特許第6289310号(P6289310)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 一般財団法人電力中央研究所の特許一覧

特許6289310触媒又はその前駆体並びにこれらを利用した二酸化炭素の水素化方法及びギ酸塩の製造方法
<>
  • 特許6289310-触媒又はその前駆体並びにこれらを利用した二酸化炭素の水素化方法及びギ酸塩の製造方法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6289310
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】触媒又はその前駆体並びにこれらを利用した二酸化炭素の水素化方法及びギ酸塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 31/04 20060101AFI20180226BHJP
   C07C 53/02 20060101ALI20180226BHJP
   C07C 53/06 20060101ALI20180226BHJP
   C07C 51/00 20060101ALI20180226BHJP
   B01J 27/04 20060101ALI20180226BHJP
   B01J 27/25 20060101ALI20180226BHJP
   B01J 27/122 20060101ALI20180226BHJP
   B01J 31/02 20060101ALI20180226BHJP
   B01J 31/24 20060101ALI20180226BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20180226BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20180226BHJP
【FI】
   B01J31/04 Z
   C07C53/02
   C07C53/06
   C07C51/00
   B01J27/04 Z
   B01J27/25 Z
   B01J27/122 Z
   B01J31/02 101Z
   B01J31/24 Z
   B01J31/22 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-172384(P2014-172384)
(22)【出願日】2014年8月27日
(65)【公開番号】特開2016-47487(P2016-47487A)
(43)【公開日】2016年4月7日
【審査請求日】2017年7月7日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本化学会第94春季年会(2014年)講演予稿集平成26年3月12日公益社団法人日本化学会発行第3B1−50ページに発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】亘理 龍
(72)【発明者】
【氏名】榧木 啓人
(72)【発明者】
【氏名】平野 伸一
(72)【発明者】
【氏名】松本 伯夫
(72)【発明者】
【氏名】碇屋 隆雄
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−272544(JP,A)
【文献】 特表2010−521533(JP,A)
【文献】 特開2013−193983(JP,A)
【文献】 特表2014−520107(JP,A)
【文献】 特開平07−112945(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/007646(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
C07C 51/00
C07C 53/02
C07C 53/06
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅塩及び銅錯体の少なくともいずれかを有効成分として含む、アミジン類と同等の塩基性度又はアミジン類よりも大きな塩基性度を有する有機塩基の存在下での二酸化炭素の水素化用の触媒又はその前駆体。
【請求項2】
前記銅塩は、1価の酢酸銅、2価の酢酸銅、硝酸銅、硫酸銅、トリフルオロメタンスルホン酸銅、ハロゲン化銅、酸化銅、炭酸銅、水酸化銅及びアルコキシ銅並びにこれらの水和物からなる群から選択される一種以上である、請求項1に記載の触媒又はその前駆体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の触媒又はその前駆体の存在下で、二酸化炭素と、水素と、アミジン類と同等の塩基性度又はアミジン類よりも大きな塩基性度を有する有機塩基とを反応させる、二酸化炭素の水素化方法。
