特許第6288620号(P6288620)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6288620450mmウエハ用スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体及びスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6288620
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】450mmウエハ用スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体及びスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20180226BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   C23C14/34 C
   H01L21/285 S
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-523707(P2014-523707)
(86)(22)【出願日】2013年6月28日
(86)【国際出願番号】JP2013067777
(87)【国際公開番号】WO2014007151
(87)【国際公開日】20140109
【審査請求日】2014年12月25日
【審判番号】不服2016-7565(P2016-7565/J1)
【審判請求日】2016年5月24日
(31)【優先権主張番号】特願2012-150548(P2012-150548)
(32)【優先日】2012年7月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100173901
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 了
(72)【発明者】
【氏名】岡部 岳夫
【合議体】
【審判長】 大橋 賢一
【審判官】 瀧口 博史
【審判官】 宮澤 尚之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−1766(JP,A)
【文献】 特開平6−108246(JP,A)
【文献】 特開2001−295040(JP,A)
【文献】 特開平7−90564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00 - 14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロウ付け又は拡散接合により接合された450mmウエハ用スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体であって、スパッタリングターゲットが、ニッケル、コバルト、又はタングステンから選択した材料であり、バッキングプレートが、無酸素銅製であって、スパッタリングを特定の条件(スパッタリングする際に投入するパワーを22.5kwとし、スパッタリングのON−OFFを、ON:10秒、OFF:30秒を1サイクルとして、15サイクル行い、冷却水を温度25℃、3.0気圧とする)で実施した後のターゲットの反り量が4mm以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体。
【請求項2】
ターゲット全体の平均結晶粒径に対する各部位の平均結晶粒径のバラツキが±20%以内であることを特徴とする請求項1記載のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体。
【請求項3】
ターゲット各部位の透磁率のバラツキが±5%以内であることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体。
【請求項4】
450mmウエハ用スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体の製造方法であって、ニッケル、コバルト、又はタングステンから選択したスパッタリングターゲット材料と、無酸素銅製のバッキングプレートをロウ付け又は拡散接合により温度200〜600°Cで接合し、スパッタリングを特定の条件(スパッタリングする際に投入するパワーを22.5kwとし、スパッタリングのON−OFFを、ON:10秒、OFF:30秒を1サイクルとして、15サイクル行い、冷却水を温度25℃、3.0気圧とする)で実施した後のターゲットの反り量が4mm以下とすることを特徴とするスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、450mmウエハに対応できる大型のスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製作に際し、配線幅の微細化に伴い、LSIロジックやメモリーの製造コストは急激に上昇する。この製造コストを低減するためには「Moorの法則」に沿ったウエハの大口径化が必要であり、これまでも10年おきの大口径化が生産技術革新をもたらしてきた。
