特許第6288319号(P6288319)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6288319-水処理装置の運転方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6288319
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】水処理装置の運転方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/00 20060101AFI20180226BHJP
   C02F 1/42 20060101ALI20180226BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20180226BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   C02F1/00 D
   C02F1/00 V
   C02F1/42 B
   C02F1/28 A
   C02F1/44 D
   C02F1/44 H
   C02F1/00 S
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-1990(P2017-1990)
(22)【出願日】2017年1月10日
【審査請求日】2017年9月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】森田 博志
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−258219(JP,A)
【文献】 特開平09−285785(JP,A)
【文献】 特開2003−190950(JP,A)
【文献】 特開昭63−084688(JP,A)
【文献】 特開2002−048776(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00 − 1/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列設置された複数の同種かつ同処理容量の水処理器を有する水処理装置を運転する方法であって、
各水処理器に同一の被処理水を通水して処理水を採水する水処理装置の運転方法において、
一部の水処理器Aへの通水を他の水処理器Bよりも高負荷とし、
該水処理器Aの処理水の水質悪化が生じた場合、それまでの水処理器Aへの積算負荷から水処理器Bの寿命を予測し、この予測結果に基づいて、その後の各水処理器への通水量及び通水時間を制御する方法であり、
水処理器Aの処理水の水質が所定値にまで悪化した時点までの水処理器Aへの積算負荷を寿命負荷とし、
当該時点までの水処理器Bへの積算負荷と該寿命負荷との差(以下、負荷差という。)を求め、
前記時点以降は水処理器Aへの通水を停止し、水処理装置全体における単位時間当りの必要処理水量を水処理器Bの数で除算した単位時間当り通水量を各水処理器Bへの通水速度とし、
この通水速度と、前記時点から採水終了までの通水時間との積から求まる負荷が前記負荷差となるように、該通水時間を設定することを特徴とする水処理装置の運転方法。
【請求項2】
請求項1において、前記水処理器の水質悪化が生じるまでは、前記水処理器Aへの通水速度を水処理器Bの通水速度の1.05〜1.3倍とすることを特徴とする水処理装置の運転方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記水処理器は、容器にイオン交換樹脂、活性炭、イオン交換フィルター、キレート樹脂又は触媒を充填したものであることを特徴とする水処理装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換樹脂塔、活性炭塔などの水処理器が複数個、並列設置されている水処理装置を運転する方法に係り、特に水処理器の水処理能力を十分に使い尽すように運転する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラー用水などの一般産業用純水、発電所で用いられる高度な純水、半導体工場・液晶工場などでウェハや基板の洗浄水・リンス水として使われる超純水は、ほとんど全てが被処理水中に含まれる不純物を除去する水処理器を複数組み合わせて使う水処理システムにより製造されている。水処理器としては、イオン交換樹脂塔、活性炭塔、RO膜装置、UF膜装置、イオン交換フィルターなどが広く用いられている。
【0003】
これらの水処理器の使用方法としては、不純物除去工程と再生工程を繰り返して使う方法のほか、一定水準まで使用した段階で新品に更新する一過式の使用方法などがある。いずれの場合も、所望の処理水質を保ちつつ不純物除去工程(通水工程)を長く保つことが望ましい。
【0004】
水処理器は、処理水質の悪化傾向が認められた場合でも、速やかに再生あるいは新品への更新に移ることが困難な場合が多い。そのため、実際には一定期間ごと、あるいは一定処理量ごとに、計画的に再生・更新を行うことが行われている。
【0005】
しかしながら、被処理水の水質は年中一定と限らないため、一定期間ごと、あるいは一定処理量ごとの再生・更新を行う場合には、被処理水の水質が厳しい(除去すべき不純物濃度が高い)状態を前提に条件設定されるので、結果的にある程度余裕のある時点での再生・更新となることが多い。また、そうしないと所望の水質を確保できないリスクがある。