【請求項4】
前記有機塩基は、アミジン類及びグアニジン類からなる群から選択される一種以上である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記反応が、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、ジグリム、アセトニトリル、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ベンゼン、トルエン及びキシレンからなる群から選択される一種以上の溶媒中で実施される、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記反応が、二酸化炭素及び水素の分圧をそれぞれ1MPa〜4MPaに制御して実施される、請求項3〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記反応が、80℃〜120℃の温度条件下で実施される、請求項3〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
請求項3〜7のいずれか1項に記載の方法を実施する工程を含む、ギ酸塩の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒又はその前駆体並びにこれらを利用した二酸化炭素の水素化方法及びギ酸塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ギ酸塩(HCOH−base)は、以下の化学反応式(A)に示すように、二酸化炭素(CO)と、水素(H)と、塩基(base)とを反応させることで製造することができる。
CO + H + base → HCOH−base ・・・(A)
【0003】
上記のギ酸塩の製造方法は、豊富且つ安価であり、しかも毒性の低い二酸化炭素をC源とし、これを水素化する反応を利用している。したがって、既存のギ酸の製造方法のように毒性のある一酸化炭素を使用する必要がなく有利である。このことから、二酸化炭素の水素化を利用した上記反応について各種研究が進められている。
【0004】
具体的には、白金属元素であるルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)及びパラジウム(Pd)を中心金属とする錯体の存在下で、上記反応が促進されたことが報告されている(特許文献1〜5並びに非特許文献1又は2を参照)。
【0005】
さらに、鉄(Fe)、コバルト(Co)及びニッケル(Ni)を中心金属とする錯体の存在下で、上記反応が促進されたことも報告されている(特許文献2及び3並びに非特許文献3〜8を参照)。
【0006】
したがって、特許文献1〜5及び非特許文献1〜8において使用されている金属錯体は、上記反応における「触媒又はその前駆体」として機能しているものと考えられる。
【0007】
ここで、鉄、コバルト及びニッケルは、遷移第一周期金属に属する金属元素であり、白金属元素よりも存在量が多く且つ安価である。したがって、鉄、コバルト及びニッケルは、二酸化炭素の水素化反応の実施、さらにはこの反応を利用して工業的規模でギ酸塩の製造を行う際の触媒用の原料として非常に魅力的であるといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開2008/116799
【特許文献2】国際公開2012/000799
【特許文献3】国際公開2012/000823
【特許文献4】特開2013−193983
【特許文献5】特開2001−288137
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 7963-7971
【非特許文献2】J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 14168-14169
【非特許文献3】Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 49, 9777-9780
【非特許文献4】Angew. Chem. Int. Ed. 2011, 50, 9948-9952
【非特許文献5】J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 20701-20704
