(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔第1の実施形態〕
本発明の第1の実施形態による非接触回転角センサについて
図1から
図7を用いて説明する。
図1は、本実施形態による非接触回転角センサ1の外観を模式的に示す図である。
図1(a)は、非接触回転角センサ1の上面を模式的に示し、
図1(b)は、回転位置情報の検出対象のローターに非接触回転角センサ1を設置した状態を模式的に示している。
図1(b)は、非接触回転角センサ1の一側面側から見た状態を示している。
【0013】
図1(a)に示すように、非接触回転角センサ1は、IC(集積回路)パッケージ29内にXホール素子(X軸成分検出部の一例)3と、Yホール素子(Y軸成分検出部の一例)5と、後述する回転角度検出回路10(
図1では不図示)とを有している。Xホール素子3は、ICパッケージ29の上面に平行な平面内において対向配置された第1Xホール素子3a及び第2Xホール素子3bを有している。Yホール素子5は、ICパッケージ29の上面に平行な平面内において対向配置された第1Yホール素子5a及び第2Yホール素子5bを有している。第1及び第2Xホール素子3a,3bと第1及び第2Yホール素子5a,5bとは、同一平面内に配置されている。第1及び第2Xホール素子3a,3bの並ぶ方向と、第1及び第2Yホール素子5a,5bの並ぶ方向とはほぼ直交している。説明の便宜上、
図1中に示すように、第1及び第2Xホール素子3a,3bの並ぶ方向をX軸にとり、第1及び第2Yホール素子5a,5bの並ぶ方向をY軸にとり、X軸及びY軸の両方に直交する方向にZ軸をとる。X軸の正方向は、第1Xホール素子3aから第2Xホール素子3bに向かう方向である。Y軸の正方向は、第1Yホール素子5aから第2Yホール素子5bに向かう方向である。Z軸の正方向は、ICパッケージ29の底面から上面に向かう方向である。
【0014】
図1(b)に示すように、ICパッケージ29の上面に一定の間隔を設けてローター31が配置されている。ローター31は、ICパッケージ29の上面に直交する方向に伸びる出力軸31aと、ICパッケージ29側の出力軸31aの端部に設けられた永久磁石31bとを有している。出力軸31aは例えば円柱形状を有している。永久磁石31bは薄板円盤形状を有している。出力軸31aの中心軸と永久磁石31bの中心軸とは一致している。出力軸31a及び永久磁石31bの中心軸に平行な方向は、Z軸方向、すなわちICパッケージ29の上面に直交する方向に一致している。
【0015】
永久磁石31bとICパッケージ29の上面とは、近接して対向配置されている。永久磁石31bとXホール素子3及びYホール素子5とは近接して対向配置されている。Xホール素子3及びYホール素子5は、ICパッケージ29内に固定して配置されている。これに対し、ローター31は、
図1(b)中に破線矢印で示すように、出力軸31aの中心軸を回転軸として回転するようになっている。ローター31が回転することにより永久磁石31bも回転する。このため、永久磁石31bが形成する磁界の強さや向きは、Xホール素子3及びYホール素子5に対して相対的に変化する。Xホール素子3及びYホール素子5は、永久磁石31bが形成する磁界の相対的変化をホール起電力信号として検出する。非接触回転角センサ1は、Xホール素子3及びYホール素子5が出力するホール起電力信号に基づいてローター31の回転角を検出するようになっている。
【0016】
次に、非接触回転角センサに設けられた回転角度検出回路について
図1を参照しつつ
図2から
図5を用いて説明する。
図2は、本実施形態による非接触回転角センサ1に備えられた回転角度検出回路10の概略構成を示す図である。回転角度検出回路10は、ローター31の回転角度を検出する回転角度検出機能と、自機の故障を検出する故障検出機能とを有している。
図2(a)は、回転角度検出回路10の回路構成の一例を示すブロック図である。
図2(b)は、回転角度検出回路10の信号波形を示し、
図2(b)中の上段は、Yホール素子5が出力する出力信号SHoyの信号波形の一例を示し、
図2(b)中の下段は、YΔΣAD(アナログ−デジタル)変換回路9が出力するYΔΣ変調信号Smdyの信号波形の一例を示している。
【0017】
図2(a)に示すように、回転角度検出回路10は、ローター31(
図1参照)の回転角に基づく磁場のX軸成分を検出するXホール素子3と、ローター31の回転角に基づく磁場のY軸成分を検出するYホール素子5とを有している。Xホール素子3が検出する磁場のX軸成分は、
図1(a)及び
図1(b)中に示すX軸方向の成分である。Yホール素子5が検出する磁場のY軸成分は、
図1(a)及び
図1(b)中に示すY軸方向の成分である。また、回転角度検出回路10は、Xホール素子3が検出する磁場のX軸成分に応じたXΔΣ変調信号(第1のΔΣ変調信号の一例)Smdxを出力するXΔΣAD変換回路(第1のΔΣ変調回路の一例)7と、Yホール素子5が検出する磁場のY軸成分に応じたYΔΣ変調信号(第2のΔΣ変調信号の一例)Smdyを出力するYΔΣAD変換回路(第2のΔΣ変調回路)9とを有している。
【0018】
Yホール素子5は、ローター31に設けられた永久磁石31bが形成する磁場の強度及び磁石の回転角度θに対応した電圧を出力する。
図2(b)中の下段に示すように、Yホール素子5が出力する電圧に基づく出力信号SHoyの信号波形は、例えば正弦波となる。出力信号SHoyの最大値を「A」とすると、出力信号SHoyの信号波形は「A・sinθ」で表すことができる。Xホール素子3及びYホール素子5が出力する出力信号の最大値「A」と「sin」又は「cos」との間の「・」はA及び正弦又は余弦との積算を表す。YΔΣAD変換回路9は、Yホール素子5から入力するアナログの出力信号SHoyをデジタル信号に変換し、AD変換により得られたYΔΣ変調信号Smdyを出力する。
図2(b)中の下段に示すように、YΔΣ変調信号Smdyは1ビットのパルス信号となる。YΔΣ変調信号Smdyは、データの大きさをパルス信号の密度で表している。Yホール素子5が出力する出力信号SHoyの振幅が大きいほど、YΔΣAD変換回路9が出力するYΔΣ変調信号Smdyは、高レベルの区間のパルス数が多くなる。これにより、YΔΣ変調信号Smdyの密度は高くなる。一方、Yホール素子5が出力する出力信号SHoyの振幅が小さいほど、YΔΣAD変換回路9が出力するYΔΣ変調信号Smdyは、高レベルの区間のパルス数が少なくなる。これにより、YΔΣ変調信号Smdyの密度は低くなる。
【0019】
図示は省略するが、Xホール素子3が出力する出力信号SHoxの信号波形は、例えば余弦波となり、「A・cosθ」として表すことができる。XΔΣAD変換回路7は、Xホール素子3から入力するアナログの出力信号SHoxをデジタル信号に変換し、AD変換により得られたXΔΣ変調信号Smdxを出力する。XΔΣ変調信号Smdxは1ビットのパルス信号となる。XΔΣ変調信号Smdxは、YΔΣ変調信号Smdyと同様にデータの大きさをパルス信号の密度で表すようになっている。Xホール素子3が出力する出力信号SHoxの振幅に大きさと、XΔΣAD変換回路7が出力するXΔΣ変調信号Smdxのパルス数及びパルス密度との関係は、YΔΣ変調信号Smdyと同様である。
【0020】
回転角度検出回路10は、角度検出信号(角度信号の一例)が入力され、入力した角度検出信号に応じた余弦データと正弦データとを出力する正弦波データROM(読み出し専用記憶装置)11と、Xホール素子3が出力する出力信号SHox及びYホール素子5が出力する出力信号SHoyと正弦波データROM11が出力する余弦データ及び正弦データとを外積演算して角度誤差信号(外積データの一例)Saeを出力する外積演算回路13とを有している。
【0021】
正弦波データROM11は、余弦/正弦データ出力部の一例である。正弦波データROM11は、入力した角度信号に応じそれぞれ12ビットの余弦データ及び正弦データを出力するようになっている。正弦波データROM11に入力する角度信号は、後述する積分回路17が出力する角度検出信号Sφ(n)である。正弦波データROM11は、入力する角度検出信号Sφ(n)が表す角度φ(n)に応じた余弦データDcos及び正弦データDsinを外積演算回路13に出力する。
【0022】
外積演算回路13は、XΔΣAD変換回路7が出力するXΔΣ変調信号Smdxが入力する第1入力端子Icp1と、YΔΣAD変換回路9が出力するYΔΣ変調信号Smdyが入力する第2入力端子Icp2と、正弦波データROM11が出力する余弦データDcosが入力する第3入力端子Icp3と、正弦波データROM11が出力する正弦データDsinが入力する第4入力端子Icp4とを有している。
