(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記Cr系膜が、クロム(Cr)と窒素(N)を含有するCrN膜であり、Crの含有量が40〜97at%であり、Nの含有量が3〜60at%であり、前記CrおよびNの合計含有率が95〜100at%である、請求項1に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
前記TaPd系膜が、タンタル(Ta)、パラジウム(Pd)および窒素(N)を含有するTaPdN膜であり、Taの含有率が10〜60at%であり、Pdの含有率が20〜70at%であり、Nの含有率が10〜70at%であり、前記Ta、Pd、およびNの合計含有率が95〜100at%である、請求項1または2に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
前記Cr系膜、および、前記TaPd系膜のうち、少なくとも一方が、さらに水素(H)、ケイ素(Si)およびホウ素(B)を、0.1〜10at%の合計含有率で含有する、請求項1〜3のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
前記上層が、前記CrN膜、および、該CrN膜上に形成された表面保護層の二層構造からなり、該表面保護層が、CrおよびOを含有し、Cr含有率が15〜70at%であり、O含有率が30〜85at%であるCrO膜、または、Cr、OおよびNを含有し、Cr含有率が10〜60at%であり、OおよびNの合計含有率が40〜90at%であり、OとNの組成比がO:N=9:1〜6:4であるCrON膜である、請求項2〜4いずれかに記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
前記上層が、前記TaPdN膜、および、該TaPdN膜上に形成された表面保護層の二層構造からなり、該表面保護層が、Ta、PdおよびOを含有し、O含有率が30〜85at%のTaPdO膜、または、Ta、Pd、OおよびNを含有し、OおよびNの合計含有率が40〜90at%であり、OとNの組成比がO:N=9:1〜6:4であるTaPdON膜である、請求項3または4に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
前記TaPdO膜が、前記Taの含有率が7〜32at%であり、Pdの含有率が8〜38at%であり、Oの含有率が30〜85at%である、請求項6に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
前記TaPdON膜が、前記Taの含有率が5〜27at%であり、Pdの含有率が5〜33at%であり、OおよびNの合計含有率が40〜90at%であり、OとNの組成比がO:N=9:1〜6:4である、請求項6に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
前記表面保護層が、さらに水素(H)、ケイ素(Si)およびホウ素(B)を、0.1〜10at%の合計含有率で含有する、請求項5〜9のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランク。
前記Cr系膜がCrN膜であり、該CrN膜が、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)のうち少なくともひとつと、窒素(N2)と、を含む不活性ガス雰囲気中で、クロム(Cr)を含有するターゲットを用いてスパッタリング法を行うことにより形成される、請求項2に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの製造方法。
前記TaPd系膜が、TaPdN膜であり、該TaPdN膜が、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)のうち少なくともひとつと、窒素(N2)と、を含む不活性ガス雰囲気中で、タンタル(Ta)と、パラジウム(Pd)と、を含有するターゲットを用いてスパッタリング法を行うことにより形成される、請求項3に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの製造方法。
前記表面保護層がTaPdO膜であり、該TaPdO膜が、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)のうち少なくともひとつと、酸素(O2)と、を含む不活性ガス雰囲気中で、タンタル(Ta)と、パラジウム(Pd)と、を含有するターゲットを用いてスパッタリング法を行うことにより形成される、請求項6または7に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの製造方法。
前記表面保護層がTaPdON膜であり、該TaPdON膜が、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)のうち少なくともひとつと、酸素(O2)および窒素(N2)と、を含む不活性ガス雰囲気中で、タンタル(Ta)と、パラジウム(Pd)と、を含有するターゲットを用いてスパッタリング法を行うことにより形成される、請求項6または8に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの製造方法。
前記表面保護層がCrO膜であり、該CrO膜が、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)のうち少なくともひとつと、酸素(O2)と、を含む不活性ガス雰囲気中で、クロム(Cr)を含有するターゲットを用いてスパッタリング法を行うことにより形成される、請求項5に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの製造方法。
前記表面保護層がCrON膜であり、該CrON膜が、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)のうち少なくともひとつと、酸素(O2)および窒素(N2)と、を含む不活性ガス雰囲気中で、クロム(Cr)を含有するターゲットを用いてスパッタリング法を行うことにより形成される、請求項5に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面を参照して本発明のEUVマスクブランクを説明する。
図1は、本発明のEUVマスクブランクの1実施形態を示す概略断面図である。
図1に示すマスクブランク1は、基板11上にEUV光を反射する反射層12と、EUV光を吸収する吸収層14と、がこの順に形成されている。反射層12と吸収層14との間には、吸収層14へのパターン形成時に反射層12を保護するための保護層13が形成されている。本発明のEUVマスクブランク
1では、吸収層14が、上層14aと下層14bで構成されている。但し、本発明のEUVマスクブランク1において、
図1に示す構成中、基板11、反射層12および吸収層14(上層14aおよび下層14b)のみが必須であり、保護層13は任意の構成要素である。
以下、マスクブランク1の個々の構成要素について説明する。
【0038】
基板11は、EUVマスクブランク用の基板としての特性を満たすことが要求される。そのため、基板11は、低熱膨張係数(具体的には、20℃における熱膨張係数が0±1.0×10
-7/℃が好ましく、より好ましくは0±0.3×10
-7/℃、さらに好ましくは0±0.2×10
-7/℃、さらに好ましくは0±0.1×10
-7/℃、特に好ましくは0±0.05×10
-7/℃)を有し、平滑性、平坦度、およびマスクブランクまたはパターン形成後のフォトマスクの洗浄等に用いる洗浄液への耐性に優れたものが好ましい。基板11としては、具体的には低熱膨張係数を有するガラス、例えばSiO
2−TiO
2系ガラス等を用いるが、これに限定されず、β石英固溶体を析出した結晶化ガラスや石英ガラスやシリコンや金属などの基板も使用できる。また、基板11上に応力補正膜のような膜を形成してもよい。
【0039】
基板11は、表面粗さ(rms)0.15nm以下の平滑な表面と100nm以下の平坦度を有していることがパターン形成後のフォトマスクにおいて高いEUV光の反射率および転写精度が得られるために好ましい。なお、本明細書において表面粗さとは、JIS−B0601に基づく二乗平均平方根粗さRq(旧RMS)として説明する。
基板11の大きさや厚さなどはマスクの設計値等により適宜決定される。後で示す実施例では外形6インチ(152mm)角で、厚さ0.25インチ(6.3mm)のSiO
2−TiO
2系ガラスを用いた。
基板11の反射層12が形成される側の表面には欠点が存在しないことが好ましい。しかし、存在している場合であっても、凹状欠点および/または凸状欠点によって位相欠点が生じないように、凹状欠点の深さおよび凸状欠点の高さが2nm以下であり、かつこれら凹状欠点および凸状欠点の半値幅が60nm以下であることが好ましい。
【0040】
反射層12は、EUVマスクブランクの反射層として、EUV光の反射率が高い特性が要求される。具体的には、EUV光を入射角6度で反射層12表面に照射した際に、波長13.5nm付近の光線反射率の最大値は、60%以上が好ましく、63%以上がより好ましく、65%以上がさらに好ましい。また、反射層12の上に保護層13を設けた場合であっても、波長13.5nm付近の光線反射率の最大値は、60%以上が好ましく、63%以上がより好ましく、65%以上がさらに好ましい。
