特許第6287907号(P6287907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6287907積層体の製造方法及び該方法に用いる硬化性シリコーンゲル組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6287907
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】積層体の製造方法及び該方法に用いる硬化性シリコーンゲル組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20180226BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20180226BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20180226BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20180226BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20180226BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   C08L83/07
   C08L83/05
   B32B15/08 U
   B32B27/00 101
   H01L23/30 R
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-50923(P2015-50923)
(22)【出願日】2015年3月13日
(65)【公開番号】特開2016-169331(P2016-169331A)
(43)【公開日】2016年9月23日
【審査請求日】2017年2月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100157831
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 克彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 実行
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 俊介
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−016937(JP,A)
【文献】 特開平03−139565(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/005247(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00−83/16
B32B 15/00−15/20
27/00−27/42
H01L 23/00−23/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無酸素銅からなる金属基板の表面上に適用し、該金属基板上にシリコーンゲル硬化物層を積層してなる積層体の当該シリコーンゲル硬化物層を形成するための硬化性シリコーンゲル組成物であって、
(A)下記式(1)
1a2bSiO(4-a-b)/2 (1)
(式中、R1は独立にアルケニル基であり、R2は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、aは0.0001〜0.2の正数であり、bは1.7〜2.2の正数であり、但し、a+bは1.8〜2.4を満たす数である。)
で示され、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルトリフルオロプロピルポリシロキサン、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン共重合体、及び末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体から選ばれる少なくとも1種を含む一分子中に少なくとも1個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)下記式(2)
(R3SiO1/2c(R3SiO)d(R3SiO3/2e(R41/2f(SiO2g
(2)
(式中、R3は置換又は非置換の1価炭化水素基であるが、その一部はアルケニル基であり、該アルケニル基をオルガノポリシロキサン1gあたり0.00001〜0.05モル含有、R4は脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の1価炭化水素基又は水素原子であり、オルガノオキシ基又はヒドロキシ基を該オルガノポリシロキサン1gあたり0.0003モル以下含有する。また、c,d,e,f,gはそれぞれ、0.25≦c≦0.60、0≦d≦0.375、0≦e≦0.2、0<f≦0.2、0.25≦g≦0.667であり、c+d+e+f+g=1を満足する数である。)
で示される三次元網状構造のオルガノポリシロキサン:0.01〜100質量部(但し、(A)成分由来のアルケニル基Vaに対し、(B)成分由来のアルケニル基Vbが0.51≦Vb/Va≦5.0を満たすように配合量を選定する)、
(C)下記式(3)
5jkSiO(4-j-k)/2 (3)
(式中、R5は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、jは0.7〜2.2の正数であり、kは0.001〜1.0の正数であり、但しj+kは0.8〜3.0である。)
