(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、地盤から採取した試料ガスから水素ガスを濃集することができる水素濃集装置及び水素の濃集方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための第1の態様は、地盤に形成された掘削孔から水素ガスを含む試料ガスを取得し、試料ガスから水素ガスを濃集する水素濃集装置であって、前記掘削孔の内部に配置され、当該掘削孔の一部を密閉空間として区画する蓋部材と、水素吸蔵能を有する金属粉末が内部に設けられた管状部材である水素吸蔵器と、前記密閉空間内の試料ガスを前記水素吸蔵器に供給する流路を構成する供給路部材と、前記試料ガスのうち前記水素吸蔵器で水素ガスが吸蔵された後の排ガスを前記密閉空間に流入させる流路を構成する排出路部材と
、前記排出路部材及び前記供給路部材から取り外された前記水素吸蔵器が接続される回収部を有する回収手段と、前記回収部を脱気する脱気手段と、前記水素吸蔵器を加熱する加熱手段と、を備え
、前記回収手段は、前記脱気手段により前記回収部が真空とされ、前記水素吸蔵器に吸蔵されていた水素が前記加熱手段の加熱により開放された後、当該水素が前記回収部内に回収されるように構成されていることを特徴とする水素濃集装置にある。
【0008】
かかる第1の態様は、掘削孔に蓋部材が配置されて密閉空間が形成され、この密閉空間と水素吸蔵器との間で循環的に試料ガスが流通することで水素吸蔵器に水素ガスが吸蔵される。これにより、掘削孔から水素ガスを効率よく水素吸蔵器に濃集することができる。
また、水素吸蔵器は、回収手段に接続され、加熱手段により加熱される。これにより、水素吸蔵器に濃集されていた水素ガスを回収手段に回収することができる。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載する水素濃集装置において、前記供給路部材及び前記排出路部材には、試料ガス及び排ガス中の水素の量を検出する水素センサが設けられていることを特徴とする水素濃集装置にある。
【0010】
かかる第2の態様では、供給路部材及び排出路部材にそれぞれ設けられた水素センサが示す水素の量を比較することにより、水素吸蔵器に吸蔵された水素の量を計算することができる。
【0013】
本発明の第
3の態様は、第
1又は第2の態様に記載する水素濃集装置において、前記回収手段は、前記回収部を有する容積可変型容器及び金属管であり、前記容積可変型容器は、前記回収部が前記脱気手段により真空にされ、前記水素吸蔵器に吸蔵されていた水素が前記加熱手段の加熱により開放された後、前記水素吸蔵器内から前記水素を吸引して前記回収部に回収し、前記回収部内の水素を前記金属管内部に圧送することが可能に構成され、前記金属管は、両端の開口を圧着して閉止することでその内部に前記水素を封止することが可能に構成されていることを特徴とする水素濃集装置にある。
【0014】
かかる第
3の態様では、銅管内に水素ガスを濃集することができる。この銅管ごと水素ガスを質量分析器で分析することにより、水素の同位体比を得ることができる。
【0015】
本発明の第
4の態様は、第1〜第
3の何れか一つの態様に記載する水素濃集装置を用いた水素の濃集方法であって、掘削孔に前記蓋部材を配置することで密閉空間を形成し、該密閉空間内の試料ガスを、前記供給路部材を介して前記水素吸蔵器に供給させて水素ガスを吸蔵させるとともに、前記水素吸蔵器から前記排出路部材を介して前記密閉空間内に排ガスを流入させ、前記水素吸蔵器に吸蔵された水素ガスが外部から遮断された状態で、前記供給路部材及び前記排出路部材を取り外し、予め前記脱気手段により脱気した前記回収部に前記水素吸蔵器を接続して前記回収部内に水素ガスを導入し、前記回収部に導入された水素ガスを水上置換により別容器に回収することを特徴とする水素の濃集方法にある。
【0016】
かかる第
4の態様では、掘削孔から水素ガスを効率よく濃集することができる。
【0017】
本発明の第
5の態様は、第
4の態様に記載する水素の濃集方法において、前記水素吸蔵器から前記回収部に水素ガスを導入する際に、前記水素吸蔵器を加熱することを特徴とする水素の濃集方法にある。
【0018】
かかる第
