(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6289334
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】植物油粕の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23K 10/37 20160101AFI20180226BHJP
A23L 11/00 20160101ALI20180226BHJP
A23K 10/00 20160101ALI20180226BHJP
【FI】
A23K10/37
A23L11/00 Z
A23K10/00
【請求項の数】5
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-202264(P2014-202264)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-69575(P2016-69575A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】盛田 隆行
(72)【発明者】
【氏名】北澤 秀基
(72)【発明者】
【氏名】山内 良枝
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 章
【審査官】
井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第04622760(US,A)
【文献】
特公昭49−006165(JP,B1)
【文献】
特開2012−116877(JP,A)
【文献】
特開昭53−142555(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K10/00−40/35
A23L11/00−11/30
A23J 1/00− 7/00
A23L23/00−35/00
C05B 1/00−21/00
C05C 1/00−13/00
C05D 1/00−11/00
C05F 1/00−17/02
C05G 1/00− 5/00
C11B 1/00−15/00
C11C 1/00− 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物油粕の製造方法において、溶剤抽出工程より後の製造工程で発生する油粕の微粉末を、溶剤抽出工程以前の工程で抽出原料に添加することを特徴とする植物油粕の製造方法。
【請求項2】
前記油粕の微粉末が、気体を利用した油粕の冷却工程又は選別工程で発生することを特徴とする請求項1に記載の植物油粕の製造方法。
【請求項3】
前記植物油粕の製造方法が、溶剤抽出工程で生成した植物油粕を加熱条件下で脱溶剤工程を行ない、さらに植物油粕の冷却工程を経ることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の植物油粕の製造方法。
【請求項4】
前記油粕の微粉末が、48メッシュの篩(タイラー)にかけて得られる、篩下の画分が50質量%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の植物油粕の製造方法。
【請求項5】
前記植物油粕が、菜種または大豆の植物油粕であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の植物油粕の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物油粕の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物油の製造工程における副産物として得られる植物油粕は、飼料や肥料、あるいは食品原料などの用途に使用されている。
【0003】
この植物油粕の製造方法としては、油分を溶剤で抽出した抽出粕に対して脱溶剤処理を行なう工程を経て製造する方法が一般的である(例えば、特許文献1参照)。脱溶剤処理は、加熱処理を伴うので、脱溶剤処理後には、ミールクーラー等を用いて冷却することが行われている。ミールクーラーは、風冷で行われるが、風に乗って油粕中の微粉末が除去される。
【0004】
これら植物油粕の製造工程で発生する微粉末は、蛋白質含量などは植物油粕の製品と遜色ないため、有効利用が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−116877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらの微粉末は、植物油粕の製造工程から、いったん排出されるため、そのまま植物油粕に添加すると衛生性の問題が発生する。そのため、加熱殺菌等の追加の工程を行わない限り、飼料、食品原料用途として用いることはできなかったため、その多くは廃棄していた。さらに、植物油粕にそのまま植物油粕の製造工程で発生した微粉末を添加した場合、その後の飼料製造又は大豆蛋白等の食品原料、あるいは食品を製造する過程で、微粉末による配管や篩等での詰り、汚染等が発生し、製造工程における作業効率が低下する問題があった。
【0007】
従って、本発明の目的は、植物油粕の製造工程から発生する微粉末を、再度植物油粕の製造工程で添加し、収率が高く、品質が従来と同等である植物油粕の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、下記の[1]〜[5]を提供する。
【0009】
[1]植物油粕の製造方法において、溶剤抽出工程より後の製造工程で発生する油粕の微粉末を、溶剤抽出工程以前の工程で抽出原料に添加することを特徴とする植物油粕の製造方法。
[2]前記油粕の微粉末が、気体を利用した油粕の冷却工程又は選別工程で発生することを特徴とする前記[1]に記載の植物油粕の製造方法。
[3]前記植物油粕の製造方法が、溶剤抽出工程で生成した植物油粕を加熱条件下で脱溶剤工程を行ない、さらに植物油粕の冷却工程を経ることを特徴とする前記[1]又は[2]に記載の植物油粕の製造方法。
[4]前記油粕の微粉末が、48メッシュの篩(タイラー)にかけて得られる、篩下の画分が50質量%以上であることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれか1つに記載の植物油粕の製造方法。
