特許第6290205号(P6290205)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6290205
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】電気化学電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0525 20100101AFI20180226BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20180226BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20180226BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20180226BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20180226BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20180226BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20180226BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20180226BHJP
【FI】
   H01M10/0525
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M10/0569
   H01M10/0567
   H01M10/0568
   H01M4/587
   H01M10/058
【請求項の数】16
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-522087(P2015-522087)
(86)(22)【出願日】2013年7月17日
(65)【公表番号】特表2015-522930(P2015-522930A)
(43)【公表日】2015年8月6日
(86)【国際出願番号】EP2013065106
(87)【国際公開番号】WO2014012980
(87)【国際公開日】20140123
【審査請求日】2016年7月1日
(31)【優先権主張番号】12177345.1
(32)【優先日】2012年7月20日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(73)【特許権者】
【識別番号】515016743
【氏名又は名称】ロード アイランド ボード オブ エデュケーション、 ステイト オブ ロード アイランド アンド プロヴィデンス プランテイションズ
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】ガルズーフ,アルント
(72)【発明者】
【氏名】セスノー,フレデリク フランコワ
(72)【発明者】
【氏名】マルコウスキー,イタマル ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ルフト,ブレット
(72)【発明者】
【氏名】シュー,モンチン
(72)【発明者】
【氏名】ルー,トンション
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−248311(JP,A)
【文献】 特開2010−192430(JP,A)
【文献】 特表2011−504287(JP,A)
【文献】 特開2006−004746(JP,A)
【文献】 特開2007−179883(JP,A)
【文献】 特開2012−079603(JP,A)
【文献】 特開2008−262908(JP,A)
【文献】 特開2012−160345(JP,A)
【文献】 特開2012−079604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0525、10/0567−10/0569、10/058 4/505、4/525、4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)少なくとも1つのアノード、
(ii)遷移金属を含み、この遷移金属の合計質量に対して、マンガンの含有量が50〜100質量%であるリチウムイオン含有遷移金属化合物から選ばれるカソード活性材料を含む、少なくとも1つのカソード、及び
(iii)電解質組成物であって、以下の、
(A)少なくとも1種の非プロトン性の有機溶媒、
(B)リチウム(ビスオキサラト)ボラト、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボラト、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)フォスフェイト、リチウムオキサラト、リチウム(マロナートオキサラト)ボラト、リチウム(サリチラトオキサラト)ボラト、及びリチウム(トリスオキサラト)フォスフェイトから成る群から選ばれ、及び電解質組成物の合計質量に対して、0.01から5質量%未満の少なくとも1種の化合物、
(C)電解質組成物の合計質量に対して、0.01から5質量%未満の、一般式(IIa)の少なくとも1種の化合物、
【化1】
(但し、
が、H、C−C10アルキル、C−C10シクロアルキル、ベンジル及びC−C14アリールから選ばれ、ここでアルキル、シクロアルキル、ベンジル、及びアリールは、1つ以上のF、C−Cアルキル、フェニル、ベンジル、又は1つ以上のFで置換されたC−Cアルキルで置換されていても良く、
及び、同一であっても、異なっていても良く、及び互いに独立して、C−C10アルキル、C−C10シクロアルキル、ベンジル及びC−C14アリールから選ばれ、ここでアルキル、シクロアルキル、ベンジル、及びアリールは、1つ以上のF、C−Cアルキル、フェニル、ベンジル、又は1つ以上のFで置換されたC−Cアルキルで置換されていても良い、)
(D)化合物(B)とは異なる、少なくとも1種のリチウム塩、及び
(E)任意に、少なくとも1種の更なる添加剤、
を含む少なくとも1種の電解質組成物、
を含むリチウムイオン電池。
【請求項2】
完全に充電した場合に、アノードに対するセル電圧が4.2Vを超えることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項3】
カソード活性物質が、リチウムイオンを含む遷移金属化合物中の遷移金属の合計量に対して、50〜80質量%のマンガン含有量を有する遷移金属化合物を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池。
【請求項4】
遷移金属化合物が、一般式(VI)
Li1+t2−t4−d (VI)
(但し、
dが、0〜0.4であり、
tが、0〜0.4であり、及び
Mが、Mn、及び以下のCoとNiとから成る群から選ばれる少なくとも1種の更なる金属であり)
のマンガン含有スピネルから選ばれるか、又は
前記遷移金属化合物が、一般式(VII)
Li(1+y)[NiCoMn(1−y) (VII)
(但し、
yが0〜0.3であり、
a、b及びcが、同一であっても、異なっていても良く、及び独立して0から0.8で、及びa+b+c=1である)
の層構造を有するマンガン含有遷移金属酸化物から選ばれることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項5】
前記少なくとも1種の非プロトン性の有機溶媒(A)が、
(a)環式及び非環式の有機カーボネート類、
(b)ジ−C−C10−アルキルエーテル類、
(c)ジ−C−C−アルキル−C−C−アルキレンエーテル類及びポリエーテル類、
(d)環式エーテル類、
(e)環式、及び非環式のアセタール類、及びケタール類、
(f)オルトカルボン酸エステル類、及び
(g)カルボン酸類の環式及び非環式エステル類、
から選ばれることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項6】
