特許第6287787号(P6287787)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6287787
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブアレイの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/162 20170101AFI20180226BHJP
   B01J 31/30 20060101ALI20180226BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   C01B32/162
   B01J31/30 M
   B01J37/04 101
【請求項の数】5
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-243303(P2014-243303)
(22)【出願日】2014年12月1日
(62)【分割の表示】特願2014-528361(P2014-528361)の分割
【原出願日】2013年10月12日
(65)【公開番号】特開2015-63462(P2015-63462A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2016年6月9日
(31)【優先権主張番号】特願2012-255971(P2012-255971)
(32)【優先日】2012年11月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(72)【発明者】
【氏名】井上 翼
(72)【発明者】
【氏名】中西 太宇人
【審査官】 磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0002837(US,A1)
【文献】 国際公開第2012/153816(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0208708(US,A1)
【文献】 特許第5664832(JP,B2)
【文献】 村松潤一他,長尺MWNTによる軽量高強度CNTファイバーの開発,応用物理学関係連合講演会講演予稿集,日本,社団法人応用物理学会,2010年 3月 3日,Vol.57,p.17-110
【文献】 村松潤一他,CNT紡績糸の引張強度の向上,応用物理学会学術講演会講演予稿集,日本,社団法人応用物理学会,2010年 8月30日,Vol.71,p.17-122
【文献】 Yoku INOUE et al.,One-step grown aligned bulk carbon nanotubes by chloride mediatedchemical vapor deposition,Applied Physics Letters,米国,2008年 5月28日,Vol.92, No.21,p.213113,doi: 10.1063/1.2937082
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/162
B01J 31/30
B01J 37/04
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素の酸化物を含む材料からなる面であるベース面をその表面の少なくとも一部として備える基板を、気相触媒を含む雰囲気内に存在させる第一ステップと、
前記気相触媒を含む雰囲気に原料ガスならびにアセトンおよびアルゴンを存在させることにより、前記基板のベース面上に複数のカーボンナノチューブを成長させ、前記ベース面上に前記複数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブアレイを得る第二ステップとを備えることを特徴とするカーボンナノチューブアレイの製造方法。
【請求項2】
前記第二ステップは、前記気相触媒を含む雰囲気に、前記原料ガスおよびアセトンおよびアルゴンをこれらの流量を制御しつつ供給することにより実施され、前記原料ガスの供給流量(単位:sccm)に対するアセトンの供給流量(単位:sccm)の比率(アセトン/原料ガス)は150%以下とされる請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記気相触媒は鉄族元素のハロゲン化物を含む請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記鉄族元素のハロゲン化物は塩化鉄(II)を含み、前記原料ガスはアセチレンを含む請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第二ステップにおける前記ベース面は、8×10K以上に加熱されている請求項1から4のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブアレイの製造方法、当該製造方法により製造されたカーボンナノチューブアレイからなる紡績源部材、および当該紡績源部材から紡ぎ出されてなるカーボンナノチューブを備える構造体に関する。
【0002】
本明細書において、カーボンナノチューブアレイ(本明細書において「CNTアレイ」ともいう。)とは、複数のカーボンナノチューブ(本明細書において「CNT」ともいう。)が長軸方向の少なくとも一部について一定の方向(具体的な一例として、基板が備える面の1つの法線にほぼ平行な方向が挙げられる。)に配向するように成長してなるCNTの集合体を意味する。なお、基板から成長させたCNTアレイの、基板に付着した状態における基板の法線に平行な方向の長さ(高さ)を、「成長高さ」という。
【0003】
また、本明細書において、CNTアレイの一部のCNTをつまみ、そのCNTをCNTアレイから離間するように引っ張ることによって、CNTアレイから複数のCNTを連続的に取り出すこと(本明細書において、この作業を従来技術に係る繊維から糸を製造する作業に倣って「紡績」ともいう。)によって形成される、複数のCNTが互いに交絡した構造を有する構造体を「CNT交絡体」という。
【背景技術】
【0004】
CNTは、グラフェンからなる外側面を有するという特異的な構造を有するため、機能材料としても構造材料としても様々な分野での応用が期待されている。具体的には、CNTは、機械的強度が高く、軽く、電気伝導特性が良く、熱特性が良く、化学的耐腐食性が高く、且つ電界電子放出特性が良いといった優れた特性を有する。したがって、CNTの用途として、軽量高強度ワイヤ、走査プローブ顕微鏡(SPM)の探針、電界放出ディスプレイ(FED)の冷陰極、導電性樹脂、高強度樹脂、耐腐食性樹脂、耐摩耗性樹脂、高度潤滑性樹脂、二次電池や燃料電池の電極、LSIの層間配線材料、バイオセンサーなどが考えられている。
