特許第6289944号(P6289944)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6289944
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】量子ドット分散液
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/20 20060101AFI20180226BHJP
【FI】
   H01G9/20 113Z
   H01G9/20 113D
   H01G9/20 111B
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-51229(P2014-51229)
(22)【出願日】2014年3月14日
(65)【公開番号】特開2015-176956(P2015-176956A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2017年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】長久保 準基
(72)【発明者】
【氏名】平川 正明
(72)【発明者】
【氏名】永田 智啓
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕彦
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/075229(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G
H01M
H01L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子ドット増感型太陽電池の光電極の半導体層に量子ドットを吸着させるために用いる量子ドット分散液において、
半導体層に吸着される配位子が配位した量子ドットと、4.75以下の塩基解離定数pKbを有する水酸化物と、極性溶媒とを含み、
前記水酸化物が、前記配位子の2〜10倍のモル量で添加され、
前記配位子が、チオグリコール酸のアニオンであることを特徴とする量子ドット分散液
【請求項2】
記水酸化物が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム及び水酸化テトラブチルアンモニウムから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の量子ドット分散液
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドット増感型太陽電池用光電極の半導体層に量子ドットを吸着させるために用いる量子ドット分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代の太陽電池として、現在主流のシリコン結晶型太陽電池と比べて理論上の光電変換効率が高い量子ドット増感型太陽電池が有望視されている。量子ドット増感型太陽電池は、光電極と対向電極とを電解質層を介して対向させてなり、光電極は、基板表面に透明電極層を形成し、透明電極層表面に光電変換材としての半導体層を形成し、半導体層の表面に増感材としての量子ドットを吸着させることにより作製される。
【0003】
ここで、量子ドットを吸着させる方法として、量子ドットを分散させた量子ドット分散液に、半導体層を形成した基板を浸漬させる方法が一般に知られている。量子ドットは、その分散性を高めるために長鎖アルキル基を有する界面活性剤で被覆され、溶媒に分散している。このため、半導体層に吸着した量子ドットの表面には、長鎖アルキル基を有する配位子が不可避的に付着する。長鎖アルキル基は、電解質層から量子ドットへの電子の注入を阻害するため、長鎖アルキル基が付着したまま光電極として適用すると、量子ドット増感型太陽電池の光電変換効率の低下を招く。従って、光電極の作製段階で、長鎖アルキル基を除去する必要がある。
【0004】
量子ドットから長鎖アルキル基を除去する方法は、例えば非特許文献1で提案されている。このものでは、量子ドットに配位した長鎖アルキル基を3−メルカプトプロピオン酸(以下「MPA」という)に置換(交換)する。そして、配位子置換した量子ドットを半導体層に吸着させることにより、量子ドット増感型太陽電池の光電変換効率を向上させることができる。
【0005】
