(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記処理液中の有機酸アニオンが、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の有機酸アニオン含有化合物から放出された有機酸アニオンである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るフッ化物蛍光体、その製造方法及び発光装置について、実施の形態及び実施例を用いて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための、フッ化物蛍光体、その製造方法及び発光装置を例示するものであって、本発明は、フッ化物蛍光体、その製造方法及び発光装置を以下のものに特定するものではない。
なお、色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。具体的には、380nm〜455nmが青紫色、455nm〜485nmが青色、485nm〜495nmが青緑色、495nm〜548nmが緑色、548nm〜573nmが黄緑色、573nm〜584nmが黄色、584nm〜610nmが黄赤色、610nm〜780nmが赤色である。本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。さらに組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0011】
<フッ化物蛍光体の製造方法>
本発明のフッ化物蛍光体の製造方法における第一の態様は、下記一般式(I)で表されるフッ化物と、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオン及び有機酸アニオンを含む処理液とを含む反応混合物中で、フッ化物を前記カチオン及び有機酸アニオンと接触させる工程(以下、「第一の工程」ともいう)を含むフッ化物蛍光体の製造方法である。
A
2[M
1−aMn
4+aF
6] (I)
式中、Aは、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオンを表し、Mは、第4族元素及び第14族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を表し、aは0<a<0.2を満たす。
【0012】
一般式(I)で表されるフッ化物にLi
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオン及び有機酸アニオンを接触させることで、耐久性に優れるフッ化物蛍光体が得られる。これは例えば、フッ化物の表面の少なくとも一部の領域に、有機酸塩が形成されるためと考えることができる。
【0013】
フッ化物の表面に、有機酸塩が形成されることでフッ化物蛍光体の耐久性が向上する理由は明確ではないが、例えば、一般式(I)で表されるフッ化物の表面領域における結晶構造中にLi
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオン及び有機酸アニオンが入り込むことで、原子の配列が整い、結果的に強い結晶構造が形成されるためと考えることができる。
【0014】
本発明の製造方法では、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオン及び有機酸アニオン含む処理液を用いることで、フッ化物に含まれる余剰なマンガンイオンを取り除く効果もある。余剰なマンガンイオンは発光に寄与しないだけでなく、4価のマンガンイオンの一部が2価のマンガンイオンに還元されることで耐久性を低下させる原因となりうる。余剰なマンガンイオンを除く際に処理液が前記カチオン及び有機酸アニオンを含むことで、カリウム等のフッ化物の母体に含まれるカチオンの溶け出しを防ぐことができる。例えば、処理液にカリウムカチオンを含み、フッ化物にカリウム元素を含む場合、処理液中のカリウムカチオンの濃度を高くして平衡状態に近づけることで、フッ化物からのカリウム元素等の溶け出しをより効果的に防ぐことができる。
【0015】
また、処理液中にLi
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオン及び有機酸アニオンを含むことで、表面に有機酸塩が形成され、フッ化物の溶け出しを防ぐことができる。
【0016】
更にフッ化物を処理液と接触させる工程において、フッ化物に含まれる比較的粒子径の小さい粒子が処理液と共に除去されるために、副次的に分布幅の狭い単一ピークの粒度分布に変化する傾向がある。これにより、得られるフッ化物蛍光体の耐久性が、より向上すると考えられる。
【0017】
本発明の製造方法で得られるフッ化物蛍光体は耐久性に優れる。フッ化物蛍光体の耐久性は、例えば、レーザー光を用いる加速試験により評価することができる。フッ化物蛍光体の耐久性は、発光装置に実装してその寿命を確認する方法によっても評価できるが、その場合、評価に千時間から数万時間を要することになる。
【0018】
レーザー光によるフッ化物蛍光体の耐久性評価試験は、例えば以下の手順にて実施することができる。
波長450nmの光を発生する半導体レーザーを準備し、光出力を安定させるために温度調整を行う。粉体輝度測定用のセルにフッ化物蛍光体約0.1gをセットする。半導体レーザーから出力した光をセル中のフッ化物蛍光体に照射する。このとき、光密度が3.5W/cm
2になるように半導体レーザーへの印加電流を調整する。レーザー光の照射されている部分からの光を光電子増倍管に取り込むことで粉体輝度の変化を測定する。このとき、粉体輝度に対するレーザー光の影響を除くため、光学フィルターを用いて蛍光体から反射されるレーザー光を除くことが好ましい。
【0019】
フッ化物
フッ化物蛍光体の製造方法に用いる一般式(I)で表されるフッ化物は、それ自体が蛍光体として機能する。本発明の製造方法は、一般式(I)で表されるフッ化物の蛍光体としての機能を損なうことなく、得られるフッ化物蛍光体の耐久性を向上させることができる。
【0020】
一般式(I)で表されるフッ化物(以下、単に「フッ化物」ともいう)の粒径及び粒度分布は特に制限されないが、発光強度と耐久性の観点から、単一ピークの粒度分布を示すことが好ましく、分布幅の狭い単一ピークの粒度分布であることがより好ましい。また、フッ化物の表面積や嵩密度は特に制限されない。
【0021】
フッ化物は、Mn
4+で付活された蛍光体であり、可視光の短波長領域の光を吸収して赤色に発光可能である。可視光の短波長領域の光である励起光は、主に青色領域の光であることが好ましい。励起光は、具体的には、強度スペクトルの主ピーク波長が380nm〜500nmの範囲に存在することが好ましく、380nm〜485nmの範囲に存在することがより好ましく、400nm〜485nmの範囲に存在することが更に好ましく、440nm〜480nmの範囲に存在することが特に好ましい。
【0022】
またフッ化物の発光波長は、励起光よりも長波長であって、赤色であれば特に制限されない。フッ化物の発光スペクトルは、ピーク波長が610nm〜650nmの範囲に存在することが好ましい。また発光スペクトルの半値幅は、小さいことが好ましく、具体的には10nm以下であることが好ましい。
【0023】
一般式(I)におけるAは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)及びアンモニウム(NH
4)からなる群より選択される少なくとも1種のカチオンを表す。Aは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)及びアンモニウム(NH
4)からなる群より選択され、かつ少なくともNa及び/又はKを含む少なくとも1種のアルカリ金属元素からなるカチオンであることが好ましい。カリウム(K)を含む少なくとも1種のアルカリ金属元素からなるカチオンであることが好ましい。
【0024】
一般式(I)におけるMは、第4族元素及び第14族元素からなる群より選択される少なくとも1種であり、Mは、発光特性の観点から、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)及びスズ(Sn)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、ケイ素(Si)、又はケイ素(Si)及びゲルマニウム(Ge)を含むことがより好ましく、ケイ素(Si)、又はケイ素(Si)及びゲルマニウム(Ge)であることが更に好ましい。
