特許第6289385号(P6289385)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6289385熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性ポリウレタンの製造方法、熱可塑性ポリウレタンを使用する方法、難燃剤の使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6289385
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性ポリウレタンの製造方法、熱可塑性ポリウレタンを使用する方法、難燃剤の使用方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 75/04 20060101AFI20180226BHJP
   C08L 75/08 20060101ALI20180226BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20180226BHJP
   C08K 5/49 20060101ALI20180226BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20180226BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20180226BHJP
   C08G 18/65 20060101ALI20180226BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   C08L75/04
   C08L75/08
   C08K9/04
   C08K5/49
   C08K3/26
   C08K3/34
   C08G18/65 A
   H01B13/00 511Z
【請求項の数】18
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-561413(P2014-561413)
(86)(22)【出願日】2013年3月12日
(65)【公表番号】特表2015-511646(P2015-511646A)
(43)【公表日】2015年4月20日
(86)【国際出願番号】EP2013054975
(87)【国際公開番号】WO2013135680
(87)【国際公開日】20130919
【審査請求日】2016年3月10日
(31)【優先権主張番号】12159156.4
(32)【優先日】2012年3月13日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】ヘンツェ,オリファー,シュテフェン
(72)【発明者】
【氏名】ミューレン,オリファー
(72)【発明者】
【氏名】ベルテルス,アルフォンス
(72)【発明者】
【氏名】コンラット,ザビーネ
(72)【発明者】
【氏名】フルク,トマス
(72)【発明者】
【氏名】ルドルフ,ハンス
(72)【発明者】
【氏名】ベックマン,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】マイアー,ディートマー
【審査官】 松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−007109(JP,A)
【文献】 特開2003−313435(JP,A)
【文献】 特開2005−002078(JP,A)
【文献】 特開2005−002077(JP,A)
【文献】 特開2005−002076(JP,A)
【文献】 特開昭63−162749(JP,A)
【文献】 特開2005−162913(JP,A)
【文献】 特表2007−537304(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/137437(WO,A1)
【文献】 英国特許出願公告第00792016(GB,A)
【文献】 米国特許第03956233(US,A)
【文献】 米国特許第04397974(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0220407(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0125504(US,A1)
【文献】 特開平02−170854(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/046085(WO,A1)
【文献】 特開昭63−265960(JP,A)
【文献】 特開平10−204298(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/125628(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08L 1/00 − 101/14
C08K 3/00 − 13/08
DB名 CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)少なくとも1種のジイソシアネートと、イソシアネートに対し反応性の少なくとも1種の物質とを原料とする熱可塑性ポリウレタン、及び更に、
ii)少なくとも1種の難燃剤、
を含む難燃性の熱可塑性ポリウレタン組成物であって、
1種の難燃剤が、少なくとも一部が被覆で覆われた金属水酸化物としての水酸化アルミニウムであり、
更なる難燃剤として、リン酸、ホスホン酸及び/又はホスフィン酸の誘導体である少なくとも1種のリン含有難燃剤を含み、
更に、ハイドロタルサイト及び/又はフィロシリケートを含み、及び
前記被覆は、ヘキサデシルシランを原料とすることを特徴とするポリウレタン組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性ポリウレタンが、更に、少なくとも1種の鎖延長剤と、少なくとも1種の触媒とを原料とすることを特徴とする請求項1に記載のポリウレタン組成物。
【請求項3】
更に、添加剤及び/又は助剤を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のポリウレタン組成物。
【請求項4】
前記リン含有難燃剤が21℃で液体である請求項1〜3の何れか1項に記載のポリウレタン組成物。
【請求項5】
前記金属水酸化物の比表面積が、前記被覆の無い状態で2m/g以上9m/g以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリウレタン組成物。
【請求項6】
被覆で少なくとも一部が覆われた金属水酸化物の合計質量に基いて50質量%を越える、前記少なくとも1部が被覆で覆われた金属水酸化物の最大寸法が、10μm未満である請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリウレタン組成物。
【請求項7】
