(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フィードバック制御では、エミッション電流の変動を検出した後に、変動を緩和する制御が行われるので、エミッション電流の変動による画像データへの影響は、完全には解消できない。したがって、エミッション電流の変動に伴う画像データの輝度ムラの発生を抑制できる他の技術が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
本発明の第1の形態は、検査装置として提供される。この検査装置は、荷電粒子をビームとして照射する電子源を有する1次光学系と、電子源から照射されるビームのエミッション電流値を検出する電流検出部と、ビームの検査対象への照射によって得られる二次荷電粒子の量を検出する撮像素子を有する撮像部と、撮像部の撮像結果に基づいて、画像データを生成する画像データ生成部と、撮像結果または画像データを、検出されたエミッション電流値に基づいて補正する補正部とを備える。
【0007】
かかる検査装置によれば、エミッション電流値に変動が生じたとしても、その変動に伴う画像データへの影響を緩和するように、撮像結果または画像データを補正できる。したがって、エミッション電流の変動に伴う画像データの輝度ムラの発生を抑制できる。
【0008】
本発明の第2の形態として、第1の形態において、補正部は、エミッション電流値について予め定められた目標値と、検出されたエミッション電流値と、に基づいて、補正を行ってもよい。かかる形態によれば、画像データを、エミッション電流値が目標値の通りであった場合に得られる画像データに近づくように補正できる。したがって、画像データの輝度値を所望の程度に調整しつつ、輝度ムラの発生を抑制できる。
【0009】
本発明の第3の形態として、第2の形態において、補正部は、検出されたエミッション電流値が目標値よりも小さい場合に、撮像結果または画像データが表す輝度値を大きくする補正を行ってもよい。かかる形態によれば、エミッション電流値が所望の程度よりも小さい側に変動した場合に、当該変動に伴う画像データの輝度ムラの発生を抑制できる。
【0010】
本発明の第4の形態として、第2または第3の形態において、補正部は、検出されたエミッション電流値が目標値よりも大きい場合に、撮像結果または画像データが表す輝度値を小さくする補正を行ってもよい。かかる形態によれば、エミッション電流値が所望の程度よりも大きい側に変動した場合に、当該変動に伴う画像データの輝度ムラの発生を抑制できる。
【0011】
本発明の第5の形態として、第1ないし第4のいずれかの形態の検査装置は、さらに、検出されたエミッション電流値に基づいて、エミッション電流値の変動が抑制されるようにフィードバック制御を行うフィードバック制御部を備えていてもよい。かかる形態によれば、エミッション電流値の変動自体が抑制されるので、輝度ムラの発生をいっそう抑制できる。
【0012】
本発明の第6の形態として、第1ないし第5のいずれかの形態の検査装置は、さらに、検査対象を保持可能な移動部であって、検査対象を、1次光学系によるビームの照射位置上で所定の方向に移動させる移動部を備えていてもよい。撮像部は、撮像素子が所定の方向に所定の段数だけ配列されたTDIセンサであって、移動部を所定の方向に移動させながら行われるビームの検査対象への照射によって得られる二次荷電粒子の量を時間遅延積分方式によって所定の方向に沿って積算するTDIセンサを備えていてもよい。かかる形態によれば、TDIセンサを用いて高感度の撮像を行う場合にも、輝度ムラの発生を抑制できる。
【0013】
本発明の第7の形態として、第6の形態において、補正部は、TDIセンサが所定の段数分だけ二次荷電粒子の量を積算する積算期間の間に電流検出部によって検出されたエミッション電流値の平均値に基づいて、積算期間の間に積算された二次荷電粒子の量に対応する撮像結果または画像データを補正してもよい。かかる形態によれば、検査対象の所定領域の画像がTDIセンサに投影される期間と、当該所定領域に対しての補正に用いられるエミッション電流値を検出するための期間と、が一致するので、良好な補正精度が得られ、その結果、輝度ムラの発生を良好に抑制できる。