少なくとも1種の化合物(B)が、リチウム(ビスオキサラト)ボラト、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボラト、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)フォスフェイト、リチウムオキサラト、リチウム(マロナートオキサラト)ボラト、リチウム(サリチラトオキサラト)ボラト、リチウム(トリスオキサラト)フォスフェイトから成る群から選ばれることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項7】
少なくとも1種の化合物(C)が、一般式(IIa)の化合物から選ばれ、ここで、
が、H、C−Cアルキル、ベンジル及フェニルから選ばれ、ここでアルキル、ベンジル、及びフェニルは、1つ以上のF、C−Cアルキル、フェニル、ベンジル、又は1つ以上のFで置換されたC−Cアルキルで置換されていても良く、
及び、同一であっても、異なっていても良く、及び互いに独立して、C−Cアルキル、ベンジル及びフェニルから選ばれ、ここでアルキル、ベンジル、及びフェニルは、1つ以上のF、C−Cアルキル、フェニル、ベンジル、又は1つ以上のFで置換されたC−Cアルキルで置換されていても良い、
ことを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項8】
リチウム塩(D)が、LiPF、LiPF(CFCF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiN(SOF)、LiSiF、LiSbF、LiACl、及び一般式(C2n+1SOXLi
(但し、mとnが以下ように定義される:
Xが酸素及び硫黄から選ばれる場合、m=1であり、
Xが窒素及びリンから選ばれる場合、m=2であり、
Xが炭素及びシリコンから選ばれる場合、m=3であり、
nが1〜20の整数である、)
の塩から成る群から選ばれることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項9】
更なる添加剤(E)が、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、環式エキソメチレンカーボネート類、スルトン類、無機酸の有機エステル類、1バールでの沸点が少なくとも36℃の非環式及び環式アルカン、及び芳香族化合物から成る群から選ばれることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項10】
前記電解質組成物が、この組成物の全体質量に対して、
0.15から3質量%の、少なくとも1種の化合物(B)、
0.15から3質量%の、少なくとも1種の化合物(C)、
を含むことを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項11】
前記電解質組成物が、この組成物の全体質量に対して、
55から99.5質量%の、少なくとも1種の非プロトン性溶媒(A)、
0.01から5質量%未満の、少なくとも1種の化合物(B)、
0.01から5質量%未満の、少なくとも1種の化合物(C)、
5から25質量%の、少なくとも1種のリチウム塩(D)、
0から10質量%の、少なくとも1種の更なる添加剤(E)、及び
0から50ppmの水、
を含むことを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項12】
前記アノードが、Liイオン挿入カーボンを含むことを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載のリチウムイオン電池。
【請求項13】
遷移金属を含み、この遷移金属の合計質量に対して、マンガンの含有量が50〜100質量%であるリチウムイオン含有遷移金属化合物から選ばれるカソード活性材料を含むリチウムイオン電池の電解質中に、
リチウム(ビスオキサラト)ボラト、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボラト、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)フォスフェイト、リチウムオキサラト、リチウム(マロナートオキサラト)ボラト、リチウム(サリチラトオキサラト)ボラト、及びリチウム(トリスオキサラト)フォスフェイトから成る群れから選ばれる、少なくとも1種の化合物(B)を、
一般式(IIa)の少なくとも1種の化合物(C)、
【化2】
(但し、
が、H、C−C10アルキル、C−C10シクロアルキル、ベンジル及びC−C14アリールから選ばれ、ここでアルキル、シクロアルキル、ベンジル、及びアリールは、1つ以上のF、C−Cアルキル、フェニル、ベンジル、又は1つ以上のFで置換されたC−Cアルキルで置換されていても良く、
及び、同一であっても、異なっていても良く、及び互いに独立して、C−C10アルキル、C−C10シクロアルキル、ベンジル及びC−C14アリールから選ばれ、ここでアルキル、シクロアルキル、ベンジル、及びアリールは、1つ以上のF、C−Cアルキル、フェニル、ベンジル、又は1つ以上のFで置換されたC−Cアルキルで置換されていても良い、)
と添加剤として組み合わせて使用し、及び化合物(B)を、電解質組成物の合計質量に対して、0.01から5質量%未満の濃度、及び化合物(C)を、0.01から5質量%未満の濃度で使用する方法。
【請求項14】
(α)少なくとも1種の非プロトン有機性溶媒、又は非プロトン性有機溶媒の混合物(A)を用意する工程、
(β)任意に、1種以上の更なる添加剤(E)を加え、及び混合する工程、
(γ)乾燥させる工程、
(δ)少なくとも1種の化合物(B)、少なくとも1種の化合物(C)、及び少なくとも1種のリチウム塩(D)を加え、及び混合する工程、
(ε)少なくとも1つのアノード、及び少なくとも1つのカソードを用意し、及びリチウムイオン電池を組み立てる工程、
を含むことを特徴とする、請求項1〜12の何れか1項に記載のリチウムイオン電池を製造するための方法。
【請求項15】
が、H、C−Cアルキル、ベンジル及フェニルから選ばれ、及び
及びRが、C−Cアルキル、ベンジル及びフェニルから選ばれることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項16】
化合物(C)が、ジメチルメチルホスホネート、ジエチルエチルホスホネート、ジメチルエチルホスホネート、及びジエチルメチルホスホネート、及びこれらの組み合わせから成る群から選ばれることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
(i)少なくとも1つのアノード、
(ii)遷移金属を含み、この遷移金属の合計質量に対して、マンガンの含有量が50〜100質量%であるリチウムイオン含有遷移金属化合物から選ばれるカソード活性材料を含む、少なくとも1つのカソード
(iii)電解質組成物であって、以下の、
(A)少なくとも1種の非プロトン性の有機溶媒、
(B)リチウム(ビスオキサラト)ボラト、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボラト、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)フォスフェイト、リチウムオキサラト、リチウム(マロナートオキサラト)ボラト、リチウム(サリチラトオキサラト)ボラト、リチウム(トリスオキサラト)フォスフェイト、及び式(I)
【化1】
の化合物(但し、Rが、H 及びC−Cアルキルから選ばれる)から成る群から選ばれ、及び電解質組成物の合計質量に対して、0.01から5質量%未満の少なくとも1種の化合物、
(C)電解質組成物の合計質量に対して、0.01から5質量%未満の、一般式(IIa)又は(IIb)の少なくとも1種の化合物、
【化2】
(但し、
が、H、C−C10アルキル、C−C10シクロアルキル、ベンジル及びC−C14アリールから選ばれ、ここでアルキル、シクロアルキル、ベンジル、及びアリールは、1つ以上のF、C−Cアルキル、フェニル、ベンジル、又は1つ以上のFで置換されたC−Cアルキルで置換されていても良く、
、R、R、R、及びRが、同一であっても、異なっていても良く、及び互いに独立して、C−C10アルキル、C−C10シクロアルキル、ベンジル及びC−C14アリールから選ばれ、ここでアルキル、シクロアルキル、ベンジル、及びアリールは、1つ以上のF、C−Cアルキル、フェニル、ベンジル、又は1つ以上のFで置換されたC−Cアルキルで置換されていても良い、)
