特許第6291644号(P6291644)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6291644-エドワジェラ症耐性ヒラメの識別方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6291644
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】エドワジェラ症耐性ヒラメの識別方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20180305BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   C12Q1/68 AZNA
   C12N15/00 A
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-6714(P2014-6714)
(22)【出願日】2014年1月17日
(65)【公開番号】特開2015-133929(P2015-133929A)
(43)【公開日】2015年7月27日
【審査請求日】2016年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000192903
【氏名又は名称】神奈川県
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】500557048
【氏名又は名称】学校法人日本医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100110249
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 昭
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116090
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 和彦
(72)【発明者】
【氏名】坂本 崇
(72)【発明者】
【氏名】岡本 信明
(72)【発明者】
【氏名】藤 加菜子
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 理
(72)【発明者】
【氏名】河合 純
(72)【発明者】
【氏名】倉田 修
【審査官】 千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−124797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−3/00
C12N 15/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エドワジェラ症耐性ヒラメの識別方法であって、配列番号1の756〜999番目の塩基配列又はこの塩基配列を含む配列番号1の塩基配列中の連続する塩基配列から成る遺伝マーカーを用いることを特徴とする方法。
【請求項2】
下記工程から成るエドワジェラ症耐性ヒラメの識別方法。
1)ヒラメ、その卵又はそれらの加工品から抽出したDNAについて、配列番号1の756〜999番目の塩基配列又はこの塩基配列を含む配列番号1の塩基配列中の連続する塩基配列から成るポリヌクレオチドを増幅する工程、
2)別途継代飼育の結果、エドワジェラ症耐性と認められる系統のヒラメについて、上記1)と同じ工程を実施する工程、及び
3)1)と2)の工程の増幅結果を比較し、これらが一致する場合に、ヒラメがエドワジェラ症耐性であると識別する工程
【請求項3】
工程3)において、比較するポリヌクレオチドのサイズが一致する場合に、ヒラメがエドワジェラ症耐性であると識別する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
下記工程から成るエドワジェラ症耐性ヒラメの識別方法。
1)ヒラメ、その卵又はその加工品から抽出したDNAについて、下記a)の塩基配列から成るオリゴヌクレオチド、及びb)の塩基配列から成るオリゴヌクレオチドに相補的なオリゴヌクレオチド、又はこれらに相補的な配列の2つのオリゴヌクレオチド
a)配列番号1の1〜775番目の塩基配列のうち連続する18〜25個の塩基配列
b)配列番号1の980〜3056番目の塩基配列のうち連続する18〜25個の塩基配列
をプライマーとして用いてPCR反応を行う工程、
