特許第6288663号(P6288663)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6288663
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】多孔質炭素材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/318 20170101AFI20180226BHJP
   C01B 32/336 20170101ALI20180226BHJP
【FI】
   C01B32/318
   C01B32/336
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-140432(P2013-140432)
(22)【出願日】2013年7月4日
(65)【公開番号】特開2015-13767(P2015-13767A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2016年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100087343
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 智廣
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100112771
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 勝
(72)【発明者】
【氏名】坪田 敏樹
【審査官】 磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−126292(JP,A)
【文献】 特開2013−065639(JP,A)
【文献】 特開2013−087132(JP,A)
【文献】 特開2011−243667(JP,A)
【文献】 特開2007−269555(JP,A)
【文献】 特開2005−047724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/318
C01B 32/336
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物からリグニンを溶出する工程と、リグニンを溶出した植物にリンおよび窒素のうちのいずれか一方または双方を含有する化合物を加えた後に600〜1000℃の加熱温度で炭化する工程と、炭化する工程の後に二酸化炭素ガスにより賦活する工程を有することを特徴とする多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項2】
過酸化水素水と酢酸の混液を用いて植物からリグニンを溶出することを特徴とする請求項1記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項3】
リンおよび窒素のうちのいずれか一方または双方を含有する化合物がリン酸グアニジン、リン酸メラミン、およびリン酸グアニル尿素から選択される一種以上であることを特徴とする請求項1記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【請求項4】
植物が竹粉末であることを特徴とする請求項1記載の多孔質炭素材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質炭素材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質炭素材料の代表例として活性炭が挙げられる。活性炭として一般的なヤシ殻活性炭は、比表面積が1200 m2 /g程度である。
【0003】
1800 m2 /g程度以上の大きな比表面積を有する高性能な活性炭を作製する場合、一般に、水酸化カリウムや炭酸カリウムを使用した薬品賦活が行われる。これらの薬品の添加量は原料と同程度かそれ以上の質量の比率で混合した状態で加熱処理される。
しかし、これらの薬品を用いた賦活は、賦活のための加熱処理において金属カリウムが生成してしまう可能性があり、取り扱いには十分な配慮が必要となる。
【0004】
多孔質炭素材料に関し、本発明者は、先に、糖類を主成分とする炭素前駆体にリンおよび窒素のうちのいずれか一方または双方を含有する化合物を配合し、炭化することで電気二重層キャパシタ分極性電極用炭素材料を得る技術を開示している(特許文献1参照)。この技術によれば、静電容量が大きい電気二重層キャパシタを得ることができる。
【0005】