【0041】
反射層12は、高いEUV光の反射率を達成できることから、通常はEUV光に対して高い屈折率を示す高屈折層と、EUV光に対して低い屈折率を示す低屈折率層を交互に複数回積層させた多層反射膜が反射層12として用いられる。反射層12をなす多層反射膜において、高屈折率層には、Siが広く使用され、低屈折率層にはMoが広く使用される。すなわち、Mo/Si多層反射膜が最も一般的である。但し、多層反射膜はこれに限定されず、Ru/Si多層反射膜、Mo/Be多層反射膜、Mo化合物/Si化合物多層反射膜、Si/Mo/Ru多層反射膜、Si/Mo/Ru/Mo多層反射膜、Si/Ru/Mo/Ru多層反射膜も使用できる。
【0042】
反射層12をなす多層反射膜を構成する各層の膜厚および層の繰り返し単位の数は、使用する膜材料および反射層に要求されるEUV光の反射率に応じて適宜選択できる。Mo/Si反射膜を例にとると、EUV光の反射率の最大値が60%以上の反射層12とするには、多層反射膜は膜厚2.3±0.1nmのMo膜と、膜厚4.5±0.1nmのSi膜とを繰り返し単位数が30〜60になるように積層させればよい。
【0043】
なお、反射層12をなす多層反射膜を構成する各層は、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法など、周知の成膜方法を用いて所望の厚さになるように成膜すればよい。例えば、イオンビームスパッタリング法を用いてMo/Si多層反射膜を形成する場合、ターゲットとしてSiターゲットを用い、スパッタリングガスとしてArガス(ガス圧1.3×10
-2Pa〜2.7×10
-2Pa)を使用して、イオン加速電圧300〜1500V、成膜速度0.03〜0.30nm/secで厚さ4.5nmとなるようにSi膜を成膜し、次に、ターゲットとしてMoターゲットを用い、スパッタリングガスとしてArガス(ガス圧1.3×10
-2Pa〜2.7×10
-2Pa)を使用して、イオン加速電圧300〜1500V、成膜速度0.03〜0.30nm/secで厚さ2.3nmとなるようにMo膜を成膜することが好ましい。これを1周期として、Si膜およびMo膜を30〜60周期積層させることによりMo/Si多層反射膜が成膜される。
【0044】
また、反射層12表面が酸化されるのを防止するため、反射層12をなす多層反射膜の最上層は酸化されにくい材料の層とすることが好ましい。酸化されにくい材料の層は反射層12のキャップ層として機能する。キャップ層として機能する酸化されにくい材料の層の具体例としては、Si層を例示できる。反射層12をなす多層反射膜がMo/Si多層反射膜である場合、最上層をSi層とすることによって、該最上層をキャップ層として機能させることができる。その場合キャップ層の膜厚は、11±2nmが好ましい。
【0045】
保護層13は、エッチングプロセス、通常はドライエッチングプロセスにより吸収層14にパターン形成する際に、反射層12がエッチングプロセスによるダメージを受けないよう、反射層12を保護する目的で設けられる。したがって保護層13の材質としては、吸収層14のエッチングプロセスによる影響を受けにくい、つまりこのエッチングレートが吸収層14よりも遅く、しかもこのエッチングプロセスによるダメージを受けにくい物質が選択される。本発明の保護層13は、RuまたはRu化合物(RuB、RuSi、RuNb等)を構成材料とする。
また、保護層13中には、TaおよびCrを含まないことが、保護層13表面からのEUV光の反射率の低下を防ぐという理由で好ましい。保護層13中のTa、Crの含有率は、それぞれ5at%以下、特に3at%以下が好ましく、さらにはTaおよびCrを含まないことが好ましい。
保護層13の厚さは1〜60nm、特に1〜10nmが好ましい。
【0046】
保護層13は、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法など周知の成膜方法を用いて成膜する。マグネトロンスパッタリング法によりRu膜を成膜する場合、ターゲットとしてRuターゲットを用い、スパッタリングガスとしてArガス(ガス圧1.0×10
-2Pa〜10×10
-1Pa)を使用して投入電圧30V〜1500V、成膜速度0.02〜1.0nm/secで厚さ2〜5nmとなるように成膜することが好ましい。
【0047】
吸収層14に特に要求される特性は、反射層12で反射されるEUV光と、吸収層14で反射されるEUV光とのコントラストが高いことである。吸収層14のみでEUV光を吸収するのではなく、位相シフトの原理を利用することで、反射層12とのコントラストを維持するEUVマスクの場合、上述したように、吸収層の屈折率nと消衰係数kを所望の値にする必要があり、nは0.945未満が好ましく、0.930未満がより好ましく、0.920未満がさらに好ましい。kは0.020〜0.080が好ましく、0.025〜0.078がより好ましく、0.030〜0.075がさらに好ましい。
また、位相シフトの原理を利用するためには、吸収層14の表面におけるEUV光のピーク反射率、具体的には、EUV光を入射角6度で吸収層14表面に照射した際に、波長13.5nm付近の光の反射率の最大値(ピーク反射率)は、5%以上12%以下が好ましい。
【0048】
本発明のEUVマスクブランク1の吸収層14は、表面側の層(上層14a)と基板11側の層(下層14b)で構成され、上層14aおよび下層14bのうちの一方が、クロム(Cr)を主成分とし、酸素(O)および窒素(N)のうち少なくとも一方を含有するCr系膜とし、他方が、タンタル(Ta)およびパラジウム(Pd)を主成分とし、OおよびNのうち少なくとも一方を含有するTaPd系膜とし、かつ、下記条件(1)〜(5)を満たすことで上記の特性を達成する。
(1)吸収層14の合計膜厚(L)が30nm以上45nm以下である。
(2)TaPd系膜の膜厚が8nm以上36nm以下である。
(3)吸収層14の表面におけるEUV光のピーク反射率が5%以上12%以下である。
(4)反射層12の表面におけるEUV反射光と、吸収層14の表面におけるEUV反射光と、の位相差(φ)が180°±10°の範囲内である。
(5)吸収層14の合計膜厚(L)の変化(ΔL)に対する位相差(φ)の変化(Δφ)の勾配(Δφ/ΔL)が、15deg/nm以下である。
【0049】
上記のCr系膜としては、CrおよびOを含有するCrO膜、CrおよびNを含有するCrN膜、Cr、OおよびNを含有するCrON膜が例示される。上記で例示したCr系膜の中でも、CrN膜が、EUV光に対して小さな屈折率が得られ、吸収層の薄膜化に有利に働くという理由から好ましい。
【0050】
CrN膜中におけるCrの含有率は、40〜97at%であると、EUV光に対して低屈折率となるため、吸収層の薄膜化に有利に働くという理由から好ましく、45〜97at%がより好ましく、45〜95at%がさらに好ましい。
また、CrN膜中におけるNの含有率は、3〜60at%であると、膜応力を小さくできるという理由から好ましく、3〜55at%がより好ましく、5〜55at%がさらに好ましい。Crが40at%未満(すなわちNが60at%超)の場合、所望の光学特性が得られない。さらにCrが97at%超(すなわちNが3at%未満)の場合、膜応力が大きくなるという問題がある。
なお、CrN膜中のCrおよびNの合計含有率は、95〜100at%が好ましく、97〜100at%がより好ましく、99〜100at%がさらに好ましい。
【0051】
本発明におけるCr系膜は、さらに水素(H)、ケイ素(Si)、ホウ素(B)を含有してもよい。Cr系膜がH、Si、Bを含有する場合、これらの合計含有率は、0.1〜10at%、特に0.1〜5at%であることが、膜結晶構造をアモルファスにでき、吸収層表面を平滑するのに寄与するという理由で好ましい。
【0052】
上記のTaPd系膜としては、Ta、PdおよびOを含有するTaPdO膜、Ta、PdおよびNを含有するTaPdN膜、Ta、Pd、OおよびNを含有するTaPdON膜が例示される。
上記で例示したTaPd系膜の中でも、TaPdN膜が、EUV光に対して低屈折率となるため、吸収層の薄膜化に有利に働くという理由から好ましい。
【0053】
TaPdN膜中におけるTaの含有率が10〜60at%であると、EUV光に対して低屈折率となるため、吸収層の薄膜化に有利に働くという理由から好ましく、10〜55at%がより好ましく、10〜50at%がさらに好ましい。
また、TaPdN膜中におけるPdの含有率が20〜70at%であると、EUV光に対して低屈折率となるため、吸収層の薄膜化に有利に働くという理由から好ましく、20〜65at%がより好ましく、25〜65at%がさらに好ましい。
また、TaPdN膜中におけるNの含有率が10〜70at%であると、EUV光に対して低屈折率となるため、吸収層の薄膜化に有利に働くという理由、および膜応力を小さくできるという理由から好ましく、10〜60at%がより好ましく、10〜50at%がさらに好ましい。Taの含有率が60at%超、あるいはPdの含有率が20at%未満の場合は、所望の光学特性が得られない可能性がある。また、Taの含有率が10at%未満、あるいはPdの含有率が70at%超の場合、エッチングレートが遅くなるなどの問題がある。さらに、Nの含有率が70at%超の場合、所望の光学特性が得られない可能性があり、Nの含有率が10at%未満の場合、膜応力が大きくなるという問題がある。
