特許第6288213号(P6288213)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6288213-プラスチック表面の処理方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6288213
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】プラスチック表面の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/24 20060101AFI20180226BHJP
   C23C 18/28 20060101ALI20180226BHJP
   C09K 13/04 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   C23C18/24
   C23C18/28
   C09K13/04 102
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-214279(P2016-214279)
(22)【出願日】2016年11月1日
【審査請求日】2017年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】永井 達夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕都喜
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/043920(WO,A1)
【文献】 特開昭50−070239(JP,A)
【文献】 特開2002−121678(JP,A)
【文献】 特表2016−539492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00−20/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっきの前処理としてのプラスチック表面の処理方法であって、プラスチックを、過硫酸塩を溶解した硫酸濃度が50〜92wt%で過硫酸濃度が3〜20g/LのCrフリーの溶液で処理し、前記過硫酸塩を溶解した溶液の温度が80〜140℃であるプラスチック表面の処理方法。
【請求項2】
前記過硫酸塩を溶解した溶液として、過硫酸塩以外の無機塩を溶解した混合溶液を用いる請求項1に記載のプラスチック表面の処理方法。
【請求項3】
過硫酸塩を溶解した溶液を貯留するための処理槽と、該処理槽内の過硫酸塩を溶解した溶液を供給する過硫酸塩溶液貯槽と、前記処理槽を加熱する恒温ヒータとを備えた処理装置の前記処理槽にプラスチックを浸漬し、該プラスチックの表面を処理する請求項1又は2に記載のプラスチック表面の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック(樹脂成形品)表面の金属化に先立って行われるプラスチック表面の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造材料や部品材料として金属が用いられている部位において、軽量化、低コスト化、形状の自由さ、大量生産が容易等のメリットを生かし、プラスチックが代替されている。現在では、プラスチックは、装飾用のみならず、自動車の外装や内装部品、家電製品等に広く使用されている。その際、剛性、耐摩耗性、耐候性、耐熱性等を向上させるため、プラスチック表面にめっきを施すことが多い。
【0003】
プラスチックは非導電性のため、めっきを施すにはまず導体となる金属皮膜をプラスチック上に形成する必要がある。その方法を大きく分類すると、CVD、PVDといった乾式法、無電解ニッケルめっきの湿式法がある。乾式法は真空状態での成膜がほとんどで、大量生産や大型部品への適用に向かないことから、湿式法がこれまで採用されてきた。
【0004】
このようなプラスチック成形品のうちABS樹脂やPEEK樹脂製の成形品はその前処理が難しいとされ、これらの無電解めっきの前処理としては、硫酸−クロム酸による粗面化処理が行われている。クロム酸は化学式:HCrOで表され、濃硫酸との混合液であるエッチング液中では
2CrO2−+2H→Cr2−+3H
の平衡が存在するものの、Crはいずれにせよ6価である。6価CrはREACH規制及びRoHS規制の対象ではあるものの、製品内に6価Crが残留するわけでないので、それ自体が規制を受けるわけではないが、硫酸−クロム酸による粗面化処理を行った後の排水には、有害なクロムが含まれる。このためクロムを含む排水は、還元、中和、凝集沈殿等の排水処理が必要となる上に、沈殿物もクロムを含むために容易には廃棄できないという問題点があった。