前記フィロシリケートが、有機層間フィロシリケート又は有機層間ハイドロタルサイトである請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリウレタン組成物。
【請求項8】
前記ポリウレタン組成物中の、全難燃剤と、フィロシリケート及び/又はハイドロタルサイトとの質量割合(質量%)の合計は、10質量%以上80質量%以下であり、当該質量割合の値は、少なくとも1種のジイソシアネートと、イソシアネートに対し反応性の少なくとも1種の物質との合計質量に対するものである請求項1に記載のポリウレタン組成物。
【請求項9】
前記ポリウレタン組成物中の、全難燃剤と、フィロシリケート及び/又はハイドロタルサイトとの質量割合(質量%)の合計は、10質量%以上80質量%以下であり、当該質量割合の値は、少なくとも1種のジイソシアネートと、イソシアネートに対し反応性の少なくとも1種の物質と、少なくとも1種の鎖延長剤と、少なくとも1種の触媒との合計質量に対するものである請求項2及び請求項2を引用する請求項3〜7のいずれか1項に記載のポリウレタン組成物。
【請求項10】
リン含有難燃剤:金属水酸化物:フィロシリケート及び/又はハイドロタルサイトの質量比は、9:34:5である請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリウレタン組成物。
【請求項11】
イソシアネートに対し反応性の物質の数平均モル質量は、500g/mol以上6×10g/mol以下である請求項1〜10のいずれか1項に記載のポリウレタン組成物。
【請求項12】
イソシアネートに対し反応性の物質は、ポリエーテルポリオールである請求項11に記載のポリウレタン組成物。
【請求項13】
ケーブル外装を製造するために、請求項1〜12のいずれか1項に記載のポリウレタン組成物を使用する方法。
【請求項14】
少なくとも1種のジイソシアネートと、イソシアネートに対し反応性の少なくとも1種の物質の混合物を原料とし、少なくとも1種の難燃剤を含有する熱可塑性ポリウレタン組成物の製造方法であって、
第1の工程で、少なくとも1種のジイソシアネートと、イソシアネートに対し反応性の少なくとも1種の物質との混合物を原料とする熱可塑性ポリウレタンを製造し、
少なくとも1の更なる工程で、当該熱可塑性ポリウレタンに対し、少なくとも一部が被覆で覆われた金属水酸化物である少なくとも1種の難燃剤を添加し、更に、リン酸、ホスホン酸及び/又はホスフィン酸の誘導体である少なくとも1種のリン含有難燃剤を添加し、加えて、ハイドロタルサイト及び/又はフィロシリケートを添加することを含み、
前記金属水酸化物が水酸化アルミニウムであり、
前記被覆は、ヘキサデシルシランを原料とする、ことを特徴とする方法。
【請求項15】
前記熱可塑性ポリウレタン組成物の原料としての前記混合物が更に、少なくとも1種の鎖延長剤と、少なくとも1種の触媒とを含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記熱可塑性ポリウレタン組成物が更に、添加剤及び/又は助剤を含むことを特徴とする請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記リン含有難燃剤が、21℃で液体である請求項14〜16の何れか1項に記載のポリウレタン組成物の製造方法。
【請求項18】
難燃剤である、少なくとも一部が被覆で覆われた少なくとも1種の金属水酸化物と、リン酸、ホスホン酸及び/又はホスフィン酸の誘導体である少なくとも1種のリン含有難燃剤と、更に、ハイドロタルサイト及び/又はフィロシリケートとの混合物を、ポリウレタン中で使用する方法であって、
前記金属水酸化物が水酸化アルミニウムであり、
前記被覆は、ヘキサデシルシランを原料とする、ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性の熱可塑性ポリウレタンに関する。
【背景技術】
【0002】
難燃性の熱可塑性ポリウレタンは、長期にわたり公知になっている。ここでの実現性は、ハロゲン含有、ハロゲン非含有難燃剤いずれかを、熱可塑性ポリウレタン(TPU)と混合することである。ハロゲン非含有(ハロゲンフリー)難燃剤を含むTPUの通常の利点は、ここでは、燃焼中の腐食性煙及び毒物の放出が少ないことである。ハロゲン非含有難燃剤を含むTPUの利点は、詳細が既に開示されている(欧州特許第00617079号公報、欧州特許第1874854号公報、欧州特許第1490430号公報)。
【0003】
窒素含有及び/又はリン含有難燃剤が、TPU中で難燃剤として使用可能である(欧州特許第00617079号公報、欧州特許第1874854号公報、欧州特許第1490430号公報)。リン含有難燃剤の単独使用は、しばしば、適切な難燃性が確立できない。対照的に、窒素含有難燃剤の使用(単独又はリン含有難燃剤との組み合わせ)は、TPUに良好な難燃性を付与することが多いが、窒素含有化合物がHCNや窒素酸化物のような毒性燃焼ガスを放出することも可能であるという不利益がある。
【0004】
金属水酸化物もまた、単独、又は、ハロゲン非含有難燃剤であるリン含有難燃剤及び/又はフィロシリケートとの組み合わせで、TPU中で使用可能である(独国特許出願公開第10343121号明細書(A1)、欧州特許第1167429号明細書(B1)、欧州特許第01491580号明細書(B1)、欧州特許第1183306号明細書(B1)、国際公開第2011/050520号パンフレット)。これらの混合物は、第一に非常に良好な難燃特性を示し、第2に非常に低い毒性値を示すことが記載されている。
【0005】
金属水酸化物と組み合わせたTPUを主とする混合物の不利益は、耐老化性が低く、前記材料が多くの使用分野について不適切だということである。例えば、欧州特許出願公開第2374843号明細書(A1)では、やや難溶性の二及び三価金属の酸化物を添加することにより、耐老化性を改善するという試みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許第00617079号公報
【特許文献2】欧州特許第1874854号公報
【特許文献3】欧州特許第1490430号公報
【特許文献4】独国特許出願公開第10343121号明細書
【特許文献5】欧州特許第1167429号明細書
【特許文献6】欧州特許第01491580号明細書
【特許文献7】欧州特許第1183306号明細書
【特許文献8】国際公開第2011/050520号パンフレット
【特許文献9】欧州特許出願公開第2374843号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従って、良好な機械的特性を備え、通常の方法で処理しても、産業上の要求に対応した難燃特性を示す良好な結果をもたらし、同時に良好な耐加水分解性及び耐老化性、特に、耐酸化老化性を持つ難燃性の熱可塑性ポリウレタンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