2)別途継代飼育の結果、エドワジェラ症耐性と認められる系統のヒラメについて、上記1)と同じ工程を実施する工程、及び
3)1)と2)の工程の増幅結果を比較し、これらのサイズが一致する場合に、ヒラメがエドワジェラ症耐性であると識別する工程
【請求項5】
前記プライマーが、5'- CACGCTGCTCTTTATCTCCA-3' (配列番号22)の5'側末端から連続する少なくとも18個の塩基から成るオリゴヌクレオチド、及び5'- CCATGCATGACGTAGAGTGC-3' (配列番号23)の5'側末端から連続する少なくとも18個の塩基から成るオリゴヌクレオチド、又はこれらに相補的な配列の2つのオリゴヌクレオチドであり、工程2)の増幅結果が、PCR産物のゲル電気泳動において243bpのバンドがあることである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
下記a)の塩基配列から成るオリゴヌクレオチド、及びb)の塩基配列から成るオリゴヌクレオチドに相補的なオリゴヌクレオチド、又はこれらに相補的な配列の2つのオリゴヌクレオチドから成る、エドワジェラ症耐性ヒラメを識別するためのPCR用プライマー。
a)配列番号1の1〜775番目の塩基配列のうち連続する18〜25個の塩基配列
b)配列番号1の980〜3056番目の塩基配列のうち連続する18〜25個の塩基配列
【請求項7】
ヒラメがエドワジェラ症耐性であるか否かを識別するための診断キットであって、請求項6に記載のPCR用プライマーを含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、遺伝マーカーを用いたエドワジェラ症耐性のヒラメの識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒラメは日本、韓国、中国などで養殖され、重要な養殖魚である。エドワジェラ症は、腸内細菌の一種であるエドワジェラ・タルダの感染により引き起こされる養殖ヒラメの代表的な病気であって、水温の高い時期に出やすく死亡率が高い。
ヒラメにおいて、このエドワジェラ症感受性は遺伝することが確かめられており、発明者らは、すでに、ヒラメの遺伝子連鎖地図(非特許文献1)における遺伝子連鎖群(LG)4のマーカー座Poli1506TUF関する特定のプライマーを用いたヒラメ由来の核酸を鋳型とするPCR反応により、エドワジェラ症感受性を判別することができることを見出している(特許文献1)。
また発明者らは、新たにヒラメの第2世代遺伝子連鎖地図を作製し、公開した(非特許文献2)。以前のヒラメの遺伝子連鎖地図(非特許文献1)では、100座位以下のマイクロサテライト(MS)マーカーが配置されているにすぎなかったが、この遺伝子連鎖地図(非特許文献2)では、1000座位近いMSマーカーが配置されており、ヒラメゲノム上の細部まで探索することが可能になった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−124797
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M. M. Coimbra、東京水産大学博士学位論文(2001);Aquaculture(2003)
【非特許文献2】BMC Genomics 2010, 11:554
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヒラメ養殖におけるエドワジェラ症による被害の対策の一つとして、遺伝的にエドワジェラ症耐性形質を有するヒラメの作出が有効である。
本発明の目的は、エドワジェラ症耐性形質を有するヒラメを効率的に養殖することを可能とする、エドワジェラ症耐性のヒラメを識別する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
神奈川県水産技術センターにて長年継続されてきた養殖ヒラメにおいて、本発明者らはエドワジェラ症に対する耐性の異なる2系統(耐病性系統:KP-C・感受性系統:KP-B)を明らかにした。そして、これらエドワジェラ症に対する耐性の異なる2系統から雑種第一代(F1:KP-CB)を作出し、F1(KP-CB)と感受性系統(KP-B)を用いて1対1交配を行ない、戻し交配集団(KP-BCB)を作出した。その結果、エドワジェラ症耐性に遺伝性があることを確認した。本発明者らは、この戻し交配集団、その両親、祖父母に対してDNAマーカーを用いたQTL解析を行い、新しい遺伝子連鎖地図(非特許文献2)と照らし合わせたところ、遺伝子連鎖群(LG)23のマーカー座Poli Edwardsiellosis -1 TUF(配列番号1)にヒラメのエドワジェラ症耐性形質を司るマーカー座があることを見出し、本発明を完成させるに至った。