なお、TaPdN膜中のTa、PdおよびNの合計含有率は、95〜100at%が好ましく、97〜100at%がより好ましく、99〜100at%がさらに好ましい。
【0054】
本発明におけるTaPd系膜は、さらに水素(H)、ケイ素(Si)、ホウ素(B)を含有してもよい。TaPd系膜がH、Si、Bを含有する場合、これらの合計含有率は、0.1〜10at%、特に0.1〜5at%であると、膜結晶構造をアモルファスにでき、吸収層表面を平滑するのに寄与するという理由で好ましい。
【0055】
吸収層14について、上記条件(1)〜(5)の理由付けを以下に示す。
条件(1)について
吸収層14の合計膜厚(L)が30nm未満だと、反射層12の表面におけるEUV反射光と、吸収層14の表面におけるEUV反射光と、の位相差(φ)が、180°±10°の範囲内とならない。
一方、吸収層14の合計膜厚(L)が45nm超だと、吸収層14の表面におけるEUV光のピーク反射率が5%未満となる。または、反射層12の表面におけるEUV反射光と、吸収層14の表面におけるEUV反射光と、の位相差(φ)が、180°±10°の範囲内とならない。
吸収層14の合計膜厚(L)は、30nm以上43nm以下が好ましく、30nm以上40nm以下がより好ましい。
【0056】
条件(2)について
TaPd系膜の膜厚が8nm未満だと、吸収層14の表面におけるEUV光のピーク反射率が5%未満となる。または、反射層12の表面におけるEUV反射光と、吸収層14の表面におけるEUV反射光と、の位相差(φ)が、180°±10°の範囲内とならない。
一方、TaPd系膜の膜厚が36nm超だと以下の点で問題となる。
吸収層14にパターン形成する際には、該吸収層14の一部をドライエッチングプロセスにより除去する。本発明の吸収層14は、構成材料が互いに異なる上層14aと下層14bで構成されているため、ドライエッチングプロセスに使用するエッチングガスの種類がそれぞれ異なる。Crを主成分とするCr系膜の場合、塩素系ガス(Cl
2、BCl
3)がエッチングガスとして好ましく使用される。一方、主成分としてPdを含むTaPd系膜の場合、フッ素系ガス(CF
4、CF
3H)を用いたエッチングガスとして好ましく使用される。但し、TaPd系膜の場合、Taを主成分とし、Pdを含まない従来のTa系膜(例えば、TaN,TaNH,TaBN)に比べて、ドライエッチングプロセスを実施した際のエッチングレートが1/2〜1/6程度と遅い。このため、TaPd系膜の膜厚が36nm超だと、吸収層14にパターン形成する目的で、ドライエッチングプロセスを実施する際に、エッチングレートの遅さが問題となる。
また、TaPd系膜の膜厚は、8nm以上34nm以下が好ましく、8nm以上32nm以下がより好ましく、8nm以上30nm以下がさらに好ましく、8nm以上25nm以下がさらに好ましく、8nm以上23nm以下がさらに好ましく、8nm以上20nm以下が特に好ましい。
【0057】
なお、TaPd系膜は、吸収層14を構成する上層14a、下層14bのいずれであってもよく、上層14aがTaPd系膜の場合、Cr系膜が下層14bになり、下層14bがTaPd系膜の場合、Cr系膜が上層14aになる。
図1に示すマスクブランク1の上層14aがTaPd系膜の場合、同じ膜厚のTaPd系膜を下層14bとしたものが、
図2に示すマスクブランク1である。
ただし、マスクブランク1が、RuまたはRu化合物を構成材料とする保護層13を有する構成において、以下の理由で、上層14aがTaPd系膜であり、下層14bがCr系膜である組合せが好ましい場合がある。前述するように、Cr系膜のドライエッチングプロセスを実施する際には、塩素系ガスをエッチングガスとして使用する。塩素系ガスによるドライエッチングプロセスは、RuまたはRu化合物を構成材料とする保護層13に与えるダメージが少ない。そのため、下層14bがCr系膜である場合、その直下にあるRuまたはRu化合物を構成材料とする保護層13へのダメージを低減できる。
一方、上層14aがCr系膜であり、下層14bがTaPd系膜である組合せの構成において、以下の理由により好ましい場合がある。前述するように、TaPd系膜のドライエッチングプロセスを実施する際には、フッ素系ガスをエッチングガスとして使用する。上
層14aのCr系膜は、フッ素系ガスによるドライエッチングプロセスに対して耐性が高い。そのため、下層14bのTaPd系膜をフッ素系ガスでドライエッチングする際に、上層14aのCr系膜がハードマスクとして作用するため、パターン形成時のために塗布するレジストを薄膜化でき、パターンの微細化に有利に働く。
【0058】
条件(3)について
吸収層14の表面におけるEUV光のピーク反射率を5%以上12%以下とするのは、上述したように、位相シフトの原理を利用するうえで好ましいからである。
吸収層14の表面におけるEUV光のピーク反射率は、5%以上11%以下が好ましく、5%以上10%以下がより好ましい。
なお、吸収層14上に、後述する低反射層を形成する場合、低反射層の表面におけるEUV光のピーク反射率が上記の範囲を満たすことが好ましい。
【0059】
条件(4)について
反射層12の表面におけるEUV反射光と、吸収層14の表面におけるEUV反射光と、の位相差(φ)を、180°±10°の範囲内とするのは、位相シフトの原理を利用するためである。
なお、反射層12上に保護層13が形成されている場合は、保護層13の表面におけるEUV反射光と、吸収層14の表面におけるEUV反射光と、の位相差をφとする。この点については、条件(5)も同様である。
【0060】
条件(5)について
図3に示すように、吸収層14の合計膜厚(L)と、位相差(φ)との関係をプロットすると、極大値と極小値とを交互に取りつつ、正弦曲線様の曲線をなす。
吸収層14の合計膜厚(L)の変化(ΔL)に対する位相差(φ)の変化(Δφ)の勾配(Δφ/ΔL)を、15deg/nm以下とするのは、条件(4)、すなわち、φが180°±10°の範囲内となる膜厚での、膜厚変化に対する位相差変化を小さくするためである。
条件(5)を満たす場合、膜厚±0.7nmの変化に対する位相差が180°±10°の範囲内であり、吸収層14の成膜過程において、許容し得る膜厚の範囲を広くできる。即ち、成膜工程で起こり得る程度に、吸収層の膜厚のばらつきが生じても、EUVマスクブランクの面内におけるEUV光の光学特性の変動、およびEUVマスクブランク毎のEUV光の光学特性の変動(個体差)を抑制できる。
【0061】
吸収層14の上層14aおよび下層14bを構成するCr系膜およびTaPd系膜は、上記の構成により、その結晶状態はアモルファスが好ましい。本明細書において、「結晶状態がアモルファスである」と言った場合、全く結晶構造を持たないアモルファス構造となっているもの以外に、微結晶構造のものを含む。
上層14aおよび下層14bを構成するCr系膜およびTaPd系膜の結晶状態が、アモルファスであれば、吸収層14の表面が平滑性に優れている。
本発明のEUVマスクブランク1では、上層14aおよび下層14bを構成するCr系膜およびTaPd系膜の結晶構造が、アモルファスであることにより得られる吸収層14表面の表面粗さ(rms)は、0.5nm以下が好ましい。ここで、吸収層14表面の表面粗さは原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope)を用いて測定できる。吸収層14表面の表面粗さが大きいと、吸収層14に形成されるパターンのエッジラフネスが大きくなり、パターンの寸法精度が悪くなる。パターンが微細になるに従いエッジラフネスの影響が顕著になるため、吸収層14表面は平滑であることが要求される。
吸収層14表面の表面粗さ(rms)が0.5nm以下であれば、吸収層14表面が十分平滑であるため、エッジラフネスの影響によってパターンの寸法精度が悪化するおそれがない。吸収層14表面の表面粗さ(rms)は、0.4nm以下がより好ましく、0.3nm以下がさらに好ましい。
【0062】
なお、上層14aおよび下層14bを構成するCr系膜およびTaPd系膜の結晶状態がアモルファスであること、すなわち、アモルファス構造、または微結晶構造であることは、X線回折(XRD)法によって確認できる。上層14aおよび下層14bを構成するCr系膜およびTaPd系膜の結晶状態がアモルファス構造であるか、または微結晶構造であれば、XRD測定により得られる回折ピークにシャープなピークが見られない。
【0063】
上層14aおよび下層14bを構成するCr系膜およびTaPd系膜の合計膜応力は、±200MPa以内、特に、±180MPa以内であると、Siウエハなどの基板上レジストに転写されるマスク転写パターンの形状精度や寸法精度が悪化しないので好ましい。
【0064】
上層14aおよび下層14bを構成するCr系膜およびTaPd系膜は、公知の成膜方法、例えば、スパッタリング法を実施することにより形成できる。
【0065】
Cr系膜がCrN膜の場合、Crターゲットを用いて、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)のうち少なくともひとつと、窒素(N
