(CDR2)、及び配列番号14又は配列番号28を含む第6のアミノ酸配列を有する第3の相補性決定領域(CDR3)を含み得る。
【0022】
別の例では、重鎖可変領域は、配列番号5を含む第1のアミノ酸配列を有する第1の相補性決定領域(CDR1)、配列番号6を含む第2のアミノ酸配列を有する第2の相補性決定領域(CDR2)、及び配列番号7を含む第3のアミノ酸配列を有する第3の相補性決定領域(CDR3)を含み得る。軽鎖可変領域は、配列番号12を含む第4のアミノ酸配列を有する第1の相補性決定領域(CDR1)、配列番号13を含む第5のアミノ酸配列を有する第2の相補性決定領域(CDR2)、及び配列番号14を含む第6のアミノ酸配列を有する第3の相補性決定領域(CDR3)を含み得る。
【0023】
更に別の例では、重鎖可変領域は、配列番号19を含む第1のアミノ酸配列を有する第1の相補性決定領域(CDR1)、配列番号20を含む第2のアミノ酸配列を有する第2の相補性決定領域(CDR2)、及び配列番号21を含む第3のアミノ酸配列を有する第3の相補性決定領域(CDR3)を含み得る。軽鎖可変領域は、例えば配列番号26を含む第4のアミノ酸配列を有する第1の相補性決定領域(CDR1)、配列番号27を含む第5のアミノ酸配列を有する第2の相補性決定領域(CDR2)、及び配列番号28を含む第6のアミノ酸配列を有する第3の相補性決定領域(CDR3)を含み得る。更なる例では、重鎖可変領域は配列番号3又は配列番号17を含み、軽鎖可変領域は配列番号10又は配列番号24を含み得る。
【0024】
医薬組成物が本発明により提供される。医薬組成物は、1種又は複数種の単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体及びその抗原結合フラグメントと、薬理学的に許容可能な担体とを含有し得る。医薬組成物は、抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体と薬理学的に許容可能な担体とを含有し得る。医薬組成物は、2種の単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体、その抗原結合フラグメント、又はそれら両方を含有し得る。医薬組成物は第1の抗体と第2の抗体とを含有し得る。第1の単離されたヒトモノクローナル抗体又は抗原結合フラグメントとしては、例えば(1)配列番号5を含む第1のアミノ酸配列を有する第1の相補性決定領域(CDR1)、配列番号6を含む第2のアミノ酸配列を有する第2の相補性決定領域(CDR2)、及び配列番号7を含む第3のアミノ酸配列を有する第3の相補性決定領域(CDR3)を含む重鎖可変領域と、配列番号12を含む第4のアミノ酸配列を有する第1の相補性決定領域(CDR1)、配列番号13を含む第5のアミノ酸配列を有する第2の相補性決定領域(CDR2)、及び配列番号14を含む第6のアミノ酸配列を有する第3の相補性決定領域(CDR3)を含む軽鎖可変領域とを含む、単離されたヒトモノクローナル抗体又は抗原結合フラグメントが挙げられ得る。第1の単離されたヒトモノクローナル抗体又は抗原結合フラグメントとしては、例えば(2)配列番号3を含む重鎖可変領域と配列番号10を含む軽鎖可変領域とを含む、単離されたヒトモノクローナル抗体又は抗原結合フラグメントが挙げられ得る。第1の単離されたヒトモノクローナル抗体又は抗原結合フラグメントとしては、例えば(3)寄託番号NITE BP-01639のハイブリドーマにより産生される単離されたモノクローナル抗体が挙げられ得る。第1の単離されたヒトモノクローナル抗体又は抗原結合フラグメントとしては、例えば上記の任意の組合せが挙げられ得る。第2の単離されたヒトモノクローナル抗体又は抗原結合フラグメントとしては、例えば(4)配列番号19を含む第1のアミノ酸配列を有する第1の相補性決定領域(CDR1)、配列番号20を含む第2のアミノ酸配列を有する第2の相補性決定領域(CDR2)、及び配列番号21を含む第3のアミノ酸配列を有する第3の相補性決定領域(CDR3)を含む重鎖可変領域と、配列番号26を含む第4のアミノ酸配列を有する第1の相補性決定領域(CDR1)、配列番号27を含む第5のアミノ酸配列を有する第2の相補性決定領域(CDR2)、及び配列番号28を含む第6のアミノ酸配列を有する第3の相補性決定領域(CDR3)を含む軽鎖可変領域とを含む、単離されたヒトモノクローナル抗体又は抗原結合フラグメントが挙げられ得る。第2の単離されたヒトモノクローナル抗体又は抗原結合フラグメントとしては、例えば(5)配列番号17を含む重鎖可変領域と配列番号24を含む軽鎖可変領域とを含む、単離されたヒトモノクローナル抗体又は抗原結合フラグメントが挙げられ得る。第2の単離されたヒトモノクローナル抗体又は抗原結合フラグメントとしては、例えば(6)寄託番号NITE BP-01640のハイブリドーマにより産生される単離されたモノクローナル抗体が挙げられ得る。第2の単離されたヒトモノクローナル抗体又は抗原結合フラグメントとしては、例えば上記の任意の組合せが挙げられ得る。
【0025】
単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体を作製する方法が本発明により提供される。この方法は、B型ボツリヌス神経毒素によって免疫付与されたヒト由来の末梢血単核細胞(PBMC)を、効率的な細胞融合を可能とする融合パートナー細胞と融合させることによりハイブリドーマを作製することを含み得る。この方法は、ハイブリドーマから抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体を得ることを更に含み得る。B型ボツリヌス神経毒素は、例えば
Clostridium botulinum B型のBoNT/B1(Okra株)、
Clostridium botulinum B型のBoNT/B2(111株)、
Clostridium botulinum B型のBoNT/B6(Osaka05株)、又はそれらの任意の組合せにより産生される。融合パートナー細胞は、例えばSPYMEG細胞とすることができる。
【0026】
ヒト対象におけるB型ボツリヌス神経毒素中毒の予防、治療及び検出に係る少なくとも1つに対するキットが本発明によって提供される。このキットは本発明の単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体、その抗原結合フラグメント、又はそれら両方を含み得る。このキットはB型ボツリヌス神経毒素中毒を治療及び/又は検出するための1つ又は複数の付加的な作用物質も含み得る。このキットは、1又は複数の付加的な型、例えばA型のボツリヌス神経毒素を治療及び/又は検出するための1又は複数の作用物質も含み得る。ヒト対象に対するボツリヌス中毒症を阻害又は治療用の医薬の製造のための単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体、その抗原結合フラグメント、又はそれら両方の使用も本発明により提供される。
【0027】
ヒト対象へのボツリヌス中毒症を阻害又は治療する方法が本発明により提供される。この方法は、単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体、その抗原結合フラグメント、又はそれら両方を治療的に有効量ヒト対象に投与することを含み得る。この方法は患者をボツリヌス神経毒素中毒と診断することを更に含み得る。この方法はボツリヌス中毒症の少なくとも1つの症状の軽減をモニタリングすることを含み得る。少なくとも1つの症状としては、例えば麻痺、対称性脳神経麻痺、対称性下行性弛緩麻痺、随意筋の対称性麻痺、咽頭虚脱、呼吸停止、不乳、嚥下不能、弱声、眼瞼下垂、顔面麻痺、瞳孔固定、瞳孔散大、霧視、垂首(floppy neck)、全身性弛緩、全身性脱力、複視、構音障害、発声障害、嚥下障害、無汗、粘膜紅斑、体位性低血圧、悪心、便秘、尿閉、目眩、口渇、咽頭痛、発育不全(suppressed:抑うつ)、絞扼反射、全身の筋反射喪失、ボツリヌス中毒症の任意の他の症状、又はそれらの任意の組合せが挙げられ得る。対象について、任意のタイプのボツリヌス中毒症、例えば食品媒介性ボツリヌス中毒症、創傷感染ボツリヌス中毒症、小児腸毒血症ボツリヌス中毒症、成人腸毒血症ボツリヌス中毒症、医原性ボツリヌス中毒症、空気媒介性ボツリヌス中毒症、又はそれらの任意の組合せに対して、阻害又は治療することができる。
【0028】
ヒト対象のボツリヌス中毒症を阻害又は治療する方法は、単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体、その抗原結合フラグメント、又はそれら両方を、ボツリヌス中毒症に関する1又は複数の追加の治療法と組み合わせて投与することを含み得る。併用療法はボツリヌス中毒症を阻害又は治療するのに相乗的に作用し得る。1又は複数の追加の治療法は、例えば第2の単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体、その抗原結合フラグメント、又はそれら両方を投与することを含み得る。1又は複数の追加の治療法は、例えば単離された抗A型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体、その抗原結合フラグメント、又はそれら両方を投与することを含み得る。1又は複数の追加の治療法は、例えば1若しくは複数の抗生物質、例えばペニシリン、又はそれらの任意の組合せを含み得る。
【0029】
ヒト対象におけるB型ボツリヌス神経毒素を検出する方法が本発明により提供される。この方法はヒト対象由来の検体と単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体、その抗原結合フラグメント、又はそれら両方に接触させることを含み得る。この方法は、抗体、そのフラグメント、又はそれら両方がB型ボツリヌス神経毒素に結合するか否かに基づいてヒト対象においてB型ボツリヌス神経毒素の有無を検出することも含み得る。この方法は1又は複数の付加的な型、例えばA型のボツリヌス神経毒素を検出することを更に含み得る。
【0030】
抗ボツリヌス神経毒素抗体及びその抗原結合フラグメントを含有するポリペプチド、並びにそれらを用いる方法、使用、組成物及びキットが提供される。特に指定のない限り、本出願において記載され、特許請求される単離されたモノクローナル抗体及びその抗原結合フラグメントは天然産物ではない。これらのモノクローナル抗体及びその抗原結合フラグメントは、ハイブリドーマ又は様々な実験法を用いて作製された同等の人工細胞系の産物である。治療、診断若しくは他の目的の抗体若しくはその抗原結合フラグメント、これを含む組成物、これを含むキット、及び/又は非自然発生的な抗体若しくは抗体フラグメントを使用する方法は、明示的に指定されていない限りこのようなものに限定されない。
【0031】