Mがケイ素(Si)、又はケイ素(Si)及びゲルマニウム(Ge)を含む場合、Si及びGeの少なくとも一方の一部が、Ti、Zr及びHfを含む第4族元素、並びにC及びSnを含む第14族元素からなる群より選択される少なくとも1種で置換されていてもよい。
【0025】
処理液
本発明の製造方法に用いる処理液は、リチウムカチオン(Li
+)、ナトリウムカチオン(Na
+)、カリウムカチオン(K
+)、ルビジウムカチオン(Rb
+)、セシウムカチオン(Cs
+)及び第四級アンモニウムカチオン(NH
4+)からなる群より選択される少なくとも1種のカチオン及び有機酸アニオンを含む溶液であれば特に制限されない。処理液は前記カチオン及び有機酸アニオンに加えて溶媒を含む。溶媒としては特に制限されないが、少なくとも水を含むことが好ましい。
処理液は水以外の溶媒を更に含んでいてもよい。水以外の溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール溶剤、アセトン、ジイソプロピルエーテル等のケトン溶剤、ジエチルエーテル等のエーテル溶剤等の有機溶剤を挙げることができる。処理液が水以外の有機溶剤を含む場合、その含有量は本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、目的等に応じて適宜選択することができる。
【0026】
処理液に含まれる有機酸アニオンは、有機酸アニオンを放出可能な化合物を溶媒に溶解することで処理液に導入することができる。処理液に含まれる有機酸アニオンは、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の有機酸アニオン含有化合物から放出された有機酸アニオンであることが好ましい。有機酸アニオンは、有機酸アニオン含有化合物を溶媒に溶解することで処理液に導入することができる。有機酸アニオン含有化合物のうち、脂肪族カルボン酸塩又は芳香族カルボン酸塩としては、脂肪族カルボン酸アニオン及び/又は芳香族カルボン酸アニオンに、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオンが結合した有機酸塩を挙げることができる。この有機酸塩は、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオン源と有機アニオン酸源とを兼ねることができる。有機酸アニオンは、処理液中に、1種単独でも2種以上を含んでいてもよい。
【0027】
脂肪族カルボン酸としては、飽和脂肪族カルボン酸、不飽和脂肪族カルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸等を挙げることができる。脂肪族カルボン酸は、複数のカルボキシル基を有する多価カルボン酸であってもよい。多価カルボン酸の中でも、1分子中に2個又は3個のカルボキシル基を有するジカルボン酸又はトリカルボン酸であることが好ましい。
飽和脂肪族カルボン酸としては、炭素数1〜18の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基を有するカルボン酸を挙げることができる。具体的には、飽和脂肪族カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸等を挙げることができる。
不飽和脂肪族カルボン酸としては、メタクリル酸等を挙げることができる。
飽和脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、スベリン酸等を挙げることができる。
不飽和脂肪族ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸等を挙げることができる。
脂肪族ヒドロキシカルボン酸としては、炭素数が1〜6の直鎖又は分岐鎖の炭化水素基を有する脂肪族ヒドロキシカルボン酸を挙げることができる。脂肪族ヒドロキシカルボン酸としては、具体的には、グリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、パントイン酸等を挙げることができる。脂肪族ヒドロキシカルボン酸の中でも、1分子中に2個のカルボキシル基を有するジカルボン酸としては、酒石酸、リンゴ酸、タルトロン酸等を挙げることができる。また、1分子中に3個のカルボキシル基を有するトリカルボン酸として、クエン酸等を挙げることができる。
【0028】
芳香族カルボン酸としては、1分子中2個又は3個のカルボキシル基を有する多価カルボン酸、ベンゼン環にカルボキシル基の他に水酸基を有する芳香族ヒドロキシカルボン酸を挙げることができる。
芳香族カルボン酸としては、安息香酸等を挙げることができる。芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等を挙げることができる。芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、サリチル酸、没食子酸等を挙げることができる。
【0029】
脂肪族カルボン酸塩としては、脂肪族カルボン酸アニオンに、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオンが結合した脂肪族カルボン酸塩を挙げることができる。具体的には、酒石酸ジカリウム(C
4H
4K
2O
6)、酒石酸水素カリウム(C
4H
5KO
6)、酒石酸ジナトリウム(C
4H
4Na
2O
6)、酒石酸水素ナトリウム(C
4H
5NaO
6)、酒石酸ジアンモニウム(C
4H
12N
2O
6)、酒石酸水素アンモニウム(C
4H
7N
2O
6)、酒石酸ナトリウムカリウム(C
4H
4KNaO
6)、酒石酸ナトリウムアンモニウム(C
4H
9NaNO
6)、酒石酸アンモニウムカリウム(C
4H
9KNO
6)、グルタル酸ジナトリウム(C
5H
6Na
2O
4)、グルタル酸水素ナトリウム(C
5H
7NaO
4)、コハク酸ジナトリウム(C
4H
4Na
2O
4)、フマル酸ジカリウム(C
4H
2K
2O
4)、フマル酸ジナトリウム(C
4H
2Na
2O
4)、フマル酸水素ナトリウム(C
4H
3NaO
4)、マレイン酸ジカリウム(C
4H
2K
2O
4)、マレイン酸水素カリウム(C
4H
3KO
4)、マレイン酸ジナトリウム(C
4H
2Na
2O
4)、マレイン酸水素ナトリウム(C
4H
3NaO
4)、マレイン酸ジアンモニウム(C
4H
10N
2O
4)、マレイン酸水素アンモニウム(C
4H
7NO
4)、マロン酸メチルカリウム(C
4H
5KO
4)、マロン酸エチルカリウム(C
5H
7KO
4)、マロン酸ジナトリウム(C
3H
2Na
2O
4)、シュウ酸ジカリウム(C
2K
2O
4)、シュウ酸水素カリウム(C
2HKO
4)、シュウ酸ジナトリウム(C
2Na
2O
4)、シュウ酸水素ナトリウム(C
2HNaO
4)、シュウ酸ジアンモニウム(C
2H
8N
2O
4)等を挙げることができる。
【0030】
芳香族カルボン酸塩としては、芳香族カルボン酸に、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオンが結合した芳香族カルボン酸塩を挙げることができる。具体的には、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸アンモニウム、フタル酸ナトリウム、フタル酸カリウム、フタル酸アンモニウム、フタル酸水素ナトリウム、フタル酸水素カリウム、フタル酸水素アンモニウム、イソフタル酸水素カリウム、イソフタル酸ジカリウム、テレフタル酸水素カリウム、テレフタル酸ジカリウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、サリチル酸アンモニウム等を挙げることができる。
【0031】
有機酸アニオン含有化合物は、上記の組成を含む化合物であれば使用に問題は無く、例えば水和物等を使用することができる。上記の化合物には水等の溶媒に溶けにくい化合物も含まれている。このため、上記以外の化合物を加えてpHを調整することで処理液を調製することができる。また、溶媒としてアルコール等の有機溶剤を含む水や有機溶剤を使用することもできる。