然し、上記分散液は、数日経過すると、分散液中の量子ドットが凝集して沈殿してしまうことが判明した。一旦凝集した量子ドットは半導体層に吸着させることはできないため、量子ドットが凝集した分散液は廃棄しなければならず、生産コストが増大する問題があった。廃棄量を少なくなるには、量子ドットを吸着させる度に少量の分散液を調製すればよいが、これでは、分散液の調製回数が増えるため生産性が悪い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Zhenxiao Pan、他5名、“Near Infrared Absorption of CdSexTe1-x Alloyed Quantum Dot Sensitized Solar Cells with More than 6% Efficiency and High Stability”、American Chemical Society、Nano letters Vol.7、No.6、5215-5222頁、2013年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、量子ドットが安定して分散した状態を長期間に亘って保つことができ、量子ドット増感型太陽電池の光電極を生産性よく且つ低コストで作製可能な量子ドット分散液を提供することをその課題とする
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、量子ドット増感型太陽電池の光電極の半導体層に量子ドットを吸着させるために用いる本発明の量子ドット分散液は、半導体層に吸着される配位子が配位した量子ドットと、4.75以下の塩基解離定数pKbを有する水酸化物と、極性溶媒とを含み、前記水酸化物が、前記配位子の2〜10倍のモル量で添加され、前記配位子が、チオグリコール酸のアニオンであることを特徴とする
【0009】
本発明によれば、上記式(1)で表される配位子が量子ドットに配位したため、上記従来例の如く量子ドットにMPAが配位したものと比較して、量子ドットが安定して分散した状態を長期間に亘って保つことができる。このため、本発明の量子ドット分散液を用いて量子ドット増感型太陽電池の光電極の半導体層に量子ドットを吸着すれば、量子ドット分散液を長期間に亘って繰り返し使用できるため、生産性よく量子ドット増感型太陽電池用の光電極を作製することができる。しかも、量子ドット分散液の廃棄量を減らすことができるため、生産コストを低くすることができる。
【0010】
本発明において、前記配位子をチオグリコール酸のアニオンとすることで、上記効果が得られることを確認した。この場合、前記水酸化物を、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム及び水酸化テトラブチルアンモニウムから選択される少なくとも1種とすることで、配位子のアニオン化を促進できてよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の量子ドット分散液を用いて作製される光電極を備える量子ドット増感型太陽電池の概略断面図。
図2】(a)〜(c)は本発明の量子ドット分散液を用いる光電極の作製方法を説明するための図。
図3】本発明の実験結果を示すIRスペクトル。
図4】(a)及び(b)は2週間経過後の量子ドット分散液を示す写真。
図5】量子ドットの吸着能の経時変化を示す図。
図6】本発明の実験結果を示すグラフ。
図7】本発明の実験結果を示すグラフ。
図8】本発明の実験結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1を参照して、SCは、量子ドット増感型太陽電池(以下「太陽電池」という)であり、太陽電池SCは、ガラス等からなる基板(基体)1表面に形成された光電極(光負極)2と、基板1表面の外周部に形成された枠状のシール部材3と、シール部材3を介して光電極2と対向配置された対向電極(光正極)4と、これら光電極2、対向電極4及びシール部材3で画成される空間に形成される電解質層5とを備える。
【0015】
図2(c)も参照して、光電極2は、基板1表面に形成される透明電極層21と、透明電極層21の表面に形成される金属酸化物粒子からなる半導体層22と、半導体層22の表面(空孔)に吸着される量子ドット23とを備える。半導体層22は、量子ドット23が吸着される吸着層22aと、吸着層22aを透過した光を散乱する散乱層22bとで構成される。このように半導体層22を2層で構成すれば、散乱層22bにより散乱された光の一部を、量子ドット23及び吸着層22aに吸収させることができる。尚、半導体層22を単一層(吸着層22aのみ)で構成してもよい。
【0016】