(D)化合物(B)とは異なる、少なくとも1種のリチウム塩、及び
(E)任意に、少なくとも1種の更なる添加剤、
を含む少なくとも1種の電解質組成物、
を含むリチウムイオン電池に関する。
【0002】
本発明は、更に、遷移金属を含み、この遷移金属の合計質量に対して、マンガンの含有量が50〜100質量%であるリチウムイオン含有遷移金属化合物から選ばれるカソード活性材料を含むリチウムイオン電池の電解質中に、リチウム(ビスオキサラト)ボラト、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボラト、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)フォスフェイト、リチウムオキサラト、リチウム(マロナートオキサラト)ボラト、リチウム(サリチラトオキサラト)ボラト、リチウム(トリスオキサラト)フォスフェイト、及び上記に定義した式(I)の化合物から成る群れから選ばれる、少なくとも1種の化合物(B)を、上記に定義した一般式(IIa)又は(IIb)の少なくとも1種の化合物(C)と添加剤として組み合わせて使用し、及び化合物(B)を、電解質組成物の合計質量に対して、0.01から5質量%未満の範囲の濃度、及び化合物(C)を、0.01から5質量%未満の範囲の濃度で使用する方法に関する。
【0003】
ここで、「化合物(B)」という用語は、電解質組成物中に、(B)の下に列挙された化合物を意味し、すなわち化合物(B)は、リチウム(ビスオキサラト)ボラト、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボラト、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)フォスフェイト、リチウムオキサラト、リチウム(マロナートオキサラト)ボラト、リチウム(サリチラトオキサラト)ボラト、リチウム(トリスオキサラト)フォスフェイト、及び上記に定義した式(I)の化合物から成る群を意味する。
【0004】
「化合物(C)」という用語は、電解質組成物中に、(C)の下に列挙された化合物を意味し、すなわち化合物(C)は、上記に定義した一般式(IIa)又は(IIb)の化合物の群を意味する。
【背景技術】
【0005】
エネルギーの貯蔵は、長く興味が持たれてきた課題である。電気化学電池、例えば電池(バッテリー)又はアキュムレーター(蓄電池)は、電気的エネルギーを貯蔵するのに役立つ。近年では、いわゆるリチウムイオン電池が特に興味を集めている。これらは幾つかの技術的観点で、従来の電池に対して優れている。リチウムイオン電池は感水性(water sensitive)である。従って、リチウムイオン電池に使用されるリチウム塩のための溶媒として、水は問題外(不可能)である。この代わりに、有機カーボネート、エーテル、及びエステルが十分な極性溶媒として使用される。従って文献は、水の無い溶媒を電解質のために使用することを推奨している;例えば特許文献1(WO2007/049888)。
【0006】
重要な役割は、電極を形成する材料、特にカソードを形成する材料が担っている。更に、電極材料(アノード及びカソード)の表面上での電解質又は電解質成分の分解が、電池性能、及び電池サイクル寿命にとって重要になる。
【0007】
多くの場合、リチウム含有混合遷移金属酸化物、特に層構造を有するリチウム含有ニッケル−コバルト−マンガン酸化物、又は1種以上の遷移金属でドープされていても良いマンガンスピネルがカソード活性材料としてリチウム電池内に使用される。これらのマンガン含有カソード活性材料は、その高い動作電圧のために期待が持てるものである。しかしながら、多くの電池について、サイクリングの安定性をなお改良する必要があるという問題が残っている。特定的には、マンガンを比較的高い割合で含む電池の場合、例えばマンガン含有スピネル電極及びグラファイトアノードを有する電気化学セル(電気化学電池)の場合、比較的短期間で、容量の重大な低下がしばしば観察される。更に、グラファイトアノードが対極として選択される場合、アノード上にマンガン原子の沈殿を検知することができる。アノード上に沈殿したこれらのマンガン核は、Li/Li+に対して1V未満の電位で、電解質の還元性分解の触媒として作用すると考えられている。このことは、リチウムの不可逆の結合を含むことになると考えられており、この結果、リチウムイオン電池は徐々に容量(capacity)を失うことになる。カソード活性材料中に含まれる他の遷移金属は類似して、電気化学電池のサイクリングの間に電解質中に溶解し得るものである。これらの遷移金属はアノードの方向に移動し、そして還元され、そして低い電位のためにアノード上に沈殿する。このような金属不純物は、少量であっても、電解質とアノード間の界面を変化させ、そして電池の寿命を短くし得るものである。
【0008】
特許文献2(WO2011/024149)には、アルカリ金属、例えばリチウムをカソードとアノードの間に含み、このアルカリ金属が望ましくない副生成物、又は不純物の補集剤(scavenger)として作用する、リチウムイオン電池が開示されている。高度に反応性のアルカリ金属が存在するために、二次電池の製造の過程、及び使用済み電池の後のリサイクリングの過程の両方で、適切な安全上の予防措置を取る必要がある。
【0009】
非特許文献1(Dalavi,S.et al.,Jounal of Electrochemical Society 157(2010),A1113〜A1120頁)には、ジメシチルメチルホスホネートを、LiNi0.8Co0.2をカソード活性材料として含むリチウムイオン電池用の難燃剤として使用することが記載されている。この金属酸化物は、比較的低いセル電圧を3.0〜4.1Vの範囲に有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2007/049888
【特許文献2】WO2011/024149
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Dalavi,S.et al.,Jounal of Electrochemical Society 157(2010),A1113〜A1120頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、ニッケル等の遷移金属成分、特にマンガンの、リチウムイオン電池のカソード活性材料からの分解(dissolution)を低減し、及び遷移金属がカソードからアノードに移行することを低減する手段を提供することにある。本発明の目的は更に、カソード活性材料中にマンガンを含むリチウムイオン電池の寿命の改良をもたらす(特にカソード活性材料中にマンガンを含む高電圧Liイオン電池のための)電解質組成物を提供することにある。最後に、本発明の目的は、カソード活性材料中にマンガンを含み、及び良好な性能特性を有するリチウムイオン電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、
(i)少なくとも1つのアノード、
(ii)遷移金属を含み、この遷移金属の合計質量に対して、マンガンの含有量が50〜100質量%であるリチウムイオン含有遷移金属化合物から選ばれるカソード活性材料を含む、少なくとも1つのカソード
(iii)電解質組成物であって、以下の、
(A)少なくとも1種の非プロトン性の有機溶媒、
(B)リチウム(ビスオキサラト)ボラト、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボラト、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)フォスフェイト、リチウムオキサラト、リチウム(マロナートオキサラト)ボラト、リチウム(サリチラトオキサラト)ボラト、リチウム(トリスオキサラト)フォスフェイト、及び式(I)
【化3】
の化合物(但し、Rが、H 及びC−Cアルキルから選ばれる)から成る群から選ばれ、及び電解質組成物の合計質量に対して、0.01から5質量%未満の少なくとも1種の化合物、
(C)電解質組成物の合計質量に対して、0.01から5質量%未満の、一般式(IIa)又は(IIb)の少なくとも1種の化合物、
【化4】
(但し、
が、H、C−C10アルキル、C−C10シクロアルキル、ベンジル及びC−C14アリールから選ばれ、ここでアルキル、シクロアルキル、ベンジル、及びアリールは、1つ以上のF、C−Cアルキル、フェニル、ベンジル、又は1つ以上のFで置換されたC−Cアルキルで置換されていても良く、
