(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1において、前記第一の反応槽におけるpH値が前記制御目標pH値A’となると共に、前記第二の反応槽におけるpH値が前記制御目標pH値Aとなるように、該第一の反応槽にNaOHを添加することを特徴とする凝集処理方法。
請求項1において、前記第一の反応槽におけるpH値が前記制御目標pH値A’となるように、該第一の反応槽にNaOHを添加すると共に、前記第二の反応槽におけるpH値が前記制御目標pH値Aとなるように、該第二の反応槽にNaOHを添加することを特徴とする凝集処理方法。
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記被処理水に前記3価鉄系無機凝集剤を添加するに先立ち、フェノール性水酸基を有する水溶性高分子を添加することを特徴とする凝集処理方法。
請求項7において、前記第一の反応槽のNaOH添加手段は、該第一の反応槽におけるpH値が前記制御目標pH値A’となるように、前記第一のpH制御手段によりNaOH添加量が制御されると共に、前記第二の反応槽におけるpH値が前記制御目標pH値Aとなるように、前記第二のpH制御手段によりNaOH添加量が制御されることを特徴とする凝集処理装置。
請求項7において、前記第二の反応槽にNaOH添加手段が設けられており、該第二の反応槽のNaOH添加手段は、該第二の反応槽におけるpH値が前記制御目標pH値Aとなるように、前記第二のpH制御手段によりNaOH添加量が制御され、前記第一の反応槽のNaOH添加手段は、該第一の反応槽におけるpH値が前記制御目標pH値A’となるように、前記第一のpH制御手段によりNaOH添加量が制御されることを特徴とする凝集処理装置。
請求項7ないし9のいずれか1項において、前記第一の反応槽の前段に、前記被処理水に、フェノール性水酸基を有する水溶性高分子を添加する手段を有することを特徴とする凝集処理装置。
請求項7ないし11のいずれか1項に記載の凝集処理装置と、該凝集処理装置で得られた凝集処理水を、固液分離する固液分離手段と、該固液分離手段で得られた分離水を逆浸透膜分離処理する逆浸透膜分離装置とを有することを特徴とする水処理装置。
【背景技術】
【0002】
従来、河川水や各種の排水からの水回収には、逆浸透(RO)膜分離処理、或いは被処理水を生物処理した後のRO膜分離処理が広く採用されている。RO膜分離処理を行う際には、RO膜の汚染性を低減するために、被処理水中の濁度成分(微粒子成分)を除去すると共に、水中に溶解している高分子物質(バイオポリマー)を除去するための凝集、固液分離による前処理が行われている。
【0003】
即ち、各種排水を生物処理して得られる水や、湖水、ダム湖から供給される水中には、生物代謝生産物であるバイオポリマーがミクロゲルを含めて溶存状態で存在する。このバイオポリマーは、水中の全有機炭素としての存在量比率は小さいものの、分子量1万〜1000万に達する高分子物質であり、RO膜で脱塩処理して水回収する際には、RO膜面から拡散し難く、膜面で濃縮・付着して膜の透過流束の低下等の問題を引き起こす。
このため、生物処理水等、バイオポリマーを含有する水をRO膜分離処理する場合は、RO膜汚染原因である微粒子状汚濁物とともにバイオポリマーを凝集させて除去する必要がある。
【0004】
凝集処理には、一般的に無機凝集剤が用いられるが、バイオポリマー除去を目的とする場合、ポリ塩化アルミニウムや硫酸バンドといったアルミニウム系の無機凝集剤に比べて、3価鉄系無機凝集剤の方が凝集効果の面で優れている。
その主たる理由は、バイオポリマーの主体成分である多糖類は、これが有するカルボキシル基が酸性側で封鎖され易いため、pH6未満の弱酸性域での凝集処理が好ましいが、アルミニウム系無機凝集剤ではpH6未満でAlが処理水に残留するため、pH6未満での凝集処理を行うことができないことにある。
これに対して、3価鉄系無機凝集剤の場合、被処理水の水質にもよるが、pH5程度の低pH条件でも凝集が完結し、処理水へのFeの残留を避けることができる。
【0005】
ただし、生物処理水中の多糖類中には、カルボキシル基を有しない中性多糖類、およびカルボキシル基をごく僅かしか含まない酸性多糖類が存在する。この種の多糖類には、3価鉄系無機凝集剤に水および水酸基が配位、結合して生成したプラス荷電を有する鉄水酸化物とのイオン結合力が作用しないため、凝集処理することができない。この場合には、フェノール性水酸基を有する水溶性高分子を併用することで、良好な凝集処理を行うことができ、RO膜汚染性の少ない凝集処理水を得ることができる(特許文献1,2)。
【0006】
3価鉄系無機凝集剤には、凝結(Coagulation)作用と凝集(Flocculation)作用があり、各々の詳細は以下の通りである。
【0007】
凝集処理分野において、“Coagulation”とは、コロイド粒子が電解質添加によりそのマイナス荷電が封鎖されて粒子が大きくなり、分散状態から沈殿するようになる現象を言う。
3価鉄系無機凝集剤の場合、Fe
3+イオンに水および水酸基が配位、結合して生成した全体として大きなプラス荷電を有する鉄水酸化物が大きな凝結作用を有し、RO膜汚染物質である大部分のバイオポリマーを効率良く不溶化することができる。このプラス荷電を有する鉄水酸化物の作用は、技術用語で「凝結」と呼称される。
3価鉄系無機凝集剤の凝結作用が大きく発揮されるpHは、被処理水の水質にもよるが概ねpH3.0〜4.5である。
【0008】
一方、“Flocculation”とは、ある程度大きくなった粒子同士が結合して塊状になる現象を言う。
3価鉄系無機凝集剤では、Fe
3+イオンに3個の水酸イオンが結合したFe(OH)
3になると、粒子径1mm以上の、目視で明確に確認可能な凝集物(Flock:フロック)を形成する。
「coagulation:凝結」と「flocculation:凝集」の両者を総称して「凝集」とも言うが、本発明においては、作用機構としての「凝結作用」と「凝集作用:目視できる凝集物(フロック)を形成する」は区別される。
【0009】
被処理水中の汚濁物を3価鉄系無機凝集剤で凝結した後、沈殿または浮上分離装置等で固液分離するには、凝集物(フロック)を形成させる必要がある。
凝集にはOH
−イオンの補給が必要であることから、必然的に、凝集pHは、前記の凝結作用のあるpH3.0〜4.5に対して高いpHになる。
【0010】
上記の通り、3価鉄系無機凝集剤が「凝結作用」が発揮されるように添加された被処理水のpHは概ね4.5以下となる。しかし、このままでは、凝集フロックを形成しておらず、沈殿または浮上効率は悪く、また濾過を行っても濾過水に鉄水酸化物コロイドが残留したり、濾布や濾層を目詰まりさせたりする。
従って、適性な凝集pH域までNaOHを添加して中和し、凝集を完了させる必要がある。