ボツリヌス神経毒素に特異的な抗体又はそのポリペプチド若しくはフラグメントを形成する方法が提供される。かかる方法は、ボツリヌス神経毒素抗原ポリペプチド又はその免疫学的に特異的なエピトープを含有するポリペプチドをコードする核酸を準備することと、単離核酸から抗原アミノ酸配列を含有するポリペプチド又はその免疫学的に特異的なエピトープを含有するポリペプチドを発現することと、得られるポリペプチドに特異的な抗体又はその抗原結合フラグメントを含有するポリペプチドを生成することとを含有し得る。上述の方法によって作製される、抗体又はその抗原結合フラグメントを含有するポリペプチドが提供される。ボツリヌス神経毒素抗原に特異的に結合する、単離抗体又はその抗原結合フラグメントを含有する単離ポリペプチドが提供される。かかる抗体は当該技術分野で既知の任意の許容可能な方法(複数の場合もあり)を用いて生成することができる。抗体、並びに抗体を用いるキット、方法及び/又は本発明の他の態様は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、一価抗体、ダイアボディ、及び/又はヒト化抗体の内の1つ又は複数を含み得る。
【0032】
自然発生的な抗体構造単位は通常、四量体を含有する。かかる四量体はそれぞれ、各対が1本の完全長「軽」鎖(例えば約1 kDa〜25 kDa)と、1本の完全長「重」鎖(例えば約50〜70 kDa)とを有する、2つの同一のポリペプチド鎖対で構成され得る。各鎖のアミノ末端部は通常、抗原認識に通常関与する約100アミノ酸〜110アミノ酸以上の可変領域を含む。各鎖のカルボキシ末端部は通常、エフェクター機能に関与し得る定常領域を規定する。ヒト軽鎖は通常、κ軽鎖及びλ軽鎖に分類される。重鎖は通常、μ、δ、γ、α又はεに分類され、抗体のアイソタイプはそれぞれ、IgM、IgD、IgG、IgA及びIgEと規定される。IgGは、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含むが、これらに限定されない幾つかのサブクラスを有する。IgMは、IgM1及びIgM2を含むが、これらに限定されないサブクラスを有する。IgAも同様に、IgA1及びIgA2を含むが、これらに限定されないサブクラスに細分される。軽鎖及び重鎖において、可変領域及び定常領域は、約12アミノ酸以上の「J」領域によって連結され、重鎖は更に、約10アミノ酸以上の「D」領域を含む。例えば、Fundamental Immunology Ch. 7 (Paul, W., ed., 2nd ed. Raven Press, N. Y. (1989))を参照されたい。各軽鎖/重鎖対の可変領域は通常、抗原結合部位を形成する。
【0033】
可変領域は通常、3つの相補性決定領域すなわちCDRとも呼ばれる超可変領域によって連結される比較的保存されたフレームワーク領域(FR)の同じ一般構造を示す。各対の2つの鎖のCDRは通常、フレームワーク領域によってアラインされ、これにより特異的なエピトープとの結合が可能となる。軽鎖及び重鎖の可変領域いずれも通常、N末端からC末端にかけてFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3及びFR4のドメインを含有する。アミノ酸の各ドメインへの割り当ては通常、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1987 and 1991))又はChothia & Lesk J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987)、Chothia et al., Nature 342:878-883 (1989)の定義に従うものとする。
【0034】
「抗体フラグメント」は、インタクト抗体の一部、例えばインタクト抗体の抗原結合領域又は可変領域を含む。抗体フラグメントの例としては、Fab、Fab1、F(ab')2及びFvフラグメント;ダイアボディ;線形抗体(Zapata et al., Protein Eng. 8(10): 1057-1062 [1995]);一本鎖抗体分子;並びに抗体フラグメントから形成される多重特異的抗体が挙げられる。抗体のパパイン消化によって、それぞれが単一の抗原結合部位を有する、「Fab」フラグメントと呼ばれる2つの同一の抗原結合フラグメントと、容易に結晶化する能力を反映した呼称である残る「Fc」フラグメントとが生じる。ペプシン処理によって、2つの抗原結合部位を有し、依然として抗原と架橋することが可能であるF(ab')2フラグメントが得られる。「Fv」は完全な抗原認識結合部位(antigen-recognition and -binding site)を含有する抗体フラグメントである。この領域には、密接な非共有結合的に結び付いた、1つの重鎖可変ドメインと1つの軽鎖可変ドメインとの二量体が含まれる。単一の可変ドメイン(又は抗原に特異的な3つのCDRのみを含有するFvの半分)は抗原を認識及び結合することができる。「一本鎖Fv」すなわち「sFv」抗体フラグメントには、抗体のVHドメインとVLドメインとが含まれ、これらのドメインは単一のポリペプチド鎖に存在する。Fvポリペプチドは更に、VHドメインとVLドメインとの間にポリペプチドリンカーを含有することができ、これによりsFvが抗原結合に所望の構造を形成することが可能となる。sFvの概要については、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg and Moore eds., Springer- Verlag, New York, pp. 269-315 (1994)を参照されたい。
【0035】
抗体をプローブ、治療的処置及び他の用途に使用することができる。抗体は、マウス、ウサギ、ヤギ又は他の動物に翻訳産物又はその合成ペプチドフラグメントを注入することにより作製することができる。これらの抗体は診断アッセイに又は医薬組成物における活性成分として有用である。
【0036】
投与する抗体又はポリペプチドは、機能的作用物質と複合体を形成して、イムノコンジュゲート(immunoconjugate)を形成することができる。機能的作用物質は、化学療法剤、毒素(例えば細菌、真菌、植物若しくは動物起源の酵素的に活性な毒素又はそのフラグメント)、若しくは放射性同位体(すなわちラジオコンジュゲート(radioconjugate))等の細胞毒性剤、抗生物質、核酸分解酵素、又はそれらの任意の組合せであり得る。化学療法剤、例えばメトトレキサート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシン若しくは他の挿入剤、核酸分解酵素等の酵素及び/又はそのフラグメント、抗生物質、並びに毒素、例えばそのフラグメント及び/又は変異体を含む、小分子毒素又は細菌、真菌、植物若しくは動物起源の酵素的に活性な毒素、並びに下記に開示される様々な抗腫瘍剤又は抗がん剤をイムノコンジュゲートの生成に使用することができる。使用することができる酵素的に活性な毒素及びそのフラグメントとしては例えば、ジフテリア毒素A鎖、ジフテリア毒素の非結合活性フラグメント、エクソトキシンA鎖(シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)由来のもの)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、α−サルシン、シナアブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、ジアンチン(dianthin)タンパク質、ヨウシュヤマゴボウ(正:Phytolacca americana)タンパク質(PAPI、PAPII、及びPAP-S)、ツルレイシ(momordica charantia)阻害剤、クルシン、クロチン、サボンソウ(saponaria officinalis)阻害剤、ゲロニン、ミトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン、フェノマイシン(phenomycin)、エノマイシン(enomycin)、及びトリコテセン(trichothecenes)が挙げられる。当該技術分野で知られる又はそうでなければ入手可能な任意の適切な放射性ヌクレオチド又は放射性作用物質を、ラジオコンジュゲートを抱合する(radioconjugated)抗体を産生するのに使用することができる。
【0037】
抗体と細胞毒性剤との複合体は、多様な二官能性タンパク質カップリング剤、例えばN-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオール)プロピオネート(SPDP);イミノチオラン(IT);イミドエステルの二官能性誘導体(アジプイミド酸ジメチルHcL等);活性エステル(スベリン酸ジサクシンイミジル等);アルデヒド(グルタルアルデヒド等);ビス−アジド化合物(ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン等);ビス−ジアゾニウム誘導体(ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン等);ジイソシアネート(トリエン2,6-ジイソシアネート等);ビス活性(bis-active)フッ素化合物(1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン等);マレイミドカプロイル(MC);バリン−シトルリン、プロテアーゼ開裂リンカーにおけるジペプチド部位(VC);2-アミノ-5-ウレイドペンタン酸PAB(=p-アミノベンジルカルバモイル)(リンカーの「自壊(self immolative)」部分)(シトルレン(Citrulene));N-メチル−バリンシトルリン(ここではリンカーペプチド結合が、カテプシンBによる開裂を防ぐように修飾されている)(Me);抗体のシステインに結合するマレイミドカプロイル−ポリエチレングリコール;N-スクシンイミジル4-(2-ピリジルチオ)ペンタノエート(SPP);及びN-スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)を用いて作製することができる。例えば、免疫毒素であるリシンを、Vitetta et al., Science, 238: 1098 (1987)に記載のように調製することができる。14C(Carbon-14)で標識された1−イソチオシアナトベンジル-3-メチルジエチレントリアミン五酢酸(MX-DTPA)は、放射性ヌクレオチドと抗体との複合体形成に関する例示的なキレート剤である。国際公開第94/11026号を参照されたい。抗体は腫瘍の事前標的化に用いられる「受容体」(ストレプトアビジン等)と複合体を形成することができ、抗体−受容体複合体を対象に投与した後、清澄剤を用いて、血液循環から結合していない複合体を除去して、それから細胞毒性剤(例えば放射性ヌクレオチド)と複合体形成する「リガンド」(例えばアビジン)を投与する。
【0038】