2)と、を含む不活性ガス雰囲気中でスパッタリング法、例えば、マグネトロンスパッタリング法またはイオンビームスパッタリング法を実施すればよい。不活性ガス雰囲気がArとN
2とを含む雰囲気の場合を例にCrN膜の形成条件を以下に示す。
CrN膜の形成条件
スパッタリングガス:ArとN
2の混合ガス(Arガス濃度30〜70vol%、N
2ガス濃度30〜70vol%、ガス圧0.5×10
-1Pa〜1.0Pa)
投入電力:300〜2000W
成膜速度:0.0083〜1nm/sec
なお、上記ではスパッタリングガスがArとN
2の混合ガスの場合について記載したが、スパッタリングガスとして、Ar以外の不活性ガスとN
2の混合ガス、あるいは複数の不活性ガスN
2の混合ガスを使用する場合、その不活性ガスの合計濃度が上記したArガス濃度と同じ濃度範囲にする。
【0066】
TaPd系膜がTaPdN膜の場合、TaとPdとを含有するターゲットを用いて、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)のうち少なくともひとつと、窒素(N
2)と、を含む不活性ガス雰囲気中でスパッタリング法、例えば、マグネトロンスパッタリング法またはイオンビームスパッタリング法を実施する。
ここで、Taと、Pdと、を含有するターゲットの使用といった場合、2種類の金属ターゲット、すなわち、Taターゲットと、Pdターゲットと、を使用すること、および、Taと、Pdと、を含む化合物ターゲットを使用することのいずれも含む。
なお、2種類の金属ターゲットの使用は、TaPdNの構成成分を調整するのに好都合である。2種類の金属ターゲットを使用する場合、ターゲットへの投入電力を調整することによって、TaPdN膜の構成成分を調整できる。一方、化合物ターゲットを使用する場合、形成されるTaPdN膜が所望の組成となるように、ターゲット組成をあらかじめ調整することが好ましい。
不活性ガス雰囲気がArとN
2とを含む場合を例にTaPdN膜の形成条件を以下に示す。
TaPdN膜の形成条件
スパッタリングガス:ArとN
2の混合ガス(Arガス濃度97〜20vol%、N
2ガス濃度3〜80vol%、ガス圧0.5×10
-1Pa〜1.0Pa)
投入電力:30〜1000W、好ましくは50〜750W、より好ましくは70〜500W
成膜速度:0.0083〜1nm/sec、好ましくは0.017〜0.75nm/sec、より好ましくは0.025〜0.5nm/sec
なお、上記ではスパッタリングガスがArとN
2の混合ガスの場合について記載したが、スパッタリングガスとして、Ar以外の不活性ガスとN
2の混合ガス、あるいは複数の不活性ガスN
2の混合ガスを使用する場合、その不活性ガスの合計濃度が上記したArガス濃度と同じ濃度範囲にする。
【0067】
本発明のEUVマスクブランク1は、
図1に示す構成、すなわち、基板11、反射層12、保護層13、および、吸収層14(上層14aおよび下層14b)以外に、吸収層
14上にマスクパターンの検査に使用する検査光における低反射層が形成されていてもよい。
【0068】
低反射層はマスクパターンの検査に使用する検査光において、低反射となるような膜で構成される。EUVマスクを作製する際、吸収層にパターンを形成した後、このパターンが設計通りに形成されているかどうか検査する。このマスクパターンの検査では、検査光として通常257nm程度の光を使用した検査機が使用される。つまり、この257nm程度の光の反射率の差、具体的には、吸収層がパターン形成により除去されて露出した面と、パターン形成により除去されずに残った吸収層表面と、の反射率の差によって検査される。ここで、前者は反射層表面または保護層表面であり、通常は保護層表面である。したがって、検査光の波長に対する反射層表面または保護層表面と、吸収層表面と、の反射率の差が小さいと検査時のコントラストが悪くなり、正確な検査が出来ないことになる。
【0069】
Cr系膜およびTaPd系膜で構成される吸収層は、EUV反射率が極めて低く、EUVマスクブランクの吸収層として優れた特性を有しているが、検査光の波長について見た場合、反射率が必ずしも十分低いとは言えない。この結果、検査光の波長での吸収層表面の反射率と、反射層表面または保護層表面の反射率と、の差が小さくなり、検査時のコントラストが十分得られない可能性がある。検査時のコントラストが十分得られないと、マスク検査においてパターンの欠陥を十分判別できず、正確な欠陥検査を行えないことになる。
吸収層上に検査光における低反射層を形成すれば、検査光の波長での反射率が極めて低くなり、検査時のコントラストが良好となる。吸収層上に低反射層を形成する場合、該低反射層は、検査光の波長領域の光線を低反射層表面に照射した際に、該検査光の波長の最大反射率は、15%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。
低反射層における検査光の波長の反射率が15%以下であれば、該検査時のコントラストが良好である。具体的には、反射層表面または保護層表面における検査光の波長の反射光と、低反射層表面における検査光の波長の反射光と、のコントラストが、30%以上となる。
【0070】
本明細書において、コントラストは下記式を用いて求めることができる。
コントラスト(%)=((R
2−R
1)/(R
2+R
1))×100
ここで、検査光の波長におけるR
2は反射層表面または保護層表面での反射率であり、R
1は低反射層表面での反射率である。なお、上記R
1およびR
2は、EUVマスクブランクの吸収層(および低反射層)にパターンを形成した状態で測定する。上記R
2は、パターン形成によって吸収層および低反射層が除去され、外部に露出した反射層表面または保護層表面で測定した値であり、R
1はパターン形成によって除去されずに残った低反射層表面で測定した値である。
本発明のEUVマスクブランクが低反射層を有する場合、上記式で表されるコントラストは、45%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましく、80%以上が特に好ましい。
【0071】
低反射層は、上記の特性を達成するため、検査光の波長の屈折率が吸収層よりも低い材料で構成され、その結晶状態がアモルファスであることが好ましい。
この特性を満たす低反射層としては、タンタル(Ta)、パラジウム(Pd)、クロム(Cr)、ケイ素(Si)、ハフニウム(Hf)からなる群から選ばれる少なくともひとつと、酸素(O)および窒素(N)からなる群から選ばれる少なくともひとつと、を含有するものがある。このような低反射層の好適例としては、TaPdO層、TaPdON層、TaON層、CrO層、CrON層、SiON層、SiN層、HfO層、HfON層が挙げられる。
低反射層中のTa、Pd、Cr、Si、Hfの合計含有量は、10〜55at%、特に10〜50at%であると、パターン検査光の波長領域に対する光学特性を制御できるという理由で好ましい。
また、低反射層中におけるOおよびNの合計含有率が、45〜90at%、特に50〜90at%であると、パターン検査光の波長領域に対する光学特性を制御できるという理由で好ましい。なお、該低反射層中のTa、Pd、Cr、Si、Hf、OおよびNの合計含有率は95〜100at%が好ましく、97〜100at%がより好ましく、99〜100at%がさらに好ましい。
【0072】
上記した組成の低反射層は、その結晶状態がアモルファスであり、その表面が平滑性に優れている。具体的には、低反射層表面の表面粗さ(rms)が0.5nm以下である。
上記したように、エッジラフネスの影響によってパターンの寸法精度の悪化が防止するため、吸収層表面は平滑であることが要求される。低反射層は、吸収層上に形成されるため、同様の理由から、その表面は平滑であることが要求される。
低反射層表面の表面粗さ(rms)が0.5nm以下であれば、低反射
層表面が十分平滑であるため、エッジラフネスの影響によってパターンの寸法精度が悪化するおそれがない。低反射層表面の表面粗さ(rms)は0.4nm以下であることがより好ましく、0.3nm以下であることがさらに好ましい。
なお、表面粗さの低減という点では、低反射層にNを含有させることが好ましい。
【0073】
なお、低反射層の結晶状態がアモルファスであること、すなわち、アモルファス構造であること、または微結晶構造であることは、前述の吸収層における結晶状態の評価と同様に、X線回折(XRD)法によって確認できる。低反射層の結晶状態がアモルファス構造であるか、または微結晶構造であれば、XRD測定により得られる回折ピークにシャープなピークが見られない。
【0074】
吸収層上に低反射層を形成する場合、低反射層の膜厚は、上述の条件、即ち(1)〜(5)を満たす範囲で、任意に設定できる。
【0075】
上記した構成の低反射層は、Ta、Pd、Cr、SiおよびHfのうち少なくともひとつ、を含有するターゲットを用いてスパッタリング法を行うことにより形成できる。ここで、ターゲットとしては、上述した2種類以上の金属ターゲット、および、化合物ターゲットのいずれも使用できる。
なお、2種類以上の金属ターゲットの使用は、低反射層の構成成分を調整するのに好都合である。なお、2種類以上の金属ターゲットを使用する場合、ターゲットへの投入電力を調整することによって、吸収層の構成成分を調整できる。一方、化合物ターゲットを使用する場合、形成される低反射層が所望の組成となるように、ターゲット組成をあらかじめ調整することが好ましい。