驚くべきことに、この目的は、少なくとも1種のジイソシアネートと、イソシアネートに対し反応性の少なくとも1種の物質と、好ましくは少なくとも1種の鎖延長剤と、任意に少なくとも1種の触媒とを原料とし、少なくとも1種の難燃剤と、任意に添加剤及び/又は助剤とを含有する難燃性の熱可塑性ポリウレタンにより達成され、少なくとも1種の難燃剤は、ある程度(少なくとも1部)が被膜で被覆された金属水酸化物であり、リン酸、ホスホン酸及び/又はホスフィン酸の誘導体である少なくとも1種のリン含有難燃剤と、ハイドロタルサイト及び/又はフィロシリケートを持つ。リン酸、ホスホン酸及び/又はホスフィン酸の誘導体であるリン含有難燃剤と、ハイドロタルサイト及び/又はフィロシリケートを持つ、被覆金属水酸化物の使用は、機械的強度値の改善だけではなく、老化耐性の改善の達成も可能にし、この組み合わせにより難燃特性もまた改善された。これら特性は、特に、好ましい実施形態に関連しても改善される。この被覆は、実質、熱可塑性ポリウレタンの難燃特性にいかなる悪影響もない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実験番号3及び6のコーンカロリメータ測定の結果のグラフィック描写である実施例4のペトレッラプロット(Petrella plot)を示す。材料が急速な炎の拡大に寄与する傾向は、X軸の方向に大きくなる。指数PHRR/tigが、単位[kW/m秒]でプロットされている。材料が長期間の炎に寄与する傾向(THR)が、y軸に単位[MJ/m]でプロットされている。良好な難燃値を具備する材料は、ここでは、最小x及びy値を示す。グラフは、本発明の実験3が、本発明以外の実験6よりも際立って良好な難燃性を示すことを顕著に表す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
少なくとも1種のジイソシアネートと、イソシアネートに対し反応性の少なくとも1種の物質と、好ましくは少なくとも1種の鎖延長剤と、そして任意にすくなくとも1種の触媒とを主な原料とし、少なくとも1種の難燃剤と、任意に添加剤及び/又は助剤を含有する、難燃性の熱可塑性ポリウレタンは、熱可塑性ポリウレタンを原料とする難燃性組成物とも称することが可能であり、これは、ジイソシアネートの、イソシアネートに対し反応性の少なくとも1種の物質の(好ましくは少なくとも1種の鎖延長剤と、任意に少なくとも1種の触媒との)反応生成物を含み、その組成物が、少なくとも難燃剤と、任意に添加剤及び/又は助剤も含有する。
【0011】
<金属水酸化物>
本発明で使用される金属水酸化物は、好ましくは、マグネシウム、カルシウム、亜鉛及び/又はアルミニウムの複水酸化物(double hydroxide)又は水酸化物である。金属水酸化物の利点は、燃焼時に、もっぱら水を放出し、そのため、いかなる毒性又は腐食性煙生成物も生成しないことである。さらに、前記水酸化物は、燃焼時に煙密度を減少させる能力がある。しかし、前記物質の不都合な点は、それらが、第1に、熱可塑性ポリウレタンの加水分解を促進し、第二に、ポリウレタンの酸化老化に悪影響をも持つということである。
【0012】
本発明においては、酸化老化の表現は、熱可塑性ポリウレタンの機械的パラメータ(引張強さ、破壊時引張ひずみ、引張伝ぱ抵抗、柔軟性、耐衝撃性、軟性など)が、時間の経過により悪化したときに使用される。実験室で老化プロセスを確認するため、機械的パラメータは、先ず、高温老化に先立って、次いで、適切な老化後にそれぞれ測定される。7日間老化を行う際の好ましい老化温度は、113℃又は121℃である。他の温度と時間も、必要に応じて使用可能である。
【0013】
多用な用途に必要な難燃性を得るため、金属水酸化物の含有量は、好ましくは、約10質量%〜80質量%である。この質量割合は、更なる添加剤及び/又は助剤を除いた、難燃剤と、任意に触媒とを含む難燃性熱可塑性ポリウレタンの全質量に対するものである。より高い充填レベルでは、対応するポリマー材料の機械的特性は、許容できない程損なわれる。一例によれば、特に、ケーブル絶縁に重要な引張強さ、破壊時引張ひずみで許容できない程の減少がある。そのため、他の難燃剤(特にリンを含むもの)を添加することが有利である。ポリウレタンが、少なくとも1種の他の難燃剤を含む場合は、金属水酸化物の量は、好ましくは10質量%以上65質量%以下、より好ましくは20質量%以上50質量%以下、より好ましくは25質量%以上40質量%以下である。重ねて、この質量割合は、難燃剤及び任意に触媒を含み、添加剤及び/又は助剤無しの、難燃性の熱可塑性ポリウレタンに対するものである。
【0014】
好ましい金属水酸化物は、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化水酸化アルミニウム、それらについての混合物である。1の好ましい混合物は、水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムである。他の好ましい金属水酸化物は、水酸化アルミニウム、酸化水酸化アルミニウム、それらについての混合物である。特に好ましい例は、水酸化マグネシウム又は水酸化アルミニウムであり、水酸化アルミニウムが非常にとりわけ好ましい。
【0015】
金属水酸化物の比表面積は、通常2m/g以上150m/g以下であるが、該表面積は2m/g以上9m/g以下が好ましく、より好ましくは3m/g以上8m/g以下、特に好ましくは3m/g以上5m/g以下である。
【0016】
比表面積は、窒素を用い、DIN ISO 9277:2003−05に従って、BET法により測定される。
【0017】
<被覆材料>
本発明では、少なくとも金属水酸化物の表面をある程度囲む被覆が存在する。これに関する他の表現は「少なくとも一部(ある程度、some extent)が被覆」である。被覆は、多用される表現「表面処理」と等しい。被覆は、金属水酸化物に上に、インターロック効果(interlock effect)により若しくはファンデルワールス力により純粋に物理的に接着し、又は、金属水酸化物に対する化学的結合を有する。これは、主に、共有結合の相互作用によりなされる。
【0018】
被包部周囲に被覆を付与する表面処理又は表面改質は、金属水酸化物、特に水酸化アルミニウムの場合、文献に詳細が開示されている。「Particulate−Filled Polymer Composites」、(第2版)、Rothon、Roger N.編集、Smithers Rapra Technology 2003年、は、好ましい材料と、被覆技術を開示した基本的な参照研究である。第4章は特に関連性がある。適切な材料は、例えば、共にドイツ国の、SchwandorfのNabaltec社、 BergheimのMartinswerkeから商業的に利用可能である。
【0019】