【0014】
本発明の第8の形態は、検査用画像データの生成方法として提供される。この方法は、電子源から検査対象に荷電粒子をビームとして照射する工程と、電子源から照射されるビームのエミッション電流値を検出する工程と、ビームの検査対象への照射によって得られる二次荷電粒子の量を検出する工程と、二次荷電粒子の量の検出結果に基づいて画像データを生成する工程と、二次荷電粒子の量の検出結果、または、画像データを、検出されたエミッション電流値に基づいて補正する工程とを備える。かかる方法によれば、第1の形態と同様の効果を奏する。第8の形態に、第2ないし第7のいずれかの形態を付加することも可能である。
【0015】
本発明は、上述の形態のほか、検査用画像データ生成装置、検査用画像データ補正装置、検査用画像データを生成するためのプログラムなど、種々の形態で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
A.実施例:
図1および
図2は、本発明の検査装置の一実施例としての半導体検査装置(以下、単に検査装置とも呼ぶ)5の概略構成を示す。
図1は、検査装置5の概略立面図(
図2のA−A矢視)であり、
図2は、検査装置5の概略平面図(
図1のB−B矢視)である。検査装置5は、検査対象の表面に形成されたパターンの欠陥、検査対象の表面上の異物の存在等を検査する装置である。検査対象としては、半導体ウエハ、露光用マスク、EUVマスク、ナノインプリント用マスク(およびテンプレート)、光学素子用基板、光回路用基板等を例示できる。異物としては、パーティクル、洗浄残物(有機物)、表面での反応生成物等を例示できる。かかる異物は、例えば、絶縁物、導電物、半導体材料、または、これらの複合体などからなる。以下では、検査装置5によって半導体ウエハ(以下、単にウエハWとも呼ぶ)を検査するものとして説明する。ウエハの検査は、半導体製造工程においてウエハの処理プロセスが行われた後、または、処理プロセスの途中で行われる。例えば、検査は、成膜工程、CMPまたはイオン注入を受けたウエハ、表面に配線パターンが形成されたウエハ、配線パターンが未だに形成されていないウエハなどを対象として行われる。
【0018】
検査装置5は、
図1に示すように、カセットホルダ10と、ミニエンバイロメント装置20と、主ハウジング30と、ローダハウジング40と、ステージ装置50と、電子光学装置70と、画像処理装置80と、制御装置89とを備えている。
図1および
図2に示すように、カセットホルダ10は、カセットCを複数個(
図2では2個)保持するようになっている。カセットCには、検査対象としての複数枚のウエハWが上下方向に平行に並べられた状態で収納される。本実施例では、カセットホルダ10は、昇降テーブル上の
図2に鎖線で示された位置にカセットCを自動的にセットできるように構成されている。カセットホルダ10にセットされたカセットCは、
図2に実線で示された位置、すなわち、後述するミニエンバイロメント装置20内の第1搬送ユニット61の回動軸線O−O(
図1参照)を向いた位置まで自動的に回転される。
【0019】
ミニエンバイロメント装置20は、
図1および
図2に示すように、ハウジング22と、気体循環装置23と、排出装置24と、プリアライナ25とを備えている。ハウジング22の内部には、雰囲気制御されるミニエンバイロメント空間21が形成されている。また、ミニエンバイロメント空間21内には、第1搬送ユニット61が設置されている。気体循環装置23は、清浄な気体(ここでは空気)をミニエンバイロメント空間21内で循環させて雰囲気制御を行う。排出装置24は、ミニエンバイロメント空間21内に供給された空気の一部を回収して外部に排出する。プリアライナ25は、ウエハを粗位置決めする。
【0020】
第1搬送ユニット61は、ミニエンバイロメント空間21内に設置されている。この第1搬送ユニット61は、軸線O−Oの周りを回転可能な多節のアームを有している。このアームは、半径方向に伸縮可能に構成されている。アームの先端には、ウエハWを把持する把持装置、例えば、機械式チャック、真空式チャックまたは静電チャックが設けられている。かかるアームは、上下方向に移動可能になっている。第1搬送ユニット61は、カセットホルダ10内に保持された複数のウエハのうちの所要のウエハWを把持し、後述す