【0003】
ウエハの大型450mm化は、新たなイノベーションの原動力であり、各半導体メーカー、ウエハメーカー、各種装置メーカーが450mm化への取り組みが開始されている。スパッタリングターゲットの形状はスパッタリング装置メーカーのデザインによるところが大きいが、ウエハ径が現状の300mmから450mmに大口径化すると、それに適合するスパッタリングターゲットは、単純な比例計算でも、直径は1.5倍の大きさになり、重量は2倍以上になることが予想される。
【0004】
また、良好な成膜特性を達成するために要求されるターゲット特性は、1)高純度かつパーティクルやアーキングの発生源となる介在物がないこと、2)膜の均一性を確保するための均一かつ微細組織を有すること、3)Burn−in timeを短縮するためのターゲット表面の清浄化及び歪み層が除去されていること等が、挙げられる。
【0005】
特に、スパッタリング中にはターゲットに高エネルギーが負荷されるため、ターゲットのスパッタリング表面は数100℃の高温になり、ターゲット自体が変形してしまう問題がある。
本願発明においては、これらの問題を解明すると共に、スパッタリングターゲットの大口径化に伴う上記品質の維持及び製造プロセス上の提言と改良を行うものである。
【0006】
従来技術を見ると、ターゲットとバッキングプレートとの接合強度を向上させるための工夫がいくつか提案されている。以下に、これら列挙して紹介する。
1)特許文献1には、例えば、Al又はAl合金のターゲット材とバッキングプレートを接合する際に、インサート材としてAg又はAg合金を使用し、これらを装入した後、固相拡散させる技術が開示されている。
2)特許文献2には、スパッタリングターゲットとバッキングプレートとの接合面に、同心円状の凹凸を形成し、相互に嵌合した状態で、HIP、ホットプレス、固相拡散接合法によって接合する技術が開示されている。
【0007】
3)特許文献3には、1000°C以上の融点を有するターゲット材とバッキングプレートを接合する際に、ターゲットよりも融点の低いインサート材(Al、Cu、Ni及びこれらの合金)を介して固相拡散接合する技術が開示されている。
4)特許文献4には、スパッタリングターゲットとバッキングプレートとの間に銅の微粉を介在させ、低温で接合する方法が開示されている。
【0008】
5)特許文献5には、スパッタリングターゲットとバッキングプレートとの間に、Al又はAl合金のスペーサーを介して、爆着又はホットロールで接合する技術が開示されている。
6)特許文献6には、バッキングプレートの冷却面に凹凸を設けて表面積を増大させたスパッタリング装置が開示されている。
【0009】
7)特許文献7には、タンタル又はタングステン−銅合金製バッキングプレート組立体で、厚さ0.8mm以上のアルミニウム又はアルミニウム合金板のインサート材を介して拡散接合する技術が開示されている。
8)特許文献8には、高純度コバルトと銅合金製バッキングプレートとの拡散接合組立体で、厚さ0.8mm以上のアルミニウム又はアルミニウム合金板のインサート材を介して拡散接合する技術が開示されている。
【0010】
9)特許文献9には、複数の金属層2、3からなるバッキングプレート材4とターゲット材5とが、拡散接合又は溶接により一体接合したスパッタリングターゲットが記載されている。
10)特許文献10には、ターゲットとバッキングプレートをインサート材を介して固相拡散接合する際に、双方又は片方の面を、粗さRa0.01〜3.0μmとなるように平坦化処理を施すことが記載されている。
【0011】
11)特許文献11には、ターゲットとバッキングプレートを接合するに際して、エラストマー樹脂を使用し、その樹脂の中に金属メッシュを介在させた接合方法が記載されている。
12)特許文献12には、ターゲットとバッキングプレートの間に、銅、アルミニウム又はこれらの合金箔を、挟んでスパッタリングすることが記載されている。
【0012】
以上の特許文献は、スパッタリングターゲットとバッキングプレートとの接合強度を高めるための接合方法の工夫がなされているが、ターゲットを大型化した場合の歪発生の問題点及びその解決する手段の開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平6−172993号公報