で示され、ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分、(B)成分中の合計のアルケニル基1個に対して、ケイ素原子に結合した水素原子を0.2〜3個与えるのに充分な量、
(D)触媒量の白金系触媒
を含有してなり、JIS K−2220に規定された針入度が5〜100であるシリコーンゲル硬化物を与える上記積層体製造用の硬化性シリコーンゲル組成物。
【請求項2】
請求項1記載の硬化性シリコーンゲル組成物を無酸素銅からなる金属基板の表面上に適用し、該組成物を常温又は加熱下に硬化させる工程を含むことを特徴とする金属基板上にシリコーンゲル層が積層された積層体の製造方法。
【請求項3】
無酸素銅からなる金属基板が、該金属基板上に1個又は2個以上の半導体素子が搭載されたものである請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の製造方法により製造された1個又は2個以上の半導体素子が搭載された無酸素銅からなる金属基板上にシリコーンゲル硬化物層を有する積層体からなる半導体封止モジュール。
【請求項5】
硬化性シリコーンゲル組成物の硬化物と無酸素銅からなる金属基板との剪断密着力において、初期の剪断密着力をAinit、200℃×300時間の耐久試験後の剪断密着力をAagingとすると、0.5<Aaging/Ainitであることを特徴する請求項4記載の半導体封止モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加反応によりゲル状のシリコーン硬化物を与え、特にICやハイブリッドICの保護、パワーモジュール等の封止に好適に用いられる特定の硬化性シリコーンゲル組成物を用いて無酸素銅からなる金属基材上に、特には、1個又は2個以上の半導体素子が搭載された無酸素銅からなる金属基板上にシリコーンゲル層を積層形成する積層体の製造方法、及び該製造方法に用いられる特定の硬化性シリコーンゲル組成物に関するものである。更に、上記積層体からなる半導体封止モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゲルやシリコーンポッティング材は、通常、ケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、ケイ素原子に結合したビニル基等のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、及び白金系触媒を含有し、前記SiH基のビニル基等のアルケニル基への付加反応により硬化物を得る付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物から形成される。このシリコーンゲルやシリコーンポッティング材は、耐熱性、耐候性、耐油性、耐寒性、電気絶縁性等に優れ、低弾性率、低応力であることにより、車載電子部品、民生用電子部品の保護等に用いられている。
しかし、近年では、電子部品の小型化、軽量化にともない、IC部品の密度や基板上とIC部品を結合するワイヤボンディング等の配線の密度が上昇している。従来のシリコーンゲルでは、比較的低粘度であるため流れ込み性は良好であるが、硬化した組成物は大きな変位や内部応力に対して弱く、ゲル硬化物が破壊されることや、内部にクラックが生成することがあった。
更に、IC部品中のチップの発熱により、特にIC部品の金属基板として常用されている無酸素銅からなる金属基板とシリコーンゲルとの界面でオイルブリードが発生し、シリコーンゲルの金属基板からの剥離、絶縁不良が発生することがあった。
なお、本発明に関連する先行技術としては、下記の文献が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3277749号公報
【特許文献2】特許第4703374号公報
【特許文献3】特開2007−126576号公報
【特許文献4】特開2008−291148号公報
【特許文献5】特開2012−017458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、耐熱性、密着性に優れた金属基板とシリコーンゲル硬化物層との積層体の製造方法及び該積層体からなる半導体封止モジュール、並びにこの製造方法に用いる硬化性シリコーンゲル組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者らは上記目的を達成するため鋭意検討した結果、無酸素銅からなる金属基板に対して特定の硬化性シリコーンゲル組成物の硬化物からなるシリコーンゲル層を積層することにより、ICチップの発熱によるシリコーンゲルからのオイルブリードを抑制し、その結果、剥離、絶縁不良を低減させることができ、上記の課題が解決できることを知見して、本発明を完成させた。
【0006】
従って、本発明は、下記の積層体の製造方法及び該製造方法において用いられる特定の硬化性シリコーンゲル組成物並びに半導体封止モジュールを提供するものである。
〔1〕
無酸素銅からなる金属基板の表面上に適用し、該金属基板上にシリコーンゲル硬化物層を積層してなる積層体の当該シリコーンゲル硬化物層を形成するための硬化性シリコーンゲル組成物であって、
(A)下記式(1)
1a2bSiO(4-a-b)/2 (1)
(式中、R1は独立にアルケニル基であり、R2は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、aは0.0001〜0.2の正数であり、bは1.7〜2.2の正数であり、但し、a+bは1.8〜2.4を満たす数である。)
