【実施例】
【0028】
本願発明を、実施例(実験例)に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例のみに制限されるものではない。すなわち、本発明に含まれる他の態様または変形を包含するものである。
【0029】
(450mmウエハ用ターゲットの作製と評価)
ターゲットの大口径化による品質の維持を確認するため、φ600mmのCu、Ti、Ta、Ni、Co、Wターゲットを作製した。ターゲット作製は、出発原料として純度6N−Cu、4N5−Ti、4N5−Ta、5N−Ni、5N−Co、5N−Wの各インゴットまたは粉末を用いた。
【0030】
各材料の製造工程条件は300mm用ターゲットを作製する条件に倣って実施した。
ただし、結晶粒径のバラツキを抑えるため、圧延時に均一な加工歪みが入るような条件、温度分布を均一にする熱処理条件を選択した。たとえば、Tiインゴットを750℃で熱間加工し、その後、400℃で加工比を1.5として温間加工を行い、600℃で1時間ターゲット全体に均一な熱処理を施した。
【0031】
これらの条件は、材料の種類や加工履歴によって若干異なるのであるが、基本的な条件を設定し、それに基づいて条件幅を替えることにより、本願発明に適合するスパッタリングターゲットを作製することができる。
各ターゲットを
図4に示すように、直行座標上、外周、r/2、中心の計9ヶ所からサンプリングし、エッチング面の光学顕微鏡観察によって組織評価を行った。また、X線回折測定による結晶配向の評価も行った。
【0032】
(熱を受けるターゲットの変形挙動)
スパッタリング中、ターゲットには高エネルギーが照射されるため、ターゲット表面は高温に加熱される。一方、バッキングプレート側は水冷されているため、ターゲット表面とバッキングプレート冷却水面とに大きな温度差が生じ、熱膨張差からターゲットに反りが発生する。そこで、スパッタリング時にターゲットが受ける熱影響(加熱と冷却)を再現し、この状況下で、変形挙動を調べ、300mmウエハ対応ターゲットと450mmウエハ対応ターゲットの比較を行った。
【0033】
ターゲット材質を6N−Cuおよび4N5−Ti、バッキングプレート材質を無酸素銅(OFC)及びCu−Cr合金とし、450mmウエハ対応ターゲットの形状をφ600mm×12.7mmt、バッキングプレート形状はφ750mm×12.7mmtとした。300mmウエハ対応ターゲット形状はφ400mm×12.7mmt、バッキングプレート形状φ500mm×12.7mmtとした。
【0034】
なお、参考までに示すと、スパッタリングする際の投入パワーは、通常300mmウエハ対応については10kWとし、450mmウエハ対応では、300mmウエハと同じパワー密度となる22.5kWとし、さらにスパッタリングのON−OFFは、ON:10秒、OFF:30秒を1サイクルとして、15サイクル後を計算して行うのが普通である。同様に、冷却水は温度25℃、3.0気圧に設定して行う。
【0035】
(以上の結果と考察)
(450mmウエハ対応スパッタリングターゲットの形状と重量)
スパッタリングターゲットの形状は、各スパッタリング装置メーカーのデザインに拠るところが大きいが、300mmウエハ用ターゲットの場合、ターゲットの形状は概ねφ400mm〜450mm×6mm〜12mmtである。
【0036】
ここで、300mm対応ターゲットの形状をφ400mmとしウエハ径に比例すると仮定した場合、450mmウエハ対応ターゲットの形状はφ600mmとなり、バッキングプレートの径は約φ750mmとなる。
表1に、Cu、Ti、Ta、Ni、Co、Wターゲットの重量変化を示す。以下、450mmウエハ対応ターゲットの形状は、φ600mmのサイズについて説明する。
300mmウエハ用ターゲットでは、いずれの材料も50kg以下(バッキングプレート重量含み)であるが、450mmウエハ用ターゲット対応では100kg近い重量となり、ターゲット製造プロセスやターゲットを使用する際のハンドリング方法は工夫が必要となる。
【0037】
【表1】
【0038】
(450mmウエハ対応スパッタリングターゲットの品質)
(純度)
