(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6286539
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】核酸分析装置、および核酸分析装置の装置診断方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20180215BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20180215BHJP
C12Q 1/68 20180101ALN20180215BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M1/34 Z
!C12Q1/68 A
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-527717(P2016-527717)
(86)(22)【出願日】2015年5月20日
(86)【国際出願番号】JP2015064396
(87)【国際公開番号】WO2015190249
(87)【国際公開日】20151217
【審査請求日】2016年9月13日
(31)【優先権主張番号】特願2014-121972(P2014-121972)
(32)【優先日】2014年6月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】南木 麻奈美
(72)【発明者】
【氏名】庄司 康則
【審査官】
伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−228212(JP,A)
【文献】
特開2004−251802(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/176596(WO,A1)
【文献】
特開2012−100582(JP,A)
【文献】
特開2013−126421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸を含む試料を温度調整するための温度調整ユニットと、前記温度調整ユニットを覆うカバーと、温度制御部とを有する核酸分析装置であって、
前記温度調整ユニットは、試料を含む容器を保持するための保持部材と、前記保持部材に設けられ試料の温度を調整する温調素子と、前記保持部材と前記温調素子の間の熱伝導性を高める熱伝導材と、前記保持部材の温度を測定する温度センサとを備え、
前記温度制御部は、前記温調素子へ供給する制御信号量を制御するものであって、
前記温度制御部は、
前記温度調整ユニットの昇温時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも小さく、
前記温度調整ユニットの降温時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも大きく、
前記温度調整ユニットが前記カバー内部温度に対して高温維持時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも小さく、
前記温度調整ユニットが前記カバー内部温度に対して低温維持時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも大きい場合には、前記温調素子が異常と診断することを特徴とする核酸分析装置。
【請求項2】
核酸を含む試料を温度調整するための温度調整ユニットと、前記温度調整ユニットを覆うカバーと、温度制御部とを有する核酸分析装置であって、
前記温度調整ユニットは、試料を含む容器を保持するための保持部材と、前記保持部材に設けられ試料の温度を調整する温調素子と、前記保持部材と前記温調素子の間の熱伝導性を高める熱伝導材と、前記保持部材の温度を測定する温度センサとを備え、
前記温度制御部は、前記温調素子へ供給する制御信号量を制御するものであって、
前記温度制御部は、
前記温度調整ユニットの昇温時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも大きく、
前記温度調整ユニットの降温時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも大きく、
前記温度調整ユニットが前記カバー内部温度に対して高温維持時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも大きく、
前記温度調整ユニットが前記カバー内部温度に対して低温維持時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも小さい場合には、前記温度センサが異常と診断することを特徴とする核酸分析装置。
【請求項3】