で示され、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルトリフルオロプロピルポリシロキサン、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン共重合体、及び末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体から選ばれる少なくとも1種を含む一分子中に少なくとも1個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)下記式(2)
(R3SiO1/2c(R3SiO)d(R3SiO3/2e(R41/2f(SiO2g
(2)
(式中、R3は置換又は非置換の1価炭化水素基であるが、その一部はアルケニル基であり、該アルケニル基をオルガノポリシロキサン1gあたり0.00001〜0.05モル含有、R4は脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の1価炭化水素基又は水素原子であり、オルガノオキシ基又はヒドロキシ基を該オルガノポリシロキサン1gあたり0.0003モル以下含有する。また、c,d,e,f,gはそれぞれ、0.25≦c≦0.60、0≦d≦0.375、0≦e≦0.2、0<f≦0.2、0.25≦g≦0.667であり、c+d+e+f+g=1を満足する数である。)
で示される三次元網状構造のオルガノポリシロキサン:0.01〜100質量部(但し、(A)成分由来のアルケニル基Vaに対し、(B)成分由来のアルケニル基Vbが0.51≦Vb/Va≦5.0を満たすように配合量を選定する)、
(C)下記式(3)
5jkSiO(4-j-k)/2 (3)
(式中、R5は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、jは0.7〜2.2の正数であり、kは0.001〜1.0の正数であり、但しj+kは0.8〜3.0である。)
で示され、ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分、(B)成分中の合計のアルケニル基1個に対して、ケイ素原子に結合した水素原子を0.2〜3個与えるのに充分な量、
(D)触媒量の白金系触媒
を含有してなり、JIS K−2220に規定された針入度が5〜100であるシリコーンゲル硬化物を与える上記積層体製造用の硬化性シリコーンゲル組成物。
〔2〕
〔1〕記載の硬化性シリコーンゲル組成物を無酸素銅からなる金属基板の表面上に適用し、該組成物を常温又は加熱下に硬化させる工程を含むことを特徴とする金属基板上にシリコーンゲル層が積層された積層体の製造方法。
〔3〕
無酸素銅からなる金属基板が、該金属基板上に1個又は2個以上の半導体素子が搭載されたものである〔2〕記載の製造方法。
〔4〕
〔3〕記載の製造方法により製造された1個又は2個以上の半導体素子が搭載された無酸素銅からなる金属基板上にシリコーンゲル硬化物層を有する積層体からなる半導体封止モジュール。
〔5〕
硬化性シリコーンゲル組成物の硬化物と無酸素銅からなる金属基板との剪断密着力において、初期の剪断密着力をAinit、200℃×300時間の耐久試験後の剪断密着力をAagingとすると、0.5<Aaging/Ainitであることを特徴する〔4〕記載の半導体封止モジュール。
【発明の効果】
【0007】
本発明の積層体の製造方法及び該製造方法において用いられる特定の硬化性シリコーンゲル組成物によれば、従来よりも耐熱性、密着性に優れた金属基板上にシリコーンゲル硬化物層を有する積層体を提供することができるため、ICチップ等の電子部品の発熱によるシリコーンゲルの劣化を防ぎ、封止された半導体装置の信頼性を向上させることができるものである。
なお、本発明において無酸素銅(Oxygen−Free Copper)とは、一般的に酸化物を含まない99.95質量%以上の高純度の銅であり、特に、日本工業規格JIS C1020に規定する無酸素銅を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の積層体の製造方法において用いられる硬化性シリコーンゲル組成物は、下記(A)〜(D)成分を必須成分として含有してなるものである。
(A)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、
(B)三次元網状構造のアルケニル基含有オルガノポリシロキサン樹脂、
(C)オルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(D)白金系触媒。
【0009】
なお、本発明において、シリコーンゲル硬化物とは、オルガノポリシロキサンを主成分とする架橋密度の低い硬化物であって、JIS K−2220(1/4コーン)による針入度測定値が5〜100のものを意味する。これはJIS K6249によるゴム硬度測定では測定値(ゴム硬度値)が0となり、有効なゴム硬度値を示さないほど低硬度(即ち、架橋密度が低く、柔らかくて、低反発性)であるものに相当し、この点において、いわゆるシリコーンゴム硬化物(ゴム状弾性体)とは別異のものである。
【0010】
以下、各成分について詳細に説明する。
〔(A)オルガノポリシロキサン〕
本発明の(A)成分は、シリコーンゲル組成物の主剤(ベースポリマー)である。該(A)成分は、下記平均組成式(1)で表される、一分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基(本明細書中において「ケイ素原子結合アルケニル基」という)を少なくとも1個、好ましくは2個以上有するオルガノポリシロキサンである。
