(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6288323
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】熱酸化異種複合基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 27/12 20060101AFI20180226BHJP
H01L 21/02 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
H01L27/12 S
H01L21/02 B
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-12743(P2017-12743)
(22)【出願日】2017年1月27日
(62)【分割の表示】特願2013-553323(P2013-553323)の分割
【原出願日】2013年1月11日
(65)【公開番号】特開2017-98577(P2017-98577A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2017年1月27日
(31)【優先権主張番号】特願2012-3856(P2012-3856)
(32)【優先日】2012年1月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 昌次
(72)【発明者】
【氏名】飛坂 優二
(72)【発明者】
【氏名】永田 和寿
【審査官】
正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−032725(JP,A)
【文献】
特開平11−330438(JP,A)
【文献】
特開2011−138818(JP,A)
【文献】
特開平11−145438(JP,A)
【文献】
特開2005−217288(JP,A)
【文献】
特開2009−105315(JP,A)
【文献】
特開平11−040682(JP,A)
【文献】
特開2010−278337(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0111237(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 27/12
H01L 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明なハンドル基板上に厚さ50〜500nmの単結晶シリコン膜を貼り合わせた異種複合基板に対し熱酸化処理して該単結晶シリコン膜に熱酸化膜であるゲート酸化膜を形成する熱酸化異種複合基板の製造方法であって、上記異種複合基板を熱酸化処理してゲート酸化膜を形成する場合に、650〜850℃、0.5時間以上の前段熱処理を加えた後、850℃を超えた温度でこの熱酸化処理を施すことを特徴とする熱酸化異種複合基板の製造方法。
【請求項2】
ハンドル基板がガラス、石英、サファイアのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の熱酸化異種複合基板の製造方法。
【請求項3】
異種複合基板が、ハンドル基板と単結晶シリコン膜との間に埋め込み酸化膜が介在するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱酸化異種複合基板の製造方法。
【請求項4】
前記埋め込み酸化膜の厚さが25〜500nmであることを特徴とする請求項3に記載の熱酸化異種複合基板の製造方法。
【請求項5】
前段熱処理の雰囲気が、アルゴン、窒素、酸素、水素、ヘリウム、又は不活性ガスと酸素を混合した雰囲気であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱酸化異種複合基板の製造方法。
【請求項6】
ハンドル基板の熱膨張係数が400℃以下で0.54ppm/K以上7.4ppm/K以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱酸化異種複合基板の製造方法。
【請求項7】
ハンドル基板がサファイアであり、サファイアウェーハの膨張係数が室温から400℃で7.4ppm/K以下であることを特徴とする請求項6に記載の熱酸化異種複合基板の製造方法。
【請求項8】
前記熱酸化処理の温度が900℃超1000℃以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱酸化異種複合基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス、石英、サファイア等のハンドル基板上に単結晶シリコン膜を形成した異種複合基板を熱酸化処理することにより得られた熱酸化異種複合基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
寄生容量を低減し、デバイスの高速化を測るためにSilicon on insulator (SOI)ウェーハが広く用いられるようになってきている。このSOIウェーハの中でも、Silicon on Quartz(SOQ),Silicon on Sapphire(SOS)というハンドルウェーハが絶縁透明ウェーハで構成されるウェーハが注目を集めている。SOQは石英の高い透明性を活かしたオプトエレクトロニクス関係、もしくは低い誘電損失を活かした高周波デバイスへの応用が期待される。SOSはハンドルウェーハがサファイアで構成されることから、高い透明性や低誘電損失に加え、石英では得られない高い熱伝導率を有することから、発熱を伴う高周波デバイスへの応用が期待されている。
【0003】
高い品質を有する単結晶を積層するためには、バルクのシリコンウェーハから貼り合わせ・転写法でシリコン薄膜を形成することが理想的である。R面のサファイア上にシリコン層をヘテロエピ成長する方法や、ガラス上に非単結晶シリコンを成長させ、その後レーザーアニールなどで結晶性を高めるCGシリコンなどが開発されているが、貼り合わせ法に勝る方法はないといえる。