核酸を含む試料を温度調整するための温度調整ユニットと、前記温度調整ユニットを覆うカバーと、温度制御部とを有する核酸分析装置であって、
前記温度調整ユニットは、試料を含む容器を保持するための保持部材と、前記保持部材に設けられ試料の温度を調整する温調素子と、前記保持部材と前記温調素子の間の熱伝導性を高める熱伝導材と、前記保持部材の温度を測定する温度センサとを備え、
前記温度制御部は、前記温調素子へ供給する制御信号量を制御するものであって、
前記温度制御部は、
前記温度調整ユニットの昇温時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも大きく、
前記温度調整ユニットの降温時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも大きく、
前記温度調整ユニットが前記カバー内部温度に対して高温維持時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも大きく、
前記温度調整ユニットが前記カバー内部温度に対して低温維持時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも大きい場合には、前記熱伝導材が異常と診断することを特徴とする核酸分析装置。
【請求項4】
核酸を含む試料を温度調整するための温度調整ユニットと、前記温度調整ユニットを覆うカバーと、温度制御部とを有する核酸分析装置であって、
前記温度調整ユニットは、試料を含む容器を保持するための保持部材と、前記保持部材に設けられ試料の温度を調整する温調素子と、前記保持部材と前記温調素子の間の熱伝導性を高める熱伝導材と、前記保持部材の温度を測定する温度センサとを備え、
前記温度制御部は、前記温調素子へ供給する制御信号量を制御するものであって、
前記温度制御部は、
前記温度調整ユニットの昇温時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも小さく、
前記温度調整ユニットの降温時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも小さく、
前記温度調整ユニットが前記カバー内部温度に対して高温維持時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも小さく、
前記温度調整ユニットが前記カバー内部温度に対して低温維持時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも小さい場合には、前記保持部材に前記容器が架設されていないと診断することを特徴とする核酸分析装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のうち、いずれか1項に記載の核酸分析装置において、
容器内で核酸と試薬を混合して試料を作成する試薬混合ユニットと、前記試料を分析する分析ユニットとを有することを特徴とする核酸分析装置。
【請求項6】
核酸を含む試料を温度調整するための温度調整ユニットと、前記温度調整ユニットを覆うカバーと、温度制御部とを有する核酸分析装置の装置診断方法であって、
前記温度調整ユニットは、試料を含む容器を保持するための保持部材と、前記保持部材に設けられ試料の温度を調整する温調素子と、前記保持部材と前記温調素子の間の熱伝導性を高める熱伝導材と、前記保持部材の温度を測定する温度センサを備え、
前記温度制御部は、前記温調素子へ供給する制御信号量を制御するものであって、
前記温度制御部は、
前記温度調整ユニットの昇温時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも小さく、
前記温度調整ユニットの降温時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも大きく、
前記温度調整ユニットが前記カバー内部温度に対して高温維持時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも小さく、
前記温度調整ユニットが前記カバー内部温度に対して低温維持時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも大きい場合には、前記温調素子が異常と診断することを特徴とする核酸分析装置の装置診断方法。
【請求項7】
核酸を含む試料を温度調整するための温度調整ユニットと、前記温度調整ユニットを覆うカバーと、温度制御部とを有する核酸分析装置の装置診断方法であって、
前記温度調整ユニットは、試料を含む容器を保持するための保持部材と、前記保持部材に設けられ試料の温度を調整する温調素子と、前記保持部材と前記温調素子の間の熱伝導性を高める熱伝導材と、前記保持部材の温度を測定する温度センサを備え、
前記温度制御部は、前記温調素子へ供給する制御信号量を制御するものであって、
前記温度制御部は、