【特許文献2】特許第4017198号公報
【特許文献3】特開平6−108246号公報
【特許文献4】特開昭55−152109号公報
【特許文献5】特開平4−131374号公報
【特許文献6】特開平6−25839号公報
【特許文献7】特許第3905301号公報
【特許文献8】特許第3905295号公報
【特許文献9】特開2001−295040号公報
【特許文献10】特開2000−239838号公報
【特許文献11】特開2006−33603号公報
【特許文献12】特開平11−189870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
450mmウエハへの対応により、スパッタリングターゲット形状の大口径化が必要となるが、これによるターゲット品質への影響および成膜中のターゲット変形について検討した結果、ターゲット品質として重要な、材料純度、組織、結晶配向、ターゲット表面性状等では大口径化による影響はなく、300mmウエハ用ターゲットと同品質のターゲットを作製できることが確認できたが、成膜中のターゲット変形挙動については、300mmウエハ用ターゲットでは問題とならなかった反りが、450mm用では無視できないレベルに反ることが判明した。本願発明は、この点を克服することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するため、以下の発明を提供するものである。
1)ロウ付け又は拡散接合により接合された450mmウエハ用スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体であって、スパッタリングターゲットが、ニッケル、コバルト、又はタングステンから選択した材料であり、バッキングプレートが、無酸素銅製であって、スパッタリングを特定の条件(スパッタリングする際に投入するパワーを22.5kwとし、スパッタリングのON−OFFを、ON:10秒、OFF:30秒を1サイクルとして、15サイクル行い、冷却水を温度25℃、3.0気圧とする)で実施した後のターゲットの反り量が4mm以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体。
2)ターゲット全体の平均結晶粒径に対する各部位の平均結晶粒径のバラツキが±20%以内であることを特徴とする上記1)に記載のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体。
3)ターゲット各部位の透磁率のバラツキが±5%以内であることを特徴とする上記1)に記載のスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体。
4)450mmウエハ用スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体の製造方法であって、ニッケル、コバルト、又はタングステンから選択したスパッタリングターゲット材料と、無酸素銅製のバッキングプレートをロウ付け又は拡散接合により温度200〜600°Cで接合し、スパッタリングを特定の条件(スパッタリングする際に投入するパワーを22.5kwとし、スパッタリングのON−OFFを、ON:10秒、OFF:30秒を1サイクルとして、15サイクル行い、冷却水を温度25℃、3.0気圧とする)で実施した後のターゲットの反り量が4mm以下とすることを特徴とするスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
大型のスパッタリングターゲットで発生する反りの発生を抑制することにより、ターゲットとバッキングプレートとの剥離や亀裂の発生を抑制すると共に、均一な成膜を可能とし、不良率を低減し、かつ生産効率を上げることができるという大きな効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】300mmウエハ用と450mmウエハ用の、それぞれの銅製ターゲット、チタン製ターゲット及びニッケル製ターゲットの結晶組織を示す図である。
図1B】300mmウエハ用と450mmウエハ用の、それぞれのタンタル製ターゲット及びタングステン製ターゲットの結晶組織を示す図である。
図2】300mmウエハ用と450mmウエハ用の、それぞれの銅製ターゲット、チタン製ターゲット、タンタル製ターゲット、ニッケル製ターゲット、コバルト製ターゲット及びタングステン製ターゲット(いずれも無酸素銅バッキングプレートを使用)の中心部の反りを示す図である。
図3】銅製ターゲットに対してバッキングプレートに銅−クロム合金を使用した場合のターゲット中心部の反りを示す図である。