この時、凝集を完結させるためのOH
−イオンは、NaOH添加で供給されるが、被処理水中に重炭酸イオンが存在する場合は、この重炭酸イオンから、次式のように供給される。
HCO
3−→OH
−+CO
2
従って、被処理水の重炭酸イオン濃度すなわちアルカリ度が高ければpHが低くともOH
−が供給されるので、凝集フロックの生成pH域は、原理的にアルカリ度存在の下限pHの4.8に近づく。
【0011】
3価鉄無機凝集剤による凝集フロックが形成されるpH域は、一般論として、pH5〜11と広いが、例えば、公共用水域への放流のための水処理では、排水基準に合致するよう、pH7を中心にpH6〜8になるよう中和処理し、凝集を完結させている。
一方、凝集処理水を濾過し、濾過水をRO膜分離処理して水回収を行う際には、凝結作用重視の観点から、凝集が完結するpH範囲内において、比較的低いpH条件としており、具体的にはpH5〜7の範囲で最終pHが設定されている。
【0012】
このようなことから、従来、被処理水に、3価鉄系無機凝集剤を添加して凝集処理し、凝集処理水を沈殿または浮上分離した後濾過する場合、実際の凝集設備は、3価鉄系無機凝集剤を添加する槽、NaOHを添加して凝集フロックを形成させる槽、更に高分子凝集剤を添加して凝集フロックを粗大化させる槽の3つの反応槽で構成される。
しかし、凝集・濾過水をRO膜分離処理して水回収を行う場合、高分子凝集剤を適用すると、その残留物がRO膜を汚染するため、基本的には高分子凝集剤不使用とされる。
よって、RO膜分離処理により水回収する場合の前処理凝集設備は、基本的に2つの処理槽で構成される。各槽の呼称は、設備設計、施工者により異なるが、本願明細書では前段の第一の反応槽を「無機凝集剤反応槽」、後段の第二の反応槽を「中和・凝集槽」と呼称する場合がある。
【0013】
無機凝集剤反応槽は、3価鉄系無機凝集剤を添加してpH3.0〜4.5の条件でプラス荷電を有する鉄水酸化物での「凝結作用」を発揮させるための反応槽である。
ここでは、3価鉄系無機凝集剤と共にNaOHの添加を行い、上記のpH範囲になるようpH制御しているのが通例である。
予め、無機凝集剤反応槽でNaOHによる一次中和を行うことは、次の中和・凝集槽でのNaOH添加量を少なくし、中和・凝集槽の設定pHの大きな変動(ハンチング)を軽減し、凝集pHを安定に保つ効果がある。
また、設備によっては無機凝集剤反応槽に、pH調整のための硫酸添加ラインが設置されている場合もある
【0014】
中和・凝集槽では、適性な凝集フロックを形成させるために、更にNaOHを添加し、pH制御を行っている。制御目標pHは、前記のように、凝集完結pHであるpH5〜7の範囲に設定されている。
また、中和・凝集槽には、多くの場合、pH調整のための硫酸添加ラインが設置されている。
【0015】
このように、従来において、RO膜分離処理による水回収での前処理としての凝集処理では、一般的に無機凝集剤反応槽において3価鉄系無機凝集剤とNaOHの添加でpH3.0〜4.5の一次中和を行い、次いで、中和・凝集槽において更にNaOHを添加して最終凝集pH(凝集完結pH)であるpH5〜7に中和することが行われている。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0036】
[凝集処理方法および凝集処理装置]
本発明の凝集処理方法は、直列に設けられた、3価鉄系無機凝集剤とNaOHが添加される第一の反応槽と、第二の反応槽に、被処理水を順次通水して凝集処理する方法において、該3価鉄系無機凝集剤を添加して凝集処理することにより該被処理水に凝集フロックが形成されるpH範囲の下限pH値をXとしたときに、該第二の反応槽の制御目標pH値Aを、X〜(X+0.3)の範囲に設定し、該第一の反応槽の制御目標pH値A’を、A〜(A+0.7)の範囲に設定して凝集処理を行うことを特徴とする。
【0037】
本発明の凝集処理装置は、直列に設けられた第一の反応槽および第二の反応槽と、該第一の反応槽および第二の反応槽に被処理水を順次通水する手段と、該第一の反応槽に設けられた3価鉄系無機凝集剤添加手段およびNaOH添加手段と、該第一の反応槽のpHを制御目標pH値A’に制御する第一のpH制御手段と、該第二の反応槽のpHを制御目標pH値Aに制御する第二のpH制御手段とを有する凝集処理装置であって、該3価鉄系無機凝集剤を添加して凝集処理することにより該被処理水に凝集フロックが形成されるpH範囲の下限pH値をXとしたときに、該第二の反応槽の制御目標pH値Aが、X〜(X+0.3)の範囲に設定され、該第一の反応槽の制御目標pH値A’が、A〜(A+0.7)の範囲に設定されていることを特徴とする。
【0038】
<作用機構>
本発明者は、第一の反応槽(無機凝集剤反応槽)で3価鉄系無機凝集剤による凝結とNaOHによる一次中和を行い、第二の反応槽(中和・凝集槽)で最終凝集pHまで中和する、即ち、第一の反応槽の制御目標pH値を、第二の反応槽の制御目標pH値より低くして、最終凝集pHの安定化を図る従来法において、凝集処理水の水質が安定しない理由について、以下の知見を得た。
【0039】
従来法では、無機凝集剤反応槽で3価鉄系無機凝集剤による被処理水の汚濁物質を「凝結」させる。ここでは、凝結作用促進のため、さらには、中和・凝集槽でのNaOH添加量を少なくして、制御pHの大きな変動を抑えるためNaOH添加による一次中和を行う。
次いで、中和・凝集槽で、凝集フロックを安定して形成する凝集pHになるようにNaOHを添加する。
しかし、従来法では、中和・凝集槽で、後掲の実験例に示されるように、中和・凝集槽に添加されたNaOHにより局部的に高pHとなる領域が形成され、この領域において、フリーOH
−による凝結あるいは凝集された汚濁物の再溶出、再分散が起こる。
しかも、無機凝集剤反応槽が急速攪拌であるのに対し、中和・凝集槽では、凝集フロックを形成させる目的で、一般的に緩速攪拌とされているが、緩い攪拌は、凝集フロック形成に有利である反面、OH
−の拡散速度低下で、局部的高pHの発生を増長し、その継続時間も長くする。実際、この局部的高pHはpH10に達する場合もあると予測される。
再溶出、再分散した汚濁物は、既に3価鉄系無機凝集剤の凝結作用が減少しているため、再凝結により捕集されることはない。
【0040】
3価鉄系無機凝集剤と共にフェノール性水酸基を有する水溶性高分子を用いた場合においても、水酸化鉄フロックに取り込まれていた、バイオポリマー等の汚濁物とこの水溶性高分子との反応物は局部的高pHをもたらすOH
−により引き剥がされ、コロイド状に、またその一部は溶解状態で、液側に分散または溶解する。その後、中和・凝集槽内で局部的高pHが最終的に解消され、pHが6.5以下になっても、鉄の凝結力が既に失われているため、コロイド状物を再凝結することはできず、凝集処理水の水質は3価鉄系無機凝集剤のみを用いた場合よりも更に悪化する。
