(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に図面を参照しながら、本発明を実施するための形態を説明する。ただし、以下に示す形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明を以下に限定するものではない。また、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするために誇張していることがある。さらに、同一の名称、符号については、原則として同一もしくは同質の部材を示しており、重複した説明は適宜省略する。
【0010】
図1に、本実施形態に係る発光素子発光素子100の概略断面図を示す(
図2のX−Xにおける概略断面図である)。発光素子100は、上面、側面及び下面を有する半導体構造10と、半導体構造10の下面側に設けられた正電極30及び負電極40と、半導体構造10の側面に設けられた反射膜20と、を備える。光は、半導体構造10の上面側から取り出される。さらに、半導体構造10は、その上面において、内側に設けられた粗面領域10bと、外側に設けられた平坦領域10aと、を有する。
【0011】
これにより、斜め方向における発光強度の大きい発光素子100を得ることができる。以下この点について説明する。
【0012】
まず、中央部に設けられた粗面領域10bにおいては、光が散乱して取り出される。これにより、発光素子100の光出力を向上させることができる。一方、その周囲に設けられた平坦領域10aでは、上面に対して浅い角度で入射する光(入射角が大きい光)の取出しは全反射により抑制され、上面に対して深い角度で入射する光(入射角が小さい光)が優先的に取り出される。この結果、発光素子全体として、斜め方向から観察される光の強度が大きくなるものと考えられる。
【0013】
ここで、本明細書では、説明の便宜上、
図1に示す断面図の下側を「下」と表現し、上側を「上」と表現している。しかし、これらの位置関係は相対的なものであればよく、例えば各図の上下を逆にしても本明細書の範囲内であることは言うまでもない。
【0014】
以下、発光素子100における主な構成要素について説明する。なお、本実施形態における発光素子100としてはLED(発光ダイオード)を用いる。
(半導体構造10)
半導体構造10は、例えば、下面側から順に、第1導電型(p型)層、活性層、第2導電型(n型)層を有する構造とすることができる。半導体構造10は、例えば、複数のGaN系半導体(GaN、AlGaN、InGaNなど)を積層したものを用いることができる。なお、説明の便宜上、
図2においては半導体構造10を長方形としているが、正方形であってもよいし、また、角が丸みを帯びた形状であってもよい。
【0015】
半導体構造10はその上面において、内側に設けられた粗面領域10bと、外側に設けられた平坦領域10aと、を有する。つまり、
図2に示すように素子を上面視した際に、平坦領域10aは素子の外縁(点線の外側)に形成され、粗面領域10bは平坦領域の内側(点線の内側)に設けられている。このように形成することで、斜め方向における発光強度を大きくすることができる。また本実施形態では、上面視において粗面領域10bの外縁(点線)は矩形状に図示されているが、これに限定されず、例えば角が丸みを帯びた形状等とすることもできる。
【0016】
半導体構造10の上面において、平坦領域10aの面積は全体の面積(平坦領域10aと粗面領域10bとの合計の面積)に対して好ましくは10%〜75%、より好ましくは10%〜45%、さらに好ましくは10%〜20%とすることができる。上面において平坦領域10aが占める割合を一定以上とすることで配光特性を制御する効果を十分に確保できる一方、上面において平面領域が占める割合を一定以下とし粗面領域10bが占める割合を一定以上とすることにより発光素子100全体としての光出力を維持することができるためである。なお
図2に示すように、本実施形態において平坦領域10aは粗面領域10bの周囲に略均一の幅で形成されている。
【0017】
また、半導体構造10の上面の面積は、好ましくは100μ
2以上10000μm
2以下、より好ましくは150μm
2以上5000μm
2以下、さらに好ましくは300μm
2以上1000μm
2以下とすることができる。
【0018】