【0032】
処理液に含まれる有機酸アニオンの含有量は本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、目的等に応じて適宜選択することができる。処理液中に含まれる有機酸アニオンの含有量は、例えば、処理液の質量を基準にして、0.01モル/L以上とすることができ、0.1〜6.5モル/Lであることが好ましい。有機酸アニオンの含有量を6.5モル/L以下とすることで、過剰な反応を抑制することができる。
【0033】
処理液に含まれるカチオンは、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオンである。カチオンは、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される、少なくとも1種又は2種以上であることが好ましい。処理液に含まれるカチオンは、少なくともNa
+、K
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオンであることが好ましく、K
+を含むカチオンであることが好ましい。処理液に含まれるカチオンは、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオンを含む化合物を溶媒に溶解することで処理液に導入することができる。
【0034】
処理液に含まれるLi
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオンの含有量は本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、目的等に応じて適宜選択することができる。処理液中に含まれるカチオンの含有量は、例えば、処理液の質量を基準にして、0.01モル/L以上とすることができ、0.1〜13.0モル/Lであることが好ましい。
処理液中のカチオンの含有量を0.01モル/L以上とすることで、フッ化物からのLi
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオン、又はマンガンイオン等の溶出をより効果的に抑制することができる。処理液中のカチオンの含有量を13.0モル/L以下とすることで、過剰な反応を抑制することができる。
【0035】
カチオンを放出可能な化合物は、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオンを含む化合物であれば、特に限定されない。カチオンを放出可能な化合物は、有機酸アニオンと結合した有機酸塩等を挙げることができる。
【0036】
カチオンがリチウムカチオン(Li
+)ある場合、リチウムを含む化合物は、溶媒に溶解してリチウムカチオンを放出可能であれば特に制限されない。リチウムを含む化合物として具体的には、硝酸リチウム(LiNO
3)、硫酸リチウム(Li
2SO
4)、炭酸リチウム(LiCO
3)、リン酸三リチウム(Li
3PO
4)、リン酸二水素リチウム(LiH
2PO
4)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)、四ホウ酸リチウム(Li
2B
4O
7)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF
4)、ヘキサフルオロケイ酸リチウム(Li
2SiF
6)、フッ化リチウム(LiF)、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、ヨウ化リチウム(LiI)、過塩素酸リチウム(LiClO
4)、過ヨウ素酸リチウム(LiIO
4)、水酸化リチウム(KOH)、チオシアン酸リチウム(LiSCN)等を挙げることができる。
【0037】
カチオンがナトリウムカチオン(Na
+)である場合は、ナトリウムを含む化合物は、溶媒に溶解してナトリウムカチオンを放出可能であれば特に制限されない。ナトリウムを含む化合物として具体的には、硝酸ナトリウム(NaNO
3)、亜硝酸ナトリウム(NaNO
2)、硫酸ナトリウム(Na
2SO
4)、硫酸水素ナトリウム(NaHSO
4)、チオ硫酸ナトリウム(Na
2S
2O
3)、亜硫酸ナトリウム(Na
2SO
3)、亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO
4)、二亜硫酸ナトリウム(Na
2S
2O
5)、炭酸ナトリウム(NaCO
3)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO
3)、リン酸三ナトリウム(Na
3PO
4)、リン酸二水素ナトリウム(NaH
2PO
4)、リン酸水素二ナトリウム(Na
2HPO
4)、二リン酸ナトリウム(Na
4P
2O
7)、三リン酸五ナトリウム(Na
5P
3O
10)、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF
6)、四ホウ酸ナトリウム(Na
2B
4O
7)、テトラフルオロホウ酸ナトリウム(NaBF
4)、ヘキサフルオロケイ酸ナトリウム(Na
2SiF
6)、フッ化ナトリウム(NaF)、塩化ナトリウム(NaCl)、臭化ナトリウム(NaBr)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、塩素酸ナトリウム(NaClO
3)、ヨウ素酸ナトリウム(NaIO
3)、過塩素酸ナトリウム(NaClO
4)、過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO
4)、水酸化ナトリウム(NaOH)、チオシアン酸ナトリウム(NaSCN)、アジ化ナトリウム(NaN
3)等を挙げることができる。
【0038】
カチオンがカリウムカチオン(K
+)である場合、カリウムを含む化合物は、溶媒に溶解してカリウムカチオンを放出可能であれば特に制限されない。カリウムを含む化合物として具体的には、硝酸カリウム(KNO
3)、二硫酸カリウム(K
2S
2O
7)、亜硝酸カリウム(KNO
2)、硫酸カリウム(K
2SO
4)、硫酸水素カリウム(KHSO
4)、チオ硫酸カリウム(K
2S
2O
3)、亜硫酸カリウム(K
2SO
3)、二亜硫酸カリウム(K
2S
2O
5)、炭酸カリウム(KCO
3)、炭酸水素カリウム(KHCO
3)、リン酸三カリウム(K
3PO
4)、リン酸二水素カリウム(KH
2PO
4)、リン酸水素二カリウム(K
2HPO
4)、二リン酸カリウム(K
4P
2O
7)、三リン酸五カリウム(K
5P
3O
10)、ヘキサフルオロリン酸カリウム(KPF
6)、四ホウ酸カリウム(K
2B
4O
7)、テトラフルオロホウ酸カリウム(KBF
4)、ヘキサフルオロケイ酸カリウム(K
2SiF
6)、フッ化カリウム(KF)、塩化カリウム(KCl)、臭化カリウム(KBr)、ヨウ化カリウム(KI)、塩素酸カリウム(KClO
3)、ヨウ素酸カリウム(KIO
3)、過塩素酸カリウム(KClO
4)、過ヨウ素酸カリウム(KIO
4)、水酸化カリウム(KOH)、チオシアン酸カリウム(KSCN)、シアン化カリウム(KCN)、過マンガン酸カリウム(KMnO
4)、フッ化水素カリウム(KHF
2)、ヘキサフルオロマンガンカリウム(K
2MnF
6)等を挙げることができる。
【0039】
カチオンがルビジウムカチオン(Rb
+)ある場合、ルビジウムを含む化合物は、溶媒に溶解してルビジウムカチオンを放出可能であれば特に制限されない。ルビジウムを含む化合物として具体的には、硝酸ルビジウム(RbNO
3)、硫酸ルビジウム(Rb
2SO
4)、炭酸ルビジウム(RbCO
3)、テトラフルオロホウ酸ルビジウム(RbBF
4)、フッ化ルビジウム(RbF)、塩化ルビジウム(RbCl)、臭化ルビジウム(RbBr)、ヨウ化ルビジウム(RbI)、過塩素酸ルビジウム(RbClO
4)、水酸化ルビジウム(RbOH)等を挙げることができる。
【0040】
カチオンがセシウムカチオン(Cs
+)である場合は、セシウムを含む化合物は、溶媒に溶解してセシウムカチオンを放出可能であれば特に制限されない。セシウムを含む化合物として具体的には、硝酸セシウム(CsNO