【0005】
CNTの製造方法の一つとして、特許文献1には、金属系材料の薄膜を蒸着するなどしてあらかじめ基板の表面にスパッタリングなどの手段によって固相の金属触媒層を形成し、その固相の金属触媒層を備える基板を反応炉に設置し、反応炉に炭化水素ガスを供給して基板上にCNTアレイを形成する方法が開示されている。以下、上記のように固相の触媒層を基板上に形成し、その固相の触媒層を備えた基板が設けられた反応炉に炭化水素系の材料を供給してCNTアレイを製造する方法を、固相触媒法という。
【0006】
固相触媒法により製造されるCNTアレイを高効率で製造する方法として、特許文献2には、炭素を含有しかつ酸素を含有しない原料ガスと、酸素を含有する触媒賦活物質と、雰囲気ガスを、所定の条件を満たしつつ供給して固相の触媒層に接触させる方法が開示されている。
【0007】
上記の方法とは異なる方法によりCNTアレイを製造する方法も開示されている。すなわち、特許文献3には、塩化鉄を昇華させ、その塩化鉄が気相の状態で存在する環境にて熱CVD法によりCNTアレイを形成する方法が開示されている。この方法は、基板表面にあらかじめ固相の触媒層を形成させることなく熱CVDを行う点、および熱CVDが行われる環境に塩素などのハロゲン系材料を存在させる点で、特許文献1や2に開示される技術とは本質的に相違している。本明細書において、特許文献3に開示されるCNTアレイの製造方法を気相触媒法ともいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−107196号公報
【特許文献2】特許第4803687号公報
【特許文献3】特開2009−196873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
かかる気相触媒法によるCNTアレイの製造方法は、上記の固相触媒法によるCNTアレイの製造方法とは触媒の物理状態が異なることに起因して、CNTアレイを成長させる素過程は当然に相違する。それゆえ、両者は本質的に異なるCNTアレイの製造方法であると考えられる。したがって、固相触媒法によるCNTアレイの製造方法における生産性を向上させる技術的手法が、気相触媒法によるCNTアレイの製造方法にそのまま適用されうるか否かは全く不明であり、気相触媒法によるCNTアレイの製造方法に適した生産性向上の手法が求められている。
【0010】
また、上記のように気相触媒法によるCNTアレイの製造方法は、固相触媒法によるCNTアレイの製造方法とは本質的に相違するため、それぞれの製造方法により製造されたCNTアレイの特性も互いに異なっている可能性がある。したがって、CNTアレイから形成されるCNT交絡体の形成しやすさ(本明細書において「紡績性」ともいう。)も、それぞれの製造方法から製造されたCNTアレイでは相違する可能性がある。したがって、紡績性に優れたCNTアレイの製造するための技術的指針は、固相触媒法によるCNTアレイの製造方法および気相触媒法によるCNTアレイの製造方法のそれぞれについて独立に考える必要がある。
【0011】
本発明は、上記の気相触媒法により製造されるCNTアレイの生産性を高める手段およびそのCNTアレイの紡績性を高める手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために提供される本発明は次のとおりである。
[1]ケイ素の酸化物を含む材料からなる面であるベース面をその表面の少なくとも一部として備える基板を、気相触媒を含む雰囲気内に存在させる第一ステップと、前記気相触媒を含む雰囲気に原料ガスおよびアセトンおよびアルゴンを存在させることにより、前記基板のベース面上に複数のカーボンナノチューブを成長させ、前記ベース面上に前記複数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブアレイを得る第二ステップとを備えることを特徴とするカーボンナノチューブアレイの製造方法。
【0013】
[2]前記第二ステップは、前記気相触媒を含む雰囲気に、前記原料ガスならびにアセトンおよびアルゴンをこれらの流量を制御しつつ供給することにより実施され、前記原料ガスの供給流量(単位:sccm)に対するアセトンの供給流量(単位:sccm)の比率(気相助触媒/原料ガス)は150%以下とされる上記[1]に記載の製造方法。
【0016】
[3]前記気相触媒は鉄族元素のハロゲン化物を含む上記[1]または[2]に記載の製造方法。
【0017】
[4]前記鉄族元素のハロゲン化物は塩化鉄(II)を含み、前記原料ガスはアセチレンを含む上記[3]に記載の製造方法。
【0019】
[5]前記第二ステップにおける前記ベース面は、8×10K以上に加熱されている上記[1]から[4]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係る気相触媒法によれば、CNTアレイの成長速度を、気相助触媒を用いない気相触媒法(本明細書において「従来気相触媒法」ともいう。)によるCNTアレイの成長速度よりも高めることができる。したがって、本発明に係る製造方法を実施することにより、CNTアレイの生産性を高めることができる。
【0033】
また、かかる製造方法により製造されたCNTアレイは、優れた紡績性を有する形状的条件の範囲が広い。具体的には、従来気相触媒法により製造されたCNTアレイでは紡績が困難であった成長高さのCNTアレイからもCNT交絡体を得ることができる。したがって、本発明に係る製造方法を実施することにより、紡績性に優れるCNTアレイをより安定的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の一実施形態に係るCNTアレイの製造方法に使用される製造装置の構成を概略的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係るCNTアレイの製造方法を示すフローチャートである。
図3】本発明の一実施形態に係る製造方法により製造されたCNTアレイを構成するCNTを示す画像である。
図4】本発明の一実施形態に係る製造方法により製造されたCNTアレイを構成するCNTの外径分布を示すグラフである。
図5】本発明の一実施形態に係る製造方法により製造されたCNTアレイを紡績してCNT交絡体を製造している状態を示す画像である。
図6】本発明の一実施形態に係る製造方法により製造されたCNTアレイから得られたCNT交絡体の一部を拡大した画像である。
図7】実施例1に係る製造方法により製造されたCNTアレイの成長高さと成長時間との関係を示すグラフである。
図8】実施例2に係る製造方法により製造されたCNTアレイの成長高さと成長時間との関係を示すグラフである。