るローダハウジング40内のウエハラック41に受け渡す。
【0021】
ローダハウジング40の内部には、
図1および
図2に示すように、ウエハラック41と第2搬送ユニット62とが設置されている。ミニエンバイロメント装置20のハウジング22と、ローダハウジング40とは、シャッタ装置27によって区切られており、シャッタ装置27は、ウエハWの受け渡し時のみに開かれる。ウエハラック41は、複数(
図1では2枚)のウエハWを上下に隔てて水平の状態で支持する。第2搬送ユニット62は、上述の第1搬送ユニットと基本的に同じ構成を有している。第2搬送ユニット62は、ウエハラック41と、後述するステージ装置50のホルダ55との間で、ウエハWの搬送を行う。かかるローダハウジング40の内部は、高真空状態(真空度としては10
−5〜10
−6Pa)に雰囲気制御されるとともに、不活性ガス(例えば、乾燥純窒素)が注入される。
【0022】
主ハウジング30内には、
図1および
図2に示すように、ウエハWを移動させる移動部の一例としてのステージ装置50が設けられている。ステージ装置50は、底壁上に配置された固定テーブル51と、固定テーブル上でY方向に移動するYテーブル52と、Yテーブル上でX方向に移動するXテーブル53と、Xテーブル上で回転可能な回転テーブル54と、回転テーブル54上に配置されたホルダ55とを備えている。Yテーブル52は、主ハウジング30の外部に設けられたアクチュエータであるサーボモータ56によって、Y方向に移動される。Xテーブル53は、主ハウジング30の外部に設けられたアクチュエータであるサーボモータ57によって、X方向に移動される。ホルダ55は、機械式チャックまたは静電式チャックで解放可能にウエハWをその載置面上に保持する。ホルダ55に保持されたウエハWのY方向の位置は、位置検出部(位置センサ)58によって検知される。位置検出部58は、干渉計の原理を使用したレーザ干渉測距装置であり、ホルダ55の載置面の基準位置を微細径レーザによって検知する。
図1および
図2において、位置検出部58の位置は、概略的に示している。位置検出部58は、例えば、Yテーブル52(またはホルダ55)に固定されたミラープレートに向けてレーザを照射し、レーザ干渉計によって、レーザの入射波と、ミラープレートからの反射波との位相差に基づいて、ウエハW、厳密には、Yテーブル52(またはホルダ55)の座標を検出する。レーザ干渉計は、主ハウジング30の内部に設けてもよいし、外部に設けてもよい。また、レーザ干渉計は、光ケーブルを介して、レーザの光路に設けられた光ピックアップに接続され、主ハウジング30から離れた位置に設けられていてもよい。
【0023】
電子光学装置70は、荷電粒子をビームとして、Y方向(
図2参照)に移動中のウエハWに照射し、それによって得られる二次荷電粒子の量を検出する。ウエハWの移動は、ステージ装置50によって行われる。電子光学装置70の詳細については、後述する。
【0024】
図1に示す画像処理装置80は、電子光学装置70によって得られた二次荷電粒子の量に基づいて、画像データを生成する。生成される画像データは、輝度値を階調値として有する。画像処理装置80は、本実施例では、メモリとCPUとを備えており、予め記憶されたプログラムを実行することによって、補正部81および画像データ生成部82として機能する。これらの機能については、後述する。なお、画像処理装置80の各機能部の少なくとも一部は、専用のハードウェア回路で構成されていてもよい。
【0025】
画像処理装置80によって生成された画像データは、任意の方法によって、ウエハWの表面に形成されたパターンの欠陥や異物の有無等の検査に用いられる。この検査は、情報処理装置などを用いて自動的に行われてもよい。例えば、情報処理装置は、輝度値が閾値以上に高い領域を検出してもよいし、生成された画像データと、予め用意された基準画像データとのパターンマッチングを行ってもよい。あるいは、検査は、画像データが表す画像、または、画像データを構成する各画素の階調値に基づいて、検査員によって行われて