ところで、活性炭の製造技術として、リグニンを原料とする比表面積が大きな活性炭が開示されている(特許文献2参照)。また、バイオマスを蒸煮してリグニンを可溶化し、熱可塑性を発現して成形したものを炭素前駆体として用いて活性炭を得る技術が開示されている(特許文献3参照)。また、特許文献3と同様の狙いで、リグニンが細胞壁中に内包されている木質系原料を加圧して細胞壁から放出させたリグニンをバインダの代わりとして利用して成形したものを炭素前駆体として用いて活性炭を得る技術が開示されている(特許文献4参照)。
一方、リグニンを原料として利用し、あるいはリグニンの特性を利用するこれらの技術とは逆に、リグニンを除去した草木をゲル状の糖質材料に調整し、これに金属化合物を添加して賦活して活性炭を得る技術が開示されている(特許文献5参照)。この場合、例えば硫酸に草木質を投入し、リグニン質を固体として析出させるとともにセルロース等の糖質を水溶液中に溶解し、糖質を酸により炭化処理した後に酸を除去し、ゲルに調製する。この技術によれば、活性炭を賦活処理する際にリグニンが細孔を閉塞する不具合を防止できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−243667号公報
【特許文献2】特開2011−162369号公報
【特許文献3】特開2007−153684号公報
【特許文献4】特開2008−50230号公報
【特許文献5】特開2005−126292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする課題は、特許文献1の技術を改良して、より比表面積の大きな多孔質炭素材料を得ることができる多孔質炭素材料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る多孔質炭素材料の製造方法は、植物からリグニンを溶出する工程と、リグニンを溶出した植物にリンおよび窒素のうちのいずれか一方または双方を含有する化合物を加えて炭化する工程を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る多孔質炭素材料の製造方法は、好ましくは、過酸化水素水と酢酸の混液を用いて植物からリグニンを溶出することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る多孔質炭素材料の製造方法は、好ましくは、リンおよび窒素のうちのいずれか一方または双方を含有する化合物がリン酸グアニジンであることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る多孔質炭素材料の製造方法は、好ましくは、炭化する工程の後に、二酸化炭素ガスにより賦活する工程をさらに有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る多孔質炭素材料の製造方法は、植物からリグニンを溶出する工程と、リグニンを溶出した植物にリンおよび窒素のうちのいずれか一方または双方を含有する化合物を加えて炭化する工程を有するため、比表面積の大きな多孔質炭素材料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態(以下、本実施の形態例という。)について、以下に説明する。
【0014】
本実施の形態例に係る多孔質炭素材料の製造方法は、植物からリグニンを溶出する工程と、リグニンを溶出した植物にリンおよび窒素のうちのいずれか一方または双方を含有する化合物を加えて炭化する工程を有する。
【0015】
植物は、天然資源として大量に賦存する。植物は、セルロース、ヘミセルロースおよびリグニンを大量に含む。
本実施の形態例において、植物として、竹粉末を好適に用いることができるが、これに限定するものではない。
【0016】
植物からリグニンを溶出する方法は、例えばパルプ業界等において種々の技術が広く知られており、これらの技術のなかから適宜選択して用いることができる。過酸化水素水と酢酸の混液を用いて植物からリグニンを溶出することは、好適な実施態様である。
過酸化水素水と酢酸の混液を用いて植物からリグニンを溶出する場合、植物100質量部に対して、過酸化水素水および酢酸をそれぞれ純物質基準で300〜800質量部用いることが好ましい。過酸化水素水および酢酸は、ほぼ等量用いることがより好ましい。温度60〜110℃で4〜24時間攪拌しながら処理することが好ましい。植物からリグニンを溶出した後は、例えば、濾過等によりリグニンを含む混液を植物から分離除去し、植物を洗浄した後、乾燥する。
【0017】