粗面領域10bは複数の凸部が形成されてなる。なお、本明細書において凸部とは、先端が非平坦な形状に形成されているものも含む。ここでいう非平坦な形状とは、先端が曲面で形成されたもの、先端が尖ったもの、先端に凹凸を有するものを含む。かかる構成によれば光の乱反射により、外部への取出し効率を向上させることができる。
【0019】
また、凸部の基端は隣り合う凸部の基端と隣接するように設けることができる。つまり、凸部は、隣の凸部との間に平坦な面を有さないように形成することができる。このように凸部を高密度に設けることにより、光取り出し効率を高めることができる。
【0020】
粗面領域10bは、ドライエッチング又はウェットエッチングにより形成することができるが、量産性の観点からウェットエッチングにより形成することが好ましい。GaN系半導体の場合、ウェットエッチングの溶液としては、例えばKOH水溶液や、4メチル水酸化アンモニウムやエチレンジアミン・ピロテコールなどを用いることができる。この際、平坦領域10aとする領域にフォトリソグラフィーにより形成したマスクを設けることにより、粗面化しない平坦な領域を形成することができる。マスクとしては例えば酸化ケイ素や窒化ケイ素等を用いることができる。マスクは100nm〜200nmの厚さで形成するのが好ましい。
【0021】
半導体構造10の側面は、下面から上面に向かって広がるように傾斜して設けることができる。つまり、半導体構造10の側面は、下面から上面に向かうにつれて徐々に外側へ広がった形状とすることができる。このとき、傾斜角度(下面と側面が成す角度)は好ましくは91°以上130°以内、より好ましくは95°以上125°以内、さらに好ましくは100°以上120°以内とすることができる。これにより、側面に向かう光を効率よく上方へと取り出すことができるため、配光特性の制御がより容易になる。
【0022】
(正電極30及び負電極40)
正電極30は、例えば、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ等とでき、好ましくは酸化インジウムスズを使用することができる。これらの材料を用いることにより、当接する部材と良好なオーミック接触が得られる。
【0023】
負電極40は、正電極30と同一材料を用いることもできるし、異なる材料を用いることもできる。
図3に示すように、正電極30及び負電極40を半導体構造10の下面に形成することにより、上面全域を光取り出し面とすることができる。なお、
図3において、構造をわかりやすくするために、半導体構造10、正電極30及び負電極40についてのみ図示している。また、
図3の点線については半導体構造の傾斜面を示している。
【0024】
(反射膜20)
反射膜20は、半導体構造10の側面側から順に、絶縁部材21と、金属部材22と、を含むことができる。本実施形態では、半導体構造10の側面全域に反射膜20が設けられている。反射膜20は、半導体構造10の側面へと向かう光を、上面側へと反射させるためのものである。反射膜20は、単膜であってもよいし、多層膜であってもよい。本実施形態においては、反射膜20として絶縁部材21と、金属部材22と、を順に設けているが、いずれか一方のみを用いることもできるし、他の構成を採用するもできる。以下、絶縁部材21と金属部材22とについて説明する。
【0025】
(絶縁部材21)
本実施形態でいう絶縁部材21とは、半導体構造10側から順に、単層の膜からなる第1層と、誘電体多層膜からなる第2層と、を形成したものである。
【0026】
第1層は、比較的厚く、GaN系半導体よりも低屈折率の絶縁材料を用いることができる。絶縁部材21としては、酸化ケイ素、酸化ニオブ等を用いることができる。絶縁部材21の膜厚は、200nm以上600nm以下、好ましくは300nm以上500nm以下とすることができる。これにより、浅い角度で入射した光を、全反射させることができる。
【0027】
第2層は、いわゆるDBRであり、低屈折率材質層と高屈折材質層とを組み合わせた誘電体多層膜からなる。第2層は、例えば、酸化ケイ素/酸化ニオブを2ペア以上積層させることで得られる。誘電体多層膜を構成する各層には、酸化ケイ素及び酸化ニオブのほかにも例えば、酸化アルミ、酸化ジルコニウム、窒化アルミ、窒化ケイ素などを用いることができる。これにより、第2層に対して主に垂直方向に入射する光を反射することができる。
【0028】
(金属部材22)
