【実施例】
【0072】
以下の例に記載されているすべての温度は摂氏度で示されている。特に明記しない限り、内容物データは質量%として与えられる。
【0073】
本発明を説明するための例
実験条件に関する一般備考:
結晶質物質の沈殿を最適化するために、結晶化及び再結晶化の間は非常にゆっくりと冷却することが重要である。
【0074】
すべての試薬及び溶媒は、非常に低い含水量を有する。
【0075】
全ての操作は窒素雰囲気下に密閉装置内で実施される。
【0076】
95%以上、好ましくは98%以上、さらにより好ましくは99%以上の純度を有する非常に純粋なオレイン酸が使用される。
【0077】
X線粉末回折の測定パラメータは以下のとおり。
【0078】
STOE X線粉末回折
回折:透過
モノクロメータ:湾曲ゲルマニウム(111)
線波長:1.54060 Cu
検出器:リニア位置感知型検出器
スキャンモード:デバイ−シェラー/移動位置検出器/固定オメガ
反射か透過か、又はキャピラリかウィンドウか等の異なる装置又は記録方法が利用される場合、あるいは異なる記録条件(例えば、大気湿度または温度)が使用されている場合、各バンドのわずかな違いが発生する可能性があることが、X線粉末回折研究において一般的である。当業者は、そのようなわずかな違いに非常に精通しており、容易に使用される方法を考慮した所定のX線粉末回折パターンに近似した一致により、所与の物質を識別することができるであろう。
【0079】
製造例1:
結晶質ラセミ体(2R,S)−DOTAP塩化物[(R,S)−1,2−ジオレオイル−3−プロピルトリメチルアンモニウムクロライド]の製造:
出発物質
以下の化学物質が使用された:
・シグマアルドリッチ社からのN,N’−カルボニルジイミダゾール、ロット1252812。
・RCA社からのオレイン酸、ロットOA 11.G.01.2007、99.1面積%(HPLC)。アッセイ(assay)は、オレイン酸よりもUVにおいてはるかに高い応答を示すリノール酸(主要不純物)として、99.5%又はより高いかもしれない。
・MERCK EPROVA社からの(R,S)−3−(ジメチルアミノ)−1,2−プロパンジオール、ロットMSCH−103−A、0.11%の水、99.4%(GC)。
・シグマアルドリッチ社からの1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、ロット1076841、99.7%(GC)。
・LINDE社からの塩化メチル、ロット61448。
・シグマアルドリッチ社からのヨウ化ナトリウム、ロット1336385、0.27%水。
・シグマアルドリッチ社からの酸化アルミニウム、ロット1336643。
・ICC社からのアセトニトリル、ロット0000426130、100.0%(GC)、<0.015%の水。
・BRENNTAG SCHWEIZERHALL社からのn−ヘプタン、ロット0000278245、96.4%(GC)。
・THOMMENN FURLER社からの2−プロパノール:、ロット070920211487、99.96%(GC)、0.03%水。
・THOMMENN FURLER社からのアセトン、ロット080609324212、99.98%(GC)、0.16%の水。
【0080】
(2R,S)−DODAP[(R,S)−1,2−ジオレオイル−3−ジメチルアンモニウムプロパン]の合成