本発明の抗体は、当該技術分野で既知の技法によって検出可能なマーカーと直接又は間接的に共役することができる。検出可能なマーカーは、例えば分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、又は化学的な手段によって検出可能な作用物質である。有用な検出可能なマーカーとしては、蛍光色素、化学発光化合物、放射性同位体、高電子密度試薬、酵素、着色粒子、ビオチン又はジオキシゲニンが挙げられるが、これらに限定されない。検出可能なマーカーは、往々にして放射能、蛍光、色又は酵素活性等の測定可能なシグナルを発生する。検出可能な作用物質と複合体形成する抗体を診断目的又は治療目的に使用することができる。検出可能な作用物質の例としては、様々な酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質、生物発光物質、放射物質、各種陽電子放射断層撮影に用いられる陽電子放射金属、及び非放射常磁性金属イオンが挙げられる。検出可能な物質は、抗体と直接、又は例えば当該技術分野で既知のリンカー等の介在物(intermediate)を介して、当該技術分野で既知の技法を用いて間接的に共役するか又は複合体形成することができる。例えば診断用途の金属イオンと抗体との複合体形成を記載している米国特許第4,741,900号を参照されたい。好適な酵素の例としては、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ及びアセチルコリンエステラーゼが挙げられ、好適な補欠分子族の複合体の例としては、ストレプトアビジン/ビオチン及びアビジン/ビオチンが挙げられ、好適な蛍光物質の例としては、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリド及びフィコエリトリンが挙げられ、発光物質の例としてはルミノールが挙げられ、生物発光物質の例としてはルシフェリン及びエクオリンが挙げられる。
【0039】
本発明を実施するのに有用な抗体は、下記方法を用いて実験動物において又はDNA組換え法によって調製することができる。ポリクローナル抗体は、フロイントアジュバント(完全又は不完全)等のアジュバントとともに遺伝子産物分子又はそのフラグメントの複数回の皮下(sc)又は腹腔内(ip)注射によって動物において産生することができる。免疫原性を高めるためには、初めに二官能性物質若しくは誘導体化剤、例えばマレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基を介した複合体形成)、N−ヒドロキシスクシンイミド(リシン残基を介した)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、SOCl等を用いて、標的アミノ酸配列を含有する遺伝子産物分子又はフラグメントと、免疫付与対象の種において免疫原性であるタンパク質、例えばキーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシサイログロブリン、又はダイズトリプシン阻害剤とを複合体形成させることが有用であり得る。代替的には、免疫原性複合体を組換えによって融合タンパク質として作製することができる。
【0040】
動物に、約1 mg又は約1マイクログラムの複合体(それぞれウサギ又はマウスに対して)を約3体積の完全フロイントアジュバントと組み合わせて、溶液を複数の部位で皮内注射することによって、免疫原性複合体又は誘導体(標的アミノ酸配列を含有するフラグメント等)に対する免疫を付与することができる。およそ7〜14日後、動物を採血し、血清の抗体力価を化学分析する。力価がプラトー状態になるまで、抗原を繰り返し用いて動物の追加免疫を行う。初回免疫付与に使用したものと同じ分子又はそのフラグメントを用いて、動物の追加免疫を行うことができるが、異なるタンパク質と及び/又は異なる架橋剤を介して複合体形成してもよい。加えて、アラム(alum)等の凝集剤を、免疫応答を高めるために注射液中で使用することができる。
【0041】
投与する抗体はキメラ抗体を含み得る。投与する抗体はヒト化抗体を含み得る。投与する抗体は完全にヒト化した抗体を含み得る。抗体はヒト化又は部分的にヒト化していてもよい。非ヒト抗体を、当該技術分野で既知の任意の適用可能な方法を用いてヒト化することができる。ヒト化抗体は免疫系が部分的に又は完全にヒト化しているトランスジェニック動物を用いて産生することができる。本発明の任意の抗体又はそのフラグメントは部分的に又は完全にヒト化していてもよい。キメラ抗体を、当該技術分野で既知の任意の技法を用いて産生することができる。例えば、米国特許第5,169,939号、同第5,750,078号、同第6,020,153号、同第6,420,113号、同第6,423,511号、同第6,632,927号及び同第6,800,738号を参照されたい。
【0042】
投与する抗体は、モノクローナル抗体、すなわちモノクローナル抗体であり得る本発明の抗ボツリヌス神経毒素抗体を含み得る。モノクローナル抗体を、Kohler and Milstein, Nature, 256:495 (1975)に記載されるようなハイブリドーマ法を用いて調製することができる。ハイブリドーマ法では、通常マウス、ハムスター又は他の適切な宿主動物を免疫剤で免疫付与して、免疫剤と特異的に結合する抗体を産生する又は産生することが可能なリンパ球を生じさせる。代替的には、リンパ球はin vitroで免疫付与することができる。モノクローナル抗体は、例えばHarlow & Lane, Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, New York (1988)、Goding, Monoclonal Antibodies, Principles and Practice (2d ed.) Academic Press, New York (1986)に記載されるようにスクリーニングすることができる。モノクローナル抗体を、翻訳産物との特異的な免疫反応性及び対応するプロトタイプ遺伝子産物に対する免疫反応性の喪失について試験することができる。
【0043】
モノクローナル抗体を、免疫付与した動物から脾臓細胞を回収し、従来のやり方で、例えば骨髄腫細胞との融合によって細胞を不死化することによって調製することができる。ボツリヌストキソイドによって免疫付与されたヒト由来の前末梢(preperipheral)血単核細胞(PBMC)を骨髄腫細胞と融合させるのが好ましい。次いでクローンを所望の抗体を発現するものについてスクリーニングする。モノクローナル抗体は他の遺伝子産物と交差反応しないのが好ましい。所望のハイブリドーマ細胞が同定された後、クローンを限界希釈法によってサブクローニングするとともに、標準方法によって成長させることができる。この目的に好適な培養培地としては例えば、ダルベッコ変法イーグル培地及びRPMI-1640培地が挙げられる。代替的には、ハイブリドーマ細胞を哺乳動物の腹水中でin vivoにおいて成長させることができる。サブクローンによって分泌されるモノクローナル抗体は、例えばプロテインA-セファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析又はアフィニティクロマトグラフィー等の従来の免疫グロブリン精製法によって培養培地又は腹水から単離又は精製することができる。
【0044】
モノクローナル抗体は米国特許第4,816,567号に記載されるようにDNA組換え法によっても作製することができる。本発明のモノクローナル抗体をコードするDNAは従来の手法を用いて(例えばマウス抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することが可能なオリゴヌクレオチドプローブを用いることによって)容易に単離及びシークエンシングすることができる。本発明のハイブリドーマ細胞はかかるDNAの好ましい供給源となり得る。単離した後、DNAを発現ベクターに組み入れることができ、次いでそれをサルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又はそうしなければ免疫グロブリンタンパク質を産生することのない骨髄腫細胞等の宿主細胞にトランスフェクトすることで、組換え宿主細胞においてモノクローナル抗体の合成がもたらされる。DNAは、例えばヒト重鎖及び軽鎖の定常ドメインのコーディング配列を相同なマウス配列へと置換することによって又は免疫グロブリンコーディング配列に、非免疫グロブリンポリペプチドのコーディング配列の全体若しくは一部を共有結合することによって修飾してもよい。かかる非免疫グロブリンポリペプチドへと本発明の抗体の定常ドメインを置換するか、又は本発明の抗体の1つの抗原結合部位の可変ドメインを置換することで、キメラ二価抗体を作製することができる。ファージミドディスプレイ法等のDNA組換え法を用いた抗体の調製は、例えばPharmacia(スウェーデン、ウプサラ)から入手可能なRecombinant Phagemid Antibody System、又はSurfZAP(商標)ファージディスプレイシステム(Stratagene Inc.、カルフォルニア州ラホーヤ)のような市販のキットを用いて達成することができる。本発明はSPYMEGと呼ばれるマウス−ヒトキメラ融合パートナー細胞株を用いてA型BoNT(BoNT/A)及びB型BoNT(BoNT/B)に対して産生されるヒトモノクローナル抗体(HuMAb)を提供する。
【0045】
さらに本発明のモノクローナル抗体を産生する、ハイブリドーマ細胞株、形質転換B細胞株及び宿主細胞と、これらのハイブリドーマ、形質転換B細胞株及び宿主細胞の子孫又は誘導体と、均等な又は同様のハイブリドーマ、形質転換B細胞株及び宿主細胞とが本発明に含まれる。
【0046】
抗体はダイアボディとすることができる。「ダイアボディ」という用語は、2つの抗原結合部位を備える小さい抗体フラグメントを指す。このフラグメントには、同じポリペプチド鎖において軽鎖可変ドメイン(VL)と連結した重鎖可変ドメイン(VH)が含まれる(VH-VL)。同じ鎖上の2つのドメイン間の対合を可能とするには短すぎるリンカーを使用することによって、ドメインを別の鎖の相補ドメインと対合させ、2つの抗原結合部位を生成することができる。ダイアボディは、例えば欧州特許第404,097号、国際公開第93/11161号、及びHollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)においてより詳細に記載されている。
【0047】
投与する抗体は一本鎖抗体を含み得る。抗体は一価抗体とすることができる。一価抗体を調製する方法は当該技術分野で既知である。例えば、一方法は免疫グロブリン軽鎖及び修飾重鎖の組換え発現を伴うものである。重鎖は一般的に、重鎖の架橋を妨げるようにFc領域内のいずれの点でも切断することができる。代替的には、架橋を妨げるように、関連のシステイン残基を別のアミノ酸残基で置換するか又は欠失する。また、in vitro方法は一価抗体を調製するのに適している。そのフラグメント、特にFabフラグメントを産生する抗体の消化は当該技術分野で既知の慣用法を用いて達成することができる。
【0048】
抗体は二重特異性とすることができる。1つのタンパク質と特異的に結合するとともに、病状及び/又は治療に関連する他の抗原と特異的に結合する二重特異性抗体を、文献に記載されている標準的な手法を用いて産生、単離及び試験する(例えばPluckthun & Pack, Immunotechnology, 3:83-105 (1997)、Carter, et al., J. Hematotherapy, 4:463-470 (1995)、Renner & Pfreundschuh, Immunological Reviews, 1995, No. 145, pp. 179-209、Pfreundschuhの米国特許第5,643,759号、Segal, et al., J. Hematotherapy, 4:377-382 (1995)、Segal, et al., Immunobiology, 185:390-402 (1992)、及びBolhuis, et al., Cancer Immunol. Immunother., 34:1-8 (1991)を参照されたい)。