もよい。
【0026】
図1に示す制御装置89は、検査装置5の動作全般を制御する。例えば、制御装置89は、ステージ装置50に移動指令を送出して、ウエハWを保持するホルダ55を所定の移動速度でY方向に移動させる。制御装置89は、メモリとCPUとを備え、予め記憶されたプログラムを実行することによって、所要の機能を実現してもよい。あるいは、制御装置89は、ソフトウェアでの機能の実現に加えて、または、代えて、所要の機能の少なくとも一部を専用のハードウェア回路で実現してもよい。
【0027】
図3は、電子光学装置70の概略構成を示す。本実施例では、電子光学装置70は、検査対象の広い面に一括して電子線を照射し、それによって得られる二次荷電粒子の量を一括して検出する写像投影型電子顕微鏡である。ただし、電子光学装置70は、他のタイプの電子顕微鏡、例えば、細く絞った電子線を検査対象の表面で走査し、それによって得られる二次荷電粒子の量を、電子線の径に相当する画素単位で検出する取得する走査型電子顕微鏡であってもよい。図示するように、電子光学装置70は、一次光学系72と、二次光学系73と、TDIセンサ75とを備えている。一次光学系72は、荷電粒子をビームとして生成し、当該ビームをホルダ55に保持されたウエハWに照射する。この一次光学系72は、電子源90と、レンズ72a,72dと、アパーチャ72b,72cと、E×Bフィルタ72eと、レンズ72f,72h,72iと、アパーチャ72gとを備えている。電子源90は、電子ビームを生成する電子銃であり、その詳細は後述する。
【0028】
荷電粒子をウエハWに照射することによって、ウエハWの状態(パターンの形成状態、異物の付着状態など)に応じた二次荷電粒子が得られる。本明細書において、二次荷電粒子とは、二次放出電子、ミラー電子および光電子のいずれか、または、これらが混在したものである。二次放出電子とは、二次電子、反射電子および後方散乱電子のいずれか、または、これらのうちの少なくとも2つが混在したものである。二次放出電子は、ウエハWの表面に電子線などの荷電粒子を照射したときに、ウエハWの表面に荷電粒子が衝突して発生する。ミラー電子は、ウエハWの表面に電子線などの荷電粒子を照射したときに、照射した荷電粒子がウエハWの表面に衝突せずに、当該表面近傍にて反射することによって発生する。
【0029】
レンズ72a,72dおよびアパーチャ72b,72cは、電子源90よって生成された電子ビームを整形するとともに、電子ビームの方向を制御し、斜め方向から入射するように電子ビームをE×Bフィルタ72eに導く。E×Bフィルタ72eに入射された電子ビームは、磁界と電界によるローレンツ力の影響を受けて、鉛直下方向に偏向され、レンズ72f,72h,72iおよびアパーチャ72gを介してウエハWに向けて導かれる。レンズ72f,72h,72iは、電子ビームの方向を制御するとともに、適切な減速を行って、ランディングエネルギーを調整する。
【0030】
ウエハWへの電子ビームの照射によって、ウエハW上の異物がチャージアップされ、それによって、入射電子の一部がウエハWに接触せずに跳ね返される。これによって、ミラー電子が二次光学系73を介して、TDIセンサ75に導かれる。また、入射電子の一部がウエハW上に接触することによって、二次放出電子が放出される。
【0031】
電子ビームの照射によって得られた二次荷電粒子(ここでは、ミラー電子および二次放出電子)は、対物レンズ72i、レンズ72h、アパーチャ72g、レンズ72fおよびE×Bフィルタ72eを再度通過した後、二次光学系73に導かれる。二次光学系73は、電子ビームの照射によって得られた二次荷電粒子をTDIセンサ75に導く。二次光学系73は、レンズ73a,73cと、NAアパーチャ73bと、アライナ73dとを備えている。二次光学系73においては、レンズ73a、NAアパーチャ73bおよびレンズ
73cを通過することによって二次荷電粒子が集められ、アライナ64によって整えられる。NAアパーチャ73bは、二次系の透過率・収差を規定する役割を有している。
【0032】
