特許第6291593号(P6291593)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6291593ITOスパッタリングターゲット及びその製造方法並びにITO透明導電膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6291593
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】ITOスパッタリングターゲット及びその製造方法並びにITO透明導電膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20180305BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20180305BHJP
   C04B 35/01 20060101ALI20180305BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20180305BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   C23C14/34 A
   C23C14/08 D
   C04B35/01
   H01B5/14 A
   H01B13/00 503B
【請求項の数】9
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-557791(P2016-557791)
(86)(22)【出願日】2015年11月5日
(86)【国際出願番号】JP2015081123
(87)【国際公開番号】WO2016072441
(87)【国際公開日】20160512
【審査請求日】2016年10月7日
(31)【優先権主張番号】特願2014-226601(P2014-226601)
(32)【優先日】2014年11月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100173901
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 一輝
(72)【発明者】
【氏名】掛野 崇
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−126766(JP,A)
【文献】 特開2004−323877(JP,A)
【文献】 特開平09−125236(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/156234(WO,A1)
【文献】 特開2011−65937(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/172055(WO,A1)
【文献】 国際公開第03/014409(WO,A1)
【文献】 特開2000−113732(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/125588(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C04B 35/01
H01B 5/14
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
In、Sn、O、及び、不可避的不純物からなる焼結体であって、原子比でSn/(In+Sn)が1.8%以上3.7%未満となるSnを含有し、焼結体の平均結晶粒径が1.0〜5.0μmの範囲であり、長軸径0.1〜1.0μmの空孔が面積比率0.5%以下であり、酸化インジウム相と酸化錫リッチ相の2相になっており、酸化錫リッチ相の面積率が0.1〜1.0%以下で、酸化錫リッチ相の95%以上が粒界三重点に存在することを特徴とするITOスパッタリングターゲット。
【請求項2】
原子比でSn/(In+Sn)が、2.3〜3.2%となるSnを含有することを特徴とする請求項1に記載のITOスパッタリングターゲット。
【請求項3】
焼結体密度が7.03g/cm以上であり、バルク抵抗率が0.10〜0.15mΩ・cmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のITOスパッタリングターゲット。
【請求項4】
酸化錫リッチ相の最大サイズが1μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のITOスパッタリングターゲット。
【請求項5】
曲げ強度が100MPa以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のITOスパッタリングターゲット。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のIn、Sn、O、及び、不可避的不純物からなるスパッタリングターゲットの製造方法であって、SnO粉末とIn粉末を原子比でSn/(In+Sn)が1.8%以上3.7%未満となるように比率を調整して混合し、酸素雰囲気下で、最高焼結温度を1450℃以下の温度に保持して焼結することを特徴とするITOスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項7】
SnO粉末とIn粉末を原子比でSn/(In+Sn)が、2.3〜3.2%となるように比率を調整して混合し、焼結することを特徴とする請求項6に記載のITOスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項8】
焼結後の冷却工程において、焼結保持温度から100℃±20℃低い温度で保持することを特徴とする請求項6又は7に記載のITOスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項9】
スパッタリングにより透明導電膜を製造する方法であって、アルゴンと酸素からなり、酸素濃度が4%以下である混合ガス雰囲気中、基板を無加熱又は150℃以下に保持し、請求項1〜5のいずれか一項に記載のITOスパッタリングターゲットを用いて基板上に成膜することを特徴とするITO透明導電膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ITO膜形成に好適なITOスパッタリングターゲットに関する。特にターゲットの粒径が小さく、高密度であり、強度が高く、アーキングやノジュールを低減できるITOスパッタリングターゲット及びその製造方法並びにITO透明導電膜及びITO透明導電膜の製造方法に関する。本発明の主な用途としては、タッチパネル、フラットパネルディスプレイ、有機EL、太陽電池を挙げることができる。
【背景技術】
【0002】
一般に、ITO(インジウム−錫の複合酸化物)膜は、液晶ディスプレーを中心とする表示デバイスにおける透明電極(導電膜)として、広く使用されている。このITO膜を形成する方法として、真空蒸着法やスパッタリング法など、一般に物理蒸着法と言われている手段によって行われている。特に操作性や被膜の安定性からマグネトロンスパッタリング法を用いて形成することが多い。
【0003】
スパッタリング法による膜の形成は、陰極に設置したターゲットにArイオンなどの陽イオンを物理的に衝突させ、その衝突エネルギーによってターゲットを構成する材料を放出させて、対面している陽極側の基板にターゲット材料とほぼ同組成の膜を積層することによって行われる。スパッタリング法による被覆法は、処理時間や供給電力等を調整することによって、安定した成膜速度で数nmの薄い膜から数十μmの厚い膜まで形成することができるという特徴を有している。
【0004】
近年、静電容量式、抵抗膜式タッチパネルなどに用いられるITO膜の需要があり、従来から広く用いられている10wt.%程度の錫(Sn)を含有するITOスパッタリングターゲット以外にも、求められる膜抵抗により酸化錫を1.0以上50.0wt.%以下の広い範囲で組成を振ったターゲットの開発が行われている。例えば、特許文献1には、20〜50wt%の酸化錫を含有する酸化インジウムとの混合粉末をプレス成型し、この成形体を純酸素雰囲気中、温度1500〜1650℃、圧力0.15〜1MPaで加圧焼結してITOスパッタリングターゲットを製造することが知られている。
【0005】
ITOスパッタリングターゲットで代表的な特許を挙げると、下記に示す特許文献1がある。この特許は、「酸化インジウムと酸化錫を主成分とした原料から粉末冶金法にて製造されたITOスパッタリングタ−ゲットであって、表面粗さRaが0.5 μm以下で、かつ密度D(g/cm )とバルク抵抗値ρ(mΩcm)が下記2つの式を同時に満たして成るITOスパッタリングタ−ゲット。a) 6.20 ≦ D ≦ 7.23、 b」 −0.0676D+0.887 ≧ ρ ≧−0.0761D+0.666 。」というもので、約20年前の技術である。