図2(a)では、第1から第4入力端子Icp1,Icp2,Icp3,Icp4は、「Icp」の文字を省略して各入力端子の数値のみが図示されている。外積演算回路13は、第1入力端子Icp1及び第2入力端子Icp2にそれぞれ入力する信号と、第3入力端子Icp3及び第4入力端子Icp4にそれぞれ入力する信号とを外積演算して角度誤差信号Saeを出力する。角度誤差信号Saeは、外積演算回路13に設けられた出力端子Ocpから出力される。外積演算回路13が実行する外積演算を各端子の符号を用いて表すと、以下の式(1)のようになる。
Ocp=Icp1×Icp4−Icp2×Icp3 ・・・(1)
【0023】
外積演算回路13の第1入力端子Icp1に入力する信号は、XΔΣAD変換回路7が出力するXΔΣ変調信号Smdxである。外積演算回路13の第2入力端子Icp2に入力する信号は、YΔΣAD変換回路9が出力するYΔΣ変調信号Smdyである。外積演算回路13の第3入力端子Icp3に入力する信号は、正弦波データROM11が出力する余弦データDcosである。外積演算回路13の第4入力端子Icp4に入力する信号は、正弦波データROM11が出力する正弦データDsinである。例えば、XΔΣ変調信号Smdxを「A・cosθ」とし、YΔΣ変調信号Smdyを「A・sinθ」とし、余弦データDcosを「cos(φ(n))」とし、正弦データDsinを「sin(φ(n))」とすると、式(1)及び加法定理より、外積演算回路13が出力端子Ocpから出力する角度誤差信号Saeは、以下のようになる。
角度誤差信号Sae=A・cosθ×sin(φ(n))
−A・sinθ×cos(φ(n)
=A・sin(φ(n)−θ)
【0024】
角度誤差信号Saeは閉ループの特性により0に収束し、十分に小さい値となるため、「sin(φ(n)−θ)」は「φ(n)−θ」と近似できる。したがって、角度誤差信号Saeは「A×(φ(n)−θ)」となる。
回転角度検出回路10は、外積演算回路13が出力する角度誤差信号Saeが入力する位相補償回路15と、位相補償回路15が出力する角度誤差信号Saeを積分して角度検出信号Sφ(n)を出力する積分回路(角度信号出力部の一例)17とを有している。
【0025】
位相補償回路15は、オールパスフィルタ特性を有している。このため、位相補償回路15が出力する角度誤差信号Saeは、外積演算回路13が出力する角度誤差信号Saeに対して位相が異なるだけで振幅特性は同じである。位相補償回路15は、外積演算回路13、位相補償回路15、積分回路17及び正弦波データROM11によって構成される閉ループL1の発振を防ぐために配置されている。本実施形態では、位相補償回路15は、外積演算回路13の後段に配置されているが、積分回路17の後段や正弦波データROM11の前段に配置されてもよい。この場合も、位相補償回路15は、閉ループL1の発振を防止できる。
【0026】
積分回路17は、角度誤差信号Saeを積分する回路であり、閉ループL1を組むことで角度誤差信号Saeに重畳するノイズ信号を低減するためのループフィルタとして機能する。また、積分回路17が出力する角度検出信号Sφ(n)は、閉ループL1によって正弦波データROM11を経由して積分回路17の入力へフィードバックされる。これにより、角度誤差信号「A×(φ(n)−θ)」は0に収束される。外積演算回路13が出力する角度誤差信号「A×(φ(n)−θ)」は、XΔΣAD変換回路7及びYΣAD変換回路9がそれぞれ出力する1ビットのXΔΣ変調信号Smdx,Smdyに基づいている。このため、角度誤差信号「A×(φ(n)−θ)」は、ノイズ信号を多く含んでおり、位相補償回路15及び積分回路17を通じて平滑化及びビット拡張が行われる。これにより、積分回路17から最終的に出力される角度検出信号Sφ(n)は、12ビット(0〜4095LSB)の分解能を持つ角度データとして出力される。φ(n)の分解能を0〜4095LSBとすると、角度検出信号Sφ(n)とローター31の実際の回転角度θとの関係は、以下のように表すことができる。
θ=φ(n)×360°/4096
【0027】
回転角度検出回路10は、第1のデータD1及び第2のデータD2を出力するマルチプレクサ回路(選択回路の一例)23と、XΔΣ変調信号Smdx及びYΔΣ変調信号Smdyと、第1のデータD1及び第2のデータD2との内積データDspを演算する内積演算回路19と、内積演算回路19が出力する内積データDspを平滑化して振幅信号Sapを出力するデジタルフィルタ回路21とを有している。さらに、回転角度検出回路10は、有効化データ(第3のデータの一例)Dmdv及び無効化データ(第4のデータの一例)Dmdiを生成する有効化/無効化データ生成回路27と、マルチプレクサ回路23に出力する制御信号Scを生成する制御信号生成回路25とを有している。
【0028】
マルチプレクサ回路23には、正弦波データROM11が出力する余弦データDcos及び正弦データDsinと、有効化/無効化データ生成回路27が出力する有効化データDmdv及び無効化データDmdiとが入力する。マルチプレクサ回路23は、非接触回転角センサ1が使用モードのときに、正弦波データROM11が出力する余弦データDcos及び正弦データDsinを選択する。そして、マルチプレクサ回路23は、選択した余弦データDcos及び正弦データDsinを第1のデータD1及び第2のデータD2としてそれぞれ内積演算回路19に出力するようになっている。また、マルチプレクサ回路23は、非接触回転角センサ1が検査モードのときに、有効化/無効化データ生成回路27が出力する有効化データDmdv及び無効化データDmdiを選択して第1のデータD1及び第2のデータD2としてそれぞれ内積演算回路19に出力するようになっている。マルチプレクサ回路23は、第1又は第2のデータD1,D2を出力する第1出力端子Omp1及び第2出力端子Omp2を有している。マルチプレクサ回路23は、制御信号生成回路25から入力する制御信号Scの値に応じて第1及び第2出力端子Mot1,Mot2から第1及び第2のデータD1,D2のいずれを出力するのかを決定するようになっている。
【0029】
制御信号生成回路25が出力する制御信号Scは、非接触回転角センサ1が現時点で使用モード及び検査モードのいずれの状態であるのかを示す情報を有している。例えば、制御信号Scの値が「0」のときに非接触回転角センサ1が使用モードであると判定され、制御信号Scの値が「1」又は「2」のときに非接触回転角センサ1が検査モードであると判定される。
【0030】
有効化/無効化データ生成回路27が生成する有効化データDmdv及び無効化データDmdiは、それぞれ12ビットのデータである。有効化データDmdvは例えば2
12LSBであり、無効化データDmdiは例えば0LSBである。
【0031】
マルチプレクサ回路23が出力する有効化データDmdvは、内積演算回路19に出力され、内積演算回路19に入力するXΔΣ変調信号Smdx及びYΔΣ変調信号Smdyのうち一方を有効にするデータである。マルチプレクサ回路23が出力する無効化データDmdiは、内積演算回路19に出力され、内積演算回路19に入力するXΔΣ変調信号Smdx及びYΔΣ変調信号Smdyのうち他方を無効にするデータである。
【0032】
内積演算回路19は、マルチプレクサ回路23の第1出力端子Omp1から出力されるデータ信号が入力する第1入力端子Isp1と、マルチプレクサ回路23の第2出力端子Omp2から出力されるデータ信号が入力する第2入力端子Isp2と、XΔΣAD変換回路7が出力するXΔΣ変調信号Smdxが入力する第3入力端子Isp3と、YΔΣAD変換回路9が出力するYΔΣ変調信号Smdyが入力する第4入力端子Isp4とを有している。
図2(a)では、第1から第4入力端子Isp1,Isp2,Isp3,Isp4は、「Isp」の文字を省略して各入力端子の数値のみが図示されている。内積演算回路19は、第1入力端子Isp1及び第2入力端子Isp2にそれぞれ入力するデータ信号と、第3入力端子Isp3及び第4入力端子Isp4にそれぞれ入力する信号とを内積演算して内積データDspを出力する。内積データDspは、内積演算回路19に設けられた出力端子Ospから出力される。内積演算回路19が実行する外積演算を各端子の符号を用いて表すと、以下の式(2)のようになる。
Osp=Isp1×Isp3+Isp2×Isp4 ・・・(2)
【0033】
詳細は後述するが、第3及び第4入力端子Isp3,Isp4に入力する信号は、非接触回転角センサ1の動作状態が使用モード及び検査モードのいずれの場合もXΔΣ変調信号Smdx及びYΔΣ変調信号Smdyで変更されないのに対し、第1及び第2入力端子Isp2,Isp2に入力する信号は、非接触回転角センサ1の動作状態によって異なるようになっている。