好ましい被覆材料は、酸機能(acid function)を用いた飽和又は不飽和ポリマーであって、金属水酸化物の表面に対し特に良好な付着性があるので、当該酸機能として少なくとも1種のアクリル酸を又は1種の無水物(好ましくは無水マレイン酸)を用いることが好ましい。そのポリマーは、1種類のポリマーまたはポリマー混合物を含み、好ましくは1種類のポリマーを含むものである。好ましいポリマーは、モノ‐及びジオレフィンのポリマー;それらの混合物;モノ‐及びジオレフィンの互いの若しくは他のビニルモノマーとの共重合体;又は、ポリスチレン、若しくはポリ(p‐メチルスチレン)、若しくは、ポリ(アルファ‐メチルスチレン)であり、又は、スチレン若しくはアルファ‐メチルスチレンと、ジエン若しくはアクリル誘導体との共重合体であり、スチレン若しくはアルファ‐メチルスチレンのグラフト重合体であり、又は、ハロゲン含有ポリマー;アルファ‐若しくはベータ‐不飽和酸から、及び、それらの誘導体から生成されるポリマーであり、又は、それらのモノマーの互いの若しくは他の不飽和モノマーとの共重合体である。
【0020】
同様に好ましい被覆材料は、単量体の有機酸とそれらの塩、好ましくは飽和脂肪酸であり;不飽和酸はあまり通常使用されない。好ましい脂肪酸は、10以上30以下の炭素原子、好ましくは12以上22以下の炭素原子、特に16以上20以下の炭素原子を含み、脂肪族化合物で、好ましくは二重結合を持たないものである。ステアリン酸がとりわけ好ましい。
【0021】
好ましい脂肪酸誘導体は、それらの塩であり、好ましくはカルシウム、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛の塩である。特に好ましいのは、カルシウムの塩であり、特に、ステアリン酸カルシウムの形態である。
【0022】
<オルガノシラン化合物>
金属水酸化物(好ましくは水酸化アルミニウム)の周囲に被覆を形成する他の好ましい物質は、下記構造を持つオルガノシラン化合物である。
【0023】
(R)4−n---Si---X
(nは1、2又は3である)
【0024】
Xは、カップリング基とも称することができる、金属水酸化物の表面と反応する加水分解性基である。部位Rが炭化水素部位であり、その選択は、オルガノシラン化合物がTPUと良好な混和性を持つようなものであることが好ましい。
【0025】
部位Rは、加水分解的に安定な炭素‐ケイ素結合による、ケイ素に対する結合を持ち、反応性又は不活性となりうる。好ましくは不飽和炭化水素部位である反応性部位の例は、アリル部位である。部位Rが不活性であることが好ましく、2以上30以下の炭化原子、好ましくは6以上20以下の炭素原子、特に好ましくは8以上18以下の炭素原子を持つ飽和炭化水素部位がより好ましく、分枝鎖又は鎖状脂肪族炭化水素部位がより好ましい。
【0026】
オルガノシラン化合物が、1つの部位Rのみを含み、下記一般式を持つことがより好ましい。
【0027】
R---Si---(X)
【0028】
カップリング基Xが、ハロゲン(好ましくは塩素)であり、カップリング剤(reagent)が、従って、トリ‐、ジ‐、又はモノクロロシランであることが好ましい。カップリング基Xがアルコキシ基(好ましくはメトキシ基又はエトキシ基)であることも同様に好ましい。
【0029】
その部位が、好ましくはメトキシカップリング基又はエトキシカップリング基を用いたヘキサデシルラジカルであり、それゆえ、オルガノシランがヘキサデシルシランであることが非常に好ましい。
【0030】
金属水酸化物に付着させる(塗布する)シランの量は、金属水酸化物の全量に対し、0.1質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上1.5質量%以下、特に好ましくは約1質量%である。
【0031】
金属水酸化物に付着させるカルボン酸とカルボン酸誘導体の量は、金属水酸化物の全量に対し、0.1質量%以上5質量%以下、より好ましくは1.5質量%以上5質量%以下、特に好ましくは3質量%以上5質量%以下である。
【0032】
被覆で少なくとも一部が覆われた金属水酸化物の50%を超え、好ましくは70%を超え、より好ましくは90%を超えるもの(好ましくは粒子状)の最大寸法が、10μm未満、好ましくは5μm未満、特に3μm未満であることが好ましい。同時に、少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも90%の粒子の、少なくとも1の最大寸法が、0.1μmを超え、より好ましくは0.5μmを超え、特に好ましくは1μmを超えることである。
【0033】
本発明の熱可塑性ポリウレタンの製造に、予め被覆された金属水酸化物を用いることが好ましい。これが、熱可塑性ポリウレタンの組成成分と被覆材料との望ましくない副反応を防止する最適な方法であり、熱可塑性ポリウレタンの酸化劣化を防止する効果を付与する特に効果的な方法である。金属水酸化物の被覆は、より好ましくは、ポリウレタンが押出機の下流部で添加される前に、押出機の送り領域(feed region)で行われる。
【0034】
<P‐酸誘導体>
一実施形態では、熱可塑性ポリウレタンは、少なくとも1種のリン含有難燃剤を含有する。
【0035】
これらの材料は、好ましくは、リン酸、ホスホン酸(亜リン酸)又はホスフィン酸の誘導体である。前記誘導体は、有機若しくは無機カチオンの塩、又は、有機エステルであることが好ましい。有機エステルは、リンに直接結合した少なくとも1つの酸素原子が、有機部位を用いてエステル化したリン含有酸の誘導体である。好ましい一実施形態では、有機エステルはアルキルエステルであり、他の好ましい実施形態ではアリールエステルである。対応するリン含有酸の水酸基の全てがエステル化されていることが特に好ましい。
【0036】
有機リン酸エステル、特に、アルキルリン酸エステル等のリン酸のトリエステルが好ましく、特にはリン酸トリアリール、例えばリン酸トリフェニルが好ましい。
【0037】
TPU用に本発明で使用する好ましい難燃剤は、一般式(I)のリン酸エステルである。
【0038】
【化1】
【0039】
ここで、Rは非置換又は置換されたアルキル、シクロアルキル又はフェニル基であり、nは1以上15以下である。
【0040】
一般式(I)のRがアルキル部位である場合は、特に使用可能なアルキル部位は、1以上8以下の炭素原子を持つものである。シクロヘキシル部位は、シクロアルキル基の一例として言及されるであろう。Rがフェニル又はアルキル置換フェニルである、一般式(I)のリン酸エステルを使用することが好ましい。一般式(I)のnは、特に1又は好ましくは約3〜6の範囲にある。一般式(I)の好ましいリン酸エステルについて言及される例は、ビス(ジフェニル)1,3‐フェニレン‐ホスフェート、ビス(ジキシレニル)1,3‐フェニレンホスフェート、そしてまた対応するオリゴマー生成物(平均オリゴマー化度 n=3〜6)である。好ましいレソルシノールは、通常、オリゴマー中に存在するレソルシノールビス(ジフェニルホスフェート)(RDP)である。
【0041】
他の好ましいリン含有難燃剤は、通常オリゴマーとして存在するビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)(BDP)と、ジフェニルクレシルホスフェート(DPC)である。
【0042】
有機ホスホン酸は、有機又は無機カチオンの塩、または、ホスホン酸のエステルである。好ましいホスホン酸のエステルは、アルキル−又はフェニルホスホン酸のジエステルである。本発明で難燃剤として使用されるホスホン酸エステルとして言及される例は、一般式(II)のホスホネートである。