【0005】
そこで、クロム酸に代わる環境調和型技術として、特許文献1には、過マンガン酸塩及び無機塩の混合液でエッチングすることが提案されている。また、特許文献2及び特許文献3には、オゾン溶解水を用いてプラスチック成形品の表面を粗化する無電解めっきの前処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−31513号公報
【特許文献2】特開2002−121678号公報
【特許文献3】特開2012−52214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の方法では、PEEK樹脂やABS樹脂の表面処理は難しく、金属との密着性が良くない、という問題点がある。また、特許文献2及び特許文献3に記載されたプラスチック表面の処理方法では、オゾンは分解速度が速いので、高濃度のオゾン水を製造し、かつ高濃度を維持しなければならないので、大掛かりな設備が必要となるだけでなく、局所的なオゾン濃度の差により処理にムラが生じやすい、という問題点がある。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、Crフリーのプラスチック表面の処理方法であって、プラスチック表面に十分に密着しためっきを形成することができるプラスチック表面の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明は、プラスチックを、過硫酸塩を溶解した硫酸濃度が50〜92wt%で過硫酸濃度が3〜20g/Lの溶液で処理するプラスチック表面の処理方法を提供する(発明1)。
【0010】
かかる発明(発明1)によれば、過硫酸の強い酸化作用によりプラスチック表面に親水性の官能基が露出するので、この処理後のプラスチックにめっき処理を施すことにより十分に密着しためっきを得ることができる。
【0011】
上記発明(発明1)においては、前記過硫酸塩を溶解した溶液として、無機塩を溶解した混合溶液を用いることができる(発明2)。
【0012】
かかる発明(発明2)によれば、プラスチック表面の処理の度合いを調整することができる。
【0013】
上記発明(発明1,2)においては、処理温度が50〜140℃であることが好ましい(発明3)。
【0014】
上記発明(発明3)によれば、過硫酸の分解を抑制しつつプラスチック表面を好適に粗面化することができる。
【0015】
かかる発明(発明1〜3)においては、過硫酸塩を溶解した溶液を貯留するための処理槽と、該処理槽内の過硫酸塩を溶解した溶液を供給する過硫酸塩溶液貯槽とを備えた処理装置の前記処理槽にプラスチックを浸漬し、該プラスチックの表面を処理することが好ましい(発明4)。
【0016】
かかる発明(発明4)によれば、過硫酸塩の溶液を貯留した処理槽にプラスチックを浸漬を浸漬するだけで処理を行うことができる。また、過硫酸の濃度が低下したら過硫酸塩溶液貯槽から過硫酸塩溶液を補充することで処理能力を維持することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のプラスチック表面の処理方法によれば、過硫酸の強い酸化作用によりプラスチック表面に親水性の官能基が露出するので、この処理後のプラスチックにめっき処理を施すことにより十分に密着しためっきを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態によるプラスチック表面の処理方法を適用可能な処理装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は本発明の一実施形態によるプラスチック表面の処理方法を適用可能な処理装置を示しており、図1において処理装置1は、外周に恒温ヒータ3が設けられた処理槽2と、配管4及びポンプ5を介して接続された供給槽6とを有する。なお、処理槽2内には、必要に応じて槽内を攪拌するための散気菅などの攪拌手段を設けても良い。また、供給槽6には図示しない過硫酸塩及び硫酸の供給手段が接続されていて、必要に応じ過硫酸塩溶液S1を調製して処理槽2に供給可能となっている。
【0020】
このような処理装置1において、供給槽6には所定の硫酸濃度及び過硫酸濃度の過硫酸塩の溶液S1が充填されていて、処理槽2には供給槽6から過硫酸塩の溶液S1が供給されることにより、所定の濃度の過硫酸塩の溶液Sが充填されている。そして、処理槽2内には、被処理プラスチックとしてプラスチック板7が上下方向に吊設されている。
【0021】