3)、硫酸セシウム(Cs
2SO
4)、炭酸セシウム(Cs
2CO
3)、炭酸水素セシウムセシウム(CsHCO
2)、フッ化セシウム(CsF)、塩化セシウム(CsCl)、臭化セシウム(CsBr)、ヨウ化セシウム(CsI)、過塩素酸セシウム(CsClO
4)、水酸化セシウム(CsOH)等を挙げることができる。
【0041】
カチオンが第四級アンモニウムカチオン(NH
4+)である場合は、アンモニウムを含む化合物を挙げることができる。アンモニウムを含む化合物は、溶媒に溶解して第四級アンモニウムカチオンを放出可能であれば特に制限されない。アンモニウムを含む化合物としては、具体的には、硝酸アンモニウム(NH
4NO
3)、硫酸アンモニウム((NH
4)
2SO
4)、硫酸水素アンモニウム(NH
4HSO
4)、チオ硫酸アンモニウム((NH
4)
2S
2O
3)、亜硫酸アンモニウム((NH
4)
2SO
3)、亜硫酸水素アンモニウム(NH
4HSO
4)、炭酸アンモニウム(NH
4CO
3)、炭酸水素アンモニウム(NH
4HCO
3)、リン酸二水素アンモニウム(NH
4H
2PO
4)、リン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)、ヘキサフルオロリン酸アンモニウム(NH
4PF
6)、四ホウ酸アンモニウム((NH
4)
2B
4O
7)、テトラフルオロホウ酸アンモニウム(NH
4BF
4)、ヘキサフルオロケイ酸アンモニウム((NH
4)
2SiF
6)、フッ化アンモニウム(NH
4F)、塩化アンモニウム(NH
4Cl)、臭化アンモニウム(NH
4Br)、ヨウ化アンモニウム(NH
4I)、ヨウ素酸アンモニウム(NH
4IO
3)、過塩素酸アンモニウム(NH
4ClO
4)、水酸化アンモニウム(NH
4OH)、チオシアン酸アンモニウム(NH
4SCN)、ペルオキソ硫酸アンモニウム((NH
4)
2S
2O
8)、アミド硫酸アンモニウム(NH
4OSO
2NH
2)、塩化ヒドロキシルアンモニウム(HONH
3Cl)等を挙げることができる。
【0042】
実質的にLi
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオンを含む化合物であれば使用に問題は無く、例えば水和物等を使用することができる。上記の化合物には水等の溶媒に溶けにくい化合物も含まれている。このため、上記された以外の化合物を加えてpHを調整することで処理液を調製することができる。また、溶媒としてアルコール等の有機溶剤を含む水や有機溶剤を使用することもできる。
【0043】
処理液は、溶媒、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオン及び有機酸アニオン以外のその他の成分を更に含んでいてもよい。その他の成分の種類及び含有量は特に制限されず、目的等に応じて適宜選択することができる。その他の成分は、イオン性及び非イオン性のいずれであってもよい。その他の成分としては、例えば、Ge、Si、Sn、Ti、Zr、Mn、F、Cl、Br、I、B、Al、Ga、In等を含む化合物、硝酸イオンを含む化合物等を挙げることができる。処理液がその他の成分を含む場合、その他の成分を1種単独でも、2種以上を組合せて含んでいてもよい。
【0044】
処理液のpHは特に制限されず、処理液の成分等に応じて適宜選択することができる。例えば処理液のpHは、25℃において0〜14とすることができ、1〜12であることが好ましい。処理液は、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオン及び有機酸アニオンを含むことで、一般式(I)で表されるフッ化物の表面に、より効率的に有機酸塩を形成することが可能となる。
【0045】
また処理液は、カリウムカチオンを含みアルカリ性であることもまた好ましい。処理液がカリウムカチオンを含みアルカリ性である場合、処理液のpHは25℃において7よりも大きければよいが、8以上であることが好ましく、8〜14であることがより好ましい。
【0046】
フッ化物蛍光体の製造方法では、フッ化物と処理液とを含む反応混合物中で、フッ化物と、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオン及び有機酸アニオンを接触させる。反応混合物に含まれるフッ化物と処理液の質量比は特に制限されず、処理液の構成等に応じて適宜選択することができる。反応混合物に含まれるフッ化物の処理液に対する質量比(フッ化物/処理液)は、例えば、0.1〜50重量%とすることができる。
【0047】
反応混合物中で、フッ化物と処理液に含まれるLi
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオン及び有機酸アニオンとが接触することで、フッ化物の表面に有機酸塩が形成される。
処理液中のフッ化物と、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオン及び有機酸アニオンとの接触時間は、本発明の効果が得られる限り特に制限されない。接触時間は例えば、1時間以上とすることができ、1〜500時間であることが好ましい。
フッ化物と前記カチオン及び有機酸アニオンとの接触温度は、本発明の効果が得られる限り特に制限されない。接触温度は例えば、0〜110℃とすることができる。
反応混合物中で、フッ化物と前記カチオン及び有機酸アニオンとの接触は、大気下で行ってもよく、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0048】
第一の工程では反応混合物を撹拌してもよい。反応混合物を撹拌する方法は、処理液に溶解している成分の濃度勾配を緩和可能な方法であれば特に制限されず、通常用いられる撹拌方法から適宜選択することができる。撹拌方法としては例えば、撹拌子を一定速度で回転させる方法、処理液をポンプで加圧して流れを発生させることで反応混合物を混合する方法、回転容器型の混合機を使用する方法等を挙げることができる。中でも撹拌方法は、反応混合物に与える剪断力が小さい方法であることが好ましい。剪断力が小さい撹拌方法を用いることで耐久性により優れるフッ化物蛍光体を得ることができる。
【0049】
反応混合物を撹拌する場合、撹拌は連続して行ってもよく、断続的に行ってもよい。反応混合物の撹拌を断続的に行うことで、撹拌の剪断力による影響を抑制して、より耐久性に優れるフッ化物蛍光体が得られる傾向がある。撹拌を断続的に行う場合、その間隔は特に制限されず、一定の間隔で撹拌を行ってもよく、不規則な間隔で撹拌を行ってもよい。撹拌を一定の間隔で断続的に行う場合、例えば1分〜30分の間隔で行うことができる。
【0050】
第一の工程では、反応混合物から処理液の少なくとも一部を除去することができる。処理液の少なくとも一部が除去される反応混合物には、フッ化物と接触していない処理液(以下、「未使用処理液」ともいう)を補充してもよい。処理液の除去及び補充(すなわち、処理液の交換)を行う場合、処理液の反応混合物からの除去後に未使用処理液の補充を行う方法(以下、「逐次交換法」ともいう)で行ってもよく、処理液の反応混合物からの除去と未使用処理液の補充とを時間的に重複させて行う方法(以下、「連続交換法」ともいう)で行ってもよい。
【0051】
処理液の除去及び補充を逐次交換法で行う場合、処理液の除去量は特に制限されない。処理液の除去量は例えば、反応混合物に含まれる処理液の10重量%以上とすることができ、50重量%以上であることが好ましい。
処理液の少なくとも一部が除去された反応混合物への未使用処理液の補充量は特に制限されず、目的等に応じて適宜選択することができる。未使用処理液の補充量は処理液の除去量と実質的に同じ量としてもよく、異なる量であってもよい。実質的に同じ量とは、除去量に対する補充量の重量比が、0.9〜1.1であることを意味する。
【0052】
処理液の除去方法は、反応混合物から実質的に処理液のみを除去可能であれば特に制限されない。処理液の除去方法としては例えば、反応混合物の上清をデカント、吸引等の手段で除去する方法、濾過処理により反応混合物からフッ化物と処理液とを分離する方法を挙げることができる。
【0053】