反射膜20として、絶縁部材21を設ける場合、その外側には金属部材22を形成することができる。金属部材22としては、例えば、アルミニウム、銀、ロジウムから選択された少なくとも一種の金属を含むことができる。なかでも、アルミニウムを含むことが好ましい。これにより、絶縁部材21で反射できなかった光も反射することができるため、光を損失なく反射できる。
【0029】
(保護部材23)
反射膜20として、金属部材22を覆うように保護部材23を設けることもできる。保護部材23としては、例えば酸化ケイ素、窒化ケイ素等を用いることができる。これにより、発光素子100の最表面に金属が露出しないため、電流リークなどがない信頼性の高い発光素子100とすることができる。なお、保護部材23は半導体構造10の上面(平坦領域10a及び粗面領域10b)にも形成することができる。
【0030】
(パッド電極50)
パッド電極50は、例えば、亜鉛、ニッケル、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、オスミウム、イリジウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、コバルト、鉄、マンガン、モリブデン、クロム、タングステン、ランタン、銅、銀、金、イットリウムよりなる群から選択された少なくとも一種の元素を含む金属または合金またはそれらの酸化物が好ましい。具体的には、半導体構造10側からチタン/ロジウム/金/チタンとできる。
【0031】
半導体発光素子を下面(電極形成面)側から見た際に、パッド電極50はp電極とn電極とを絶縁した状態で、素子の広い領域に設けることができる。こうすることにより、実装時に接続が容易となる。
【0032】
<実施例>
本実施例は
図1〜
図3に示した発光素子100に対応するものである。以下、
図1〜
図3を参照して実施例の発光素子について説明する。
【0033】
まず、サファイア基板上に、それぞれが窒化物半導体からなるn型層、活性層、p型層を順に積層し、半導体構造を作製した。その後、傾斜角度が110°となるように半導体構造の側面をエッチングにより除去した。その後、
図1に示すパターンに、活性層からの光を反射する反射膜20を形成した。反射膜20としては、半導体発光素子の側面に形成された酸化ケイ素よりなる絶縁部材21の第1層(300nm)と、酸化ケイ素/酸化ニオブの誘電体多層膜よりなる絶縁部材21の第2層(420nm)と、その上に形成されたAl−Cu合金よりなる金属部材22(300nm)をスパッタ法で、さらにその上に形成された酸化ケイ素よりなる保護部材23(500nm)をCVD法でそれぞれ形成した。
【0034】
次に、n型層にウェットエッチングによる粗面処理を施した。この際、反射膜20上の領域をフォトリソグラフィーにより形成したマスクにて被膜しておく。これによりマスキング部には平坦領域10a、それ以外には粗面領域10bがそれぞれ形成される。本実施例では、半導体構造の上面において、平坦領域10aの面積は全体の面積に対して13%とした。
【0035】
次に、平坦領域10a上のマスクを除去した。以上のようにしてピーク波長459nmの発光素子を作製した。
【0036】
<比較例>
比較例として、平坦領域のない(半導体構造の上面がすべて粗面領域である)発光素子を作製し、実施例の発光素子と配光特性を比較した。
【0037】
<評価>
図4に実施例と比較例の相対発光強度の測定結果を示す。実線が実施例であり、破線が比較例である。
図4(a)は素子の測定方向を示している。
図4(b)及び
図4(c)において、縦軸は相対発光強度を示し、横軸は放射角度を示している。
【0038】
図から明らかなように、実施例は比較例に比べて、0°方向における測定の場合及び90°方向における測定の場合のいずれにおいても、斜め方向からの光の強度が正面方向から観察される光の強度よりも、相対的に大きくなっていることが理解できる。これは、平坦領域において、入射角の小さい光を優先的に取り出すことができているためと考えられる。なお、90°方向において0°〜90°では相対発光強度があまり向上していないが、これはn電極形成面において活性層が除去されていることが影響しているものと考えられる。
【0039】
斜め方向における相対発光強度を大きくすることができることにより、ディスプレイ等に用いた際にも視野角の大きい、正面方向以外から見た際にも一定の明るさを保つことができる。