TDIセンサ75は、Y方向に所定の段数(複数)だけ配列された撮像素子を有しており、二次光学系73によって導かれた二次荷電粒子の量を検出する。本実施例では、TDIセンサ75の撮像素子は、X方向にも配列される。TDIセンサ75での検出は、ステージ装置50によってウエハWをY方向に沿って移動させつつ、ウエハWに電子ビームを照射し、それによって得られる二次荷電粒子の量(電荷)を時間遅延積分方式によってY方向に沿ってY方向の段数分だけ積算することによって行われる。ウエハWの移動方向と、TDIセンサ75による積算の方向は、同一の方向である。二次荷電粒子の量は、TDIセンサ75に転送クロックが入力されるごとに、1段分ずつ積算される。換言すれば、TDIセンサ75の1つの画素に蓄積された電荷は、転送クロックが入力されるごとに、Y方向の隣の画素に転送される。そして、Y方向の段数分だけ積算された検出量、すなわち、最終段まで積算された検出量(積算検出量とも呼ぶ)は、転送クロックが入力されるごとに、画像処理装置80に転送される。なお、TDIセンサ75の積算方向は、Y方向に限らず、X方向であってもよい。この場合、ウエハWは、X方向に移動される。
【0033】
図4は、TDIセンサ75が、二次荷電粒子の量を積算する様子を模式的に示す。TDIセンサの構成は、公知であるため、ここでは、二次荷電粒子の量が積算される様子のみについて説明する。ここでは、説明の便を考慮し、TDIセンサ75は、第1の方向D1(上述のX方向)に5画素配列され、第2の方向D2(上述のY方向)には配列されていないものとして説明する。
図4において、P1〜P5は、第1の方向D1に配列された各撮像素子(画素)を示す。図示する例では、TDIセンサ75による検出の際に、ウエハWは、画素P1からP5に向かう方向に移動する。
図4において、T11〜T15は、ウエハWが1画素分移動するのに実際に要した時間(期間)を示す。例えば、時間T11は、画素P1に相当する距離の移動に要した時間であり、時間T12は、画素P2に相当する距離の移動に要した時間である。
【0034】
図4に示すように、TDIセンサ75による検出では、まず、時間T11の間に画素P1に、感知した二次荷電粒子の量に応じた電荷Q1が蓄積される。この電荷Q1は、時間T11の経過直後のタイミングでTDIセンサ75に入力される転送クロックに従って、画素P1に隣り合う画素P2に転送される。時間T11に続く時間T12の間に、画素P2には、画素P1から転送された電荷Q1に加えて、電荷Q2が蓄積される。その結果、時間T12の経過時には、画素P2には、電荷Q1+Q2が蓄積される。この電荷Q1+Q2は、時間T12の経過直後のタイミングで画素P3に転送される。時間T12に続く時間T13の間に、画素P3には、画素P2から転送された電荷Q1+Q2に加えて、電荷Q3が蓄積される。その結果、時間T13の経過時には、画素P3には、電荷Q1+Q2+Q3が蓄積される。このようにして、電荷が順次積算されることによって、時間T11〜T15の経過後には、画素P5に電荷Q1+Q2+Q3+Q4+Q5が蓄積され、画像処理装置80に転送される。このようにして、ウエハWの同一の位置から得られる二次荷電粒子の量が積算されることによって、ウエハWを第1の方向D1に沿って高速移動させる場合であっても、全体として十分な露光時間が確保され、高感度の撮像データが得られる。なお、本実施例では、転送クロックは、ホルダ55(ウエハW)がTDIセンサ75の1画素に相当する距離だけ移動するごとにTDIセンサ75に入力される。ただし、転送クロックの入力タイミングは、特に限定するものではなく、例えば、一定時間ごとに入力されてもよい。
【0035】
このようにして得られる輝度データは、例えば、ウエハW上の異物の有無の状況を好適に反映したものとなる。これは、上述したミラー電子は、散乱しないのに対して、二次放出電子は、散乱するので、ウエハW上の異物が存在する領域から得られた二次荷電粒子の
量は、その他の領域から得られた二次荷電粒子の量よりも大幅に多くなるからである。つまり、異物が存在する領域は、異物が存在しない領域と比べて、輝度が高い領域として撮像される。ただし、電子源90から照射される電子ビームのエミッション電流が変動すると、二次荷電粒子の量も変動するので、TDIセンサ75によって得られる輝度データには、異物の存在の有無に依存しない輝度ムラが生じることになる。