処理液の除去及び補充を逐次交換法で行う場合、処理液の除去及び補充の回数は特に制限されず、1回のみであっても2回以上であってもよい。処理液の交換を2回以上行う場合、2回〜20回であることが好ましい。また、除去された処理液のマンガンイオン濃度を指標として交換回数を適宜設定してもよい。
【0054】
処理液の除去及び補充を連続交換法で行う場合、単位時間当たりの処理液の除去量及び補充量等の交換条件は、目的等に応じて適宜選択することができる。例えば、後述する除去された処理液のマンガンイオン濃度を指標として交換条件を適宜設定してもよい。
【0055】
第一の工程において処理液の除去を行う場合、除去される処理液に一般式(I)で表されるフッ化物に由来するマンガンイオンが含まれることがある。除去される処理液に含まれるマンガンイオンの濃度が所定の範囲となるように、処理液の除去と必要に応じて処理液の補充とを行うことで、より耐久性に優れるフッ化物蛍光体を得ることができる。
除去される処理液のマンガンイオン濃度は例えば、1ppm(w/v)以下とすることができ、0.5ppm以下とすることが好ましく、0.3ppm以下であることがより好ましい。除去される処理液のマンガンイオン濃度が1ppm以下であると、得られるフッ化物蛍光体の耐久性がより向上する傾向がある。処理液のマンガンイオン濃度は、ICP−AESを用いて測定することができる。
【0056】
一般式(I)で表されるフッ化物と、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオン及び有機酸アニオンを含む処理液とを含む反応混合物中で、フッ化物を前記カチオン及び有機酸アニオンと接触させる工程は、反応混合物から処理液の少なくとも一部を除去することを含み、除去される処理液のマンガンイオン濃度を0.5ppm以下とすることが好ましい。
【0057】
第一の工程において除去される処理液のマンガンイオン濃度を0.5ppm以下とする方法としては、反応混合物における処理液に対するフッ化物の質量比を小さくする方法、処理液の除去及び補充を行う方法等を挙げることができる。処理液の除去及び補充を行う場合、除去される処理液のマンガンイオン濃度の測定値が0.5ppm以下となるように処理液の除去及び補充の方法及び条件を適宜設定すればよい。
【0058】
フッ化物蛍光体の製造方法は、得られるフッ化物蛍光体を洗浄処理する工程を含んでいてもよい。洗浄処理は例えば、反応混合物から処理液を除去した後、水等の洗浄液を加え、次いで洗浄液を除去することで行うことができる。洗浄に用いる洗浄液の量は適宜選択すればよい。また洗浄は1回のみでも2回以上行ってもよい。
【0059】
フッ化物蛍光体の製造方法は、フッ化物を過酸化水素と接触させる工程(以下、「第二の工程」ともいう)を更に含んでいてもよい。過酸化水素との接触を行うことで、得られるフッ化物蛍光体の耐久性が、より向上する傾向がある。これは例えば以下のように考えることができる。
フッ化物蛍光体は、4価のマンガンイオンで付活されている。例えば、4価のマンガンイオンの一部が2価のマンガンイオンに還元されることで、耐久性が低下すると考えられるが、フッ化物蛍光体を過酸化水素で処理することで、マンガンイオンを4価の状態とすることができるため、耐久性が向上すると考えることができる。
【0060】
第二の工程は、第一の工程と独立して行ってもよく、第一の工程と時間的に重複して行ってもよい。第二の工程を第一の工程と独立して行う場合、第一の工程を行った後に第二の工程を行うことが好ましい。また第二の工程を第一の工程と時間的に重複して行う場合、第一の工程を行う前から第二の工程を開始してもよく、第一の工程と同時に行ってもよく、第一の工程の開始後に第二の工程を行ってもよい。
【0061】
フッ化物蛍光体の製造方法は、第一の工程及び必要に応じて含まれる第二の工程に加えて、フッ化物蛍光体の分離処理、精製処理、乾燥処理等の後処理工程を更に含んでいてもよい。
【0062】
フッ化物蛍光体の製造方法は、一般式(I)で表されるフッ化物を準備する工程を更に含んでいてもよい。準備する工程は、一般式(I)で表されるフッ化物の製造工程を含むことができる。
一般式(I)で表されるフッ化物は、フッ化水素を含む液媒体中で、4価のマンガンイオンを含む第一の錯イオンと、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)及びアンモニウム(NH
4)からなる群より選択される少なくとも1種のカチオンと、第4族元素及び第14族元素からなる群より選択される少なくとも1種を含む第二の錯イオンとを接触させることで製造することができる。
【0063】
一般式(I)で表されるフッ化物の製造工程は、例えば、4価のマンガンを含む第一の錯イオン、第4族元素及び第14族元素からなる群より選択される少なくとも1種並びにフッ素イオンを含む第二の錯イオン、並びにフッ化水素を少なくとも含む溶液Aと、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオン及びフッ化水素を少なくとも含む溶液Bとを混合する工程を含むことができる。
【0064】
溶液A
溶液Aは、4価のマンガンを含む第一の錯イオンと、第4族元素及び第14族元素からなる群より選択される少なくとも1種並びにフッ素イオンとを含む第二の錯イオンとを含むフッ化水素酸溶液である。
【0065】
4価のマンガンを含む第一の錯イオンを形成するマンガン源は、4価のマンガンを含む化合物であれば特に制限はされない。第一の溶液を構成可能なマンガン源として、具体的には、K
2MnF
6、KMnO
4、K
2MnCl
6等を挙げることができる。中でも、付活することのできる酸化数(4価)を維持しながら、MnF
6錯イオンとしてフッ化水素酸中に安定して存在することができること等から、K
2MnF
6が好ましい。なお、マンガン源のうち、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオンを含むものは、第二溶液に含まれるカチオン源を兼ねることができる。第一の錯イオンを形成するマンガン源は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0066】
溶液Aにおける第一の錯イオンの濃度は特に制限されない。溶液Aにおける第一の錯イオン濃度の下限値は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.03重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上である。また、第一の溶液における第一の錯イオン濃度の上限値は、通常50重量%以下、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下である。
【0067】
第二の錯イオンは、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)及びスズ(Sn)からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、ケイ素(Si)、又はケイ素(Si)及びゲルマニウム(Ge)を含むことがより好ましく、フッ化ケイ素錯イオンであることが更に好ましい。
例えば、第二の錯イオンがケイ素(Si)を含む場合、第二の錯イオン源は、ケイ素とフッ素とを含み、溶液への溶解性に優れる化合物であることが好ましい。第二の錯イオン源として具体的には、H
2SiF
6、Na
2SiF
6、(NH
4)
2SiF
6、Rb
2SiF
6、Cs
2SiF
6等を挙げることができる。これらの中でも、水への溶解度が高く、不純物としてアルカリ金属元素を含まないことにより、H
2SiF
6が好ましい。第二の錯イオン源は、1種を単独で用いて2種以上を併用してもよい。
【0068】
溶液Aにおける第二の錯イオン濃度の下限値は、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上である。また、溶液Aにおける第二の錯イオン濃度の上限値は、通常80重量%以下、好ましくは70重量%以下、より好ましくは60重量%以下である。
【0069】
溶液Aにおけるフッ化水素濃度の下限値は、通常20重量%以上、好ましくは25重量%以上、より好ましくは30重量%以上である。また、第一の溶液におけるフッ化水素濃度の上限値は、通常80重量%以下、好ましくは75重量%以下、より好ましくは70重量%以下である。