【0043】
【化2】
【0044】
ここで;
は、非置換若しくは置換アルキル、シクロアルキル又はフェニル基であり、2つの部位Rは互いに環状結合を持つことも可能であり、そして、
は、非置換又は置換アルキル、シクロアルキル又はフェニル部位である。
【0045】
特に好ましい化合物は、ここでは、環状ホスホネート(ホスホン酸塩、ホスホン酸エステル)などである。
【0046】
【化3】
【0047】
ここで、RはCH及びCであり、これらはペンタエリスリトールから誘導され、又は、
【化4】
ここで、RはCH及びCであり、これらはネオペンチルグリコールから誘導され、又は、
【化5】
ここで、RはCH及びCであり、これらはピロカテコールから誘導され、そしてまた、
【化6】
ここでは、Rは非置換又は置換フェニル部位である。
【0048】
ホスフィン酸エステル(Phosphinic ester)は、一般式がR(P=O)ORであり、3つの有機基R、R及びRの全てが同じであっても異なってもよい。部位R、R及びRは、脂肪族又は芳香族のいずれでもよく、1以上20以下の炭素原子を持ち、好ましくは1以上10以下、より好ましくは1以上3以下の炭素原子を持つ。少なくとも1つの部位が脂肪族であることが好ましく、全ての部位が好ましくは脂肪族であり、非常に好ましくはR及びRがエチル部位である。より好ましくは、Rもまたエチル部位又はメチル部位である。一実施形態では、R、R及びRが、一斉にエチル部位又はメチル部位である。
【0049】
ホスフィン酸の塩のようなホスフィナートがまた好ましい。部位R及びRは、脂肪族と芳香族のいずれでもよく、1以上20以下の炭素原子を持ち、好ましくは1以上10以下、より好ましくは1以上3以下の炭素原子を持つ。好ましくは、少なくとも1つの部位が脂肪族であり、全ての部位が脂肪族であることが好ましく、非常に好ましくは、R及びRがエチル部位である。好ましいホスフィン酸の塩は、Al、Ca及び/又はZn塩である。アルミニウムジエチルホスフィナートが好ましい実施形態である。
【0050】
リン含有難燃剤と、それらの塩及び/又はそれらの誘導体とは、別々の物質として、または、混合物として使用される。好ましい難燃剤系の他の特徴は、全難燃剤に対するリン含有量が、5質量%より多く、より好ましくは7質量%よりも多いことである。同時に、リン含有難燃剤の量は、30質量%未満であり、好ましくは20質量%未満、特に好ましくは15質量%未満である。
【0051】
ホスフェート含有酸のエステル及び/又は塩は、複数又は1種類の金属水酸化物と一緒に、好ましくは単独で又は互いの混合物として使用される。ここで、1の金属水酸化物は、好ましくは、水酸化アルミニウムである。ここで使用される化合物は、複数のリン酸エステル、ホスホン酸エステル、ホスフィン酸エステル、若しくはこれらの塩を含むか、あるいは、それぞれ1種以上のリン酸エステル、ホスホン酸エステル、若しくはホスフィン酸エステル、それらの塩を含み、互いに混合することも可能であり、同じ組成物中にここでは付加的に金属水酸化物が存在し、その金属水酸化物は、好ましくは水酸化アルミニウム、酸化水酸化アルミニウム若しくは水酸化マグネシウム、又は、これらの水酸化物の混合物であり、特に好ましくは水酸化アルミニウムである。更に、熱可塑性ポリウレタンを原料とする本発明の組成物は、ハイドロタルサイト及び/又はフィロシリケートも含有し、これらは有機的にインターカレートされている(有機層間)。
【0052】
通常オリゴマー体のレソルシノールビス(ジフェニルホスフェート)(RDP)と、水酸化アルミニウムとの組み合わせ、及び、フィロシリケート及び/又はハイドロタルサイトとの組み合わせが特に好ましい(好ましくは有機的に挿入:インターカレートされたもの)。多様な難燃剤の組み合わせが、各要求についての機械的特性と難燃性特性とを最適化する。
【0053】
本発明は、リン酸エステル(phosphoric ester)、ホスホン酸エステル(phosphonic ester)及び/又はホスフィン酸エステル(phosphinic ester)及び/又はこれらの塩を、TPU用の難燃剤としての少なくとも1種の金属水酸化物と共に混合物中で使用し、その上、使用するリン酸エステル(ホスフェートエステル、phosphate ester)、ホスホン酸エステル(phosphonate ester)、ホスフィン酸エステル(phosphinate ester)の質量の合計の、金属水酸化物に対する質量比は、好ましくは1:5〜1:2の範囲にある。
【0054】
難燃性の熱可塑性ポリウレタンが、少なくとも、更なる成分として、少なくとも部分的に被覆された金属水酸化物、少なくとも1種のホスフェート(リン酸エステル)含難燃剤、及び少なくとも1種のフィロシリケート及び/又はハイドロタルサイトを含有する一実施形態では、ポリウレタン中で、その全体が難燃剤としても定義される、前記成分の質量割合(質量%)の合計は、ポリウレタンに対し、10質量%以上80質量%以下であり、当該ポリウレタンは、助剤や添加剤の添加なしに、少なくとも1種のジイソシアネート、イソシアネートに対し反応性(活性)の少なくとも1種の物質、好ましくは少なくとも1種の鎖延長剤、及び任意に少なくとも1種の触媒を主な材料(ベース)とする。前記成分の前記合計は、より好ましくは25質量%以上70質量%以下、より好ましくは40質量%以上60質量%以下、特に好ましくは45質量%以上55質量%以下である。
【0055】
組成物の成分についての他の質量データの全ても同様に、通常、更なる添加及び/又は助剤なしの、ポリウレタンに基づくものである。
【0056】
材料が上記難燃剤を三種含有する場合、少なくとも1種のリン含有難燃剤の含有される量が3質量%以上30質量%以下、より好ましくは5質量%以上20質量%以下、特に好ましくは8質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。
【0057】
同時に、少なくとも1種の金属水酸化物が含有される量が、ポリウレタンに対し、好ましくは10質量%以上65質量%以下であり、より好ましくは15質量%以上50質量%以下であり、特に好ましくは25質量%以上40質量%以下である。
【0058】
フィロシリケート及び/又はハイドロタルサイトの含有される量は、更に、0.5質量%以上20質量%以下、好ましくは3質量%以上15質量%以下、特に好ましくは3質量%以上8質量%以下である。少なくとも1種のリン含有難燃剤:金属水酸化物:フィロシリケート及び/又はハイドロタルサイトの質量部比が、9対34対5であることがより好ましい。
【0059】
他の好ましい実施形態では、リン含有難燃剤が21℃で液体である。
【0060】
<フィロシリケート>
フィロシリケートは、層状シリケートとも称する。2層鉱物としては、特に、カリオナイトと蛇紋岩(serpentine)、3層鉱物としては、特にモンモリロナイト、そしてまたマイカ(micas)がある。粘度鉱物も重要なフィロシリケートであって、ベントナイトが好ましく使用される。
【0061】