【0049】
本明細書に開示される抗体を免疫リポソームとして配合することができる。抗体を含有するリポソームを、Epstein et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82: 3688 (1985)、Hwang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77: 4030 (1980)、並びに米国特許第4,485,045号及び同第4,544,545号に記載されるような当該技術分野で既知の方法によって調製する。循環時間が向上したリポソームは米国特許第5,013,556号に開示されている。特に有用なリポソームはホスファチジルコリン、コレステロール及びPEG誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)を含有する脂質組成物を用いた逆相蒸発法によって生成することができる。リポソームを既定の孔径のフィルターへと押し出して、所望の直径のリポソームを得ることができる。本発明の抗体のFab'フラグメントは、Martin et al., J. Biol. Chem., 257:286-288 (1982)に記載のようにジスルフィド交換反応によってリポソームと複合体形成させることができる。化学療法剤(ドキソルビシン等)が任意にリポソーム内に含まれる。Gabizon et al, J. National Cancer Inst., 81(19): 1484 (1989)を参照されたい。
【0050】
本発明は、ヒト対象のボツリヌス中毒(botulinum poisoning)を阻害又は治療する方法であって、ヒト対象に治療的に有効な量の本発明の抗ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体、その抗原結合フラグメント、又はそれら両方を投与することを含む、方法を提供する。該方法は患者をボツリヌス神経毒素中毒と診断することを更に含み得る。本発明の抗ボツリヌス神経毒素抗体又はその抗原結合フラグメントを、患者をボツリヌス神経毒素中毒と診断する前に、診断中に、及び/又は診断した後に対象に投与することができる。上記方法は、ボツリヌス神経毒素中毒の少なくとも1つの症状の軽減をモニタリングすることを更に含み得る。
【0051】
本発明によれば、2以上のボツリヌス神経毒素拮抗薬を投与することができる。ボツリヌス神経毒素拮抗薬の少なくとも1がボツリヌス神経毒素拮抗薬を含み得る。少なくとも1のボツリヌス神経毒素拮抗薬を1又は複数の更なるボツリヌス神経毒素拮抗薬と組み合わせることができる。少なくとも1のボツリヌス神経毒素拮抗薬を、ボツリヌス神経毒素中毒及び/又はボツリヌス感染に関する1又は複数の更なる治療薬と組み合わせて投与することができる。1又は複数ボツリヌス神経毒素拮抗薬を含む2以上の治療薬の投与は同時投与、連続投与、又は併用投与であってもよい。したがって2以上の治療薬を投与する場合、同時に又は同じ方法で又は同じ用量で投与する必要はない。同時投与する場合、2以上の治療薬を同じ組成で又は異なる組成で投与してもよい。2以上の治療薬を、同じ投与経路又は異なる投与経路を用いて投与してもよい。別々に投与する場合、治療薬を互いの前又は後に投与してもよい。2以上の治療薬の投与の順序は変更することができる。1つ又は複数の治療薬のそれぞれの用量は経時的に変えることができる。1つ又は複数の治療薬の種類を経時的に変えることができる。複数回で(at separate times)投与する場合、2回以上の投与の間隔はどのような期間であってもよい。複数回投与する場合、期間の長さを変えることができる。2つ以上の治療薬の投与の間隔は、0秒、1秒、5秒、10秒、30秒、1分、5分、10分、15分、20分、30分、45分、1時間、1.5時間、2時間、2.5時間、3時間、4時間、5時間、7.5時間、10時間、12時間、15時間、18時間、21時間、24時間、1.5日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、10日、2週間、3週間、4週間、1ヶ月、6週間、8週間、3ヶ月、6ヶ月、1年又はそれより長くすることができる。
【0052】
2つ以上のボツリヌス神経毒素拮抗薬は、ボツリヌス神経毒素中毒又はその症状を治療又は軽減するのに相乗的に作用することができる。ボツリヌス中毒症の症状としては、例えば麻痺、対称性脳神経麻痺、対称性下行性弛緩麻痺、随意筋の対称性麻痺、咽頭虚脱、呼吸停止、不乳、嚥下不能、弱声、眼瞼下垂、顔面麻痺、瞳孔固定、瞳孔散大、霧視、垂首、全身性弛緩、全身性脱力、複視、構音障害、発声障害、嚥下障害、無汗、粘膜紅斑、体位性低血圧、悪心、便秘、尿閉、目眩、口渇、咽頭痛、発育不全、絞扼反射、及び全身の筋反射喪失が挙げられる。ボツリヌス中毒症は、臨床検査材料又は摂取した食品サンプルにおける毒素の実証により研究所において確認することができる。生物を得る創傷培養物は症候性症例で示唆に富んでいる。ボツリヌス中毒症の確認はマウスのバイオアッセイによって行うことができる。特定の抗毒素によるマウスの麻痺の中和は臨床サンプルにおける毒素の血清型を示唆するものである。
【0053】
ボツリヌス神経毒素拮抗薬は、1若しくは複数の抗ボツリヌス神経毒素抗体単独であるか、又は1若しくは複数の他のボツリヌス神経毒素拮抗薬、例えば小型医薬品、若しくは他の抗ボツリヌス神経毒素治療薬と組み合わせたものとすることができる。小型医薬品の例としてはペニシリン等の抗生物質が挙げられる。他の抗ボツリヌス治療薬としては、七価ボツリヌス抗毒素(HBAT)が挙げられる。HBATは、神経毒素A〜Gに対するウマ血清由来抗体フラグメントを含有し、例えば約2.0%未満の無傷免疫グロブリンと約90%以上のFab及びF(ab')2抗体フラグメントとを含有するものであり得る。2以上の抗ボツリヌス神経毒素抗体又は少なくとも1の抗ボツリヌス神経毒素抗体及び1若しくは複数の更なる治療薬は、ボツリヌス神経毒素中毒を治療又は軽減するのに相乗的に作用することができる。1つ又は複数の抗ボツリヌス神経毒素抗体を含む2以上の治療薬を相乗効果のある量で投与することができる。したがって、2つ以上の治療薬の投与は同時に、連続して、又は任意の組合せで投与されるかにかかわらず、ボツリヌス神経毒素中毒の1又は複数の症状の軽減に対して相乗効果を有し得る。一次治療薬が二次治療薬を単独で用いた場合よりも二次治療薬の有効性を大きく増大させることができるか、又は二次治療薬が一次治療薬の有効性を増大させることができるか、又はその両方であり得る。2以上の治療薬の投与効果は、ボツリヌス神経毒素中毒の1又は複数の症状の軽減に対する効果がそれぞれを単独で投与した場合の相加効果よりも大きくなるようなものであり得る。相乗効果のある量で与えた場合、その量の1又は複数の治療薬単独では、ボツリヌス神経毒素中毒の1又は複数の症状に対して実質的な効果がなくとも、1の治療薬がボツリヌス神経毒素中毒の1又は複数の症状の軽減に対する1又は複数の他の治療薬の有効性を高めることができる。相乗効果の測定及び算出は、Methods in Molecular Medicine, vol. 85: Novel Anticancer Drug Protocols, pp. 297-321 (2003)におけるTeicher, "Assays for In Vitro and In Vivo Synergy,"に記載のように、及び/又はCalcuSynソフトウェアを用いて併用指数(combination index)(CI)を算出することによって行うことができる。
【0054】
正確な製剤設計、投与経路及び投与量は、患者の状態を鑑みて個々の医師が選択することができる(例えばFingl et. al., in The Pharmacological Basis of Therapeutics, 1975, Ch. 1 p. I.を参照されたい)。担当医は毒性又は臓器機能不全に起因して、投与の終了、中断又は調整の時期を決定することができる。反対に担当医は、臨床応答が毒性の起こらない不十分なものであった場合に、治療をより高いレベルに調整することもできる。対象の障害の管理における投与用量(magnitude of an administrated dose)は治療対象の障害の重症度及び投与経路によって変わる。障害の重症度は、例えば標準的な予後評価法によって一部評価することができる。用量及び投与頻度は、個々の患者の年齢、体重及び応答に従って変えることができる。上述されるものと同等のプログラムを獣医学において使用することができる。
【0055】
本発明の実施に対して開示された本明細書の化合物を全身投与に適した剤形(dosages)で配合するのに薬学的に許容可能な担体を使用することは本発明の範囲内である。適切な担体の選択及び好適な製造の実施によって、本発明に関連する組成物、特に溶液として配合されるものを静脈注射等により非経口投与することができる。該化合物は、当該技術分野で既知の薬学的に許容可能な担体を用いて、経口投与に適した剤形で容易に配合することができる。かかる担体によって、本発明に関連する化合物を、治療対象の患者による経口摂取のために錠剤、丸薬、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、錠剤、糖衣錠、溶液剤、懸濁剤等として配合することが可能となる。
【0056】
治療剤は、時間及び体内の場所に応じた、投与した体内への放出の制御が可能となるようにデポ形態で調製することができる(例えば米国特許第4,450,150号を参照されたい)。デポ形態の治療剤は、例えば治療剤と、ポリマー等の多孔質又は非多孔質の材料とを含有する埋め込み型組成物とすることができ、ここでは治療剤が該材料によってカプセル封入されているか、又は該材料にわたって及び/又は非多孔質材料の分解によって分散されている。次いでデポ剤を体内の所望の場所に埋め込み、治療剤を所定の速度でインプラントから放出させる。
【0057】
本発明で使用される治療剤は、担体と治療化合物とを含有する医薬組成物等の組成物として形成することができる。治療剤を含有する医薬組成物には、2つ以上の治療剤が含まれていてもよい。代替的に、医薬組成物は治療剤を他の薬学的に活性な作用物質又は薬物とともに含有していてもよい。
【0058】
担体は任意の好適な担体であり得る。例えば、担体は薬学的に許容可能な担体であり得る。医薬組成物に関して、担体は溶解性及び活性化合物(複数の場合もあり)に対する反応性の喪失等の物理化学的性質(considerations)、並びに投与経路を考慮して慣例的に使用されるもののいずれであってもよい。下記の医薬組成物に加えて又はその代わりに、本発明の方法の治療化合物をシクロデキストリン包接錯体等の包接錯体又はリポソームとして配合することができる。