上記解析において、より詳細な遺伝子連鎖地図(非特許文献2)を使用したため、ヒラメのエドワジェラ症耐性形質を司るマーカー座を見出すことが可能になり、エドワジェラ症に対して耐性のヒラメを直接識別することが可能になった。
【0007】
即ち、本発明は、エドワジェラ症耐性ヒラメの識別方法であって、配列番号1の756〜999番目の塩基配列又はこの塩基配列を含む配列番号1の塩基配列中の連続する塩基配列から成る遺伝マーカーを用いることを特徴とする方法である。
また、本発明は、下記工程から成るエドワジェラ症耐性ヒラメの識別方法である。
1)ヒラメ、その卵又はそれらの加工品から抽出したDNAについて、配列番号1の756〜999番目の塩基配列又はこの塩基配列を含む配列番号1の塩基配列中の連続する塩基配列から成るポリヌクレオチドを増幅する工程、
2)別途継代飼育の結果、エドワジェラ症耐性と認められる系統のヒラメについて、上記1)と同じ工程を実施する工程、及び
3)1)と2)の工程の増幅結果を比較し、これらが一致する場合に、ヒラメがエドワジェラ症耐性であると識別する工程
【0008】
また、本発明は、下記a)の塩基配列から成るオリゴヌクレオチド、及びb)の塩基配列から成るオリゴヌクレオチドに相補的なオリゴヌクレオチド、又はこれらに相補的な配列の2つのオリゴヌクレオチドから成る、エドワジェラ症耐性ヒラメを識別するためのPCR用プライマーである。
a)配列番号1の1〜775番目の塩基配列のうち連続する18〜25個の塩基配列
b)配列番号1の980〜3056番目の塩基配列のうち連続する18〜25個の塩基配列
また、本発明は、ヒラメがエドワジェラ症耐性であるか否かを識別するための診断キットであって、このPCR用プライマーを含むキットである。


【発明の効果】
【0009】
以前の探索(特許文献1)においては、より不十分な遺伝子連鎖地図(非特許文献1)を使用していたため、エドワジェラ症に対して感受性のヒラメを判別することしかできず、エドワジェラ症に対して耐性のヒラメを直接識別することができなかった(特許文献1:請求項1、[0010]4〜5行目など)。そのため、エドワジェラ症に対して感受性のヒラメを排除することによってしか、エドワジェラ症耐性ヒラメを選別することができなかった(特許文献1:[0010]1〜3行目)。
一方、本発明においては、エドワジェラ症に対して耐性のヒラメを直接選別することが可能になり、その精度も従来(特許文献1)より格段に向上した(実施例参照)。そのため、ヒラメの養殖においてエドワジェラ症の罹患による死亡率をより効果的に抑えることが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】戻し交配家系(KP-BCB)における遺伝マーカー(Poli Edwardsiellosis -1 TUF)の検出を示すゲル電気泳動図である。この図において、雌親魚(KP-B、感受性系統)は、241bp-265bpのバンドを持ち、雄親魚(KP-CB(F1))は、243bp-265bpのバンドを持ち、戻し交配家系(KP-BCB)の死亡個体は、265bp-241bpと265bp-265bpのバンドを持ち、戻し交配家系(KP-BCB)の生存個体は、265bp-243bpと241bp-243bpのバンドを持っている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
エドワジェラ症耐性のヒラメを識別するために用いる本発明の遺伝マーカー(Poli Edwardsiellosis -1 TUF)は、配列番号1の塩基配列又はその部分配列から成るポリヌクレオチドから成る。この部分配列は、例えば、配列番号1の756〜999番目の塩基配列、又はこの塩基配列を含む配列番号1の塩基配列中の連続する塩基配列である。
この配列番号1の塩基配列は、次[坂本1]世代シーケンサー解析により決定したものであり、第2世代遺伝子連鎖地図による連鎖解析によりこの配列が連鎖群23(非特許文献2)に存在することが明らかになった。そして、この配列のエドワジェラ症耐性を検討したところ(後述の実施例参照)、エドワジェラ症耐性を示す新規遺伝マーカーであることが明らかになった。
【0012】
本発明のヒラメがエドワジェラ症耐性であるか否かを識別する方法は下記工程から成る。
