【実施例】
【0051】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。
【0052】
(製造例1:ポリエステル系樹脂(1)の製造)
窒素ガス導入管、還流コンデンサ及び攪拌機を備えた2Lのガラス製フラスコに、ジエチレングリコール758.2質量部(7.14mol、仕込みモル比0.53)、アジピン酸652.6質量部(4.47mol、仕込みモル比0.33)及び無水マレイン酸183.9質量部(1.88mol、仕込みモル比0.14)を仕込み、窒素気流下で加熱を開始した。内温200℃にて、常法により脱水縮合反応を行った。反応物の酸価が13になったところで、直ちに150℃まで冷却し、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールを原料全量に対し100ppm添加した。さらに室温まで冷却することによって、ポリエステル系樹脂(1)を得た。このポリエステル系樹脂(1)は、エステル基濃度が9.1mmol/gであり、酸価が12であり、水酸基価が89であった。
【0053】
ポリエステル系樹脂のエステル基濃度、酸価及び水酸基価は下記の方法により求めた。
【0054】
〔エステル基濃度の計算方法〕
エステル基濃度は下記計算式(1)により求めた。
【0055】
エステル基濃度(mmol/g)=生成エステル基量(mol)/[仕込みモノマー量(wt)−生成水量(wt)]×1000・・・(1)
【0056】
製造例1で得られたポリエステル系樹脂(1)を例にエステル基濃度の計算方法をさらに詳しく説明する。生成エステル基量は、仕込みモノマーの全量がエステル化反応するものとして計算した。
生成エステル基量=アジピン酸4.47mol×2+無水マレイン酸1.88mol×2=12.70mol
次に、生成水量もエステル基と同様に仕込みモノマーの全量がエステル化反応するものとして計算した。
生成水量=(アジピン酸4.47mol×2+無水マレイン酸1.88mol)×18.02=194.98
上記で求めた値から、ポリエステル系樹脂(1)のエステル基濃度は下記計算式(2)により求められる。
エステル基濃度(mmol/g)=12.70mol/[1594.70−194.98]×1000=9.1・・・(2)
【0057】
〔酸価及び水酸基価の測定〕
酸価及び水酸基価は、
13C−NMRスペクトルにおける、末端構造およびエステル結合に由来する各ピークの面積比から求めた。測定装置は、日本電子株式会社製「JNM−LA300」を用い、試料の10質量%重クロロホルム溶液に緩和試薬としてCr(acac)310mgを加え、ゲートデカップリング法による
13C−NMRの定量測定を行なった。積算は4,000回行なった。
【0058】
(製造例2:セルロースナノファイバー含有マスターバッチ(1)の製造)
製造例1で得られたポリエステル系樹脂(1)600質量部及びセルロースパウダー(日本製紙株式会社製「KCフロック W−100」)400質量部を、加圧ニーダー(株式会社モリヤマ製「DS1−5GHH−H」)を用いて60rpmで300分間加圧混練を行い、セルロースの微細化処理を行うことで、ポリエステル系樹脂(1)とセルロースナノファイバー(以下、「CNF」と略記する。)との混錬物であるマスターバッチ(1)を得た。得られたマスターバッチ(1)を、セルロースが0.1質量%の濃度となるようにアセトンに懸濁し、特殊機械工業株式会社製「TKホモミキサーA型」を用いて、15000rpmで20分間分散処理を行い、ガラス上に広げてアセトンを乾燥し、走査型電子顕微鏡にてセルロースの微細化状態を確認した。確認の結果、100nmより細かく解れていることが確認でき、良好なCNFが得られていることが確認できた。
【0059】
(製造例3:無水マレイン酸共重合樹脂組成物(1)の製造)
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、シクロヘキサノン200質量部及び無水マレイン酸61質量部を仕込んだ後、120℃に昇温した。その後、スチレン124質量部、N−フェニルマレイミド(日本触媒株式会社製「イミレックス−P」)61質量部、シクロヘキサノン50質量部、ジ−t−ブチルハイドロパーオキサイド(日油株式会社製「パーブチルD」)2質量部及びt−ブチルパーオキシベンゾエート(日油株式会社製「パーブチルZ」)3.5質量部の溶解混合物を2時間かけて滴下し、120〜125℃で反応を行った。
【0060】
次いで、反応容器内を120℃で120分間ホールドした後、30℃以下に冷却することによって、無水マレイン酸共重合樹脂組成物(1)を得た。得られた無水マレイン酸共重合樹脂組成物(1)は、不揮発分が49.5質量%であり、樹脂組成物中の樹脂の酸価(固形分)が310であり、重量平均分子量が6.0万であった。
【0061】
上記の製造例3で得られた無水マレイン酸共重合樹脂組成物(1)の樹脂の酸価及び重量平均分子量は下記の方法により求めた。
【0062】
〔酸価の測定〕
無水マレイン酸共重合樹脂の酸価は、JIS K 0070−1992に準じて測定した。
【0063】
〔重量平均分子量の測定〕
無水マレイン酸共重合樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により、下記の条件で測定した。
【0064】
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC−8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
【0065】