、R、R、R、及びRが、同一であっても、異なっていても良く、及び互いに独立して、C−C10アルキル、C−C10シクロアルキル、ベンジル及びC−C14アリールから選ばれ、ここでアルキル、シクロアルキル、ベンジル、及びアリールは、1つ以上のF、C−Cアルキル、フェニル、ベンジル、又は1つ以上のFで置換されたC−Cアルキルで置換されていても良い、)
(D)化合物(B)とは異なる、少なくとも1種のリチウム塩、及び
(E)任意に、少なくとも1種の更なる添加剤、
を含む少なくとも1種の電解質組成物、
を含むリチウムイオン電池により達成され、及びこの目的は、遷移金属を含み、この遷移金属の合計質量に対して、マンガンの含有量が50〜100質量%であるリチウムイオン含有遷移金属化合物から選ばれるカソード活性材料を含むリチウムイオン電池の電解質中に、リチウム(ビスオキサラト)ボラト、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボラト、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)フォスフェイト、リチウムオキサラト、リチウム(マロナートオキサラト)ボラト、リチウム(サリチラトオキサラト)ボラト、リチウム(トリスオキサラト)フォスフェイト、及び上記に定義した式(I)の化合物から成る群れから選ばれる、少なくとも1種の化合物(B)を、上記に定義した一般式(IIa)又は(IIb)の少なくとも1種の化合物(C)と添加剤として組み合わせて使用し、及び化合物(B)を、電解質組成物の合計質量に対して、0.01から5質量%未満の範囲の濃度、好ましくは0.08から5質量%、及び最も好ましくは0.15から3質量%の範囲の濃度、及び化合物(C)を、0.01から5質量%未満の範囲の濃度、好ましくは0.08から4質量%、及び最も好ましくは0.15から3質量%の範囲の濃度で使用する方法により達成される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一般式(IIa)又は(IIb)の少なくとも1種の化合物を、式(I)の化合物、リチウム(ビスオキサラト)ボラト、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボラト、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)フォスフェイト、リチウムオキサラト、リチウム(マロナートオキサラト)ボラト、リチウム(サリチラトオキサラト)ボラト、及びリチウム(トリスオキサラト)フォスフェイトから成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物と組み合わせ、上述した濃度範囲で電解質中に添加剤として加えることにより、遷移金属化合物を含むカソード活性材料から遷移金属が溶解(分解)することが低減される。本発明の電解質組成物を含むリチウムイオン電池は、サイクリング安定性(繰り返し安定性)が改良されている。
【0015】
本発明の電解質組成物(iii)は、好ましくは作動条件下で液体であり、より好ましくは、1バール及び25℃で液体であり、更により好ましくは電解質組成物は、1バール及び−15℃で液体である。
【0016】
電解質組物(iii)は、少なくとも1種の非プロトン性有機溶媒(A)、好ましくは少なくとも2種の非プロトン性有機溶媒(A)、及びより好ましくは少なくとも3種の非プロトン性有機溶媒(A)を含む。一実施の形態に従えば、電解質組成物は、10種類以下の非プロトン性溶媒(A)を含む。
【0017】
少なくとも1種の非プロトン性有機溶媒(A)は、好ましくは、
(a)環式、及び非環式有機カーボネート類、
(b)ジ−C−C10−アルキルエーテル類、
(c)ジ−C−C−アルキル−C−C−アルキレンエーテル類、及びポリエーテル類、
(d)環式エーテル類、
(e)環式及び非環式アセタール類及びケタール類、
(f)オルトカルボン酸エステル類、及び
(g)カルボン酸類の環式、及び非環式エステル類、
から選ばれる。
【0018】
より好ましくは、少なくとも1種の非プロトン性有機溶媒(A)は、環式、及び非環式有機カーボネート類(a)、ジ−C−C10−アルキルエーテル類(b)、ジ−C−C−アルキル−C−C−アルキレンエーテル類、及びポリエーテル類(c)、及び環式及び非環式アセタール類及びケタール類(e)から選ばれ、より好ましくは、組成物は、環式、及び非環式有機カーボネート類(a)から選ばれる、少なくとも1種の非プロトン性有機溶媒(A)を含み、及び最も好ましくは、組成物は、環式、及び非環式有機カーボネート類(a)から選ばれる、少なくとも2種の非プロトン性有機溶媒(A)を含む。
【0019】
上述した非プロトン性有機溶媒(A)の中で、1バール及び25℃で液体である溶媒、又は溶媒の混合物(A)が好ましい。
【0020】
適切な有機カーボネート類(a)の例は、一般式(IIIa)、(IIIb)又は(IIIc)
【化5】
(但し、R、R及びR10が、異なり、又は同一であり、及び互いに独立して、水素、及びC−C−アルキル、好ましくはメチル;F、及び1つ以上のFで置換されたC−C−アルキル、例えばCFから選ばれる)
に従う環式有機カーボネート類である。
【0021】
「C−C−アルキル」は、メチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、sec.−ブチル、及びtert.−ブチルを含むことを意図している。
【0022】
好ましい環式有機カーボネート類(a)は、一般式(IIIa)、(IIIb)又は(IIIc)で、R及びRがHであるものである。更なる好ましい環式有機カーボネート類(a)は、ジフルオロエチレンカーボネート(IIId)
【化6】
である。
【0023】
適切な非環式有機カーボネート類(a)の例は、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、及びこれらの混合物である。
【0024】
本発明の一実施の形態では、電解質組成物は、非環式有機カーボネート類(a)、及び環式有機カーボネート類(a)の、1:10〜10:1の質量割合、好ましくは3:1〜1:1の質量割合の混合物である。
【0025】
非環式ジ−C−C10−アルキルエーテル類(b)の適切な例は、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、及びジ−n−ブチルエーテルである。
【0026】
ジ−C−C−アルキル−C−C−アルキレンエーテル(c)の例は、1,2−ジメトキシエタン、ジグリム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)、トリグリム(トリエチレングリコールジメチルエーテル)、テトラグリム(テトラエチレングリコールジメチルエーテル)、及びジエチレングリコールジエチルエーテルである。
【0027】
適切なポリエーテル類(c)の例は、ポリアルキレングリコール、好ましくはポリ−C1−C4−アルキレングリコール及び特にポリエチレングリコールである。ポリエチレングリコール類は、20モル%以下の1種以上のC−C−アルキレングリコール類を共重合状態で含んでも良い。ポリアルキレングリコール類は、好ましくは、ジメチル−又はジエチル−末端キャップしたポリアルキレングリコール類である。適切なポリアルキレングリコール類、及び特に適切なポリエチレングリコール類の分子量Mは、少なくとも400g/モルであっても良い。適切なポリアルキレングリコール類、及び特に適切なポリエチレングリコール類の分子量Mは、5000000g/モル以下、好ましくは2000000g/モル以下であっても良い。
【0028】
適切な環式エーテル類(d)の例は、テトラヒドロフラン及び1,4−ジオキサンである。
【0029】
適切な非環式アセタール類(e)の例は、1,1−ジメトキシメタン、及び1,1−ジメトキシメタンである。適切な環式アセタール類(e)の例は、1,3−オキサン及び1,3−ジオキサンである。
【0030】
適切なオルトカルボン酸エステル類(f)の例は、トリ−C−Cアルコキシメタン、特にトリミトキシメタン、及びトリエトキシメタンである。
【0031】