工程1)
ヒラメ、その卵又はそれらの加工品からDNAを抽出し、遺伝マーカー(Poli Edwardsiellosis -1 TUF)、即ち、配列番号1の塩基配列又はその部分配列から成るポリヌクレオチドを増幅する。
この増幅(PCR反応)に用いるプライマーとしては、上記ポリヌクレオチドを増幅できるものであればよく、上記ポリヌクレオチドと、好ましくはストリンジェントな条件で、特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドであれば限定されない。ここで特異的にハイブリダイズするとは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントな条件下において、他のタンパク質をコードするDNAとクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。ストリンジェントな条件は、例えば、60℃、6×SSCの条件である。
【0013】
このようなプライマーとして、例えば、配列番号1の塩基配列のうち、配列番号1の776〜979番目の塩基配列を挟む塩基配列から成るオリゴヌクレオチドを用いることができる。このようなオリゴヌクレオチドは、例えば、下記a)の塩基配列から成るオリゴヌクレオチド、及びb)の塩基配列から成るオリゴヌクレオチドに相補的なオリゴヌクレオチド、又はこれらに相補的な配列の2つのオリゴヌクレオチドである。
a)配列番号1の1〜775番目の塩基配列のうち連続する少なくとも18個の塩基配列
b)配列番号1の980〜3056番目の塩基配列のうち連続する少なくとも18個の塩基配列
これらプライマーは好ましくは18〜25個、より好ましくは20〜25個の塩基から成るオリゴヌクレオチドである。
【0014】
上記遺伝マーカー(Poli Edwardsiellosis -1 TUF)である部分配列(配列番号1の756〜999番目の塩基配列)については、例えば、5'-CACGCTGCTCTTTATCTCCA-3' (配列番号22、配列番号1の756-775番目)若しくはその5'側末端(又はx+1番目、xは例えば0-2の整数)から連続する少なくとも18個の塩基から成るオリゴヌクレオチド、及び5'-CCATGCATGACGTAGAGTGC-3' (配列番号23、配列番号1の980-999番目)若しくはその5'側末端(又はy+1番目、yは例えば0-2の整数)から連続する少なくとも18個の塩基から成るオリゴヌクレオチド、又はこれらに相補的な配列の2つのオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして用いてPCR反応を行ってもよい。このPCRプライマーを用いたPCR産物のゲル電気泳動において243bp(又は(243-x-y)bp)のバンドはエドワジェラ症耐性のヒラメに多く見出されることから(後述の実施例及び図1参照)、エドワジェラ症耐性アレルに固有のものといえる。このバンドのサイズは、用いたプライマーにより決まるものであり、これに限定されるものではない。
このプライマーは、マイクロサテライト配列を挟むようにソフトウエアPRIMER 3[坂本2](Whitehead Institute, U.S.A.)により選択した。
増幅産物の解析方法として質量分析法やキャピラリ電気泳動法などを用いてもよい。
【0015】
工程2)
別途、エドワジェラ症耐性と認められる系統のヒラメを、継代飼育する。この継代飼育は通常2世代程度行う。このヒラメに対して、上記工程1)と同様に遺伝マーカー(Poli Edwardsiellosis -1 TUF、配列番号1の塩基配列又はその部分配列から成るポリヌクレオチド)を増幅する。
【0016】
工程3)
1)と2)の工程の増幅結果を比較し、これらが一致する場合に、ヒラメがエドワジェラ症耐性であると識別する。一致しない場合は、ヒラメがエドワジェラ症耐性ではないと識別する。この工程において、比較するポリヌクレオチドのサイズが一致する場合に、ヒラメがエドワジェラ症耐性であると識別してもよい。
【0017】
本発明のDNAマーカーを用いてヒラメがエドワジェラ症耐性であるか否かを識別するための診断キットは、上記PCR用プライマーから成り、更に、熱耐性DNAポリメラーゼ(Taqポリメラーゼなど)や検出のため増幅産物に対合させるプローブを含んでもよい。更に、このキットは、その他の消耗試薬として、例えば、デオキシリボヌクレオチド三リン酸(dATP, dCTP, dGTP, dTTP)、バッファー等を含んでもよい。