前記温度調整ユニットの昇温時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも大きく、
前記温度調整ユニットの降温時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも大きく、
前記温度調整ユニットが前記カバー内部温度に対して高温維持時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも大きく、
前記温度調整ユニットが前記カバー内部温度に対して低温維持時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも小さい場合には、前記温度センサが異常と診断することを特徴とする核酸分析装置の装置診断方法。
【請求項8】
核酸を含む試料を温度調整するための温度調整ユニットと、前記温度調整ユニットを覆うカバーと、温度制御部とを有する核酸分析装置の装置診断方法であって、
前記温度調整ユニットは、試料を含む容器を保持するための保持部材と、前記保持部材に設けられ試料の温度を調整する温調素子と、前記保持部材と前記温調素子の間の熱伝導性を高める熱伝導材と、前記保持部材の温度を測定する温度センサとを備え、
前記温度制御部は、前記温調素子へ供給する制御信号量を制御するものであって、
前記温度制御部は、
前記温度調整ユニットの昇温時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも大きく、
前記温度調整ユニットの降温時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも大きく、
前記温度調整ユニットが前記カバー内部温度に対して高温維持時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも大きく、
前記温度調整ユニットが前記カバー内部温度に対して低温維持時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも大きい場合には、前記熱伝導材が異常と診断することを特徴とする核酸分析装置の装置診断方法。
【請求項9】
核酸を含む試料を温度調整するための温度調整ユニットと、前記温度調整ユニットを覆うカバーと、温度制御部とを有する核酸分析装置の装置診断方法であって、
前記温度調整ユニットは、試料を含む容器を保持するための保持部材と、前記保持部材に設けられ試料の温度を調整する温調素子と、前記保持部材と前記温調素子の間の熱伝導性を高める熱伝導材と、前記保持部材の温度を測定する温度センサとを備え、
前記温度制御部は、前記温調素子へ供給する制御信号量を制御するものであって、
前記温度制御部は、
前記温度調整ユニットの昇温時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも小さく、
前記温度調整ユニットの降温時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも小さく、
前記温度調整ユニットが前記カバー内部温度に対して高温維持時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも小さく、
前記温度調整ユニットが前記カバー内部温度に対して低温維持時に前記温調素子へ供給する制御信号量が予め定めた基準値よりも小さい場合には、前記保持部材に前記容器が架設されていないと診断することを特徴とする核酸分析装置の装置診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的試料に含まれる核酸を増幅することによって生物学的試料を分析するための核酸分析装置、および核酸分析装置の装置診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液、血漿、組織片などの生物学的試料に含まれる核酸の分析は、生物学、生化学、医学などの学術研究ばかりでなく、診断、農作物の品種改良、食品検査といった産業など多岐の分野で行われている。核酸の分析方法としてもっとも広く普及している方法はPCR(Polymerase Chain Reaction)と呼ばれる、分析したい領域の核酸を塩基配列特異的に増幅させる技術である。PCRでは、核酸とそれを増幅させるための試薬を含む反応液を、95℃程度に加熱して核酸を熱変性させ、その後60℃程度まで冷却して核酸のアニーリングと伸長反応を進めるというサイクルが30〜40回繰り返される。反応の進行に伴う核酸の増幅を検出する手段としては、多くの場合、PCR生成物量に依存して蛍光強度が変化する蛍光標識を反応液に混合し、励起光を照射して、蛍光標識から放射される蛍光強度を測定することで行われる。
【0003】