図9】実施例3に係る製造方法により製造されたCNTアレイの成長高さと成長時間との関係を示すグラフである。
図10】実施例4に係る製造方法により製造されたCNTアレイの成長速度についてのアレニウスプロットである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態について説明する。
1.CNTアレイの製造装置
本発明の一実施形態に係るCNTアレイの製造装置を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るCNTアレイの製造方法に使用される製造装置の構成を概略的に示す図である。
【0036】
図1に示されるように、この製造装置10は、電気炉12を備えている。この電気炉12は、所定方向A(原料ガスが流れる方向)に沿って延在する略円筒形状を呈している。電気炉12の内側には、カーボンナノチューブの成長室としての反応容器管14が通されている。反応容器管14は、例えば石英といった耐熱材からなる略円筒形の部材であり、電気炉12よりも細い外径を有し、所定方向Aに沿って延在している。図1では、反応容器管14内に基板28が設置されている。
【0037】
電気炉12は、ヒータ16および熱電対18を備える。ヒータ16は、反応容器管14の所定方向Aのある一定の領域(換言すれば、略円筒形状の反応容器管14の軸方向の一定の領域であり、以下「加熱領域」ともいう。)を囲むように配設されており、反応容器管14の加熱領域における管内雰囲気の温度を上昇させるための熱を発生する。熱電対18は、電気炉12の内側において反応容器管14の加熱領域の近傍に配置され、反応容器管14の加熱領域における管内雰囲気の温度に関連する温度を表わす電気信号を出力可能である。ヒータ16および熱電対18は、制御装置20と電気的に接続されている。
【0038】
所定方向Aにおける反応容器管14の一端には、ガス供給装置22が接続されている。ガス供給装置22は、原料ガス供給部30、気相触媒供給部31、気相助触媒供給部32および補助ガス供給部33を備える。ガス供給装置22は制御装置20と電気的に接続され、ガス供給装置22が備える各供給部とも電気的に接続されている。
【0039】
原料ガス供給部30は、CNTアレイを構成するCNTの原料となる炭素化合物を含む原料ガス(例えばアセチレンなどの炭化水素ガス)を反応容器管14の内部へ供給することができる。原料ガス供給部30からの原料ガスの供給流量は、マスフローなどの公知の流量調整機器を用いて調整することができる。
【0040】
気相触媒供給部31は、気相触媒を反応容器管14の内部へ供給することができる。気相触媒については後述する。気相触媒供給部31からの気相触媒の供給流量は、マスフローなどの公知の流量調整機器を用いて調整することができる。
【0041】
気相助触媒供給部32は、気相助触媒を反応容器管14の内部へ供給することができる。気相助触媒については後述する。気相助触媒供給部32からの気相助触媒の供給流量は、マスフローなどの公知の流量調整機器を用いて調整することができる。
【0042】
補助ガス供給部33は、上記の原料ガス、気相触媒および気相助触媒以外のガス、たとえばアルゴンなどの不活性ガス(本明細書においてかかるガスを「補助ガス」と総称する。)を反応容器管14の内部へ供給することができる。補助ガス供給部33からの補助ガスの供給流量は、マスフローなどの公知の流量調整機器を用いて調整することができる。
【0043】
所定方向Aにおける反応容器管14の他端には、圧力調整バルブ23および排気装置24が接続されている。圧力調整バルブ23は、バルブの開閉の程度を変動させることにより、反応容器管14内のガスの圧力を調整することができる。排気装置24は、反応容器管14の内部を真空排気する。排気装置24の具体的種類は特に限定されず、ロータリーポンプ、油拡散ポンプ、メカニカルブースター、ターボ分子ポンプ、クライオポンプなどを単独でまたはこれらを組み合わせて用いることができる。圧力調整バルブ23および排気装置24は、制御装置20に電気的に接続される。また、反応容器管14の内部には、その内部圧力を計測するための圧力計13が設けられている。圧力計13は、制御装置20に電気的に接続され、反応容器管14の内部の圧力を表わす電気信号を制御装置20に出力することができる。
【0044】
制御装置20は、上記のように、ヒータ16、熱電対18、ガス供給装置22、圧力計13、圧力調整バルブ23および排気装置24と電気的接続され、これらの装置等から出力された電気信号を入力したり、その入力した電気信号に基づいてこれらの装置等の動作を制御したりする。以下、制御装置20の具体的な動作について例示する。
【0045】
制御装置20は、熱電対18から出力された反応容器管14の内部温度に関する電気信号を入力し、その電気信号に基づいて決定されたヒータ16の動作に係る制御信号をヒータ16に対して出力することができる。制御装置からの制御信号を入力したヒータ16は、その制御信号に基づいて、発生熱量を増減させる動作を行い、反応容器管14の加熱領域の内部温度を変化させる。
【0046】
制御装置20は、圧力計13から出力された反応容器管14の加熱領域の内部圧力に関する電気信号を入力し、その電気信号に基づいて決定された圧力調整バルブ23および排気装置24の動作に係る制御信号を圧力調整バルブ23および排気装置24に対して出力することができる。制御装置からの制御信号を入力した圧力調整バルブ23および排気装置24は、その制御信号に基づいて、圧力調整バルブ23の開き具合を変更したり、排気装置24の排気能力を変更させたりするなどの動作を行う。
【0047】
制御装置20は、あらかじめ設定されたタイムテーブルに従って、各装置等の動作を制御するための制御信号を各装置に対して出力することができる。たとえば、ガス供給装置22が備える原料ガス供給部30、気相触媒供給部31、気相助触媒供給部32および補助ガス供給部33のそれぞれからのガスの供給の開始および停止ならびに供給流量を決定する制御信号をガス供給装置22に出力することができる。その制御信号を入力したガス供給装置22は、その制御信号に従って、各供給部を動作させて、原料ガスなどの各ガスを反応容器管14内への供給を開始したり停止したりする。
【0048】
2.CNTアレイの製造方法
本発明の一実施形態に係るCNTアレイの製造方法を、図面を参照しながら説明する。本実施形態に係るCNTアレイの製造方法は、図2に示されるように、第一および第二の2つのステップを備える。
【0049】
(1)第一ステップ
本実施形態に係るCNTアレイの製造方法は、第一ステップとして、ケイ素の酸化物を含む材料からなる面であるベース面をその表面の少なくとも一部として備える基板28を、気相触媒を含む雰囲気内に存在させる。
【0050】