【0076】
上記のターゲットを用いたスパッタリング法は、吸収層の形成を目的とするスパッタリング法と同様、不活性ガス雰囲気中で実施できる。
但し、低反射層がOを含有する場合、He、Ar、Ne、KrおよびXeのうち少なくともひとつと、O
2と、を含む不活性ガス雰囲気中でスパッタリング法を実施する。低反射
層がNを含有する場合、He、Ar、Ne、KrおよびXeのうち少なくともひとつと、N
2と、を含む不活性ガス雰囲気中でスパッタリング法を実施する。低反射層がOおよびNを含有する場合、He、Ar、Ne、KrおよびXeのうち少なくともひとつと、O
2およびN
2と、を含む不活性ガス雰囲気中でスパッタリング法を実施する。
【0077】
具体的なスパッタリング法の実施条件は、使用するターゲットやスパッタリング法を実施する不活性ガス雰囲気の組成によっても異なるが、いずれの場合においても以下の条件でスパッタリング法を実施すればよい。
不活性ガス雰囲気がArとO
2の混合ガス雰囲気の場合を例に低反射層の形成条件を以下に示す。
低反射層の形成条件
ガス圧:1.0×10
-1Pa〜50×10
-1Pa、好ましくは1.0×10
-1Pa〜40×10
-1Pa、より好ましくは1.0×10
-1Pa〜30×10
-1Pa。
スパッタリングガス:ArとO
2の混合ガス(O
2ガス濃度3〜80vol%、好ましくは5〜60vol%、より好ましくは10〜40vol%。
投入電力:30〜1000W、好ましくは50〜750W、より好ましくは80〜500W
成膜速度:0.01〜60nm/min、好ましくは0.05〜45nm/min、より好ましくは0.1〜30nm/min
なお、Ar以外の不活性ガスあるいは複数の不活性ガスを使用する場合、その不活性ガスの合計濃度が上記したArガス濃度と同じ濃度範囲にする。また、不活性ガス雰囲気がN
2を含有する場合はN
2濃度、不活性ガス雰囲気がN
2およびO
2を含有する場合、その合計濃度を上記した酸素濃度と同じ濃度範囲にする。
【0078】
なお、本発明のEUVマスクブランクにおいて、吸収層上に低反射層を形成することが好ましいのは、パターンの検査光の波長とEUV光の波長とが異なるからである。したがって、パターンの検査光としてEUV光(13.5nm付近)を使用する場合、吸収層上に低反射層を形成する必要はないと考えられる。検査光の波長は、パターン寸法が小さくなるに伴い短波長側にシフトする傾向があり、将来的には193nm、さらには13.5nmにシフトすることも考えられる。検査光の波長が13.5nmである場合、吸収層上に低反射層を形成する必要はないと考えられる。
【0079】
しかしながら、吸収層上に低反射層を形成しない場合、EUVマスクの作製過程で実施される洗浄工程での耐洗浄性を高めるために、吸収層上に後述する表面保護層を設けてもよい。EUVマスク作製過程で実施される洗浄工程では、EUVマスクブランク表面が硫酸等を含む酸性溶液で洗浄される。吸収層上に低反射層を形成しない場合、EUVマスクブランクの表面は吸収層の表面となる。本発明のEUVマスクブランクの場合、吸収層14の上層14aの表面が最表層となる。上層14aの材質や酸性溶液を用いる洗浄条件(例えば、高濃度の酸性溶液洗浄や過剰な繰り返し洗浄回数を含む洗浄条件等)によっては、上層14aを構成する膜が目立って浸食される場合がある。上記で例示した上層14aを構成する膜の中でも、CrN膜およびTaPdN膜は、洗浄条件によっては、酸性溶液により目立って浸食される場合がある。上層14aの膜厚が大きく減少すると、EUV光の反射率や、反射層との位相差が設計値に対して変化するおそれがある。
【0080】
本発明のEUVマスクブランクにおいて、吸収層14の上層14aがCrN膜またはTaPdN膜であり、かつ、該吸収層14上に低反射層を形成しない場合、CrN膜またはTaPdN膜の上に、洗浄工程の際にCrN膜またはTaPdN膜を保護する表面保護層を形成してもよい。
図4および
図5は、表面保護層が形成されたEUVマスクブランクを示した概略断面図である。
図4に示すEUVマスクブランク1では、吸収層14の上層14aが、TaPdN膜14a1と、該TaPdN膜14a1上に形成された表面保護層14a2と、の二層構造である。
図4に示すマスクブランク1では、吸収層14の下層14bはCr系膜である。
図5は、表面保護層が形成されたEUVマスクブランクの別の態様を示した概略断面図である。
図5に示すEUVマスクブランク1では、吸収層14の上層14aが、CrN膜14a1と、該CrN膜14a1上に形成された表面保護層14a2と、の二層構造である。
図5に示すマスクブランク1では、吸収層14の下層14bはTaPd系膜である。
【0081】
図4に示すEUVマスクブランク1において、TaPdN膜14a1上に形成される表面保護層14a2は、Ta、PdおよびOを含有し、O含有率が30〜85at%のTaPdO膜、または、Ta、Pd、OおよびNを含有し、OおよびNの合計含有率が40〜90at%であり、OとNの組成比がO:N=9:1〜6:4であるTaPdON膜である。
表面保護層14a2がTaPdO膜の場合、O含有率が30at%未満だと、洗浄に用いる酸性溶液で該TaPdO膜が浸食されやすいため、表面保護層としての機能を十分発揮できない。一方、TaPdO膜のO含有率が85at%超だと、成膜時に放電が不安定になる等の問題がある。表面保護層14a2としてのTaPdO膜は、O含有率が、35〜85at%が好ましく、40〜85at%がより好ましい。
表面保護層14a2としてのTaPdO膜は、TaおよびPdの合計含有率が15〜70at
%であり、15〜65at%が好ましく、15〜60at%がより好ましい。
表面保護層14a2としてのTaPdO膜は、Ta含有率が7〜32at%であり、Pd含有率が8〜38at%であればよく、さらにTa含有率が7〜30at%であり、Pd含有率が8〜35at%であれば好ましく、Ta含有率が7〜27at%であり、Pd含有率が8〜33at%であればより好ましい。
【0082】
表面保護層14a2がTaPdON膜の場合、OおよびNの合計含有率が40at%未満だと、洗浄に用いる酸性溶液で該TaPdON膜が浸食されやすいため、表面保護層としての機能を十分発揮できない。一方、TaPdON膜のOおよびNの合計含有率が90at%超だと、成膜時に放電が不安定になる等の問題がある。TaPdON膜のOが上記組成比よりも低い場合、洗浄に用いる酸性溶液で該TaPdON膜が浸食されやすいため、表面保護層としての機能を十分発揮できない。一方、TaPdON膜のOが上記組成比よりも高い場合、成膜時に放電が不安定になる等の問題がある。
表面保護層14a2としてのTaPdON膜は、OおよびNの合計含有率が、40〜85at%が好ましく、40〜80at%がより好ましい。OとNの組成比は、O:N=9:1〜6.5:3.5が好ましく、O:N=9:1〜7:3がより好ましい。
表面保護層14a2としてのTaPdON膜は、TaおよびPdの合計含有率が10〜60at
%であり、15〜60at%が好ましく、20〜60at%がより好ましい。
表面保護層14a2としてのTaPdON膜は、Ta含有率が5〜27at%であり、Pd含有率が5〜33at%であればよく、さらにTa含有率が7〜27at%であり、Pd含有率が8〜33at%であれば好ましく、Ta含有率が9〜27at%であり、Pd含有率が11〜33at%であればより好ましい。
【0083】
図5に示すEUVマスクブランク1において、CrN膜14a1上に形成される表面保護層14a2は、CrおよびOを含有し、Cr含有率が15〜70at%であり、O含有率が30〜85at%であるCrO膜、または、Cr、OおよびNを含有し、Cr含有率が10〜60at%であり、OおよびNの合計含有率が40〜90at%であり、OとNの組成比がO:N=9:1〜6:4であるCrON膜である。
【0084】
表面保護層14a2がCrO膜の場合、O含有率が30at%未満だと、洗浄に用いる酸性溶液で該CrO膜が浸食されやすいため、表面保護層としての機能を十分発揮できない。一方、CrO膜のO含有率が85at%超だと、成膜時に放電が不安定になる等の問題がある。
表面保護層14a2としてのCrO膜は、Cr含有率が、15〜65at%が好ましく、15〜60at%がより好ましい。O含有率は、35〜85at%が好ましく、40〜85at%がより好ましい。
【0085】
表面保護層14a2がCrON膜の場合、OおよびNの合計含有率が40at%未満だと、洗浄に用いる酸性溶液で該CrON膜が浸食されやすいため、表面保護層としての機能を十分発揮できない。一方、CrON膜のOおよびNの合計含有率が90at%超だと、成膜時に放電が不安定になる等の問題がある。CrON膜のOが上記組成比よりも低い場合、洗浄に用いる酸性溶液で該CrON膜が浸食されやすいため、表面保護層としての機能を十分発揮できない。一方、CrON膜のOが上記組成比よりも高い場合、成膜時に放電が不安定になる等の問題がある。
表面保護層14a2としてのCrON膜は、Cr含有率が、15〜60at%が好ましく、20〜60at%がより好ましい。OおよびNの合計含有率は、40〜85at%が好ましく、40〜80at%がより好ましい。OとNの組成比は、O:N=9:1〜6.5:3.5が好ましく、O:N=9:1〜7:3がより好ましい。