この特許は、スパッタリング時に異常放電やノジュ−ルを発生することが殆どない上にガスの吸着も極力少なく、そのため良好な成膜作業下で品質の高いITO膜を安定して得ることのできるITO焼結タ−ゲットを実現することができるという、当時としては画期的な発明と言える。
【0006】
また、ITOターゲット密度を上げる対策として、例えば、下記特許文献2には、粒度分布から求めたメジアン径が0.40(0.40を除く)〜1.0μmの範囲にあり、かつ粒度分布から求めた90%粒径が3.0μm以下の範囲にある酸化錫粉末を用いて形成したITOターゲットが記載されている。
しかし、このような酸化錫粉末を使用して、従来よりも多くの酸化錫を含有するITOターゲットを製造した場合は、焼結体内部にマクロポア及びマイクロクラックが発生して、焼結体の加工中や加工終了後の保管中に、割れやひびが発生することがあった。そして、それらはターゲットとしての製品の出荷に影響を及ぼすことがあった。
【0007】
この他、下記特許文献3には、ITOに関する技術として、主結晶粒であるIn母相内にInSn12からなる微細粒子が存在するITO焼結体であって、前記微粒子が粒子の仮想中心から放射線状に針状突起が形成された立体星状形状を有すことを特徴とし、バルク抵抗の低いITOスパッタリングターゲットを提供するという技術が開示されている。
【0008】
また、下記特許文献4には、In、Sn、Oからなり、焼結密度が7.08g/cm3以上、バルク抵抗率が80μΩcm〜100μΩcm、O/(In+Sn+O)が1.75%以下(重量比)、かつInSn12相の(200)面のX線回折ピークの積分強度の30%以下であるITO焼結体であり、この焼結体は、In、Sn、Oからなる成形体を焼結する際に、焼結温度を1400℃以上となったとき、焼結雰囲気を酸化性雰囲気から非酸化性雰囲気へと切り替える技術が開示されている。
【0009】
一般的に使用されているITO(酸化錫:10wt.%)で、低抵抗の膜を得るには、150℃以上の熱処理を行う必要があるが、150℃も熱がかけられない場合もある。例えば、タッチパネル等で使用される透明導電膜は構造上の問題で、成膜中又は成膜後に熱がかけられない場合、低温でも低抵抗な膜を得ることが可能である低酸化錫組成のITOが使用される。
低酸化錫組成のITOターゲットは焼結温度によって錫リッチ相の存在確率が変わるため、焼結温度を制御しなければ、密度が上がり難く、結晶粒径の制御が困難となる問題が生ずる。またロット間で、密度にばらつきが出ることがある。また、錫リッチ相の分散性が悪くなり、ノジュールやアーキングが発生し易くなる、という問題が起こり易くなる。
【0010】
下記特許文献5〜10には、低酸化錫組成のITOスパッタリングターゲットの提案がなされている。
特許文献5には、酸化錫含有量が質量比で1.5%以上3.5%以下、相対密度が98%以上、結晶相が単相で、平均結晶粒径が10μm以下、焼結体の曲げ強度が70MPa以上であることを特徴としているが、焼結温度が1500℃と高く、第一造粒粉と第二造粒粉を混合して成型体を作製する一手間をかけており、生産性があまり良くない。
【0011】
特許文献6には、酸化インジウムと酸化スズと不可避不純物とからなり、酸化スズの含有量が2.5質量%以上、5.2質量%以下であり、平均密度が7.1g/cm以上であり、かつ、平均結晶粒径が3μm以上、10μm未満である、ITOスパッタリングターゲットとしているが、保持温度が1500〜1600℃と高く、焼結体の強度については記載されていない。
【0012】
特許文献7には、錫含有量が3〜12重量%であって、In相中に固溶される錫の固溶量が2重量%以上であり、In 相及びIn相中に錫元素が固溶された相の平均結晶粒径が2〜10μmの範囲内にあり、且つ焼結体内部に存在する最大空孔径が3μm以下であって、錫原子の最大凝集径が5μm以下であることを特徴とする酸化インジウム・酸化錫焼結体としているが、焼結温度は1500℃以上であり、実施例、比較例における平均粒径は7μm以上と大きく、焼結体密度も最大で6.9g/cmと低い。また、焼結体強度についても触れられていない。
【0013】
特許文献8には、インジウム、スズおよび酸素からなる焼結体であり、スズ量を2〜4wt%となし、相対密度が90%以上で酸化インジウム相以外の酸化スズ相および中間化合物相が面積率で5%以下の単相構造を有し、比抵抗値が1×10−3Ω・cm以下であることを特徴とするとしているが、焼結温度が1500〜1700℃と高く、焼結体の比抵抗も高い。
【0014】
特許文献9には、実質的に酸化インジウム及び酸化スズからなり、かつ酸化スズの含有量が35重量% 以下である300mm×300mm以上の大面積、かつ6mm以上の厚さを有する焼結体であって、7.13g/cm焼結密度が以上で、かつ該焼結体の平面方向における最大密度差が0.03g/cm以下であり、更に厚み方向中央部における2μm以下の平均空孔数が500個/mm以下であることを特徴とするITO焼結体で、1450℃以上の焼結温度に保持し、焼結することを特徴としているが、焼結温度が1450℃以上と高く、焼結方法も細かく定められており生産性が良いとは言えない。
【0015】
特許文献10には、実質的にインジウム、スズおよび酸素からなり、相対密度が99%以上でかつ10mm以上の板厚部を有する焼結体を含み、以下の式(1)を満足することを特徴とするITOスパッタリングターゲット。式(1):焼結体の厚さ方向における中心部の相対密度(%)/焼結体全体の密度(%)≧0.995と記載されているが、実施例、比較例の焼結温度は1600℃と高く、記載れてはいないが結晶粒径は大きいと推測される。
また、上記文献はいずれも、低温焼結により、酸化錫リッチ相を変化させることによって、小粒径、高密度化、高強度化するという観点で作製されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
特許文献1:特許第2750483号
特許文献2:特開2009−29706号公報
特許文献3:特開2009−40621号公報
特許文献4:特開2000−233969号公報
特許文献5:特許第5206983号
特許文献6:特開2012−126937号公報
特許文献7:特開平10−147862号公報
特許文献8:特許第3503759号
特許文献9:特許第3988411号
特許文献10:特許第4934926号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、低温でも低抵抗な膜を得ることが可能である低酸化錫組成のITOスパッタリングターゲットに関し、ターゲットの粒径が小さく、高密度であり、強度が高く、アーキングやノジュールを低減できるITOスパッタリングターゲットを提供するものである。これによって、成膜の品質の向上と信頼性を確保することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題を解決するために、本発明は、以下の発明を提供するものである。
1)In、Sn、O、及び、不可避的不純物からなる焼結体であって、原子比でSn/(In+Sn)が1.8%以上3.7%未満となるSnを含有し、焼結体の平均結晶粒径が1.0〜5.0μmの範囲であり、長軸径0.1〜1.0μmの空孔が面積比率0.5%以下であり、酸化インジウム相と酸化錫リッチ相の2相になっており、酸化錫リッチ相の面積率が0.1〜1.0%以下で、酸化錫リッチ相の95%以上が粒界三重点に存在することを特徴とするITOスパッタリングターゲット。
【0019】
2)原子比でSn/(In+Sn)が、2.3〜3.2%となるSnを含有することを特徴とする上記1)に記載のITOスパッタリングターゲット。
3)焼結体密度が7.03g/cm以上であり、バルク抵抗率が0.10〜0.15mΩ・cmであることを特徴とする上記1)又は上記2)に記載のITOスパッタリングターゲット。
【0020】
4)酸化錫リッチ相の最大サイズが1μm以下であることを特徴とする上記1)〜3)のいずれか一に記載のITOスパッタリングターゲット。
5)曲げ強度が100MPa以上であることを特徴とする上記1)〜4)のいずれか一に記載のITOスパッタリングターゲット。
【0021】
6)上記1)〜5)のいずれか一に記載のIn、Sn、O、及び、不可避的不純物からなるスパッタリングターゲットの製造方法であって、SnO粉末とIn粉末を原子比でSn/(In+Sn)が1.8%以上3.7%未満となるように比率を調整して混合し、酸素雰囲気下で、最高焼結温度を1450℃以下の温度に保持して焼結することを特徴とするITOスパッタリングターゲットの製造方法。
【0022】
7)SnO粉末とIn粉末を原子比でSn/(In+Sn)が、2.3〜3.2%となるように比率を調整して混合し、焼結することを特徴とする上記6)に記載のITOスパッタリングターゲットの製造方法。
8)焼結後の冷却工程において、焼結保持温度から100℃±20℃低い温度で保持することを特徴とする上記6)又は7)に記載のITOスパッタリングターゲットの製造方法。
【0023】