【0006】
特許文献1には、実機のイオン交換樹脂装置と並列に小型のイオン交換樹脂充填カラムを設置し、この小型のイオン交換樹脂充填カラムに同一の原水(被処理水)を通水してその処理水質を監視し、イオン交換樹脂装置の残寿命を推定する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−154634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
小型のイオン交換樹脂充填容器による寿命予測においては、SV、LVなどを実機に極力近づけ、かつやや厳しい条件での通水とすることが一般的であるが、実機への負荷状況を正確に反映することは困難であり、ここでもある程度の余裕シロを考慮に入れた扱いが必要となっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は次の通りである。
[1] 並列設置された複数の同種かつ同処理容量の水処理器を有する水処理装置を運転する方法であって、各水処理器に同一の被処理水を通水して処理水を採水する水処理装置の運転方法において、一部の水処理器Aへの通水を他の水処理器Bよりも高負荷とし、該水処理器Aの処理水の水質悪化が生じた場合、それまでの水処理器Aへの積算負荷から水処理器Bの寿命を予測し、この予測結果に基づいて、その後の各水処理器への通水量及び通水時間を制御する方法であり、水処理器Aの処理水の水質が所定値にまで悪化した時点までの水処理器Aへの積算負荷を寿命負荷とし、当該時点までの水処理器Bへの積算負荷と該寿命負荷との差(以下、負荷差という。)を求め、前記時点以降は水処理器Aへの通水を停止し、水処理装置全体における単位時間当りの必要処理水量を水処理器Bの数で除算した単位時間当り通水量を各水処理器Bへの通水速度とし、この通水速度と、前記時点から採水終了までの通水時間との積から求まる負荷が前記負荷差となるように、該通水時間を設定することを特徴とする水処理装置の運転方法。
【0010】
[2] [1]において、前記水処理器の水質悪化が生じるまでは、前記水処理器Aへの通水速度を水処理器Bの通水速度の1.05〜1.3倍とすることを特徴とする水処理装置の運転方法。
【0013】
] [1]又は2]において、前記水処理器は、容器にイオン交換樹脂、活性炭、イオン交換フィルター、キレート樹脂又は触媒を充填したものであることを特徴とする水処理装置の運転方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、一部(1個又は少数個)の水処理器を、処理水質低下を検出するためのパイロット用とし、他の水処理器よりも若干高負荷(例えば高通水速度)通水し、このパイロット用の水処理器の処理水の水質の悪化の兆候から水処理器の寿命を予測する。そして、各水処理器を寿命ぎりぎりまで使い尽すように、その後の通水条件を設定する。
【0015】
これにより、通常の水処理システムに対して特段の測定機器、制御機器等を追加設置することなく、所望水質を維持しつつ、各水処理器を寿命ぎりぎりまで使い尽くすことができる。高負荷通水した一部の水処理器で水質悪化兆候を察知した場合でも、直ちには水処理装置全体の寿命には至らないので、水処理器の再生・更新の準備を整えた上での対応が無理なく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明方法が適用される水処理装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図1を参照して実施の形態について説明する。なお、この実施の形態の説明では、水処理器はイオン交換樹脂塔とされているが、活性炭塔、キレート樹脂塔、触媒塔、イオン交換フィルター、MF膜装置、UF膜装置、RO膜装置などであってもよい。好適には寿命が明確なイオン交換樹脂塔、イオン交換フィルター、キレート樹脂塔、活性炭塔、触媒塔などが挙げられる。また、超純水製造のために、水中不純物を除去する水処理のほか、純水製造以外の、液中不純物除去にも適用することができる。
【0018】
図1の通り、複数のイオン交換樹脂塔3が並列に設置されている。各イオン交換樹脂塔3へは、配管1及びバルブ2を介して被処理水が通水可能とされ、処理水がバルブ4及び配管5を介して流出可能とされている。各イオン交換樹脂塔3への通水量を流量計(図示略)で測定すると共に、各イオン交換樹脂塔3の処理水の水質を水質測定器6により測定する。水質測定器としては、導電率計、濁度計、残留塩素濃度計、pH計、比抵抗計などを用いることができるが、これらに限定されない。水処理器の種類に適した水質測定器が適宜選択される。
【0019】
複数のイオン交換樹脂塔3のうち一部(図1では、最も左側の1つの塔)Aをパイロット用の塔Aとし、他の塔Bよりやや過酷(この場合は高流速条件)で通水する。そして、イオン交換樹脂塔Aの処理水の水質を連続的又は断続的に監視し、安定状態から悪化の兆候を把握する。なお、この間の塔Aへの通水SVは、塔Bへの通水SVの1.05〜1.3倍程度が好ましい。
【0020】
塔Aへの通水SVが塔Bよりも大きいので、塔Aは塔Bよりも早期に破過(処理水質悪化)する。
【0021】
