(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。本発明に係るリチウムイオン二次電池(以下、単に「二次電池」と記載することがある)は、正極、負極及び非水電解液を備える。正極は、正極活物質、正極用結着剤および導電材を含む。正極活物質は、SP値が9〜11(cal/cm
3)
1/2のニトリル基含有アクリル重合体で被覆されている。正極用結着剤はフッ素含有重合体である。以下、正極、負極及び非水電解液のそれぞれをさらに具体的に説明する。
【0025】
(正極)
正極は、集電体と、前記集電体上に積層される正極活物質層とからなる。正極活物質層は、正極活物質(A)、正極用結着剤(B)および導電材(C)を含み、必要に応じその他の成分を含む。また、正極活物質(A)は、SP値が9〜11(cal/cm
3)
1/2のニトリル基含有アクリル重合体で被覆された正極活物質である。
【0026】
(A)正極活物質
正極活物質は、リチウムイオンを挿入及び脱離可能な活物質が用いられ、このような正極活物質は、無機化合物からなるものと有機化合物からなるものとに大別される。
【0027】
無機化合物からなる正極活物質としては、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、リチウムと遷移金属とのリチウム含有複合金属酸化物などが挙げられる。
上記の遷移金属としては、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo等が使用される。
【0028】
遷移金属酸化物としては、MnO、MnO
2、V
2O
5、V
6O
13、TiO
2、Cu
2V
2O
3、非晶質V
2O−P
2O
5、MoO
3、V
2O
5、V
6O
13等が挙げられ、中でもサイクル特性と容量からMnO、V
2O
5、V
6O
13、TiO
2が好ましい。
遷移金属硫化物としては、TiS
2、TiS
3、非晶質MoS
2、FeS等が挙げられる。
【0029】
リチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、スピネル構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物などが挙げられる。
【0030】
層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO
2)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO
2)、Co−Ni−Mnのリチウム複合酸化物(Li(CoMnNi)O
2)、Li、Mn、Co及びNiを含むリチウム過剰層状化合物(Li[Ni
0.17Li
0.2Co
0.07Mn
0.56]O
2)、Ni−Mn−Alのリチウム複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム複合酸化物等が挙げられる。
スピネル構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)やMnの一部を他の遷移金属で置換したLi[Mn
3/2M
1/2]O
4(ここでMは、Cr、Fe、Co、Ni、Cu等)等が挙げられる。
【0031】
オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、Li
XMPO
4(式中、Mは、Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Mg,Zn,V,Ca,Sr,Ba,Ti,Al,Si,B及びMoから選ばれる少なくとも1種、0≦X≦2)で表されるオリビン型燐酸リチウム化合物が挙げられる。
【0032】
これらの中でも、サイクル特性と初期容量が優れることから、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO
2)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO
2)、Co−Ni−Mnのリチウム複合酸化物(Li(CoMnNi)O
2)、Li、Mn、Co及びNiを含むリチウム過剰層状化合物(Li[Ni
0.17Li
0.2Co
0.07Mn
0.56]O
2)、スピネル構造を有するリチウム含有複合金属酸化物(LiNi
0.5Mn
1.5O
4)が好ましく、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO
2)、Li、Mn、Co及びNiを含むリチウム過剰層状化合物(Li[Ni
0.17Li
0.2Co
0.07Mn
0.56]O
2)がより好ましい。
【0033】
有機化合物からなる正極活物質としては、例えば、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレンなどの導電性高分子を用いることもできる。
また、電気伝導性に乏しい、鉄系酸化物は、還元焼成時に炭素源物質を存在させることで、炭素材料で覆われた電極活物質として用いてもよい。
さらに、これら化合物を、部分的に元素置換したものを用いてもよい。
リチウムイオン二次電池用の正極活物質は、上記の無機化合物と有機化合物の混合物であってもよい。
【0034】
正極活物質の体積平均粒子径は、通常1〜50μm、好ましくは2〜30μmである。正極活物質の体積平均粒子径が上記範囲にあることにより、正極活物質層における正極用結着剤の量を少なくすることができ、電池の容量の低下を抑制できる。また、正極活物質層を形成するためには、通常、正極活物質及び正極用結着剤を含むスラリー(以下、「正極用スラリー組成物」と記載することがある。)を用意するが、この正極用スラリー組成物を、塗布するのに適正な粘度に調製することが容易になり、均一な正極活物質層を得ることができる。
【0035】
正極活物質層における正極活物質の含有割合は、好ましくは90〜99.9質量%、より好ましくは95〜99質量%である。正極活物質層における正極活物質の含有量を、上記範囲とすることにより、高い容量を示しながらも柔軟性、結着性を示すことができる。
【0036】
本発明における正極活物質(A)は、ニトリル基含有アクリル重合体で被覆されている。ニトリル基含有アクリル重合体で被覆された正極活物質(A)を用いることで、リチウムイオン二次電池の高電位でのサイクル特性が向上する。以下、ニトリル基含有アクリル重合体について説明する。
【0037】
ニトリル基含有アクリル重合体
ニトリル基含有アクリル重合体は、ニトリル基含有単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む重合体である。ニトリル基含有単量体単位は、ニトリル基を有する単量体を重合して形成される構造単位のことをいい、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は、(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合して形成される構造単位のことをいう。ニトリル基含有アクリル重合体は、ニトリル基含有単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含み、さらに必要に応じ、エチレン性不飽和酸単量体単位および、架橋性単量体などのその他の単量体から導かれる単量体単位を含む。これらの単量体単位は、当該単量体を重合して形成される構造単位である。ここで、各単量体の含有割合(単量体の仕込み比)は、通常、ニトリル基含有アクリル重合体における各単量体単位の含有割合と一致する。
【0038】
ニトリル基含有単量体の具体例としては、アクリロニトリルやメタクリロニトリルなどが挙げられ、中でもアクリロニトリルが、集電体との密着性を高め、電極強度を向上できる点で好ましい。
【0039】
ニトリル基含有アクリル重合体におけるニトリル基含有単量体単位の含有割合は、好ましくは5〜35質量%、さらに好ましくは10〜30質量%、特に好ましくは15〜25質量%の範囲である。ニトリル基含有単量体単位の含有割合がこの範囲であると、集電体との密着性に優れ、得られる電極の強度が向上する。
【0040】
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は、一般式(1):CH
2=CR
1−COOR
2(式中、R
1は水素原子またはメチル基を、R
2はアルキル基またはシクロアルキル基を表す。)で表される化合物由来の単量体を重合して形成される構造単位である。
【0041】
一般式(1)で表される化合物の具体例としては、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリルなどのアクリレート;メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリルなどのメタクリレートが挙げられる。これらの中でも、アクリレートが好ましく、アクリル酸n−ブチルおよびアクリル酸2−エチルヘキシルが、得られる電極の強度を向上できる点で、特に好ましい。
【0042】
(メタ)アクリル酸エステル単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせてもよい。したがって、ニトリル基含有アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体を、1種類だけ含んでいてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて含んでいてもよい。
【0043】
ニトリル基含有アクリル重合体中の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、好ましくは35〜85質量%、より好ましくは45〜80質量%、さらに好ましくは45〜75質量%、特に好ましくは50〜70質量%である。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合が前記範囲であるニトリル基含有アクリル重合体を用いると、電極の柔軟性が高く、非水電解液に対する膨潤性が抑制される。また、耐熱性が高く、かつ得られる電極の内部抵抗を小さくできる。
【0044】
ニトリル基含有アクリル重合体は、上記ニトリル基含有単量体単位及び(メタ)アクリル酸エステル単量体単位に加えて、エチレン性不飽和酸単量体単位を含んでいてもよい。
エチレン性不飽和酸単量体単位は、エチレン性不飽和酸単量体を重合して形成される構造単位である。エチレン性不飽和酸単量体は、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスフィニル基等の酸基を有するエチレン性不飽和単量体であり、特定の単量体に限定されない。エチレン性不飽和酸単量体の具体例は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体、エチレン性不飽和スルホン酸単量体、エチレン性不飽和リン酸単量体等である。
【0045】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体の具体例としては、エチレン性不飽和モノカルボン酸及びその誘導体、エチレン性不飽和ジカルボン酸及びその酸無水物並びにそれらの誘導体が挙げられる。
【0046】
エチレン性不飽和モノカルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、及びクロトン酸が挙げられる。
【0047】
エチレン性不飽和モノカルボン酸の誘導体の例としては、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α−アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、及びβ−ジアミノアクリル酸が挙げられる。
【0048】
エチレン性不飽和ジカルボン酸の例としては、マレイン酸、フマル酸、及びイタコン酸が挙げられる。
【0049】
エチレン性不飽和ジカルボン酸の酸無水物の例としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、及びジメチル無水マレイン酸が挙げられる。
【0050】
エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体の例としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸等のマレイン酸メチルアリル;並びにマレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキル等のマレイン酸エステルが挙げられる。
【0051】
エチレン性不飽和スルホン酸単量体の具体例は、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリルスルホン酸、(メタ)アクリル酸−2−スルホン酸エチル、2−アクリルアミド−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等である。
【0052】
エチレン性不飽和リン酸単量体の具体例は、(メタ)アクリル酸−3−クロロ−2−リン酸プロピル、(メタ)アクリル酸−2−リン酸エチル、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンリン酸等である。