特許文献1は、熱電素子(ペルチェ素子)のAC抵抗を測定し、温度調整ユニットの故障を診断するものである。約20,000〜約50,000温度サイクル後に約5%のAC抵抗の増加を示す熱電素子はすぐに故障することが、経験的に判断されている。装置の立ち上げ時もしくはオペレータが専用の自己診断機能を実行した時に、熱電素子の加熱面および冷却面の温度を等しくして、その後にAC抵抗を測定、故障の診断を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−278896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、診断を行うために熱電素子(ペルチェ素子)の両面の温度を等しくする必要があるため、検体の測定中(核酸増幅のための温度サイクル実施中)に温度調整ユニットが異常となった場合には診断できない。またペルチェ素子の疲労破壊によって引き起こされる抵抗の増加を基に診断を実施するため、温度調整ユニットの中で、ペルチェ素子以外の部品の故障は診断できないという課題がある。
【0006】
本発明の目的は、核酸増幅プロセスを行っている状態で、温度調整ユニットの異常や性能劣化を、原因部位を特定して検出できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する方法として、予め温度維持時、昇温時、降温時に温調素子に入力する制御信号量の初期値を定め、それを基に異常判定閾値を定める。核酸増幅プロセスを行っている状態で、モニタした現制御信号量と閾値とを比較することにより、温度調整ユニットの異常(故障、性能劣化)を診断し、さらにその原因となっている部品を特定する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の診断方法を用いることで、核酸増幅プロセスを行っている状態で、温度調整ユニットの異常や性能劣化を、原因部位を特定して検出することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の形態1による核酸分析装置において、その主要部の構成例を示す上面図である。
【
図2】
図1のA−A’間の構成例を示す断面図である。
【
図3】
図1および
図2の核酸分析装置における温度調整ユニットの詳細な構成例を示す模式図である。
【
図4】本発明の実施の形態2による核酸分析装置において、その概略的な構成例を示す上面図である。
【
図5】温調ブロック温度およびペルチェ素子へ入力する制御信号量の一例を示す図である。
【
図6】ペルチェ素子が故障した場合の、温調ブロック温度およびペルチェ素子へ入力する制御信号量の一例を示す図である。
【
図7A】温調ブロック温度、ペルチェ素子へ入力する制御信号量の組み合わせと、それから判別できる部品の異常との関係を示した図である。
【
図7B】温調ブロック温度、ペルチェ素子へ入力する制御信号量の組み合わせと、それから判別できる部品の異常との関係を示した図である。
【
図7C】温調ブロック温度、ペルチェ素子へ入力する制御信号量の組み合わせと、それから判別できる部品の異常との関係を示した図である。
【
図7D】温調ブロック温度、ペルチェ素子へ入力する制御信号量の組み合わせと、それから判別できる部品の異常との関係を示した図である。
【
図7E】温調ブロック温度、ペルチェ素子へ入力する制御信号量の組み合わせと、それから判別できる部品の異常との関係を示した図である。
【
図8】温調ブロック温度、ペルチェ素子へ入力する制御信号量の組み合わせと、それから判別できる部品の異常との関係を纏めた表である。
【
図9】複数の温度調整ユニットのペルチェ素子へ入力する制御信号量から、温調性能の異常を診断する方法を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
PCR反応を行うにあたって、温調性能の正確さは非常に重要である。核酸の熱変性を行うステップで、95℃を超えて過度に高温になると核酸増幅酵素が失活し、増幅効率が低下する恐れがある。アニーリング時の温度が適温から外れていると、プライマーが標的配列に適切にアニーリングできず、目的増幅産物量は減少する。また分析したい核酸に試薬などを混ぜた反応液を調合し、核酸分析装置によるPCR反応を開始した後に温調性能に異常が生じた場合、その分析は無効となり検体が無駄になってしまう。このような理由から装置内の温度調整ユニットの異常は、検体を測定する前に発見できることが望ましく、温調性能が完全に異常となる前段階、すなわち劣化の段階で発見できればなお望ましい。さらに、迅速に修理が行えるよう、どこの部品が壊れたかを特定できることが望ましい。
【0011】
以下、本発明に係る核酸分析装置について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図4は、核酸分析装置の概略的な構成例を示す上面図である。