9)スパッタリングにより透明導電膜を製造する方法であって、アルゴンと酸素からなり、酸素濃度が4%以下である混合ガス雰囲気中、基板を無加熱又は150℃以下に保持し、上記1)〜5)のいずれか一に記載のITOスパッタリングターゲットを用いて基板上に成膜することを特徴とするITO透明導電膜の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
透明導電膜形成に好適な、低温でも低抵抗な膜を得ることが可能である低酸化錫組成のITOスパッタリングターゲットに関し、ターゲットの粒径が小さく、高密度であり、強度が高く、アーキングやノジュールを低減できるスパッタリングターゲットを提供することができる。これによって、成膜の品質の向上と信頼性を確保することができる。この結果、ターゲットの生産性や信頼性を向上することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】原子比でSn/(In+Sn)が3.8%のSnを含有したITO焼結体のFE−EPMA(日本電子株式会社製、JXA−8500F型 FE電子プローブマイクロアナライザ)によるx2000倍のSnの面分析結果を示す図である。
図2】酸化錫リッチ相が粒界三重点に95%以上存在することを説明する図(A、B、C、D)である。
図3】35hr連続スパッタリング後の、ターゲットの図(写真)であり、ノジュール被覆率を説明する図である。
図4】焼結体の観察箇所の具体例(丸型の焼結体の場合、角型の焼結体の場合、円筒型の場合)を、示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明において、スパッタリングターゲットは、In、Sn、O、及び、不可避的不純物からなる焼結体であり、原子比でSn/(In+Sn)が、1.8%以上3.7%未満となるSnを含有し、焼結体の平均結晶粒径が1.0〜5.0μmの範囲であり、長軸径0.1〜1.0μmの空孔が面積比率0.5%以下であり、酸化インジウム相と酸化錫リッチ相の2相になっており、酸化錫リッチ相の面積率が0.1〜1.0%以下で、酸化錫リッチ相の95%以上が粒界三重点に存在することを特徴とする。
【0027】
Snを原子比でSn/(In+Sn)で、1.8%以上3.7%未満の下限値である1.8%の数値限定は、1.8%未満では酸化錫リッチ相が存在しないという理由による。また、上限値である3.7%未満の数値限定は、酸化錫リッチ相の面積率が1%より多くなってしまうという理由による。これは、さらに原子比でSn/(In+Sn)が2.3〜3.2%となるSnを含有させることが、より有効である。
また、焼結体の平均結晶粒径が1.0〜5.0μmの範囲であることが必要である。平均結晶粒径が1.0μm未満であると、結晶粒径が小さすぎるため密度が上がらないという問題が生じ、また5.0μmを超えると、焼結体曲げ強度が100MPaより小さくなるという問題を生ずるので好ましくない。
【0028】
焼結体中、長軸径0.1〜1.0μmの空孔の面積比率を0.5%以下とするのは、空孔の存在は密度の低下につながるだけではなく、空孔の残留ガス等によりアーキング発生の原因となる可能性があるためできるだけ少ない方が良い。焼結体中の長軸径0.1μm未満の空孔については、ターゲットの特性に影響を与えないので、無視できる。一方、1.0μmを超える空孔については、存在しないようにしなければならない。
焼結体の組織が酸化インジウム相と酸化錫リッチ相の2相になる。EPMAでの面分析で、酸化錫リッチ相の面積率が0.1〜1.0%以下であることが必要である。平均結晶粒径が小さな焼結体を実現し、本願発明のスパッタリングターゲットの特性を得るために必要な条件である。
【0029】
本願発明は酸化錫リッチ相の95%以上が粒界三重点に存在することを要件とする。(ターゲットには均一に分散されており、その分散状態として酸化錫リッチ相が粒界三重点に存在する)この場合の「粒界三重点」というのは、相互に接触している粒子が3個集合したほぼ中央部分に酸化錫リッチ相が存在することを意味する。後で詳述するが、このような状態(酸化錫リッチ相の95%以上が粒界三重点に存在する)にするには、冷却工程において焼結保持温度から100℃±20℃の低い温度で保持することが必要である。
ITOスパッタリングターゲットは、さらに焼結体密度を7.03g/cm以上の高密度とし、バルク抵抗率を0.10〜0.15mΩ・cmとし、導電性を向上させることが可能である。また、前記酸化錫リッチ相の最大サイズは1μmであることが望ましく、酸化錫リッチ相の粗大化を抑制したターゲットとするのが良い。
また、ITOスパッタリングターゲットの焼結体の曲げ強度を100MPa以上とすし、ターゲットの強度を高めることが望ましく、本願発明は、これを実現することができる。
【0030】
本発明の酸化インジウム、酸化錫及び不可避的不純物からなる焼結体ITOスパッタリングターゲットの製造に際しては、SnO粉末とIn粉末を、原子比でSn/(In+Sn)で、1.8%以上3.7%未満となるように比率を調整して混合し、酸素雰囲気下で、最高焼結温度を1450℃以下の温度に保持して焼結する。
本発明の酸化インジウム−酸化錫系酸化物(ITO)焼結体ターゲットを製造するに際しては、各原料粉の混合、粉砕、成型、焼結のプロセスによって作製することができる。原料粉としては、酸化インジウム粉、および酸化錫粉であって、比表面積が約5m/g程度のものを使用するのが望ましい。
【0031】
具体的には、酸化インジウム粉は、かさ密度:0.3〜0.8g/cm、メジアン径(D50):0.5〜2.5μm、比表面積:3.0〜6.0m/g、酸化錫粉:かさ密度:0.2〜0.6g/cm、メジアン径(D50):1.0〜2.5μm、比表面積:3.0〜6.0m/gを使用する。
【0032】
各原料粉を所望の組成比となるように秤量後、混合粉砕を行う。粉砕方法には求める粒度、被粉砕物質に応じて様々な方法があるが、ビーズミル等の湿式媒体攪拌ミルが適している。これは、粉体を水に分散させたスラリーを、硬度の高い材料であるジルコニア、アルミナ等の粉砕媒体と共に強制的に攪拌するものであり、高効率で粉砕粉を得ることが出来る。しかし、この際に粉砕媒体も磨耗するために、粉砕粉に粉砕媒体自身が不純物として混入するので、長時間の処理は好ましくない。
【0033】
粉砕量を粉砕前後の比表面積の差で定義すれば、湿式媒体攪拌ミルでは粉砕量は粉体に対する投入エネルギーにほぼ比例する。従って、粉砕を行う際には、湿式媒体攪拌ミルは積算電力を管理することが重要である。粉砕前後の比表面積の差(ΔBET)は、0.5〜5.0m/g、粉砕後のメジアン径(D50)は、2.5μm以下とする。
【0034】
次に、微粉砕したスラリーの造粒を行う。これは、造粒により粉体の流動性を向上させることで、次工程のプレス成型時に粉体を均一に金型へ充填し、均質な成形体を得るためである。造粒には様々な方式があるが、プレス成型に適した造粒粉を得る方法の一つに、噴霧式乾燥装置(スプレードライヤー)を用いる方法がある。これは粉体をスラリーとして、熱風中に液滴として分散させ、瞬間的に乾燥させる方法であり、10〜500μmの球状の造粒粉が連続的に得ることが出来る。
【0035】
また、スラリー中にポリビニルアルコール(PVA)等のバインダーを添加し造粒粉中に含有させることで、成形体強度を向上させることが出来る。PVAの添加量は、PVA4〜10wt.%が含有水溶液を原料粉に対して50〜250cc/kg添加する。
【0036】
さらに、バインダーに適した可塑剤も添加することで、プレス成型時の造粒粉の圧壊強度を調節することも出来る。また、得られた造粒粉に、少量の水を添加し湿潤させることで成形体強度を向上する方法もある。スプレードライヤーによる乾燥では熱風の入口温度、および出口温度の管理が重要である。
【0037】
入口と出口との温度差が大きければ単位時間当たりの乾燥量が増加し生産性が向上するが、入口温度が高すぎる場合には粉体、および添加したバインダーが熱により変質し、望まれる特性が得られない場合がある。また、出口温度が低すぎる場合は造粒粉が十分に乾燥されない場合がある。
【0038】
次に、プレス成型を行う。造粒粉を金型に充填し、400〜1000kgf/cmの圧力を、1〜3分間保持して成形する。圧力400kgf/cm未満であると、充分な強度と密度の成形体を得ることができず、また圧力1000kgf/cm以上では、成形体を金型から取り出す際に、成形体自身が圧力から解放されることによる変形のため破壊する場合があり、生産上好ましくない。
【0039】
電気炉を使用し、酸素雰囲気中で成形体を焼結し、焼結体を得る。焼結温度は1450℃以下として焼結する。この場合、焼結温度が1450℃を超えると、焼結体の組織が単相となってしまい、結晶粒径も粗大化してしまうため、上限は1450℃とすることが望ましい。焼結温度までの昇温途中で、必要に応じて脱バインダー工程等を導入しても良い。
【0040】
焼結温度における保持時間が2時間より短いと、焼結が充分進まず、焼結体の密度が充分高くならなかったり、焼結体が反ってしまったりする。保持時間が100時間を越えても、不必要なエネルギーと時間を要する無駄が生じて生産上好ましくない。好ましくは、5〜20時間である。