図4】ターゲットの直行座標上、外周、r/2、中心の計9ヶ所のサンプリング位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
Arガスを導入したスパッタリング装置において、ターゲット側をカソードとし基板側をアノードとして、双方に電圧を印加し、Arイオンによるターゲットへの衝撃によりターゲット材を叩き出し、その飛来による基板への被覆方法、又はターゲットからスパッタされた原子がイオン化し、さらにスパッタを行ういわゆる自己スパッタによる被覆方法が、スパッタリング方法として既に知られている。
多くの場合、スパッタリングターゲットはバッキングプレートに接合し、かつ該バッキングプレートを冷却して、ターゲットの異常な温度上昇を防止し、安定したスパッタリングが可能なように構成されている。
【0019】
このようなスパッタ装置において、生産効率を上げ、高速のスパッタリングが可能となるように、スパッタリングパワーを上昇させる傾向にある。通常、バッキングプレートは熱伝導性の良い材料であり、かつ一定の強度を持つ材料が使用される。
さらに、スパッタリング装置の中で、バッキングプレートを冷却し、このバッキングプレートを介してターゲットにかかる熱衝撃を吸収させている。しかし、その冷却にも限界がある。特に問題となるのは、ターゲットとバッキングプレートとの熱膨張の差異による剥離又はターゲットの変形である。
【0020】
また、ターゲットはエロージョンを受け、形状に凹凸が生ずるが、高いパワーでスパッタリングを行う場合には、主に凹部にスパッタ時の熱により生じる熱応力が集中してターゲットが変形を起こしてユニフォーミティが悪化すること、あるいはシールドとのアーキングが起きて異常パーティクル発生が生じて、極端なケースではプラズマの発生が止まるという現象が生じる。
このような問題の解決のため、バッキングプレートの強度を高める、あるいは材質を変更して熱応力を軽減させる等の対策をとることが考えられるが、ターゲットの材質との適合性の問題があり、これまで適切な解決方法が見出されていなかった。
【0021】
以上のことから、本発明は、以下の発明を提供するものである。
本発明の450mmウエハ用スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体は、スパッタリング中のターゲットの反りの発生による反り量が4mm以下であるスパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体に関する。反り量は、好ましくは3mm以下である。
【0022】
前記450mmウエハに使用するスパッタリングターゲットは、これよりもさらに大きく、ターゲット形状はほぼφ600mmのサイズに達する。しかし、この数値(φ600mm)に限定されるものではなく、450mmウエハ用スパッタリングターゲットとして使用できるものであれば、特に制限はない。概ね、この数値を50%の範囲で増減させることは可能である。また、ターゲットの反りの最大は、ほぼターゲットの中心部で発生するが、反りの最大値が4mm以下(好ましくは3mm以下)であることを意味する。
【0023】
膜のユニフォーミティについて、ターゲット全体の平均結晶粒径に対する各部位の平均粒径のバラツキを±20%以内とするのは、バラツキが±20%を超えると、ターゲット各部位のスパッタ速度の違いが顕著化しユニフォーミティの不良が生じるためである。
また、Cuではターゲットの各部位での平均結晶粒径を100μm以下、Tiターゲットではターゲットの各部位での平均結晶粒径を50μm以下とするのが好ましい。
それぞれ、平均結晶粒径が100μm、50μmを超えるような粗大結晶粒では各結晶粒からの原子の放出特性の違いが顕著化し、ユニフォーミティの不良が生じやすいためである。それぞれ、ターゲットの各部位での平均結晶粒径を50μm以下、20μm以下とすることが、特に好ましい。
【0024】
ターゲット−バッキングプレートは、ロウ付け又は拡散接合により接合するのが良いが、接合体の接合界面の接着強度を3kgf/mm以上とするのが望ましい。
また、接合界面には、Ni、Zn、Ag、Cu、Al、Cr、In、Sn又はこれらを主成分とする合金の介在層を介して接合することも可能である。これは、スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体の歪の発生を抑制するのに有効である。
【0025】
また、スパッタリングターゲットとしては、チタン、タンタル、タングステン又はこれらの合金から選択した材料を用いることができる。さらに、バッキングプレートとしては、銅製、銅合金製、アルミ合金、チタン製又はチタン合金製を使用することができる。
下記の実施例で説明するように、ターゲットの反りは、多くの場合、スパッタリング中のプラズマの発生により、ターゲット表面が上昇することに起因する。バッキングプレートは冷却しているが、ターゲットとバッキングプレートの熱膨張の差異によって発生する。