【0086】
図4,5に示すEUVマスクブランク1のいずれの場合においても、表面保護層14a2の結晶状態はアモルファスが好ましい。すなわち、表面保護層14a2としての、CrO膜、CrON膜、TaPdO膜、TaPdON膜はいずれも、その結晶状態はアモルファスが好ましい。これらの膜結晶状態がアモルファスであれば、吸収層14の表面が平滑性に優れており、上述した吸収層14表面の表面粗さ(rms)を達成できる。
【0087】
図4,5に示すEUVマスクブランク1のいずれの場合においても、表面保護層14a2は、さらにH、Si、Bを含有してもよい。すなわち、表面保護層14a2としての、CrO膜、CrON膜、TaPdO膜、TaPdON膜はいずれも、H、Si、Bをさらに含有してもよい。これらの膜がH、Si、Bを含有する場合、これらの合計含有率は、0.1〜10at%、特に0.1〜5at%であることが、膜結晶構造をアモルファスにでき、吸収層表面を平滑するのに寄与するという理由で好ましい。
【0088】
図4,5に示すEUVマスクブランク1のいずれの場合においても、表面保護層14a2としての、CrO膜、CrON膜、TaPdO膜、TaPdON膜を含めて、上記した上層14aおよび下層14bを構成するCr系膜およびTaPd系膜の合計膜応力を達成する。
【0089】
図4,5に示すEUVマスクブランクのいずれの場合においても、表面保護層14a2の膜厚は、0.5nm以上5nm以下が好ましい。表面保護層14a2の膜厚が0.5nm以上であれば、表面保護層としての機能を十分発揮できる。一方、表面保護層14a2の膜厚が5nmより大きいと、膜厚の増加は表面保護層としての機能向上にはもはや寄与せず、表面保護層14a2の形成に要する時間が増加し、ひいては表面保護層14a2の形成に要するコストが増加する。また、表面保護層14a2は酸素を含む膜であるため、成膜中のアーキング(異常放電)が起こりやすく、パーティクルが発生するおそれが増加する。
また、表面保護層14a2の膜厚は、1〜5nmがより好ましく、1.5〜5nmがさらに好ましい。
【0090】
図4,5に示すEUVマスクブランク1のいずれの場合も、上記で説明した本発明のEUVマスクブランクの吸収層14に関する条件(1)〜(5)を満たす。したがって、吸収層14の合計膜厚(L)は、表面保護層14a2の膜厚を含めて30nm以上45nm以下である。また、
図4に示すEUVマスクブランク1の場合、TaPdN膜14a1と、表面保護層14a2としてのTaPdO膜またはTaPdON膜の合計膜厚が8nm以上36nm以下である。一方、
図5に示すEUVマスクブランク1の場合、CrN膜14a1の膜厚は、11nm以上36nm以下である。
【0091】
図4,5に示すEUVマスクブランク1のいずれの場合も、表面保護層14a2としての、CrO膜、CrON膜、TaPdO膜、TaPdON膜は、公知の成膜方法、例えば、スパッタリング法を実施することにより形成できる。
【0092】
表面保護層14a2が、CrO膜の場合、Crターゲットを用いて、He、Ar、Ne、Kr、Xeのうち少なくともひとつと、O
2と、を含む不活性ガス雰囲気中でスパッタリング法、例えば、マグネトロンスパッタリング法またはイオンビームスパッタリング法を実施すればよい。不活性ガス雰囲気がArとO
2とを含む雰囲気の場合を例にCrO膜の形成条件を以下に示す。
CrO膜の形成条件
ガス圧:1.0×10
-1Pa〜50×10
-1Pa、好ましくは1.0×10
-1Pa〜40×10
-1Pa、より好ましくは1.0×10
-1Pa〜30×10
-1Pa。
スパッタリングガス:ArとO
2の混合ガス(O
2ガス濃度3〜80vol%、好ましくは5〜60vol%、より好ましくは10〜40vol%)。
投入電力:30〜1000W、好ましくは50〜750W、より好ましくは80〜500W
成膜速度:0.00017〜1nm/sec、好ましくは0.00083〜0.75nm/sec、より好ましくは0.0017〜0.5nm/sec
なお、上記ではスパッタリングガスがArとO
2の混合ガスの場合について記載したが、スパッタリングガスとして、Ar以外の不活性ガスとO
2の混合ガス、あるいは複数の不活性ガスとO
2の混合ガスを使用する場合、その不活性ガスの合計濃度が上記したArガス濃度と同じ濃度範囲にする。この点については、以下に記載する他の膜の形成条件についても同様である。
【0093】
表面保護層14a2が、CrON膜の場合、Crターゲットを用いて、He、Ar、Ne、Kr、Xeのうち少なくともひとつと、O
2およびN
2を含む不活性ガス雰囲気中でスパッタリング法、例えば、マグネトロンスパッタリング法またはイオンビームスパッタリング法を実施すればよい。不活性ガス雰囲気がArと、O
2およびN
2を含む雰囲気の場合を例にCrON膜の形成条件を以下に示す。
CrON膜の形成条件
ガス圧:1.0×10
-1Pa〜50×10
-1Pa、好ましくは1.0×10
-1Pa〜40×10
-1Pa、より好ましくは1.0×10
-1Pa〜30×10
-1Pa。
スパッタリングガス:ArとO
2とN
2の混合ガス(O
2ガス濃度5〜80vol%、N
2ガス濃度5〜75vol%、好ましくはO
2ガス濃度6〜70vol%、N
2ガス濃度6〜35vol%、より好ましくはO
2ガス濃度10〜30vol%、N
2ガス濃度10〜30vol%。Arガス濃度5〜90vol%、好ましくは10〜88vol%、より好ましくは20〜80vol%)。
投入電力:30〜1000W、好ましくは50〜750W、より好ましくは80〜500W
成膜速度:0.00017〜1nm/sec、好ましくは0.00083〜0.75nm/sec、より好ましくは0.0017〜0.5nm/sec
【0094】
表面保護層14a2が、TaPdO膜の場合、TaとPdとを含有するターゲットを用いて、He、Ar、Ne、Kr、Xeのうち少なくともひとつと、O
2と、を含む不活性ガス雰囲気中でスパッタリング法、例えば、マグネトロンスパッタリング法またはイオンビームスパッタリング法を実施すればよい。
本明細書において、Taと、Pdと、を含有するターゲットの使用といった場合、2種類の金属ターゲット、すなわち、Taターゲットと、Pdターゲットと、を使用すること、および、Taと、Pdと、を含む化合物ターゲットを使用することのいずれも含む。
なお、2種類の金属ターゲットの使用は、TaPdOの構成成分を調整するのに好都合である。2種類の金属ターゲットを使用する場合、ターゲットへの投入電力を調整することによって、TaPdO膜の構成成分を調整できる。一方、化合物ターゲットを使用する場合、形成されるTaPdO膜が所望の組成となるように、ターゲット組成をあらかじめ調整することが好ましい。
不活性ガス雰囲気がArとO
2とを含む場合を例にTaPdO膜の形成条件を以下に示す。
TaPdO膜の形成条件
ガス圧:1.0×10
-1Pa〜50×10
-1Pa、好ましくは1.0×10
-1Pa〜40×10
-1Pa、より好ましくは1.0×10
-1Pa〜30×10
-1Pa。
スパッタリングガス:ArとO
2の混合ガス(O
2ガス濃度3〜80vol%、好ましくは5〜60vol%、より好ましくは10〜40vol%)。
投入電力:30〜1000W、好ましくは50〜750W、より好ましくは80〜500W
成膜速度:0.00017〜1nm/sec、好ましくは0.00083〜0.75nm/sec、より好ましくは0.0017〜0.5nm/sec
【0095】
表面保護層14a2が、TaPdON膜の場合、TaとPdとを含有するターゲットを用いて、He、Ar、Ne、Kr、Xeのうち少なくともひとつと、O
2およびN
2を含む不活性ガス雰囲気中でスパッタリング法、例えば、マグネトロンスパッタリング法またはイオンビームスパッタリング法を実施すればよい。不活性ガス雰囲気がArと、O
2およびN
2を含む雰囲気の場合を例にTaPdON膜の形成条件を以下に示す。
TaPdON膜の形成条件
ガス圧:1.0×10
-1Pa〜50×10
-1Pa、好ましくは1.0×10
-1Pa〜40×10
-1Pa、より好ましくは1.0×10
-1Pa〜30×10
-1Pa。
スパッタリングガス:ArとO
2とN
2の混合ガス(O
2ガス濃度5〜80vol%、N
2ガス濃度5〜75vol%、好ましくはO
2ガス濃度6〜70vol%、N
2ガス濃度6〜35vol%、より好ましくはO
2ガス濃度10〜30vol%、N
2ガス濃度10〜30vol%。Arガス濃度5〜90vol%、好ましくは10〜88vol%、より好ましくは20〜80vol%)。
投入電力:30〜1000W、好ましくは50〜750W、より好ましくは80〜500W
成膜速度:0.00017〜1nm/sec、好ましくは0.00083〜0.75nm/sec、より好ましくは0.0017〜0.5nm/sec
【0096】
本発明のEUVマスクブランクにおいて、吸収層上(吸収層上に低反射層が形成されている場合は吸収層上)に、特開2009−54899号公報や特開2009−21582号公報に記載のハードマスク層、すなわち、吸収層(吸収層上に低反射層が形成されている場合は吸収層および低反射層)のエッチング条件に対して耐性を有する材料の層、が形成されていてもよい。このようなハードマスク層を形成して、吸収層(吸収層上に低反射層が形成されている場合は吸収層および低反射層)のエッチング条件における吸収層(吸収層上に低反射層が形成されている場合は吸収層および低反射層)とハードマスク層とのエッチング選択比、具体的には、吸収層(吸収層上に低反射層が形成されている場合は吸収層および低反射層)のエッチング条件での吸収層のエッチングレート(吸収層上に低反射層が形成されている場合は吸収層および低反射層のエッチングレート)と、ハードマスク層のエッチングレートと、の比を高めることで、レジストを薄膜化できる。