基板28の具体的な構成は限定されない。その形状は任意であり、平板や円筒のような簡単な形状であってもよいし、複雑な凹凸が設けられた3次元形状を有していてもよい。また、基板の全面がベース面であってもよいし、基板の表面の一部だけがベース面であって他の部分はベース面ではない、いわゆるパターニングされた状態であってもよい。
【0051】
ベース面は、ケイ素の酸化物を含む材料からなる面であり、第二ステップにおいてベース面上にCNTアレイは形成される。ベース面を構成する材料はケイ素の酸化物を含んでいる限りその詳細は限定されない。ベース面を構成する材料の具体的な一例として、石英(SiO)が挙げられる。ベース面を構成する材料の他の例として、SiO(x≦2)が挙げられ、これは酸素を含有する雰囲気でケイ素をスパッタリングすることによって得ることができる。さらに別の例として、ケイ素を含む複合酸化物が挙げられる。この複合酸化物を構成するケイ素および酸素以外の元素として、Fe、Ni、Alなどが例示される。さらにまた別の例として、ケイ素の酸化物に窒素、ホウ素などの非金属元素が添加された化合物が挙げられる。
【0052】
ベース面を構成する材料は基板28を構成する材料と同一であってもよいし、異なっていてもよい。具体例を示せば、基板28を構成する材料が石英からなりベース面を構成する材料も石英からなる場合や、基板28を構成する材料はケイ素を主体とするシリコン基板からなりベース面を構成する材料はその酸化膜からなる場合が例示される。
【0053】
第一ステップでは、気相触媒を含む雰囲気内に上記のベース面を備える基板28を存在させる。本実施形態に係る気相触媒の例として、鉄族元素(すなわち、鉄、コバルトおよびニッケルの少なくとも一種)のハロゲン化物(本明細書において「鉄族元素ハロゲン化物」ともいう。)が挙げられる。かかる鉄族元素ハロゲン化物をさらに具体的に例示すれば、フッ化鉄、フッ化コバルト、フッ化ニッケル、塩化鉄、塩化コバルト、塩化ニッケル、臭化鉄、臭化コバルト、臭化ニッケル、ヨウ化鉄、ヨウ化コバルト、ヨウ化ニッケルなどが挙げられる。鉄族元素ハロゲン化物は、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)のように、鉄族元素のイオンの価数に応じて異なる化合物が存在する場合もある、気相触媒は一種類の物質から構成されていてもよいし、複数種類の物質から構成されていてもよい。
【0054】
気相触媒の反応容器管14の内部への供給方法は限定されない。前述の製造装置10のように、気相触媒供給部22から供給してもよいし、反応容器管14の加熱領域の内部に気相触媒を与える気相以外の物理状態(典型的には固相状態)にある材料(本明細書において「触媒源」ともいう。)を設置し、反応容器管14の加熱領域の内部を加熱することおよび/または負圧することにより触媒源から気相触媒を生成して、気相触媒を反応容器管14の加熱領域の内部に存在させてもよい。触媒源を用いて気相触媒を生成する場合の具体例を示せば、反応容器管14の加熱領域の内部に触媒源として塩化鉄(II)の無水物を配置し、反応容器管14の加熱領域の内部を加熱するとともに負圧して塩化鉄(II)の無水物を昇華させると、塩化鉄(II)の蒸気からなる気相触媒を反応容器管14内に存在させることができる。
【0055】
第一ステップにおける反応容器管14内、具体的には基板が設置されている部分の雰囲気の圧力は特に限定されない。大気圧(1.0×10Pa程度)であってもよいし、負圧であってもよいし、陽圧であってもよい。第二ステップにおいて反応容器管14内は負圧雰囲気とする場合には、第一ステップにおいても雰囲気を負圧としておいて、ステップ間の遷移時間を短縮することが好ましい。第一ステップにおいて反応容器管14内を負圧雰囲気とする場合において、雰囲気の具体的な全圧は特に限定されない。一例を挙げれば、10−2Pa以上10Pa以下とすることが挙げられる。
【0056】
第一ステップにおける反応容器管14内雰囲気の温度は特に限定されない。常温(約25℃)であってもよいし、加熱されていてもよいし、冷却されていてもよい。後述するように第二ステップにおいて反応容器管14の加熱領域の内部の雰囲気は加熱されていることが好ましいことから、第一ステップにおいてもその領域の雰囲気を加熱しておいて、ステップ間の遷移時間を短縮することが好ましい。第一ステップにおいて反応容器管14の加熱領域の内部の雰囲気を加熱する場合において、加熱領域の温度は特に限定されない。一例を挙げれば8×10K以上1.3×10K以下であり、9×10K以上1.2×10K以下とすることが好ましい一例として挙げられる。
【0057】
触媒源として塩化鉄(II)の無水物を用いる場合には、前述のように、第一ステップにおいても反応容器管14の加熱領域の内部の雰囲気を加熱して、触媒源が昇華する条件を満たすことが好ましい。なお、塩化鉄(II)の昇華温度は大気圧(1.0×10Pa程度)において950Kであるが、反応容器管14の加熱領域の内部の雰囲気を負圧とすることにより、昇華温度を低下させることができる。
【0058】
触媒源として塩化鉄(II)の無水物を用い、気相触媒供給部31から塩化鉄(II)の蒸気を気相触媒の一部として供給してもよい。この場合には、気相触媒供給部31内に配置した塩化鉄(II)の無水物を加熱して塩化鉄(II)を昇華させ、発生した塩化鉄(II)の蒸気を、基板28が設置された反応容器管14内へと導くことにより、第一ステップを完了させることができる。
【0059】
(2)第二ステップ
第二ステップでは、第一ステップにより実現された気相触媒を含む雰囲気、すなわち反応容器管14の内部の雰囲気に、原料ガスおよび気相助触媒を存在させる。
【0060】
原料ガスの種類は特に限定されないが、通常、炭化水素系材料が用いられ、アセチレンが具体例として挙げられる。原料ガスを反応容器管14の内部の雰囲気に存在させる方法は特に限定されない。前述の製造装置10のように、原料ガス供給部30から原料ガスを供給することにより存在させてもよいし、原料ガスを生成させることが可能な材料を反応容器管14の内部にあらかじめ存在させ、その材料から原料ガスを生成して反応容器管14の内部に拡散させることによって第二ステップを開始してもよい。原料ガス供給部30から原料ガスを供給する場合には、流量調整機器を用いて、反応容器管14の内部への原料ガスの供給流量を制御することが好ましい。通常、供給流量はsccm単位で表され、1sccmとは、273K、1.01×10Paの環境下に換算した気体についての毎分1mlの流量を意味する。反応容器管14の内部に供給される気体の流量は、図1に示されるような構成の製造装置の場合には、反応容器管14の内径、圧力計13において測定される圧力などに基づいて設定される。圧力計13の圧力が1×10Pa以上1×10Pa以内の場合における、アセチレンを含有する原料ガスの好ましい供給流量として10sccm以上1000sccm以下が例示され、この場合には20sccm以上500sccm以下とすることがより好ましく、50sccm以上300sccm以下とすることが特に好ましい。