[5]前記植物油粕が、菜種または大豆の油粕であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1つに記載の植物油粕の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、植物油粕の製造工程で発生する微粉末を、植物油粕製品の衛生性が問題になることなく、植物油粕の原料として利用することができる植物油粕の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】植物油粕の製造工程における基本的な製造処理の概略を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の実施形態に係る植物油粕の製造工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔植物油粕の製造方法〕
本発明の実施の形態に係る植物油粕の製造方法は、溶剤抽出工程より後の製造工程で発生する油粕の微粉末を、溶剤抽出工程以前の工程で抽出原料に添加する工程を含む。以下、各工程を順に説明する。
【0013】
精選、粗砕、乾燥、加熱、圧扁などの前処理を経た油糧原料(抽出原料)を溶剤抽出工程で油分を植物油粕より分離する。溶剤は、ヘキサン、アセトン、エタノール等の有機溶媒を用いて行うことができるが、国内では一般的にヘキサンが用いられている。油糧原料(抽出原料)は、特に限定されるものではないが、大豆、菜種、コーン、綿実、紅花、ヒマワリ、落花生、ゴマ、アマニ、米ぬか、グレープシードなどを用いることができ、中でも大豆又は菜種を使用することが好ましい。食品用途の衛生性の点から特に好ましくは大豆である。なお、菜種、ゴマ、アマニ等の油分の多い油糧原料は、通常、抽出原料中の油分を低下させるために、溶剤抽出工程の前に圧搾工程を設けることが行われており、本発明では圧搾工程を経た圧搾粕を抽出原料に用いることができる。
【0014】
溶剤抽出工程で発生する油粕は、溶剤を含有しているため、加熱して脱溶剤を行う。脱溶剤工程は、加水・加熱及び/もしくは加熱で行われ、油粕の脱溶剤のほか、蛋白変性も起こる。脱溶剤工程は、例えば、デソルベンタイザー・トースターと呼ばれる装置を用いることができる。デソルベンタイザー・トースター内部では、脱溶剤工程は、加水・加熱条件下で行なわれ、加熱により水蒸気雰囲気とした塔内(処理装置内)で行なわれることが好ましい。湿度は、30〜100%が好ましく、50〜100%がより好ましく、80〜100%がさらに好ましい。温度は、50〜130℃が好ましく、80〜120℃がより好ましく、90〜110℃がさらに好ましい。
【0015】
なお、植物油粕の製品の油分等の品質を調整するために、油脂や油脂の精製工程で発生する油滓等を植物油粕に添加することができるが、好ましくは、脱溶剤工程で添加することが好ましい。
【0016】
脱溶剤工程を経た油粕は、水分を含むため、水分が約15%以下になるように乾燥する。乾燥工程は、例えばロータリードライヤーを用いる。乾燥工程中の油粕の品温は70〜100℃であり、好ましくは80〜90℃である。
【0017】
乾燥工程を経た油粕は、さらに冷却を行う。冷却工程では、例えば、気流中で油粕を落下、あるいは、油粕に気体を吹き付ける等で行うことができる。冷却工程を経た油粕は、整粒工程で粒子径を調整して製品となる。
【0018】
脱溶剤工程、乾燥工程、冷却工程、整粒工程の各工程では、各処理装置から排出される気体の出口に集塵機を設けることで、微粉末を集めることができる。特にサイクロン集塵機が微粉末による目詰まり等を起こさない点で好ましい。また、油粕の乾燥が進んだ冷却工程以降の工程が特に、微粉末が発生しやすい。さらに、油粕に強い気流を接触させる冷却工程で微粉末を収集することが容易である。
【0019】
集められた微粉末は、抽出工程以前の工程で添加することができる。添加工程は、特に抽出工程以前であれば、植物油粕の衛生上問題ない品質となり、また、微粉末を添加することで製品中の微粉末量が増えることもない。
【0020】
油粕の微粉末は、48メッシュの篩(タイラー)にかけて得られる篩下の画分が多い。例えば、48メッシュの篩(タイラー)にかけて得られる篩下の画分は50質量%以上になることが多く、特に好ましくは60質量%以上である。
【0021】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限される
ものではない。
【実施例】
【0022】
〔サルモネラ検査〕
下記の比較例1、実施例1、実施例2で行ったサルモネラ検査(PCR法)「飼料分析法・解説−2009−」3巻(社団法人 日本科学飼料協会 平成22年1月29日 第1版第1刷)に準拠して行い、陽性(サルモネラの検出が認められた)と陰性(サルモネラの検出が認められなかった)を判定した。
〔参考例1〕
菜種抽出原料(圧搾粕)を抽出機でヘキサン抽出を行い、菜種油粕(抽出粕)を得た。菜種油粕を、脱溶剤(デソルベンタイザー・トースター、蒸気吹込み、約100℃)し、さらにロータリードライヤーで油粕中の水分を13%にした。その後、ミールクーラー(風冷)にて菜種油粕を室温まで冷却した。菜種油粕を整粒装置(ハンマーミル及び篩:タイラー12メッシュ)にて整粒を行い、油粕(油粕A)を得た。デソルベンタイザー・トースター、ロータリードライヤー、ミールクーラー、整粒装置の各気流出口のサイクロン式集塵機で微粉末を集めた。各微粉末の組成は、全窒素量5.5〜6.1%、粗蛋白含量34〜38%の範囲であった。得られた微粉末を混合し、混合微粉末(微粉末A)を得た。微粉末Aは、油粕Aに対して4.2%であり、その内、約8割がミールクーラーの微粉末であった。微粉末Aは、48メッシュの篩(タイラー)で篩うと篩上は35質量、篩下は65質量%であった。なお、油粕Aと微粉末Aのサルモネラ検査を行ったところ、油粕Aはサルモネラ陰性であったが、微粉末Aはサルモネラ陽性であった。
【0023】
【表1】
【0024】
〔比較例1〕
参考例1で得られた油粕Aと微粉末Aを混合し混合物を得た。微粉末Aと混合物を衛生検査を行ったところ、サルモネラ陽性であった。
【0025】
〔実施例1〕
参考例1で得られた微粉末Aを、参考例1で用いた菜種抽出原料へ添加し、参考例1と同様の工程を行い、油粕(油粕B)と微粉末(微粉末B)を得た。得られた微粉末Bは、油粕Bに対して4.3%であり、微粉末量の顕著な増加は認められなかった。また、油粕Bを衛生検査したところ、サルモネラ陰性であった。
【0026】
〔実施例2〕
使用油粕を下記の大豆抽出原料に替えた以外は参考例1と同様に処理を行い、微粉末(微粉末C)を油粕(油粕C)に対して約3.5%得た。さらに実施例1と同様に大豆抽出原料に微粉末Cを添加し、油粕(油粕D)と微粉末(微粉末D)を得た。微粉末Dは、油粕Dに対して約3.6%であった。油粕Dの衛生検査を実施したところ、サルモネラ陰性であった。
【0027】
【表2】
【0028】
以上の通り、溶剤抽出工程以前に、微粉末を添加した油粕は、衛生上問題なく、また、溶剤抽出工程以前に微粉末を添加しても、微粉末が多量に増加することがなかった。