2.41kgのN,N’−カルボニルジイミダゾールを室温で、6.33kgの乾燥アセトニトリルに溶解する。得られた溶液を25℃まで加熱する。次いで、添加速度の変更により反応温度を35℃以下に規制しつつ、4.0kgのオレイン酸を60分間にわたって溶液にポンプで送る(二酸化炭素ガスの生成)。添加が完了した後、反応溶液を30℃でさらに90分間撹拌する(ガスの発生が終了)。次いで、11gの1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンを添加し、次に乾燥アセトニトリル0.37kg中0.83kgのラセミ体(R,S)−3−(ジメチルアミノ)−1,2−プロパンジオールの溶液を加える。30℃での攪拌を21時間継続する。得られたエマルションを25℃に冷却し、攪拌を停止する。2つの層が現れる。下層を分離し、1 mbar/25℃で200分間脱気し、最終的に、11.7kgのn−ヘプタンで希釈する。溶液に、塩基性酸化アルミニウムの1.21kgを添加し、懸濁液を0℃で3時間撹拌する。懸濁液を濾過し、濾過残渣を予め0℃に冷却したn−ヘプタン1.5kgで洗浄する。合わせた濾液を均質化して、純粋な(2R,S)−DODAP4.08kgのn−ヘプタン溶液15.9kgを得る(ロットNo.MBA−116、アッセイ:25.7%、収率:88.9%)。
【0081】
別のバッチは同様にして、純粋な(2R,S)−DODAP3.52kgのn−ヘプタン溶液16.6kgとなるように実施される(ロットNo.MBA−117、アッセイ:21.2%、収率:88.6%)。
【0082】
(2R,S)−DOTAP塩化物の合成
純粋な(2R,S)−DODAP3.52kgのn−ヘプタン溶液23.4kg(ロットNo.MBA−116の15.9kgとロットNo.MBA−117の7.5kg)を反応容器に投入し、n−ヘプタンを60℃のジャケット温度で減圧蒸留する。真空が8mbarで安定した時、ジャケット温度を25℃に調整する。次に、7.0kgの2−プロパノール、次いで3.1gのヨウ化ナトリウムを加える。次に、反応温度を30℃に調整し、窒素雰囲気を1200mbarの一定の絶対圧で塩化メチル雰囲気に置き換える。この反応混合物は(2R,S)−DODAPの(2R,S)−DOTAP塩化物へのメチル化反応が終了するまで137時間にわたってこれらの条件下で撹拌する(96%の転化率)。塩化メチルの消費量は1.39kgである。
【0083】
(2R,S)−DOTAP塩化物の結晶化
上記のように調製された(2R,S)−DOTAP塩化物の2−プロパノール溶液を、乾燥アセトン35.8kgを用いて25℃で希釈する。2−プロパノールの量は、上記のように、7kgであり、溶液中のDOTAP塩化物の量は計算に基づいて3.64kgである。透明な溶液は毎分0.05℃の冷却速度でゆっくり−12℃まで冷却する、すなわち、12 1/3時間(12時間20分)の期間にわたって冷却が行われる。得られた懸濁液はさらに14時間−12℃に維持し、その後予冷フィルタ(−15℃)で濾過する。粗(2R,S)−DOTAP塩化物を、冷乾燥アセトン(−18℃)の6.0kgで2回洗浄する。
【0084】
この特定の実験では、この時点で得られた結晶改質物はチェックされないが、この時点で原料生成物が単離された対応する以前の実験から、結晶改質物が結晶質(2R,S)−DOTAPの結晶改質物であることが分かっている。
【0085】
よりいっそう純粋な生成物を達成する、即ち、いくつかのマイナーな不純物を除去するために、再結晶化工程を行う。
【0086】
(2R,S)−DOTAP塩化物の再結晶
湿った粗(2R,S)−DOTAP塩化物を乾燥アセトン44.1kgと2−プロパノール3.5kgの混合物に密閉フィルタ中、35℃で溶解する。その溶液を反応容器に移し、0℃とする。溶液を毎分0.004℃の冷却速度、すなわち、50時間かけてゆっくり−12℃まで冷却する。得られた懸濁液を−12℃でさらに16時間保持し、その後冷却したフィルタドライヤー(−15℃)で濾過する。濾過残渣は0.8kgの冷乾燥アセトン(−18℃)で2回洗浄し、真空乾燥する。乾燥中にフィルタドライヤーを室温まで温める。真空度が7.9mbarで安定したら、乾燥が完了する。収量:3.46kgの結晶ラセミ(2R,S)−DOTAP塩化物(結晶質(2R,S)−DOTAP、ロットNo.MBA−118、アッセイ:100.0%、収率:(R,S)−3−(ジメチルアミノ)−1−プロパンジオールを参照として37.8%、HPLC純度:99.9%面積)。