降温時冷却中の雰囲気を大気雰囲気もしくは酸素雰囲気とし、最高保持温度から100℃±20℃の低い温度で1時間程度保持することで、酸化錫リッチ相の95%以上が粒界三重点に存在することができる。これは、固溶していたSnが冷却中に析出するためであり、100℃±20℃の低い温度で保持することにより、酸化錫リッチ相の95%以上を粒界三重点に存在させることが可能となる。保持時間は1時間以上としてもよいが、大きな変化は見られない。なお、この保持時間は、保持温度等との兼ね合いで適宜調整することができ、所望の組織が得られていれば、特に制限されない。
【0041】
バルク抵抗率の測定方法については、例えばエヌピイエス株式会社製、型式:Σ−5+を用いて測定することができる。測定に際し、まず試料の表面に金属製の探針を4本一直線上に立て、外側の二探針間に一定電流を流し、内側の二探針間に生じる電位差を測定し抵抗を求める。求めた抵抗に試料厚さ、補正係数RCF(Resistivity Correction Factor)をかけて、体積抵抗率(バルク抵抗率)を算出することができる。
【0042】
このような条件で焼結された焼結体は、上記の通り、焼結体密度を7.03g/cm以上の高密度とし、バルク抵抗率を0.10〜0.15mΩ・cmとし、導電性を向上させることが可能である。また、前記酸化錫リッチ相の最大サイズを1μmとし、酸化錫リッチ相の粗大化を抑制したターゲットとすることができる。
また、ITOスパッタリングターゲットの焼結体の曲げ強度を100MPa以上とすし、ターゲットの強度を高めることができる。
【0043】
このようにして得られた焼結体の表面を研削し、さらに側辺をダイヤモンドカッターで127mm×508mmサイズに切断する。
次に、無酸素銅製のバッキングプレートを200°Cに設定したホットプレート上に設置し、インジウムをロウ材として使用し、その厚みが約0.2mmとなるように塗布する。このバッキングプレート上に、ITO焼結体を接合させ、室温まで放置冷却する。
【0044】
このターゲットをシンクロン製マグネトロンスパッタ装置(BSC−7011)に取り付け、投入パワーはDC電源で2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)と酸素(O)でガス総流量は300sccm、酸素濃度は0〜4%として成膜を行う。
特に、本発明の透明導電膜の製造に際しては、アルゴンと酸素からなり、酸素濃度が4%以下である混合ガス雰囲気中、基板を無加熱又は150℃以下に保持し、前記本発明のITOスパッタリングターゲットを用いて基板上に成膜するのが良い。基板はガラス基板だけでなく、PET等のフィルム基板でも良い。
【0045】
このようにして作製した透明導電膜は、In、Sn、O、及び、不可避的不純物からなる透明導電膜であり、原子比でSn/(In+Sn)が1.8%以上3.7%未満となるSnを含有し、無加熱成膜での膜の抵抗率が3.0mΩ・cm以下であり、波長550nmでの透過率が80%以上の膜特性の透明導電膜を得ることができる。
また、原子比でSn/(In+Sn)が2.3〜3.2%となるSnを含有し、In、Sn、O、及び、不可避的不純物からなる透明導電膜とすることもできる。このようにして作製した透明導電膜は、結晶化温度が120℃以下とすることができる。
【0046】
次に、本願明細書で使用する用語(定義、試験方法等)について説明する。
まず、ターゲットの観察箇所は、焼結体を4等分割にし、それら4等分割した焼結体の中心部分を2視野、合計8視野を観察箇所とする。観察箇所の具体例を、図4の●で示す。図4の左上図は、丸型の焼結体の場合、図4の右図は、角型の焼結体の場合、図4の左下図は、円筒型の場合を、それぞれ示す。
(焼結体の平均結晶粒径の測定方法)
平均結晶粒径の測定法としてコード法を用いた。コード法は、x2,000倍のSEM画像上で任意の方向に粒界から粒界まで直線を引き、この線が1つの粒子を横切る長さの平均を平均結晶粒径とするものである。SEM画像(写真)上に、任意の直線(粒界から粒界まで)を引き、粒界との交点の数を数え、次の(式1)で計算する。
(式1)平均結晶粒径 = 直線の長さ/交点の数
具体的には、8視野のSEM画像に任意の長さの互いに平行な線を1視野につき5本引き、その線の合計長さと粒界との交点の総数の平均から算出し、平均結晶粒径とした。
サンプルは鏡面研磨後に、王水でエッチングを行った。SEM画像は、FE−EPMA(日本電子株式会社製、JXA−8500F型 FE電子プローブマイクロアナライザ)にて撮影した。
【0047】
(空孔面積比率)
空孔は、x2,000倍のSEM画像を用いて観察した。空孔は、略円形(真円を含む)、楕円形、歪円形をしており、それぞれ径が最も大きくなる部分、長軸径(直径を含む)を測長した。空孔面積比率は、x2,000倍の8視野のSEM画像を用いて、Adobe Photoshop Elements7.0にて、グレースケール・二値化処理後に、ヒストグラムから空孔の面積比率(8視野の平均面積比率)を算出した。サンプルは鏡面研磨後に、王水でエッチングを行った。SEM画像は、FE−EPMA(日本電子株式会社製、JXA−8500F型 FE電子プローブマイクロアナライザ)にて撮影した。
【0048】
(酸化錫リッチ相について)
図1は、原子比でSn/(In+Sn)が、3.8%となるSnを含有したITO焼結体のFE−EPMA(日本電子株式会社製、JXA−8500F型 FE電子プローブマイクロアナライザ)によるx2000倍のSnの面分析結果であるが、酸化錫リッチ相とは、他の相よりもSn強度が強い相(画像では白い部分)を指す。
酸化錫リッチ相の面積率は、50μmx50μmのSn面分析画像を8視野撮影し、Adobe Photoshop Elements7.0にて、グレースケール・二値化処理後に、ヒストグラムから酸化錫リッチ相の面積比率(8視野の平均面積比率)を算出したものである。
図1の左側は、原子比でSn/(In+Sn)が、3.8%となるSnを含有したITO焼結体のSn面の分析結果を示す図(画像)であり、右側は、SEM像を示す図(画像)である。
酸化錫リッチ相の最大サイズは、上記画像8視野中の最大の長軸径の事を指す。
【0049】
(酸化インジウム相について)
図1のSn面分析結果の酸化スズリッチ相以外の相を、酸化インジウム相と定義する。
【0050】
(酸化錫リッチ相が粒界三重点に95%以上存在することに関する説明)
粒界三重点:図2のAは原子比でSn/(In+Sn)で2.8%含有したITO焼結体のSEM像であるが、この図2のAの粒界に沿って線を描くと、図2のBのようになる。粒界三重点とは図2のBの●部分の様に、3つの粒子の粒界の交点を指す。図2のBの○部分は粒界三重点ではない部分を指す。
図2のCは、図2のAと同じ視野のSnの面分析結果で、丸点線で囲んでいる部分が酸化錫リッチ相である。図2のCを図2のAに重ね合わせて、酸化スズリッチ相が粒界三重点に位置しているかどうかを確認し、酸化スズリッチ相の個数と粒界三重点に位置している酸化スズリッチ相の個数の割合が、8視野全てで95%以上となっているか確認する。図2のDは、図2のAと図2のCを重ね合わせたSEM像である。
【0051】
(焼結体曲げ強度試験方法)
ファインセラミックスの曲げ強さ(JIS R 1601)の三点曲げ試験に準じて試験を行った。試験片は20個とし、記載した数値はその平均値である。使用した装置は、今田製作所引張圧縮試験機(SV−201NA−50SL型)である。
【0052】
(アーキング検出感度)
ランドマークテクノロジー製マイクロアークモニター(MAM Genesis)にて、アーキング(マイクロアーク)発生回数(回)を測定した。 アーキングの判定基準は、検出電圧100V以上、放出エネルギー(アーク放電が発生している時のスパッタ電圧×スパッタ電流×発生時間)が20mJ以下のアーキングをカウントした。
【0053】
(ノジュール被覆率)
図3は、35hr連続スパッタリング後のターゲットの写真で、白点線枠をデジタルカメラで撮影し、Adobe Photoshop Elements7.0にて、グレースケール・二値化処理後(図3参照)に、ヒストグラムからノジュールの面積比率を算出し、3箇所の平均をノジュール被覆率とした。
【実施例】
【0054】
下記に、実施例及び比較例に基づいて本発明を説明するが、これらの実施例、比較例は、理解を容易にするためのものであり、これらの実施例によって本発明を制限するものではない。すなわち、本発明の技術思想に基づく変形及び他の実施例は、当然本発明に含まれる。
【0055】
(実施例1)
原子比でSn/(In+Sn)が、2.8%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1450℃とし、最高焼結温度での保持時間を5時間とした。その後、降温冷却時に1350℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.070g/cm、曲げ強度115MPa、バルク抵抗率0.110mΩ・cm、平均結晶粒径3.43μm、酸化錫リッチ相の面積率0.45%、酸化錫リッチ相三重点存在確率98%、空孔面積率は0.08%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は28回/24hr、ノジュール被覆率は1%と良好であった。