【0061】
本明細書において、「気相助触媒」とは、前述の気相触媒法により製造されるCNTアレイの成長速度を高める機能(以下、「成長促進機能」ともいう。)を有し、好ましい一形態では、さらに製造されたCNTアレイの紡績性を向上させる機能(以下、「紡績性向上機能」ともいう。)を有する成分を意味する。成長促進機能の詳細は特に限定されない。一例として、CNTアレイの成長に係る反応の活性化エネルギーを低下させることが挙げられる。また、紡績性向上機能の詳細も特に限定されない。一例として、CNTアレイから得られるCNT交絡体の紡績長さを長くすることが挙げられる。
【0062】
気相助触媒の具体的な成分は、上記の成長促進機能および好ましくはさらに紡績性向上機能を果たす限り特に限定されず、具体的な一例としてアセトンが挙げられる。気相助触媒としてのアセトンは、気相触媒法によりCNTアレイが成長する際の反応の活性化エネルギーを低下させることができるとともに、得られたCNTアレイの紡績性に係る特性の中でも、紡績した際の紡績長さについて良好な影響を及ぼすことができる。これらの機能の詳細については実施例において説明する。
【0063】
第二ステップにおいて気相助触媒を反応容器管14内雰囲気に存在させる方法は特に限定されない。前述の製造装置10のように、気相助触媒供給部32から気相助触媒を供給することにより存在させてもよいし、気相助触媒を生成させることが可能な材料を反応容器管14内にあらかじめ存在させ、その材料から加熱、減圧などの手段によって気相助触媒を生成して、気相助触媒を反応容器管14内に拡散させてもよい。
【0064】
気相助触媒供給部32から気相助触媒を供給する場合には、流量調整機器を用いて、反応容器管14の内部への気相助触媒の供給流量を制御することが好ましい。圧力計13の圧力が1×10Pa以上1×10Pa以内の場合における、気相除触媒の一例であるアセトンの好ましい供給流量として10sccm以上1000sccm以下が例示され、この場合には20sccm以上500sccm以下とすることがより好ましく、50sccm以上300sccm以下とすることが特に好ましい。原料ガス(具体例としてアセチレン)および気相助触媒(具体例としてアセトン)をそれぞれ原料ガス供給部30および気相助触媒供給部32から供給する場合には、原料ガスの供給流量(単位:sccm)に対する気相助触媒の供給流量(単位:sccm)の比率(気相助触媒/原料ガス)を、150%以下とすることが好ましく、5%以上120%以下とすることがより好ましく、10%以上100%以下とすることが特に好ましい。かかる比率とすることにより、CNTアレイの成長速度をより安定的に高めることができる。
【0065】
このように、気相助触媒としてのアセトンが有する成長促進機能の程度は、原料ガスとの量的な関係に依存して変動すること、および気相助触媒としてのアセトンを含有させた効果は反応初期の方が相対的に顕著に確認されることから、気相助触媒としてのアセトンは、原料ガスが触媒と相互作用してCNTアレイを成長させる過程における比較的初期の段階でより強く関与している可能性がある。
【0066】
第二ステップにおいて、反応容器管14内雰囲気に原料ガスを存在させるタイミングと気相助触媒を存在させるタイミングとは特に限定されない。いずれが先であってもよいし、同時であってもよい。ただし、原料ガスのみを存在させ気相助触媒が存在しない状態とすると、原料ガスと気相触媒との相互作用に基づくCNTアレイの成長が開始されてしまい、それはすなわち従来気相触媒法によるCNTアレイの製造であるから、この場合には気相助触媒を含有させたことの利益を十分には得られなくなるおそれがある。それゆえ、気相助触媒は、原料ガスよりも先または原料ガスと同時に反応容器管14内雰囲気に存在するように設定することが好ましい。
【0067】
第二ステップにおける反応容器管14内雰囲気には、例えば全圧を所定範囲に調整することを目的として、補助ガスを存在させてもよい。補助ガスとして、CNTアレイの生成に与える影響が相対的に低いガス、具体的にはアルゴンガスなどの不活性ガスが例示される。反応容器管14内雰囲気に補助ガスを存在させる方法は特に限定されない。前述の製造装置10のように、補助ガス供給部33を供給装置が備え、その補助ガス供給部33から反応容器管14内雰囲気内に補助ガスを供給することが簡便であり、制御性に優れ、好ましい。
【0068】
第二ステップにおける反応容器管14内雰囲気の全圧は特に限定されない。大気圧(1.0×10Pa程度)であってもよいし、負圧であってもよいし、陽圧であってもよい。反応容器管14内雰囲気に存在する物質の組成(分圧比)などを考慮して適宜設定すればよい。反応容器管14内の加熱領域の内部の雰囲気を負圧とする場合の圧力範囲の具体例を示せば、1×10Pa以上1×10Pa以下であり、2×10Pa以上5×10Pa以下とすることが好ましく、5×10Pa以上2×10Pa以下とすることがより好ましく、1×10Pa以上1×10Pa以下とすることが特に好ましい。
【0069】
第二ステップにおける反応容器管14の加熱領域の内部の雰囲気の温度は、気相触媒および気相助触媒が存在する雰囲気において原料ガスを用いてCNTアレイを形成することができる限り、特に限定されない。前述の塩化鉄(II)のような触媒源を加熱して気相触媒を得る場合には、反応容器管14の加熱領域の内部の雰囲気の温度は気相触媒が形成される温度以上に設定される。
【0070】
第二ステップ中のベース面の温度は8×10K以上に加熱されていることが好ましい。ベース面の温度が8×10K以上である場合には、気相触媒および気相助触媒と原料ガスとの相互作用がベース面上で生じやすく、ベース面上にCNTアレイが成長しやすい。この相互作用をより生じやすくさせる観点から、第二ステップ中のベース面の温度は9×10K以上に加熱されていることが好ましい。第二ステップ中のベース面の温度の上限は特に限定されないが、過度に高い場合には、ベース面を構成する材料や基板を構成する材料(これらは同一である場合もある。)が固体としての安定性を欠く場合もあるため、これらの材料の融点や昇華温度を考慮して上限を設定することが好ましい。反応容器管の負荷を考慮すれば、上限温度は1.5×10K程度までとすることが好ましい。
【0071】
3.CNTアレイ
本実施形態に係る製造方法により製造されたCNTアレイの一例は、図3に示されるように、複数のCNTが一定の方向に配向するように配置された構造を有する部分を備える。この部分の複数のCNTの直径を測定し、それらの分布を求めると、図4に示されるように、CNTの直径は、その多くが20〜50nmの範囲内となる。