【0053】
また、上記エチレン性不飽和酸単量体のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩も用いることができる。
【0054】
上記エチレン性不飽和酸単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせてもよい。したがって、ニトリル基含有アクリル重合体は、エチレン性不飽和酸単量体を、1種類だけ含んでいてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて含んでいてもよい。
【0055】
これらの中でも、ニトリル基含有アクリル重合体の分散性を向上するという観点から、エチレン性不飽和酸単量体としては、エチレン性不飽和カルボン酸単量体またはエチレン性不飽和スルホン酸単量体を単独で用いるか、エチレン性不飽和カルボン酸単量体とエチレン性不飽和スルホン酸単量体との併用が好ましい。
【0056】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体の中でも、ニトリル基含有アクリル重合体に良好な分散性を発現させるという観点から、好ましくはエチレン性不飽和モノカルボン酸であり、より好ましくはアクリル酸やメタクリル酸であり、特に好ましくはメタクリル酸である。
【0057】
また、エチレン性不飽和スルホン酸単量体の中でも、ニトリル基含有アクリル重合体に良好な分散性を発現させるという観点から、好ましくは2−アクリルアミド−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸であり、より好ましくは2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸である。
【0058】
ニトリル基含有アクリル重合体におけるエチレン性不飽和酸単量体単位の含有割合は、好ましくは3〜30質量%、より好ましくは10〜30質量%、さらに好ましくは12〜28質量%、特に好ましくは14〜26質量%の範囲である。エチレン性不飽和酸単量体として、エチレン性不飽和カルボン酸単量体とエチレン性不飽和スルホン酸単量体とを併用する場合、ニトリル基含有アクリル重合体におけるエチレン性不飽和カルボン酸単量体の含有割合は、好ましくは3〜30質量%、さらに好ましくは10〜30質量%、特に好ましくは12〜28質量%であり、エチレン性不飽和スルホン酸単量体の含有割合は、好ましくは0.1〜10質量%である。
【0059】
エチレン性不飽和酸単量体単位の含有割合を上記範囲とすることで、スラリー化した際のニトリル基含有アクリル重合体の分散性が向上し、正極活物質を良好に被覆でき、その結果、均一性の高い正極活物質層を形成でき、正極の抵抗を低減できる。
【0060】
ニトリル基含有アクリル重合体は、上記各単量体単位に加え、ニトリル基含有アクリル重合体のTHF不溶解分量に影響を与えない範囲で、さらに架橋性単量体単位を含んでいてもよい。架橋性単量体単位は、架橋性単量体を加熱またはエネルギー照射により、重合中または重合後に架橋構造を形成しうる構造単位である。架橋性単量体の例としては、通常は、熱架橋性を有する単量体を挙げることができる。より具体的には、熱架橋性の架橋性基及び1分子あたり1つのオレフィン性二重結合を有する単官能性単量体、及び1分子あたり2つ以上のオレフィン性二重結合を有する多官能性単量体が挙げられる。
【0061】
単官能性単量体に含まれる熱架橋性の架橋性基の例としては、エポキシ基、N−メチロールアミド基、オキセタニル基、オキサゾリン基、及びこれらの組み合わせが挙げられる。これらの中でも、エポキシ基が、架橋及び架橋密度の調節が容易な点でより好ましい。
【0062】
熱架橋性の架橋性基としてエポキシ基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブテニルグリシジルエーテル、o−アリルフェニルグリシジルエーテルなどの不飽和グリシジルエーテル;ブタジエンモノエポキシド、クロロプレンモノエポキシド、4,5−エポキシ−2−ペンテン、3,4−エポキシ−1−ビニルシクロヘキセン、1,2−エポキシ−5,9−シクロドデカジエンなどのジエンまたはポリエンのモノエポキシド;3,4−エポキシ−1−ブテン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−9−デセンなどのアルケニルエポキシド;並びにグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルクロトネート、グリシジル−4−ヘプテノエート、グリシジルソルベート、グリシジルリノレート、グリシジル−4−メチル−3−ペンテノエート、3−シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステル、4−メチル−3−シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステルなどの不飽和カルボン酸のグリシジルエステル類が挙げられる。
【0063】
熱架橋性の架橋性基としてN−メチロールアミド基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなどのメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。
【0064】
熱架橋性の架橋性基としてオキセタニル基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)オキセタン、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−2−トリフロロメチルオキセタン、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−2−フェニルオキセタン、2−((メタ)アクリロイルオキシメチル)オキセタン、及び2−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−4−トリフロロメチルオキセタンが挙げられる。
【0065】
熱架橋性の架橋性基としてオキサゾリン基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリン、及び2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリンが挙げられる。
【0066】
2つ以上のオレフィン性二重結合を有する多官能性単量体の例としては、アリル(メタ)アクリレート、エチレンジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン−トリ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジアリルエーテル、ポリグリコールジアリルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ヒドロキノンジアリルエーテル、テトラアリルオキシエタン、トリメチロールプロパン−ジアリルエーテル、前記以外の多官能性アルコールのアリルまたはビニルエーテル、トリアリルアミン、メチレンビスアクリルアミド、及びジビニルベンゼンが挙げられる。
【0067】
架橋性単量体としては、特に、アリル(メタ)アクリレート、エチレンジ(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、及びグリシジルメタクリレートを好ましく用いることができる。
【0068】
上記架橋性単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせてもよい。したがって、ニトリル基含有アクリル重合体は、架橋性単量体を、1種類だけ含んでいてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて含んでいてもよい。
【0069】
ニトリル基含有アクリル重合体に架橋性単量体単位が含まれる場合、その含有割合は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、特に好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。架橋性単量体単位の含有割合を前記範囲の下限値以上とすることにより、ニトリル基含有アクリル重合体の架橋度を高め、膨潤度が過度に上昇することを防止しうる。一方、架橋性単量体単位の比率を前記範囲の上限値以下とすることにより、ニトリル基含有アクリル重合体の分散性を良好にすることができる。したがって、架橋性単量体単位の含有割合を前記範囲内とすることにより、膨潤度及び分散性の両方を良好なものとすることができる。
【0070】
また、ニトリル基含有アクリル重合体には、上記に加えて、芳香族ビニル単量体単位、エチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体単位などが含まれていてもよい。
【0071】
芳香族ビニル単量体の例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、ヒドロキシメチルスチレンなどを挙げることができる。
【0072】
エチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体の例としては、(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0073】
これらの単量体単位を含むことで、スラリー化した際のニトリル基含有アクリル重合体の分散性が向上し、正極活物質を良好に被覆できる。これらの単量体単位は、10質量%以下の割合で含まれていてもよい。
【0074】
ここで、各単量体の含有割合(単量体の仕込み比)は、通常、ニトリル基含有アクリル重合体における各単量体単位(例えば、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、エチレン性不飽和酸単量体単位、及び架橋性単量体単位)の含有割合と一致する。
【0075】
次に、ニトリル基含有アクリル重合体のSP値、非水電解液に対する膨潤度、およびニトリル基含有アクリル重合体のテトラヒドロフラン(THF)不溶解分量について説明する。
【0076】
ニトリル基含有アクリル重合体のSP値は、9〜11(cal/cm
3)
1/2であり、好ましくは9〜10.5(cal/cm
3)
1/2であり、より好ましくは9.5〜10(cal/cm
3)
1/2である。ニトリル基含有アクリル重合体のSP値を、上記範囲にすることにより、後述する正極用スラリー組成物を製造する際に用いる分散媒(以下、「スラリー分散媒」と記載することがある。)への溶解性を維持しながら、非水電解液への適度な膨潤性をもたせることができる。それにより、得られる電極の均一性がより向上し、それを用いた二次電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0077】
SP値とは、溶解度パラメーターのことを意味する。このSP値は、J.BrandrupおよびE.H.Immergut編‘‘Polymer Handbook’’ VII Solubility Paramet Values,pp519−559(John Wiley & Sons社、第3版1989年発行)に記載される方法に従って求めることができる。
【0078】
また、上記の文献‘‘Polymer Handbook’’に記載のないポリマーのSP値は、Smallが提案した「分子引力定数法」に従って求めることができる。この方法は、化合物分子を構成する官能基(原子団)の特性値、すなわち、分子引力定数(G)の統計と分子量とから次式に従ってSP値(δ)を求める方法である。
δ=ΣG/V=dΣG/M
前記の式において、δはSP値を表し、ΣGは分子引力定数Gの総計を表し、Vは比容を表し、Mは分子量を表し、dは比重を表す。
【0079】
さらに、2種類以上のニトリル基含有アクリル重合体を組み合わせて正極活物質の表面を被覆する場合には、ニトリル基含有アクリル重合体全体のSP値は、個々のニトリル基含有アクリル重合体のSP値と混合モル比とから計算で求めることができる。具体的には、個々のニトリル基含有アクリル重合体のSP値についてモル比によって重み付けした加重平均として、ニトリル基含有アクリル重合体全体のSP値を算出する。
【0080】
ニトリル基含有アクリル重合体が上記のようなSP値を有することは、ニトリル基含有アクリル重合体がスラリー分散媒には溶解するが、非水電解液には膨潤することを意味する。したがって、リチウムイオン二次電池において、正極活物質のニトリル基含有アクリル重合体に被覆された部分は、非水電解液に接触しないので、正極活物質の劣化が抑制され、充放電サイクルを繰り返してもサイクル特性の低下を防止できる。
【0081】
また、ニトリル基含有アクリル重合体が上記のようなSP値を有することは、ニトリル基含有アクリル重合体がリチウムイオン二次電池の非水電解液に膨潤しうることを意味する。したがって、本発明のリチウムイオン二次電池においてニトリル基含有アクリル重合体はイオンの移動を妨げないので、リチウムイオン二次電池の正極における内部抵抗を小さく抑えることができる。また、通常は、リチウムイオン二次電池には水は含まれないか、含まれるとしても少量であるので、ニトリル基含有アクリル重合体が膨潤しても正極活物質の溶出による集電体の腐食は進行し難くなっている。