適切なカルボン酸類の環式、及び非環式エステル類(g)の例は、エチルアセテート、メチルブタノレート、ジカルボン酸類のエステル類、例えば1,3−ジメチル二酸プロパン(1,2-dimethyl propanedioate)である。適切なカルボン酸類の環式エステル(ラクトン類)の例は、γ−ブチロラクトンである。
【0032】
本発明のLiイオン電池の電解質組成物(iii)は、電解質組成物(iii)の合計質量に対して、0.01から5質量%未満、好ましくは0.08から4質量%、及び最も好ましくは0.015から3質量%の、リチウム(ビスオキサラト)ボラト(LiBOB)、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボラト(LiDFFOB)、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)フォスフェイト、リチウムオキサラト、及び式(I)
【化7】
の化合物(但し、Rが、H 及びC−Cアルキルから選ばれる)から成る群から選ばれる、少なくとも1種の化合物(B)を含む。
【0033】
式(I)の化合物は、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、n−プロピルビニレンカーボネート、i−プロピルビニレンカーボネート、n−ブチルビニレンカーボネート、及びi−ブチルビニレンカーボネートを含む。
【0034】
式(I)の化合物は、ビニリデンカーボネート、メチルビニリデンカーボネート、エチルビニリデンカーボネート、n−プロピルビニリデンカーボネート、i−プロピルビニリデンカーボネート、n−ブチルビニリデンカーボネート、及びi−ブチルビニリデンカーボネートを含む。
【0035】
好ましくは、電解質組成物(iii)は、リチウム(ビスオキサラト)ボラト(ボレート)、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)フォスフェイト、リチウムオキサラト、及びリチウム(ジフルオロ)ボラトから成る群から選ばれる、少なくとも1種の化合物(B)を含む。一実施の形態によれば、本発明の組成物は、ビニレンカーボネートを含む。他の実施の形態に従えば、本発明の組成物は、リチウム(ビスオキサラト)ボラトを含む。更なる実施の形態に従えば、電解質組成物はリチウムジフルオロ(オキサラト)ボラトを含む。他の実施の形態に従えば、電解質組成物は、リチウムテトラフルオロ(オキサラト)フォスフェイトを含む。更なる実施の形態に従えば、電解質組成物はリチウムオキサラトを含む。
【0036】
更に、本発明のLiイオン電池び電解質組成物(iii)は、電解質組成物(iii)の合計質量に対して0.01から5質量%未満まで、好ましくは0.08から4質量%、及び最も好ましくは0.015から3質量%の、一般式(IIa)又は(IIb)
【化8】
(但し、
が、H、C−C10アルキル、C−C10シクロアルキル、ベンジル及びC−C14アリールから選ばれ、ここでアルキル、シクロアルキル、ベンジル、及びアリールは、1つ以上のF、C−Cアルキル、ベンジル、フェニル、又は1つ以上のFで置換されたC−Cアルキルで置換されていても良く、
、R、R、R、及びRが、同一であっても、異なっていても良く、及び互いに独立して、C−C10アルキル、C−C10シクロアルキル、ベンジル及びC−C14アリールから選ばれ、ここでアルキル、シクロアルキル、ベンジル、及びアリールは、1つ以上のF、C−Cアルキル、フェニル、ベンジル、又は1つ以上のFで置換されたC−Cアルキルで置換されていても良い、)
の少なくとも1種の化合物(C)を含む。
【0037】
−C10−アルキルの例は、メチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、イソ−ブチル、sec.−ブチル、tert.−ブチル、n−ペンチル、イソ−ペンチル、n−ヘキシル、イソ−ヘキシル、sec.−ヘキシル、2−エチルヘキシル、n−オクチル、n−ノニル、及びn−デシルを含み、好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、イソ−ブチル、sec.−ブチル、tert.−ブチル、特に好ましくはメチル、及びエチルである。
【0038】
−C10シクロアルキルの例は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、及びシクロデシルであり、好ましくばシクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルである。
【0039】
−C14−アリールの例は、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、1−アントリル、2−アントリル、1−フェナントリル、2−フェナントリル、3−フェナントリル、4−フェナントリル、及び9−フェナントリルであり、好ましくはフェニル、1−ナフチル、及び2−ナフチルであり、特に好ましくはフェニルである。
【0040】
「ベンジル」は、置換基−CH−Cを意味する。
【0041】
「1つ以上のFで置換されたC−Cアルキル」の例は、−CHF、−CHF、−CF、及び−CCFである。
【0042】
好ましい化合物(C)は、一般式(IIa)又は(IIb)の少なくとも1種の化合物(但し、Rが、H、C−C10アルキル、ベンジル及びフェニルから選ばれ、ここでアルキル、ベンジル、及びフェニルは、1つ以上のF、C−Cアルキル、ベンジル、フェニル、又は1つ以上のFで置換されたC−Cアルキルで置換されていても良く、及びR、R、R、R、及びRが、同一であっても、異なっていても良く、及び互いに独立して、C−Cアルキル、ベンジル及びフェニルから選ばれ、ここでアルキル、ベンジル、及びフェニルは、1つ以上のF、C−Cアルキル、ベンジル、フェニル又は1つ以上のFで置換されたC−Cアルキルで置換されていても良い)である。
【0043】
より好ましくいものは、一般式(IIa)の化合物であって、RがH及びC−Cアルキルから選ばれ、及びR及びRが、同一であっても良く、又は異なっていても良く、及び相互に独立して、C−Cアルキルから選ばれ、より好ましくは、RがH及びC−Cアルキルから選ばれ、及びR及びRが、相互に独立して、C−Cアルキルから選ばれる。
【0044】
特に好ましいものは、ジメチルメチルフォスフェイト(Rがエチルであり、R及びRがメチルである)、及びジエチルメチルホスホネート(Rがメチルであり、R及びRがエチルである)である。
【0045】
少なくとも1種の化合物(B)及び少なくとも1種の化合物(C)の組み合わせの、(カソード活性材料としてマンガン含有遷移金属化合物を含む)リチウムイオン電池中の電解質への添加は、遷移金属を含むカソードから分解したカソード活性材料中に存在するマンガン及び更なる遷移金属の量を低減し、及び電解質の性能を高める挙動を示す。従って本発明の他の目的は、上記に定義した少なくとも1種の化合物(B)を、上記に定義した少なくとも1種の化合物(C)と組み合わせ、添加剤としてリチウムイオン電池(このリチウムイオン電池は、リチウムイオン含有遷移金属化合物中の遷移金属の合計質量に対して、50から100質量%のマンガンを含む、リチウムイオン含有遷移金属化合物から選ばれる、カソード活性材料を含む少なくとも1種のカソードを含む)用の電解質中に使用する方法にあり、好ましくは上記マンガンの含有量は、遷移金属の合計質量に対して50から80質量%である。
【0046】
本発明のリチウムイオン電池用の電解質中への添加剤として使用され、及び電解質組成物(iii)中に含まれる、化合物(B)と(C)の好ましい組み合わせは、リチウム(ビスオキサラト)ボラト(ボレート)、ビニレンカーボネート、及び/又はリチウムジフルオロ(オキサラトボラト)と、式(IIa)の化合物(但し、Rが、H及びC−Cアルキルから選ばれ、及びR及びRが、同一であっても良く、又は異なっていても良く、及び相互に独立してC−Cアルキルから選ばれる)との組み合わせであり、ここで式(IIa)は、Rが、H及びC−Cアルキルから選ばれ、及びR及びRが、相互に独立してC−Cアルキルから選ばれることが更に好ましい。最も好ましいものは、リチウム(ビスオキサラト)ボラト、ビニレンカーボネート、及び/又はリチウムジフルオロ(オキサラト)ボラトと、以下のジメチルメチルホスホネート、ジエチルエチルホスホネート、ジメチルエチルホスホネート、及びジエチルメチルホスホネートから成る群から選ばれる1種以上の化合物との組み合わせであり、及び特に、リチウム(ビスオキサラト)ボラト、及びジメチルメチルホスホネートの組み合わせ、ビニレンカーボネート及びジメチルメチルホスホネートの組み合わせ、及びリチウムジフルオロ(オキサラト)ボラト及びジメチルメチルホスホネートの組み合わせである。化合物(B)と(C)の上述した組み合わせを含む電解質組成物(iii)を含む、本発明のリチウムイオン電池も好ましい。