本実施形態において、処理対象となるプラスチック板7を構成するプラスチックとしては特に限定されないが、クロム酸−硫酸溶液でなければエッチングが困難な難エッチング性の高いプラスチック、例えば、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂やポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂及びポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂等が挙げられる。
【0022】
本実施形態において、過硫酸塩の溶液S,S1に用いる過硫酸塩としては、溶液時にペルオキソ一硫酸塩および/またはペルオキソ二硫酸塩を生じるものであればよく、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの一硫酸塩あるいは二硫酸塩を用いることができる。これらの中では過硫酸ナトリウムが好適である。過硫酸塩の溶液S,S1には、リン酸塩、硫酸塩、塩化ナトリウムなどの他の無機塩類を適宜添加することができる。
【0023】
この過硫酸塩の溶液S,S1の硫酸濃度は50〜92wt%である。硫酸濃度が50wt%未満では十分なめっきの付着性の向上効果が得られない一方、92wt%を超えても上記効果の向上が得られないばかりか、かえってめっき付着性が低下する。特に70〜85wt%で上記効果が顕著であるので好ましい。また、過硫酸塩を溶解した後の溶液S,S1の過硫酸濃度は3〜20g/Lである。過硫酸濃度が3g/L未満では十分なめっきの付着性の向上効果が得られない一方、20g/Lを超えても上記効果の向上が得られないばかりか経済的でない。特に過硫酸濃度が3〜10g/Lであるのが好ましい。
【0024】
次に上述したような処理装置1を用いたプラスチック表面の処理方法について説明する。まず、プラスチック板7を脱脂し、その後、このプラスチック板7を過硫酸塩溶液Sを入れた処理槽2に浸漬することによりプラスチック板7の表面を処理する。
【0025】
このとき、恒温ヒータ3により処理槽2を加熱して過硫酸塩の溶液Sの温度を80℃以上、例えば80〜140℃、特に80〜130℃に保持するのが好ましい。この処理温度はプラスチック板7の素材、あるいは過硫酸塩の溶液Sの硫酸濃度、過硫酸濃度に応じて適宜設定すればよい。
【0026】
この過硫酸塩の溶液Sに1〜20分間、特に1〜10分間浸漬することにより、プラスチック板7の表面には親水性の官能基が露出する。これにより、ABS樹脂の場合ヒドロキシル基、カルボニル基、アルデヒド基及びカルボキシル基がプラスチック表面に現れる。また、PEEK樹脂の場合には、ヒドロキシル基及びカルボキシル基がプラスチック表面に現れる。これらにより、その後のめっき処理においてめっきの密着性を向上させることができる。
【0027】
そして、処理槽2から取り出したプラスチック板7は、水洗及び乾燥後、めっき処理される。めっき処理方法としては、自己触媒性のある無電解めっき、自己触媒性のない無電解めっきがあるが、そのいずれでもよい。めっきする金属は、ニッケル、銅、コバルト、及びそれらの合金などのいずれでもよい。
【0028】
このような処理をプラスチック板7を取り換えて連続して行えばよいが、処理槽2内の過硫酸塩の溶液Sの硫酸濃度は処理に伴い分解するので、ポンプ5を起動して供給槽6から新たな過硫酸塩の溶液S1を配管4から処理槽2に補充すればよい。
【0029】
以上、本発明のプラスチック表面の処理方法について、上記実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上記実施例に限定されず種々の変形実施が可能である。例えば、過硫酸塩の溶液S,S1には種々の無機塩類を添加することができる。また、プラスチック板7は種々の樹脂製のものに適用可能である。さらに、本実施形態のようなバッチ処理でなく連続処理も可能である。また、供給槽6には過硫酸塩水溶液を用意しておき、処理槽2に別途硫酸を供給するようにしてもよい。
【実施例】
【0030】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。但し、本発明はこれらの記載により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例においては、過硫酸濃度測定及び付着性試験は次のようにして行った。
【0031】
<過硫酸濃度測定方法>
まず、ヨウ素滴定により処理液(過硫酸塩溶液S)中に含まれる全酸化剤濃度を測定する。このヨウ素滴定とは、過硫酸塩溶液SにKIを加えてIを遊離させ、そのlをチオ硫酸ナトリウム標準溶液で滴定してIの量を求め、そのIの量から酸化剤濃度を求めるものである。次に、過硫酸塩溶液Sの過酸化水素濃度のみを過マンガン酸カリウム滴定により求め、ヨウ素滴定値から過マンガン酸カリウム滴定値を差し引くことにより過硫酸濃度を求めた。