【0070】
溶液B
溶液Bは、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオンとフッ化水素とを少なくとも含み、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。溶液Bは、例えば、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオンを含むフッ化水素酸の水溶液として得られる。
溶液Bを構成可能なナトリウムカチオンを含むナトリウム源として、NaF、NaHF
2、NaOH、NaCl、NaBr、NaI、酢酸ナトリウム、Na
2CO
3等水溶性のナトリウム塩を挙げることができる。
溶液Bを構成可能なカリウムカチオンを含むカリウム源として、具体的には、KF、KHF
2、KOH、KCl、KBr、KI、酢酸カリウム、K
2CO
3等の水溶性カリウム塩を挙げることができる。中でも溶液中のフッ化水素濃度を下げることなく溶解することができ、また、溶解熱が小さく安全性が高いことから、KHF
2が好ましい。
溶液Bを構成可能なルビジウムカチオンを含むルビジウム源として、具体的には、RbF、酢酸ルビジウム、Rb
2CO
3等の水溶性ルビジウム塩を挙げることができる。
溶液Bを構成可能なセシウムカチオンを含むセシウム源として、具体的には、CsF、酢酸セシウム、Cs
2CO
3等の水溶性セシウム塩を挙げることができる。
溶液Bを構成可能な第四級アンモニウムカチオンを含むナトリウム源として、NH
4F、アンモニア水、NH
4Cl、NH
4Br、NH
4I、酢酸アンモニウム、(NH
4)
2CO
3等水溶性のアンモニウム塩を挙げることができる。溶液Bを構成するイオン源は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0071】
溶液Bにおけるフッ化水素濃度の下限値は、通常20重量%以上、好ましくは25重量%以上、より好ましくは30重量%以上である。また、溶液Bにおけるフッ化水素濃度の上限値は、通常80重量%以下、好ましくは75重量%以下、より好ましくは70重量%以下である。
また、溶液Bにおけるカチオン濃度の下限値は、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上である。また、溶液BにおけるLi
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオン濃度の上限値は、通常80重量%以下、好ましくは70重量%以下、より好ましくは60重量%以下である。
【0072】
溶液A及び溶液Bの混合方法としては特に制限はなく、溶液Bを撹拌しながら溶液A液を添加して混合してもよく、溶液Aを撹拌しながら溶液Bを添加して混合してもよい。また、溶液A及び溶液Bをそれぞれ容器に投入して撹拌混合してもよい。
溶液A及び溶液Bを混合することにより、所定の割合で第一の錯イオンと、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオンと、第二の錯イオンとが反応して目的のフッ化物の結晶が析出する。析出した結晶は濾過等により固液分離して回収することができる。またエタノール、イソプロピルアルコール、水、アセトン等の溶媒で洗浄してもよい。更に乾燥処理を行ってもよく、通常50℃以上、好ましくは55℃以上、より好ましくは60℃以上、また、通常110℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下で乾燥する。乾燥時間としては、フッ化物蛍光体に付着した水分を蒸発することができれば、特に制限はなく、例えば、10時間程度である。
なお、溶液A及び溶液Bの混合に際しては、溶液A及び溶液Bの仕込み組成と得られるフッ化物の組成とのずれを考慮して、生成物としてのフッ化物の組成が目的の組成となるように、溶液A及び溶液Bの混合割合を適宜調整することが好ましい。
【0073】
また、一般式(I)で表されるフッ化物の製造工程は、4価のマンガンを含む第一の錯イオン及びフッ化水素を少なくとも含む第一の溶液と、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオン及びフッ化水素を少なくとも含む第二の溶液と、第4族元素及び第14族元素からなる群より選択される少なくとも1種並びにフッ素イオンを含む第二の錯イオンを少なくとも含む第三の溶液とを混合する工程を含む製造工程で、製造することもできる。
第一の溶液と、第二の溶液と、第三の溶液とを混合することで、所望の組成を有し、所望の重量メジアン径を有するフッ化物を、優れた生産性で簡便に製造することができる。
【0074】
第一の溶液
第一の溶液は、4価のマンガンを含む第一の錯イオンと、フッ化水素とを少なくとも含み、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。第一の溶液は、例えば、4価のマンガン源を含むフッ化水素酸の水溶液として得られる。マンガン源は、4価のマンガンを含む化合物であれば特に制限はされない。第一の溶液を構成可能なマンガン源として、具体的には、K
2MnF
6、KMnO
4、K
2MnCl
6等を挙げることができる。中でも、付活することのできる酸化数(4価)を維持しながら、MnF
6錯イオンとしてフッ化水素酸中に安定して存在することができること等から、K
2MnF
6が好ましい。なお、マンガン源のうち、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオンを含むものは、第二の溶液に含まれるLi
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオン源を兼ねることができる。第一の溶液を構成するマンガン源は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0075】
第一の溶液におけるフッ化水素濃度の下限値は、通常20重量%以上、好ましくは25重量%以上、より好ましくは30重量%以上である。また、第一の溶液におけるフッ化水素濃度の上限値は、通常80重量%以下、好ましくは75重量%以下、より好ましくは70重量%以下である。フッ化水素濃度が30重量%以上であると、第一の溶液を構成するマンガン源(例えば、K
2MnF
6)の加水分解に対する安定性が向上し、第一の溶液における4価のマンガン濃度の変動が抑制される。これにより得られるフッ化物蛍光体に含まれるマンガン付活量を容易に制御することができ、フッ化物蛍光体における発光効率のバラつき(変動)を抑制することができる傾向がある。またフッ化水素濃度が70重量%以下であると、第一の溶液の沸点の低下が抑制され、フッ化水素ガスの発生が抑制される。これにより、第一の溶液におけるフッ化水素濃度を容易に制御することができ、得られるフッ化物蛍光体の粒子径のバラつき(変動)を効果的に抑制することができる。
【0076】
第一の溶液における第一の錯イオンの濃度は特に制限されない。第一の溶液における第一の錯イオン濃度の下限値は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.03重量%以上、より好ましくは0.05重量%以上である。また、第一の溶液における第一の錯イオン濃度の上限値は、通常50重量%以下、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下である。
【0077】
第二の溶液
第二の溶液は、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオンとフッ化水素とを少なくとも含み、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。第二の溶液は、例えば、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオンを含むフッ化水素酸の水溶液として得られる。第二の溶液を構成可能なイオンを含むイオン源として、具体的には、NaF、NaHF
2、NaOH、NaCl、NaBr、NaI、酢酸ナトリウム、Na
2CO
3、KF、KHF
2、KOH、KCl、KBr、KI、酢酸カリウム、K