【0082】
ニトリル基含有アクリル重合体の非水電解液に対する膨潤度は、かかる重合体の体積が非水電解液中で著しく変化することを避けるため、好ましくは1.0倍以上3倍以下であり、より好ましくは1.0倍以上2.8倍以下、さらに好ましくは1.0倍以上2.6倍以下である。ここで、非水電解液は、本発明のリチウムイオン二次電池を構成する電解液である。非水電解液に対するニトリル基含有アクリル重合体の膨潤度を上記範囲とすることで、充放電サイクルを繰り返しても、正極活物質層の集電体に対する密着性が維持され、サイクル特性が向上する。非水電解液に対する膨潤度は、例えば、前述した各単量体単位の含有割合により制御することができる。具体的には、ニトリル基含有単量体単位の含有割合を増やすと増大する。また、エチレン性不飽和酸単量体単位の含有割合を増やすと減少する。
【0083】
また、ニトリル基含有アクリル重合体のテトラヒドロフラン(THF)不溶解分量は、かかる重合体をスラリー分散媒に適度に溶解させるため、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下の範囲にある。THF不溶解分は、ゲル量の指標であり、THF不溶解分量が多いと、N−メチルピロリドン(以下、NMPと記載することがある)などの有機溶剤を用いたスラリー中において粒子状で存在する可能性が高くなり、スラリー中での分散性が損なわれることがある。THF不溶解分量は、後述するように、重合反応温度、単量体の添加時間、重合開始剤量等により制御することができる。具体的には、重合反応温度を上げる、重合開始剤、連鎖移動剤を多くするなどの方法でTHF不溶解分量が減少する。なお、THF不溶解分量の下限は特に限定されないが、好ましくは0質量%以上であり、より好ましくは0質量%より大きく、特に好ましくは5質量%以上である。
【0084】
非水電解液とスラリー分散媒である有機溶剤とは、溶解パラメーター(SP値)が近いため、重合体の非水電解液に対する膨潤度を適切な範囲内とすると、スラリー分散媒である有機溶剤にはかかる重合体が溶解しない(THF不溶解分量が過多となる)場合があり、反対に、かかる重合体が有機溶剤に溶解しやすくすると、該重合体の非水電解液に対する膨潤度が適切な範囲外となってしまう場合があるが、本発明では、これらの膨潤度およびTHF不溶解分量が、共に、適切な範囲内にある。
【0085】
ニトリル基含有アクリル重合体の製法は特に限定はされないが、上述したように、ニトリル基含有アクリル重合体を構成する単量体を含む単量体混合物を、乳化重合して得ることができる。乳化重合の方法としては、特に限定されず、従来公知の乳化重合法を採用すればよい。混合方法は特に限定されず、例えば、撹拌式、振とう式、および回転式などの混合装置を使用した方法が挙げられる。また、ホモジナイザー、ボールミル、サンドミル、ロールミル、プラネタリーミキサーおよび遊星式混練機などの分散混練装置を使用した方法が挙げられる。
【0086】
乳化重合に使用する重合開始剤としては、たとえば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0087】
これらのなかでも、無機過酸化物が好ましく使用できる。これらの重合開始剤は、それぞれ単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。また、過酸化物開始剤は、重亜硫酸ナトリウム等の還元剤と組み合わせて、レドックス系重合開始剤として使用することもできる。
【0088】
重合開始剤の使用量は、重合に使用する単量体混合物の全量100質量部に対して、好ましくは0.05〜5質量部、より好ましくは0.1〜2質量部である。上記範囲で、重合開始剤を使用することで、得られるニトリル基含有アクリル重合体のTHF不溶分量を適切に調節し得る。
【0089】
得られるニトリル基含有アクリル重合体のTHF不溶分量を調節するために、乳化重合時に連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤としては、たとえば、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン;ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物;ターピノレンや、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物;2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物;アリルアルコール等のアリル化合物;ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物;チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレート、ジフェニルエチレン、α−メチルスチレンダイマーなどが挙げられる。
【0090】
これらのなかでも、アルキルメルカプタンが好ましく、t−ドデシルメルカプタンがより好ましく使用できる。これらの連鎖移動剤は、単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0091】
連鎖移動剤の使用量は、単量体混合物100質量部に対して、好ましくは0.05〜2質量部、より好ましくは0.1〜1質量部である。
【0092】
乳化重合時に、界面活性剤を使用してもよい。界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれであってもよい。アニオン性界面活性剤の具体例としては、ナトリウムラウリルサルフェート、アンモニウムラウリルサルフェート、ナトリウムドデシルサルフェート、アンモニウムドデシルサルフェート、ナトリウムオクチルサルフェート、ナトリウムデシルサルフェート、ナトリウムテトラデシルサルフェート、ナトリウムヘキサデシルサルフェート、ナトリウムオクタデシルサルフェートなどの高級アルコールの硫酸エステル塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ヘキサデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩;ラウリルスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム、テトラデシルスルホン酸ナトリウムなどの脂肪族スルホン酸塩;などが挙げられる。
【0093】
界面活性剤の使用量は、単量体混合物100質量部に対して、好ましくは0.5〜10質量部、より好ましくは1〜5質量部である。
【0094】
さらに乳化重合の際に、水酸化ナトリウム、アンモニアなどのpH調整剤;分散剤、キレート剤、酸素捕捉剤、ビルダー、粒子径調節のためのシードラテックスなどの各種添加剤を適宜使用することができる。シードラテックスとは、乳化重合の際に反応の核となる微小粒子の分散液をいう。微小粒子は粒径が100nm以下であることが多い。微小粒子は特に限定はされず、ジエン系重合体やアクリル系重合体などの汎用の重合体が用いられる。シードラテックスを用いた乳化重合法によれば、比較的粒径の揃った重合体粒子が得られる。
【0095】
重合反応を行う際の重合温度は、特に限定されないが、通常、0〜100℃、好ましくは40〜80℃とする。このような温度範囲で乳化重合し、所定の重合転化率で、重合停止剤を添加したり、重合系を冷却したりして、重合反応を停止する。重合反応を停止する重合転化率は、好ましくは93質量%以上、より好ましくは95質量%以上である。また、重合温度を上記範囲とすることにより、得られるニトリル基含有アクリル重合体のTHF不溶分量を適切に調節し得る。
【0096】
重合反応を停止した後、所望により、未反応単量体を除去し、pHや固形分濃度を調整して、重合体が分散媒に分散された形態(ラテックス)でニトリル基含有アクリル重合体が得られる。その後、必要に応じ、分散媒を置換してもよく、また分散媒を蒸発し、粒子状のニトリル基含有アクリル重合体を粉末形状で得てもよい。
【0097】
ニトリル基含有アクリル重合体の分散液には、公知の分散剤、増粘剤、老化防止剤、消泡剤、防腐剤、抗菌剤、ブリスター防止剤、pH調整剤などを必要に応じて添加することもできる。
【0098】
上記のニトリル基含有アクリル重合体を用いて正極活物質を被覆する方法は特に限定されず、例えば、正極用スラリー組成物を調整する際に、正極活物質とニトリル基含有アクリル重合体とを混合し攪拌することで得ることができる。混合・攪拌する方法は特に限定されない。また、ニトリル基含有アクリル重合体の量は、正極活物質100質量部に対して、好ましくは0.05〜1.95質量部、より好ましくは0.1〜1.0質量部、特に好ましくは0.2〜0.6質量部である。ニトリル基含有アクリル重合体の量が上記範囲にあると、正極活物質を良好に被覆することができる。なお、本発明において、ニトリル基含有アクリル重合体は、正極活物質を被覆する機能だけでなく、結着剤としての機能も有することができる。
【0099】
(B)正極用結着剤
正極用結着剤(B)は、フッ素含有重合体を含む。
【0100】
フッ素含有重合体
正極用結着剤には、フッ素含有重合体を用いる。正極用結着剤が、フッ素含有重合体を含むことで、スラリーの安定性が向上し、また非水電解液に対する結着剤の膨潤を抑制し、サイクル特性が向上する。
【0101】
フッ素含有重合体は、フッ素含有単量体単位を含む重合体である。フッ素含有単量体単位は、フッ素含有単量体を重合して形成される構造単位である。フッ素含有重合体は、具体的には、フッ素含有単量体の単独重合体、フッ素含有単量体とこれと共重合可能な他のフッ素含有単量体との共重合体、フッ素含有単量体とこれと共重合可能な単量体との共重合体、フッ素含有単量体とこれと共重合可能な他のフッ素含有単量体とこれらと共重合可能な単量体との共重合体が挙げられる。
【0102】
フッ素含有単量体としては、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、三フッ化塩化ビニル、フッ化ビニル、パーフルオロアルキルビニルエーテルなどが挙げられるが、フッ化ビニリデンが好ましい。
【0103】
フッ素含有重合体における、フッ素含有単量体単位の割合は、通常70質量%以上、好ましくは80質量%以上である。なお、フッ素含有重合体における、フッ素含有単量体単位の割合の上限は100質量%である。
【0104】
フッ素含有単量体と共重合可能な単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどの1−オレフィン;スチレン、α−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレンなどの芳香族ビニル化合物;(メタ)アクリロニトリル(アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルの略記。以後同様。)などの不飽和ニトリル化合物;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸エステル化合物;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド化合物;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、マレイン酸などのカルボキシル基含有ビニル化合物; アリルグリシジルエーテル、(メタ)アクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有不飽和化合物;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルなどのアミノ基含有不飽和化合物;スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸などのスルホン酸基含有不飽和化合物;3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパン硫酸などの硫酸基含有不飽和化合物;(メタ)アクリル酸−3−クロロ−2−燐酸プロピル、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパン燐酸などの燐酸基含有不飽和化合物などが挙げられる。
【0105】
フッ素含有重合体における、フッ素含有単量体と共重合可能な単量体単位の割合は、通常30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。
【0106】
フッ素含有重合体の中でも、フッ素含有単量体としてフッ化ビニリデンを含む重合体、具体的には、フッ化ビニリデンの単独重合体、フッ化ビニリデンとこれと共重合可能な他のフッ素含有単量体との共重合体、フッ化ビニリデンとこれと共重合可能な他のフッ素含有単量体とこれらと共重合可能な単量体との共重合体、フッ化ビニリデンとこれと共重合な単量体との共重合体が好ましい。
【0107】
上記のようなフッ素含有重合体の中でも、フッ化ビニリデンの単独重合体(ポリフッ化ビニリデン)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニルが好ましく、ポリフッ化ビニリデンがより好ましい。