図4の核酸分析装置32は、検体から核酸を抽出する核酸抽出ユニット33と、抽出した核酸に試薬を分注し、混合する試薬混合ユニット34と、混合後の反応液を温調して蛍光を検出する核酸分析ユニット35とを備える。このうち核酸分析ユニット35は核酸分析装置に必須の構成要素であるが、他の核酸抽出ユニット33、試薬混合ユニット34は必須ではなく、どのような組み合わせであっても構わない。以降では核酸分析ユニット35の診断方法について、詳細に説明する。
(実施の形態1)
〔核酸分析装置の主要部の構成〕
図1は、本発明の実施の形態1による核酸分析装置において、その主要部の構成例を示す上面図である。
図2は、
図1のA−A’間の構成例を示す断面図である。
【0013】
図1および
図2の核酸分析ユニット31の構成は、
図4の核酸分析ユニット35と同じであり、温調ブロック1と、カローセル2と、ペルチェ素子4と、温度センサ5と、光度計6と、遮蔽板7と、ヒータ12から構成される。
【0014】
温調ブロック1は、カローセル2の中心軸周りで外周に沿って複数個(この例では12個)配置されており、回転軸3を中心に回転駆動される。複数の温調ブロック1とカローセル2との間にはそれぞれペルチェ素子4が配置される。温調ブロック1の温度は、温調ブロック1内に搭載された温度センサ5で温度をモニタしながらペルチェ素子4を制御することで調整される。複数の温調ブロック1のそれぞれに対応してペルチェ素子4及び温度センサ5を一組ずつ配置することで、複数の温調ブロック1の温度は、それぞれ独立に調整される。
【0015】
カローセル2の外周には、光度計6が配置される。ここでは、一例として、それぞれ異なる波長の光を用いる2個の光度計6は示しているが、カローセル2の外周であれば1個あるいは3個以上の光度計6を配置しても構わない。全ての温調ブロック1は回転駆動により同一円周上を動くため、光度計6の前を通過する際の光度計6と温調ブロック1との相対位置は、全ての温調ブロック1で同じになる。
【0016】
複数の温調ブロック1は、光度計6で分析する際に光学的な外乱を低減するため、カローセル2を含めて遮蔽板7で覆われている。分析が実施される際には、核酸に試薬などを混ぜた反応液(試料)を含むチューブ(反応容器)10が温調ブロック(保持部材)1で保持される。全ての温調ブロック1には、光度計6から励起光を受けるための励起光照射窓8と、光度計
6が蛍光を取り込むための蛍光検出窓9とが設けられる。ここでは、励起光照射窓8を温調ブロック1の下面側に、蛍光検出窓9を温調ブロック1の側面側に配置しているが、光度計の構造に応じて窓の配置は自由に設定することが可能である。
【0017】
遮蔽板内部11は、遮蔽板外部の外気温の変化が温調ブロック1に与える影響を最小限に抑えるため、同じ温度に保たれているのが望ましい。そのため遮蔽板7の内部には温度センサ(図示せず)とヒータ12を設置する。ここではヒータ12は遮蔽板7の内側の側面に配置しているが、構造に応じて遮蔽板内部11のどの位置に配置してもよい。また、ヒータ以外にもペルチェ素子等の各種熱源や、ファンやフィン等の放熱機を用いることができ、これらを複数組み合わせても構わない。
〔温度調整ユニットの詳細〕
図3は、温度調整ユニット14の詳細を示した図である。温度調整ユニット14は、核酸を含む反応液が入ったチューブ10を保持するための温調ブロック1、温調ブロック1の温度を調節するペルチェ素子4、温調ブロック1の温度をモニタする温度センサ5、熱伝導シート13から構成される。ペルチェ素子の放熱面および冷却面と、温調ブロック1もしくはカローセル2との接触面には、伝熱性を向上させるため、熱伝導シート13を間に挟んでいる。熱伝導シート13の代わりに、グリース等を塗布してもよい。また温調ブロック1をカローセル2に固定するために、固定具(図示せず)を使用してもよい。
【0018】
図5は、
図3の温度調整ユニット14において、周囲温度60℃の条件で95℃−45℃を繰り返す温度サイクル実行時の温調ブロック1の温度と、その時にペルチェ素子4へ入力する制御信号量の組み合わせを模式的に示した図である。制御信号量はペルチェ素子4の温調ブロックと接する面を基準に、加熱時の制御信号量を0〜100%、冷却時の制御信号量を0〜−100%で表記しており、数値の絶対値が大きいほど加熱/冷却力が強いことを表わす。
【0019】
核酸増幅のため温度サイクルを実行するにあたり、昇温/降温速度は予め一定値(例えば1℃/秒など)に定めておくことが望ましい。常に同一の温度サイクルを実行することにより測定間の結果のばらつきを低減できること、また核酸増幅プロセス実行時に終了予定時刻通りに終了できるため、分析スケジュールの立案を容易にできるためである。
【0020】
図6は、ペルチェ素子4が劣化した場合の温調ブロック1の温度と、ペルチェ素子4へ入力する制御信号量の一例を模式的に示した図である。ペルチェ素子は温度の上下を繰り返すことで劣化が進むと電気抵抗が増大し、動作時のジュール熱が増加する。そのため、初期状態と比較して加熱は有利に、冷却は不利になる。すなわち、昇温/降温速度をある一定の値にするよう制御した場合、昇温時の加熱制御信号量は初期状態よりも小さくなり、降温時の冷却制御信号量は初期状態よりも大きくなる。