【非特許文献6】Chem. Eur. J. 2012, 18, 72-75
【非特許文献7】Inorg. Chem. 2013, 52, 12576-12586
【非特許文献8】J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 11533-11536
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、鉄、コバルト及びニッケル以外の遷移第一周期金属に属する金属元素については、触媒用原料としての十分な検討がこれまでになされていない。二酸化炭素の水素化反応の実施、さらにはこの反応を利用した工業的規模でのギ酸塩の製造の実施に鑑みれば、鉄、コバルト及びニッケル以外の遷移第一周期金属元素の触媒用原料としての利用可能性について検討しておくことは非常に重要であると考えられる。
【0011】
また、従来の方法のように、金属錯体を反応系中に添加する場合には、金属錯体を予め準備しておく必要がある。しかし、金属錯体は一般的に高価であることが多く、市販されていない場合には合成する必要がある。そして、金属錯体を合成する場合には、配位子を準備する必要があるが、配位子も一般的に高価であることが多く、市販されていない場合には合成する必要がある。したがって、金属錯体を予め準備しておくことは、手間やコストの面で明らかに不利である。
【0012】
本発明は、鉄、コバルト及びニッケル以外の遷移第一周期金属元素を触媒用原料とした、塩基の存在下での二酸化炭素の水素化用の触媒又はその前駆体を提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明は、鉄、コバルト及びニッケル以外の遷移第一周期金属元素を触媒用原料とし、金属錯体を予め準備するための手間やコストを必要としない、塩基の存在下での二酸化炭素の水素化用の触媒又はその前駆体を提供することを目的とする。
【0014】
さらに、本発明は、上記のような触媒又はその前駆体を利用した二酸化炭素の水素化方法、及び、ギ酸塩の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる課題を解決するため、本発明者等が鋭意検討を行った結果、鉄、コバルト及びニッケル以外の遷移第一周期金属元素である「銅」の触媒用原料としての利用可能性を見出すに至った。詳細には、アミジン類と同等の塩基性度又はアミジン類よりも大きな塩基性度を有する有機塩基を用いた場合には、銅塩及び銅錯体が上記化学反応式(A)の反応を促進する触媒又はその前駆体として機能し得ることを知見するに至り、さらに種々検討を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明の触媒又はその前駆体は、銅塩及び銅錯体の少なくともいずれかを有効成分として含む、アミジン類と同等の塩基性度又はアミジン類よりも大きな塩基性度を有する有機塩基の存在下での二酸化炭素の水素化用の触媒又はその前駆体である。
【0017】
ここで、本発明の触媒又はその前駆体の有効成分である銅塩は、1価の酢酸銅、2価の酢酸銅、硝酸銅、硫酸銅、トリフルオロメタンスルホン酸銅、ハロゲン化銅、酸化銅、炭酸銅、水酸化銅及びアルコキシ銅並びにこれらの水和物からなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
【0018】
本発明の二酸化炭素の水素化方法は、本発明の触媒又はその前駆体の存在下で、二酸化炭素と、水素と、アミジン類と同等の塩基性度又はアミジン類よりも大きな塩基性度を有する有機塩基とを反応させるようにしている。
【0019】
ここで、本発明の二酸化炭素の水素化方法において、有機塩基は、アミジン類及びグアニジン類からなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
【0020】
また、本発明の二酸化炭素の水素化方法において、上記反応が、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、ジグリム、アセトニトリル、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ベンゼン、トルエン及びキシレンからなる群から選択される一種以上の溶媒中で実施されることが好ましい。
【0021】
さらに、本発明の二酸化炭素の水素化方法において、上記反応が、二酸化炭素及び水素の分圧をそれぞれ1MPa〜4MPaに制御して実施されることが好ましい。
【0022】
また、本発明の二酸化炭素の水素化方法において、上記反応が、80℃〜120℃の温度条件下で実施されることが好ましい。