【0018】
エドワジェラ症による死亡を未然に防ぐため、本発明の方法を利用することにより、例えば以下のようにして、エドワジェラ症耐性のヒラメの生産が可能になる。
(1)個体別にエドワジェラ症耐性の確認を本発明のDNAマーカーで行い、エドワジェラ症耐性個体のみを選別飼育する。
(2)エドワジェラ症耐性の確認を本発明のDNAマーカーで行い、抵抗性の親魚を選抜し、その子孫にエドワジェラ症耐性を付与する。この場合、エドワジェラ症耐性の確認を本発明のDNAマーカーで行ったエドワジェラ症耐性の親魚と他系統の抵抗性のない親魚との交配より作出された子孫にエドワジェラ症耐性を付与することも含まれる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。
飼育例
神奈川県水産技術センターで長年継続されてきたヒラメにおいて、エドワジェラ症に対する感受性の異なる2系統(耐病性系統:KP-C・感受性系統:KP-B)を明らかにした。その2系統を用いて、解析家系として戻し交配家系を作出した。KP-C雌個体(耐病性系統)とKP-B雄個体(感受性系統)を人為交配させ、F1(KP-CB)を作出した。そしてKP-CB雄個体とKP-B雌個体(感受性系統)を戻し交配し、戻し交配家系(KP-BCB)を作出した。
戻し交配家系(KP-BCB)185個体のエドワジェラ症への耐病性の判定は、エドワジェラ症の人為感染試験における生残死亡及び試験後、各個体の内蔵からのエドワジェラ症の原因菌であるエドワジェラ・タルダの菌分離を行い、その分離の有無から判定した。死亡魚は、個体順に番号を付け、それぞれの死亡日を記録した。その結果、生残魚が50尾、死亡魚が135尾となった。また、生残魚の50尾中3尾から原因菌が単離されたため、その後の解析から除外した。また、死亡魚の135尾中47尾からは原因菌が単離されなかったため、その後の解析から除外した。最終的に、生残魚47尾、死亡魚88尾の合計135尾をその後の分子遺伝学的解析に用いた。
【0020】
上記戻し交配家系(KP-BCB)の各個体の尾鰭を1cm角の大きさで採取し、lysis buffer [125mM NaCl, 10mM Tris-HCl(pH7.5), 10mMEDTA(Ph8.0)]、Proteinase K(20mg/ml)(Takara)5μl、10%SDS 50μlを含む消化溶液を500μl加え、37℃で一晩インキュベートした。PCI(phenol : chloroform : isoamylalchorl = 25 : 24 : 1)を等量加えてよく混和し、遠心分離(12000rpm、25℃、10分)、上清を新しいチューブに移した。さらに、CIA(chloroform:isoamylalchorl=24:1)を等量加えて転倒混和した後、遠心分離(12000rpm、25℃、5分)、上清を新しいチューブに移した。そこへ3M酢酸ナトリウムを1/10量、続いて2-propanolを等量加え、転倒混和した。遠心分離(15000rpm、4℃、10分)を行い、DNAペレットが析出していることを確認した後、上清を捨てた。70%エタノールを1ml加えて転倒混和することでDNAペレット及びチューブの壁面を洗い、その後遠心分離(15000rpm、4℃、5分)を行って上澄みを捨て、5分程度の風乾を行った。風乾の後、TE buffer [10mM Tris-HCl(pH 8.0), 1mM EDTA(pH 8.0)]を50μl加えてDNAの溶解を行った。
【0021】
エドワジェラ症の耐病性の解析
エドワジェラ症の耐病性の解析は2段階で行った。即ち、第一段階では、ヒラメ遺伝子連鎖地図(非特許文献2)に基づいて、全ての連鎖群から89個のMSマーカーを選び、その中から関連遺伝子座を探索し、第二段階として、第一段階で有意差が見られた連鎖群について詳細な解析を行った。
なお、以下の解析において、遺伝マーカーごとに表1に示すプライマーを用いた(ここに記載以外のプライマーの記載は省略する。)。PCR法は、10×PCR reaction buffer(Mg2+), 2.5Mm dNTP, 1%BSA, 5U Taq DNA polymerase(Takara: Ex-Tag)50ng のテンプレートDNAを含む11μlの溶液で、GeneAmpPCRSystem9700(AppliedBiosystems)にて、初期変性95℃ 3分間行った後、変性95℃ 30秒、アニーリング62℃ 1分、伸長72℃ 1分を1サイクルとして30サイクル、最終伸長を72℃ 5分間行い、12℃に急冷することでPCRを行った。PCR反応後、得られたPCR産物に等量のloading dyeを加え、95℃ 5分間熱変性によって1本鎖にし、6%変性ポリアクリルアミドゲルにて電気泳動を行った。電気泳動後、ガラス板をバイオイメージングスキャナー(FLA-9000; FUJIFILM)で読み取り、コンピューターで映像化し、マーカーによって増幅されたアリルの分離パターン(マーカー型)を判定した。