【0021】
同様の理由で、昇温/降温時だけでなく、一定温度維持時の加熱/冷却制御信号量も初期値から変化する。例えば遮蔽板内部11の温度が60℃である時、温調ブロック1を95℃に維持する時にはペルチェ素子4は加熱、温調ブロック1を45℃に維持する時にはペルチェ素子4は冷却を行っている。昇温/降温時と同様に、ペルチェ素子4が劣化すると、遮蔽板内部11より高温維持時の加熱制御信号量は初期状態より小さくなり、低温維持時の冷却制御信号量は初期状態より大きくなる。
【0022】
以上のような制御信号量の変化を利用すれば、ペルチェ素子4の劣化や異常を診断することができる。まず、装置出荷前にペルチェ素子4毎に、温度サイクルの各段階でペルチェ素子4に入力する制御信号量をチューニングし、装置内部に初期値を保持しておく。遮蔽板内部11の温度は温調しても変動はするので、初期値にある尤度をもって異常診断閾値を設定し、その範囲を外れたら異常と診断する。
【0023】
図7Aは温度調整ユニット14が正常である場合を示す図で、
図5を模式化したものである。ペルチェ素子4へ入力する加熱/冷却制御信号量は、温度サイクルの全ての段階において初期値を基に定めた閾値の範囲内にあり、この場合、温度調整ユニット14は正常であると診断する。
【0024】
図7Bはペルチェ素子4が劣化した場合を示す図であり、
図6を模式化したものである。昇温時および遮蔽板内部11の温度より高温維持時には、加熱制御信号量は閾値より小さくなる。一方、降温時および遮蔽板内部11の温度より低温維持時には、冷却制御信号量は閾値より大きくなる。この場合、温度調整ユニット14は異常であると診断し、さらに異常部位はペルチェ素子4であると診断する。
【0025】
同様に、ペルチェ素子4へ入力する制御信号量の変化から、ペルチェ素子4以外に、温度センサ5や熱伝導シート13の劣化も診断できる。
【0026】
図7Cは、温度センサ5が劣化した場合を示す図である。温度センサは疲労により絶縁特性が低下すると、温度が実際より低く認識されるようになる。すなわち温調ブロック1の実際の温度は、設定温度(温度センサ5の認識温度)よりも高温になる。従って、遮蔽板内部11の温度より高温維持時には、加熱制御信号量は閾値より大きく、遮蔽板内部11の温度より低温維持時には、冷却制御信号量は閾値より小さくなる。また、この絶縁特性が低下する現象は高温ほど顕著に表れるため、昇温/降温時の温度変化範囲が正常時より増大する。従って、昇温/降温速度を一定に保つために、昇温時の加熱制御信号量、降温時の冷却制御信号量はともに閾値より大きくなる。この場合、温度調整ユニット14は異常であると診断し、さらに異常部位は温度センサ5であると診断する。
【0027】
図7Dは、熱伝導シート13が劣化した場合を示す図である。熱伝導シート13は経年劣化により熱伝導率が低下し、ペルチェ素子4の温度変化が温調ブロック1に伝わりにくくなる。従って、温度サイクル中の全ての段階において、加熱/冷却制御信号量が閾値より大きくなる。この場合、温度調整ユニット14は異常であると診断し、さらに異常部位は熱伝導シート13であると診断する。
【0028】
このような診断方法は、部品の劣化以外の異常検出にも利用することもできる。
図7Eは、チューブ10の架設が正常に行われなかった場合を示す図である。温調ブロック1の熱容量が正常時と比べて減少するため、ペルチェ素子4はより少ない出力で温度維持や温度変化を行うことができる。従って温度サイクル中の全ての段階において、加熱/冷却制御信号量が閾値より小さくなる。このような場合は、チューブ10の架設状況に異常があると診断する。
【0029】
チューブ10の架設の成否はPCR結果に重大な影響を及ぼすため、専用のセンサで監視するのが一般的であるが、このセンサが故障する可能性も否定できない。そのような場合に備え、本診断で二重監視することが可能となる。
【0030】
図8は、ペルチェ素子へ入力する加熱/冷却制御信号量と、そこから特定される異常原因の関係をまとめたものである。本実施の形態1の核酸分析装置を用いることで、装置の温調性能に生じた異常を迅速に診断することが可能となり、その原因となる部品(ペルチェ素子、温度センサ等)を特定することが可能になる。この方法を用いれば、例えば特許文献1のように、ペルチェ素子を特定の温度にする必要がなく、核酸増幅中でも装置の診断を実施できる。また原因部品を特定することができるため、迅速かつ低コストで修理することが可能である。
【0031】
温調性能の異常の診断は慎重に行う必要がある。そのため、診断の確度を上げるために1サイクルだけではなく、複数サイクルの制御信号量を基に診断することで、精度を上げることができる。
【0032】