【0034】
デジタルフィルタ回路21は、内積演算回路19が出力する内積データDspを平均化し、12ビットの振幅信号Sapを出力する。デジタルフィルタ回路21は、内積データDspに対し平滑化するためのローパスフィルタの機能を発揮するようになっている。
【0035】
上述のとおり、回転角度検出回路10は、永久磁石31bの磁界強度及び回転角度θに対応する出力信号SHox,SHoyを出力するXホール素子3及びYホール素子5と、アナログの出力信号SHox,SHoyを1ビット信号に変調するXΔΣAD変換回路7及びYΔΣAD変換回路9と、閉ループ方式のデジタル角度演算回路12と、内積演算回路19と、内積演算回路19に入力するデータ信号を選択して切り替えるマルチプレクサ回路23と、内積演算回路19が出力するデータ信号を平均化するデジタルフィルタ回路21とを主な構成として備えている。閉ループ方式のデジタル角度演算回路12は、外積演算回路13、位相補償回路15、積分回路17及び正弦波データROM11で構成されている。
【0036】
ホール素子、MR(Magneto−Resistance)素子あるいはレゾルバといった磁気式の回転角センサは、いずれも回転体の回転に同期したアナログ電圧を信号として出力する。磁気式の回転角センサは、ホール素子等のセンサが出力するアナログ信号をAD変換回路によってデジタル信号に変換した後、デジタル回路部で角度位置情報の演算が行われる。デジタル回路部で角度位置情報を検出する信号処理回路として閉ループ方式(サーボ方式)の回路が使用される。閉ループ方式の信号処理回路を用いた回転角度検出回路は、角度検出に必要な信号処理による遅延時間を最短にすることができる。このため、閉ループ方式の信号処理回路を用いた角度検出回路は、モーター制御における非接触回転角度センサにおいて極めて好適な信号処理回路となる。
【0037】
本実施形態でも、閉ループ方式の信号処理回路を用いたデジタル角度演算回路12が用いられている。デジタル角度演算回路12は、出力信号SHox,SHoy(例えば、A・cosθ、A・sinθ)を1ビットに変調したXΔΣ変調信号Smdx及びYΔΣ変調信号Smdyと、正弦波データROM11からの余弦データDcos(例えばcosφ(n))及び正弦データDsin(例えばsin(φ(n)))との間で外積演算を行う。デジタル角度演算回路12は、算出する角度誤差信号「φ(n)−θ」が0に収束するようにフィードバックが組まれてる。デジタル角度演算回路12は、離散時間システムの伝達関数で等価的に表すことができる。
【0038】
図3は、デジタル角度演算回路12を離散時間システムの伝達関数で説明する図である。
図3(a)は、デジタル角度演算回路12を離散時間システムの伝達関数で等価的に表したブロック図である。
図3(b)は、デジタル角度演算回路12の動作周波数を2MHzとした場合のループフィルタ特性の一例を示すグラフである。横軸は周波数f(Hz)を示し、縦軸は増幅率(dB)を示している。
【0039】
図3(a)に示すように、離散時間システムの伝達関数で等価的に表されたデジタル角度演算回路12は、加減算器35と、伝達関数「(1−bZ
−1)/(1−aZ
−1)」で表される位相補償回路37と、2つの伝達関数「c/(1−Z
−1)」で表される積分回路39とを有している。伝達関数における「a」は「2047/2048」であり、「b」は「2040/2048」であり、cは「2/2048」である。積分回路39が出力する出力信号は加減算器35に入力する。これにより、加減算器35、位相補償回路37及び積分回路39によって閉ループが形成される。加減算器35には、積分回路39の出力信号の他に、増幅回路33が出力する1ビットの出力信号が入力するようになっている。増幅回路33は、
図2(a)に示すXΔΣAD変換回路7及びYΔΣAD変換回路9に相当し、1ビット信号を出力する。加減算器35は、増幅回路33の出力信号から積分回路39の出力信号を減算した差信号SOを位相補償回路37に出力する。
【0040】
図3(b)に示すように、
図3(a)に示す伝達関数の構成においてデジタル角度演算回路12が形成する閉ループのフィルタ特性は、動作周波数を2MHzとした場合、1kHz程度の帯域のローパスフィルタ特性となる。このため、デジタル角度演算回路12は、1ビット信号に含まれるノイズ(例えば数100kHzから数MHzの量子化ノイズ)を抑制するのに十分なフィルタ特性を有する。また、XΔΣAD変換回路7及びYΔΣAD変換回路9が12ビットの分解能を有しているとすると、増幅回路33が出力する出力信号は、実効的には1ビット(0又は4095LSBの2値)の信号となる。加減算器35に入力する1ビットの出力信号は、デジタル角度演算回路12が形成する閉ループに入力する際、すなわち加減算器35から出力する際に、正弦波データROM11(
図2(a)参照)が出力する余弦データDcos及び正弦データDsinのビット数に相当する12ビットにビット拡張される。デジタル角度演算回路12は、12ビットにビット拡張された信号(実際には0又は4095LSBの2値の信号)を位相補償回路37及び積分回路39に経由させて当該信号に重畳するノイズを低減し、加減算器35にフィードバックする。これにより、デジタル角度演算回路12は、加減算器35が出力する差信号SOを0に収束させる。積分回路39が出力する12ビットの出力信号の値は、加減算器35に入力する信号の値と等しくなる。デジタル角度演算回路12が形成する閉ループのローパスフィルタ特性によって加減算器35に入力する信号は平滑化される。このため、デジタル角度演算回路12に入力する2値のデジタル信号が、正確な12ビットの分解能を持つデジタルデータ信号として変換される。
【0041】
図2に戻って、Xホール素子3及びYホール素子5が出力するアナログの出力信号SHox,SHoyをデジタル信号に変換するAD変換回路として、1ビット変調を行うX及びYΔΣAD変換回路7,9を用いる利点は、角度誤差信号Saeの計算部である外積演算回路13を加減算器を用いた簡易な構成とすることができることにある。外積演算回路13には、正弦波データROM11から12ビットの余弦及び正弦データDcos,Dsinが入力するものの、X及びYΔΣAD変換回路7,9からは1ビットのX及びY変調信号Smdx,Smdyが入力する。このため、余弦及び正弦データDcos,DsinとX及びY変調信号Smdx,Smdyとの外積演算は、乗算せずに加減算のみで実行できる。このため、外積演算回路13は、大規模な回路となる乗算器を必要とせず、加減算器を用いた簡易な構成で実現でき、回路規模を小さくできる。
【0042】
次に、マルチプレクサ回路23の動作を中心に、本実施形態による非接触回転角センサ1の動作について
図2(a)を参照しつつ
図4及び
図5を用いて説明する。
図4は、マルチプレクサ回路23に入力する制御信号Scの値と、第1及び第2出力端子Omp1,Omp2から出力される出力信号との関係を示す出力信号選択テーブルの一例である。出力信号選択テーブルは、マルチプレクサ回路23に設けられた所定の記憶部(不図示)に記憶されている。出力信号選択テーブルは、「制御信号」欄及び「出力信号」欄の2つに区分されている。「制御信号」は、制御信号生成回路25が生成しマルチプレクサ回路23に入力する制御信号Scを示している。「出力信号」は、マルチプレクサ回路23が出力する出力信号を示している。「出力信号」欄は、「D1」欄及び「D2」欄の2つに区分されている。「D1」は、マルチプレクサ回路23の第1出力端子Omp1から出力される第1のデータD1を示し、「D2」は、マルチプレクサ回路23の第2出力端子Omp2から出力する第2のデータD2を示している。「制御信号」欄には、制御信号Scの取り得る値「0」、「1」及び「2」が格納されている。「D1」欄及び「D2」欄には、制御信号Scの値に応じて第1及び第2のデータD1,D2として第1及び第2出力端子Omp1,Omp2からそれぞれ出力される出力信号の種類が格納されている。
【0043】
図5は、マルチプレクサ回路23及び内積演算回路19の動作状態を示す図である。
図5(a)は、制御信号Scの値が「0」の場合のマルチプレクサ回路23及び内積演算回路19の動作状態を示し、
図5(b)は、制御信号Scの値が「1」の場合のマルチプレクサ回路23及び内積演算回路19の動作状態を示し、
図5(c)は、制御信号Scの値が「2」の場合のマルチプレクサ回路23及び内積演算回路19の動作状態を示している。
【0044】