なお、forward primerの5' 側を蛍光標識(TET)して用いた。解析に用いたプライマーの合成及び蛍光標識は全てオペロンバイオテクノロジー株式会社に委託した。
【0022】
【表1】
【0023】
分子遺伝学的解析1(連鎖解析)
生残魚(47尾)と死亡魚(88尾)のうち、生残魚42尾と死亡魚42尾について、その両親とともに、89個の遺伝マーカーのマーカー型の情報を収集して解析した。その際、耐病性と感受性の表現型データは、生残と死亡として連鎖解析(χ2検定:P<0.05)した。P値が低いほど、遺伝マーカーとエドワジェラ症の耐病性とがより連鎖しているといえる。
なお、以前感受性との関連性が見られた連鎖群4(特許文献1)についても解析を行った。
【0024】
結果を表2に示す(ここに記載以外のマーカーの結果の記載は省略する。)。表中、死亡欄及び生残欄は、エドワジェラ症の耐病性のバンドを示した個体の割合を示す。
【表2】
連鎖群7、9、10、16、19及び23のマーカーで有意な結果が得られ、これらの連鎖群に耐病性と関連性がある可能性があると考えられる。連鎖群4については、複数[坂本3]の遺伝マーカーを用いて隈無く解析したが、有意なマーカーが見つからなかった。
【0025】
分子遺伝学的解析2(QTL解析)
分子遺伝学的解析1(連鎖解析)で有意である可能性が示された連鎖群について、さらに詳細に解析した。
解析個体数を増やすために、生残魚(47尾)と死亡魚(88尾)の合計135尾の全てを用いた。その実験魚とその両親のマーカー型の情報を収集して、表現型(人為感染試験開始後の死亡日までの日数)とマーカー型の対応関係を調べた(結果は示さない)。このようにして得た各DNAを用いて、遺伝マーカー型のQTL解析を行った。QTL解析は解析ソフトMap Manager QTXb20(Mammalian Genome 12: 930-932 (2001)等)を用いて行った。QTL解析の結果は、LODスコアで表され、LODスコアが高いほど、遺伝マーカーとエドワジェラ症の耐病性とがより連鎖しているといえる。LODスコアが3.0以上の場合、遺伝マーカーとエドワジェラ症の耐病性とが有意に連鎖していると考えられる。
【0026】
結果を表3に示す。表中、死亡欄及び生残欄は、エドワジェラ症耐性のバンドを示した個体の割合を示す。
【表3】
表3から、連鎖群23の遺伝マーカーとエドワジェラ症の耐病性との関連性が高いといえる。また、連鎖群23上の遺伝マーカー(Poli Edwardsiellosis -1 TUF)は、解析した遺伝マーカーの中で最も優れた結果を示した。連鎖群7、9、10、16及び19のMS遺伝マーカーは、この関連性が低かった。
【0027】
連鎖群23上の遺伝マーカー(Poli Edwardsiellosis -1 TUF)について、上記データを得るための電気泳動図を図1に示す。雌親魚であるKP-B(感受性系統)は、241bpと265bpのバンドを持ち、雄親魚であるKP-CB(F1)は、243bpと265bpのバンドを持つ。戻し交配家系(KP-BCB)のヒラメは、それぞれの親からどちらか一方のバンドを受け継ぐため、戻し交配家系(KP-BCB)では265bp-265bp、265bp-241bp、265bp-243bp及び241bp-243bpの4パターンのバンドの組合せがある。図1の泳動図から、生残魚には265bp-243bpと241bp-243bpが多く出現し、死亡魚には、265bp-265bpと265bp-241bpの組み合わせのバンドが多く出現している。即ち、生残魚は、KP-CB(F1)の親KP-C(耐病性系統)由来と考えられる243bpのバンドを多く持つ傾向があり、死亡魚では243bpのバンドを持つ割合が少ない(その代わりに265bpのバンドを持つ)といえる。即ち、243bpのバンドはエドワジェラ症耐性を示すバンドといえる。
他のマーカーの解析も同様に行ったが、その結果は省略する。
図1
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]