【0097】
また、本発明のEUVマスクブランクは、上記の構成以外に、EUVマスクブランクの分野において公知の機能膜を有していてもよい。このような機能膜の具体例としては、例えば、特表2003−501823号公報に記載されているものように、基板の静電チャッキングを促すために、基板の裏面側に施される高誘電性コーティングが挙げられる。ここで、基板の裏面とは、
図1の基板11において、反射層12が形成されている側とは反対側の面を指す。このような目的で基板の裏面に施す高誘電性コーティングは、シート抵抗が100Ω/□以下となるように、構成材料の電気伝導率と厚さを選択する。高誘電性コーティングの構成材料としては、公知の文献に記載されているものから広く選択できる。例えば、特表2003−501823号公報に記載の高誘電率のコーティング、具体的には、シリコン、TiN、モリブデン、クロム、TaSiからなるコーティングを適用できる。高誘電性コーティングの厚さは、例えば10〜1000nmとできる。
高誘電性コーティングは、公知の成膜方法、例えば、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法といったスパッタリング法、CVD法、真空蒸着法、電解メッキ法を用いて形成できる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例を用いて本発明をさらに説明する。
実施例1
本実施例では、
図1に示すEUVマスクブランク1を作製した。
成膜用の基板11として、SiO
2−TiO
2系のガラス基板(外形6インチ(152mm)角、厚さが6.3mm)を使用した。このガラス基板の20℃における熱膨張係数は0.05×10
-7/℃、ヤング率は67GPa、ポアソン比は0.17、比剛性は3.07×10
7m
2/s
2である。このガラス基板を研磨により、表面粗さ(rms)が0.15nm以下の平滑な表面と100nm以下の平坦度に形成した。
【0099】
基板11の裏面側には、マグネトロンスパッタリング法を用いて厚さ100nmのCr膜を成膜することによって、シート抵抗100Ω/□の高誘電性コーティングを施した。
平板形状をした通常の静電チャックに、形成したCr膜を用いて基板11(外形6インチ(152mm)角、厚さ6.3mm)を固定して、該基板11の表面上にイオンビームスパッタリング法を用いてSi膜およびMo膜を交互に成膜することを40周期繰り返すことにより、合計膜厚272nm((4.5nm+2.3nm)×40)のMo/Si多層反射膜(反射層12)を形成した。
さらに、Mo/Si多層反射膜(反射層12)上に、イオンビームスパッタリング法を用いてRu膜(膜厚2.5nm)と成膜することにより、保護層13を形成した。
【0100】
Si膜、Mo膜およびRu膜の成膜条件は以下のとおりである。
Si膜の成膜条件
ターゲット:Siターゲット(ホウ素ドープ)
スパッタリングガス:Arガス(ガス圧0.02Pa)
電圧:700V
成膜速度:0.077nm/sec
膜厚:4.5nm
Mo膜の成膜条件
ターゲット:Moターゲット
スパッタリングガス:Arガス(ガス圧0.02Pa)
電圧:700V
成膜速度:0.064nm/sec
膜厚:2.3nm
Ru膜の成膜条件
ターゲット:Ruターゲット
スパッタリングガス:Arガス(ガス圧0.02Pa)
電圧:500V
成膜速度:0.023nm/sec
膜厚:2.5nm
【0101】
次に、保護層13上に、吸収層14の下層14bとしてCrN膜を、マグネトロンスパッタリング法を用いて形成した。
下層14b(CrN膜)の成膜条件は以下のとおり。
下層14b(CrN膜)の成膜条件
ターゲット:Crターゲット
スパッタリングガス:ArとN
2の混合ガス(Ar:58.2vol%、N
2:41.8vol%、ガス圧:0.1Pa)
投入電力:1500W
成膜速度:0.18nm/sec
膜厚:16nm
形成された膜組成は、X線光電子分光装置(X−ray Photoelectron Spectrometer)(PERKIN ELEMER−PHI社製)、二次イオン質量分析装置(Secondary Ion Mass Spectrometer)(PHI−ATOMIKA製)、ラザフォード後方散乱分光装置(Rutherford Back Scattering Spectroscopy)(神戸製鋼社製)を用いて測定する。下層14b(CrN膜)の組成比(at%)は、Cr:N=86.0:14.0であった。
【0102】
次に、下層14b(CrN膜)上に、吸収層14の上層14aとしてTaPdN膜を、マグネトロンスパッタリング法を用いて形成した。
上層14a(TaPdN膜)の成膜条件は以下のとおり。
上層14a(TaPdN膜)の成膜条件
ターゲット:TaターゲットおよびPdターゲット
スパッタリングガス:ArとN
2混合ガス(Ar:86vol%、N
2:14vol%、ガス圧:0.3Pa)
投入電力:Taターゲット=150W、Pdターゲット=75W
成膜速度:0.32nm/sec
膜厚:16nm
形成された膜組成は上層14aと同様の方法で測定する。上層14a(TaPdN膜)の組成は、Ta:Pd:N=41:25:34である。
【0103】
吸収層14の合計膜厚(L)は32nmである。このEUVマスクブランクについて、下記手順によりEUV光の反射特性を評価した。
上記の膜構成における、吸収層14表面でのEUV反射率、および、保護層13表面と吸収層14表面との位相差(φ)を計算で求めた。さらに、膜厚変化(ΔL)に対する位相差の変化(Δφ)の勾配(Δφ/ΔL)に関しては、位相差φが、180°±10°となる膜厚範囲における位相差の変化(Δφ)を計算で求めることにより算出した。結果は以下のとおり。
吸収層14の表面におけるEUV光のピーク反射率:5.6%
保護層13の表面におけるEUV反射光と、吸収層14の表面におけるEUV反射光と、の位相差(φ):171.3°
吸収層14の合計膜厚(L)の変化(ΔL)に対する位相差(φ)の変化(Δφ)の勾配(Δφ/ΔL):0.0deg/nm
【0104】
実施例2
下層14bとしてのCrN膜の膜厚を30nmとし、上層14aとしてのTaPdN膜の膜厚を8nmとし、吸収層14の合計膜厚(L)を38nmとした以外は、実施例1と同様の手順を実施した。EUV光の反射特性は以下のとおり。
吸収層14の表面におけるEUV光のピーク反射率:5.6%
保護層13の表面におけるEUV反射光と、吸収層14の表面におけるEUV反射光と、の位相差(φ):174.0°
吸収層14の合計膜厚(L)の変化(ΔL)に対する位相差(φ)の変化(Δφ)の勾配(Δφ/ΔL):9.1deg/nm
【0105】
実施例3
下層14bとしてのCrN膜の膜厚を5nmとし、上層14aとしてのTaPdN膜の膜厚を25nmとし、吸収層14の合計膜厚(L)を30nmとした以外は、実施例1と同様の手順を実施した。EUV光の反射特性は以下のとおり。
吸収層14の表面におけるEUV光のピーク反射率:8.5%
保護層13の表面におけるEUV反射光と、吸収層14の表面におけるEUV反射光と、の位相差(φ):179.2°
吸収層14の合計膜厚(L)の変化(ΔL)に対する位相差(φ)の変化(Δφ)の勾配(Δφ/ΔL):12.9deg/nm
【0106】
実施例4
下層14bとしてのCrN膜の膜厚を35nmとし、上層14aとしてのTaPdN膜の膜厚を9nmとし、吸収層14の合計膜厚(L)を44nmとした以外は、実施例1と同様の手順を実施した。EUV光の反射特性は以下のとおり。
吸収層14の表面におけるEUV光のピーク反射率:5.1%
保護層13の表面におけるEUV反射光と、吸収層14の表面におけるEUV反射光と、の位相差(φ):186.9°
吸収層14の合計膜厚(L)の変化(ΔL)に対する位相差(φ)の変化(Δφ)の勾配(Δφ/ΔL):12.5deg/nm
【0107】
実施例5
本実施例では、下層14bをTaPdN膜、上層14aをCrN膜とした。TaPdN膜、CrN膜の成膜条件は実施例1と同様である。下層14bとしてのTaPdN膜の膜厚を10nmとし、上層14aとしてのCrN膜の膜厚を28nmとし、吸収層14の合計膜厚(L)を38nmとした。EUV光の反射特性は以下のとおり。
吸収層14の表面におけるEUV光のピーク反射率:5.4%
保護層13の表面におけるEUV反射光と、吸収層14の表面におけるEUV反射光と、の位相差(φ):179.5°
吸収層14の合計膜厚(L)の変化(ΔL)に対する位相差(φ)の変化(Δφ)の勾配(Δφ/ΔL):9.7deg/nm
【0108】
実施例6
下層14bとしてのTaPdN膜の膜厚を25nmとし、上層14aとしてのCrN膜の膜厚を6nmとし、吸収層14の合計膜厚(L)を31nmとした以外は、実施例5と同様の手順を実施した。EUV光の反射特性は以下のとおり。
吸収層14の表面におけるEUV光のピーク反射率:7.5%
保護層13の表面におけるEUV反射光と、吸収層14の表面におけるEUV反射光と、の位相差(φ):181.2°