【0108】
フッ素含有重合体は、一種単独であってもよく、また2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合は、低分子量体と高分子量体とを併用することが好ましい。具体的には、ASTM D3835 /232℃100sec
−1で測定されるフッ素含有重合体の溶融粘度が35kpoise未満であるものを低分子量、35kpoise以上であるものを高分子量とし、両者を併用することが好ましい。
例えば、高分子量のポリフッ化ビニリデンとして、アルケマ社製KYNAR HSV900、ソルベイ社製Solef6020、Solef6010、Solef1015、Solef5130 クレハ社製KF7208が挙げられる。また、低分子量のポリフッ化ビニリデンとして、例えば、アルケマ社製KYNAR710 720 740 760 760A、ソルベイ社製Solef6008、クレハ社製KF1120が挙げられる。
【0109】
フッ素含有重合体として、高分子量体と低分子量体とを組み合わせて用いる場合、フッ素含有重合体の低分子量体と高分子量体との重量比(低分子量体/高分子量体)は、好ましくは、30/70〜70/30である。
低分子量体と高分子量体とをかかる範囲の比率で併用することにより、正極活物質同士の結着性や集電体と正極活物質との結着性、スラリーの均一性をより有効に保つことができる。
【0110】
フッ素含有重合体のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィによるポリスチレン換算値の重量平均分子量は、好ましくは100,000〜2,000,000、より好ましくは200,000〜1,500,000、特に好ましくは400,000〜1,000,000である。
【0111】
フッ素含有重合体の重量平均分子量を上記範囲とすることで、正極活物質層における正極活物質(A)、導電材(C)などの脱離(粉落ち)が抑制され、また正極用スラリー組成物の粘度調整が容易になる。
【0112】
フッ素含有重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは0℃以下、より好ましくは−20℃以下、特に好ましくは−30℃以下である。フッ素含有重合体のTgの下限は特に限定されないが、好ましくは−50℃以上、より好ましくは−40℃以上である。フッ素含有重合体のTgが上記範囲にあることにより、正極活物質層における正極活物質(A)、導電材(C)などの脱離(粉落ち)が抑制できる。また、フッ素含有重合体のTgは、様々な単量体を組み合わせることによって調整可能である。なお、Tgは示差走査熱量分析計を用いて、JIS K 7121;1987に基づいて測定できる。
【0113】
フッ素含有重合体の融点(Tm)は、好ましくは190℃以下、より好ましくは150〜180℃、さらに好ましくは160〜170℃である。フッ素含有重合体のTmが上記範囲にあることにより、柔軟性と密着強度に優れる正極を得ることができる。また、フッ素含有重合体のTmは、様々な単量体を組み合わせること、もしくは重合温度を制御することなどによって調整可能である。なお、Tmは示差走査熱量分析計を用いて、JIS K 7121;1987に基づいて測定できる。
【0114】
フッ素含有重合体の製造方法は特に限定はされず、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。これらの中でも、懸濁重合法や乳化重合法が好ましい。乳化重合法によりフッ素含有重合体を製造することで、フッ素含有重合体の生産性を向上できると共に、所望の平均粒径を有するフッ素含有重合体を得ることができる。重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの反応も用いることができる。重合に用いる重合開始剤としては、たとえば過酸化ラウロイル、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイドなどの有機過酸化物、α,α’−アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物、または過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどが挙げられる。
【0115】
フッ素含有重合体は、分散媒に分散された分散液または溶解された溶液の状態で使用される。分散媒としては、フッ素含有重合体を均一に分散または溶解し得るものであれば、特に制限されず、水や有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの環状脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;アセトン、エチルメチルケトン、ジイソプロピルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、エチルシクロヘキノサンなどのケトン類;メチレンクロライド、クロロホルム、四塩化炭素など塩素脂肪族炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、プロピオニトリルなどのアルキルニトリル類;テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル類:メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのアルコール類;N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類が挙げられる。
【0116】
これらの分散媒は、単独で使用しても、これらを2種以上混合して混合溶媒として使用してもよい。これらの中でも特に、正極用スラリー組成物作製時に工業上使用されていること、製造上揮発しにくいこと、その結果、正極用スラリー組成物の揮発を抑えられ、得られる正極の平滑性が向上することから、水、若しくはN−メチルピロリドン、シクロヘキサノンやトルエン等が好ましい。
【0117】
フッ素含有重合体が分散媒に粒子状で分散している場合において、フッ素含有重合体を含む分散液の固形分濃度は、取扱い性の観点から、通常1〜25質量%であり、3〜20質量%が好ましく、5〜15質量%がさらに好ましい。
【0118】
また、フッ素含有重合体を8%溶液となるようにN−メチルピロリドン(以下、「NMP」と記すことがある。)に溶解させた時の粘度は、好ましくは10〜5000mPa・s、より好ましくは100〜2000mPa・sである。フッ素含有重合体の8%NMP溶液粘度を上記範囲とすることで、正極用スラリー組成物の製造時に正極用スラリー組成物を塗工しやすい粘度に調整することが容易である。フッ素含有重合体の8%NMP溶液粘度は、フッ素含有重合体を8%溶液となるようにNMPに溶解させ、これに対し25℃、60rpmで、B型粘度計(東機産業製 RB−80L)を用いて、JIS K 7117−1;1999に基づいて測定できる。
【0119】
正極用結着剤は、上記したフッ素含有重合体を含む。正極活物質が特定のニトリル基含有アクリル重合体により被覆されていることに加え、正極用結着剤がフッ素含有重合体を含むことで、捲回体の折り曲げ性の優れた正極電極や、初期容量、出力特性、高電位サイクル特性の優れたリチウムイオン二次電池が得られる。
【0120】
正極用結着剤の全量100質量%に対して、フッ素含有重合体の割合は、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは60〜90質量%、さらに好ましくは70〜85質量%である。
【0121】
正極用結着剤は、上記したフッ素含有重合体に加え、必要に応じ、結着剤として使用可能なその他の重合体を含んでいてもよい。併用してもよいその他の重合体としては、たとえば、ポリアクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル誘導体などの樹脂や、アクリレート軟質重合体、ジエン軟質重合体、オレフィン軟質重合体、ビニル軟質重合体等の軟質重合体が挙げられる。これらは単独で使用しても、これらを2種以上併用してもよい。前記その他の重合体は、正極用結着剤の全量100質量%に対して、30質量%以下、さらには0.1〜20質量%、特に0.2〜10質量%の割合で含まれていてもよい。なお、ここでいう、正極用結着剤の量には、SP値が9〜11(cal/cm
3)
1/2のニトリル基含有アクリル重合体の量は含まない。
【0122】
正極用結着剤の量は、正極活物質100質量部に対して、好ましくは0.4〜2質量部、より好ましくは1〜2質量部、特に好ましくは1.5〜2質量部の範囲である。正極用結着剤の量がかかる範囲にあると、得られる正極活物質層と集電体との密着性が充分に確保でき、リチウムイオン二次電池の容量を高く且つ内部抵抗を低くすることができる。
【0123】
(C)導電材
正極は、導電材を含有する。正極に含まれる導電材の粒子径は、個数平均粒子径で、好ましくは5〜40nm、より好ましくは10〜38nm、さらに好ましくは15〜36nmである。正極における導電材の粒子径が小さすぎると、凝集しやすくなり、均一分散が困難になる結果、電極の内部抵抗が増大し、容量の向上が困難になる傾向にある。しかし、上述した正極用結着剤を使用することで、微粒化された導電材を均一に分散することが可能になり、容量向上が図られる。また、導電材の粒子径が大きすぎると、正極活物質間に存在することが困難になり、正極活物質層の内部抵抗が増大し、容量の向上が困難になる。導電材の個数平均粒子径は、導電材を水中に0.01質量%で超音波分散させた後、動的光散乱式粒子径・粒度分布測定装置(例えば、日機装株式会社製、粒度分布測定装置 Nanotrac Wave−EX150)を使用して測定することにより求めることができる。
【0124】
また、正極における導電材の比表面積(BET式)は、好ましくは1500m
2/g以下、より好ましくは1000m
2/g以下、特に好ましくは400m
2/g以下である。導電材の比表面積が大きすぎると、凝集しやすくなり、均一分散が困難になる結果、正極活物質層の内部抵抗が増大し、容量の向上が困難になる。なお、導電材としては、上述した比表面積を有する1種類の導電材を単独で用いてもよいし、互いに異なる比表面積を有する2種類以上の導電材を、混合後の導電材のBET比表面積が上述した範囲内の大きさになるように組み合わせて用いてもよい。
【0125】
導電材としては、負極と同様に、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラファイト、気相成長カーボン繊維、およびカーボンナノチューブ等の導電性カーボンを使用することができる。導電材を含有することにより、正極用スラリー組成物製造時の安定性が向上し、また正極活物質層における正極活物質同士の電気的接触を向上させることができ、高容量化が図られる。導電材の含有量は、正極活物質の総量100質量部に対して、好ましくは1〜3質量部、より好ましくは1.2〜2.8質量部、特に好ましくは1.5〜2.5質量部である。導電材の含有量が少なすぎると、正極活物質層における内部抵抗が増大し、高容量化が困難になる場合がある。また導電材の含有量が多すぎると、正極の高密度化が困難になり、初期容量が低下する場合がある。
【0126】
その他の正極成分
また、正極にはさらに、任意の成分として、後述する負極と同様に、補強材、レベリング剤、電解液分解抑制等の機能を有する電解液添加剤等が含まれていてもよく、さらに、正極製造時に調製するスラリーに含まれる増粘剤等が残留していてもよい。
【0127】
補強材としては、各種の無機および有機の球状、板状、棒状または繊維状のフィラーが使用できる。補強材を用いることにより強靭で柔軟な正極を得ることができ、優れた長期サイクル特性を示すことができる。補強材の含有量は、正極活物質の総量100質量部に対して通常0.01〜20質量部、好ましくは1〜10質量部である。補強材が上記範囲含まれることにより、高い容量と高い負荷特性を示すことができる。
【0128】
レベリング剤としては、アルキル系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、金属系界面活性剤などの界面活性剤が挙げられる。レベリング剤を混合することにより、塗工時に発生するはじきを防止したり、正極の平滑性を向上させることができる。レベリング剤の含有量は、正極活物質の総量100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部である。レベリング剤が上記範囲含まれることにより、正極作製時の生産性、平滑性及び電池特性に優れる。
【0129】
電解液添加剤としては、電解液に使用されるビニレンカーボネートなどを用いることができる。電解液添加剤の含有量は、正極活物質の総量100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部である。電解液添加剤の含有量が、上記範囲であることにより、得られるリチウムイオン二次電池のサイクル特性及び高温特性に優れる。その他には、フュームドシリカやフュームドアルミナなどのナノ微粒子が挙げられる。ナノ微粒子を混合することにより正極を製造する際に調整するスラリー組成物のチキソ性をコントロールすることができ、さらにそれにより得られる正極のレベリング性を向上させることができる。ナノ微粒子の含有量は、正極活物質の総量100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部である。正極用スラリー組成物にナノ微粒子を上記比率となるように用いると、スラリー安定性、生産性に優れ、高い電池特性を示す。