1a2bSiO(4-a-b)/2 (1)
(式中、R1は独立にアルケニル基であり、R2は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、aは0.0001〜0.2の正数であり、bは1.7〜2.2の正数であり、但し、a+bは1.8〜2.4を満たす数である。)
【0011】
上記式(1)中、R1は独立に、通常、炭素原子数2〜6、好ましくは2〜4、より好ましくは2〜3のアルケニル基である。その具体例としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられ、好ましくはビニル基である。R2は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、その炭素原子数は、通常1〜10、好ましくは1〜6である。その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基、これらの基の水素原子の一部又は全部を、塩素、臭素、フッ素等のハロゲン原子で置換したクロロメチル基、3,3,3−トリフロロプロピル基などが挙げられる。中でも、合成が容易であることから、メチル基、フェニル基又は3,3,3−トリフロロプロピル基が好ましい。
【0012】
また、aは0.0001〜0.2の正数であることが必要であり、好ましくは0.0005〜0.1の正数である。bは1.7〜2.2の正数であることが必要であり、好ましくは1.9〜2.02の正数である。但し、a+bは1.8〜2.4の範囲を満たすことが必要であり、好ましくは1.9〜2.1、より好ましくは1.95〜2.05の範囲である。
【0013】
(A)成分は、一分子中にケイ素原子結合アルケニル基を少なくとも1個有することが必要であり、好ましくは2〜50個、より好ましくは2〜10個有する。このケイ素原子結合アルケニル基の条件を満たすように前記a及びbの値を選択すればよい。
【0014】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの分子構造は特に限定されず、直鎖状であっても、例えば、R1SiO3/2単位、R2SiO3/2単位(R1,R2は上記と同じ)、SiO2単位を含む分岐状であってもよいが、下記一般式(1a):
【化1】

(式中、R6は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、R7は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の1価炭化水素基又はアルケニル基であり、但し、分子中に含有する全R7のうち、少なくとも1個、好ましくは2〜50個、より好ましくは2〜10個のR7、特に、分子鎖両末端のケイ素原子に結合した6個のR7のうちの少なくとも1個はアルケニル基であり、分子鎖両末端のケイ素原子に結合したR7のいずれかがアルケニル基である場合には、kは40〜1,200の整数であり、mは0〜50の整数であり、nは0〜50の整数である。また、分子鎖両末端のケイ素原子に結合したR7のいずれもがアルケニル基でない場合(即ち、分子鎖両末端のケイ素原子に結合した6個のR7が全てR6である場合)には、kは40〜1,200の整数、好ましくは100〜1,000の整数であり、mは1〜50の整数、好ましくは2〜40の整数であり、nは0〜50の整数、好ましくは0であり、但しm+nは1以上の整数、好ましくは2〜40の整数である。)で表されるオルガノポリシロキサン、即ち主鎖が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状のジオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【0015】
上記式(1a)中、R6で表される脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の1価炭化水素基は、通常炭素原子数1〜10、好ましくは1〜6のものである。その具体例としては、R2で例示したものが挙げられる。中でも合成が容易であることから、メチル基、フェニル基又は3,3,3−トリフルオロプロピル基が好ましい。
【0016】
7で表される基のうちアルケニル基は、通常、炭素原子数2〜6、好ましくは2〜4、より好ましくは2〜3のものである。その具体例としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基等が挙げられ、好ましくはビニル基である。
【0017】
上記式(1a)で表されるオルガノポリシロキサンとしては、例えば、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルトリフルオロプロピルポリシロキサン、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン共重合体、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ビニルメチルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ビニルメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ビニルメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ビニルメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン共重合体、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルトリフルオロプロピルポリシロキサン、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン共重合体、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖メチルトリフルオロプロピルポリシロキサン、両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン共重合体、両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリビニルシロキシ基封鎖メチルトリフルオロプロピルポリシロキサン、両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン共重合体、両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体等が挙げられる。
【0018】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの粘度は特に限定されないが、組成物の取扱作業性、得られる硬化物の強度、及び流動性が良好となる点から、25℃における粘度が50〜100,000mPa・sであることが好ましく、100〜10,000mPa・sであることがより好ましい。なお、粘度は、回転粘度計(例えば、BL型、BH型、BS型、コーンプレート型等)により測定することができる(以下、同じ)。
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
次に、(B)成分のオルガノポリシロキサンは、下記平均組成式(2)で示される三次元網状構造のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンで、該オルガノポリシロキサン中にアルケニル基を0.00001〜0.05mol/g、好ましくは、0.00005〜0.005mol/g含有する一般的には樹脂状のものである。
(R3SiO1/2c(R3SiO)d(R3SiO3/2e(R41/2f(SiO2g
(2)
【0020】
上記式(2)中、R3は置換又は非置換の1価炭化水素基であるが、その一部はアルケニル基であり、該アルケニル基は、分子中に少なくとも2個、好ましくは3個以上含有するものであり、また、該アルケニル基は、(B)成分のオルガノポリシロキサン1gあたり、0.00001〜0.05モル、好ましくは0.00005〜0.005モル含有するものである。また、R4は、前記R2と同様の脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の1価炭化水素基又は水素原子であり(即ち、1価の基R4O−は、代表的にはアルコキシ基等のオルガノオキシ基又はヒドロキシ基であり)、該オルガノオキシ基又はヒドロキシ基は(B)成分のオルガノポリシロキサン1gあたり0.0003モル以下含有する。また、c,d,e,f,gはそれぞれ、0.25≦c≦0.60、0≦d≦0.375、0≦e≦0.2、0<f≦0.2、0.25≦g≦0.667であり、c+d+e+f+g=1を満足する数である。)
【0021】
ここで、R3のうち、アルケニル基としては上記R1と同じであり、アルケニル基以外の1価炭化水素基としては上記R2と同様である。また、R4のうち、水素原子以外の1価炭化水素基としては上記R2と同様である。
【0022】
c,d,e,f,gは上記の通りであるが、好ましくは、0.329≦c≦0.545、0≦d≦0.1、0≦e≦0.1、0<f≦0.1、0.357≦g≦0.606である。
【0023】
アルケニル基含有量は上述の通りであり、アルケニル基が0.00001mol/gより少ないと熱劣化後の回路からの剥離が短時間で発生し、アルケニル基が0.05mol/gより多いとシリコーンゲル硬化物の耐熱性が低下する。
また、アルコキシ基等のオルガノオキシ基又はヒドロキシ基の含有量が0.003mol/gより多いとシリコーンゲル硬化物の耐熱性が低下する。
【0024】
(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、0.01〜100質量部であり、好ましくは0.1〜50質量部である。0.01質量部より少ないと、熱劣化後の回路からの剥離が発生し、100質量部より多いと安定したシリコーンゲル組成物が得られない。この場合、(A)成分由来のアルケニル基をVa(モル)、(B)成分由来のアルケニル基をVb(モル)とすると、これらのモル比;Vb/Va(モル/モル)は0より大きく、5以下であり、好ましくは0.1〜3であるように配合量を選定することが必要である。Vb/Vaのモル比が5を超えるとシリコーンゲルの硬化性が低下し、安定したシリコーンゲル硬化物が得られなくなる。
【0025】
次に、本発明の(C)成分は、ケイ素原子に結合した水素原子を一分子中に少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、上記(A)成分及び(B)成分とヒドロシリル化付加反応し、架橋剤(硬化剤)として作用するものである。該(C)成分は、下記平均組成式(3)
5jkSiO(4-j-k)/2 (3)
(式中、R5は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、jは0.7〜2.2の正数であり、kは0.001〜1.0の正数であり、但しj+kは0.8〜3.0である。)