【0072】
かかる本実施形態に係る製造方法により製造されたCNTアレイは紡績性に優れる。具体的には、CNTアレイを構成するCNTをつまんで、これをCNTアレイから離間する向きに引き出す(紡績する)ことによって、互いに交絡した複数のCNTを備える構造体(CNT交絡体)を得ることができる。図5は、CNTアレイからCNT交絡体が形成されている状態を示す画像であり、図6は、CNT交絡体の一部分を拡大した画像である。図5に示されるように、CNTアレイを構成するCNTが連続的に引き出されてCNT交絡体は形成される。また、図6に示されるように、CNT交絡体を構成するCNTは、CNTアレイから引き出される方向(紡績方向)に配向しつつ、互いに絡み合って連結体を形成している。本明細書において、CNTアレイを備える部材であって、CNT交絡体を形成することが可能な部材を「紡績源部材」ともいう。
【0073】
すべてのCNTアレイが紡績源部材となりうるわけではなく、CNT交絡体を形成することができるCNTアレイには形状的な制限がある。その制限事項の一つに、CNTアレイの成長高さ(CNTアレイが形成された状態における高さ)が挙げられる。すなわち、CNTアレイの成長高さが過度に低い場合には、引き出されたCNTが交絡することが困難となり、CNT交絡体を得ることが困難となる。このCNTアレイからのCNT交絡体の形成しやすさ(紡績性)は、CNTアレイから形成したCNT交絡体の紡績方向長さ(CNTアレイからCNTを引き出した方向の長さ)により評価することができる。紡績性に劣るCNTアレイの場合には、十分な紡績長さに到達する前にCNT交絡体はCNTアレイから脱離してしまう。これに対し、紡績性に特に優れるCNTアレイの場合には、CNT交絡体は、CNTアレイを構成するCNTが全てCNT交絡体となるまでCNTアレイから脱離しない。
【0074】
本実施形態に係る製造方法により製造されたCNTアレイは、従来技術に係る製造方法、すなわち気相助触媒を用いない気相触媒法により製造されたCNTアレイに比べて、紡績性が低下するCNTアレイ成長高さ範囲が広い。つまり、本実施形態に係る製造方法により製造されたCNTアレイを紡績源部材とすることにより、従来法に係るCNTアレイを用いる場合よりも個々のCNTの長さが様々な長さのCNT交絡体をより安定的に製造することができる。
【0075】
本実施形態に係る製造方法により製造されたCNTアレイが紡績性に優れることについて以下に具体的に説明する。原料ガスとしてアセトン、触媒源として塩化鉄(II)の無水物を用いる気相触媒法で製造されるCNTアレイを用いてCNT交絡体を形成する場合には、良好な紡績性(具体例として紡績長さが1cm以上であることが挙げられる。)が得られるCNTアレイの成長高さの範囲はある所定の範囲に限定される。その上限および下限は、製造条件により変動するが、高さ範囲(上限高さ−下限高さ)としておおむね0.5mm程度である。これに対し、上記の気相触媒法において気相助触媒としてアセトンを用いる方法により製造されたCNTアレイの場合には、上記の紡績性が良好となるCNTアレイの成長高さの範囲は、気相助触媒を用いない場合に比べて、下限および上限の双方が広がって、2倍以上、つまり1mm以上となることができ、好ましい一形態では3倍程度またはそれ以上、つまり1.5mm程度またはそれ以上に到達する。
【0076】
本実施形態に係る製造方法により製造されたCNTアレイが紡績性に優れることについて別の観点から説明すれば、本実施形態に係る製造方法により製造されたCNTアレイは、好ましい一形態では、CNTアレイの成長高さが2mm以上であっても、紡績長さが1cm以上となる紡績が安定的に可能である。
【0077】
このような紡績性に優れるCNTアレイは、気相助触媒を用いない気相触媒法によって得ることは困難である。固相触媒法の場合には、CNTアレイの製造過程が気相触媒法の場合と異なり、このため得られるCNTアレイの基本構造も気相触媒法の場合と異なる可能性があるため、単純に比較できないが、上記のような優れた紡績性を有するCNTアレイが安定的に製造されたことを示す結果はいまだ報告されていない。
【0078】
紡績性が良好となるCNTアレイの成長高さの範囲の上限が高くなることは、そのCNTアレイから得られるCNT交絡体の特性を向上させる観点から好ましい。すなわち、成長高さの値が大きいCNTアレイから得られたCNT交絡体は、CNT交絡体を構成するCNTの長軸方向長さの値が相対的に大きいため、CNT間の相互作用の程度が大きくなりやすい。それゆえ、CNT交絡体が糸状の形状を有していたり、ウェブ状の形状を有していたりする場合における、機械的特性(たとえば引張り強さ)、電気的特性(たとえば体積導電率)、熱的特性(たとえば熱伝導率)などが向上しやすい。
【0079】
本実施形態に係る製造方法により製造されたCNTアレイを備える紡績源部材が上記のように紡績性に優れる理由は定かではない。CNTアレイからCNTの引き出し(紡績)が連続的に進行している場合には、引き出されたCNT同士が適切に交絡するとともに、引き出されたCNTが、そのCNTについて引き出し方向で引き出された向きと反対側の最近位に存在するCNT(以下、「最近位CNT」ともいう。)とも適切に相互作用することにより、最近位CNTの引き出しが行われている。したがって、CNTアレイから紡績されたCNT交絡体の紡績長さが長くなるためには、引き出されるCNTとすでに引き出されたCNTとの相互作用および引き出されるCNTと最近位CNTとの相互作用のバランスが適切であることが必要とされる。これらの相互作用のバランスが適切となるようなCNTアレイを形成することに、紡績助触媒が関与している可能性もある。
【0080】
4.CNT交絡体
紡績源部材から得られるCNT交絡体は、様々な形状を有することができる。具体的な一例として線状の形状が挙げられ、他の一例としてウェブ状の形状が挙げられる。線状のCNT交絡体は、繊維と同等に取り扱うことができるうえ、電気配線としても用いることができる。また、ウェブ状のCNT交絡体は、そのままで不織布と同様に取り扱うことができる。
【0081】
CNT交絡体の紡績方向長さは特に限定されず、用途に応じて適宜設定すればよい。一般的には、紡績長さが2mm以上であれば、コンタクト部、電極など部品レベルへのCNT交絡体の適用が可能となる。また、ウェブ状のCNT交絡体は、紡績源部材からの紡績方法を変更することによって、これを構成するCNTの配向の程度を任意に制御することができる。したがって、紡績源部材からの紡績方法を変更することによって、機械的特性や電気的特性が異なるCNT交絡体を製造することが可能である。
【0082】