【0047】
電解質組成物(iii)は更に、化合物(B)とは異なる、少なくとも1種のリチウム塩(D)を含む。好ましくは、リチウム塩(D)は、一価の塩、すなわち一価のアニオンを有する塩、である。リチウム塩(D)は、LiPF、LiPF(CFCF、LiClO、LiAsF、LiBF、LiCFSO、LiN(SOF)、LiSiF、LiSbF、LiACl、及び一般式(C2n+1SOXLi
(但し、mとnが以下ように定義される:
Xが酸素及び硫黄から選ばれる場合、m=1であり、
Xが窒素及びリンから選ばれる場合、m=2であり、
Xが炭素及びシリコンから選ばれる場合、m=3であり、
nが1から20の整数である、)、
の塩、例えばLiC(C2n+1SO(但し、nが1から20の整数である)、及びリチウムイミド類、例えばLiN(C2n+1SO(但し、nが1から20の整数である)の塩から成る群から選ばれても良い。
【0048】
好ましくは、リチウム塩(D)は、LiPF、LiBF及びLiPF(CFCFから選ばれ、及びより好ましくは、リチウム塩(D)は、LiPF、及びLiBFから選ばれ、最も好ましくは、リチウム塩(D)は、LiPFである。
【0049】
化合物(B)とは異なる、少なくとも1種のリチウム塩(D)は通常、電解質組成物の合計質量に対して、少なくとも0.01質量%、好ましくは少なくとも1質量%、及びより好ましくは少なくとも5質量%の最小限の濃度で存在する。
【0050】
更に、本発明の電解質組成物は、少なくとも1種の更なる添加剤(E)を含んでも良い。更なる添加剤(E)は、化合物(A)、(B)、(C)及び(D)とは異なる、電解質用の添加剤から選ばれる。更なる添加剤(E)のための例は、2−及び4−ピリジン、環式エキソ−メチレンカーボネート、スルトン、無機酸の有機エステル、(1バールの圧力で36℃の沸点を有する)環式及び非環式のアルカン、及び芳香族化合物である。
【0051】
適切な芳香族化合物の例は、ビフェニル、シクロヘキシルベンゼン、及び1,4−ジメトキシベンゼンである。
【0052】
スルトン(sultone)は、置換されていても良く、置換されてなくても良い。適切なスルトンの例は、ブタンスルトン、及び以下に示すプロピレンスルトン(IV)である。
【0053】
【化9】
【0054】
適切な環式エキソ−メチレンカーボネートの例は、式(V)
【化10】
(但し、
11及びR12が、同一であっても良く、又は異なっていても良く、及び相互に独立して、C−C10アルキル、及び水素から選ばれる)
の化合物である。好ましくは、R及びRが、両方ともメチルである。R及びRが、両方とも水素であることも好ましい。好ましい環式エキソ−メチレンカーボネートは、メチレンエチレンカーボネートである。
【0055】
更に、添加剤(E)は、非環式、又は環式アルカン類から選ばれても良く、好ましくは1バールの圧力で沸点が36℃のアルカン類から選ばれて良い。このようなアルカン類の例は、シクロヘキサン、シクロヘプタン及びシクロドデカンである。
【0056】
添加剤(E)として適切な更なる化合物は、無機酸の有機エステル、例えばリン酸又は硫酸のエチルエステル、又はメチルエステルである。
【0057】
本発明の一実施の形態に従えば、電解質組成物は、少なくとも1種の更なる添加剤(E)を含む。少なくとも1種の更なる添加剤(E)が存在する場合、この最小限の濃度は、電解質組成物の合計質量に対して通常、少なくとも0.01質量%である。
【0058】
本発明に従う電解質組成物は好ましくは、実質的に水を有しておらず、すなわちこの電解質組成物は、好ましくは0から50ppmの水、より好ましくは3から30ppmの水、及び特に5から25ppmの水を含む。「ppm」という用語は、全体の電解質組成物の質量を100万とした場合の部分を示している。
【0059】
電解質組成物中に存在する水の量を測定するための種々の方法が、この技術分野の当業者にとって公知である。適切な方法は、Karl Fischer(DIN51777又はISO760:1978にその詳細が記載されている)に従う滴定である。「0ppm水」は、水の量が検知限界未満であることを示す。
【0060】
本発明の一実施の形態に従えば、電解質組成物は、少なくとも1種の非プロトン性溶媒(A)、少なくとも1種の化合物(B)、少なくとも1種の化合物(C)、任意に少なくとも1種のリチウム塩(D)、任意に少なくとも1種の更なる添加剤(E)、及び0から50ppmの水以外の成分を含まない。
【0061】
本発明の好ましい一実施の形態では、電解質組成物は、環式、及び非環式有機カーボネート類(a)から選ばれる、少なくとも2種の非プロトン性溶媒(A)、リチウム(ビスオキサラト)ボラト、及びリチウムジフルオロ(オキサラト)ボラト、及びビニレンカーボネートから選ばれる、少なくとも1種の化合物(B)、ジメチルメチルホスホネートから選ばれる、少なくとも1種の化合物(C)、LiBF及びLiPFから選ばれる、少なくとも1種のリチウム塩(D)を含む。
【0062】
Liイオン電池の好ましい一実施の形態に従えば、電解質組成物(iii)は、合計組成物の質量に対して、0.08から4質量%の少なくとも1種の化合物(B)、及び0.08から4質量%の少なくとも1種の化合物(C)、より好ましくは0.15から3質量%の少なくとも1種の化合物(B)、及び0.15から3質量%の少なくとも1種の化合物(C)を含む。このような少量の化合物(C)を、少量の化合物(B)と組み合わせて含む電解質は、上記電解質組成物を含むLiイオン電池の容量保持(capacity retention)に有利な効果を示す。
【0063】
組成物の合計質量に対して、
55から99.5質量%、好ましくは60から95質量%、及びより好ましくは70から90質量%の少なくとも1種の非プロトン性有機溶媒(A)、
0.01から5質量%未満、好ましくは0.08から4質量%、及びより好ましくは0.15から3質量%の少なくとも1種の化合物(B)、
0.01から5質量%未満、好ましくは0.08から4質量%、及びより好ましくは0.15から3質量%の少なくとも1種の化合物(C)、
5から25質量%、好ましくは5から22質量%、及びより好ましくは5から18質量%の少なくとも1種のリチウム塩(D)、
0から10質量%、好ましくは0.01から10質量%、及びより好ましくは0.4から6質量%の少なくとも1種の更なる添加剤(E)、及び
0から50ppm、好ましくは3から30ppm、及びより好ましくは5から25ppmの水、
を含む電解質組成物(iii)を含む、本発明のLiイオン電池も更に好ましい。
【0064】
上述した電解質組成物(iii)を含む、本発明のLiイオン電池は、サイクリング安定性が改良されている。
【0065】
本発明において、「リチウムイオン電池」は、再充電可能な電気化学電池であって、放電の間にリチウムイオンが、負極(アノード)から正極(カソード)へと移動し、及び充電の間にリチウムイオンが、正極から負極に移動する、すなわち電荷の移動がリチウムイオンによって行われる電気化学電池を意味する。通常、リチウムイオン電池は、カソード活性材料としてリチウムイオン含有遷移金属化合物、例えば(層構造を有する)遷移金属酸化物化合物、例えばLiCoO、LiNiO、及びLiMnO、又はオリビン構造を有する遷移金属フォスフェイト、例えばLiFePO、及びLiMnPO、又はリチウム電池技術の技術分野の当業者にとって公知のリチウム−マンガンスピネルを含むカソードを含む。
【0066】
「カソード活性材料」という用語は、カソード中の電気化学的に活性な材料、例えば(電池の充電/放電の間にリチウムイオンを挿入/脱挿入する)遷移金属酸化物を意味する。電池の状態に依存して、すなわち充電状態又は放電状態に依存して、カソード活性材料は、多かれ少なかれリチウムイオンを含む。「アノード活性材料」という用語は、アノード中の電気化学的に活性な材料、例えば(電池の充電/放電の間にリチウムイオンを挿入/脱挿入する)カーボンを意味する。
【0067】