【0087】
結晶質(2R,S)−DOTAP塩化物の写真は、
図10に見出すことができる。
【0088】
製造例2:
結晶質の鏡像異性的に純粋な(2R)−DOTAP塩化物[(R)−1,2−ジオレオイル−3−プロピルトリメチルアンモニウムクロライド]の製造:
出発物質
以下の化学物質が使用された:
・シグマアルドリッチ社からのN,N’−カルボニルジイミダゾール、ロット1252812。
・ACME SYNTHETIC CHEMICALS社からのオレイン酸、ロット060528、97.8%(HPLC)。
・DAISO社からの(R)−3−(ジメチルアミノ)−1,2−プロパンジオール、ロットRMA062151、0.11%の水、99.6%(GC)。
・シグマアルドリッチ社からの1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、ロット1076841、99.7%(GC)。
・LINDE社からの塩化メチル、ロット61448。
・シグマアルドリッチ社からのヨウ化ナトリウム、ロット1336385、0.27%水。
・シグマアルドリッチ社からのアセトニトリル、ロット7219K、100.0%(GC)、0.005%の水。
・BRENNTAG SCHWEIZERHALL社からのn−ヘプタン、ロット0000278245、96.4%(GC)。
・THOMMENN FURLER社からの2−プロパノール、ロット070629176434、99.96%(GC)、0.016%の水。
・THOMMENN FURLER社からのアセトン、ロット061201101946、99.98%(GC)、0.10%の水。
【0089】
(2R)−DODAP[(R)−1,2−ジオレオイル−3−ジメチルアンモニウムプロパン]の合成
N,N’−カルボニルジイミダゾール1.63kgを、室温で、4.3kgの乾燥アセトニトリル中に溶解する。溶液を25℃まで加熱する。添加速度の変更により反応温度を35℃以下に規制しつつ、オレイン酸2.7kgを60分かけて溶液にポンプで送る(二酸化炭素ガスの生成)。添加が完了した後、反応溶液を30℃でさらに105分間撹拌する(ガスの発生終了)。次に、7.5gの1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンを、次いで、乾燥アセトニトリル0.25kg中0.56kgの鏡像異性的に純粋な(R)−3−(ジメチルアミノ)−1,2−プロパンジオールの溶液を添加した。30℃での攪拌を19時間継続する。得られたエマルションを10℃に冷却し、攪拌を停止する。2つの層が現れる。下層は分離し、0.1 mbar/20℃で30分間脱気し、最後にn−ヘプタンの9.7kgで希釈した。この懸濁液を0℃で1.5時間撹拌し、濾過して、2.66kgの純粋な(2R)−DODAPのn−ヘプタン溶液12.3kgを得る(ロットNo.MBR−001、アッセイ:21.6%、収率:88.4%)。
【0090】
(2R)−DOTAP塩化物の合成
2.66kgの純粋な(2R)−DODAPのn−ヘプタン溶液12.2kg(ロットNo.MBR−001)を反応容器に投入し、n−ヘプタンを60℃のジャケット温度で減圧下に留去する。真空度が1mbarで安定したら、ジャケット温度を20℃に調整する。次に、2−プロパノール3.26kgを、次いで1.4gのヨウ化ナトリウムを添加する。次いで、反応温度を30℃に調整し、窒素雰囲気を1250mbarの一定の絶対圧で塩化メチル雰囲気に置き換える。反応混合物を、(2R)−DODAPの(2R)−DOTAP塩化物のメチル化反応が終了するまで(97%転化率)、330時間にわたってこれらの条件下で撹拌する。塩化メチルの消費量は0.58kgである。