他の好ましい実施形態では、インターカレートされたフィロシリケート(intercalated phyllosilicate、層間フィロシリケート)が使用される。この層間フィロシリケートのための出発フィロシリケートは、好ましくは、膨潤性スメクタイト(モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト、バイデライト及びベントナイトなど)である。
【0062】
それらが、約1.5nm〜4nmの層間隔をもつ有機的にインターカレートされたフィロシリケート(有機層間フィロシリケート)であることがより好ましい。前記フィロシリケートは、好ましくは、第4級アンモニウム化合物、プロトン化アミン、有機ホスホニウムイオン及び/又はアミノカルボン酸がインターカレートされている。
【0063】
<ハイドロタルサイト>
ハイドロタルサイトは、フィロシリケートの代わりに、及び/又は、それとの混合物中で使用される。ハイドロタルサイトもまた、層構造を持つ。用語ハイドロタルサイトも、コンバライナイト(comblainite)、デゾーテルス石(desautelsite)、パイロオーロ石(pyroaurite)、リーブス石(reevesite)、セルギーバイト(sergeevite)、スチヒ石(stichtite)及びタコバイト(takovite)をも包含する。ある好ましいハイドロタルサイトは、アルミニウム及びマグネシウムを主とし、介在層(中間層、intervening layer)中で、水酸化物、硝酸及び/又は炭酸イオンで中性化されたものである。好ましいハイドロタルサイトは、下記分子式を持つ。
【0064】
MgAl[(OH)16|CO]・4H
【0065】
ハイドロタルサイトは、好ましくは、有機的にインターカレートされた材料(有機層間材料)であって、すなわち、介在層中にあるアニオン(好ましくは水酸化物アニオン)が有機アニオンにより少なくともある程度まで交換される。脂肪酸及び/又は水添脂肪酸が好ましい。
【0066】
有機インターカレーションが加工性を改善する。フィロシリケート及び/又はハイドロタルサイトの分散は、熱可塑性ポリウレタンとの混合においてより均一である。
【0067】
<熱可塑性ポリウレタン(TPU)>
熱可塑性ポリウレタンは、長期に亘って公知であった。それらは、成分:(a)イソシアネートと、(b)イソシアネートに対し反応性で、数平均モル質量が0.5×10g/mol以上0.1×10g/mol以下の化合物と、任意に、(c)モル質量が0.05×10g/mol以上0.499×10g/mol以下の鎖延長剤とを、任意に少なくとも1種の(d)触媒及び/又は(e)通常の助剤及び/又は添加剤の存在下で反応させ、製造される。製造工程は、下記明細書に見出すことができる:EP0922552、DE10103424、WO2006/072461。
【0068】
成分(a)イソシアネート、(b)イソシアネートに対し反応性の化合物、(c)鎖延長剤もまた、個別に又は一緒に構成成分として定義される。
【0069】
製造工程では、ベルトシステムまたは反応押出機を使用する。各成分の特性の機能としては、これらは全て直接互いに混合され、又は、重付加反応に取り込まれる前に、個別の成分を予め混合(premixed)及び/又は予め反応(prereacted)等することでプレポリマーを生成する。他の実施形態では、熱可塑性ポリウレタンは、先ず、任意に触媒を用いて構成成分から生成され、助剤が、任意に、次いで前記材料に添加可能である。少なくとも1種の難燃剤が、次いで、この材料に導入され、均質に分散される。均質分散工程は、好ましくは、押出機(好ましくは二軸押出機)で行われる。
【0070】
TPUの硬度を調整するために、構成成分(b)及び(c)の使用量は、モル比が比較的広い範囲で変更可能であり、硬度は、ここでは、鎖延長剤(c)の量の増加に伴い上昇する。
【0071】
例えば、ショアA硬度が95よりも小さい、好ましくはショアAが95〜75、特に好ましくは約85AのTPUを製造するためには、本質的に、二官能性ポリヒドロキシ化合物(b)と鎖延長剤(c)は、具体例としては好適に、1:1から1:5まで、好ましくは1:1.5から1:4.5のモル比で使用可能であり、その結果、構成成分(b)及び(c)の得られた混合物のヒドロキシ当量は、200より大きく、特に230以上450以下になり、一方で、より硬いTPU(例:ショアA硬度が98を超え、好ましくはショアDが55以上75以下)を製造するために、(b)〜(c)のモル比は1:5.5から1:15までの範囲、好ましくは1:6から1:12までであり、その結果、(b)及び(c)の得られた混合物のヒドロキシ当量は、110以上200以下、好ましくは120以上180以下になる。
【0072】
好ましいポリオールはポリエーテルであり、エーテルはより好ましくはポリテトラヒドロフラン(PTHF)である。
【0073】
本発明のTPUを製造するためには、ジイソシアネート(a)のNCO基の、構成成分(b)及び(c)の水酸基全体に対する当量比が、0.9〜1.1:1、好ましくは0.95〜1.05:1、特に約0.96〜1.0:1になるような量で、好ましくは触媒(d)と、任意に助剤及び/又は添加剤の存在下で、構成成分(a)、(b)及び(c)を反応させる。
【0074】
一実施形態では、TPU及び難燃剤は、単一工程(単一作業)で製造される。
【0075】
他の好ましい実施形態では、反応押出機、ベルトシステム、或いは他の好ましい装置が、先ずTPU(好ましくは細粒材料の態様で)を製造するために使用され、そのTPUに少なくとも1つの更なる工程(作業)で、さもなければ、複数の工程(作業)で、 少なくとも一部(ある程度が)被覆で覆われた金属水酸化物である、少なくとも1種の更なる難燃剤が導入される。
【0076】
熱可塑性ポリウレタンと、少なくとも1種の金属水酸化物、及び任意に少なくとも1種のリン含有難燃剤、任意にまた少なくとも1種のフィロシリケート及び/又はハイドロタルサイトとの混合は、混合装置で行われ、その混合装置は、好ましくは、インターナルミキサー又は押出機であり、好ましくは二軸押出機である。金属水酸化物は、好ましくは水酸化アルミニウムである。
【0077】
一実施形態では、少なくとも1の更なる工程(作業)で混合装置へ導入される少なくとも1種の難燃剤は、液状(例えば、21℃の温度で液状)である。押出機の使用の他の好ましい実施形態では、押出機中の内容物の流れ方向において、供給点よりも高い(prevails behind the feed point)温度で導入される難燃剤が液体である。
【0078】
本発明では、数平均モル質量が少なくとも0.02x10g/mol、好ましくは少なくとも0.06x10g/mol、特に0.08x10g/molよりも多いTPUを製造することが好ましい。TPUの数平均モル質量の上限は、非常に頻繁に、加工性、そしてまた所望の特性性能により決定付けられる。同時に、本発明におけるTPUの数平均モル質量は、約0.2x10g/mol、好ましくは0.15x10g/molを超えない。
【0079】