本発明に従えば、リチウムイオン電池は、リチウムイオン含有遷移金属化合物中の遷移金属の合計質量に対して、マンガンの含有量が50から100質量%、好ましくはマンガンの含有量が50から80質量%のリチウムイオン含有遷移金属化合物から選ばれる、カソード活性材料を含む、カソードを含んでいる。このリチウムイオン含有遷移金属化合物は、遷移金属としてマンガンのみを含んでいいても良く、しかしマンガンと少なくとも1種の更なる遷移金属、又は少なくとも2種又は3種の更なる遷移金属を含んでいても良い。
【0068】
遷移金属としてマンガンを含む、リチウムイオン含有遷移金属酸化物は、本発明では、少なきとも1種の遷移金属をカチオン状態で有するこれらの酸化物のみならず、少なくとも2種の遷移金属をカチオン状態で有するこれらの酸化物をも意味すると理解される。更に、本発明において、「リチウム含有遷移金属酸化物」という用語は、リチウムを含むことに加え、少なくとも1種の非遷移金属をカチオン状態で含む(例えば、アルミニウム又はカルシウム)化合物をも含む。
【0069】
特定の実施の形態では、カソードでマンガンが+4の形式的酸化状態で生じても良い。より好ましくは、カソード中のマンガンは、+3.5から+4の範囲の形式的酸化状態で生じても良い。
【0070】
本発明の一実施の形態に従えば、リチウムイオン電池は、一杯に充電した場合、アノードに対して4.2Vを超えるセル電圧、好ましくはアノードに対して少なくとも4.3V、より好ましくは4.4V、更に好ましくは少なくとも4.5V、最も好ましくは少なくとも4.6V、及び特に少なくとも4.7Vのセル電圧を有する。
【0071】
多くの元素が存在する。例えば、ナトリウム、カリウム、及び塩素が所定の極めて少ない割合で、実質的に全ての無機材料中で検知される。本願発明において、カチオン又はアニオンの0.1質量%未満の割合は無視される。従って、本発明では、ナトリウムを0.1質量%未満の量で含むリチウムイオン含有混合遷移金属酸化物は何れも、ナトリウム非含有であるとみなされる。対応して、本発明では、サルフェートイオン(硫酸塩イオン)を0.1質量%未満の量で含むリチウムイオン含有混合遷移金属酸化物は何れも、サルフェート非含有であるとみなされる。
【0072】
本発明の一実施の形態では、リチウムイオン含有遷移金属化合物は、マンガン含有リチウム鉄フォスフェイトから、マンガン含有スピネル及び層構造を有するマンガン含有遷移金属酸化物、好ましくはマンガン含有スピネル及び層構造を有するマンガン含有遷移金属酸化物から選ばれる。層構造を有するマンガン含有遷移金属酸化物は、マンガンのみならず、少なくとも1種の更なる遷移金属も含む混合遷移金属酸化物であっても良い。
【0073】
本発明の一実施の形態では、リチウムイオン含有遷移金属化合物は、リチウムの過化学量論的量を有する化合物から選ばれる。
【0074】
本発明の一実施の形態では、リチウムイオン含有遷移金属化合物は、一般式(VI)
Li1+t2−t4−d (VI)
(但し、
dが0から0.4であり、
tが0から0.4であり、及び
Mが、Mn及び以下のCoとNiから成る群から選ばれる、少なくとも1種の更なる遷移金属であり、好ましくはNiとMnの組み合わせである)
のマンガン含有スピネルから選ばれ、又はリチウムイオン含有遷移金属化合物は、一般式(VII)
Li(1+y)[NiCoMn(1−y) (VII)
(但し、
yが、0から0.3、好ましくは0.05から0.2であり、及び
a、b及びcが同一であっても良く、又は異なっていても良く、及び独立して0から0.8であり、a+b+c=1である)
の層構造を有するマンガン含有遷移金属酸化物から選ばれる。
【0075】
本発明の一実施の形態では、層構造を有するマンガン含有遷移金属酸化物は、[NiCoMn]が、Ni0.33Co0.33Mn0.33、Ni0.5Co0.2Mn0.3、Ni0.4Co0.3Mn0.4、Ni0.4Co0.2Mn0.4、及びNi0.45Co0.10Mn0.45から選ばれるものから選ばれる。
【0076】
カソードは、1種以上の更なる成分を含んでいても良い。例えば、カソードは、導電性多形体中にカーボンを含んでいいても良く、このカーボンは例えば、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、又は上述した物質の2種以上の混合物から選ばれる。更に、カソードは、1種以上のバインダーを含んでいても良く、このバインダーは例えば、1種以上の有機ポリマー、例えばポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリイソプレン、及び以下のエチレン、プロピレン、スチレン、(メト)アクリロニトリル、及び1,3−ブタジエンから選ばれる、少なくとも2種のコモノマーのコポリマー、特にスチレン−ブタジエンコポリマー類、ビニリデンフルオリド(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンのコポリマー、テトラフルオロエチレン及びビニリデンフルオリドのコポリマー、及びポリアクリルニトリルである。
【0077】
本発明のLiイオン電池は更に、少なくとも1種のアノードを含む。本発明の一実施の形態では、アノードはアノード活性材料として、Liイオン挿入カーボンを含む。リチウムイオン挿入カーボンは、この技術分野の当業者にとって公知であり、例えばカーボンブラック、いわゆる硬質カーボン(hard carbon)(該硬質カーボンは、グラファイトに類似し、このグラファイトよりもアモルファス領域が大きいカーボンである)、及びグラファイトであり、アノードは、好ましくはグラファイトを含み、より好ましくはアノード活性材料は基本的にグラファイトから構成され、及び特に、アノードは基本的にグラファイトから構成される。アノードは、更なる成分、例えばバインダーを含んでも良く、該バインダーは、カソードについて上述したバインダーから選ばれても良い。
【0078】
本発明のリチウムイオン電池は、それ自体は通常のものである更なる成分、例えばアウトプットコンダクター、セパレータ、ハウジング、ケーブルコネクション等を含んでも良い。アウトプットコンダクターは、金属ワイヤー、金属グリッド、金属メッシュ、エキスパンド金属、金属シート、又は金属ホイルの状態で形成されても良い。適切な金属ホイルは特に、アルミニウムホイルである。ハウジングは任意の形状、例えば立方体、又はシリンダー形状のものであって良い。他の実施の形態では、本発明の電気化学セルは、角柱の形状を有している。一変形例では、使用されるハウジングは、ポーチとして加工される金属プラスチック複合体フィルムである。
【0079】
本発明のリチウムイオン電池は、約4.8Vまでの高電圧を与える、そして高いエネルギー密度、及び良好な安定性の点で顕著である。より特定的には、本発明のリチウムイオン電池は、繰り返されるサイクリングの過程で、容量(最大容量)の損失が極めて僅かなことで顕著である。本発明のリチウムイオン電池のいくつかは、相互に組み合わされても良く、例えば直列結合に、又は並列結合に組み合わされて良い。直列結合が好ましい。本発明は更に、上述した本発明のリチウムイオン電池を自動車、電気モーターによって作動する自転車、エアークラフト、船、又は固定状態でのエネルギー貯蔵に使用するための方法を提供する。
【0080】
従って本発明は更に、本発明のリチウムイオン電池を装置、特にモバイル機器に使用するための方法を提供する。モバイル機器の例は、乗り物、例えば自動車、自転車、エアクラフト、又は水上での乗り物、例えばボート又は船である。モバイル機器の他の例は、携帯可能なもので、例えばコンピューター、特にラップトップ、電話、又は電動機器、例えば建設部門からのもの、特にドリル、電池作動のスクリュードライバー、又は電池作動のタッカーである。
【0081】
更に本発明は、
(α)少なくとも1種の非プロトン性有機溶媒、又は非プロトン性有機溶媒の混合物(A)を用意する工程、
(β)任意に、1種以上の更なる添加剤(E)を加え、及び混合する工程、
(γ)乾燥させる工程、
(δ)少なくとも1種の化合物(B)、少なくとも1種の化合物(C)、及び少なくとも1種のリチウム塩(D)を加え、及び混合する工程、
(ε)少なくとも1つのアノード、及び少なくとも1つのカソードを用意し、及びリチウムイオン電池を組み立てる工程、
を含む、本発のリチウムイオン電池を製造するための方法を提供する。
【0082】
工程(β)から(δ)は、上述した順序で行っても良いが、しかし工程(β)の前に工程(γ)を行うことも可能である。