CNT交絡体は、その交絡の程度を小さくすれば、線状の場合には細くなり、ウェブ状の場合には薄くなる。その程度が進めば、CNT交絡体を目視で確認すること困難となり、このときそのCNT交絡体は透明繊維、透明配線、透明ウェブ(透明なシート状部材)として使用されうる。
【0083】
CNT交絡体は、CNTのみからなっていてもよいし、他の材料との複合構造体であってもよい。前述のように、CNT交絡体は複数のCNTが互いに絡み合ってなる構造を有することから、この絡み合った複数のCNTの間には、不職布を構成する複数の繊維と同様に、空隙が存在する。この空隙部に、粉体(金属微粒子、シリカ等の無機系粒子や、エチレン系重合体等の有機系粒子が例示される。)を導入したり、液体を含浸させたりすることによって、容易に複合構造体を形成することができる。
【0084】
また、CNT交絡体を構成するCNTの表面が改質されていてもよい。CNTは外側面がグラフェンから構成されるため、CNT交絡体はそのままでは疎水性であるが、CNT交絡体を構成するCNTの表面に対して親水化処理を行うことによって、CNT交絡体を親水化することができる。そのような親水化の手段の一例として、めっき処理が挙げられる。この場合には、得られたCNT交絡体は、CNTとめっき金属との複合構造体となる。
【0085】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0086】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
(実施例1)
図1に示される構造を有する製造装置を用い、図2に示される製造方法によってCNTアレイを製造した。
具体的には、まず、次のようにして、第一ステップを実施した。
図1に示される構造を有する製造装置の反応容器管内に、石英からなるボート上に石英板(20mm×5mm×厚さ1mm)を載置した。したがって、本実施例では、ベース面を構成する材料および基板を構成する材料はいずれも石英であった。また、触媒源としての塩化鉄(II)の無水物を反応容器管内のボート以外の部分上に載置した。
排気装置を用いて反応容器管内を1×10−1Pa以下に排気したのち、ヒータを用いて反応容器管内(基板を含む)を1.1×10Kまで加熱した。その結果、反応容器管内で塩化鉄(II)の無水物は昇華して、反応容器管の加熱領域の内部は、触媒源としての塩化鉄(II)の無水物から形成された気相触媒を含む雰囲気となった。
【0087】
こうして第一ステップを実施したのち、圧力調整バルブを用いて雰囲気圧力を5×10Paに維持するとともに、反応容器管内(基板を含む)の温度を、ヒータを用いて1.1×10Kに維持しながら、原料ガス供給部から原料ガスとしてのアセチレンを、気相助触媒供給部から気相助触媒としてのアセトンを、それぞれ表1に示される流量で反応容器管内に供給することにより第二ステップを実施した。
第二ステップを開始することにより、すなわち、アセチレンおよびアセトンの供給を開始することにより、ベース面上にCNTアレイが成長した。ベース面に平行な方向からカメラにてCNTアレイを2分おきに撮影し、第二ステップ開始から20分間のCNTアレイの成長高さを測定した。その結果を表1および図7に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
(実施例2)
まず、次のようにして、第一ステップを実施した。
図1に示される構造を有する製造装置の反応容器管内に、石英からなるボート上に表面に0.95μm厚の熱酸化膜が形成されたシリコン板(20mm×5mm×厚さ1mm)を載置した。したがって、本実施例では、ベース面を構成する材料はシリコンの酸化膜であり、基板を構成する材料はシリコンであった。また、触媒源としての塩化鉄(II)の無水物を反応容器管内のボート以外の部分上に載置した。
排気装置を用いて反応容器管内を1×10−1Pa以下に排気したのち、ヒータを用いて反応容器管内(基板を含む)を1.1×10Kまで加熱した。その結果、反応容器管内で塩化鉄(II)の無水物は昇華して、反応容器管の加熱領域の内部は、触媒源としての塩化鉄(II)の無水物から形成された気相触媒を含む雰囲気となった。
【0090】
こうして第一ステップを実施したのち、圧力調整バルブを用いて雰囲気圧力を4×10Paに維持するとともに、反応容器管内(基板を含む)の温度をヒータを用いて1.1×10Kに維持しながら、原料ガス供給部から原料ガスとしてのアセチレンを、気相助触媒供給部から気相助触媒としてのアセトンを、さらに、補助ガス供給部から不活性ガスとしてのアルゴンガスを、それぞれ表2に示される流量で反応容器管内に供給することにより第二ステップを実施した。
第二ステップを開始することにより、すなわち、アセチレンおよびアセトンの供給を開始することにより、ベース面上にCNTアレイが成長した。ベース面に平行な方向からカメラにてCNTアレイを1分おきに撮影し、第二ステップ開始から10分間のCNTアレイの成長高さを測定した。その結果を表2および図8に示す。
【0091】
【表2】
【0092】
(実施例3)
まず、次のようにして、第一ステップを実施した。
図1に示される構造を有する製造装置の反応容器管内に、石英からなるボート上に表面に0.95μm厚の熱酸化膜が形成されたシリコン板(20mm×5mm×厚さ1mm)を載置した。したがって、本実施例では、ベース面を構成する材料はシリコンの酸化膜であり、基板を構成する材料はシリコンであった。また、触媒源としての塩化鉄(II)の無水物を反応容器管内のボート以外の部分上に載置した。
排気装置を用いて反応容器管内を1×10−1Pa以下に排気したのち、ヒータを用いて反応容器管内(基板を含む)を1.1×10Kまで加熱した。その結果、反応容器管内で塩化鉄(II)の無水物は昇華して、反応容器管の加熱領域の内部は、触媒源としての塩化鉄(II)の無水物から形成された気相触媒を含む雰囲気となった。
【0093】
こうして第一ステップを実施したのち、圧力調整バルブを用いて雰囲気圧力を表3に示される圧力に維持するとともに、反応容器管内(基板を含む)の温度を、ヒータを用いて1.1×10Kに維持しながら、原料ガス供給部から原料ガスとしてのアセチレンを100sccmの流量で、気相助触媒供給部から気相助触媒としてのアセトンを40sccmの流量で、さらに、補助ガス供給部から不活性ガスとしてのアルゴンガスを60sccmの流量で、反応容器管内に供給することにより、第二ステップを実施した。
第二ステップを開始することにより、すなわち、アセチレンおよびアセトンの供給を開始することにより、ベース面上にCNTアレイが成長した。ベース面に平行な方向からカメラにてCNTアレイを1分おきに撮影し、第二ステップ開始から10分間のCNTアレイの成長高さを測定した。その結果を表3および図9に示す。
【0094】
【表3】
【0095】
(実施例4)