【0091】
(2R)−DOTAP塩化物の結晶化
上記のように調製された(2R)−DOTAP塩化物の2−プロパノール溶液を、25℃で16.2kgの乾燥アセトンで希釈する。2−プロパノールの量は、上述したように、3.26kgであり、計算に基づく溶液中のDOTAP塩化物の量は2.78kgである。
透明な溶液を−12℃まで毎分0.05℃の冷却速度、すなわち、12 1/3時間かけてゆっくりと冷却する。得られた懸濁液はさらに1時間、−12℃に保たれ、その後、予め冷却したフィルタ(−12℃)を通して濾過する。粗(2R)−DOTAP塩化物を、冷乾燥アセトン(−18℃)3.2kgで2回洗浄する。結晶生成物は、結晶質(2R)−DOTAPの結晶である。
【0092】
この特定の実験では、この時点で得られた結晶改質物はチェックされないが、この時点で原料生成物が単離された対応する以前の実験から、結晶改質物が結晶質(2R)−DOTAPの結晶改質物であることが分かっている。
【0093】
よりいっそう純粋な生成物を達成する、即ち、いくつかのマイナーな不純物を除去するために、再結晶化工程を行う。
【0094】
(2R)−DOTAP塩化物の再結晶
湿った粗(2R)−DOTAP塩化物を乾燥アセトン20.5kgと2−プロパノール1.63kgの混合物に密閉フィルタ中、35℃で溶解する。その溶液を反応容器に移し、25℃とする。溶液を、毎分0.05℃の冷却速度、すなわち、12時間20分かけてゆっくり−12℃まで冷却する。得られた懸濁液を−12℃でさらに9時間保持し、その後冷却したフィルタドライヤー(−12℃)で濾過する。濾過残渣を3.2kgの冷乾燥アセトン(−18℃)で2回洗浄し、真空乾燥する。乾燥中にフィルタドライヤーを室温まで温める。真空度が0.6mbarで安定したら、乾燥が完了する。収量:1.47kgの鏡像異性的に純粋な結晶質(2R)−DOTAP塩化物(ロットNo.MBR−002、アッセイ:99.7%、収率:(R)−3−(ジメチルアミノ)−1−プロパンジオールを参照して44.7%、HPLC純度:99.9%面積)。
【0095】
製造例3:
鏡像異性的に純粋な結晶質(2S)−DOTAP塩化物[(S)−1,2−ジオレオイル−3−プロピルトリメチルアンモニウムクロライド]の調製:
(2S)−DOTAP塩化物[(S)−1,2−ジオレオイル−3−プロピルトリメチルアンモニウムクロライド]は、鏡像異性的に純粋な出発物質の(S)−3−(ジメチルアミノ)−1−プロパンジオール(DAISO社からのロットSMA062281、0.14%の水、GC:99.8%、他のすべての化学物質が一致)から開始して(R)−DOTAP塩化物(上記参照)と同じ方法で製造され、1.67kgの鏡像異性的に純粋な結晶質(2S)−DOTAP塩化物(ロットNo.MBS−002、アッセイ:99.6%、収率:50.4%[(S)−3−(ジメチルアミノ)−1,2−プロパンジオール参照]、HPLC純度:100.0%面積)として得る。
【0096】
特性評価例1
安定性
結晶質(2R,S)−DOTAP塩化物の安定性を決定するために、物質は25℃、相対湿度60%(表1)又は40℃、相対湿度75%(表1a)で空気を排除して保存する。(2R,S)−DOTAP塩化物の残量を周期的な間隔で測定し、初期値と比較して引用している。
【0097】
DOTAP塩化物の純度と成分は、以下の方法を用いてHPLCにより決定される。
【0098】
HPLC装置:Agilent 1200 HPLC
カラム:ODS−3:150x3mm、3μm、GIサイエンス社:イナートシル
溶離液A:0.085%H
3PO
4水溶液中の10mMペンタンスルホン酸ナトリウム塩
溶離液B:0.085%H
3PO
4水溶液を含む94%アセトニトリル中の3.85mMのペンタンスルホン酸ナトリウム塩