【0130】
リチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物の製造方法
リチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物は、上述した正極活物質、ニトリル基含有アクリル重合体、正極用結着剤(B)、導電材(C)及びその他の添加剤を分散媒中で混合して得られる。正極活物質とニトリル基含有アクリル重合体とを分散媒中で混合することにより、ニトリル基含有アクリル重合体に含まれるシアノ基や、エチレン性不飽和酸単量体単位を含む場合にニトリル基含有アクリル重合体に含まれる酸基等が、正極活物質の表面における水酸基等の官能基と相互作用し、ニトリル基含有アクリル重合体が正極活物質に優先的に吸着する。そして、得られたリチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物を、後述する集電体に塗布し乾燥することにより、ニトリル基含有アクリル重合体で被覆された正極活物質、つまり、本発明に用いる正極活物質(A)を形成できる。
また、上記のようにして得られたスラリー組成物では、上記シアノ基や酸基等が、後述する集電体の表面における水酸基等の官能基と相互作用して吸着するため、正極活物質層と集電体との密着性を向上させることができる。
【0131】
分散媒としては、有機溶媒が使用できる。有機溶媒としては、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの環状脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;アセトン、エチルメチルケトン、ジイソプロピルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどのケトン類;メチレンクロライド、クロロホルム、四塩化炭素など塩素系脂肪族炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、プロピオニトリルなどのアルキルニトリル類;テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル類:メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのアルコール類;N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類が挙げられる。
【0132】
これらの分散媒は、単独で使用しても、これらを2種以上混合して混合溶媒として使用してもよい。これらの中でも特に、正極活物質の分散性にすぐれ、沸点が低く揮発性の高い分散媒が、短時間でかつ低温で除去できるので好ましい。具体的には、アセトン、トルエン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサン、キシレン、若しくはN−メチルピロリドン、またはこれらの混合溶媒が好ましい。
【0133】
混合法は特に限定はされないが、例えば、撹拌式、振とう式、および回転式などの混合装置を使用した方法が挙げられる。また、ホモジナイザー、ボールミル、サンドミル、ロールミル、および遊星式混練機などの分散混練装置を使用した方法が挙げられる。
【0134】
リチウムイオン二次電池正極
リチウムイオン二次電池正極は、上述したリチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物を集電体に塗布、乾燥してなる。
【0135】
リチウムイオン二次電池正極の製造方法は、上記正極用スラリー組成物を、集電体の片面または両面に、塗布、乾燥して、正極活物質層を形成する工程を含む。
【0136】
上記正極用スラリー組成物を集電体上に塗布する方法は特に限定されない。例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、およびハケ塗り法などの方法が挙げられる。
【0137】
乾燥方法としては、例えば、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。乾燥時間は通常5〜30分であり、乾燥温度は通常40〜180℃である。
【0138】
リチウムイオン二次電池正極を製造するに際して、集電体上に上記正極用スラリー組成物を塗布、乾燥後、金型プレスやロールプレスなどを用い、加圧処理により正極活物質層の空隙率を低くする工程を有することが好ましい。正極活物質層の空隙率は、好ましくは5〜30%、より好ましくは7〜20%である。正極活物質層の空隙率が高すぎると充電効率や放電効率が悪化する場合がある。一方、正極活物質層の空隙率が低すぎると、高い体積容量が得難く、正極活物質層が集電体から剥がれ易く不良を発生し易くなる場合がある。さらに、正極用結着剤(B)として硬化性の重合体を用いる場合は、硬化させることが好ましい。
【0139】
リチウムイオン二次電池正極における正極活物質層の厚みは、通常5〜300μmであり、好ましくは30〜250μmである。正極活物質層の厚みが上記範囲にあることにより、負荷特性及びサイクル特性が共に高い二次電池を得ることができる。
【0140】
正極活物質層における正極活物質の含有割合は、好ましくは85〜99質量%、より好ましくは88〜97質量%である。正極活物質層における正極活物質の含有割合が上記範囲であることにより、高い容量を示しながらも柔軟性、結着性を示す二次電池を得ることができる。
【0141】
正極活物質層の密度は、好ましくは3.0〜4.0g/cm
3であり、より好ましくは3.4〜4.0g/cm
3である。正極活物質層の密度が上記範囲であることにより、高容量の二次電池を得ることができる。
【0142】
集電体は、電気導電性を有しかつ電気化学的に耐久性のある材料であれば特に制限されないが、耐熱性を有するため金属材料が好ましく、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などが挙げられる。中でも、リチウムイオン二次電池正極に用いる集電体としてはアルミニウムが特に好ましい。集電体の形状は特に制限されないが、厚さ0.001〜0.5mm程度のシート状のものが好ましい。集電体は、正極活物質層との接着強度を高めるため、予め粗面化処理して使用してもよい。粗面化方法としては、機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法などが挙げられる。機械的研磨法においては、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線などを備えたワイヤーブラシ等が使用される。また、正極活物質層の接着強度や導電性を高めるために、集電体表面にプライマー層などを形成してもよい。
【0143】
(負極)
負極は、集電体と、前記集電体上に積層される負極活物質層とからなる。負極活物質層は、負極活物質(a)として、好ましくは合金系活物質(a1)を含有し、必要に応じその他の炭素系活物質(a2)を含有し、また通常は負極用結着剤(b)、導電材(c)等を含有する。
【0144】
(a)負極活物質
負極活物質は、負極内で電子(リチウムイオン)の受け渡しをする物質である。負極活物質としては、合金系活物質(a1)が用いられ、また必要に応じ炭素系活物質(a2)を用いることができる。負極活物質は、合金系活物質と炭素系活物質とを含むことが好ましく、合金系活物質と炭素系活物質とを併用することで、合金系活物質のみを用いて得られる負極よりも容量の大きい二次電池を得ることができ、かつ負極の密着強度の低下、サイクル特性の低下といった問題も解決することができる。
【0145】
(a1)合金系活物質
合金系活物質とは、リチウムの挿入可能な元素を構造に含み、リチウムが挿入された場合の重量あたりの理論電気容量が500mAh/g以上(当該理論電気容量の上限は、特に限定されないが、例えば5000mAh/g以下とすることができる。)である活物質をいい、具体的には、リチウム合金を形成する単体金属およびその合金、及びそれらの酸化物、硫化物、窒化物、珪化物、炭化物、燐化物等が用いられる。
【0146】
リチウム合金を形成する単体金属及び合金としては、Ag、Al、Ba、Bi、Cu、Ga、Ge、In、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Sr、Zn等の金属や該金属を含有する化合物が挙げられる。それらの中でもケイ素(Si)、スズ(Sn)または鉛(Pb)の単体金属若しくはこれら原子を含む合金、または、それらの金属の化合物が好ましい。さらに、これらの中でも、低電位でリチウムの挿入脱離が可能なSiの単体金属がより好ましい。
【0147】
合金系活物質は、さらに、一つ以上の非金属元素を含有していてもよい。具体的には、例えばSiC、SiO
xC
y(以下、「SiOC」と呼ぶ)(0<x≦3、0<y≦5)、Si
3N
4、Si
2N
2O、SiO
x(x=0.01以上2未満)、SnO
x(0<x≦2)、LiSiO、LiSnO等が挙げられ、中でも低電位でリチウムの挿入脱離が可能なSiOC、SiO
x、及びSiCが好ましく、SiOC、SiO
xがより好ましい。
例えば、SiOCは、ケイ素を含む高分子材料を焼成して得ることができる。SiOCの中でも、容量とサイクル特性の兼ね合いから、0.8≦x≦3、2≦y≦4の範囲が好ましく用いられる。
【0148】
リチウム合金を形成する単体金属およびその合金の酸化物、硫化物、窒化物、珪化物、炭化物、燐化物としては、リチウムの挿入可能な元素の酸化物、硫化物、窒化物、珪化物、炭化物、燐化物等が挙げられ、中でも酸化物が特に好ましい。具体的には酸化スズ、酸化マンガン、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化バナジウム等の酸化物、Si、Sn、PbおよびTi原子よりなる群から選ばれる金属元素を含むリチウム含有金属複合酸化物が好ましい。
【0149】
リチウム含有金属複合酸化物としては、更にLi
xTi
yM
zO
4で示されるリチウムチタン複合酸化物(0.7≦x≦1.5、1.5≦y≦2.3、0≦z≦1.6、Mは、Na、K、Co、Al、Fe、Ti、Mg、Cr、Ga、Cu、ZnおよびNb)が挙げられ、中でもLi
4/3Ti
5/3O
4、Li
1Ti
2O
4、Li
4/5Ti
11/5O
4が好ましい。
【0150】
これらの合金系活物質の中でもケイ素を含む活物質が好ましい。ケイ素を含む活物質を用いることにより、二次電池の電気容量を大きくすることが可能となる。さらに、ケイ素を含む活物質の中でも、SiO
xC
y、SiO
x、及びSiCがさらに好ましい。ケイ素および炭素を組み合わせて含む活物質においては、高電位でSi(ケイ素)、低電位ではC(炭素)へのLiの挿入脱離が起こると推測され、他の合金系活物質よりも膨張・収縮が抑制されるため、本発明の効果がより得られ易い。
【0151】
合金系活物質は、粒子状に整粒されたものが好ましい。粒子の形状が球形であると、電極成形時に、より高密度な電極が形成できる。合金系活物質が粒子である場合、その体積平均粒子径は、好ましくは0.1〜50μm、より好ましくは0.5〜20μm、特に好ましくは1〜10μmである。合金系活物質の体積平均粒子径がこの範囲内であれば、負極を製造するために用いるスラリー組成物の作製が容易となる。なお、本発明における体積平均粒子径は、レーザー回折で粒径分布を測定することにより求めることができる。
【0152】
合金系活物質のタップ密度は、特に制限されないが、0.6g/cm
3以上のものが好適に用いられる。
【0153】
合金系活物質の比表面積(BET式)は、好ましくは3.0〜20.0m
2/g、より好ましくは3.5〜15.0m
2/g、特に好ましくは4.0〜10.0m
2/gである。合金系活物質の比表面積が上記範囲にあることで、合金系活物質表面の活性点が増えるため、リチウムイオン二次電池の出力特性に優れる。なお、本発明において、「BET比表面積」とは、窒素吸着法によるBET比表面積のことをいい、ASTM D3037−81に準じて、測定される値である。
【0154】
(a2)炭素系活物質
炭素系活物質とは、リチウムが挿入可能な炭素を主骨格とする活物質をいい、具体的には、炭素質材料と黒鉛質材料が挙げられる。炭素質材料とは、一般的に炭素前駆体を2000℃以下で熱処理して炭素化させた黒鉛化度の低い(すなわち、結晶性の低い)炭素材料である。前記熱処理の温度の下限は、特に限定されないが、例えば500℃以上とすることができる。黒鉛質材料とは、易黒鉛性炭素を2000℃以上で熱処理することによって得られた黒鉛に近い高い結晶性を有する黒鉛質材料である。前記処理温度の上限は、特に限定されないが、例えば5000℃以下とすることができる。
【0155】
炭素質材料としては、例えば、熱処理温度によって炭素の構造を容易に変える易黒鉛性炭素や、ガラス状炭素に代表される非晶質構造に近い構造を持つ難黒鉛性炭素などが挙げられる。
【0156】