【0041】
このように、従来法では、中和・凝集槽でのNaOH添加による槽内の局部的高pHの生成、それによる凝結あるいは凝集された汚濁物の再溶出、再分散に起因する水質悪化を避けることができないが、この水質悪化について従来は認識されていないのが現状である。
【0042】
これに対して、本発明では、無機凝集剤反応槽で、凝結と凝集を一気に完結させ、中和・凝集槽ではNaOH無添加、或いは添加する場合であっても少量添加としてNaOH添加による局部的高pHの生成を抑制するように、無機凝集剤反応槽の制御目標pH値に対し、中和・凝集槽の制御目標pH値を低く設定する。
このように無機凝集剤反応槽の制御目標pH値を中和・凝集槽の制御目標pH値よりも低く設定し、中和・凝集槽に実質NaOHが添加されないように運転することで、一度凝集した汚濁物が中和・凝集槽内のOH
−により凝集物から離脱し、処理水に残留することを防止し、凝集処理水の水質を高く、かつ安定させると共に、同等以上の水質を得るための水処理凝集薬剤の必要量を低減することを可能とする。
【0043】
本発明では、中和・凝集槽の制御目標pH値を、以下の通り、適正凝集pH範囲の下限以上の直近値に設定するため、無機凝集剤反応槽でのpHが、何らかの原因で適正凝集pH範囲を下回った場合でも、中和・凝集槽においてpHを戻し、安定した凝集効果を得ることができる。
【0044】
なお、本発明において、第二の反応槽の中和・凝集槽は、3価鉄系無機凝集剤等の凝集剤は添加されずに、NaOH等のアルカリ無添加或いは、ごく少量のNaOH添加で凝集処理される槽である。
【0045】
<制御目標pH値の設定方法>
本発明においては、3価鉄系無機凝集剤を添加して凝集処理することにより被処理水に凝集フロックが形成されるpH範囲(以下、このpH範囲を「適正凝集pH範囲」と称す場合がある。)の下限pH値(以下、この下限pH値を単に「下限pH値X」と称す場合がある。)をXとしたときに、第二の反応槽(中和・凝集槽)の制御目標pH値Aを、X〜(X+0.3)の範囲に設定し、該第一の反応槽(無機凝集剤反応槽)の制御目標pH値A’を、A〜(A+0.7)の範囲に設定して凝集処理を行う。
【0046】
適正凝集pH範囲および下限pH値Xは、凝集処理対象となる被処理水の水質、例えばアルカリ度等により異なり、一概には規定することはできない。このため、適正凝集pH範囲および下限pH値Xは、各被処理水毎に、実験を行って判定することが好ましい。
【0047】
具体的には、下限pH値Xの判定は、後掲の実験例1に示す方法で、十分に希釈したNaOH水溶液を試料水に所定量ずつ複数回に分けて添加して、目視で凝集フロックが形成されたpHを記録することで行うことが出来る。この場合、フロック形成に時間がかかる場合があるので、NaOH水溶液を1回添加した後、少なくとも2分以上の急速攪拌を行い、ここでpHを計測する。次いで緩速攪拌(実験例1では50rpm)を1分以上行ないフロック形成を確認する必要がある。
すでに被処理水中に微生物フロック等が存在し、3価鉄系無機凝集剤による凝集フロックと見分け難い場合があるので、同時にブランク試料と対比することが好ましい。
また、フロックが形成されても鉄による液の黄色着色がある場合は、凝集フロックの形成が完結していないと考えられる。
液側の黄色着色を含めて、凝集完結の判定が付かない場合は、凝集処理水をNo.5A濾紙2枚で濾過し、500mLがスムーズに濾過するかを確認し、特に濾過後半の濾紙上の残液の黄色味で判断する。凝集不完全の場合は、濾過をスムーズに行えず、残液には黄色味を認める。
なお、実施設運転に習熟した運転員であれば、経験値として、凝集を完結するための下限pH値Xを把握することができる。
【0048】
一方、適正凝集pH範囲の上限pH値は、後掲の実験例2に示す方法で確認することができ、これらの結果から適正凝集pH範囲を判定することができる。
【0049】
後掲の実験例1,2より、各種液晶工場の生物処理水の適正凝集pH範囲を調べた結果は後掲の通りであり、適正凝集pH範囲の上限pH値は、下限pH値Xに対して+0.8〜1.0の範囲にある。よって、下限pH値X+0.7の範囲を適正凝集pH範囲とし、この範囲に最終凝集pHを調整すれば良好な処理水質が得られると判断できる。
【0050】
上記のように、予め求めた下限pH値Xに対して、本発明における無機凝集剤反応槽および中和・凝集槽の制御目標pH値は以下のように設定される。
まず、中和・凝集槽の制御目標pH値Aを、下限pH値Xの直近のX〜(X+0.3)の範囲で設定する。
次に、無機凝集剤反応槽の制御目標pH値A’を、A〜(A+0.7)の範囲で設定する。
以上の設定で、中和・凝集槽で実質的にNaOHの添加が不要となり、NaOH添加による局部的高pHの生成およびそれによる凝集破壊を防止することができる。
中和・凝集槽でpH制御値を上記制御目標pH値Aに設定することは、何らかの事由で、無機凝集剤反応槽からの流入水のpHが下限pH値Xを下回る事態において、NaOHを最小限添加して、凝集フロック未形成の事態を回避するためである。中和・凝集槽の制御目標pH値Aは、下限pH値X以上であればよいが、実際のpH変動の影響を考慮して好ましくは(X+0.1)〜(X+0.2)の範囲で設定される。
【0051】
一方、無機凝集剤反応槽では、凝結および凝集をなるべく完結するために、中和・凝集槽の制御目標pH値Aに対して、制御目標pH値A’をA〜(A+0.7)の範囲で設定する。この制御目標pH値A’の上限を(A+0.7)とするのは、前述の通り、一般的に、適正凝集pH範囲の幅が+0.8〜1.0であり、凝集下限pH値X+1.0の範囲であれば、ほぼ適正凝集pH範囲内におさまることによる。無機凝集剤反応槽の制御目標pH値A’は、下限pH値Xよりも少し高い値に設定することが好ましく、従って、制御目標pH値A’は好ましくはA〜(A+0.5)、より好ましくは(A+0.1)〜(A+0.3)の範囲である。
【0052】
なお、本発明では、無機凝集剤反応槽の制御目標pH値A’と中和・凝集槽の制御目標pH値Aを同一としてもよい。この場合であっても、無機凝集剤反応槽と中和・凝集槽を設け、中和・凝集槽におけるpHを下限pH値X以上に制御することで、凝集不良を防止することができる。
【0053】
本発明では、このように無機凝集剤反応槽の制御目標pH値A’と中和・凝集槽の制御目標pH値Aを設定することにより、中和・凝集槽ではNaOHを添加することなく凝集処理することも可能となる。即ち、無機凝集剤反応槽におけるNaOH添加で、無機凝集剤反応槽の制御目標pH値A’と中和・凝集槽の制御目標pH値Aの双方が達成されるようにpH調整することも可能となる。ただし、本発明では、中和・凝集槽においてもNaOHを添加して制御目標pH値AにpH調整してもよい。その場合においても、pHの調整は、基本的に無機凝集剤反応槽でのNaOH添加によって行われ、中和・凝集槽でのNaOHの添加は、制御目標pH値Aを下廻る場合のみ行われる。