(標準ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−550」
【0066】
(実施例1:セメント用混和剤(1)の調製)
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、製造例3で得られた無水マレイン酸共重合樹脂(1)202質量部及びシクロヘキサノン202質量部を仕込み、攪拌しながら100℃に昇温した。均一であることを確認後、製造例2で得られたマスターバッチ(1)126質量部を添加した。その後攪拌をしながら100℃で2時間加温を行った。次いで、50℃以下に冷却し、25質量%アンモニア水35質量部を添加した。その後30分以上攪拌し、フラスコ内が均一になったことを確認後、イオン交換水700質量部を添加して、さらに30分攪拌した。
【0067】
次いで、70℃に昇温して、減圧(0.080〜0.095MPa)下で、約60分かけて脱溶剤した後、冷却し、イオン交換水及び25質量%アンモニア水を用いて、不揮発分を35質量%に、pHを9.0に調整することによって、CNFを含有するセメント用混和剤(1)を得た。このセメント用混和剤(1)の粘度は、4,000mPa・sであった。
【0068】
(実施例2:セメント成形体(1)の作製及び評価)
6.9Lのパン型ミキサーを用いて、普通ポルトランドセメント1,000g、川砂2,000g、水375.5g、及び高性能AE減水剤7.5g(花王株式会社製「マイテイ3000S」)を60秒間混錬して、ベースセメント組成物(1)を得た。次いで、得られたベースセメント組成物(1)に実施例1で得られたセメント用混和剤(1)35gを加えて90秒間混錬し、水/セメント比40質量%のセメント組成物(1)を得た。
【0069】
[スランプの測定]
上記で得られたセメント組成物(1)について、JIS A 1171 6.2.2に準じてスランプを測定した。
【0070】
上記で得られたセメント組成物(1)をJIS A 1171 7.1.3に準じて成形し、養生してセメント成形体(1)を得た。
【0071】
[比重の測定]
上記で得られたセメント成形体(1)について、JIS A 1171 6.3.2に準じて比重を測定した。
【0072】
[最大点応力及び最大点ひずみの測定]
上記で得られたセメント成形体(1)について、IS A 1171 6.2.3に準じて最大点応力及び最大点ひずみを測定した。
【0073】
(比較例1:セメント組成物(R1)の調製)
6.9Lのパン型ミキサーを用いて、普通ポルトランドセメント1,000g、川砂2,000g、水400g、及び高性能AE減水剤2.5g(花王株式会社製「マイテイ3000S」)を150秒間混錬して、水/セメント比40質量%のセメント組成物(R1)を得た。
【0074】
(比較例2:セメント組成物(R2)の作製及び評価)
6.9Lのパン型ミキサーを用いて、普通ポルトランドセメント1,000g、川砂2,000g、水384g、及び高性能AE減水剤2.5g(花王株式会社製「マイテイ3000S」)を60秒間混錬して、ベースセメント組成物(R2)を得た。次いで、得られたベースセメント組成物(R2)に製造例3で得られた無水マレイン酸共重合樹脂組成物(1)21.9g(樹脂として10.8g)を加えて90秒間混錬し、水/セメント比40質量%のセメント組成物(R2)を得た。
【0075】
(比較例3:セメント成形体(R3)の作製及び評価)
6.9Lのパン型ミキサーを用いて、普通ポルトランドセメント1,000g、川砂2,000g、水400g、高性能AE減水剤7.5g(花王株式会社製「マイテイ3000S」)、及び製造例2で得られたセルロースナノファイバー含有マスターバッチ(1)を90秒間混錬して、水/セメント比40質量%のセメント組成物(R3)を得た。
【0076】
[セメント組成物(R1)〜(R3)の評価]
上記で得られたセメント組成物(R1)〜(R3)について、実施例2と同様にスランプ測定、セメント成形体の作製、並びに得られたセメント成形体の比重、最大点応力及び最大点ひずみの測定を行った。
【0077】
上記の実施例2及び比較例1〜3で得られたセメント組成物(1)及び(R1)〜(R3)、並びにセメント成形体(1)及び(R1)〜(R3)について、測定及び評価結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
表1に示した評価結果から、本発明のセメント用混和剤を用いて得られた実施例2のセメント成形体は、同じ減水剤量であるCNFのみを配合した比較例3のものと比較してスランプの値が大きいことから、CNFを配合しても水の減量により更なる強度アップができる可能性があり、さらに減水剤の減量によりコストダウンできる可能性があることがわかった。また、実施例2のセメント成形体は、比較例1〜3のものと比較して、最大点応力及び最大点ひずみの値が大きく、セメント成形体の強度がより高いことが確認できた。
【0080】
一方、比較例1は本発明のセメント用混和剤を用いなかった例であり、比較例2は本発明のセメント用混和剤中の1成分である無水マレイン酸共重合樹脂のみを用いた例であり、比較例3は本発明のセメント用混和剤中の1成分であるポリエステル系樹脂中でセルロースを微細化して得られたセルロースナノファイバー含有のマスターバッチのみを用いた例である。これら比較例1〜3で得られたセメント成形体は、いずれも本発明のセメント用混和剤を用いた実施例2のものと比較してスランプの値が低く、また、最大点応力及び最大点ひずみの値も低く、セメント成形体の強度が不十分であることが確認できた。