リンおよび窒素のうちのいずれか一方または双方を含有する化合物は、リンおよび窒素双方を含有するものとして、リン酸グアニジン、リン酸メラミン、リン酸グアニル尿素等を挙げることができる。このうち、リン酸グアニジンを用いることは好適な実施の形態である。また、リンおよび窒素のうちのいずれか一方を含有するものとしては、周知の適宜の化合物、例えばリン酸や炭酸グアニジン等を用いることができる。
リン酸グアニジンを用いる場合、植物からリグニンを溶出した後の乾燥植物100質量部に対して、リン酸グアニジンを純物質基準で1〜20質量部加えることが好ましい。
リグニンを溶出した後の乾燥植物にリン酸グアニジンを含浸法等によって加えて加熱して炭化する条件は、600〜1000℃の加熱温度で0.5〜2時間の加熱時間とすることが好ましい。このとき、窒素等の不活性ガス雰囲気下で処理することが好ましい。
リグニンを溶出した後の乾燥植物を炭化した後、好ましくは、600〜1000℃の加熱温度で、二酸化炭素ガスで1〜5時間処理し、その後不活性ガス雰囲気下で室温まで冷却して賦活することが好ましい。加熱温度は、700〜900℃であると、より好ましい。処理時間は、2〜4時間であると、より好ましい。
【0018】
以上説明した本実施の形態例に係る多孔質炭素材料の製造方法により得られる多孔質炭素材料は、特許文献1の発明の製造方法により得られる炭素材料よりも大きく、かつ市販の電気二重層キャパシタと同程度の比表面積を有する。
【0019】
本実施の形態例に係る多孔質炭素材料の製造方法により得られる多孔質炭素材料は、活性炭や電気二重層キャパシタ電極等の用途に好適に使用できる。
活性炭としては、揮発性ガスに対する吸着剤、メタンガスの運搬や貯蔵材料、色素含有廃液の脱色剤、バイオエタノールの回収材、脱臭剤として使用できる。また、電気二重層キャパシタ電極としては、回路部品、レーザープリンタ、コピー機等の大容量蓄電や急速加熱用途やハイブリッド自動車に使用できる。
【実施例】
【0020】
本発明の実施例を説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0021】
(多孔質炭素材料の調製:実施例)
原料として500μm以下の竹粉末(バンブーケミカル社製自動竹粉作製装置で製造)を用いた。
得られた竹粉末20gを容器に入れて、30w/v%過酸化水素水100mlおよび酢酸100mlをそれぞれ含浸し、85℃の温度で8時間攪拌した。ついで、吸引濾過、蒸留水による洗浄および恒量となるまでの乾燥処理を行い、リグニンを溶出した竹粉末(以下、これを脱リグニン竹粉末という。)を得た。なお、脱リグニン処理前後の竹粉末のリグニン量を硫酸法で測定したところ、処理前の竹粉末が21.4wt%、処理後の竹粉末が0wt%であった。
得られた脱リグニン竹粉末に、リン酸グアニジン(東京化成工業株式会社製、製品名リン酸グアニジン 主成分:リン酸グアニジン95.0容量% リン含有量14.33質量% 窒素有量6.48質量%)を、質量比で脱リグニン竹粉末:リン酸グアニジン=20:1の割合で混合し、1日放置して乾燥した。
管状炉(アズワン社製、ARF-50K)に乾燥後のリン酸グアニジン添着脱リグニン竹粉末を配置し、窒素ガスを9リットル/hrの流速で流通して加熱炉内を窒素ガス雰囲気として800℃の温度で1時間加熱、焼成して、リン酸グアニジン添着脱リグニン竹粉末を炭化した。さらに、800℃の温度を保持しながら加熱炉に二酸化炭素ガスを9リットル/hrの流速で流通し、炭化物を賦活した。賦活時間は、0時間(実施例1)、1時間(実施例2)、2時間(実施例3)、3時間(実施例4)および4時間(実施例5)の5水準とした。その後、窒素ガス雰囲気に戻し、室温まで冷却して多孔質炭素材料を得た。
【0022】
(多孔質炭素材料の調製:比較例1)
脱リグニン処理および賦活処理を行わなかったほかは実施例1と同様の加熱条件で竹粉末を炭化して多孔質炭素材料(比較例1)を得た。
【0023】
(多孔質炭素材料の調製:比較例2)
蒸留水を入れた容器に、球状セルロース(大東化成工業株式会社製 CELLULOBEADS D-100直径(粒度分布における中位径 100μm以下)にリン酸グアニジン(東京化成工業株式会社製 製品名リン酸グアニジン 主成分:リン酸グアニジン95.0容量% リン含有量14.33質量% 窒素有量6.48質量%)を球状セルロースに対して質量比で球状セルロース:リン酸グアニジン =20:1の割合で加え、1日放置して乾燥した。
管状炉に乾燥後のリン酸グアニジン添着球状セルロースを配置し、窒素ガスを9リットル/hrの流速で流通して加熱炉内を窒素ガス雰囲気として850℃の温度で1時間加熱、焼成して、リン酸グアニジン添着球状セルロースを炭化した後、室温まで冷却して多孔質炭素材料(比較例2)を得た。
【0024】
(多孔質炭素材料の物性等評価)
実施例および各比較例について、比表面積等の物性を測定、評価した結果をまとめて表1に示す。
【0025】
【表1】