【0059】
本明細書に記載の薬学的に許容可能な担体、例えばビヒクル、アジュバント、賦形剤及び希釈剤は当業者に既知であり、一般に容易に入手可能である。薬学的に許容可能な担体は、活性剤(複数の場合もあり)に対して化学的に不活性であり、使用条件下で有害な副作用又は毒性を有しないものであり得る。担体の選択は、特定の治療剤、及び治療化合物を投与するのに使用される特定の方法によって一部行うことができる。本発明の医薬組成物の多様な好適な配合物が存在する。経口投与、エアロゾル投与、非経口投与、皮下投与、経皮投与、経粘膜投与、腸内投与、髄内注射、直接心室内投与、静脈内投与、鼻腔内投与、眼内投与、筋肉内投与、動脈内投与、髄腔内投与、腹腔内投与、直腸投与及び膣内投与用の下記配合物は例示的なものであり、これらに限定されるものでは決してない。2つ以上の経路を、治療剤を投与するのに使用することができ、場合によっては、特定の経路によって、別の経路よりも迅速かつ効果的な応答がもたらされてもよい。治療対象の特定の障害に応じて、かかる作用物質を配合して、全身又は局所投与することができる。配合法及び投与法は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th ed., Mack Publishing Co., Easton, Pa. (1990)に見ることができる。
【0060】
経口投与に適した配合物は、(a)液体溶液、例えば水、生理食塩水又はオレンジジュース等の希釈剤に溶解させた有効量の阻害剤、(b)それぞれが固体又は顆粒として所定量の活性成分を含有する、カプセル剤、サシェ剤、錠剤、ロゼンジ剤及びトローチ剤、(c)粉末剤、(d)適切な液体の懸濁液、並びに(e)好適なエマルションを含み得る。液体配合物は、薬学的に許容可能な界面活性剤が添加された又は添加されていない、水並びにアルコール、例えばエタノール、ベンジルアルコール及びポリエチレンアルコール等の希釈剤を含み得る。カプセル形態は、例えば界面活性剤、滑沢剤、並びにラクトース、スクロース、リン酸カルシウム及びコーンスターチ等の不活性フィラーを含有する、通常の硬殻又は軟殻ゼラチン型のものであり得る。錠剤形態は、ラクトース、スクロース、マンニトール、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、アルギン酸、微結晶性セルロース、アカシア、ゼラチン、グアーガム、コロイド状二酸化ケイ素、クロスカルメロースナトリウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸、及び他の賦形剤、着色剤、希釈剤、緩衝剤、崩壊剤、湿潤剤、防腐剤、香味剤、並びに他の薬理学的に相溶性の賦形剤の内の1つ又は複数を含み得る。ロゼンジ形態は、風味剤、通常スクロース及びアカシア又はトラガカント中に阻害剤と、不活性基剤、例えばゼラチン及びグリセリン、又はスクロース及びアカシア、エマルション、ゲル等に阻害剤を含有する芳香錠とを含むことができ、さらに加えて当該技術分野で知られるような賦形剤を含むことができる。
【0061】
口腔に使用することができる医薬製剤としては、ゼラチンでできた押し込み型カプセル、及びゼラチンとグリセロール又はソルビトール等の可塑剤とでできた密封型軟カプセルが挙げられる。押し込み型カプセルは、ラクトース等のフィラー、デンプン等の結合剤、及び/又はタルク又はステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤、並びに任意に安定剤と混合して活性成分を含有し得る。軟カプセルでは、活性化合物は脂肪油、流動パラフィン又は液体ポリエチレングリコール等の好適な液体中に溶解又は懸濁し得る。それに加えて、安定剤を添加してもよい。
【0062】
治療剤は、単独で又は他の好適な構成成分と組み合わせて、吸入投与用のエアロゾル配合物にすることができる。これらのエアロゾル配合物を、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素等の許容可能な高圧ガスに組み入れることができる。これらのエアロゾル配合物を、ネブライザ又はアトマイザ内のように非加圧製剤用の医薬品として配合することもできる。かかる噴霧配合物を粘膜へと噴霧するのに使用することもできる。局所配合物は当業者にとって既知である。かかる配合物は、本発明では皮膚への塗布に特に適している。
【0063】
注射用配合物は本発明に準拠するものである。注射用組成物に効果的な医薬担体のパラメータは、当業者にとって既知である(例えばPharmaceutics and Pharmacy Practice, J. B. Lippincott Company, Philadelphia, PA, Banker and Chalmers, eds., pages 238250 (1982)、及びASHP Handbook on Injectable Drugs, Toissel, 4th ed., pages 622 630 (1986)を参照されたい)。注射では、本発明の作用物質を、水溶液中で、好ましくはハンクス液、リンガー液、又は生理食塩緩衝液等の生理学的に相溶性の緩衝液中で配合することができる。かかる経粘膜投与では、障壁に浸透するのに適した浸透剤を配合物に使用する。かかる浸透剤は当該技術分野において一般的に知られている。
【0064】
非経口投与に適した配合物には、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤及び溶質を含有し得る、配合物を対象となるレシピエントの血液に対して等張にする水性及び非水性の等張滅菌注射溶液と、懸濁化剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤及び防腐剤を含み得る、水性及び非水性の滅菌懸濁液とが含まれ得る。治療剤を、薬学的に許容可能な界面活性剤、例えば石鹸若しくは洗浄剤、懸濁化剤、例えばペクチン、カルボマー、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース若しくはカルボキシメチルセルロース、又は乳化剤、及び他の薬学的アジュバントを添加して又は添加せずに、医薬担体中の生理学的に許容可能な希釈剤、例えば水、生理食塩水、水性デキストロース及び関連する糖溶液、アルコール、例えばエタノール若しくはヘキサデシルアルコール、グリコール、例えばプロピレングリコール若しくはポリエチレングリコール、ポリ(エチレングリコール)400、グリセロール、ジメチルスルホキシド、2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-メタノール等のケタール、エーテル、油、脂肪酸、脂肪酸エステル若しくはグリセリド、又はアセチル化脂肪酸グリセリドを含む、滅菌液又は液体混合物中で投与することができる。
【0065】
非経口配合物に使用することができる油としては、石油、動物油、植物油又は合成油が挙げられる。油の具体例としては、落花生油、大豆油、ゴマ油、綿実油、トウモロコシ油、オリーブ油、ワセリン(petrolatum)及び鉱油が挙げられる。非経口配合物での使用に適した脂肪酸としては、オレイン酸、ステアリン酸及びイソステアリン酸が挙げられる。オレイン酸エチル及びミリスチン酸イソプロピルが、好適な脂肪酸エステルの例である。
【0066】
非経口配合物での使用に適した石鹸としては、脂肪酸のアルカリ金属塩、アンモニウム塩及びトリエタノールアミン塩が挙げられ、好適な洗浄剤としては、(a)例えばジメチルジアルキルアンモニウムハライド及びアルキルピリジニウムハライド等のカチオン性洗浄剤と、(b)例えばアルキル、アリール及びオレフィンのスルホン酸塩、アルキル、オレフィン、エーテル及びモノグリセリドの硫酸塩、並びにスルホコハク酸塩等のアニオン性洗浄剤と、(c)例えば脂肪族アミンオキシド、脂肪酸アルカノールアミド及びポリオキシエチレンポリプロピレンコポリマー等の非イオン性洗浄剤と、(d)例えばアルキル−β−アミノプロピオネート及び2−アルキル−イミダゾリン第四級アンモニウム塩等の両親媒性洗浄剤と、(e)それらの混合物とが挙げられる。
【0067】
非経口配合物は、溶液中に約0.5重量%〜約25重量%の薬物を含有し得る。防腐剤及び緩衝液を使用することができる。注射部位の炎症を最小限に抑える又は取り除くために、かかる組成物に、親水性親油性バランス(HLB)が約12〜約17の1又は複数の非イオン性界面活性剤が含有されていてもよい。かかる配合物中の界面活性剤の量は通常、約5重量%〜約15重量%の範囲である。好適な界面活性剤としては、ポリエチレングリコールソルビタン脂肪酸エステル、例えばソルビタンオレイン酸モノエステルと、プロピレンオキシドとプロピレングリコールとの縮合により形成される、エチレンオキシドと疎水性塩基との高分子量付加物とが挙げられる。非経口配合物は、アンプル及びバイアル等の単回用量又は複数回用量の密封容器内に与えることができ、使用の直前に注射するのに滅菌液体賦形剤、例えば水を添加することしか要求されないフリーズドライ(凍結乾燥)条件下で保存することができる。即席注射溶液及び懸濁液を、先に記載された種類の滅菌粉末、顆粒及び錠剤から調製することができる。
【0068】
治療剤を乳化基剤又は水溶性基剤等の多様な基剤と混合することによって坐剤にすることができる。膣内投与に適した配合物を、活性成分の他に当該技術分野において適切であることが知られているような担体を含有する、ペッサリー、タンポン、クリーム、ジェル、ペースト、泡沫又は噴霧配合物として与えることができる。
【0069】
細胞内投与用の作用物質を、当業者に既知の技法を用いて投与することができる。例えば、かかる作用物質をリポソーム内にカプセル封入することができる。リポソームは水性内部を備える球状脂質二重層である。リポソーム形成時に水溶液中に存在する分子が水性内部に組み込まれる。リポソーム内容物は外部の微小環境から保護されるとともに、リポソームが細胞膜と融合することにより、細胞質へと効率的に送達される。さらにその疎水性に起因して、有機小分子を細胞内に直接投与することができる。本発明の一態様に記載される材料及び方法を本発明の他の態様に用いることもできる。例えば、スクリーニングアッセイでの使用について記載されている核酸又は抗体等の材料も治療剤として用いることができ、その逆もまた同様である。
【0070】
本発明は、任意の順序及び/又は任意の組合せでの以下の態様/実施形態/特徴を包含する:
1. B型ボツリヌス神経毒素に対する中和活性を備える単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントであって、該モノクローナル抗体がヒトモノクローナル抗体、ヒト化モノクローナル抗体、又はそれら両方を含む、単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメント。
2. B型ボツリヌス神経毒素のプロジェニター毒素に対する中和活性を更に備える、任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様の単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメント。
3.