5の態様では、より早く、水素吸蔵器から水素ガスを放出させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、地盤から採取した試料ガスから水素ガスを濃集することができる水素濃集装置及び水素の濃集方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〈実施形態1〉
図1は、掘削孔から水素ガスを吸蔵する際の水素濃集装置の概略構成図である。図示するように、地盤に形成された掘削孔1には、地中から洩出した微量の水素ガスや窒素ガスなどの各種ガスが存在している。本実施形態に係る水素濃集装置Iは、掘削孔1からこれらの各種ガスを試料ガスとして採取し、試料ガス中の水素ガスを濃集するものである。
【0022】
具体的には、水素濃集装置Iは、蓋部材10と、水素吸蔵器20と、供給路部材30と、排出路部材40とを備えている。
【0023】
蓋部材10は、掘削孔1の内部に配置され、掘削孔1の一部を密閉空間2として区画するものである。具体的には、蓋部材10は、円筒状に形成されたSUSなどの金属材料から形成された部材である。掘削孔1は、断面が円形状に掘削されたものであり、直径は蓋部材10の直径よりも若干大きくなっている。
【0024】
蓋部材10の外周面には、パッカー11が取り付けられている。パッカー11は、蓋部材10の外周形状に沿って形成された円環状の部材であり、内部に水やガスなどの流体を保持することが可能となっている。パッカー11は、内部に流体が注入されることにより膨張し、蓋部材10の外周面と、掘削孔1の内面との隙間を埋める作用を有する。
【0025】
このように、掘削孔1に蓋部材10が配置され、パッカー11によりその隙間が埋められることで、掘削孔1には、密閉空間2が形成される。
【0026】
水素吸蔵器20は、試料ガスから水素ガスを吸蔵するとともに、吸蔵し終えたあとの試料ガスを排ガスとして排出するものである。
【0027】
図2に水素吸蔵器の具体的な構成を示す。
図2は、水素吸蔵器の概略斜視図である。同図に示すように、水素吸蔵器20は、金属製(銅)の管状部材21内部にパラジウム(Pd)粉末22を有している。パラジウム粉末22は、水素吸蔵能を有する金属粉末である。
【0028】
また水素吸蔵器20のパラジウム粉末22の両端側には、ガラスウール23が設けられている。ガラスウール23は、管状部材21の両側の開口部を塞ぐように設けられており、パラジウム粉末22が管状部材21からこぼれ落ちることを防止している。ガラスウール23は、ガスが流通する程度の隙間を有している。
【0029】
このような水素吸蔵器20には、管状部材21の一方の開口から試料ガスが供給される。そして、試料ガスはガラスウール23を流通し、パラジウム粉末22に試料ガス中の水素ガスが吸蔵される。パラジウム粉末22により水素ガスが吸蔵された後の試料ガスは、排ガスとして管状部材21の他方の開口から排出される。
【0030】
パラジウム粉末22が水素ガスを吸蔵する量(体積)は、パラジウム粉末22の体積の数百倍であり、試料ガスをパラジウム粉末22に接触させることで、水素ガスを十分に吸蔵することができる。
【0031】
図1に戻り、水素吸蔵器20は、供給路部材30及び排出路部材40より、密閉空間2に接続されている。
【0032】
供給路部材30は、密閉空間2内の試料ガスを水素吸蔵器20に供給する流路を構成する管状の部材である。蓋部材10には、密閉空間2と外部とに連通した貫通孔である連通部12が2つ形成されており、供給路部材30の一端は蓋部材10の連通部12に接続されている。また、供給路部材30の他端は水素吸蔵器20の一方の開口(
図2参照)に接続されている。
【0033】
排出路部材40は、水素吸蔵器20から排出される排ガスを密閉空間に排出する流路を構成する管状の部材である。排出路部材40の一端は蓋部材10の連通部12に接続されている。また、排出路部材40の他端は水素吸蔵器20の他方の開口(
図2参照)に接続されている。
【0034】
これらの供給路部材30及び排出路部材40は、水素吸蔵器20に着脱可能になっている。
【0035】
また、供給路部材30及び排出路部材40には、それぞれ水素センサ31及び水素センサ41が接続されている。水素センサ31及び水素センサ41は、試料ガス及び排ガス中の水素の量を検出するものである。
【0036】
水素センサ31と水素センサ41のそれぞれが示す水素の量を比較することにより、水素吸蔵器20に吸蔵された水素の量を計算することができる。