【0054】
<3価鉄系無機凝集剤>
本発明において用いる3価鉄系無機凝集剤としては、一般的な凝集処理に用いるものを用いることができ、塩化第二鉄(FeCl
3)、硫酸第二鉄(Fe
2(SO
4)
3)、ポリ硫酸第二鉄([Fe
2(OH)
n(SO
4)
3−n/2]
m)等を用いることができる。これらの3価鉄系無機凝集剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
3価鉄系無機凝集剤の添加量は、被処理水の水質(凝集対象物の存在量)や、フェノール系水酸基を有する水溶性高分子の併用の有無によっても異なるが、通常Fe
3+換算の添加量として、被処理水に対して5〜30mg/L程度の割合で用いることにより、良好な凝集処理水を得ることができる。
【0055】
<フェノール性水酸基を有する水溶性高分子>
被処理水中に、3価鉄系無機凝集剤では凝集処理し得ない中性多糖類や、3価鉄系無機凝集剤での凝集処理が困難なバイオポリマーが含有されている場合、被処理水に3価鉄系無機凝集剤を添加するに先立ち、フェノール性水酸基を有する水溶性高分子を添加することが好ましい。
【0056】
この場合に用いるフェノール性水酸基を有する水溶性高分子としては、例えば、下記(1)〜(3)のビニルフェノール系重合体が挙げられる。
(1) ビニルフェノールの単独重合体
(2) 変性ビニルフェノールの単独重合体
(3) ビニルフェノールおよび/または変性ビニルフェノールと疎水性ビニルモノマーとの共重合体
【0057】
上記(2)の変性ビニルフェノールとしては、例えば、アルキル基やアリル基等で置換されたビニルフェノール、ハロゲン化ビニルフェノール等、フェニル基が何らかの化合物で化学修飾されたビニルフェノールが挙げられる。
【0058】
また、(3)の疎水性ビニルモノマーとしては、例えばエチレン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル等の水不溶性または水難溶性のビニルモノマーが挙げられる。このような疎水性ビニルモノマーと、ビニルフェノールおよび/または変性ビニルフェノールとの共重合体中のビニルフェノールおよび/または変性ビニルフェノールの割合は、モル比で0.5以上、特に0.7以上であることが好ましい。この割合が0.5未満であると、後述のアルカリ水溶液に対しても難溶性ないし不溶性となり好ましくない。
【0059】
前記(1)〜(3)のビニルフェノール系重合体は、その重量平均分子量が5000以上例えば5000〜100000であることが好ましく、このような分子量の重合体は、通常、粉末で提供される。
なお、本発明において重量平均分子量は、GPC法(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法)で測定し、標準ポリスチレンによる検量線を用いて算出した値である。
【0060】
前記(1)〜(3)のビニルフェノール系重合体は水には不溶ないし難溶であるが、アルカリ水溶液には溶解する。従って、これらのビニルフェノール系重合体は、アルカリ水溶液として液状で用いることが好ましい。
【0061】
この場合、アルカリ水溶液のアルカリ性物質としては、各種アルカリ金属またはアルカリ土類金属等の水酸化物やアンモニア、アミン類が挙げられるが、入手のし易さおよび取り扱い性から、苛性ソーダ(NaOH)または苛性カリ(KOH)が好ましい。
【0062】
上記ビニルフェノール系重合体のアルカリ水溶液の調製には、例えば、前記ビニルフェノール系重合体粉末を水に懸濁させ、この中にアルカリ性物質を添加して、褐色ないし黒褐色の水溶液とする。従って、アルカリ性物質の添加量はビニルフェノール系重合体粉末が溶解する量であれば良く、一般には10〜30重量%のアルカリ水溶液となるように添加される。
このアルカリ水溶液中の前記ビニルフェノール系重合体の濃度は任意であるが、一般には5〜20(w/v)%程度とするのが好ましい。
【0063】
本発明で用いるフェノール性水酸基を有する水溶性高分子としては、また、例えば、フェノール類とアルデヒド類とを酸触媒の存在下に反応させてノボラック型フェノール樹脂を得、該ノボラック型フェノール樹脂のアルカリ溶液に、アルデヒド類を添加してアルカリ触媒の存在下にレゾール型の2次反応を行って得られる、低分子量成分の少ないフェノール樹脂(以下「二次反応フェノール樹脂」と称す場合がある。)のアルカリ溶液も、好ましいものとして挙げられる。
【0064】
即ち、ノボラック型フェノール樹脂をアルカリ溶液とし、含有フェノール環1モル当たり0.2〜0.4モルのホルムアルデヒド類を添加し、80〜100℃で1〜12時間反応させる。この反応で、フェノール2核体を含む低分子量成分のフェノール環にホルムアルデヒド類が付加し、反応活性基のメチロール基が生成し、これが既存のフェノール縮合物に反応することで、低分子量成分が、高分子量の凝集有効成分に変換する。
同時に既存の縮合高分子成分のフェノール環でも、ホルムアルデヒド類の付加、メチロール基生成、他の縮合高分子成分への付加反応が起こり、樹脂全体の平均分子量が、元の樹脂の2000〜6000から、数倍程度の5000〜30000に増加する。
【0065】
この反応では、フェノール環は、2つの手で繋がった二次構造(線状)から、3つの手で繋がった三次構造になり、高分子鎖の自由度が減少し、その結果、融点が上昇する。
融点上昇が小さい場合は、低分子量成分の低減が不十分である。逆に、融点が上昇しすぎる、さらには、融点が計測されない(230℃以上では、分解が始まり、融点があるかわからなくなる)程になると、フェノール樹脂の分子量は100万オーダー以上となり、樹脂は溶解できず、析出、固化する。また、液体を保っていても、粘度が上昇し、経時により固化が始まり、凝集剤として実用に供することはできないものとなる。
【0066】
上記のレゾール型2次反応の原料となるノボラック型フェノール樹脂は、常法に従って、反応釜において、フェノール類およびアルデヒド類を、酸性触媒の存在下で重縮合反応させた後、常圧および減圧下で、脱水と未反応フェノールの除去を行って製造される。
【0067】
ノボラック型フェノール樹脂の製造に用いるフェノール類としては、例えば、フェノール、o,m,pの各クレゾール、o,m,pの各エチルフェノール、キシレノール各異性体などのアルキルフェノール類、α,βの各ナフトールなどの多芳香環フェノール類、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ピロガロール、レゾルシン、カテコールなどの多価フェノール類、ハイドロキノンなどが挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。これらのフェノール類は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