【0036】
本実施例の検査装置5は、このような輝度ムラの発生を抑制可能な2つの構成を備えている。1つは、エミッション電流値のフィードバック制御を行う構成であり、他の1つは、補正処理を行う構成である。補正処理は、本実施例では、エミッション電流計96によって検出されるエミッション電流値に基づいて、TDIセンサ75の撮像結果に対して輝度値の補正を行う処理である。この補正処理は、画像処理装置80の補正部81によって行われる。補正部81によって輝度補正された積算検出量は、画像データ生成部82に出力される。画像データ生成部82は、補正部81から受け取った積算検出値を合成して、X方向およびY方向に配列された画素値(輝度値)によって構成される画像データを生成する。なお、補正処理と画像データの生成処理との順序は、逆であってもよい。つまり、画像データ生成部82が、TDIセンサ75から転送されたデータを合成して画像データを生成し、その後、補正部81が、生成された画像データに対して補正処理を行ってもよい。また、フィードバック制御は省略して、補正処理のみを行うことも可能である。以下、フィードバック制御と補正処理について説明する。
【0037】
図5は、フィードバック制御を行うための電子源90の概略構成を示す。電子源90は、ウェネルト91と、フィラメント92と、電源装置93とを備えている。電源装置93は、加速電源94と、ウェネルト電源95と、ヒート電流源97と、フィラメント電流計98と、エミッション電流計96と、フィードバック制御部99とを備えている。フィラメント92はヒート電流源97によって電流が印加されることで加熱され、その結果、フィラメント92から熱電子が放出されやすくなる。フィラメント電流計98は、フィラメント92に実際に流れている電流量を計測する。熱電子は、加速電源94の電圧によって加速されることで電子ビームとして放出され、放出される電子の量は、ウェネルト91に印加する電圧によって制御される。
【0038】
フィラメント92から放出される電子の量(エミッション電流値)は、エミッション電流計96によって検出される。エミッション電流計96によって検出された電流値は、フィードバック制御部99に入力される。フィードバック制御部99は、入力されるエミッション電流値に基づいてウェネルト電源95を操作し、ウェネルト91に印加される電圧値を制御することによって、エミッション電流値が目標値に保たれるようにフィードバック制御を行う。
【0039】
補正処理は、本実施例では、次式(1)によって行われる。IV0は、補正処理前の積算検出量であり、IV1は、補正処理後の積算検出量である。Kは、補正係数であり、次式(2)によって算出される。A0は、エミッション電流値についての目標値である。An(nは1以上の整数)は、エミッション電流計96によって検出されたエミッション電流値(以下、実エミッション電流値とも呼ぶ)である。
IV1=K×IV0・・・(1)
K=A0/An・・・(2)
【0040】
目標値A0は、検査画像が所望の輝度を有するようにユーザによって設定されるものであり、画像処理装置80に予め記憶されていてもよいし、検査の際にユーザが輝度を調節して設定してもよい。実エミッション電流値Anは、本実施例では、TDIセンサ75がY方向の段数分だけ二次荷電粒子の量を積算する期間Tn中にエミッション電流計96によって検出されたエミッション電流値の特徴量(ここでは単純平均値)である。
【0041】
上記の式(1),(2)から明らかなように、補正処理では、実エミッション電流値Anが目標値A0よりも小さい場合には、TDIセンサ75の撮像結果は、当該撮像結果の輝度値が大きくなるように補正される。一方、実エミッション電流値Anが目標値A0よりも大きい場合には、TDIセンサ75の撮像結果は、当該撮像結果の輝度値が小さくなるように補正される。本実施例では、エミッション電流と二次荷電粒子の量とは、正比例の関係にあると仮定して、補正係数Kを上記の式(2)のように設定している。かかる構成とすれば、当該正比例関係を前提として、期間Tnにおける平均値としては、エミッション電流値の変動の撮像結果への影響を完全に解消できる。