グラジエント:0分 75%B
1分 75%B
6分 90%B
7分 100%B
20分 100%B
25分 75%B
ポスト時間: 5分 75%B
ランタイム:25分
流量:1.5ml/分
圧力:約220バール
カラム温度:50℃
注入量:10μl
以下の値が検出された:
安定性判定は任意の時点で繰り返すことができ、表1及び表1aに示される値が再現可能である。
【0099】
【表2】
【0100】
上記の安定性データは、結晶質DOTAP塩化物が安定な物質であることを確認する。
36ヶ月後でさえ、25±2℃で保存されたサンプルに有意な低下は認められなかった。
【0101】
【表3】
【0102】
上記の安定性データは、結晶質DOTAP塩化物が安定な物質であることを確認する。
加速された条件でさえ、40±2℃で保存されたサンプルに12ヶ月後では有意な低下は認められなかった。
【0103】
結晶質(2R)−及び(2S)−DOTAP塩化物は匹敵する安定値を示す。
【0104】
特性評価例2
粉末X線図
結晶質DOTAP塩化物の構造的特徴(結晶改質物)の特性評価のために、これらの物質の粉末X線回折図(回折スペクトル)が記録される。
【0105】
結晶質(2R,S)−、(2R)−及び(2S)−DOTAP塩化物は、脂質のために比較的良好な解像度を有する適度にシャープなバンドでスペクトルを与える。スペクトルは、高結晶質の内容を示している。非晶質フラクションは、偏光顕微鏡下で表示されない。
【0106】
スペクトルの例を
図1,
図2及び
図3に示す。
【0107】
比較のため、市販されている、非晶質試料のスペクトルを
図4(アモルファス)に示す。
図5は、X線スペクトルの比較であり、結晶質(2R,S)−DOTAP塩化物(a)、結晶質(2R)−DOTAP塩化物(b)及び結晶質(2S)−DOTAP塩化物(c)、比較として(2R,S)−DOTAP塩化物の市販サンプル(Avanti Polar Lipids)(d)である。
【0108】
表2は、ラセミ体及び鏡像異性的に純粋なDOTAP塩化物の種々の結晶改質物に対して選択された2シータ値を示す。
【0109】
【表4】
【0110】
特性評価例3
融点と融解エンタルピー
結晶質DOTAP塩化物の融点と融解エンタルピーは、示差走査熱量測定(DSC)(30〜350℃、5.0℃/分、N
2 80ml/分)で決定される。
【0111】
ラセミ体(2R,S)−及びそれぞれ鏡像異性的に純粋(2R)−並びに(2S)−DOTAP塩化物の得られた融点及び溶融エンタルピーを表3に示す。
【0112】
【表5】
【0113】
特性評価例4
相転移温度とエンタルピー
結晶質DOTAP塩化物の相転移温度とエンタルピーが、示差走査熱量測定(DSC)(30〜350℃、5.0℃/分、N
2 80ml/分)で決定される。
【0114】
融点(特性評価例3を参照)に加え、結晶相、液体−結晶相のいくつかの転位点が観察される。
【0115】
ラセミ体(2R,S)−及びそれぞれ鏡像異性的に純粋な(2R)−並びに(2S)−DOTAP塩化物に対して対応する相転移温度及びエンタルピーを表4に記載する。
【0116】
【表6】
【0117】
DSC実験は、純粋な結晶質(2R,S)−DOTAP塩化物と純粋な結晶質(2R)−DOTAP塩化物の混合物において行われ、ラセミ体と鏡像異性体の両方のすべての相転移温度が観察される。
図11は、純粋な結晶質(2R,S)−DOTAP塩化物の相転移温度及び融点を、両結晶形の100:50及び63:100の比の混合物と共に示している。これらの比率は、混合物中でそれぞれ33.3モル%と19.3モル%の(2S)−DOTAP塩化物の量に相当する。
【0118】
結論:
結晶質で鏡像異性的に純粋なDOTAP塩化物及び結晶質のラセミDOTAP塩化物の結晶改質物は区別される。
【0119】