この結果を、表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
(実施例2)
原子比でSn/(In+Sn)が、2.8%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1450℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1330℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.100g/cm、曲げ強度120MPa、バルク抵抗率0.116mΩ・cm、平均結晶粒径3.54μm、酸化錫リッチ相の面積率0.39%、酸化錫リッチ相三重点存在確率99%、空孔面積率は0.07%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は23回/24hr、ノジュール被覆率は0.8%と良好であった。
【0058】
この実施例2について、同様のDCパワー密度、ガス圧で、スパッタガスにアルゴンと、酸素含有量を0、1、2、4%とし、ガス流量300sccmでガラス基板(EagleXG)に無加熱で成膜し、40nmのITO膜を作製した。
この膜を、イナートオーブン炉(型番:INL−45−S)を用いて、50〜200℃まで大気雰囲気で60分加熱し、加熱前後の膜をXRD(装置型番:リガク製_全自動水平型多目的X線回折装置 SmartLab)測定にて結晶化の有無を確認した。結晶化温度は、XRD測定にてInの(222)面のピークが認められた温度とした。
【0059】
酸素濃度が0%の場合、膜抵抗率は2.70mΩ・cm、500nm波長での透過率は80.5%、結晶化温度は100℃であった。
酸素濃度が1%の場合、膜抵抗率は1.01mΩ・cm、500nm波長での透過率は84.0%、結晶化温度は100℃であった。
酸素濃度が2%の場合、膜抵抗率は0.59mΩ・cm、500nm波長での透過率は88.1%、結晶化温度は100℃であった。
酸素濃度が4%の場合、膜抵抗率は0.81mΩ・cm、500nm波長での透過率は87.4%、結晶化温度は100℃であった。
この結果を、表2に示す。いずれも、良好な結果が得られた。
【0060】
【表2】
【0061】
(実施例3)
原子比でSn/(In+Sn)が、2.8%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1450℃とし、最高焼結温度での保持時間を15時間とした。その後、降温冷却時に1370℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.105g/cm、曲げ強度121MPa、バルク抵抗率0.124mΩ・cm、平均結晶粒径3.66μm、酸化錫リッチ相の面積率0.35%、酸化錫リッチ相三重点存在確率99%、空孔面積率は0.05%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は20回/24hr、ノジュール被覆率は0.3%と良好であった。
【0062】
(実施例4)
原子比でSn/(In+Sn)が、2.8%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1430℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1330℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.082g/cm、曲げ強度116MPa、バルク抵抗率0.118mΩ・cm、平均結晶粒径3.26μm、酸化錫リッチ相の面積率0.68%、酸化錫リッチ相三重点存在確率99%、空孔面積率は0.10%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は25回/24hr、ノジュール被覆率は0.7%と良好であった。
【0063】
(実施例5)
原子比でSn/(In+Sn)が、2.8%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1400℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1300℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.058g/cm、曲げ強度113MPa、バルク抵抗率0.121mΩ・cm、平均結晶粒径3.20μm、酸化錫リッチ相の面積率0.83%、酸化錫リッチ相三重点存在確率98%、空孔面積率は0.15%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は31回/24hr、ノジュール被覆率は1.2%と良好であった。
【0064】
(実施例6)
原子比でSn/(In+Sn)が、1.8%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1350℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1250℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.036g/cm、曲げ強度110MPa、バルク抵抗率0.129mΩ・cm、平均結晶粒径3.01μm、酸化錫リッチ相の面積率0.95%、酸化錫リッチ相三重点存在確率97%、空孔面積率は0.23%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は40回/24hr、ノジュール被覆率は1.5%と良好であった。
【0065】
(実施例7)
原子比でSn/(In+Sn)が、1.8%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1450℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1350℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.074g/cm、曲げ強度111MPa、バルク抵抗率0.131mΩ・cm、平均結晶粒径3.96μm、酸化錫リッチ相の面積率0.21%、酸化錫リッチ相三重点存在確率99%、空孔面積率は0.08%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は31回/24hr、ノジュール被覆率は0.9%と良好であった。
【0066】
この実施例7について、同様のDCパワー密度、ガス圧で、スパッタガスにアルゴンと、酸素含有量を0、1、2、4%とし、ガス流量300sccmでガラス基板(EagleXG)に無加熱で成膜し、40nmのITO膜を作製した。
この膜を、イナートオーブン炉(型番:INL−45−S)を用いて、50〜200℃まで大気雰囲気で60分加熱し、加熱前後の膜をXRD(装置型番:リガク製_全自動水平型多目的X線回折装置 SmartLab)測定にて結晶化の有無を確認した。結晶化温度は、XRD測定にてInの(222)面のピークが認められた温度とした。
【0067】
酸素濃度が0%の場合、膜抵抗率は2.93mΩ・cm、500nm波長での透過率は81.1%、結晶化温度は80℃であった。
酸素濃度が1%の場合、膜抵抗率は1.33mΩ・cm、500nm波長での透過率は83.2%、結晶化温度は80℃であった。
酸素濃度が2%の場合、膜抵抗率は0.65mΩ・cm、500nm波長での透過率は88.7%、結晶化温度は80℃であった。
酸素濃度が4%の場合、膜抵抗率は0.96mΩ・cm、500nm波長での透過率は86.9%、結晶化温度は80℃であった。
この結果を、同様に表2に示す。いずれも、良好な結果が得られた。
【0068】
(実施例8)
原子比でSn/(In+Sn)が、1.8%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1400℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1300℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.045g/cm、曲げ強度107MPa、バルク抵抗率0.125mΩ・cm、平均結晶粒径3.46μm、酸化錫リッチ相の面積率0.26%、酸化錫リッチ相三重点存在確率99%、空孔面積率は0.11%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は33回/24hr、ノジュール被覆率は1.2%と良好であった。
【0069】
(実施例9)