【0042】
図6は、TDIセンサ75の撮像結果に対する補正処理の具体例を示す。この例では、先に画像データが生成され、その後に補正処理が行われる例を示している。
図6(a)は、補正処理前の画像データの画素配置を示す。Y=1の画素群は、TDIセンサ75によって画像処理装置80に最初に転送された画素群である。Y=2の画素群は、Y=1の画素群の次に転送された画素群である。つまり、Y方向の数字の並びは、TDIセンサ75から転送された順番を表している。
図6(b)は、X方向に沿った期間Tn(この例では、n=1〜8)ごとの実エミッション電流値Anを示す。例えば、実エミッション電流値A1は、期間T1(例えば、
図4に示した時間T11〜T15に相当)におけるエミッション電流の平均値である。
図6(c)は、積算検出値を合成して生成された画像データの各画素の画素値を表す。つまり、
図6(c)は、補正処理前積算検出量IV0である。補正処理前積算検出量IV0(画素値)は、ここでは、256階調の輝度値である。
図6(d)は、Y=nの画素群にそれぞれ適用される補正係数Kを示す。
図6(e)は、
図6(c)に示した補正処理前積算検出量IV0と、
図6(d)に示した補正係数Kとに基づき、式(2)によって算出された補正処理後積算検出量IV1である。
【0043】
かかる補正処理を実現するための構成の一例を
図7に示す。図示する例は、補正処理後に画像データを生成する場合の構成である。図示するように、補正部81は、平均算出部83と、除算部84と、乗算部85とを備えている。制御装置89からステージ装置50(サーボモータ56)に移動指令が与えられると、Yテーブル52がY方向に移動される。このYテーブル52の移動量は、位置センサ58によって検出される。そして、位置センサ58によって検出された位置情報は、TDIクロック生成器74に入力される。TDIクロック生成器74は、受け取った位置情報に基づいて、Yテーブル52がY方向に1画素移動するたびに、TDIクロック(転送クロック)をTDIセンサ75に入力する。TDIセンサ75は、このTDIクロックに従って、電荷を積算し、最終段まで積算された電荷を、内蔵のA/D変換部(図示省略)に転送する。A/D変換部によってデジタル値に変換された補正処理前積算検出量IV0は、乗算部85に入力される。また、TDIセンサ75は、二次荷電粒子の量(電荷)を転送するたびに、転送を行ったことを表す転送信号を平均算出部83に入力する。
【0044】
一方、補正部81では、平均算出部83は、エミッション電流計96からサンプリング回路(図示省略)を介して出力されるエミッション電流値を用いて、実エミッション電流値Anの算出を行う。具体的には、平均算出部83は、転送信号を直近の所定回数(
図4の例では、5回)だけ受信するのに要した時間の間に入力されたエミッション電流値の平均値を算出する。算出された平均値すなわち実エミッション電流値Anは、除算部84に入力される。除算部84は、制御装置89から入力される目標値A0と、平均算出部83から入力される実エミッション電流値Anとに基づいて、上記の式(2)を用いて、補正係数Kを算出する。算出された補正係数Kは、乗算部85に入力され、乗算部85での補正処理、すなわち、上記の式(1)による演算が行われる。乗算部85の演算結果、すなわち、補正処理後積算検出量IV1は、画像データ生成部82に入力される。
【0045】
図示は省略するが、画像データ生成部82が、TDIセンサ75から転送されたデータを合成して画像データを生成し、その後、補正部81が、生成された画像データに対して補正処理を行う場合には、補正部81は、例えば、以下のようにして補正処理を行うことができる。補正部81は、まず、
図7と同様に、実エミッション電流値Anを順次算出し、あるいは、補正係数Kを順次算出し、それぞれの実エミッション電流値Anまたは補正係数Kをバッファに格納しておく。次に、補正部81は、画像データ生成部82によって生成された画像データから、TDIセンサ75から1回の転送で受け取ったデータ群を、受け取った順に順次抽出する。そして、抽出されたデータ群に対して、補正処理を行う。