透明電極層21は、ITOやFTO等の材料で形成することができる。半導体層22を構成する金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブ等を例示することができる。この場合、吸着層22aと散乱層22bとは同一の金属酸化物で形成してもよく、異なる種類の金属酸化物で形成してもよい。例えば、吸着層22a及び散乱層22bを共に酸化チタン粒子で形成する場合、吸着層22aの粒径は、吸着面積(表面積)を増やす観点から5〜100nm(好ましくは5〜30nm)の範囲内に設定でき、散乱層22bの粒径は例えば100〜1000nm(好ましくは200〜600nm)の範囲内に設定できる。量子ドット23としては、例えば、CuInSeで構成することができる。
【0017】
吸着層22aに量子ドット23を吸着させるために用いる本発明の量子ドット分散液L2は、吸着層22aに吸着される配位子23aが配位した量子ドットと、水酸化物と、極性溶媒とを含む。水酸化物としては、4.75以下の塩基解離定数pKbを有するものを用いることができ、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム及び水酸化テトラブチルアンモニウムから選択される少なくとも1種を用いることができる。水酸化物の塩基解離定数pKbが4.75より大きいと、配位子末端のカルボキシル基の脱プロトン化(アニオン化)を促進することができず、配位子23aを効率よく吸着層22aに吸着させることができなくなる虞がある。量子ドット22に配位する配位子23aは、下記式(1)で表される。
M−(CH−COO ・・・(1)
(式(1)中、MはCO、S、Se、CN、SCN及びNHから選択される1種であり、nは0または1である)
【0018】
図1を再び参照して、対向電極4としては、公知の構造を有するものを用いることができ、例えば、白金、カーボン、真鍮板等からなる基板や、ガラスやフィルム上に蒸着等の方法により白金、カーボン、真鍮を形成した基板で構成されるものを用いることができる。電解質層5としては、ポリ硫化ナトリウム溶液等の電解液や、ヨウ化銅等の化合物半導体、ポリチオフェン類縁体等の有機半導体ホール輸送層を用いることができる。
【0019】
以下、図1及び図2を参照して、上記式(1)で表される配位子をチオグリコール酸(TGA)のアニオンとする場合を例に、光電極2の作製方法について説明する。
【0020】
先ず、ガラス基板1表面にITOまたはFTOからなる透明電極層21を100nm〜1000nmの厚みで形成し、透明電極層21の表面に半導体層22を形成する。透明電極層21の形成方法としては、公知のスパッタリング法やCVD法を用いることができるため、ここでは成膜条件等の詳細な説明は省略する。半導体層22の形成方法としては公知のスキージ法を用いることができる。この場合、粒径5nm〜30nmの半導体ナノペーストをスキージ法により塗布して焼成することで吸着層22aを形成した後、粒径200nm〜600nmの半導体ナノペーストを吸着層22a上にスキージ法により塗布して焼成することで散乱層22bを形成することにより、半導体層22が形成される。
【0021】
次に、図2(a)に示すように、オレイルアミンが配位した量子ドットを分散させてなる分散液L1を作製する。この分散液L1の作製方法としては、公知の方法(例えば特開2013−201107号公報に開示された方法)を用いることができる。即ち、Cu含有化合物とIn含有化合物とSe含有化合物とを夫々オレイルアミンに溶解させて溶液を作製し、これらの溶液を所定割合で混合し、分散剤を加えて攪拌する。この分散剤を加えた混合液を、150℃以上250℃以下の温度で加熱しながら、1〜40分間撹拌して反応させることで、CuInSeからなる量子ドット23が分散された混合液L1が作製される。そして、このように作製した混合液L1から量子ドット23を分離する。このとき、混合液L1にアルコール等を混合して量子ドット23を沈殿させ、沈殿させた量子ドット23を遠心分離すればよい。
【0022】
分離した量子ドット23を溶媒に分散させ、配位子置換用のTGA、純水、メタノールと4.75以下の塩基解離定数pKbを有する水酸化物とを加える。ここで、水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム及び水酸化テトラブチルアンモニウムから選択される少なくとも1種を用いることができる。このとき、水酸化物をTGAの2〜10倍のモル量加えることが好ましい。この範囲外だと、TGAのアニオン化が効率よく行われず、配位子置換が効率よく行われなくなる場合がある。
【0023】