で表される、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiHで示されるヒドロシリル基)を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンが一分子中に有するケイ素原子結合水素原子(SiH基)は、好ましくは3〜500個、より好ましくは5〜100個、特に好ましくは10〜80個である。また、(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は特に制限されず、直鎖状、環状、分岐鎖状、三次元網状構造等のいずれであってもよい。
【0026】
上記式(3)中、R5は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、その炭素原子数は、通常1〜10、好ましくは1〜6である。その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、へキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;これらの基の水素原子の一部又は全部を、塩素、臭素、フッ素等のハロゲン原子で置換した3,3,3−トリフルオロプロピル基等が挙げられる。中でも好ましくはアルキル基、アリール基、3,3,3−トリフルオロプロピル基であり、より好ましくはメチル基、フェニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基である。
【0027】
また、jは0.7〜2.2の正数であり、1.0〜2.1の正数であることが好ましい、kは0.001〜1.0の正数であり、0.002〜0.5の正数であることが好ましく、0.005〜0.1の正数であることがより好ましい。また、j+kは0.8〜3.0であり、1.0〜2.5であることが好ましく、1.5〜2.2であることがより好ましい。
【0028】
(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの一分子中のケイ素原子の数(即ち、重合度)は、通常2〜1,000個であるが、組成物の取扱作業性及び得られる硬化物の特性(低弾性率、低応力)が良好となる点から、好ましくは4〜500個、より好ましくは10〜300個、更に好ましくは20〜100個である。
【0029】
本発明において、分子量又は重合度は、例えば、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)等を展開溶媒としたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算値として求めることができ、通常、平均重合度は数平均重合度等として、分子量については重量平均分子量等として求めることが好適である(以下、同じ。)。
【0030】
上記式(3)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、例えば、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェン・メチルフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェン・ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェン・ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体等が挙げられる。
(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
(C)成分の添加量は、組成物全体(特に、上記(A)成分及び(B)成分の合計)中のケイ素原子に結合したアルケニル基1個に対してケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)が0.2〜3個、好ましくは0.25〜2個、より好ましくは0.3〜1.5個、更に好ましくは0.35〜0.9個となる量である。この(C)成分のケイ素原子に結合した水素原子が、組成物全体のアルケニル基1個に対して、0.2個より少なくなると、架橋密度が低すぎて、安定的にゲル状硬化物が得られなくなる。また、3個より多い場合は、架橋密度が高すぎて、硬化物が有効なゴム硬度値を示す程硬くなり、ゲル状硬化物が得られなくなったり、また、硬化物の耐熱性が低下する。
【0032】
〔(D)白金系触媒〕
本発明の(D)成分は、前記(A)成分及び(B)成分中のケイ素原子結合アルケニル基と前記(C)成分中のケイ素原子結合水素原子とのヒドロシリル化付加反応を促進させるための触媒として使用されるものである。該(D)成分は白金系触媒(白金又は白金系化合物)であり、公知のものを使用することができる。その具体例としては、白金ブラック、塩化白金酸、塩化白金酸等のアルコール変性物;塩化白金酸とオレフィン、アルデヒド、ビニルシロキサン又はアセチレンアルコール類等との錯体などの白金族金属触媒等が例示される。
【0033】
(D)成分の配合量は有効量(いわゆる、触媒量)でよく、所望の硬化速度により適宜増減することができるが、通常、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計量に対して、白金原子の質量換算で、通常0.1〜1,000ppm、好ましくは1〜300ppmの範囲である。(D)成分の配合量が少なすぎると外部環境に起因する触媒毒の影響を受けて硬化性が劣る場合があり、多すぎると硬化物が変色したり、硬化物の絶縁性が低下する場合がある。