特性評価例5
相対湿度に依存する吸水率
DOTAP塩化物の吸水率は、Projekt Messtechnik社製 SPS 11−100n水蒸気吸着分析器を使用して動的蒸気吸着(Dynamic Vapor Sorption:DVS)によって決定される。
【0120】
サンプルは天秤上部のアルミニウムるつぼに入れ、25℃で、Δr.h.=5%h
−1の走査速度及び極端な値での等湿度(isohumid)平衡期間の2回の加湿/乾燥サイクルに曝す前に、25℃、0%r.h.(相対湿度)で一晩平衡化されている。
【0121】
結晶質(2R,S)−DOTAP塩化物、結晶質(2R)−DOTAP塩化物、アモルファス(2R,S)−DOTAP塩化物及びアモルファス(2R)−DOTAP塩化物のサンプルを評価した。
【0122】
結果:
DVS曲線の比較(
図12参照、第1サイクルを実線、第二サイクルを破線)は、結晶質と非晶質のサンプル間の特性差を指摘している。結晶質のサンプル(
図12の左図)は、低湿度で安定質量を示すが、対して非晶質のサンプル(
図12の右図)の質量は既に0%r.h.を超えるとすぐに増加している。また、開始時に結晶であったサンプルについて、かなり大きなヒステリシスが両サイクルにおいて観察される。違いはまた、ラセミ体サンプル(
図12の上図)と鏡像異性的に純粋なサンプル(
図12の下図)との間に観察することができる。ラセミ体サンプルは約10〜15%r.h.で含水量の急激な増加を示すのに対し、異性体的に純粋なサンプルは約20〜25%r.h.で、このステップを示す。
【0123】
比較例1
ここでのフェルグナーらの再現実験において、すべての実験条件は、米国特許5,264,618(フェルグナーら)のカラム27、15−47行の例5に緊密に準拠するように選択された。
【0124】
37.5mlのクロロホルムと25mlのピリジンに溶解した3−(ジメチルアミノ)−1,2−プロパンジオール5.0gに、125mlのクロロホルムに溶解した塩化オレオイル(FLUKA 0733IAH)31.5gを、冷却下に4℃で1時間半かけて滴下した。黄色溶液を一晩撹拌した。次いで、125mlの冷水及び125mlのジエチルエーテルを加えた。有機相を100mlの0.5N HClで2回、また100mlの0.5N炭酸水素ナトリウム溶液で2回洗浄した。39gの無水硫酸ナトリウムを添加し、そうして得られた懸濁液を濾過し、100mlのクロロホルムで洗浄した。その後、濾液を40℃で減圧下に濃縮した。HPLCにより測定された24.3%w/wの(2R,S)−DODAP含量を有する褐色の液体(SM−0318−A)40.1gが得られた。さらに60℃、減圧下での乾燥は、31.2gへの質量減少をもたらした。
【0125】
この物質31.0gを次のようにケイ酸カラムクロマトグラフィーで精製した。
【0126】
シリカゲル:129g(シリカゲルの量は、(2R,S)−DODAP量に対して計算された)、メルク社製、60 F 63−200um
カラム:直径4cm、高さ60cm
フロー:約8ml/分
移動相としてまず1,500mlの塩化メチレン(画分1−27)、次いで、1,000mlの塩化メチレン/メタノール95:5(画分28−47)、最後に1,000mlのメタノールを使用した。画分は、それらのTLC分析に従って採取混合した。それで画分4−33を減圧下に一緒に濃縮した。HPLCにより測定した65.6%のw/wの(2R,S)−DODAP含量を有する褐色のオイル(SM−0318−B)10.8gが得られた。そして画分34−42は、HPLCにより測定した54.2%w/wの(2R,S)−DODAP含量を有する褐色のオイル(SM−0318−D)12.6gをもたらした。
【0127】