使用される好ましい有機イソシアネート(a)は、脂肪族、脂環式、芳香族脂肪族(araliphatic)及び/又は芳香族のイソシアネート、より好ましくは、トリ‐、テトラ‐、ペンタ‐、ヘキサ‐、ヘプタ‐及び/又はオクタメチレンジイソシアネート、2‐メチルペンタメチレン1,5‐ジイソシアネート、2‐エチルブチレン1,4‐ジイソシアネート、ペンタメチレン1,5‐ジイソシアネート、ブチレン1,4‐ジイソシアネート、1‐イソシアナート−3,3,5−トリメチル‐5‐イソシアナートメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート、IPDI)、1,4‐及び/又は1,3−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン(HXDI)、シクロヘキサン1,4−ジイソシアネート、1-メチルシクロヘキサン2,4-及び/又は2,6-ジイソシアネート、及び/又はジシクロヘキシルメタン4,4’−、2,4’及び2,2’‐ジイソシアネート、ジフェニルメタン2,2’‐、2,4’‐及び/又は4,4’−ジイソシアネート(MDI)、ナフチレン1,5−ジイソシアネート(NDI)、トルエン2,4‐及び/又は2,6‐ジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’‐ジメチル−ジフェニルジイソシアネート、1,2‐ジフェニルエタンジイソシアネート及び/又はフェニレンジイソシアネートである。特に、4,4’MDIを使用することが好ましい。
【0080】
イソシアネートに対し反応性の化合物(b)としては、ポリエステロール又はポリエーテルオールを使用することが好ましく、総称「ポリオール」もまたはこれら化合物のために通常使用される。前記ポリオールの数平均モル質量は、0.5×10g/mol以上8×10g/mol以下、好ましくは0.6×10g/mol以上5×10g/mol以下、特に0.8×10g/mol以上3×10g/mol以下である。ポリオールの平均官能性(functionality、官能基数)は、好ましくは1.8以上2.3以下、より好ましくは1.9以上2.2以下、特に2である。ポリオール(b)が第1級水酸基のみを持つことが好ましい。より好ましくは、ポリオールがポリエーテルオールであり、非常に好ましくはポリテトラヒドロフラン(PTHF)である。
【0081】
使用する鎖延長剤(c)は、好ましは、脂肪族、芳香族脂肪族、芳香族及び/又は脂環式化合物であって、モル質量が0.05kg/mol以上0.499kg/mol以下の、好ましくは2官能性化合物である。そのような2官能性化合物は、例えば、アルキレン単位中の炭素原子数が2以上10以下のアルカンジオール及び/又はジアミン、炭素原子数が3以上8以下のジ‐、トリ‐、テトラ‐、ペンタ‐、ヘキサ‐、ヘプタ‐、オクタ‐、ノナ‐及び/又はデカアルキレングリコール、特に、エチレン1,2−グリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、並びに、好ましくは対応するオリゴ‐及び/又はポリプロピレングリコールである。また、これら鎖延長剤の混合物を使用することもここでは可能である。鎖延長剤とも称する化合物(c)が、第1級水酸基のみを持つことが好ましく、特に好ましいのは1,4−ブタンジオールである。
【0082】
好ましい一実施形態では、特に、イソシアネート(a)のNCO基と、鎖延長剤(c)及びイソシアネートに対し反応性の化合物(b)の水酸基との間の反応を促進する触媒(d)は第三級アミンであって、特に、トリエチルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、N−メチルモルホリン、N,N‘‐ジメチルピペラジン、2−(ジメチルアミノ−エトキシ)エタノール、ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンである。そして、他の好ましい実施形態では、これらは、有機金属系化合物であって、例えば、チタン酸エステル(titanic esters)、鉄化合物、好ましくはアセチルアセトン鉄(III)、錫化合物、好ましくは錫二酢酸、錫ジオクトエート、錫ジラウレート、又は、脂肪族カルボン酸の錫ジアルキル塩、好ましくは、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、又は、ビスマス塩(ビスマスが好ましくは酸化状態2又は3、特に3となる)である。カルボン酸の塩が好ましい。使用するカルボン酸は、好ましくは、炭素原子数が6以上14以下、特に8以上12以下のカルボン酸である。好適なビスマス塩の例は、ネオドデカン酸ビスマス(III)(bismuth (III) neodecanoate)、2‐エチルヘキサン酸ビスマス(bismuth 2−ethylhexanoate)及びオクタン酸ビスマス(bismuth octanoate)である。
【0083】
触媒の好ましい使用量は、イソシアネートに対し反応性の化合物(b)100質量部当たり、0.0001質量部以上0.1質量部以下である。錫触媒、特に錫錫ジオクトエートを使用することが好ましい。
【0084】
触媒(d)と共に、従来使用されている助剤(e)を、構成成分(a)〜(c)に添加することも可能である。上述したこれらの例は、表面活性物質(表面活性剤)、フィラー、難燃剤、核剤、酸化安定剤、潤滑剤及び離型剤、染料及び顔料、並びに、任意に、加水分解、光、熱又は退色に関する他の安定剤、無機及び/又は有機フィラー、補強剤、並びに、可塑剤である。 好ましい助剤及び添加剤は、例えば、プラスチックハンドブック(Plastics Handbook)、VII巻、Vieweg及びHoechtlen著、カールハンサー出版、ミュンヘン、1966年(103〜113頁)に開示されている。
【0085】
特に好ましい熱可塑性ポリウレタンの一例は、ジフェニルメタン2,2’‐、2,4’‐及び/又は4,4’−ジイソシアネート(MDI)、好ましくはジフェニルメタン4,4’‐ジイソシアネートから、鎖延長剤1,4‐ブタンジオール、及び数平均モル質量が1×10g/molのポリテトラヒドロフラン(PTHF)から製造される材料である。前記熱可塑性ポリウレタンは、好ましくは、重合触媒錫ジオクタエートを用いて製造される。
【0086】
本発明は、本発明の難燃性熱可塑性ポリウレタン(TPU)を使用する方法、又は、被覆、減衰要素(damping elements)、折り畳みベローズ(folding bellows)、薄片若しくは繊維、型(molding)、建物及び輸送機関用の敷物地、「不織布」生地、そして好ましくは、ガスケット、ローラー、靴底、ホース、ケーブル、ケーブルプラグ、ケーブル外装、緩衝材、積層品、設計形(プロファイル、profile)、駆動ベルト、サドル、発泡体、プラグコネクタ、牽引ケーブル(drag cables)、太陽モジュール、ワイパーブレード、並びに、自動車のクラッディングを製造するための難燃性組成物を使用する方法を提供する。好ましくは、ケーブル外装のために使用する。好ましくは細粒材料からの製造工程は、射出成形、カレンダリング、パウダーセンタリング(powder centering)若しくは押出、及び/又はTPUの追加的発泡を利用する。