【0034】
〔その他の任意成分〕
本発明の組成物には、上記(A)〜(D)成分以外にも、本発明の目的を損なわない範囲で任意成分を配合することができる。この任意成分としては、例えば、反応抑制剤、無機質充填剤、ケイ素原子結合水素原子及びケイ素原子結合アルケニル基を含有しないオルガノポリシロキサン、耐熱性付与剤、難燃性付与剤、チクソ性付与剤、顔料、染料等が挙げられる。
【0035】
反応抑制剤は、上記組成物の反応を抑制するための成分であって、具体的には、例えば、アセチレン系、アミン系、カルボン酸エステル系、亜リン酸エステル系等の反応抑制剤が挙げられる。
【0036】
無機質充填剤としては、例えば、ヒュームドシリカ、結晶性シリカ、沈降性シリカ、中空フィラー、シルセスキオキサン、ヒュームド二酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、層状マイカ、カーボンブラック、ケイ藻土、ガラス繊維等の無機質充填剤;これらの充填剤をオルガノアルコキシシラン化合物、オルガノクロロシラン化合物、オルガノシラザン化合物、低分子量シロキサン化合物等の有機ケイ素化合物で表面疎水化処理した充填剤等が挙げられる。また、シリコーンゴムパウダー、シリコーンレジンパウダー等を配合してもよい。
【0037】
本発明の硬化性シリコーンゲル組成物は、上記(A)〜(D)成分(任意成分が配合される場合には、任意成分も含む)を常法に準じて混合することにより調製することができる。その際に、混合される成分を必要に応じて2パート又はそれ以上のパートに分割して混合してもよく、例えば、(A),(B)成分の一部及び(C)成分からなるパートと、(A),(B)成分の残部、及び(D)成分からなるパートとに分割して混合することも可能である。
【0038】
その後、本発明のシリコーンゲル組成物を常温(23℃±10℃)もしくは用途に応じた150℃(23〜150℃)以下、好ましくは40〜120℃の条件下で硬化させることによりシリコーンゲル硬化物が得られる。また、本発明の硬化性シリコーンゲル組成物は、低温でも短時間加熱硬化できるものであり、硬化時間としては10〜240分程度とすることができる。
【0039】
本発明の硬化性シリコーンゲル組成物の硬化物(シリコーンゲル)は、JIS K2220で規定される1/4コーンによる針入度が5〜100であるものであり、好ましくは20〜100、より好ましくは30〜80である。針入度が5未満である場合には、シリコーンゲルが硬化する際の応力に耐えきれず、電子回路の一部が破断したり、シリコーンゲル内部にクラックが生成したりする。また、針入度が100を超えると、十分な形状保持能力を持ったシリコーンゲルが得られず、充填、硬化したシリコーンゲルが回路から流出する。
【0040】
なお、上述した針入度及び損失係数を上記範囲とするには、組成物中における各成分の配合割合、特には、(A)成分及び(D)成分に対する(B)成分の配合量(配合比率)や(B)成分中のSiH基含有量を調節して、組成物中のアルケニル基に対するSiH基の比率(モル比)や組成物中の架橋点濃度を適宜調節することにより制御することができる。
【0041】
本発明の金属基板上にシリコーンゲル層が積層された積層体は、無酸素銅からなる金属基板に対して、上記(A)〜(D)成分、及び必要に応じて任意成分とを含有してなり、JIS K2220で規定される1/4コーンによる針入度が5〜100であるシリコーンゲル硬化物を与える硬化性シリコーンゲル組成物を、該金属基板の表面上に所定の塗布量又は厚みで適用し、該硬化性シリコーンゲル組成物を上述の条件で常温又は加熱下に硬化させることにより製造することができる。
【0042】
本発明の硬化性シリコーンゲル組成物を用いて製造される金属基板上にシリコーンゲル層が積層された積層体、特に、1個又は2個以上のIC部品等の半導体素子が配置、搭載された無酸素銅からなる金属基板上にシリコーンゲル層が積層されてなる積層体(即ち、半導体封止モジュール)における該シリコーンゲル層は、電気・電子部品の封止もしくは充填に用いることが好適であり、特に本発明の硬化性シリコーンゲル組成物は、半導体装置の封止材として好適である。 なお、上記積層体におけるシリコーンゲル層の厚さは通常、0.1〜15mm、好ましくは0.5〜10mm程度であればよい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、下記の実施例は本発明を何ら制限するものではない。なお、実施例中、「部」は「質量部」を表し、「%」は「質量%」を表し、「Vi」は「ビニル基」を表す。また、「ppm」は質量の比率を意味する。また、針入度は、JIS K2220で規定される1/4コーンによる針入度であり、離合社製自動針入度計RPM−101を用いて測定した。重合度は、トルエンを展開溶媒としたGPC分析におけるポリスチレン換算の数平均重合度を示す。また、粘度は回転粘度計による測定値を示す。
【0044】
[実施例1]
下記式(4)
【化2】

で示される25℃での粘度が1,000mPa・sの両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体を78部、下記式(5)
【化3】

で示され、25℃での粘度が700mPa・sのトリメチルシロキシ基・ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体を19部、下記式(6)
((CH33SiO1/2l(Vi(CH32SiO1/2m(OH)n(SiO2p
(6)