【0023】
本発明のギ酸塩の製造方法は、本発明の二酸化炭素の水素化方法を実施する工程を含むようにしている。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、鉄、コバルト及びニッケル以外の遷移第一周期金属元素である「銅」を触媒用原料とした、塩基の存在下での二酸化炭素の水素化用の触媒又はその前駆体を提供することが可能となる。したがって、二酸化炭素の水素化反応の実施、さらにはこの反応を利用した工業的規模でのギ酸塩の製造の実現に向けて、触媒用原料として利用可能な遷移第一周期金属元素の選択肢の幅をさらに広げることができる。
【0025】
また、触媒又はその前駆体として「銅塩」を使用する場合には、金属錯体を予め準備するための手間やコストを必要としない。したがって、二酸化炭素の水素化反応の実施、さらにはこの反応を利用した工業的規模でのギ酸塩の製造において、金属錯体を予め準備するための手間やコストを削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】塩基の塩基性度に対してギ酸塩の収率及び触媒回転数(TON)をまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0028】
本発明では、塩基(base)としてアミジン類と同等の塩基性度又はアミジン類よりも大きな塩基性度を有する有機塩基を用い、銅塩及び銅錯体の少なくともいずれかを用いることで、以下の化学反応式(A)の反応を促進させて二酸化炭素を水素化し、ギ酸塩(HCOH−base)を製造するようにしている。
CO + H + base → HCOH−base ・・・(A)
【0029】
つまり、本発明では、上記化学反応式(A)において、塩基(base)としてアミジン類と同等の塩基性度又はアミジン類よりも大きな塩基性度を有する有機塩基を用いた場合に、銅塩及び銅錯体が触媒又はその前駆体として機能することによって、上記化学反応式(A)を促進している。
【0030】
以下、本発明における触媒又はその前駆体、塩基、並びに、二酸化炭素の水素化及びギ酸塩の製造の詳細について説明する。
【0031】
<触媒又はその前駆体>
本発明の触媒又はその前駆体は、銅塩及び銅錯体の少なくともいずれかを有効成分として含むものである。つまり、銅塩のみを一種類以上含むようにしてもよいし、銅錯体のみを一種類以上含むようにしてもよい。あるいは銅塩及び銅錯体をそれぞれ一種類以上含むようにしてもよい。
【0032】
「銅塩」とは、銅イオンと陰イオンがイオン結合した化合物である。本発明において用いることができる銅塩は、上記化学反応式(A)の反応を促進させ得るものである限り特に限定されるものではないが、例えば、1価の酢酸銅、2価の酢酸銅、硝酸銅、硫酸銅、トリフルオロメタンスルホン酸銅、ハロゲン化銅(例えば、塩化銅、臭化銅及びヨウ化銅等)、酸化銅、炭酸銅、水酸化銅及びアルコキシ銅(例えば、メトキシ銅等)等が挙げられる。また、銅塩は、無水和物及び水和物のいずれの形態であってもよい。尚、本発明において用いることのできる特に好ましい銅塩は、酢酸銅(1価又は2価)無水物、酢酸銅(2価)水和物、硝酸銅水和物、トリフルオロメタンスルホン酸銅又はメトキシ銅である。
【0033】
尚、「銅塩」を用いる場合には、金属錯体を予め準備するための手間やコストを必要としない。したがって、二酸化炭素の水素化反応の実施、さらにはこの反応を利用した工業的規模でのギ酸塩の製造において、金属錯体を予め準備するための手間やコストを削減することが可能となる。かかる観点から、本発明の触媒又はその前駆体として「銅塩」を使用することが好ましいといえる。
【0034】
因みに、本発明者等が検討した結果、上記化学反応式(A)の反応を、遷移第一周期金属に属する金属元素である鉄、コバルト又はニッケルの塩の存在下で実施しても、有意な反応の進行はみられなかった。したがって、遷移第一周期金属に属する金属元素である銅元素を含む「銅塩」を用いることによって上記化学反応式(A)の反応を促進させることができるという知見は、従来技術からは到底想起し得ない新規知見であるといえる。
【0035】
次に、「銅錯体」とは、銅元素、銅塩(無水和物及び水和物のいずれであってもよい)又は水素化銅等に配位子が結合した化合物である。本発明において用いることができる銅錯体は、上記化学反応式(A)の反応を促進させ得るものである限り特に限定されるものではないが、例えば、銅元素、銅塩(無水和物及び水和物のいずれであってもよい)又は水素化銅に、配位子としてトリフェニルホスフィン、リン二座配位子または1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾル−2−イリデン等を配位した銅錯体が挙げられる。又は、「銅錯体」として、アミジン類と同等の塩基性度又はアミジン類よりも大きな塩基性度を有する有機塩基を配位子として含む銅錯体を用いることもできる。この場合、上記化学反応式(A)において用いられる塩基を配位子とすることができるので、配位子を別途準備する必要がないという利点がある。