10.4gの塩化メチレンを、画分4−33(SM−0318−B)の中から得られた化合物9.6gに高圧ガラスチューブ中で加えた。ガラスチューブを閉じ、茶色がかった溶液を50℃で一晩加熱し、エマルションを形成した。次いで、チューブを開放し、残留塩化メチレンを蒸発除去した。HPLCにより測定した65.0%w/wの(2R,S)−DOTAP塩化物含量と1.3%w/wの(2R,S)−DODAP含量を有する黄色ワックス(SM−0318−E)8.0gが得られた。
【0128】
14.0gのアセトニトリルをこのワックス(SM−0318−E)に添加した。このようにして得られたエマルションを80mlのアセトニトリルでフラスコに移し(約1:12の固液比を得るよう)、20℃に冷却した。結晶化は観察できなかった。20℃で固形蜜状の黄褐色の物質は、わずかに暖めただけで、どろどろの粘性茶色物質になる傾向にあった。
【0129】
結論
データは、米国特許5,264,618(フェルグナーら)の、カラム27、47〜15行の実施例5にしたがって、上記手順で得られた1,2−ジオレオイル−3−プロピルトリメチルアンモニウムクロライド((2R,S)−DOTAP塩化物)は、結晶形態で得ることができないことを示す。
【0130】
また、それぞれ、アセトニトリル中の(2R,S)−DOTAP塩化物エマルション(SM−0318−E)の冷却開始時、及びアセトニトリル中の(2R,S)−DOTAP塩化物エマルション(SM−0318−E)が−20℃まで冷却された後を示す
図6及び7を参照されたい。
【0131】
(比較例2)
フェルグナーらの実験の更なる再現は、上記と同様の知見を確認して準備した。
【0132】
すべての実験条件は、米国特許5,264,618(フェルグナーら)のカラム27の15−47行の例5に記載されるように、(2R,S)−DOTAP塩化物の調製/分離が可能な限り緊密に準拠するように選択された。
【0133】
この実験では、特別な重点が反応物質の規模、無水ピリジンの使用、メチル化時間及びチューブの温度において設定されている。
【0134】
米国特許5,264,618(フェルグナーら)の例5内では、使用される原料に有効なデータを見出すことはできない。再現実験の塩化オレオイルには、シグマアルドリッチ社製(製品番号367850,ロット0733IAH)を、3−(ジメチルアミノ)−1,2−プロパンジオールには、TCI社製(製品番号D2072,ロットFGC01EF)を用いた。ジエチルエーテル(製品番号8.22270.1000,ロット番号K33237470)、硫酸ナトリウム(製品番号8.22286.5000,ロット番号TA603386)、海砂(製品番号1.07711.5000、ロット番号TA1417811)、シリカゲル60 F 63−200μm(製品番号1.07734.9025、ロット番号TA1570234)及びアセトニトリル(製品番号1.15500.1000、ロット番号K38172000)はすべてメルクKGaA社のものであった。クロロホルム(製品番号34854、ロット番号8178C)とモレキュラーシーブを通したH
2O≦0.005%のピリジン(製品番号82704,ロット番号1166921)はフルカ(Fluka)社のものであった。
【0135】
5.0gの3−(ジメチルアミノ)−1,2−プロパンジオールは、25ml無水ピリジンと37.5mlの新たに蒸留したクロロホルムに室温で溶解した。溶液を4℃に冷却した。31.5gの塩化オレオイルを125mlの蒸留クロロホルムに溶解した。塩化オレオイル溶液を1時間かけて冷3−(ジメチルアミノ)−1,2−プロパンジオール溶液に滴下した。黄色溶液を一晩撹拌した。次いで、125mlの冷水及び125mlのジエチルエーテルを添加した。有機相を100mlの0.5N HClで2回、さらに100mlの0.5N重炭酸ナトリウム溶液で2回を洗浄した。その後、39gの無水硫酸ナトリウムを加えた。このようにして得られた懸濁液を濾過し、残留固体を20mlのクロロホルムで洗浄した。濾液を減圧下で濃縮した。HPLCで測定による62.2%w/wの1,2−ジオレオイル−3−ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP)含量を有する31.5gの茶色液体(SM 0364 A)となった。