配位子置換後の量子ドット23を遠心分離し、分離した量子ドット23を極性溶媒に分散させ、量子ドット分散液L2を得る。このとき、分離した量子ドット23に付着している水酸化物が、量子ドット分散液L2にも含まれるが、更なるイオン化を促進、維持するために、上記列挙した水酸化物を添加してもよい。この場合も、水酸化物をTGAの2〜10倍のモル量加えることができる。尚、最初に加えた水酸化物と異なる種類の水酸化物を添加してもよい。
【0024】
このようにして得た量子ドット分散液L2に、上記透明電極層21及び半導体層22形成済みの基板1を浸漬させる(図2(b)参照)。これにより、図2(c)に示すように、半導体層22の吸着層22aに量子ドット23の配位子23aが化学吸着する。浸漬時間は、例えば、30分〜24時間の範囲内で設定することができるが、生産性を考慮すると、30分〜4時間の範囲内に設定することが好ましい。このとき、上記水酸化物のモル量はTGAの2〜10倍に設定しているため、配位子のカルボキシル基の脱プロトン化(アニオン化)が促進され、その結果、半導体層22aへの量子ドット23の化学吸着が促進される。所定の浸漬時間が経過すると、量子ドット分散液L2から量子ドット23吸着済みの基板1を取り出し、該基板1を洗浄及び乾燥させることで、光電極2が作製される。このように作製した光電極2に例えば熱可塑性樹脂からなるシール部材3を介して対向電極4を対向させて配置し、内部空間に電解質(電解液)5を注入することで太陽電池セルが作製される。
【0025】
以上説明したように、本実施形態の量子ドット分散液L2は、TGAのような上記式(1)で表される配位子23aが量子ドット23に配位したため、上記従来例の如く量子ドットにMPAが配位したものと比較して、量子ドット23が安定して分散した状態を長期間(少なくとも3週間以上)に亘って保つことができる。このため、量子ドット分散液L2を長期間に亘って繰り返し使用できるため、生産性よく量子ドット増感型太陽電池SC用の光電極2を作製することができる。しかも、量子ドット分散液L2の廃棄量を減らすことができ、生産コストを低くすることができる。従って、量子ドット増感型太陽電池用の光電極2を生産性よく作製することができる。また、上記量子ドット分散液L2を用いて半導体層22(吸着層22a)に量子ドット23を吸着させることで、上記従来例(配位子:MPA)に比べて量子ドット23の吸着量を増やすことができる。その結果、当該光電極を量子ドット増感型太陽電池に適用したときに、量子ドット23から吸着層22aへの電子注入量を増大でき、量子ドット増感型太陽電池の変換効率を高めることができる。このような本発明の効果を確認するために、本発明者らは以下の実験を行った。この実験は、実施例をも兼ねる。
【0026】
本実験では、先ず、CuI、InI及びセレノウレアを濃度が0.1Mとなるように夫々オレイルアミンに溶解させた溶液A,B,Cを作製し、これらの溶液A〜Cを0.25:1:2の割合で混合し、200℃の温度で10分間攪拌することにより、オレイルアミンが配位したCuInSeからなる量子ドット23が分散した混合液L1を得た。混合液L1にメタノールを混合して量子ドットを沈殿させ、沈殿させた量子ドットを遠心分離した。分離した量子ドットをトルエンに約0.02mol/lの濃度で分散させた。この分散させたものに、TGA0.1ml(1.8mmol)、純水0.2ml、メタノール0.7ml、40wt%の水酸化ナトリウム(5.4mmol)を予め混合し(このとき、水酸化ナトリウムのモル量はTGAの3倍)、調製した溶液を加えた。その後、30分攪拌することにより、配位子が上記オレイルアミン(長鎖アルキル鎖)からチオグリコール酸に置換され、この配位子置換された量子ドットが沈殿した。これをアセトンで希釈し、遠心分離を行い、上澄みを捨てて得た沈殿物(量子ドット)を水に再分散させた。この再分散により調製された量子ドット分散液を「発明品」とした。この発明品に対する比較のため、TGAの代わりにMPAを0.1ml加える点を除き、上記発明品と同様の方法により調製して得た量子ドット分散液を「比較品」とした。
【0027】
上記のように調製した発明品と比較品の透過IR測定したところ、双方とも、長鎖アルキル基に起因する吸収ピークは観察されず、配位子置換されていることが判った。また、図3に示すように、カルボキシレート基に起因する吸収ピークP,Pが双方にみられることから、発明品と比較品の双方とも、置換された配位子は、量子ドットに対してカルボキシラートイオン(アニオン)の状態で配位していることが判った。また、分散液の調製から2週間経過後の発明品と比較品を観察したところ、図4(a)に示す発明品は凝集せず安定した状態で分散しているのに対し、図4(b)に示す比較品は量子ドットが凝集して沈殿していることが確認された。