2CO
3、RbF、酢酸ルビジウム、Rb
2CO
3、CsF、酢酸セシウム、Cs
2CO
3、NH
4F、アンモニア水、NH
4Cl、NH
4Br、NH
4I、酢酸アンモニウム、(NH
4)
2CO
3等の水溶性の塩を挙げることができる。中でも溶液中のフッ化水素濃度を下げることなく溶解することができ、また、溶解熱が小さく安全性が高いことから、NaHF
2、KHF
2が好ましい。第二の溶液を構成するイオン源は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0078】
第二の溶液におけるフッ化水素濃度の下限値は、通常20重量%以上、好ましくは25重量%以上、より好ましくは30重量%以上である。また、第二の溶液におけるフッ化水素濃度の上限値は、通常80重量%以下、好ましくは75重量%以下、より好ましくは70重量%以下である。
また、第二の溶液におけるLi
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオンのイオン濃度の下限値は、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上である。また、第二の溶液におけるLi
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオンのイオン濃度の上限値は、通常80重量%以下、好ましくは70重量%以下、より好ましくは60重量%以下である。
【0079】
第三の溶液
第三の溶液は、第4族元素及び第14族元素からなる群より選択される少なくとも1種と、フッ素イオンとを含む第二の錯イオンを少なくとも含み、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。第三の溶液は、例えば、第二の錯イオンを含む水溶液として得られる。
第二の錯イオンは、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)及びスズ(Sn)からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、ケイ素(Si)、又はケイ素(Si)及びゲルマニウム(Ge)を含むことがより好ましく、フッ化ケイ素錯イオンであることが更に好ましい。
【0080】
例えば、第二の錯イオンがケイ素(Si)を含む場合、第二の錯イオン源は、ケイ素とフッ素とを含み、溶液への溶解性に優れる化合物であることが好ましい。第二の錯イオン源として具体的には、H
2SiF
6、Na
2SiF
6、(NH
4)
2SiF
6、Rb
2SiF
6、Cs
2SiF
6等を挙げることができる。これらの中でも、水への溶解度が高く、不純物としてアルカリ金属元素を含まないことにより、H
2SiF
6が好ましい。第三の溶液を構成する第二の錯イオン源は、1種を単独で用いて2種以上を併用してもよい。
【0081】
第三の溶液における第二の錯イオン濃度の下限値は、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上である。また、第三の溶液における第二の錯イオン濃度の上限値は、通常80重量%以下、好ましくは70重量%以下、より好ましくは60重量%以下である。
【0082】
第一の溶液、第二溶液及び第三の溶液の混合方法としては特に制限はなく、第一の溶液を撹拌しながら第二の溶液及び第三の溶液を添加して混合してもよく、第三の溶液を撹拌しながら第一溶液及び第二の溶液を添加して混合してもよい。また、第一の溶液、第二溶液及び第三の溶液をそれぞれ容器に投入して撹拌混合してもよい。
【0083】
第一の溶液、第二溶液及び第三の溶液を混合することにより、所定の割合で第一の錯イオンと、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオンと、第二の錯イオンとが反応して目的の一般式(I)で表されるフッ化物の結晶が析出する。析出した結晶は濾過等により固液分離して回収することができる。またエタノール、イソプロピルアルコール、水、アセトン等の溶媒で洗浄してもよい。更に乾燥処理を行ってもよく、通常50℃以上、好ましくは55℃以上、より好ましくは60℃以上、また、通常110℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下で乾燥する。乾燥時間としては、フッ化物に付着した水分を蒸発することができれば、特に制限はなく、例えば、10時間程度である。
【0084】
なお、第一の溶液、第二溶液及び第三の溶液の混合に際しては、第一〜第三の溶液の仕込み組成と得られるフッ化物の組成とのずれを考慮して、生成物としてのフッ化物の組成が目的の組成となるように、第一の溶液、第二の溶液及び第三の溶液の混合割合を適宜調整することが好ましい。
【0085】
<フッ化物蛍光体>
本発明のフッ化物蛍光体は、下記一般式(I)で表されるフッ化物と、有機酸塩とを含むフッ化物蛍光体である。
A
2[M
1−aMn
4+aF
6] (I)
式中、Aは、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+及びNH
4+からなる群より選択される少なくとも1種のカチオンを表し、Mは、第4族元素及び第14族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を表し、aは0<a<0.2を満たす。
【0086】
フッ化物蛍光体は既述のフッ化物蛍光体の製造方法で得られるものであることが好ましい。フッ化物蛍光体は、一般式(I)で表されるフッ化物を母体とし、有機酸塩を含むことで、耐久性に優れる。フッ化物蛍光体における有機酸塩は、フッ化物蛍光体の表面領域及び内部に存在していることが好ましく、フッ化物蛍光体の表面から深さ方向1μmまでの領域の少なくとも一部に存在していることがより好ましい。
【0087】
<発光装置>
本発明の発光装置は、前記フッ化物蛍光体と、380nm〜485nmの波長範囲の光を発する光源とを含む。発光装置は、必要に応じて、その他の構成部材を更に含んでいてもよい。発光装置が前記フッ化物蛍光体を含むことで、耐久性に優れ、優れた長期信頼性を達成することができる。すなわち、前記フッ化物蛍光体を含む発光装置は、長期間にわたって、出力の低下と色度変化が抑制され、照明用途等の過酷な環境での使用に好適に適用することができる。
【0088】
(光源)
光源(以下、「励起光源」ともいう)としては、可視光の短波長領域である380nm〜485nmの波長範囲の光を発するものを使用する。光源として好ましくは420nm〜485nmの波長範囲、より好ましくは440nm〜480nmの波長範囲に発光ピーク波長(極大発光波長)を有するものである。これにより、フッ化物蛍光体を効率よく励起し、可視光を有効活用することができる。また当該波長範囲の励起光源を用いることにより、発光強度が高い発光装置を提供することができる。
【0089】
励起光源には半導体発光素子(以下単に「発光素子」ともいう)を用いることが好ましい。励起光源に半導体発光素子を用いることによって、高効率で入力に対する出力のリニアリティが高く、機械的衝撃にも強い安定した発光装置を得ることができる。
発光素子は、可視光の短波長領域の光を発するものを使用することができる。例えば、青色、緑色の発光素子としては、窒化物系半導体(In
XAl
YGa
1−X−YN、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)を用いたものを用いることができる。
【0090】
(フッ化物蛍光体)
発光装置に含まれるフッ化物蛍光体の詳細については既述の通りである。フッ化物蛍光体は、例えば、励起光源を覆う封止樹脂に含有されることで発光装置を構成することができる。励起光源がフッ化物蛍光体を含有する封止樹脂で覆われた発光装置では、励起光源から出射された光の一部がフッ化物蛍光体に吸収されて、赤色光として放射される。380nm〜485nmの波長範囲の光を発する励起光源を用いることで、放射される光をより有効に利用することができる。よって発光装置から出射される光の損失を少なくすることができ、高効率の発光装置を提供することができる。
発光装置に含まれるフッ化物蛍光体の含有量は特に制限されず、励起光源等に応じて適宜選択することができる。
【0091】