【0037】
上述した構成の水素濃集装置Iでは、密閉空間2内の試料ガスは、供給路部材30を介して水素吸蔵器20に供給される。試料ガスが供給された水素吸蔵器20では、試料ガス中の水素ガスがパラジウム粉末22に吸蔵される。パラジウム粉末22は水素吸着能に優れるため、試料ガス中の水素ガスを十分吸蔵し、保持することができる。
【0038】
パラジウム粉末22は、常温で水素を吸蔵することができる。このため、掘削孔1を形成した現場において特別な熱源を用意することなく、水素吸蔵を行うことができる。
【0039】
一方、水素吸蔵器20により試料ガスから水素ガスが吸蔵された排ガスは、排出路部材40を介して密閉空間2に排出される。すなわち、試料ガス(排ガス)を密閉空間2、供給路部材30、水素吸蔵器20、排出路部材40、密閉空間2という各部材に亘って循環させる。
【0040】
このように試料ガスが循環するので、掘削孔1内に水素ガスを多量に残すことなく、水素吸蔵器20に吸蔵することができる。
【0041】
仮に、密閉空間2に排ガスを循環させずに大気に排出すると、密閉空間2内が負圧になり、水素ガス(試料ガス)が水素吸蔵器20側に供給されにくくなる。この結果、掘削孔1内に回収しきれない水素ガスが残留することとなる。
【0042】
掘削孔1を形成した現場において水素ガスを吸蔵した後は、特に図示しないが、水素吸蔵器20の管状部材21の両端をクランプなどで圧着した後、供給路部材30及び排出路部材40を水素吸蔵器20から取り外す。そして、水素吸蔵器20から別容器に水素ガスを濃集する。
【0043】
図3は、水素吸蔵器から水素ガスを濃集する際の水素濃集装置の概略構成図である。同図に示すように、水素濃集装置Iは、水素吸蔵器20と、脱気装置50(真空ポンプ)と、回収手段としてのサンプリングシリンジ60及び銅管70(金属管)と、加熱手段の一例であるヒーター90とを備えている。
【0044】
水素吸蔵器20とサンプリングシリンジ60との間には、第1管路81が接続されている。第1管路81の分岐部P1から脱気装置50の間には、第2管路82が接続され、第2管路82の分岐部P2から銅管70の間には、第3管路83が接続されている。さらに、第1管路81の分岐部P3からサンプリングシリンジ60(後端部側)の間には、第4管路84が接続されている。
【0045】
掘削孔1から水素ガスを吸蔵した水素吸蔵器20は、一方の開口部を封止していたクランプが取り外され、その開口部に第1管路81が接続される。水素吸蔵器20の周囲には、ヒーター90が設置され、ヒーター90により水素吸蔵器20全体が加熱されるにようになっている。
【0046】
ヒーター90により加熱された水素吸蔵器20からは、パラジウム粉末(
図2参照)により吸蔵されていた水素が開放され、その水素は、第1管路81内に流入するようになっている。
【0047】
脱気装置50は、各管路内やサンプリングシリンジ60の回収部61や銅管70の内部を真空にすることが可能な装置である。
【0048】
容積可変型容器の一例であるサンプリングシリンジ60は、内部に閉空間である回収部61を有している。サンプリングシリンジ60には、ピストン62が設けられており、ピストン62の移動により回収部61の容積を可変とすることが可能となっている。
【0049】
回収部61は、第1管路81で水素吸蔵器20に接続され、第2管路82で脱気装置50に接続され、第3管路83で銅管70に接続されている。また、サンプリングシリンジ60の後端側、すなわち、ピストン62側の空間部63は、第4管路84に接続され、第2管路82を介して脱気装置50に接続されている。このような構成とすることで、回収部61及び空間部63が略等圧となるので、より少ない荷重でピストン62を可動させることが可能となる。
【0050】
銅管70は、両端が開口した銅製の管状部材である。一端の開口から第3管路83が差し込まれ、詳細は後述するが、サンプリングシリンジ60から圧送された水素ガスがその内部に供給されるようになっている。また、両端部分は、圧着してその開口を閉じることが可能となっている。図には、銅管70の一方の開口が閉じ、他方の開口が第3管路83に差し込まれた状態を示している。
【0051】
第1管路81には、水素吸蔵器20と分岐部P1との間にバルブV1が設けられている。第2管路82には、分岐部P1と分岐部P2との間にバルブV2が設けられ、分岐部P2と脱気装置50との間にバルブV3が設けられている。第4管路84にはバルブV4が設けられている。