塔Aにおける処理水の水質悪化の兆候を、塔Bの処理水の水質悪化に先んじて把握した後は、塔A,Bの全体の能力をフルに(即ち、寿命ギリギリまで)利用するために、塔Bの残寿命を予測し、採水終了に至るまで、良水質の処理水が最大限得られるように流量調整する。即ち、塔Aについて通水流量を減少させるか、あるいは通水を停止し、この塔Aへの通水量の減少分(又は停止分)を他の塔Bへの通水量に上乗せする。各塔Bへの通水量は均等としてもよいが、塔Bのうちの一部の塔(塔C)の流量の上乗せ分を他より僅かに高くし、塔Cの処理水質の悪化兆候を監視して残りの塔Bの残寿命を予測してもよい(記号Cは図示略)。
【0022】
以上の方法により、通常の水処理システムに対して特段の測定機器や制御機器を追加設置することなく、目的とする処理水水質を維持しつつ、すべてのイオン交換樹脂塔について寿命ぎりぎりまで通水することができる。塔A(又は塔C)で水質悪化兆候を察知した場合でも直ちには水処理装置全体の寿命には至らないので、水処理器の再生・更新を、準備を整えた上で無理なく行うことができる。
【0023】
図1では、1つのイオン交換樹脂塔をパイロット用の塔Aとしているが、多数の塔を並列設置したシステムにおいて、残寿命予測の精度をより高くするには、多少過酷な条件で通水するパイロット用の塔Aを複数設け、標準条件に対する苛酷さ(高流速の程度)に差を付けてもよい。
【実施例】
【0024】
本発明の一例をより詳しく述べる。
【0025】
一般に、イオン交換樹脂等の水処理機能材の寿命は、流量(SV等)などの通水条件が適正な範囲であれば、負荷量すなわち除去される被処理水中の不純物濃度×積算通水流量でほぼ定まる。
【0026】
図1に示すように、イオン交換樹脂塔を10塔並列設置した水処理装置において、通水開始当初は、1台の塔Aに標準より10%高流速で通水し、他の塔Bについては、残部を均等分割した流速で通水する。即ち、水処理装置への単位時間当り総通水量の11%の通水速度で塔Aに通水する。残り9台の塔Bについては、各々、単位時間当り総通水量の89%を均等に分け合った通水速度(単位時間当りの水処理装置全体の総通水量の9.89%ずつの通水速度)で通水する(89÷9=9.89)。
【0027】
塔Aの流出水の水質が悪化の兆候を示した時点までの通水時間が100日であった場合、100日目までの塔Aへの積算通水量は、標準条件(総通水量の10%を各塔に均等に通水する条件)の積算通水量よりも10%多い。従って、塔3に該標準条件で通水された場合、処理水質が悪化し始めるまでの通水時間(寿命)は110日であると推定できる。
【0028】
そこで、100日目以降は、1台の塔Aとその他9台の塔Bで10台分の総通水量を確保するように塔Aの通水量を減少(又は停止)させ且つ塔Bの通水量を増加させるとともに、塔A,Bのいずれにおいても積算負荷(通水開始〜採水終了の間の積算負荷)がそれぞれ標準条件通水の場合の110日分の負荷となるように各々への通水日数を設定する。
【0029】
例えば、処理水の水質要求が厳しく、僅かな兆候以上の不純物も許容されない場合には、上記1台の塔Aについてはこの段階(100日目)で通水終了とする。その他9台の塔Bについては、標準条件10台分の単位時間通水量を9等分した通水速度、具体的には、標準条件通水速度の11.1%増の通水速度とする(100%÷9=11.1%)。
【0030】
また、100日時点での塔Bの積算負荷は、標準条件通水の場合に換算して98.9日分であり、標準条件通水の場合で11.1日分の残存容量がある。そこで、11.1%増した通水速度で、この標準条件11.1日分の積算負荷となるように、100日目以降の通水日数を設定する。この場合は、あと10日通水することにより、この積算負荷となる。従って、塔Bについては、110日目まで採水する。
【0031】
以上の要領で寿命予測と通水量制御を行うことにより、各塔A,Bの寿命を最大限活用することができる。
【0032】
また、1台の塔Aを20%増し高流速通水、別の1台の塔Aを10%増し高流速通水、残り8台の塔Bを均等通水にするような運転としてもよい。
【0033】
また、塔Aを常に同一の塔とするのではなく、所定期間毎に交代させてもよい。例えば、3台の塔a,b,cを並列設置した水処理装置において、標準通水速度をKとした場合、一例では、塔a,bの通水速度を1.0Kとし、塔cを1.2Kとし、塔cが水質悪化の兆候を示したときには塔a,bの通水速度を1.1K、塔cの通水速度を0.8Kとし、各塔a,b,cの寿命を使い尽す。別の一例では、塔a,bの通水速度を1.0K、塔cの通水速度を1.2Kとし、塔cが水質悪化の兆候を示したときには、塔aの通水速度を1.0K、塔bの通水速度を1.2K、塔cの通水速度を0.8Kとし、塔bを塔aよりも高負荷として塔bの処理水水質を監視するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0034】
2,4 バルブ
3 イオン交換樹脂塔
【要約】
【課題】水処理器の寿命を十分に使い切ることができる水処理装置の運転方法を提供する。
【解決手段】並列設置された複数の同種かつ同処理容量の水処理器を有する水処理装置を運転する方法であって、各水処理器に同一の被処理水を通水して処理水を採水する水処理装置の運転方法において、一部の水処理器Aへの通水を他の水処理器Bよりも高負荷とし、該水処理器Aの処理水の水質悪化が生じた場合、それまでの水処理器Aへの積算負荷から水処理器Bの寿命を予測し、この予測結果に基づいて、その後の各水処理器への通水量及び通水時間を制御することを特徴とする水処理装置の運転方法。
【選択図】図1
図1