易黒鉛性炭素としては、例えば、石油や石炭から得られるタールピッチを原料とした炭素材料が挙げられる。具体例を挙げると、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、熱分解気相成長炭素繊維などが挙げられる。MCMBとはピッチ類を400℃前後で加熱する過程で生成したメソフェーズ小球体を分離抽出した炭素微粒子である。メソフェーズピッチ系炭素繊維とは、前記メソフェーズ小球体が成長、合体して得られるメソフェーズピッチを原料とする炭素繊維である。熱分解気相成長炭素繊維とは、(1)アクリル高分子繊維などを熱分解する方法、(2)ピッチを紡糸して熱分解する方法、(3)鉄などのナノ粒子を触媒として用いて炭化水素を気相熱分解する触媒気相成長(触媒CVD)法により得られた炭素繊維である。
【0157】
難黒鉛性炭素としては、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、擬等方性炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)、ハードカーボンなどが挙げられる。
【0158】
黒鉛質材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。人造黒鉛としては、主に2800℃以上で熱処理した人造黒鉛、MCMBを2000℃以上で熱処理した黒鉛化MCMB、メソフェーズピッチ系炭素繊維を2000℃以上で熱処理した黒鉛化メソフェーズピッチ系炭素繊維などが挙げられる。
【0159】
前記の炭素系活物質の中でも、黒鉛質材料が好ましい。黒鉛質材料を用いることで、負極活物質層の密度を上げやすくなり、負極活物質層の密度が1.6g/cm
3以上(当該密度の上限は、特に限定されないが、2.2g/cm
3以下とすることができる。)である負極の作製が容易となる。負極活物質層の密度が前記範囲である負極活物質層を有する負極であれば、本発明の効果が顕著に現れる。
【0160】
炭素系活物質は、粒子状に整粒されたものが好ましい。粒子の形状が球形であると、電極成形時に、より高密度な電極が形成できる。炭素系活物質が粒子である場合、炭素系活物質の体積平均粒子径は、好ましくは0.1〜100μm、より好ましくは0.5〜50μm、特に好ましくは1〜30μmである。炭素系活物質の体積平均粒子径がこの範囲内であれば、負極を製造するために用いるスラリー組成物の作製が容易となる。
【0161】
炭素系活物質のタップ密度は、特に制限されないが、0.6g/cm
3以上のものが好適に用いられる。
【0162】
炭素系活物質の比表面積は、好ましくは3.0〜20.0m
2/g、より好ましくは3.5〜15.0m
2/g、特に好ましくは4.0〜10.0m
2/gである。炭素系活物質の比表面積が上記範囲にあることで、炭素系活物質表面の活性点が増えるため、リチウムイオン二次電池の出力特性に優れる。比表面積は例えばBET法により測定できる。
【0163】
負極活物質は、合金系活物質1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、負極活物質の好ましい態様として、合金系活物質及び炭素系活物質を組み合わせた活物質を挙げることができる。負極活物質(a)として合金系活物質(a1)と炭素系活物質(a2)とを併用する場合、その混合方法としては、特に限定されず、従来公知の乾式混合や湿式混合が挙げられる。
【0164】
負極活物質(a)において、合金系活物質(a1)と炭素系活物質(a2)とを併用する場合、炭素系活物質(a2)100質量部に対して、合金系活物質(a1)を1〜50質量部含むことが好ましい。合金系活物質と炭素系活物質とを上記範囲で混合することにより、従来の炭素系活物質のみを用いて得られる負極よりも容量の大きい電池を得ることができ、かつ負極の密着強度の低下やサイクル特性の低下を防ぐことができる。合金系活物質(a1)と炭素系活物質(a2)とを前記範囲で併用する負極活物質層を有する負極であれば、本発明の効果が顕著に現れる。
【0165】
(b)負極用結着剤
負極用結着剤は、負極において負極活物質を集電体の表面に結着させる成分であり、負極活物質を保持する性能に優れ、集電体に対する密着性が高いものを用いることが好ましい。通常、結着剤の材料としては重合体を用いる。結着剤の材料としての重合体は単独重合体でもよく、共重合体でもよい。負極用結着剤の重合体としては、特に限定はされないが、例えば、フッ素重合体、ジエン重合体、アクリレート重合体、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン等の高分子化合物が挙げられ、中でも、フッ素重合体、ジエン重合体またはアクリレート重合体が好ましく、耐電圧を高くでき、かつ二次電池のエネルギー密度を高くすることができる点でジエン重合体またはアクリレート重合体がより好ましく、電極の強度を向上させる点でジエン重合体が特に好ましい。
【0166】
ジエン重合体は、共役ジエン単量体を重合して形成される構造単位(以下、「共役ジエン単量体単位」と記すことがある。)を含む重合体であり、具体的には、共役ジエンの単独重合体;異なる種類の共役ジエン同士の共重合体;共役ジエンを含む単量体混合物を重合して得られる共重合体、またはそれらの水素添加物などが挙げられる。前記共役ジエンとしては、例えば、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、および2,4−ヘキサジエンなどが挙げられる。これらの中でも、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエンが好ましい。なお、共役ジエンは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。ジエン重合体における共役ジエン単量体単位の割合は、好ましくは20質量%以上60質量%以下、好ましくは30質量%以上55質量%以下である。
【0167】
前記ジエン重合体は、共役ジエン単量体単位の他に、ニトリル基含有単量体単位を含んでいてもよい。ニトリル基含有単量体単位を構成するニトリル基含有単量体の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル等のα,β−不飽和ニトリル化合物などが挙げられ、中でもアクリロニトリルが好ましい。ジエン重合体におけるニトリル基含有単量体単位の割合は、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは5〜30質量%の範囲である。ニトリル基含有単量体単位の割合を上記範囲とすることで、得られる電極強度がより向上する。なお、ニトリル基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0168】
また、前記ジエン重合体には、上記単量体単位の他に、他の単量体を重合して形成される構造単位を含んでいてもよい。他の単量体単位を構成する他の単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸類;スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのアミド系単量体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物が挙げられる。なお、前記他の単量体は、それぞれ、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0169】
アクリレート重合体は、一般式(1):CH
2=CR
1−COOR
2(式中、R
1は水素原子またはメチル基を、R
2はアルキル基またはシクロアルキル基を表す。)で表される化合物由来の単量体を重合して形成される単量体単位((メタ)アクリル酸エステル単量体単位)を含む重合体である。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を構成する単量体の具体例としては、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸n−アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸n−アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリルなどのメタクリル酸エステル等が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸エステルが好ましく、アクリル酸n−ブチルおよびアクリル酸2−エチルヘキシルが、得られる電極の強度を向上できる点で、特に好ましい。アクリレート重合体中の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合は、通常50質量%以上、好ましくは70質量%以上である。前記(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合が前記範囲であるアクリレート重合体を用いると、耐熱性が高く、かつ得られる電極の内部抵抗を小さくできる。
【0170】
前記アクリレート重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の他に、ニトリル基含有単量体単位を含んでいることが好ましい。ニトリル基含有単量体としては、アクリロニトリルやメタクリロニトリルなどが挙げられ、中でもアクリロニトリルが、集電体と負極活物質層との結着性が高まり、電極強度が向上できる点で好ましい。アクリレート重合体におけるニトリル基含有単量体単位の割合は、好ましくは5〜35質量%、より好ましくは10〜30質量%の範囲である。ニトリル基含有単量体単位の量を上記範囲とすることで、得られる電極強度がより向上する。
【0171】
前記アクリレート重合体には、上記単量体単位の他に、共重合可能なカルボン酸基含有単量体を重合して形成される構造単位(以下、「カルボン酸基含有単量体単位」と記すことがある。)を用いることができる。カルボン酸基含有単量体の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸などの一塩基酸含有単量体;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などの二塩基酸含有単量体が挙げられる。なかでも、二塩基酸含有単量体が好ましく、集電体との結着性を高め、電極強度を向上できる点で、イタコン酸が特に好ましい。これらの一塩基酸含有単量体、二塩基酸含有単量体は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。アクリレート重合体中のカルボン酸基含有単量体単位の割合は、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは1〜20質量%、特に好ましくは1〜10質量%の範囲である。カルボン酸基含有単量体単位の量を上記範囲とすることで、得られる電極の強度がより向上する。
【0172】
さらに、前記アクリレート重合体には、上記単量体単位の他に、共重合可能な単量体を重合して得られる構造単位を含んでいてもよい、前記他の単量体の具体例としては、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどの2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステル類;パーフルオロオクチルエチルアクリレートやパーフルオロオクチルエチルメタクリレートなどの側鎖にフッ素を含有する不飽和エステル類;スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン単量体;アクリルアミド、N−メチロールアクリアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などのアミド単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;ブタジエン、イソプレン等のジエン単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビエルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;アリルグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル類;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどのグリシジルエステル類などが挙げられる。アクリレート重合体におけるこれらの共重合可能な他の単量体単位の割合は、利用目的によって適宜調整されればよい。
【0173】
また上記の他にも負極用結着剤としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリ酢酸アリル、ポリスチレンなどのビニル重合体;ポリオキシメチレン、ポリオキシエチレン、ポリ環状チオエーテル、ポリジメチルシロキサンなど主鎖にヘテロ原子を含むエーテル重合体;ポリラクトン、ポリ環状無水物、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートなどの縮合エステル重合体;ナイロン6、ナイロン66、ポリ−m−フェニレンイソフタラミド、ポリ−p−フェニレンテレフタラミド、ポリピロメリットイミドなどの縮合アミド系重合体、後述する増粘剤などが挙げられる。