まず、次のようにして、第一ステップを実施した。
図1に示される構造を有する製造装置の反応容器管内に、石英からなるボート上に表面に0.45μm厚の熱酸化膜が形成されたシリコン板(20mm×5mm×厚さ1mm)を載置した。したがって、本実施例では、ベース面を構成する材料はシリコンの酸化膜であり、基板を構成する材料はシリコンであった。また、触媒源としての塩化鉄(II)の無水物を反応容器管内のボート以外の部分上に載置した。
排気装置を用いて反応容器管内を1×10−1Pa以下に排気したのち、ヒータを用いて反応容器管内(基板を含む)を表4に示される温度まで加熱した。その結果、いずれの温度の場合においても、反応容器管内で塩化鉄(II)の無水物は昇華して、反応容器管の加熱領域の内部は、触媒源としての塩化鉄(II)の無水物から形成された気相触媒を含む雰囲気となった。
【0096】
こうして第一ステップを実施したのち、圧力調整バルブを用いて雰囲気圧力を8×10Paに維持するとともに、反応容器管内(基板を含む)の温度をヒータを用いて表4に示される温度に維持しながら、原料ガス供給部から原料ガスとしてのアセチレン、気相助触媒供給部から気相助触媒としてのアセトン(対照試験である試験4−4から試験4−6ではアセトンを供給しなかった。)、さらに、補助ガス供給部から不活性ガスとしてのアルゴンガスを表4に示される流量で反応容器管内に供給することにより、第二ステップを実施した。
第二ステップを開始することにより、すなわち、アセチレンおよびアセトン(対照試験である試験4−4から試験4−6ではアセチレン)の供給を開始することにより、ベース面上にCNTアレイが成長した。ベース面に平行な方向からカメラにてCNTアレイを1分おきに撮影し、第二ステップ開始から3分間のCNTアレイの成長高さを測定した。その結果からCNTアレイの成長速度(単位:μm/min)を求め、それらの求めたCNTアレイの成長速度についてのアレニウスプロット(アセトンあり:試験4−1から4−3、アセトンなし:試験4−4から4−6)を作成し、気相助触媒としてのアセトンを用いる場合および用いない場合のそれぞれについて、活性化エネルギーを求めた。その結果を表4および図10に示す。
【0097】
【表4】
【0098】
(実施例5)
まず、次のようにして、第一ステップを実施した。
図1に示される構造を有する製造装置の反応容器管内に、石英からなるボート上に表面に0.45μm厚の熱酸化膜が形成されたシリコン板(20mm×5mm×厚さ1mm)を載置した。したがって、本実施例では、ベース面を構成する材料はシリコンの酸化膜であり、基板を構成する材料はシリコンであった。また、触媒源としての塩化鉄(II)の無水物反応容器管内のボート以外の部分上に載置した。
排気装置を用いて反応容器管内を1×10−1Pa以下に排気したのち、ヒータを用いて反応容器管内(基板を含む)を1.1×10Kまで加熱した。その結果、いずれの温度の場合においても、反応容器管内で塩化鉄(II)の無水物は昇華して、反応容器管の加熱領域の内部は、触媒源としての塩化鉄(II)の無水物から形成された気相触媒を含む雰囲気となった。
【0099】
こうして第一ステップを実施したのち、圧力調整バルブを用いて雰囲気圧力を8×10Paに維持するとともに、反応容器管内(基板を含む)の温度をヒータを用いて1.1×10Kに維持しながら、原料ガス供給部から原料ガスとしてのアセチレンおよび気相助触媒供給部から気相助触媒としてのアセトン(対照試験である試験5−8から試験5−14ではアセトンを供給しなかった。)を表5に示される流量で反応容器管内に供給することにより、第二ステップを実施した。
第二ステップを開始することにより、すなわち、アセチレンおよびアセトン(対照試験である試験5−8から試験5−14ではアセチレン)の供給を開始することにより、ベース面上にCNTアレイが成長した。ベース面に平行な方向からカメラにてCNTアレイを1分おきに測定し、CNTアレイの成長高さが表5に示される高さに到達した時点でアセチレン等の供給を停止して、第二ステップを終了した。
ヒータによる加熱を終了して反応容器管内の温度が室温となったことを確認してから、排気装置による反応容器管内の排気を終了し、反応容器管内に大気を導入してその雰囲気圧力を大気圧(1×10Pa)とした。その後、反応容器管を開放して、CNTアレイを基板ごと取り出した。
CNTアレイの側面に位置するCNTを含む一部のCNTをつまみ、つまんだCNTをCNTアレイから離間するように引っ張った。その結果、CNT交絡体が得られた場合には、CNT交絡体がCNTアレイから脱離したときのCNT交絡体の引っ張り方向の長さ(紡績長さ)を測定し、次の基準で紡績性を評価した。
A:紡績長さが1m超
B:紡績長さが10cm超1m以下
C:紡績長さが1cm以上10cm以下
D:紡績長さが1cm未満、または実質的にCNT交絡体が得られない
評価結果を表5に示す。
【0100】
【表5】
【0101】
表5に示されるように、本発明例に係る製造方法により製造されたCNTアレイ(試験5−1から5−7)は、CNT交絡体(具体的には1cm以上の長さのCNT交絡体)を形成することが可能であって、良好な紡績源部材であるといえる。また、本発明例に係る製造方法により製造されたCNTアレイからなる紡績源部材(試験5−1から5−7)は、紡績性に優れる。表5に示されるように、成長高さが0.4mm以上1.3mm以下であるCNTアレイからなる紡績源部材(試験5−1から5−5)は、1m超の長さの紡績を行うことが可能である。表5に示されるように、成長高さが0.8mm以上1.3mm以下であるCNTアレイからなる紡績源部材(試験5−3から5−5)は、1m超の長さの紡績を行うことが可能である。表5に示されるように、成長高さが1.3mm超2.0mm未満のCNTアレイからなる紡績源部材(試験5−6)は、10cm超1m以下の長さの紡績を行うことが可能である。表5に示されるように、成長高さが2mm以上のCNTアレイからなる紡績源部材(試験5−7)は、1cm以上10cm以下の長さの紡績を行うことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明に係るCNTアレイの製造方法により製造されたCNTアレイから得られるCNT交絡体は、例えば電気配線、発熱体、伸縮性シート状歪センサ、透明電極シートなどとして好適に用いられる。
【符号の説明】
【0103】
10…製造装置
12…電気炉
13…圧力計
14…反応容器管
16…ヒータ
18…熱電対
20…制御装置
22…ガス供給装置
23…圧力調整バルブ
24…排気装置
28…基板
30…原料ガス供給部
31…気相触媒供給部
32…気相助触媒供給部
33…補助ガス供給部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10