上述のとおり、回転角度検出回路10は、ローター3の回転に伴う磁場の変化をXホール素子3及びYホール素子5で検出する。次に、回転角度検出回路10は、X及びYホール素子3,5が出力するアナログの出力信号SHox,SHoyをX及びYΔΣAD変換回路7,9によって1ビットのデジタル信号であるX及びY変調信号Smdx,Smdyに変換して外積演算回路13に出力する。回転角度検出回路10は、外積演算回路13、位相補償回路15、積分回路17及び正弦波データROM11によって構成されるデジタル角度演算回路12によってX及びY変調信号Smdx,Smdyに等しい角度検出信号Sφ(n)を出力する。その際、デジタル角度演算回路12は、外積演算回路13、位相補償回路15、積分回路17及び正弦波データROM11によって形成される閉ループL1で角度検出信号Sφ(n)をフィードバックし、外積演算回路13が出力する角度誤差信号Saeを「0」に収束させる。回転角度検出回路10は、非接触回転角センサ1の動作状態が使用モード及び検査モードのいずれの場合も上述のとおり動作する。
【0045】
図4に示すように、出力信号選択テーブルでは、「制御信号」欄の「0」に対応して「D1」欄には「Dcos」が格納され、「D2」欄には「Dsin」が格納されている。このため、
図5(a)に示すように、非接触回転角センサ1の動作状態が使用モードであって制御信号Scの値が「0」の場合、マルチプレクサ回路23は、正弦波データROM11から入力する余弦データDcos及び正弦データDsinを選択する。そして、マルチプレクサ回路23は、第1出力端子Omp1から余弦データDcosを第1のデータD1として出力し、第2出力端子Opm2から正弦データDsinを第2のデータD2として出力する。
【0046】
内積演算回路19は、上述の式(2)に基づいて、第1及び第2入力端子Isp1,Isp2に入力する信号と、第3及び第4入力端子Isp3,Isp4に入力する入力信号とを内積した内積データDspを演算する。第1入力端子Isp1に入力する余弦データDcosを「cos(φ(n))」とし、第2入力端子Isp2に入力する正弦データDsinを「sin(φ(n))」とし、第3入力端子Isp3に入力するXΔΣ変調信号Smdxを「A・cosθ(1ビット)」とし、第4入力端子Isp4に入力するYΔΣ変調信号Smdyを「A・sinθ(1ビット)」とする。この場合、式(2)より、内積データDspは、「A・cosθ(1ビット)×cos(φ(n))+A・sinθ(1ビット)×sin(φ(n))」となる。角度検出信号Sφ(n)の値「φ(n)」は「θ」となる。このため、内積データDspは後段のデジタルフィルタ回路21で1ビット変調に伴うノイズを抑制した後、ピタゴラスの定理(sin
2θ+cos
2θ=1)より、デジタル信号で表された「A」となる。
【0047】
図2(a)に示すように、内積演算回路19の後段に配置されるデジタルフィルタ回路21は、内積演算回路19が出力するデジタル信号を平滑化し、12ビット分解能を確保した値「A」の振幅信号Sapを出力する。このとき振幅信号SapはX及びYホール素子3,5に印加されるXY面内の磁界強度に比例した値となる。
【0048】
図4に示すように、出力信号選択テーブルでは、「制御信号」欄の「1」に対応して「D1」欄には「Dmdv」が格納され、「D2」欄には「Dmdi」が格納されている。このため、
図5(b)に示すように、非接触回転角センサ1の動作状態が検査モードであって制御信号Scの値が「1」の場合、マルチプレクサ回路23は、有効化/無効化データ生成回路27から入力する有効化データDmdv及び無効化データDmdiを選択する。そして、マルチプレクサ回路23は、第1出力端子Omp1から有効化データDmdvを第1のデータD1として出力し、第2出力端子Opm2から無効化データDmdiを第2のデータD2として出力する。
【0049】
第1入力端子Isp1に入力する有効化データDmdvを「2
12LSB」とし、第2入力端子Isp2に入力する無効化データDmdiを「0LSB」とし、第3入力端子Isp3に入力するXΔΣ変調信号Smdxを「A・cosθ(1ビット)」とし、第4入力端子Isp4に入力するYΔΣ変調信号Smdyを「A・sinθ(1ビット)」とする。この場合、式(2)より、内積データDspは、「A・cosθ(1ビット)×2
12LSB+A・sinθ(1ビット)×0LSB」となる。このため、内積データDspは、「A・cosθ(1ビット)×2
12LSB」となる。
【0050】
XΔΣ変調信号Smdxは、A・cosθが1ビットであって0又は1の2値の信号である。このため、内積演算回路19から出力される内積データDspは、0LSB又は2
12LSBの2値の信号となる。内積演算回路19の後段に配置されるデジタルフィルタ回路21は、内積演算回路19が出力する0LSB及び2
12LSBを平滑化し、12ビット分解能を確保し12ビットの値「A・cosθ」の振幅信号Sapを出力する。このとき振幅信号SapはX及びYホール素子3,5に印加されるXY面内の磁界強度のX軸成分に比例した値となる。
【0051】
図4に示すように、出力信号選択テーブルでは、「制御信号」欄の「2」に対応して「D1」欄には「Dmdi」が格納され、「D2」欄には「Dmdv」が格納されている。このため、
図5(c)に示すように、非接触回転角センサ1の動作状態が検査モードであって制御信号Scの値が「2」の場合、マルチプレクサ回路23は、有効化/無効化データ生成回路27から入力する有効化データDmdv及び無効化データDmdiを選択する。そして、マルチプレクサ回路23は、第1出力端子Omp1から無効化データDmdiを第1のデータD1として出力し、第2出力端子Opm2から有効化データDmdvを第2のデータD2として出力する。
【0052】
第1入力端子Isp1に入力する無効化データDmdiを「0LSB」とし、第2入力端子Isp2に入力する有効化データDmdvを「2
12LSB」とし、第3入力端子Isp3に入力するXΔΣ変調信号Smdxを「A・cosθ」とし、第4入力端子Isp4に入力するYΔΣ変調信号Smdyを「A・sinθ」とする。式(2)より、内積データDspは、「A・sinθ(1ビット)×2
12LSB」(=A・cosθ×0LSB+A・sinθ×2
12LSB)となる。
【0053】
YΔΣ変調信号Smdyは、A・sinθが1ビットであって0又は1の2値の信号である。このため、内積演算回路19から出力される内積データDspは、0LSB又は2
12LSBの2値の信号となる。内積演算回路19の後段に配置されるデジタルフィルタ回路21は、内積演算回路19が出力する0LSB及び2
12LSBを平滑化し、12ビット分解能を確保し12ビットの値「A・sinθ」の振幅信号Sapを出力する。このとき振幅信号SapはX及びYホール素子3,5に印加されるXY面内の磁界強度のY軸成分に比例した値となる。
【0054】
本実施形態では、「A」、「A・cosθ」、「A・sinθ」を12ビット値に変換するために使用したデジタルフィルタ回路は全て同一の回路(すなわちデジタルフィルタ回路21)となっている。そのため、本実施形態による非接触回転角センサ1は、回路面積が相対的に大きいデジタルフィルタ回路を複数必要とせずに、簡易な構成のマルチプレクサ回路23の追加のみで、「A」、「A・cosθ」、「A・sinθ」の3つの信号を出力することが可能となる。後述するが、「A・cosθ」及び「A・sinθ」の各信号は、デジタル角度演算回路の故障検出や、経年変化等による角度検出信号に含まれる角度誤差を検出する、あるいは補正するための有用な信号である。
【0055】
次に、本実施形態による非接触回転角センサ1と、非接触回転角センサ1に関連する関連技術とを比較しながら非接触回転角センサ1の効果などについて、
図2及び
図5を参照しつつ
図6及び
図7を用いて説明する。
【0056】
図6は、特許文献1、特許文献2で開示されている、1つ目の関連技術であって非接触回転角センサに備えられた回転角度検出回路101の概略構成を示すブロック図である。回転角度検出回路101は故障検出機能を有している。
図6に示すように、回転角度検出回路101は、閉ループ方式のデジタル角度演算回路102を有している。デジタル角度演算回路102は、外積演算回路113と、位相補償回路115と、積分回路117と、正弦波データROM111とで構成されている。外積演算回路113は、入力するXΔΣ変調信号Smdx及びYΔΣ変調信号Smdyと、正弦波データROM111が出力する余弦データDcos及び正弦データDsinとを外積演算して角度誤差信号Saeを位相補償回路115に出力する。回転角度検出回路101は、Xホール素子3及びYホール素子5と同じ機能を発揮するXホール素子103及びYホール素子105と、XΔΣAD変換回路7及びYΔΣAD変換回路9と同じ機能を発揮するXΔΣAD変換回路107及びYΔΣAD変換回路109とを有している。X及びYΔΣAD変換回路107,109は、外積演算回路113に入力するX及びYΔΣ変調信号Smdx,Smdyをそれぞれ出力する。