Clostridium botulinum B型のBONT/B1(Okra株)、
Clostridium botulinum B型のBoNT/B2(111株)、
Clostridium botulinum B型のBoNT/B6(Osaka05株)、又はそれらの任意の組合せによって産生されるB型ボツリヌス神経毒素に対する中和活性を備える、任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様の単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメント。
4. B型ボツリヌス神経毒素(BoNT/B)の軽鎖に対して特異的な結合活性を有する、任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様の単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメント。
5. ヒトモノクローナル抗体が、ボツリヌストキソイドによって免疫付与されたヒト由来の末梢血単核細胞(PBMC)を、効率的な細胞融合を可能とする融合パートナー細胞と融合させることにより作製されるハイブリドーマによって産生される、任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様の単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体。
6. B型ボツリヌス神経毒素が、
Clostridium botulinum B型のBONT/B1(Okra株)、
Clostridium botulinum B型のBoNT/B2(111株)、
Clostridium botulinum B型のBoNT/B6(Osaka05株)、又はそれらの任意の組合せの産物である、任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様の単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体。
7. 融合パートナー細胞がSPYMEG細胞である、任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様の単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体。
8. IgG、Fab、Fab'、F(ab')2、scFv、dsFv、又はそれらの組合せを含む、任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様の単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメント。
9. 配列番号5又は配列番号19を含む第1のアミノ酸配列を有する第1の相補性決定領域(CDR1)と、
配列番号6又は配列番号20を含む第2のアミノ酸配列を有する第2の相補性決定領域(CDR2)と、
配列番号7又は配列番号21を含む第3のアミノ酸配列を有する第3の相補性決定領域(CDR3)と、
を含む、重鎖可変領域と、
配列番号12又は配列番号26を含む第4のアミノ酸配列を有する第1の相補性決定領域(CDR1)と、
配列番号13又は配列番号27を含む第5のアミノ酸配列を有する第2の相補性決定領域(CDR2)と、
配列番号14又は配列番号28を含む第6のアミノ酸配列を有する第3の相補性決定領域(CDR3)と、
を含む、軽鎖可変領域と、
を含む、任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様の単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメント。
10. 配列番号5を含む第1のアミノ酸配列を有する第1の相補性決定領域(CDR1)と、
配列番号6を含む第2のアミノ酸配列を有する第2の相補性決定領域(CDR2)と、
配列番号7を含む第3のアミノ酸配列を有する第3の相補性決定領域(CDR3)と、
を含む、重鎖可変領域と、
配列番号12を含む第4のアミノ酸配列を有する第1の相補性決定領域(CDR1)と、
配列番号13を含む第5のアミノ酸配列を有する第2の相補性決定領域(CDR2)と、
配列番号14を含む第6のアミノ酸配列を有する第3の相補性決定領域(CDR3)と、
を含む、軽鎖可変領域と、
を含む、任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様の単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメント。
11. 配列番号19を含む第1のアミノ酸配列を有する第1の相補性決定領域(CDR1)と、
配列番号20を含む第2のアミノ酸配列を有する第2の相補性決定領域(CDR2)と、
配列番号21を含む第3のアミノ酸配列を有する第3の相補性決定領域(CDR3)と、
を含む、重鎖可変領域と、
配列番号26を含む第4のアミノ酸配列を有する第1の相補性決定領域(CDR1)と、
配列番号27を含む第5のアミノ酸配列を有する第2の相補性決定領域(CDR2)と、
配列番号28を含む第6のアミノ酸配列を有する第3の相補性決定領域(CDR3)と、
を含む、軽鎖可変領域と、
を含む、任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様の単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメント。
12. 配列番号3又は配列番号17を含む重鎖可変領域と、
配列番号10又は配列番号24を含む軽鎖可変領域と、
を含む、任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様のB型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメント。
13. IgG1である、任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様のB型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体。
14. 寄託番号がNITE BP-01639又はNITE BP-01640のハイブリドーマ。
15. 寄託番号がNITE BP-01639又はNITE BP-01640のハイブリドーマによって産生される単離されたモノクローナル抗体。
16. 任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様の1種又は複数種の単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントと、薬理学的に許容可能な担体とを含む、医薬組成物。
17. 抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体と、薬理学的に許容可能な担体とを含む、任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様の医薬組成物。
18. 2種の単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体、その抗原結合フラグメント、又はそれら両方を含む、任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様の医薬組成物であって、
(1)配列番号5を含む第1のアミノ酸配列を有する第1の相補性決定領域(CDR1)、配列番号6を含む第2のアミノ酸配列を有する第2の相補性決定領域(CDR2)、及び配列番号7を含む第3のアミノ酸配列を有する第3の相補性決定領域(CDR3)を含む重鎖可変領域と、
配列番号12を含む第4のアミノ酸配列を有する第1の相補性決定領域(CDR1)、配列番号13を含む第5のアミノ酸配列を有する第2の相補性決定領域(CDR2)、及び配列番号14を含む第6のアミノ酸配列を有する第3の相補性決定領域(CDR3)を含む軽鎖可変領域と、
を含む、単離されたヒトモノクローナル抗体若しくはその抗原結合フラグメント、
(2)配列番号3を含む重鎖可変領域と配列番号10を含む軽鎖可変領域とを含む、単離されたヒトモノクローナル抗体若しくは抗原結合フラグメント、
(3)寄託番号がNITE BP-01639のハイブリドーマによって産生される単離されたモノクローナル抗体、又は、
それらの任意の組合せ、
を含む、第1の単離されたヒトモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントと、
(4)配列番号19を含む第1のアミノ酸配列を有する第1の相補性決定領域(CDR1)、配列番号20を含む第2のアミノ酸配列を有する第2の相補性決定領域(CDR2)、及び配列番号21を含む第3のアミノ酸配列を有する第3の相補性決定領域(CDR3)を含む重鎖可変領域と、
配列番号26を含む第4のアミノ酸配列を有する第1の相補性決定領域(CDR1)、配列番号27を含む第5のアミノ酸配列を有する第2の相補性決定領域(CDR2)、及び配列番号28を含む第6のアミノ酸配列を有する第3の相補性決定領域(CDR3)を含む軽鎖可変領域と、
を含む、単離されたヒトモノクローナル抗体若しくはその抗原結合フラグメント、
(5)配列番号17を含む重鎖可変領域と配列番号24を含む軽鎖可変領域とを含む、単離されたヒトモノクローナル抗体若しくは抗原結合フラグメント、
(6)寄託番号がNITE BP-01640のハイブリドーマによって産生される単離されたモノクローナル抗体、又は、
それらの任意の組合せ、
を含む、第2の単離されたヒトモノクローナル抗体又はその抗原結合フラグメントと、
を含む、医薬組成物。
19. 単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体を作製する方法であって、
ボツリヌストキソイドによって免疫付与されたヒト由来の末梢血単核細胞(PBMC)を、効率的な細胞融合を可能とする融合パートナー細胞と融合させることによりハイブリドーマを作製することと、
ハイブリドーマからB型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体を得ることと、
を含む、方法。
20. B型ボツリヌス神経毒素が、
Clostridium botulinum B型のBONT/B1(Okra株)、
Clostridium botulinum B型のBoNT/B2(111株)、
Clostridium botulinum B型のBoNT/B6(Osaka05株)、又はそれらの任意の組合せによって産生される、任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様の単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体を作製する方法。
21. 融合パートナー細胞がSPYMEG細胞である、任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様の抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体を作製する方法。
22. 任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様の単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体、その抗原結合フラグメント、又はそれら両方を含む、ヒト対象においてB型ボツリヌス神経毒素中毒を予防、治療及び/又は検出するキット。