吸収層14の合計膜厚(L)の変化(ΔL)に対する位相差(φ)の変化(Δφ)の勾配(Δφ/ΔL):10.2deg/nm
【0109】
実施例7
下層14bとしてのCrN膜の膜厚を2nmとし、上層14aとしてのTaPdN膜の膜厚を36nmとし、吸収層14の合計膜厚(L)を38nmとした以外は、実施例1と同様の手順を実施した。EUV光の反射特性は以下のとおり。
吸収層14の表面におけるEUV光のピーク反射率:5.4%
保護層13の表面におけるEUV反射光と、吸収層14の表面におけるEUV反射光と、の位相差(φ):181.2°
吸収層14の合計膜厚(L)の変化(ΔL)に対する位相差(φ)の変化(Δφ)の勾配(Δφ/ΔL):12.1deg/nm
【0110】
実施例8
本実施例は、
図4に示すEUVマスクブランク1に示すように、下層14bとしてのCrN膜の膜厚を2nmとし、上層14aをTaPdN膜14a1と、該TaPdN膜14a1上に形成された表面保護層14a2と、の二層構造とし、TaPdN膜14a1の膜厚を33nmとし、表面保護層14a2として、TaPdO膜を下記手順で3nm形成した以外は実施例7と同様の手順を実施した。吸収層14の合計膜厚(L)は38nmである。
表面保護層14a2(TaPdO膜)の成膜条件
ターゲット:TaターゲットおよびPdターゲット
スパッタリングガス:ArとO
2混合ガス(Ar:86vol%、O
2:14vol%、ガス圧:0.3Pa)
投入電力:Taターゲット=150W、Pdターゲット=150W
成膜速度:0.18nm/sec
膜厚:3nm
形成された膜組成は、実施例1の上層14aと同様の方法で測定する。表面保護
層14a2(TaPdO膜)の組成は、Ta:Pd:O=27:32:41である。
EUV光の反射特性は以下のとおり。
吸収層14の表面におけるEUV光のピーク反射率:5.3%
保護層13の表面におけるEUV反射光と、吸収層14の表面におけるEUV反射光と、の位相差(φ):180.3°
吸収層14の合計膜厚(L)の変化(ΔL)に対する位相差(φ)の変化(Δφ)の勾配(Δφ/ΔL):11.5deg/nm
本実施例については、下記手順で耐洗浄性評価を実施した。
(耐洗浄性評価)
上記した表面保護
層14a2の形成と同様の手順で、石英ガラス基板上にTaPdO膜を形成して、耐洗浄性評価用のサンプルを作製した。比較のため、実施例1の上層14a(TaPdN膜)の形成と同様の手順で、石英ガラス基板上にTaPdN膜を形成したサンプルを作製した。但し、このサンプルのTaPdN膜の膜厚は4nmとした。
上記のサンプルを、硫酸を含む酸性溶液中で3分間の洗浄を5回繰り返し、その洗浄前後での膜厚変化をXRR(X−Ray Reflaction:リガク社製)を用いて測定した。
TaPdO膜の場合、5回の繰り返し洗浄による膜厚の変化は0.1nm以下であった。一方、TaPdN膜の場合、5回の繰り返し洗浄による膜厚の変化は1.1nmであった。
【0111】
実施例9
本実施例は、表面保護層14
a2を、TaPdON膜とする以外は、実施例8と同様の手順で実施する。すなわち、下層14bとしてのCrN膜の膜厚を2nmとし、上層14
aとして
、TaPdN膜
14a1を33nmとし、表面保護層14a2としてのTaPdON膜を3nmとし、吸収層14の合計膜厚(L)を38nmとする。表面保護層14a2としてのTaPdON膜は下記の手順で形成する。
表面保護層14a2(TaPdON膜)の成膜条件
ターゲット:TaターゲットおよびPdターゲット
スパッタリングガス:ArとO
2とN
2混合ガス(Ar:72vol%、O
2:14vol%、N
2:14vol%、ガス圧:0.3Pa)
投入電力:Taターゲット=150W、Pdターゲット=150W
成膜速度:0.20nm/sec
膜厚:3nm
形成された膜組成は、実施例1の上層14aと同様の方法で測定する。表面保護
層14a2(TaPdON膜)の組成は、Ta:Pd:O:N=21:26:40:13である。
EUV光の反射特性は以下のとおり。
吸収層14の表面におけるEUV光のピーク反射率:5.1%
保護層13の表面におけるEUV反射光と、吸収層14の表面におけるEUV反射光と、の位相差(φ):175.9°
吸収層14の合計膜厚(L)の変化(ΔL)に対する位相差(φ)の変化(Δφ)の勾配(Δφ/ΔL):10.1deg/nm
また、実施例8と同様に耐洗浄性を評価した結果、5回の繰り返し洗浄による膜厚変化は0.2nm以下である。
【0112】
比較例1
本比較例では、吸収層14をTaPdN膜の単層とした。TaPdN膜の成膜条件は実施例1と同様である。吸収層14としてのTaPdN膜の膜厚は30nmである。EUV光の反射特性は以下のとおり。
吸収層14の表面におけるEUV光のピーク反射率:8.3%
保護層13の表面におけるEUV反射光と、吸収層14の表面におけるEUV反射光と、の位相差(φ):171.7°
吸収層14の合計膜厚(L)の変化(ΔL)に対する位相差(φ)の変化(Δφ)の勾配(Δφ/ΔL):16.0deg/nm
本比較例では、Δφ/ΔLが15deg/nm超であった。
【0113】
比較例2
本比較例では、吸収層14をCrN膜の単層とした。CrN膜の成膜条件は実施例1と同様である。吸収層14としてのCrN膜の膜厚は49nmである。EUV光の反射特性は以下のとおり。
吸収層14の表面におけるEUV光のピーク反射率:1.9%
保護層13の表面におけるEUV反射光と、吸収層14の表面におけるEUV反射光と、の位相差(φ):174.5°
吸収層14の合計膜厚(L)の変化(ΔL)に対する位相差(φ)の変化(Δφ)の勾配(Δφ/ΔL):0.0deg/nm
本比較例では、吸収層14の表面におけるEUV光のピーク反射率が5%未満であった。
【0114】
比較例3
本比較例では、吸収層14をCrN膜の単層とした。CrN膜の成膜条件は実施例1と同様である。吸収層14としてのCrN膜の膜厚は44nmである。EUV光の反射特性は以下のとおり。
吸収層14の表面におけるEUV光のピーク反射率:4.7%
保護層13の表面におけるEUV反射光と、吸収層14の表面におけるEUV反射光と、の位相差(φ):171.2°
吸収層14の合計膜厚(L)の変化(ΔL)に対する位相差(φ)の変化(Δφ)の勾配(Δφ/ΔL):13.3deg/nm
本比較例では、吸収層14の表面におけるEUV光のピーク反射率が5%未満であった。
【0115】
比較例4
本比較例では、下層14bとしてのCrN膜の膜厚を20nmとし、上層14aとしてのTaPdN膜の膜厚を9nmとし、吸収層14の合計膜厚(L)を29nmとした以外は、実施例1と同様の手順を実施した。EUV光の反射特性は以下のとおり。
吸収層14の表面におけるEUV光のピーク反射率:10.8%
保護層13の表面におけるEUV反射光と、吸収層14の表面におけるEUV反射光と、の位相差(φ):126.3°
吸収層14の合計膜厚(L)の変化(ΔL)に対する位相差(φ)の変化(Δφ)の勾配(Δφ/ΔL):13.2deg/nm
吸収層14の合計膜厚(L)が30nm未満の本比較例では、φが180°±10°の範囲外であった。
【0116】
比較例5
本比較例では、下層14bとしてのCrN膜の膜厚を37nmとし、上層14aとしてのTaPdN膜の膜厚を9nmとし、吸収層14の合計膜厚(L)を46nmとした以外は、実施例1と同様の手順を実施した。EUV光の反射特性は以下のとおり。
吸収層14の表面におけるEUV光のピーク反射率:2.8%
保護層13の表面におけるEUV反射光と、吸収層14の表面におけるEUV反射光と、の位相差(φ):218.6°
吸収層14の合計膜厚(L)の変化(ΔL)に対する位相差(φ)の変化(Δφ)の勾配(Δφ/ΔL):14.6deg/nm
吸収層14の合計膜厚(L)が45nm超の本比較例では、吸収層14の表面におけるEUV光のピーク反射率が5%未満であり、φが180°±10°の範囲外であった。
【0117】
比較例6
本比較例では、下層14bとしてのCrN膜の膜厚を32nmとし、上層14aとしてのTaPdN膜の膜厚を7nmとし、吸収層14の合計膜厚(L)を39nmとした以外は、実施例1と同様の手順を実施した。EUV光の反射特性は以下のとおり。
吸収層14の表面におけるEUV光のピーク反射率:4.2%
保護層13の表面におけるEUV反射光と、吸収層14の表面におけるEUV反射光と、の位相差(φ):180.0°
吸収層14の合計膜厚(L)の変化(ΔL)に対する位相差(φ)の変化(Δφ)の勾配(Δφ/ΔL):0.0deg/nm
TaPdN膜の膜厚が8nm未満の本比較例では、吸収層14の表面におけるEUV光のピーク反射率が5%未満であった。
【0118】
比較例7
下層14bとしてのTaPdN膜の膜厚を32nmとし、上層14aとしてのCrN膜の膜厚を7nmとし、吸収層14の合計膜厚(L)を39nmとした以外は、実施例5と同様の手順を実施した。EUV光の反射特性は以下のとおり。
吸収層14の表面におけるEUV光のピーク反射率:3.9%
保護層13の表面におけるEUV反射光と、吸収層14の表面におけるEUV反射光と、の位相差(φ):177.7°
吸収層14の合計膜厚(L)の変化(ΔL)に対する位相差(φ)の変化(Δφ)の勾配(Δφ/ΔL):0deg/nm
TaPdN膜の膜厚が8nm未満の本比較例では、吸収層14の表面におけるEUV光のピーク反射率が5%未満であった。