で示される(但し、l:m:n:p=666:100:18:900の比で示され、50%トルエン希釈された状態で25℃における粘度が3.5mPa・s、ビニル基量が0.00085mol/g、SiOH量が0.00015mol/gである)三次元網状メチルビニルポリシロキサン溶液6部を均一に混合した後、120℃でトルエンを減圧留去した。室温まで冷却した後、下記式(7)
【化4】

で示され、25℃での粘度が100mPa・sの両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体を0.8部、下記式(8)
【化5】

で示され、25℃での粘度が18mPa・sの両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサンを1.9部(このとき、(A)成分及び(B)成分の合計中のケイ素原子結合アルケニル基1個あたりの(C)成分中のケイ素原子結合水素原子の個数(以下、H/Viという)は0.43であった。)、及び白金原子を1%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液を0.05部、エチニルシクロヘキサノール0.02部を均一混合し、混合物1を得た。
得られた混合物1を80℃で60分間加熱硬化したところ、針入度50のシリコーンゲル硬化物1を得た。
【0045】
[実施例2]
実施例1において、式(4)で表される両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体を45部、式(5)で表されるトリメチルシロキシ基・ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体を22部、式(9)
((CH33SiO1/2q(Vi(CH32SiO1/2r(OH)s(SiO2t
(9)
で示される(但し、q:r:s:t=99:3:1:114の比で示され、50%トルエンで希釈された状態で25℃における粘度が2.7mPa・s、ビニル基量が0.0002mol/g、SiOH量が0.00007mol/gである)三次元網状メチルビニルポリシロキサン溶液を66部を均一混合した後、120℃でトルエンを減圧留去した。室温まで冷却した後、式(7)で示される両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体1.5部、式(8)で表される両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン2.9部(このとき、H/Viは0.58である)及び白金原子を1%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のジメチルポリシロキサン溶液を0.05部、エチニルシクロヘキサノール0.02部を均一混合し、混合物2を得た。
得られた混合物2を120℃で60分間加熱硬化したところ、針入度15のシリコーンゲル硬化物2を得た。
【0046】
[比較例1]
実施例1において、式(6)で表される三次元網状メチルビニルポリシロキサン溶液を用いない以外は同様にして、混合物3(このときH/Viは0.66であった)を得た。得られた混合物3を80℃で60分間加熱硬化したところ、針入度58のシリコーンゲル硬化物3を得た。
【0047】
[比較例2]
実施例1において、式(6)で表される三次元網状メチルビニルポリシロキサン溶液を66部用いる以外は同様にして、混合物4(このとき、H/Viは0.10であった)を得た。得られた混合物を150℃で4時間加熱硬化したが、硬化物は得られなかった。
【0048】
[比較例3]
実施例1において、式(6)で表される三次元網状メチルビニルポリシロキサン溶液を66部用いること、式(7)で示される両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体3.4部、式(8)で表される両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン8.3部(このとき、H/Viは0.43である)用いる以外は同様にして、混合物5を得た。この混合物5を80℃で60分間加熱硬化したところ、針入度18のシリコーンゲル硬化物5を得た。
【0049】
次にICチップの発熱によるシリコーンゲルと無酸素銅製の金属基板との接着(密着)界面への影響を調べるため、日本工業規格JIS C1020で規定される無酸素銅及び前記混合物(硬化性シリコーンゲル組成物)1,2,3及び5を用いて、それぞれ80℃×60分の加熱条件下に各硬化性シリコーンゲル組成物を硬化して無酸素銅製の金属基板上にシリコーンゲル層(2mm)が積層された剪断試験片を作成し、初期の密着力と破壊モード(界面剥離又は凝集破壊(ゲル破壊))、及びホットプレート加熱200℃×300時間加熱後の密着力と破壊モードを評価した結果を下記表1に示す。尚、密着力は島津製作所製オートグラフAG−ISを用いて、引っ張り速度50mm/minにて測定した。
【0050】
【表1】
【0051】
[評価]
実施例1,2の混合物は、本発明の要件を満たすものであり、良好な物性と耐久性を示すものである。これに対し、比較例1,3の混合物は、いずれも本発明の要件を満たさないものであり、初期より金属基板との密着性に乏しかったり、耐久後の密着性が低下することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の硬化性シリコーンゲル組成物は、金属基板に対する優れた密着性を付与し、ICチップからの発熱を考慮した耐久試験後でも密着性が維持できる硬化物を与えることができ、該組成物を硬化することにより得られるシリコーンゲル硬化物は、半導体装置、特にICやハイブリッドIC等の電子部品の保護用途に好適である。