【0174】
負極用結着剤の形状は、特に制限はないが、集電体との密着性が良く、また、作成した電極の容量の低下や充放電の繰り返しによる劣化を抑えることができるため、粒子状であることが好ましい。粒子状結着剤は、分散媒に分散させた状態において粒子形状を保持・存在するものであればよいが、負極活物質層においても粒子形状を保持した状態で存在できるものが好ましい。本発明において、「粒子状態を保持した状態」とは、完全に粒子形状を保持した状態である必要はなく、その粒子形状をある程度保持した状態であればよい。粒子状結着剤としては、例えば、ラテックスのごとき結着剤の粒子が水に分散した状態のものや、このような分散液を乾燥して得られる粉末状のものが挙げられる。
【0175】
負極用結着剤のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは50℃以下、さらに好ましくは−40〜0℃である。結着剤のガラス転移温度(Tg)がこの範囲にあると、少量の使用量で密着性に優れ、電極強度が強く、柔軟性に富み、電極形成時のプレス工程により電極密度を容易に高めることができる。
【0176】
負極用結着剤が粒子状結着剤である場合、その個数平均粒子径は、格別な限定はないが、通常は0.01〜1μm、好ましくは0.03〜0.8μm、より好ましくは0.05〜0.5μmである。結着剤の個数平均粒子径がこの範囲であるときは、少量の使用でも優れた密着力を負極活物質層に与えることができる。ここで、個数平均粒子径は、透過型電子顕微鏡写真で無作為に選んだ結着剤粒子100個の径を測定し、その算術平均値として算出される個数平均粒子径である。粒子の形状は球形、異形、どちらでもかまわない。
これらの結着剤は単独でまたは二種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0177】
負極用結着剤の量は、負極活物質100質量部に対して、通常は0.1〜50質量部、好ましくは0.5〜20質量部、より好ましくは1〜10質量部の範囲である。結着剤の量がこの範囲にあると、得られる負極活物質層と集電体との密着性が充分に確保でき、二次電池の容量を高く、且つ内部抵抗を低くすることができる。
【0178】
(c)導電材
負極活物質層は、導電材を含有してもよい。負極に含まれる導電材の粒子径は、個数平均粒子径で、5〜40nm、好ましくは10〜38nm、より好ましくは15〜36nmである。導電材としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラファイト、気相成長カーボン繊維、およびカーボンナノチューブ等の導電性カーボンを使用することができる。導電材を含有することにより、負極活物質同士の電気的接触を向上させることができ、リチウムイオン二次電池に用いる場合に放電レート特性を改善することができる。導電材の含有量は、負極活物質の総量100質量部に対して、好ましくは1〜20質量部、より好ましくは1〜10質量部である。
【0179】
その他の負極成分
また、負極にはさらに、任意の成分としては、上記した正極と同様に、補強材、レベリング剤、電解液分解抑制等の機能を有する電解液添加剤等が含まれていてもよく、さらに、負極製造時に調整するスラリーに含まれる増粘剤等が残留していてもよい。
【0180】
リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物の製造方法
リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物は、上述した負極活物質(a)、負極用結着剤(b)、導電材(c)、その他の添加剤を分散媒中で混合して得られる。分散媒としては、水および有機溶媒のいずれも使用できる。有機溶媒としては、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの環状脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;アセトン、エチルメチルケトン、ジイソプロピルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、エチルシクロヘキサノンなどのケトン類;メチレンクロライド、クロロホルム、四塩化炭素など塩素系脂肪族炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、プロピオニトリルなどのアシロニトリル類;テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル類:メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのアルコール類;N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類が挙げられる。
【0181】
これらの分散媒は、単独で使用しても、2種以上混合して混合溶媒として使用してもよい。これらの中でも特に、各成分の分散性に優れ、沸点が低く揮発性の高い分散媒が、短時間でかつ低温で除去できるので好ましい。具体的には、アセトン、トルエン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサン、キシレン、水、若しくはN−メチルピロリドン、またはこれらの混合溶媒が好ましい。
【0182】
混合方法は特に限定はされないが、例えば、撹拌式、振とう式、および回転式などの混合装置を使用した方法が挙げられる。また、ホモジナイザー、ボールミル、サンドミル、ロールミル、および遊星式混練機などの分散混練装置を使用した方法が挙げられる。
【0183】
リチウムイオン二次電池負極
リチウムイオン二次電池負極は、上述したリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物を集電体に塗布、乾燥してなる。
【0184】
リチウムイオン二次電池負極の製造方法は、上記負極用スラリー組成物を、集電体の片面または両面に、塗布、乾燥して、負極活物質層を形成する工程を含む。
【0185】
負極用スラリー組成物を集電体上に塗布する方法は特に限定されない。例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、およびハケ塗り法などの方法が挙げられる。
【0186】
乾燥方法としては、例えば、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。乾燥時間は通常5〜30分であり、乾燥温度は通常40〜180℃である。
【0187】
リチウムイオン二次電池負極を製造するに際して、集電体上に上記負極用スラリー組成物を塗布、乾燥後、金型プレスやロールプレスなどを用い、加圧処理により負極活物質層の空隙率を低くする工程を有することが好ましい。負極活物質層の空隙率は、好ましくは5〜30%、より好ましくは7〜20%である。負極活物質層の空隙率が高すぎると充電効率や放電効率が悪化する場合がある。空隙率が低すぎると、高い体積容量が得難く、負極活物質層が集電体から剥がれ易く不良を発生し易くなる場合がある。さらに、負極用結着剤として硬化性の重合体を用いる場合は、硬化させることが好ましい。
【0188】
リチウムイオン二次電池負極における負極活物質層の厚みは、通常5〜300μmであり、好ましくは30〜250μmである。負極活物質層の厚みが上記範囲にあることにより、負荷特性及びサイクル特性共に高い特性を示す二次電池を得ることができる。
【0189】
負極活物質層における負極活物質の含有割合は、好ましくは85〜99質量%、より好ましくは88〜97質量%である。負極活物質層における負極活物質の含有割合が上記範囲であることにより、高い容量を示しながらも柔軟性、結着性を示す二次電池を得ることができる。
【0190】
負極活物質層の密度は、好ましくは1.6〜1.9g/cm
3であり、より好ましくは1.65〜1.85g/cm
3である。負極活物質層の密度が上記範囲であることにより、高容量の二次電池を得ることができる。
【0191】
集電体は、電気導電性を有しかつ電気化学的に耐久性のある材料であれば特に制限されないが、耐熱性を有するため金属材料が好ましく、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などが挙げられる。中でも、リチウムイオン二次電池負極に用いる集電体としては銅が特に好ましい。
【0192】
集電体の形状は特に制限されないが、厚さ0.001〜0.5mm程度のシート状のものが好ましい。
集電体は、負極活物質層との接着強度を高めるため、予め粗面化処理して使用してもよい。粗面化方法としては、機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法などが挙げられる。機械的研磨法においては、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線などを備えたワイヤーブラシ等が使用される。また、負極活物質層の接着強度や導電性を高めるために、集電体表面にプライマー層などを形成してもよい。
【0193】
(リチウムイオン二次電池)
本発明に係るリチウムイオン二次電池は、上記した正極および負極を備え、非水電解液を有し、通常はセパレータを含む。
【0194】
非水電解液
非水電解液は、特に限定されず、非水系の溶媒に支持電解質としてリチウム塩を溶解したものが使用できる。リチウム塩としては、例えば、LiPF
6、LiAsF
6、LiBF
4、LiSbF
6、LiAlCl
4、LiClO
4、CF
3SO
3Li、C
4F
9SO
3Li、CF
3COOLi、(CF
3CO)
2NLi、(CF
3SO
2)
2NLi、(C
2F
5SO
2)NLiなどのリチウム塩が挙げられる。特に溶媒に溶けやすく高い解離度を示すLiPF
6、LiClO
4、CF
3SO
3Liは好適に用いられる。これらは、単独、または2種以上を混合して用いることができる。支持電解質の量は、非水電解液に対して、通常1質量%以上、好ましくは5質量%以上、また通常は30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。支持電解質の量が少なすぎても多すぎてもイオン導電度は低下し電池の充電特性、放電特性が低下する。
【0195】
非水電解液に使用する溶媒としては、支持電解質を溶解させるものであれば特に限定されないが、通常、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、およびメチルエチルカーボネート(MEC)などのアルキルカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチルなどのエステル類、1,2−ジメトキシエタン、およびテトラヒドロフランなどのエーテル類;スルホラン、およびジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物類;が用いられる。特に高いイオン伝導性が得易く、使用温度範囲が広いため、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートが好ましい。これらは、単独、または2種以上を混合して用いることができる。
【0196】
上記以外の非水電解液としては、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルなどのポリマー電解質に非水電解液を含浸したゲル状ポリマー電解質や、硫化リチウム、LiI、Li
3Nなどの無機固体電解質を挙げることができる。
【0197】
また、非水電解液には添加剤を含有させて用いることも可能である。添加剤としてはビニレンカーボネート(VC)などのカーボネート系の化合物の他に、フルオロエチレンカーボネート等の含フッ素カーボネート、エチルメチルスルフォンが好ましい。これらの中でも、含フッ素カーボネートのようなフッ素系電解液添加材は、耐電圧が高い。高容量化に伴い、充放電時の電圧も高くなりつつあり、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなどからなる電解液では高電圧に耐えられず、分解することがあるため、上記のフッ素系電解液添加材を非水電解液に配合することが好ましい。
【0198】
セパレータ
セパレータは気孔部を有する多孔性基材であって、使用可能なセパレータとしては、(a)気孔部を有する多孔性セパレータ、(b)片面または両面に高分子コート層が形成された多孔性セパレータ、または(c)無機セラミック粉末などの非導電性粒子及び結着剤を含む多孔質の樹脂コート層が形成された多孔性セパレータが挙げられる。これらの非制限的な例としては、ポリプロピレン系、ポリエチレン系、ポリオレフィン系、またはアラミド系多孔性セパレータ、ポリビニリデンフルオリド、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルまたはポリビニリデンフルオリドヘキサフルオロプロピレン共重合体などの固体高分子電解質用またはゲル状高分子電解質用の高分子フィルム、ゲル化高分子コート層がコートされたセパレータ、または無機フィラー、無機フィラー用分散剤からなる多孔膜層がコートされたセパレータなどがある。