【0026】
したがって、ターゲットの反りを効果的に抑制するためには、ターゲットとバッキングプレートとの熱膨張率の差が小さく、かつ機械的強度の高い材料を選択して組み合わせることが必要である。好ましくは、冷却効率が良いバッキングプレートを使用するのが良い。これらの組合せは、上記に説明した材料から適宜選択することにより達成できる。
【0027】
450mmウエハ用スパッタリングターゲット−バッキングプレート接合体の製造に際しては、上記の、チタン、タンタル、タングステン又はこれらの合金から選択したスパッタリングターゲット材料と銅製、銅合金製、アルミ合金、チタン製又はチタン合金製のバッキングプレートを、温度200〜600°Cで接合することにより、スパッタリング中のターゲットの反りの発生による反り量を3mm以下とすることができる。

【実施例】
【0028】
本願発明を、実施例(実験例)に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例のみに制限されるものではない。すなわち、本発明に含まれる他の態様または変形を包含するものである。
【0029】
(450mmウエハ用ターゲットの作製と評価)
ターゲットの大口径化による品質の維持を確認するため、φ600mmのCu、Ti、Ta、Ni、Co、Wターゲットを作製した。ターゲット作製は、出発原料として純度6N−Cu、4N5−Ti、4N5−Ta、5N−Ni、5N−Co、5N−Wの各インゴットまたは粉末を用いた。
【0030】
各材料の製造工程条件は300mm用ターゲットを作製する条件に倣って実施した。
ただし、結晶粒径のバラツキを抑えるため、圧延時に均一な加工歪みが入るような条件、温度分布を均一にする熱処理条件を選択した。たとえば、Tiインゴットを750℃で熱間加工し、その後、400℃で加工比を1.5として温間加工を行い、600℃で1時間ターゲット全体に均一な熱処理を施した。
【0031】
これらの条件は、材料の種類や加工履歴によって若干異なるのであるが、基本的な条件を設定し、それに基づいて条件幅を替えることにより、本願発明に適合するスパッタリングターゲットを作製することができる。
各ターゲットを図4に示すように、直行座標上、外周、r/2、中心の計9ヶ所からサンプリングし、エッチング面の光学顕微鏡観察によって組織評価を行った。また、X線回折測定による結晶配向の評価も行った。
【0032】
(熱を受けるターゲットの変形挙動)
スパッタリング中、ターゲットには高エネルギーが照射されるため、ターゲット表面は高温に加熱される。一方、バッキングプレート側は水冷されているため、ターゲット表面とバッキングプレート冷却水面とに大きな温度差が生じ、熱膨張差からターゲットに反りが発生する。そこで、スパッタリング時にターゲットが受ける熱影響(加熱と冷却)を再現し、この状況下で、変形挙動を調べ、300mmウエハ対応ターゲットと450mmウエハ対応ターゲットの比較を行った。
【0033】
ターゲット材質を6N−Cuおよび4N5−Ti、バッキングプレート材質を無酸素銅(OFC)及びCu−Cr合金とし、450mmウエハ対応ターゲットの形状をφ600mm×12.7mmt、バッキングプレート形状はφ750mm×12.7mmtとした。300mmウエハ対応ターゲット形状はφ400mm×12.7mmt、バッキングプレート形状φ500mm×12.7mmtとした。
【0034】
なお、参考までに示すと、スパッタリングする際の投入パワーは、通常300mmウエハ対応については10kWとし、450mmウエハ対応では、300mmウエハと同じパワー密度となる22.5kWとし、さらにスパッタリングのON−OFFは、ON:10秒、OFF:30秒を1サイクルとして、15サイクル後を計算して行うのが普通である。同様に、冷却水は温度25℃、3.0気圧に設定して行う。
【0035】
(以上の結果と考察)
(450mmウエハ対応スパッタリングターゲットの形状と重量)
スパッタリングターゲットの形状は、各スパッタリング装置メーカーのデザインに拠るところが大きいが、300mmウエハ用ターゲットの場合、ターゲットの形状は概ねφ400mm〜450mm×6mm〜12mmtである。
【0036】
ここで、300mm対応ターゲットの形状をφ400mmとしウエハ径に比例すると仮定した場合、450mmウエハ対応ターゲットの形状はφ600mmとなり、バッキングプレートの径は約φ750mmとなる。
表1に、Cu、Ti、Ta、Ni、Co、Wターゲットの重量変化を示す。以下、450mmウエハ対応ターゲットの形状は、φ600mmのサイズについて説明する。