原子比でSn/(In+Sn)が、2.1%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1450℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1350℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.079g/cm、曲げ強度113MPa、バルク抵抗率0.125mΩ・cm、平均結晶粒径3.55μm、酸化錫リッチ相の面積率0.18%、酸化錫リッチ相三重点存在確率99%、空孔面積率は0.12%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は30回/24hr、ノジュール被覆率は1.3%と良好であった。
【0070】
(実施例10)
原子比でSn/(In+Sn)が、2.1%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1400℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1300℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.050g/cm、曲げ強度110MPa、バルク抵抗率0.122mΩ・cm、平均結晶粒径2.75μm、酸化錫リッチ相の面積率0.22%、酸化錫リッチ相三重点存在確率99%、空孔面積率は0.13%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は31回/24hr、ノジュール被覆率は1.6%と良好であった。
【0071】
(実施例11)
原子比でSn/(In+Sn)が、2.6%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1450℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1350℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.088g/cm、曲げ強度119MPa、バルク抵抗率0.123mΩ・cm、平均結晶粒径2.97μm、酸化錫リッチ相の面積率0.33%、酸化錫リッチ相三重点存在確率98%、空孔面積率は0.10%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は25回/24hr、ノジュール被覆率は1%と良好であった。
【0072】
(実施例12)
原子比でSn/(In+Sn)が、2.6%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1400℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1300℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.071g/cm、曲げ強度115MPa、バルク抵抗率0.119mΩ・cm、平均結晶粒径2.83μm、酸化錫リッチ相の面積率0.38%、酸化錫リッチ相三重点存在確率98%、空孔面積率は0.10%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は28回/24hr、ノジュール被覆率は1.1%と良好であった。
【0073】
(実施例13)
原子比でSn/(In+Sn)が、3.0%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として酸素雰囲気中で用いて焼結した。最高焼結温度を1450℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1350℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.103g/cm、曲げ強度126MPa、バルク抵抗率0.117mΩ・cm、平均結晶粒径3.67μm、酸化錫リッチ相の面積率0.41%、酸化錫リッチ相三重点存在確率98%、空孔面積率は0.08%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は21回/24hr、ノジュール被覆率は0.9%と良好であった。
【0074】
(実施例14)
原子比でSn/(In+Sn)が、3.0%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1400℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1300℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.091g/cm、曲げ強度121MPa、バルク抵抗率0.115mΩ・cm、平均結晶粒径3.49μm、酸化錫リッチ相の面積率0.46%、酸化錫リッチ相三重点存在確率98%、空孔面積率は0.09%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は24回/24hr、ノジュール被覆率は0.9%と良好であった。
【0075】
(実施例15)
原子比でSn/(In+Sn)が、3.2%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1450℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1350℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.109g/cm、曲げ強度127MPa、バルク抵抗率0.110mΩ・cm、平均結晶粒径3.82μm、酸化錫リッチ相の面積率0.55%、酸化錫リッチ相三重点存在確率98%、空孔面積率は0.07%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は18回/24hr、ノジュール被覆率は0.7%と良好であった。
【0076】
この実施例15について、同様のDCパワー密度、ガス圧で、スパッタガスにアルゴンと、酸素含有量を0、1、2、4%とし、ガス流量300sccmでガラス基板(EagleXG)に無加熱で成膜し、40nmのITO膜を作製した。
この膜を、イナートオーブン炉(型番:INL−45−S)を用いて、50〜200℃まで大気雰囲気で60分加熱し、加熱前後の膜をXRD(装置型番:リガク製_全自動水平型多目的X線回折装置 SmartLab)測定にて結晶化の有無を確認した。結晶化温度は、XRD測定にてInの(222)面のピークが認められた温度とした。
【0077】
酸素濃度が0%の場合、膜抵抗率は2.65mΩ・cm、500nm波長での透過率は80.1%、結晶化温度は110℃であった。
酸素濃度が1%の場合、膜抵抗率は0.97mΩ・cm、500nm波長での透過率は83.6%、結晶化温度は110℃であった。
酸素濃度が2%の場合、膜抵抗率は0.60mΩ・cm、500nm波長での透過率は89.2%、結晶化温度は110℃であった。
酸素濃度が4%の場合、膜抵抗率は0.84mΩ・cm、500nm波長での透過率は87.6%、結晶化温度は110℃であった。
この結果を、同様に表2に示す。いずれも、良好な結果が得られた。
【0078】
(実施例16)
原子比でSn/(In+Sn)が、3.2%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1400℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1300℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.100g/cm、曲げ強度123MPa、バルク抵抗率0.104mΩ・cm、平均結晶粒径3.77μm、酸化錫リッチ相の面積率0.62%、酸化錫リッチ相三重点存在確率98%、空孔面積率は0.06%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は18回/24hr、ノジュール被覆率は0.6%と良好であった。
【0079】
(実施例17)
原子比でSn/(In+Sn)が、3.5%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1450℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1350℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.112g/cm、曲げ強度130MPa、バルク抵抗率0.111mΩ・cm、平均結晶粒径4.02μm、酸化錫リッチ相の面積率0.62%、酸化錫リッチ相三重点存在確率98%、空孔面積率は0.06%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は15回/24hr、ノジュール被覆率は0.6%と良好であった。
【0080】
(実施例18)