また複数(本実施例では最大12個)の温度調整ユニット14の制御信号量を比較して診断することで、診断の精度をさらに上げることができる。
【0033】
以上、個々の温度調整ユニット14について、ペルチェ素子4への現制御信号量を初期値と比較することで診断を行う方法について述べたが、
図1に示した複数(本実施例では最大12個)の温度調整ユニット14の診断結果を使用し、個々の温度調整ユニット14以外の共通の温調機構に生じた異常を診断することも可能である。
【0034】
例えば
図9に示すように、複数(本実施例では最大12個)の温度調整ユニット14で、
図6Bのペルチェ素子4の劣化時と同様の診断結果が得られたとする。このような場合、複数のペルチェ素子4が同時に劣化する可能性は極めて小さく、複数(本実施例では最大12個)の温度調整ユニット14に共通する温調機構、すなわち遮蔽板内部11の温調性能に異常が生じ、遮蔽板内部11の雰囲気が高温になったと診断することができる。
【0035】
前述した装置診断方法は、核酸増幅中でも実行が可能であるため、診断用の特別な時間を設けずに診断することができる。しかし核酸増幅中だけでなく、電源投入後、分析を待機している準備期間に実行することも可能である。
【0036】
核酸分析を実施していない場合は、遮蔽板内部11の温度が所定の温度に到達した状態で温度サイクルを実行し、各段階でペルチェ素子4へ入力する加熱/冷却制御信号量をモニタし、閾値と比較する。この場合、温調ブロック1にチューブ10は架設されていないため、温調ブロック1の熱容量が低く温度の振る舞いが測定中とは異なるため、核酸増幅中の異常判定用とは別の閾値を定めておけばよい。診断基準は
図8に示した関係をそのまま利用できる。この動作はユーザーによって手動で実行されてもよいし、電源投入後や核酸増幅を実施していないタイミングで自動的に実行されるようにしても構わない。
(実施の形態2)
〔核酸分析装置の構成〕
図4は、本発明の実施の形態2による核酸分析装置において、その概略的な構成例を示す上面図である。
【0037】
核酸抽出ユニット33は、検体架設部41、遠心部42、退避室43、チューブ架設部44、抽出試薬保管庫45、消耗品保管庫46などから構成され、詳しい説明は省略するが、検体から不要成分を取り除き、分析に必要な核酸だけを抽出する機能を担う。試薬混合ユニット34は、分析試薬保管庫47、消耗品保管庫48、混合部49などから構成され、詳しい説明は省略するが、核酸抽出ユニット33で抽出された核酸に分析用の試薬を混合する機能を担う。核酸分析ユニット35の構成は、
図1に示した核酸分析ユニット31と同じであり、最終工程となる核酸を分析する機能を担う。各ユニット間のチューブの搬送は、ロボットアーム50によって行われる。
【0038】
本実施例のように、核酸分析ユニット35に対して核酸抽出ユニット33、試薬混合ユニット34といった前処理部が接続された核酸分析装置32の場合は、装置立ち上げ後、準備段階、前処理段階、分析段階といった各プロセスの実施途中で診断を行うことができる。
【0039】
分析の実行者は、核酸分析装置32を立ち上げ、検体、試薬、チューブなどの消耗品をセットし、分析を開始する。この際に、
図4のような核酸抽出ユニット33および試薬混合ユニット34を有する核酸分析装置32であれば、装置を立ち上げた段階(すなわち電源投入直後の装置の準備段階)でペルチェ素子4や温度センサ5を含む温度調整ユニット14の診断を開始し、異常(故障、性能劣化)があればそれを早期に検出できる。もし異常が検出された場合は、検体に分析用の前処理(試薬の混合等)を行う前の段階で一旦停止して修理を行うことができるため、検体を無駄にするリスクが低減できる。
【0040】
電源投入時に異常が検出されなかった場合、装置は通常動作に移行して核酸抽出ユニット33および試薬混合ユニット34による分析用の前処理を開始する。その後核酸増幅工程を実行し始めた後も、温度調節ユニットの診断は特別な動作を必要としないため、随時行うことができる。その結果異常が検出された場合には速やかに分析を停止し、誤った分析結果が表示されるのを防止できる。またユーザーが温度調節ユニットの性能を診断したいと思った場合には、装置立ち上げ後、分析動作を行っていない状態であれば手動で診断を実行することも可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 温調ブロック
2 カローセル
3 回転軸
4 ペルチェ素子
5 温度センサ
6 光度計
7 遮蔽板
8 励起光照射窓
9 蛍光検出窓
10 チューブ
11 遮蔽板内部
12 ヒータ
13 熱伝導シート
14 温度調整ユニット
31,35 核酸分析ユニット
32 核酸分析装置
33 核酸抽出ユニット
34 試薬混合ユニット
36 分析処理部
37 装置診断部
41 検体架設部
42 遠心部
43 退避室
44 チューブ架設部
45 抽出試薬保管庫
46,48 消耗品保管庫
47 分析試薬保管庫
49 混合部
50 ロボットアーム