ターゲット素材の純度は、成膜された膜の特性に大きな影響を与える重要な因子である。Na、K等のアルカリ金属やFe、Cu、Ni等の遷移金属はSi中に拡散すると電気的特性が変化するためデバイス安定化の妨げになる。また、U、Th等の放射性素はα線によるデバイスの誤操作の原因となる可能性があることが知られている。
CuやTiの様な溶解プロセスで作製する材料では、電解あるいは真空溶解工程で不純物の精製が行われる。真空溶解により作製するインゴットは通常、ターゲットを複数枚作製できる重量であるため、ターゲット形状が450mmウエハ対応となっても純度への影響はないと考えられる。今回の試験に用いた材料の不純物分析値を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
(組織)
ターゲットの組織や結晶配向はスパッタリング成膜時の成膜速度や膜のユニフォーミティに大きな影響を与える。特に結晶面方位により成膜速度は異なるため、ユニフォーミティの良好な成膜を行うためには、ターゲットの面方位が揃っているか、ランダムに均一分散していることが好ましく、結晶粒径は微細かつ均一であることが要求される。また、磁性を持つターゲットの場合、その透磁率も影響を与える因子である。
そこで、300mmウエハ用ターゲットの製造条件に倣って、450mmウエハ対応ターゲットを作製し、結晶組織、結晶配向および透磁率の評価を行った。ただし、結晶粒径のバラツキを抑えるため、圧延時に均一な加工歪みが入るような条件及び温度分布を均一にする熱処理条件を選択した。
【0041】
サンプルをエッチングした後、光学顕微鏡観察を行った結果を
図1A及び
図1Bに示す。なお、
図1Aには、比較のために通常300mmウエハ用ターゲットの組織も示す。なお、300mmウエハ用Cuターゲットの平均結晶粒径は35μm、300mmウエハ用Tiターゲットの平均結晶粒径は8μm、300mmウエハ用Niターゲットの平均結晶粒径は30μm、300mmウエハ用Wターゲットの平均結晶粒径は20μmであった。
【0042】
450mmウエハ用Cuターゲットにおいて、
図4に示すように、直行座標上、外周、r/2、中心の計9点、A、B、C、D、E、F、G、H、Iの光学顕微鏡観察を行い、結晶粒径を測定したところ、それぞれ35μm、37μm、35μm、33μm、36μm、34μm、35μm、34μm、36μmとなり、バラツキは±20%以内であり、平均粒径は35μmであった。なお、各部位での平均結晶粒度の測定は、JIS・H0501に記載される切断法により行った。
同様にXRD測定による結晶配向を確認したが、300mm用ターゲットとの差はなくサンプリング位置による変動もなかった。
【0043】
450mmウエハ用Tiターゲットにおいて、同様に、結晶粒径を測定したところ、それぞれ7μm、8μm、7μm、9μm、8μm、7μm、8μm、9μm、9μmとなり、バラツキは±20%以内であり、平均粒径は8μmであった。なお、各部位での平均結晶粒度の測定は、JIS・H0501に記載される切断法により行った。
同様にXRD測定による結晶配向を確認したが、300mm用ターゲットとの差はなくサンプリング位置による変動もなかった。
【0044】
450mmウエハ用Taターゲットにおいて、同様に、結晶粒径を測定したところ、それぞれ90μm、92μm、89μm、90μm、93μm、92μm、88μm、89μm、90μmとなり、バラツキは±20%以内であり、平均粒径は90μmであった。なお、各部位での平均結晶粒度の測定は、JIS・H0501に記載される切断法により行った。
同様にXRD測定による結晶配向を確認したが、300mm用ターゲットとの差はなくサンプリング位置による変動もなかった。
【0045】
450mmウエハ用Niターゲットにおいて、同様に、結晶粒径を測定したところ、それぞれ30μm、32μm、29μm、30μm、33μm、32μm、28μm、29μm、30μmとなり、バラツキは±20%以内であり、平均粒径は30μmであった。なお、各部位での平均結晶粒度の測定は、JIS・H0501に記載される切断法により行った。
同様にXRD測定による結晶配向を確認したが、300mm用ターゲットとの差はなくサンプリング位置による変動もなかった。
【0046】
450mmウエハ用Coターゲットにおいて、