原子比でSn/(In+Sn)が、3.5%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1400℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1300℃で1時保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.102g/cm、曲げ強度128MPa、バルク抵抗率0.106mΩ・cm、平均結晶粒径3.89μm、酸化錫リッチ相の面積率0.70%、酸化錫リッチ相三重点存在確率97%、空孔面積率は0.05%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は14回/24hr、ノジュール被覆率は0.5%と良好であった。
【0081】
(比較例1)
原子比でSn/(In+Sn)が、2.8%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1550℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1450℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.112g/cm、曲げ強度122MPa、バルク抵抗率0.135mΩ・cm、平均結晶粒径7.64μm、酸化錫リッチ相の面積率0.00%、酸化錫リッチ相三重点存在確率0%、空孔面積率は0.52%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は120回/24hr、ノジュール被覆率は2.5%と、本願発明の条件を満たしておらず、不良であった。
【0082】
(比較例2)
原子比でSn/(In+Sn)が、2.8%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1500℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1400℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.106g/cm、曲げ強度120MPa、バルク抵抗率0.124mΩ・cm、平均結晶粒径5.98μm、酸化錫リッチ相の面積率0.02%、酸化錫リッチ相三重点存在確率99%、空孔面積率は0.68%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は148回/24hr、ノジュール被覆率は3.1%と、本願発明の条件を満たしておらず、不良であった。
【0083】
(比較例3)
原子比でSn/(In+Sn)が、2.8%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1450℃とし、最高焼結温度での保持時間を1時間とした。その後、降温冷却時に1350℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度6.989g/cm、曲げ強度103MPa、バルク抵抗率0.121mΩ・cm、平均結晶粒径3.25μm、酸化錫リッチ相の面積率0.58%、酸化錫リッチ相三重点存在確率94%、空孔面積率は0.20%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は334回/24hr、ノジュール被覆率は4.8%と、本願発明の条件を満たしておらず、不良であった。
【0084】
(比較例4)
原子比でSn/(In+Sn)が、1.8%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1550℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1450℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.098g/cm、曲げ強度115MPa、バルク抵抗率0.125mΩ・cm、平均結晶粒径6.21μm、酸化錫リッチ相の面積率0.00%、酸化錫リッチ相三重点存在確率0%、空孔面積率は0.55%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は100回/24hr、ノジュール被覆率は2.6%と、本願発明の条件を満たしておらず、不良であった。
【0085】
(比較例5)
原子比でSn/(In+Sn)が、1.8%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1500℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1400℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.066g/cm、曲げ強度111MPa、バルク抵抗率0.120mΩ・cm、平均結晶粒径5.12μm、酸化錫リッチ相の面積率0.00%、酸化錫リッチ相三重点存在確率0%、空孔面積率は0.63%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は114回/24hr、ノジュール被覆率は2.9%と、本願発明の条件を満たしておらず、不良であった。
【0086】
(比較例6)
原子比でSn/(In+Sn)が、1.6%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1450℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1350℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.048g/cm、曲げ強度103MPa、バルク抵抗率0.133mΩ・cm、平均結晶粒径4.05μm、酸化錫リッチ相の面積率0.00%、酸化錫リッチ相三重点存在確率0%、空孔面積率は0.62%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は128回/24hr、ノジュール被覆率は2.9%と、本願発明の条件を満たしておらず、不良であった。
【0087】
(比較例7)
原子比でSn/(In+Sn)が、1.6%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1400℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1300℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.024g/cm、曲げ強度98MPa、バルク抵抗率0.138mΩ・cm、平均結晶粒径3.83μm、酸化錫リッチ相の面積率0.02%、酸化錫リッチ相三重点存在確率99%、空孔面積率は0.66%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は145回/24hr、ノジュール被覆率は3.3%と、本願発明の条件を満たしておらず、不良であった。
【0088】
(比較例8)
原子比でSn/(In+Sn)が、1.4%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1450℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1350℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.030g/cm、曲げ強度99MPa、バルク抵抗率0.139mΩ・cm、平均結晶粒径4.68μm、酸化錫リッチ相の面積率0.00%、酸化錫リッチ相三重点存在確率0%、空孔面積率は0.78%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は138回/24hr、ノジュール被覆率は3.2%と、本願発明の条件を満たしておらず、不良であった。
【0089】
この比較例8について、同様のDCパワー密度、ガス圧で、スパッタガスにアルゴンと、酸素含有量を0、1、2、4%とし、ガス流量300sccmでガラス基板(EagleXG)に無加熱で成膜し、40nmのITO膜を作製した。
この膜を、イナートガスオーブン炉(型番:INL−45−S)を用いて、50〜200℃まで大気雰囲気で60分加熱し、加熱前後の膜をXRD(装置型番:リガク製_全自動水平型多目的X線回折装置SmartLab)測定にて結晶化の有無を確認した。結晶化温度は、XRD測定にてInの(222)面のピークが認められた温度とした。
【0090】
酸素濃度が0%の場合、膜抵抗率は6.21mΩ・cm、500nm波長での透過率は72.9%、結晶化温度は50℃であった。
酸素濃度が1%の場合、膜抵抗率は4.60mΩ・cm、500nm波長での透過率は76.3%、結晶化温度は50℃であった。
酸素濃度が2%の場合、膜抵抗率は3.01mΩ・cm、500nm波長での透過率は78.7%、結晶化温度は50℃であった。
酸素濃度が4%の場合、膜抵抗率は4.38mΩ・cm、500nm波長での透過率は75.4%、結晶化温度は50℃であった。