【0057】
X及びYΔΣAD変換回路107,109から出力されたX及びYΔΣ変調信号Smdx,Smdyは、デジタル角度演算回路102が形成する閉ループに入力する際、すなわち外積演算回路113から出力される際に、正弦波データROM111が出力する余弦データDcos及び正弦データDsinのビット数に相当する12ビットにビット拡張される。デジタル角度演算回路102は、12ビットにビット拡張された信号(実際には最小値及び最大値の2値のデジタル信号)を位相補償回路115及び積分回路117に経由させ、この信号に重畳するノイズを低減し、外積演算回路113にフィードバックする。これにより、デジタル角度演算回路102は、外積演算回路113が出力する角度誤差信号Saeを0に収束させる。
【0058】
回転角度検出回路101は、XΔΣAD変換回路107及びYΔΣAD変換回路109から入力するXΔΣ変調信号Smdx及びYΔΣ変調信号Smdyと、正弦波データROM111から入力する余弦データDcos及び正弦データDsinとの内積を演算する内積演算回路119と、内積演算回路119が出力する内積データDspが入力するデジタルフィルタ回路121と、デジタルフィルタ回路121から出力する振幅信号Sapが入力する閾値判定回路123とを有している。デジタルフィルタ回路121は、内積演算回路119が出力するデジタル信号の内積データDspを平滑化し、所定ビット(例えば12ビット)分解能を確保した値の振幅信号Sapを出力する。
【0059】
1つ目の関連技術における回転角度検出回路101は、角度誤差信号を算出する外積演算回路113に加え、内積演算回路119を有することにより、角度検出信号Sφ(n)に基づいて振幅信号Sapを検出できる。さらに、回転角度検出回路101は、閾値判定回路123を有することにより、X及びYホール素子103,105からの信号が大きすぎる場合や小さすぎる場合にエラーと判定し、エラー信号Ser1,Ser2を出力することが可能になっている。例えば、閾値判定回路123には、上限閾値信号Sup及び下限閾値信号Sloが入力するようになっている。
【0060】
内積演算回路119の第1入力端子Isp1に入力する余弦データDcosを「cos(φ(n))」とし、第2入力端子Isp2に入力する正弦データDsinを「sin(φ(n))」とし、第3入力端子Isp3に入力するXΔΣ変調信号Smdxを「A・cosθ」とし、第4入力端子Isp4に入力するYΔΣ変調信号Smdyを「A・sinθ」とする。なお、
図6では、内積演算回路119の第1から第4入力端子Isp1,Isp2,Isp3,Isp4は、「Isp」の文字を省略して各入力端子の数値のみが図示されている。式(2)より、内積データDspは、「A・cosθ(1ビット)×cos(φ(n))+A・sinθ(1ビット)×sin(φ(n))」となる。角度検出信号Sφ(n)の値「φ(n)」は「θ」となる。このため、内積データDspは、ピタゴラスの定理(sin
2θ+cos
2θ=1)より、デジタル信号で表された「A」となる。
【0061】
内積演算回路119が出力する内積データDspは1ビット信号を元に計算されるため、1ビット量子化に伴うノイズを多く含む。このため、回転角度検出回路101は、内積演算回路119の後段にローパスフィルタ特性を有するデジタルフィルタ回路121を設けて内積データDspを平滑化し振幅信号Sapを必要な精度や分解能で算出できるようになっている。閾値判定回路123は、必要な精度や分解能で算出された振幅信号Sapが上限閾値信号Supを超えているとエラー信号Ser1を出力し、振幅信号Sapが下限閾値信号Sloより下回っているとエラー信号Ser2を出力する。これにより、回転角度検出回路101は、アナログ回路部の断線や短絡といった異常やセンサの故障検出が可能となる。例えば、回転を検出するセンサとしてホール素子を用いた場合、ホール素子の信号配線が電源と短絡した場合、「A」は上限閾値の判定により故障が検出できる。また、ホール素子に近接して設ける磁石が落下すると「A」=0となり、下限閾値の判定により故障検出が可能になる。またレゾルバを用いた場合に関しても、同じ構成によりコイルの断線等を検出することが可能となる。
【0062】
図7は、2つ目の関連技術であって非接触回転角センサに備えられた回転角度検出回路201の概略構成を示すブロック図である。
図7に示すように、2つ目の関連技術における回転角度検出回路201は、IC回路部203と、モーター制御用マイコン205とを有している。回転角度検出回路201は、IC回路部203で演算した角度検出信号Sφ(n)と、IC回路部が出力する12ビットの余弦信号(SADox)、正弦信号(SADoy)を元にモーター制御用マイコン205で演算した角度検出信号Sθ(n)とを比較して角度検出信号Sφ(n)が正しい値であるか否かを判定するようになっている。
【0063】
IC回路部203は、不図示のモーターの回転に伴う磁場の変化を検出するXホール素子203a及びYホール素子203bと、X及びYホール素子203a,203bが出力するアナログの出力信号を12ビットのデジタル値にAD変換するAD変換回路203cと、AD変換回路203cが出力するデジタル信号が入力するデジタル角度演算回路203dとを有している。AD変換回路203cは、12ビットの逐次比較方式のAD変換回路である。
【0064】
モーター制御用マイコン205は、AD変換回路203cが出力するデジタル信号が入力するデジタル角度演算回路205aと、デジタル角度演算回路205aが算出した角度検出信号Sθ(n)と、IC回路部203に設けられたデジタル角度演算回路203dが算出した角度検出信号Sφ(n)とを比較する比較回路205bと有している。デジタル角度演算回路205aは、デジタル角度演算回路203dと同様の構成を有している。
【0065】
例えば、非接触回転角センサのIC回路部203が正常に機能して、角度検出信号Sφ(n)が正しい値であるか否かを判定しようとしたとする。回転角度検出回路201では、デジタル角度演算回路203dが検出する角度検出信号Sφ(n)に加え、逐次比較AD回路203cが出力する12ビットのデジタル信号SADox,SADoyを元に、モーター制御用マイコン205に備えられたデジタル角度演算回路205aで角度検出信号Sθ(n)を演算するようになっている。さらに、回転角度検出回路201は、デジタル角度演算回路203dが演算した角度検出信号Sφ(n)と、デジタル角度演算回路205aが演算した角度検出信号Sθ(n)とを比較回路205bで比較して、角度検出信号Sφ(n)が正しい値であるか否かを判定するようになっている。このように、回転角度検出回路201は、デジタル角度演算回路203dが故障しているか否かを判定できる。
【0066】
また、Xホール素子203aが出力する出力信号SHoxはA・cosθであり、Yホール素子203bが出力する出力信号SHoyはA・sinθであらわされるアナログ電圧値となるが、出力信号SHox及び出力信号SHoyは、実際には半導体製造ばらつきや磁石・IC回路の経年変化により固有の検出感度の誤差やオフセットが加算された信号となる。このため、Xホール素子203aのオフセットをOffxとし、Yホール素子203bのオフセットをOffyとし、Xホール素子203aの検出感度をAxとし、Yホール素子203bの検出感度をAyとすると、出力信号SHox及び出力信号SHoyは、以下の式(3)及び式(4)で表すことができる。
SHox=Ax・cosθ+Offx ・・・(3)
SHoy=Ay・sinθ+Offy ・・・(4)
【0067】
Xホール素子203a及びYホール素子203bの検出感度Ax及び検出感度Ayとの間に、1%のミスマッチが生じた場合、角度検出信号Sφ(n)に生じる角度誤差は、モーターが45°近辺の角度位置で約0.3°(=45°−(tan
−1((0.99×sin45°)/(1.00×cos45°))))となり、実際のモーターの角度位置よりも0.3°ずれて角度が検出される。また、検出感度Ayに対し1%のオフセットが加算された場合、このオフセットにより角度検出信号Sφ(n)生じる角度誤差は、モーターが0°近辺の角度位置で約−0.6°(=0°−(tan