23. ヒト対象においてボツリヌス中毒症を阻害又は治療する方法であって、治療的に効果的な量の任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様の単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体、その抗原結合フラグメント、又はそれら両方をヒト対象に投与することを含む、方法。
24. 患者をボツリヌス神経毒素中毒であると診断することを更に含む、任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様のヒト対象においてボツリヌス中毒症を阻害又は治療する方法。
25. ボツリヌス中毒症の少なくとも1つの症状の軽減をモニタリングすることを更に含む、任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様のヒト対象においてボツリヌス中毒症を阻害又は治療する方法。
26. 少なくとも1つの症状が、麻痺、対称性脳神経麻痺、対称性下行性弛緩麻痺、随意筋の対称性麻痺、咽頭虚脱、呼吸停止、不乳、嚥下不能、弱声、眼瞼下垂、顔面麻痺、瞳孔固定、瞳孔散大、霧視、垂首、全身性弛緩、全身性脱力、複視、構音障害、発声障害、嚥下障害、無汗、粘膜紅斑、体位性低血圧、悪心、便秘、尿閉、目眩、口渇、咽頭痛、発育不全、絞扼反射、全身の筋反射喪失、又はそれらの任意の組合せを含む、任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様のヒト対象においてボツリヌス中毒症を阻害又は治療する方法。
27. ボツリヌス中毒症が、食品媒介性ボツリヌス中毒症、創傷感染ボツリヌス中毒症、小児腸毒血症ボツリヌス中毒症、成人腸毒血症ボツリヌス中毒症、医原性ボツリヌス中毒症、空気媒介性ボツリヌス中毒症、又はそれらの任意の組合せを含む、任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様のヒト対象においてボツリヌス中毒症を阻害又は治療する方法。
28. 任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様の単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体、その抗原結合フラグメント、又はそれら両方を、ボツリヌス中毒症に関する1つ又は複数の追加の治療法と組み合わせて投与する、任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様のヒト対象においてボツリヌス中毒症を阻害又は治療する方法。
29. 併用療法がボツリヌス中毒症を阻害又は治療するのに相乗的に作用する、任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様のヒト対象においてボツリヌス中毒症を阻害又は治療する方法。
30. 1つ又は複数の追加の治療法が、第2の単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体、その抗原結合フラグメント、又はそれら両方を投与することを含む、任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様のヒト対象においてボツリヌス中毒症を阻害又は治療する方法。
31. 1つ又は複数の追加の治療法が、単離された抗A型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体、その抗原結合フラグメント、又はそれら両方を投与することを含む、任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様のヒト対象においてボツリヌス中毒症を阻害又は治療する方法。
32. ヒト対象においてボツリヌス中毒症を阻害又は治療する医薬の製造への任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様の単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体、その抗原結合フラグメント、又はそれら両方の使用。
33. ヒト対象においてB型ボツリヌス神経毒素を検出する方法であって、
ヒト対象由来のサンプルを任意の上記又は下記の実施形態/特徴/態様の単離された抗B型ボツリヌス神経毒素モノクローナル抗体、その抗原結合フラグメント、又はそれら両方に接触させることと、
抗体、そのフラグメント、又はそれら両方がB型ボツリヌス神経毒素に結合するか否かに基づいてヒト対象においてB型ボツリヌス神経毒素の有無を検出することと、
を含む、方法。
【0071】
本発明を以下の実施例により更に明らかにするが、これは本発明の例示を意図するものであり、限定するものではない。これらの実施例から、例えばボツリヌス中毒を中和するとともにボツリヌス中毒症感染を治療する能力を含む、特許請求の範囲に係る抗体の驚くべき予想外の特性が実証される。これらの実施例から、本発明によるボツリヌス神経毒素に対するヒトモノクローナル抗体の発現が実証される。そのデータが本発明の治療的及び診断的使用を実証している。
【0072】
これらの実施例から、M-2抗体がBoNT/Bの軽鎖と特異的に結合し、マウスのバイオアッセイにおいて強力な中和活性(およそ>=100 LD
50/mg)を示したことが実証される。さらに、M-2とM-4との組合せは10000 LD
50/mgを超える効力でBoNT/Bを完全に中和することができた。この効力はこれまでで最も効果的なものであり、市販のBABYBIGヒト抗BoNT抗血清で考えられるBoNT/B中和標準(540 LD
50/mg)の18倍を超える大きいものである。曝露後治療モデルでは、HuMAb(M-2+M-4)は、毒素の経口投与後12時間以内に治療した場合、致死用量のBoNT/Bに対する完全な保護をもたらした。HuMAb(M-2+M-4)はBoNT/B1に加えて他の血清型BoNT/B2及びBoNT/B6を中和した。M-2及びM-4ヒトモノクローナル抗体を用いた実験で得られたデータは概して、本発明による抗体、及び抗体を作製する方法、及び抗体を使用する方法を表すものである。
【実施例】
【0073】
実施例1
【0074】
Clostridium botulinum B型Okra株を、セロファンチューブ法を用いて培養し、培養上清を得た。プロジェニター毒素(16S毒素及び12S毒素)を、非特許文献1を用いて培養上清から精製した。BoNT/B1及びNAP-16を、非特許文献1に記載のように16S毒素から調製した。BoNT/A1(62A株)、BoNT/B2(111株)及びBoNT/B6(Osaka05株)はDr. S. Kozakiにより提供された。四価ボツリヌストキソイドワクチンはDr. M. Takahashiにより提供された。12S毒素はA型、B型、E型、F型のC. botulinumの各培養上清から精製して、ホルマリンで無毒化した。毒素の無毒化はマウスを用いて腹腔内で(i.p.)試験した。4つの型のトキソイド調製物を共に混合した後、アルミニウム(アジュバント)及びチメロサール(保存剤)と混合した。トキソイド調製物は1 mL当たり4つの型それぞれ0.1mg、アルミニウム0.2mg、0.001%チメロサール、及び0.0006%ホルマリンを含有するものであった。
【0075】
免疫付与スケジュールは
図1に示すものに従った。四価ボツリヌストキソイド(A型、B型、E型及びF型)を、書面によるインフォームドコンセントを行い、身体検査を受けた2人の健常な成人ボランティアに(4回又は5回)接種させた。トキソイドを0.5 mL用量で健常な個体にのみ筋肉内注射した。9日及び18日後、末梢血サンプル(10 mL)を各ボランティアから採取した。血液サンプルを各ボランティアから採取し、BoNT/A又はBoNT/Bに対する血漿サンプルの抗体力価を、ELISAを用いて試験した。このプロトコルは大阪大学の治験審査委員会による承認を受けたものであった。
【0076】
酵素結合免疫吸着検査法(ELISA)を以下のように行った。96ウェルプレート(Falcon)にPBS 1 mL当たり3マイクログラムの最終濃度でBoNT/A及び/又はBoNT/Bを100マイクロリットル、37℃で2時間コーティングさせた。ウェルを0.05% Tweenの入ったPBS(PBS-T)で洗浄して、0.2% BSA(Sigma)/PBS-Tを用いて4℃で一晩ブロッキングした。ヒト血清サンプルを2倍に段階希釈して、各希釈物50マイクロリットルをウェルに添加して、37℃で2時間インキュベートした。洗浄後、抗ヒトIgG−ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)複合体(BIO-RAD)50マイクロリットルを添加し、37℃で2時間インキュベートした。洗浄後、プレートを基質溶液(o-フェニレンジアミン、ナカライテスク株式会社)と37℃で30分間インキュベートし、OD492の吸光度値を測定した。ELISA力価は、陰性対照血清の2倍より高い吸光度を示す最も高い希釈係数で表した。抗体力価はワクチン接種の9日又は18日後に2人のボランティアにおいて高くなった(表1)。
【0077】
【表1】
【0078】
実施例2
細胞融合、スクリーニング及びクローニング法を
図2に示すように行った。末梢血サンプルを最後の免疫付与の9日又は18日後にボランティアから採取し、末梢血単核細胞(PBMC)をFicoll(GE Healthcare)勾配遠心分離により精製した。PBMCを、ポリエチレングリコール(Roche)を用いて10:1の比でSPYMEG細胞と融合させた。融合細胞を96ウェルプレートにおいて15% FBSが添加されたダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、GIBCO)中でヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン(HAT、GIBCO)の存在下において約10日〜14日間培養した。HATによる選択の後、BoNT/A又はBoNT/Bに特異的な抗体について培養培地の1回目のスクリーニングをELISAにより行った。結果として、ワクチン接種の9日後に採取された血液サンプルから27個の陽性ウェルを得て、ワクチン接種の18日後に採取された血液サンプルから8個の陽性ウェルを得た。次に特異的な抗体の陽性ウェルに対して、限界希釈による細胞クローニングを行い、クローン細胞を得た。2回目のスクリーニングもELISAにより行った。8種の安定したハイブリドーマクローンが得られた(表2)。
【0079】
【0080】
アイソタイプ分析から、M-1、M-2、M-4及びS-1がIgGであり、M-3、M-5及びM-6がIgMであり、M-7がIgAであることが示された(表3)。
【0081】
【表3】
【0082】
安定したハイブリドーマをそれぞれ無血清培地(GIBCO)中で培養した後、上清を回収した。培養上清中のHuMAbのアイソタイプを、ウェスタンブロットにおいて抗ヒトIgG-HRP複合体(BIO-RAD)、抗ヒトIgM-HRP複合体(BIOSOURCE INTERNATIONAL)、又は抗ヒトIgA-HRP複合体(Invitrogen)によって決定した。IgG抗体を上清からProtein Gカラム(GE Healthcare)により精製した。各IgG抗体のサブクラスを、IgGサブクラスヒトELISAキット(Invitrogen)を用いて決定した。
【0083】
実施例3
モノクローナル抗体の可変領域遺伝子のクローニング及びシークエンシングを行った。決定された重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の配列を
図3〜