これらのうち、実用的な物質は、フェノール、クレゾール類、キシレノール類、カテコールである。
【0068】
一方、アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド、グリオキザールなどが挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。これらのアルデヒド類は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
これらのうち、実用的な物質は、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドである。
【0069】
レゾール型2次反応の原料となるノボラック型フェノール樹脂の融点は65〜120℃で、重量平均分子量で1000〜6000、特に2000〜6000であることが好ましい。
また、ノボラック型フェノール樹脂のアルカリ溶液のpHは、pH11〜13程度であり、ノボラック型フェノール樹脂のアルカリ溶液中のノボラック型フェノール樹脂濃度は、5〜50重量%、特に10〜30重量%程度であることが好ましい。
【0070】
レゾール型2次反応のために、ノボラック型フェノール樹脂のアルカリ溶液に添加するアルデヒド類としては、前述のノボラック型フェノール樹脂原料としてのアルデヒド類と同様のものを1種を単独でまたは2種以上を混合して用いることができ、これらのうち特にホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドが実用的であるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
ノボラック型フェノール樹脂のアルカリ溶液へのアルデヒド類の添加量は、ノボラック型フェノール樹脂中のフェノール環1モル当たり0.2〜0.4モルとなるが、実際には、事前にアルデヒド類添加量と2次反応フェノール樹脂の融点との関係を確認する予備試験を行い、その結果に基いて、所望の融点の2次反応フェノール樹脂が得られるように、その添加量を決定することが好ましい。
【0072】
上記のレゾール型の2次反応を行って得られる2次反応フェノール樹脂の融点は好ましくは130〜220℃であり、より好ましくは150〜200℃である。
また、この2次反応フェノール樹脂の重量平均分子量は5000以上が好ましく、さらに好ましくは10000以上である。一方、重量平均分子量が50000を超える場合は、一部分子量100万以上の分子が生成し、粘度が高く、時間経過でさらに架橋し、不溶物が発生する可能性が高いため、2次反応フェノール樹脂の重量平均分子量は50000以下、特に30000以下であることが好ましい。
また、この2次反応フェノール樹脂の重量平均分子量は、反応前、即ち、レゾール型2次反応の原料であるノボラック型フェノール樹脂の重量平均分子量の2〜5倍程度となることが好ましい。
【0073】
また、2次反応フェノール樹脂は、フェノール類2核体含有率が3重量%未満、特に2重量%以下であることが好ましく、また、分子量624以下の低分子量成分の含有率が10重量%以下であることが好ましい。より好ましくは、分子量624以下の低分子量成分の含有率は5重量%以下である。また、分子量624を超え1200以下の低分子量成分の含有率が10重量%以下、特に7重量%以下であることが好ましい。
【0074】
また、この2次反応フェノール樹脂は、レゾール型2次反応の原料であるノボラック型フェノール樹脂に対して、2核体を含む概ね分子量1000以下の低分子量成分が通常15重量%以下、好ましくは10重量%以下と大きく減少し、凝集処理に用いた場合、凝集処理水側に残留する未凝集物が著しく少なく、TOC、COD
Mnが著しく低減された、膜分離処理の給水として好ましい凝集処理水が得られる。
【0075】
本発明において、上記の2次反応フェノール樹脂や、前述の(1)〜(3)のビニルフェノール系重合体等(以下、これらを「フェノール系樹脂」と総称する場合がある。)をアルカリ溶液として添加する際の被処理水のpHは中性、もしくはアルカリ性が好ましく、特にpH6以上、例えば6〜9が好ましい。このpHが6未満であると添加時にフェノール系樹脂が析出してしまい、凝集性能が低下する。従って、被処理水のpHが7未満である場合には、必要に応じてアルカリを添加してpH調整を行う。
【0076】
フェノール系樹脂の添加量は、少な過ぎるとフェノール系樹脂を添加したことによる凝集効果を十分に得ることができず、多過ぎても効果は変わらないが経済的でないことから、被処理水の水質等によっても異なるが、通常、被処理水に対して有効成分量で0.20〜5.0mg/Lとすることが好ましい
【0077】
<酸添加の影響>
実際の凝集反応設備においては、pH調整のため、硫酸、塩酸などの酸添加設備がNaOH添加設備とともに設けられていることがある。
本発明においては、3価鉄系無機凝集剤の被処理水のアルカリ度による無機凝集剤の消費を軽減するため、予め酸でアルカリ度を減らす場合は、酸添加後の水を被処理水と定義する。即ち、本発明で凝集処理対象とする被処理水は、予め酸が添加されたものであってもよい。ここで、「予め」とは、凝集反応設備、具体的には無機凝集剤反応槽に至る被処理水の配管、被処理水の貯留槽、および前段の生物処理槽等における酸の添加である。
【0078】
無機凝集剤反応槽や、中和・凝集槽で、3価鉄系無機凝集剤やNaOHとともに酸を添加すること、特に、NaOHと酸を同じ槽に添加することは、NaOHと酸を無駄に消費するだけであり、凝集効果の面では有効ではなく、逆に凝集効果が低下する傾向にあるため、本発明では、原則として酸の添加は行わず、被処理水の水質変動などで一時的にpHを下げる必要がある場合は、3価鉄系無機凝集剤の添加量を増量することが好ましい。
また、中和・凝集槽の制御目標pH値Aを、前段の無機凝集剤反応槽の制御目標pH値A’より低く設定するために中和・凝集槽に酸を添加することも行わず、pHが下限pH値Xより低くなったときのみNaOHを添加してpH調整するようにすることが好ましい。
【0079】
[水処理方法および水処理装置]
本発明の水処理方法は、上記の本発明の凝集処理方法で得られた凝集処理水を、固液分離した後、RO膜分離処理することを特徴とする。
また、本発明の水処理装置は、上記の本発明の凝集処理装置と、該凝集処理装置で得られた凝集処理水を、固液分離する固液分離手段と、該固液分離手段で得られた分離水をRO膜分離処理するRO膜分離装置とを有することを特徴とする。
【0080】
<RO膜供給水の評価>
まず、RO膜供給水として好適な水質について説明する。