−1((1.00×sin0°+0.01)/(1.00×cos0°))))となる。このような角度検出信号の誤差は、製造ばらつきに加えて、ホール素子の場合は磁石や半導体の経年変化により増大し、レゾルバの場合も、レゾルバを構成するコイルの抵抗等の経年変化により増大する。そのような経年変化に伴う、角度検出信号の誤差といった細かな故障を検出(あるいは補正)するには、検出感度のミスマッチやオフセットをあらかじめ調べる必要がある。また、検出感度のミスマッチやオフセットに関しては、実際にはホール素子以外にAD変換回路の誤差も含むため、SHox信号、SHoy信号をAD変換した、SADox信号、SADoy信号を元に算出することが望ましい。2つ目の関連技術の構成においては、AD変換回路に12ビットの逐次比較方式のAD変換回路を使用しており、12ビットのデジタル値に変換された、SADox信号、SADoy信号をIC回路外へ出力し、検出感度のミスマッチやオフセットを算出することで、角度検出信号の誤差の増加といった細かな故障の検出も可能である。
【0068】
ただし2つ目の関連技術によるデジタル角度演算回路の故障検出や、経年変化に伴う角度検出信号の誤差の増大といった細かな故障検出は、1つ目のΔΣAD変換回路を用いた関連技術の構成では適用できない。AD変換回路にΔΣAD変換回路を用いた回転角度検出回路101は、XΔΣ変調信号Smdx及びYΔΣ変調信号Smdyが1ビット変調された信号となる。このため、XΔΣ変調信号Smdx及びYΔΣ変調信号Smdyは、
図2(b)中の下段に示すように、矩形の高周波信号となる。このため、XΔΣ変調信号Smdx及びYΔΣ変調信号Smdyを直接検出しても、検出された信号から有効な情報は得られない。その結果、回転角度検出回路101は、XΔΣ変調信号Smdx及びYΔΣ変調信号Smdyを直接検出できない場合、非接触回転角センサのデジタル回路部の故障検出に対応できないという問題と、角度検出信号Sφ(n)の経年変化に伴う細かな角度検出信号の誤差の増加が検出できないという問題とが生じる。
【0069】
これに対し、本実施形態による非接触回転角センサ1に設けられた回転角度検出回路10は、マルチプレクサ回路23を有している。マルチプレクサ回路23は、非接触回転角センサ1が検査モードの際に、有効化データDmdv及び無効化データDmdiを内積演算回路19に出力する。本実施形態による非接触回転角センサ1は、XΔΣAD変換回路7及びYΔΣAD変換回路9から直接検出したXΔΣ変調信号Smdx及びYΔΣ変調信号Smdyを内積演算回路19に入力し、内積演算回路19で有効化データDmdv及び無効化データDmdiとXΔΣ変調信号Smdx及びYΔΣ変調信号Smdyとを内積演算した内積データDspに基づいて、共通のデジタルフィルタ回路で平滑化を行い、「A」、「A・cosθ」、「A・sinθ」の12ビットに変換されたデジタル信号を得ることができる。このため、非接触回転角センサ1は、わずかな回路の追加のみで、アナログ回路部やセンサ部の故障検出に加え、回転角度検出回路10のデジタル部の故障検出や、経年変化に伴う角度検出信号の誤差の増加といった細かな故障検出に対応できる。
【0070】
また、この問題を解決するために、Xホール素子203a及びYホール素子203bが出力する出力信号を1ビット変調されたXΔΣ変調信号及びYΔΣ変調信号に変換するΔΣAD変換回路と、このXΔΣ変調信号及びYΔΣ変調信号を平滑化及びビット拡張を行うためのデジタルフィルタ回路を専用で備える方法も考えられる。しかしながら、デジタルフィルタ回路は、レジスタ(記憶装置)やフルアダー(加算器)といった面積の大きいデジタル回路を多数必要とする。このため、デジタルフィルタ回路の増加は、IC回路部203の回路面積の増大を招く。この回路面積の増加は、非接触回転角センサのICチップコストの増加や、ICの故障確率の増大にもつながる。
【0071】
これに対し、本実施形態による非接触回転角センサ1は、マルチプレクサ回路23を備えることにより内積演算回路の出力を3通りに調整する構成となっており、12ビットのデジタル値に変換された「A」、「A・cosθ」、「A・sinθ」は全て共通のデジタルフィルタ回路により算出できる。そのため、回路面積や故障確率の増大につながるデジタルフィルタ回路を複数設けずに、わずかな回路の追加のみで関連技術で述べたような故障検出に全て対応することが可能である。
【0072】
〔第2の実施形態〕
本発明の第2の実施形態による非接触回転角センサについて
図1を参照しつつ、
図8から
図12を用いて説明する。
本実施形態による非接触回転角センサは、1ビットのX及びYΔΣ変調信号を12ビットにビット拡張するために使用するデジタルフィルタに、デジタル角度演算回路のループフィルタを用いる点に特徴を有している。また、本実施形態による非接触回転角センサは、
図1に示す上記第1の実施形態による非接触回転角センサ1と同様の外観を有しているため、外観構成に関する説明は省略する。
図8は、本実施形態による非接触回転角センサに備えられた回転角度検出回路51の概略の回路構成を示すブロック図である。なお、上記第1の実施形態による非接触回転角センサ1と同様の機能・作用を奏する構成要素には、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0073】
図8に示すように、回転角度検出回路51は、ローター(不図示)の回転角に基づく磁場のX軸成分を検出するXホール素子3と、このローターの回転角に基づく磁場のY軸成分を検出するYホール素子5とを有している。Xホール素子3が検出する磁場のX軸成分は、
図1(a)及び
図1(b)中に示すX軸方向の成分である。Yホール素子5が検出する磁場のY軸成分は、
図1(a)及び
図1(b)中に示すY軸方向の成分である。また、回転角度検出回路10は、Xホール素子3が検出する磁場のX軸成分に応じたXΔΣ変調信号(第1のΔΣ変調信号の一例)Smdxを出力するXΔΣAD変換回路(第1のΔΣ変調回路の一例)7と、Yホール素子5が検出する磁場のY軸成分に応じたYΔΣ変調信号(第2のΔΣ変調信号の一例)Smdyを出力するYΔΣAD変換回路(第2のΔΣ変調回路)9とを有している。
【0074】
回転角度検出回路51は、角度信号が入力され、入力した角度信号に応じた余弦データと正弦データとを出力する正弦波データROM(余弦/正弦データ出力部の一例)11と、X及びYΔΣAD変換回路7,9が出力するX及びYΔΣ変調信号Smdx,Smdyと正弦波データROM11が出力する余弦データ及び正弦データとが入力するマルチプレクサ回路(選択回路の一例)53と、マルチプレクサ回路53が出力する信号が入力する外積演算回路55とを有している。さらに、回転角度検出回路51は、2種類の所定値信号を生成する所定値信号生成回路61と、マルチプレクサ回路23に出力する制御信号Scを生成する制御信号生成回路59とを有している。
【0075】
正弦波データROM11は、入力した角度信号に応じそれぞれ12ビットの余弦データ及び正弦データを出力するようになっている。正弦波データROM11に入力する角度信号は、後述する積分回路63が出力する角度検出信号Sφ(n)である。正弦波データROM11は、入力する角度検出信号Sφ(n)が表す角度φ(n)に応じた余弦データDcos及び正弦データDsinをマルチプレクサ回路53に出力する。
【0076】
マルチプレクサ回路53は、第1マルチプレクサ回路(第1のマルチプレクサの一例)53aと第2マルチプレクサ回路(第2のマルチプレクサの一例)53bとを有している。第1マルチプレクサ回路53aには、XΔΣAD変換回路7及びYΔΣAD変換回路9がそれぞれ出力する1ビットのXΔΣ変調信号Smdx,Smdyと、所定値信号生成回路61が出力する所定値信号(所定値を有するデータの一例)Scnt1とが入力する。第1マルチプレクサ回路53aは、非接触回転角センサの動作状態が使用モードのときに、XΔΣ変調信号Smdx及びYΔΣ変調信号Smdyを選択して第1のデータD1及び第2のデータD2としてそれぞれ出力するようになっている。また、第1マルチプレクサ回路53aは、非接触回転角センサの動作状態が検査モードのときに、XΔΣ変調信号Smdx及びYΔΣ変調信号Smdyのうち一方を選択して第1のデータD1及び第2のデータD2のうち一方として出力し、第1のデータD1及び第2のデータD2のうち他方として所定値信号Scnt1を出力する。第1マルチプレクサ回路53aが出力する第1のデータD1は外積演算回路55の第1入力端子Icp1に出力され、第1マルチプレクサ回路53aが出力する第2のデータD2は外積演算回路55の第2入力端子Icp2に出力される。
【0077】