図8に示す。総RNAを、RNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いてハイブリドーマから抽出し、製造業者の取扱説明書に従ってSUPERSCRIPT(商標)VILOTM cDNA Synthesis Kit(Invitrogen)を使用してRT-PCRにより作製した。M-2抗体及びM-4抗体のH鎖及びL鎖のコード領域を、KOD-Pus-Neo(東洋紡株式会社)と、下記のプライマー:5'-ATGGACTGGACCTGGAGGATCCTC-3'(M-2-H鎖センスプライマー)(配列番号35)、5'-ATGAAACACCTGTGGTTCTTCCTCCT-3'(M-4-H鎖センスプライマー)(配列番号36)及び 5'-CTCCCGCGGCTTTGTCTTGGCATTA-3'(H鎖アンチセンスプライマー)(配列番号38)、並びに5'-ATGGCCTGGWYYCCTCTCYTYCTS-3'(M-4-16-L鎖センスプライマー)(配列番号38)、5'-ATGSCCTGGGCTCYKCTSCTCCTS-3'(M-2-及びM-4-18-L鎖センスプライマー)(配列番号39)、5'-ATGGCCTGGRYCYCMYTCYWCCTM-3'(M-4-19-L鎖センスプライマー)(配列番号40)及び5'-TGGCAGCTGTAGCTTCTGTGGGACT-3'(L鎖アンチセンスプライマー)(配列番号41)とを用いてPCRにより増幅させた。TaKaRa Ex Taq(商標)(タカラバイオ株式会社)とのインキュベーションの後、PCR産物をpGEM-T Easy Vector(Promega)へとライゲートし、それらの配列を、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit及びABI Prism 3100 Genetic Analyzer(Applied Biosystems)を用いて分析した。IgGサブクラスのアッセイにより、M-2及びM-4がIgG1重鎖及び軽(ラムダ)鎖で構成されることが明らかとなった。
【0084】
実施例4
BoNT/A又はBoNT/B(600 ng)をSDS-PAGEによりHcとLcとに分離し、ニトロセルロース膜(BIO-RAD)に転写した。膜を0.05% Tweenの入ったTris緩衝生理食塩水中で5%スキムミルクを用いてブロッキングした。HuMAb(1.0マイクログラム/mL)を膜に添加して、室温で1時間インキュベートした。洗浄後、膜を抗ヒトIgG抗体-HRP複合体と室温で1時間インキュベートした後、特定のバンドをECL(PIERCE)によって可視化した(
図9A及び
図9B)。
【0085】
実施例5
HuMAbに対するエピトープを決定するために、ウェスタンブロット解析を行った。これらの結果から、M-2がBoNT/Bの軽鎖と特異的に結合したことが示される(
図10)。これに対して、M-4は軽鎖及び重鎖の両方と結合した(
図10)。
【0086】
実施例6
HuMAbとB型のBoNT、プロジェニター毒素又は非毒性成分(NAP-16)との結合をELISAにより分析した。HuMAbを、BoNT、プロジェニター毒素又はNAP-16をコーティングさせたプレートに添加した。HuMAb(0.01〜0.5マイクログラム/mL)を、BoNT/A又はBoNT/Bをコーティングさせたプレートに添加した。洗浄後、結合したHuMAbを、抗ヒトIgG抗体-HRP複合体により検出した。M-2及びM-4はBoNT及びプロジェニター毒素と結合した。これに対して、M-2及びM-4はNAP-16とは僅かな結合を示した。これらの結果から、M-2及びM-4はBoNT単独に加えてプロジェニター毒素中のBoNTとも結合すること、またM-2及びM-4はBoNTに特異的に結合することが示される。M-2及びM-4はBoNT/Bとの特異的な結合を示した(
図11)。
【0087】
実施例7
HuMAbの中和活性をマウスのバイオアッセイによって試験した。HuMAbを、マウス(ddY、雌、4週齢、SLC)への腹腔内注射(総容量500マイクロリットル)前に室温で1時間、BoNT/B(10 LD
50)とインキュベートした。10 LD
50のBoNT/Bを1時間、100マイクログラムのHuMAb又はPBS(コントロール:Cnt)とインキュベートし、マウスに腹腔内注射した。マウスの罹患率及び死亡率を3週間に亘って観察した。BoNT/B+PBS(Cnt)を注射したマウスは12時間以内に死亡した。これに対して、BoNT/B+M-4を注射したマウスは、対照マウスに対する死亡時間(time-to-death)の増大から明らかなように一部保護された。他方で、BoNT/B+M-2を注射したマウスでは、完全な保護が観察された(表4)。
【0088】
【表4】
【0089】
実施例8
HuMAbの組合せの相乗効果を試験した。10 LD
50のBoNT/BをM-2とM-4との混合物(容量500マイクロリットル中、各0.5マイクログラム)とインキュベートし、マウスに注射した。HuMAbを摂取したマウスは全て生存し、症状を呈さなかった(
図12)。
【0090】
実施例9
曝露後治療モデルにおいて、マウスにB型プロジェニター毒素(16S毒素、容量300マイクロリットル中、10 ng)を経口投与した後、16S毒素の経口投与の12時間、24時間又は36時間後、腹腔内注射によりHuMAb(M-2+M-4)を投与した。マウスの罹患率及び死亡率を3週間に亘って観察した。曝露後治療モデルでは、マウスは16S毒素の経口投与の12時間後にボツリヌス中毒症の症状を呈した。HuAbで治療しなかった対照マウスは72時間以内に死亡した。これに対して、HuMAbの曝露後治療は、16S毒素の経口投与の12時間後では完全な生存、並びに投与の24時間及び36時間後では部分生存をもたらした(
図13)。
【0091】
実施例10
HuMAb(M-2及びM-4)とBoNT/B2(111株)及びBoNT/B6(Osaka05株)との結合をELISAにより分析した。HuMAb(0.5マイクログラム/mL)を、BoNTをコーティングさせたプレートに添加した。洗浄後、結合したHuMAbを、抗ヒトIgG抗体-HRP複合体により検出した。M-2及びM-4はBoNT/B1に加えて、BoNT/B2及びBoNT/B6とも強い結合を示した。中和試験では、M-2+M-4(0.5マイクログラム+0.5マイクログラム)はBoNT/B2(10 ng)及びBoNT/B6(2.5 ng)を完全に中和した(
図14)。
【0092】
実施例11
哺乳動物細胞(HEK293細胞)における組換えHuMAbの発現及び組換えHuMAbの試験のために、IgG発現ベクターを下記のように構築した。H鎖及びL鎖の可変領域遺伝子を有するpGEM-T EasyベクターをPCRに供し、下記のプライマーセットを用いて制限酵素部位及びコザック配列を付加した(制限酵素部位は下線処理されている):5'-ATTT
GCGGCCGCCATGGACTGGACCTGGAGG-3'(M2-H鎖センスプライマー)(配列番号42)、5'-ATTT
GCGGCCGCCATGAAACACCTGTGGTTCTTC-3'(M-4-H鎖センスプライマー)(配列番号43)及び5'-ATA
CTCGAGGGTGCCAGGGGGAAGACCGATG-3'(H鎖アンチセンスプライマー)(配列番号44);並びに5'-ATTT
GCGGCCGCCATGGCCTGGTTTCCTCTCTTC-3'(M-4-16-L鎖センスプライマー)(配列番号45)、5'-ATTT
GCGGCCGCCATGGCCTGGGCTCTGCT-3'(M-2及びM-4-18-L鎖センスプライマー)(配列番号46)、5'-ATTT
GCGGCCGCCATGGCCTGGGTCTCATT-3'(M-4-19-L鎖センスプライマー)(配列番号47)及び5'-ATA
CTCGAGGGCGGGAACAGAGTGACCGTGG-3'(L鎖アンチセンスプライマー)(配列番号48)。H鎖コード領域及びL鎖コード領域のPCR産物を制限酵素Not I 及び Xho Iにより消化した後、それぞれガンマ鎖及びラムダ鎖のヒト免疫グロブリン定常領域を有する発現ベクターpQCXIP-hCH及びpQCXIH-hC(MBL)にライゲートした。
【0093】
HEK293細胞を37℃で5% CO
2において10% FBSを含むMEM中で培養した。100 mm培養皿で増殖させた細胞を、LIPOFECTAMINE2000トランスフェクション試薬(Invitrogen)を用いて製造業者の取扱説明書に従ってpQCXIP-hCH発現ベクター及びpQCXIH-hC発現ベクターでの一過的なトランスフェクションに使用した。トランスフェクション後、培地を取り除き、細胞を洗浄して、37℃で10日間、5% CO
2においてOpti-Pro無血清培地(Gibco)中で培養した。培養上清中の組換えHuMAbを、抗ヒトIgG-HRP複合体(BIO-RAD)によって決定した。組換えHuMAbを上清からProtein Gカラム(GE Healthcare)により精製した。
【0094】
組換えHuMAb(RM-2及びRM-4;M-4と同じ重鎖及び軽鎖を有しているが、それぞれ
図6、
図7、
図8に示される軽鎖の異なるシグナル配列を有するRM-4 LC16、RM-4 LC18、RM-4 LC19として示される)とBoNT/Bとの結合をELISAにより分析した。RM-2及びRM-4(約 0.01〜0.5マイクログラム/mL)をプレートに添加した。洗浄後、結合した組換えHuMAbを抗ヒトIgG抗体-HRP複合体により検出した。結果として、RM-2及びRM-4は、ハイブリドーマから誘導されたM-2及びM-4と同じようにBoNT/Bと結合した(
図15)。中和試験では、RM-2+RM-4(0.5マイクログラム+0.5マイクログラム)はBoNT/B1(10 LD
50)を中和した(表5A及び表5B)。
【0095】
【表5A】
【0096】
【表5B】
【0097】
実施例12
ハイブリドーマから誘導されるHuMAb及び組換えHuMAb(RM-2及びRM-4)とBoNT/B(BoNT/B1、BoNT/B2又はBoNT/B6)との結合をSDS-PAGEにより分析した。BoNT/B1、BoNT/B2又はBoNT/B6をSDS-PAGEによりHcとLcとに分離し、ニトロセルロース膜に転写した。HuMAb(1.0マイクログラム/mL)を膜に添加して、室温で1時間インキュベートした。洗浄後、膜を抗ヒトIgG抗体-HRP複合体と室温で1時間インキュベートした後、特定のバンドをECLによって可視化した。組換えHuMAbはハイブリドーマから誘導されたHuMAbと同じ結合プロファイルを示した。M-2及びRM-2は、BoNT/Bの軽鎖と特異的に結合した。これに対して、M-4及びRM-4は、軽鎖及び重鎖の両方と結合した。M-4及びRM-4抗体により、B2亜型の重鎖がB1の重鎖よりも明確に検出された。さらに、B6亜型の重鎖はB2の重鎖よりも明確に検出された(
図16)。
【0098】
出願人らはこの開示における全ての引用文献の内容全体を具体的に援用している。さらに、量、濃度又は他の値若しくはパラメータが範囲、好ましい範囲、又は好ましい上限値と好ましい下限値とのリストのいずれかとして与えられる場合、これは範囲が別々に開示されているかに関わらず、任意の範囲上限又は好ましい値と、任意の範囲下限又は好ましい値との任意の組合せからなるあらゆる範囲を具体的に開示するものと理解されるものとする。数値の範囲が本明細書で言及されている場合、特に指定のない限り、範囲はその端点、並びに範囲内の全ての整数及び少数を含むことが意図される。本発明の範囲は、範囲を規定する場合に言及された特定の値に限定することは意図されない。
【0099】
本発明の他の実施形態は、本明細書の検討、及び本明細書に開示される本発明の実施により当業者にとって明らかとなるであろう。本明細書及び実施例は例示的なものにすぎず、本発明の真の範囲及び趣旨は添付の特許請求の範囲及びその均等物により示されることが意図される。