【0081】
本発明者は、RO膜供給水としての水質の適否を、以下のSFF、MFF、SDI、netNTUで分析・評価し、下記表1に示す評価区分を設定した。
なお、SFFはバイオポリマー汚染の指標であり、MFF、SDI、netNTUは微粒子物質(シルト、金属水酸化物コロイド、凝集不十分のコロイド状物質)汚染の指標である。
【0082】
(SFF)
SFF(ソリューブルポリマー・ファウリング・ファクター)は、特開2012−213676号公報に提示されている中性多糖類を含むバイオポリマーの存在および膜汚染影響度を評価する水質評価方法である。
SFFは、RO膜汚染物が事実上存在しないRO膜透過水または蒸留水500mLと、試料水を、それぞれ最大孔径0.45μm、47mmφのMF(マイクロフィルター)を用いて500mHgで吸引濾過を行い、それぞれの濾過時間T
0、T
1を計測し、水温補正を行った上でT
1/T
0の比で決定される。
【0083】
(MFF)
MFF(ファウリングファクター)は、上記のSFF測定に引き続いて、試料水をさらに500mL吸引濾過して濾過時間T
2を測定し、T
2/T
1の比で決定される。
なお、MFFはRO膜供給水の適否を判定する、ASTM D4189に定義されている以下のSDI(シルトデンシティーインデックス)、JIS K3802に定義されているFI(ファウリングインデックス)(SDIとFIは同一の評価方法)を簡素化した手法で、微小濁度の微粒子汚染を判定するものである。
【0084】
(SDI)
SDI(シルトデンシティーインデックス)は、試料水を最大孔径0.45μm、47mmφのMF(マイクロフィルター)を用いて30psiで加圧濾過を15分間行い、最初の透過水量に対して15分後の透過水量が1分当り何%低下したかを示す値(ASTM D4189)であるが、上記MFFとSDIの同時の同時測定値より、以下の評価区分の判定では回帰式でSDIを推算した。
【0085】
<netNTU>
netNTUはHACH社製ポータブル濁度計「2100P」で計測したNTU値から超純水(または蒸留水)のブランク値を差し引き、小数点2桁目までの微小濁度を判定した数値である。
【0087】
本発明の凝集処理方法および凝集処理装置により得られる凝集処理水は、これを濾過処理することにより、上記のRO膜供給水として好適な水質の濾過水を得ることができる。
【0088】
<水処理>
以下に、本発明の水処理装置の実施の形態の一例を示す
図1を参照して、本発明の水処理方法および水処理装置について説明する。
【0089】
図1において、1は第一の反応槽(無機凝集剤反応槽)であり、攪拌機と、pH計11を有し、3価鉄系無機凝集剤添加手段(3価鉄系無機凝集剤添加ライン)とNaOH添加手段(NaOH添加ライン)が設けられている。2は第二の反応槽(中和・凝集槽)であり、攪拌機と、pH計12を有し、NaOH添加手段(NaOH添加ライン)が設けられているが、中和・凝集槽2において、NaOH添加手段は必ずしも必要としない。中和・凝集槽2には3価鉄系無機凝集剤添加手段は設けられていない。
【0090】
この無機凝集剤反応槽1と中和・凝集槽2と制御器10とで本発明の凝集処理装置が構成される。
制御器10は、本発明の凝集処理装置における第一のpH制御手段と第二のpH制御手段とを兼ねるものであり、下記(1)または(2)のpH制御を行う。
(1)無機凝集剤反応槽1のpH計11および中和・凝集槽2のpH計12から入力されるそれぞれのpH値に基づいて、NaOH添加手段の薬注ポンプP
2の作動を制御して、無機凝集剤反応槽1内の反応液のpHを前記制御目標pH値A’に調整すると共に、中和・凝集槽2内の反応液のpHを前記制御目標pH値Aに調整する。この場合、中和・凝集槽2へのNaOHの添加は不要であり、薬注ポンプP
3および薬注ラインを省略することができる。
(2)無機凝集剤反応槽1のpH計11から入力されるpH値に基づいて、NaOH添加手段の薬注ポンプP
2の作動を制御して、無機凝集剤反応槽1内の反応液のpHを前記制御目標pH値A’に調整すると共に、中和・凝集槽2のpH計12から入力されるpH値に基づいて、必要に応じてNaOH添加手段の薬注ポンプP
3を制御して、中和・凝集槽2内の反応液のpHを前記制御目標pH値Aに調整する。
被処理水の水質の変動や水量の変動等、何らかの上流側の条件変動のために、無機凝集剤反応槽1のpH計11の測定値が、前記制御目標pH値A’よりも高くなった場合は、3価鉄系無機凝集剤の薬注ポンプP
1の吐出量を原則手動で増量させて、pHを下げるpH制御が行われる。逆に、NaOH添加手段の薬注ポンプP
2の吐出量が著しく多くなった場合、3価鉄系無機凝集剤の薬注ポンプP
1の吐出量を原則手動で減量する。
【0091】
なお、3価鉄系無機凝集剤の添加に先立ち、前述のフェノール系樹脂による凝集処理を行う場合には、無機凝集剤反応槽1の前段にフェノール系樹脂を添加して凝集処理する凝集処理槽(被処理水の貯槽を兼ねるものであってもよい。)が設けられる。
【0092】
無機凝集剤反応槽1および中和・凝集槽2に順次通水されて、3価鉄系無機凝集剤により所定のpHで凝集処理された凝集処理水は、浮上分離装置3に送給されて浮上分離され、分離水は更に濾過装置4で濾過処理され、濾過水はRO膜分離装置5でRO膜分離処理され、RO透過水が処理水として回収される。
【0093】
このような水処理装置において、本発明の凝集処理装置によれば、前述の通り、RO供給水として好適な膜汚染性の低い凝集・濾過水を得ることができるため、RO膜の透過流束の低下を防止して、長期に亘り、安定かつ効率的に水回収を行うことができる。
【0094】
なお、
図1は本発明の水処理装置に実施の形態の一例を示すものであって、本発明の水処理装置は何ら
図1のものに限定されない。
例えば、固液分離手段は、浮上分離装置に限らず沈殿槽であってもよく、また、NaOH添加ポンプは循環しているNaOH希釈液の電動バルブ開閉による添加であってもよい。即ち、NaOH添加用の薬注ポンプP
2,P
3によりNaOH希釈液を循環させておき、各反応槽のpHに応じて反応槽への薬注ラインに設けた電動バルブの開閉及び開放時間の調整、手動によるバルブの開度調整で、NaOHの添加制御を行うようにすることもできる。
【実施例】
【0095】
以下に実験例、実施例および比較例を挙げる。
【0096】
なお、以下において、3価鉄系無機凝集剤としては、塩化第二鉄液製品(38重量%FeCl
3水溶液=Fe換算濃度13.1重量%水溶液)(以下単に「FeCl
3」と記載する。)またはポリ硫酸第二鉄液製品(Fe換算濃度11重量%の[Fe
2(OH)
n(SO
4)
3−n/2]
m水溶液(以下単に「ポリ硫酸第二鉄」と記載する。)を用いた。また、二次反応フェノール樹脂アルカリ溶液として、栗田工業(株)製「クリバータBP201」(以下「BP201」と記載する。)を用いた。