この結果を、同様に表2に示す。いずれも、本発明の条件を満たしておらす、不良となった。
【0091】
(比較例9)
原子比でSn/(In+Sn)が、1.4%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1400℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1300℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.015g/cm、曲げ強度90MPa、バルク抵抗率0.145mΩ・cm、平均結晶粒径4.07μm、酸化錫リッチ相の面積率0.00%、酸化錫リッチ相三重点存在確率0%、空孔面積率は0.85%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は162回/24hr、ノジュール被覆率は3.5%と、本願発明の条件を満たしておらず、不良であった。
【0092】
(比較例10)
原子比でSn/(In+Sn)が、1.2%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1450℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1350℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.009g/cm、曲げ強度88MPa、バルク抵抗率0.148mΩ・cm、平均結晶粒径5.03μm、酸化錫リッチ相の面積率0.00%、酸化錫リッチ相三重点存在確率0%、空孔面積率は0.88%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は173回/24hr、ノジュール被覆率は3.8%と、本願発明の条件を満たしておらず、不良であった。
【0093】
(比較例11)
原子比でSn/(In+Sn)が、1.2%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1400℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1300℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度6.994g/cm、曲げ強度80MPa、バルク抵抗率0.156mΩ・cm、平均結晶粒径4.54μm、酸化錫リッチ相の面積率0.00%、酸化錫リッチ相三重点存在確率0%、空孔面積率は1.02%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は199回/24hr、ノジュール被覆率は1.3%と、本願発明の条件を満たしておらず、不良であった。
【0094】
(比較例12)
原子比でSn/(In+Sn)が、3.7%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1450℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1350℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.112g/cm、曲げ強度120MPa、バルク抵抗率0.120mΩ・cm、平均結晶粒径4.32μm、酸化錫リッチ相の面積率2.3%、酸化錫リッチ相三重点存在確率92%、空孔面積率は0.22%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は60回/24hr、ノジュール被覆率は1.3%と、本願発明の条件を満たしておらず、不良であった。
【0095】
この比較例12について、同様のDCパワー密度、ガス圧で、スパッタガスにアルゴンと、酸素含有量を0、1、2、4%とし、ガス流量300sccmでガラス基板(EagleXG)に無加熱で成膜し、40nmのITO膜を作製した。
この膜を、イナートガスオーブン炉(型番:INL−45−S)を用いて、50〜200℃まで大気雰囲気で60分加熱し、加熱前後の膜をXRD(装置型番:リガク製_全自動水平型多目的X線回折装置SmartLab)測定にて結晶化の有無を確認した。結晶化温度は、XRD測定にてInの(222)面のピークが認められた温度とした。
【0096】
酸素濃度が0%の場合、膜抵抗率は2.74mΩ・cm、500nm波長での透過率は77.1%、結晶化温度は130℃であった。
酸素濃度が1%の場合、膜抵抗率は0.99mΩ・cm、500nm波長での透過率は84.6%、結晶化温度は130℃であった。
酸素濃度が2%の場合、膜抵抗率は0.61mΩ・cm、500nm波長での透過率は86.8%、結晶化温度は130℃であった。
酸素濃度が4%の場合、膜抵抗率は0.87mΩ・cm、500nm波長での透過率は85.1%、結晶化温度は130℃であった。
この結果を、同様に表2に示す。いずれも、本発明の条件を満たしておらす、不良となった。
【0097】
(比較例13)
原子比でSn/(In+Sn)が、2.8%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1450℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、特定の温度で保持せず降温冷却した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.093g/cm、曲げ強度110MPa、バルク抵抗率0.110mΩ・cm、平均結晶粒径3.55μm、酸化錫リッチ相の面積率0.10%、酸化錫リッチ相三重点存在確率91%、空孔面積率は0.07%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は156回/24hr、ノジュール被覆率は2.0%と、本願発明の条件を満たしておらず、不良であった。
【0098】
(比較例14)
原子比でSn/(In+Sn)が、2.8%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1450℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1250℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.095g/cm、曲げ強度115MPa、バルク抵抗率0.123mΩ・cm、平均結晶粒径3.58μm、酸化錫リッチ相の面積率0.08%、酸化錫リッチ相三重点存在確率92%、空孔面積率は0.06%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は140回/24hr、ノジュール被覆率は2.2%と、本願発明の条件を満たしておらず、不良であった。
【0099】
(比較例15)
原子比でSn/(In+Sn)が、2.8%となるように比率を調整したSnO粉末とIn粉末を焼結原料として用いて酸素雰囲気中で焼結した。最高焼結温度を1450℃とし、最高焼結温度での保持時間を10時間とした。その後、降温冷却時に1400℃で1時間保持した。こうして得られた焼結体は、焼結体密度7.100g/cm、曲げ強度120MPa、バルク抵抗率0.136mΩ・cm、平均結晶粒径3.65μm、酸化錫リッチ相の面積率0.05%、酸化錫リッチ相三重点存在確率90%、空孔面積率は0.07%であった。
この焼結体を用いてターゲットを作製し、DCパワー密度2.3W/cm、ガス圧は0.6Pa、スパッタガスはアルゴン(Ar)、ガス流量300sccmで連続的に35時間スパッタリングを行ったところ、アーキング発生回数は230回/24hr、ノジュール被覆率は2.6%と、本願発明の条件を満たしておらず、不良であった。
【0100】
上記、実施例、比較例におけるスパッタリングする場合の酸素濃度を変化させた場合の膜抵抗率、500nm波長での透過率、結晶化温度については、実施例2、実施例7、実施例15、比較例8、比較例12について述べ、他の実施例、比較例については、省略したが、これは、煩雑さを避けるためであり、それぞれ同様の結果が得られていることを付言する。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、透明導電膜形成に好適な、低温でも低抵抗な膜を得ることが可能である低酸化錫組成のITOスパッタリングターゲットに関し、ターゲットの粒径が小さく、高密度であり、強度が高く、アーキングやノジュールを低減できるITOスパッタリングターゲットを提供することができる。
そしてスパッタリングが進行することに伴う膜特性の変化を少なくすると共に、成膜の品質の向上を図ることができる。この結果、ITOターゲットの生産性や信頼性を向上することができるという優れた効果を有する。本発明のITOスパッタリングターゲットは、特にITO膜形成に有用であり、タッチパネル、フラットパネルディスプレイ、有機EL、太陽電池等の用途に最適である。
図1
図2
図3
図4