図4に示すように、直行座標上、外周、r/2、中心の計9点、A、B、C、D、E、F、G、H、Iの透磁率測定を測定したところ、それぞれ6.1、6.2、6.0、6.0、6.3、6.2、6.0、6.1、6.2となり平均透磁率は6.1であり、バラツキは±5%以内であった。
【0047】
450mmウエハ用Wターゲットにおいて、同様に、結晶粒径を測定したところ、それぞれ20μm、22μm、19μm、20μm、23μm、22μm、18μm、19μm、20μmとなり、バラツキは±20%以内であり、平均粒径は20μmであった。なお、各部位での平均結晶粒度の測定は、JIS・H0501に記載される切断法により行った。
同様にXRD測定による結晶配向を確認したが、300mm用ターゲットとの差はなくサンプリング位置による変動もなかった。
【0048】
以上のことから、450mmウエハ対応のためのターゲット大口径化を行っても、現在使用されている300mmウエハ用ターゲットと同等な組織を得ることが可能であることが判った。ただし、300mmウエハ用ターゲットと同条件で大口径化したターゲットを鍛造、圧延するためには300mmウエハ用ターゲット作製時に比べより大きなパワーが必要であり、それに対応した設備を準備する必要があることは言うまでもない。また、圧延後の熱処理では炉内温度の均一性や保持時間の調整をより厳格化する必要がある。
【0049】
(ターゲット表面の清浄性、歪み層)
機械加工後のターゲット表面には微細な加工屑や加工工具からの汚染、表面近傍の加工歪み層が残留する。この様なターゲット表面の汚染、歪み層の残留はスパッタリング初期の成膜特性に大きな影響を及ぼし、特性が安定するまでのBurn−in timeを長くする。
従って、Burn−in timeの短縮にターゲット表面の清浄化、歪み層除去が重要となる。ターゲット表面の清浄化、歪み層除去方法は、通常、表面の研磨および超音波洗浄によって行われている。ターゲットの大口径化に伴い研磨条件や超音波洗浄の条件を最適化する必要があるが、技術的な困難さは比較的小さいと思われる。
【0050】
(ターゲットの変形挙動)
ターゲットとしてCu、Ti、Ta、Ni、Co、Wを使用し、バッキングプレート材質に無酸素銅(OFC)を使用した時の、スパッタリング時にターゲットが受ける熱影響(加熱と冷却)を再現し、この状況下で、変形挙動すなわち反りの挙動を調べた。
図2に、ターゲットの反りを測定した結果を示す。
【0051】
一方、反りは300mmウエハ用Cuターゲットの場合、中心部分で約1mmであるのに対し、450mmウエハ用ターゲットでは約5mmに反りが拡大した。スパッタリング中の反りは、ターゲット−基板間距離の変動をもたらし成膜特性に影響を及ぼす。以下に、各ターゲットについて、反り量を記述する。
Tiターゲットの場合は、300mmウエハ対応では、中心部分で約0.7mmであるのに対して450mmウエハ対応では約2.6mmであった。
Taターゲットの場合は、300mmウエハ対応では、中心部分で約0.5mmであるのに対して450mmウエハ対応では約1.7mmであった。
Niターゲットの場合は、300mmウエハ対応では、中心部分で約0.6mmであるのに対して450mmウエハ対応では約2.1mmであった。
Coターゲットの場合は、300mmウエハ対応では、中心部分で約0.6mmであるのに対して450mmウエハ対応では約2.0mmであった。
Wターゲットの場合は、300mmウエハ対応では、中心部分で約0.3mmであるのに対して450mmウエハ対応では約1.0mmであった。
【0052】
また、大きな反りはターゲット−バッキングプレートの接合を破壊し、ターゲットが脱落する危険をもたらす。このように300mmウエハ対応では問題とならなかった現象が450mmウエハ対応で大口径化することにより新たな問題が顕在化する可能性がある。
スパッタリング中に発生するターゲットの反りは、プラズマでイオン化されたAr粒子の衝突によりターゲット表面の温度が上昇すること、およびターゲット材とバッキングプレート材の熱膨張率差によって起こる。
【0053】
反りの発生を抑制するためには、ターゲット材との熱膨張率差が小さく、機械的強度の高いバッキングプレート材を使用することが有効である。上記で使用したバッキングプレート材のOFCよりも機械的強度の高いCu−Cr合金を使用した場合の中心部の反りの大きさは約3.2mmとなり、OFCを使用した場合に比べ反りが抑制されることが確認できた。