3価鉄系無機凝集剤、BP201の添加量は、いずれも製品としての添加量を示すものであり、その純分としての添加量は、各々の添加量と有効成分の含有割合から算出される値である。
また、pH調整には、実験例1では1重量%NaOH水溶液を用い、その他の実験例では、48重量%NaOH水溶液を用いた。
【0097】
また、No.5A濾紙による濾過は、特記しない限り、No.5A濾紙の2枚重ねで行ったが、この濾過は、重力式2層濾過装置による濾過(概ね粒径1μm以上の懸濁物を捕捉する)に相当するものである。
【0098】
[実験例1:外観観察からの好適凝集pH値の確認]
液晶A工場の排水を生物処理し、生物処理水にFeCl
3を添加して凝集処理し、凝集処理水を加圧浮上処理、次いで重力式2層濾過し、濾過水をRO膜分離処理して回収水を得ているプロセスから、生物処理水を採取し、室内試験により、FeCl
3添加後、NaOHを添加してpH調整したときの凝集フロックの外観観察から、好適凝集pH値を調べる実験を行った。
実験条件は、以下の通りである。
試料水(生物処理水)500mLを宮本製作所製ジャーテスターに採取して150rpmの攪拌下、FeCl
3を30、45、60、または100mg/L添加した後、1重量%NaOH水溶液を0.1mL(2mg/L)ずつ複数回添加し、1回のNaOH添加毎、添加後2〜4分程度局部的な高pH領域が発生しないように、150rpmで急速撹拌し、pHが安定したらpH値を記録し、その後は50rpmの緩速攪拌として凝集フロック形成の有無を確認した。
なお、試料水である生物処理水のアルカリ度は20mg/Lであり、国内水道水水準(30〜60mg/L)よりアルカリ度は低い。
【0099】
この実験における各FeCl
3添加量でのNaOH添加量とpH値との関係を
図2に示す。
また、目視にて凝集フロックが確認できるpH値を調べ、
図2に破線で示した。
図2中、実線は、遊離のOH
−イオン(フリーOH
−)が生成するpH7の値を示す。
この実験により以下のことが確認された。
【0100】
(1)
図2より明らかなように、凝集フロックの形成が目視にて確認されるpH値は、FeCl
3添加量30、45、60、100mg/Lのいずれの場合も、pH5.7であ
った。
一般に、凝集フロック形成pHとされているpH5〜5.5で凝集フロックが形成されないのは、試料水のpH緩衝性のある重炭酸イオン(アルカリ度)濃度が低く、凝集に必要なOH
−の多くをNaOHで供給しなければならないためである。
(2) いずれのFeCl
3添加量の場合も、OH
−が鉄水酸化物に吸着されずに余り始め、pH7以上となった後、pHは急激に上昇するが、このように、フリーOH
−が存在すれば、一度、凝結・凝集した汚濁物の一部の再溶解が起こると推察される。
(3) 凝集フロック形成状況のみの目視判定では、pHが7.0を超えても凝集フロックの大きさは確保されているが、pH8.0を超えるとフロックは小さくなり、pH9.0を超えるとさらにフロックは小さくなり、液側に着色が観察されるようになった。
すなわち、目視による外観観察では、良好な凝集pHは5.7〜8.0と言える。
ただし、RO膜供給水としての水質面からは、適正凝集pH範囲は、次の実験例2の結果のようにpH5.7〜6.5であるため、液晶A工場の排水の生物処理水の適正凝集pH範囲は5.7〜6.5、下限pH値Xは5.7と判定することができる。
【0101】
[実験例2:凝集pHと凝集・濾過水の水質との関係]
実験例1と同様の試料水(生物処理水)を用い、BP201を2mg/L添加して十分反応させた後、FeCl
360mg/Lを添加し、その3〜5秒後の間に所定pHに調整するためのNaOHの理論量を添加し、150rpmで6分間急速攪拌した後、50rpmで6分間緩速攪拌して凝集フロックを形成させた。凝集処理水をNo.5A濾紙で濾過し、濾過水を得た。
【0102】
この濾過水について、前述の方法でSFF、MFF、netNTUを測定すると共に、以下の方法で溶解性有機物の存在指標としてUV260を測定し、凝集pH値との関係を
図3(a)、(b)に示した。
【0103】
<UV260>
試料水について、分光光度計により、波長260nm、50mmセルの吸光度値を測定した。
【0104】
また、BP201を添加せず、FeCl
3のみで凝集処理を行ったこと以外は上記と同様に凝集、濾過と濾過水の評価を行い、結果を
図4(a)、(b)に示した。
【0105】
前掲の表1のRO膜供給水の水質の適否の評価区分と、
図3,4の結果より、以下のことが分かる。
凝集pHとSFFおよびMFFとの関係を示す
図3(a)より、最適結果の得られる適正凝集pH範囲は5.7〜6.5と判定される。
pH6.5以上の場合は、pH上昇に伴い、バイオポリマー存在指標であるSFFが上昇し、微粒子存在指標であるMFFは著しく増加する。
SFFの上昇はNaOHによって一度捕捉されたバイオポリマーの再溶出が生じたと解釈される。
また、MFFの大きな上昇は、バイオポリマーを含む凝集フロックの一部が鉄水酸化物とともにNaOHにより離脱して、コロイド状に分散したためと解釈される。
コロイド状物質の増加は、
図3(b)の微小濁度の指標であるnetNTUの増加と対応する。
UV260の増加は、UV260では検出されないバイオポリマー以外の凝集・固定された有機物が離脱したことと、コロイド状物質の増加が相加された結果と判断される。
【0106】
また、
図4(a)のSFF、MFFより、FeCl
3単独の場合も、最適結果の得られる適正凝集pH範囲は5.7〜6.5と判定される。
pH6.5以上の場合は、pH上昇に伴い、バイオポリマー存在指標であるSFFが上昇し、微粒子存在指標であるMFFが大きく増加する。
SFFの上昇はNaOHによって一度捕捉されたバイオポリマーの再溶出が生じたと解釈される。
MFFの大きな上昇は、バイオポリマーを含む凝集フロックの一部が鉄水酸化物とともにNaOHにより離脱して、コロイド状に分散したためと解釈される
【0107】
図4に示されるFeCl
3単独の場合も、
図3に示されるBP201併用の場合も、概ね同様の傾向が示されているが、両者の差異は、以下の点である。
(1)
図4(a)のFeCl
3単独の場合のpH5.7〜6.5での達成SFF1.05は、
図3(a)のBP201併用の場合の達成SFF1.00より1ランク下の評価である。即ち、BP201併用の場合の方が良好な結果が得られる。
(2) pH7以上でのMFFの悪化の程度は、
図3(a)のBP201併用の場合の方が大きい。これは、2次反応フェノール樹脂自体がNaOHで溶解するため、取り込んだ汚濁物質を放出する程度が2次反応フェノール樹脂を添加しない場合より大きいためと考えられる。
【0108】
凝集pH6.5以上での水質悪化は、フリーのOH