第2マルチプレクサ回路53bには、正弦波データROM11が出力する余弦データDcos及び正弦データDsinと、所定値信号生成回路61が出力する所定値信号(所定値を有するデータの一例)Scnt2と、積分回路63が出力する角度検出信号Sφ(n)とが入力する。第2マルチプレクサ回路53bは、非接触回転角センサの動作状態が使用モードのときに、余弦データDcos及び正弦データDsinを選択して第3のデータD3及び第4のデータD4としてそれぞれ出力する。また、第2マルチプレクサ回路53bは、非接触回転角センサの動作状態が検査モードのときに、角度検出信号(積分信号の一例)Sφ(n)を選択して第3のデータD3及び第4のデータD4のうち一方として出力し、所定値信号Scnt2を第3のデータD3及び第4のデータD4のうち他方として出力する。第2マルチプレクサ回路53bが出力する第3のデータD3は外積演算回路55の第3入力端子Icp3に出力され、第2マルチプレクサ回路53bが出力する第4のデータD4は外積演算回路55の第4入力端子Icp4に出力される。
図8及び後述する
図11から
図13では、第1から第4入力端子Icp1,Icp2,Icp3,Icp4は、「Icp」の文字を省略して各入力端子の数値のみが図示されている。
【0078】
制御信号生成回路59が出力する制御信号Scは、非接触回転角センサが現時点で使用モード及び検査モードのいずれの状態であるのかを示す情報を有している。例えば、制御信号Scの値が「0」のときに非接触回転角センサの動作状態が使用モードであると判定され、制御信号Scの値が「1」又は「2」のときに非接触回転角センサの動作状態が検査モードであると判定される。
所定値信号生成回路61が生成する所定値信号Scnt1は例えば1LSBであり、所定値信号Scnt2は例えば2
12LSBである。
【0079】
外積演算回路55は、マルチプレクサ回路53から出力する第1のデータD1及び第2のデータD2と、第3のデータD3及び第4のデータD4とを外積演算して角度誤差信号(外積データの一例)Saeを出力するようになっている。角度誤差信号Saeは、外積演算回路55に設けられた出力端子Ocpから出力される。外積演算回路55が実行する外積演算は上述の式(1)で表すことができる。
【0080】
回転角度検出回路51は、外積演算回路55が出力する角度誤差信号Saeが入力する位相補償回路15と、位相補償回路15が出力する角度誤差信号Saeを積分して角度検出信号Sφ(n)を出力する積分回路(積分信号出力部の一例)63とを有している。
積分回路63は、角度検出信号Sφ(n)を第2マルチプレクサ回路53b及び正弦波データROM11に出力する。
【0081】
回転角度検出回路51は、非接触回転角センサの動作状態が使用モードか検査モードかによってマルチプレクサ回路53が出力する信号を選択的に切り替えて、デジタル角度演算回路52が形成する閉ループを切り替えるようになっている。非接触回転角センサの動作状態が使用モードでは、デジタル角度演算回路52は、外積演算回路55、位相補償回路15、積分回路63、正弦波データROM11及びマルチプレクサ回路53によって閉ループL2を形成する。一方、非接触回転角センサの動作状態が検査モードでは、デジタル角度演算回路52は、外積演算回路55、位相補償回路15、積分回路63及びマルチプレクサ回路53によって閉ループL3を形成する。
【0082】
次に、マルチプレクサ回路53の動作を中心に、本実施形態による非接触回転角センサの動作について
図8を参照しつつ
図9から
図12を用いて説明する。
図9は、マルチプレクサ回路53に入力する制御信号Scの値と、マルチプレクサ回路53の出力端子から出力される出力信号との関係を示す出力信号選択テーブルである。
図9(a)は、第1マルチプレクサ回路53a用の出力信号選択テーブルT1であり、
図9(b)は、第2マルチプレクサ回路53b用の出力信号選択テーブルT2である。出力信号選択テーブルT1は、第1マルチプレクサ回路53aに設けられた所定の記憶部(不図示)に記憶されており、出力信号選択テーブルT2は、第2マルチプレクサ回路53bに設けられた所定の記憶部(不図示)に記憶されている。
【0083】
図9(a)に示すように、出力信号選択テーブルT1は、「制御信号」欄及び「出力信号」欄の2つに区分されている。「制御信号」は、制御信号生成回路59が生成し第1マルチプレクサ回路53aに入力する制御信号Scを示している。「出力信号」は、第1マルチプレクサ回路53aが出力する出力信号を示している。「出力信号」欄は、「D1」欄及び「D2」欄の2つに区分されている。「D1」は、第1マルチプレクサ回路53aの第1出力端子Omp11から出力される第1のデータD1を示し、「D2」は、第1マルチプレクサ回路53aの第2出力端子Opm12から出力される第2のデータD2を示している。「制御信号」欄には、制御信号Scの取り得る値「0」、「1」及び「2」が格納されている。「D1」欄及び「D2」欄には、制御信号Scの値に応じて第1及び第2のデータD1,D2として第1及び第2出力端子Omp11,Omp12からそれぞれ出力される出力信号の種類が格納されている。
【0084】
図9(b)に示すように、出力信号選択テーブルT2は、「制御信号」欄及び「出力信号」欄の2つに区分されている。「制御信号」は、制御信号生成回路59が生成し第2マルチプレクサ回路53bに入力する制御信号Scを示している。「出力信号」は、第2マルチプレクサ回路53bが出力する出力信号を示している。「出力信号」欄は、「D3」欄及び「D4」欄の2つに区分されている。「D3」は、第2マルチプレクサ回路53bの第1出力端子Omp21から出力される第3のデータD3を示し、「D4」は、第2マルチプレクサ回路53bの第2出力端子Opm22から出力される第4のデータD4を示している。「制御信号」欄には、制御信号Scの取り得る値「0」、「1」及び「2」が格納されている。「D3」欄及び「D4」欄には、制御信号Scの値に応じて第3及び第4のデータD3,D4として第1及び第2出力端子Omp21,Omp22からそれぞれ出力される出力信号の種類が格納されている。
【0085】
図10は、制御信号Scの値が「0」の場合のマルチプレクサ回路53の動作状態を示す図である。
図11は、制御信号Scの値が「1」の場合のマルチプレクサ回路53の動作状態を示す図である。
図12は、制御信号Scの値が「2」の場合のマルチプレクサ回路53の動作状態を示す図である。
【0086】
まず、非接触回転角センサの動作状態が使用モードであって制御信号Scの値が「0」における非接触回転角センサの動作について説明する。
回転角度検出回路51は、ローターの回転に伴う磁場の変化をXホール素子3及びYホール素子5で検出する。次に、回転角度検出回路51は、X及びYホール素子3,5が出力するアナログの出力信号SHox,SHoyをX及びYΔΣAD変換回路7,9によって1ビットのデジタル信号であるX及びY変調信号Smdx,Smdyに変換して第1マルチプレクサ回路53aに出力する。
【0087】
図9(a)に示すように、出力信号選択テーブルT1では、「制御信号」欄の「0」に対応して「D1」欄には「Smdx」が格納され、「D2」欄には「Smdy」が格納されている。このため、
図10に示すように、第1マルチプレクサ回路53aは、X及びYΔΣAD変換回路7,9から入力するX及びY変調信号Smdx,Smdyを選択する。そして、第1マルチプレクサ回路53aは、第1出力端子Omp11からX変調信号Smdxを第1のデータD1として出力し、第2出力端子Opm12からY変調信号Smdyを第2のデータD2として出力する。
【0088】
また、
図9(b)に示すように、出力信号選択テーブルT2では、「制御信号」欄の「0」に対応して「D3」欄には「Dcos」が格納され、「D4」欄には「Dsin」が格納されている。このため、
図10に示すように、第2マルチプレクサ回路53bは、正弦波データROM11から入力する余弦データDcos及び正弦データDsinを選択する。そして、第2マルチプレクサ回路53bは、第1出力端子Omp21から余弦データDcosを第3のデータD3として出力し、第2出力端子Opm22から正弦データDsinを第4のデータD4として出力する。
【0089】