300mmウエハ用ターゲットでは、いずれの材料も50kg以下(バッキングプレート重量含み)であるが、450mmウエハ用ターゲット対応では100kg近い重量となり、ターゲット製造プロセスやターゲットを使用する際のハンドリング方法は工夫が必要となる。
【0037】
【表1】
【0038】
(450mmウエハ対応スパッタリングターゲットの品質)
(純度)
ターゲット素材の純度は、成膜された膜の特性に大きな影響を与える重要な因子である。Na、K等のアルカリ金属やFe、Cu、Ni等の遷移金属はSi中に拡散すると電気的特性が変化するためデバイス安定化の妨げになる。また、U、Th等の放射性素はα線によるデバイスの誤操作の原因となる可能性があることが知られている。
CuやTiの様な溶解プロセスで作製する材料では、電解あるいは真空溶解工程で不純物の精製が行われる。真空溶解により作製するインゴットは通常、ターゲットを複数枚作製できる重量であるため、ターゲット形状が450mmウエハ対応となっても純度への影響はないと考えられる。今回の試験に用いた材料の不純物分析値を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
(組織)
ターゲットの組織や結晶配向はスパッタリング成膜時の成膜速度や膜のユニフォーミティに大きな影響を与える。特に結晶面方位により成膜速度は異なるため、ユニフォーミティの良好な成膜を行うためには、ターゲットの面方位が揃っているか、ランダムに均一分散していることが好ましく、結晶粒径は微細かつ均一であることが要求される。また、磁性を持つターゲットの場合、その透磁率も影響を与える因子である。
そこで、300mmウエハ用ターゲットの製造条件に倣って、450mmウエハ対応ターゲットを作製し、結晶組織、結晶配向および透磁率の評価を行った。ただし、結晶粒径のバラツキを抑えるため、圧延時に均一な加工歪みが入るような条件及び温度分布を均一にする熱処理条件を選択した。
【0041】
サンプルをエッチングした後、光学顕微鏡観察を行った結果を図1A及び図1Bに示す。なお、図1Aには、比較のために通常300mmウエハ用ターゲットの組織も示す。なお、300mmウエハ用Cuターゲットの平均結晶粒径は35μm、300mmウエハ用Tiターゲットの平均結晶粒径は8μm、300mmウエハ用Niターゲットの平均結晶粒径は30μm、300mmウエハ用Wターゲットの平均結晶粒径は20μmであった。
【0042】
450mmウエハ用Cuターゲットにおいて、図4に示すように、直行座標上、外周、r/2、中心の計9点、A、B、C、D、E、F、G、H、Iの光学顕微鏡観察を行い、結晶粒径を測定したところ、それぞれ35μm、37μm、35μm、33μm、36μm、34μm、35μm、34μm、36μmとなり、バラツキは±20%以内であり、平均粒径は35μmであった。なお、各部位での平均結晶粒度の測定は、JIS・H0501に記載される切断法により行った。
同様にXRD測定による結晶配向を確認したが、300mm用ターゲットとの差はなくサンプリング位置による変動もなかった。
【0043】
450mmウエハ用Tiターゲットにおいて、同様に、結晶粒径を測定したところ、それぞれ7μm、8μm、7μm、9μm、8μm、7μm、8μm、9μm、9μmとなり、バラツキは±20%以内であり、平均粒径は8μmであった。なお、各部位での平均結晶粒度の測定は、JIS・H0501に記載される切断法により行った。
同様にXRD測定による結晶配向を確認したが、300mm用ターゲットとの差はなくサンプリング位置による変動もなかった。
【0044】
450mmウエハ用Taターゲットにおいて、同様に、結晶粒径を測定したところ、それぞれ90μm、92μm、89μm、90μm、93μm、92μm、88μm、89μm、90μmとなり、バラツキは±20%以内であり、平均粒径は90μmであった。なお、各部位での平均結晶粒度の測定は、JIS・H0501に記載される切断法により行った。
同様にXRD測定による結晶配向を確認したが、300mm用ターゲットとの差はなくサンプリング位置による変動もなかった。
【0045】
450mmウエハ用Niターゲットにおいて、同様に、結晶粒径を測定したところ、それぞれ30μm、32μm、29μm、30μm、33μm、32μm、28μm、29μm、30μmとなり、バラツキは±20%以内であり、平均粒径は30μmであった。なお、各部位での平均結晶粒度の測定は、JIS・H0501に記載される切断法により行った。
同様にXRD測定による結晶配向を確認したが、300mm用ターゲットとの差はなくサンプリング位置による変動もなかった。
【0046】
450mmウエハ用Coターゲットにおいて、図4に示すように、直行座標上、外周、r/2、中心の計9点、A、B、C、D、E、F、G、H、Iの透磁率測定を測定したところ、それぞれ6.1、6.2、6.0、6.0、6.3、6.2、6.0、6.1、6.2となり平均透磁率は6.1であり、バラツキは±5%以内であった。