【0036】
<塩基(base)>
本発明においては、塩基(base)として、アミジン類と同等の塩基性度又はアミジン類よりも大きな塩基性度を有する有機塩基(例えば、テトラヒドロフラン中でのpKが15以上の有機塩基、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン)と同等の塩基性度又はDBUよりも大きな塩基性度を有する有機塩基)を用いる。このような有機塩基としては、例えば、DBU及びDBN(1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノン−5−エン)等のアミジン類、TBD(1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デカ−5−エン)、MTBD(7−メチル−1,5,7−トリアザビシクロ[4.4.0]デカ−5−エン)及びTMG(1,1,3,3−テトラメチルグアニジン)等のグアニジン類、並びにホスファゼン類等が挙げられ、好ましくはアミジン類又はグアニジン類、より好ましくはDBUであるが、本発明で用いることのできる有機塩基は、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0037】
尚、有機塩基は、一種類のみを用いるようにしてもよいし、二種類以上を併用するようにしてもよい。
【0038】
<二酸化炭素の水素化及びギ酸塩の製造>
二酸化炭素の水素化及びギ酸塩の製造は、例えば、圧力容器中にて実施される。
【0039】
圧力容器中には、上記化学反応式(A)を円滑に進行させるために、適切な溶媒が適宜収容される。このような溶媒としては、例えば、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、ジグリム、アセトニトリル、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ベンゼン、トルエン及びキシレンからなる群から選択される一種以上が挙げられ、特に、1,4−ジオキサン又はテトラヒドロフランを好適に使用することができるが、溶媒は必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0040】
圧力容器中には、さらに、塩基と触媒又はその前駆体を収容する。塩基と触媒又はその前駆体の割合については、例えばモル比(塩基:触媒又はその前駆体)で100〜1000:1、好ましくは200〜800:1、より好ましくは300〜700:1、さらに好ましくは400〜600:1、なお好ましくは500:1である。
【0041】
反応容器中には、溶媒を撹拌するための装置、例えば撹拌子等を収容する。
【0042】
尚、反応容器は、触媒又はその前駆体を付着等させることのない材質で形成されたもの、あるいは反応容器内部がそのような材質でコーティングされたものを使用することが好ましい。あるいは、反応容器に触媒又はその前駆体が直接接触しないように、ガラス製やフッ素樹脂製の容器等を収容して二酸化炭素の水素化及びギ酸塩の製造を行うようにしてもよい。
【0043】
次に、圧力容器内に二酸化炭素と水素を導入して圧力容器内を加圧状態とする。具体的な圧力条件については、上記化学反応式(A)を円滑に進行させ得る限り、特に限定されるものではないが、圧力が低すぎると反応が良好に進行しないことがある。また、圧力を高めすぎると、加圧のために投入したエネルギーに対して得られる反応促進効果が小さくなる。また、圧力を高めすぎると、圧力容器への耐圧性の要求も厳しいものとなる。したがって、具体的には、二酸化炭素と水素の分圧がそれぞれ1MPa〜4MPa、好ましくは2MPa〜4MPa、より好ましくは3MPaとなるように、二酸化炭素と水素を圧力容器内に導入するのがよい。
【0044】
反応温度(溶媒温度)については、上記化学反応式(A)を円滑に進行させ得る限り、特に限定されるものではないが、80℃〜120℃とすることが好ましく、90℃〜110℃とすることがより好ましく、100℃とすることがさらに好ましい。
【0045】
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0046】