【0032】
<めっき付着性試験>
表面に2mm間隔で垂直に両方向6本のABS樹脂まで貫通する切込みを入れて25(5×5)の格子を形成し、格子部分にセロテープ(登録商標)を強く圧着させ、テープの端を45°の角度で一気に引き剥がし、格子の状態を図例と比較した。試験結果を、以下の分類0から5までの6段階で評価する。分類0:どの格子の目もはがれがない。分類1:カットの交差点において塗膜が小さくはがれているが5%未満。分類2:塗膜がカットの線に沿って、交差点においてはがれており5%以上15%未満。分類3:塗膜がカットの線に沿って部分的、全面的にはがれており15%以上30%未満。分類4:塗膜がカットの線に沿って部分的、全面的に大きくはがれを生じており30%以上65%未満。分類5:分類4以上にはがれを生じている。なお、切込みは3箇所にいれて、これら3箇所を総合して判断する。
【0033】
[実施例1]
図1に示す装置を用いて、プラスチック板7としてABS樹脂板の表面処理を行った。処理槽の仕様及び条件は次の通りである。なお、過硫酸塩としては過硫酸ナトリウムを用いた。
【0034】
<処理槽>
処理槽2の容積:40L
ABS樹脂板の大きさ:500mm×500mm×厚さ5mm
<過硫酸塩の溶液Sの性状と表面処理条件>
硫酸濃度:75wt%
過硫酸濃度:10g/L
処理温度:70℃
処理時間:10分
【0035】
まず、処理槽2内に過硫酸塩溶液Sを収容し、恒温ヒータ3を作動させて溶液温度が70℃になったらABS樹脂板を浸漬した。10分間浸漬した後、処理槽2から取り出し、純水で洗浄した後乾燥し、触媒付与工程及び活性化工程を経て無電解ニッケルめっきを施した。各工程の処理条件を表1に示す。
【0036】
この無電解ニッケルめっきした板より150mm×100mmのサンプルを切り出し、上記方法にてめっき付着性試験を行った。
【0037】
【表1】
【0038】
[実施例2〜4、比較例1〜4]
表面処理条件を表2に示すように設定したこと以外は実施例1と同様に試験を行った。結果を表2に示す。なお、表2には実施例1の結果も併記している。
【0039】
【表2】
【0040】
表2から明らかなとおり本発明のプラスチック表面の処理方法によると優れためっき付着性が得られることがわかる。
【0041】
[実施例5]
図1に示す装置を用いて、プラスチック板7としてPEEK樹脂板の表面処理を行った。処理槽の仕様及び条件は次の通りである。なお、過硫酸塩としては過硫酸ナトリウムを用いた。
【0042】
<処理槽>
処理槽2の容積:40L
PEEK樹脂板の大きさ:500mm×500mm×厚さ5mm
<過硫酸塩の溶液Sの性状と表面処理条件>
硫酸濃度:85wt%
過硫酸濃度:10g/L
処理温度:120℃
処理時間:1分
【0043】
まず、処理槽2内に過硫酸塩溶液Sを収容し、恒温ヒータ3を作動させて溶液温度が120℃になったらPEEK樹脂板を浸漬した。1分間浸漬した後、処理槽2から取り出し、純水で洗浄した後乾燥し、触媒付与工程及び活性化工程を経て無電解ニッケルめっきを施した。各工程の処理条件は表1に示すとおり(実施例1と同じ)である。
【0044】
この無電解ニッケルめっきした板より150mm×100mmのサンプルを切り出し、上記方法にてめっき付着性試験を行った。
【0045】
[実施例6〜8、比較例5〜8]
表面処理条件を表3に示すように設定したこと以外は実施例5と同様に試験を行った。結果を表3に示す。なお、表3には実施例5の結果も併記している。
【0046】
【表3】
【0047】
表3から明らかなとおり本発明のプラスチック表面の処理方法によると優れためっき付着性が得られることがわかる。
【符号の説明】
【0048】
1 処理装置
2 処理槽
3 恒温ヒータ
4 配管
5 ポンプ
6 供給槽
7 プラスチック板
S,S1 過硫酸塩の溶液
【要約】      (修正有)
【課題】Crフリーのプラスチック表面の処理方法であって、プラスチック表面に十分に密着しためっきを形成することができるプラスチック表面の処理方法の提供。
【解決手段】処理装置1は、外周に恒温ヒータ3が設けられた処理槽2と、配管4及びポンプ5を介して接続された供給槽6とを有し、処理槽2及び供給槽6には、所定の硫酸濃度及び過硫酸濃度の過硫酸塩の溶液S,S1がそれぞれ充填されており、そして、処理槽2内には、被処理プラスチックとしてプラスチック板7が上下方向に吊設されており、この過硫酸塩の溶液S,S1の硫酸濃度は50〜92wt%であり、また、過硫酸塩を溶解した後の溶液S,S1の過硫酸濃度が3〜20g/Lであるプラスチック表面処理方法。好ましくは処理温度度が50〜140℃であるプラスチック表面処理方法。
【選択図】図1
図1