【0004】
但し、異種材料による貼り合わせウェーハ(例:SOQ、SOS、SOGなど)はプロセス中に誘起される欠陥が懸念される。具体的には、通常のデバイスプロセスにはゲート酸化膜を形成するための850℃を超える高温処理等が含まれている。これらの異種材料貼り合わせ基板(以下、異種複合基板)では、このような高温プロセスを施すことでシリコン薄膜が強い圧縮・引張り応力を受け、様々な欠陥(微小なクラックなど)を発生することがある。この原因は、異種複合基板はハンドル基板と呼ばれる支持基板と上層のシリコン薄膜との間で大きな膨張係数の差が存在するためで、異種複合基板の本質的問題といえる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、酸化膜を形成するために850℃を超える高温処理を行った後において、微小クラック等の欠陥を可及的に低減させた熱酸化異種複合基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、シリコン薄膜を転写した絶縁透明ウェーハ(石英・ガラス・サファイア等)を850℃を超える高温プロセスに掛ける前に、中間の熱処理とも言うべき熱処理(以下、前段熱処理ともいう)を加えること、この中間の熱処理の温度を650℃以上850℃以下とすることが有効であることを知見した。
【0007】
即ち、この中間の熱処理は、850℃を超える高温処理により発現する欠陥を、中間熱処理(650℃以上850℃以下)を介在させることで、低減するための処理である。局在する応力をウェーハ全面に平均化をさせる処理ともいえる。局在する応力の原因はハンドル基板が有する材料の歪みや粗密、貼り合わせプロセスの面内不均一などが原因と推定される。
また、この中間の熱処理は、貼り合わせ界面の貼り合わせ強度を、上記高温処理温度に到達する前に十分に高め、シリコン薄膜が強い応力を受けた際にも剥がれやズレを生じさせないための処理である。
そして、この中間熱処理を経た後に酸化などの高温処理を施すことで、酸化後の欠陥数を低減することが可能となるものである。
【0008】
従って、本発明は、下記熱酸化異種複合基板の製造方法を提供する。
〔1〕
透明なハンドル基板上に厚さ50〜500nmの単結晶シリコン膜を貼り合わせた異種複合基板に対し熱酸化処理して該単結晶シリコン膜に熱酸化膜
であるゲート酸化膜を形成する熱酸化異種複合基板の製造方法であって、上記異種複合基板を熱酸化処理
してゲート酸化膜を形成する場合に、650〜850℃、0.5時間以上の前段熱処理を加えた後、850℃を超えた温度で
この熱酸化処理を施すことを特徴とする熱酸化異種複合基板の製造方法。
〔2〕
ハンドル基板がガラス、石英、サファイアのいずれかであることを特徴とする〔1〕に記載の熱酸化異種複合基板の製造方法。
〔3〕
異種複合基板が、ハンドル基板と単結晶シリコン膜との間に埋め込み酸化膜が介在するものであることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載の熱酸化異種複合基板の製造方法。
〔4〕
前記埋め込み酸化膜の厚さが25〜500nmであることを特徴とする〔3〕に記載の熱酸化異種複合基板の製造方法。
〔5〕
前段熱処理の雰囲気が、アルゴン、窒素、酸素、水素、ヘリウム、又は不活性ガスと酸素を混合した雰囲気であることを特徴とする〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の熱酸化異種複合基板の製造方法。
〔6〕
ハンドル基板の熱膨張係数が400℃以下で0.54ppm
/K以上7.4ppm
/K以下であることを特徴とする〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の熱酸化異種複合基板の製造方法。
〔7〕
ハンドル基板がサファイアであり、サファイアウェーハの膨張係数が室温から400℃で7.4ppm
/K以下であることを特徴とする〔6〕に記載の熱酸化異種複合基板の製造方法。
〔8〕
前記熱酸化処理の温度が900℃超1000℃以下であることを特徴とする〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の熱酸化異種複合基板の製造方法
。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱酸化後の欠陥数を低減した熱酸化異種複合基板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】種々の温度で中間熱処理を行った場合の熱酸化SOSウェーハ基板のHF欠陥数を示すグラフである。
【
図2】種々の温度で中間熱処理を行った場合の熱酸化SOQウェーハ基板のHF欠陥数を示すグラフである。
【
図3】種々のサファイア方位に単結晶シリコン膜を有するSOSウェーハを用いて中間熱処理を行った場合の熱酸化SOSウェーハ基板のHF欠陥数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の熱酸化異種複合基板は、ハンドル基板上に単結晶シリコン膜を有する異種複合基板に650〜850℃の中間熱処理を加えた後、850℃を超えた温度で熱酸化処理を施すことによって得られる。
この場合、ハンドル基板と単結晶シリコン膜との間に埋め込み酸化膜(BOX層:Box=Buried oxide)を介在させることもできる。
【0012】
本発明の対象となる複合基板のハンドル材料としては、ガラス、石英、サファイア等が主な対象である。これらの材料はシリコンとは大きく異なる膨張係数を有する。その膨張係数を下記表1に示す。
【0014】