【0047】
450mmウエハ用Wターゲットにおいて、同様に、結晶粒径を測定したところ、それぞれ20μm、22μm、19μm、20μm、23μm、22μm、18μm、19μm、20μmとなり、バラツキは±20%以内であり、平均粒径は20μmであった。なお、各部位での平均結晶粒度の測定は、JIS・H0501に記載される切断法により行った。
同様にXRD測定による結晶配向を確認したが、300mm用ターゲットとの差はなくサンプリング位置による変動もなかった。
【0048】
以上のことから、450mmウエハ対応のためのターゲット大口径化を行っても、現在使用されている300mmウエハ用ターゲットと同等な組織を得ることが可能であることが判った。ただし、300mmウエハ用ターゲットと同条件で大口径化したターゲットを鍛造、圧延するためには300mmウエハ用ターゲット作製時に比べより大きなパワーが必要であり、それに対応した設備を準備する必要があることは言うまでもない。また、圧延後の熱処理では炉内温度の均一性や保持時間の調整をより厳格化する必要がある。
【0049】
(ターゲット表面の清浄性、歪み層)
機械加工後のターゲット表面には微細な加工屑や加工工具からの汚染、表面近傍の加工歪み層が残留する。この様なターゲット表面の汚染、歪み層の残留はスパッタリング初期の成膜特性に大きな影響を及ぼし、特性が安定するまでのBurn−in timeを長くする。
従って、Burn−in timeの短縮にターゲット表面の清浄化、歪み層除去が重要となる。ターゲット表面の清浄化、歪み層除去方法は、通常、表面の研磨および超音波洗浄によって行われている。ターゲットの大口径化に伴い研磨条件や超音波洗浄の条件を最適化する必要があるが、技術的な困難さは比較的小さいと思われる。
【0050】
(ターゲットの変形挙動)
ターゲットとしてCu、Ti、Ta、Ni、Co、Wを使用し、バッキングプレート材質に無酸素銅(OFC)を使用した時の、スパッタリング時にターゲットが受ける熱影響(加熱と冷却)を再現し、この状況下で、変形挙動すなわち反りの挙動を調べた。図2に、ターゲットの反りを測定した結果を示す。
【0051】
一方、反りは300mmウエハ用Cuターゲットの場合、中心部分で約1mmであるのに対し、450mmウエハ用ターゲットでは約5mmに反りが拡大した。スパッタリング中の反りは、ターゲット−基板間距離の変動をもたらし成膜特性に影響を及ぼす。以下に、各ターゲットについて、反り量を記述する。
Tiターゲットの場合は、300mmウエハ対応では、中心部分で約0.7mmであるのに対して450mmウエハ対応では約2.6mmであった。
Taターゲットの場合は、300mmウエハ対応では、中心部分で約0.5mmであるのに対して450mmウエハ対応では約1.7mmであった。
Niターゲットの場合は、300mmウエハ対応では、中心部分で約0.6mmであるのに対して450mmウエハ対応では約2.1mmであった。
Coターゲットの場合は、300mmウエハ対応では、中心部分で約0.6mmであるのに対して450mmウエハ対応では約2.0mmであった。
Wターゲットの場合は、300mmウエハ対応では、中心部分で約0.3mmであるのに対して450mmウエハ対応では約1.0mmであった。
【0052】
また、大きな反りはターゲット−バッキングプレートの接合を破壊し、ターゲットが脱落する危険をもたらす。このように300mmウエハ対応では問題とならなかった現象が450mmウエハ対応で大口径化することにより新たな問題が顕在化する可能性がある。
スパッタリング中に発生するターゲットの反りは、プラズマでイオン化されたAr粒子の衝突によりターゲット表面の温度が上昇すること、およびターゲット材とバッキングプレート材の熱膨張率差によって起こる。
【0053】
反りの発生を抑制するためには、ターゲット材との熱膨張率差が小さく、機械的強度の高いバッキングプレート材を使用することが有効である。上記で使用したバッキングプレート材のOFCよりも機械的強度の高いCu−Cr合金を使用した場合の中心部の反りの大きさは約3.2mmとなり、OFCを使用した場合に比べ反りが抑制されることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0054】
大型のスパッタリングターゲットで発生する反りの発生を抑制することにより、ターゲットとバッキングプレートとの剥離や亀裂の発生を抑制すると共に、均一な成膜を可能とし、不良率を低減し、かつ生産効率を上げることができるという大きな効果を有するので、産業上極めて有効である。
図1A
図1B
図2
図3
図4