例えば、上述の実施形態では、銅塩及び銅錯体の少なくともいずれかを有効成分として含む触媒を用いるようにしているが、触媒には、これらの有効成分に加えて、さらに他の触媒や添加物などを含めるようにしてもよい。つまり、触媒は、銅塩及び銅錯体の少なくともいずれかを単独で用いるようにしてもよいし、他の触媒成分や添加物等を添加して混合物として用いてもよい。また、アルミナ等の多孔質セラミック等の担体に担持させて用いるようにしてもよい。
【0047】
また、本発明の効果を大きく阻害しない範囲で、二酸化炭素の水素化反応(ギ酸塩の製造工程)において他の添加物等を用いるようにしてもよい。
【実施例】
【0048】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
【0049】
[実施例1]
触媒用原料としての銅の利用可能性について検討した。
【0050】
具体的には、以下の銅含有化合物の触媒又はその前駆体としての有効性について検討した。
(1)銅含有化合物無し(比較例)
(2)Cu(OAc)・HO:アルドリッチ製、229601
(3)Cu(NO・2.4HO:アルドリッチ製、229636
(4)Cu(OAc) :アルドリッチ製、517453
(5)Cu(OAc) :ストレム製、93−2989
(6)CuCl :アルドリッチ製、229628
(7)CuBr :アルドリッチ製、212865
(8)CuI :アルドリッチ製、205540
(9)Cu(OTf) :アルドリッチ製、283673
(10)Cu(OCH :アルドリッチ製、332666
(11)(IPr)Cu(Ot−Bu):Organometallics 2004, 23, 3369-3371を参考に合成
(12)[(PPh)CuH] :Tetrahedron Lett. 2005, 46, 2037-2039を参考に合成
【0051】
(1)、(3)及び(4)中、「Ac」はCHC(O)−である。
【0052】
(9)は、トリフルオロメタンスルホン酸銅である。
【0053】
(11)中、「IPr」は、1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾル−2−イリデンである。また、「t−Bu」は、tert−ブチル基である。
【0054】
(12)は、銅(I)ヒドリド(トリフェニルホスフィン)ヘキサマーである。
【0055】
尚、検討した銅含有化合物のうち、(2)〜(10)は銅塩に分類され、(11)及び(12)は銅錯体に分類される。
【0056】
上記銅含有化合物を用い、以下の手順でギ酸の製造試験を行った。まず、ステンレス鋼製の圧力反応容器(容積50mL)の底に、シャーレ状のガラス製容器を装填し、このガラス製容器に、溶媒として1,4−ジオキサン(関東化学製、10425−00)を5mL、上記銅含有化合物を0.02mmol、塩基としてDBU(1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、東京化成工業製、D1270)を10mmol収容した。そして、圧力反応容器を密閉し、二酸化炭素と水素を、分圧がそれぞれ20atm(2MPa)となるように圧力反応容器に導入し、反応温度(溶媒温度)を100℃に維持し、マグネチックスターラーで溶媒を撹拌しながら21時間反応させた。化学反応式を以下に示す。また、結果を表1に示す。尚、導入した塩基の量を基準とした収率及び触媒回転数(TON)は、内部標準として2−プロパノールを用いたH−NMR(測定装置:JEOL ECX 400)の測定結果から求めた。
【0057】
【化1】
【0058】
【表1】
【0059】
(2)〜(12)のいずれの銅含有化合物を用いた場合にも反応が促進され、特に、(2)Cu(OAc)・HO、(3)Cu(NO・2.4HO、(4)Cu(OAc)、(5)Cu(OAc)、(9)Cu(OTf)及び(10)Cu(OCH を用いた場合に、収率及びTONともに優れていることが明らかとなった。以上の結果から、銅塩及び銅錯体の触媒又はその前駆体としての有効性が明らかとなった。そして、特に銅塩については、優れた収率及びTONを示したことから、触媒又はその前駆体としての有効性が極めて高いものと考えられた。
【0060】
[実施例2]
実施例1において、銅塩の触媒又はその前駆体としての有効性が示されたことから、銅と同様、遷移第一周期金属に属する鉄、コバルト及びニッケルの塩の触媒又はその前駆体としての有効性について検討した。
【0061】
具体的には、以下の4種の金属塩について検討した。
(2)Cu(OAc)・HO :実施例1の(2)と同じ
(13)Fe(OAc):ストレム製、93−2678