外積演算回路55は、上述の式(1)に基づいて、第1及び第2入力端子Isp1,Isp2に入力する信号と、第3及び第4入力端子Isp3,Isp4に入力する入力信号とを外積した外積データDcpを演算する。第1入力端子Isp1に入力するXΔΣ変調信号Smdxを「A・cosθ(1ビット)」とし、第2入力端子Isp2に入力するYΔΣ変調信号Smdyを「A・sinθ(1ビット)」とし、第3入力端子Isp3に入力する余弦データDcosを「cos(φ(n))」とし、第4入力端子Isp4に入力する正弦データDsinを「sin(φ(n))」とする。X及びYΔΣ変調信号Smdx,SmdyにおけるA・cosθ(1ビット)及びA・sinθ(1ビット)は1ビットのデータである。この場合、式(1)より、外積データDcpは、「A・sin(φ(n)−θ)」(=A・cosθ×sin(φ(n))−A・sinθ×cos(φ(n)))となる。すなわち、外積データDcpを演算することによって角度誤差信号「A×(φ(n)−θ)」が求められる。デジタル角度演算回路52の閉ループの特性により、外積演算回路55が出力する外積データDcpである角度誤差信号「φ(n)−θ」は、「0」に収束するようにフィードバックが掛かる。これにより、回転角度検出回路51は、位相補償回路15及び積分回路63を介して出力される角度検出信号Sφ(n)としてローターの回転角度θに等しいφ(n)を検出できる。
【0090】
次に、非接触回転角センサの動作状態が検査モードであって制御信号Scの値が「1」における非接触回転角センサの動作について説明する。
回転角度検出回路51は、ローターの回転に伴う磁場の変化をXホール素子3及びYホール素子5で検出する。次に、回転角度検出回路51は、X及びYホール素子3,5が出力するアナログの出力信号SHox,SHoyをX及びYΔΣAD変換回路7,9によって1ビットのデジタル信号であるX及びY変調信号Smdx,Smdyに変換して第1マルチプレクサ回路53aに出力する。
【0091】
図9(a)に示すように、出力信号選択テーブルT1では、「制御信号」欄の「1」に対応して「D1」欄には「Smdx」が格納され、「D2」欄には「Scnt1」が格納されている。このため、
図11に示すように、第1マルチプレクサ回路53aは、XΔΣAD変換回路7から入力するX変調信号Smdxと、所定値信号生成回路61から入力する所定値信号Scntを選択する。そして、第1マルチプレクサ回路53aは、第1出力端子Omp11からX変調信号Smdxを第1のデータD1として出力し、第2出力端子Opm12からY変調信号Smdyを第2のデータD2として出力する。
【0092】
また、
図9(b)に示すように、出力信号選択テーブルT2では、「制御信号」欄の「1」に対応して「D3」欄には「Sφ(n)」が格納され、「D4」欄には「Scnt2」が格納されている。このため、
図11に示すように、第2マルチプレクサ回路53bは、積分回路63から入力する角度検出信号Sφ(n)と、所定値信号生成回路61から入力する所定値信号Scnt2とを選択する。そして、第2マルチプレクサ回路53bは、第1出力端子Omp21から角度検出信号Sφ(n)を第3のデータD3として出力し、第2出力端子Opm22から所定値信号Scnt2を第4のデータD4として出力する。
【0093】
外積演算回路55は、上述の式(1)に基づいて、第1及び第2入力端子Isp1,Isp2に入力する信号と、第3及び第4入力端子Isp3,Isp4に入力する入力信号とを外積した外積データDcpを演算する。第1入力端子Isp1に入力するXΔΣ変調信号Smdxを「A・cosθ(1ビット)」とし、第2入力端子Isp2に入力する所定値信号Scnt1を「1LSB」とし、第3入力端子Isp3に入力する角度検出信号Sφ(n)を「Sout」とし、第4入力端子Isp4に入力する所定値信号Scnt2を「2
12LSB」とする。XΔΣ変調信号SmdxにおけるA・cosθ(1ビット)は1ビットのデータである。式(1)より、外積データDcpは、「A・cosθ(1ビット)×2
12LSB−1×Sout」となる。デジタル角度演算回路52の閉ループL3の特性により、外積演算回路55が出力する外積データDcpは、
図11中の右上に示す破線で示すように、「0」に収束するようにフィードバックが掛かる。これにより、角度検出信号Sφ(n)は、デジタル角度演算回路52の閉ループL3のループフィルタ特性により平滑化されるため、A・cosθ(1ビット)×2
12LSBの2値の信号の平均値に収束する。これにより、回転角度検出回路51は、位相補償回路15及び積分回路63を介して出力される角度検出信号Sφ(n)として12ビットにビット拡張された「A・cosθ」を検出できる。
【0094】
次に、非接触回転角センサの動作状態が検査モードであって制御信号Scの値が「2」における非接触回転角センサの動作について説明する。
回転角度検出回路51は、ローターの回転に伴う磁場の変化をXホール素子3及びYホール素子5で検出する。次に、回転角度検出回路51は、X及びYホール素子3,5が出力するアナログの出力信号SHox,SHoyをX及びYΔΣAD変換回路7,9によって1ビットのデジタル信号であるX及びY変調信号Smdx,Smdyに変換して第1マルチプレクサ回路53aに出力する。
【0095】
図9(a)に示すように、出力信号選択テーブルT1では、「制御信号」欄の「2」に対応して「D1」欄には「Scnt1」が格納され、「D2」欄には「Smdy」が格納されている。このため、
図12に示すように、第1マルチプレクサ回路53aは、所定値信号生成回路61から入力する所定値信号Scnt1及びYΔΣAD変換回路9から入力するY変調信号Smdyを選択し、第1出力端子Omp11から所定値信号Scnt1を第1のデータD1として出力し、第2出力端子Opm12からY変調信号Smdyを第2のデータD2として出力する。
【0096】
また、
図9(b)に示すように、出力信号選択テーブルT2では、「制御信号」欄の「2」に対応して「D3」欄には「Scnt2」が格納され、「D4」欄には「Sφ(n)」が格納されている。このため、
図12に示すように、第2マルチプレクサ回路53bは、所定値信号生成回路61から入力する所定値信号Scnt2と、積分回路63から入力する角度検出信号Sφ(n)とを選択し、第1出力端子Omp21から所定値信号Scnt2を第3のデータD3として出力し、第2出力端子Opm22から角度検出信号Sφ(n)を第4のデータD4として出力する。
【0097】
外積演算回路55は、上述の式(1)に基づいて、第1及び第2入力端子Isp1,Isp2に入力する信号と、第3及び第4入力端子Isp3,Isp4に入力する入力信号とを外積した外積データDcpを演算する。第1入力端子Isp1に入力する所定値信号Scnt1を「1LSB」とし、第2入力端子Isp2に入力するYΔΣ変調信号Smdyを「A・sinθ(1ビット)」とし、第3入力端子Isp3に入力する所定値信号Scnt2を「2
12LSB」とし、第4入力端子Isp4に入力する角度検出信号Sφ(n)を「Sout」とする。YΔΣ変調信号SmdyにおけるA・sinθ(1ビット)は1ビットのデータである。式(1)より、外積データDcpは、「1×Sout−A・sinθ(1ビット)×2
12LSB」となる。デジタル角度演算回路52の閉ループL3の特性により、外積演算回路55が出力する外積データDcpは、「0」に収束するようにフィードバックが掛かる。これにより、角度検出信号Sφ(n)は、ループフィルタの特性により平滑化されるため、A・sinθ(1ビット)×2
12LSBの2値の信号の平均値に収束する。これにより、回転角度検出回路51は、位相補償回路15及び積分回路63を介して出力される角度検出信号Sφ(n)として12ビットにビット拡張された「A・sinθ」を検出できる。
【0098】
以上説明したように、本実施形態による非接触回転角センサでは、1ビットのX及びYΔΣ変調信号を12ビットにビット拡張するために使用するデジタルフィルタは、角度演算を行うために備えられたデジタル角度演算回路52の閉ループL3のループフィルタとなっている。そのため、上記第1の実施形態と同様に、回路面積の大きいデジタルフィルタ回路を新たに必要とせず、簡易な構成のマルチプレクサ回路の追加のみで、1ビットのX及びYΔΣ変調信号を12ビットに変換し出力することが可能となる。
【0099】
また、回転角度検出回路内のループフィルタは、一般に1kHz程度の帯域のローパスフィルタ特性を有している。このため、本実施形態による非接触回転角センサは、上記第1の実施形態による非接触回転角センサ1に比べて簡易な構成でノイズを抑制するフィルタ特性を実現しやすい。モーター制御用途で回転角度検出装置を使用する場合、外乱の電磁ノイズ(メガヘルツの高周波ノイズ)がホール素子等の信号に混入する場合がある。本実施形態による非接触回転角センサは、この場合も12ビットの回転角を正確に検出できる。
【0100】
本発明は、上記実施形態に限らず、種々の変形が可能である。
上記第1及び第2の実施形態では、回転角度を検出する磁気センサとしてホール素子を有しているが、MR素子やレゾルバを用いた回転角度検出装置においても、本発明は適用可能である。