(他の蛍光体)
発光装置は、前記フッ化物蛍光体に加えて、他の蛍光体を更に含むことが好ましい。他の蛍光体は、光源からの光を吸収し、異なる波長の光に波長変換するものであればよい。他の蛍光体は、例えば、前記フッ化物蛍光体と同様に封止樹脂に含有させて発光装置を構成することができる。
【0092】
他の蛍光体としては例えば、Eu、Ce等のランタノイド系元素で主に付活される窒化物系蛍光体、酸窒化物系蛍光体、サイアロン系蛍光体;Eu等のランタノイド系、Mn等の遷移金属系の元素により主に付活されるアルカリ土類ハロゲンアパタイト蛍光体、アルカリ土類金属ホウ酸ハロゲン蛍光体、アルカリ土類金属アルミン酸塩蛍光体、アルカリ土類ケイ酸塩、アルカリ土類硫化物、アルカリ土類チオガレート、アルカリ土類窒化ケイ素、ゲルマン酸塩;Ce等のランタノイド系元素で主に付活される希土類アルミン酸塩、希土類ケイ酸塩;及びEu等のランタノイド系元素で主に付活される有機及び有機錯体等からなる群より選択される少なくとも1種以上であることが好ましい。
【0093】
他の蛍光体として具体的には例えば、(Ca,Sr,Ba)
2SiO
4:Eu、(Y,Gd)
3(Ga,Al)
5O
12:Ce、(Si,Al)
6(O,N)
8:Eu(βサイアロン)、SrGa
2S
4:Eu、(Ca,Sr)
2Si
5N
8:Eu、CaAlSiN
3:Eu、(Ca,Sr)AlSiN
3:Eu、Lu
3Al
5O
12:Ce、(Ca,Sr,Ba,Zn)
8MgSi
4O
16(F,Cl,Br,I):Eu等が挙げられる。
他の蛍光体を含むことにより、種々の色調の発光装置を提供することができる。
発光装置が他の蛍光体の更に含む場合、その含有量は特に制限されず、所望の発光特性が得られるように適宜調整すればよい。
【0094】
発光装置が他の蛍光体を更に含む場合、緑色蛍光体を含むことが好ましく、380nm〜485nmの波長範囲の光を吸収し。495nm〜573nmの波長範囲の光を発する緑色蛍光体を含むことがより好ましい。発光装置が緑色蛍光体を含むことで、照明装置、液晶表示装置等に、より好適に適用することができる。
【0095】
発光装置が緑色蛍光体を含む場合、緑色蛍光体の発光スペクトルの全半値幅は、発光装置を照明装置や画像表示装置に用いた際に照明対象や画像がより深い緑色を示す観点から、100nm以下であることが好ましく、70nm以下であることがより好ましい。
【0096】
このような緑色蛍光体としては、組成式がM
118MgSi
4O
16X
11:Eu(M
11=Ca,Sr,Ba,Zn;X
11=F,Cl,Br,I)で示されるEu付活クロロシリケート蛍光体、M
122SiO
4:Eu(M
12=Mg,Ca,Sr,Ba,Zn)で示されるEu付活シリケート蛍光体、Si
6−zAl
zO
zN
8−z:Eu(0<z<4.2)で示されるEu付活βサイアロン蛍光体、M
13Ga
2S
4:Eu(M
13=Mg,Ca,Sr,Ba)で示されるEu付活チオガレート蛍光体、(Y,Lu)
3Al
5O
12:Ceで示される希土類アルミン酸塩蛍光体等を挙げることができる。なかでも、緑色蛍光体は、色調、色再現範囲等の観点から、Eu付活クロロシリケート蛍光体、Eu付活シリケート蛍光体、Eu付活βサイアロン蛍光体、Eu付活チオガレート蛍光体及び希土類アルミン酸塩蛍光体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、Eu付活βサイアロン蛍光体であることがより好ましい。
【0097】
発光装置の形式は特に制限されず、通常用いられる形式から適宜選択することができる。発光装置の形式としては、砲弾型、表面実装型等を挙げることができる。一般に砲弾型とは、外面を構成する樹脂の形状を砲弾型に形成したものを指す。また表面実装型とは、凹状の収納部内に光源なる発光素子及び樹脂を充填して形成されたものを示す。さらに発光装置の形式としては、平板状の実装基板上に光源となる発光素子を実装し、その発光素子を覆うように、フッ化物蛍光体を含有した封止樹脂をレンズ状等に形成した発光装置等も挙げられる。
【0098】
以下、本発明の実施の形態に係る発光装置の一例を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る発光装置の一例を示す概略断面図である。この発光装置は、表面実装型発光装置の一例である。
発光装置100は、可視光の短波長側(例えば380nm〜485nm)の光を発する窒化ガリウム系化合物半導体の発光素子10と、発光素子10を載置する成形体40と、を有する。成形体40は第1のリード20と第2のリード30とを有しており、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂により一体成形されている。成形体40は底面と側面を持つ凹部を形成しており、凹部の底面に発光素子10が載置されている。発光素子10は一対の正負の電極を有しており、その一対の正負の電極は第1のリード20及び第2のリード30とワイヤ60を介して電気的に接続されている。発光素子10は封止部材50により封止されている。封止部材50はエポキシ樹脂やシリコーン樹脂、エポキシ変性シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。封止部材50は発光素子10からの光を波長変換するフッ化物蛍光体70を含有している。
【実施例】
【0099】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0100】
(製造例1)
K
2MnF
6を16.25g秤量し、それを55重量%のHF水溶液1000gに溶解した後、40重量%のH
2SiF
6水溶液450gを加えて溶液Aを調製した。KHF
2を195.10g秤量し、それを55重量%のHF水溶液200gに溶解させて溶液Bを調製した。
次に、室温で溶液Bを撹拌しながら、約20分かけて溶液Aを滴下した。得られた沈殿物を固液分離後、IPA(イソプロピルアルコール)洗浄を行い、70℃で10時間乾燥することでフッ化物1を作製した。
【0101】
(実施例1)
製造例1で得られたフッ化物1を用いて以下のようにして、フッ化物蛍光体1を作製した。
酒石酸カリウムを5.939g秤量し、それを純水15gに溶解して酒石酸カリウム水溶液を調製した。前記で得られたフッ化物1を5g秤量し、調製した酒石酸カリウム水溶液に加えて撹拌した。この水溶液のpHを測定したところ、その値は8であった。その後、室温(25℃)にて72時間、回転容器型の混合器を使用して反応した。このとき、混合機の回転速度は40rpmとした。次に上澄みの酒石酸カリウム水溶液を除いた後、純水100gを秤量して反応済みのフッ化物に加えて撹拌した。これによって残留した酒石酸カリウムを洗浄した。得られた沈殿物を固液分離後、70℃で10時間乾燥することで、実施例1のフッ化物蛍光体を作製した。
【0102】
<評価>
(発光輝度特性)
以上で得られた各フッ化物蛍光体について、通常の発光輝度特性の測定を行った。発光輝度特性は、反射輝度として、励起波長460nmの条件で測定した。測定結果を以下に示す。なお、比較例1のフッ化物蛍光体としては、製造例1で得られたフッ化物をそのまま用いた。
【0103】
【表1】
【0104】
(SEM画像)
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、フッ化物蛍光体のSEM画像を得た。
図2に実施例1で得られたフッ化物蛍光体のSEM画像を、
図3に製造例1で得られたフッ化物蛍光体のSEM画像を示す。
【0105】
(耐久性)
波長450nmの光を発生する半導体レーザーを準備し、光出力を安定させるために温度調整を行った。粉体輝度測定用のセルにフッ化物蛍光体0.1gをセットし、半導体レーザーから出力した光をセル中のフッ化物蛍光体に連続して照射した。このとき、光密度が3.5W/cm
2になるように半導体レーザーへの印加電流を調整した。レーザー光の照射されている部分からの光を光電子増倍管に取り込むことで粉体輝度の変化を測定した。このとき、粉体輝度に対するレーザー光の影響を除くため、光学フィルターを用いて蛍光体から反射されるレーザー光を除いた。
レーザー光の照射時間と紛体輝度との関係を
図4に示す。
図4に示されるように、実施例1は、比較例1よりも耐久性に非常に優れることが分かる。