【実施例】
【0048】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0049】
[実施例1]
触媒用原料としての銅の利用可能性について検討した。
【0050】
具体的には、以下の銅含有化合物の触媒又はその前駆体としての有効性について検討した。
(1)銅含有化合物無し(比較例)
(2)Cu(OAc)
2・H
2O:アルドリッチ製、229601
(3)Cu(NO
3)
2・2.4H
2O:アルドリッチ製、229636
(4)Cu(OAc)
2 :アルドリッチ製、517453
(5)Cu(OAc) :ストレム製、93−2989
(6)CuCl :アルドリッチ製、229628
(7)CuBr :アルドリッチ製、212865
(8)CuI :アルドリッチ製、205540
(9)Cu(OTf)
2 :アルドリッチ製、283673
(10)Cu(OCH
3)
2 :アルドリッチ製、332666
(11)(IPr)Cu(Ot−Bu):Organometallics 2004, 23, 3369-3371を参考に合成
(12)[(PPh
3)CuH]
6 :Tetrahedron Lett. 2005, 46, 2037-2039を参考に合成
【0051】
(1)、(3)及び(4)中、「Ac」はCH
3C(O)−である。
【0052】
(9)は、トリフルオロメタンスルホン酸銅である。
【0053】
(11)中、「IPr」は、1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾル−2−イリデンである。また、「t−Bu」は、tert−ブチル基である。
【0054】
(12)は、銅(I)ヒドリド(トリフェニルホスフィン)ヘキサマーである。
【0055】
尚、検討した銅含有化合物のうち、(2)〜(10)は銅塩に分類され、(11)及び(12)は銅錯体に分類される。
【0056】
上記銅含有化合物を用い、以下の手順でギ酸の製造試験を行った。まず、ステンレス鋼製の圧力反応容器(容積50mL)の底に、シャーレ状のガラス製容器を装填し、このガラス製容器に、溶媒として1,4−ジオキサン(関東化学製、10425−00)を5mL、上記銅含有化合物を0.02mmol、塩基としてDBU(1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、東京化成工業製、D1270)を10mmol収容した。そして、圧力反応容器を密閉し、二酸化炭素と水素を、分圧がそれぞれ20atm(2MPa)となるように圧力反応容器に導入し、反応温度(溶媒温度)を100℃に維持し、マグネチックスターラーで溶媒を撹拌しながら21時間反応させた。化学反応式を以下に示す。また、結果を表1に示す。尚、導入した塩基の量を基準とした収率及び触媒回転数(TON)は、内部標準として2−プロパノールを用いた
1H−NMR(測定装置:JEOL ECX 400)の測定結果から求めた。
【0057】
【化1】
【0058】
【表1】
【0059】
(2)〜(12)のいずれの銅含有化合物を用いた場合にも反応が促進され、特に、(2)Cu(OAc)
2・H
2O、(3)Cu(NO
3)
2・2.4H
2O、(4)Cu(OAc)
2、(5)Cu(OAc)、(9)Cu(OTf)
2及び(10)Cu(OCH
3)
2 を用いた場合に、収率及びTONともに優れていることが明らかとなった。以上の結果から、銅塩及び銅錯体の触媒又はその前駆体としての有効性が明らかとなった。そして、特に銅塩については、優れた収率及びTONを示したことから、触媒又はその前駆体としての有効性が極めて高いものと考えられた。
【0060】
[実施例2]
実施例1において、銅塩の触媒又はその前駆体としての有効性が示されたことから、銅と同様、遷移第一周期金属に属する鉄、コバルト及びニッケルの塩の触媒又はその前駆体としての有効性について検討した。
【0061】
具体的には、以下の4種の金属塩について検討した。
(2)Cu(OAc)
2・H
2O :実施例1の(2)と同じ
(13)Fe(OAc)
2:ストレム製、93−2678
(14)Co(OAc)
2:アルファ・エイサー製、B23218
(15)Ni(OAc)
2・4H
2O:ストレム製、28−1100
【0062】
ギ酸塩の製造試験は、実施例1と同様の手順で実施した。化学反応式を以下に示す。また、結果を表2に示す。
【0063】
【化2】