【0052】
上述した構成の水素濃集装置Iを用いて、水素吸蔵器20に吸蔵された水素ガスを濃集する動作を説明する。
【0053】
図4は、脱気を行う際の水素濃集装置の状態を示す概略図である。同図に示すように、まず、水素濃集装置Iの系内を真空にする。具体的には、バルブV1を閉じ、バルブV2〜V4を開けた状態で脱気装置50を動作させる。
【0054】
この脱気により、第1管路81〜第4管路84、サンプリングシリンジ60の回収部61、空間部63、銅管70の内部が真空とされる。
【0055】
図5は、サンプリングシリンジに水素ガスを濃集する際の水素濃集装置の状態を示す概略図である。ここでは、水素吸蔵器20に吸蔵された水素ガスをサンプリングシリンジ60の回収部61に濃集する。
【0056】
具体的には、バルブV1を開放し、バルブV2〜V4を閉じた状態で、ヒーター90により水素吸蔵器20を加熱する。この加熱により水素吸蔵器20に吸蔵されていた水素ガスは開放され、第1管路81に流入する。水素ガスが解放された水素吸蔵器20は、再び、掘削孔から水素を吸蔵するために用いることができる。
【0057】
一方、サンプリングシリンジ60のピストン62を引くことで回収部61を拡張し、その内部に水素ガスを取り込む。なお、回収部61及び空間部63がほぼ真空に維持されることで両空間部に圧力差が生じていないので、ピストン62を引く動作が可能となっている。また、回収部61と空間部63の圧力差によりピストン62が回収部61を押し潰してしまうこともない。
【0058】
このようにしてサンプリングシリンジ60を操作することで、水素吸蔵器20から水素ガスが回収部61内に濃集される。
【0059】
図6は、サンプリングシリンジから銅管に水素ガスを濃集する際の水素濃集装置の状態を示す概略図であり、
図7は、銅管の断面図である。ここでは、サンプリングシリンジ60に回収された水素ガスを銅管70に圧送する。
【0060】
具体的には、バルブV1、V3、V4を閉じ、バルブV2を開けた状態で、サンプリングシリンジ60のピストン62を押圧する。これにより、回収部61内の水素ガスは、第1管路81及び第2管路82及び第3管路83を介して銅管70に圧送される。
【0061】
図7(a)に示すように、銅管70は、管状に形成され、一方の開口71が圧着されて閉止されている。銅管70の他方の開口72は、シール部材87を介して第3管路83が接続されている。
【0062】
銅管70の内部空間73は、上述した脱気工程において真空状態にされ、その後のサンプリングシリンジ60からの圧送により水素ガスが濃集された状態となる。すなわち、銅管70の内部空間73は、水素ガスのみで満たされている。
【0063】
そして、
図7(b)に示すように、第3管路83に取り付けたまま銅管70の他方の開口72を圧着して閉止することで、内部空間73を密閉した空間とする。これにより、内部空間73に、水素ガスを外気から遮断した状態で保持することができる。
【0064】
以後、第3管路83から銅管70を取り外し、その銅管70を水中に沈め、水上置換によりガラス容器などの別容器に水素ガスを回収する。回収した水素ガスを質量分析器にかけて水素ガスの濃度を測定する。なお、水上置換によらず、銅管70を質量分析器に供し、水素ガスの濃度を測定してもよい。そして、当該濃度に基づいて水素ガスの同位体比を求めることができる。
【0065】
以上に説明した水素濃集装置Iによれば、掘削孔1に蓋部材10が配置されて密閉空間2が形成され、この密閉空間2と水素吸蔵器20との間で循環的に試料ガスが流通することで水素ガスが吸蔵される。これにより、掘削孔1から水素ガスを効率よく水素吸蔵器20に吸蔵することができる。
【0066】
そして、その水素吸蔵器20は、第1管路81等を介してサンプリングシリンジ60等に取り付けられ、水素吸蔵器20からサンプリングシリンジ60に水素ガスが濃集され、水素ガスが銅管70内に保持される。このようにして、他のガスが混ざることなく、銅管70内に水素ガスを濃集することができる。
【0067】
なお、回収手段としてサンプリングシリンジ60及び銅管70を例示したが、外気から遮断された状態で、水素吸蔵器20から水素ガスを回収できる構成であれば、回収手段の具体的構成は特に限定されない。