【0136】
シリカゲルカラムは、以下のようにして調製した。
【0137】
カラム:直径4cm、高さ60cm
シリカゲル:200gシリカゲル及び42.6g海砂(DODAPの量に対して計算)
フロー:約7 ml/分
上記で製造した材料(SM 0364 A)15gを、シリカゲルカラムに滴下し、50mlのクロロホルムですすいだ。カラムはまず1,000mlのクロロホルムで、次いで、1,000mlのクロロホルム/メタノール 95/5で、次いで、1,250mlのクロロホルム/メタノール 90/10、最後に2,500mlのメタノールで溶出した。画分を、体積比50/15/5/5/2のクロロホルム/アセトン/メタノール/酢酸/水で展開し、ヨウ素で検出するシリカゲルプレート(メルク社製、60 F254)上での薄層クロマトグラフィー分析に従って採取混合した。減圧下で濃縮した後、以下すべてHPLCにより測定した73.2%w/wのDODAP含量を有する混合画分11−17の4.88g(SM 0364 B)、68.2%w/wのDODAP含量を有する画分18−27の7.24g(SM 0364 C)、40.4%w/wのDODAP含量を有する画分28−31の1.9グラム(SM 0364 D)をもたらした。合計で93.5%の質量バランスをもたらした。
【0138】
最も純粋な画分11−17(SM−0364−B)から得られた化合物1.0gを、高加圧可能な、厚肉ホウケイ酸ガラスチューブ(シグマアルドリッチ社製 Z181072−1 EA)に加えた。次いで10mlの塩化メチルをガラスチューブに圧入した。ガラスチューブを密閉し、次いで、70℃で72時間保持した。次にチューブを0℃に冷却し、解放して、残留塩化メチルを留去した。これにより、69.3%w/wの(2R,S)−DOTAP塩化物含量を有し、1.8%w/wのDODAP含量及び2.7%w/wのオレイン酸含量を示す黄褐色のワックス(SM 0364 E)1.11gをもたらした(すべてHPLCにより測定)。
【0139】
上記のように得られた化合物(SM 0364 E)1.08gにアセトニトリル10mlを添加し、50℃まで加熱した。このようにして得られたエマルションを−20℃に冷却した。結晶化は観察することができなかった。−20℃で黄褐色ワックスが得られた。
【0140】
結論:
上記のように米国特許5,264,618(フェルグナーら)の最も近接した実施形態を再現しても、非晶質(2R,S)−DOTAP塩化物しか得られなかった。
【0141】
また、それぞれ、アセトニトリル中の(2R,S)−DOTAP塩化物エマルション(SM−0364−E)の冷却前、及びアセトニトリル中の(2R,S)−DOTAP塩化物エマルション(SM−0364−E)が−20℃まで冷却された後を示す
図8及び9を参照されたい。
【0142】
さらに詳述しなくても、当業者は、前述の説明を用いて本発明を最大限に利用することができると考えられる。前述の好ましい具体的な実施形態は単なる例示であり、いかなる方法でも本開示の残りの部分を限定するものではないと解釈されるべきである。
【0143】
前述の例は、前述の例において使用される反応物及び/または操作条件に対して、この発明の一般的又は具体的に説明した反応物及び/または動作条件を代入して同様の成功を繰り返すことができる。
【0144】
前述の説明から、当業者は容易に、その精神及び範囲から逸脱することなく、本発明の本質的な特徴を確認することができ、種々の用途及び条件に適合させるために、本発明の様々な変更及び修正を行うことができる。