【0064】
【表2】
【0065】
表2に示される結果から明らかなように、(2)Cu(OAc)
2・H
2O以外の金属塩を用いた場合には、有意な反応の進行はみられなかった。したがって、鉄、コバルト及びニッケルの塩については触媒又はその前駆体としては機能せず、銅塩のみが触媒又はその前駆体として機能することが明らかとなった。
【0066】
[実施例3]
触媒又はその前駆体としての有効性が示された銅塩であるCu(OAc)
2・H
2Oを触媒とし、有機塩基を種々変更してギ酸塩の製造試験を実施した。
【0067】
使用した有機塩基は以下の通りとした。
(a)DBU:実施例1と同じ
(b)DBN:東京化成工業製、D1313
(c)MTBD:アルドリッチ製、359505
(d)TBD:アルドリッチ製、345571
(e)トリエチルアミン:関東化学製、40271−00
(f)キヌクリジン:アルドリッチ製、197602
(g)DMAP(N,N−ジメチル−4−アミノピリジン):東京化成工業製、D1450
【0068】
尚、(a)及び(b)はアミジン類に分類される有機塩基である。(c)及び(d)はグアニジン類に分類される有機塩基である。(e)及び(f)はアミン類に分類される塩基である、(g)はピリジン類に分類される塩基である。
【0069】
ギ酸塩の製造試験は、実施例1と同様の手順で実施した。化学反応式を以下に示す。また、結果を表3に示す。
【0070】
【化3】
【0071】
【表3】
【0072】
(a)DBU、(b)DBN、(c)MTBD及び(d)TBDを用いた場合には、反応が促進されることが確認され、特に(a)DBUを用いた場合に収率及びTONが高まることが確認された。これに対し、(e)トリエチルアミン、(f)キヌクリジン及び(g)DMAPを用いた場合には、有意な反応の進行はみられなかった。
【0073】
ここで、本実施例において使用した塩基の塩基性度と収率及びTONの関係について
図1にまとめた。本実施例の製造試験結果から、アミジン類とグアニジン類においては反応の促進が確認できたが、ピリジン類とアミン類においては有意な反応の進行が確認できなかったことから、アミジン類と同等の塩基性度又はアミジン類よりも大きな塩基性度を有する有機塩基を使用すれば、反応を促進させることが可能であると考えられた。
【0074】
[実施例4]
実施例3において、銅塩とDBUの組み合わせが高い触媒活性を示したことを踏まえ、銅塩を反応系に添加した場合と、DBUを予め配位させた銅錯体を反応系に添加した場合とを比較検討した。
【0075】
具体的には、以下の2種の銅含有化合物について検討した。
(8)CuI :実施例1の(8)と同じ
(16)(dbu)
2CuI
【0076】
(dbu)
2CuIは、以下の手順で合成した。まず、CuI(248mg、1.3mmol)の無水アセトニトリル(20mL)溶液に対し、DBU(426mg、2.8mmol)の無水アセトニトリル(20mL)溶液をアルゴン気流下室温で20分かけて滴下した後、室温で15時間撹拌した。次に、反応溶液を減圧下濃縮し、得られた固体を無水ジエチルエーテル(5mL)で洗浄し粗生成物を得た。最後に、無水テトラヒドロフランに溶解させた粗生成物に対し、無水ジエチルエーテルを室温下徐々に拡散させ、生成物(564mg,88%)を無色針状結晶として得た。
1H NMR (C
6D
6, 400 MHz):δ 1.05-1.10 (m, 4H), 1.23-1.29 (m, 4H), 1.43-1.49 (m, 4H), 1.55-1.61 (m, 4H), 2.55-2.58 (m, 8H), 2.72-2.75 (m, 4H), 3.55 (t, J = 4.9 Hz, 4H)
Anal. Calcd for C18H32CuIN4: C, 43.68; H, 6.52; N, 11.32. Found: C, 43.65; H, 6.41; N, 11.21.
【0077】
ギ酸塩の製造試験は、実施例1と同様の手順で実施した。化学反応式を以下に示す。また、結果を表4に示す。
【0078】
【化4】
【0079】
【表4】
【0080】
(8)CuIと(16)(dbu)
2CuIのいずれを用いた場合にも、反応が促進され、同様の収率及びTONとなることが明らかとなった。
【0081】
以上の結果から、銅塩は、反応系中の塩基(DBU)と反応して銅錯体となった後、触媒として機能している可能性が高いものと考えられた。