【0087】
本発明は、ポリウレタン、好ましくは熱可塑性ポリウレタン中の難燃剤として、少なくともある程度が被覆で覆われた金属水酸化物を含有する混合物の使用を提供する。金属水酸化物は、好ましくは、酸化マグネシウム、酸化水酸化アルミニウム及び/又は水酸化アルミニウム、より好ましくは酸化水酸化アルミニウム及び/又は水酸化アルミニウム、特に好ましくは水酸化アルミニウムである。混合物は、更に、少なくとも1種のリン含有難燃剤を含み、該難燃剤は、リン酸、ホスホン酸及び/又はホスフィン酸の誘導体であり、特に好ましくは、レソルシノールビス(ジフェニルホスフェート)(RDP)である。
【0088】
本発明の他の実施形態は、請求項及び実施例中に見出すことができる。目的物/工程/本発明の使用についての上記特徴と、以下で説明するそれらの特徴は、当然に、それぞれ述べた組み合わせだけではなく、本発明の範囲を超えない限度で、他の組み合わせにおいても使用可能である。
【0089】
例えば、特に好ましい特徴と好ましい特徴との組み合わせ、又は、更に特徴付けられないある特徴と、特に好ましい特徴との組み合わせ等も、前記組み合わせが明確に言及されなくても、暗に含まれる。
【0090】
下記実施例は本発明を説明するものではあるが、本発明に係る構想に関し、いかなる場合も特に限定するものではない。
【実施例】
【0091】
被覆金属水酸化物粒子を伴う本発明の組成物の改良された耐老化性を、実施例を用いて以下に説明する。
【0092】
<実施例1(出発材料)>
Elastollan 1185A10:49448 レムフェルデ エラストグランシュトラッセ 60、BASFポリウレタン社製の、ポリテトラヒドロフラン(PTHF)1000、1,4−ブタンジオール及びMDIを原料とするTPU(ショア硬度85A)
【0093】
Martinal OL 104 LEO:50127 ベルクハイム ケルナーシュトラッセ110、Martinswerk社製の被覆なしの水酸化アルミニウム、Al(OH)含有量(%)が約99.4、粒子サイズ(レーザー散乱、シーラス)[μm]D50:1.7以上2.1以下;比表面積(BET) [m/g]:3以上5以下
【0094】
Apyral 40 CD:D−92421 シュヴァンドルフ アウストラッセ50−52、Nabaltec社の被覆無しの水酸化アルミニウム、Al(OH)含有量(%)約99.5、粒子サイズ(レーザー散乱)[μm]D50:1.3、比表面積(BET) [m/g]:3.5
【0095】
Apyral 40 HS1:D−92421 シュヴァンドルフ アウストラッセ50−52、Nabaltec社の、約1%のヘキサデシルシランを原料とする疎水性表面被覆水酸化アルミニウム、Al(OH)含有量(%)約99.5、粒子サイズ(レーザー散乱)[μm]D50:1.4、比表面積(BET)[m/g]:3.5
【0096】
Magnifin H5 MV:50127 ベルクハイム ケルナーシュトラッセ110、Martinswerk社製の疎水性表面被覆水酸化マグネシウム、Mg(OH)含有量(%)>99.8、粒子サイズ(レーザー散乱)[μm]D50:1.6以上2以下、比表面積(BET)[m/g]2以上5以下
【0097】
Nanofil 15:D−85368 モースブルク シュタットヴァルトシュトラッセ44、Rockwood Clay Additives社の有機変性ナノ分散フィロシリケート(天然ベントナイトを原料とする)、粉末、D50平均粒サイズ=40μm、すなわち、少なくとも50%の粒子が40μm未満。
【0098】
Fyrolflex RDP:レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、CAS#:125997−21−9、オランダ3821 AE アーメルスフォールト フフセ通り1、Office Park De Hoef、Supresta Netherlands社製
【0099】
<実施例2(老化耐性)>
酸化老化耐性を評価するため、テスト標本を熱対流炉内で113℃7日間及び121℃7日間老化させた後に、機械的パラメーターを測定する。下記表2、3は、その結果を集めたものである。
【0100】
<実施例3(組成)>
下記表は、既に述べた個別出発材料の質量%の組成を示す。各場合で、混合物は、ZE40A二軸押出機中で製造した。この二軸押出機は、Berstorff社製で、スクリュー長さが35D、10個の胴部に分割されている。次いで、混合物を、Arenz単軸押出機を用いて押し出した。この単軸押出機は、厚さ1.6mmの箔を生成する、混合部(スクリュー比1:3)を備えた3ゾーンスクリューを備えている。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】
【0104】
混合物1及び2は、被覆無しの金属水酸化物を使用した比較例である。
【0105】
混合物3〜5は、本発明であって、被覆金属水酸化物を使用すると、加熱処理による強度減少を顕著に低減する、すなわち、酸化老化耐性を顕著に改善することを示す。本発明のこの効果は、混合物が、被覆金属水酸化物に加え、リン酸エステル及びフィロシリケートも含有する場合にもまた明白である。
【0106】
<実施例4(難燃性)>
難燃性の熱可塑性ポリウレタン(TPU)が、更なる材料として、少なくとも部分的に被覆された金属水酸化物、少なくとも1種のホスフェート含有難燃剤及び少なくとも1種のフィロシリケート及び/又はハイドロタルサイトとを少なくとも含む実験3の本発明実施形態の非常に良好な難燃性を示すために、同様に実験6との比較を行った。実験6の組成を下記表4に示す。
【0107】
【表4】
【0108】
難燃性評価のため、ISO 5660 パート1及びパート2(2002−12)に従い、コーンカロリーメータ中で、厚さ5mmのテスト標本を、強度35kW/mの照射と平行にして試験した。
【0109】
寸法が200×150×5mmのコーン測定用のテスト標本を、スクリュー直径30mm、ゾーン1〜ゾーン3:180℃、ゾーン4〜ゾーン6:185℃のArburg 520Sで射出成形した。シートを次いでコーン測定に必要なサイズに切断した。
【0110】
【表5】
【0111】
ペトレッラ(Petrella R.V.、コーンカロリーメータデータからのフルスケール火災危険の評価、ジャーナルオブファイアサイエンス、12(1994)、14頁)によれば、熱放出速度のピークと着火時間から計算される指数は、関連する材料が急激に炎を成長させるのに寄与する尺度である。全熱放出は、更に、関連する材料が長期間炎を形成するのに寄与する尺度である。
【0112】
実験番号3及び4のコーンカロリーメータ測定の結果は、図1のペトレッラプロットで図表として描かれている。急激に炎を成長させるのに寄与する材料の傾向(PHRR/tig)は、ここではx軸上に単位[kW/ms]でプロットされている。長期間の炎に寄与する材料の傾向(THR)が、y軸方向に単位[MJ/m]でプロットされている。難燃性の値が良好な材料は、ここでは、最小x及びy値を示す。実験3及び6の結果を表5に示した。
図1