シリコンと石英を貼り合わせることでできるSOQは膨張係数の差が2.04ppmあり、SOSの場合は最小で4.4ppm,最大で5.1ppm存在する。サファイアは方位により膨張係数が異なるため、膨張係数差を少なくするために膨張係数の少ないサファイア基板を使用することで、本発明の効果を一層向上させることができる。具体的には、膨張係数の大きいA面ウェーハの使用を避け、C面(7.0ppm)やR面(7.4ppm程度)を使うことも効果的である。
【0015】
従って、ハンドル基板の熱膨張係数は400℃以下で0.54〜7.4ppmであることが好ましく、サファイアウェーハの場合は、その膨張係数が室温から400℃で7.4ppm以下であることが好ましい。
また、上記ハンドル基板の厚さは500〜800μm、特に600〜725μmが好ましく、単結晶シリコン膜の厚さは50〜500nm、特に100〜350nmが好ましい。埋め込み酸化膜(BOX酸化膜)を介在させる場合、その厚さは25〜150nmが好ましい。なお、BOX酸化膜は、特開2002−305292号公報において、SOIウェーハの埋め込み酸化膜の成膜について開示されているのと同様の方法で形成すればよい。
【0016】
上記異種複合基板を熱酸化処理する場合は、まず650〜850℃、好ましくは700〜850℃の中間熱処理を施す。
この中間熱処理の雰囲気は、扱いやすいものであれば、特に限定を受けることはない。代表的なものとして、アルゴン、窒素、酸素、水素、ヘリウム等が挙げられる。また、アルゴンや窒素などの不活性ガスと酸化ガスを混合しても構わない。
また、中間熱処理の時間は、0.5〜6時間、特に1〜3時間であることが好ましい。短すぎると、本発明の目的が十分達成されないおそれがあり、長すぎると、コストの上昇を招くおそれがある。
【0017】
上記中間熱処理後は熱酸化処理を施す。この熱酸化処理条件としては公知の条件を採用し得るが、熱処理温度は850℃を超えた温度、好ましくは900℃を超えた温度〜1,000℃、特に950〜1,000℃であるが、所望の酸化膜厚が得られる範囲であれば特に限定されない。なお、熱処理温度を900℃を超えた温度とする場合、中間熱処理は650〜900℃、特に700〜900℃とすることができる。熱処理雰囲気は、ドライ酸素、水蒸気などが一般的である。
熱処理時間は、所望の酸化膜厚が得られれば特に限定はない。
【0018】
本発明によれば、欠陥数が顕著に減少した熱酸化異種複合基板が得られるが、複合基板の欠陥数の定量には、HF浸漬テストを適応することができる。これは、SOQやSOSをHF溶液に浸漬することで、欠陥を通じて内部の埋め込み酸化膜(BOX層:Box=Buried oxide)を侵食することにより、大きさが拡大し、光学顕微鏡などでも簡単に発見ができるようになるテストである。このテストでは、BOX酸化膜の厚さが25〜500nmであると検査が容易に行える。薄すぎるとHFが浸透せず、厚すぎるとHFの浸透が速すぎて検査上不利が生じるおそれがある。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0020】
[実施例1]
直径150mm、厚さ600μmのサファイアウェーハ(R面)を支持基板とするSOSウェーハを複数枚用意した。シリコンの厚さは200nm、BOX層の厚さは200nmである。このウェーハに、600℃、650℃、700℃、800℃、850℃、900℃の中間熱処理を加えた。雰囲気はアルゴンガスとし、保持時間を1時間とした。中間熱処理を施さないリファレンスのウェーハ1枚を追加し、これらのウェーハに1,000℃でウェット酸化により、200nmの酸化膜を形成した。酸化後、これらのウェーハを10%HF溶液に30分間浸漬し、欠陥の数を数えたところ、
図1の結果を得た。650℃から850℃までの中間熱処理を加えたものは、欠陥数が減少している。600℃の中間熱処理を加えたものは欠陥がそれほど減少していないのは、600℃が効果を発現させるには不十分な温度なためと思われる。また900℃で中間処理したものは、中間処理の時点で既に欠陥が発現してしまったためと思われる。最適な温度は650℃から850℃程度と考えられる。
【0021】
[実施例2]
直径150mm、厚さ625μmの石英ウェーハを支持基板とするSOQウェーハを複数枚用意した。シリコンの厚さは200nm、BOX層の厚さは200nmである。このウェーハに、600℃、650℃、700℃、800℃、850℃、900℃の中間熱処理を加えた。雰囲気はアルゴンガスとし、保持時間を1時間とした。中間熱処理を施さないリファレンスのウェーハ1枚を追加し、これらのウェーハに950℃でウェット酸化により、200nmの酸化膜を形成した。酸化後、これらのウェーハを10%HF溶液に30分間浸漬し、欠陥の数を数えたところ、
図2の結果を得た。650℃から850℃までの中間熱処理を加えたものは、欠陥数が減少している。600℃の中間熱処理を加えたものは欠陥がそれほど減少していないのは、600℃が効果を発現させるには不十分な温度なためと思われる。また900℃で中間処理したものは、中間処理の時点で既に欠陥が発現してしまったためと思われる。最適な温度は650℃から850℃程度と考えられる。
【0022】
[実施例3]
直径150mm、厚さ600μmのサファイアウェーハを支持基板とするSOSウェーハを複数枚用意した。この時のサファイアの方位は、C面(熱膨張係数CTE=7.0ppm)、R面(熱膨張係数CTE=7.4ppm)、A面(熱膨張係数CTE=7.7ppm)とした。シリコンの厚さは200nm、BOX層の厚さは200nmである。これらのウェーハに、800℃の中間熱処理を加えた。雰囲気はアルゴンガスとし、保持時間を1時間とした。これらのウェーハに1,000℃でウェット酸化により、200nmの酸化膜を形成した。酸化後、これらのウェーハを10%HF溶液に30分間浸漬し、欠陥の数を数えたところ、
図3の結果を得た。C面、R面はA面よりも効果的に欠陥の数が減少していることが分かった。
【0023】
本方法は石英とサファイアに特化した実施例を記載したが、石英とサファイアの中間の熱膨張係数(0.54〜7.4ppm)を取る材料をハンドル基板とした際にも同様に有効である。