【0199】
リチウムイオン二次電池の製造方法
本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法は、特に限定されない。例えば、上述した正極と負極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口する。さらに必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をすることもできる。電池の形状は、ラミネートセル型、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型、捲回型パウチセルなどいずれであってもよい。特に、本発明によれば、活物質層が柔軟であり、屈曲時に活物質層のクラック発生がないため、捲回型パウチセルの製造に好ましく適用できる。
【実施例】
【0200】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本実施例における部および%は、特記しない限り質量基準である。実施例および比較例において、各種物性は以下のように評価した。
【0201】
(SP値)
SP値とは、溶解度パラメーターのことを意味する。このSP値はSmallが提案した「分子引力定数法」によって求めた。この方法は、化合物分子を構成する官能基(原子団)の特性値である分子引力定数(G)の統計と分子量から、次式にしたがって求める方法である。
δ=ΣG/V=dΣG/M
前記の式において、δはSP値を表し、ΣGは分子引力定数Gの総計を表し、Vは比容を表し、Mは分子量を表し、dは比重を表す。
さらに、2種類以上のポリマーを組み合わせた場合は、ポリマー全体のSP値として個々のポリマーのSP値と混合モル比とから計算、前述の計算式を用いて求めた。
【0202】
(正極活物質の被覆確認)
正極活物質と正極用結着剤とニトリル基含有アクリル重合体の混合比を100:1.6:0.4としてスラリーを作製し、集電体(アルミ箔)上に塗布乾燥し電極とした。
電極表面を走査型電子顕微鏡(日立製作所製S−3400N)にて観察を行った。観察条件は、倍率を2000倍、加速電圧を15kVにて、100μm×100μm方形の画像観察を行った。さらに、同走査型電子顕微鏡に付属のエネルギー分散型X線分析装置(Bruker製 Quantax)で、ニッケル原子と窒素原子および炭素原子の元素マッピングを行いそれぞれのマッピング画像を作製した。この操作を電極上の5か所をランダムに選び5回行った。
その画像上で、長辺と短辺が10μm以上であり、正極活物質粒子の表面が他の粒子と重ならず90%以上観察できる、正極活物質粒子をランダムに10個選択した。
前記の選択した元素マッピング正極活物質粒子画像において、窒素元素の存在が確認された部分の面積を、ニトリル基含有アクリル重合体により被覆された活物質表面であると判断した。さらに、被覆割合が60%以上である場合を、ニトリル基含有アクリル重合体が正極活物質粒子表面を被覆しているとし、「可」と評価した。
【0203】
(非水電解液膨潤度の測定)
ニトリル基含有アクリル重合体の8%のN−メチルピロリドン(NMP)溶液を乾燥後の厚みが100μmになるようにテフロン(登録商標)シャーレに流しこみ、重合体フィルムを作成した。得られたフィルムを16mmφに打ち抜き重量を測定した(重量を「A」とする)。エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの3対7重量比の混合物に5%のフルオロエチレンカーボネートを混合し、1mol/リットルの濃度になるように六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を溶解させたものを非水電解液として用意した。非水電解液20gに16mmφに打ち抜いたフィルムを浸漬させ、60℃で72時間、浸漬した。その後、浸漬させたフィルムを取り出し、表面の非水電解液を軽くふき取り重量を測定した(重量を「B」とする)。これらの値より非水電解液膨潤度(=B/A)を求めた。非水電解液膨潤度が大きい程、非水電解液中での変形が大きくなることを示す。
【0204】
(THF不溶解分量の測定)
ニトリル基含有アクリル重合体の8%のNMP溶液を乾燥後の厚みが100μmになるようにテフロン(登録商標)シャーレに流しこみ、重合体フィルムを作成した。得られたフィルムを16mmφに打ち抜き重量を測定した(重量を「C」とする)。テトラヒドロフラン20gに16mmφに打ち抜いたフィルムを浸漬させ、25℃で24時間かけ、可溶分を完全に溶解させた。その後、不溶分である残留固形物を取り出し、赤外線乾燥機でテトラヒドロフランを完全に揮発させた後、重量を測定した(重量を「D」とする)。これらの値よりTHF不溶解分量(=D/C×100)を求めた。THF不溶解分量が小さい程、重合体分子間の架橋が少ないことを示す。
【0205】
(捲回体の折り曲げ特性)
シート状正極およびシート状負極を、セパレータを介在させて直径20mmの芯を用いて捲回し、捲回体を得た。セパレータとしては、厚さ20μmのポリプロピレン製微多孔膜を用いた。捲回体は、10mm/秒のスピードで厚さ4.5mmになるまで一方向から圧縮した。圧縮後に捲回体を解体し、正極電極を観察し、下記評価基準に従って評価を行った。
A…割れなし
B…微小割れ
C…電極からの剥がれ
【0206】
(高電位サイクル特性)
非水電解質電池について、25℃環境下で、600mAで電池電圧が4.8Vになるまで充電し、600mAで電池電圧が3Vになるまで放電する操作を100回繰り返した。
そして、一回目の放電容量に対する100回目の放電容量の比を算出した。
【0207】
(ニトリル基含有アクリル重合体)
ニトリル基含有アクリル重合体(1)〜(6)を以下のように調整した。
【0208】
[調整例1]
ニトリル基含有アクリル重合体(1)の製造
撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水164部、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)67.5部、メタクリル酸(MAA)17部、アクリロニトリル(AN)15部、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)0.5部、重合開始剤として過硫酸カリウム0.3部、及び界面活性剤としてラウリル硫酸ナトリウム1.6部を入れ、十分に撹拝した後、70℃で3時間、さらに80℃で2時間加温して重合を行い、ニトリル基含有アクリル重合体(1)の水分散液を得た。なお、固形分濃度から求めた重合転化率は96%であった。また、この水分散液100部にN−メチルピロリドン500部を加え、減圧下に水及び残留モノマーを蒸発させたのち、N−メチルピロリドンを81部蒸発させて、ニトリル基含有アクリル重合体(1)の8質量%のNMP溶液を得た。この時の非水電解液膨潤度は2倍、THF不溶解分量は10%以下であった。また、ニトリル基含有アクリル重合体のSP値は、9.9(cal/cm
3)
1/2であった。
【0209】
[調整例2〜6]
ニトリル基含有アクリル重合体(2)〜(6)の製造
単量体の仕込み量、種類を表1のように変更した他は、調整例1と同様とした。なお、表1において、ANはアクリロニトリル、2EHAは2−エチルヘキシルアクリレート、EAはエチルアクリレート、BAはブチルアクリレート、MAAはメタクリル酸、AMPSは2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、GMAはグリシジルメタクリレートを指す。非水電解液膨潤度、THF不溶解分量およびSP値を表1に示す。
【0210】
【表1】
【0211】
(実施例1)
〔正極用スラリー組成物および正極の製造〕
正極活物質としてLi過剰層状化合物(Li[Ni
0.17Li
0.2Co
0.07Mn
0.56]O
2)100部と、正極導電材としてアセチレンブラック(AB35,電気化学工業社製デンカブラック粉状品:個数粒子径35nm、比表面積68m
2/g)2.0部と、正極用結着剤のフッ素含有重合体として混合ポリフッ化ビニリデン(アルケマ社製KYNAR HSV900とKYNAR720との1:1混合物)1.6部およびニトリル基含有アクリル重合体として上記のニトリル基含有アクリル重合体(1)を固形分相当量で0.4部と、適量のNMPとをプラネタリーミキサーにて攪拌し、正極用スラリー組成物を調製した。なお、KYNAR HSV900のASTM D3835 /232℃100sec
−1で測定される溶融粘度は50kpoiseであり、KYNAR720の溶融粘度は9kpoiseである。
【0212】
集電体として、厚さ15μmのアルミ箔を準備した。上記正極用スラリー組成物をアルミ箔の両面に乾燥後の塗布量が25mg/cm
2になるように塗布し、60℃で20分、120℃で20分間乾燥後、150℃、2時間加熱処理して正極原反を得た。これら操作によりニトリル基含有アクリル重合体(1)によって、正極活物質及び正極活物質で被覆されていない集電体表面が被覆された。この正極原反をロールプレスで圧延し、密度が3.9g/cm
3の正極活物質層とアルミ箔とからなるシート状正極を作製した。これを幅4.8mm、長さ50cmに切断し、アルミニウムリードを接続した。また、得られた正極について捲回体の折り曲げ特性を評価した。結果を表2に示す。
【0213】
〔負極用スラリー組成物および負極の製造〕
負極活物質として球状人造黒鉛(粒子径:12μm)90部とSiOx(粒子径:10μm)10部、結着剤としてスチレンブタジエンゴム(粒子径:180nm、ガラス転移温度:−40℃)1部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース1部及び適量の水をプラネタリーミキサーにて攪拌し、負極用スラリー組成物を調製した。
【0214】
集電体として、厚さ15μmの銅箔を準備した。上記負極用スラリー組成物を銅箔の両面に乾燥後の塗布量が10mg/cm
2になるように塗布し、60℃で20分、120℃で20分間乾燥後、150℃、2時間加熱処理して負極原反を得た。この負極原反をロールプレスで圧延し、密度が1.8g/cm
3の負極活物質層と銅箔とからなるシート状負極を作製した。これを幅5.0mm、長さ5
2cmに切断し、ニッケルリードを接続した。
【0215】
〔リチウムイオン二次電池の製造〕
得られたシート状正極およびシート状負極を、セパレータを介在させて直径20mmの芯を用いて捲回し、捲回体を得た。セパレータとしては、厚さ20μmのポリプロピレン製微多孔膜を用いた。捲回体は、10mm/秒のスピードで厚さ4.5mmになるまで一方向から圧縮した。前記略楕円の短径に対する長径の比は7.7である。
【0216】
また、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの3対7重量の混合物に5質量%のフルオロエチレンカーボネートを混合し、1mol/リットルの濃度になるように六フッ化リン酸リチウムを溶解し、ビニレンカーボネート2vol%を添加し、非水電解液を用意した。
【0217】
前記捲回体は、所定のアルミラミネート製ケース内に3.2gの非水電解液とともに収容した。そして、負極リードおよび正極リードを所定の箇所に接続したのち、ケースの開口部を熱で封口し、捲回型パウチセルであるリチウムイオン二次電池を完成した。この電池は、幅35mm、高さ48mm、厚さ5mmのパウチ形であり、電池の公称容量は700mAhである。得られた二次電池の高電位サイクル特性を表2に示す。
【0218】
(実施例2)
ニトリル基含有アクリル重合体(1)に代えて、上記の重合体(2)を用いたこと以外は、実施例1と同様とした。結果を表2に示す。
【0219】
(実施例3)
ニトリル基含有アクリル重合体(1)に代えて、上記の重合体(3)を用いたこと以外は、実施例1と同様とした。結果を表2に示す。
【0220】
(実施例4)
ニトリル基含有アクリル重合体(1)に代えて、上記の重合体(4)を用いたこと以外は、実施例1と同様とした。結果を表2に示す。
【0221】
(実施例5)
ニトリル基含有アクリル重合体(1)に代えて、上記の重合体(5)を用いたこと以外は、実施例1と同様とした。結果を表2に示す。
【0222】
(比較例1)
ニトリル基含有アクリル重合体(1)を用いなかったこと以外は、実施例1同様とした。結果を表2に示す。
【0223】
(比較例2)
ニトリル基含有アクリル重合体(1)に代えて、ポリプロピレン(和光純薬製 Polypropylene)を用いたこと以外は、実施例1と同様とした。結果を表2に示す。なお、ポリプロピレンのSP値は、8.35(cal/cm
3)
1/2であり、ポリプロピレンでは正極活物質を被覆することができなかった。また、ポリプロピレンの非水電解液膨潤度は1.1倍、THF不溶解分量は0質量%であった。
【0224】
(比較例3)
ニトリル基含有アクリル重合体(1)に代えて、上記の重合体(6)を用いたこと以外は、実施例1同様とした。結果を表2に示す。
【0225】
【表2】
【0226】
表1および2から、本発明の要件を充足する実施例については、全ての評価項目についてバランス良く良好な結果が得られた。これに対し、ニトリル基含有アクリル重合体を用いていない比較例1,2や、SP値が特定範囲外のニトリル基含有アクリル重合体を用いた比較例3では、全ての評価項目について劣る結果となった。