(14)Co(OAc):アルファ・エイサー製、B23218
(15)Ni(OAc)・4HO:ストレム製、28−1100
【0062】
ギ酸塩の製造試験は、実施例1と同様の手順で実施した。化学反応式を以下に示す。また、結果を表2に示す。
【0063】
【化2】
【0064】
【表2】
【0065】
表2に示される結果から明らかなように、(2)Cu(OAc)・HO以外の金属塩を用いた場合には、有意な反応の進行はみられなかった。したがって、鉄、コバルト及びニッケルの塩については触媒又はその前駆体としては機能せず、銅塩のみが触媒又はその前駆体として機能することが明らかとなった。
【0066】
[実施例3]
触媒又はその前駆体としての有効性が示された銅塩であるCu(OAc)・HOを触媒とし、有機塩基を種々変更してギ酸塩の製造試験を実施した。
【0067】
使用した有機塩基は以下の通りとした。
(a)DBU:実施例1と同じ
(b)DBN:東京化成工業製、D1313
(c)MTBD:アルドリッチ製、359505
(d)TBD:アルドリッチ製、345571
(e)トリエチルアミン:関東化学製、40271−00
(f)キヌクリジン:アルドリッチ製、197602
(g)DMAP(N,N−ジメチル−4−アミノピリジン):東京化成工業製、D1450
【0068】
尚、(a)及び(b)はアミジン類に分類される有機塩基である。(c)及び(d)はグアニジン類に分類される有機塩基である。(e)及び(f)はアミン類に分類される塩基である、(g)はピリジン類に分類される塩基である。
【0069】
ギ酸塩の製造試験は、実施例1と同様の手順で実施した。化学反応式を以下に示す。また、結果を表3に示す。
【0070】
【化3】
【0071】
【表3】
【0072】
(a)DBU、(b)DBN、(c)MTBD及び(d)TBDを用いた場合には、反応が促進されることが確認され、特に(a)DBUを用いた場合に収率及びTONが高まることが確認された。これに対し、(e)トリエチルアミン、(f)キヌクリジン及び(g)DMAPを用いた場合には、有意な反応の進行はみられなかった。
【0073】
ここで、本実施例において使用した塩基の塩基性度と収率及びTONの関係について図1にまとめた。本実施例の製造試験結果から、アミジン類とグアニジン類においては反応の促進が確認できたが、ピリジン類とアミン類においては有意な反応の進行が確認できなかったことから、アミジン類と同等の塩基性度又はアミジン類よりも大きな塩基性度を有する有機塩基を使用すれば、反応を促進させることが可能であると考えられた。
【0074】
[実施例4]
実施例3において、銅塩とDBUの組み合わせが高い触媒活性を示したことを踏まえ、銅塩を反応系に添加した場合と、DBUを予め配位させた銅錯体を反応系に添加した場合とを比較検討した。
【0075】
具体的には、以下の2種の銅含有化合物について検討した。
(8)CuI :実施例1の(8)と同じ
(16)(dbu)CuI
【0076】
(dbu)CuIは、以下の手順で合成した。まず、CuI(248mg、1.3mmol)の無水アセトニトリル(20mL)溶液に対し、DBU(426mg、2.8mmol)の無水アセトニトリル(20mL)溶液をアルゴン気流下室温で20分かけて滴下した後、室温で15時間撹拌した。次に、反応溶液を減圧下濃縮し、得られた固体を無水ジエチルエーテル(5mL)で洗浄し粗生成物を得た。最後に、無水テトラヒドロフランに溶解させた粗生成物に対し、無水ジエチルエーテルを室温下徐々に拡散させ、生成物(564mg,88%)を無色針状結晶として得た。
1H NMR (C6D6, 400 MHz):δ 1.05-1.10 (m, 4H), 1.23-1.29 (m, 4H), 1.43-1.49 (m, 4H), 1.55-1.61 (m, 4H), 2.55-2.58 (m, 8H), 2.72-2.75 (m, 4H), 3.55 (t, J = 4.9 Hz, 4H)
Anal. Calcd for C18H32CuIN4: C, 43.68; H, 6.52; N, 11.32. Found: C, 43.65; H, 6.41; N, 11.21.
【0077】
ギ酸塩の製造試験は、実施例1と同様の手順で実施した。化学反応式を以下に示す。また、結果を表4に示す。
【0078】
【化4】
【0079】
【表4】
【0080】
(8)CuIと(16)(dbu)CuIのいずれを用いた場合にも、反応が促進され、同様の収率及びTONとなることが明らかとなった。
【0081】
以上の結果から、銅塩は、反応系中の塩基(DBU)と反応して銅錯体となった後、触媒として機能している可能性が高いものと考えられた。
図1