【0083】
溶媒又は溶媒混合物(A)は、乾燥した状態で提供されても良く、例えば(A)の質量に対して1から50ppmの水分含有量で提供されても良く、又は(A)はより高い水分含有量で提供されても良い。例えば融点が約36℃のエチレンカーボネートを使用し、1種以上の更なる溶媒(A)、例えばジエチルカーボネート、及び/又はメチルエチルカーボネートが加えられ、非プロトン性有機溶媒(A)の混合物が得られる場合には、好ましくは、非プロトン性有機溶媒、又は非プロトン性有機溶媒の混合物(A)は、液体状態で提供される。ジエチルカーボネート、又はメチルエチルカーボネートを加えることによって、融点が低下して良い。非プロトン性有機溶媒(A)の混合物中の異なる溶媒の割合は、0℃以上で液体である混合物を得るように選択されることが好ましい。より好ましくは、非プロトン性有機溶媒(A)の混合物中の異なる溶媒の割合は、15℃以上で液体である混合物を得るように選択される。非プロトン性有機溶媒、又は非プロトン性有機溶媒の混合物(A)が液体であるか否かは、目視検査で決定される。
【0084】
本発明の一実施の形態では、工程(β)及び(δ)は、10から100℃の温度、好ましくは室温、例えば20から30℃で行われる。本発明の他の実施の形態に従えば、工程(β)及び(δ)での混合は、電解質組成物に使用される全ての溶媒(A)の最も高い融点を有する溶媒の融点よりも、少なくとも1℃高い温度で行われることが好ましい。混合するための温度の限界は、電解質組成物に使用される、揮発性が最も高い溶媒(A)である溶媒(A)の揮発度によって決定することができる。好ましくは、混合は、電解質組成物に使用される、揮発性の最も高い溶媒(A)の沸点未満で行われる。
【0085】
混合は通常、無水条件下に行われ、例えば不活性雰囲気下、又は乾燥空気下に行われ、好ましい混合は、乾燥窒素雰囲気下、又は乾燥希ガス雰囲気下に行われる。
【0086】
工程(γ)では乾燥が行われ、この乾燥は例えば、少なくとも1種の非プロトン性溶媒(A)又は非プロトン性溶媒(A)の少なくとも1種の混合物、又は得られた混合物を少なくとも1つのイオン交換器、又は好ましくは分子篩を介して乾燥させ、そして乾燥した溶媒/溶媒混合物をイオン交換器又は分子篩から分離することによって行われる。少なくとも1種の非プロトン性有機溶媒(A)又は有機溶媒(A)の少なくとも1種の混合物を工程(α)に提供する前に、すなわち工程(α)の前に工程(γ)行うのに、各溶媒(A)を、個別の乾燥させることも可能である。本発明の一実施の形態は、工程(γ)を4から100℃の範囲、好ましくは15から40℃の範囲、およびより好ましくは20から30℃の範囲で行うことを含む。本発明の一実施の形態では、イオン交換器又は分子篩が溶媒混合物上で作動する時間は、数分間、例えば少なくとも5分から数日間、好ましくは24時間以内、及びより好ましくは1から6時間の範囲である。工程(γ)を、何れかのリチウム含有化合物、例えば化合物(B)又はリチウム塩(D)を加える前に行うことが好ましい。
【0087】
工程(ε)では、少なくとも1つのアノード、及び少なくとも1つのカソードが提供され、及びリチウムイオン電池が組み立てられる。このことは、電解質組成物(iii)を加えることを含む。リチウムイオン電池の組み立ては、この技術分野の当業者にとって公知である。
【0088】
以下に、本発明を実施例を使用して説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0089】
A)電解質組成物:
比較電解質組成物1(CEC1):
電池グレード溶媒エチレンカーボネート(EC)及びエチル−(メチル)−カーボネート(EMC)を、体積割合3:7で溶媒(A)として使用した。リチウム塩(D)として、電池グレードヘキサフルオロフォスフェイト(LiPF)を1.0Mの濃度で使用した。
【0090】
比較電解質組成物2(CEC2):
リチウムビス(オキサラト)ボラト(LiBOB)をChemetallから購入した。電解質CEC1(1.0M LiPF EC/EMC(3/7,v/v))に、0.5質量%LiBOB、及び1質量%ビニレンカーボネート(VC)を加えた。
【0091】
比較電解質組成物3(CEC3):
ジメチルメチルホスホネート(DMMP)を蒸留し、そして使用する前に4Å分子シーズ(4Å molecule seizes)を浸した。電解質組成物CEC1に、1質量%のDMMPを加えた。
【0092】
比較電解質組成物4(CEC4):
リチウムビス(オキサラト)ボラト(LiBOB)をChemetallから購入した。0.5質量%のLiBOBを電解質組成物CEC1に加えた。
【0093】
本発明の電解質組成物1(IEC1):
ジメチルメチルホスホネート(DMMP)を蒸留し、そして使用する前に4Å分子シーズ(4Å molecule seizes)を浸し、及びLiBOBを電解質組成物CEC1(1.0M LiPF EC/EMC(3/7、v/v))に加え、1質量%のDMMP及び0.5質量%のLiBOBを含む、本発明の電解質組成物を得た。
【0094】
本発明の電解質組成物2(IEC2):
ジメチルメチルホスホネート(DMMP)を蒸留し、そして使用する前に4Å分子シーズ(4Å molecule seizes)を浸した。ビニレンカーボネート(VC)及びDMMPを電解質CEC1(1.0M LiPF EC/EMC(3/7、v/v))に加え、0.5質量%VC及び1質量%のDMMPの濃度を得た。
【0095】
本発明の電解質組成物3(IEC3):
IEC3を、LiBOBの替りにリチウムジフルオロオキサラトボラト(LiDFOB)を使用したことを差異として、IEC−1のように製造した。
【0096】
【表1】
【0097】
B)LiNi0.5Mn1.5からの遷移金属の分解(dissolution)
LiNi0.5Mn1.5をBASFから入手した。熱的貯蔵用の試料を、高純度アルゴンで満たしたグローブ・ボックス内で製造した。バイアル瓶に0.1gのLiNi0.5Mn1.5粉を挿入し、次に2mL CEC1及びIEC1をそれぞれ加えた。バイアル瓶を、減圧下にフレームシール(flame sealed)した。シール個所近傍のバイアル瓶壁の汚染を回避するように注意がなされた。シールされた試料を55℃で2週間保管した。熱的貯蔵の前と後で試料を計量し、シールを確認した。熱的貯蔵の後、アルゴンで満たされたグローブ・ボックス内でバイアル瓶を開いた。固体のLiNi0.5Mn1.5試料をそれぞれの電解質から分離し、そしてジメチルカーボネート(DMC)で3回洗浄し、次に真空内で乾燥させた。残留した電解質溶液をICP−MS(inductively−coupled−plasma mass−spectrometry)を使用して分析し、Mn及びNiの含有量を測定した。結果を表2に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
C)サイクリング性能
カソード電極を89%のLiNi0.5Mn1.5、6%導電性カーボン、及び5%PVDFで構成した。グラファイトアノード、LiNi0.5Mn1.5カソード、及びCelgard2325セパレーターを使用して2032−タイプコイン電池を組み立てた。各電池は、30μLの電解質組成物を含んでいた。セルを、一定電流−一定電圧充電及び一定電流放電でサイクルしたが、これは3.5から4.9Vの間で行われ、及びArbin BT2000cyclerを使用したもので、次の手順に従っている:C/20で第1サイクル;C/10で第2及び第3サイクル;C/5で残りのサイクル。室温で50サイクルを行い、次に55℃で20サイクルを行った。全ての電池を3つぞろいで作成し、そして再現性の有るデーターが得られた。結果を表3に示す。
【0100】
【表3】
【0101】
室温では、本発明の電解質組成物を有する電池は、比較電解質を有する電池と比較して、より良好なサイクリング性能、放電容量、及びクーロン効率を示した。
【0102】
表4に、CEC1、CEC3、CEC4、及びIEC1を有する電池の室温でのサイクリング性能を示した。サイクリング手順は、上述した手順と同様であった。
【0103】
【表4】
【0104】
表4に見られるように、LiBOB及びDMMPの本発明の組み合わせは、添加剤を有していない電解質組成物、及びそれぞれの添加剤を1個だけ含んでいる電解質組成物と比較して、室温において、より高い容量保持を示した。