【0046】
以上説明した検査装置5によれば、実エミッション電流値Anに基づいて、TDIセンサ75の撮像結果、または、画像データを補正する補正処理を行うので、電子源90のエミッション電流値に変動が生じたとしても、エミッション電流の変動に伴う画像データの輝度ムラの発生を抑制できる。しかも、目標値A0に基づいて、補正処理を行うので、生成される画像データの輝度値を所望の程度に近づけることができる。より具体的には、検査装置5によれば、補正部81は、実エミッション電流値Anが目標値A0よりも小さい場合に、撮像結果または画像データが表す輝度値を大きくする補正を行う。したがって、エミッション電流値が目標値A0よりも小さい側に変動した場合に、当該変動に伴う画像データの輝度ムラの発生を抑制できる。また、検査装置5によれば、補正部81は、実エミッション電流値Anが目標値A0よりも大きい場合に、撮像結果または画像データが表す輝度値を小さくする補正を行う。したがって、エミッション電流値が目標値A0よりも大きい側に変動した場合に、当該変動に伴う画像データの輝度ムラの発生を抑制できる。かかるAn>A0の場合の制御と、An<A0の場合の制御とは、その両方が実施されることが望ましいが、いずれか一方のみが実施されてもよい。例えば、電子光学装置70の特性が、An>A0およびAn<A0のいずれか一方の事象に偏って生じるものである場合には、一方の制御のみを実施してもよい。
【0047】
さらに、検査装置5によれば、検出されたエミッション電流値に基づいて、エミッション電流値の変動が抑制されるようにフィードバック制御を行い、フィードバック制御されたエミッション電流値に基づいて、補正処理を行う。したがって、フィードバック制御と補正処理とが相まって、フィードバック制御では完全には解消できない輝度ムラの発生をいっそう抑制できる。
【0048】
B.変形例:
B−1.変形例1:
実エミッション電流値Anは、TDIセンサ75がY方向の段数分だけ二次荷電粒子の量を積算する期間Tnよりも短い期間においてエミッション電流計96によって検出されたエミッション電流値の特徴量(例えば平均値)としてもよい。例えば、TDIセンサ75のY方向の段数が2048である場合には、実エミッション電流値Anは、二次荷電粒子の量を2000段分だけ積算する期間におけるエミッション電流値の平均値としてもよい。かかる構成によれば、補正処理の精度に大きな影響を与えることなく、画像データの生成速度を高めることができる。
【0049】
B−2.変形例2:
二次荷電粒子の量を検出する撮像手段は、TDIセンサ75に限らず、任意の撮像手段、例えば、EB(Electron Bombardment)−CCD、I(Intensified)−CCDなどであってもよい。
【0050】
B−3.変形例3:
補正処理に使用する補正式は、上述の例に限られない。例えば、補正係数Kは、実エミッション電流値Anと目標値A0とを変数とする任意の関数としてもよい。この場合、関
数は、エミッション電流値と二次荷電粒子の量との相関関係を実験的に把握し、設定してもよい。もとより、補正処理は、必ずしも目標値A0を使用して行う必要はなく、エミッション電流値の変動に起因する画像データへの影響、すなわち、輝度値の変動が緩和されるように、実エミッション電流値Anのみに基づいて行われてもよい。例えば、画像データの各画素ごとの(あるいは、撮像結果における各画素データごとの)、二次荷電粒子の検出過程で検出されたエミッション電流値の各々から、当該電流値の平均値Aavを算出し、次式(3)によって、補正係数Kを算出してもよい。かかる構成としても、エミッション電流値の変動が均されるので、画像データの輝度ムラの発生を抑制できる。
K=Aav/An・・・(3)
【0051】
以上、いくつかの実施例に基づいて本発明の実施の形態について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、特許請求の範囲および明細書に記載された各構成要素の任意の組み合わせ、または、省略が可能である。