−が比較的長い時間残留し、3価鉄無機凝集剤の凝結作用で一度捕捉した汚濁物を再び引き剥がすことにより生ずると判断できる。
引き剥がされた汚濁物は、一部は元の溶解性汚濁物、過半は元の溶解性汚濁物を含めて、コロイド状、あるいはミクロゲルとなって水中に分散する。この微粒子成分の粒子径は1μm程度未満と推察され、沈殿、浮上での固液分離は不可能である。また重力式2層濾過装置での捕捉も困難である。
凝集pH6.5未満でも同じ現象が起こるが、pHが低い分、3価鉄無機凝集剤の凝結作用がより多く残るため再凝結が可能であり、その間フリーOH
−の減少速度も大きいため、水質悪化が起こり難いと考えられる。
【0109】
上記の実験例1および実験例2と同様にして、各液晶工場の生物処理水について、適正凝集pH範囲を調べたところ、以下の結果が得られた。これらの結果より、凝集下限pHと凝集物のNaOH破壊の生じるpHとの差、すなわち適正pH範囲幅は0.8〜1.0pHである。
A工場:pH5.7〜6.5
B工場:pH5.8〜6.6
C工場:pH4.9〜5.8
D工場:pH4.8〜5.8※
D工場:pH4.7〜5.5※
E工場:pH4.5〜5.5
(※液晶D工場では、異なる2系統の生物処理水についてそれぞれ評価した。)
【0110】
[実験例3:NaOHによる凝集物からのフェノール系樹脂の離脱の確認]
フェノール系樹脂アルカリ溶液は、中性程度以下の被処理水中で、その樹脂成分が不溶化し、その不溶化物がバイオポリマーと結びつき、バイオポリマー共ども不溶化して、水を浄化する。
よって、NaOHで局部的高pHが発生すれば、フェノール系樹脂とバイオポリマー等の汚濁物との反応が弱まり、またフェノール系樹脂成分自体が溶解する方向になる。
【0111】
以下に、これを示す実験結果を示す。
予め所定のpHに調整した栃木県野木町水道水にBP201を10mg/L添加して反応させた反応液を、No.5A濾紙(ただし、濾紙は1枚とした)で濾過した濾過水について、BP201の紫外領域の吸収ピーク波長である280nmと270nmの吸光度増加から、濾過水からリークしたBP201濃度を検定し、リーク率を百分率で算出した。結果を
図5に示す。
図5より明らかなように、pH6以下では90%が濾過処理できる不溶物を生成しているのに対して、pH6.5から濾別できない樹脂成分が増加し始め、pH7〜7.5で濾紙を透過する成分が90%まで急増する。
この濾紙を透過する成分は、微小濁度(netNTU)として検出されることから、完全溶解状態ではなく、部分的にはコロイド状と考えられる。
前掲の
図3との関係で考察すると、水酸化鉄フロックに取り込まれていた、バイオポリマー等の汚濁物とフェノール系樹脂の反応物は局部的高pHをもたらすOH
−により引き剥がされ、コロイド状、またその一部は溶解状態で、液側に分散、または溶解する。
局部的高pHが最終的に解消され、pHが6.5以下になっても鉄の凝結力が既に失われているため、コロイド状物を再凝結できず、濾過処理水の微細粒子が、FeCl
3のみの場合に比べてより多く残留すると推察される。
【0112】
[比較例1、実施例1]
液晶B工場の排水の生物処理水(適正凝集pH範囲=5.8〜6.6)の凝集設備で本発明の検証を行った。
処理工程は以下の通りであり、評価は、RO膜供給水(濾過水)のMFFを1日1回測定し、その平均値を求めることにより行った。
排水→生物処理→被処理水槽(BP201を6.0mg/L添加)→無機凝集剤反応槽(3価鉄無機凝集剤、NaOH添加設備付き)→中和・凝集槽(NaOH添加設備付き)→浮上分離装置→重力式2層濾過装置→RO膜分離装置による回収設備
3価鉄系無機凝集剤としてはFeCl
3を用い、その平均添加量は90mg/Lとした。また、無機凝集剤反応槽の制御目標pH値は6.0、中和・凝集槽の制御目標pH値は6.4で設定した。7日間のRO膜供給水のMFFの平均値は1.086であった(比較例1)。
その後、FeCl
3平均添加量85ppm、無機凝集剤反応槽pH制御目標pH値6.2、中和・凝集槽制御目標pH値6.0として、中和・凝集槽制御目標pH値を無機凝集剤反応槽よりも0.2低く設定したところ、以降の7日間のRO膜供給水のMFFの平均値は1.050で、FeCl
3添加量を少なくしても、膜濾過性指標MFFは改善された(実施例1)。
【0113】
[比較例2、実施例2]
液晶C工場の排水の生物処理水(適正凝集pH範囲=4.9〜5.8)の凝集設備で、本発明の検証を行った。
処理系列は3系列あり、そのうちの1系列を対照系(比較例2)、別の1系列を本発明実施系(実施例2)とした。
処理工程は以下の通りであり、評価は、浮上分離装置の処理水を採取し、重力式2層濾過相当のNo.5A濾紙による濾過を行って得られた濾過水について、SFF、MFF測定を3回行ってその平均値を求めることにより行った。
排水→生物処理→被処理水槽→無機凝集剤反応槽(3価鉄無機凝集剤、NaOH添加設備付き)→中和・凝集槽(NaOH添加設備付き)→浮上分離装置→重力式2層濾過装置→RO膜分離装置による回収設備
3価鉄系無機凝集剤としてはポリ硫酸第二鉄を用い、平均添加量は120ppmとした。
対照系列の無機凝集剤反応槽の制御目標pH値は4.0、中和・凝集槽の制御目標pH値は5.2で設定したところ、SFF=1.093、MFF=1.113で、浮上処理水の平均pHは5.2であった(比較例2)。
一方、本発明実施系は、無機凝集剤反応槽制御目標pH値5.2、中和・凝集槽制御目標pH値5.0に設定したところ、SFF=1.082、MFF=1.089で、浮上処理水平均pH5.1であった(実施例2)。
【0114】
[比較例3、実施例3]
上記比較例2、実施例2における液晶C工場の排水の生物処理水(適正凝集pH範囲=4.9〜5.8)の凝集設備で、被処理水槽にBP201を5mg/Lを添加したこと以外は同様に、各槽の制御目標pH値も同じとしてそれぞれ検証を行った。
なお、実施例3では、上記と同様にSFFおよびMFFの測定を行うと共に、実施例1と同様にRO膜供給水のMFFの測定も行った。
その結果、無機凝集剤反応槽制御目標pH値4.0、中和・凝集槽制御目標pH値5.2に設定した比較例3では、SFF=1.053、MFF=1.088で、浮上処理水の平均pHは5.3であった。
一方、無機凝集剤反応槽制御目標pH値5.2、中和・凝集槽制御目標pH値5.0に設定した実施例2では、SFF=1.014、MFF=1.038で、浮上処理水の平均pHは5.1であり、7日間のRO膜供給水のMFFの平均値は1.086であった。
【0115】
以上の通り、フェノール系樹脂アルカリ溶液を使用しない実施例2においても、またフェノール系樹脂アルカリ溶液を併用した実施例3においても、各槽の制御目標pH値を本発明の通り設定にすることにより、従来法の比較例に対して、凝集・濾過水のRO膜汚染指標が低減し、特に、フェノール系樹脂アルカリ溶液を併用した場合には、本発明の効果が顕著であった。