【0028】
次に、1cm×1cmのサイズを有するガラス基板の表面に酸化チタンペーストをスキージ法により塗布し、450℃で30分焼成することにより、粒径20nmの酸化チタン粒子からなる半導体層を約6μmの厚みで形成した。この半導体層を形成したガラス基板に調製直後の発明品、調製から2週間経過後、3週間経過後の発明品を滴下し、30分放置した後、水洗した。水洗後の色合いを観察した結果を図5に示す。色合いが濃いほど、吸着能が高いことを示す。発明品は、3週間経過後でも調製直後と同様の色合いを示しており、3週間経過後も量子ドットの吸着能が低下していないことが確認され、これより、3週間経過後の量子ドット分散液では量子ドットの安定した分散状態が維持されることが判った。これに対して、比較品は、調製から2週間が経過すると、色合いが著しく薄くなり、量子ドットの吸着能が殆どなくなることが確認された。
【0029】
また、調製直後の発明品及び比較品を用いて上記のように量子ドットを吸着させた半導体層の紫外可視吸収スペクトルを測定した結果を図6に示す。これによれば、発明品を用いる場合の方が、比較品を用いる場合よりも吸光度が大きく、量子ドットの吸着量が多いことが判った。
【0030】
次に、1cm×1cmのサイズを有するガラス基板1の表面にFTOからなる透明電極層21をスパッタ法により300nmの厚みで形成し、この透明電極層21の表面にスキージ法により粒径20nmの酸化チタンからなる吸着層22aを形成した。これらの層21,22aが形成された基板1を調製直後の発明品に30分浸漬させることにより、吸着層22aに量子ドット23を吸着させて光電極を得た。このようにして得た光電極を用いて量子ドット増感型太陽電池セルを作製した。対向電極4としては、市販の真鍮板を濃塩酸中で70℃、15分浸漬処理したものを用い、電解質層(電解液)5としては、ポリ硫化ナトリウムメタノール溶液を用いた。このように作製した太陽電池セルを「発明品(調製直後)」という。そして、調製から3週間後の発明品を用いる点、調製直後の比較品を用いる点、調製から3週間後の比較品を用いる点以外は、上記「発明品(調製直後)」と同様の方法で夫々作製した太陽電池セルを「発明品(3週間後)」、「比較品(調製直後)」、「比較品(3週間後)」とした。これら4つの太陽電池セルについて求めたIPCE特性を図7に示す。発明品(調製直後)と発明品(3週間後)とでは略同一の特性が得られたのに対し、比較品(3週間後)は比較品(調製直後)よりも大幅に光電変換能が低下することが確認された。
【0031】
また、発明品(調製直後)と比較品(調製直後)について夫々求めたJV特性を図8に示す。JV特性を求めたこれらの発明品(調製直後)及び比較品(調製直後)は、吸着層22a上に粒径250nmの酸化チタンからなる散乱層22bを形成している点で、上記IPCE特性を求めたものと相違する。以下の表1に示すように、比較品(調製直後)の電流密度Jscは14.5(mA/cm)、開放電圧Vocは0.56(V)、曲線因子FFは0.37、変換効率PCEは3.0(%)であったのに対し、発明品(調製直後)の電流密度Jscは16.8(mA/cm)、開放電圧Vocは0.56(V)、曲線因子FFは0.40、変換効率PCEは3.8(%)であった。これより、発明品の量子ドット分散液(配位子:TGA)を用いることで、比較品の量子ドット分散液(配位子:MPA)を用いる場合の約1.3倍という優れた変換効率を有することが判った。
【0032】
【表1】
【0033】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、透明電極層21をスパッタリング法により形成し、半導体層22をスキージ法及び焼成により形成する場合について説明したが、これ以外の方法により透明電極層21や半導体層22を形成してもよい。また、上記実施形態では、量子ドット23としてCuInSeからなるものを例に説明したが、量子ドットの材料はこれに限定されず、他の材料で形成したものであってもよい。また、上記実施形態では配位子23aがTGA(上記式(1)中のMがS、n=1)である場合を例に説明したが、配位子23aとして上記式(1)で表されるものを用いれば、TGAを用いる場合と同様の効果が得られることが確認された。
【符号の説明】
【0034】
SC…量子ドット増感型太陽電池、L1…配位子置換前の量子ドット分散液、L2…配位子置換後の量子ドット分散液、1…基板、2…光電極、21…透明電極層、22…半導体層、23…量子ドット、23a…配位子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8